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天然ガス・LNGに関する最新動向 - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報
天然ガス・LNGに関する最新動向 世界のLNG生産能力は豪州・米国を中心に大幅拡大の局面を迎えており、2016年以降操業開始が予 定される建設中のプロジェクトの合計は約1億4,000万トンに達する。このうち豪州については、2020 年代にはカタールを抜いて世界最大の生産国になると見られ、豪州(約8,600万トン/年) 、カタール(約 7,700万トン/年)、米国 (約7,000万トン/年) の3国合計で2億3,000万トンと世界全体 (約4億5,000万トン) のLNG生産能力の半分を占める見通しである。 一方、2 0 1 4年後半以降の油価下落に伴う財務状況の悪化等により、投資計画の延期・中止を表明す るプロジェクトも相次いでいる。今後も、短中期的には生産能力の過剰が見込まれることもあり、最 終投資決定前の計画中のLNGプロジェクトの実現性については不透明な状況となっている。 足元のLNG価格は2016年5月の日本着平均価格が5.9ドル/MMBtuとなり、2005年以来の安値水準に ある。日本のLNG輸入量の大半を占める長期契約においては、石油価格連動方式による価格決定が主 流であり、実際の輸入価格に反映するまでの数カ月のタイムラグを経て低油価の影響が反映されてき ている。 2 0 1 6年2月には米国Sabine Pass LNG基地からのLNGが初出荷され、また、同年6月末には、拡張 パナマ運河が運用を開始した。これにより、スエズ運河または喜望峰経由と比べて、北米東海岸から の日本向け輸送については、大幅な短縮が可能となった。今後、仕向地制限がない米国産LNGの短期・ スポット市場への供給により、これまで以上にLNG取引における流動性が増すことも考えられる。中 国・欧州にパイプラインを通じて天然ガス供給を進めるロシアの動向およびその価格戦略も含め、中 長期的に見て、市場環境の大きな変化が予想される。 1. LNGの取引量推移 (1)世界のLNG取引量 国際LNG輸入者協会(GIIGNL)による と、2 0 1 5年の世界のLNG取引は、2億 4,5 1 9万トンとなり、2 0 1 4年比2.5%の増 加となった (図1)。 2015年にはエジプト、ヨルダン、パキ スタンが新たなLNG輸入国となり、日 本・韓国等の需要減を吸収する形となっ た。また、ポーランドも、2015年12月に 試運転カーゴを受け入れ、新たな輸入国 として2016年には商業運転の開始が予定 されている。 4年以内の短期・スポット取引は全体 の2 8%を占め、2 0 1 4年比で、量・割合と 37 石油・天然ガスレビュー 300 250 百万トン/年 % スポット・短期数量 全取引数量 スポット・短期割合 200 30 25 20 150 15 100 10 50 0 35 5 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:GIIGNLを基にJOGMEC作成 図1 世界のLNG取引量推移 100 百万トン/年 % スポット・短期数量 90 30 全取引数量 80 スポット・短期割合 70 25 60 20 50 15 40 30 10 20 5 10 0 35 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:GIIGNLを基にJOGMEC作成 もに若干の減少となっている。なお、 2016年から公表された契約から90日以内 に引き渡されたスポット取引の割合は全 取引の約15%と推定されている。 (2)日本のLNG輸入量 日本のLNG輸入量は、原発の再稼働、 省エネの進展、再生可能エネルギーの普 及等による需要減に伴い、全体の輸入数 量は2 0 1 4年の8,9 2 0万トンから、2 0 1 5年 は8,5 0 5万トンとなり、約4.5%の減少と なった。4年以内の短期・スポットによる 取引は、2014年の2,581万トン(全輸入量 の2 9%)から、2 0 1 5年には2,0 5 1万トン (同24%)に減少している(図2)。 図2 日本のLNG輸入量推移 2. LNGの生産能力の見通し 表1 2016年以降操業開始が予定される主なLNGプロジェクト プロジェクト名 国 AP LNG 豪州 Gorgon LNG 豪州 Sabine Pass LNG アメリカ MLNG Train 9 (1) 新 規LNGプロジェクトの進捗と見 通し 生産開始年 生産能力(万トン/年) 2016 900 現在、世界のLNG生産能力は大幅拡 2016 1,5 6 0 大の局面を迎えており、2016年以降に操 2016 ~ 2019 2,2 5 0 マレーシア 2 0 1 6 予定 360 業開始が予定される建設中のプロジェク Petronas Floating LNG マレーシア 2 0 1 6 予定 120 Wheatstone LNG 豪州 2 0 1 7 予定 890 Ichthys LNG 豪州 2 0 1 7 予定 840 Prelude FLNG 豪州 2 0 1 7 予定 360 るものである(図3) 。 Cove Point LNG アメリカ 2 0 1 7 予定 525 なお、上記建設中のプロジェクトの Yamal LNG ロシア 2 0 1 7 予定 1,6 5 0 他にも、北米地域(米国・カナダ)、豪州、 Cameron LNG アメリカ 2 0 1 8 予定 1,3 5 0 Freeport LNG アメリカ 2 0 1 8 予定 1,3 2 0 東アフリカ(モザンビーク)等では、計 Corpus Christi LNG アメリカ 2 0 1 8 予定 900 Tangguh インドネシア 2 0 2 0 予定 380 出所:各種情報を基にJOGMEC作成 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 これらのほとんどは、豪州(約4,500万ト ン/年)、米国(約6,350万トン/年)が占め 画中・提案中のプロジェクトが多数存 在する。しかし、2 0 1 4年後半以降の油 価下落に伴い、財務状況が悪化したプ ロジェクト参加企業も多く、Arrow Energy LNG(豪州)、Browse LNG 万トン/年 (同)、Oregon LNG(米国)など、投資 その他 計画の延期・中止を表明するプロジェ ロシア クトも現れている。 アメリカ 大規模な投資を必要とするLNGプロ 豪州 ジェクトは、通常、その生産能力の大半 について、顧客(売り先)を確保してから、 6,000 最終投資決定(FID)がなされる。しかし、 4,000 短中期的に生産能力が過剰になる状況に 2,000 0 トの合計は、約1億4,000万トンに達する。 ある他、これまで需要の多くを担ってき 2016 2017 2018 出所:各種情報を基にJOGMEC作成 図3 地域別のLNG追加生産能力見通し 2019 年 た日本の買主は将来の需要見通しが不確 実(原発の再稼働、再生可能エネルギー の普及、国内市場における自由化の進展) なこともあり、計画中のプロジェクトの 2016.9 Vol.50 No.5 38 実現可能性については不透明な状況が続 業が関与する3件のプロジェクトが建設 ・CBMプロジェクト いている。 中で、2017年以降の操業開始を予定して ・2015年10月に初カーゴ出荷 いる。 Australia Pacific LNG(AP LNG) (2) 豪州のLNGプロジェクトの進捗 ・参画企業:Origin Energy Limited 豪州では2 0 1 5年以降にGLNG、 ①2 0 1 5年下期以降に操業開始した豪州 APLNG、Gorgon LNGが相次いで操業 LNG基地 を開始した。いずれも、複数の液化トレ GLNG インを有する大型プロジェクトで、2017 み。また、Wheatstone LNG、Ichthys Sinopec 25% ・液化能力:900万トン/年(450万トン ・参画企業:Santos 3 0%、Petronas 年頃まで段階的に生産量が増加する見込 27.5%、Total 27.5%、KOGAS 15% ・液化能力:780万トン/年(390万トン LNG、Prelude FLNG、いずれも日本企 3 7.5%、ConocoPhillips 3 7.5%、 /年×2トレイン) /年×2トレイン) ・CBMプロジェクト ・2016年1月に初カーゴ出荷 Gorgon LNG ・参 画 企 業 : C h e v r o n 4 7 . 3 % 、 ExxonMobil 2 5%、Shell 2 5%、大 Indian Ocean Cash / Maple Browse Gorgon 阪ガス 1.25%、東京ガス 1%、中部 Darwin Ichthys Timor Sea Sunrise 電力 0.417% Prelude North West Shelf ン/年×3トレイン) Townsville Pluto NORTHERN TERRITORY Scarborough ・液化能力:1,560万トン/年(520万ト Cairns WESTERN AUSTRALIA ・2016年3月に初カーゴ出荷 G LNG AP LNG QC LNG QUEENSLAND Alice Springs Wheatstone Surat Geraldton Kalgoorlie NEW SOUTH WALES Adelaide LNGプロジェクト (陸上) 【建設中】 Great Australian Bight LNGプロジェクト(FLNG)【建設中】 LNGプロジェクト(FLNG)【計画中】 0 ガスパイプライン (既存) Brisbane SOUTH AUSTRALIA LNGプロジェクト (陸上) 【操業中】 LNGプロジェクト (陸上) 【計画中】 Fisherman’s Landing Sydney VICTORIA CANBERRA 500 Km Melbourne Wheatstone LNG ・参 画 企 業 : C h e v r o n 6 4 . 1 4 % 、 KUFPEC 1 3.4%、Woodside 1 3%、 PE W h e a t s t o n e 8 %、 九 州 電 力 1.46% ・液化能力:890万トン/年(445万トン /年×2トレイン) (2,5 0 0万トン/年ま で拡張可能) 出所:各種情報を基にJOGMEC作成 図4 豪州の主なLNGプロジェクト 出所:Shellホームページ 図5 Prelude FLNGのイメージ図 39 石油・天然ガスレビュー ②現在建設中のLNG基地 ・2017年生産開始予定 Ichthys LNG LNGが2 0 1 5年7月に条件付きFIDを行っ ①操業開始済みのLNG液化基地 ・参画企業:INPEX 62.245%、Total ている。既に、2 0 1 5年7月BC(ブリ 3 0%、CPC 2.6 2 5%、東京ガス ティッシュ・コロンビア)州議会からの ・参画企業:Cheniere 100% 1.575%、大阪ガス 1.2%、関西電力 プロジェクト開発契約(Project ・液化能力:2,700万トン/年(450万ト 1.2%、中部電力 0.735%、東邦ガス: Development Agreement)が承認され、 0.42% カナダ連邦政府による環境影響評価の承 ※第6トレイン (450万トン/年) は未着工 認がなされれば、同国初のLNG輸出プ ・2016年2月に初カーゴ出荷 ロジェクトとして動き出すことになる。 ・2017~2019年の間に第3~第5トレイ ・液化能力:840万トン/年(420万トン /年×2トレイン) ・2017年生産開始予定 なお、現在建設中の北米産LNGの合 Prelude FLNG Sabine Pass LNG(アメリカ) ン/年×6トレイン) ン生産開始予定 計は、約6,3 5 0万トンに上り、このうち、 ・参 画企業:Shell 6 7.5%、INPEX 日本企業 (電力・ガス・メーカー)が予定 17.5%、CPC 5%、KOGAS 10% する引き取り量は、約1,4 0 0万トンとな ・液 化能力:3 6 0万トン/年(LNG)、 る(表2) 。これまでの一般的なLNGの事 ②建設中のLNG基地 CovePoint LNG(アメリカ) : ・参 画企業:Dominion Cove Point 130万トン/年 (コンデンセート) 、40 業形態(上流権益保有者がLNG事業を行 万トン/年 (LPG) い販売する)と異なり、北米ではフィー ・液化能力:525万トン/年 ・2017年生産開始予定 ドガスを調達した企業が液化事業者(上 ・2017年生産開始予定 ・現在、韓国Samsung重工(SHI)の造 流権益保有者以外)に液化サービスを委 Freeport LNG(アメリカ) : 託する形式を採る。仕向地の制約も基本 ・参 画 企 業 : F r e e p o r t 船所において建造中 (図5) 的にはなく、需給に応じて短期・スポッ (3) 北 米におけるLNGプロジェクトの 進捗 ト市場への流入も見込まれる。実際、日 LNG 100% Development 100% ・液 化 能 力 : 本企業・インドGail等のアジアの買主が、 1,3 2 0万トン/ 米国では、現在、一部稼働を開始した 一定量を欧州向けに販売し、同数量の豪 年(440万トン ものも含め5件のプロジェクトの建設が 州産等のLNGを日本・アジア市場で引 /年×3トレイ 進んでいる。Sabine Pass LNGは、2016 き取る等、必ずしも全量を日本向けに輸 ン)※第4トレ 年2月に初カーゴを出荷し、米国本土か 送するのではなく、契約の柔軟性を生か インに拡張計 らのLNG輸出がついに開始された。 した多様な取り組みが進んでいる。 画あり また、カナダでは、Pacifc Northwest LNG ・2018年生産開 始予定 Cameron LNG(アメリカ) : Aurora ・参画企業:Sempra 5 0.2%、ENGIE LNG Canada WCC LNG 1 6.6%、JLI(三菱商事、日本郵船) Kitimat Triton LNG(浮体式) Prince Rupert Pacific Northwest Woodfibre LNG 16.6%、三井物産 16.6% CANADA Bear Head LNG Canaport LNG Jordan Cove U.S.A Sabine Pass Golden Pass Freeport Corpus Christi Cove Point ン/年×3トレイン)※第4、5トレイ ンに拡張計画あり ・2018年生産開始予定 Corpus Christi LNG(アメリカ) : ・参画企業:Cheniere 100% Cameron Elba Island Gulf Coast LNG Lake Charles Calcasieu Pass LNG Magnolia LNG MEXICO ・液化能力:1,350万トン/年(450万ト ・液化能力:1,350万トン/年(450万ト ン/年×3トレイン) ・第 3トレインは未着工。第4、5トレ インに拡張計画あり ・2018年生産開始予定 LNGプロジェクト 【操業中】 LNGプロジェクト 【建設中】 ③条件付きFID済み LNG液化基地計画 LNGプロジェクト 【計画中】 出所:各種情報を基にJOGMEC作成 図6 北米の主なLNGプロジェクト (カナダ) Pacific Northwest LNG ・参画企業:Petronas 6 2%、Sinopec 2016.9 Vol.50 No.5 40 1 5%、JAPEX 1 0%、Indian Oil Corp. 1 0%、Petroleum BRUNEI 3% ・液化能力:1,200万トン/年(600万ト ン/年×2トレイン) ・2 015年6月、カナダ初(条件付き※) (4) 世界のLNG生産能力の推移と見通し のFID ※2 015年7月、BC州議会がプロジェクト 世界のLNG生産能力は、2015年末で約 開発契約(Project Development 3億トン/年に達している。今後、現在建 Agreement)承認済み。カナダ連邦政 設中のプロジェクトが順調に操業を開始 府による環境影響評価 の承認待ち。 すれば、2 0 2 0年までには、豪州がカター ・2019年操業開始を目指す ルを抜き世界最大の生産国となる。なお、 豪州(約8,6 0 0万トン/年) 、カタール(約 7,700万トン/年) 、米国 (約7,000万トン/年) の3国合計で約2億3,000万トンとなり、世 表2 日本企業の米国産LNGの調達 液化加工契約保持者 (売主) (基地事業者とは異なる) 界全体(約4億5,000万トン)のLNG生産能 力の半分を超える見通しである (図7) 。 LNG引取者 (買主) 大阪ガス 220万トン/年 (2018年から20年) 3. LNGの需要見通し 中部電力 220万トン/年 (2018年から20年) Freeport LNG 東芝 220万トン/年 (2019年から20年) BP 440万トン/年 三菱商事 400万トン/年 (2018年から20年) 東京電力 120万トン/年 (ポートフォリオ供給) 関西電力 50万トン/年 (ポートフォリオ供給) アジア、特に中国を中心に、LNG受入 東京電力 80万トン/年 (2018年から20年) 基地の建設が進んでいる。新興国等では 東北電力 30万トン/年 (2022年から16年) 東京ガス 20万トン/年 (2022年から16年) 東邦ガス 20万トン/年 (2019年から19年) 東京電力 40万トン/年 (2018年から20年) Cameron LNG 三井物産 400万トン/年 (2018年から20年) Engie 400万トン/年 (2018年から20年) (1)新規LNG受入基地の稼働見通し 東邦ガス 30万トン/年 (2018年から20年) 急増するエネルギー需要に対応するた め、陸上LNG受入基地に代わり、初期コ スト低 減 、建 設 期間の 短 縮 が 可 能 な F S R U(F l oa t i n g S t o r a g e a nd R e- 関西電力 40万トン/年 (2018年から20年) gasification Unit:浮体式LNG貯蔵・再 東京ガス 52万トン/年 (2020年から20年) ガス化設備)の導入も進んでいる。2 0 1 5 東北電力 27万トン (2018年から20年) 年にはエジプト、ヨルダン、パキスタン 東京ガス 140万トン/年 (2017年から20年) Cove Point LNG 住友商事・東京ガス 約230万トン/年 (2017年から20年) 関西電力 80万トン/年 (2017年から20年) が新たなLNG輸入国となったが、いずれ も、FSRUによる受入基地である (図8) 。 出所:各種情報を基にJOGMEC作成 50,000 45,000 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 (2)日本のLNG需要見通し 万トン/年 2 0 1 5年7月に発表された経済産業省長 ロシア 期エネルギー需給見通しによると、天然 欧州 ガスは化石燃料のなかで、今後役割が拡 中南米 大する重要なエネルギー源と位置付けら アフリカ れ、2 0 3 0年の1次エネルギーのうち1 9% アジア 中東 (約6,5 0 0万トン)が想定されている。原 北米 子力発電所の再稼働、省エネの進展を前 豪州 提としており、2015年の日本の輸入実績 10,000 に比べて減少となるが、LNG価格や将 5,000 来のエネルギー・電源構成によっては、 0 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 2017 2019 年 他のエネルギーを補う燃料となる可能性 も残る(図9) 。 出所:各種情報を基にJOGMEC作成 図7 地域別のLNG生産能力推移 41 石油・天然ガスレビュー (3)中国のLNG需給見通し 2015年は、経済の減速や、天然ガスが 8,000 万トン/年 7,000 600 中東・アフリカ 中南米 6,000 500 欧州 3,000 300 2,000 1,000 2016 出所:各種情報を基にJOGMEC作成 2017 2018 輸入パイプラインガス LNG輸入 国産ガス 輸出(億㎥) 天然ガス消費増減率(%) 1,900 19% 3% 天然ガス 石炭 LPG 25% 40% 100 0 % 原子力 石油 3% 年 図8 地域別のLNG受入基地稼働見通し 億㎥/年 再生可能エネルギー 10∼11% 25% 200 0 13∼14% 24% 400 4,000 30 30% 2013 2030 年度 出所:経済産業省長期エネルギー需給見通し(2015年7月) 図9 長期エネルギー需給見通し 25 20 700 1,400 十億㎥/年 生産 600 15 需要 500 900 10 400 300 5 400 -100 8% 0.4% アジア・太平洋 5,000 2,400 1次エネルギー供給量 百万kℓ(石油換算) 200 100 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 0 2015 年 出所:各種情報を基にJOGMEC作成 2013 2020 図10 中国の天然ガス消費量推移 硬直的な統制価格をとるため、油価下落 2025 2030 2035 2040 年 出所:IEA 図11 中国の天然ガス需要見通し 600 百万トン / 年 後に価格競争力が低下したこと等によ り、天然ガス需要の伸びが抑制された。 500 LNG輸入は、世界3位の輸入国(シェア 8%)であるとはいえ─各種統計により若 高需要ケース 400 干の差異はあるが─輸入開始以来初の前 年割れとなった。 300 一方で、大気環境改善、CO2排出抑制 200 低需要ケース 需要は高く、景気動向、ロシアからのパ (4)世界のLNG需要見通し 図1 2に、世界のLNG需要推移と今後 2030 2014 2015 2012 2013 2010 2011 2008 2009 2006 2007 2004 2005 2002 2003 2000 2001 1998 1999 1997 年 1996 通しとなる (図10、図11) 。 0 1995 は残るとはいえ、今後の需要増を担う見 1994 度、天然ガスの統制価格などの不確実性 1993 イプラインを通じた天然ガス輸入の進展 100 2020 政策に伴い、中長期的な天然ガスの潜在 出所:IEA Natural Gas Information、経済産業省資源エネルギー庁委託調査「アジア・太平洋市場の天然ガ ス需給動向調査報告書」 (2014年3月)を基にJOGMEC作成 図12 世界のLNG需要見通し 2016.9 Vol.50 No.5 42 の見通しを示す。 輸入量の大半を占める長期契約において 現在世界では、年間2億4,5 1 9万トンの は、石油価格連動方式による価格決定が LNGが取引(需要)されている。天然ガ 主流となっており、実際の輸入価格に反 スは中期的に有望なエネルギー源と位置 映するまでの数カ月のタイムラグは生じ 天然ガス・LNGの価格決定方式は、産 づけられており、中長期的には需要は堅 たものの、2016年初の低油価が日本向け ガス国である北米・イギリスと、天然ガ 調に伸びていくと予想されている。2020 LNG輸入価格にも反映されている。 ス・LNGの輸入国から成る欧州大陸部、 年時点の年間需要として3億~4億トン、 スポットLNG価格については、豪州 LNGによる輸入を行う北東アジアの大き 2 0 3 0年時点では4億~5億7,0 0 0万トン程 の新規プロジェクトからの操業開始・本 く三つに大別される。 (表3) 度と見通される。 格稼働、需要面については、日本・韓国 欧州大陸部では、もともとガスは石 また、現在、建設中のLNG液化基地 における原発の再稼働、中国における景 油製品の競合燃料であり、消費者はガ の生産能力(1億4,000万トン)を考慮する 気減速を受け、2 0 1 6年5月の入着ベース スと石油の価格優位性のあるほうを選 と、2020年初頭の、短中期的には十分な のスポット価格は、4.3ドル/MMBtuと、 択していたことから、石油製品(重油、 供給力があると考えられる。 経済産業省が2 0 1 4年4月以降公表を開始 灯油など)の価格に連動して天然ガスの して以来、最安値を更新した。 価格を決定する方式ができ上がってい 2016年下期以降も、気温要因等の一時 た。従来の価格決定方式を維持したい 的な需要増はあっても、豪州・米国・マ ロシアをはじめとした売主側の意向は レーシア等における新規LNG基地の操 あるが、昨今の天然ガス取引市場の拡 2 0 1 6年5月のJLC(Japan LNG 業開始により、需要の変動を上回る大量 大や原油価格高騰に伴う天然ガス価格 Cocktail)は、5.9ドル/MMBtuと2 0 0 5年 のLNG供給増が続く見込みで、短期的 の高騰に際しての、価格見直し・再交 以来の安値水準となった。日本向けLNG には、スポット価格が大幅に上昇する可 渉といった過程で、ガス市場価格連動 4. 天然ガス・LNG取引 (1)天然ガス・LNG価格推移 能性は低いと考えられる。 (2) 天然ガス・LNGの価格決定方式 25 ドル/百万Btu 20 15 10 5 0 2005 2006 2007 2008 ドイツ-ロシア国境渡し (Gas) JLC(Japan LNG Cocktail) 2009 2010 2011 2012 NBP(UK-gas,ICE) JCC(Japan Crude Cocktail) 出所:IMF、ICE、NYMEX、経済産業省スポットLNG価格の動向、財務省貿易統計等より推計 図13 世界の天然ガス・原油価格推移 43 石油・天然ガスレビュー 2013 2014 2015 H/H(US-Gas,NYMEX) 2016 年 日本向けSPOT(入着ベース、METI) を認める動きも出てきている。 表3 天然ガス・LNGの価格決定の構成要因 国際ガス連盟(IGU)の調査によれば、 EU域内の天然ガス取引で、石油価格連 動型の取引割合は2005年の78%から2015 年は30%に低下し、ハブ価格に連動した 取引は、2005年の15%から64%に増加し たとされている。 北東アジアでは、依然、長期契約を中 心に石油価格連動による価格決定方式が 主だが、北米産LNGの輸出開始に際して は、米国ヘンリーハブ(H/H)価格連動等 の指標の多様化が進む見込みである。ま た、伊勢志摩サミット (2016年5月) に合わ せて経済済産業省が発表したLNG市場戦 北米・イギリス 主な 調達形態 立も、供給安定性に資するスポット市場 の発達と併せて期待されるところである。 出所:各種情報を基にJOGMEC作成 1,000 天然ガス供給量 十億㎥ 900 在の三大需要地における供給源(図14) 700 のバランスにも変化が予想される。特 600 に、中国・欧州にパイプラインを通じ 500 た天然ガス供給を進めるロシアの動向 400 とその価格戦略次第では大きな影響が 300 (3)新たなLNG輸送航路による取引 北米産 LNG(H/H 価格連動)の輸入が順次開始予定(2 0 1 6 年以降) ─ 備考 800 する必要がある。 日本・アジア ・ LNG 輸入 ・取引時点における天 ・取引時点における石油製品 ・取引時点における原油価格 然ガス需給(LNG も 価格(市場価格を一部反映 ・契約交渉時点における情勢 含む) も増加傾向) (LNG プロジェクトの開発 価格決定の ・契約交渉時点における情勢 見通し〈調達開始時期にお 指標・因子 (スポット価格、他燃料価 ける LNG 需給見通し〉) 格、他ガス調達源の開発見 通し、など) 今後、米国産LNGの増加に伴い、現 あり、今後の不確実性要因として注視 欧州大陸部 ・域内生産 ・パイプライン輸入 ・ LNG 輸入 市場取引 長期契約・市場取引(近年は 長期契約(近年、将来需要の 主な (米:H/H、英:NBP) 契約期間の短期化・市場取引 不確実性から短期も増加傾 取引形態 (LNG は長期契約) が増加) 向) 略にも示されるように、最大需要地であ るアジアの需要に合わせた価格指標の確 ・域内生産 ・パイプライン輸出 (一部 LNG) LNG輸入 パイプライン輸入 域内生産 200 100 0 北米 (米加) 欧州 (EU-28) アジア (日中韓台印) 出所:IEA Natural Gas Information ①パナマ運河の拡張 図14 三大天然ガス市場における供給源別割合(2014年) 2 0 0 7年9月に着工したパナマ運河の拡 張工事は、2 0 1 6年6月2 6日開所式が行わ れ、その翌日には、日本郵船が運航する 表4 パナマ運河を通峡可能な最大船型 LPG船が商用第一船として通峡した。当 初計画では、1 9 1 4年のパナマ運河開通 現行 100周年に合わせて完成予定であったが、 新運河 こうもん 運河・閘門の大きさ 通航可能な最大船型 運河・閘門の大きさ 通航可能な最大船型 追加工事の費用負担に絡んだ対立による 全長 3 0 5m 工事中断等により、完成が遅れていた。 全幅 3 3.5m 3 2.3m 5 5m 4 9m 現在、建設中の米国のLNG液化基地 喫水 1 2.8m 1 2.0 4m 1 8.3m 1 5.2m は全て米国大西洋側に位置することか 2 9 4.1m 4 2 7m 3 6 6m 出所:パナマ運河庁 ら、アジア向け輸送には多くの場合、拡 張後のパナマ運河を通じた輸送となるこ とが想定されている。なお、新パナマ運 ②ヤマルプロジェクト(北極海航路) 待されてきた航路で、既に、2012年には 河の活用により輸送日数は約20日(速力 2 0 1 7年に予定される、ロシアYamal ノルウェー産LNGのアジア向け輸送な 19ノット) ~25日(同15ノット)となり、 LNGの生産開始に伴い、北極圏航路を どで実績がある。最大氷厚2.1mの氷海 スエズ運河経由 (片道約33~42日) 、アフ 通じたアジア向けのLNG輸送も計画さ で単独砕氷航行可能なLNG船によって リカの喜望峰経由 (同35~45日) と比較し れている。北極圏航路は、海水温上昇に 輸送するが、冬季は海面が厚い氷に覆わ て大幅な短縮が可能となる。 よる北極海の氷海域減少に伴い活用が期 れることから、北極圏航路は基本的に夏 2016.9 Vol.50 No.5 44 季限定となる見込みである。冬季につい ては、Yamal LNGから欧州地域内の港 湾まで輸送の後、通常のLNG船に積み 替え、そこからアジア等各地域に再出荷 されることも想定される。 ③地域間のスワップ取引による最適化 北米からのLNG輸出が本格化し、新 パナマ運河、北極海航路等新たな輸送 ルート活用が進めば、今後のアジア向け LNG取引における長距離輸送は増加傾 向となろう。一方で、特に北米を中心と した仕向地制限のない契約に基づき、北 米からの欧州向けカーゴと日本・アジア 向けカーゴの相互交換等、輸送ルートお よびコストの最適化のための取り組みが 進んでいる。 出所:Total、Novatek 図15 Yamal LNGの輸出ルート 関 西電力と仏ENGIE(旧GDF Suez) との協力協定 ヤマル アラスカ 東シベリア カナダ サハリン アメリカ アルジェリア トルクメニスタン ミャンマー 西アフリカ 中東 パプアニューギニア 東南アジア 東アフリカ 豪州 天然ガスパイプライン(稼働中) 天然ガスパイプライン(建設・計画中) LNG輸送ルート (現在) LNG輸送ルート (将来) 出所:各種情報を基にJOGMEC作成 図16 アジア向け天然ガス輸送(将来) 45 石油・天然ガスレビュー ・関 西電力が北米から購入するLNG ・米国-インド、インド-豪州の輸送 をENGIE社に販売し、原則同量分 を比較した場合、10~15日(往復20 明な状況にある。 のLNGを関西電力が購入 ~30日)の輸送日数が削減可能 こうしたさなか、2 0 1 6年2月には、米 ・2 0 1 9年から原則最低1 6 0万トン/年 (双方合意で増量可) 5. まとめ JERA(売主)からEDF Trading(欧 州LNG基地向け) にLNGの販売 プロジェクトの実現性については不透 国Sabine Pass LNG基地からのLNGが初 出荷され、6月末には拡張パナマ運河も 運用が開始された。今後、仕向地制限が エネルギーの安定供給や環境面で優 ない米国産LNGの短期・スポット市場 位性のある天然ガスの「黄金時代」の到 への供給により、これまで以上に、LNG 来が2010年に国際エネルギー機関(IEA) 取引における流動性は高まるであろう。 によって示され、供給面では大型プロ さらに、従来のアジア向けLNGの取 ジェクトの操業開始が本格化してきて 引では大半を占めていた石油価格連動の いる。半面、低油価にもかかわらず、 LNG取引からヘンリーハブ(H/H)価格 足元の需要は伸び悩み、気温要因等の 連動等への移行など多様化も予想され インドGailの保有する米国Sabine Pass 一時的な需要増はあったにしても短中 る。その上、中国・欧州にパイプライン カーゴのスワップ検討 期的には供給過剰が続くことが見込ま を通じた天然ガス供給を進めるロシアに ・輸送コストを最適化するため、米国 れるため、特にスポット価格の大幅な ついてはその価格戦略が市場に与える影 でのFOB(Free on Board)契約と 上昇は考えにくい。また、油価下落に 響も大きく、LNGの市場構造が大きく 同量のインドの基地向けDES 伴う財務状況の悪化により投資計画の 変わろうとするなか、今後の不確実性要 (Delivered Ex-Ship)契約とのス 延期・中止を表明する企業も現れてき 因として目の離せない状況が続く。 ・2 01 8年6月から2年半、最大150万ト ン/年、欧州ガス価格連動 ・E DF Tradingが指定する欧州域内 のLNG基地での受け渡し ・販売数量は、売主(JERA)の裁量で 調整可能 ワップに関する入札実施 ており、最終投資決定前の計画段階で (田村 康昌) Global Disclaimer(免責事項) 本稿は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本稿に含まれるデー タおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本稿は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に 関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本稿に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負い ません。なお、本稿の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 2016.9 Vol.50 No.5 46