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訪問看護師から伝えたい事 「家に帰すのも悪くないですよ」 非がん疾患
平成28年8月21日臨床研修医のための在宅医療研修会 訪問看護師から伝えたい事 「家に帰すのも悪くないですよ」 非がん疾患高齢者と家族の 最終的な意思決定支援とその実現の看護 医療法人慈恵会北須磨訪問看護・リハビリセンター 訪問看護師 藤田愛 本日の講義内容 ・自己紹介 ・訪問看護ステーションの概要 ・2事例紹介 ・まとめ 高齢者の最後の絶望と無念と 私の人生、私の生命なのに、なぜ私の希望をたずねてはもらえないのですか。 なぜ先生と家族だけで胃ろうを入れる話をしているのですか。 そんなものなどしたくない。最後まで食べ続けたい。 だめなら、それが私の寿命です。私は入院などせず、家にいたいんです。 お願いです。 胃ろう造設。退院後、介護負担のため療養型入院2週間後、永眠。 慢性疾患高齢者と家族の最終的な意思決定支援 高齢者は我が身の死にゆく悲嘆を 乗り超えてゆける力がある けれど長年生きてきて 一番大切にしたいこと ありたい自分の生き様を持っている 自分の最期の時にどうしたいかを 聞いてもらえず、実現の検討も されない そのことが絶望と無念を生む そして人生の最後の生を終える 北須磨訪問看護・リハビリセンター 概要 平成16年5月1日開設 利用者 自宅224名 施設 14名 主治医114名 所属 診療所50 病院 21 ケアマネジャー80名 事業所47 職員構成 30名 看護師13名 理学療法士8名 作業療法士2名 言語聴覚士1名 事務員3名 学生アルバイト2名 心理カウンセラー1名 (嘱託 職員サポート) 併設 居宅介護支援事業所 介護支援専門員4名 北須磨訪問看護・リハビリセンターの位置 平成24年 須磨区 兵庫県 神戸市 須磨区 人口 高齢化率 552.7万人 23.2% 68.5万人 23.3% 16.8万人 26.1% 神戸市 昭和40-50年代に開発された須磨ニュータウン 疾患名分類 年齢75歳以上(72%) 認知症あり (57%) その他 腎不全 9% 5% 呼吸不全 難病 脳血管障害 14% 認知症 6% 12% 6% 糖尿病 末期癌 7% 11% 心疾患 骨・筋・関 9% 節 精神 10% 11% 【世帯の状況】 独居世帯 21% 夫婦世帯 31% 事例紹介1 高齢者は一度入院したら生活機能を失い 帰れなくなる Sさん 男性 80代 疾患名:狭心症 慢性気管支炎 肺気腫 加齢に伴う虚弱 大腿部骨折術後 家族 :体調不良のある奥様との2人暮らし 多忙世代の子供二人 それぞれ協力あり 経過 :単発のアクシデント 生活機能はそのたびに緩やかに低下 予測していなかった腸閉塞による急変 食欲不振、嘔吐 妻より訪問看護師の携帯電話に連絡 主治医に連絡し、対応の相談 症状は軽く、一日絶食にして翌朝まで経過観察対応 翌朝一番に状態確認「悪化」と判断 至急、主治医を受診 腸閉塞の診断 主治医から、救急病院に受け入れ要請 →緊急入院、手術 閉塞・壊死部切除 人工肛門造設 一時、命の危機に至るような重篤な状態 順調に回復 入院して一か月、Sさんの様子に異変が生じ始める 気分の浮き沈み 勝手に歩く 「今日、家に帰りますねん」 おかしな会話が増える 入院前は歩行器で歩行 病院では終日ベッド上で寝たまま バルン留置 非日常的な空間 「家に帰りたい。家族と一緒にいたい」一心 Sさんは長引く入院環境で、住み慣れた場所、家族と離れ 不安の大きさに耐えきれなくなってきている もう数日しか持ちこたえられない 家に帰りたい。家族と一緒にいたい だから私は必死でがんばった 腸閉塞は治療も終わり問題ない 治療の影響で血糖が高い 尿の管の管理 継続した医師の診療が必要 おばあちゃんとふたり。家族も仕事、家 庭があり、たまにしか手伝えない。 歩けなくなった上、身の回りのこともで きなくなりストマ、血糖の管理は素人 家には連れるのは無理…施設に入れたい 何を最善と考え、何を優先? 今、私にできることは何? Action 退院支援・退院調整への介入 <診療の継続> 担当医に「もう気力がもたず限界です」早期退院を相談 治療内容の情報を得る→在宅医療で可能な範囲 在宅主治医や訪問看護のサポートのあることを知らなかった 「家に帰ってそのようなシステムがあるなら退院」 <病棟看護師に退院準備を依頼> ①膀胱留置カテーテル(尿の管)を抜く試み ②リハビリ 食事の時はベッド上でなく車いすに移乗 ③「あと7,6日…あさって,明日帰れますよ」 気持ちをつなげられるよう声をかけていただきたい. <家族との話し合いを繰り返す> Sさんの置かれていた致命的な状況、家に帰りたい家族と 一緒にいたい思いでの懸命な努力を共有 家族それぞれの事情と思いを聞く 自宅、施設入所のメリットとデメリット 入所可能な施設の紹介 自宅でどんな支援(サービス)が何を、どれくらい、いくらで 受けられるか 家族が無理なく協力できる範囲の確認 折衷案:家を一ヶ月だけ試してみませんか? 一か月の期間限定…それならばやれる ~退院 蘇り~ 間に合った 自宅に戻った瞬間 本来のSさんを回復 やっぱり家はいいです 私は家にいて、家族と一緒に過ごせる、それが一番です 夫、父、祖父の役割があり自分というものが感じられる 入院中にあったおかしな言動は一度もなかった。 ~一か月後の達成目標~ 自宅での奥様との2人暮らしを可能にする 1.入院で弱った心身の衰えを回復させる 2.全身の体調の管理と安定 3.本人の実力を最大限に引き出し、妻の介護量を 最低限にとどめる 4.本人も奥様も夜間は十分な睡眠が取れる 5.子供ご家族の健康維持 一か月で全ての目標を達成し、 家で暮らし続けることになった <医療面> ストマ:本人、妻 便の廃棄、ヘルパー 交換 高血糖:ちょっとだけ少な目食事で正常、内服も中止 事例2 救急搬送か本人の願い通り家で最後を過ごす ことを優先するのか。認知症と心不全を持つ 高齢者と看護 19 90代 男性 慢性心不全(末期)心房細動 糖尿病 閉塞性動脈硬化症・左足切断 歩行不可 慢性腎不全 週3回の透析 認知症(記憶障害、ADL低下) 6か所の転院 急性期→療養型 一年以上の入院中 認知症の妻との二人暮らし 別居でそれぞれ家庭を持つ娘2人 これまでの関係で情緒的なつながりを失う 自宅での生活は無理 「家に帰りたい」情緒不安定 大声を出す 車いすで徘徊 心不全の進行でぐったりする日が増える 20 病棟看護師本当にこのままでいいのだろうか→ MSW→ケアマネジャー→ 訪問看護師「もちろん帰ろう!」退院準備へ 21 退院前カンファレンス 医療<本人の意思、満足 24時間の完全な命、安全の保証などない 予後予測に基づいた具体的な打ち合わせ ①急変、急死の起こり方について、想像できるすべての パターンを想定、対応を打ち合わせ ②本人、家族、関係者でできる範囲を医療と命の限界 ③どちらも身の回りのことが完結できないが 夫婦の穏やかな生活リズム、受け入れられるサービス ・通院透析週3回 医師、透析室看護師、MSW ・在宅主治医/訪問診療、訪問看護師 ケアマネジャー、ヘルパー ④薬剤管理の限界と生活リズムに合わせた処方内容への変更 22 翌日退院 本人の意向 妻と一緒にいたい。ただ普通に家で過ごしたい。 私は最後は畳の上で死ぬと決めています。そこのところを しっかりお頼みします。 23 一か月後 急変 心不全の悪化 救命か本人の意思尊重か 朝ヘルパー訪問で急変の連絡があり うずくまって動かない 息づかいがおかしい 看護師緊急訪問 意識消失、四肢冷感、末梢チアノーゼ 脈拍触れず 呼吸40回 無呼吸 血圧140~110維持 救急搬送すれば救命の可能性あり 全身的な回復、再度家に帰ることは無理だろう 24 何を最善と考え、何を優先? 今、私にできることは何? 25 CHALLENGE 答えはない。全員で決める 電話での緊急カンファレンス 今何が起きているかの推測 家、病院搬送のメリット、デメリットを考察 それぞれの意見を聞き、一つにまとめる 在宅主治医:診療中ですぐに訪問できない。倫理的には 救急搬送か。 家族:悩む、でも看護師さん、救急搬送をして治療を受 けたら元に戻りますか?覚悟はできています。このまま 見守ってはだめですか。 26 MSW,病院主治医(MSWを通じて) 難しい判断ですがここにきても命は救えない。 これまでの経過からそれもよい。 ケアマネジャー、ヘルパー:判断はできないけれど、ど ちらに決まっても納得、賛成します。 再び、在宅主治医:分かりました。診療が終わり次第、 往診します。それまでの間の状況予測、指示を確認し、 医師不在でも看護師で対応可能とした 関係者全員一致で在宅看取りが決定 妻、娘と一緒に眠る男性を見守った 妻の参加 苦痛症状の緩和:身の置き所のないしんどさ、息苦しさ 3時間後に静かに永眠 27 MSW,病院主治医(MSWを通じて) 難しい判断ですがここにきても命は救えない。 これまでの経過からそれもよい。 ケアマネジャー、ヘルパー:判断はできないけれど、ど ちらに決まっても納得、賛成します。 再び、在宅主治医:分かりました。診療が終わり次第、 往診します。それまでの間の状況予測、指示を確認し、 医師不在でも看護師で対応可能とした 関係者全員一致で在宅看取りが決定 妻、娘と一緒に眠る男性を見守った 妻の参加 苦痛症状の緩和:身の置き所のないしんどさ、息苦しさ 3時間後に静かに永眠 28 まとめ 慢性疾患高齢者医療のあり方の転換期 高齢者の死が増加 慢性疾患を要因に亡くなる高齢者が6割 平成26年11月4日 3学会からの提言 日本救急医学会・日本集中治療医学会 日本循環器学会 救急・集中治療における終末期医療に関する ガイドラインの作成 同時に医師の判断、指示頼みの看護からの転換期 ~医療の守るべきふたつの命~ 身体的な命 心の命 医療による 治療、救命、延命 本人の価値 生き方、願いの実現 医学的な状況と本人の意思、家族の意向を合わせて 一緒に命を考えて、決めてゆく