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出稼ぎによ る農家生活の変貌 〈其のーn

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出稼ぎによ る農家生活の変貌 〈其のーn
57
出稼ぎによる農家生活の変貌(其のm)
一農業生産との結節点について一
男
渡
辺
〔1〕問題の概要と分析視点
哲
農経済に関する研究」等の諸説を軸にして)のな
かでとりあげられていた「農家経営における機能
発揮の側面にみられる生産部門と生活部門との関
最近,私が知人を通じて,ミカエル・トレーシ
ー氏(Michael Tracy.現在,OECD.Agricu1−
連性について」の分析手法それ自体から止揚して,
tural policy Division master)の論文「岐路に
同問題に関連して,これに代替可能な論点を構築
立つ日本農業』 (Japanese Agriculture at the
parting of the ways)を読むことが出来た.
するために,あらためて現代日本農業のもとで基
本法農政のシンボル「農業構造』の展開・変貌の
この論文は,同氏が日本学術振興会の招へいに
プロセスに結びつけて,農民出稼ぎの本質を究明
よって京都大学の客員教授として,1971年7月か
ら9月まで,日本農業の現状を見聞されたその結
する論理的な必然性の解明の論理を帰結点に求め
果をまとめて公表されたものといわれている.
現在の日本農業に対する理解の対象は,特に,
このような期待に則応した必要条件を実現可能
農家における兼業化の過程に焦点をあわせて,氏
の言葉をかりれば,所謂「農業自体の副業化路線」
れらの関連性について,トレーシー氏の説明内容
の線上に,農業構造,日本的労働市場,農地保有
ていたのである.
ならしむるような目的性をもちながら,他方,こ
と対応させる意味あいも含めて,さらに,後述の
ような内容構成で「農業生産との結接点」として
に関する農民的志向性,或いは農村工業の導入問
の視点に立脚して,いくつかの例証を試みながら
題等々を関連させながら分析している.
解明しようとするものである.
そのなかで,展開している分析手法をみると,
過疎地域における農民の出稼ぎ問題を解明し,
豊富な関係資料を参照しながら,日本農業の現状
を多面的な視角から検討されている.
さらに,この種の課題に対応する方法論的な展開
にかかわる問題に対して,適切な方向性を導き出
しかも,この分析結果から農業の方向性として
そうと試みるならば,すくなくとも,当該地域を
の再編成のための方法論についても具体的な施策
対象とする一連の開発計面に関する長期の見通し
を提示しているのである.
と,(所謂,マスター・プランニング)〔註〕(2)その
特に,私が最も興味のあるところは,以上の論
実現のための展開手順を適確に把握されているこ
文構成のなかで,「part−timer」の問題〔註〕(11ある
とが前提条件となる.
いは出稼ぎ農民の問題についても氏独自の視点で
そのなかで,とりわけ出稼ぎ問題の基本的な成
日本農業の内実面就中農業構造との関連性と農業
部門の領域外としての日本資本主義経済機構での
立要因として深いかかわりあいをもつものとして,
また,他方において,同様な一連の農民の社会的
労働市場との位置づけとそのかかわりあい等から,
行動に対して絶えず規範的な「かたち」を形成し
同問題の解明のための接近化が試みられている点
であった.
ながら,同問題に関する枠組みを構築する過程に
おいて求心的な方向で強い機能を果している「農
私がこの小論文を作成するに至った契機は,次
業構造」は,一実は,農村における重要な社会
のような事情が条件的に考えているのである.
的体制としての位置づけとその役割をも,もちつ
それは,私が従来から手がけてきた「農家生活か
づけているのである.
従って,「農業構造」に関する分析の意義は,一
らみた農民出稼ぎ問題」をさらに発展させるため
に,かっての「小農経済論」(磯辺秀俊・杉野忠夫
共訳「チヤヤフフ小農経済の原理」・横井時敬「小
般論的な農業関係での社会的現象を検討するに際
しても,ヨリ基本的な分析対象として或いは現代
58
福島大学教育学部論集第24号
的な複雑性を帯びた農業問題にかんする関連性を
解明する場合においても,いづれにもせよ主要な
目的性をもつ「鍵」の役割を包括しているもので
1972−11
るようにすることは,農業及び農業従事者の使命
にこたえるゆえん」(傍点筆者)であると法の使命
と立場を明記している。
ある.
特に,(イ)(農民の主体性)及び(ロ)(目的均衡論)
それ故に,以上のような解明方法にかんする必
にかかわる法内容は,西ドイツの「エルトル・プ
要条件を具備するために,あらためて,「農民出稼
ラン」と異な『),日本的な農業法を意味づけして
ぎ問題」について前段での地域発展計画のなかで
の方向性の展望と同時にこれらの位置づけについ
て適切に客観性を包括したものとなさしむるため
には,次の諸点を配慮する必要性が考えられるの
である.
第一,農家体制の両軸をなしている生産部門と
生活部門とにおける機能的な分括とその関連性,
いる.〔註〕(4)
さらに,基本法は,次の法案・答申その他の規
則の設定等々の基軸となりながら,制定当時の法
内容にその都度,部分的な修正を加筆して現実の
日本農業の方向性を模索する過程にあって重要な
役割と貢献が行政的サイドに立って展開されてき
た.
第二,出稼ぎ行為を基軸とする両部門間のかかわ
りあい.第三,農家経済ないし自立農家経営から
代表的な規案をあげてみよう.
みた両部門相互における関与の形態,〔註〕13〕つまり,
(2)「農業の基本問題と基本対策」(1960年,基本問
以上の三点について,それぞれに確認とその可
題調査会).(3)「日本農業に対する見解」(1960年
(1)「農業基本政策の問題点」(1957年,農林省).
能性の検証を試みる作業体系が要請されることに
4月,経済同友会).(4)「所謂倍増計画」(1960年
なることを意味している.
政府).(5)「中期経済計画」 (1965年,政府).
〔註〕(1) M.Tracy:「Agriculture in wes−
(6)「国際的観点からみた農業問題」(1965年11月)
tem Europe: Cri si s and Adaptation S ince
日本経済調査協議会).(7)「15年後の日本農業」
1880」(1964)
(1966年6月,産業計画会議).(8)「経済社会発展
阿曾村邦昭・瀬崎克己訳「西欧の農業一1880
計画」(1967年,政府).(9)「構造政策の基本方針」
年以降の危機と適応」
(1967年,農林省).(1①「農政推進上留意すべき基
(農林水産業生産性向上会議・昭和41年刊)
本事項について答申」((1969年,農政審議会).
〔註〕(2)渡辺哲男「会津地域における農業開発計
(11)「新全国総合開発計画」(1969年,閣議).(12)「農
画の展開過程一経営目標とその接近化の手法に
業の装置化とシステム化」(1969年,農業問題研究
ついて一」
(全国農業構造改善協会・農地整備計画委員
委員会).(13)「総合農政の推進について」(1970年,
会昭和47年刊)
12月,農林省).(瑚「稲作転換の推進について」
〔註〕(3)渡辺哲男「出稼ぎによる農家生活の変
貌(其の1)」 (福島大学教育学部論集第18号一
1)(昭和41年)
〔II〕農業生痙との結接点を展開するために
一序章一
〔1〕農業基本法で計画されている農家経営のモ
デルとその方向性.
1961年(昭和36年)6月12日,第38国会におい
て農業基本法(法律127号)が制定された.
法の前文において,「農業の自然的・経済的・社
農林省).(14)「農業生産の地域指標試案」(1970年
(1971年2月,農林省).
しかしながら,基本法の制定当時の法の精神と
その基本的命題は,現在まで日本農政のなかに活
かされていることは一般的に確認されている.
それ故に,前述のように,農業基本法の内容を
対象として,農業構造の本質とその展開過程につ
いて「モデル分析)を試みた結果表の内容がもつ
意義は,単なる抽象論ではなく,そのままに現状
分析ないし同種の問題に関する理解に,重要な役
割を果たすものと推論されよう.
『モデル分析』からみた農家経営の方向性
会的制約による不利を補正し,(イ)農業従事者の自
〔別表〕 「農業基本法で計画されている農家経営
由な意志と創意工夫を尊重しつつ,農業の近代化
の方向性」を参照しながら……
第1条の政策目標は,農業部門のサイドから提
出されている「他産業との生産性の格差是正」と,
と合理化を図って,(ロ)農業従事者が他の国民各層
と均衡する健康で文化的な生活を営むことができ
出稼ぎによる農家生活の変貌(其のm)
農家生活ないし農家兼業部門のサイドからの「他
59
・という法の精神を充分に生かした農業政策の目
産業従事者と生活の均衡」を予定する二種の内容
標を樹立する様期待するものである.
構成になっている.
以上の問題点が志向するものそして現実の農業
前者(生産性の拡大志向)は,所謂農業構造の
改善,高度化のための生産力の増強が,前述の「農
関係で主要な結合関係に立つものとしては所謂
業問題研究委員会」の答申「農業の装置化とシス
この「自立経営」の内訳を規定する構造的な体
制づくりが自立農業経営を社会的に要請し,或る
場合には現実の兼業形態・農民出稼ぎ問題をまる
がかえにのみこんだ「自立農家経営」が志向され
テム化」〔註〕〔5)(1969年)の意を体して計画がなさ
れている.
この問題は,単なる生産力の問題にとどまらず
日本農業の基本形態である「家族労作経営』の是
「自立経営の育成」〔註〕⑨がポイントになる.
る余地が残されるのである.
非論にも発展する要因が内包している.また,そ
の限りにおいて,多くの農業経営者に不安と期待
とこうで,この「自主経営」の政策的な支点となっ
とが混在して将来の農業経営の志向内容に一種の
を起点として,「(イ〉他産業との生産性の格差の是正」
枠組みを規制するもので,さらに,日本農業にお
に集約される具体的な展開作業が,次の〔1〕∼〔3〕
ている「基本法」は,そのなかで,第1条の政策目標
ける基本構造それ自体に変革を要求するという点
にかかる課題内容として問題の対象になる.即ち,
において,今後に残された具体的な課題となって
論争が展開される必然性がみられるのである.
〔1〕農業生産の選択的拡大(第9条,第11条
次に,後者の「生活均衡論」〔註)(6)は,比較の
一2).〔2〕農業生産性の向上及び総生産の増大
(第9条,第11条一2).〔3〕農業構造の改善等
対象物件が「健康で文化的な生活」か或いは経済を
主体とする「農業所得」にポイントを求めるか,
に共通するものは,専業農家=自立経営の育成・
拡大に連結される性質を帯びていよう.
この点が前者と同様の性格をもっている.
また, 〔4〕流通の合理化・加工,事業の増進
(第11条一2).〔5〕農産物の価格の安定及び農
勿論,この目標均衡論を問題とする所以は,農
林行政の根幹となるものであって,これを単純化
して要約すれば,農政の目標或いは方向性を示す
「シンボライズされた農業経営→農家経済にかか
わる期待像」とみなされるからである.
しかも,これは,特にミクロ的視点において農
政と農業者相互の間を結合させるかまたは緊張関
係に立たしむるというさらに重要な関係に立つも
のと推論される.また,これらの二者に対応する
政策目標のポイントのおき方によっては,或いは
世界農業との競争関係において,これに加えて前
述のような「家族労作経営」を根底から否定する
変革の役割をもちつつ,企業形態としての農業経
業所得の確保(第11条一1,第12条一2)或いは
〔7〕一(1)近代的な農業経営者の養成と確保.
〔8〕農業従事者の福祉の向上等々はいづれも農
業経営部門と農家生活・兼業部門にまたがる内容
のもので,最近における農業(家)経営者対策の
なかで最も緊急性をもった課題となっている.
更に,「(ロ)他産業従事者と生活の均衡」に関する
項目は,〔7〕ヨ2)農業従事者及びその家族が適
当な職業につくことが出来るようにする……とい
う点に結びついている.
以上の概要から,農業基本法で期待している農林
行政の施策内容は,当然に農業経営部門=農業生
営の育成が強く要請されるものとなろう.〔註〕〔7〕
産性の拡大に集中的なウェイトをかけていること
特に,この問題は,丁度E E C経済共同体にお
が明確になろう.
ける「マンスホルド・プラン」的な影響〔註〕(8)を
関係農業機関と農民大衆に及ぼす可能性が考えら
勿論,今までの論証でなされた両部門独立の志
向に立ってそれぞれについての関連機能を法体系
れるということを指摘しておきたい.
のなかで分割検討することは或いは法それ自体の
現実の日本農業の姿は,トレーシー氏の指摘に
解釈上からみて間違っているかもしれない.
ただ,ここで問題とすべきものは,日本農業に
もある様に,兼業化の方向性が益々深化の一途を
たどるときにおいては,ヨリ多くの混乱を農業経
おける兼業農家の存在とそれとの関連対策がいか
営者に与えることは当然である.
に取り組まれているか.〔註〕(1①一実は,このこと
ここで,あらためて農業基本法の前文のうち「(イ)
が小論文の主要内容になっているので,同課題が
農業従事者の自由な意志と創意工夫を尊重される」
基本法としての全体構造のなかでいかなる位置づ
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福島大学教育学部論集第24号
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出稼ぎによる農家生活の変貌(其のm)
けに約束されているか,これについて事実確認を
61
相俟ってヨリ一層の強力な体制下で展開されるこ
求めてきたのである.
とを特徴としている.
〔別表〕農業基本法で計画されている農家経営
の方向性を検討するに際して,特に,農業経営の
以上,日本的な独自の関連図式にもとづいて現
実的には殆んど前者の経済事情によ1)一方的に農
業者側に要求されることが一般化された形態にな
方向性について具体的に対応しているところは,
「モデル図」のなかで,右端に展開している「自
立経営の育成』 (第15条)と「兼業農家の成立』
(第20条)の構成内容である.
次に,これについて要約してみよう.
(1) 「自立経営の育成』について.
第1の必要条件は,農業経営の細分化の防止(第
16条)に対置される共同化・協業化の生産組織の
改編であり,特に,協業の助長(第17条)によっ
て専業経営としての企業形態を形成するものであ
る.
また,この課題は,農林行政における主産地形
成・地域分担の指標決定に関連性をもたせながら
地域農業の主軸とな1),かつモデル農業地域内で
の農業経営の「期待像』として,とりわけ基本法
農政のシンボル的な施策課題となっている.但し,
自立農業の実現については,依然として「農地の
権利の設定又は移転の円滑化」(第18条)の関係が
ネックになっている事実は,否定できないのである.
これは,農地に対する農業者の志向方向が根強
く「家産的所有の対象物」とみなしているところ
がら起因している.
それ故に,この種の問題の解決には,当然なこ
とではあるが農業者を対象とする「教育事業の充
実」(第19条)が必要となる.
教育のもたらす効果は,長期的にみた場合,農
業経営の将来性を方向づけるために決定的な役割
を果たすのである.それは,農業経営の変革は,
その主体者である農民の意識の対応関係できまる
からである.
(2) 「兼業農家の成立』について.
最近における兼業農家の出現は,著しい進行で
拡大化がなされている.
日本資本主義経済にみられる高度成長は,他の
あらゆる社会・経済的諸体制に対して根底から再
編成を行わしむる機能をもっている.
っている.農業構造改善事業を基軸とするところ
の兼業農家の成立に対応する基本的農政において
は,(ロ)職業訓練及ぴ職業紹介の充実,の農村にお
ける工業等の振興,ω社会保障の拡充等々を軸に
して安定した兼業化の基盤形成を計画している.
ただ,ここで問題となりうるものは,行政施策
で行われる兼業化のための「テコ入れ」は,施策
目標の「何…」と結びつけているかということで
あろう.
一般的には,兼業化の進行は,同時に専業経営
農家の自立化を創設するための規模拡大の物的媒
介体の対象物(余剰農地)一その農地の提供者に
転化させようとしているという限りでの関連性を
想定している.
現実の農業にみられる進行状況は,この種の期
待に充分対応した「かたち」では行われていない
ようである.〔註〕(111
これらについての例証は,別章「経営目標の設
定」の項で検討することにしている.
〔2〕農業経営との関連における農家生活の展開.
方向性に関する模型.
農村地域内からみた農民出稼ぎの排出母体は,
当然なことであるけれども,農家あるいは農業経
営の基幹である農業構造に求められる.
農民出稼ぎの可能性又はその理由について,農
家の経営構造から解明するという前提条件を充足
させるためには,表題の様に,農業経営と農家生
活とにおける構造分析ないし両経営機能に関する
関連性を対象にしてそれぞれにおける性格づけと
メカニズムの分析をしなければならない..そして
これらの条件整備の過程からとりあえず,現象面
での底流として,表面的には一種の村落共同体的
規制とする伝統的な農家成立の関係図式を構成す
る.これと同時に変貌のメカニズムを解析する方
法を可能ならしむるために所謂家父長的強制とか
兼業農家の傾斜化は,当然に経済機構より要請
される諸しの条件に直接的に対応した結果的所産
農家経済の貧困を基因とする経済優先主義の支配
構造を仮説として設定する.比較法の機能を発揮
として進行するものあり,それが故に,日本の場
させるためにさらに第2の仮説として,同構造に
よって,束縛されるF見えざる手」の先取的農民
行動方式によるところの「がんヒからめて」の枠
合は,両者の関係においては,独自の根深い結び
つきをもち,さらに加えて農林行政の介入等々と
62
福島大学教育学部論集第24号
組みに甘んじさせる『あきらめ』の構造等,段階
的な仮説の積み重ねによる「変貌の体型づくり」
を構想している.従って,この構想を有効な分析
1972−11
プロセス「農民の対応」関係を必要条件にとり入
れている.
以上の点から,農家経営と農家生活との関連性
手法とするために,次に,両仮説に関する検証を
を考察するための方法論的展開過程は, 〔A〕伝
含めたこの様な一連の関連図式が存在しているも
統的農家の成立要因から出発して, 〔B〕農家体
のかどうか.この点の検討を試みる必要があろう.
制の変動, 〔C〕農家・農民の対応の経過から出
勿論,この種の問題をすべてにおいて論証する
とすれば余りにも問題が大きすぎるので,以上の
総括的な関連図式に対応しながら同時に旧来の伝
統的農家経営・生産構造を基点として過去の歴史
現するところの, 〔D〕農家生活の変貌とそのシ
的過程から類推されるであろうところの農家の変
貌の流れについて,各地域にみられている事実経
ステム化が形成されることになっている.
そして,最終段階において, 〔A〕の構造図式
と〔D〕の構造図式を素材として両者の関連性を
過の類型から摘出して一つの展開模型図式を作成
したのが次の「農家経営・生活の展開・方向性に
求めるための要約内容,これが〔E〕展開過程に
おける関連式でまとめられる.……という作業手
順が構成されながら同時にこの経過を終了する時
点で同問題点の究明が完了するという次第になっ
関する模型」である.
ているのである.
この模型で求められている関連図式は,あくま
でも農業経営と農家生活の二部門にわたる相互の
以下,一連の流れを順を追って,各段階毎の内
変貌過程〔註〕〔1功(先程の諸課題をうけとめるため
〔A〕, 〔1〕伝統的農家の成立要因について.
に)を通じて,それぞれの展開構造を解明するこ
伝統的農家を形成する基本体形は,(F)農家経済
とに主体的な役割をおいている.
の貧しさにある.これは,一方では(A)家族労作経
以下「農家経営・生活の展開模型図式」につい
て説明をしよう.
容説明をすることにしよう.
営を維持させる必然性とつながりをもち,他方◎
生産第一主義の法則に関しても否応なしの対応関
この展開模型の構成は,農家経営・生活それぞ
れについての変貌の過程を把握するために大別し
て〔1〕伝統的農家の成立要因とこれを基礎的な
係に立つことによって形成される「両軸」が,実
原型としながら,これとの比較を試みるために,
しかもこれに加えて,(D)家族員への生活統制と
歴史的な過程にみられる変貌の結果的関連図を
同時に,(E)家族員への労働統制が,前述の¢)の法
は,同体形それ自体に主体的な役割を保有する関
係に立つのである.
〔II〕農家生活の変貌とそのシステム化の模型」
則と競存の関係がみられるために,経営規模の低
でとらえるという分析手法がもくろまれている.
い農家は,(B.1)=生産部門と(B.II)生活部門の
しかる後に,両者の相違を解明することによって,
有機的な結合関係をヨリ一層強固なものとして対
いわば模型としての「変貌」の実質的姿態を浮彫
社会的な姿勢を確立するのである.
りにしようと試みるのである.
さらに,それらのいくつかの結合関係を有効な
機能発揮の状態に保持させながら,現状維持の形
勿論,ここでの分析手順は,これら二模型が中
となって誘導されて最終的には,両者における
変貌の比較とその関連の動きを「展開過程におけ
る関連式」に置換して解析する方向に作業の進捗
が統一されているのである.
いわば,この「関連式」がすべての要約事項と
態にもせよ農家の将来性を保障させるために,当
然な帰結点ではあるが所謂「家父長制」の支配構
造を基範とする農家の姿があるのである.
これらの結合関係でのメカニズムの上にのって
安定的な農家の生活秩序が存在する.……このよ
なるようにもくろまれているのである.
うな内容を包括したものを「伝統的な農家』と呼
また, 〔1〕 「模型図式」∼〔II〕 「模型図式」
称する.
に移向するプロセスの解析は,次の二つのステッ
プを導入して両者の結びつきを求めることにして
この姿は,農家における生産と生活部門との関
ある.
連性について,それぞれの変貌過程を説明可能と
する「原型」としての役割と位置づけを想定して
第一一のプロセスは,「農家体制の変動」であり,
いるのである.
これに対応して変化の可能性を追求する.第二の
〔B〕, 〔A〕の「原型」は,第1∼第5段階の
63
出稼ぎによる農家生活の変貌(其の皿)
農業経営との関連における農家生活の展開・方向性に関する模型
[1]伝統的農家の成立要因 1罷罐農!
[C]
[A]
生産第一主義の 法 則
家族労作経営
[Bl]
誕働極勾傘
[F]
農 家 ・農家経済の貧しさ
圖 髪癖暗号併
家族員
@ [D] への生
家族員[E] への労
@ 活統制
@ 働統制
←“・
一家 族 構 成 員
農家(農村)体制の変動
1
第1段階・基本型態[G関係]
[F] 十 [B ] 十 [B ]
第2段階
労働力の不足(農家の内・外共)の激化
[A]+[C]
m
第3段階
家族労働力に対する評価の胎頭
[C]+[E]
w
第4段階
農業労賃(日雇・臨時雇)の騰貴
[C]+[A]
V
第5段階
農業所得による家計充足率の相対的低下
[F] 十 [D] 十 [E]
II
二・三男,女子労働力の流出現象(賃労働者化)
福島大学教育学部論集第24号
1972−11
⋮ウ
農家・農民の対応
w
第1姿態
機械化の導入・技術の改善
o生産力の向上
B労働力の省力化
皿
第2姿態
あとつぎの確保,農家の将来の検討
o家族関係の改善
皿
第3姿態
兼業化(特に雇われ)出稼ぎ(世帯主)の定着
o主婦の経営参加
皿
第4姿態
家庭生活における諸機能の分化と再編成
B労働の過重 o健康
X
第5姿態
家長権(家父長制的)の解体と主婦の座の確立
○特に生産・生活関係の改革へ
XI
第6姿態
農家(業)の自立化,農家経済の安定
o農家の方向性
戸⋮ウ
[n]農家生活の変貌とそのシステム化
生活環
ロ] 境の整備
[BI]
[イ] 自
立
生活主体の
讐
独立と目標
実現への位
賊〆
・定着
画
置づけ
国
農 家
イヒ
[昭和47年9月15日作成]
農家経済の確立
[B皿]
リ
[チ]
ヌ
ト
へ
の連帯
生活防衛のため
家父長制体制の
解体
主婦の座確立化
あとつぎ・父子
契約
兼業・出稼ぎによる所
得拡大
離農・経営の転換
リ
65
出稼ぎによる農家生活の変貌(其の皿)
/(轟轟亟)\
〔II〕段 階
〔1〕段 階
1
〔A〕家族労作経営
〔イ〕自立化.〔BI〕家族労作経営
2
〔B1〕生産関係的共同体
〔イ〕自立化.〔二〕経営の安定・拡大.〔リ〕離農・解体
3
〔Bu〕生活関係的共同体
〔ロ〕生活環境の整備・定着.〔ハ〕生活主体の独立.
kリ〕生活防衛
4
〔C〕生産第一主義の法則
〔イ〕自立化.〔へ〕兼業・出稼ぎ導入
5
〔D〕家族員への生活統制
6
〔E〕家族員への労働強制
〔ト〕主婦の座の確立.〔チ〕あとつぎ・父子契約.
kヌ〕家父長制体制の解体.〔ル〕生活防衛
k二〕経営の安定・拡大.〔ホ〕農家経済の確立
〔F〕農家経済の貧しさ
〔ト〕主婦の座の確立.〔チ〕あとつぎ・父子契約.
kリ〕離農・経営転換.〔ル〕生活防衛
kイ〕自立化.〔ロ〕生活環境の整備・定着
kホ〕農家経済の確立.〔へ〕兼業・出稼ぎによる所得拡大
〔G〕家族構成員
〔ロ〕生活環境の整備・定着
kハ〕生活主体の独立と目標実現昏の位置づけ
kヌ〕家父長制体制の解体.〔ト〕主婦の座の確立
kチ〕あとつぎ・父子契約.〔リ〕離農・経営転換
7
8
〔ハ〕生活主体の独立と目標実現への位置づけ.
kリ〕生活防衛
〔註〕農家における方向性確立のための課題
①農家の自立化に関する意志決定,②農家経済の安定化のための対応姿勢
(兼業化・出稼ぎ)
③生活様式の浸透,④農民行動の客観的評価
⑤新しい社会関係(含む家族関係)での連帯,⑥生活防衛体制への努力
の解体と主婦の座の確立」は,これ自体では「家
内容を表現しながら専ら農村(家)労働力につい
て変貌状況に主点をおいて農家体制の変動関係を
族労作経営」 〔註〕(13)の解体作用としての起爆剤に
みつめる.
はなりえないとしても,他の何等かの契機と結合
〔C〕, 〔B〕の農家あるいは農業者に対する影
響は,営農類型,経営規模別,農業所得額,地域
関係が行われた場合,相乗化した力で,農家経営
特性(経済地帯別類型)等々によってそれぞれ異
とを銘記すべきである.
なった内容として受け取めることになろう.
の方向性を変革に導く可能性を強くもっているこ
〔D〕,〔n〕農家生活の変貌とそのシステム化
られるように,内容的には,農家の変革とも称せ
の模型.
これは, 〔A〕を原型とする「伝統的農家」が,
られるような動きがいくつかある.
就中,第5姿態である「家長権(家父長制的)
産を模型的に図式化したものである.
農家そして農業者は,第1∼第6の諸姿態にみ
〔B〕∼〔C〕の経過によって変貌した結果的所
66
福島大学教育学部論集第24号
1972−11
〔E〕展開過程における関連式.
内部の独自性を対象の素材として兼業問題を検討
前述の〔1〕の構成図と〔n〕の構成図とを比
することにする.
較させながら, 〔1〕∼〔II〕の過程において確
認された変貌のプロセスを八項目に分割して,そ
れぞれにおいてその動きを要約したものである.
:第4表:兼業形態内部の独自性:参照
まず,兼業の種類は,諸般の農林統計に利用さ
れている.(イ)恒常的勤務者,(切出稼ぎ者,の日雇・
〔D〕における〔n〕の構想図,或いは〔E〕の
人夫等々就労形態で三つに区分して,次に,それ
関連式のなかで特に指摘すべき点は,〔1〕の「農
家経済の貧しさ」に対応する〔n〕段階における
らの性格づけとその独自性を解明する目的にそっ
て,指標分析の方法を行うために次の6種類の指
〔F〕の変貌内容である.
即ち,(ヌ)の家父長制の解体は,新しく(劣あとつ
標を設定した.
(A)農業経営に関する志向性.(B)形式的な農民移
ぎ・父子契約.(ト)主婦の座の確立化によって農家
動(職業・人口移動).¢)生活構造(機能の分化).
の人間関係は大きく再編成されることを意味して
(D)農民主体一(イ)男性を対象とする順位,(ロ)世帯主
いる.
他方,経済競争関係の激化は,農業者同志の対
を対象とする順位,(E)経済性,(F)対応の姿勢.
以下,各分析指標にもとづいて類型別の兼業形
立関係まで波及して,(リ)離農・経営転換を余儀
態の相違点をみることにする.
なくさせるものと,(イ)自立化を志向するものとに
(A) 「農業経営に関する志向性」の指標分析.
階層分化が進行するであろう.((“兼業・出稼ぎに
兼業従事者が農業経営に対する志向的な姿勢を
よる所得拡大は,同時に(紛生活防衛と相俟って(ボ
みると,「恒常型」は,否定的であり,「日雇・人夫
農家経済の確立に主要な地位を示すようになるの
型」は,あきらめの性格が強い.「農民出稼ぎ型」
である.
においては,就労形態それ自体は農業経営に対し
て「マイナス」の関係に立っているが関係農民の
これらは,いづれも現段階において日本農業の
姿をそのままに表現した課題点であるのである.
〔3〕兼業形態のなかで占める農民出稼ぎの位置
志向性からすれば,ヨリ主体的な姿勢で対応する
傾向がみられる.この事実を単的に表現するもの
づけ.
は,「出稼ぎ収入金の使途」ないし「出稼ぎ理由」
ヨーロッパ諸地域あるいは北アメリカの各州に
またがる兼業農家は,今後,益々その数が増大し
のなかで明確に証明されている.
てゆく傾向を示している.
(B) 「形式的な農民移動(職業・人口移動)」の指
標分析.
世界農業のなかにおいても最も激化された兼業
農家の出現をみせている日本農業は,その体質か
「農民出稼ぎ型」は,他の類型と比較して形式
的な移動は不明確の「かたち」をとっているとこ
らみて独自の性格を帯びながら或る場合には農業
構造の改善を旗印にした農林行政に対して種々な
◎ 「生活構造(機能の分化)」の指標分析.
る側面で阻害の関係〔註〕OOを露呈しがちになって
「恒常型」は,その就労状況からみて,「機能分
いる.
ろに独自的な性格がみられている.
化が都市化しており,その存在形態は,全く,定
それ故に,兼業対策は,日本農業の将来の展望
にあたって好むと好まざるとを問わず課題解決に
着した状態にある.」「農民出稼ぎ型」の場合は,
せまられている.
しかし,多くの農業関係の統計資料を検討すれ
性にはなりえない状態にある.
「日雇・人夫型」は,一般的に経済性が劣悪の
ばする程,あらゆる面において兼業問題の複雑さ
と多様な関連性につき当たる現状になっている.
性は,勿論,経済力の問題だけではなく,農家・
次に,兼業問題を整理,要約して本論の趣旨に
接近させるため,昭和45年,東北農業経済学会で
発表した報告書〔渡辺哲男:「東北における兼業
問題一出稼ぎ問題を中心に一:」福島大学教育学
部社会科学第22号の1(1970年11月所収)〕のう
ち, 〔m〕問題の提起の項で,第4表 兼業形態
臨時的な都市化の様相で,「恒常型」のような定着
ため,生活機能が未分化の状態が多い.この傾向
農民の社会的行動圏に関する「モビリティ・エリ
ア」が他の二類型に比較して狭少である.
従って,社会関係での人間関係が少ないという
傾向がそれに追加されて前述の様な生活機能が分
化しえない状態に立たされていると判断されるの
である.
出稼ぎによる農家生活の変貌(其の皿)
67
(D) 「農民主体一1イ)男性を対象とする順位.(ロ)世
〔註〕(6) 「生活均衡論」について,
帯主を対象とする順位」の指標分析.
この論点の「ねらえ」は,農業生産,所得な
兼業形態に就労する主体性の問題である.この
らびに生活の低劣さを指摘するにとどまらず,
点,「農民出稼ぎ型」は,他の類型に比較して,(イ)
農業と他産業とを比較可能な状態にまで,実は
及び(ロ)共々に男性中心(第1位)であり,かつ,
農業部門の発展を期待しているところがある.
家族構成上からみると「世帯主が最も強い主力」
「均衡論」が具体的に政策上で問題となった
(第1位)になって兼業に従事していることを意
のは,米価算定の基準計算として「パリティ計
味しているのである.
算方式」を採用した(昭和35年,「生産費および
(E) 「経済性」の指標分析.
農家所得を総括して各類型での経済性の所属傾
所得補償方式)ことがそもそもの出発点に立つ
ものである.その後,この趣旨は,「農業白書」
向をみると,「恒常型」は,最も安定的な状態にあ
(農業基本法第6条による「農業の動向に関す
る.収入の継続性という点からみると,「農民出稼
る年次報告」の政府に対する義務づけ)の報告
ぎ型」,「日雇・人夫型」ともに安定しているとは
書のなかに生かされてきている.
いい難たいが,そのなかでも,「農民出稼ぎ型」は
次に,「同白書」で取りあげられた「均衡論」
ヨリ高い収入をうる可能性が強いところに両者の
に関する具体的指標を紹介する.
相違点がみられるのである.
「昭和36年度「年次報告」では,農家と非農
(F) 「対応の姿勢」の指標分析.
家の世帯員一人当り家計費で計算している.そ
ここでの問題は,端的な表現をかりれば,兼業
に就労する理由を生活経済と結びつけて検討して
の際に,耕地規模別にみた農家と非農家との比
みた場合をさすのである.
度になると,可処分所得を基準として,農家と
一般的にみて,「恒常型」は,生活のなかに基本
勤労者との比較が行われている.さらに,昭和
的な立場で「ベース化」が浸透している.「農民
41年度以降の「年次報告」においては,製造業
出稼ぎ型」は,殆んど生活費の補充ということが
共通した意志決定にかんする理念ともなっている.
労働者1日当りの賃金と農業従事者の1日当り
その点,「日雇・人夫型」は,窮迫経済に対応する
この様に,均衡論における比較の基準に修正
姿勢から関与している場合が多いのである.
が加えられてきた.けれども,昭和41年度実施
以上,(A)∼(F)にわたる分析結果から,兼業形態
の「方法論」は,やがて農業基本法の「核」と
のなかで占める農民出稼ぎの位置づけがそれなり
なっている「自立農業経営」での経営目標にと
に把握しえたと推論される.
り入れられてくるのである.」,参考資料,(1)「農
〔註〕(4) 「農業基本法のねらえ」は, 「発展する
業白書」 (昭和36年度以降46年度).(2)正木正
工業に対して, 「農工間の所得格差をなくすこ
吉「兼業問題の新局面」農業総合研究第25巻2
と」であり,具体的には適地適作,選択的拡大
号58∼60Pなお,ソ連では, 「コルホーズ農民
を推進し, 「自立農家」を育成することであっ
1人当り平均所得と工業労働者1人当り平均所
た.つまり,工業生産の発展による第二,三次
産業の就業機会の増大で,農業労働力が流出し,
得とを比較し両者の均衡状態について検討して
いる.(r.CapKHcHH, 「C6JIH撒eH∬eypoBHeH
農家戸数が減少する.このため,残った農家の
籔くH3HH Pa60qHx H KoJlxo3HHKoB」(「Bonpoc日
経営規模が拡大され,自立経営農家が農業の主
詠OHOMHKH,」1鰯rN・.6)
役になる.これを誘導するのが農業基本法の役
特に,興味のある「均衡論」は,西ドイツの
割である.」(西川大二郎「日本列島農山漁村そ
農業法(1955年)のモデルといわれるスウェー
の現実」 470P)関係資料・宇佐美繁「書評梶
デン国で実施されている比較基準を限定してい
井功「基本法農政下の農業問題」 (農業総合研
る方法である.具体的にその内容を紹介すると,
究第25巻1号P236)
「1947年の国会決議=の場合,「基本農場」(家
〔註〕(5)経済審議会・農業問題研究委員会「農業
族単位で経営効率の高い階層に属するものであ
問題研究委員報告書」 (日本農業進歩への途一
る.その経営規模は,農業平野地帯で耕地面積
農業の装置化とシステム化)(昭和44年12月)
10∼20ha)がその所得均衡の主体となっている.
較も同時に実施されている.次いで,昭和39年
農業所得とを比較の対象になった.」
68
福島大学教育学部論集第24号
1972−11
この規準内容が,1965年,国会決議では「規準
農政の帰趨」 (農基法十年,日本農業年報××
農場」 (農業平野地帯で経営耕地面積が20∼30
昭和46年)
haとなり,前基準面積より10ha程度上まわる内
〔註〕(9)農林省編「自立経営の標準的指標」 (昭
容に修正が加えられている.」
和46年) (農林統計協会刊)及び昭和44年,45
参考資料(Hans Linden and Erik Swedberg,
年,46年度「農業白書」自立経営の項参照
Policy for Swedish Agriculture in the
〔註〕(1① 農業基本法は, 「兼業農家」にいかなる
1970’s−Sumwary of the1967Agricultural
対応関係を示しているか.
Programme,1969)
「農業基本法の全条文のなかには,兼業農家
〔註〕(7)各国における家族農業経営に対する対応
の名称はない.従って,どんな考え方でいたか
状況.
必ずしも明らかでないが,第20条の趣旨から推
特に,我が国の農政に大きな影響力を与えて
論ずると, 「兼業農家」を主として構造政策の
いる次の三ヵ国を対象にして紹介する.
対象として扱っていたと思われる」(並木正吉)
(1)フランス農政の方向「農業の方向づけに関
第2条及ぴ第20条とを関連づけて考えてみる
する法律」(農業基本法・1960年)…第2条「生
と,一般論からみれば兼業農家と思われる農家
産の近代的な技術的な諸方法を最もよく利用で
の「かたち」が描かれている.しかし, 「基本
き,かつ労働と経営資本の完全な使用を可能と
法」における一連の文脈からみるならば, 「兼
する家族タイプの経営構造を助長し,優遇する
業農家は,離農への経過点である」と解釈する
こと」と規定している.
のがヨリ適切であろう.しかし,法の「立てま
この規定を評価して「各国基準法に共通する
かえ」からみても「兼業農家を「望ましくない
家族経営による自立経営の育成・擁護の考え方
もの」(同論文の別のところでは「歓迎されざる
は,フランス基本法が最も明確であり,原型的
客」であった.P53),自立経営の育成(第15
である」 (玉井虎雄「農基法十年」日本農業年
条)にとって「目のうえのタンコブ」的存在と
報××昭和46年)
みなしていた心証もまた残るのである.」(並木
(2)スウェーデンの農業政策は,1967年の国会
正吉「兼業問題の新局面」農業総合研究第25巻
議決により,従来における農業擁護のための援
2号55∼58P)農業基本法の実際的な起案者で
助制約(1∼2人程度で「規模農場」 (20∼30
もあった,小倉氏の場合も「基本法農政は,ど
ha)の枠をはずして大規模な農場(企業的経営)
ちらかといえば,兼業の進行は好ましくないと
の場合にも,その対象とするようになった.(参
いう立場だといえよう」…と前者並木氏と同じ
考資料:別掲(註) 「生活均衡論」の場合のス
考え方に立っている.(小倉武一「新しい農業
ウェーデン関係資料参照)
の理念」74P)
(3)西ドイツにおける「農業計画」 (1968年)
〔註〕(11)並木正吉「兼業農家問題の新局面」 (農
は,協業の開発における可能性を検討している.
業総合研究第25巻第2号昭和46年)
が,その代表的な構想一E.A.フリードリッヒ
〔註〕(12)福武直「日本農林の社会問題」 (昭和44
の:「コルリンデン村」のモデル構想一は,未
年東大出版会)
だ充分に定着しているとはいえない.この国で
〔註〕(1鋤 「家は,生活共同体であると同時に生産
の農業政策の基本は, 「家族経営の存続が中心
共同体であった.そのばあい,家が生活保障の
となっており,かかる条件が認められる(或い
機能をよく果しうるのは,家が農業生産を維
は補足する役割のもとで)限りでの協業化等の
持しつづけているからであった.
諸形態が存続可能とされている.尚, 「エルト
だから伝統的な家制度のもとでは,家は生産
ル・プラン」等諸計画については,別掲(註)
共同体としての側面により強く規制され,家族
参照(松浦利明訳「新しい農業のモデルー西ド
員の生活は,生産を第一一義的に考える方向で統
イッの農業チェーン」 (農政調査委員会刊)
率されていた.…そのような生産は「家族労作
〔註〕(8)後藤康夫「マンスホルト・プラン」 (の
経営」といわれるものであった.(高橋明善「農
ぴゆく農業303∼304)(昭和44年)
村婦人,皿,生活構造の変化と農村婦人116P」)
玉井虎雄「西ヨーロッパにおける基本法
〔註〕(14)兼業形態が離農化しえない理由について
出稼ぎによる農家生活の変貌(其のm)
69
は,次の様な見解がある.
利な経営組織を体系づけることになろう.〔註〕〔1励
〔その1〕ニ(須永氏)=「農業と地域産業
が,このように低賃金の兼業労働力を媒介とし
勿論,このような経営計画の決定要因とそれにも
とづく経営類型の試算の作業は,関係農家におい
て,相互に存続を前提し,保証しあっている限
て,長期間にわたる「慣習」によるものか,絶え
り,かかる兼業労働力の完全なる賃労働者化=
まない経営努力の集積による等独自の「とりくみ」
「脱農」は抑止されざるをえないであろう.」…
が行なわれているわけである.
また, 「自立経営」をめざしながら収益性の高
(低賃金構造での相互依存の関係).
富山=砺波における兼業化の進展と農家構成の
い作目転換をもくろむ農家.兼業化の志向で経営
組織の修正・転換をはかろうとする農家,或いは
特質」 (農業総合研究第22巻第4号43P)〕
農業経営に対しては従来通りの経営計画を基本と
〔その2〕=(林氏)=「もともと,出かせ
しながらも,ヨリ現金収入の拡大を実現させるた
めの「出稼ぎ」計画の導入を試みる農家等ζによ
〔須永芳顕「戦後における農民層の動向←う一
ぎは,現在の営農の補完的な役割においてなり
たつのであり,零細農家にとって一一種の規模拡
ってそれぞれに多様化された農家経営の設計が実
大の道であって,その基盤をなくしてしまうこ
施されている.
この様に, 「経営類型別の経営試算」〔註〕⑯を
とは,最初からできない相談なのである.」…
(農家経営における補完的役割論).
〔林礼二「日本列島,農山漁村その現実一流
動化のなかの北上山地」 (昭和46年)勁草書房
(252P)〕
実施する場合,その志向する経営内容の相違性に
かかわらずいかなる条件下においても,次の諸点
が共通的にとりくまなければならない必要条件が
あるのである.
〔その3〕;(西川氏)ニ「たとい,零細な
その第一の要因は,経営試算表作成のための仮
農地でも,それは,最低の生活を守るよりどこ
説と前提条件.〔註〕Oわ第二の要因は,経営試算表
ろであり,社会保障の不十分さによる不安定か
を作成する上での構成条件の整備等をあげること
らの賃労働力化であれば,ますます,土地は,
が出来る.
最後の生活を保障してくれるものとし手ばなす
特に,第二の要因は,さらに(A)各作目毎の技術
ことはできまい.」…生活保証論)
体系(栽培・飼養にみられる作業手順とその内容
〔西川大二郎「日本列島農山漁村その現実一
(作業名).これに対応する栽培様式・飼養様式・
地域的再編成の中での農業と農民」 (昭和46年)
作業技術.(10アール当り使用資材の検討書).
勁草書房(469P)〕
(BXA)を基礎的条件として,各作業手順に対応する
〔参考資料〕=小倉武一一「日本の農政」 (昭
旬別労働力の配分表の作製.に)作目哉培方式別の
和46年) 「挙家離農による農用地の流動化など
収益表(収益と費用の比較による「比例収益」の
が必要であるが,北海道を除くと少なくとも,
計算書).(D)農業生産類型の策定.及び(E)農業用
現状では,そのような可能性のあるところは,
機械の装備状況とその利用計画表の作成等ζの各
はなはだかぎられている」(137P).
般にわたる経営事情の検討と編成方針による各作
目・作業体系相互の結合関係を最終的に判断する
〔m〕農民出稼ぎ(兼業形態)と農業生痙との結
接点について.
ための必要な関連作業体系のシステム化が要請さ
れるのである.
以上の様な諸条件の整備を経過して,次に「経
第一の事例.「農家経営における収入獲得の過
営試算総括表」 〔註〕O⑳(対象地域・福島県会津全
程において.」
地域・関係市町村28機関,関係資料として,渡辺
最近における食糧需給の変化に対応して,農業
生産のサイドにおいては,経営作目の再編成とと
もに高度な生産性をめざして,それぞれの経営組
織をもつ農家群は,自分のもつ労働条件,技術体
系これと予想作目に関する労働の配分或いは予想
収益高等ζを総括的に試算してそのなかで最も有
哲男「会津地域における農業開発計画の展開過程
一経営目標とその接近化の手法について一」全国
農業構造改善協会・農地整備計画委員会・昭和47
年3月刊)を「モデル」内容として提示すること
にする.
そして,この農家経営試算総括表の説明を通じ
70
福島大学教育学部論集第24号
1972−11
〔別表〕農家経営試算総括表(目標粗収益額200万円)
第1類型
〔A〕
農業従事者数
齦頬型〔葎艦羅〕
種別〔その1〕
種別〔その2〕
第n類型
3 人
第皿類型
3 人
245(a)
270(a)
〔本稿)・230 a
(水稲)・270 a
第N類型
3 人
3 人
230(a)
〔水稲)・230 a
第V類型
3 人
〔参考資料〕
〔1〕福島県農業試験
200(a)
150(a)
(水稲}・150 a
(水稲)・150 a
(ホ・ノプ)
咄かせぎ11 人
ノ関する調査研究」昭
レ出かせぎ期間
@5ヵ月〔1ヵ月
a45年
〔きゅう嚇
〔豚)〔巳)
@ 15
@ 40 頭 @ 50
黶F
鋳n域別農業生産類型
@ 25日嫁くつ
kB〕
kC〕
(h)
(h)
(h)
(h)
(h)
S,385
S,385
R,720
R,815
R,275
自 家 労 働
4,170
3,615
3,545
3,265
雇 用 労 働
215
180
175
550
労 働 時 間
種別〔その2〕
kD〕
粗 収 益
(わ)
種別〔その2〕
kE〕
流 動 費 用
(句)
(句)
1水稲}
(句)
(水稲)
@ 13,800
@ 16,200
@ 13,800
@ 9,000 @ 9,000
〔豚)
(ホノプ)
(きゅう嚇
@ 3,090
(円)
Q,036,923
@ 3,680
(円)
(円)
Q,173,527
(水帽)
P,956,239
(水稲〕
〔水稲)
@ 950
(円)
Q,055,240
(水稲)
@1,851,523 @2,173,527
@1,851,523 @1,207,515
〔豚)
@ 185,400
(1,057,477)円
(円)
P,872,515
〔水稲)
(さゆうり)
@1,207,515
(出かせぎ・含む失保)
(ホγプ)
(959,804)円 (549,870)円
(イ)種 苗 費
19,706
16,956
14,444
9,420
9,420
193,237
156,384
133,216
173,856
86,880
内 農 薬 費
(⇒ 光熱・動力費
50,427
34,884
29,716
71,484
19,380
18,771
19,980
17,020
11,100
11,310
(因 諸 材 料 費
27,014
21,276
18,124
43,086
11,820
{ト)労 働 費
34,884
29,716
40,386
19,380
メぎ過程調査」福島県
ヨ係一昭和47年
k6〕渡辺哲男
u会津地域における農業
J発計画の展開過程」.
(505,826)
(308,100)
S国農業構造改善協会
_地整備計画委員会,
@ 40,500
@ 51,520
@ 91,560
@ 45,000
48,168
41,032
38,826
26,760
(リ)そ の 他
125,621
8,996
460,809
23,940
11,820
固 定 費 用
償 却 費
そ の 他
252,372
298,728
351,093
389,868
207,901
203,412
238,788
311,472
309,918
179,206
農 業 所 得
k5〕渡辺哲男:
u農家生活における出
(472,420)
46,313
kH〕
ッる農村開発の展開構
「」.全国農業構造改
P協会・農地整備計画
マ員会,昭和46年
(554,580)
@ 71,639
費 用 合 計
k4〕渡辺哲男:
瀦沒㈹ァ会津地域にお
(472,420)
㈱ 賃借料・料金
kG〕
コ和46年
@ 104,716 @ 847,725 @ 665,000
(936,608)円 (1,268,017)円
@ 585,057 @ 382,028 @ 7%,597 @ 503,658 @ 241,770
32,329
k3〕福島県:
茶zップ振興指導指針」
〔水稲)
(ロ)肥 料 費
((9土地改良・水利費
kF〕
(句)
(水稲}
〔水稲)
種別〔その1〕
」 (昭和45∼46年)
コ和46年
@ 1,250
生 産 量
種別〔その1〕
2,025
(出かせざ篠働時間)
k2〕東北農政局:
瀦沒∑_林水産統計年
48,960
59,940
39,621
79,950
コ和47年
w附属資料椙147∼
P78P
28,695
(1,309,849)
(1,235,336)
(1,619,110)
(1,349,672)
@ 837,429
@ 680,756
@1,146,690
@ 893,526
(727,074)
(938,1911
(337,129)
(705,568〉
(449,744)
@1,199,494
@1,492,771
@ 809,561
@1,161,714
@ 757844 ,
{(757,771) 449,671〔出かせぎ 201,102)
(913,642)
〔農家所得=農業所得
@1,221,742
{出稼ぎ〕
i出かせざ・4田,8田)
10a当り 所 得
10a当り 費用計
農業従事者1人当り所得
所 得 率
(29,676)
(34,747)
(14,657)
(35,278)
(29,982)
@ 48,958
@ 55,287
@ 35,198
@ 58,085
@ 50,522
(53,463)
(45,753〉
(70,396)
(67,483)
(50,518)
@ 34,180
@ 25,213
@ 49,856
@ 44,676
@ 29,978
(242,358)
(312,730)
(112,376)
(235,189)
(149,914)
@ 399,831
@ 497,590
@ 269,853
@ 387,238
@ 252,614
(35.6%〉
(43.1%)
(16.4%)
(34,3%)
(37.2%)
@ 58.8%
@ 68.6%
@ 39.3%
@56.5%
@ 67.2%
〔註〕1・渡辺哲男「会津地域における農業開発計画の展開過程一経営目標とその接近化の手法について」
会・農地整備計画委員会・昭和47年刊
2.( )内数字は,自家労働力を評価計算したものである.
全国農業構造改善協
出稼ぎによる農家生活の変貌(其の皿)
71
て本題である収益計画の実現過程上における「農
仮定とした営農類型のなかで, 「ホップ作」50ア
農出稼ぎ形態」の位置づけとそれがもたらすとこ
ール栽培で自家労働,3,265時間の場合と,仮りに
ろの経済性の評価を追究することによって,あら
ためて「農家経済からみた農業生産と出稼ぎ就労
「収益高及び労働時間当りの収益率」等を基準と
して比較・検討を加えてみると,当然ながらホッ
との関連性を解明することにしたいと思っている.
プ栽培の方が若干優位性を示している.
〔別表〕:農家経営試算表:参照
関連する一連の条件の整備内容とその手順等につ
しかし,ホップ栽培の場合は,50アールの農地
とその栽培に要する設備投資・或いは,栽培・技
術条件(自然的条件(地勢・気象関係)と土壌条
件)及び経営費用等々からみると,必要環境条件
の整備基準は,かならずしも,あらゆる農家に作
目導入の可能性は存在せず,結果的には,限定さ
いては, 〔別表〕に示されている〔参考資料〕を
れた範囲にとどまらざるをえないのである.
参照して頂きたい.
その点, 「出稼ぎ」の場合は,経営条件等,ホ
総括表を作製する基準目標は,各営農類型別に
粗収益200万円を獲得するための試算表である.
この表を作製する方法は,所謂「バヂッテイン
グ法」〔註〕働を採用して計算したもので,これに
なお,表中での〔A〕欄の内容は,農業従事者
数・営農類型ともに,当該地域内において農家経
営の類型としてかなりの農家に直接的に該当する
条件を設定している.したがって, 〔B〕労働時
間の配分関係も,またこれと関連する技術体系の
場合においても前者同様,決して高度な水準を要
ップ作の場合での必要条件は,殆んど配慮せずに,
容易にしかもあらゆる農業者に実施可能という性
格が特徴点となっている.
また,両者の経営試算表上での比較を, 〔H〕
欄における農業所得(N類型の場合)とV類型の
農家所得(水稲+出稼ぎ)を対象としてみると,
求している数量ではないのである.
却って, 「出稼ぎを含む」V類型の方が獲得金額
粗収益200万円を獲得可能とする営農類型につ
いて,第1∼第V類型に至る各種の経営組織毎に,
目標実現への接近の過程を検討した結果について
要約してみると,おおよそ,次のとおりである.
〔第1点〕.水稲作目に結合する作付種類をみる
からみて若干上まわった金額になっている.
と,必要面積及ぴ投下配分労働日数からみて,(過
〔第3点〕,第2点で考察された「出稼ぎの有利
性」は,就中,過疎地域でしかも農業収益が相対
的に低い場合には,この傾向は,さらに明確な「か
たち」で一般農業経営者に受け入れられるものと
なる.
疎地域としての性格を保有している)当該地域の
場合, 「ホップ」栽培が,かなりの収益をあげて
この様に,農業経営者のなかに,根強く浸透が
なされている「農民出稼ぎとの結びつき」という
いることが明瞭である、
ものは,農業労働力の配分関係,経営規模の狭少
というハンディをもつ場合であっても,さらに,
この経営組織を採用する農家は,主として水稲
栽培面積が平均値か或いはそれより若干下まわっ
ている経営規模の場合に,ヨリ多く該当されてい
る.
但し, 「きゅうり」及び「ホップ」栽培共に冬
期間の出稼ぎには支障のない労働力の配分関係に
立っている.
〔第2点〕.第V類型は,他の類型に比較して最
も少ない農業経営の規模になっている.しかし,
冬期間の出稼ぎによる年間収益実現への貢献度な
いし寄与率をみると,基幹作目, 「水稲」の場合
を除外した場合,他のあらゆる作目に比較して,
かなり有利なものとなっている事実関係がこの表
設備投資の因難性・経営計算上の不安感があって
も,これを超越しながら,或るいは「10アール当
り所得」とか「10アール当り費用計」等において
も,他の類型に比較してみて,結果論の立場で判
断することになるわけであるが,かなり安定した
内容を確保することが出来るという「推論」が導
き出されるのである.(第V類型・参照)
以上の諸点にわたる分析及びその検討の総括か
ら,出稼ぎ行為が農家経済のなかで重要な役割と
位置づけをもっことが具体的に解明された.
この様な事実関係は,農業経営の計画作成の段
中から理解されるのである.
階で,労働力の配分関係においても多少の無理を
承知の上で,年間計画のな蒼に導入されてゆくと
出稼ぎ者,一人による収益関係は,第IV類型に
おける〔基幹作目(水稲)+ホップ〕の組合せを
に「共感」を與えている.
いう経済上における優位性が,多くの農業者の間
72
1972−11
福島大学教育学部論集第24号
農民出稼ぎに関する意思決定の段階において,
最も有力な行動様式と相互関連性をもつものに,
「経験的な可能性のある期待感」がある.
しかし,かような不安と危倶の傾向性を内包し
ながらも,なお,次の様な「かたち」での接触関
係(農業生産面での)が存在していることを説明
これが,先程の「経済上の優位性にまつわる共
しうる二,三の事実がある.
感」とが結合されることによって益々多くの農業
者をして「出稼ぎ行為の排出」にかりたてるとい
総括表:「出稼ぎ収入金の使途内訳」 :参照
う現象が出現するのである.
わたる),「農家生活における出稼ぎ過程」調査を,
つまり,「経験」(慣習と馴れ)+「気軽さ」(個
全国,28道府県を対象にして約1万戸の出稼ぎ農
家を調査した.現在(昭和47年1月)時点での回
収分.3,654戸の中間集計をしたその結果にもと
人的行動)+「容易さ」(経営試算表作成上)+「金
もうけ(経済上の優位性)」=「農家経済の安定」
・という一連の方程式と前述の意志決定時におけ
この表と資料の作製は,先般(昭和45∼46年に
づくものである.〔註〕⑳
る可能性があると判断されれば,農業者のみなら
次に,集約表を対象にして,農家経営のなかで,
ず,他の階層の市民大衆の間であっても同様な行
展開されている農業生産過程と農民出稼ぎとの結
動の展開に「ひろが『)」をもっことになるだろう.
合関係及びその接点等について解明してみよう.
第二の事例.「出稼ぎ収入金の使途をめぐって.」
あらかじめ,出稼ぎ収入金の使途内訳は,表中
前項で,農民出稼ぎは,農家経営における自立
化の実現の過程で阻害的条件となりうる可能性と,
に示されているように,(イ)借金を返済する.以下,
(ヨ)その他の項目を含めて15項目を設定した.この
その契機を絶えず内包している.…この様な,一
使途内訳の設定については,昭和41年以降,全国
般的に考えられる事実関係になっていることを指
各地域で実施された「出稼ぎ調書」資料(渡辺(哲)
摘した.
「出稼ぎによる農家生活の変貌」(そのII)福島大
特に,最近における出稼ぎ期間が長期化の様相
(6ヵ月以上)を呈するようになると,必然的な
学教育学部社会科学,第21号の1,所収の資料名
ものとして,例えば,農業経営ないしその技術体
系によって「枠組み」される労働力の配分関係に
対応しうるものとして送定した経緯をもっている.
全国的傾向値は,8「生活費の補助」関係が,
おいて,世帯主,或いは経営責任者としてのみな
24.83%であって,15項目中,最高のウェイトが
参照) 112編を検討して,全国関係農家に充分に,
らず熟練された農業労働力の欠落がみられるよう
かかっている.
になるのである.
つまり,この事実から,社会的通念となってい
この農業労働力に関する「欠落現象」〔註〕⑳は,
る農民出稼ぎ者は,生活費の補填のために出稼ぎ
に参加しているといわれる所以があるのである.
短期的には,表面的な農業生産性の点では,さ程
の影響がないとしても,専門的な知識と技能を要
求される経営計画のプログラムを試算する場合に
おいて,或いは作業体系の総括面を検討する時点
にあたって,仮りに主婦の手による経営技術の実
施の段階で不安定な要因が加わる可能性があると
推論されよう.
もし,そのような推論される状況での集積が或
る一定時点での事実経過をへた後の結果的所産と
して,往々にして所属する農家経営に関する全体
第2位を占めている←→「とりあえず貯金」(11.96
%)の実態は,全く現代的な傾向性を物語るもの
であって,ここには,過去にみられた,「生と死
の谷間に立って,身動き出来ない暗いムードの農
民像」は,殆んどその影をひそめてしまっている.
それでも(イ)「借金を返済する」(第3位・11.30
%)タイプは,日本における農民出稼ぎの歴史の
なかで貫徹されている農民支配の行動原理として,
現時点においても農家生活に生きつづけている事
多く見受けられるのである.
実の裏づけをしていることを意味している.換言
すれば,この歴史的な出稼ぎ農民の行動様式は,
それに加えて,経営責任者としての農民出稼ぎ
者の意識の変化(出稼ぎ行為を通じて)就中,農
日本資本主義経済の発展機構から阻害された農業
部門.なかでもと『)わけ,経営規模の狭少な「家
業の将来性に対する展望に大きな軌道修正がなさ
族労作経営」にみられる農家(村)の姿を表徴する
構造に,一種の変革的現象があらわれる可能性が
れるとすれば,問題は,あま})にも重大な意義を
ものと規定づけすれば,ヨリ適切な解析となろう.
もつ方向に展開されることになろう.
次に,農業生産に関係すると思考される該当項
73
出稼ぎによる農家生活の変貌(其のm
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§
74
福島大学教育学部論集第24号
目,〔その1〕「(ト)農機具を購入」の場合は,4.93
%になっている.この全国的傾向に対しで,地区
1972−11
出稼ぎ行為にもとづいて更に自立的な農業経営を
志向しようと,精一杯の努力をしている彼等一『2
別の動向として把握すると,「北陸地区」(5.91%)
ろまみれの農業者」の存在を否定してはならない
及び「北海道・東北地区」 (5.69%)が最も比率
のである.
の多いグループに所属している.
つまり,この両地区は,どちらかといえば農業
専業地帯であり,また,水稲作中心の経営農家が
多く存在している地帯でもあるのである.
また,該当項目,〔その2〕「㈱土地購入等農業
経営費」の例をみると,全国平均,4.44%で,前
述の(ト)の場合よりも比率が若干下まわっている.
しかしながら,これを前者同様に,地区別の「バ
ラツキ」状況についてみると,(ト)の場合とは,か
なり相違した結果を提示している.
即ち, 「東海地区」が6.38%で最高の地位を占
めている.また,(ト)の際に優位であった「北海道
第三の事例.「兼業化の進行(農村工業への導
入問題)と関連して.
農村地域工業導入促進法は,昭和46年6月21日,
法律第112号として公布施行された.
この法律が成立に至るまでの経過は,ここでは
省略するが,問題点をこの法律の目的と前段にお
ける農業基本法にもとづく日本農政の推進方向と
のかかわりあいの「すがた」を検討することにす
る.
〔以下,農業基本法を「基本法」.農村地域工業
導入促進法は, 「促進法」と略記号で説明するこ
とにする.〕
・東北地区」においては4.75%であって平均値よ
〔第1点〕.「促進法」第1条の目的においては,
り3.1%程度上積みされている程度にとどまって
とりあえず,第1段の前段で「農業従事者がその
希望及ぴ能力に従って,その導入される工業に就
いる.
一方,首位を占めていた「北陸地区」は,3。75
%と低くなって,平均値より0.69%も下ってしま
本法」第20条に対応して「農業従事者及びその家
っている.「九州全地区」では,4.87%であるが,
族がその希望及び能力に従って適当な職業に就く
これを北九州地区に限定してみると,6.46%と第
ことができるようにする.…農村地方における工
業等の振興…」と全く両者の関係においては同様
一位の「東海地区」よ廿),0.08%も上位になって
いるのである.
業することを促進する…」とするくだりは, 「基
の内容規定をしている.
これは,大分県等で特にみられるものであるが
従来,過疎地域であった地域が農村開発の計画実
施にともない,急激な都市化,近代化が進行して
いる専業農業地帯においては,農民出稼ぎの増加
のなかで,出稼ぎ理由が農業経営の規模拡大と結
びついた農民志向の方向性に大きく影響を被って
このことは,つまり, 「基本法」第4条「農業
構造の改善等」でもられている趣旨を体して「促
いるのである.
の措置を講ずる…」 (傍点筆者)と規定している
進法」が制定された事実関係を意味するものであ
る.
この関係を「促進法」第1条の中段で「これら
の措置と相まって農業構造の改善を促進するため
以上の様な傾向性を要約すると,農業生産と結
のである.
接点をもつ(ト汲ぴ㈱の両項目関係を合計すると9.37
第2の対応事項は,「均衡論」の内容問題である.
%の比率構成になるのである.
まず, 「促進法」の目的条項で提示している均
これは,全国の趨勢からみれば,約10%程度の
かかわりを持つことになるのである.
衡とは,第1条の後段で「農業と工業との均衡あ
つまり,関係出稼ぎ農家中,10戸のうち1戸の
農家が,農業経営に直接的な関連性を保有させな
がら出稼ぎ参加の意思決定がなされていることを
この均衡の意図するところは,実は「第1段階
で農業部門に存在する農業労働力を工業面に導入
させる.第2段階で残された農業労働力を対象に
して農業構造の改善を構ずる.第3段階で,第1,
第2の段階を経過することによって,農・工両部
門間における労働力配置の関係上にかかわる均衡
を意図することになる.そして,かかる均衡状態
を「促進法」第1条の末尾で,以上の様な状態を
証明していることになっている.
また,この事実経過から推論されることは,農
民出稼ぎ者は,決して農業経営を否定的方向で計
画実施されているものではないということである.
しかも,約10%程度とはいい,この当該農家は,
る発展を図る…」ときめられている.
出稼ぎによる農家生活の変貌(其のm)
75
つまり「雇用構造の高度化」と呼称するものであ
つ計画的に促進するため(第1条).かなりの部分
る.
が農業それ自体の対応関係にあてられている個所
要約すれば,「促進法」の目的とするものは,
がみられるのである.
最後の「雇用構造の高度化」の状態を設定してい
この傾向は,そのままに,農業生産との対応関
ることになるわけである.
係を示すものであるから,次に,いくつかその具
以上の様な「促進法」にかかわる目的を実現さ
体的な事例を列挙してみる.
(その1).一「促進法」のなかで,基本方針(第
せるため,法律内容は,農村工業導入にかんする
「基本方針」 (第3条)を始点として,次いで,
「基本計画」(第4条),「同実施計画」(第5条)
3条),基本計画(第4条)等においては,い
づれも第3項で「農村地域への工業導入と相ま
と段階的に計画内容の展開をはかるべき作業手順
って促進すべき農業構造の改善に関する目標.
を規定している.
同様な点が第4条一2−7で, 「必要な農業生
産の基盤の整備及ぴ開発その他の事業に関する
〔第2点〕.「促進法」で農業経営と最も深いか
かわりあいをもつものとして, 「農村地域に導入
される工業への農業従事者(その家族を含む.以
事項」等々がその対象個所である。
(その2).一当該農村地域における農地保有の合
下同じ)の就業の目標」が対象としてとり上げな
理化が図られる(第5条一4)=「農地関係」.
ければならない.
(その3)一「国及ぴ地方公共団体は,実施計画
項でも「第2項」でそれぞれに規定しているので
で定める農業構造の改善を促進するため,農業
生産の基盤の整備及ぴ開発,農業経営の近代化
のための施設の整備等の事業の推進に努めなけ
ある.
ればならない」(農業構造改善の促進一第16条).
これは,「基本方針」(第3条),基本計画(第
4条)及び「実施計画」 (第5条)のいづれの条
この条項の意図することは,即ち,農村に工業
が導入された場合,地域農業者(農業経営者とそ
の家族を含む)としての受け入れの姿勢を問われ
ているのである.
ヨリ内容を単純化しながら「促進法」のなかで,
規定されている農業生産との関係をみると「農業
以上, 「促進法」を対象にして「農業生産と直
接的にかかわ「)あいのある個所をそれぞれに指摘
してみた.
問題点は, 「促進法」のなかで,あえて農業生
産=農業構造改善を促進する真の「ねらえ」は一
関係者は,同法の趣旨(目的)にそう「かたち」
体どこにあるのだろうか。つまり,農業生産に関
する対応内容は,最終的時点において「いかなる
で,農業に関する将来の展望を含めて意志決定が
もの」と結びつけて考えれば最も適格な判断とな
要請される」という点に集約がなされそうである.
りうるものだろうかという疑問点.〔註〕惚)農業部
〔第3点〕.「促進法」は, 「その地区に工業を
門のサイドに立脚する時に, 「促進法」の内容規
導入することにより,その周辺の農村地域におけ
定は,一般農家群或いは農業部門に対して工業導
る農業従事者が当該工業に相当数就業することが
入との関係での接触とさらに加えて以上の様な農
業生産関係についても同時併行的な接触関係を保
見込れている.」(第5条一1)
この「ねらい」を促進するさせるために「職業
有するという二重の関連性が,成立するのである.
紹介の充実等」の具体的なものとして, 「雇用情
このような内容をもつ課題は,他の関連農業法
案ないし規則関係と競合関係に立つ可能性がある
ので,今後に大きな問題を惹起させることのない
報の提供,職業指導及ぴ職業紹介の充実」 (第15
条一1)及び「工業に農業従事者が円滑に就業す
ることを促進するため,職業訓練…」等々につい
て種々なる諸作業が講ぜられることになっている.
この点,「基本法」においては,「適当な職業に
就くことができるようにするため,教育・職業訓
練及ぴ職業紹介の事業の充実」と,全く両者はか
よう充分な分析と検討が必要と思われる.〔註〕㈲
しかしながら,以上(第1点)から(第4点)
を通じて兼業化の進行関係を「農村工業への導入」
という側面で,主として関連する法律内容を対象
にして検討してきた.
なりの面まで照合されているところがみられる.
〔第4点〕.「促進法」は,単に,農村地域に工
勿論,ここでの農業生産との接点は,当然では
業を導入するということにとどまらず,積極的か
点となっていることにはかわりはないのである。
あるが「農業労働力の移動(他産業部門へ)」が視
76
福島大学教育学部論集第24号
1972−11
最後に,要約として最近の農村労働力の移動の
姿態について,とりあえずいくつかのパターンに
比較対照して,その過程において今後に残された
課題の一それは兼業化と関連性をもつ労働力移動
あてはめて,その類型的な方向性の内容分析をす
る、その結果からえられた内容と,「基本法」或
いは「促進法」で計画されている志向方向性とを
関係等について,さらに問題の本質点に接近でき
るような課題解決への努力を試みたいと念願して
〔TaUe1〕
いる、
The evolution of a model on the form of employment at
farm−house’Labor and the distribution of Circumstance.
the family
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〔B〕recently − − 一 一 一 一 一 一 一 一 一 早 一 早 ・ 尋 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 − − ↓ _ _ 一 _ 一the Principal axis on the emp−l
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奄メ@Labor
◎ (A・R)礁測㊦(S.R)…◎+Oミ
県 一 ・ ・ 尋 冒 冒 一 一 一 一 − 一 一 ‘ 7一
O(58)
@〇
@ − 一 − 県 , − 一 冒 − 一 冒 − 一 一
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@ ‘ 』 − 一 冒 一 一 一 一 − 一 ■ 県 −
(A・R畷食溜ミ
O(56)
貿± 、−6+倦
1(34〉
1(30)
m、(9)
一 一 一 ‘ 一 一 一 一 − 』 一 一
Z
O…◎……
(A・R〉〈総掛ミ
(A・R螺叉溜ミ
w、(7)
m2(5)
1)Tetuo Watanabe : Agricultural development project of the evolution’process on AIZU area.ミ
(National Agricultural tectonic improvement society−Agricultural Land Complete project Com−ミ
mittee Society).ミ
2) A.R…一・Section of Agriculture.ミ
S、R・一一・Sectionofby−business.ミ
H.R……Section of domestic Labor.ミ
この表は, 「標準農家」の家族構成を基礎的条ミ
B〕(最近)とに区分したその背景には,表それミ
として,農家労働力の就業形態とその配分の状ミ
を模型分析したものである.ミ
農家労働力の動きについて, 「モデル作製の素ミ
体から理解される事実であるけれども,先程のミ
理から得られた各年度毎の趨勢をみると,昭和ミ
」となったものは,次にあげる諸資料(④「農ミ
白書」(昭和43年以降).◎農林省「農家経済調ミ
5年を境界としてその前後における状況(動向)ミ
かなりの相違性をみることが出来たのである.ミ
そのような類型化の分析結果から,昭和44年まミ
」(昭和43年以降).㊦農林省「農家就業動向調ミ
を〔A〕=従前とし,昭和45年以降を〔B〕=ミ
報告書」 (昭和41年以降)から,特別に,農家ミ
近と分括した次第である.ミ
働力の就業形態と労働力の配分状況を対象としミ
以下,表の説明をしよう.ミ
「モデル分析」の主体である「標準農家」におミ
,それぞれの動向を類型別に整理した結果(資ミ
)を利用しているのである.ミ
また,表中で労働力の動きを〔A〕 (従来)とミ
る家族構成(family organization on the farmミ
ouse−hold)は,F。(世帯主であり,父)=(58)ミ
出稼ぎによる農家生活の変貌(其の皿)
77
+M。(母)=(56)+F、(あとつぎ)=(34)+
いる.
M、(あとつぎの妻)=(30)+C m、(子供(長男)
これと同時に,別の変化が展開されている.そ
(9))+C w、(子供(長女)(7))+C m2(子供
件としている.
れは,兼業中心の〔第2類型〕の方向性について
みられるのであるが,S.R(◎)十A.R(○)
の類型として,(従来)に比較して,さらに,新
また,説明の便利さから次の様な略記号を採用
らしく農業部門(A.R)へも労働力が「ハリツケ」
する.(農業=A.R.兼業=S.R.家事=H.R.
とする.◎記号は,重視を意味する)
られているという動きがあるのである.同様に,
Mo,F1,M、共々に共通的にみられる傾向性は,そ
次に,各家族構成それぞれについて内容検討を
れぞれの分解作用が行われているという事実であ
すると.
る.
(次男)(5) =2夫婦・子供3人の計7人を条
表の説明を兼ねて,F。(父)の状況分析をする.
しかしながら,これらの変貌の特徴点は,前述
〔従来〕の時点におけるF。(父)の就業形態と
の様に,分化・分解作用がみられるばかりでなく,
その配分状況に関する標準類型についてみると,
〔第1類型〕=A.R(○)+S.R(◎), 〔第
さらに,S.R部門(兼業)への傾斜が,とりわけ,
2類型〕=A.R(◎)+S.R(○), 〔第3類
型〕ニA.R(o)+S.R(o)等々の三形態が
である.
その代表格になっている.
そのうち,第1類型の就労状況が, 〔最近〕の
時点で,いかに変化が展開されてゆくか。
この点に関する動きを「表」からみると,A.R
(○)十S.R(◎十〇),になっている、さらに,こ
の方程式を分解・再編成を試みると,④A.R(○)
十S.R(◎)と◎A.R(o)十S.R(o)の二
形態になる.
(FDの場合,他に比較して最も多くみられるの
以上の様な分析の結果から導き出される種々な
る「すがた」が実は,本題でとりあげようとして
いる問題点.…農業生産と出稼ぎ関係(広義の兼
業問題)における結節点の状況説明になるものと
判断しているのである.
ただし,この「表」のなかで説明している内容
は,現実の日本農業の姿と対比した場合,そのま
まに,現実面への適応化はむつかしいことは当然
であろう.むしろ,ここでの要約点は,農家労働
以上の変化をあらためて一連の方程式に体形づ
力の体系或いは構造が, (従来)→(最近)への
けをすると次の様な「かたち」が考えられる.
F。(58)一〔第1類型〕(従来):A.R(●)
過程で,A.R(農業),S.R(兼業),及びH.R(家
+S.R(◎)→(最近):A.R(○)+S.R(◎)・
(o)…④A.R(○)十S.R(◎),◎A.R(o)十
事)のそれぞれの各分野においてどの様な変化を
伴いながら農家内での労働力の移動関係がみられ
ているか.
S.R(○).即ち,基礎体型(従来)は,(最近)
ような問題に対して基本的な状況分析のため
の段階になると,2コースの類型に分化し,その
内容も,従来の「かたち」とともに,新しく,◎
〔註〕(1田 土屋圭造編「筑後川水系経営計画調査報
A.R(○)+S.R(○)という就労形態とその
告一菊池台地における」 (全国農業構造改善協
配分状況の「かた」が生れてくる.
会・農地整備計画委員会昭和46年刊)
この様な模型分析・展開からみて,最近の労働
力の姿は,ヨリ一層複雑化し,多様化の形態が日
本農業の各地域にみられるようになっている,
の一手法と考えて頂けばよいわけである.〔註〕㈱
〔註〕(1の 渡辺哲男「会津地域における農業開発計
画の展開過程」 (全国農業構造改善協会・農地
整備計画委員会.昭和47年刊) (82∼87P)
以上のような方法で,各家族構成員毎の変貌の
〔註〕(m同 書(82∼83P)
特徴(Point of a specific character)を提示
〔註〕(18)同 書(86∼87P)
している.これらの内容が最近の農家労働力の性
〔註〕(ゆ 天間征「定量分析による農業経営学」(第
格を規定づけしているものといいるのである.即
ち,Fρ就労形態の場合についてみれば,(従来)
11章)
林雄二郎・片方善治「社会工学」社会シ
農業部門に主軸がおかれていた〔第2類型〕等の
ステムの理論と応用一(昭和46年)筑摩書房
例においては,この「かたち」が分解されて,A.
〔註〕⑳ 昭和43以降の農林省編「農家経済調査」
R(○)+S.R(○)という状態に変化が行われて
及び「農業白書」のうち,農業労働力の変貌(移
78
福島大学教育学部論集第24号
1972−11
動)のなかで「主婦」労働が台頭している事実
号)一・「促進法」(第17条)等々12種類の関連法
(数量)が明確に打ち出されている.
律がある.
〔註〕⑳ 渡辺哲男「昭和47年度日本農業経済学会
そのうち,⑦,⑧,⑨,⑩等の法律は,「促
報告要旨」及び「出稼ぎに対する農家の意識」
進法」実施の段階で,首題にかかわる問題点が
(農業と経済)昭和47年,富民協会刊)
殆んどないのでここでは除外する.まず,その
なお,これらと,東京都労働局「出稼労働者
他の法律は,当然であるがいづれも独自の趣旨
実態調査」 (昭和47年)を参照して頂きたい.
とその方向性が明確に規定されている.これら
〔註〕⑳ 工業の地方分散に対する疑問点は, 「(1)
と「促進法」とは必ずしも同一内容ないし共存
農業と工業とは共存可能なのか,(特に,農業の
出来るとする保障はない.
向うべき指針がはっきりしない段階において).
例えば,③「農業振興地域の整備に関する法
(2)農工一体化構想は,要するに工業従属化構想
律」との関係は,或る面においては(地区指定
のことではないか.(3}都市からプッシュされた
及び土地利用計画の面)競合関係に立つ可能性
迷惑工場が進出するのではないか.(4)Uターン
をもつのである.また,実施に際して,両法律
労働力の過大評価は,危険ではないか.(5)その
の間に優先関係をとりきめしなければならない
他自然破壊とか,神話,史跡,景観,観光の魅
個所が若干見受けられる.
力を致命的にそこなうのではないか.」(乗本吉
「課題,其の2」.前段・課題,「その1」で
郎「インテグレーション」日本農業の動きNα20
みられた関連法律は,それぞれに法律の「立て
135∼138P)
まえ」を生かして現実の行政執行面で利用され
〔註〕伽)検討すべき課題〔その1〕,関連法律の
ている.
相互間における競合関係あるいは優先化関係に
同じ様な「ねらえ」をもった法律.例えば②
ついて.
「工業整備特別地域整備促進法」(法第146号)
「促進法」は,第1条(目的)∼第19条)主
及び⑤「過疎地域緊急措置法」 (法第31号)等
務大臣)にわたって規定されている.そのなか
等の間には,必然的に関係法律間における相互
で,この「促進法」が施行される段階でそれな
調整の作業が必要となっている.
りの関連性をもつと思われる関係法律をあげる
以上, (その1)と(その2)がとりあえず,
と次のとおりである.
検討すべき課題の内容と考えられる.
①「新産都市建設促進法」(昭和37年,法律
なお, 「促進法」との関係で制定された「農
第117号)…「促進法」(第2条).②「工業整
村地域工業導入促進法施行令」 (昭和46年9月
備特別地域整備促進法」 (昭和39年,法第146
2日,政令(280))においても関係法律が6種
号)…「促進法」(第2条).③「農業振興地域
類程度みられる.もし,これも加えてみると,
の整備に関する法律」 (昭和44年,法第58号〉
かなり大規模な関連法律群となり,前記の課題
「促進法」(第2条一1).④「山村振興法」
は,益々それなりに主要な意義をもつことにな
(昭和40年,法弟64号)…「促進法」 (第2条
ろう.
一2)、⑤「過疎地域対策緊急措置法」(昭和45
〔註〕⑳ 以上の「モデル分析」の手法による現状
45年,法第31号)…「促進法」(第2条一3).
への接近化を試みるため,次の資料のうち,勝
⑥「工場立地の調査等に関する法律」(昭和34
働力」関係の内容を比較・対象して頂きたい.
年,法第24号)…「促進法」(第5条一10−5).
(その1)渡辺哲男「福島県会津地域における
⑦「租税特別措置法」(昭和32年,法第26号)
農業開発の展開構造」(全国農業構造
「促進法」(第7条).⑧「所得税法」(昭和
改善協会・農地整備計画委員会昭和
44年,法第33号)・一「促進法」(第7条).⑨「地
46年刊)
方税法」(昭和25年,法第226号)…「促進法」
(その2)渡辺哲男「会津地域における農業開
(第10条).⑭「農林中央金庫法」 (大正12年,
発計画の展開過程」(全国農業構造改
法第42号)一・r促進法」(第13条).⑪「雇用対
善協会・農地整備計画委員会昭和47
策法」(昭和41年,法第132号)…「促進法」(第
年刊)
15条一2).⑫「農地法」(昭和27年,法第229
出稼ぎによる農家生活の変貌(其の皿)
79
う.
〔W〕「農業生産との結接点」に関する現実的な適
応化について.(要約)
〔1〕あらためて「促進法」と農業生産との関連
即ち, 「促進法」による一属の兼業農家の出現
化現象は,これに直接的に対応させられるであろ
うところの個々の農家における対応化の姿勢とそ
性について.
のうけとめ方である.
先程,〔皿〕「農民出稼ぎ(兼業形態)と農業生
「促進法」の成立がはかられる一つの背景とし
て出稼ぎ対策があった.それは,地場に通勤兼業
産との結接点について」一第3事例「兼業化の進
行(農村工業への導入問題)に関連して」…特に,
が可能な環境とその諸条件の設定をはかるという
「促進法」の法律的適応上にかかわる問題点が中
命題が,或る関係者のなかで主要な論点になって
いることである、…とすれば,農家ないし農業生
心課題として本題の展開について検討してきた.
その後,同問題に対する現実的な農業生産との
関連性〔註〕㈲について,分析・考察を加えるとす
産面での影響は,出稼ぎ兼業→通勤兼業(臨時日
雇.人夫か恒常型勤務者か)の変更の役割を果た
課題になるだろうと推論される.
す結果になろう.しかし,この事実経過からみて
これが,さらに農業生産或いは農業構造改善の
第一の課題点.一「促進法」は,従来の公法の
ための対策面でどの程度のかかわ七)あいが生れる
構成要件からみて,新しい独自の体制にとりくむ
姿勢がみられるのである.このことは,関連項で
「促進法」の農村への適応化は,農家に対して
指摘したのであるが, 「促進法」の法の名称から,
兼業化への分化.分解そして再編成作用の契機に
あくまで,農村地域を対象として,工業導入に関
連する諸促進策を規定する,…とする限定条件で
の枠組みが本来の「たてまい」であろう.
むしろ,農業構造改善事業においても問題になっ
ている点〔謝㈲であるが,兼業問題の止揚化の対
れば,およそ次の諸点があらためて再検討すべき
ものだろうか.
なることは出来てもそれ以上の何ものでもない.
しかし,この「促進法」は,農業生産=(農業
策.或いは農村へ工業が導入されることによる農
構造改善対策)に関する内容の条項がみられてい
ることから,この法律は,総合的な「丸かかえこ
家の意識の変革を含めた農家・農民の対応化を解
明する農民行動様式の客観的な検討がとケ)あえず
みの農村対策」的性格が強く支配している.換言
必要であろう.
すれば,基本法農政における一連の農業構造対策
かかる行動様式に即応した「農業経営者の自主
に,ヨリ一層の発展を期待する.?一種の刺激剤
性を尊重したコース制の農政」〔註〕⑳(エルトル
としての役割も附与されているともうけとめられ
る.
また,この性格がヨリ強く働くとすれば,みづ
から工業支配の原理が農業生産・地域農業構造に
おける内部構造にまで浸透させる「神通力」をも
とうとしているのか.いづれの場合にもせよ,農
業部門のサイドからみれば,或る「枠内」の将来
像にむけて,厳しい路線がふ施されることになろ
う.
第二の課題点.一前課題点から推論されること
は,さらに農村の内部に兼業化の現象が奥深く浸
透がはかられる事実は,ほぼ間違がいない帰結的
現象である.
仮りに,この様な前提条件のもとで,その後の
農家ないし農業生産面における対応化を要求する
結節点は何か.…この疑問点に対して解決のため
の提起をもつ「取り組み内容」は,実は,兼業化
における分化の過程とその帰属関係の問題であろ
・プラン的な行政方針.)を具体的に示すことこそ
がヨリ有効な農業(農民)対策であり,同時に農
業構造の再編成に関して着実な発展が期待される
ものと思考される.
〔2〕農民出稼ぎと農家労働力の就業化に関する
再編成問題.
「農民は,なぜ出稼ぎをするか」この質問に対
決する解答内容には,いつもながら殆んど変りが
ない.問題点は,ここで出された解答それ自体が
今日の出稼ぎ現象について正確に解明できだけの
内容になりえているものかどうか.この点につい
て「充分に,対応しうるものと」することの「結
論」に結びつけることには疑問があろう.
農民出稼ぎの社会的現象は,長期間にわたる継
続性につながる農民の小農主義的行動である.し
かしながら, 「経済至上主義」に貫徹された農民
出稼ぎの歴史のなかで,農業者を立場とした出稼
ぎ対策について,農政或いは農民共同組織体等各
80
福島大学教育学部論集第24号
自の機関における「対策内容」について関係資料
1972−11
解明について」の分析のため農林省の調査組織網
の分析をした結果を要約すると,まず,対策資料
を動員して徹底した調査の実施を求めたいのであ
が少ないこと.具体的内容が単純二単発的で乏し
い.ということが結論づけられる。即ち,日本農
業での暗い「谷間」の農村風景?的取り扱い方の
る.
様子が窺われるのである.〔註〕⑳
しかも,過去における農民出稼ぎに関する諸対
策においてみる限り,どの程度の発展性があるか
という疑問点が依然として残らざるをえない.こ
の点が前段(疑問点)の課題と同ヒ意味あいをも
っことになろう.
最近に至って,漸く農民出稼ぎが今日的な社会
的問題として多くの人々に関心をもたれるように
なった.
年間42万人もの農業者の参加がある「農民出稼
ぎ」は,すでに,社会,経済的機構のなかで全面
的な構造的つながりをもつに至っている.加えて
農民出稼ぎを仮りに,労働力の移動としてとらえ,
就業形態あるいは農家経営での「ハリツケ」関係
という技術的な側面に限定した課題解明であった
としても,単純に処理できないものがある.
それ故にこの対策のために必要な条件整備が残
されたままに山積している.
今日,必要とされるものは,単なる論理の展開
にとどまってはならない.さらに前進して全体構
造としての実態分析を通じて,とりあえず,事実
関係を適確に把握することである.この作業は,
遠まわりの感なきにしもあらずであるがこれに優
さる有効な対策はない.と強く確信している.
〔3〕所謂小農経済論とインテグレーション化現
象との関連性.
従来,農家における経営計画の設計方針或いは
その決定の条件規定は,村落共同体の規制が強力
に作用されるなかで,長期間にわたって農村の人
間土壌に生長した農村(家)旧来の慣習…これに
支えられた「小農経済論」の影響(最低経営条件
下における比較性安定条件の確保)が支配してい
た、
勿論,これが基軸となりながら,食糧需給の状
況,歴史的過程における日本農政の行政指導,商
品経済法則への適応等々それぞれの立場において
関連性をもたせながら今日的な「経営枠組み」が
っくられている.
このような諸課題と先程の「疑問点」を解明す
るためへの対応策を導き出しえない根拠は一体何
か.その有力な背景となっているものはいかなる
しかし,これら相互の対応関係によって経営計
画の修正をなしうる可能性は,現実的にはかなり
の限定的な条件と範囲の下で行われているのであ
条件に起因しているものだろうか.
る.当然にして, 「小農経済の存在性の原理は,
この二種の「質問」に対応できるものは,即ち,
危険性への「はどめ」という環境条件の変化のな
複雑化している農民出稼ぎ問題について客観性を
かで消極的な農業経営の安定性を志向しようとす
る大衆農業者の意識を存立の基本条件として,そ
もち,かつ適切な論証が十分に展開可能とするた
めの「資料の整備」を基本的な前提条件として充
足することから出発されなければならないのであ
れによって支えられているのである.
あらためて問われなければならないことである
が,課題解決に必要な資料をもたないで一体,ど
の様な対策が行いうるだろうか.経験的な判断.
「こて先」だけの対策は,却って問題である「農
このような農家(農業者)の対社会・経済的対
応状況をポイントにして,所謂小農経済論の今日
的適応形態が,規定されるとしても,最近におけ
る現実的な適応の「姿」は,かなり変形された内
味の農業経営が進行しているのである.就中,世
界農業との競争関係が強調され,他方,国内にお
民出稼ぎの方向性」を混乱に導き,そのゆきつく
いては, 「自立農業経営」を旗印にした基本法農
ところは,農民不在の結果を招来することになる
政は,種々なる経営計画ないし実施の段階でそれ
ぞれに従来の経営内容に修正を加えようとしてい
る.
のである.
再度,提案することになるが,農政の緊急対策
事業として実態分析を行うべきである.その主た
さらに,農村への工業導入がもたらす影響は,
る内容は既存の調査項目に加えてあらたに,「農
民意識を含めた意志決定の方式.或いは農民の社
とりわけ,前述の小農経済の原理を今日的に適応
している農家群に対して「農業者としての意識」
会的対応行動とそれに関連する「メカニズム」の
に大きな変革を要求しているのである.それは,
る.
出稼ぎによる農家生活の変貌(其の皿)
自分の生産・生活環境に異質の産業が導入される
ことによって,一つは,農業者として自分自身の
立場での対応化の問題(兼業化への志向,農地の
評価に関する変動とこれに随伴する農地を「家産」
とする農民意識に関連する農地所有への考え方).
他の一一つは,個々の農業者の主体性の領域を超え
た日本資本主義経済の方向性として,また,日本
農政の将来性に対する期待感に対して直接的な対
応の姿勢の決定がせまられている.
以上のような,④「貿易関係での世界農業との
81
出現してきたことである.
具体的な例を提示しよう.それは,農村へ企業
が誘致された場合と出稼ぎ者が同一地域内から大
量に同一企業へ労働力の移動が行われた場合等々
にみられることである.農業経営者に安定した状
態で企業に従事してもらうために,企業自体内に
「農作業班」を編成するとか,企業が直接に農業
機械を「貸しつけする」という,前者は「請負耕
作」の面で,後者の場合は, 「農業機械のサービ
ス」という変形された内容で, 「農業者と企業と
競争」+◎「基本法農政での自立経営の重視」(積
の間における相互生産協定」に関する結びつきが
極的な行政指導として)+㊦「農村への工業導入
計画とその実施」=「農業者の将来性に対する展
行われている.
望の修正」を要請する.…所謂「促進法」の志向性に
るけれども,共通的な志向課題は,従来の小農経
営の体制に対して,それぞれに挑戦する「担え手」
はこのような,一連の方程式に組み入れられた軌
いづれにもせよ,それなセ)に「姿」はかえてい
道が明確に「ふ設」されていることをとくと理解
になっていることには,かわりはないのである.
すべきであろう.
〔註〕㈲ 兼業農家が問題とされる諸側面について,
しかし,今日的な農業を囲繞する環境条件の変
化は,単に農業への体質改善にとどまらない.そ
並木氏の見解を要約すると,次の様に指摘され
れは,昭和43年頃よ『)明確に日本農業に重大な意
第一の側面,農業生産に関連して,土地利用の
識の変革をもたらしたのは,我が国の大手商社の
粗放ないし生産力の低滞の問題.
直接経営による農業生産面への浸透化現象である.
第二の側面.自立経営農家の実現性,これは専
〔註〕㈲
ている.
業農家の規模拡大に対する阻害要因の状況検
所謂インテグレーションの現実は,時間的な経
過とともに商社経営の系列に支配される農業生産
討.
の種類が増大されてきていることである.しかも,
について.昭和45年2月「総合農政の推進に
企業としての生産工程に入った商品生産の体制は,
ついて」を契機として具体的な所得均衡策が
一般農業者の経営感覚では理解出来ない大規模な
狙上にのぼるようになった.兼業形態は,農
設備(資本)投下による大量生産のシステム・フ
ォーラムが行われている事実であろう.
家経済の所得水準或いは所得額の向上に対し
即ち,商社経営の商品のもつ市場シェアーは,
木正吉「兼業農家問題の新局面」 (農業総合
極度の支配体制を形成する方向に展開されている.
研究第25巻2号)
このような現象は,種々なる変革の契機となって
いる.最も大きな問題は,所謂農業生産は小農経
営がヨll安定的であるとする農業者の経営意識,
〔註〕㈲ 農業の発展過程における兼業農家のもつ
換言すれば, 「農業生産には資本の投下,資本主
業問題の新局面」71∼73P)は,第一の根拠と
義企業の直接的参加はありえない」とする従前の
「農業支配の原理」が根底からくつがいされてし
して.土地利用について,兼業農家が粗放であ
まったことであろう.
の反当農業純生産額が第一種兼業農家のそれに
現在時点では,特定商品に限定されているけれ
ども,農業経営上からすれば歴史的変革期に入っ
たことを物語るものであろう.〔註〕G㊤
第三の側面.農業従事者と他産業従事者の均衡
て一般的に役立つ可能性を指摘している.(並
マイナスの影響.
このことについて,並木氏(農業総合研究「兼
ること.(昭和38年度における第2種兼業農家
比較して7割程度であることを理由として,土
地生産性の低い第二種兼業農家が増大してゆく
ことは,それだけ農業総生産の増大を阻害する
この種のインテグレーションの変革的役割は,
ことである」 (同年農業白書)と説明している.
一つの効果として,いろいろな側面で,農業経営
者と企業体との共存関係の方向に志向する事実が
しかし,この論点に対して全国農家労働力対策
協議会・全国農業会議所「兼業化の進行にとも
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福島大学教育学部論集第24号
1972−11
なう農家労働力対策一農家兼業化の問題点と対
図で提案している「コース制の採用」とを比較
策の方向」 (昭和41年)」は, 「しかし,それ
・検討して頂きたい.
がそのまま農地の粗放的利用を意味するか否か
小著の場合は、「自立農家経営」(基準農家で
については,さらに十分なる検討を要する.一・」
もあり目標内容でもある)を対象にして,〔イ〕
と批判的な見解を示している.
農業専業を軸とする. 「1(A)型コース.1(B)型
さらに,並木氏は,第二の根拠として, 「耕
コース.1(C)型コース」と, 〔ロ〕兼業経営を
地規模を拡大し,自立的経営を展開しようとす
含むもの.「II色)型コース.IIB)型コース.nc)
る農家にとって耕地の流動性という観点から間
題が生ヒることである.」と指摘している.
型コース」等々6コースを設定して,それぞれ
の該当農家群と農業経営目標との関連性を解明
〔註〕⑳ エルトル・プランの社会的評価
する方法について模型分析しているのである.
西ドイツ食糧農業省「農林業個別経営振興助
〔註〕㈱ 足利信造「出稼ぎ労働者の周辺とその倫
成計画および社会的補完計画」(Einzelbetrieb−
理観」 (経済往来昭和47年12月号)及び渡辺哲
liches F6rderungs−und soziales Erganzungs
男「出稼ぎに対する農家の意識」(農業と経済)
pramm f廿rδie Land−und Forstwirtchaft)は.
昭和47年8月号,富民協会)
「農業経営に関する大胆な「振興助成基準ライ
〔註〕㈲ 「農業に対するインテグレーションが直
ン制度」の導入」を計画されているということ
接的に問題にされたのは,1930年代以降の米国
で高い評価がみとめられている.
ブロイラー産業にみられたそれからである.」
まず,「振興助成基準ライン」(1974年におけ
(松尾幹之氏)…「巨大資本による垂直統合は,
る一一労働力当り農家所得(農外所得は20%が限
独占資本主義段階における必然的な過程であり,
度とされている)が1万6,000マルク(日本円
欧米をはヒめ,日本でもブロイラーの80%,養
約160万円).一経営体の場合は,2万4,000マ
鶏,養豚,10%,牛乳65%がすでに統合下には
ルク(日本円約240万円))を設置している.
いった.
そして,この基準を中心にして,全農家を三
しかも,最近の特徴として,単なるパーティ
つに区分((イ)将来も続いて発展性があり「基準
カル(タテ)の統合のみならず,原料部門,生
ライン」に達成可能なもの.(ロ)農業から離脱し
産,加工,販売の各段階において,ホリゾンタ
ようとするもの.の上記の両者いづれでもない
ル(ヨコ)の統合にも手をのばして,タテ,ヨ
もの)して,その区分農家毎に適切な援助計画
コあわせて,E.P.Rayが規定したように,循
を具体的施策にもりこもうとしている.
環的統合(C{rculay lntegation)の様相」)吉
ただし,この計画は,個別の農家経営を対象
田六順氏)を示すようになってきた.
にしたもので,農業の全体計画ではないところ
特に,日本を代表する総合商社による農業部
に特徴的な性格がある.そして,エルトル・プ
門への浸透化は.直営大農場の出現のかたちを
ランの目的とするものは, 「農業経営者の所得
とっている.しかも,それらの経営計画は,極
と生活環境とを改善し,社会的安定性を増進し,
大な大量生産がプログラムのなかで既に実施さ
その所有するものを将来においても保持させか
れている.
つ安定化させる」こととしている.(参考資料・
その代表的事例を次に掲げてみる.
羽多実「エルトル・プラン」(のびゆく農業365)
「(その1)三菱系のジャパン・ファーム(眠
このエルトル・プランの中核となる農家区分
昭和44年設立,資本金10億円,うち三菱商事;
とそれによって設定され,位置づけられたそれ
40%,日本農産=15%,日清製粉=15%,菱和
ぞれの特定農家に対する施策の展開手順.一こ
飼料=15%,日本ハム=15%出資)は, 200億
れと対応する意味で,小著「会津地域における
農業開発計画と展開過程一経営目標とその接近
円の投資計画をもって,ブロイラー,常時150
万羽.養豚・10万頭,採卵鶏・40万羽の巨大農
化の手法について一」(全国農業構造改善協会・
場(鹿児島大隅半島大崎町)を.4∼5所つくる
農地整備計画委員会刊)のなかで,V−1「開
計画が実施された.
発方式に関するモデル図の設定」 (37P)第3
(その2)房総ファーム(昭和44年設立,資
図「自立農家経営の実現志向のための展開構造」
本金3,000万円,うち三菱商事・45%,野上艀
出稼ぎによる農家生活の変貌(基の皿)
卵場・45%等出資)の千葉県下での48万羽養鶏
場の建設.
(その3)伊藤忠系では,④岩手CIファー
ム(昭和44年設立,資本金5,000万円,うち伊
藤忠商事・70%出資)は, 300万羽(60億円),
◎福島県須賀川子豚センター(30万頭,43億円)
㊦埼玉県S P F原種豚場.
(その4)住友商事は,鬼怒川農場(50億円,
S P F豚,10万頭)」(吉田六順氏)
また,これらの商社による経営組織は,徹底
したオートメーション方式を導入しながら経費
節減を通じて,システム・メリットをその経営
目標の一つにかかげている.
その状況は, 「三菱のジャパン・ファームは,
ウインドレス鶏舎は,一人6万羽のブロイラー
を管理.養豚では無看護分娩,テレビ・カメラに
よる集中管理.コンピーター品種改良の採用な
ど一人で2,500頭の肥育豚管理を可能とした。」
(吉田六順氏).
以上の商社系列の企業は,主として昭和44年
以降に誕生したが,それらの企業で生産された
生産量がすでに,次の様な市場シェアーをもつ
に至ったことを指摘しておきたい.
そして,これらの企業がCircularIntegation
の形態を益々強く打出した場合の影響(特に農
業部門に対して)を考える必要があろう.
ブロイラー商品を中心とする商社別の「市場
シェア」の状況を紹介しておこう.
「ブロイラー部門.三菱商事…11.6%(昭和
44年12月.三井物産…11%(昭和44年12月」(森
鳩隆)
つまり,両社合併の市場シェアは,22.6%を
占めている.この事実は,明確に受けとめ,今
後の成長率を見守る必要がある.
(以上の参考資料は,富民協会「農業と経済」
(昭和46年2月号特集号)参照.
〔参考資料〕吉田忠「畜産の展開とインテグ
レーション」農基法十年.日本農業年報××「巨
大商社の農業進出」 (190∼164P P)
〔註〕⑳ 石川英夫「インテグレーションと農工一
体一70年代における資本と農業の新しい関係」
(日本農業の動きNo206∼17P)
83
84
福島大学教育学部論集第23号
The Transfiguration of Farming Home Life
dependent on the Working Country for Income(Nα3)
Tetuo WATANABE
My papers maked clear that to the following effect as yet一
(1) The farmers of the working in another country for income are a
special form of the part−time farmers.
(2)・A farming home of the working in another country for income
affected by the seriously changing about the allotment of distribution
in a home life.
(3) A farming home of the working in another country for income take
cash and yet It have the mental fatigue toward the house−wife.
The concrete substance of this paper may be divided into four
stages as follows:
(1) Outline of the problem and an analysis of the visual point.
(2) In order to unfolding that combined point on the Agricultural
production to the working in.
(3) Combined point on the Agricultural production and the working in
another country for income.(a section of by−business.)
(4) Actural adaptability at combined point on the Agricultural
production to the working in another country for income.
1972−11
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