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参考資料 (案)東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所敷地

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参考資料 (案)東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所敷地
参考資料
合同W20−1
(案)
東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所
敷地周辺の地質・地質構造及び基準地震動の評価に係る報告書
(中間報告)
平成 20 年 10 月 24 日
原子力安全・保安院
1
目
次
Ⅰ
はじめに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅱ
主な経緯
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅲ
敷地周辺の地質・地質構造及び基準地震動についての
保安院の見解 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅳ
敷地周辺の地質・地質構造及び基準地震動についての
保安院の評価の進め方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅴ
敷地周辺の地質・地質構造についての保安院の評価
1.東京電力による地質・地質構造調査について ・・・・・・・・・
2.活断層等の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1) 敷地周辺陸域の活断層 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(1)角田・弥彦断層 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2)気比ノ宮断層 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)片貝断層 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(4)長岡平野西縁断層帯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(5)米山海岸周辺の海成段丘の高度分布について ・・・・・・・
2) 敷地周辺海域の活断層 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(1)F−B断層 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2)F−B断層北方延長部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)F−D断層と高田沖断層 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
3)敷地及び敷地近傍の地質・地質構造 ・・・・・・・・・・・・
(1)西山丘陵内の褶曲及び真殿坂断層の活動性 ・・・・・・・・・
(2)北−1測線付近の地形・地盤状況について ・・・・・・・・・
(3)建屋水準測量による上下変動量について ・・・・・・・・・・
(4)長嶺背斜東側に見られる逆断層及び低角なすべり面の
活動性について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4)地元団体からの指摘事項について ・・・・・・・・・・・・・・
2
(1)真殿坂断層沿いの地すべり等の変状地形について
・・・・・・
(2)番神砂層下部水成層の標高が真殿坂向斜の東西で
違うことについて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)観音岬・椎谷付近の海底亀裂及び遺構について ・・・・・・・
(4)柏崎平野の構造運動について ・・・・・・・・・・・・・・・
(5)北−1測線の沖積層基底標高及び滝谷の農道付近の
冠水について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(6)建屋の傾動と敷地内断層の活動について ・・・・・・・・・・
3. 活断層の評価のまとめ
Ⅵ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
基準地震動についての保安院の評価
・・・・・・・・・・・・・・・
1.中越沖地震による地震動の要因分析についての保安院の評価 ・・・
1)地震観測結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2)要因分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(1)敷地及び敷地周辺の観測記録による中越沖地震の特徴 ・・・・
(2)観測記録による解放基盤表面の地震動の推定 ・・・・・・・・
(3)解放基盤表面の地震動の分析 ・・・・・・・・・・・・・・・
(4)断層モデルによる震源特性及び地下構造特性の分析 ・・・・・
①中越沖地震の震源特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
②敷地の地下構造特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(5)要因分析結果のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(6)基準地震動 Ss の策定に当たって反映すべき事項 ・・・・・・・
2.基準地震動の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1)震源を特定して策定する地震動 ・・・・・・・・・・・・・・・
(1)検討用地震 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
①海域の活断層による地震 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
②陸域の活断層による地震 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2)検討用地震の基本震源モデルと不確かさの考慮 ・・・・・・・・
①F-B 断層による地震 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
②片貝断層による地震 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)応答スペクトルによる基準地震動の評価 ・・・・・・・・・・・
3
①F-B 断層による基準地震動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
②片貝断層による基準地震動 ・・・・・・・・・・・・・・・・
(4)断層モデルによる基準地震動の評価 ・・・・・・・・・・・・・
①F-B 断層による基準地震動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
②片貝断層による基準地震動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
2)震源を特定せず策定する地震動 ・・・・・・・・・・・・・・・・
3)基準地震動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(1)基準地震動の最大加速度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2)基準地震動の超過確率の参照 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)基準地震動の評価のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.確認用地震動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅶ
まとめ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
別添1
保安院による海上音波探査の結果概要
・・・・・・・・・・・・・
別添2
東京電力による地質・地質構造調査結果概要
別添3
敷地周辺の地質・地質構造に係る合同WGの審議において
委員から出された指摘事項に対する回答の概要 ・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
別添4「新潟県中越沖地震を踏まえ原子力発電所等の耐震安全性評価に反映す
べき事項について」
別添5
基準地震動に係る合同WGの審議において委員から出された
指摘事項に対する回答の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
Ⅰ
はじめに
平成19年7月16日、「平成19年(2007年)新潟県中越沖地震」(以
下「中越沖地震」という。)が発生した。当時、東京電力株式会社柏崎刈羽原子
力発電所(以下「柏崎刈羽原子力発電所」という。)では、3号機、4号機及び
7号機が運転中、2号機が起動中であったが、運転中及び起動中の原子炉は、
地震発生直後に設計どおり自動的に停止した。1 号機、5号機及び6号機は定期
検査のため停止中であった。
一方、各原子炉建屋基礎版上において観測された最大加速度は、基準地震動
に基づく原子炉建屋の地震応答解析から求められる基礎版上の最大応答加速度
を大きく超えていた。
このため、原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)は、①中越沖地震
による柏崎刈羽原子力発電所設備(建物・構築物)の健全性への影響の検討、
②中越沖地震による原子炉建屋基礎版上の最大加速度が設計時に想定された最
大加速度を上回った要因、③その要因を踏まえ今後柏崎刈羽原子力発電所にお
いて考慮すべき活断層の評価や地震動の想定、④それに基づく安全上重要な設
備の耐震安全性評価等の項目について、総合資源エネルギー調査会原子力安
全・保安部会耐震・構造設計小委員会(以下「小委員会」という。)」において
検討を行うこととした。
小委員会での検討に当たっては、①中越沖地震発生時の原子力事業者による
自衛消防体制、情報連絡体制等の在り方、②中越沖地震から得られる知見を踏
まえた耐震安全性評価、③中越沖地震発生時における柏崎刈羽原子力発電所の
原子炉の運営管理の状況と設備の健全性及び今後の対応について審議をするた
めに設けられた総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会「中越沖地震
における原子力施設に関する調査・対策委員会」との連携の下、小委員会の下
に設置されている「地震・津波ワーキンググループ」及び「地質・地盤ワーキ
ンググループ」による「合同ワーキンググループ」並びに「構造ワーキンググ
ループ」(以下「構造WG」という。)において検討を行うこととした。
このうち、合同WGにおいては、敷地周辺の考慮すべき活断層、中越沖地震
による敷地の地震動の分析、その分析結果を踏まえた基準地震動についての検
討を行っているところであるが、検討結果について概ねの見通しが得られる状
5
況になった。
本報告書は、敷地周辺の考慮すべき活断層、中越沖地震による地震動の分析、
その析結果を踏まえた基準地震動について、これまでの合同WGの現地調査や
検討状況を踏まえて、現時点の保安院の見解をとりまとめたものである。
なお、保安院では、F-B 断層北方域において 8 月に実施した海上音波探査の分
析作業を進めているところであり、(独)原子力安全基盤機構においても基準地
震動を超える地震動の発生確率について解析作業を行っているところである。
また、基準地震動 Ss に対する原子炉建屋等の地盤の安定性評価や津波などの地
震随伴事象等についても今後検討を行う。
6
Ⅱ
主な経緯
中越沖地震発生以降の地質・地質構造及び基準地震動に関する主な経緯に
ついては、以下のとおりである。
1)平成19年7月16日、中越沖地震が発生
2)同日、保安院は、東京電力に対して、①今回の地震時に取得された地
震観測データの分析、②今回の地震に対する安全上重要な設備の耐震
安全性の報告をするよう指示。
3)東京電力は、平成19年7月30日に中越沖地震時に取得された地震
観測データ、同8月22日に中越沖地震時の余震に係る地震観測データ
を保安院に提出。
4)保安院は、平成19年8月24日、耐震・設計小委員を開催し、中越
沖地震に対する検討については、合同WG及び構造WGにおいて検討を
実施することを決定。
5)平成19年10月12日、第 1 回合同WGを開催し、敷地周辺の活断
層、中越沖地震の分析、分析結果を踏まえた基準地震動について検討を
開始。現在まで、20回の合同WGを開催し検討。
6)平成19年10月29、30日、11月15日、20日、合同WGは、
柏崎刈羽原子力発電所周辺の地質調査並びに施設及び施設周辺の周辺状
況について専門家(33名)による現地調査を実施。現地調査は、平成
20年1月(5名)、8月(14名)にも実施。
7)平成20年2月16日∼3月3日に保安院は、新潟県中越沖の海上音
波探査を実施。(調査結果概要は、別紙1参照。)
8)東京電力は、平成20年5月12日に敷地周辺の地質・地質構造中間
報告書を保安院に提出。
7
9)東京電力は、平成20年5月22日に中越沖地震時に取得された地震
観測データの分析及び基準地震動に係る報告書を保安院に提出。
10)平成20年8月9日∼31日に保安院は、新潟県中越沖の海上音波探
査を追加実施。
11)東京電力は、平成20年10月22日に、敷地及び敷地周辺の地質・
地質構造に係る報告書(追補)及び中越沖地震時に取得された地震観測
データの分析及び基準地震動に係る報告書(補正)を保安院に提出。
12)平成20年○月○日、保安院は、これまでの合同WGの検討状況を踏
まえ、敷地周辺の考慮すべき活断層、中越沖地震による地震動の分析、
その析結果を踏まえた基準地震動について、現時点の保安院の見解をと
りまとめた。
8
Ⅲ
敷地周辺の地質・地質構造及び基準地震動についての保安院の見解
9
Ⅳ
敷地周辺の地質・地質構造及び基準地震動についての保安院の評価の進め
方
保安院では、柏崎刈羽原子力発電所の敷地周辺の地質・地質構造の評価、
中越沖地震時の敷地の観測データの分析、分析結果を踏まえた基準地震動の
評価に当たっては、合同WGを開催し専門家の意見を聴きつつ、国自ら海上
音波探査を実施するとともに、必要に応じ、独立行政法人原子力安全基盤機
構(以下、「JNES」という。)に解析を行わせて、検討を行った。
合同WGでは、東京電力の調査、評価結果やJNESによる解析結果を聴
取することに加え、合同WGの専門家による現地調査や海上音波探査の生デ
ータの分析なども実施した。
敷地周辺の地質・地質構造の評価に当たっては、東京電力による地質・地
質構造に係る調査及び評価が適切に実施されたかどうかについて、
「発電用原
子炉施設に関する耐震設計審査指針(平成18年9月19日原子力安全委員
会決定)」(以下、「新耐震指針」という。)、「活断層等に関する安全審査の手
引き(平成20年6月20日原子力安全委員会了承)」(以下、「手引き」とい
う。)及び「新耐震指針に照らした既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評
価及び確認に当たっての基本的な考え方並びに評価手法及び確認基準につい
て(平成18年9月20日原子力安全・保安院)」(以下、「バックチェックル
ール」という。)に基づき検討を行った。
中越沖地震時の敷地の観測データの分析結果の検討に当たっては、東京電
力による分析結果の検討だけではなく、JNESにも分析を行わせ、両者の
分析結果から総合的に検討を加え、地震動が大きくなった要因を抽出した。
基準地震動の検討に当たっては、新耐震指針、合同WGにおける敷地周辺
の地質・地質構造に係る検討結果、バックチェックルール及び地震動が大き
くなった要因を踏まえ、基準地震動の妥当性について検討を行った。
10
Ⅴ
敷地周辺の地質・地質構造についての保安院の評価
1.東京電力による地質・地質構造調査について
保安院は、東京電力が実施した地質・地質構造調査が十分に行われてい
るかどうかについて、新耐震指針、手引き及びバックチェックルールに照
らして確認した。
新耐震指針においては、「活断層の位置・形状・活動性等を明らかにする
ため、敷地からの距離に応じて、地形学・地質学・地球物理学的手法等を
総合した十分な活断層調査を行うこと。」としている。
新耐震指針(解説)においては、「敷地からの距離に応じ、既存文献の調
査、変動地形学的調査、地表地質調査、地球物理学的調査等を適切に組み
合わせて十分な調査を実施することとする。」、
「地震活動に関連した活褶曲、
活撓曲等については、活断層と同様に上記の調査の対象とし、その性状に
応じて震源として想定する断層の評価に考慮する。」、
「断層の性状について
は、それぞれの地域に応じ、地下構造等を把握して適切に評価すべきであ
る。」としている。
さらに、手引きにおいては、既存文献の調査、変動地形学的調査、地表地
質調査、地球物理学的調査について、以下の各事項の内容を満足していなけ
ればならないとしている。
1)既存文献の調査については、敷地中心から概ね 100km 以内を対象に、
地震活動、測地資料、歴史地震、活断層、変動地形、津波、地質構造、
地球物理学的調査研究等に関する文献・地図等を調査地域の地形・地
質等の特性、敷地からの距離に応じて収集・整理し、当該地域で発生
した、あるいは発生する可能性のある地震について、活断層の性質や
地震発生様式等を把握すること。なお、100km 以遠であっても遠方の
長大活断層等による敷地への影響が考えられる場合には、これを含め
調査すること。
2)敷地中心から少なくとも半径 30 km の範囲(以下、単に「半径 30km
範囲」という。)については、既存文献の調査を踏まえ、調査地域の地
形・地質等の特性、敷地からの距離や敷地に与える影響に応じ、以下
の調査を適切に組み合わせた十分な調査を実施すること。なお、半径
30km 以遠であっても敷地への影響が大きいと考えられる活断層の存
11
在が想定される場合は、これを含め調査すること。
(1) 変動地形学的調査においては、地形発達過程(地形の成因を含
む。以下同じ。)を重視し、耐震設計上考慮する活断層を認定す
るための根拠等を明らかにすること。
また、断層通過地点の変動だけでなく、段丘面等に現れている
傾動等の広域的な変位・変形も検討対象とすること。
(2) 地表地質調査においては、既存文献の調査及び変動地形学的
調査の結果を踏まえ、調査地域の広域的な地質・地質構造を把握
するための調査を実施するとともに、断層近傍と推定される地域
を精査すること。
特に断層露頭や地層が変形している露頭の発見と、その露頭観
察による断層活動時期の特定が重要である。こうした露頭と変位
地形との位置関係、断層や破砕帯の性状、地層・岩石の変位・変
形構造を詳細に把握するとともに、地層及び地形面の詳細な編年
を行うことにより断層活動の時期を検討すること。
断層活動の証拠が明確に確認されない地域においては、これを
もって直ちに活断層の存在を否定するのではなく、活断層の存否
及び活動性の確認について追加調査の実施等、特段の注意を払っ
た検討を行うこと。
また、段丘面等に現れた広域的な変位・変形も調査対象として、
これらの地形面の編年に関する詳細な調査を行うこと。
(3) 地球物理学的調査においては、調査地域の地形・地質等の特
性に応じた適切な探査手法及び解析手法を用い、断層の地下構造
及び褶曲等の広域的な地下構造の解明に努めること。
3)調査地域の地形・地質条件に応じ、既存文献の調査、変動地形学
的調査、地表地質調査、地球物理学的調査等の特性を活かし適切に
組み合わせた調査計画に基づき得られた結果を総合的に評価するこ
と。
また、バックチェックルールにおいては、評価手法として「敷地周
辺で発生する地震に関し、各種文献、観測データ及び活断層等の調査
結果を収集・検討し、過去の地震、活断層等の性質やプレートの性質、
地震発生様式等を評価する。」、確認基準として「「検討用地震動」の選
定に当たっては、種々の調査を実施し、地震発生様式等に着目して、
「内
陸地殻内地震」、「プレート間地震」、「海洋プレート内地震」等に分類
12
していること。」としている。
ここでは、手引きに従って東京電力による調査内容を確認する。
1)について、東京電力は、敷地から概ね 100km 以内を対象に活断
層に関する文献・地図等を調査し、また、概ね 200km を目安に地震に
関する文献・カタログ等を調査し、敷地に大きな影響を与える可能性
のある活断層を抽出し、これらについて詳細な調査を実施している。
2)について、東京電力は、陸域については、敷地を中心とする半
径約 30km の範囲及び同範囲以遠に連続する主要断層沿いについて、変
動地形学的調査、地表地質調査、地球物理学的調査を実施している。
海域については、敷地を中心として、沿岸方向約 140km,沖合方向約
50km の範囲について、地球物理学的調査(海上音波探査)、海底地形調
査を実施している。
① 変動地形学的調査においては、地形発達過程を考慮しており、
段丘面等の地形要素を抽出し、分類している。また、活断層、活
褶曲等の地殻変動に起因する地形である変動地形に注目して、そ
の可能性がある地形を抽出し、その認定根拠を示している。さら
に、広域的な海成段丘等の高度分布についても調査・整理し、検
討している。
② 地表地質調査においては、変動地形及びその可能性のある地形
が認定された付近において詳細な調査を実施している。段丘面及
び段丘堆積物については、後期更新世の広域火山灰を確認し、そ
れと段丘堆積物との関係に基づき段丘面の形成時期を判断してい
る。これら段丘面及び段丘堆積物に認められる変位・変形の有無
に基づき褶曲の活動時期を評価し、耐震設計上考慮すべきか否か
を評価している。また、断層の活動性を把握するため、必要に応
じてボーリング調査を実施している。詳細な調査によって、後期
更新世以降の活動が否定できないものについては、耐震設計上考
慮している。広域的な海成段丘等の高度分布についても調査・整
理し、検討している。
③ 地球物理学的調査としては、敷地周辺の地質構造を考慮し、陸
域では反射法地震探査を、海域では海上音波探査を、それぞれ探
査深度及び分解能を考慮した仕様を組み合わせて実施している。
また,重力異常(ブーゲ異常)に基づく検討を実施している。
3)について、東京電力は、文献により活断層・活褶曲と指摘され
13
ているもの、変動地形学的調査により変動地形及びその可能性のある
地形として抽出したもの、海上音波探査により認識した褶曲、断層等
について、文献調査、変動地形学的調査、地表地質調査、地球物理学
的調査(反射法地震探査、海上音波探査、重力異常(ブーゲ異常))等
の調査結果を総合的に考慮し、地域の特性を考慮した上で、後期更新
世以降の活動が否定できないものについて、耐震設計上考慮している。
以上のことから、東京電力による地質・地質構造調査については、基
本的に必要な調査は実施されていると判断した。
2.活断層等の評価
1)敷地周辺陸域の活断層
合同WGでは、陸域において、活断層に係る既往の調査研究や東京電
力による活断層調査結果を踏まえ、敷地に大きな影響をもたらすと考え
られる活断層として、長岡平野西縁断層を構成する断層に重点を置いて
検討した。
(1)角田・弥彦断層
角田・弥彦断層については、反射法地震探査によって地下に西上が
りの逆断層が認められ、空中写真判読において角田山東麓の断層上盤
側において MⅠ 面に西方への逆傾斜が認められ、さらに地表地質調査
においても断層上盤側に位置する矢作丘陵において MⅠ 面基底面に変
位を与える東上がりの逆断層が認められ、後期更新世以降における活
動が示唆されることから活断層と認定した。また、その北方海域延長
部においても前期更新世の C 層の中部以下の地層に西上がりの逆断
層が、後期更新世のBu層まで growth triangle が認められた。
角田・弥彦断層の南方への連続性については、反射法地震探査に
よって気比ノ宮断層が想定される与板背斜東翼の信濃川左岸には
連続せず、寺泊背斜東翼の島崎川流域に連続していることが確認さ
れた。燕市真木山付近以南の島崎川流域には MⅠ 面が分布し、それら
の MⅠ 面のうち角田・弥彦断層の西隆起側に位置するMⅠ 面と同断層
の東低下側に位置する MⅠ 面はほぼ同一高度を示すことから、角田・
14
弥彦断層の南端を燕市真木山付近とした東京電力の評価結果は妥
当なものと判断した。
角田・弥彦断層の北方への連続性については、海上音波探査にお
いてM−26測線ではC層(下部更新統)中部以下の地層に西上が
りの逆断層が認められ、その上部層についても断層上盤の背斜後翼
部にBu層(上部更新統)まで growth triangle が認められ、A層
(完新統)まで変形が認められる。一方、その北方のM−25測線
ではD層(鮮新統)中部以下の地層に西上がりの逆断層が認められ、
D層上部及びC層にも撓曲変形及び growth triangle が認められる
ものの、B層上部層(中部更新統)以上の地層に変位・変形は認め
られないことから、角田・弥彦断層の北端をM−25測線とした東
京電力の評価結果は妥当なものと判断した。
以上のことから、角田・弥彦断層は、後期更新世以降に活動した
可能性があり、その長さをB層上部(中部更新統)以上の地層に変
位変形が認められないM−25測線を北端とし、断層を挟んで東西
に位置するMⅠ 面がほぼ同一高度を示す燕市真木山付近を南端とす
る長さ約 54km の区間の活動性を考慮している東京電力の評価結果
は妥当であることを確認した。
(2)気比ノ宮断層
気比ノ宮断層については、変動地形学的調査において、変動地形
及びその可能性のある地形(以下、「リニアメント」という。)が認
められ、地表地質調査においても西山層、灰爪層及び魚沼層に過褶
曲を示す撓曲構造が認められ、その東側の背斜構造を覆って分布す
るH面、MⅠ 面、MⅡ 面及びその堆積物は背斜構造に調和して変形し
ている。さらに、反射法地震探査及びボーリング調査において阿多
鳥浜火山灰層の変位が認められ、過去約20数万年間の平均的な変
位速度は約 1m/千年と算出され、同断層は約 8,000 年前∼約 7,000
年前に断層活動があった可能性があることから、同断層を活断層と
認定した。
気比ノ宮断層の北端については、反射法地震探査において大河津
測線では明瞭な断層は認められないものの、標高-2,000m 付近以浅
に西上がりの撓曲構造が認められる。一方、その北方に位置する燕
市高木付近では標高-1,000m 付近以深に緩い撓曲変形が認められる
15
ものの、標高-1,000m 付近以浅の前期更新世の灰爪層より上位の地
層には明瞭な変位・変形は認められないこと、周辺に分布するMⅠ
面には高度差は認められないことから、気比ノ宮断層の北端を燕市
高木付近とした東京電力の評価結果は妥当なものと判断した。
気比ノ宮断層の南端については、長岡市宮本町三丁目以南におい
てリニアメントは認められず、魚沼層は緩やかな褶曲構造を示し、
過褶曲構造や断層は認められないことから、同断層の南端を長岡市
宮本町三丁目とした東京電力の評価結果は妥当なものと判断した。
以上のことから、気比ノ宮断層は、後期更新世以降に活動した可
能性があり、その長さを標高-1,000m 付近以浅には明瞭な変位・変
形は認められない燕市高木付近を北端とし、リニアメントが認めら
れない長岡市宮本町三丁目を南端とする長さ約 22km の区間の活動
性を考慮している東京電力の評価結果は妥当であることを確認し
た。
(3)片貝断層
片貝断層については、地表地質調査において片貝・真人背斜の東
翼部に魚沼層の撓曲構造が連続し、変動地形学的調査及び地表地質
調査においてMⅠ 面、MⅡ 面、LⅠ 面、LⅡ 面及びその段丘堆積物に魚沼
層の地質構造に調和した変形が認められ、後期更新世以降における
活動があったものと判断されることから活断層と認定した。
片貝断層の北端については、反射法地震探査において長岡市来迎
寺北側において撓曲構造の連続が認められ、さらに北方の関原台地
東側においても緩やかな撓曲構造が認められることから、同断層の
北端を関原台地における段丘面に波状変形が認められる範囲の北端
部の長岡市宝地町付近とした東京電力の評価結果は妥当なものと判
断した。
片貝断層の南端については、東京電力は地表地質調査及び反射法
地震探査において魚沼層の撓曲構造が長岡市来迎寺から小千谷市山
谷付近まで認められ、その南の小千谷市桜町付近以南においては、
撓曲構造の連続は認められず、リニアメントも認められないことか
ら、同断層の南端を小千谷市桜町付近としている。
合同WGでは、東京電力は片貝断層の活動性を考慮する区間の南
端を小千谷市桜町としていることについて、同断層の西側には片
16
貝・真人背斜が並行しており、同背斜は南部に連続すること、また、
片貝断層の南端としている小千谷市桜町の南側に位置する小千谷
市時水付近以南では、地すべり状の構造が多数読み取れ、リニアメ
ントがマスクされている可能性があることから、片貝・真人背斜を
含む片貝断層南端以南の変動地形の有無について東京電力に対し
て説明を求めた。その結果、片貝断層南端以南においては、DEM
(数値標高モデル)、地質断面図及び空中写真により、段丘面上の
撓み、急傾斜、逆傾斜及び段丘面の直線的あるいは規則的な配列等
の変動地形の可能性を示唆する地形は認められないことが報告さ
れ、合同WGにおいても確認された。
以上のことから、片貝断層は、後期更新世における活動があり、
関原台地における段丘面に波状変形が認められる範囲の北端部の
長岡市宝地町付近を北端とし、魚沼層の撓曲構造の連続が認められ
ない小千谷市桜町付近を南端とする長さ約 16km の区間の活動性を
考慮した東京電力の評価は妥当であることを確認した。なお、片貝
断層による地震の地震動評価においては、安全評価上、強震動予測
レシピを参考に地震発生層を飽和する地震規模を断層面積及び断
層幅より断層長さを 25km としており、安全側に評価している。
(4)長岡平野西縁断層帯
長岡平野西縁断層帯は、主として、角田・弥彦断層、気比ノ宮断
層、片貝断層からなる。
東京電力は、角田・弥彦断層と気比ノ宮断層については、反射法
地震探査等において連続せず、別々の断層として存在することが確
認されたこと、気比ノ宮断層と片貝断層については、段丘面の変形
の程度から、活動のしかたに大きな差が見られること等から、これ
らの断層は、それぞれ個別の断層として評価することを基本とする
が、これらの断層が長さ約 91km にわたって同時活動することについ
ても不確かさの検討として考慮することとしている。
合同WGで検討した結果、角田・弥彦断層、気比ノ宮断層、片貝
断層の各断層については、主活動時期、平均的な変位速度等が異な
ることなどから、それぞれ活動セグメントとして区分することは可
能であるが、地震動評価の不確かさとして3つの断層を合わせた長
さ約91km の区間が同時に活動する場合も考慮すべきであることを
17
確認した。
(5)米山海岸周辺の海成段丘の高度分布について
合同WGでは、米山海岸周辺の海成段丘の高度分布と活構造との
関係について整理すべきとの意見があり、東京電力に説明を求めた。
東京電力からは次のような説明がなされた。
米山海岸周辺においては、高位段丘及び離水ベンチが比較的発達
することから、隆起傾向が他の地域と比較して大きい可能性があり、
段丘面高度が周辺よりやや高く、南西方にかけて高くなるが、高位
段丘面の傾斜は中位段丘面の傾斜と顕著な差異は見られず、段丘の
傾動を蓄積させるような動きが認められないことから、米山海岸周
辺に局所的な変動を及ぼす活断層は存在しないと考えられる。断層
モデル(地殻変動モデル)による地殻変動の試算によると、段丘面
及び離水ベンチの高度分布には、F−B断層、F−D断層・高田沖
断層、気比ノ宮断層、片貝断層、それぞれの活動による隆起が寄与
するものと考えられる。
合同WGにおいて検討した結果、東京電力の説明は妥当であるこ
とが確認された。
2)敷地周辺海域の活断層
合同 WG では、海域において、新潟県中越沖地震に関する関係機関によ
る調査研究や東京電力による活断層調査結果等を踏まえ、敷地に大きな
影響をもたらすと考えられる活断層として、F−B断層及びF−D断層
と高田沖断層に重点を置いて検討した。
(1)F−B断層
F−B断層については、音波探査記録解析結果によると、Bu 層に
growth triangle 等の褶曲の成長を示唆する構造が認められ、最終氷
期の浸食面にも変形が認められることから、活断層と判断した。
東京電力は平成19年12月5日の海域地質調査の中間報告にお
いては、中越沖地震後に行ったそれまでの調査結果を踏まえ、長さ
約23kmの活断層として暫定評価し、平成20年3月27日の陸
18
域及び海域の地質調査結果報告においては、考慮すべき褶曲構造が
確認されなかった測線まで南方に延長し、長さ最大約30kmの活
断層として評価した。F−B断層については、北端についての東京
電力の評価について、合同WGにおいての審議のポイントとなった。
東京電力は、その北端を褶曲構造が読み取れなくなる測線までとし
て評価していたが、合同WGでは周辺の地形の形成過程を考慮する
と、褶曲構造が読み取れなくなる測線にもわずかに褶曲構造が読み
取れるという意見があり、東京電力において検討した結果、指摘を
踏まえ北端をNo.11測線まで延長し、長さ約34kmと再評価
した。さらに、東京電力が北端部と評価したNo.11測線につい
て、合同WGにおいて、①No.11測線では本来なら反射面が下
に凸になってもいいところであるが、後期更新世のBu層に僅かな
がら盛り上がりが見えること、南からの構造の連続性を合わせて考
えると、No.11測線までは変動が及んでいることから、端部は
No.12測線と評価すべき、②No.11測線までは変動が及ん
でいるとしても、震源断層があるのはM−8測線までとし、それか
ら北の区間は震源断層が活動したことによる周辺の変形と考えるべ
きで、評価上は地震動を発生する区間はNo.11まで、そこから
先は震源断層が活動したことによって変形した区間として、区別し
て評価すべきという2つの意見があった。保安院において検討した
結果、F−B断層の北端部については、その解釈に幅があることか
ら、耐震安全性を評価するための基準地震動を検討するに当たって、
No.12測線までの約36kmを活断層評価の不確かさを考慮す
る範囲とすることとした。
なお、不確かさを考慮した地震動評価の影響を見ることも重要と
考えられるので、M−8測線までの断層長さ約27kmによる地震
動と比較することとした。
佐渡島南方断層について、平成20年3月27日の陸域及び海域
の地質調査結果報告において、東京電力はF−B断層として評価し
ていることの妥当性が審議のポイントとなった。東京電力は、F−
B断層と佐渡島南方断層は南部において距離が近いことから、一連
のものとして評価している。合同WGでは、2つの断層は構造及び
走向に違いがあるため、別の断層として評価する方が妥当であると
の意見があり、東京電力において再検討した結果、別の断層として
19
評価することとした。佐渡島南方断層については、Bu層に growth
triangle が認められることから、活断層と認定し、その長さは、断
層が認められず、島棚の海底地形にも東方への傾動が認められない
M−9測線を北端とし、断層上盤側の背斜後翼において growth
triangle がB層まで連続していないM−19測線を南端とする約2
9kmとする東京電力の評価は妥当であることを確認した。
(2)F−B断層北方延長部
専門家による論文において、F−B断層北方延長部がさらに北方
の佐渡海盆東縁まで伸びるとされていることに関して、合同WGに
おいて検討を行った。論文では海底地形に基づき、大陸棚斜面の基
部に沿って活断層を示している。
海上音波探査の結果から、佐渡海盆東縁に断層は認められないこ
とを確認した。また、佐渡海盆∼佐渡海盆東縁∼陸域にかけての地
下探査によると、陸域の西傾斜の角田・弥彦断層が大陸棚斜面∼大
陸棚∼角田山・弥彦山にかけてを隆起させ、佐渡海盆∼佐渡海盆東
縁∼陸域に見られる非対称の褶曲構造の形成に寄与していると考え
られる。F−B断層について、活動性を考慮している区間から北方
の佐渡海盆東縁の大陸棚斜面部において海底面が相対的にやや急な
傾斜を示すが、この形成要因については、海底下のBu層及びその
下位のB層の前置層の形態を反映して海底面がやや急な傾斜になっ
たものと考えられる。さらに、断層モデル(地殻変動モデル)によ
る地殻変動の試算によると、角田山・弥彦山周辺の段丘面高度には、
角田・弥彦断層の活動による隆起が寄与していることが考えられる。
保安院が平成20年2月から3月にかけて中越沖地震の震源域に
おいて実施した海上音波探査結果では、更新世の地層には変位・変
形を与えていない古い伏在逆断層と背斜構造が確認できた。この古
い伏在逆断層(東京電力の調査において古い逆断層として存在が推
定されていたものだが、今回より深部のデータを得たことによって
その存在を確認することができた)は、調査範囲の南西から大陸棚
外縁に斜交し東北東方向へ曲がり、調査海域の北東部で止まってい
た。また、本調査範囲において渡辺ほか(2007)が推定する位置の海
底下には活断層は認められなかった。
20
以上のことから、F−B断層北方延長部において、耐震設計上考
慮すべき活断層は認められないと判断した。
(3)F−D断層と高田沖断層
F−D断層及び高田沖断層については、音波探査記録解析結果に
よると、Bu 層に growth triangle 等の褶曲の成長を示唆する構造が
認められることから、活断層と判断した。
東京電力は、平成20年3月27日の陸域及び海域地質の調査結
果報告においては、F−D断層を約25km、高田沖断層を約23
kmと評価していた。合同WGでは、高田沖断層の南端位置とF−
D断層・高田沖断層の活動セグメント境界の考え方について指摘が
あり、東京電力において再検討した。その結果、F−D断層につい
ては、その延長位置に背斜構造が認められないM−17測線を北端
とし、北西縁の逆断層が認められず緩やかな褶曲構造を示すGS−
7測線を南端とする約30kmの区間の活動性を考慮し、高田沖断
層については、GS−7測線を北端とし、南東側に認められる背斜
軸のうち最も南西方へ延びている背斜軸の延長部分とJO−25測
線との交点を南端とする約25kmの区間の活動性を考慮している。
なお、東京電力はF−D断層と高田沖断層は、連続しておらず個別
に活動する断層として評価し、安全評価上、同時活動性を考慮して
いる。
F−D断層及び高田沖断層については、両褶曲群の褶曲形態に差
異があること等から、長さ約 30km のF−D褶曲群と長さ約 25km の
高田沖褶曲群のそれぞれを活動セグメントとして区分することが可
能であるが、両褶曲群は近接することから同時活動を考慮するとし
ている東京電力の評価結果は妥当であることを確認した。
3)敷地及び敷地近傍の地質・地質構造
合同WGでは、敷地及び敷地近傍の地質・地質構造については、真殿
坂断層の活動性に重点を置いて検討した。
東京電力は、文献調査、GPS測量、変動地形学的調査(空中写真判
読)、地表地質調査、地球物理学的調査、ボーリング調査、トレンチ調査
等を実施して、敷地及び敷地近傍の地質・地質構造について、以下のよ
21
うに評価している。
敷地は寺泊・西山丘陵の南西部に位置し、空中写真判読によると、西
山丘陵及び寺泊・西山丘陵並びに敷地から5km以内の範囲には、変動
地形の可能性のある地形は判読されていない。
敷地近傍の寺泊・西山丘陵には、新第三紀の地層には後谷背斜、長嶺背
斜、椎谷向斜、真殿坂向斜等の褶曲構造が見られ、敷地には後谷背斜、
真殿坂向斜が認められる。
敷地近傍では、これらの褶曲構造は第四紀の灰爪層に不整合に覆われ
ており、また、高位段丘面や中位段丘の高度分布に高度差は認められな
い。敷地においては、西山層、椎谷層等の新第三紀の地層に認められる
褶曲構造を第四紀の安田層が不整合に覆い、この安田層はほぼ水平に分
布している。
GPS測量、水準測量、航空写真測量等の結果から、平成19年新潟
県中越沖地震に伴い、敷地は北側では変動の方向は明瞭ではないが、南
側では概ね北西方向に移動し、建屋近傍は隆起した。ただし、これらの
変動は、広域的な地殻変動と調和的であり、真殿坂断層が活動したこと
を示すものではない。
敷地において確認されている断層のうち、β断層(高角系断層、褶曲
軸と斜交)、F−3断層(低角系断層)について、中越沖地震に伴う動き
はなかった。
以上の調査・測量結果から、真殿坂断層については、後期更新世以降
の活動は認められず、また、中越沖地震により敷地内で観測された地盤
の動きは、広域的な地殻変動に調和的であり、それに伴う断層の動きは
敷地において認められないとしている。
敷地及び敷地近傍の地質・地質構造、特に真殿坂断層の活動性につい
ては、合同WGにおいて、以下のような指摘があり、これらについて東
京電力に対して説明を求め、合同WGにおいて検討した。
(1)西山丘陵内の褶曲及び真殿坂断層の活動性
合同WGの現地調査において、西山丘陵の安田層が概ね水平であ
るという東京電力の説明に対して、概ね水平ではあるが東側に若干
傾動しているのではないかという指摘があった。
これに対して東京電力は、敷地及び敷地北側でボーリング調査を
22
実施し、安田層下部層に挟在される火山灰などの分布を把握し、標
高の分布から西山丘陵の褶曲の活動性の確認を行った。その結果、
敷地及び敷地北側において安田層の下部に阿多鳥浜テフラ(Ata-Th、
約24万年前)等が、真殿坂向斜を横断し、ほぼ水平に堆積してい
ることが認められた。
合同WGでは、安田層の下部のテフラを阿多・鳥浜テフラと同定
した根拠について説明を求めた。
東京電力は、敷地及び敷地北側のボーリング調査において安田層
下部に認められたテフラについては、火山ガラスのタイプ及び屈折
率、分布状況等から、鬼界葛原、阿多鳥浜及び加久藤を候補テフラ
として選定し、鬼界葛原は高温型石英を多く含むが、安田層下部に
認められたテフラには認められないこと、火山ガラスの主成分の比
率構成において、安田層下部に認められたテフラは、加久藤よりも
阿多鳥浜と調和的であることから、敷地及び敷地北側の安田層下部
に認められたテフラを阿多鳥浜テフラと同定している。
さらに、各ボーリングのすべての分析結果を用いて整理した結果、
分析結果にばらつきはあるものの、火山ガラスの各成分において阿
多鳥浜との対応が認められたとしている。
合同WGでは、安田層下部に認められたテフラを阿多鳥浜テフラ
と同定した東京電力の調査結果は、実績のある火山灰の同定方法を
採用しており妥当であることを確認した。
(2)北−1測線付近の地形・地盤状況について
合同 WG の現地調査において、北−1測線において、地形図・空中
写真判読から沖積層等の分布を把握し検討すること及び滝谷の農道
の冠水について、断層運動と直接関係した変位かどうか、漏水・不
等沈下などの地盤状況の変化も考慮に入れて検討することという意
見があった。
東京電力は、北−1測線付近の地形より推定される沖積層の分布
と水準測量結果との対応を踏まえて、水準測量における局所的な変
動(沈下)は、盛土、沖積層等の軟らかい層の沈下等の変形による
ものと考えられること、柏崎平野においては沖積層の下に安田層等
の洪積層が分布しており、反射法地震探査において 2500∼2600m 付
近の反射記録は明瞭でなく、沖積層下面推定線は沖積層よりも古い
23
地層の下面を示している可能性があること、刈羽村のボーリング調
査では滝谷の農道付近は、「極軟」と記載されており、北−1測線の
沖積層が分布する範囲で認められた沈下傾向と同様に、滝谷の農道
付近の沖積地が地震に伴い沈下した可能性があること、また、敷地
及び敷地北側のボーリング調査結果等により、真殿坂断層の後期更
新世以降の活動がないことが確認されていること、地表踏査、DEM を
用いた検討等により、付近の沖積面には地表付近での断層の活動を
示す変状は認められないことから、
「沖積層下面推定線の一部で谷の
上流側が下流側より深いこと」や「滝谷の農道が冠水したこと」は
真殿坂断層の活動を示すものではないと考えられるとしている。
合同 WG では、北−1測線の真殿坂向斜付近の探査結果において、
上流側の沖積層基底が下流側よりも深いことについては、反射法地
震探査から推定した沖積層下面推定線は沖積層よりも古い地層の下
面を示している可能性があり、また、真殿坂向斜軸付近に位置する
滝谷の農道が地震後に冠水したことについては、滝谷の農道付近の
沖積地が地震に伴い沈下した可能性があることが確認された。
(3)建屋水準測量による上下変動量について
東京電力は、建屋水準測量により得られた建屋の上下変動量の分
布は、後谷背斜及び真殿坂向斜の褶曲構造との対応は認められない
こと、隆起量の大きい3号機建屋付近について、3V―5断層の立
坑調査を行い、同断層が地震により動いていないことを確認したと
している。また、建屋の上下変動量の分布は、敷地周辺の一等水準
点の地震前後の変動量の分布から推定される地殻変動量の局所的な
変動幅の範囲内に概ね入ることを確認したとしている。
合同WGでは、東京電力の説明に対して、敷地内の建屋水準と岩
盤や沖積層の上など様々な箇所に設置している一等水準点とは、比
較・検討するような条件下にないため、一緒に議論できるものでは
ないとの意見があり、東京電力に再検討を求めた。
再検討の結果、東京電力は、平成20年2月と8月の測量結果を
比較し、地震後、原子炉建屋、タービン建屋いずれも地震に伴う隆
起傾向は継続していないこと、建屋傾斜変化量は地震前に比べて大
きな変化は認められず、日本建築学会の傾斜限界値の目安 1/2000 よ
りも小さいこと、岩盤に設置されている建屋レベルの隆起量は国土
24
地理院の一等水準点から評価される地震前後の地盤鉛直変位量と調
和的であり、この変動はGPS測量結果から推定された敷地付近の
動きとも調和的であること、敷地の地盤物性値にも建屋位置による
ばらつきがあること、地震に伴う建屋レベルの変動量の分布は背斜
軸部で大きくなる傾向はなく、褶曲構造との対応は認められないこ
とが確認されたとしている。その他、真殿坂断層が想定されている
西山層及びそれ以下の地層に見られる褶曲の後期更新世以降の活動
は認められないこと、敷地内に認められる断層は活断層ではなく、
今回の地震により活動はないことを合わせると、建屋レベルの変動
量が各号機で異なること、各建屋の四隅の変動量が異なることが、
西山層及びそれ以下の地層に見られる褶曲、真殿坂断層、敷地内の
断層の地震に伴う活動を示すものではないと考えるとしている。ま
た、建屋水準測量による建屋の上下変動量の分布は、敷地周辺の測
量結果から評価される地殻変動量の局所的なばらつきの範囲内に概
ね収まっていることを確認したとしている。
地震活動に伴う地盤の隆起量等の局所的なばらつきについて、現
時点においてその原因を明らかにすることは困難であるが、真殿坂
断層が想定されている西山層及びそれ以下の地層に見られる褶曲の
後期更新世以降の活動は認められないこと、建屋レベルの隆起量は
国土地理院の一等水準点から評価される地震前後の地盤鉛直変位量
と調和的であり、この変動はGPS測量結果から推定された敷地付
近の動きとも調和的であること等から、合同WGでは、建屋レベル
の変動量が各号機で異なり、各建屋の四隅の変動量が異なることが、
西山層及びそれ以下の地層に見られる褶曲、真殿坂断層、敷地内の
断層の地震に伴う活動を示すものではないとしている東京電力の評
価は、妥当なものであることを確認した。
(4)長嶺背斜東側に見られる逆断層及び低角なすべり面の活動性につ
いて
合同WGでは、長嶺背斜の東側に見られる逆断層の活動性の有無
及び真殿坂断層の下部延長部は寺泊層上面付近のすべり面に収斂し
ていくこと、長峰背斜東翼に見られる断層は西山層と椎谷層の境界
付近に収斂して行くこと、中越沖地震時の小木の城背斜周辺の変形
は低角のすべり面の存在を示唆することを踏まえ、これらの低角な
25
すべり面の活動性について検討することとの意見があった。
これに対して、東京電力は、北−2測線及びその東側に連続する
KK-T2 測線において西山層及び椎谷層中に認められる伏在断層は、深
部まで連続するものではなく、灰爪層の下部に変位を与えているも
のの、同層上部まで変位を与えるものではないことから、灰爪層堆
積以降の活動は見られないことを確認したとしている。さらに、D
EMを用いた柏崎平野のMⅠ 段丘面の標高分布によると、柏崎平野を
横断して MⅠ 段丘面に高度不連続は認められないことから、長嶺背斜
東翼の伏在断層、長嶺背斜及び真殿坂向斜等の褶曲の MⅠ 面形成以降
の成長は認められないことを確認したとしている。
合同WGでは、長嶺背斜東翼の伏在断層、長嶺背斜及び真殿坂向
斜等の褶曲の MⅠ 面形成以降の成長は認められないとしている東京電
力の評価は、妥当なものであることを確認した。
以上のとおり、合同WGでは、真殿坂断層は、変動地形学的調査、
地表地質調査、反射法地震探査等の結果に加え、敷地及び敷地近傍
のボーリング調査により、阿多鳥浜テフラが真殿坂向斜を横断して
ほぼ水平に分布し、西山層以下の地層に見られる褶曲構造に対応す
る地形は認められないこと、地震後の調査・測量において、中越沖
地震に伴う真殿坂断層の活動を示唆する結果は得られていないこと
などから、真殿坂断層の後期更新世以降の活動は認められないこと
を確認した。
4)地元団体からの指摘事項について
保安院は、地元団体から真殿坂断層の活動性等についての地質・地質
構造に関する申し入れを受けた。申し入れの内容について、保安院及び
合同WGにおいて検討を行った。主な検討結果は以下のとおりである。
(1)真殿坂断層沿いの地すべり等の変状地形について
真殿坂断層沿いに、地すべり等の変状地形が集中していることは、
真殿坂断層の活動を示唆するという指摘があった。
東京電力は、空中写真判読により、敷地及び敷地近傍の西山丘陵を
中心に、崩壊、亀裂、段差等を対象に比較的明瞭な変状地形を抽出し
26
た結果、敷地及び西山丘陵において、崩壊・亀裂等の変状地形が真殿
坂向斜沿いに集中、線状配列していないことを確認したとしている。
また、国土地理院の中越沖地震における地すべり分布状況報告と敷地
近傍の背斜・向斜軸を重ね合わせても、地すべり分布と真殿坂向斜と
の関連性は認められないとしている。
合同WGでは、真殿坂断層沿いに、地すべり等の変状地形の集中は
見られず、これらの地形は真殿坂断層の活動を示唆するものではない
と考えられるが、広域的な地すべり等の分布との比較を行うべきとの
委員からの指摘があり、引き続き検討を行っている。
(2)番神砂層下部水成層の標高が真殿坂向斜の東西で違うことについて
北−2測線沿いで番神砂層下部水成層の標高が真殿坂向斜の西側で
高く、東側で低いこと等は、真殿坂断層の活動を示すという指摘があ
った。
東京電力は、指摘される露頭で確認された大湊砂層(番神砂層下部
水成層)と番神砂層(番神砂層上部風成層)との境界の標高は、地す
べり箇所と想定される地点(Loc.b と Loc.c)及び Loc.f を除き、概ね
35∼40m に分布し、真殿坂向斜を挟んで顕著な高度差は認められないと
している。また、Loc.f で確認された大湊砂層の標高は約 48m であるが、
断面上で両側となる Loc.e と Loc.g の大湊砂層の標高は約 40m である
こと、阿多鳥浜テフラが安田層の下部に真殿坂向斜を横断してほぼ水
平に堆積し、西山層以下の地層に見られる褶曲構造に対応した変形が
認められないことから、真殿坂断層の活動を示唆するものではないと
考えるとしている。
番神砂層下部水成層の上限面の標高については、保安院が現地調査
を行い、東京電力と地元団体との主張が異なっていることを確認した。
前述のとおり、真殿坂断層は、後期更新世以降の活動性はないと考え
られるが、今後、現地調査等を行い、当該調査地点において、「真殿坂
向斜を挟んで顕著な高度差は認められない」等の東京電力の見解の妥
当性等について検討を行う。
(3)観音岬・椎谷付近の海底亀裂及び遺構について
中越沖地震で椎谷海底に断層が出現したことは、原子炉建屋、ター
27
ビン建屋が傾いた事実を施設直下や施設近傍の断層活動として判断す
べき、また、江戸時代の遺構が海底に沈んでいる事実は、敷地近傍に
おいて後期更新世以降の地殻構造運動がないとする主張は誤りである
という指摘があった。
東京電力は、観音岬・椎谷海岸付近の海底亀裂については、地震前
に撮影された空中写真においても確認されること、海底亀裂は椎谷向
斜軸に斜交して分布しており、椎谷向斜軸等の褶曲の成長に伴い生じ
たものと推定されること、椎谷海岸付近の海底亀裂の延長部の陸域の
地形や道路等において、今回の地震により亀裂が動いたことを示す形
跡が認められないことから、観音岬・椎谷海岸付近の海底亀裂は後期
更新世以降の構造運動を示すものではないと考えられるとしている。
また、椎谷観音岬沖の歴史時代の遺構と指摘される箇所については、
地元資料に記されている本地域の大規模な地震の存在が疑わしいこと、
歴史時代の遺構と指摘されるものは甌穴や浸食地形と推定されること、
中越沖地震により観音岬を中心に隆起が認められており、観音岬付近
の海成段丘面の標高も周辺よりも低くなく、指摘されている地域が沈
降することは推定されないことから、歴史時代の遺構と指摘されるも
のについては後期更新世以降の構造運動を示すものではないと考えら
れるとしている。
合同 WG では、遺構とされるものなどについて得られる情報が必ずし
も十分ではない面はあるが、敷地近傍における変動地形学的調査、地
表地質調査、反射法地震探査、地層に挟在される火山灰の分析等から、
敷地近傍において耐震設計上考慮すべき活断層や活褶曲は認められな
いことなどから、観音岬・椎谷付近の海底亀裂及び遺構とされている
ものが後期更新世以降の敷地近傍における断層活動を示唆するもので
はないことを確認した。なお、東京電力においては、遺構とされるも
の等について引き続き調査を行っている。
(4)柏崎平野の構造運動について
柏崎平野の安田層基底(基盤上限面)が海底音波探査結果より深い
事実は、平野の沈降を示す等の指摘があった。
東京電力は、柏崎平野を横切る断面で実施した反射法地震探査によ
ると、柏崎平野において、西山層、椎谷層は緩やかな同斜構造を示し
断層は認められないことから、その平野の下に活発な構造運動を示唆
28
させるものはないと考えているとしている。さらに、海上音波探査及
び反射法地震探査によると、敷地付近の陸域において、浅部から2000
∼3000m以深まで連続する断層構造は認められないとしている。
合同WGでは、柏崎平野の安田層基底(基盤上限面)の深さは、少
なくとも後期更新世以降の構造運動を示すものではないと考えられる
とする東京電力の評価は、妥当なものであることを確認した。
(5)北−1測線の沖積層基底標高及び滝谷の農道付近の冠水について
北−1測線の真殿坂向斜付近の探査結果において、上流側の沖積層
基底が下流側よりも深い事実は、真殿坂断層の沖積層堆積以降の活動
を示す、また、真殿坂向斜軸付近に位置する滝谷の農道が地震後に冠
水した事実は、真殿坂断層が地震により活動したことを示唆するとい
う指摘があった。
検討結果は、3)②と同じ。
(6)建屋の傾動と敷地内断層の活動について
建屋の傾動は直下断層等の運動を示唆し、敷地内直下断層の全数調
査、3∼5号間の線状変位の調査、原子炉・タービン等建屋の傾動原
因調査が必要である。また、原子炉建屋、タービン建屋、発電所基準
点は西山層に直接設置、これらが中越沖地震で不規則に動いて建屋が
傾いた事実は、中越沖地震で直下の断層や真殿坂断層が動いたことを
示すという指摘があった。
検討結果は、3)③と同じ。
3.活断層等の評価のまとめ
合同WGにおいては、柏崎刈羽原子力発電所の敷地周辺の地質・地質構造
の調査及び活断層等の評価の妥当性について、新耐震指針、手引き及びバッ
クチェックルールを踏まえ検討を行った。
柏崎刈羽原子力発電所の敷地周辺の地質・地質構造に対する保安院の見
解は、以下のとおりである。
①地質・地質構造調査については、基本的に必要な調査は実施されてお
り妥当なものと判断する。
29
②敷地周辺陸域の活断層については、長岡平野西縁断層帯を構成する角
田・弥彦断層、気比ノ宮断層、片貝断層の各断層については、主活動
時期、平均的な変位速度等が異なることなどから、それぞれ活動セグ
メントとして区分することは可能であるが、地震動評価の不確かさと
して3つの断層を合わせた長さ約91km の区間が同時に活動する場合
も考慮するとしていることは、妥当なものと判断する。
③敷地周辺海域の活断層については、F−B断層の長さについて、不確
かさを考慮する範囲として約36kmとするとしていることは、妥当
なものと判断する。また、F−B断層北方延長部においては、海上音
波探査結果等から、耐震設計上考慮すべき活断層は認められないと判
断する。F−D断層及び高田沖断層については、F−D褶曲群と高田
沖褶曲群の褶曲形態に差異があること等から、それぞれを活動セグメ
ントとして区分することは可能であるが、両褶曲群は近接することか
ら同時活動を考慮するとしていることは、妥当なものと判断する。
④敷地及び敷地近傍の地質・地質構造、特に真殿坂断層については、変
動地形学的調査、地表地質調査、反射法地震探査等の結果に加え、敷
地及び敷地近傍のボーリング調査により、阿多鳥浜テフラが真殿坂向
斜を横断してほぼ水平に分布し、西山層以下の地層に見られる褶曲構
造に対応する地形は認められないこと、地震後の調査・測量において、
中越沖地震に伴う真殿坂断層の活動を示唆する結果は得られていない
ことなどから、真殿坂断層の後期更新世以降の活動は認められないと
判断する。
なお、真殿坂断層の活動性等についての地質・地質構造に関する地
元団体からの申し入れについては、番神砂層下部水成層の上限面の標
高や真殿坂断層沿いの地すべり等について、引き続き調査等を行って
いる。
30
Ⅵ.基準地震動についての保安院の評価
1.中越沖地震による地震動の要因分析
1)地震観測結果
東京電力の報告によると、中越沖地震の際、柏崎刈羽原子力発電所では、
1号機から7号機の各号機の原子炉建屋及びタービン建屋において建屋
系の地震観測が行われており、地盤系については、1号機、5号機、6
号機、サービスホール等において地震観測が行われていた。このうち、
各号機の原子炉建屋、6号機を除くタービン建屋、サービスホールの地
盤系では、中越沖地震の本震の波形記録が得られたが、その他の観測位
置では本震後の余震により本震記録が上書きされ、最大加速度値以外は
消失した。
中越沖地震時に観測された各号機の原子炉建屋基礎版上の最大加速度
と、設計時における原子炉建屋基礎版上の最大加速度を比較して表−1
に示す。
表―1
中越沖地震時に原子炉建屋基礎版上で観測された最大加速度
(単位:ガル(cm/s2 ))
南北方向
中越沖地震
東西方向
設計時
*1
中越沖地
震
上下方向
設計時
*1
中越沖地
震
設計時*2
1 号機
311
274
680
273
408
235
2号機
304
167
606
167
282
235
3号機
4号機
308
310
192
193
384
492
193
194
311
337
235
235
5 号機
6号機
277
271
249
263
442
322
254
263
205
488
235
235
7 号機
267
263
356
263
355
235
*1
設計時の最大加速度
*2
上下方向の設計震度を加速度に換算したもの。
31
中越沖地震時、各原子炉建屋基礎版上で観測された最大加速度をみる
と、南北方向(以下、
「NS方向」という)に比較して東西方向(以下「E
W」方向という)が大きく、各号機とも中越沖地震時による最大加速度
が設計時のものを上回っている。特に、1 号機の原子炉建屋基礎版上のE
W方向の最大加速度が最も大きく 680 ガルが観測された。また、1 号機か
ら 4 号機が設置されている敷地南部の荒浜側が、5 号機から 7 号機が設置
されている大湊側に比較して、相対的に最大加速度が大きくなっている。
1 号機原子炉建屋基礎版上のEW方向の観測波形をみると、波形には3
つのパルス的な波形が含まれているのが認められ、1 号機の最大加速度
680 ガルは 3 番目のパルス波に現われている。また、各原子炉建屋基礎版
上のEW方向の観測波を応答スペクトルで比較してみると、荒浜側と大
湊側の原子炉建屋基礎版上の応答スペクトルには全体的な傾向に差があ
ることが認められる。図−1に 1 号機の原子炉建屋基礎版上のEW方向
の観測波形、図−2に荒浜側及び大湊側の原子炉建屋基礎版上の応答ス
ペクトルを示す。
合同WGでは、このような大きな加速度が観測された要因について、
中越沖地震に係る関係研究機関による調査研究成果を踏まえ、JNES
による要因分析の報告及び東京電力による要因分析の報告をもとに検討
を行った。
要因の検討に当たっては次の観点から検討を行った。
① 敷地及び敷地周辺の観測記録による中越沖地震の地震動の特徴
② 中越沖地震の解放基盤表面上の地震動の推定と分析
③ 断層モデルによる中越沖地震の震源特性の分析
④ 敷地の地下構造特性による増幅特性の分析
以下に、合同WGの検討の結果を示す。
32
33
図−1
1 号機基礎版上で観測された波形
1000 NS成分
max = 311 Gal
0.0
-1000
0
10
20
時 間 (秒)
30
1000 EW成分
40
50
max = 680 Gal
0.0
-1000
0
10
20
30
40
50
時 間 (秒)
1000
UD成分
max = 408 Gal
0.0
-1000
0
10
20
34
時 間 (秒)
30
40
50
1号機(EW方向)
2号機(EW方向)
3号機(EW方向)
4号機(EW方向)
s2
)
観測記録
観測記録
観測記録
観測記録
0
(h=0.05)
20
0
50
20
00
10
1
500
(c
m/
(c
m)
1000
10
00
中越沖地震
中越沖地震
中越沖地震
中越沖地震
10
0
200
100
50
0 .1
50
速
度
20
(cm/s)
10
0.
01
5
2
1
0.5
0.01
0.02
0.05
0.1
0.2
0.5
1
2
5
10
周 期(秒)
荒浜側
/s
(c
m
20
0
500
(h=0.05)
50
0
20
1
00
10
00
)
10
(c
m
1000
)2
中越沖地震 観測記録 5号機(E W方向)
中越沖地震 観測記録 6号機(E W方向)
中越沖地震 観測記録 7号機(E W方向)
10
0
200
100
50
50
0.
1
速
度
20
(cm/s)
10
5
0.
01
2
1
0.5
0.01
0.02
0.05
0.1
0.2
0.5
1
2
5
10
周 期(秒)
大湊側
図―2
荒浜側及び大湊側の原子炉建屋基礎版上の応答スペクトル
35
2)要因分析
(1)敷地及び敷地周辺の観測記録による中越沖地震の地震動の特徴
合同WGでは、敷地及び敷地周辺の地表の最大加速度の観測記録か
ら中越沖地震による地震動の特徴について、JNES及び東京電力の
報告をもとに検討を行った。
JNESの報告によると、敷地の 1 号機及び 5 号機の地震観測小屋
において観測された地表の最大加速度及び敷地周辺の K-net による地
表の最大加速度の観測結果と、距離減衰式による平均的な地表の最大
加速度の推定結果が震央距離に応じて示されている。これによれば、
各地点の最大加速度は距離減衰式と整合しているが、敷地で観測され
た地震動は距離減衰式による平均値に比較して大きくなっている。
東京電力では、中越沖地震時の観測された震源距離が 200km 以内の
K-net 及び KiK-net の観測点のうちせん断波速度が解放基盤表面相当
の 700m/s 以上の第三紀以前の地層が確認されている観測点の地表の
観測記録をもとに、せん断波速度が 700m/s の地層より上の表層地盤の
影響を考慮して算定した各観測点の水平動及び鉛直動の加速度応答ス
ペクトルと、中越沖地震のマグニチュードと各観測点の等価震源距離
から距離減衰式である Noda et al.(2002)(以下「耐専式」という)を
用いて内陸補正をせずに算定される各観測点の解放基盤表面相当にお
ける平均的な加速度応答スペクトルを比較している。その結果、水平
動及び上下動とも震源距離が 200km 以内の観測点における観測記録に
よる応答スペクトルと耐専式による応答スペクトルの比率は平均する
と概ね1に近い値を示すとしている。
合同WGでは、これらのことから、中越沖地震は従来の地震と比べ
特異なものではなかったことを確認した。しかし、敷地においては大
きな最大加速度が観測されていることから、その要因について検討を
行うこととした。
36
(2)観測記録による解放基盤表面上の地震動の推定
合同WGでは、中越沖地震による地震動の要因分析の検討にあたって、
東京電力が行った敷地の解放基盤表面上の地震動の推定結果の妥当性
について検討を行った。
東京電力では、中越沖地震の解放基盤表面上の地震動として、サービ
スホールにおける地盤系の観測記録を用いた水平方向の地震動の推定、
各号機の原子炉建屋基礎版上の観測記録を用いた水平方向及び鉛直方
向の地震動の推定を行っている。
東京電力は、サービスホールの解放基盤表面上の地震動の推定に当た
っては、NS方向、EW方向について、解放基盤表面から上部の地盤中
の地震計の設置区間毎に振動数別の振幅の比率(以下「伝達関数」とい
う。)及び観測された最大加速度値に整合するように同定した地盤モデ
ルをもとに解放基盤表面上の地震動を推定している。
合同WGでは、地震計の設置区間ごと地盤の伝達関数、地盤中の最大
加速度値及び速度スペクトルについて、観測結果と推定結果について検
討した。その結果、観測値と同定した地盤モデルによる推定結果は概ね
整合していることから、サービスホールの観測記録を用いて推定した中
越沖地震による解放基盤表面上の地震動は概ね妥当なものであること
を確認した。また、JNESにおいてもサービスホールの開放基盤表面
上の地震動の推定を行っているが、その結果は東京電力の推定結果とほ
ぼ同程度であることを確認した。
また、東京電力は、各号機の解放基盤表面上の地震動として、NS方
向、EW方向ごとに、設計で用いた解放基盤表面から上部の地盤モデル
と原子炉建屋の地震応答解析モデルを用いて地盤の剛性及び減衰特性
を変化させつつ、原子炉建屋基礎版上の観測地震動と整合するよう解放
基盤表面上の水平方向の地震動を推定している。解放基盤表面上の鉛直
方向の地震動は、水平方向の解放基盤表面上の地震動を推定した地盤モ
デルの物性値に基づき作成した鉛直方向の地盤モデルにより推定して
いる。
合同WGでは、1 号機、5 号機及び6号機の地盤系の観測記録が余震
の上書きにより消失していることを踏まえ、東京電力に対して、推定さ
れた原子炉建屋の解放基盤表面上の地震動の妥当性を検討することを
37
求めた。東京電力では、1 号機の地盤系及び 5 号機の地盤系で観測され
た比較的規模が大きい海域と内陸の 3 地震(M6.6(1999.2.7 22:27)、
M6.1(2004.10.27 10:40)、M5.8(2007.7.16 17:53))の原子炉建屋基礎版
上の観測記録をもとに、中越沖地震による解放基盤表面上の地震動を推
定した地盤モデルと原子炉建屋の地震応答解析モデルを用いてその妥
当性の検討を行った。なお、検討に際しては、3 地震は中越沖地震に比
較して規模が小さく中小地震であることから、原子炉建屋の地震応答解
析モデルに埋戻土部分の側面ばねを追加して検討を行っている。その結
果、3 地震の原子炉建屋基礎版上の観測記録から推定される解放基盤表
面上の地震動をもとに、地盤中の地震計位置において算出された最大加
速度及び速度応答スペクトルは観測結果と概ね整合していることを確
認した。これらのことから、合同WGは中越沖地震による各原子炉建屋
の解放基盤表面上で推定された地震動は概ね妥当なものであることを
確認した。
表−2に、各号機等の解放基盤表面位置及び解放基盤表面上の地震動
を示す。
表−2
各号機等の解放基盤表面位置及び解放基盤表面上の地震動
解放基盤表面位置
解放基盤表面上の推定地震動(ガル)
(T.M.S.L:m)*1
NS
EW
上下
サービスホール
T.M.S.L -250
647
1247
−
1号機
T.M.S.L -284
842
1699
591
2号機
T.M.S.L -250
812
1011
545
3号機
T.M.S.L -285
994
1113
618
4号機
T.M.S.L -285
974
1478
749
5号機
T.M.S.L -134
515
766
262
6号機
T.M.S.L -155
580
539
422
7号機
T.M.S.L -155
667
613
460
*1)T.M.S.L
東京湾平均海面。
*2)JNESによるサービスホールの解放基盤表面の地震動の最大加速度は 1187 ガル。
38
(3)解放基盤表面上の地震動の分析
合同WGでは、中越沖地震について、観測記録から推定される解放基
盤表面上の地震動の応答スペクトルと、距離減衰式から算定される平均
的な地震動の応答スペクトルを比較し、中越沖地震の応答スペクトルが
平均的な応答スペクトルに対してどれぐらい大きかったのか検討を行
った。また、中越沖地震は海域で発生した地震であるが、海域で発生し
た地震と陸域で発生した地震とでは、敷地の解放基盤表面上において地
震動の大きさに差があるかどうか検討した。
東京電力では、中越沖地震の観測記録から推定された各号機及びサー
ビスホールの解放基盤表面上の地震動の応答スペクトルと、耐専式によ
り求められた各号機及びサービスホールの解放基盤表面上の平均的な
地震動の応答スペクトルを比較している。応答スペクトルの比較におい
ては、内陸補正をしない場合の耐専式による応答スペクトルと内陸補正
を行った応答スペクトルが算定されている。内陸補正とは、内陸地殻内
地震による応答スペクトルを求める際に用いるものであって、耐専式か
ら求められた結果に補正係数として 0.6 を乗じるものである。東京電力
は、応答スペクトルの比較を、1 号機から4号機までの荒浜側、5 号機
から7号機までの大湊側、サービスホールに分けて比較している。比較
の結果を、図−3、図−4及び図−5に示す。
合同WGで検討した結果、荒浜側の 1 号機∼4 号機の中越沖地震によ
る解放基盤表面上の応答スペクトルの大きさ及び形状は概ね同程度で
あり、また、大湊側における 5 号機∼7 号機までの中越沖地震による解
放基盤表面上の応答スペクトルも大きさ及び形状は概ね同程度である
が、荒浜側は大湊側に比較して大きくなっていることを確認した。また、
荒浜側の各号機の観測記録から推定された解放基盤表面上の応答スペ
クトルは、耐専式による内陸補正をしない応答スペクトルの 4 倍に概ね
相当すること、大湊側の各号機の観測記録から推定された解放基盤表面
上の応答スペクトルは、耐専式による内陸補正しない応答スペクトルの
2 倍に概ね相当すること、荒浜側と大湊側の中間的な位置にあるサービ
スホールでは概ね 3 倍に相当することを確認した。
39
(c
m/
s
50
0
10
0
10
0
10 0
0.
1
50
50
50
速
速
度
20
20
(cm/s)
(cm/s)
10
10
5
0.
01
5
2
2
1
1
0 .5
0 .0 1
0 .0 2
0 .0 5
0 .1
0 .2
0 .5
1
2
5
0.
01
0.5
0 .0 1
10
0.02
0 .0 5
0.1
0 .2
0 .5
1
2
5
10
周 期(秒)
周 期(秒)
NS
EW
図−3
荒浜側の解放基盤波と Noda et al.(2002)(1)による
応答スペクトルとの比較
5 号機(EW方向)
6 号機(EW方向)
7 号機(EW方向)
耐専スペクトル (M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)
耐専スペクトル (M6.8,Xeq=15km,内陸補正なし)
耐専スペクトル (M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)×3
)2
0
(c m
/s
00
1
(h=0.05)
50
500
10
20
0
20
0
500
50
0
20
10
00
10
1
(c
m
)
1000
10
(h = 0 .0 5)
00
)
10 00
00
(c
m
(c
m/
s )2
5 号機(NS方向)
6 号機(NS方向)
7 号機(NS方向)
耐専スペクト ル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)
耐専スペクト ル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正なし)
耐専スペクト ル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)×3
20
200
0
10
0
200
100
50
0.
1
50
速
速
度
0.
1
50
100
50
10
度
00
20
0
20
0
20 0
10 0
50
(h= 0 .0 5 )
10
50
0
1
50 0
20 0
0.
1
10
00
1 00 0
20
(c m
10
20
50 0
(h = 0.05 )
00
00
10
1
(c
m)
/s 2
)
(c
m
)
1 00 0
)2
1号機(NS方向)
2号機(NS方向)
3号機(NS方向)
4号機(NS方向)
耐専スペクトル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)
耐専スペクトル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正なし)
耐専スペクトル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)×6
1号機(EW方向)
2号機(EW方向)
3号機(EW方向)
4号機(EW方向)
耐専スペクトル (M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)
耐専スペクトル (M6.8,Xeq=15km,内陸補正なし)
耐専スペクトル (M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)×6
度
20
20
(cm/s)
(cm/s)
10
10
5
0.
01
5
2
2
1
1
0.5
0.01
0 .0 2
0 .0 5
0.1
0.2
0.5
1
2
5
10
周 期(秒)
0.5
0.01
0.02
0.05
0.1
0.2
0.5
1
周 期(秒)
NS
図−4
0.
01
EW
(1)
大湊側の解放基盤波と Noda et al.(2002) による
応答スペクトルとの比較
40
2
5
10
/s
50
0
20
20
0
0
500
(h=0.05)
10
20
00
10
1
50
0
(c
m
1000
00
2
(c
m/
s
0
0
20
0
50 0
(h= 0.0 5 )
10
0
10
1
(c
m)
)
(c
m)
1 00 0
)2
C ASE-G_EW_80sRes.w az
耐専スペクト ル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)
耐専スペクト ル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正なし)
耐専スペクト ル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)×4.5
CASE-G_NS_80s_R es.waz
耐専スペクトル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)
耐専スペクトル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正なし)
耐専スペクトル(M6.8,Xeq=15km,内陸補正あり)×4.5
20 0
100
50
0.
1
50
50
0.
1
速
度
10
10
10 0
50
0
0
200
速
度
20
(cm/s)
20
(cm/s)
10
10
5
0.
01
5
2
2
1
1
0.5
0 .0 1
0.02
0 .0 5
0.1
0 .2
0 .5
1
2
5
0.5
0.01
10
周 期(秒)
0.02
0.05
0.1
0.2
0.5
1
2
周 期(秒)
NS
図―5
0.
01
EW
サービスホールの解放基盤波と Noda et al.(2002)(1)による
応答スペクトルとの比較
41
5
10
東京電力では、海域で発生した地震と陸域で発生した地震とでは敷地
の解放基盤表面上において地震動の大きさに差があるかどうかについ
て、中越沖地震以外の海域の地震及び陸域の地震の観測記録を用いて推
定される解放基盤表面上の応答スペクトルと、耐専式により内陸補正を
せずに算定される応答スペクトルを比較している。比較に当たっては、
1 号機、5 号機及びサービスホールを代表地点として、1 号機では 10 地
震、5 号機では 15 地震、サービスホールでは 6 地震を選定している。
選定した地震には、佐渡島付近から能登半島付近に発生した海域の地震
並びに中越地方及び長野地方で発生した陸域の地震が含まれている。図
−6に海域及び陸域のそれぞれを震源とする地震の応答スペクトルの
比率の平均を示す。
合同WGで検討した結果、海域で発生した地震の観測記録及び耐専式
による解放基盤表面上の応答スペクトルの比率の平均値は、1 号機では
概ね2倍∼3倍程度、5 号機で概ね 1 倍∼1.5 倍程度、サービスホール
では概ね2倍程度となっていることを確認した。陸域の地震の場合は、
観測記録と耐専式による応答スペクトルの比率の平均値は、1 秒以下の
周期において、1 号機、5 号機及びサービスホールとも概ね 0.5 倍程度
となっていることを確認した。
42
K1-SEA-4EQ
K5-SEA-4EQ
KSH-SEA-4EQ
RATIO (Obs/Cal)
50
1号機 海域
5号機 海域
サービスホール 海域
20
10
5
海域でのスペクトル比
2
1
0.5
0.2
0.1
0.05
0.01
平均の比較
0.02
0.05
0.1
0.2
0.5
Period [s]
1
2
5
10
1号機 陸域
K1-LAND
K5-LAND
KSH-LAND
5号機 陸域
サービスホール 陸域
RATIO (Obs/Cal)
50
20
10
5
陸域でのスペクトル比
2
1
0.5
0.2
0.1
0.05
0.01
図―6
平均の比較
0.02
0.05
0.1
0.2
0.5
Period [s]
1
2
5
10
海域を震源とする地震の応答スペクトルの比率平均及び陸域を震
源とする地震の応答スペクトルの比率平均
また、東京電力は、海域の地震及び陸域の地震のそれぞれについて 5
号機の応答スペクトルの比率の平均値を基準として、1号機及 びサービ
スホールの海域及び陸域の地震のそれぞれの応答スペクトルの平均値
と比較している。なお、この場合、海域の地震の比較においては各地点
で共通に観測されている地震のうち 3 地震をもとに比較をしている。陸
域の地震の場合は、1 号機との比較においては 5 号機と共通に観測され
ている中越地方で発生した 5 地震、サービスホールとの比較においては
5 号機と共通に観測されている中越地方及び長野地方で発生した 2 地震
をもとに比較している。
合同WGで検討した結果、海域の地震については、5号機の解放基盤
43
表面の応答スペクトルの比率を基準とした場合、1 号機では 2 倍程度大
きく、サービスホールでは 1.5 倍∼2倍程度となることを確認した。陸
域の地震については、1 号機及びサービスホールとも概ね 1 倍程度であ
ることを確認した。
なお、合同WGでは、中越沖地震の本震の場合は、1 号機原子炉建屋
基礎版上で観測された最大加速度が 5 号機原子炉建屋基礎盤上で観測
された最大加速度より大きかったが、余震の場合には、5 号機の方が 1
号機に比べ大きくなる場合があることについてJNES及び東京電力
に対して検討を求めた。
JNESでは、敷地北側の第1アスペリティ付近で発生した3余震と
敷地南側の第3アスペリティ付近で発生した4余震について、各原子炉
建屋基礎版上の観測記録、1号機、5号機及びサービスホールにおいて
観測された地盤系の観測記録により分析を行っている。また、7 月 16
日 15 時 37 分に発生した最大余震について、同様の分析を行っている。
さらに、第1アスペリティ、第 2 アスペリティ及び第 3 アスペリティか
らの地震動による各号機の解放基盤表面上の地震動をもとに分析を行
っている。(図−7参照)
合同WGで検討した結果、最大余震を含む第 1 アスペリティ付近で発
生した余震による各原子炉建屋基礎版上の観測記録は 1 号機側に比べ 5
号機側が大きくなっているが、1号機、5号機及びサービスホールの地
盤系の観測記録では明瞭な差は認められないことを確認した。また、第
1アスペリティ、第 2 アスペリティからの地震動による各号機の解放基
盤表面上の地震動は、5 号機側が 1 号機側に比較して若干大きくなるが、
概ね同程度であること、第 3 アスペリティからの地震動は 1 号機側が 5
号機側に比べ顕著に大きくなることを確認した。
また、東京電力では、中越沖地震の余震時 1 号機及び 5 号機において
1 ガル以上のノイズの少ない観測記録が得られている 11 余震について、
余震ごとに観測された 1 号機と 5 号機の原子炉建屋基礎版上の最大加速
度、解放基盤表面上の最大加速度、地中深部の最大加速度の比較などを
行っている。(図―8参照)
合同WGで検討した結果、第 3アスペリティ 付近で発生した 2 余震の
場合は 1 号機に近く、1 号機の原子炉建屋基礎版上の観測記録が 5 号機
44
より大きくなっているが、その他の余震は 5 号機の原子炉建屋基礎版上
の最大加速度が 1 号機より大きくなっている。しかし、解放基盤表面上
の最大加速度、地中深部の最大加速度で比較すると、第3アスペリティ
付近の 2 余震の場合は 1 号機の方が大きいが、その他の余震の場合は比
較的 5 号機側に分布しているものの、1 号機及び 5 号機の最大加速度は
ほぼ同程度とみなせることを確認した。なお、東京電力では、解放基盤
表面上及び地中深部において 1 号機と 5 号機は同程度の地震動にもかか
わらず、原子炉建屋基礎版上では 5 号機の方が大きくなることについて
は、1 号機の解放基盤表面が GL-289m、5 号機の解放基盤表面が GL-146
mであることから解放基盤表面以浅の地盤の地震動の増幅の差に起因
するもの、及び 1号機 と 5 号機の原子炉建屋の地盤中の埋込み深さが異
なることから、埋込み深さの差異に伴う地盤と原子炉建屋の相互作用に
よる減衰の差に起因するものとしており、合同WGにおいて妥当なもの
と認められた。
(4)断層モデルによる震源特性及び地下構造特性の分析
合同WGでは、中越沖地震の観測記録による各号機の解放基盤表面の
応答スペクトルは耐専式による平均的な応答スペクトルに比べて大き
く、解放基盤表面上の応答スペクトルは荒浜側の1号機∼4号機と大湊
側の 5 号機∼7 号機とではその大きさが異なることの要因、また、中越
沖地震を含む海域を震源とする地震による解放基盤表面の地震動の応
答スペクトルは耐専式による平均的な応答スペクトルに比べて大きく
なることの要因について検討を行うこととした。検討に当たっては、中
越沖地震の震源特性、敷地の地下構造特性に着目して検討を行うことと
した。
①中越沖地震の震源特性
合同WGでは、中越沖地震による各号機の解放基盤表面の地震動が
大きくなった要因として、震源断層のアスペリティからの地震波が平
均的なものに比べてどれぐらい大きかったのかなど、震源特性につい
てJNESの分析結果及び東京電力の分析結果をもとに検討を行っ
た。
45
JNESでは、中越沖地震に係る震源断層の傾きや断層モデルに
よるシミュレーションに係る関係機関の研究成果、余震分布、地震
観測記録等から、主たる震源断層を南東傾斜とし、3個のアスペリ
ティからなる断層モデルを構築している。断層モデルによる中越沖
地震の地震動の解析は経験的グリーン関数法を用いている。要素地
震記録としては、本震の震央位置の近くで 7 月 16 日 21 時 8 分に発
生した余震による5号機原子炉建屋基礎版上の観測記録及び 1 号
機の近くで 8 月 4 日 0 時 16 分に発生した余震による 1 号機原子炉
建屋基礎版上のそれぞれの観測記録を用いて解析を行っている。J
NESでは、これらから算出される1号機及び5号機の原子炉建屋
基礎版上、サービスホールにおける地震動の解析結果と観測記録を
整合させつつ、中越沖地震の震源特性の分析を行っている。図―○
にJNESの断層モデルを示す。
第1アスペリティ
第 2 アスペリティ
★:破壊開始点
第 3 アスペリティ
図―7
JNESの断層モデル
東京電力では、余震分布を参考に南東傾斜の震源断層を想定し、
1 号機及び 5 号機の原子炉建屋基礎版上の観測記録や断層面の中心
から半径 50km の K-net、Kik-net 等の観測点の記録から求められる
震源断層の地震モーメントの密度分布をもとに、3 個のアスペリテ
ィからなる断層モデルを構築している。断層モデルによる中越沖地
震の地震動の解析は経験的グリーン関数法を用いている。要素地震
記録としては、本震の震央位置の近くで 7 月 16 日 21 時 8 分に発生
した余震による各号機の原子炉建屋基礎版上の観測記録を用いて
46
解析を行っている。東京電力では、これらから算出される各号機の
原子炉建屋基礎版上及びサービスホールの地盤中における地震動
の解析結果とそれぞれの観測記録を整合させつつ、中越沖地震の震
源特性の分析を行っている。なお、東京電力は、1号機原子炉建屋
基礎版上で観測された要素地震記録では、第3アスペリティからの
伝播特性が十分に反映されず、本震時の1号機の地震動の解析結果
が観測記録と整合しないことから、要素地震記録を補正して第3ア
スペリティに割り当て、解析結果と観測記録と整合する解析を行っ
ている。図−8 に東京電力の断層モデルを示す。
第 1 ア スペ リ
第 2 アスペリテ
図―8
東京電力の断層モデル
第 3 アスペリテ
47
第1アスペリティ
第 2 アスペリティ
図―8
東京電力の断層モデル
第 3 アスペリティ
合同WGにおいてJNESの分析結果をもとに震源特性につい
て検討を行った結果、アスペリティからの地震波の短周期レベルを
既往の地震の平均的な短周期レベルの 1.5 倍程度とすることによ
り、1 号機・5 号機の原子炉建屋基礎版上及び敷地周辺の観測点に
おける地震動の解析結果はそれらの観測記録と概ね整合している
ことを確認した。
また、東京電力の分析結果をもとに震源特性について検討した結
果、断層モデルの 3 個のアスペリティから発出される地震波の短周
期レベルを既往の地震の平均的な短周期レベルの 1.5 倍程度とす
ることにより、各号機の原子炉建屋基礎版上及びサービスホールの
地盤中の地震動の解析結果はそれらの観測記録と概ね整合してい
ることを確認した。
これらのことから、合同WGでは、中越沖地震の震源特性として、
三つのアスペリティがあり、そのうち第3アスペリティが敷地に近
いところにあったこと、アスペリティの破壊がほぼ敷地の方向に向
かって進展したこと、アスペリティからの地震波の短周期レベルが
既往の地震の平均的な短周期レベルの 1.5 倍程度大きかったこと
が、各号機の解放基盤表面上で大きな地震動が観測された要因と考
えることは妥当であることを確認した。
②敷地の地下構造特性
48
合同WGでは、中越沖地震による各号機の解放基盤表面の地震動
が大きくなった要因として、敷地周辺は地震基盤(せん断波速度が
約 3km 以上の地層の上面)が深く、地震基盤から上部の地層が褶曲
構造を呈していることが地震動の増幅にどれぐらい大きく影響す
るかなど、地下構造特性による地震動の増幅特性について、JNE
Sの分析結果及び東京電力の分析結果をもとに検討を行った。
JNESでは、敷地周辺の地下構造による中越沖地震の地震動の
増幅特性を分析するため、東西方向約 28km、南北方向約 38km、深
さ約 15km の3次元の地下構造モデルを構築している。この地下構
造モデルは、2004 年 10 月 23 日に発生した新潟県中越地震後、
JNESが旧石油公団の基礎試錐、反射法地震探査、ボーリング調
査等のデータを収集し、これらのデータや地質図から構築したも
のであり、地震基盤は約5∼8km と非常に深く、不整形な形状を
呈すること、その地震基盤のから上にはグリーンタフ、七谷層、
下部寺泊層、上部寺泊層、椎谷層、西山層が厚く堆積しており、
各層の速度構造の境界は不整形な形状を呈し、敷地側が盛り上が
っているとしている。増幅特性の分析に当たっては、三つのアス
ペリティを点震源として各アスペリティからのそれぞれの地震動
の伝播状況、各号機に対する地震動の増幅特性について分析を行
っている。また、三つのアスペリティの面的な破壊を考慮して、
地震動の伝播状況、不整形な地下構造による地震動の増幅特性、
各号機間の解放基盤表面における地震動の増幅特性について分析
を行っている。分析に当たっては、中越沖地震時の各原子炉建屋
基礎版において大きな加速度が観測されているEW方向の加速度
波形のうち、最大加速度は第 3 アスペリティの破壊による後半の
パルス波に現れていることから、主として第 3 アスペリティつい
ての分析を行っている。また、分析は、3次元の地下構造モデル
のメッシュの大きさから、周期 0.5 秒から 5 秒の地震動について
行っている。
合同WGでは、JNESの分析結果について以下のことを確認し
た。
a.中越沖地震の地震動の伝播は、まず、第1アスペリティが破壊
49
し、次いで第 2 アスペリティの破壊により地震動が敷地より北
方で拡がり、その拡がりが敷地に達したとき、第3アスペリテ
ィの破壊による地震動が、椎谷層及び西山層で増幅しながら敷
地に達すること。
b.各アスペリティの点震源からの地震動は、堆積層のせん断波速
度の低下に伴って徐々に増幅し椎谷層及び西山層で大きく増
幅されること。第1アスペリティと第2アスペリティによる各
号機の解放基盤表面の地震動は同程度であること。第3アスペ
リティによる地震動は、第1アスペリティと第2アスペリティ
より大きく、かつ、1 号機∼4 号機においては5号機∼7号機
より大きくなっていること。
c.1号機、5号機及びサービスホールの解放基盤表面の地震動は、
第3アスペリティの面的な破壊が敷地の方向に進行しつつ地
震波を放射することにより耐専式による地震動に対して 1.5
倍程度大きくなること。
d.厚い堆積層による増幅特性については、敷地周辺の堆積層を水
平成層にモデル化し、第 3 アスペリティの面的な破壊により算
定される1号機、5号機及びサービスホールの解放基盤表面の
地震動が耐専式による地震動に対して 1.5 倍程度の増幅が見
られること。
e.地下構造の不整形性による地震動の増幅特性については、敷地
周辺の不整形性を反映した地下構造モデルを用いた第 3 アス
ペリティの面的な破壊による1号機、5号機及びサービスホー
ルの解放基盤表面の地震動と、上記⑤の水平成層のモデルを用
いたそれぞれの地震動を比較すると、1号機 の場合は不整形性
により 1.5 倍の増幅がみられること。5号機及 びサービスホー
ルでは増幅がみられないこと。
f.以上のことから、1 号機の解放基盤表面上の地震動は、周期 0.5
秒から 5 秒にかけて、c.d.及び e.による増幅が認められるこ
と。5 号機及びサービスホールの解放基盤表面上の地震動は、
c.及び d.による増幅が認められること。
また、東京電力では、敷地周辺の地下構造による中越沖地震の地
震動の増幅特性を分析するため、敷地直下にある浅部の褶曲構造を
考慮した 2 次元の不整形地盤モデル及び敷地周辺の褶曲構造を考慮
50
した 3 次元の不整形地盤モデルを用いて分析している。
2 次元の不整形地盤モデルは、敷地を中心に水平方向 7.6km、鉛
直方向 4.8km の範囲の地盤構造をモデル化している。地盤構造は、
ボーリング調査、反射法地震探査の結果等により地震基盤から西
山層までの各層の境界を推定してモデル化を行っており、浅部の
西山層から下部寺泊層までは顕著な褶曲構造、七谷層から基盤岩
までは傾斜構造を呈する地盤モデルとしている。増幅特性の分析
は、1 号機、5 号機、サービスホールの応答を用いて分析を行って
いる。1 号機は椎谷層上面の向斜部、5 号機及びサービスホールは
背斜部に位置している。分析の対象となる振動数は5Hz 以下とし
ている。
3 次元の不整形地盤モデルを用いた分析では、JNES の「地震に
係る確率論的安全評価手法の整備=深部地盤速度構造同定に基づ
く地震動特性評価に関する検討(平成 17 年 12 月)」による3次元
速度構造モデルをもとに地下構造の不整形性をモデル化し、第3
アスペリティからの地震動の増幅特性の分析を行っている。速度
構造モデルは敷地を含む東西方向 50km、南北方向 45km、深さ 18.5km
の範囲について、基盤岩を含め不整形性をもつ 8 層の速度構造に
区分されている。分析の対象となる周波数は 2.4Hz 以下としてい
る。
合同WGでは、これらの分析結果について以下のことを確認した。
a.2次元不整形地盤に地震波(S波)が入射すると、褶曲構造の
影響により、1 号機の増幅の程度は1Hz 未満の地震波を除き水
平成層地盤に比べて顕著であること。1号機の1Hz 未満、5
号機並びにサービスホールの増幅の程度は水平成層地盤の場
合と大差なく浅部の褶曲構造による影響は小さいこと。
b.2次元不整形地盤に中越沖地震の三つのアスペリティの中心
位置から地震波(S波)が入射することを考慮すると、1号機、
5号機及びサービスホールの1Hz 未満の地震波の増幅の程度
はいずれのアスペリティでも差異はなく浅部の褶曲構造によ
る影響は小さいこと。1Hz 以上については、第1アスペリテ
ィ及び第2アスペリティの場合は、1号機、5号機及びサービ
スホールの増幅の程度に顕著な差はみられないこと。第3アス
ペリティの場合、浅部の褶曲構造の影響により、1号機の増幅
51
の程度が5号機等に比較して顕著に大きくなること。
c.3次元不整形性地盤に第3アスペリティからの地震動が入射
すると、地震基盤及び各速度層が褶曲構造により盛り上がって
いる敷地周辺の領域では、地震基盤や各速度層がほぼ水平な領
域に比較して、褶曲構造による地震波の重なりにより、地震動
が大きく増幅すること。
(5)要因分析結果のまとめ
合同WGでは、中越沖地震時に各原子炉建屋基礎版上で大きな加速
度が観測された要因について検討を行った結果は以下のとおり。
①中越沖地震は従来の地震と比べて特異なものではなかったが、敷地
においては大きな地震動が観測された。
②中越沖地震は海域で発生した地震であるが、海域で発生した地震
による敷地の地震動は陸域で発生した地震動に比較して大きい。
③また、1 号機∼4 号機の地震動は 5 号機∼7号機に比べて大きい。
④これらの要因は中越沖地震の震源特性及び敷地の地下構造特性に
よるものと推定される。具体的には、以下の要因が推定される。
⑤震源特性の要因は、三つのアスペリティがあり、そのうち第3ア
スペリティは敷地に近いこと、アスペリティの破壊がほぼ敷地の
方向に向かって進展したこと、アスペリティからの地震波の短周
期レベルが既往の地震の平均的な短周期レベルの 1.5 倍程度大き
かったこと、第3アスペリティの面的な破壊が敷地の方向に進行
しつつ地震波を放射したこと。
⑥海域で発生した地震による敷地の地震動が大きいこと、荒浜側の 1
号機∼4 号機の地震動が大湊側の 5 号機∼7号機に比べて大きいこ
とは、敷地の地下構造特性に要因があること。
⑦敷地の地下構造として、地震基盤は約5∼8km と非常に深く、不
整形な形状を呈すること、その地震基盤から上には厚い堆積層が
あり不整形な形状を呈し、敷地側が盛り上がっており、このよう
な褶曲構造による不整形性による影響が 1 号機∼4 号機の地震動の
増幅に顕著に現れたこと。
⑧これらのことにより、1 号機の解放基盤表面の地震動は耐専式(内
陸補正なし)による平均的な地震動の4倍程度、5 号機では2倍程
度になったと推定される。
52
(6)基準地震動Ssの策定に当たって反映すべき事項
保安院は、合同WGにおける中越沖地震の要因分析の結果を踏まえ、
基準地震動 Ss の策定に当たって反映すべき事項として、平成 20 年 9 月
4 日、
「新潟県中越沖地震を踏まえ原子力発電所等の耐震安全性評価に反
映すべき事項について」をとりまとめ、地震及び地震動の評価における
震源特性及び地下構造特性の考え方を示した。
保安院は、柏崎刈羽原子力発電所の基準地震動 Ss の策定結果について、
上記の考え方に照らし、その妥当性を確認することとした。
別添−4に「新潟県中越沖地震を踏まえ原子力発電所等の耐震安全性
評価に反映すべき事項について」を示す。
Ⅳ.基準地震動の評価
合同WGでは、東京電力による基準地震動 Ss の策定内容及び策定結果の妥
当性について、耐震設計審査指針(平成 18 年 9 月 19 日、原子力安全委員会
決定)、合同WGにおける敷地周辺の地質・地質構造に係る検討結果、バック
チェックルール及び「新潟県中越沖地震を踏まえ原子力発電所等の反映すべ
き事項について」を踏まえ検討を行った。
1.震源を特定して策定する地震動
53
耐震設計審査指針では、基準地震動 Ss の策定方針として、「敷地ごとに
震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」
について、敷地の解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動と
して策定することを要求している。
「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」についての合同WGの検
討結果は以下のとおりである。
1)検討用地震動
検討用地震動の選定に当たっては、活断層の性質、過去及び現在の地
震発生状況等を考慮し、地震発生様式等による地震の分類を行ったうえ
で、敷地に大きな影響を与えると予想される地震を複数選定することが
要求される。
東京電力は、敷地周辺の活断層の分布状況、地震の発生状況を考慮し、
内陸地殻内地震として活断層による地震から検討用地震を選定している。
選定に当たっては、海域の活断層による地震と陸域の活断層による地震
に分けて、検討用地震を選定している。
合同WGの検討の結果、検討用地震として海域の活断層による地震と
陸域の活断層による地震に分けて選定していることは、海域を震源とす
る地震と陸域を震源とする地震とでは敷地における地震動の特性に差異
があることから妥当なものと認められた。
(1) 海域の活断層による地震
東京電力は、海域の活断層のうち最も敷地大きな影響を与えると想
定される活断層による地震を検討用地震として選定している。
海域の活断層として検討用地震の選定の対象となる活断層及び地
震規模は、佐渡島棚東縁とう曲(M7.4)、F-B 褶曲群(以下「F-B 断層」
という)(M6.8)、佐渡島南方断層(M7.3)、F-D 褶曲群(M7.3)、高田
沖褶曲群(M7.2)であるとしている。断層の傾斜角は、「F-B 断層に
よる地震」は、中越沖地震の余震分布に基づき設定し、その他の海域
54
の活断層は、地質調査結果及び地震調査研究推進本部(2004)、同
(2005)による長期評価を参考に設定されている。断層幅について、敷
地周辺で発生した微小地震分布や新潟県中越沖地震の余震分布等の
検討により地震発生層厚さ 11km とし、断層の傾斜角に基づき、地震
発生層を飽和するように設定されている。等価震源距離について、
「F-B 断層による地震」は、中越沖地震の震源モデルに基づき算定し、
その他の活断層は、地震調査研究推進本部(2008)による強震動予測レ
シピに基づき設定している。
表−3に検討用地震の選定の対象となる活断層の諸元を示す。
表−3
活断層名
断層
長
海域の活断層の諸元
地震
規模
傾斜
角
(M)
(km)
断層幅
等価震源距離
(km)
(km)
荒浜側
大湊側
(度)
佐渡島棚東縁断層
37
7.4
西 55
15
55
53
F-B 断層
佐渡島南方断層
27
29
6.8
7.3
東 35
東 45
20
16
14
26
14
25
F-D 断層
高田沖断層
30
25
7.3
7.2
東 45
東 30
16
22
38
59
39
60
合同WGで検討した結果、これらの活断層に関する諸元は、Ⅴ.2.2)
で述べた敷地周辺の活断層の評価結果、Ⅴ.1.2)(4)で述べた中越沖地
震の断層モデルの評価結果、敷地周辺の微小地震等の発生状況、地震
調査研究推進本部の知見等を反映したものであり、妥当なものである
と認められた。
東京電力は海域の活断層の諸元をもとに、耐専式により敷地の荒浜
側及び大湊側の地震動の応答スペクトルの比較を行っている。また、
F-B 断層の不確かさをとして長さ 36km とし、その地震規模を中越沖
地震の地震規模と震源断層面積からスケーリング則に従って求めた
M7.0 とした場合、F-D 褶曲群と高田沖断層群については同時活動を
考慮してM7.7 とした場合の荒浜側及び大湊側の応答スペクトルにつ
いての比較を行っている。
合同WGで検討した結果、活断層の諸元をもとに応答スペクトルを
55
比較した結果、F-B 断層による応答スペクトルが支配的であるが、周
期約 0.5 秒以上では佐渡島南方断層の応答スペクトルが大きくなっ
ている。しかし、F-B 断層の不確かさを考慮した応答スペクトルは、
F-D 褶曲群と高田沖断層群の同時活動による応答スペクトルを上回り、
基本震源モデルをもとにした佐渡島南方断層の応答スペクトルも上
回っていることが認められた。
これらのことから、合同WGでは、検討用地震として F-B 断層を選
定し、F-B 断層の不確かさを考慮するとしていることは妥当なものと
認められた。
(2) 陸域の活断層による地震
東京電力は、陸域の活断層のうち最も敷地に大きな影響を与える
と想定される活断層による地震を検討用地震として選定している。
陸域の活断層として検討用地震の選定の対象となる活断層及び地
震規模は、角田・弥彦断層(M7.7)、気比ノ宮断層(M7.1)、片貝断層
(M6.8)等であるとしている。断層の傾斜角は、地質調査結果及び地
震調査研究推進本部(2004)、同(2005)による長期評価を参考に設定し
ている。断層幅について、敷地周辺で発生した微小地震分布や新潟県
中越沖地震の余震分布等の検討により地震発生層厚さ 11km とし、断
層の傾斜角に基づき、地震発生層を飽和するように設定している。等
価震源距離について、陸域の活断層は、地震調査研究推進本部(2008)
による強震動予測レシピに基づき設定している。
表−4に検討用地震の選定の対象となる主な活断層の諸元を示す。
表−4 陸域の活断層の諸元
活断層名
断層
長
地震
規模
(M)
(km)
角田・弥彦断層
気比ノ宮断層
片貝断層
十日町盆地西縁断
傾斜
角
断層幅
(km)
等価震源距離
(km)
荒浜側 大湊側
54
7.7
(度)
西 50
22
16*1
7.1
6.8*2
西 50
西 50
15
15
21
14
20
14
33
7.4
西 60
13
32
33
56
15
51
49
層
*1:地質調査の結果による 16km。
*2:M6.8 は地震発生層を飽和する地震規模
合同WGで検討した結果、これらの基本震源モデルに関する諸元
は、Ⅴ.1.2.1)で述べた敷地周辺の活断層の評価結果、敷地周辺の微
小地震等の発生状況、地震調査研究推進本部の知見等を反映したも
のであり妥当なものと判断する。
東京電力は、陸域の活断層の諸元をもとに、耐専式により敷地の
荒浜側及び大湊側の地震動の応答スペクトルの比較を行っている。
また、片貝断層の不確かさとして気比ノ宮断層と角田・弥彦断層の
連動を考慮して長岡平野西縁断層帯として長さ約 91km、地震規模M
8.1 とした場合の荒浜側及び大湊側の応答スペクトルについての比
較を行っている。
合同WGで検討した結果、活断層の諸元をもとに応答スペクトル
を比較した結果、周期約 0.5 秒以下では片貝断層が気比ノ宮断層に
よる応答スペクトルをやや上回っているが、0.5 秒以上では気比ノ
宮断層が大きくなっている。しかし、片貝断層の不確かさを考慮し
た長岡平野西縁断層帯による応答スペクトルは基本震源モデルをも
とにした片貝断層及び気比ノ宮断層の応答スペクトルを大きく上回
ることが認められた。
これらのことから、合同WGでは、検討用地震として片貝断層を
選定し、片貝断層の不確かさとして長岡平野西縁断層帯による地震
を考慮するとしていることは妥当なものと認められた。
(2)検討用地震の基本震源モデルと不確かさの考慮
検討用地震の地震動評価に当たっては、震源特性として、検討用地
震の基本震源モデル及び基本震源モデルのパラメータの不確かさを考
慮した震源モデルを設定する必要がある。
① F-B 断層による地震
東京電力は、海域の活断層の検討用地震として選定した F-B 断層
57
による地震の地震動評価にあたっては、F-B 断層による地震の基本
震源モデルに基づく地震動評価とともに、基本震源モデルのパラメ
ータの不確かさを考慮した震源モデルによる地震動評価を行ってい
る。
F-B 断層による地震の基本震源モデル及び不確かさを考慮した震
源モデルの主なパラメータを表−5に示す。
表−5
F-B 断層の基本震源モデル及び不確かさを考慮した震源モデル
基本震源モデルの主なパラメータ
不確かさを考慮した震源モデルの主なパラメータ
断層長さ
27km
有
36km
地震規模
M6.8
有
断層長さの不確かさに伴い考慮(M7.0)
地震モーメント
Mo=9.3*1018N・m
有
断層長さの不確かさに伴い考慮(1.7*1019N・m)
断層傾斜角
35°
無
同左
断層幅
20km
無
同左
アスペリティの位置、
*1
無
同左
破壊開始点
*2
無
同左
破壊伝播様式
*3
無
同左
応力降下量
*1)中越沖地震の震源特性の分析結果を参考に設定されている。
*2)地震調査研究推進本部の震源位置及び中越沖地震の情報を参考に設定されている。
*3) 中越沖地震の震源特性の分析結果をもとにマルチハイポセンター破壊を設定されている。
合同WGにおいて、F-B 断層の基本震源モデルのパラメータ及び
不確かさを考慮した震源モデルのパラメータについて検討を行った。
その結果、基本震源モデルのパラメータは、地質調査結果、中越沖
地震の震源特性の分析結果、敷地周辺の微小地震等の調査結果、地
震調査研究推進本部の知見等を反映して設定されており妥当なもの
と認められた。また、不確かさを考慮したパラメータについては、
断層長さをその不確かさとして耐震安全評価上考慮すべき 36km と
し、断層長さに従属するパラメータとして地震規模、地震モーメン
ト等を変更していること、断層長さに従属しない断層傾斜角、アス
ペリティの応力降下量、破壊伝播様式等のパラメータについては、
中越沖地震の震源特性の分析結果、地震調査研究推進本部の知見等
を反映したパラメータが基本震源モデルとして考慮されており特段
58
の不確かさを考慮していないことは妥当ものと認められた。
② 片貝断層による地震
東京電力は、陸域の活断層の検討用地震として選定した片貝断層
による地震の地震動評価にあたっては、片貝断層による地震の基本
震源モデルに基づいた地震動評価とともに、震源モデルのパラメー
タの不確かさを考慮した地震動評価を行っている。
片貝断層による地震の基本震源モデルの主なパラメータ及び不確
かさを考慮した各の震源モデルの主なパラメータを表―6及び表−
7に示す。
表−6 片貝断層の基本震源モデルの主なパラメータ
基本震源モデルの主なパラメータ
断層長さ
25km
*1
地震規模
M6.8
地震モーメント
Mo=7.8*1018N・m
断層傾斜角
50°
断層幅
15km
アスペリティの位置、
断層中央上端
アスペリティの応力降下量
*2
破壊開始点
断層面端部
破壊伝播様式
*3
*2
*2
*1)地質調査の結果による 16km を地震調査研究推進本部の強震動予測レシピを参考に地震発生
層を飽和する地震規模を与える断層面積をもとに断層幅から断層長さが設定されている。
*2)地震調査研究推進本部の強震動予測レシピに基づき設定されアスペリティ位置、応力降下量。
*3) 地震調査研究推進本部の強震動予測レシピによる放射状の伝播が考慮されている。
表−7
不確かさを考慮した各の震源モデル
不確かさを考慮した
断層長
断層幅
断層
震源モデル
(km)
(km)
傾斜角
(基本震源モデル)
25
15
50°
破壊開始点
断層面端部
アスペリティ
応力
位置
降下量
断層中央
*1
強震動レシピ
上端
1
2
破壊開始点の不確かさを考慮
アスペリティ位置の不確かさを考慮
25
15
25
15
59
50°
50°
アスペリティ
断層中央
端部
上端
断層面端部
断層中央
強震動レシピ
強震動レシピ
下端
3
断層傾斜角の不確かさを考慮
20
20
35°
断層面端部
断層中央
強震動レシピ
上端
4
5
応力降下量不確かさを考慮
断層長さの不確かさを考慮
25
15
91
15
50°
50°
断層面端部
断層面端部
(長岡平野西縁断層帯)
6
断層長さ及び応力降下量の不確かさ
を考慮
7
強震動レシピ
上端
×1.5
断層中央
強震動レシピ
上端
91
15
50°
断層面端部
(長岡平野西縁断層帯)
断層の長さ及び断層傾斜角の不確か
断層中央
91
20
35°
断層面端部
さを考慮(長岡平野西縁断層帯)
断層中央
強震動レシピ
上端
×1.5
断層中央
強震動レシピ
上端
*1)地震調査研究推進本部の強震動予測レシピに基づき算定された応力降下量。
合同WGにおいて、片貝断層の基本震源モデルのパラメータ及び不
確かさを考慮した各の震源モデルのパラメータについて検討を行った。
その結果、基本震源モデルのパラメータのうち断層長さについては、
地質調査の結果による片貝断層の長さ 16km を地震調査研究推進本部
の強震動予測レシピを参考に地震発生層を飽和する地震モーメント
(7.5×1018 N・m)を与える断層面積及び断層幅から断層長さ 25km と
設定しており安全評価上妥当なものであること、断層長さ以外のパラ
メータについては、敷地周辺の微小地震等の調査結果、地震調査研究
推進本部の知見等を反映して設定されており妥当なものであることが
認められた。
また、不確かさを考慮して 7 つの震源モデルが設定されているが、
これらは、そのパラメータの不確かさを考慮することにより敷地への
影響が基本震源モデルより大きくなる可能性があること、特に、地震
調査研究推進本部による長岡平野西縁断層帯の長期評価結果や合同
WG での指摘を踏まえ、片貝断層、角田・弥彦断層及び気比ノ宮断層を
含めた3断層帯が長岡平野西縁断層帯として一連で活動する場合の断
層長さ約 91km を震源モデルとして考慮していることは妥当なもの認
められた。また、傾斜角について、堆積層が厚く地下深部の構造が正
確に把握できないことや周辺で発生した中越沖地震の余震分布を踏ま
え 35 度を考慮すること、アスペリティの応力降下量について、中越沖
地震の知見を踏まえ、地震調査研究推進本部の知見による値の 1.5 倍
60
を考慮することは妥当なものと認められる。
なお、合同WGでは、長岡平野西縁断層帯は断層長さが約 91km と長
大な断層であり、地震調査研究推進本部の強震動予測レシピでは長大
な断層の震源パラメータの設定には注意が必要であるとされているこ
とから、東京電力に対して設定した長岡平野西縁断層帯の主要なパラ
メータの妥当性について検討を求めた。東京電力では、長岡平野西縁
断層帯の震源モデルのパラメータの設定に用いた方法以外の方法で地
震調査研究推進本部の強震動レシピに示されている方法によりパラメ
ータを算定し比較を行った。その結果について検討した結果、東京電
力が設定した長岡平野西縁断層帯の震源モデルのパラメータは別の方
法で算定したパラメータと比較して過小に評価されているものではな
いことが認められた。
これらのことから、合同WGでは、F-B 断層及び片貝断層の基本震
源モデル及び不確かさを考慮した震源モデルは妥当なものと認められ
た。
(3)応答スペクトルによる手法に基づく評価
検討用地震による敷地の地震動の評価は、検討用地震の基本震源
モデル及び不確かさを考慮した震源モデルをもとに地下構造特性を
考慮して応答スペクトルによる手法に基づいて基準地震動の評価を
行う必要がある。
①F-B 断層による基準地震動
東京電力は、F-B 断層による地震の基本震源モデル及び不確か
さを考慮した震源モデルをもとに地下構造特性の影響を考慮して
応答スペクトルの手法に基づき敷地の荒浜側及び大湊側の解放基
盤表面における地震動を評価し、基準地震動 Ss-1 の水平方向の設
計用応答スペクトル Ss-1H、鉛直方向の設計用応答スペクトル
Ss-1V を策定している。
61
合同WGでは、東京電力が行った F-B 断層による地震動の評価
内容について検討を行った。
F-B 断層による敷地の荒浜側及び大湊側の解放基盤表面の地震
動は、基本震源モデル及び不確かさを考慮した震源モデルをもと
に耐専式に基づいて評価が行われていることを確認した。また、
耐専式による応答スペクトルは平均的な地震動であることから、
敷地の地下構造特性による地震動の増幅特性を考慮するため、荒
浜側及び大湊側のそれぞれの各号機の原子炉建屋基礎版上の中越
沖地震の観測記録に基づき推定した解放基盤表面の地震動の応答
スペクトルと中越沖地震をもとにした耐専式による応答スペクト
ルの比をそれぞれ包絡して水平方向及び鉛直方向のサイト補正係
数を設定し、このサイト補正係数を用いて F-B 断層の地震による
耐専式の応答スペクトルを補正して地震動を評価しており妥当な
ものと認められた。
応答スペクトルによる評価の結果、不確かさを考慮した震源モ
デルによる応答スペクトルが荒浜側及び大湊側のそれぞれにおい
て最も大きくなることから、これをもとに荒浜側及び大湊側のそ
れぞれにおいて基準地震動 Ss-1 の水平方向の設計用応答スペク
トル Ss-1H、鉛直方向の設計用応答スペクトル Ss-1V が策定され
ていることを確認した。
これらのことから、合同WGでは、F-B 断層の不確かさを考慮
した震源モデルに基づく基準地震動 Ss-1 の水平方向の設計用応
答スペクトル Ss-1H、鉛直方向の設計用応答スペクトル Ss-1V の
策定内容は妥当のものと認められた。
②片貝断層による基準地震動
東京電力は、片貝断層による地震の基本震源モデル及び不確か
さを考慮した各震源モデルをもとに地下構造特性の影響を考慮し
て応答スペクトルの手法に基づき敷地の荒浜側及び大湊側の解放
基盤表面における地震動を評価し、基準地震動 Ss-1 の水平方向の
設計用応答スペクトル Ss-1H、鉛直方向の設計用応答スペクトル
Ss-1V を策定している。
62
合同WGでは、東京電力が行った片貝断層による地震動の評価
内容について検討を行った。
片貝断層による敷地の荒浜側及び大湊側の解放基盤表面の地震
動は、等価震源距離がほぼ等しくその応答スペクトルは同一とな
ること、地震動の要因分析の結果によれば陸域で発生した地震の
場合は敷地の荒浜側及び大湊側の解放基盤表面の地震動は同程度
であることから荒浜側及び大湊側とも共通のスペクトルとして、
基本震源モデル及び不確かさを考慮した震源モデルをもとに耐専
式に基づいて評価が行われていることを確認した。また、耐専式
による応答スペクトルは平均的な地震動であることから、敷地の
地下構造特性による地震動の増幅特性を考慮するため、陸域の地
震の観測記録と耐専式による応答スペクトルの比を検討している
が、周期 1 秒以下ではその比率が 0.5 程度になることから、サイ
ト補正係数の下限を1として、片貝断層による耐専式の応答スペ
クトルを補正し地震動を評価しており妥当なものと認められた。
応答スペクトルによる評価の結果、断層の長さの不確かさを考
慮した長岡平野西縁断層に応力降下量の不確かさ又は断層傾斜角
の不確かさを考慮した震源モデルよるそれぞれの応答スペクトル
のいずれかが周期帯に応じて最も大きくなることから、これらの
上限を包絡するように基準地震動 Ss-3 の水平方向の設計用応答
スペクトル Ss-1H、鉛直方向の設計用応答スペクトル Ss-1V が策
定されていることを確認した。
これらのことから、合同WGでは、片貝断層の不確かさを考慮
した震源断層モデルに基づく基準地震動 Ss-1 の水平方向の設計用
応答スペクトル Ss-1H、鉛直方向の設計用応答スペクトル Ss-1V
の策定内容は妥当のものと認められた。
(4)断層モデルの手法による評価
検討用地震による敷地の地震動の評価は、検討用地震の基本震源
モデル及び不確かさを考慮した震源モデルをもとに地下構造特性を
考慮して断層モデルの手法に基づいて基準地震動の評価を行う必要
がある。
63
①F-B 断層による基準地震動
東京電力は、F-B 断層による地震の基本震源モデル及び不確か
さを考慮した震源モデルをもとに地下構造特性の影響を考慮して
断層モデルの手法に基づき敷地の荒浜側及び大湊側の解放基盤表
面における地震動を評価し、基準地震動 Ss-2 を策定している。基
準地震動 Ss-2 の水平方向及び鉛直方向の応答スペクトルは、設計
用応答スペクトル Ss-2NS、Ss-2EW 及び Ss-2UD で表すとしている。
合同WGでは、東京電力が行った F-B 断層による地震動の評価
内容について検討を行った。
断層モデルによる地震動評価は、中越沖地震の余震を要素地震
波として経験的グリーン関数法を用いている。この要素地震波は、
中越沖地震の地震動の分析において中越沖地震の観測記録を断層
モデルによりシミュレーションする際に用いられた要素地震波で
あり、敷地の地下構造による地震動の増幅特性が反映され、観測
記録と概ね整合することを合同WGとして確認しているものであ
る。F-B 断層による地震動の評価では、敷地への影響が不確かさを
考慮した震源モデルによるものが基本震源モデルによるものより
大きいことから、不確かさを考慮した震源モデルをもとに前述し
た要素地震波を用いて断層モデルによる評価が行われていること
を確認した。その結果、荒浜側及び大湊側において、基準地震動
Ss-2 が策定され、水平方向及び鉛直方向の応答スペクトルとして
設計用応答スペクトル Ss-2NS、Ss-2EW 及び Ss-2UD で表されてい
ることを確認した。
これらのことから、合同WGでは、F-B 断層の不確かさを考慮し
た震源断層モデルに基づく基準地震動 Ss-2 の策定内容は妥当のも
のと認められた。
②片貝断層による基準地震動
東京電力は、片貝断層による地震の基本震源モデル及び不確か
さを考慮した震源モデルをもとに地下構造特性の影響を考慮して
64
断層モデルの手法に基づき敷地の荒浜側及び大湊側の解放基盤表
面における地震動を評価し、基準地震動 Ss-4 及び基準地震動 Ss-5
を策定している。基準地震動 Ss-4 及び基準地震動 Ss-5 の水平方
向及び鉛直方向の応答スペクトルはそれぞれ、設計用応答スペク
トル Ss-4NS、Ss-4EW 及び Ss-4UD 及び設計用応答スペクトル
Ss-5NS、Ss-5EW 及び Ss-5UD で表すとしている。
合同WGでは、東京電力が行った片貝断層による地震動の評価
内容について検討を行った。
断層モデルによる地震動評価は、片貝断層による地震と同じ方
向の陸域(中越地域)で発生した 2004 年新潟県中越地震の二つの
余震を要素地震波とした経験的グリーン関数法を用いている。こ
の二つの要素地震波は、震源深さ 5km 及び震源深さ 11km の余震に
よるものであり、断層モデルの浅部と深部の要素地震波としてい
るが、これらの要素地震波を用いて東京電力が 2004 年新潟県中越
地震本震時の敷地の観測記録のシミュレーションを実施した結果
によれば、敷地の観測記録を概ね再現されていることから、要素
地震波として敷地の地下構造特性による増幅特性を反映している
ものであることを確認した。
片貝断層による地震動の評価では、片貝断層の不確かさを考慮
した震源モデルを包含する長岡平野西縁断層帯の震源モデルによ
る敷地の影響が最も大きくなることから、長岡平野西縁断層の震
源モデルに応力降下量又は断層傾斜角の不確かさを考慮した震源
モデルを用いて断層モデルによる評価が行われていることを確認
した。
その結果、応力降下量の不確かさを考慮した震源モデルと断層
傾斜角の不確かさを考慮した震源モデルよる地震動の応答スペク
トルのいずれかが周期帯に応じて最も大きくなることから、それ
ぞれの震源モデルを用いた断層モデルによる荒浜側及び大湊側ご
との地震動を基準地震動 Ss-4 及び基準地震動 Ss-5 とし、水平方
向及び鉛直方向の応答スペクトルをそれぞれ設計用応答スペクト
ル Ss-4NS、Ss-4EW 及び Ss-4UD 及び設計用応答スペクトル Ss-5NS、
Ss-5EW 及び Ss-5UD で表していることを確認した。
これらのことから、合同WGでは、片貝断層の不確かさを考慮
65
した震源断層モデルに基づく基準地震動 Ss-4 及び基準地震動
Ss-5 の策定内容は妥当のものと認められた。
2)震源を特定せず策定する地震動
「震源を特定せず策定する地震動」については、震源と活断層を関
連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源
近傍における観測記録を収集し、これらを基に敷地の地盤物性を加味
した応答スペクトルを設定し、これに地震動の継続時間、振幅包絡線
の経時的変化等の地震動特性を適切に考慮して策定することが要求さ
れる。
「震源を特定せず策定する地震動」についての合同WGの検討結果
は以下のとおりである。
東京電力は、敷地周辺の地震発生層から震源と活断層とを関連付け
ることが困難な地震の最大規模は、地震発生層を飽和する震源断層に
よる地震であると考え、地震発生層の上端から下端まで拡がる断層幅
及びそれに等しい断層長さをもつ震源断層を仮定すると、断層面積と
地震モーメントの関係式及び地震モーメントとマグニチュードの関係
式を介して、M6.7 に相当するとしている。また、地震調査研究推進本
部による確率論的地震動予測地図の作成において「震源断層を予め特
定しにくい地震」を領域震源として考慮し、敷地が位置する領域にお
ける最大規模は、1751 年越後の地震の M7.2 とされているが、敷地から
半径 30km以内については、詳細な地質調査が行われていることから、
この地質調査の範囲内で過去に繰り返し活動があればその痕跡が認め
られ、
「震源を特定して作成する地震動」として評価することが可能と
している。
東京電力では、敷地周辺において震源と活断層とを関連付けること
が困難な地震の最大規模は M6.7 程度と考えられ、それを上回るような
規模の震源と活断層とを関連付けることが困難な地震が発生する可能
性は低いと考えられるとしている。また、加藤ほか(2004)による内陸
地震を対象として詳細な地質学的調査によっても震源位置と地震規模
を予め特定できない地震の解放基盤表面上の応答スペクトルは M6.7 を
上回る規模の地震を対象にしているが、加藤ほか(2004)による応答ス
ペクトルは、
「震源を特定して策定する地震動」において策定した基準
66
地震動 Ss の設計用応答スペクトルを全ての周期帯において下回ってい
るとしている。
合同WGの検討した結果、東京電力による評価を踏まえると、
「震源
を特定せず策定する地震動」による基準地震動 Ss は、「敷地ごとに震
源を特定して策定する地震動」による基準地震動 Ss で代表させるとし
ていることは妥当なもの認められた。
3)基準地震動
(1)基準地震動の最大加速度
F-B 断層及び片貝断層の基本震源モデル及び不確かさを考慮した震源
モデルをもとに地下構造特性の影響を考慮して応答スペクトルによる手
法及び断層モデルに基づき策定された基準地震動の最大加速度を表―8
に示す。
なお、合同WGでは、応答スペクトルによる手法に基づいて策定され
た基準地震動の模擬地震波について検討した結果、模擬地震波は設計用
応答スペクトルに基づき、振幅包絡線の経時的変化を Noda et al(2002)
の文献に基づく形状とし、乱数位相をもつ正弦波を重ね合わせにより作
成されており、そのスペクトル強さ及び応答スペクトル比からみて作成
された模擬地震波は妥当なものであることを確認した。
表−8
基準地震動 Ss の最大加速度
(単位:ガル(cm/s2)
検討用地震
F-B 断層
基準地震動
NS方向
EW方向
UD方向
荒浜側
大湊側
荒浜側
大湊側
荒浜側
大湊側
Ss-1
2300
1050
2300
1050
1050
650
Ss-2
847
848
1703
1209
510
466
片貝断層
Ss-3
600
(長岡平野西
Ss-4
589
428
574
826
314
332
縁断層帯)
Ss-5
553
426
554
664
266
346
67
600
400
(2)基準地震動の超過確率の参照
新耐震指針においては、策定された地震動の応答スペクトルがどの程
度の超過確率に相当するかを把握しておくことが望ましいとの観点から、
安全審査においても超過確率を参照することを求めている。また、保安
院が平成20年9月4日にとりまとめた「新潟県中越沖地震を踏まえ原
子力発電所等の耐震安全性評価に反映すべき事項について」においても、
不確かさを考慮して策定された基準地震動の超過確率を参照することと
した。
合同WGでは、東京電力による柏崎刈羽原子力発電所の地震ハザード
の評価をもとに、基準地震動を超えるような地震動の発生確率(以下「超
過確率」という)について参照した。
東京電力では柏崎刈羽原子力発電所の地震ハザードの評価に当たって、
解放基盤表面での地震動の最大加速度大きさと 1 年間にそれを超える地
震動が発生する確率の関係を日本原子力学会標準に基づき算定している。
柏崎刈羽原子力発電所の地震ハザードの評価をもとに基準地震動の超過
確率をみたところ、基準地震動 Ss の年超過確率は 10-4 ∼10-5 程度である
ことを確認した。
(3)まとめ
合同WGにおいては、柏崎刈羽原子力発電所の基準地震動 Ss の策定内
容及び策定結果の妥当性について、耐震設計審査指針(平成 18 年 9 月 19
日、原子力安全委員会決定)、合同WGにおける敷地周辺の地質・地質構
造に係る検討結果、及び「新潟県中越沖地震を踏まえ原子力発電所等の
反映すべき事項について」を踏まえ検討を行った。
柏崎刈羽原子力発電所の基準地震動に対する保安院の見解は以下のと
おりである。
①震源を特定して策定する地震動の評価に当たっては、敷地周辺の海
域の活断層及び陸域の活断層をから、検討用地震として F-B 断層を
選定し震源モデルのパラメータの不確かさを考慮するとしているこ
と及び片貝断層を選定し震源モデルのパラメータの不確かさとして
長岡平野西縁断層帯による地震を考慮するとしていることは妥当な
68
もの判断する。
②F-B 断層及び片貝断層のそれぞれの基本震源モデル及び不確かさを
考慮した震源モデルのパラメータについては妥当なものと判断する。
③F-B 断層及び片貝断層のそれぞれの基本震源モデル及び不確かさを
考慮した震源モデルをもとに、応答スペクトルによる手法に基づい
た基準地震動 Ss の策定内容は、中越沖地震等の観測記録の分析等に
より、敷地の地下構造による増幅特性を考慮して策定されており、
妥当なものと判断する。
④F-B 断層及び片貝断層のそれぞれの基本震源モデル及び不確かさを
考慮した震源モデルをもとに、断層モデルによる手法に基づいた基
準地震動の策定内容は、敷地の地下構造による増幅特性が反映され
た適切な要素地震波を用いた経験的グリーン関数法に基づいて策定
されており、妥当なものと判断する。
⑤基準地震動 Ss の超過確率を参照したところ、年超過確率は 10-4 ∼10-5
程度であることを確認した。
保安院は、以上のことから、柏崎刈羽原子力発電所の基準地震動 Ss の
策定内容及び策定結果は、耐震設計審査指針(平成 18 年 9 月 19 日、原
子力安全委員会決定)、合同WGにおける敷地周辺の地質・地質構造に係
る検討結果、及び「新潟県中越沖地震を踏まえ原子力発電所等の反映す
べき事項について」を踏まえたものとなっており、妥当なものと判断し
た。
4)確認用地震動
原子力安全委員会 耐震安全性評価特別委員会は、本年9月25日、
「柏崎刈羽原子力発電所の基準地震動策定に係る原子力安全・保安院
における検討に際しての意見」において、
「新潟県中越沖地震を踏まえ、
基準地震動 Ss とは別に、以下の考え方に沿った断層モデルによる確認
用地震動を策定し、基準地震動の妥当性を確認すること」を保安院は
求められた。
確認用地震動の策定に当たっては、F-B 断層のモデル化について「巨
69
視的パラメータや微視的パラメータは、地震調査研究推進本部(2008)
による強震動予測レシピ」に基づき設定すること。ただし、アスペリ
ティの個数や位置、応力降下量の設定については、新潟県中越沖地震
で得られたデータを最大限に活用すること。また破壊開始点は、その
不確かさから、敷地への影響を考慮して設定すること。」としている。
これを踏まえ、保安院では、F-B 断層について、巨視的パラメータや
微視的パラメータを地震調査研究推進本部(2008)による強震動予測レ
シピに基づき設定し、断層モデルによる策定した確認用地震動につい
て、東京電力の報告書をもとに検討を行った。その結果、確認用地震
動を策定した F-B 断層の断層モデルは、新潟県中越沖地震のシミュレ
ーション解析で得られたアスペリティの個数や位置、応力降下量、破
壊電波様式をもとに、F-B 断層の断層長さを 36km として強震動予測レ
シピに基づくアスペリティの総面積と一致するように4つ目のアスペ
リティを新たに設定した断層モデルであること、確認用地震動の評価
は、中越沖地震のシミュレーション解析で用いた余震の観測記録を要
素地震波として経験的グリーン関数法により行われていることを確認
した。また、確認用地震動の応答スペクトルは、概ね基準地震動 Ss-2
と同レベルの地震動であることを確認した。
Ⅵ
まとめ
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