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パフォーマンスの発生と分析の関係 GAPはどこに?
NikkeiBizPlus 第 7 回 2009 Apr 人を育てる「仕組み」づくり-パフォーマンスコンサルタントの視点から 中原 孝子 株式会社インストラクショナルデザイン 第7回 ギャップ? - 同じ成果を生み出すのに、違うプロセスがあるのはなぜ? (2) 前回は、HPI のパフォーマンス分析の考え方、特に、行動とその行動が生み出す結果との関連 性で「プロセス」を分析する HPI のプロセス分析のポイントについて述べた。HPI は最終的な目標と の関連でプロセス分析することを重視する。それは、個々人の行動に問題があると考えパフォー マンス課題を「行動」のみに注目して解決をしようとすることや、「行動する個人」に左右されること のない環境・プロセスを作ることのみに注目することを避けるためでもある。 今回は、前回と前々回に特定したあるべきパフォーマンス状態と現状のパフォーマンスとのギャ ップを特定するための質問や目的について解説したい。 パフォーマンスの発生と分析の関係 GAPはどこに? パフォマンスの発生の方向 環境/影響 仕事(タスク) プロセス 仕事の結果(アウトカム) ゴール(成果) 分析の方向 原因の特定 環境分析 GAP 影響/環 境分析 現状のタスク分析 プロセスマッピング GAP キーパフォーマー分析 アウトカム の特定 成果目標の 明確化 パフォマンス 分析 ビジネス GAP 分析 * ASTD HPI Certification Program “Analysis” Course Participant Guide, “Module 1: Concepts and Principles of HPU Analysis” を参照 パフォーマンスギャップの分析 HPI は、本来、その分析から施策実行、経過観察と測定といった一連の活動を通じてのチェンジ マネジメントを目指している。 短期的成果を出すための現状の最適化ではなく、組織の構造など も含め、組織開発・組織改革をも視野に入れたパフォーマンス改善の手法だ。近年、旧来の人事 教育や研修部門的組織が、「オーガニゼーショナル・デベロップメント部」、「組織・人材開発部」な どという名前に変わっている企業も多い。つまり、これは、企業の「人」の育成に関わる部署の課 題が単に「研修」や「教育」といったある特定のソリューションのみを提供することだけでは解決で きないことの現れでもあろう。 そのような部署においては、従来からの「研修」メニューを提供する、 という機能だけではなく、人を取り巻く組織の課題を見極めた施策の実行支援とチェンジマネジメ ントを促す機能が期待される。そのような役割を求められている人材開発・組織開発部門にとって も、どのような組織課題があるのか、また、目指しているものは何であるのかを論理的に明確にす るための手法としても役立つのが、HPI のモデルと言えるのではないだろうか。 パフォマンス改善モデル Human Performance Improvementより チェンジマネジメント ビジネスの 分析 パフォーマンスの 分析 ・ビジネスゴール の確認 ・成果目標と人材 パフォマンスとの 関係性の整理・ 明瞭化 期待されるパフォマンス の状態の明確化 ギャップ 現状のパフォマ ンスの状態 パフォマンス ギャップの特定 原因の分析 ・知識 ・モチベーション ・物理的な資源・環境 ・プロセス・構造 ・情報 ・健全性 結果の評価 ・形成的評価(過程評価) ・総合(全体)評価 ソリューションの選択 ソリューションの実施 ・プロジェクト管理 ・組織が変改に適応するのを助ける ・形成的評価のためのデータ収集 ・パフォマンス ソリューションの 設計・開発 ・原因タイプ別 最善のソリューション 提言/選択 ・原因タイプ別 ソリューションの特定 George M. Piskurich,(2002)「 HPI Essentials」ASTD Pressを参照にID社で作成 つまり、HPI におけるギャップ分析の役割は、単に期待されることと実際の溝を見つけるためのも のではない。HPI に限らず、ギャップ分析はいろいろなところで用いられるものであるが、HPI では、 「ギャップ分析」の過程で組織として「期待していること」「ありたい像」をより明確にすることも目的 になっている。また、どこにギャップがあると思われているのか、思っているのかによって、組織と しての意識の課題も見えてくる。そして、このプロセスによって見えてくること、つまり、特定された ギャップや意識のレベルは、分析結果遂行される施策の経過観察のポイントや施策の測定基準 ともなる。 ギャップ分析の方法 ギャップとは、現状と理想とするところの「差」であるが、それはどのようにわかるのだろうか。 一般的には、仕事の状況を観察やインタビューを行うなどによって、基準となるパフォーマンスの 状態に対して何が違っているのかを特定する。 前回例として示したコールセンターの場合を考えてみよう。 本来行われるべきプロセスが、「プロセス図」とする。 まずはコールセンターの現場スーパバイザーに受注業務の現状を聞く。例えば、「人数の割り」の 段階での仕事はどのように行われているのかの詳細と課題を出すとしよう。 読者は、自分がパフォーマンスコンサルタントであると想定してもらいたい。さて、何から質問した らよいだろうか?因みに前回(6 回)でしめしたコールセンターのケースは以下である。 【ケース】 コールセンターの営業が、製品販売会社との契約を年間の一括契約で獲得した。クライアント 企業では、年間の契約なので、広告の本数などに関係なく年間で受注業務をしてくれることになっ ていると理解している。年間常時 3 名がその受注業務に従事する契約であった。その年の新製品 の数は当初契約時よりも多くなっていたので、新聞広告の数も多かった。年間一括契約で受注し た業務なため、コールセンターとしては、その繁忙に関わらず、割くことができる人員は限られてい る。全国紙に新聞広告がでると、一気に電話が集中し、通常受注業務でもぎりぎりの状態がパン ク寸前になり、お客からの待たされることへの苦情が多くなっていた。また、人気商品は度重なる 新聞広告効果で在庫も途切れる状態となった。発送されるまでの時間もかかることとなり、それへ の対応もしなければならなくなり、ますます受注業務に支障を来たすこととなった。また、新聞広告 がでることの連絡が一日前にしか連絡が来ないため、シフト調整をして対応することもできない。 さらに新製品や類似製品が多すぎ、十分な製品知識教育もできない状態である。 前回洗い出したプロセスを基本として、何が課題となっているかを探るためには、まずは各タス クの現状を聞いてみよう。 質問:「営業担当者から○○社の製品広告が出るとの連絡が入ってからシフト組みをするようで すが、広告出しの連絡があってから、人数割り出しとシフト組みまではどれくらい時間がかかって いますか?」 コールセンター担当者:「基本的に、シフト組みは○○社も含め全体業務とアルバイト社員のス ケジュールとの調整で行うので、2 週間ごとに基本シフトを組みます。でも○○社の新聞広告が出 る場合には、ぎりぎりになって連絡が入ってくる場合が多いので、急遽アルバイトの人に連絡など して、応援に入ることができる人を前日に電話をかけて調整するなどしています。」 質問:「急な連絡でも人数が揃いますか?」 コールセンター担当者:「いいえ、揃わない場合もあります。でもその場合は、他社製品担当の 人をヘルプとして数時間ずつ、とりあえず注文だけをとってもらうという体制を敷いています。」 質問:「ヘルプの人の対応で、受注はこなすことができている、ということですか?」 コールセンター担当者:「いいえ、完全にはこなすことはできていません。とりあえず、お客様の 名前と製品の名前、製品注文番号を聞いて紙に書き出してもらっていますが、PC 上画面でお客 様情報を確認するなどできないので、電話の掛け直しが生じたり、似たような製品が沢山あるの で、製品の名前が間違っていたりする場合もあります。」・・・・ ・・・というように、一つの事象に対して、何が課題になっているのか、課題として意識されている ことはあるのかを探るために質問をしながら、「問題」や「ギャップ」の箇所を見つけていく。 コールセンター業務のプロセス分析例 ミスのない受注による顧客満足度の向上 コールセンター 契約書 正確な受発注処理が できるオペレーター ミスのない 受発注書 営業(アカウン トマネージャー) コールセンター 管理業務 オペレーター 正確な製品情報 クライアント企業 マーケティング部 タスク タスク □新製品情報 の整理 □クライア ント企業訪 問 □新聞広告企 画 タスク □年間計画 の確認 □パンフレット 作成 □製品情報 の知識習得 □製品教育 □在庫の確 認 □スケ ジュール調 整 □新製品企 画状況の把 握 ・・・・・ タスク □シフト組 み □・・・・・ □営業との 打ち合わせ プロセス:<新聞広告製品受注・サービス業務> キー・アウトカム スケジュー ル表 シフト表 受注 製品情報 ジョブエイド 発注書 正確迅速 に送付され た製品 発注処理 送付日の確 認 確認書 役割/部署/機能 クライアント企業 マーケティング部 コールセンター 営業 新聞広 告企画 コールセ ンターへ の告知 コールセンター 管理 必要人数 割り出し シフト組み 製品情報の提 供・教育 コールセンター 顧客サービス 最終顧客 配置準備 製品説明 注文電話 受注確認 発注確認 製品受理 プロセス図 この分析の段階でも気をつけたいことは、HPI が、システム(全体機能)的なアプローチであると いうこと。決してある特定の「問題」のみを取り上げようとするのではなく、パフォーマンス上機能不 全となっていることは何かを見つけ出すことである。分析に必要なことを質問に置き換えて言うな らば、以下の 4 点を明らかにすること、以下の情報を集めることがここで必要なこととなる。 ギャップ分析で収集する情報 本当に問題となる「ギャップ」はあるのか(クライアントが「問題がある」と思っていること が実は「問題」ではないかもしれない) 何が「問題」の兆候なのか、 「問題」となることとして何が実際に行われているのか、何が問題なのか その問題はどれほど重要なことなのか これらの情報を集めるために実際に現場スタッフや、マネージャー、または熟練者などに聞く質 問例を挙げよう。 まずは、「ギャップ」の特定。その項目と質問例は: 顧客の特定: 「この問題によって誰が影響を受けますか」 パフォーマンス問題箇所の特定: 「誰の(どの部署の、どのプロセスの)パフォーマンスが問題だと思いますか」(責任の 追及ではなく、「どこに問題があるか」が焦点) 本当に問題であるのかどうかの見極め: 「それが、なぜそれが問題なのだと思いますか、なぜその人たち(その部署、その仕 事の過程)が問題だと思うのですか」 「それが問題であることはどのように知ることができますか」 期待されるパフォーマンスレベルの特定: 「本来であれば、どのように仕事がされていなければならないと思いますか」 「理想的に仕事が遂行された場合の状態は何だと思いますか」、 期待されるパフォーマンスレベルを常に達成している人に対して 「あなたは、どのようにこの仕事をしていますか」 「あなたが常にしていることは何ですか」 「その仕事が正しく遂行されたことはどのように知ることができますか」 「その仕事で期待されるアウトプットは何ですか」 現状のパフォーマンスレベルの特定: 「期待通りのパフォーマンスに達していないと思われることは何ですか」 「その仕事が正しく行われなかったこと、間違って遂行されたことはどのように知ること ができますか」 または期待値に照らし合わせて観察をする もう一つは、そのギャップへの優先順位を特定。そのための項目と質問例は: 特定されたギャップの重要性: 「その問題(ギャップ)が起こると、どうなりますか」 「その仕事が正しく遂行されないと、何が問題となりますか」 「その問題が起こることは、仕事結果にどれほどの影響を及ぼしますか」 特定されたギャップの出現頻度: 「その問題は、どれくらいの頻度で起こりますか」 「その問題は、どのようなタイミングで出現しますか」 特定されたギャップのコスト 「その問題によるロスは何ですか」 「その問題による無駄(時間、人、修正コスト、廃棄コスト)は何ですか」 または、そのギャップによって生じていると思われるロスを示すデータの収集(サイクルタ イム、修正時間のデータ、正しく遂行された場合とそうではない場合のサイクルタイムの 差など) ギャップ分析でのDos and Don‘ts Dos: ✓ 本質の明確化のための「なぜ」の質問をする ✓ 明確で具体的な質問(「誰が」、「何を」、「どのように」)をする ✓ 何がなされていないか(いなかったか)について話されたことをよく聴く ✓ 誰がその仕事の「お客様」であるかを明確にし、その「お客様」が結果として望んでい ることは何なのかを聞く Don‘ts ✓ 答えとして期待しているような事柄から質問を始めないこと;まだ、何が課題・問題で あるのかが、わかっていない段階であることを肝に銘じること ✓ 顧客側は問題を知っているはずと思いこまないこと ✓ 責任の所在を追及するような方向に話がずれてしまわないようにすること 【ギャップ分析のポイント】 • • • • 観察可能な仕事の現場での「行動」を分析する 現状の行動の観点から問題を再構成する 問題を期待されるアウトカム(結果)に組み替える それによって生じる矛盾や食い違いは重要なものであるかどうかを見極めるための 質問をする ・ 以上の情報収集から、どこに本当のパフォーマンスギャップがあり、その問題の重要度と優先順 位の目処が付いた後、その問題の「根本原因」の特定に入る。