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PDF289KB - 新潟県立教育センター
平成21年度 理数教育ステップアップ研修 実践記録 全員が体細胞分裂を観察できる実験の工夫 ― 高等学校 生物Ⅰ「細胞の増殖と分化」の指導を通して (実践者 新潟県立新潟江南高等学校 ― 菅家 陽子) 実験の好きな生徒は、生物が好きなことが多く(表1)、意欲を持って学習に取り組んでいる場合 が多い。これは、実験において、実際に生徒自身が操作して、触れて、見ることができるため、理科 の面白さを味わうことができ、それが学習への強い意欲として働くからである。 体細胞分裂の観察実験は多くの学校で行われているが、自身の作製したプレパラートから分裂像 を生徒全員が見つけられることは非常に難しい。そこで、本研修では、操作の説明方法や材料、試 薬等を検討し、全員が分裂像を観察でき、できる・見れる・面白さを味わうことができる実験を目指 して行った。また、各自のデータをクラスで共有することで、意欲を高められるようにした。さらに、 分裂像の数を数えさせ、所要時間と比較する考察を取り入れることで、観察だけではなくデータを分 析することで新たなことを見つける喜びや深く追究する楽しさを味わわせることも目標とした。 生徒の様子やアンケート、実験レポート等から、本授業は概ね期待した成果が得られたと考えて いる。 1 「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」ための構想 (1) 生物選択者(理系クラス)に対するアンケート(表1) 表1 アンケート結果 アンケート結果より、約60% 実験は好きですか。 の生徒が生物および実験を「好 1 嫌い き」または「非常に好き」と回 答しており、実験の好きな生徒 には生物が好きな生徒が多い 好きな生徒は、実験で楽しさ、 生 物 2 あまり好きではない は 好 3 どちらともいえない き で 4 好き す か 5 非常に好き 。 ことがわかる(表1)。実験が 1 嫌い 計 0% 0% 0% 0% 0% 0% 2 あまり好きではない 3 どちらともいえない 0% 0% 7% 5% 2% 14% 面白さを味わっており、成功する喜びや新しいことを発見す る喜びを感じている生徒もいることがわかった。これは、深 く追究する楽しさにも発展していくと考えられる。 一方、実験が「あまり好きではない」と回答した生徒に対 0% 5% 8% 14% 3% 31% 表2 4 好き 5 非常に好き 計 0% 2% 15% 17% 2% 36% 0% 0% 2% 15% 3% 20% 0% 7% 32% 51% 10% 実験が「あまり好きではない」理由 時間が少なくて、時間内に終わらないから 時間に限りがあるから しては、表2から、時間内にやり遂げられる成功率の高い実 自分の作業のペースが遅いから 験にする、消極的な生徒や面倒だと考えている生徒には役割 他人を頼ってしまう自分がいるから や目的をもたせることでやる気を喚起していくことが大切 授業を聞くことの方が良いから であると考えられる。 つまらない 楽しくなかった (2) 本単元の指導目標 生物教室のにおいが苦手 細胞の増殖していくしくみに関心を持ち、観察&実験を 通して意欲的に学習する。(自然事象への関心・意欲・態度) さまざまな分裂像をもとに、細胞分裂の過程を考える。生物の種類によって染色体数および 核型が異なることの意味を考える。分裂像の数と分裂にかかる時間が比例関係にあることを理 解する。(科学的思考) 観察&実験「植物細胞の細胞分裂の観察」を行い、分裂像を探し、スケッチする。(技能・ 表現) 体細胞分裂の過程を染色体の複製や変化を中心に理解するとともに、動物細胞と植物細胞に おける細胞分裂の違いも把握する。(知識・理解) -1- (3) 本単元における「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」ための構想 実験は、生徒自身が実際に体験することができるため、生徒の興味・関心を喚起し、科学の 面白さ・神秘に触れさせる良い手段である。そこで、本単元では、植物の体細胞分裂を観察す ることで、観ることの楽しさ、自分でやってみることの面白さを味わわせたい。さらに、体細 胞分裂像をただ単に観察するだけでなく、各期の分裂像を計測させ、所要時間との関係に気付 かせることで、データ処理から考えていく面白さや、事実を発見する喜び、深く追究する楽し さを味わわせたい。 (4) 指導と評価(全4時間) 次 学習内容 第 一 細胞分裂 次 学習活動 評価と方法 細胞は細胞分裂によって増えること、細胞分裂には 小テスト 体細胞分裂と減数分裂があること、および体細胞分 ノート 裂の特徴などを理解する。 定期考査 体細胞分裂に際しては、まず間期に染色体の複製が 行われ、複製された染色体が凝縮して太くなり観察 第 二 次 できるようになる。この太い染色体は全く同じ遺伝 体細胞分裂の 子をもった娘染色体2本からなり、その中央で縦に 過程 裂けている。中期に整列し、後期に娘染色体が紡錘 糸に引かれて両極に移動することにより均質に二 小テスト ノート 定期考査 分されること、したがって、母細胞と娘細胞で染色 体は等量・均質であることを理解する。 染色体の形や数は生物の種類ごとに一定であるこ 第 三 次 第四次(本時) 2 染 色 体 と 核 型・核相 と、体細胞の染色体にはふつう相同染色体が2本ず 小テスト つあることを学ぶ。細胞分裂によって生まれた細胞 ノート が、分化することにより独特の形やはたらきが現れ 定期考査 ることを理解する。 観察&実験「植 物細胞の細胞 分裂の観察」 一連の操作およびその目的を理解するとともに、分 実験レポート 裂像を観察・スケッチする。さらに、分裂像の数と 問題プリント 分裂にかかる時間が比例関係にあることを理解す 小テスト る。 定期考査 授業の実際 日時 平成21年6月18日(木) 第6校時 14:45~15:40(55分) 対象生徒 2年2組 41名(男子23名 女子18名) 本クラスは、理系コースの生物選択のクラスである。 (1) ねらい 本時では、細胞の固定、染色、解離、押しつぶし法などの意味を理解し、実験技術を体得さ せるとともに、実際に体細胞分裂を観察することで生き物の神秘に触れさせる。さらに、各時 期の数と各時期の所要時間の比率が等しくなることに気付かせ、体細胞分裂に関する理解の深 化を行う。 -2- (2) 本時における「理数の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせる」指導の構想と実際 の授業 生物の面白さや深く追究する楽しさなどを味わわせるためには、実験を好きにさせることが重 要である。そのためには、時間内にやり遂げられ、かつ成功率の高い実験となるように工夫・計 画することや、生徒それぞれに役割や目的をもたせることで消極的な生徒や面倒だと考えている 生徒のやる気を喚起することが大切である。 そこで、本時では、全員が体細胞分裂を観察できる(実験を成功させる)、意欲をもって実 験に臨ませるために、次のような工夫を行った。 ① 全員が体細胞分裂を観察できる(実験を成功させる)ための工夫 体細胞分裂の観察では、自身の作製したプレパラートから分裂像を生徒全員が見つ けられることは非常に難しい。理由としては、プレパラート作製の失敗、分裂像の少 なさ・細かさ、細胞の見えにくさ、分裂像の見分けにくさ等が考えられる。そこで、 次のような工夫を行い、すべての生徒が分裂像を観察できるようにした。 教材提示装置の利用 プレパラート作製の演示実験を全員に見せられるようにし、すべての生徒がスム ーズにプレパラートを作製できるように工夫した。 事前に教科書に載っている顕微鏡像をもとにパワーポイントで練習問題を作成し、 それを使って見分ける練習をさせた。 顕微鏡の画像を直接プロジェクターに映し出し、間期や分裂期(前・中・後・終期) について画像を見せながら見分け方を説明することで、自身のプレパラートから分 裂像を速やかに見分けられる(見つけられる)ようにした。 材料・方法等の検討 材料・方法等を下記のように検討した結果、発根後3日程度のニンニクの根を固定し、 染色液はシッフの試薬を用いることにした。 実験材料の検討 ユリ科の植物を中心に、比較検討を行った。その結果、材料の得やすさや処理の しやすさ、分裂期の細胞数等から、ニンニクが最適であった。なお、比較検討を行 った植物は以下の通りである(下線の植物は、処理・観察しやすかった植物である)。 ニンニク、タマネギ、アロエ(不夜城)、ムスカリ、ショウジョウバカマ、ナルコ ユリ、チャイブ、ギボウシ、ホトトギス、オリエンタルリリー、アマリリス、オリ ヅルラン、アスパラガス(観賞用)、クレソン、トラディスカンティア、ベゴニア、 ダリア、グリーンネックレス、アッツ桜 固定時間の検討 発根後3日程度のニンニクの根端(約2cm)を3時間おきに採取・固定し、分裂像が 多い時間帯を調べた。その結果、どの時間帯においても多数の分裂像が観察された。 一般的に、分裂は午前9時前後が盛んであるといわれている。今回用いたニンニクは、 発根後間もないため細胞分裂が1日を通じて盛んであったので、採取・固定時間に関 係なく分裂像が観察できたと考えられる。 染色液の検討 -3- 酢酸オルセイン液、酢酸カーミン液、シッフの試薬、酢酸ダーリア液を用いて比 較検討した。酢酸オルセイン液や酢酸カーミン液については、固定→染色(約3日) →解離の方法も行った。その結果、シッフの試薬、酢酸ダーリア液、固定→染色(約 3日)→解離の酢酸オルセイン液を用いたものが、染色体が鮮明に染まっており、観 察しやすかった(表3)。特にシッフの試薬を用いた場合は、観察像が非常に鮮明な だけでなく、根端のみが染色されるため、先端を見分けやすく、プレパラート作製 ではよりスムーズに行うことができると考えられる。 ※ シッフの試薬は、フォイルゲン反応によりDNAを特異的に染色(赤紫色)する。 フォイルゲン反応とは、弱い酸による加水分解により、DNAからプリン塩基を離 し、露出したペントースの遊離アルデヒド基にシッフの試薬を加えると、赤紫色 の化合物が形成される反応のことである。 表3 染色液の検討 染色液 酢酸オルセイン液 酢酸カーミン液 操作順序 シッフの試薬 酢酸ダーリア液 固定→解離→染色 酢酸オルセイン液 酢酸カーミン液 固定→染色→解離 根端の染 色の様子 (無染色) 顕微鏡 写真 時間内に終わる実験にする。 本来であれば体細胞分裂の観察の実験は、発根からすべて生徒にやらせるべきである が、1時間で細胞数の計算まで行うことは不可能である。そこで、事前に染色まで行った ものを準備し、そこから生徒がプレパラートを作製することで、時間内に終わる実験を 目指した。根端採取から染色までの事前準備の手順は、以下の通りである。 1. ニンニクを1個ずつばらばらにし、薄皮を適当にはがし下部を少し削る。ニン ニクを、ペーパータオルを敷いたタッパに並べて、浸る程度の水を入れる。フ タをして日光の当たらないところに置く。 2. 発根後3日目に、先端から1cmくらいで切り取り、ファーマー液につけて、1 晩固定する。 ※ ファーマー液・・・エタノール:氷酢酸=3:1の混合液 ※ 保存する場合は、固定後、70%エタノールで酢酸のにおいが消えるまです すぎ、70%エタノールにつけて冷蔵庫で保存する。使用する場合は、水で エタノールのにおいがしなくなるまですすいでから使用する。 3. シャーレに水を入れて固定した根端をすすぎ、湯煎して60℃に温めた1mol塩 酸に入れて8分間解離を行う。 4. 再び水ですすいだ後、シッフの試薬に10分つけて、染色する。 ② 意欲・目的意識を高める工夫 全員のデータを使う。 -4- 一人一人の計測した結果を使って、実験の後半に、各時期の細胞数の占める割合につ いての円グラフを作成する。このことによって、面倒だと考えている生徒以外に対して も、一人一人が実験に参加している実感を持たせることができ、考察に関する意欲が 高まる効果も期待できる。 ③ データ処理から深く追究する楽しさを味わわせる。 実験で作成した各時期の数の占める割合についての円グラフと、各時期の所要時間から 作成した円グラフを比較することで、観察像と所要時間が比例関係にあることに気付かせ、 観察する楽しさだけではなく、データ処理を基にから考えていく面白さや、事実を発見す る喜び、深く追究する楽しさを味わわせたい。 (3) 時間展開 展開 学習活動 ① 準備 教師の働きかけ(○)と予想される児童・生 ○ モニターに顕微鏡等を準備しておくよ 3分 る。 ● 顕微鏡等を準備する。 ○ 押しつぶし法によるプレパラートの作 プロジェクターで分裂像を 製、細胞の計測、分裂像のスケッチを行 映し、顕鏡像を確認すると うことを説明する。 共に、何をするのかを理解 ② 実験の 目的の させる。 説明 ③ 分裂期 ○ 教科書の顕微鏡写真の各細胞を、各分裂 期に分類するように指示する。 を見分 ける練 休み時間の間に顕微鏡等を 準備しておくように指示す うに映しておく。 導入 支援・評価 徒の反応(●) ● 各細胞を、間期・前期・中期・後期・終 映し、どの細胞を示してい るのかをわかるようにす る。 期に分類する。 習 教科書の写真をモニターに ○ モニターに答を映す。 ● モニターで答を確認する。 さまざまな時期の分裂像(教科書P.51) 前期 展開 中 前 中期 前 中 前 後期 (説明) 終 終期 後 終 後 中 前 終 12 分 教材提示装置で演示実験を 行い、操作・器具が全ての 生徒に見えるように気をつ ○ プレパラートの作製法を説明し、演示す ④ 実験内 容の実 技指導 る。 ○ 教師が作製したプレパラートを顕微鏡 テレビ装置でモニターに映し、分裂して いる細胞の特徴を説明する。 ○ 最初は低倍率で探し、次に高倍率で探す ことを確認する。 -5- ける。 ○ 視野中の細胞を、間期・前期・中期・後 期・終期に分類し、それぞれの数を別紙 に記入し提出するように指示する。 2年 組 番 班 氏名 分裂期 間期 前期 個 個 中期 後期 個 終期 個 合計 個 個 ○ 提出後、スケッチをするように説明す る。 ● 説明を聞く。 ⑤ 実験 テーブル間を回りながら指 ● プレパラートをつくる。 導する。 ● 観察・計測をする。 プレパラートの作製に失敗 ● 各時期の計測結果を提出する。 ○ 計測結果を入力する。 した生徒には、作り直しを ● 観察・スケッチをする。 指示する。 時間内にスケッチが終了す ○ ニンニク以外の試料も用意してあるこ るように時間配分に注意。 とを連絡。 ニンニク以外の試料(アマリ ● 希望者は、他の植物についてもプレパラ リス等)を用意する。 ートを作製し、観察する。 15 時 20 分頃までに全員が ○ クラス全員の結果を入力し、円グラフを 作成する。 展開 提出できそうにない場合 ○ 結果を発表する。 は、提出されている分を集 ● 結果を表に記入する。 計して、円グラフを作成さ 間期 (実験) 分裂期 前期 中期 後期 終期 せる。 合計 クラス全体の観察数 3112 650 126 90 118 4096 割合(%) 76.0% 15.9% 3.1% 2.2% 2.9% 100.0% 35 分 ● 結果から、円グラフを描く。 ○ 細胞周期の円グラフを並べて示す。 各時期の観察像の数 後期 2% 終期 中期 3% 3% 各時期の所要時間 後期 2% 中期 3% 終期 3% 前期 11% 前期 16% 間期 76% 間期 81% 所要時間のグラフは、タマ ⑥ 考察 ● 時間と数の比率の類似性に気付く。 ● 考察に取り組む。 ネギのデータを基にしてい ることを伝える。 -6- ⑦ 実験器 具の片 片付け 5分 最初に顕微鏡を片付けるよ ● 顕微鏡を片付ける。 ● 実験器具を洗い、所定の場所に置く。 うに指示する。 プリントの提出締切日を確 付け 認。 (4) 評価 実験レポートの評価(自然事象への関心・意欲・態度、科学的な思考、観察・実験の技能・ 表現)小テスト、定期考査の評価(科学的な思考、自然事象についての知識・理解) 3 実践の考察とまとめ (1) 生徒のレポートより 表4 レポートの自己評価・感想 プレパラートの作製はスムーズにできたか できなかった 5% あまりできなかった 3% だいたいできた 15% できた 77% 74% スムーズにできた。 15% 44% できた 各分裂時期について、スムーズに見分けられたか 一部難しい時期があったが、大部分を見 難しく、困難であった。 10% 分けることができた。 スムーズに細胞数をかぞえることができたか できなかった 10% あまりできなかった 36% だいたいできた 10% 観察された各時期と所要時間との関係について理解できたか 全くできなかった 0% あまりよくできなかった 9% だいたいできた 0% やや難しかった やや易しかった 46% できた 46% 全体をとおして 非常に難しかった 49% 49% 易しかった 3% ① 全員が体細胞分裂を観察できる(実験を成功させる)ための工夫 表4から、材料・方法等の検討の成果があり、ほとんどの生徒が分裂像を含むプレパラ ートを作製することができ、見分けるのも難しいと感じながらもほぼ教師側の期待通り に見分け、計測することができたと考えられる。 ② 意欲・目的意識を高める工夫 データの共有とグラフの作製 顕微鏡での細胞数の計測は、100個を超える生徒もおり、なかなか大変なものであっ た。しかし、途中であきらめることもなく、全員が最後までしっかりと分類・計測し、 時間内に、データを提出することができた。このことから、一人一人のデータを用い てクラスで1つのグラフを描くということは、意欲を高める上で効果があったといえる。 ③ データ処理から深く追究する楽しさを味わわせる。 表4から、各期の細胞数と所要時間との関係は、「だいたい理解できた」「理解できた」 と90%以上の生徒が答えている。また、感想欄にも、「各時期と所要時間の関係はよく理 解できた」、「細胞分裂についてもより深く研究ができた」などと、答えている生徒も多 く、今回の実験を通じて、理解や深く追究することを味わわせることができたと考える。 -7- (2) 小テスト・考査より 小テストや考査に出題したところ、高い正解率となった。特に考査では、全体の平均点 が51.2点であったが、今回の実験に関連する問題では、平均12.7点(18点満点)と、得点 率が70.3%であった。このことから、本実験による知識の定着率は高く、また、学習意欲 の向上にもつながったと考えられる。 (3) 反省・課題 体細胞分裂の観察・計測実験は、どうしても細かい顕微鏡像を観察する必要がある。そ のため、実験をスムーズにできなかった理由として「細胞の数の多さ」を挙げている生徒 が多かった。また、細胞数の計測結果では、分裂期について0個という生徒はいなかったた め、全員が分裂像を観察できたと考えられるが、間期の数が0個という生徒がいた。この生徒 は、各期について見分けられていない可能性が高い。この生徒だけでなく、各分裂期に見分 けることを難しいと感じている生徒が10%おり(表4)、特に前期と間期、後期と終期の区別 が難しかったようである。これらは、顕微鏡を使う機会を増やすことで見にくい試料であっ たとしても見ることのできる技術を養うことができると考える。そして、実物を見る機会を 増やすことで、分裂像を見分ける力がつくと思う。 また、実験を1時間で終わらせるために、固定・解離・染色を行ったものを試料として用い た。実験の本来の目的を考えると、全ての操作を生徒にやらせ、実験を行ったほうが操作自 体もわかりやすく身に付くと思われる。そこで、グリセリンや透明マニキュアを使用する等 してプレパラート作製を行う時間を1時間確保すると良いと思われる。 本研修では、実験材料の検討からニンニクを用いることにしたが、残念ながらニンニク の細胞周期のデータを文献等で見つけることができなかった。そのため、タマネギのデータ で代用したが、実験の際、生徒に伝えるのを忘れてしまった。授業で、タマネギのデータで あることは伝えたが、今後はニンニクのデータを捜して提示できるようにしたい。 (4) まとめ 理数のおもしろさを味わわせ、深く追究する楽しさを味わわせるためには、実験が最適 である。そして、その内容はその実験だけで終わってしまうものや目新しさだけを追求す るものであってはならない。なぜならば、それでは本当の意味での深く追究することにな らず、ちょっとかわったことをやってみただけの余興にしかならないからである。教科書 に載っている内容でも十分におもしろさを味わわせ、深く追究する楽しさを味わわせるこ とは可能である。 本研修では、生徒にとって難しいといわれる体細胞分裂の観察を、全員ができることを 目標にした。また、細胞数の測定を取り入れることで、データを解析することで新しい発 見の喜びも味わってもらいたいと思った。生徒の様子や感想等から、これらの目標はおお むね達成できたものと考える。 「参考文献・参考資料一覧」 高等学校理科用文部科学省検定済教科書 「改訂版 高等学校生物Ⅰ 教授資料」 「ダイナミックワイド図説生物」 「生化学辞典 「生物実験集」 第3版」 「改訂版高等学校生物Ⅰ」 数研出版 数研出版 東京書籍 東京化学同人 新潟教材生物研究会編著 北海道立教育研究所 附属理科教育センター http://exp.ricen.hokkaido-c.ed.jp -8-