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コンプライアンス経営を支える人づくり
コンプライアンス経営を支える人づくり コラム 注)社団法人日本能率協 会「2009 年度 新入社員 意識調査報告書」 (2009 年 7 月) わが国で「コンプライアンス」という言葉が頻繁に使われるようになったのは、 バブル経済崩壊とともに企業の存在を揺るがすような法令違反や不祥事が続出した ころからであろうか。コンプライアンスそのものは「応諾」あるいは「従順」など と訳されて、英語的には~ with the low のように法律とセットで「法令遵守」を 指すが、わが国では「コンプライアンス=法令遵守」と使われることが多い。また、 コンプライアンスには、法令だけでなく「企業倫理を守る」との意味も含めて使わ れる場合もあり、個人的には後者の論がしっくりくる。 先日、2009 年度の新入社員に対するアンケート調査注)が公表された。その中に「あ なたは、自分の良心に反する仕事を指示された場合、どうしますか」という設問が ある。結果は、6 人に1人が「会社の利益につながるのであれば行う」と答え、「お そらく行う」と合わせるとおよそ 3 人に 2 人は肯定的であることに驚いた。しかも、 その割合は過去 5 年間大きな変化がないという。この間、一部上場企業や創業 100 しにせ 年を超える老舗でさえ退場せざるを得ない事件を目の当たりにしているにもかかわ らず。職場への配属後には、経営トップの訓示や上司・同僚の指導のもと、彼らの 回答が変わるものと期待したいが、「会社の利益」と「指示」は彼らの良心の壁を乗 り越えるほど重いものなのだ。逆に、会社が企業倫理に沿った事業運営に努め、適 切な指示をすれば、彼ら全員が良心に反することなく会社だけでなく社会の利益に 貢献することも想像に難くない。 コンプライアンスの徹底というと、企業は、日々の事業運営で法令や規程に違反し ているものはないかのチェックと社内への関連法規の周知が中心となる。しかし、そ れ以上に、企業の良心でもある「企業倫理」を内部に徹底することが重要ではないか。 み ぞ う 未曾有の景気後退のなか、環境変化に対応できる構造改革や経営改善と併せ会社 を支える能力と意欲のある人材の確保と育成を掲げる企業のトップは多い。IT化 が進展し、従業員の生産性向上とともに少数精鋭化が進み、個々に任される責任の 範囲も広がってきた。従業員 1 人 1 人の判断や行動が企業経営の成果や評価に及ぼ す影響は、ますます大きくなってきた。現場では六法全書をめくっていられる時ば かりではない。すべての関係法令を十分理解しておくことも容易ではないし、法令 だけでシロクロつけられるような問題ばかりでもない。即座に判断し、行動しなけ ればならない機会はますます増えている。その時、よりどころとなるのは企業倫理 という会社の良心だ。これまで不祥事を起こした企業の多くが謝罪の言葉とする「初 心に帰る」は、創業当時から受け継がれてきた社是・社訓に立ち戻ることであろう。 多くの社是・社訓に共通するのは、まさに企業倫理であり、それに対する経営トッ プとしての心構えと決意でもある。外部からの危機に対し常に備え、内部から危機 を起こさないためにも、企業倫理という組織の「良心」をもって判断し行動できる「人 づくり」こそ、コンプライアンス経営の土台を成すことができる。間違っても、会 社の利益のためといって、良心に反し社会の規範に反する仕事を社員にさせてはな らないのである。 (社)JA総合研究所 専務理事 JA 総研レポート/ 2009 /秋/第 11 号 松田 克文 (まつだ かつふみ) 《コラム》コンプライアンス経営を支える人づくり