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2 章 こんな汚い水を飲みますか!? 2-1 湖沼水質ワーストワンの佐鳴湖

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2 章 こんな汚い水を飲みますか!? 2-1 湖沼水質ワーストワンの佐鳴湖
2 章 こんな汚い水を飲みますか!?
2-1 湖沼水質ワーストワンの佐鳴湖の水のほうがまし!?
水質を議論する場合に、やれ生物学的酸素要求量(BOD)とか、化学的酸素要求量(COD)と
か、この後に紹介するトリハロメタンとかいろいろな数値がある。しかし、し尿、農薬、肥料に汚染さ
れた水にたくさん薬剤を投入して殺菌し、「はい、これは水道基準を満たすきれいな水です」とい
われても庶民感情として受け入れ難い。
太田川からの取水地点の視覚的な水質の情況を本書のカバーの表紙に示した。
残念ながら、年金生活者のセミ自費出版では、カラーのページを増やすことができず、カラー写
真はこれ一枚であるが、関心のある人は「ネットワーク安全な水を子どもたちに」で検索しホームペ
ージを開いてみてください。
これらの藻の情況、水の色だけから判断すれば、「2001 年~2006 年まで湖沼水質ワースト日本
1を誇った佐鳴湖の水を浄化して飲んだ方がまし」といいたくなる。
このようにたくさんの藻が生える原因には次のような要因がある。
・森町の市街地からの生活廃水の流入
・水田からの肥料、農薬の流入
・上流の畜産排泄物の流入
以下これらを詳しく説明する。
2-2 6000 人の下水が流入する取水口
静岡県周智郡森町の人口は平成 19 年 10 月現在約 21000 人であるが、下水施設は整備されて
いない。
取水口が設けられる円田の上流には約 6000 人の生活廃水が流れ込む。
地下水ではなく、川を流れる水(以後表流水と表記する)を利用する限り、生活廃水の流入は避
けがたい。静岡市のように安倍川の地下水を利用している大都市を除けば、多くの都市の水道水
には、上流のし尿処理場の処理水が下流に流れ、それが水道用原水として利用されている。従っ
て、問題はその程度ということになろう。つまり、川の水量に対して、生活廃水の割合ということにな
ろう。その指標は原水の中に含まれる一般細菌の数となろう。
図 2-1 に遠州地方の水源となっている、天竜川、都田川、太田川の平成 12 年度の一般細菌の
比較を示す。
図2-1 水道用原水の一般細菌の比較
出典:静岡県企業局ホームページ
http://www.pref.shizuoka.jp/kigyou/ootagawa/honbun/q&a7-1.pdf
これは、企業局のホームページ
http://www.pref.shizuoka.jp/kigyou/ootagawa/honbun/q&a7-1.pdf
に掲載されていたも
のである。
平均値でみて、太田川系の原水は天竜川の 9.25 倍一般細菌の数が多く、それだけ汚染されて
いるといえる。
一般細菌は塩素殺菌で死滅するので特に心配することはない。
問題はより多くの塩素を投入する必要が生じ、結果として発がん性が指摘されているトリハロメタ
ンのみならずTOX(得体の知れない有機塩素系の有害物質)の生成量が増えることである。
しかし、専門家の中には塩素殺菌では死なないクリプトスプロジウムとうい病原虫を心配する声も
ある。
2-3 農薬のチオベンカルブが規制値の約 4 倍を記録
太田川流域には灌漑用の水路が設けられ、上流で取水された水は田を回り、再び太田川に戻
り、また次の堰で水田に導かれる。この農業用水の取水堰は、水道水取水点の上流域に8ケ所設
けられている。
従って、春先からの稲作時期には、除草剤、殺虫剤等の農薬成分、肥料成分が大量に太田川
に流れ込むことになる。
これらの農薬・肥料成分は水田で吸収・分解されるが、雨が降ると、吸収・分解されずに太田川
に流出する。
平成 8 年度に静岡県が実施した調査でも、除草剤のチオベンカルブが規制値の約 4 倍の
79ppb を記録している*。
チオベンカルブは平成 15 年 4 月に制定された水質基準で水質管理目標設定項目の農薬類1
5の中に指定されている。
このチオベンカルブが全国の水道水原水の中でどの程度の頻度で検出されるかを調べた結果、
驚くことに平成 12 年度では、基準値を超えるような水源は皆無であった。基準値を約 4 倍超えるよ
うな水源はダントツワーストワンということになる。
証拠として、厚生労働省の調査結果を図 2-2 に示す。
図2-2 全国の水道水原水のチオベンカルブ検出状況
出典:厚生労働省ホームページ、水道水質基準について、水質基準の見直しにおける検討概要
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/dl/moku15-4.pdf
チオベンカルブは浄水過程で除去される可能性が高いといわれているが、チオベンカルブの
濃度が高いことは、他の農薬、肥料の濃度も高いことを覚悟する必要がある。
企業局の言い分としては、年間の平均値で見ればまったく問題ないということであろう。しかし、
妊婦、病人にとってはたとへ短期間でも重大な影響が懸念される。
また、企業局の言い分としては、長年水質検査を行ってきたがチオベンカルブが高濃度で検出
されたのは平成 8 年 6 月の 1 回だけだというかもしれない。しかし、梅雨入り前に田植えを行い、
肥料、農薬を散布した後雨が降ればこれらが流出することは明らかである。
農薬の流出の可能性の高い水源の場合、農薬散布後の雨を想定した水質調査が必要である
が、静岡県が行っているのは月 1 回の定期調査であり、その日の天候は文字通り、お天気任せで
ある。このような水質検査結果をもとに、太田川の水はきれいで美味しい水ですといわれて、安心
して水道水を飲みますか?
*出典:企業局ホームページ、太田川取水地点の水質検査結果、平成 8 年度
https://www2.pref.shizuoka.jp/all/file_download1200.nsf/DEA1B6BFE52779F949257385000D2F
0B/$FILE/h8ootagawasuishitu.pdf
2-4 お豚さんの糞尿まじりの水を飲みますか!?
著者は大手養鶏、養豚業者のコンサルタントとして、畜糞のエネルギー化事業に参加した経験
があり、畜産業が畜糞公害により過疎地域に移転を余儀なくされた現実を知っている。これらの過
疎地域は往々にして山奥の水源地域である。
太田川は天然鮎がたくさん遡上し、森町下流でも鮎の友釣りができる。一見水の透明度も高く水
質的には問題ないように見えるが、緑藻の多さは鮎釣りが楽しめる東海の川の中で際立って多い
部類に属する。緑藻が多いと、それが流れて糸に絡まり、それを取り除くのが大変である。
また、あるとき森町下流の太田川で鮎つりをしていたとき、釣り人が帰り際に釣った魚を逃がして
いた。その人いわく:「この川の魚は食べれん」
著者はこの緑藻の多さと、「この川の魚は食べれん」という言葉が頭に残っていたが、この原因の
一つが太田川の支流、三倉川のまた支流、中村川の上流にある養豚場に起因することが分かっ
た。
以下、「ネットワーク安全な水を子どもたちに」会員の生々しい現地報告である。
――――――――――――――――――――――――――――――――
三倉川水系、中村川水源近くの大規模養豚場下の沢を仲間で探検にいった。
対岸の遥か山の上に豚舎の見えるあたりで県道から20m ほど下の沢へ降りてみたらもう川底はど
す黒く、変なにおいがしているではないか!
竹の倒れたのを跨いだり踏み越えたりして前進、また前進、200m ほどすすんだら驚いたの何
の、右手に 出てきた沢の出口から、みあげる限りの上の方迄真っ黒なヘドロで一杯!
どこかで 沢を横切ろうとした地元の人がずぶりと胸まで沈没してしまったと言う話を聞いていた
ので、河原で切った長い竹竿をおっかなびっくり突き刺しながら対岸に渡る。
もう この辺は凄い悪臭、それが又いくら時間がたってもなくならない!
真っ黒なタール 状の汚泥をスコップで掬って瓶に少しづつ入れる。
鼻をつまみたいが手がふさがってできない。
すぐ上流までは綺麗な水がながれてきている。そこではサワガニが元気で、岩の下 に逃げ込む
が、かわいそうに、対岸に渡ろうとした蟹は黒い水に入ったとたん死んで 動かなくなっていた。4
体を確認。
袋井から参加されたお母さんはめざとく「みんな 卵を持ってますよ」と教えてくれた。この水を西
遠14市町の人々に飲ませようと言うのか!
こんな巨大な汚染源があっては下流ではかってトリハロメタンの値が淀川より高いはずだ。
県の偉いお役人方へ。
これを我々が公にしたらあなた方は『法律で規制すればいい」というでしょうね。しかし仮に規制
を押し付けて、企業が何とか処理設備を作ったとして、この険しい沢にたまりにたまったヘドロを一
体誰がどうやって取り 除くのですか?
ブタ君は県の調査によると 3000頭以上いるようだ。沢から養豚場までは標高差が150m もある。
険しいのと倒木だらけで重機なぞとても登れそうにない。 狭い沢筋に上から下まで汚物がつまっ
ている。規制強化で企業が倒産でもしたら県は責任を持ってこの沢をきれいにできるのか?
そんなことに我々の税金を湯水のように注ぎ込むくらいなら、さっさと太田川取水計画をとりやめ
て、もっとましな水源が十分他に余っているのだからそちらに切り替えてはどうですか。
県知事さん、県会議長さん、企業局長さん、土木部長さん、そして県事業評価監視委員会の皆
さん方、「ネット水」が責任を持ってあなた方を現場に御案内すると思いますから、この惨状を一度
是非、御自分の目で確かめ、この悪臭を御自分で嗅いでみて下さい。
あなた方はそれでもこの水を上水として子供達にのませようとするのでしょうか?
「浄水場を通せば何ら差し支えない」と言う程度の認識しかおもちでないなら、ネットのホームペ
ージの水質のところを一度しっかり読んでみて下さい。そうしてもう一度、この無謀な取水計画を再
検討してください。これはもはや政治の問題をとおりこして人道の問題です。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
出典:「ネットワーク安全な水を子どもたちに」ホームページ
http://www.geocities.co.jp/NatureLand/2063/sub1-4.html
この問題は行政当局の養豚業者への行政指導で改善されたとのことであるがーーー。
この種の問題は、表流水を利用する限り避けられない問題であり、残る課題は程度問題であろ
う。東京等の大都市の上水道では、上流のし尿処理場で処理した水を川に戻し、それを水道水に
利用している。ブタ君の立場からいえば、「なぜブタのし尿処理水がだめですか」ということになろう。
但し、天然のろ過装置を利用した地下水はそれなりにきれいである。結局はこの問題は水を飲む
人の好みにより決まるのではなかろうか? 静岡市のように安倍川の地下水を水源にし、お茶の
文化を育てようとするのか、カルキ臭が強くても、遠州の「やらまいか精神」でそれに打ち勝つ立派
なお茶を育てるかーーー。
2-5 天下の悪水「淀川」と同じレベルの太田川の原水
水道用原水の質を評価する指標として、細菌を死滅させるために投入される塩素により発生す
るトリハロメタンの量がある。メタンは炭素 1 個に 4 個の水素が結合している。トリハロメタンは 4 個
の水素のうち、3 個水素の代わりに塩素、臭素が結合したものの総称でありであり、図 2-3 に示す
ように、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、ブロモホルムの4種類がある。
クロロホルム
ブロモジクロロメタン ジブロモクロロメタン ブロモホルム
水素の代わりに3個の
臭素(Br)が結合
水素の代わりに3個の
塩素(Cl)が結合
図2-3 総トリハロメタンの種類
尚、トリとは英語で 3 を示し、ハロは塩素、臭素が属する周期律表のハロン族を意味する。
これらの総量は総トリハロメタン量と呼ばれ、水道水中の総量が 0.1mg/L(100ppb、ppmの 1/
1000)を超えないことと規定されている。以後トリハロメタン濃度は ppb で示す。
日本の中で水のまずさの筆頭であったのは大阪であった。その理由は琵琶湖の汚染が進み、そ
れが淀川を下る過程でさらに都市排水が加わり、それを水源としているからである。
塩素殺菌して発生する総トリハロメタン量を測定することを総トリハロメタン生成能試験という。水
道事業者は定期的にこの試験を行なっており、平成 12 年度の大阪市柴島浄水場のデーターと太
田川の比較を図 2-4 に示す。
総トリハロメタンの比較(平成12年度)
太田川
淀川 柴島
◆欠測
90
総トリハロメタン濃度(ppb)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月 11月 12月
月
1月
2月
3月
図2-4 太田川と淀川の総トリハロメタン成性能の比較
出典:
太田川:太田川 平成12年度 大田川水質検査結果(原水)、静岡県企業局
ttps://www2.pref.shizuoka.jp/all/file_download1200.nsf/
DEA1B6BFE52779F949257385000D2F0B/$FILE/h12ootagawasuishitu.pdf
淀川 柴島:「水質試験所調査研究ならびに試験成績」、平成12年度、大阪市水道局
太田川の 9 月度のデーターが欠測になっているが、これは大雨による濁りのため、そのまま測
定するととんでもない値がでることを当局が恐れたためと推測する。総トリハロメタン生成能以外は
測定されており、有機物の濃度(KMnO4 の消費量)は水道水基準値の 4.2 倍に達している。この
値を基に「ネットワーク安全な水を子どもたちに」が蓄積した過去のデーターから総トリハロメタン生
成能推定すると 250ppb程度になる。
このような特異なデーターを除外して、平均値で見ても太田川の原水のトリハロメタン生成能は
淀川より若干悪く、太田川の水がいかに汚染された水であるか明白である。
企業局は,
「太田川では川から直接に原水を取って調べているが,淀川では沈砂池や着水
井からとっているからより低い値が出ている」といっている。しかし、ネットワーク「安
全な水を子どもたちに」事務局が大阪市に問い合わせたところ、水質試験所の係官は、
「沈
砂池や着水井戸では有機物は取れないので,そこでの原水の水質は河川水とほぼ同じです」
との回答を得ている。要するに水が川から浄水場の沈砂池まで移動する間にどれだけ浄化
されるかの問題であるが、これはあったとしてもほんのわずかと考えるのが妥当であろう。
2-6 水道管の中で増えるトリハロメタン
一般的に急速ろ過(太田川給水計画はこの浄水法)を行うと、トリハロメタン生成能は50%前後
まで下がるとされている。しかし、浄水場の塩素投入により作られたトリハロメタンは、浄水場から各
市町村の給水タンクに移動、一般家庭に配水される間に水道水中の塩素が未反応の有機物と反
応して増える。また、化学反応の特性として水温が高ければ高いほどトリハロメタンの生成量は増
える。
その一例として、天竜川系の水を使った寺谷浄水場を出るとき 20ppb であったものがが、わず
か 15km しか離れていない竜洋町で 40ppb に増えた実例がある。
ネットワーク「安全な水を子どもたちに」は寺谷浄水場から浜松までの間で 1.5倍、さらに西の湖
西に行くまでに 2 倍ほど増えると推定する。
静岡県企業局はトリハロメタン 50ppb以下を水質の目標値としている。このように高い数値を掲
げているのは太田川系の水質の悪さを自認しているためと推測する。しかし、50ppbの水が 50km
も離れた湖西に送られると 100ppb、つまり水道基準限度まで増加する可能性がある。
尚、50ppb に近くなると厚生労働省の指導が入るといわれている。
2-7 ドイツの基準値は 25ppb 以下
企業局は「水道基準は 100ppb であり、これ以下であればきれいで美味しい水」と主張する。しか
しドイツの基準値は 25ppb である。
ドイツ人も日本人も同じホモサピエンスという生物であり、日本人がトリハロメタンに強い人種で
あるという科学的な知見は現時点ではない。
アメリカ環境保護庁(EPA)では、当面はドイツ並みの25 ppb の達成をめざし、最終的にはゼ
ロに近づけるとしている。
その理念として次を掲げている。
①発ガン物質には許容量がない
②人が一生を通じてガンになる危険率を10万分の1にする
日本の水道法は第5条の 1 で次のように定めている。
「取水施設は、できるだけ良質の原水を必要量取り入れることができるものであること。」
静岡県は、できるだけ良質の原水を探す努力をせず、ダムを作るからそれに便乗して水の量だ
け確保しようという考えであり、何の理念も感じられない。
2-8 本当に怖いトリハロメタンの家庭の医学
テレビの人気番組に『最終警告! たけしの本当は怖い家庭の医学』があるが、トリハロメタンは非
常に怖い。以下、静岡県立大学環境科学研究所の杉山千歳助手が寄稿した 2002 年 9 月1日の
中日新聞「食と健康」欄を抜粋する。
「1974、年米国のミシシッピ川下流域で、表流水を塩素殺菌して水道水として飲んでいる人は、地
下水を飲んでいる人と比べると、いろいろながんによる死亡率が高いという「ハリスレポート」が公
表された。原因物質は水道水中の主としてトリハロメタンであるとされ、その後、水道水の安全性が
世界的に注目されるようになった。トリハロメタンは動物実験の結果、肝臓や腎臓に対して機能障
害を引き起こすだけでなく、特にクロロホルムは肝臓がんを誘発する。
実は塩素処理時に水道原水中の有機物(植物や動物由来のフミン質、生活廃水由来の有機物
質)と塩素が反応してトリハロメタンが生成されるが、それ以外にクロロ酢酸、抱水クロラール、クロ
ロアセトン、クロロアセトンニトリルなど、発がん性、変異原性を有する有機塩素化合物が生成する
ことが明らかにされた。なかでも強力な変異原性を示す物質としてクロロフラノン化合物の MX があ
る。MX は他の化合物に比べてごく微量(水道水1リットル当たり1-30ナノグラム)でも変異原性を
起こす。」
変異原性物質というのは遺伝子に突然変異を起こさせて、遺伝毒性を与える性質のことである。
このような毒性を持つものとしては、次の二つがある。
・化学物質、X線、紫外線のような物理的要因
・ある種のウィルスの感染による生物学的要因
生物への影響のルートとしては生殖細胞が遺伝子変異をうける場合と、体細胞がうける場合が
ある。
・生殖細胞が遺伝子変異を受ける場合
卵子や精子は、それぞれ遺伝子の分裂が繰り返されて形成されるが、その過程で複製ミスが起
り、奇形等のさまざまな障害を招く。また、変異を受けた遺伝形質は子々孫々に継承されようにな
る。
・体細胞が突然変異を受ける場合
人体は臓器、組織をあわせると70兆個の体細胞でできており、これらの細胞のひとつひとつが
ガン遺伝子を持っている。通常それらの細胞は高度の修復機能を持っているが、変異原性物質
に攻撃されると突然変異が重複して発ガンしてしまうと言われている。
このような変異原性物質は浄水場の塩素で生成されることが分かってきた。つまり、変異原性物
質の形成過程をみると、原水に含まれる量は少ないのに、それに塩素処理をしたとたん多くなるこ
とが判明してきた。
現時点では「変異原性物質」は大学等の研究室レベルのみの調査であり、浄水場では調査は
行われていないが、検査の必要性を指摘する声が研究者の間で大きくなっている。
2-9 さらなる恐怖、陰イオン界面活性剤
陰イオン界面活性剤の濃度と乳がんになる確率に比例関係があることが知られている。
陰イオン界面活性剤は合成洗剤、シャンプー、リンス、トリートメント剤に多く含まれている。水質
基準は 200ppbである。 太田川と淀川の陰イオン界面活性剤濃度の比較を図 2-5 に示す。
太田川
淀川柴島
80
陰イオン界面活性剤濃度(ppb)
70
60
50
40
30
20
10
0
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
1月
2月
3月
図2-5 陰イオン界面活性剤濃度の比較(平成12年度)
出典:
太田川:静岡県企業局ホームページ、太田川取水地点の水質検査結果、水質検査結果(平成12年度)
https://www2.pref.shizuoka.jp/all/file_download1200.nsf/DEA1B6BFE52779F949257385000D2F0B/$FILE/h12ootagawasuishitu.pdf
淀川 柴島:「水質試験所調査研究ならびに試験成績」、平成12年度、大阪市水道局
注記:両河川とも5月から11月までは20ppb(検出能力)以下であった。また、太田川の平成13年2月、淀川平
成13年3月は20ppb以下であった。20ppb以下はグラフの上では20ppbとした。
東京、大阪等の水道水の界面活性剤の濃度は他の地域より高く、従って乳がんになる確率が
高いことが知られている。
太田川の場合、春から秋に掛けて雨量が多いときは川の流量の中に占める洗濯廃水の割合は
小さく、陰イオン界面活性剤濃度は低い。しかし冬場から春の初めの雨量の少ない期間は陰イオ
ン界面活性剤の濃度が上がる。まさに太田川は恐怖の水道用原水である。
なぜこんなことが平気で行われるのであろうか。
それはトリハロメタンがどのようにして作られるかも知らない静岡県のエリート役人が水道行政の
責任者として采配を振るうからである。
2-10 トリハロメタン生成メカニズムを知らない水道室長
静岡県の水道行政に係わる部署として企業局水道室があり、ネットワーク「安全な水を子どもた
ちに」の太田川の水は汚染されているという主張に対し、いろいろな反論を試みてきた。その代表
として平成 15 年 6 月度県議会商工労働委員会での大矢水道室長の珍(迷)答弁を紹介する。以
下 15 年 6 月度県議会商工労働委員会議事録
大矢水道室長
「トリハロメタンにつきましては、御承知かと思いますけれども、こういう今日のような非常に雨の
降った日ですね、このようなときに有機物と一緒に河川に出てきます。そういうときに、濁質と一緒
に浄水場で浄化いたしますものですから、有機物と塩素が結合してトリハロメタンが発生すること
は 100%ございません。したがいまして、給水する水においては全く問題なく給水できる、そのよう
に確認をしております。」
この発言には部下に水道室員もびっくり仰天したに違いない。 たとえ水道室員が発言の取り
消しに動いたにしても、トリハロメタンが浄水過程の塩素殺菌で発生することすら理解していない
人が水道行政の責任者であったという事実は取り消すことはできない。
2-11 静岡県弁護士会もびっくり、取水点の水質
日本弁護士連合会は、弁護士の社会的使命を達成するために、県単位の弁護士会の中にいろ
いろな委員会を設置し、地域社会が抱える問題点を整理して、法の正義の立場から提言してい
る。
静岡県弁護士会の中にも公害対策・環境保全委員会があり、住民からの要望に応えて、太田川
ダム利水の水質問題が取り上げ、2002 年 5 月森町を現地調査した。
弁護士の先生方は取水点上流に流れ込む小河川の汚染にはびっくり仰天した。これはローカ
ルテレビでも放映された。
静岡県弁護士会は現地調査を基に 2003 年 3 月静岡県知事への要望書を作成、提出した。
その骨子は次のようなものである。
太田川ダム利水上の必要性並びに取水点での水質についての情報公開が誠実に行われてい
るとはいえず、住民が訴えている不安や疑念は十分に理解できるところであるから、静岡県は以
下の各点について再度調査をし、また、開示されていない情報につき速やかに開示すること。
(1)、西遠地域における水需要予測
(2)、取水予定地の原水の汚染度
*省令の 0.1mg/L(100ppb)の基準値は、一生のみ続けた場合 10 万人につき 4 人が発癌する
濃度であるといわれている。片やアメリカ科学アカデミーは、この濃度は 10 万人につき 50 人が発
癌するといっておりこの基準自体に疑問がある。WHOが採用する毒物全体の許容基準は 10 万
人に一人の基準である。省令はなぜ水についてWHOの基準よりも緩和された基準を採用するの
か、さらに、基準値は体重数十キロの大人を予定しているが、母親の母体内の胎児に与える影響
等は未だ判然としていない。妊娠初期の女性にとっても流産の不安を払拭できない、などの疑問
があるからこの点の調査は慎重を極めて行われるべきものである。
(3)、平成 12 年 9 月 12 日のトリハロメタン検出情報
(4)、平成 14 年度森町で配布されたパンフレットに記載された情報についての釈明。
弁護士会といえば相当の影響力を期待できる。しかし、単なる「要望書」では、水道法の水質基
準を満足していれば「きれいで美味しい水」とい立場の静岡県からの回答は極儀礼的なものであ
った。
それにしても、なぜ静岡県はこのような汚い水を飲ませようとするのであろうか?
答えは簡単である。
水道事業は大変儲かる事業であり、自己増殖を遺伝子に組み込まれた日本型行政組織として
は絶好の増殖分野であるからである。
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