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ポイント引当金の会計と税務

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ポイント引当金の会計と税務
第2回
<業種に特有な会計及び税務処理シリーズ>
ポイント引当金の会計と税務
公認会計士 成
田 礼 子
はじめに
今回テーマとして取り上げる「ポイント引
当金」は,百貨店,スーパー,家電製品販売
店,小売業等の流通業において特に問題とな
りますが,顧客に対して利用に応じてポイン
トを付与し,当該ポイントを次回以降のサー
ビスに充当したり,商品券等と交換できるよ
うなサービスを行っている会社全般に当ては
まるものです。
付や家電量販店などによるポイント割引
制度などが対象になります。
サービス業等においても顧客に対して
ポイントを付与する制度を採用している
会社全般に該当します。例えば,航空会
社によるマイレージ制度による無料航空
券の交付なども該当します。
なお,本稿の意見にわたる部分については,
(対象となる業種)
百貨店やスーパーなどにおけるポイン
トカードの獲得ポイントによる金券の交
筆者個人の私見であることをお断りしておき
ます。
1 ポイント制度の概要
蓄積型ポイントカードと
即時使用型ポイントカード
サービスへの充当,金券等への交換ができな
ポイント引当金の検討が必要となるポイン
失効することになり,の即時使用型カード
トの形態としては,一般的に蓄積型ポイント
に比較するとポイントの利用率は低いと考え
カードと即時使用型ポイントカードに分けら
られます。
れます。
② 即時使用型ポイントカード
① 蓄積型ポイントカード
即時使用型ポイントカードとは,ポイント
蓄積型ポイントカードとは,ある一定のポ
の残高の多少にかかわらず,ポイント発行時
イントになった場合に次回以降のサービスに
点ですぐに使用が可能になるものです。ポイ
充当できるものです。これには,ある一定の
ント発行時点ですぐに次回のサービスに充当
ポイントになった場合に金券に交換する場合
できるため,ポイントの利用率も高いと考え
も含みます。一定のポイントにならないと
られます。
いため,一定ポイントに達しないポイントは
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ポイントの有効期限
ことにしているケースもあります。ポイント
ポイントの有効期限を1年ないし2年と定
の有効期限を設けている場合には,有効期限
め,それまでに使用されないポイントは失効
が切れたときには失効するため,有効期限の
するものもありますが,永久的に使用できる
管理が必要となります。
2 ポイント引当金の会計処理
ポイント引当金の計上
仕訳例 小売業界においては,ポイント制度は一般
【従来の処理】
的となっています。多くの企業ではポイント
(ポイント付与時)
カード導入後,カード会員数の増加により未
仕訳なし
使用ポイント残高が大きくなる傾向があり,
(ポイント使用時)
ポイント引当金を計上する企業も増加してい
(借)販売促進費 800
ます。
(貸)売 上 高 800
(期末時決算整理仕訳)
設例に基づく仕訳例
(借)売 上 値 引 き 800
(貸)販 売 促 進 費 800
設 例 A社は,ポイント制度を採用していま
す。顧客の売上1,
000円当たり1ポイン
トを付与し,1ポイント10円換算でA社
の商品をポイントで購入することができ
ます。
従来,ポイントカード制度に基づき顧
客へ付与したポイントの利用につき,そ
の利用時に売上値引として処理していま
した。当期において,将来利用されると
見込まれる額の合理的な見積ができるよ
うになったことから,より適正な期間損
益を算出し,財務内容の健全化を図るた
め,ポイント引当金を計上することとし
ました。
このようなケースにおける従来の処理
とポイント引当金導入後の処理を示せば
【今後の処理】
(引当金繰入時)
1,
000
(借)ポイント引当金繰入額 (貸)ポイント引当金 1,
000
(ポイント使用時)
(借)販 売 促 進 費 800
(貸)売 上 高 800
(期末時決算整理仕訳)
(借)ポイント引当金 800
(貸)販 売 促 進 費 800
ポイント引当金の導入
最近,ポイント行使時に費用処理または売
上高控除からポイント引当金の計上処理を採
用した会社の業種と導入理由を例示すれば,
次のとおりです。
次のようになります。
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<最近ポイント引当金を導入した会社>
会社名
導 入 理 由
備 考
新ポイント制度導入の社内決議に伴い,使用実績率を合理的に見
積もるシステムが整備されたため,財務内容の健全化と期間損益
の一層の適正化を目的として……
会計処理方法の変更
学
会計処理方法の変更
業
現行のポイントカードの導入から1年以上経過し,有効ポイント
残高および将来の使用割合を過去の経験率等により合理的に見積
もれるようになったこと,今後ポイントカードの発行枚数増加に
伴い有効ポイント残高が増加することが見込まれることから,よ
り適正な期間損益を計算するため……
会計処理方法の変更
業
現行のポイントカード導入年度より合理的に見積もることに必要
な年数が相当年度経過し,当事業年度末より有効ポイント残高及
び将来の使用割合を過去の経験率等により合理的に見積もれるよ
うになったため,財務内容の健全化と期間損益の一層の適正化を
目的として……
ポイント付与数及びポイント利用数が増加したことから重要性が
増し,かつ,当事業年度末において将来利用されると見込まれる
額の合理的な算定が可能となったことから……
追加情報
サービス業
会員数増加に伴いポイント残高の重要性が増したこと及びポイン
ト使用率を合理的に見積もることが可能となったことから,より
適正な期間損益計算を行うため……
追加情報
繊維製品
ポイントカードの運用実績により使用実績率を合理的に見積もる
ことが可能になったこと及びポイント付与率の拡大により金額的
重要性が増したため……
追加情報
小
化
小
小
売
売
売
業
引当金の要件
実績により合理的に見積もれるようになった
引当金の要件としては,企業会計原則注解
ことについてはほとんどの場合記載されてい
18で示されており,
「将来の特定の費用又は
ます。
損失であって,その発生が当期以前の事象に
起因し,発生の可能性が高く,かつ,その金
会計方針の変更か追加情報か
額を合理的に見積もることができる場合には,
前述のようにポイント引当金を導入した
当期の負担に属する金額を当期の費用又は損
会社を調査すると,会計方針の変更としてい
失として引当金に繰り入れ,当該引当金の残
る会社と追加情報にしている会社とがありま
高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記
す。
載するものとする。」と記載されています。
① 会計方針の変更
ポイント引当金は,①将来発生する費用で
会計方針とは,企業が損益計算書及び貸借
あり,②その発生が当期以前の売上に起因し,
対照表等の作成に当たって,その財政状態及
③発生の可能性が高く,かつ,④金額を合理
び経営成績を正しく示すために採用した会計
的に見積もることができるようになったこと
処理の原則及び手続並びに表示の方法をいい
で引当金の要件に合致します。したがって,
ます。
ポイント引当金を導入した会社の変更理由を
会計方針の変更が認められるのは,2つ以
見ると,ポイント利用の実績データの管理シ
上の認められた会計処理があり,正当な理由
ステムの整備により将来の使用割合を過去の
に基づいて一方の会計処理からその他の会計
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処理に変更する場合です。
関する監査上の取扱い」の公表に伴い,役員
② 追 加 情 報
退職慰労引当金の設定が義務化されましたが,
日本公認会計士協会の監査委員会報告第77
その時の取扱いが,それまでの実務慣行を踏
号「追加情報の注記について」の3.追加情
まえ会計方針の変更として取り扱うこととさ
報の分類として,
「会計処理の対象となる会
れたことも1つの理由であると考えられます。
計事象等の重要性が増したことに伴う本来の
また,ポイント引当金の導入に伴い,従来の
会計処理への変更」についてが記載されてい
売上高の控除からポイント制度の販売促進の
ます。
性格を考慮し,販売費及び一般管理費として
これによれば,
「従来,会計処理の対象と
計上することに変更するなど,損益計算書の
なる会計事象等の重要性が乏しかったため,
計上区分を変更した会社は会計処理方法の変
本来の会計処理によらず,簡便な会計処理を
更としていると考えられます。
採用していたが,当該会計事象等の重要性が
増したことにより,本来の会計処理へ変更す
ポイント引当金の算定方法
る場合」は追加情報になることが記載されて
会社の採用するポイント制度によって算定
います。また,事例として,
「売上割戻の計
方法は異なりますが,一般的な,有効ポイン
上について,従来支出時に売上控除処理を
ト残高に応じて自社商品と交換できるポイン
行っていたが,発生時の重要性が増してきた
ト制度の場合は以下のような算定式になりま
ため,売上割戻発生見積額を未払計上する場
す。
合」が掲げられています。
③ ポイント引当金導入会社の変更理由によ
る区別
ポイント付与数,会員数の増加及びポイン
トカード導入店舗の増加により重要性が増し
(算定式)
ポイント引当金
=ポイント残高×(1−失効率)
×1ポイント当たりの単価
たことを主たる理由に掲げている会社は,従
なお,ポイントに有効期限がある場合には,
来の売上控除等の会計処理を簡便的な会計処
上記算式のポイント残高は有効期限内のポイ
理であると考え,重要性が増したために本来
ント残高となります。また,一定のポイント
の会計処理であるポイント引当金の設定をし
数になった場合に金券に交換する場合には,
たと考えているため,追加情報としていると
当該一定のポイント残高以上のポイント残高
考えられます。
が対象となり,算定式には,金券の交換率も
一方,会計処理の変更とされている事例も
掛けることになります。
多くあります。この理由は,日本公認会計士
ポイント引当金の算定に当たっては,ポイ
協会の監査・保証実務委員会報告第42号「租
ント使用の実績率等の基礎データを整備して
税特別措置法上の準備金及び特別法上の引当
おくことが必要です。
金又は準備金並びに役員退職慰労引当金等に
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3 税務上の取扱い
販売促進費と交際費との区分
小売業者等がポイント制度に伴って顧客に
金券等を交付するための費用は販売促進費と
考えられ,損金計上が認められます。
一方,販売代理店等の一般消費者とならな
い特定者に対して,金品引換券付販売(ポイ
ント制度)に伴って金品(購入単価がおおむ
ね3,
000円以下の物品)に該当しない限り,
交際費に該当します。
ずる点数等で表示されており,かつ,
たとえ1枚の呈示があっても金銭また
は物品と引き換えることとしているも
のであるときは,9−7−2にかかわ
らず,次の算式により計算した金額を
その販売の日の属する事業年度におい
て損金経理により未払金に計上するこ
とができる。
(算式)
金品引換券付販売に要する費用
ポイント制度に関する税務上の損金認識の
時期については,法人税基本通達9−7−2
に次のように記載されています。
1枚または1点について交付する金銭
の額×その事業年度において発行した枚
数または点数
(注)1 算式中「1枚又は1点について
交付する金銭の額」は,物品だけ
(金品引換券付販売に要する費用)
の引換えをすることとしている場
9−7−2 法人が商品等の金品引換券
合には,1枚又は1点について交
付販売により金品引換券と引換えに金
付する物品の購入単価(2以上の
銭又は物品を交付することとしている
物品のうちその1つを選択するこ
場合には,その金銭または物品の代価
とができることとしている場合に
に相当する額は,その引き換えた日の
は,その最低購入単価)による。
属する事業年度の損金の額に算入する。
2 算式中「その事業年度において
発行した枚数または点数」には,
金品引換券を発行しただけでは費用と認め
その事業年度において発行した枚
られず,金品を引き換えた日の属する事業年
数または点数のうち,その事業年
度に損金と認められます。したがって,ポイ
度終了の日までに引換えの済んだ
ント引当金を繰り入れても税務上の損金とは
もの及び引換期間の終了したもの
なりません。
は含まない。
金品引換費用の未払計上
ポイント制度については,発行会社によっ
金品引換券付販売(ポイント制度)に関す
てポイントの引換条件が異なり,一定のポイ
る費用が税務上の確定債務として認識される
ントに達しなければ金品の引換券が発行され
ケースは,法人税基本通達9−7−3に次の
ないケースや,売上値引として処理される
ように記載されています。
ケースがあり,確定債務として認められない
(金品引換費用の未払金の計上)
9−7−3 法人が商品券の金品引換券
付販売をした場合において,その金品
引換券が販売価額または販売数量に応
場合では上記の適用はありません。したがっ
て,一定のポイントに達しなくても商品や金
券と交換できる場合には確定債務として損金
として処理できます。
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金品引換費用の未払金の益金算入
により損金の額に算入した未払金の額の
益金算入について,法人税基本通達9−7−
4に次のように記載されています。
その引換期間の末日の属する事業年度
の益金の額に算入する。
(注) 上記の「翌事業年度」及び「引換
期間の末日の属する事業年度」は,
(金品引換費用の未払金の益金算入)
その事業年度が連結事業年度に該当
9−7−4 9−7−3により損金の額
する場合には,当該連結事業年度と
に算入した未払金の額は,その翌事業
年度の益金の額に算入する。ただし,
引換期間の定めのあるものでその期間
が終了していないものの未払金の額は,
する。
すなわち,で損金の額に計上した未払金
は,その翌事業年度にの益金の額に算入しま
す。
4 国際財務報告基準(IFRS)における取扱い
日本の実務と国際財務報告基準
(IFRS)との相違
針委員会(IFRIC)からIFRIC解釈
国際財務報告基準(IFRS)では,ポイ
「カスタマーロイヤリティープログラムの会
ント制度を総称してカスタマーロイヤリティ
計処理」が公表されました。
プログラムと呼称しています。
IFRIC13号と日本の実務との主な相違
このカスタマーロイヤリティプログラムに
点は以下のとおりです。
指針13号(以下,「IFRIC13号」という)
ついては,2007年6月に国際財務報告解釈指
日 本 の 実 務
国 際 財 務 報 告 基 準
企業会計原則注解18
ポイント制度のみを規定し
た会計基準はない。
IAS18,IFRIC13
会計基準等
ポイント制度の
経済実態の考え
方
ポイント付与は,販売取引
(初回の売上)を獲得する
ための販売促進活動。
ポイント付与は販売取引(初回売上)とは別個の要素
の取引。
収益の認識
初回売上時に受領対価の総
額で収益を認識する。
初回売上時は,受領対価の一部を収益として認識し,
残りのポイント付与分の収益は繰り延べて,ポイント
使用によるサービス提供時に認識する。
負債の計上
第三者のエー
ジェントの処
理:収益計上額
と認識時点
対象となるポイ
ント制度
210
ポイント残高相当の追加費 公正価値ベースで計上する。
用をもとに負債計上をする。
特に規定なし。
ポイント付与企業がプリンシパルかエージェントかを
判別する。エージェントの場合,受取手数料部分を収
益に計上する。収益計上時期は,第三者サービス提供
義務を負い,かつ対価受領の権利を得た時点である。
特になし。
①販売取引に関連して企業が顧客に付与したポイント
であり,②一定の要件を満たした場合に,顧客は獲得
したポイントを使用して,無料もしくは値引により商
品・サービスの提供を受けることができる。
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IFRIC13号の適用範囲と
適用時期
【執筆者紹介】
IFRIC13号は企業が次に示したポイン
公認会計士
ト制度を採用している場合に,企業側が顧客
1990年成城大学経済学部経済学科卒業。日本公
に付与したポイントの会計処理について適用
認会計士協会 東京会 出版委員会副委員長。
成 田 礼 子(なりた あやこ)
現在,新日本有限責任監査法人パートナー。
されます。
① 販売取引に関連して企業が顧客に付与
したポイントである。
日本監査研究学会,国際会計研究学会,日本内
部統制研究学会,日本経営ディスクロージャー
研究学会会員。
② 一定の要件を満たした場合に,顧客は
【主要著書】
獲得したポイントを使用して,無料もし
・ 『対照式 会社法施行規則 会社計算規則 くは値引きにより商品・サービスの提供
電子公告規則 全文』
(税務経理協会,分担
執筆)
を受けることができる。
したがって,現在,ポイント制度を採用し
ている大多数の企業に適用されると思われま
・ 『会社法決算書類の作成と開示実務』(税務
研究会出版局,分担執筆) など
す。
また,IFRIC13号は2008年7月1日以
降に開始する会計期間から適用され,早期適
用も可能ですが,その場合はその旨の開示が
求められます。
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