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永松泰成 ウレタン樹脂研究部ユニットチーフ [紹介製品のお問い合わせ先] 当社安井事業本部樹脂産業部 いる。 われわれの周りでは、いろいろ なところで静電気による障害が起 当社では、アクリル系粘着剤 こっている。身近な例では、衣服 『ポリシック』の重合技術と界面活 のまとわりつき、ドアのノブに触 性剤や永久帯電防止剤で培った帯 れたときや自動車に乗る際に感じ 電防止技術を融合させた、新規な る静電気など、乾燥した時期には 帯電防止粘着剤『ジーエスタック』 多くの人が体験している。 シリーズを開発した。 粘着剤とは 電子産業分野でも、液晶パネル ディスプレー (LCD)やプラズマデ 粘着剤は広い意味では接着剤に ィスプレー (PDP) などのフラット 含まれるが、接着剤は被着体をは パネルディスプレー (FPD) の製造 り合わせたあとに液状の接着剤が において、静電気によるほこり付 固化して接着力を発現するのに対 着や液晶部材の損傷などで不良品 して、粘着剤はこのような変化を が発生する問題があり、さまざま せず簡単に被着体にはり合わせた な帯電防止策が講じられている。 り、引っ張ってはがしたりできる 接着剤の一種である。 FPDや、その光学部材の搬送・ 保管時に傷や汚れを防止するため 粘着剤は、接着剤のようにそれ のプロテクトフィルムや光学部材 自体で市販されることは少なく、 どうしの積層に粘着剤が使われて 一般にはセロハン、紙、プラスチ おり、この粘着剤に帯電防止性を ックなどのような基材に塗工され、 付与する製品の開発が進められて テープ状またはシート状の製品と プロテクトフィルム 偏光板 光学補償フィルム ガラス基板 R G B 粘着剤 カラーフィルター 透明電極 配向膜 スペーサー 液晶 配向膜 透明電極 ガラス基板 偏光板 光学補償フィルム 輝度向上フィルム バックライト 図1● LCD の粘着剤の使用部位 三洋化成ニュース ➊ 2009 春 No.453 の積層用粘着剤は、LCDやPDPに 使用されるので、透明性に優れた アクリル系粘着剤が主に使用され ている[図1] 。一般にアクリル系 フィルム 粘着剤 光学部材 プロテクトフィルム はく離時に 静電気発生 フィルム プロテクト 粘着剤 フィルム 光学部材 粘着剤は絶縁体であるため、プロ テクトフィルムを被着体(光学部 材)からはがすときに発生する静 電気は逃げることができず、被着 体(光学部材)やプロテクトフィ ルムの表面にとどまり、空気中の フィルム フィルム はく離時に 静電気発生 光学部材 ほこりの吸引や液晶部材の損傷な 粘着剤 粘着剤 光学部材 光学部材 どの問題を起こすことから、粘着 剤に帯電防止性能を付与すること が求められている[図2] 。 FPD 用粘着剤の帯電防止 図2● FPD 製造工程の静電気発生メカニズム 静電気の発生を防ぐため、一般 的に用いられている方法は、低分 表1●帯電防止粘着剤の性状比較 『ジーエスタック P-1000』 低分子イオン 成分添加 高分子帯電防止 成分添加 粘着力*1(N/25mm) 0.1 ∼ 0.5 0.1 ∼ 0.5 0.1 ∼ 0.5 表面抵抗率*2(Ω/□) 2.5 × 1010 1.5 × 1011 3.0 × 1011 持続性*3(Ω/□) 子イオン成分(無機塩、有機塩な ど)や高分子帯電防止成分(ポリ エチレングリコール、ポリエーテ 2.5 × 1010 5.0 × 1012 3.0 × 1011 ルエステルアミドなど)を粘着剤 全光線透過率*4(%) 92 92 70 主成分に添加し混合する方法であ ヘイズ(曇り)*4(%) 0.4 0.4 6 被着体汚染*5 なし あり なし 測定方法:粘着剤に架橋剤を数%添加し、作成した試料を測定 * 1 粘着力(JIS Z0237 に準拠):試料を被着体とはり合わせ、引張試験機を用いてはく離強さを測定 * 2 表面抵抗率(JIS K6911 に準拠):粘着剤表面の電流を超絶縁計で測定 * 3 持続性(JIS K6911 に準拠):試料を 60 ℃、90 % R.H.で 10 日間放置後、表面抵抗率を測定 * 4 全光線透過率(JIS K7361 に準拠)、ヘイズ(JIS K7105 に準拠):試料をスライドガラスにはり合わ せた後、ヘイズメーターで測定 * 5 被着体汚染(当社評価方法):試料をステンレス板にはり付け、60 ℃、90 % R.H.で 10 日間放置後、 試料をはく離し、ステンレス板上の汚染を目視で判定 る。しかしながら、これらの方法 を FPD 用粘着剤に応用した場合、 以下の問題点が発生する。 低分子イオン成分をアクリル系 粘着剤に添加した場合、低分子イ オン成分が徐々に粘着剤表面に移 行(ブリードアウト)し、被着体 して市販されている。粘着剤は、 が汚染されたり、粘着力が低下し 素材として天然ゴム系粘着剤とア たりする。 クリル系粘着剤に大別される。天 ブリードアウトの少ない高分子 然ゴム系は安価で汎用性に優れて 帯電防止成分を添加した場合、粘 いるが、ラベルやシールなどに加 着剤主成分のアクリル系ポリマー 工する際、粘着剤がはみ出したり と高分子帯電防止成分との相溶性 するなどの加工不良を起こしやす の悪さや屈折率の差などから透明 い、光や熱によってゴムが劣化す 性が低下する。 るため経時的に粘着力が低下した り茶色く変色する、光学部材など に要求される高い透明性が得られ 『ジーエスタック』シリーズの 開発 当社はこうした問題を解決する ない、などの問題がある。 ため、帯電防止成分を添加するの FPD 用粘着剤の現状 ではなく、帯電防止成分を主骨格 プロテクトフィルムや光学部材 のアクリル系ポリマーに化学反応 三洋化成ニュース ➋ 2009 春 No.453 を利用して直接組み込むことで、 高分子帯電防止成分添加 粘着剤自身に帯電防止性を付与し 『ジーエスタック』 シリーズ 15 1×10 た新規な帯電防止効果のある粘着 剤『ジーエスタック』シリーズを 1×1014 開発した。 『ジーエスタック』シリーズの 特長は、従来の帯電防止粘着剤に 比べ、帯電防止性に優れているこ ) や透明性、粘着性を兼ね備えてい ( とに加え、被着体汚染がないこと 13 表 1×10 面 抵 抗 率 1×1012 Ω / □ 1×1011 ることである[表1] 。 [ 帯電防止性 ] 1×1010 図 3 に帯電防止成分を添加した 粘着剤と『ジーエスタック』シリ 1×109 0 ーズについて、帯電防止成分量と 5 10 15 20 25 帯電防止成分量(質量%) 帯電防止性の関係を示した。いず れの場合も、帯電防止成分量が増 えるにつれ、帯電防止性は向上す る(表面抵抗率は小さくなる) 。 一般に、帯電防止成分をポリマ ー中に組み込むと、添加した場合 測定方法:JIS K6911 図3●帯電防止成分量と表面抵抗率 表2●帯電防止性の付与方法と被着体汚染の有無 帯電防止成分量 (質量%) に比べて帯電防止性が低下するが、 『ジーエスタック』シリーズにおい 『ジーエスタック』 シリーズ 低分子イオン 成分添加 高分子帯電防止 成分添加 0.2 汚染なし(○) 汚染あり(×) 汚染なし(○) 5 汚染なし(○) 汚染あり(×) 汚染あり(×) 20 汚染なし(○) 汚染あり(×) 汚染あり(×) ては、当社帯電防止技術を活用し、 帯電防止成分を最適化したことで、 帯電防止成分をポリマー中に組み 高分子帯電防止成分添加 込んでいるにもかかわらず、帯電 『ジーエスタック』 シリーズ 95 防止成分を添加した場合よりも優 れた帯電防止性を有する。 90 [被着体汚染] 表2に帯電防止性の付与方法と 85 被着体汚染の関係を示す。被着体 汚染は、粘着製品をはがしたあと 粘着製品が付着していた面(被着 ( 体表面)を目視で観察し、汚れて 全 光 線 透 過 率 % 80 75 ) いないかを判定した。 図 3 のとおり帯電防止成分量を 70 増やすことで帯電防止性は向上す るが、帯電防止成分を添加した場 合、経時で帯電防止成分がブリー 65 1×1010 1×1011 1×1012 1×1013 表面抵抗率(Ω/□) 1×1014 1×1015 ドアウトし、被着体を汚染する。 低分子イオン成分で0.2質量%、高 分子帯電防止成分でも5質量%添 測定方法:JIS K7361、 K7105 図4●帯電防止性と透明性の関係 三洋化成ニュース ➌ 2009 春 No.453 添加した場合に透明性が低下する 低分子イオン成分添加 『ジーエスタックP-1000』 のに対し、帯電防止成分をポリマ ー中に組み込んだ場合、透明性の 0.5 低下はない。帯電防止成分を20質 量%組み込んでも透明性の低下は 0.4 なかった。 [ 粘着性 ] 0.3 粘 着 力 帯電防止成分を添加したものは 経時で帯電防止成分がブリードア (N/25mm) 0.2 ウトし、粘着力が低下してくる。 帯電防止成分をポリマー中に組み 込んだ場合は、ブリードアウトが 0.1 ないため、粘着力の低下はないこ とが図5からわかる。 0 0 5 10 15 20 以上のように、帯電防止成分を ポリマー中に組み込むことにより、 はり付け後経過日数(日) 測定方法:JIS Z0237 被着体を汚染せず、透明性、粘着 性を兼ね備え、従来にない優れた 図5●粘着力の経日変化 帯電防止効果のある粘着剤『ジー 表3●『ジーエスタック』シリーズの性状比較 『ジーエスタック P-1000』 *1 粘着力 『ジーエスタック F-2000』 エスタック』シリーズを開発した。 表 3 に『ジーエスタック』シリ ーズの性状を記載した。プロテク (N/25mm) 0.1 ∼ 0.5 1∼2 表面抵抗率*2(Ω/□) 2.5 × 1010 5.0 × 10 9 持続性*3(Ω/□) 2.5 × 1010 5.0 × 10 9 92 92 P-1000』 、に加え、光学部材の積 *4 全光線透過率 (%) トフィルム向け『ジーエスタック ヘイズ(曇り) (%) 0.4 0.5 層向けに粘着力を高めた『ジーエ 被着体汚染*5 なし なし スタックF-2000』の2種類をライ *4 測定方法:粘着剤に架橋剤を数%添加し、作成した試料を測定 * 1 粘着力(JIS Z0237 に準拠):試料を被着体とはり合わせ、引張試験機を用いてはく離強さを測定 * 2 表面抵抗率(JIS K6911 に準拠):粘着剤表面の電流を超絶縁計で測定 * 3 持続性(JIS K6911 に準拠):試料を 60 ℃、90 % R.H.で 10 日間放置後、表面抵抗率を測定 * 4 全光線透過率(JIS K7361 に準拠)、ヘイズ(JIS K7105 に準拠):試料をスライドガラスにはり合わ せた後、ヘイズメーターで測定 * 5 被着体汚染(当社評価方法):試料をステンレス板にはり付け、60 ℃、90 % R.H.で 10 日間放置後、 試料をはく離し、ステンレス板上の汚染を目視で判定 ンアップした。 帯電防止性と他の性能とのバラ ンスが取りやすい特長を生かし、 FPDの製造用に加え、帯電防止性 の求められる用途で役立つ粘着剤 加すると被着体に汚染(油状物) として、さらなる高機能化を進め が発生する。帯電防止成分をポリ ていきたい。 マー中に組み込んだ『ジーエスタ ック』シリーズでは、帯電防止成 参考文献 1)筧哲男監修『パフォーマンス・ケミカ 分が20質量%でも汚染はない[表 ルスの機能シリーズ』No.9「くっつける」 2] 。帯電防止成分を組み込んだこ 三洋化成 (1999) とにより、被着体を汚染せずに帯 2)筧哲男監修『パフォーマンス・ケミカ 電防止性が向上している。 [ 透明性 ] 三洋化成 (1999) 3)福沢敬司『接着の技術』8(1) 、p53 帯電防止性と透明性の関係を図4 に示した。高分子帯電防止成分を 三洋化成ニュース ルスの機能シリーズ』 No.10「帯電を防ぐ」 ➍ 2009 春 No.453 (1988)