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2016/04/01「エジプト:為替・貿易規制」「ロシア

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2016/04/01「エジプト:為替・貿易規制」「ロシア
BTMU Global Business Insight
EMEA & Americas
April 1, 2016
Ⅰ.エジプトにおける近時の為替・貿易規制について
三菱東京 UFJ 銀行
国際業務部
部長
ミナト国際会計事務所
所長
2
…
9
繁田文貴
Ⅱ.ロシア税務実務:ロシアにおける納税義務と PE リスク
株式会社ミナト国際コンサルティング
…
代表取締役
公認会計士・税理士
上村雅幸
・本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。
本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の実
行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や、適法性等について保証するものでもありません。
・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。
・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものではあ
りません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、そ
の他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実際の
適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。
・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部
について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。
・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。
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BTMU Global Business Insight
EMEA & Americas
Ⅰ.エジプトにおける近時の為替・貿易規制について
1.はじめに
2016 年 2 月 28 日、エルシーシ大統領がエジプト大統領として 17 年ぶりに来日。安部首相と首脳会談
を実施した後、政府と日本企業合わせて 2 兆円の規模の経済協力を行うことなどを盛り込んだ共同声明
を発表。加えて、来日期間中に開催された日本・エジプト経済合同委員会会議では、参加日本企業に向
けてエジプトの政治・治安の安定をアピールしながら投資の加速を呼びかけ、同会議中にエネルギー・
インフラ事業を中心とした複数の MOU を日本企業・政府機関との間で締結した。
2013 年 6 月の政権交代以降、高支持率を維持している同大統領のリーダーシップの下、2015 年 12 月
に選挙が無事終了し 2016 年 1 月に議会が再開するなど、政治・社会に落ち着きを取り戻しつつある。一
方、不安定な地域情勢下、散発的ではあるが国内のテロ事件は継続しており、投資誘致への心理的なハ
ードルが残る他、外貨獲得に直結する観光産業の復興には今しばらく時間が掛かると見られている。
こうした環境の下、特に 2015 年初頭から顕在化している外貨決済問題に加え、2015 年 12 月以降に輸
入書類呈示に関する規制等、輸入管理・外貨コントロールを目的とした諸通達が矢継ぎ早に出され、目
前のビジネスに関わる対応に関係者が苦慮しているのが現状である。
本稿では、上述の動きの背景にある為替動向ならびに外貨事情と、諸通達の内容を整理してみること
とする。
(いずれも外務省 HP より)
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2.為替動向と外貨事情
(1)ムルシ政権交代まで(~2013 年 6 月)
2010 年までは、5 エジプト・ポンド半ば/米ドル(以下ポンド、ドルと記載)、外貨準備高 350 億ド
ルの水準で推移していたが、2011 年に入りアラブの春以降ポンド安がじりじり進むと同時に、外貨準
備高は 150 億ドル近辺まで半減。2012 年 12 月には、オークション制度導入(次項 3.
(4)で説明)と
S&P による格下げ(B→B マイナス)実施を受け、6 ポンド台の後半まで下落。
(2)シシ大統領就任前後(~2014 年 12 月)
ムスリム同胞団政権に代わる新政権誕生を歓迎するサウジアラビア他の湾岸諸国からの資金支援に
より、外貨準備高は 200 億ドル近くまで一旦回復。ポンド安も一息つき、7 ポンド台前半~同半ばで 1
年程度は推移。
(3)2015 年以降、現在まで
経済情勢が好転しない中、ポンド安傾向が継続。2015 年 1 月実施の 0.50%の利下げならびにポンド
安への誘導により 7.53 ポンドに切下げ。その後、7 月に 7.73 ポンド、10 月に 8.03 ポンドへの切下げ、
その 3 週間後に 7.83 ポンドへの切上げと、上下した後、2016 年 3 月 14 日に 8.85 ポンド/ドルへの大
幅切下げを実施した。
また、2015 年 3 月のエジプト経済開発会議を経ての湾岸諸国からの再度の資金支援により外貨準備
高は一時回復したものの、直近は 160 億ドル台半ばで推移しており月間輸入額の 3 ヶ月前後と厳しい
状況は不変。3/14 の切下げと同時の発表では、
「海外からの直接・間接の投資資金流入により 2016
年中に 250 億ドルへの回復を目指す」としているが、具体策は不明。
(億ドル)
(ポンド/ドル)
(出所:エジプト中銀)
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3.各種通達内容
前述の為替動向・外貨事情を受け、エジプト中銀や貿易・産業省、関税局から外貨コントロールに
つながる諸通達が発表されてきている。詳細が不明なものも多く、実際のビジネスに当たっては都度
の確認が必要となるが、主要な通達とその規制内容について時系列で整理し、現時点での対応・今後
の動きについて記してみる。
(1)エジプト中銀:輸入書類の銀行経由提出の義務化、輸入 L/C 発行時の預金担保の増額
(50%→100%)
【2015/12/21 付通達】
①
輸入関連書類は、
(輸出者側の)海外の銀行から国内銀行宛に直接送付される必要あり(施行
までの猶予期間は 1 カ月)
。
②
国内銀行による輸入 L/C の発行時、従前義務付けられていた 50%の保証金(≒預金担保)を
100%に引上げ(2016 年 1 月から)。但し、医薬品・ワクチン・関連薬品、乳児用粉ミルクに
関する輸入 L/C は保証金の引上げ対象外。また、保証金を資金使途とした与信枠供与の禁止、
但し製造工場用の資材輸入を目的とした L/C の開設についての与信枠の利用は対象外。
③
L/C 開設に 100%の預金担保を必要とする輸入決済については、外貨建て与信枠供与による借
換えを禁止。但し、卸目的以外の取引、食料品、医薬品・ワクチン・関連薬品、乳児用粉ミ
ルク、は対象外とする。
【2016/1/27 付改訂通達】
① 輸入関連書類(2015/12/21 ①)に関する例外事項
輸入者:外国企業の支店、もしくは子会社
品目:鳥類、動物。空輸された製造用原材料、スペア部品
② L/C に関わる保証金はポンドでも可。引上げ対象外品目に、医療機器、スペア部品、コンピ
ューター関連品を追加。
【2016/2/22 付改訂通達】
① 輸入関連書類に関する例外品目追加:空輸された商品・製品、コンピューター関連品
<対応・今後の動きについて>
2015 年 12 月の通達発信以前に一般的に行われていた TT 送金で決済し書類は輸入者へ直送する方
法は、通関時に提出する書類に海外(輸出者)の銀行から国内の銀行に送付された銀行証明が必要
となる為、実質的に不可能となっており、D/P、D/A、L/C 取引等への変更が必要。
但し、上述の通り例外事項が追加されてきている中、実際の運用状況に関しては、商流毎に輸入
者経由でのエジプト国内銀行への確認が必要なケースが多い。
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(2)エジプト中銀:現金による外貨預金への入金規制
【2015/2/4 付通達】
①
現金(外貨キャッシュ)による外貨預金入金は、1 日当たり限度額を 1 万ドル、1 カ月の限
度額を 5 万ドルとする。
【2016/1/26 付改訂通達】
①
改訂対象:基本原材料、製造機械・部品、中間材、医療品等の輸入企業
②
現金による外貨預金入金の、1 日当たり限度額撤廃、1 カ月の限度額を 25 万ドルへ引上げ。
【2016/2/15 付改訂通達】
①
改訂対象:輸入決済も有する輸出企業
②
現金による外貨預金入金の、1 日当たり限度額撤廃、1 カ月の限度額を 100 万ドルへ引上げ。
【2016/3/8 付改訂通達】
①
改訂対象:個人
②
現金による外貨預金入金・引出しの、1 日当たり限度額と 1 カ月の限度額ともに撤廃(従前
は 1 日当たり引出し限度額が 1 万ドルだった)
【2016/3/9 付改訂通達】
①
改訂対象:輸入企業
②
現金による外貨預金入金・引出しの、1 日当たり限度額と 1 カ月の限度額の撤廃
③
但し、必要性の低い(non-essential)製品の輸入企業については、従前の限度額*から不変
(*1 カ月の入金限度額:原則 5 万ドル、
(1/26 改訂対象の輸入企業)25 万ドル/(2/15 改訂
対象の輸入企業)100 万ドル)
<対応・今後の動きについて>
2015 年 2 月当初の規制導入目的は、それまで存在していた中銀公表分と市中両替の相場が乖離し
ていた二重相場対策。導入前は、市中のブラックマーケットと呼ばれる闇両替で入手した大量の外
貨キャッシュを外貨預金口座へ入金した後、送金(輸入決済)する取引が行われていた。
本年に入り、立て続けに打ち出されている現金の預入規制の緩和は、外貨事情の好転もしくは先
行き不透明感の解消とも見て取れるものの、やや頻繁に過ぎることから手を打ちながら市場の反応
を見定める動きとも考えられる。
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(3)
.エジプト貿易・産業省:輸出者の事前登録制度
【2015/12/31 付省令】
① 外国の工場および企業が、省令指定の 24 分類(※)に該当する品目をエジプト向けに輸出す
る場合、エジプト向け輸出業者は、エジプト輸出入管理公団へ必要書類提出の上、事前登録
が必要となる。
(※ 例:強化鉄鋼、家電製品(エアコン、扇風機、洗濯機、暖房機他)、オートバイ・自転
車、衣料品・布類・靴等)
②
登録に必要な書類
工場の場合:a.工場の証明、b.製造品目及び商標、c.国際試験場認定会議(ILAC)もしくは
エジプトまたは外国貿易関連大臣が認定した品質管理システム適合証明書
(製造者以外の)企業の場合:製造工場の商標証明
③
施行日は 3 月 1 日から
【2016/1/16 付変更省令】
① 対象品目を 25 分類に拡大。
② 登録に必要な書類
工場の場合:a.法人であることの証明、b.製造品目及び商標、c.国際試験場認定会議(ILAC)
もしくはエジプトまたは外国貿易関連大臣が認定した品質管理システム適合証
明書
(製造者以外の)企業の場合:a.商標及び商標下で製造される製品の登録証明書、b.商標
を持つ製品の公認代理店・卸売業者であることを証明する商
標保有企業からの証明書、c.ILAC、国際認定フォーラム
(IAF)、または外国貿易関連大臣が認定した商標保有企業の
品質管理システム適合証明書
③ 施行日は 3 月 16 日から
<対応・今後の動きについて>
本規制も他の規制同様に、外貨のコントロール、ならびに自国企業の保護・競争力増強が目的と
見られている。施行から間もないこともあるが例外は認められておらず、必要書類が整うまで出荷
を見合わせる企業も出始めている。
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(4)
.エジプト中銀:オークション制度(2012 年 12 月~現在まで)
【制度概要】
① 2012 年 12 月に中央銀行により導入された、市中銀行によるポンド売り・ドル(外貨)買い
をオークション形式で行う制度。
② 中銀が市中銀行にドルを供給するシステム。現在は原則週に 3 回、1 回当たり通常 40 百万ド
ル、週 1.1 億ドル~1.2 億ドルが市中銀行に供給されており、対外決済に充当されている。な
お、3 月 22 日からは週 1 回に変更となり、初回の供給額は 1.2 億ドルとなっている(レート
は 8.78 ポンド/ドル)
。
③ 同制度を通じドルの供給を受けた市中銀行においては、国家としての重要性に基づき使途の
優先順位が中銀から示されており(詳細非開示、エネルギー関連・食料品・医薬品・工業原
料等は含まれる)
、その後の余剰分について各銀行の裁量に基づく外貨決済への充当運用がな
されている。
④ なお、通常のオークションとは別に、過去 5 回*の臨時大口入札(* 2013 年 4 月 6 億ドル、同
5 月 8 億ドル、同 9 月 13 億ドル、2014 年 1 月 15 億ドル、同 5 月 11 億ドル)や、2015 年 3
月以降の「インターバンク」と称される不定期・不定額の外貨交換や臨時入札が実施されて
いる。直近では、2016 年 3 月 14 日のポンド切下げ時と翌 15 日に 2 億ドルのオークションが
実施された。
⑤ なお、2015 年 12 月時点でオークション制度における落札基準の変更が行われた。銀行通達
のため開示は無いが、複数の銀行筋によると、外貨の割当ては各銀行の市中に対する外貨供
給の有効性に基づくものとされ、自助努力による外貨与信枠の供給、外貨が必要な顧客数、
特に小規模企業の顧客数、顧客外貨ニーズに対する柔軟性が、判断要素と伝えられている。
<対応・今後の動きについて>
中央銀行よる外貨コントロール策であり、今後の運用については予測が困難であるが、外からは
見え難い外貨事情を間接的に示すものとして注視する必要あり。また上記⑤に記した運用の変化に
伴い、輸入者の取引銀行の間で一段と差異が出てくるとの見方も出てきており、これまで以上に輸
入者とその取引銀行における決済の優先順位を上げさせるような働き掛けが有効となる可能性はあ
り。
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4.おわりに
エジプト政府としては、各種政策の実行によって外貨準備を上手くコントロールしながら、大統領
の積極外交等を通じエジプト経済の復興をアピールし外国資本を呼び込むことで、地域大国としての
経済回復を目指していく狙いと思われる。
但し、今後の経済・社会動向・地域情勢によっては、既存の規制が突発的に変更される可能性は十
分にあり、政策運営の変化に現れてくるであろう実体経済の改善状況について、引続き注目していく
こととしたい。
記事提供:三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部
部長 繁田文貴
1988 年入行。ロンドン、ニューヨーク勤務等を経て、2010 年~2014 年 3 月までドバイに駐在。
現在は国際業務部にて中東・アフリカ・北米(メキシコ含)のカントリーアドバイザーを担当、
同地域における日系企業進出・事業展開を支援。
(2016 年 3 月 23 日作成)
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Ⅱ.ロシア税務実務:ロシアにおける納税義務と PE リスク
1.はじめに
ロシアでの事業運営に当たっては、税金(および税務署)との付き合いは避けて通れない問題である。
ロシアの税制は頻繁に改正されるのに加え、運用に当たってさまざまな見解や当局の判断が存在するため、
ロシアビジネスを行う上で十分な注意が必要な分野である。
ただし、税務といってもその内容は広範にわたるため、実務上重要となる典型的な論点を中心に説明し
ていきたい。本稿では、日系企業のロシア税務との最初の接点となる恒久的施設( PE:Permanent
Establishment の略。実際の支店登記の有無とは関係のない、いわゆる税務上の支店概念)に関係する、実
務上の留意点について述べてみたい。ロシアに現地法人を設立している日系企業であっても、日本本社や
欧州本社の PE は当該現地法人とは別に認識されるため「当社は現地法人があるので大丈夫」というわけ
にはいかない点に注意が必要である。
さらに本稿では、2015 年に注目を集めた外国法人に対する PE 課税訴訟についても触れたい。
2. ロシアでの納税義務者
ロシア内国法人については、原則として全世界所得がロシア法人税の対象となる。また、外国法人につ
いては、ロシア国内の PE を通じて獲得したロシア国内事業所得が法人税の対象となる。外国法人の投資
所得(配当)については、原則として源泉所得税のみ課される。
3. ロシアでの PE リスク
ここで日系企業の間でもよく問題となるのが、いわゆる外国企業の PE 認定リスクである。ロシアの PE
の定義について他国と比べ特徴的なのが、従業員の国内滞在日数などの具体的な要件がなく、抽象的な点
である。他国では、いわゆる 90 日ルールなどの具体的な数値要件が決められており、当該要件を満たすと
PE 認定を受けるケースが多いが、ロシアでは、
(1)固定的施設を有し、
(2)継続して事業活動を行う、と
いう要件を満たした場合に原則として PE として認定されることになっており、実務的な判断が難しい(た
だし、プラントなどの建設工事のケースは除く)*。
ロシアでは現地法人(内国法人)以外にも、駐在員事務所としてロシアで税務登録を行っている日系企
業が多い。また、ロシアで税務登録は行っていないものの頻繁にロシアへ出張し、営業活動や技術支援な
どを行っている日系企業も多いのではないかと思う。このような企業は、PE 認定を受けない限り原則とし
て源泉所得税以外のロシア法人税の支払い義務は発生しないが、上述の通り、ロシアでの PE の定義が曖
昧であるため、ロシア税務当局から PE 認定を受け、思わぬ追徴課税を受ける可能性がある点に注意を要
する。
********************************************************************
*ロシアでは納税義務とは別に、いわゆる「30 日ルール」と呼ばれる外国企業の税務登録(届け出)義務があるが、本
稿では詳細説明を割愛する。
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実務上の PE リスクの判定については、各社で個別具体的に行う必要があるが、一般的に以下の項目に
該当する駐在員事務所、外国企業は注意が必要である(プラントなどの建設工事のケースは除く)
。
(1)固定的施設

駐在員の有無に関係なく現地に事務所を有している

現地代理店や客先に自社専用の机やパソコンが設置されている
(2)継続的な事業活動
ロシア国内法の規定によると、PE に該当しない事業活動として以下の項目を挙げている。

自社商品を保管、展示および自己消費するために施設を利用すること

自社商品の試作のために施設を利用すること

商品に関する市場調査、宣伝活動など

詳細な業務指示に基づき契約書に署名を行うこと、など
また、日ロ租税条約に基づくと上記国内法の定義とほぼ同様となっており、基本的には上記以外の活動
をロシア国内で固定的施設を通じて継続的に実施した場合には、PE 認定されるリスクが発生することにな
る。
4. 機械据え付けや監督役務提供目的での長期滞在に関する PE リスク
上記 3 で説明した PE 認定ルールの例外的な扱いとして、建設工事などを目的としてロシア国内で作業
を行う場合についてのルール(いわゆる建設 PE)がある。日ロ租税条約では、日系企業が建設工事のため
ロシア国内で作業を行う場合には、12 カ月を超える工事について PE として認定を行うと規定している。
つまり、12 カ月を超えない建設工事については、ロシアでは PE 課税は行わないということになる。ただ
し、工事であれば何でもよいわけではなく、実務的によく問題となるのは日系企業が納入した機械や設備
の据え付けや試運転に関わる工事監督役務提供(SV)業務である。現在の日ロ租税条約やロシア国内での
税務通達を読む限り、SV 業務は基本的に建設工事とは異なる業務であると考えられている。従って、12
カ月を超えない場合も PE リスクが発生する点には注意が必要である。
5. 駐在員事務所における PE リスク
日系企業の駐在員事務所の中には実務上、現地代理店の営業支援や販売管理活動を行っている企業が少
なからずあるのではないかと思われる。このような第三者への販売促進支援活動については、上記の PE
に該当しない活動範囲外となる可能性が高いため、注意する必要がある。
次に、駐在員事務所員がロシア企業との商談に際して、本社からの指示ではなく自らの判断で契約条件
の交渉や値引きなどを行っているような場合にも、注意が必要である。このようなケースでは、事実上の
営業活動を行っていると見なされる恐れがあるため、日頃から本社からの指示を証明するような書類を準
備しておくことが肝要である。
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さらに、駐在員事務所の中には、本社以外のグループ会社からの依頼に基づきロシア国内での市場調査
や販売促進活動を行っているケースもあるだろう。例えば、日本本社の駐在員事務所が、欧州現地法人か
らの依頼に基づきロシア国内での市場調査などを行う場合である。このような市場調査は、たとえグルー
プ会社であってもロシア税務当局の見解としては第三者に対する無償の役務提供と判断される可能性があ
り、この点についても注意が必要である。
6. 現地代理店や代理人に対する PE リスク
日系企業の中にはロシアに代理店を持ち、ロシア国内での商売については代理店あるいは現地の代理人
に任せているケースも依然として多いのではないかと思われる。その中で、代理店が自社の名刺を持ちロ
シア国内で営業活動を行っているケースや、事実上、雇用関係に近い業務委託契約を現地の代理人と締結
しているようなケースにおいては、現地の代理店や代理人が自社の「зависимого агент」
(従属代理人)として見なされ、ロシア税務当局に PE 認定される可能性があるため同様に注意が必要で
ある。
7. 最近の PE 課税に関する事例
2015 年、
ロシアで活動する外資企業の間で注目を浴びた税務訴訟があった。
A 社は欧州の化粧品会社で、
ロシアでは販売現地法人を通じて事業活動を行っていた。ロシア現地法人は本社およびライセンス管理会
社を通じてクロスライセンス契約を締結し、多額の商標ライセンス料を支払っていたが、ロシア税務当局
が税務調査を行った結果、ライセンス料の損金算入を否認した。本件については同年 6 月、モスクワ仲裁
裁判所がロシア税務当局側の主張を全面的に受け入れる判決を下している。
上記の話を聞く限りでは、単なるライセンス料の損金否認の話で片付いてしまうが、今回、この税務訴
訟が注目を浴びた最大の理由は、損金否認の理由付けとして、ロシア税務当局およびモスクワ仲裁裁判所
が、ロシア現地法人が本社の PE の一部であると認定した点にある。具体的には、以下のような理由を基
にロシア法人が本社の一部であると認定している。

ロシア現地法人のウェブサイトがグローバルサイトの一部となっており、さらにロシアでは本社が
ドメインを登録していた

販促品やカタログなどがロシア現地法人名ではなく本社名で配布されていた

ロシア現地法人の役員は本社従業員を兼務していた

ロシア現地法人は本社へのライセンス料を支払った結果、多額の赤字となっていた
従来、ロシアでは外資企業の現地法人に対して本社の一部として PE 認定する事例は見受けられなかっ
た。また、上記の税務訴訟は、ロシア税務当局およびモスクワ仲裁裁判所が租税条約の乱用防止規定(受
益者概念:Beneficial Ownership Concept)に沿った考え方を全面に打ち出し、低率・無税で国外流出した
所得に対して課税したという点においても注目すべき事案といえる。なお、Beneficial Ownership Concept
については、ロシア以外にも中国・ベトナムなどが導入済みである。
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8. おわりに
今回は、PE についての注意事項の指摘に終始してしまったが、ロシアビジネスを行う上で日々の業務に
密接に関連した内容であり、やはり細心の注意が必要な領域である。基本的には、ロシアにおける PE の
考え方は他の欧米諸国と同様であると思われるが、規定の曖昧さやロシア税務当局による解釈に関しては、
十分な理解が必要である。また、上述した通り、昨今の国際課税の潮流でもある税源浸食と利益移転(BEPS)
の一環として、租税条約の乱用防止規定に対するロシア当局の税務執行についても注意が必要である。間
違っても租税条約の乱用防止規定を当局が乱用するようなことは避けてほしいものである。
記事提供:株式会社ミナト国際コンサルティング 代表取締役
ミナト国際会計事務所 所長
公認会計士・税理士 上村雅幸
「日本企業のためのロシア CIS 地域専門の会計事務所」をコンセプトに活動を行うミナト国際
コンサルティンググループの代表。大手国際会計事務所にて東欧・ロシア CIS 地域に計 5 年間
にわたり駐在し、一貫して日系企業の同地への進出支援に従事。2009 年に帰国後、ミナト国際
コンサルティンググループを立ち上げ、現在に至る。
(2016 年 2 月 2 日作成)
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(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部
(照会先)橋本 昌太郎 北村 広明
(e-mail): [email protected]
・本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。
本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の実
行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や、適法性等について保証するものでもありません。
・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。
・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものではあ
りません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、そ
の他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実際の
適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。
・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部
について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。
・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。
~本レポートに関するアンケートも実施中~
(回答時間:10 秒。回答期限:2016 年 5 月 1 日)
https://s.bk.mufg.jp/cgi-bin/5/5.pl?uri=ia7tWh
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