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重要性を増す積極的雇用政策
Economic Trends マクロ経済分析レポート ○不況で広がる雇用のミスマッチ 発表日:2009年7月31日(金) ~サービス、専門職で広がる構造的失業、重要性を増す積極的雇用政策~ 第一生命経済研究所 経済調査部 担当 副主任エコノミスト 有馬 めい TEL:03-5221-4573 (要旨) ○ 2月調査の「労働経済動向調査」によれば、単純工や技能工などの生産工程・労務職(約6割が製造 業従事者)で目立った過剰雇用感の高まりが観察される。この半年間、製造業を中心に緊急避難型ワ ークシェアリングが相当程度普及し、残業・休暇調整で正社員などの雇用がある程度守られた反面、 臨時・季節・パートタイム労働者の再契約停止や解雇、中途採用の削減・中止などが増えている。 ○ 足元では需要不足失業率と構造的失業率がともに上昇している。構造的失業には需要変動に供給側が 対応しきれずに生じたミスマッチによる部分も含まれ、その意味で不況期には特定産業の業績悪化が 顕著となる場合など、構造的失業が発生しやすいといえる。幾つかのミスマッチ指標の動向をみる と、2007 年後半以降、雇用形態(働き方)によるミスマッチと職業間ミスマッチが急速に拡大してい ることがわかる。 ○ 景気回復期には、働き方の条件に関して労働需要側が供給側へある程度折り合うことで、働き方のミ スマッチはある程度解消されるであろう。他方、職業間ミスマッチについては、大規模な需要変動を 機に雇用構造の変化が起こっている場合は、景気回復局面においても解消されない可能性が高い。こ れは、構造的失業を高止まりさせる要因となるため、職業訓練など積極的雇用政策の重要性が増すこ とになる。 ○ 職業別の失業者数を分解すると、生産工程・労務職では、構造的失業が大幅に減少している半面、需 要不足失業が急激に増加している。反対に、サービス職や医療・保健・社会福祉専門職では、構造的 失業が増加しているが、(労働の)需要超過が続いている。 ○ 生産工程・労務職の求人が減り続ける一方、専門・技術職やサービス職では比較的安定した求人があ り、有効求人倍率も他の職業に比べ高い。しかし、そこでは医療や介護、福祉などの専門的な技能や 対人サービス的な技能が求められ、生産現場で職を失った人たちのスキルや経験が馴染むかどうかが 問題となる。欧州各国では 90 年代後半以降から積極的雇用政策が進められており、GDP対比でみ ても職業訓練にかなりの予算が割かれてきた。本稿の分析結果からは、日本においても不況下で職業 訓練の重要性が増しているといえる。ただし、それだけでは構造的失業の解消には限界がある。需要 の増加が見込める介護や、労働力率を高めていく上で重要な役割を果たす福祉(保育所)の分野など で働き方の選択肢を広げていく必要もあろう。 ○緊急避難型ワークシェアリングの普及 ~生産工程・労務職で目立った雇用過剰感~ 足元で失業が急増している。完全失業者数は5月に前年同月比で過去最悪の約 76 万人の増加となり、不況 を具に反映している。雇用者数の伸びに対する実質GDP成長率の感応度を推計期間で比較すると、90 年代 半ばを境に雇用調整の景気感応度が高まっている(APPENDIX①)。また、参考までにGDP変化の雇用者数、 1 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 所定内給与、所定外労働時間に対する波及効果を、1980 年代後半から 90 年代前半までと、90 年代後半以降 で比較した。ここでも、90 年代前半までは雇用者数の反応が所定内給与や所定外労働時間に比べて遅かった のに対し、90 年代後半以降は雇用者数の反応が早くなっていることが確認された(APPENDIX②)。 2月調査の「労働経済動向調査」からは、単純工や技能工などの生産工程・労務職(約6割が製造業従事 者)で目立った過剰雇用感の高まりが観察される(資料1)。そして、2009 年1~3月の過剰雇用量は約 246 万人、製造業では約 111 万人と推計され、当面は雇用調整局面が続くものと考えられる(APPENDIX③)。 この半年間、製造業でみられた雇用調整の特徴は、残業・休暇調整と臨時雇用調整であった(資料2)。 2001 年の雇用調整局面では、残業・休暇調整、臨時雇用調整とあわせて、配置調整、人員調整の実施割合も ほぼ同等に増加した。しかし今回の局面では、残業・休暇調整(残業規制、休日の振替、夏季休暇等の休 日・休暇の増加など)の割合が最も増加しており、人員調整(一時休業、希望退職者の募集、解雇)の実施 状況は以前に比べ少ない。不況下で緊急避難型ワークシェアリングが相当程度普及したと考えられる。ただ し、正社員などの雇用がある程度守られた半面、臨時・季節・パートタイム労働者の再契約停止や解雇、中 途採用の削減・中止などが増えている。 資料1 50 40 資料2 職業別労働力過不足DI 管理 専門・技術 サービス 技能工(生産工程・労務) 事務 不足 販売 運輸・通信 単純工(生産工程・労務) 30 (%) 120 雇用調整の動向(製造業) 残業・休暇調整 配置調整 実質賃金指数(右目盛) 臨時雇用調整 人員調整 (2005年=100) 102 100 100 98 20 80 96 10 60 0 △ 10 94 92 40 △ 20 過剰 90 20 88 △ 30 0 △ 40 2008年11月 2008年7月 2008年3月 2007年11月 2007年7月 2007年3月 2006年11月 2006年7月 2006年3月 2005年11月 2005年7月 2005年3月 2004年11月 2004年7月 2004年3月 2003年11月 2003年7月 2003年3月 2002年11月 2002年7月 2002年3月 2001年11月 2001年7月 2001年3月 2000年11月 2000年7月 2000年3月 1999年11月 1999年7月 1999年3月 2009年2月 11 8 5 2008年2月 11 8 5 2007年2月 11 8 5 2006年2月 11 8 5 2005年2月 11 8 5 2004年2月 11 8 5 2003年2月 11 8 5 2002年2月 11 8 5 2001年2月 11 8 5 2000年2月 11 8 5 1999年2月 出所)厚生労働省「一般職業紹介状況」 86 出所)厚生労働省「雇用動向調査」 ○不況下で広がる雇用のミスマッチ 完全失業率を需要不足失業率と構造的失業率に分解1すると、足元では需要不足失業率と構造的失業率がと もに上昇している(資料3)。推計結果2によれば、需要不足失業率は直近で 2007 年半ばに底を打った後、 急激に上昇に転じている。他方、構造的失業率は 90 年代前半から緩やかな上昇傾向が続き、1998 年に3% を上回った後、2009 年前半には 3.5%となっている。 構造的失業には需要変動に供給側が対応しきれずに生じたミスマッチによる部分も含まれ、その意味で不 況期には特定産業の業績悪化が顕著となる場合など、構造的失業が発生しやすいといえる。幾つかのミスマ ッチ指標から 2007 年後半以降の動向をみると、雇用形態(働き方)によるミスマッチと、職業間ミスマッチ が急速に拡大していることがわかる。景気回復期には、働き方の条件に関して労働需要側が供給側へある程 1 「失業」を、需要不足失業、摩擦的失業、構造的失業の3つに分類したときの構造的失業とは、「需要と供給の間で労働者 の質や地域にミスマッチがあるために起こる失業」で、求人はあるものの失業者がその求人条件を満たせない場合がその典型 である。それに対し、「見つけさえすれば仕事はあるがまだ見つけていない、情報の非対称性のために求人情報を知らないな どの理由で職探し中の失業」「賃金水準に納得せずに他の職を探して自発的に失業」などが摩擦的失業にあたる。しかし、、 摩擦的失業と構造的失業は分類が難しく、ここでは両者を合わせて構造的失業とした。なお、需要不足失業とは、景気後退期 に労働需要が減少するため生じる失業である。 2 労働経済白書では雇用失業率の説明変数に欠員率のみを用いているが、ここでは構造的失業の粘着性を考慮し説明変数に1 期の自己ラグを加えた(APPENDIX④)。 2 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 度折り合うことで、働き方のミスマッチはある程度解消されてきたが、足元では不況の影響で働き方の選択 が極めて困難になっていると考えられる(資料4)。他方、職業間ミスマッチについては、大規模な需要変 動を機に雇用構造の変化が起こっている場合は、景気回復局面においても解消されない可能性が高い。これ は、構造的失業を高止まりさせる要因となるため、職業訓練など積極的雇用政策の重要性が増すことになる (後述)。都道府県間(地理的な)ミスマッチが縮小傾向にあることも注目され、不況を背景に求職者の地 元回帰が進んでいる可能性もある。 以下では、職業別の状況をみるため、構造的失業者数(雇用者ベースに換算)を一般職業紹介状況の職業 別の超過求人数(求人数-就職件数)の構成比で按分した(資料5)。職業安定所の統計を失業者全体の傾 向としてみており、結果は幅を持ってみる必要があるが、特徴となる傾向は生産工程・労務職とその他の職 業で異なった。構造的失業者数は、生産工程・労務職3では足元で大幅な減少傾向がみられる一方、サービス 職4や医療・保健・社会福祉専門職5では増加傾向がみられる。 資料3 構造的失業率と需要不足失業率 6% 完全失業率 5% 需要不足失業 資料4 各種ミスマッチ指標 40% 構造的失業 35% 職種間 30% 4% 25% 3% 20% 2% 年齢間 都道府県間 15% 1% 10% 0% 5% -1% 0% 4月 21年1月 10月 7月 4月 20年1月 10月 7月 4月 19年1月 10月 7月 4月 18年1月 10月 7月 4月 17年1月 10月 7月 4月 16年1月 10月 7月 4月 15年1月 10月 7月 4月 14年1月 10月 7月 4月 13年1月 10月 7月 12年4月 2008Q4 2007Q2 2005Q4 2004Q2 2002Q4 2001Q2 1999Q4 1998Q2 1996Q4 1995Q2 1993Q4 1992Q2 1990Q4 1989Q2 1987Q4 1986Q2 1984Q4 1983Q2 1981Q4 1980Q2 出所)厚生労働省「労働力調査」「一般職業紹介状況」 雇用形態 注)ミスマッチ指標=1/2*∑∣ Uì/U-Vì/V∣ 、Uì:職業 ì の 求職者数、U:求職者総数、Vì:職業 ì の求人数、 V:求人総数 出所)厚生労働省「一般職業紹介状況」より第一生命 経済研究所作成 3 金属材料・化学・窯業・土石製品製造の職業、金属加工の職業、一般・電気・輸送用機械器具組立・修理の職業、食料品製 造の職業などを含む。 4 家庭生活支援サービスの職業、生活衛生サービスの職業(美容師・理容師など)、飲食物調理の職業、接客・給仕の職業、 住居施設・ビル等の管理の職業などを含む。 5 医師、看護師、介護職員、介護福祉士、介護支援専門員、保育士、カウンセラー(社会福祉施設)、医療カウンセラー、医 療ケースワーカー、ソーシャルワーカーなどを含む。 3 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 資料5 構造的失業者数(職業別) 資料6 (万人) 需要不足失業者数(職業別) (万人) 250 生 200 47 43 40 39 55 54 51 63 60 60 59 59 60 58 57 56 56 150 41 42 44 39 40 37 37 37 38 34 34 34 34 36 37 37 37 産 工 程 ・ 労 務 サ ー ビ ス 35 36 36 36 34 35 35 35 34 34 34 33 34 34 34 34 34 100 43 45 47 47 31 33 34 35 34 33 34 35 37 37 37 38 40 販 0 2007年11月 2008年3月 76 100 49 34 27 27 30 27 21 23 24 16 16 20 22 20 売 門 54 66 事 務 50 専門職(情報処理技術者) 事 21 20 22 22 22 21 20 20 20 21 21 20 19 19 20 20 20 生 産 工 程 ・ 労 務 58 56 57 58 57 61 62 63 61 63 60 56 61 67 58 60 66 専門職(保健・医療・社会福祉) 専 50 150 職 ( そ の 他 専 門 職 (保健・医療・社会福祉) 0 -13 -16 -16 -15 -14 -12 -13 -15 -17 -18 -19 -21 -23 -24 -27 -28 -26 -16 -17 -16 -16 -18 -19 -19 -18 -19 -19 -19 -22 -21 -21 -21 -23 -23 ) -50 務 サ ー ビ ス 運 輸 ・ 通 信 保 -100 2007年11月 2008年3月 安 2008年7月 2008年11月 2009年3月 出所)資料4に同じ 2008年7月 2008年11月 2009年3月 出所)資料4に同じ 同様に、需要不足失業者数(完全失業者数-雇用者ベースの構造的失業者数)を一般職業紹介状況の求職 件数の構成比で按分し、職業別にその動向をみた(資料6)。その結果、主に生産工程・労務職と事務職で 大規模な需要不足失業が確認され、中でも生産工程・労務職ではその増加がみられた。反面、それ以外の職 業(サービス、医療・保健・社会福祉専門職など)ではむしろ需要超過が続いており、2005 年頃からみられ た全体での需要不足失業率の上昇は、生産工程・労務職でほぼ説明可能であるといえる。 また、職業間ミスマッチ指標の職業別内訳をみると、足元の不況で生産工程・労務職、サービス職や専門 職でミスマッチが拡大していることが読みとれる(資料7)。いずれの職業も足元の急激な求職数の増加が ミスマッチ拡大の要因だが、生産工程・労務職においてはその傾向が最も強い。就職件数は、生産工程・労 務職で大幅に減少し、サービスや専門・技術職で昨年秋以降に明らかな増加傾向がみられる(資料8)。こ うした傾向から、不況を背景に生産工程・労務職から他の職業へ労働力が流れているものの、受け皿となる サービス、医療・保健・社会福祉専門職の労働市場でミスマッチが生じ、新たな構造的失業が発生している と考えられる。 資料7 職業間ミスマッチ指標とその内訳 資料8 (万件) 0.6 40% 0.4 35% 生産工程・労務 30% 職種間ミスマッチ指標 0.2 0.0 ▲ 0.2 25% 20% 就職件数(前年同月差、3期移動平均) ▲ 0.4 サービス 医療・保健・社会福祉専門 専門・技術(その他) 15% その他(事務・管理など) 10% ▲ 0.8 ▲ 1.0 ▲ 1.2 3月 21年1月 11月 9月 7月 5月 3月 20年1月 11月 9月 7月 5月 3月 19年1月 11月 9月 7月 5月 3月 18年1月 4月 21年1月 10月 7月 4月 20年1月 10月 7月 4月 19年1月 10月 7月 4月 18年1月 10月 7月 4月 17年1月 10月 7月 4月 16年1月 10月 7月 4月 15年1月 10月 7月 4月 14年1月 10月 7月 4月 13年1月 10月 7月 12年4月 注)資料4に同じ 出所)資料4に同じ 専門職(保健・医療・社会福祉) 販売 サービス 事務 運輸・通信 生産工程・労務 ▲ 0.6 出所)資料4に同じ 4 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 ○雇用のミスマッチ解消に向けて ~職業訓練と同時に、多様な就業機会の提供が必要~ 生産工程・労務職の求人が減り続けているが、一 資料9 方で専門・技術職やサービス職には安定的な求人が 有効求人倍率 (倍) 2.5 あり、有効求人倍率も他の職業に比べ高い(資料 9)。しかし、これらの職種では医療や介護、福祉 2.0 などの専門的な技能や対人サービス的な技能が求め 1.5 られ、必要とされる知識やスキルの違いが労働移動 1.0 の障壁を厚くしていると考えられる。90 年代半ばか 職業計 専門的・技術的職業 サービスの職業 生産工程・労務の職業 販売の職業 0.5 ら欧州各国では、これらの分野における就業支援や 0.0 3月 21年1月 11月 9月 7月 5月 3月 20年1月 11月 9月 7月 5月 3月 19年1月 11月 9月 7月 5月 動化や人的資源分配の効率化を図ってきた(資料 3月 18年1月 就業インセンティブを高める政策を行い、雇用の流 出所)資料1に同じ 10)。積極的雇用政策のなかでも、とりわけ職業訓 練の占めるウェートは高く、GDP対比でみてもドイツ、フランスなどでは日本の6~7倍の予算が割かれ ている。 積極的雇用政策の成果を実証することは難しいが、職業訓練だけみても様々な取り組みがなされている。 ドイツでは、学問よりも実務的な訓練が必要な保健衛生・医療福祉関連(介護、育児、看護師、助産婦、医 学療法士)、技能関連(オートメーション技術専門の工業技術者など)、商業関連(グラフィックデザイナ ー、情報処理助手、翻訳・通訳など)の職業に全日制の職業専門学校が対応している。座学形式の訓練が週 30 時間程度行われ、2年制の職業専門学校では訓練終了後の試験に合格すると、「公的な職業資格」と「専 門大学の入学資格」がそれぞれ授与され、2006 年には約 21 万人が進学している。イギリスでも、、エンジ ニアリング、保健、介護などの分野で「徒弟制度」が導入され、職業意識の啓発やスキルの向上が図られて いる。また、OECD の研究結果からも、求人企業の意見が尊重される形で行われる職業訓練については有効で あることが明らかになっている。 資料 10 GDPに占める労働市場政策への支出(2005-06 年) (%) 積極的措置 国 公共 職業 職業 訓練 サービ ス 合計 消極的措置 雇用 就業 インセ 支援、 ンティ 訓練 ブ 日本 0.68 0.25 0.19 0.04 アメリカ 0.38 0.13 0.03 0.05 イギリス1) 0.68 0.49 0.38 0.09 0.01 0.01 3.32 0.97 0.35 0.25 0.05 0.13 0.10 0.18 ドイツ 2) 0.02 - - 直接 的雇 用 創出 0.03 フランス2) 2.52 0.90 0.24 0.29 0.13 0.07 オランダ2) 3.35 1.33 0.49 0.13 0.17 0.53 - 0.01 - - 創業 インセ ンティ ブ 失業・ 早期 無業 退職 所得 補助 ・支援 - 0.43 0.44 - - 0.24 0.24 - - 0.19 0.19 0.09 2.35 2.30 0.05 - - 1.62 1.57 0.06 - 2.02 2.02 - 注)1)2004~2005 年の値、2) 2005 年の値。 出所)OECD. Employment Outlook 2007 本稿の分析結果からは、日本においても不況下で職業訓練の重要性が増しているといえる。ただし、それ だけでは働き方のミスマッチ解消には限界がある。欧州各国では、女性労働力率の高まりと同時に、それま で家庭内に提供されていたサービスが企業によって提供されるようになった。日本においても、介護や福祉 5 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 (保育所)など労働需要のある対地域・社会・個人サービス分野を中心に働き方の選択肢が広がれば、働き 方のミスマッチ解消にもつながり、女性の労働参加も促されるであろう。 とりわけ、介護職員のマンパワーは、高齢化や医療との連携による需要の増加を見込むだけでも、2020 年 までの 10 年間で約 93 万人の増加が予想され、その雇用吸収力が期待されている。ただし、介護報酬の引き 下げが続いた影響で従事者の処遇が悪化した経緯があり、足元では経験やスキルに応じた報酬体系の整備が 目下の課題となっているが、労働参加を促す意味においては多様な就業機会を提供していくこともまた重要 である。 以上 APPENDIX ① 雇用の景気感応度 説明変数を雇用者数の全同期比、被説明変数を 自己ラグ、実質 GDP 成長率、実質賃金上昇率(四 資料 11 雇用調整関数の推定結果 半期、季調値)とした雇用調整関数の推定を行っ た(資料 11)。 全期間で定数項は有意に推定されなかった。有 意水準を 25%まで許容すれば 2000 年から 2007 年 にかけて非常に弱い負のトレンドがみられる。90 年代後半以降も雇用者数の伸びに負のトレンドが 1985-1994 1997-2007 2000-2007 1997-2009 定数項 (p値) 自己ラグ(1期ラグ) (p値) 実質GDP成長率(1期ラグ) (p値) 実質賃金上昇率(1期ラグ) (p値) 修正R2 0.001 0.677 0.856 0.000 0.058 0.186 -0.015 0.850 0.751 0.000 0.585 0.483 0.000 0.194 0.000 0.103 0.090 0.820 -0.001 0.258 0.387 0.014 0.256 0.002 0.174 0.050 0.759 0.000 0.972 0.547 0.000 0.145 0.001 0.087 0.093 0.792 有意に見出せなかった要因として、非正規雇用の 増加が負のトレンドを打ち消した可能性が考えら 出所)資料4に同じ れる。 自己ラグの係数は 90 年代半ばから減少傾向にあり、雇用調整速度が速くなったことが読み取れる。実質 GDP 成長率の係数は、90 年代前半まで有意に検出されなかった。90 年代半ばから雇用者数の伸びに対する景 気感応度が高まったと考えられる。同様に、雇用者数の伸びに対する賃金上昇率の係数も 90 年代半ばから有 意に推定され、景気感応度とともに賃金感応度も高まっている。 また、推計期間を 1997~2007 年とした場合と 1997~2009 年とした場合では、前者に比べ後者の方が景気 感応度、賃金感応度ともに低く、雇用調整速度は速い。昨年秋以降の緊急避難型ワークシェアリング(ウェ イジシェアリング)の影響と思われる。 ② 雇用調整の早期化 1985~1993 年と 1997~2009 年の2期間でGDP、雇用者数、所定内給与、所定外労働時間の4変数 (前期比、四半期、原系列)からVARモデルをつくり、インパルス反応でGDPから各変数への波及効果 を確認した(いずれの変数も、2階階差で定常化された)(資料 12)。その結果、GDP変化(1標準偏差 分)に対する雇用者数の反応は 1997 年以降で 1993 年以前に比べ早期化していることが確認された。ただし、 収束の次期も早まっており、例えば雇用調整の収束は 1993 年以前が 10 四半期程度であったのに対し、1997 年以降は5~6四半期となっている。 6 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 資料 12 GDP前期比伸び率に対するインパルス反応 1997~2009年 1985~1993年 0.5 0.5 雇用者数 所定内給与 所定外労働時間 0.3 0.1 雇用者数 所定内給与 所定外労働時間 0.3 0.1 -0.1 -0.1 -0.3 -0.3 -0.5 -0.5 1 2 3 4 5 6 7 1 8 9 10 11 12 13 14 15 16 (四半期) 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 (四半期) 出所)資料4に同じ 資料 13 ③ 過剰雇用(人件費比率方式) (D.I. 過剰-不足) 30 過剰雇用の増加 1800 10 過剰雇用の計算方法は幾つかあるが、ここでは 2005 年を基準年次とした人件費比率方式で計算した(資料 13)。推計は過剰雇用率((売上高人件費比率-2005 年の売上高人件費比率)/売上高人件費比率)を求め、 その結果に「労働力調査」の雇用者数を乗じたものを 900 -30 (万人) 600 -50 300 -70 0 -90 -300 -600 過剰雇用量(産業計) -900 日銀雇用判断D.I. -110 過剰雇用量(製造業) -130 -1200 -150 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1988 1987 1986 断D.I.がゼロに最も近い年を選んだ。 -10 1200 1985 過剰雇用量とした。基準年次は、直近で日銀の雇用判 1500 (年) 出所)日本銀行「短観」、財務省「法人季報」より 第一生命経済研究所作成 ④ 構造的失業の推計 労働経済白書では雇用失業率(V)の説明変数に欠員率(U)のみを用いているが、本稿では構造的失業 の粘着性(景気回復局面で欠員率の増加に対し失業率の低下が遅れる)を考慮し、説明変数に1期の自己ラ グを加えた。また、構造変化の期間を考慮し、係数ダミー1(1980.1Q~1993.1Q)、係数ダミー2(1993.2Q ~1998.4Q)、係数ダミー3(1999.1Q~2007.3Q)、係数ダミー4(2007.4Q~2009.1Q)として表し推計した (資料 14、15)。結果は説明変数を欠員率のみとした場合(労働経済白書の方法)に比べると、全期間を通 じ上昇トレンドとなった。本推計の方が 1987 年から 1997 年にかけて高く、1998 年から 2007 年にかけては 低く、足元では再び高く推計された。 資料 14 構造的失業の推計方法による違い 資料 15 雇用失業率の推定結果 1980-2009 6.0% 5.5% 完全失業率 5.0% 構造的失業(本稿推計) 4.5% 構造的失業(労働経済白書) 定数項 (p値) 自己ラグ(1期ラグ) (p値) 欠員率(係数ダミー1) (p値) 欠員率(係数ダミー2) (p値) 欠員率(係数ダミー3) (p値) 欠員率(係数ダミー4) (p値) 修正R2 4.0% 3.5% 3.0% 2.5% 2.0% 1.5% 1.0% 2009Q1 2007Q4 2006Q3 2005Q2 2004Q1 2002Q4 2001Q3 2000Q2 1999Q1 1997Q4 1996Q3 1995Q2 1994Q1 1992Q4 1991Q3 1990Q2 1989Q1 1987Q4 1986Q3 1985Q2 1984Q1 1982Q4 1981Q3 1980Q2 出所)資料4に同じ -0.765 0.000 0.893 0.000 -0.114 0.000 -0.121 0.000 -0.128 0.000 -0.131 0.000 0.990 出所)資料4に同じ 7 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。