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一人一人の教育的ニーズに応じた支援の在り方

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一人一人の教育的ニーズに応じた支援の在り方
〈特別支援教育研究班〉
【研究主題】
一人一人の教育的ニーズに応じた支援の在り方
〜個別の教育支援計画、個別の指導計画、個別の評価表の活用を通して〜
〜 目
次 〜
Ⅰ 主題設定の理由 ···················································· 特支 1
Ⅱ 主題の意味 ························································ 特支 2
Ⅲ 研究の目的 ························································ 特支 3
Ⅳ 研究の仮説 ························································ 特支 4
Ⅴ 研究の内容と方法 ·················································· 特支 4
Ⅵ 研究の成果と課題 ·················································· 特支 6
Ⅶ 研究の実際 ························································ 特支 7
〔実践事例1〕 西牟田小学校 教諭
柴尾 京子 ······················ 特支 7
小学校 通常学級における実践
第1学年 算数科 単元 「3つのかずのけいさん」
〔実践事例2〕 三潴小学校
教諭
前山 資子 ······················ 特支13
小学校 通常学級における実践
第2学年 算数科 単元 「形をしらべよう(三角形と四角形)」
〔実践事例3〕 水繩小学校
教諭
古賀 伸一 ······················ 特支19
小学校 肢体不自由特別支援学級における実践
国語科 単元「鳥類センタークイズブックをつくろう」
〔実践事例4〕 大善寺小学校 教諭
今村 太一 ······················ 特支25
小学校 難聴特別支援学級における実践
生活単元学習 単元「電車に乗って社会見学に出かけよう」
〔実践事例5〕 櫛原中学校
教諭
大熊 敬子 ······················ 特支31
中学校 知的障害特別支援学級における実践
数学科 単元「おつりのある買い物をしよう」
〔実践事例6〕 明星中学校
教諭
御厨 賢一 ······················ 特支37
中学校 情緒障害特別支援学級における実践
社会科 単元「わたしたちの生活と経済」
〔実践事例7〕 久留米養護学校 教諭 江田 美江 ······················ 特支43
養護学校 高等部第2学年における実践
数学科 単元「数ゲームで数を数え、キャラクターカードをもらおう」
※
資料
○ 個別の教育支援計画形式モデル
○
個別の指導計画形式モデル
一人一人の教育的ニーズに応じた支援の在り方
~個別の教育支援計画・個別の指導計画・個別の評価表の活用を通して ~
研究の概要
特別支援教育研究班は本年度、
「個別の教育支援計画→個別の指導計画→個別の評価表」の系
統的な作成を通した授業づくりについて研究を行った。個別の評価表とは、PDCAサイクル
(計画・実行・点検・改善)の視点に立った授業の継続的改善のためのツールであり、その開
発に特に力を注いだ。
キーワード
特別支援教育、特別な教育的ニーズ、個別の教育支援計画、個別の指導計画、個別の評価表
教材教具、発問や声かけ、活動の工夫
Ⅰ
主題設定の理由
1
めざす子ども像「生きる力を高め、自分の個性を伸ばし可能性をひらく子ども」~全て
の子どもの自立を促し、可能性をひらかせるということから~
「人格の完成をめざし、個人として自立し、それぞれの個性を伸ばし、その可能性を開かせ
る」という理念が、全ての子どもたちにおいて実現されることを学校教育は目指している。
どの子にも共通していることではあるが、特別な支援を必要としている子どもたちに対する
教育では、一人一人の状況を把握し、本人の願いだけでなく周りの人たちの思いや願い、本人
を取り巻く現実等を考慮して、個別の教育支援計画をまず作成し、将来の方向を定め、それに
向かって階段を一段ずつ確実に上っていくことができるように 1 年毎、また、学期・月毎等の
目標・内容を設定して、個別の指導計画を作成し、その上で、日々の授業・教育活動を行うこ
とが求められる。
「一人一人の教育的ニーズに応じた支援の在り方」を探る本研究は、特別な支援を必要とし
ている子どもたちに対しても、
「自立を促し可能性をひらく」という教育の目的の達成を学校が
目指さなければならないという意味で意義がある。
2
特別支援教育の理念から
平成19年4月1日付の文部科学省の「特別支援教育の推進について(通知)」に特別支援教
育の理念が三点示されている。
一つは障害のある子どもの自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するということ、
二つ目は特別支援教育の対象を特別な支援を要する全ての子どもに広げ、それらの子どもが在
籍する全ての学校において実施すること、三つ目は、様々な人々が生き生きと活躍できる共生
社会の基礎になるものであること、である。
このことから、子ども一人一人の教育的ニーズに応じた支援の在り方を探っていこうとする
本研究は、今後の目指す社会=共生社会の礎となるという意味で意義があると考える。
3
研究を引き継ぎ、深化・発展させるということから
平成17年度から 19年度までの3ヵ年間、研究主題「一人一人の教育的ニーズに応じた支
-特支 1-
援の在り方~個別の教育支援計画と個別の指導計画の作成・評価を通して~」の下、研究を進
め、その成果を「個別の教育支援計画の形式モデル」として各学校へ配布し、久留米市の特別
支援教育の振興に寄与した。
過去3カ年間の研究を引き継ぎ深化・発展させることは、これからの久留米市の特別支援教
育にとっても意義がある。
Ⅱ
主題の意味
1「教育的ニーズ」とは
社会情勢を的確に分析し、子どもや保護者の願いと子どもの実態を総合的に把握し、将来
にわたって行う一貫した支援活動を通して、子どもに「生きる力(自立し、社会参加するため
の基礎的な力)」を身に付けさせるために、学校で対応すべき「子どもが必要とする教育内容」
のことである。なお、主題に掲げた「教育的ニーズ」とは、
「特別な教育的ニーズ」を意味して
いる。
2「教育的ニーズに応じた」とは
「生きる力」を身に付けさせるために必要となる効果的な支援内容を長期的な視点に立って
用意することである。
子どもの状況・実態を的確に把握して個別の教育支援計画と個別の指導計画を作成すること、
その計画にそって一人一人の教育的ニーズに応じて支援を行っていく授業を展開することが大
切である。
3「個別の教育支援計画」とは
障害のある子ども一人一人のニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくと
いう考えの下、本人や家族の自己実現を図り、必要な教育支援を行うために関係機関との連携
を図りながら、長期的な視点で一貫して的確な教育的な支援を行うことを目的として作成する
ものである。
特別な支援の必要な子ども一人一人の状況・実態に即した教育を行うためには、学校だけで
なく福祉・医療など様々な観点から検討する必要がある。子どもをとりまく関係機関が一体と
なって、乳幼児から学校卒業後まで特別な支援が必要な子どもや保護者に対して支援を行う体
制を整備し、特別な支援が必要な子ども一人一人に対して個別の教育支援計画の策定を検討し
ていく必要がある。
個別の教育支援計画作成の対象となるのは、視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、
病弱、言語障害、情緒障害だけでなく、LD、ADHD、高機能自閉症などの軽度発達障害の
子どもである。
個別の教育支援計画の内容としては、以下のことが考えられる。
①
一人一人の子どもの実態・ニーズの内容
②
実態・ニーズを踏まえた長期的な支援の目標
③
具体的な支援の内容と支援を行う者・関係機関等
④
評価と修正及び引継ぎ事項
※ 「個別の教育支援計画」の具体的な内容については、資料「個別の教育支援計画の形式モ
デル」参照。
-特支 2-
4「個別の指導計画」とは
子ども一人一人の教育的ニーズを把握し、特性に応じた適切な教育を行うために、立案・
作成するものである。
個別の指導計画の内容として、以下のことが考えられる。
一人一人の子どもの具体的な状況・実態・ニーズの内容
①
具体的な実態把握(だれが、どのように困っているか)
②
具体的な目標の設定(長期目標・短期目標)
③
指導内容(具体的な目標)・方法(具体的な支援)
④
評価と修正及び具体的な引継ぎ事項
※
個別の指導計画の具体的な内容については、資料「個別の指導計画の形式モデル」参照。
5「個別の評価表」とは
先にも述べたように、個別の評価表とは、PDCAサイクル(計画・実行・点検・改善)の
視点に立った授業の継続的改善のためのツールであり、本研究班はその開発に特に力を注いだ。
授業の主な学習活動の場面で、対象児がどのようなことができるようにしたいかを、
「めざす子
どもの姿」にまとめた。そして、その状況が授業の中で現れるようにするための支援を「具体
的支援」にまとめた。さらに、実際の授業の中の対象児の様子を「対象児の状況」に整理し、
その上で、「めざす子どもの姿」がみられたかどうかを、「A
できた」「B
大体できた」「C
できなかった」の3レベルで評価した。B、Cの評価については、支援法の改善が必要な項目
とした。
☆
段階
評価基準(A:できた
めざす子どもの姿
B:大体できた
具体的支援
評価
C:できなかった)
対象児の状況
1
2
3
4
6「個別の教育支援計画、個別の指導計画、個別の評価表の活用を通して」とは
個別の教育支援計画、個別の指導計画に基づきながら、個別の評価表を作成し、日々の教育
活動(授業)を行うことである。授業においては、個別の指導計画を単元計画等でより具体化
し、1単位時間における個別の教育的ニーズに応じた支援の内容や方法を明らかにした個別の
評価表を作成して授業に臨む。長期目標・短期目標をもとに、具体的・客観的な評価を行うこ
とができるように、学習過程での子どもの様子を詳細に捉えることが大切である。
このような手順で作成した個別の評価表は、今子どもに付けなければならない力を付けると
いう意味で有効である。
このような授業を積み重ねていくことで、子ども一人一人に自立の力をつけていくことにな
る。
Ⅲ
研究の目的
「個別の教育支援計画→個別の指導計画→個別の評価表」を系統的に作成することで一人一
人の子どもの教育的ニーズをつかみ、授業における教育的ニーズに応じた支援の在り方を明ら
かにする。特に、教育的ニーズに応じた支援の内容と授業づくりをつなぐものとしての個別の
-特支 3-
評価表の開発を目指す。
Ⅳ
研究の仮説
「個別の教育支援計画――>個別の指導計画――>個別の評価表」で、子どもの授業におけ
る教育的ニーズに応じた支援の内容・方法を明らかにし(「支援1」としての取組)、授業場面
で、教材教具、発問や声かけ、活動を工夫(「支援2」としての取組)すれば、こどもは自分の
個性を伸ばし可能性をひらかせ、「生きる力」を獲得していくであろう。
Ⅴ
研究の内容と方法
1
研究の内容
(1)支援1について
個別の教育支援計画を基に指導内容の系統性を考えて個別の指導計画を作成する。個別の指
導計画を基に個別の評価表を作成し、一人一人の子どもの教育的ニーズに応じた支援の内容や
方法を明らかにする。
個別の評価表は1単位時間の子どもの具体的な教育的ニーズを基に作成する。
(2)支援2について
「個別の教育支援計画→個別の指導計画→個別の評価表」で明らかになった子どもの教育的
ニーズに応じた支援の内容や方法をふまえつつ、対象児の特性を活かした教材・教具や発問・
声かけ、活動などの支援の工夫をする。
①
教材・教具の工夫の視点
・
対象児の認識特性を生かす。
・
遊びやゲーム、好きなものなど、対象児の興味関心や日常経験を生かす。
②
発問・声かけの工夫の視点
・
対象児の認識特性を生かす。
・
具体物を使う。
・
簡潔に、伝えたい内容に限定する。
③
2
活動の工夫の視点
・
対象児の認知特性を生かす。
・
活動の場を構造化する。
・
遊ぶ、ゲームなど日常生活と関連させる。
研究の方法
「個別の教育支援計画→個別の指導計画→個別の評価表』というように段階を追って明らか
にしていった子どもの教育的ニーズに応じた支援の内容や方法が、一人一人の子どもに応じた
ものになっているかどうか(支援1)、授業における支援の工夫が、子どもの教育的ニーズに応
じたものになっていたかどうか(支援2)を、検証授業における子どもの行動や言動の見取り
と個別の評価表の達成度で評価し、考察する。
授業は教科、学年によって、その様子を異にするが、本研究は、授業のすべての形態に対応
するものではない。先にも述べたように、個別の評価法の開発に力点を置いていることをご了
解いただきたい。
-特支 4-
3
研究構想図
一人一人の教育的ニーズに応じた支援の在り方
~個別の教育支援計画・個別の指導計画・個別の評価表の活用を通して ~
生きる力を高め、自分の個性を伸ばし可能性をひらく子ども
支
援
1
支
支援の内容
援
2
授 業 づ く り
(認知特性を生かす)
個別の評価表
活 動 の 工 夫
○授業場面の子どもの姿
○遊び
○具体的支援と改善点
○場の構造化
発問・声かけの工夫
個別の指導計画
○長期目標
○具体物
○短期目評
○支援の内容・方法
○ゲーム
○簡潔
○学習内容
個別の教育支援計画
教材・教具の工夫
○支援の目標
○遊び
○ゲーム
○好きなもの
子
(子どもの願い
ど
も
子どもの実態
の
状
保護者の願い
-特支 5-
況
関係機関等との連携)
Ⅵ
研究の成果と課題
1
研究の成果
○
個別の教育支援計画にそって個別の指導計画を作成し、更に個別の評価表を作成するとい
うように、系統的に授業での子どもの教育的ニーズに応じた支援の内容や方法を明らかにして
いく道筋が明らかになった。このことにより、学習過程での子どもの姿を詳細にとらえ、どの
支援が有効であったか、改善すべき点は何か、また、めざす姿や実態把握が適切にできていた
かなどをより客観的につかむことができ、今、子どもにつけなければならない力を付けるとい
う意味で有効であった。
○
個別の教育支援計画や個別の指導計画に基づいて個別の評価表を作成して授業に臨み、具
体的客観的な評価を行ったことで、授業における子どもの特性を生かした教材・教具や発問・
声かけ、活動の工夫などの具体的な支援策が明確になった。
○
通常学級での実践研究を行うことができた。通常学級に在籍しながら特別な支援が必要な
児童に対して、個別の教育支援計画や個別の指導計画、さらに評価表作成に取り組んだことに
より、個のニーズに応じた支援の在り方やさらに授業場面での具体的な支援策が明らかになっ
た。
○
昨年度の特別支援教育班で作成された個別の教育支援計画のモデルをより活用しやすいよ
うに見直し、さらに個別の指導計画のモデル形式を作成した。それらを活用しながら、長期的
な視点に立った一貫した教育的支援を行うための子どもの教育的ニーズに応じた支援の内容や
方法を明らかにしていった。この取り組みが広がり、子ども一人一人が自分の個性や可能性を
ひらかせていくことにつながっていくと考える。
2
研究の課題
○
個別の教育支援計画や指導計画での支援の目標設定の具体化がさらに必要である。また、
1学期から3学期へと段階的にステップアップして長期目標に到達できるような短期目標の設
定の仕方や年間を通して育てていく構想を検討していく必要がある。
○
実践研究を通して、通常学級に在籍しながらも特別な教育支援を必要とする子に対しての
教育的ニーズの把握の仕方や支援の在り方が明らかになってきたが、具体的な支援内容、支援
者、支援の場をさらに明確にしながら指導体制や学校全体で支援体制を整備していく必要があ
る。
○
今年度までに本研究班で作成してきた個別の教育支援計画と個別の指導計画の形式モデル
を活用しながら、計画・実行・点検・改善を繰り返し、さらに活用の仕方や形式を見直してい
くことが求められる。
<参考文献・引用文献>
○
「特別支援教育の推進について(通知)」
文部科学省
○
「児童の個別評価リストの作成と活用」、『LD&ADHD』(明治図書、2009 年1月)
園田
○
貴章
小・中学校の課題整理「特別支援教育をどう進め、どう取り組むか」
下司昌一・砥抦敬三【編著】
○
特別支援コーディネーターのための「個別の教育支援計画」ガイドブック
島治伸【編著】
○
ぎょうせい
平成 19 年度
社会福祉法人
全国心身障害児福祉財団
栃木県教育研究所研究紀要「小・中学校における特別支援教育の展開」
栃木県連合教育会・栃木県教育研究所
-特支 6-
Ⅴ
研究の実際
〔実践事例1〕
小学校
算数科
第1学年における実践
単元「3つのかずのけいさん」
久留米市立西牟田小学校
教諭
柴尾
京子
実践の概要
本学級在籍のA児は、待つこと、聞くことが苦手で、質問が終わるまで待ちきれずに答えて
しまったり、ふざけたりといった衝動性を持っている。また、語句に対する知識が乏しく、絵
を見て理解することは得意であるが、言葉による概念形成が不十分である。入学時からの行動
観察を通して、A児の状況を理解しつつ、教育的ニーズの把握に努めてきた。
本実践は、そのニーズを踏まえた算数科「3つのかずのけいさん」の授業である。個別の評
価表の作成を通して、活動の工夫、発問・声かけの工夫、教材・教具の工夫を行っていった。
その結果、言葉の意味がとらえにくいA児が、「ふえる」「へる」と言う言葉と+、-の記号
の意味との結びつきを理解していく姿をみることができた。
キーワード
小学校1年生算数科指導、聞く・話す・待つことの困難、衝動性、視覚的支援、個別の評価表
1
実践の実際と考察
(1)支援1について
①
個別の教育支援計画から個別の評価表まで
ア
A児の状況
A児の学習面、行動面の状況をまとめると、資料1-1の通りである。
【資料1-1 A児の状況】
子 ど も の 状 況 ・ 実 態
普段の会話や発表の時には、日常生活に必要な言葉は使えるが、読み書きに
なるとうまくできない。
各教科等 ・ 10までの数の読み書きはできる。
授業・
・ 数の個数を具体物を使って示すことはできる。
家庭学習 ・ たしざん、ひきざんは指を使って求めるが、一人では困難である。
・ たしざん、ひきざんの場面の理解が困難である。
・ 板書を見てノートに書いたり、学習カードに文字を書いたりすることが難しい。
・ 自分一人だけの力で課題に取り組み、やり通すことが困難である。
・ 片付けが苦手で、持ち物が席の回りに散らかっている。
集団参加・
・ 全体への指示だけでは行動できず、個別の声かけが必要である。
社会性
・ 給食のとき、食べ散らかして片付けを忘れることがある。
対人関係 ・ ゲームに負けることがいやで、怒ってトラブルになることがある。
コミュニケーション ・ 友だちと遊ぶことは好きだが、気持ちをうまく表現できず、トラブルになることがよくある。
・ 音楽の時間に歌ったり、歌に合わせて身体表現をしたりすることが好きである。
興味関心の
・ 自由帳に漫画を描くことが好きで、集中している。
あること
・ ザリガニやカブトムシなどの生き物が好きである。
・ WISC―Ⅲの検査の結果、言語性と動作性にばらつきがあり、絵を見て理解すること
は得意だが、聞くことや説明することが苦手であることが分かった。
その他
・ 保護者の願いは、基本的な生活習慣を身につけてほしいということと、落ち着いて行動
することができるようになってほしいということである。
イ 個別の教育支援計画(主要課題と支援目標)
・
とりわけ現時点において必要な主要課題と支援の目標を述べる。
-特支7-
○
たしざんやひきざんの計算は指を使ってできるが、文章題は、言葉の表す意味を正しくつ
かめず、問題場面を理解することに困難さがある。そこで、問題場面を絵で表したり具体物を
使って操作させたりすることで、言葉と問題場面を結びつけ、正しい式を作ることができるよ
うにする。
○
全体への指示だけでは活動できないことが多い。席を立ち上がったり、課題を最後まで終
わらせずに投げ出してしまうことも多い。そこで、一度に幾つもの指示を出さないようにし、
言葉も端的に簡潔な表現を心がけることと、話が聞けたらすかさず誉めることを繰り返すこと
で、集団活動や学習に上手に参加できるようにする。
○
人と関わるのは好きだが、友達や大人関係なく言葉遣いが荒かったり、挨拶代わりにパン
チやキックが出るのでトラブルのもとになりやすい。そこで、場に応じた言葉遣いや相手を思
いやる言葉遣いなどを教えたり、遊びの中で負けたときの気持ちの切り替え方を教えたり、友
達をたたかずに気持ちを伝える方法があることを教えることで、友達とうまくコミュニケーシ
ョンがとれるようにする。
ウ
個別の指導計画
A
長期目標(1年間を目途として)
1年間を目途に、次の長期目標を設定した。
1
動作化させたり操作させたり、絵で表して提示したりして、言葉が表す場面の様子を理解
させ、正しく式化できるようにする。
2
短い言葉で簡潔に指示を出したり、活動が止まっているときは横に行って個別の声かけを
したりして、活動や思考が止まらないようにし、落ち着いて学習に取り組むことができるよ
うにする。
3
丁寧な言葉遣いを教えたり、発表の仕方のモデルを提示したりして、自分の考えや気持ち
を上手に友達に伝えることができるようにする。
以上の長期目標をうけて、2 学期の算数科数量領域における短期目標を次のように設定した。
動作化や具体物を使った操作、絵での場面の説明等を工夫することで、1年生段階のたしざん、
ひきざんの場面が分かり、式をつくり計算することができるようにする。
B
算数科第1学年
a
単元の目標
単元「3つのかずのけいさん」の全体指導計画
単元「3つのかずのけいさん」は、5+3+2
のような3つの数についても、2つの数の
場合と同様に、加法や減法を使って計算できることを理解させ、計算ができるようにすること
がねらいである。
A児の本単元での支援の目標を次のように設定した。
課題
計算はおはじきや数図ブロック、指などを使ってゆっくりはできるが文章問題を解
くときに加法の意味、減法の意味を理解し式を作って計算することが難しく、集中力がとぎ
れてしまい、途中で投げ出してしまうことがある。
目標
具体的な操作活動を通して、場面を把握し、3つの数の増加や求残の計算が2つの
数の加減と同じようにできることを理解する。
b 単元の指導計画(4 時間)
第1時 3つの数の計算(+、+)の場面を理解し、1つの式に表すことのよさに気づき計算することができる。
第2時 3つの数の計算(-、-)の場面を理解し、1つの式に表して計算することができる。
第3時 3つの数の計算(-、+)の場面を理解し、1つの式に表して計算することができる。……(本時)
第4時 3つの数の計算(+、-)の場面を理解し、1つの式に表して計算することができる。
-特支8-
C
短期目標の実現に向けた支援
【資料1-2 単元におけるA児に対する個別の目標と支援】
目
標
支
援
①3枚の挿絵を貼りやすいようにプリントに枠を作っ
①挿絵を順序よくプリントに貼ることができる。
ておく。
②場面を理解し、数図ブロックの操作をしたり
②ブロックの操作やシールを貼ったりするときに枠の
シールを貼ったりすることができる。
③3つの数のたしざんやひきざんの式に表すこ
中に入れるように注意を促す。
③「のる」はたしざん、「おりる」はひきざんになること
とができる。
④3つの数のたしざんやひきざんをつかった練
を補足説明する。
④場面の理解がしやすいように挿絵の提示をする。
習問題ができる。
D 個別の評価表
本単元の指導にあたっては、具体的な操作活動を通して、3つの数の増加や求残の計算が2
つの数の加減と同じようにできるということを理解させ、計算ができるように支援を行ってい
きたいと考えた。
本時では、減って増える場面を理解し、3つの数の計算ができるようになることをねらいと
した。そのために、まず、数図ブロックをつかって減って増える様子を自分なりに式に表せる
ようにした。次に、自分が作った式を数図ブロックやシールなどを操作しながら隣の席の友だ
ちに説明したり、全体の場で発表し合ったりした。自分の考えを発表し合うときには、数図ブ
ロックと式、答えを関連させて説明できるように支援し、3つの数の計算も 2 つの時と同じよ
うに左から順に計算するということをおさえていった。A児については、次のような項目で評
価表を作成した。
① 「ふえる」「へる」という言葉が「+」「-」という記号につながっていないので、まず、動作化や場
面の絵の並べ替えを通して、言葉と場面をつなげイメージをもたせる。
② 場面の把握→数図ブロック操作→シール貼り→式という手順を細かく追いながら、式に置き換
えることができるようにする。
③ 数図ブロックを動かしたり、色シールを貼ったりする具体的な操作活動を通して、「のってきまし
た」は「ふえる」のでたしざん、「おりました」は「へる」のでひきざんをつかうことを理解する。
④ 本時の学習の内容をA児が順序を追って理解できるような上記①・②・③の工夫をすることで、
自分が発表するときだけでなく、友達の話も座って落ち着いて聞くことができる。
⑤ 上記④と同じく、学習内容を理解させ、ノートに自分が考えた式と計算の仕方を書くことができ
るようにすることで、自分が書いた式や計算の仕方を友達に話すことができるようにする。
このことは、本時のめざす子ども像と具体的な支援の工夫を個別の評価表(資料1-3)を
使って、毎時間チェックし検証していった。
②
考察
「個別の教育支援計画→個別の指導計画→単元指導計画→個別の評価表」の作成過程の中で、
授業を構想することは、1時間の授業レベルでのA児の教育的ニーズを明確にし、めざす子ど
もの姿に近づけていく上で有効であった。
(2)
支援2について
支援1で順に述べてきたように、対象児に対する本単元における教育的ニーズは、前述の「単
元における個別の目標と支援」に表し、本時の教育的ニーズは個別の評価表に表している。授
業の実際については、本時における個別の評価表に沿って教材・教具、発問や声かけ、活動な
どの具体的な支援内容がどうであったかを対象児の状況で説明し、考察を行う。
-特支9-
① 個別の評価表を活用した本時指導の実際と考察
以下は、個別の評価表と改善点である。授業の主な学習活動の場面場面で、対象児がどのようなことができるようにしたいかを、「めざす子ども
の姿」にまとめた。そして、その状況が授業の中で現れるようにするための支援を「具体的支援」にまとめた。さらに、実際の授業の中の対象児の様
子を「対象児の状況」に整理し、その上で、「めざす子どもの姿」がみられたかどうかを、「A.できた」「B.大体できた」「C.できなかった」の3レ
ベルで評価した。B,Cの評価の目標については、支援の改善点についても述べている。
評価基準(A:できた B:大体できた C:できなかった)
【資料 1-3 個別の評価表と改善点】
主 な 学 習 活 動
めざす子どもの姿
具 体 的 支 援
評価
対 象 児 の 状 況
問題文を読むことができ
指でなぞりながら問題文を読む
教師の声かけと一緒に指で
1.前時学習を想起したあと、さるが電車にのっている
ように声かけをする。
なぞりながら問題文を読ん
問題にであい、挿絵の並び替えによって本時学習のめ る。
B
つ
だ。
あてをつかむ。
でんしゃにさるが 4 ひきのっています。ゆうえんちえきで
【改善点】文や文章を読む場面で、習慣化するまで繰り返し声かけをする。
2 ひきおりました。こうえんえきで 5 ひきのってきました。
さるは なんびきになりましたか。
か
「おりました」「のってきま
した」の言葉の意味が分か
る。
挿絵で場面の変化をイメージさ
せ、挿絵と「おりる」が「へった」、
「のった」が「ふえた」の意味を
マッチングさせる。
問題に合わせて挿絵を並
び替えることができる。
黒板に提示する問題文の3つの
場面に①②③と番号を付けてお
き、並べ替えるときのヒントにな
るようにする。
プリントからはみ出さな
いように挿絵を並べ、糊で
貼り付けることができる。
「初めに乗っていた4ひ
き」を赤色ブロックでおく
ことができる。
プリントに挿絵をはる枠を作っ
ておく。
「2ひきおりました」から
ブロックを2つ外に出す
ことができる。
4個の赤ブロックをおかせ、その
うち2個を外に出させるように
する。
と「おりました」を結び
つけるようにさせる。
「5ひきのってきました」
から青色ブロックを加え
ておくことができる。
変化に気づかせるため、5個の青
ブロックを置き、 と「のりまし
た」を結びつけさせる。
【資料1-4 問題文の挿絵】
む
めあて
さるはなんびきになるか
1つのしきにしてかんがえよう
2.数図ブロックや色シールを使って増えて減った様子
を式に表す。
つ
く
る
2へる
5ふえる
-特支10-
初めとあとからの数の違いが分
かりやすいように、ブロックの色
を変えて操作させる。
A
挿絵を見ることによって、問
題文の場面の理解をするこ
とができた。
A
3 回目の挿絵並べであったの
で、自分から進んで間違いな
く順番に並べていた。
A
枠に合わせて挿絵をのり付
けすることができた。
A
A
A
次の活動を予想し、操作の意
味を分かりながら枠の中に
ブロックを置くことができ
た。
「おりました」という言葉か
ら 2 個の赤色ブロックを枠の
外に出すことができた。すで
に、次の作業のことが分かっ
ている様子が見られた。
「5 ひき乗っただから、5 個青
ブロックをおくとやんね」と
つぶやきながら青色ブロッ
クをおくことができた
プリントに色シールを貼
ることができる。
プリントの枠の中に入れるよう
に注意を促す。
「おりる」が-を表すこと
色シールを貼る】 が分かり、式に書くことが
できる。
「のる」が+を表すことが
分かり、式に書くことがで
きる。
数図ブロック→色シールと具体
的に操作をさせて、何匹になるか
を考えさせ、プリントに式を書か
せる。
・数図ブロックの操作
・色シールを貼る
・式を書く
【写真1-1
【写真1-2 式を書く】
3.減って増える様子を表した式について発表し、計算
の仕方について話し合う。
4-2+5=7
ふ
2
C
最初、自分で「4-2+5= 」と
書いたが、隣の席の友達のプ
リントを見て、「4+2-5= 」
と書き直してしまった。
C
【改善点】自分の考えに自信をもつことができるように、できていたときは、その都
度、ほめていくようにする。
「おりました」はひきざん、
「のってきました」はたし
ざんを表すことを理解し、
友だちに説明することが
できる。
友だちの話を落ち着いて
聞くことができる。
か
7
分からない場合は、挿絵の順番に
戻って確認するように助言する。
A
色シールを貼ることが大好
きなので、素早く作業するこ
とができた。
落ち着いて自分なりの言葉で話
すようにアドバイスする。言葉が
うまく通じないときには、言葉を
置き換えたり補足したりする。
自分が話すばかりではなく、友達
の話もしっかり聞かせるように
する。話をきちんと聞けたときに
は賞賛する。
C
C
発表するときの適切な言葉
はなかなか出てこないが、自
分なりに考えを表そうと努
力していた。
友達が話しているときにじ
ゃますることはなくなって
きたが、長くなってくると集
中力がとぎれてくる。
【 改 善 点】で き る だけ言 葉 で 説明が で き るよう に 日 頃の生 活 の 中でも 、 「 言 い たい こ
とはこういうことかな?」というように、言葉で返していくようにしていく。
め
る
【写真1-3 自分の考えを発表する】
「おりて、のってくる」が
「おりました」はひきざんになり、
「おりて、のる」のが、-、
-、+のひきざん、たしざ
-で表すこと、「のりました」はた
+になることが、混乱してい
んの式に表されることを
しざんになり、+で表すことを補
理解し、左から順に計算す
足説明する。
B
たが、再度の話し合い、説明
で、「ああ、そうか。」と言い
ることができる。
ながら聞いていた。
【改善点】場面の理解がしやすいように、板書の構造化を図っていく。
ひ 4.練習問題をして、本時学習のまとめをする。
ばすにうさぎが 10 ぴきのっています。つぎのえきで 8
ろ
ひきおりました。
そのつぎのえきで 6 ぴきのってきました。
げ
うさぎは なんびきに なりましたか。
る
-特支11-
提示された類似問題を読
み、日常使う言葉を演算式
につなげることができる。
場面の理解がしやすいように挿
絵の提示をする。
数図ブロックの操作をしたりシ
ールを貼って考えるよう助言す
る。
A
ブロックは使わずに、色シー
ルを使って、考えることがで
きた。
ア
教材教具の工夫について
○ 問題文を文章だけで提示するのではなく、挿絵をばらばらに提示し、並び替えさせることに
よって、言葉での理解が難しいA児にとっての場面状況の把握を助けることができた。挿絵を見
ながらお話を作り、そこから、場面の状況がつかめたようだった。挿絵の並べ替えヒントカード
は他の子どもたちにも有効であった。
○ 黒板で自分の考えを発表するときに、直接黒板に書くのではなく発表ボードを使ったことは、
A児にとっても「あのボードに書きたいから頑張る」という意欲を高めることができた。
イ 発問・声かけの工夫について
○ 第1時で、板書の問題文を教師が指しながら読ませたときには、ブロックをさわったり、挿
絵カードをさわったりという落ち着きのなさが見られたので、次からは、自分の学習プリントを
自分の指でなぞりながら読むように声かけをしたところ集中して読んでいった。算数科だけでは
なく、他の授業の時にも繰り返し声をかけていくことによって身につけさせていきたいと考える。
○ 落ち着きがなくなり、集中力がとぎれそうになるときには、名前を呼んで注目させるように
した。人の話がきちんと聞けたときには、その都度ほめるようにして望ましいモデルをイメージ
しやすいようにした。少しずつ集中できる時間がのびてきた。
ウ 活動の工夫について
○ 単元を通して、「問題文を読む→挿絵を並べ替える→め
あてをつかむ→ブロックを操作する→シールを貼る→式を作
る→話し合う→練習問題をする」という1時間の授業の流れ
に沿って学習を進めていったことによって、次に何をすべき
かを明確につかみ、学習活動の流れにスムーズにのっていっ
た。
○ ブロックやシールを使っての具体的な操作活動を取り入
れたことによって、途中で投げ出すことなく1単位時間ほぼ
集中して取り組むことができた。
② 考察
【資料1-5 A児の学習ノート】
○ 個別の評価表を使って毎時間チェックしていったことに
より、A児は「操作的なことは得意であるけれども、言葉を
頭の中で構造的に築き上げていくことは苦手である。」ということが改めて分かった。
○ このことから、今後授業の中で自由な操作活動をもっと取り入れることが効果的であろうと
いうことが分かった。
2 実践の成果と課題
(1) 指導の成果
○ A児にとっての教育的ニーズを明らかにし、個別の支援計画から個別の評価表までを作成し、
それをもとに授業計画を立てたことで、A児の実態に応じた細かな支援を取り入れることができ、
A児はほぼ集中して学習に取り組むことができた。
○ 児童理解が進んでいくに従って、A児の行動も少しずつ落ち着いていき、「友達と上手にコ
ミュニケーションがとれるようになる。」「落ち着いて学習に取り組むことができるようになる。」
という支援の目標に近づいていくことができた。
○ A児のニーズに応じた支援を工夫した授業を行う中で、他の児童の認識特性が見えてきた。
児童理解を深めることができた。
(2)指導の課題
○ 学級の中にいるA児以外の困り感をもった児童に対しても、この支援方法を生かして一人一
人のニーズを把握し、個に応じた支援を行っていくことが必要である。
-特支12-
【実践事例2】
小学校
算数科
第2学年における実践
単元「形を しらべよう」(三角形と四角形)
久留米市立三潴小学校
教諭
前山
資子
実践の概要
本学級在籍のB児は、言葉による概念形成が不十分な面をもっており、言葉と言葉のもつ意
味を関係づけてとらえることが難しい。特に、聞くこと、話すこと、推し量ることに困難がみ
られる。通級指導教室等には通っておらず、通常学級のカリキュラムで学習している。B児の
学習ノートの蓄積や行動観察などを通してB児の状況を理解しつつ、教育的ニーズの把握に努
めてきた。
本実践は、その教育的ニーズを踏まえた、算数科「形をしらべよう」の授業である。1時間
の授業におけるB児のニーズに応じた支援の内容や方法を明らかにし、個別の評価表を作成し、
活動の工夫、発問・声かけの工夫、教材教具の工夫を行っていった。その結果、言葉のもつ意
味をとらえにくいB児が、三角形と四角形をその定義に照らしながら理解していく姿をみるこ
とができた。
キーワード
1
小学校2年生算数科指導、聞く・話すの困難、個別の評価表
実践の実際と考察
(1) 支援1について
①
個別の教育支援計画から個別の評価表まで
ア
B児の状況
B児の学習面、行動面の状況をまとめると資料2-1の通りである。
【資料2-1 B児の状況】
現在の子どもの状況・実態(抜粋)
聞
く
話
す
読
む
書
く
数と計算
集団参加
・社会性
その他
イ
教師や友達の話の内容がわかっていないことがよくある。「○○ですか。」と指示を確認する
ことが多い。「○○って、何ですか。」と言葉の意味を問うことも多い。
単語の羅列で話す。「こえん、こえん。」と身振りで説明することがよくある。受動、能動の
表現が混乱する。
黙読が苦手である。音読はできても、内容を理解していないことがある。
板書や教科書などを見て書き写すことは得意。作文は、「○○はすごかったです。」など、決
まったパターンであったり、筋道が通らなかったりする。
繰り上がりや繰り下がりを含む計算をすることはできる。九九は、唱えることができる。計
算の意味理解は不十分で、文章問題は、間違うことが多い。
状況判断がうまく出来ず、自分がやりたいことをやってしまう場面がある。不注意な面は見
られるものの、多動性は、ない。
絵や図など視覚的な手がかりを提示すると理解しやすい。体験的な活動を好み、意欲が増す。
個別の教育支援計画(主要課題と支援目標)
とりわけ現時点において支援が必要な主要課題と支援の目標を述べる。
○
言葉のもつ意味や文のきまりがわからず、語彙も少ない。話し言葉に助詞が入らなかった
り、能動と受動の表現が反対になったりする。
-特支 13-
そこで、言葉と意味のマッチングをさせ、身近な生活体験と関連づけて示していくことで、
生活の中で使える言葉を増やすことができるようにする。
○
言語を理解して活動するより、周りの友達の真似をして動くことが多い。
そこで、友達と一緒に同じことをしたいという欲求を生かして、グループ編成や座席の位置
を工夫し、友達の行動を正しい行動モデルとして身につけさせ、集団での諸活動に参加するこ
とができるようにする。
○
人と関わるのは好きだが、会話が通じなかったり、相手の気持ちを感じ取ることが出来な
かったりするため、トラブルがよく生じている。
そこで、言葉のもつ意味を教師や友達が説明を加え、正しく理解させることにより、友達の
話の内容がわかり、友達とコミュニケーションがとれるようにする。
ウ
個別の指導計画
A
長期目標(1年間を目途として)
1年間を目途に、次の3点を長期目標とした。
1 具体物を操作させたり、言葉の意味を具体的に丁寧に説明することで、言葉とそれを表す物
や事柄を結び付けることができるようにする。
2 B児の行動モデルになるような子どもと同じグループにしたり座席を隣にしたりして、行動を真
似させることで集団の中での行動の仕方を身に付けさせ、集団行動ができるようにする。
3 友達が発する言葉の意味やその思いをくり返し説明することで友達の気持ちを理解させたり、
友達が発する言葉への対応の仕方を教えることで、友達とコミュニケーションがとれるようにす
る。
以上の長期目標の1を受けて、算数科「図形」領域においては、
「具体的な操作活動や視覚的
な教材を工夫したり、授業時において的確な発問、声かけをすることで、三角形と四角形の名
称とその構成要素の名称である直線の名称ならびに閉じている形、曲がった線などの言葉を正
しく理解し、使用することができるようにする。」ことを短期目標として指導を行った。
B
算数科第2学年
a
単元の目標
単元「形をしらべよう」の全体指導計画
単元「形をしらべよう」では、三角形は、3本の直線で囲まれた形で、四角形は、4本の直
線で囲まれた形であることを理解できるようにすることがねらいである。子どもたちは、日常
生活の中で、「さんかく」「しかく」などの言葉を用いているが、その概念は曖昧である。B児
においては、「三角形」や「四角形」を視覚的にとらえることはできるであろうが、「直線」や
「囲まれた形」などの言葉の意味の理解が困難なため、定義に基づいた理解や図形の弁別は難
しいと考えた。
そこで、本単元では、言葉とその意味を結びつけて考える活動を毎時間設定したスモールス
テップの指導により、図形の定義を理解することができるよう支援していく。図や絵などの視
覚的な具体物を使った操作活動を積極的に取り入れたり、発問や声かけを工夫したりして、B
児の短期目標の達成を図っていく。これらの支援の工夫を行うことによって、他の子どもたち
も、図形についての親しみを深めたり、形の理解の基礎となる経験を豊かにしたりすることが
できると考えた。
b
単元の指導計画
本単元における指導計画は資料2-2の通りである。
-特支 14-
【資料2-2 単元の指導計画 (6時間扱い)】
段階
配時
学
1
つ
か
む
①
し
ら
べ
る
①
三角形や四角形について
動
しらべていこう。
観察、構成、分類などの活動を通して、「三角形」や「四角形」の概念を理解する。
① 「三角形」と「三角形ではない形」の弁別をしたり、なぜ「三角形」ではないのかについ
て話し合ったりする。
(本時)
② 「四角形」と「四角形ではない形」の弁別をしたり、なぜ「四角形」ではないのかについ
て話し合ったりする。
③ 紙を折ったり切ったりして、三角形、四角形を構成する。
3
身の回りから三角形や四角形の形をしたものを見つけ、
「三角形」
「四角形」の理解を深める。
① 身の回りから三角形や四角形の形をしたものを見つける。
② 練習問題をして習熟する。
①
①
①
C
活
2
①
い
か
す
習
動物を直線で囲む活動を通して、学習課題をつかむ。
① 動物を直線で囲んで、できた形を仲間わけする。
「三角形」
「四角形」の用語と定義を知る。
本時におけるB児に対する個別の目標と支援
本時におけるB児に対する個別の目標と支援は資料2-3の通りである。
【資料2―3 本時におけるB児に対する個別の目標と支援】
目
標
○ 「三角形」と「三角形ではない
支
○
形」を見分けることができる。
援
6枚のカードで問題を提示し、仲間
分けをするという具体的な操作活動を
設定する。
○ 前時の「直線」「3本」「囲まれてい
る」の言葉の意味を理解さ
○ 三角 形で はな い部 分に 印を 付
せるために操作したジ
けることができる。
【写真1 カード操作による自力解決】
オボードの小黒板を掲示しておく。
○
○
自分の考えを隣の友達に話す
ことができる。
D
発表の仕方のモデルを掲示したり、
モデルとなる友達とペアを組ませた
りする。
【写真2 ジオボードの小黒板】
個別の評価表
本時の目標である「正確な三角形を決定するために、三角形の定義を根拠にして考え、三角
形ではない形については、そうでないわけをプリントに書いたり、友達に説明したりすること
ができる」ことについて、具体的な支援内容を個別の評価表で示し支援内容の有効性を検証し
た。
②
○
考察
B児の学習場面・生活場面における状況や実態を細かく観察し、教科、領域ごとに整理し
ていったことで、B児の得意な面と苦手な面が少しずつみえてきた。これにより、B児につけ
る力(長期目標、短期目標)を考えることができた。
○
個別の教育支援計画や個別の指導計画をもとにして、授業における個別の評価表を作り、
めざす子どもの姿を明らかにすることで、より具体的で効果的な支援を考えていくことができ
た。
-特支 15-
(2) 支援 2 について
① 個別の評価表を活用した本時指導の実際と考察
評価規準(A:できた
【資料2-4 個別の評価表と改善点】
主な学習活動
1 前時の学習を想起し、本時の学習課題をつかむ。
めざす子どもの姿
前時に学習した三角形の定義
を思い出すことができる。
つ
① 前時学習を想起し、三角形の定義を確認する。
か
む
三かく形をさがそう。三かく形ではないわけをせつめい
しよう。
評価
三角形の定義を模造紙に書
き示して教室側面に掲示し、
前時の学習を想起しやすくす
② 本時学習の問題を知り、めあてをつかむ。
六つの形の中から、
三かく形をさがしましょう。
具体的支援
B:大体できた
A
C:できなかった)
対象児の状況
発表者の方を向いて、話を聞いて
いた。意欲的に挙手をしていた。
る。
友達と一緒に、三角形の定義
板書を指示棒で指し示す。
や本時のめあてを声に出して読
アイコンタクトで、合図を送
むことができる。
る。
本時学習の流れをつかみ、活
楽しい活動を組み入れた 1
動への意欲をもつことができ
時間の学習過程がわかるよう
る。
1 時間の活動の流れを板書す
指示の後、みんなと一緒に読み始める
B
ことができたが、後半、正しく読んでい
ない言葉があった。
「楽しい」という言葉を見た時、
「に
A
こっ。
」と笑った。
る。
【改善点】 めあてを読む前に、仲間分けの試しの活動を実際にやった方がB児にはわかりやすかった。
③ 本時の学習活動や進め方を知る。
つ
く
2 六つの図形の中から、三角形をさがす。
① 六つの図形を、三角形と三角形ではな
い形の二つの仲間に分ける。
る
【写真3 1時間の活動の流れの板書】
三角形と三角形ではない形に
拡大した図形を黒板で動か
仲間わけをするという活動内容
して見せるなど、視覚的に説
とその方法がわかり、活動にす
明をする。
教師の指示の後、
(い)のカードを三
角形の仲間の方(左)へ、動かした。
A
ぐに取りかかることができる。
六つの図形(カード)を机の
「直線・3本・囲まれてい
上で三角形と三角形ではない形
る」ということが視覚的にと
の二つの仲間に分けることがで
らえられるよう、前時に使用
きる。
したジオボードの小黒板を掲
示しておく。
-特支 16-
B
囲まれていない図形(お)をどち
らの仲間に入れていいのか迷って
いた。隣の席の子を見て、判断して
いた。
つ
② どの図形が三角形なのか、話し合う。
く
る
3 三角形ではない形について、そのわけを考え、話し合う。
① 三角形ではない形について、該当部分に印を付けたり、わ
けを言葉で書いたりする。
② 自分の考えを隣の友達に話す。
三角形ではない形について、
学習プリントへの記入の仕
角が丸い部分(う)に○印を付けてい
該当部分に印をつけることがで
方を、全体の場で確認してお
た。3つの図形のうち2つには、印を付
きる。
く。全体の指示の後に、個別
B
けることができた。
に活動を見取り、助言する。
三角形ではないわけをプリン
トに書くことができる。
机間指導で、活動の様子を
見取り、必要に応じて助言す
「まがっている」
「丸くなっている」
C
と表現したいところを「まがっていな
い」
「丸くなっていない。
」と書いていた。
る。
【改善点】B児は「○○ではない」という表現の理解が不十分だった。ここは、
「書く」活動の場面だが、B児におい
ては、個別に口頭でB児の考えを確認しながら、言語表現につなげたほうがよかったのではないだろうか。できるだ
け言葉で説明ができるように、日頃の生活の中でも、
「言いたいことはこういうことかな。
」というように、言葉で返
【写真4 話し方を示した発表カードの活用】
③ 三角形ではないわけについて、全体の場で話し合う。
していくようにしていく。
隣の友達の説明を聞くことが
できる。
友達との交流を深めなが
ら、学習に参加できるように
友達が指し示すところをみながら、説
A
明を静かに聞いていた。
する。
三角形ではないわけを隣の友
達に説明することができる。
発表の仕方のモデルを黒板
に提示しておく。
黒板に掲示しているモデルを見たり、
A
友達の発言の真似をしたりして、説明し
ていた。
全体交流の話し合いの内容が
分かる。
自分の考えと友達の考えを
発表者の方を向いて話を聞くことは
比べやすくするため、板書と
できていた。しかし、指名された時、
「囲
連動した学習プリントを作成
【写真5 板書と連動した学習プリント】
C
しておく。
まれていないからです。
」というべきと
ころを「囲まれているからです。
」と発
言した。
い
か
す
4 練習問題をして、本時学習のまとめをする。
① 「何が出てくるかな」の問題をした後、本時学習のまとめ
をする。
② 学習の振り返りをする。
【改善点】全体交流の場面では、担任はB児のそばにつきっきりで個別の支援をすることには無理がある。そこで、
交流場面では言葉のやりとりが中心になるので、B児のそばについて交流内容を分かりやすく伝え、安心感をもたせ
たり、助言したりするために、支援員の活用を図る必要がある。
三角形だけに色を塗ることが
視覚的に自分の考えを整理
できるという特性を生かした
できる。
活動を取り入れる。
い
-特支 17-
中心部分の三角形はすぐに色を塗る。
B
その後は、隣の友達を見て、自信なさそ
うに塗っていた。
本時学習に楽しさや達成感を
い
【資料2-5
か
①きょうの べんきょうは 楽しかったですか。
もっている。
学習の振り返り
カード】
マークを選んで色を塗ると
楽しさ、達成感ともに、
「よくできた」
いう活動を位置付けた。
の部分に印を付けていた。
A
②きょうの べんきょうは よくわかりましたか
す
ア 教材教具の工夫について
○ B児は操作活動に意欲的で、視覚的な手がかりをもとに自分の考えをもつことが得意であるので、三角形とそうでない形をカードにした教材を準備したこと
は、B児の学習に興味、関心をもち、具体的にカードを操作しながら弁別した姿につながり、有効であったと考える。
イ 発問・声かけの工夫について
○ 「めあてを書きましょう。鉛筆を持ちます。プリントのここに書きます。
」というように指示を短くし、はっきりとした口調で話していったことで、多くの子
どもたちが指示の内容を明確にとらえ、活動することができた。
○ 子どもたち全体へ発問や指示をした後、B児が指示内容を理解したかどうか見取り、必要に応じて個別に声をかけていったことで、B児は安心感をもって学
習を進めることができた。
ウ 活動の工夫について
○「1.三角形を探す→2.違うわけを考える→3.楽しい問題をする→4.振り返る」という活動構成はB児に授業の後半まで、意欲を持続させるのに効果的
であった。また、絵をかくことが好きなB児に「楽しい問題」として、学習の習熟を図るために色を塗る問題を提示したことは、学習意欲をさらに高める上で有
効であった。
② 考察
○ 言葉だけではイメージをつかみにくいB児に対して、発表の仕方を提示したり友達の発表の仕方をモデルとさせたり図形のカードを用意した教材の工夫や具
体的なカード操作による弁別という活動の工夫をしたりしたことで、B児が三角形を定義に照らしながら理解していく姿がみられた。
○ 授業中、B児は、めあてやまとめを読んだり書いたりする活動をみんなと同様にしているように見えるが、個別の評価表で、チェックしていくと、言葉や活
動内容の意味理解がやはり不十分であることが再確認できた。個別の見取りを丁寧に行ったり、数種の学習プリントを用意しB児が分かりやすいものを選ばせた
り、学習プリントと連動した板書を工夫したりしていくことが必要である。
2 実践の成果と課題
(1) 指導の成果
○ 本実践をする以前は、B児の困り感に気づきながらも、具体的な目標や支援方法が分からず、
「B児にできることを、できる範囲で取り組ませよう。
」と思い
悩んでいた。本実践を通じて、B児の個性を生かし、よりわかりやすく、より安心感をもたせる具体的な支援策を考えることができた。
(2) 指導の課題
○ 関係機関や家庭との連携を含む個別の教育支援計画を作成する。その後、具体的な連携の仕方を考える。
○ 言葉と言葉のもつ意味を結びつける指導については、指導計画を作成し、段階に応じて指導していく。
-特支 18-
【実践事例3】
小学校 肢体不自由特別支援学級「たいよう学級」における実践
国語科 単元「鳥類センタークイズブックをつくろう」
久留米市立水縄小学校 教諭 古賀 伸一
実践の概要
対象とするC児は、四肢に麻痺があり、肢体不自由学級に在籍している。性格は明るく、おしゃ
べりが好きで、テレビやインターネットからの情報をよく教師に話してくる。そのため、語彙は豊
富であるように感じていた。しかし、適切に語彙を使うことができなかったり、他の場面では応用
できなかったり、また作文では、的確に語彙を使うことが難しいなど語彙力に課題がある。さらに、
視覚的な弱さから、文の読み飛ばしが多く、また四肢の麻痺から、文を書くことや作ることが難し
いなど、読み・書きにも課題がある。そこで、C児の実態から教育的ニーズを明らかにし、個別の
教育支援計画、個別の指導計画を作成した。それを踏まえて、授業レベルでは、個別の評価表を作
成し、評価・改善を図ることによって、C児への支援を連続的に行ってきた。
本実践は、そのニーズを踏まえた、生活単元学習「乗り物にのってでかけよう」で体験したこと
を、国語科「鳥類センタークイズブックをつくろう」の時間に、適切な語彙や文としてのまとまり
を考えながら、文例にあてはめて文章をつくり、友達に紹介することをねらいとした授業である。
個別の評価表の作成を通して活動、発問・声かけ、教材・教具の工夫を行った。その結果、文章を
書くことを苦手としているC児が、
「問いと答え」の文例に沿いながら、相手意識ももって、見たこ
と、知ったこと、思ったことをわかりやすい文章で書くことできた。
キーワード
小学校肢体不自由特別支援学級、国語科、作文学習、表現活動、個別の評価表
1 実践の実際と考察
(1)支援1について
① 個別の教育支援計画から個別の評価表まで
ア C児の状況
C児の状況を、個別の教育支援計画からの抜粋で、聞く、話す、読む、書く、見る、集団・社会
性、その他でいうと(表3-1)の通りである。
【資料3-1 C児の状況】
聞く
話す
読む
書く
見る
集団参加
・社会性
その他
現在の子どもの状況・実態(抜粋)
聴覚的な短期記憶が強い。友達や教師の話をよく聞き、自分の考えをもつことができる。
麻痺が強く、発声が不明瞭。2語文が多いが、おしゃべりが好きで体験したことをよく話
す。
文の読み飛ばしが多い。長文の理解が困難。漢字や仮名は読める
書字は四肢の麻痺のためできない。手をとって書くものの2語文がほとんど
視覚的な認知能力及び視覚-運動・表出に困難さが見られる
人懐っこく、交流学級での活動を好む
自分ができないことは理解できているが、できそうなことも諦めがちな面が見られる
イ 個別の教育支援計画(主要課題と支援目標)
とりわけ現時点において必要な主要課題と支援の目標を述べる。
-特支 19-
○ 言葉や文を書かれている文字の通りに正確に読むことが不十分であるので、文字を正確に読み
取るということの訓練をすることで、長文の理解をすることができるようにする。
○ 文を書く力は2語文程度であるので、体験したことを時間の経過に従って、
「したこと、見たこ
と、思ったこと、知ったこと」に分けて思い出させて書くことをくり返すことで、相手に自分が書
きたいことが伝わるような文章が書けるようにする。
○ 四肢の麻痺のため、自分で字を書くことに困難さが見られ長く書こうとしない、また、書いた
字も読みづらいものがある。そのため、表現方法が限られている。C児の友達とたくさん関わりた
いという欲求とパソコン操作が大好きという特性を生かして、パソコンを使って表現させることで
C児の表現意欲を喚起させ、積極的に自分を表現できるようにする。
○ 友達とたくさん関わりたいという欲求は強いが、緊張すると体が固まり、発音が不明瞭になっ
たり声が小さくなったりするので、
言っていることを友達が十分に理解できないということがある。
友達と話すということに自信が持てず、友達とのコミュニケーションが十分にはとれていない現状
である。体をリラックスさせることを通して言葉を出させ、話すことに自信を持たせ、友達とのコ
ミュニケーションがとれるようにする。
ウ 個別の指導計画
A 長期目標(1年を目途として)
1年を目途に、次の4点を長期目標とした。
1 スリットを使うなどして、今読んでいる言葉や文に注視させることで、一年生の国語の教科
書を、ゆっくり、読み飛ばさずに読むことができるようにする。
2 体験したことを映像(写真)やICレコーダーで追体験させることで、
「したこと・見たこと・
思ったこと・知ったこと」を時間の順序に従って3~5語文で書き表すことができるようにす
る。
3 体をリラックスさせ、発音の仕方や声の出し方を指導することで、交流学級の友達と十分な
コミュニケーションがとれるようにする。
4 学校の行事や季節の行事の参加を促し、みんなといっしょに楽しんで活動できるようにする。
以上の長期目標をうけて国語科の話す・書くことにおいては次の3点を目標として指導した。
○ 発表の場において、
作成した体験文を相手に聞こえるように発表することができるようにする。
○ 体験したことを、写真をもとに順序良く並べ話したり、3語文~5語文を書くことができる。
○ 体験文が相手のことを考えた文章になっているのか考えることができるようにする。
本報告では、国語科での指導を中心に述べる。
B 国語科 単元「鳥類センタークイズブックをつくろう」の全体の指導計画
a 単元の目標
単元「鳥類センタークイズブックをつくろう」は、
「生活単元学習:乗り物にのってでかけよう」
で体験したことを語やまとまりについて考えながら文例にあてはめて文章をつくり友達に紹介する
ことがねらいである。さらに、つくった文章のカードを集めてクイズブックにし、プレゼンテーシ
ョンでクイズをしたり、友達の体験文を聞き感想をもつ態度を身につけさせたい。このことはC児
の相手意識をもった確かな表現力を育てる上からも意義がある。
b 単元の指導計画
単元の指導計画は、
(資料3-2)に示す通りである。指導にあたっては、これまでの体験文の不
十分さに気づかせ、文例にあてはめて相手意識をもってわかりやすく書くことができるように支援
をしていく。また、クイズを友達に発表するというC児の意欲面や相手意識を大切にした単元構成
にしたり、
C児の認知特性を生かした聴覚的短期記憶の強さ生かした活動を取り入れたりしていく。
-特支 20-
さらに、視覚的な手がかりで体験を想起しやすくしたり、自主的・積極的な表現活動ができたりす
る環境調整を工夫していく。
【資料3-2 単元計画(11時間)】
時数
②
学 習 活 動 と 内 容
1 鳥類センター見学で、楽しかった体験を想起し、本単元のめあてをつかむ。
(1)写真を見て、鳥類センターでの体験を順序よく思い出す。
(2)思い返したことから、興味をもちめあてをつかむ
鳥類センタークイズブックをつくって友だちにクイズをだそう!
② ⑥
(3)本単元での活動の見通しをもつ
2 文例を読みとり、文例に合わせながら書くことを知る。
(1)文例の文と文の関係を読みとる。
3 文例に合わせて、自分が体験したことを書いて発表する。
本時4/6
(1)図鑑にしたい思い出の写真を選び、思い返す。
(2)写真やICレコーダーを聞きながら文例に合わせて言葉を選んで文章をつくる。
(3)完成したカード見て友達に発表する。
※2・3の繰り返し
①
4 鳥類センタークイズブックに製本して交流学級の友達にクイズを出す。
(1)作ったカードをまとめてクイズブックに製本し、プレゼンで交流学級の友達に紹介する。
(2)鳥類センタークイズブックの感想を聞く。
C 本時におけるC児に対する目標と支援
【資料3-3 単元における個別の目標と支援】
目
標
○ 鳥類センタークイズブックを作ることに関心をも
ち、自分の体験したことを意欲的に文章にし、相手意識
をもって友達に発表することができる。
【関心・意欲・態度】
○ 鳥類センターでの体験を写真やICレコーダーを
もとに想起し、言葉カードや教師との会話で「見たこと、
知ったこと、思ったこと」など、わかりやすい文章を完
成することができる。
【書く】
○ 友達に見てもらうという目的意識をもって作った
クイズブックをもとに、友達に適切な声の大きさで発表
したり、友達の発表を聞いて、感想をもったりすること
ができる。
【話す・聞く】
○ クイズブックの作り方の例を参考にして、1年生で
もわかる言葉で簡単な文章を作ることができる。
【言語事項】
支
援
○ つくったクイズを特学の友達に毎回出すこと
で、体験したことからクイズを作って1年生と6年
生に紹介しようという、相手意識・目的意識を持続
させる。
○ 文と文の関係をわかりやすくとらえさせるため
に文例を提示したり、よりよい語句を考えさせるた
めに、ICレコーダーで言っていた言葉を「見たこ
と、知ったこと、思ったこと」に分け、それを書い
た色分けしたカードを読ませたりする。
○ ニュースキャスターの気持ちになって適切な声
で発表できるように、疑似テレビから発表するとい
う環境の設定をする。また、句読点で呼吸を整えて
読めるように声かけをする。
○ 誰に発表するのか、相手意識を問いながら文を
考えさせることで、適切な語句を使用させる。
D 個別の評価表
本時は、前時におこなったクイズブック作りを想起し、意欲的にほおじろかんむりづるのクイズ
カードを簡単な文章でつくり友達に適切な声の大きさで発表することを主眼とした。
そのために、C児の聴覚的な短期記憶の強さを生かして「見たこと、知ったこと、思ったこと」
をICレコーダーや視覚支援の色わけした「見たこと、知ったこと、思ったこと」カードや教師と
の会話をもとに想起させる。また、パソコンを使って文章を完成させ、句読点で呼吸を整えさせて
友達に発表させる。C児の意欲を持続させるために、発表の場をニュースキャスターになり、疑似
テレビの中から発表させた。以上のことを、個別の評価表で示し検証した。
-特支 21-
② 考察
○ アセスメントや保護者や本人の願い、肢体不自由の理解、C児の通っている療育機関との連携
から、本人の実態を明らかにすることが個別の教育支援計画を作成する上で重要であった。
○ C児の「確かな表現力をつける」という教育的なニーズから、その目標を達成するために学期
ごとに目標を考えたが、文章の表現以外にも今後は、写真など体験したもの以外の映像媒体で表現
させていくことも必要である。
○ 本時のクイズブック作りでは、主眼を簡単な文章が書けるとしたが、C児の教育的なニーズか
ら3語文以上のわかりやすい文章というように、具体的な目標を立てる必要があった。
(2)支援2について
① 個別の評価表を活用した本時指導の実際と考察
【資料3-4 個別の評価表と改善点】
主な学習活動
つ
か
む
評価基準(A:できた
めざす子どもの姿
B:大体できた
C:できなかった)
具体的支援
評
価
対象児の状況
頷きながら、
話を聞い
1前時までの学習を クイズブックをつくろうという 前時に作った探検カードや単元
A
学習計画を見せる
ていた。
振り返り、本時学習の 目的意識をもっている
めあてをつかむ。
今日の学習の流れカードを見な
自分で、
今日のカード
A
(1)つくった文と文 今日の活動を理解している
がら確認をする
の対象を言えた。
例を振り返り本時学
前時に作った探検カードのよさ
カード作りの方に気
習のめあてをつかむ。
活動にやる気をもっている
B
を知らせる
がそれているようだ。
ほ おじろ かんむ
り づるの ことを
【改善点】前時の自己評価も合わせながら、よかったところを具体的に伝
ク イズブ ックに
える必要がある。
して、友達に紹介
早口で声があまり出
しよう。
めあてを適切な声で言えている
呼吸を整えさせる
B
せていない。
【改善点】本時がはじまる前に、呼吸を整えさせたり、句読点で一呼吸お
かせたりする必要がある。
さ
2自分の選んだ体験
から、クイズブックを
作る。
(1)「問い、答え」の
文をつくる
ぐ
る
(2)「見たこと、知っ
たこと」の文をICレ
コーダーや写真を振
り返り学習ボードを
つくる。
(3)思ったことの文
をつくる。
(4)作った学習ボー
ドのメモ文をパソコ
ンで入力する。
□に「問い」と「答え」の文を
作ることができる
文例を見させ「とり」
「いきもの」
A
を選ばせる
写真から、
鳥であるこ
とをすぐに理解して
いる。
知ったこと・見たことをICレ
コーダーをもとに書くことがで
きる
ICレコーダー記録票を見て、I
Cレコーダーを聞かせ、思い出さ
せる
ICレコーダーに録
音されていた内容が
多く迷っている
B
【改善点】ICレコーダーのみでなく、
「知ったことカード」にも注目させ
る必要がある。
思ったことを学習ボードに書く
ことができる
ICレコーダーや見たこと、思っ
たことカード、教師との話から考
えさせる【写真3-1】
A
「思ったことカード」
や当時のことを、
想起
しながら書いている。
パソコンの使い方がわかって書
きたいことを書いている
学習ボードを見ながら、キーボー
ドへのひらがな入力シートの上
から入力させる
A
ボードを見ながら、戸
惑いなく入力してい
る
B
入力した後に、
教師の
声掛けなどで見直し
て書き直しをしてい
る。
文章を読み返しながら、パソコ
ンに入力している
学習ボードを見させ、文と文との
関係や文末表現、句読点を考えさ
せる【写真3-2】
【改善点】見直し視点を決めて、取り組ませる必要がある。
3作ったクイズブッ
クを読み返して、発表
の練習をする。
(1)読む相手のこと
読む相手を意識した語を使って
いる
誰に図鑑を見てもらうか問う
-特支 22-
A
問いに対して、
1年生
と6年生であること
を答え、
漢字に気をつ
けて読み直した。
を考えているか
(2)発表の練習をす
る
カードを見て、適切な声の発表
の練習をしている。
句読点での呼吸をさせる
B
できたことで、
安心し
句読点を意識できず
に読んでいた。
【改善点】句読点での呼吸を再度促したり、読みのルールを定着させる必要
【写真3-1:見たこと、思ったことカード】
(青)
(ピンク)
4 書いたクイズブ
ックを発表したり、友
達の体験を聞いたり
する。
(1)発表の仕方を想
起し発表する。
友達の作った文章を聞いて感想
を持てている
完成したカードを適切な声の大
きさで発表している【写真3-
3】
【写真3-2:学習ボードを見て入力】
前時までの繰り返しの学習パタ
ーンで
A
質問をしていた
深呼吸をさせ、句読点での呼吸を
促す
B
Bくんには、
聞こえた
が、
まだ小さい声であ
った。
【改善点】Bくんとの距離をあけて、声が大きく出せるような工夫が必要
発表コーナーにC児の夢である
ニュースキャスターを意識させ
た擬似テレビを準備
【写真3-4】
意欲的に発表している
A
ニュースキャスター
になって、
喜んで発表
していた。
ふ
か
め
る
【写真3-3:完成したカード】
い
か
す
5 本時の学習を振
り返り、次時のクイズ
ブック作りへつなげ
る。
(1)よかったところ
を聞く。
(2)
「話す、聞く、
書く」の観点で自己評
価をする
【写真3-4:疑似テレビ】
本時の学習を振り返り、自己の
活動のよさを感じている
活動を振り返り、自己評価がで
きている
教師がよかったところを知らせ
る
A
「話す・聞く・書く」の視点での
振り返りをさせる
B
よかったことを言う
と嬉しそうにしてい
た
パソコンでの自己評
価では、
じっくり振り
返ることなくチェッ
クしていた。
【改善点】パソコンの質問を、毎回変える必要がある。
クイズブック作りの見通しを持
てている
次時の学習を知らせ、あと、2枚
のカードをつくることを知らせ
る。
-特支 23-
A
次時に作るカードに
ついて答えている
ア 教材・教具の工夫について
○「鳥類センタークイズブックをつくり友達に紹介しよう!」という目的意識を持続してもつこと
ができる教材・教具を準備することは、C児の表現意欲が継続し相手意識をもった表現力を培う上
で有効である。
イ 発問・声かけの工夫について
○ 適切な声の大きさで読むことができるように、句読点で呼吸を整えさせることが不十分であっ
たことから、音読のルールとして前もって指導する必要があった。
○ 教師と一緒に話しながらメモ文をつくったことは、四肢の麻痺のある児童にとってどんなこと
をどんな順序で書くのかわかりやすく書く上で有効であった。
ウ 活動の工夫について
○ 「学習ボード作り→パソコンでの清書→友達への発表」という活動構成を仕組むことは、C児
の特性を生かし、意欲を継続させるうえで有効であった。
○ 友達への発表では、C児の夢であるニュースキャスターを疑似体験する方法をとったことは、
C児の目的意識を持続させる上でも表現への意欲づけという点において有効であった。
○ ICレコーダーでの体験の想起では、C児の特性である「聴覚的な短期記憶」の強みを生かす
上で有効であった。
② 考察
○ 教育的なニーズを分析して、身体の面、認知特性の面、学習実態の面、意欲の面などから授業
を組んだことが、C児の目標である3~5語文の表現力をつける上で有効であった。
○ 発声などの身体面においての支援は、自立活動での指導と並行させながら、C児の特性を理解
しつつ、ニーズに沿った内容となるよう考える必要がある。
2 実践の成果と課題
(1)指導の成果
○ 個別の教育支援計画から個別の指導計画さらに、個別の評価表を作成し授業を行うことは、児
童理解を具体的な支援につなげる道筋であることが明らかになった。
○ 個別の指導計画を作成するにあたり、具体的な指導内容・場・支援者を細やかに考えることが
学校全体で児童を育てることになることがわかった。
○ C児の支援を考える上で個別の評価表を考え、次時に修正しながら授業を行ってきたことが、
C児に表現力をつける上で有効であった。
【資料3-5
6月の体験文】
【資料3-6
12月の体験文】
(2)指導の課題
○ 教育支援計画、指導計画を見直し、具体的な支援を日々考えることが必要である。
○ 教育支援計画では、低学年ということもあり、長期の目標が具体的に設定できていないことか
ら、今後とも、保護者と具体的な話し合いを重ねることが必要である。
-特支 24-
【実践事例4】
小学校 難聴特別支援学級における実践
生活単元学習 単元「電車に乗って社会見学に出かけよう」
久留米市立大善寺小学校 教諭
今村
太一
実践の概要
難聴特別支援学級に在籍するD児に対して、行動観察などを通して状況を理解しつつ、教育
的ニーズの把握に努めてきた。さらに、個別の評価表を作成し、授業場面においてもニーズを
明らかにし、今身に付けさせなければならない力を明らかにしながら支援を行った。
本実践は、生活単元学習の中で電車・バスを利用した社会見学を設定し、自分で見学の計画
を立て、「がんばった」「自分でできた」という達成感をもたせ、学習や生活への意欲を高める
ことをねらいとしている。将来の姿を考えながら、わからないことを自分でたずねたり、体験
を通して言葉と名前や使い方を結びつけたりすることができるように、写真やスライドを用い
た視覚的な支援を工夫した。また、見通しを持つことができるように繰り返し活動を位置づけ
たり、これまでに身に付けた時刻と時間やお金の学習などを活かす場面を取り入れながら支援
を行った。
キーワード
難聴特別支援学級、生活単元学習、視覚的な支援、個別の評価表
1 実践の実際と考察
(1)支援 1 について
① 個別の教育支援計画から個別の評価表まで
ア D児の状況
本学級、難聴特別支援学級に在籍しているD児の現在の状況や実態についてまとめると次
のようになる。聞こえにくさや様々な社会体験の不足から語彙が乏しく、書くことや計算に
対する抵抗があり、なかなか学習への意欲を持つことができなかった。しかし、こうすれば
できるとわかると自信を持って活動したり、集中して取り組んだりする姿をみることができ
るようになってきた。
【資料4-1 D児の状況】
現在の子どもの状況・実態
聞く
言語
数と計算
量と測定
ある程度の内容は聞き取ることができる。聞き取りができなかった時も「わかった」と言って、
そのままにしていることもある。
聞こえにくさや体験の不足から語彙が不足している。言葉と物の名前やその使い方が結びつい
ていないことがよくある。
進んで計算ドリル(1000 までのたし算・ひき算・九九)に取り組むことができる。1000 円までの
お金の計算はできる。
ある程度時刻を正しく読むことができるが、短針の見方が曖昧で1時間ずれることがある。
集団加・
相手の表情や気持ちを読みとったり、場の状況を考えたり、雰囲気を感じとって行動したりす
社会性
ることがまだ十分できない。
イ 個別の教育支援計画(主要課題と支援目標)
とりわけ現時点において支援が必要な主要課題と支援の目標を述べる。
○ 耳からの情報の不足から語彙数が少なく、言葉とそれを表す物や事柄が結びつかず、助詞が抜
けたり言葉を混同したりすることがある。そのため、なかなか学習への意欲を持つことができない。
そこで、見学・体験活動など具体的な活動場面を多く設定し、言葉と物・事柄等をマッチングさせ
-特支 25-
言葉を実感させることで語彙数を増やし、言葉への抵抗感を少なくしながら学習への意欲を持つこと
ができるようにする。
○ 友だちのことが大好きで自分から関わろうとするが、相手の気持ちを読みとって行動することが苦
手であるので、時々トラブルが起こる。また、仲良くしたいと思っていても素直に自分の思いを伝えるこ
とができない。
そこで、具体的な場面を捉えて、相手の思いを想像させたり、自分の思いを伝える方法を教えたりす
ることで、友だちとの人間関係を改善することができるようにする。
○ 集団生活を送る中で、場の状況を考えたり雰囲気を感じとって行動することが不十分である。
そこで、D児が集団活動の見通しを持てるように、時間の経過に従って日程・活動のめあて・活動の
具体的内容等を知らせ、D児がその時々の行動の仕方を理解して参加できるように事前指導を丁寧
に行うこと、また、活動後に活動の記録を基にD児に自分の活動を振り替えさせることで、集団生活に
おける規律やルールを身に付けることができるようにする。
ウ 個別の指導計画
A 長期目標(1年間を目途として)
D児の実態に対して、自分ができるようになったことには自信を持って取り組むことがで
きることやパターン化すると見通しをもてるよさをいかしながら支援できるように、1年間
を目途に次の長期目標を設定した。
1 普段の家庭生活では必要感を感じないが、社会生活では必要な言葉を生活単元学習などの体
験を通した学習を通して獲得させることで、言葉に対する抵抗感を少なくし、学習への意欲を持つこ
とができるようにする。
2 友だちとの関わり方を「自分の心の中にある気持ちを伝えたい時」「自分がいやだったことを伝え
る時」などいくつかの型にマニュアル化し、マニュアルに従って行動させることで、自分の気持ちを上
手に伝えることができるようにする。
3 行事や集団活動のねらいと活動内容等を時間の経過に従って教え、事前に実際の行動を想像さ
せたり練習させることで見通しを持たせ、進んで集団活動に参加できるようにする。
以上の長期目標を受けて、生活単元学習においては、「社会見学や修学旅行などの行事や
生活を通して語彙数を増やすこと、活動の見通しを持って進んで活動することなどを丁寧に
指導することで、困った場面に出会った時、5回に1回は自分で考えて行動することができ
るようにする。」を目標として指導を行った。
B 生活単元学習「電車バスを利用した社会見学にでかけよう」の単元指導計画
a 単元の目標
目
標
○ より楽しい見学にしようと進んで活動に取り組み、「がんばった」「自分でできた」と
実感し、日々の学習や生活への意欲を高めることができる。
○ しおりづくりを通して時刻表や運賃表の見方がわかり、電車・バスや施設の使い方や乗
り継ぎの手順について考え、見通しを持つことができる。
○ 必要なことを資料やインターネットを使って調べ、写真をはったり、絵や文を書いたり
しながら、スケジュール表や見学マップにまとめ、電車・バスや公共施設を利用することが
できる。
○ 社会見学を通して語彙数を増やし、電車・バスの利用の仕方や施設の使い方について理
解し、公共のルールが分かる。
b 単元の指導計画
本単元では、乗り物を利用した社会見学をする活動を通して、主体的に聞く・話す活動や
-特支 26-
時刻と時間や計算の生活場面での活用を積極的にねらったものである。とくに、自らの力で
見学の計画を立てることで、「がんばった」「自分でできた」という達成感を味わわせたい。
そのために、まず、「つかむ段階」では、スライドをもとに社会見学のめあてをつかませ、
しおりのひな型を提示することで、活動への意欲を高める。次に「つくる段階」では、施設
への行き方や手順を確かめさせるために、しおりづくりに取り組ませ、時刻と時間やお金の
学習について、社会見学の具体的な場面とつないで考えさせ、見通しを持たせる。さらに「ふ
かめる段階」では、計画をもとに、自分で電車やバスを乗り継いで出かけ、友だちと相談し
たりたずねたりしながら見学を行う。最後に、「いかす段階」では、社会見学を振り返り、
しおりのまとめを書かせる。文型を提示することで、それらを活用しながら定着を図り、今
後の活動への見通しを持たせ、意欲を高める。
C 目標の実現に向けた支援
社会見学で電車やバスの乗り継ぎの時に、しおりのスケジュールや運賃表を見たり、友だち
と相談をしたり、駅員さんに確かめたりして、自分で乗ることができるようにするために、し
おりの作成に取り組ませ、これまで身に付けた学習を実際の場面で活用することができるよ
うにする。
D 個別の評価表
本時は、社会見学のしおりづくりを通して、活動の流れをつかみ、見通しを持たせるため
に、見学マップや時刻表の資料をもとにして、活動に必要なものについて調べる活動を設定
した。本時の個別の評価表は次頁に示したとおりである。
② 考 察
○ 聞こえにくさや語彙の習得の必要性など、本人の状況や本人や保護者の願いから、将来の
姿を考えながら系統的に考えていくことで、授業の具体的な場面におけるニーズまで明確にな
った。わからないことを自分でたずね、体験を通して言葉と名前や使い方を結びつけたり、こ
れまでに身に付けた時刻と時間やお金の学習などを生かしたりすることができるように、支援
方針や授業の中で身に付けさせるべき力をより具体化することができた。
○ 「9:00の」ことを「8:60」と答えたように、授業場面で支援がうまくいかなかっ
たところを詳細に検討していくことにより、D児の時刻と時間に関する実態把握が曖昧であっ
たところが明らかになり、教育支援計画や個別の指導計画の見直しや充実のきっかけとなった。
○ 本時の活動では、
「見学のスケジュールをつくること」を主眼としたが、D児のニーズと照
らして考えると、
「電車、バスに乗る時刻や見学時間を調べよう」というように、内容をより具
体化していく必要があった。また、
「スライドを見ながら、電車やバスの乗り方や自動改札機な
どの名前や使い方を言うことができる。(10 個のうち7個)」というように、達成できたかど
うかを明確に判断できるような各学習段階の評価項目の設定が必要である。
(2)支援2について
以下は、個別の評価表と改善点である。授業の主な学習活動の場面で、対象児がどのような
ことができるようにしたいかを、
「めざす子どもの姿」にまとめた。そして、その状況が授業の
中で現れるようにするための支援を「具体的支援」にまとめた。さらに、実際の授業の中の対
象児の様子を「対象児の状況」に整理し、その上で、
「めざす子どもの姿」が見られたかどうか
を、
「A できた」
「B だいたいできた」
「Cできなかった」の3レベルで評価した。B、Cの
評価の目標については、支援の改善点についても述べている。
① 本時指導の実際と考察
(評価基準
A:できた
-特支 27-
B:大体できた
C:できなかった)
段
階
個 別 の 評 価 表
めざす子どもの姿
つ
1.スライドをもとに前
電車やバスの乗り方
事前学習で用いたス
スライドをじっと見
か
時学習を振り返り、めあ
や自動改札機などの
ライドを繰り返し活
て、つぶやく。スライ
む
てをつかむ。
名前や使い方を言う
用し、絵や文字で確か
・施設までの行き方
ことができる。(10
めさせる。
・電車バス利用の仕方
個のうち7個)
【改善点】
具体的支援
評
主な学習活動
対象児の状況
価
A
ドに合わせて一緒に
繰り返しながら読ん
でいる。
「時刻表をもとに、
時刻の欄だけをあけ
教師のつくっためあ
見学のスケジュール
たしおりのひな型を
てを読む。
をつくろう」という
提示することで、スケ
めあてを自分でつか
ジュールづくりの必
むことができる。
要感を持たせる。
B
具体的な作り方をつかむことができるように、ためしに時刻を書き込んでみる試しの活
動を取り入れたり、「電車、バスに乗る時刻や見学時間をしらべよう」とめあてをより具体化する。
○学習 の進 め 方につい
学習の進め方につい
活動内容や順序を示
て話し合う。
て教師と話し合い、
し、見通しを持たせ
自分で決めることが
る。
「自分でするのはむ
C
できる。
【改善点】
ずかしい。」と答え、
教師と一緒にめあて
をつかむ。
前の時間の進め方を提示していくことや基本的な学習の進め方を掲示し、それを見なが
ら自己決定できるような支援が必要であったと考える。
さ
2.時刻表の使い方を知
大善寺駅への到着時
移動時間の目安をマ
駅までの到着時刻
ぐ
り、教師と一緒に見学マ
刻を考え、見学マッ
ップの中に示してお
8:60 と書く。時計を使
る
ップをつくる。
プに書き込むことが
く。
B
できる。
って教師と一緒に確
かめ、9:00 と書き直
す。
【改善点】
時計を学校の出発時刻である 8:50 に合わせてから、10 分間短針を進めて 9:00 になった
ことを目で見て確認させる。
時刻表を読み、自分
電車とバスの色分け
「ここ。」といって時
が乗る電車の時刻を
した時刻表を提示し、
刻表を指さす。9 時 9
見学マップに書き込
「何時の電車に乗る
むことができる。
ことができるか。」問
A
分と答え、書き込む。
いかける。
時刻表を読み、電
出発時刻と到着時刻
「9 時 20 分。」と答え、
車・バスの目的地へ
の意味をおさえ、時刻
書き込む。どうしてわ
の到着時刻を見学マ
表の読み方を教え、
ップに書き込むこと
る。
A
かったか問いかける
と、時刻表の到着時刻
ができる。
の欄を指さす。
○西鉄 久留 米 駅での見
西鉄久留米駅の見学
「20 分たったら何分
学時間を考える。
時間(20 分)を考え、 ですか。」と問いかけ、
見学の終わりの時刻
時計を二つ使っては
を見学マップに書き
じまりと終わりの時
込むことができる。
刻を示し考えさせる。
-特支 28-
時計は使わずに「9 時
40 分です。」と答え、
A
書き込む。
ふ
3.調 べた こ とをもと
青少年科学館の見学
か
に、青少年科学館での見
時間(1時間20分) っ て は じ ま り と 終 わ
め
学時間を考える。
を考え、見学の終わ
りの時刻を示し考え
りの時刻を見学マッ
させる。
る
時計の模型を二つ使
1:5 と 書 い た 後 1:25
と自分で書き直す。
B
プに書き込むことが
できる。
【改善点】
時計を使って1周で 60 分であることを、長針を動かしながら確認する。そしてさらに、
あと 20 分を5分ごとに刻みながら動かしながら確かめさせ、11:25 と書き込ませる。
【改善点】
帰りのスケジュール
「帰りは、何時のバス
を自分で考え、書き
に乗ればいいか。」発
込むことができる。
問する。
自分でバスの時刻表
C
を取り出し、ランダム
に答える。
これ、これと時刻表を指しながら考えていなかったのでそれを繰り返すのでなく、時刻
表の見方をもう一度確かめ、時計を使って教師と一緒に確認する。
ふ
4.本 時学 習 を振り返
準備するものについ
しおりの準備のペー
「時計、財布、水筒、
り
り、学習したことや次に
て、腕時計やお金な
ジを提示し、「必要な
帽子、タオル。」と見
か
楽しみなこと、がんばり
ど3つ答えることが
ものは何か。」発問す
え
たいことについて話し、 できる。
る
見通しを持つ。
る。
A
学に必要な物を自分
で答える。
ア 教材・教具の工夫について
○ 見学先の場面を写真で見て確認することで、駅や乗り場でのイメージを明確にすることが
でき、視覚的支援は有効であった。また、見学を通して獲得させたい言葉(ホーム、改札口等)
を文字で表示しながら目で見て確認させることができた。(資料D-1①、②)
○ 見学マップは、学校からの場所の移動を空間的にとらえたり順序を確認したりする上では
有効であった。(資料D-2)
イ 発問・声かけの工夫について
○ 一つの発問に対して、十分思考したり、活動したりする事ができるように心がけた。その
あと、できなかったときに具体的な支援を行ったことはよかった。
ウ 活動の工夫について
○ 教師と一緒に活動する→やり方をつかむ→自分でやってみるという活動を位置づけ、繰り
返しながら自分の力でできるような活動づくりを工夫したが、内容を絞り込んだために時刻と
時間の内容が中心になり、集中力の持続が難しかった。D児の実態からすると、1時間でスケ
ジュールの行き帰りを仕上げるのでなく、数時間かけて少しずつ行うことで、もう少し意欲も
高まったのではないかと考える。
②考 察
○ スライド用いて繰り返すことにより、「券売機」「改札口」など発語にも意欲的に取り組む
ことができた。とくに、「運賃(うんちん)」の「ん」の音がやはり聞き取りにくいようで、難
しかった。聞き取りにくいことも含めて、繰り返し聞く・話すことを繰り返すことで定着を図
ることが必要である。
○ 時計を使うと何とか時刻を求めることができるが、1時間を越えると難しい実態が明らか
になった。1時間=60 分であることや午後1時=13時のように生活の中で関連を図りながら
指導に当たる必要がある。(資料5-3)
-特支 29-
【資料5-1① 写真と文字を確認させるスライド資料】
【資料5-1② 写真と文字を確認させるスライド】
切符売り場
切符売り場
運賃表
時刻表
うんちんひょう
じこくひょう
1.時刻表(じこくひょう)を見て乗る電車を
決める。
2.運賃表(うんちんひょう)を見て、運賃を
調べる。
3.お金をいれて、券売機(けんばいき)で
切符を買う。
券売機
けんばいき
【資料5-2 見学マップ】
⑤青少年科学館
【資料5-3 時計を使った時刻の確かめ】
④バス乗り場
③西鉄久留米駅
( 5 )分
バス乗り場発
バスの発車時刻
:
:
:
( 11 )分
移動にかかる
時間
①大善寺小学校
(5)分
②大善寺駅
( 10 )分
大善寺駅発
電車の発車時刻
8:50
:
:
社会見学マップ(行き)
2 実践の成果と課題
(1)指導の成果
○ 「教育支援計画→個別の指導計画→個別の評価表」の作成を通して、本時でのニーズを具
体化していくことで、今指導すべき内容が明確になってきた。さらに、個別の評価表で、主眼
に対して段階毎に細やかに見ていくことで、どの支援が有効であったか、めざす姿や実態把握
が適切にできていたかが明らかになってきた。
○ 見学を通して学習を実際に生活に生かす場や自分でできたと実感できる体験ができたこと
はその後の学習や活動への意欲につながった。支援の在り方や方向性が見えてきた。
(2)指導の課題
○ 実態把握の不十分さが明らかになり、実態とともに支援目標、内容を検討し、個別の指導
計画と支援計画を見直しながら支援を行っていく必要がある。
○ 体験を通して、D児の語彙をさらに増やしていく指導を繰り返していく必要がある。
-特支 30-
【実践事例5】
中学校
数学科
知的障害特別支援学級における実践
単元「おつりのある買い物をしよう」
久留米市立櫛原中学校
教諭
大熊
敬子
実践の概要
本学級在籍のE児は中度の知的障害があり、具体物を使わずに、想定して処理することが難
しく、また、学習で身につけたことの応用も困難である。一方、生活上必要なことには関心を
持ち、繰り返しの中で覚えることができる。E児は本校特別支援学級在籍3年目であり、入学時
より個別の教育支援計画を作成した。目標の1つとして、地域の店で買い物できるようになる
ことをあげ、必要な指導内容を選定して取り組んできた。本実践では、位取りを理解させるた
めの特製のコインケースを工夫した。それを使って500円以内で硬貨を組み合わせて支払いが
できるように金銭処理に習熟させた。その結果E児はおつりのある買物ができるようになって
きた。
キーワード
知的障害特別支援学級、数学科「金銭処理」、授業の構造化、個別の評価表
1 実践の実際と考察
(1)支援1について
① 個別の教育支援計画から個別の評価表まで
ア
E 児の状況
E児はTVのお笑い番組が大好きな3年生男児である。心理検査ではIQに比べて社会生活
能力が高い。E児は家庭の取り組みなどで基本的生活習慣が身に付いており社会性もある。学
習に関しては小学校特別支援学級で指導を受ける中で基礎となる力を身に付けてきている。中
学校特別支援学級ではその力を生活の自立度を高める学習へつなげてほしいという願いがある。
本単元に関わる部分でのE児の状況・実態は資料5-1の通りである。
【資料5-1 E児の状況】
現在の子どもの状況・実態(抜粋)
話す
吃音があり、言葉が聞き取りにくい。慣れている相手にはよく話す。
読む
1文字の拾い読みである。文字を読みたがらない。絵本をはじめとして本を読みたがらない。
書く
ひらがな、カタカナ、小1程度の漢字、ローマ字が書ける。
数と計
2桁の数字の読み書きは確実だが、3桁の数字の読み書きはあいまいである。100 までの数で
算
順序や大小関係が分かるが 1000 までの数ではあいまいである。繰り上がりのない1桁の足し算、
繰り下がりのない1桁の引き算ができる。2桁や3桁の計算はできない。
実務
金種の違いが分かる。ちょうどの金額を取り出すことが一人でできる。5円や 50 円を組み合
(金銭
わせた支払いはできない。支払うべき金額にぴったりの金種がないときにはレジの前で立ち往生
処理)
してしまう。所持金が 48 円であっても「お金があるからCDが借りられないよ」というなど所
持金と買物する金額との関係が十分ではない。
対人・
コミュ
基本的に明るく人懐っこいが、慣れていない場所や人に対しては物怖じしてしまう。吃音があ
るため話している内容が聞き取りにくい。納得できない場面では次の行動に移ることができない。
-特支 31-
イ
個別の教育支援計画(主要課題と支援目標)
E児が中学1年のころ、母親がE児に自販機でジュースを買ってくるように頼み500円玉を
渡したが、E児はおつりを取らずに帰ってきたことがあった。
「一人で買い物できるようになっ
てほしい」というのが母親の大きな願いの一つであった。E児にとっても買物の自立度が高く
なればそれだけ生活を豊かにすることができる。そのため現時点において指導が必要な主要課
題と支援の目標を次の三つとした。
【資料5-2 主要課題と支援の目標】
主
要
課
題
支
援
の
目
標
財布に自分が分かる金種でち
1000円や500円、100円、50円、10円、1円を実際に使ってくり返し両替をさせること
ょうどの金額がなければ支払い
で、1000円までの等価関係が分かり、おつりを想定して金額を取り出すことができ
ができない。
るようにする。
自分から買物に行こうとしない。
学校で買物の実習をしたり、家庭での買物体験を増やしたりすることで、買物への
抵抗をなくし、進んで買物に行こうとする意欲を持たせるようにする。
E児が自力で買物ができる店が
日頃買物をしない店で買物体験をさせたり、1000円の等価関係を身に付けさせ、
限られている。地域のより多くの
買う物の値段に応じてお釣りのないお金の出し方やおつりを想定してのおつりのあ
店で買物ができるようにしたい。
るお金の出し方を確実できるように練習したりすることで、買物への自信をもたせ、
地域の中で自力で買物ができる店を増やすことができるようにする。
ウ
A
個別の指導計画
長期目標(1 年間を目途として)
【資料5-3 長期目標】
500円以内のお金の両替と買物練習をくり返しさせることで、
1
1・5・10・50・100・500円硬貨を使って支払いができるようにする。
2
レンタルショップでE児の好きなCDを定期的に借りることができるようにする。
3
学校や自宅から10分程度で行ける店での買物に慣れることができる。
以上の長期目標を受けて、盲学校,聾学校及び養護学校学習指導要領の中学部[数学]の内
容(4)「金銭の使い方に慣れる。」において、「実際のお金を使って500円までのお金の両替
と買物練習でお金の出し入れをくり返すことで、硬貨の等価関係を理解し、購入金額以上の金
額を支払う概算ができる」ことを目標として指導を行った。
B 数学科第 3 学年単元「おつりのある買い物をしよう」個別の指導計画
【資料5-3 個別の指導計画(30時間)】
次 時
1
一
(☆関心意欲態度★見方考え方♢表現処理♦知識理解)
E 児 個 別 の 目 標
♢
E 児 個 別 の 支 援
○教師の準備した値札を読んでいく。「一、十の位
3桁の値札が読める。
が空位でない値札」→「一の位が空位の値札」→「十
②
の位が空位の値札」○空位は「とんで」と読む。
二
2
♢
②
語)で書ける(置き換えられる)。
表に百の位から順序よく聞き取って記入させる。
3
♢
○両替について説明し、実物のお金を使って両替を
⑤
5円硬貨= 1円硬貨5枚
耳で聞いた(音声言語)の3桁の値段を数字(文字言
硬貨の等価関係がわかり、両替ができる。
500円硬貨= 100円硬貨
-特支 32-
○教師が伝えた値段を次々に値札に書く。○位取り
してみせ、させてみて、慣れるまでくり返す。
5枚
10円硬貨=1円硬貨10枚
5円硬貨2枚
○両替ヒントカードを使う。
⑩
5円硬貨1枚と1円硬貨5枚
⑩
⑩
⑩
⑩
50
50円硬貨=10円硬貨5枚
表
裏
100円硬貨=10円硬貨10枚
50円硬貨1枚と10円硬貨5枚
4
③
三
♢
♢
50円硬貨2枚
6~9 円が含まれるとき=5 円硬貨が使用できる。
○商品カードを読んで支払いをさせる。
(5 円~9 円
60~90 円が含まれるとき=50 円硬貨が使用できる。
の商品→50 円~90 円の商品→55 円~99 円の商品)
○ 財布に入れるお金は5円硬貨や50円硬貨を使
(行動観察)
う支払いができるように調整。
5
♢
④
(最終的には 499 円=100 円硬貨4枚+50 円硬貨 1 枚+
○商品カードの金額を1種類の硬貨で支払えるも
10 円硬貨 4 枚+5 円硬貨 1 枚+1 円硬貨 4 枚が選び出せ
のから5種類の硬貨を組み合わせるものまで作っ
る。)
ておいて習熟させる。
★ お金が足りないときは買えないことが判断できる
○所持金と商品カードの金額を比較して買えるか
6
○商品カードを差し出し支払いをさせる。
硬貨 1 種類の支払いから 5 種類の支払いまでできる。
③
7
四
本 時( 5 / 5 )
⑤
五
買えないかを考えさせる
♢
○所持金と買い物との関係は、ちょうどの金額で支
一の位が足りないときは十の位から十の位が足りな
いときは百の位から硬貨を選び出して支払い、おつりを
払えない関係にしておき、どのお金を使うのかを考
もらうことができる。
えさせるようにする。
♢
○位取り表と連動したコインケースを使わせる。○
5 種類の硬貨を組み合わせてちょうどの支払いができ
る。
買い物するお店や商品には変化をつけあきさせな
★お金が足りないとき買えないことが判断できる
いようにする。
8
♢生活圏のお店を利用して500円以内で買物をし、支払
○500円硬貨1枚の財布や100円硬貨5枚の
⑥
いをする。(パン屋さん、コンビになど)
財布などおつりをもらうような金種を持たせる。
○位取り表と連動したコインケースを使わせる。
C
個別の評価表
資料5-3に示した単元計画で、本時は第四次の第五時にあたる。本時の指導にあたっては
個別の評価表を作成した。本時指導の実際は支援2で述べる。
② 考察
支援1ではE児に必要性の高い教育内容を次のように明らかにしていくことができた。まず
支援計画からは「地域のお店で買い物ができる」こと。指導計画ではそのため3桁の数字の読
み書きに始まる買い物ができるための指導内容のピックアップ。本時における個別の評価表に
おいては位取りできるコインケースを使った買い物への習熟。このように、将来を見通した支
援計画から年間を見通した指導計画、1時間レベルに落として考えた個別の評価表の活用によっ
て一貫性があり絞り込んだ教育的ニーズの把握とそれに応じた支援が図られたと言える。
(2)支援2について
①
個別の評価表を活用した本時指導の実際と考察
【資料5-4 個別の評価表】(評価基準
段
階
個
主な学習活動
めざす子どもの姿
1.あいさつ。学習
A:できた
休み時間と授業時
B:大体できた
別
の
評
価
C:できなかった)
表
具 体 的 支 援
評価
対象児の状況
E児が気に入っているあいさつを言
A
「お互いに礼」と言う
-特支 33-
プリントに日 付 と名
間のけじめ。プリント
わせている。いつも日付と名前から
前を記入。
類に記名。
書くように習慣づけている。
A
2.前時までの復習。 重 要 語 句 であ る 「 し ょ 前時の買い物学習の様子をビデオ
言葉を覚えている。
「買い物に行く時いるものは?」
A
3.本時の流れとめあ 活動への見通しと
1時間の見通しをホワイトボードに
てをつかむ。
板書し構造化しておく。E児の身近
欲を持つ。
めあて「おつかいを
な人たちからのおつかいの手紙が
しよう」
あることを知らせる。
4.吉田先生のお
コインケースの中か
つかいをする。
ら硬貨を選び出し5
サンドイッチとホット
円や50円も使って
ドッグで499円の支
ちょうどの支払いが
払いをする。
できる。
「ほう」と言う。
A
迷わずにさっとで
コインケースの所持金は以下の通
きる。
りにしておく。
100・100・100・100
「おつり」と即答
。
「多く払った時もらうものは?」
入
筆を置いた。
「しょじきん」
じきん」「おつり」という で見せながら次の発問をする。
導
35 秒で書き終え鉛
A
50・10・10・10・10・10
5・1・1・1・1
5.田代先生のお
使いをする。お好
み焼きで 180 円の
100・100を選び出し
コインケースの所持金
100・100
ておつりをもらう。
6.丸野先生のお
使いをする。お好
み焼きで 180 円の
「足りません」「買えま
せん」と言える。
100
次に100・50円出す
50・10
第1ヒントに対し
1
「足りません」と言えなかったので第
<場の図>
おつかいの済んだ手紙をはる。
1ヒントとして紙に180円と書き、コ
インを置いて払えるところを消させ
③
ホームベース
手紙、
コ ン ビニ
り、学習プリント記入
①
スーパー
コインケースの受け取
開
きる。
初め100・60円出し
コインケースの所持金
支払い。
展
A
50・10・10
支払いをする。
黒板
迷わずにさっとで
②
パン屋さん
7.校長先生のお
使いをする。お好
100・100
8
0
50円で消せますか
B
に対しては消せま
る。
せんという。第2ヒ
第2ヒントとして持っているコ
ントに対して「おつ
インで消せないときは何という
りを下さい」と言う。
のだったかと言う。
第3ヒントを聞く
第3ヒントとして「足りません
と即 座 に「足りませ
」の語頭である「た」を言う。
ん」と言う。
【改善点】「足りません」も重要語句。確実な押さえが必要。
または
コインケースの所持金100・100
初めに50・50と100・
100・50・50を選び
50・50 あいまいだったのでヒントと
100を出し50を引っ
出しておつりをも
して紙に180円と書きコインを置い
らう。
て払えるところを消させる。
み焼きで 180 円の
支払い。
B
込め、また50を出
す。ヒントの後に100
・100とできる。
-特支 34-
【改善点】金種に惑わされず百の位から出すことに習熟させる。
8.お母さんのお
使いをする。豚肉
100・100・100・5
コインケースの所持金
0を選び出す。
100・100・100・100
レジの表 示を注視 し
て即座に 100・100・1
と玉ねぎで 345 円
B
50・10
の支払い。
1・1・1・1・1・1
00・100・1・1・1・1・1
を選び出す
【改善点】最少のおつりをねらって指導してきたが、そこまで
ねらう必要はないのかもしれない。ねらいの見直しが必要。
ま
と
9.本時の自己評
E児の意識の中
価記入。
におつりのある買
め
学習プリントに記入させる。
今日のがんばり点
評価項目は以下の通り
数(100)点
い物への自信が生
・成功したおつかい(
まれる。
・難しかったおつかい
)回
B
評価項目すべては
書けなかった。
・今日のがんばり点数
・感想
【改善点】お使いに付随する活動が多すぎ、肝心の金銭処理活
動の回数が予定の半分しかできなかった。活動の精選必要。
ア
教材・教具の工夫について
【資料5-5 教材の工夫例】
○
位取りが一目
○
身近な人達
○
交流学級の
○
レシートや
○
学習プリント
で分かるコインケ
が書いたお使い
友だちが準備し
お金受けは買い
は支払いが、「ちょ
ースを財布とした
の手紙は活動へ
た商品カードは
物の雰囲気を出
うど・おつり・たり
のは金銭処理に有
の意欲を持つ上
活動への意欲を
すのに有効だっ
ない」のどれだった
効だった。
で有効だった。
持つ上で有効だ
た。
かを確認するため
った。
に有効だった。
【写真5-1 位取りが
【写真5-2 お使
【写真5-3 レジと
【写真5-4 レシ
【写真5-5 本時の
できるコインケース】
いの手紙】
商品カード】
ートとお金受け】
学習プリント】
イ
発問・声かけの工夫について
○
言葉が出にくい時は単語の最初の音を言うようにしたことは吃音を防ぐのに有効であった。
○
10円が10枚で100円のような等価関係をとらえるためには「つみき」という声かけでコイン
を積み上げさせる手だてが有効だった。
ウ
活動の工夫について
○
買物活動において所持金とお使いの合計金額とをあらかじめ調整しておいたのは、ちょう
-特支 35-
どの支払い・おつりのある支払い・足りないのすべての場面に出会うために有効だった。
○
活動内容で場所を分け、ホームベース(お使いの手紙を読む。コインケースを受け取る。
所持金を数える。残金を数える。学習プリントに記入する。)お店、黒板(お使いが済んだら、
買った商品カードを封筒に入れ、お使いの手紙をはっていく。)の3カ所に場を構造化したこと
はE児が学習を混乱せず進めるために有効だった。
② 考察
本時の学習を通してE児には買物の自立という目標へ近づく姿が見えた。3桁の足し算引き
算ができないE児であっても位取りができれば3桁の金額に合わせて硬貨を選び出したり3桁
の所持金を数えたりすることはでき、そのため準備したコインケースは位取りが一目で見て取
れるものだったため有効な支援アイテムとなった。
一方、数の大小の理解ができているE児ならばすぐにできると思っていた「足りない」こと
への理解が不十分だった。E児にとって「足りない」ことの理解は意外に難しいもので今後指
導が必要な指導内容だということも見えてきた。今後の指導では、
「足りない」を重要語句に追
加して押さえることが必要である。そのため実際に硬貨を並べて比較させたり、位取り表上で
数字を比較させたりして「足りない」ことを理解させなければならない。
そして、もうひとつ、ある程度できるようになったおつりのある買物で、どこまでおつりの
金額をねらうべきかも考えなければならない。
2 実践の成果と課題
(1)指導の成果
○
支援計画―指導計画―個別の評価表という流れの中で支援内容が精選され、支援の一貫性
が図られたことによって目標達成に近づいた。例えば、E児の将来像の一つ「地域のお店で買
い物ができるようになる」を見据えて、そのために必要な支援内容が「おつりのある買い物に
必要なスキルの指導」のようにしぼられ、本時は「十の位が足りないときは百の位から一つ多
く出す」などのより具体的なスキルの指導になり、生徒は着実に力を伸ばしていった。
○
個別の評価表でE児の状況から達成度を評価することで評価B以下の場合の支援方法の改
善点が明確になった。例えば「おつりのある買物で最少額のおつりを出せるようになるまで指
導すべきか」などである。
○
昨年度の個別の教育支援計画を改善した様式に加えて個別の指導計画の様式を提案できた
ことでこれまで任意の形式であり、ともすればわかりづらかった児童生徒の状況がわかりやす
くなった。また、全市的に特別支援教育を進めていく上で土台となる情報共有の形ができた。
(2)指導の課題
○
支援計画、指導計画を支援や指導に生かしていく個人カルテの視点からとらえた場合、今
後在籍校内での職員間はもちろんのこと小中連携・中高連携を通してその情報の共有を図って
いく必要がある。当該児童生徒に関わる教師の連絡会において支援計画、指導計画の存在は必
須である。
○
支援計画、指導計画、個別の評価表を実効あるものにするためには、事務作業の効率化を
図る必要があり、指導要録や通知票、補助簿等と一体化した形への改善を進めるべきである。
-特支 36-
【実践事例6】
中学校
社会科
情緒障害特別支援学級における実践
単元「わたしたちの生活と経済(習熟)」
久留米市立明星中学校
教諭
御厨
賢一
実践の概要
本学級在籍のF児は、自閉症と幼年期に診断されており、
「集団の指導では、集中して話が聞
けない」「概念とくに抽象的なことは理解しにくい」「複雑なことばや、一気に多くのことを話
しても理解が難しい」などの課題があり、行動観察などを通してF児の状況を理解しつつ、教
育的ニーズの把握とそのニーズに応じた支援に努めてきた。これらの課題等を踏まえつつも、
本年度は特に当面の目標である高校入試に必要な学力をつけることが緊急の課題である。
本実践は、そのニーズを踏まえた社会科「わたしたちの生活と経済」の学習内容の習熟のた
めの授業である。学習プリント「わたしたちの生活と経済
発展」を使って、繰り返し知識を
定着させるための3時間の取り組みである。
取り組みに当たっては、
「個別の評価表」の作成を通して、活動の工夫、発問・声かけの工夫、
教材・教具の工夫を行っていった。その結果、高い興味・関心をもって授業に臨み、公民的分
野の重要語句を記憶するにかかった時間は徐々に短くなり、また、集中して課題に取り組むこ
とができた。
キーワード
1
中学校情緒障害特別支援学級、社会科学習、視覚的教材の開発、個別の評価表
実践の実際と考察
(1)支援1について
①
個別の教育支援計画から個別の評価表まで
ア
F児の状況
F児は、大好きな電車やTV番組などについては内容も大変よく覚えており、高い関心を示
す。しかし、抽象的な概念や内容及び長文の理解等には課題がある。F児の状況を、個別の教
育支援計画から抜粋し、聞く・話す・読む・書く・集団生活の5項目で資料6-1のようにま
とめた。
【資料6-1 F児の状況】
現 在 の 子 ど も の 状 況・実 態
○
聞く
集団の指導では、集中して話が聞けない。複雑な言葉や一気に多くのことを
話しても理解が難しい。
○
話す
興味のあることについては細かに話すが、退陣関係を築く上での世間話が難
しい。(◎話題を持ちかける。◎家庭で確認してきた連絡や伝える内容をきち
んと伝えることができる。◎自然な話の終わり方ができる。など)
○
相手の気持ちを推し量ることが難しく、悪気はないのだが思ったままを口に
してしまう。
読む
○
親しみを持っている友達には積極的に話しかけるが、一方的に同じことを繰
り返してしまうので、トラブルが多い。
書く
集団生活
イ
○
音読は流暢であるが、理解が難しい。
○
作文では1~2語文が作れる。
○
漢字は同学年程度の力がある。
個別の教育支援計画(主要課題と支援目標)
とりわけ現時点において、指導が必要な主要課題と支援の目標は次の通りである。
-特支 37-
○
集団での指導時に集中して話を聞くことが難しい。
そこで、全体指導の中で話される話を1文ずつに分解し、1文ごとにF児が理解したかどうかを確かめ
ながら順に短い文に直して簡潔に話すことで、話しに注目させて内容を理解できるようにし、集中して
話が聞けるようにする。
○
高校進学に向けて、入学試験に対応できる学力の育成と対話力の育成が緊急の課題である。
そこで、F児が興味・関心をもっているパソコンを活用した授業づくりを行ったり、面談の練習を繰り返
し行うことで、入学試験に必要な知識と対話力を身に付けることができるようにする。
○ 親しみを持っている友達や興味・関心のあることに対しては、思ったままを一方的に話しかけるので
友達とのトラブルが多い。対人関係を築く上で効果のある日常会話をすることが難しい。
そこで、世間話に必要な(話題の持ちかけ方、話す表情、話題の内容、話の終わり方)を具体的な場
面を捉えて教えることで、コミュニケーション力とTPOに合った行動がとれるようにする。
ウ
個別の指導計画
A
長期目標(1年間を目途として)
1年間を目途に、次の長期目標を設定した。
【資料6-2 F児の長期目標】
1
F児が興味・関心を持っているパソコンを活用したり、短く簡潔に説明したり指示を出
したりすることで、興味・関心がうすい内容であっても集中して授業に参加できるように
する。
2
入学試験面接で予想される質問に答える練習を繰り返し行うことや定期考査に出ると予
想される問題を繰り返し解かせることで、入学試験の当日の面接や筆記試験に緊張せずに
臨み、必要な点数を合格できるようにする。
3
友達との関係がなぜうまくいかなかったのかを考えさせ、正しい対応の仕方を教えるこ
とで、友達とのトラブルを3分の2位までに減らすことができるようにする。
以上の長期目標を受けて、社会科の単元「わたしたちの生活と経済(習熟)」において、
「①定
期試験に向けて、予想される問題とその解説をパソコンの画像を使ってF児に分かりやすく説
明することで、F児の記憶を確かなものにし、定期考査では30%から40%の点数がとれる
ようにする。②パソコンを活用した学習の工夫やテスト中の声かけを簡潔にすることで、F児
があくびや伸びをしないで学習に参加できるようにする。」ことを目標に指導を行った。
B
社会科3学年単元「わたしたちの
2,流通のしくみについて考えよう!
生活と経済(習熟)」の全体指導計画
(2)図中のア・イのうち、一般に価格が高いのはどちらですか。
1
円
問題がある。
“流通経路が合理化すること
イ
1個15円で
売ろう!
個
では、流通経路と商品の価格についての
トマト
単元「わたしたちの生活と経済(習熟)」
10
で価格が安くなる”この問題はF児にと
っても毎日の生活に密着した問題であり、
生活の維持・向上にとっては重要な問題
の一つである。F児の身近な経済活動で
ある消費を中心とした画像を織り込みな
1個15円で
売ろう!
がら深く印象づけていきたい。
(資料6-
1個25円で
売ろう!
トマト
3)また、2学期の短期目標「パソコン
1個20円で
売ろう!
個
を活用した授業を工夫することで、定期
1
円
10
考査では 30~40%の点数がとれるよう
にする」を達成するために第1次までは、
【資料6-3 「流通のしくみ」の画像】
-特支 38-
1個30円で
売ろう!
パソコンを使い問題を解いてから教科書を読む。そして、重要な箇所にアンダーラインを引き、
学習プリント(1枚目)に記入していく。第2次では、パソコンを使い問題を解いてから、教
科書を見ないで学習プリント(2枚目)を解き、パソコンを使い答え合わせをする。(正答率
50%)第3次では、パソコンを使い問題を解いてから学習プリント(3枚目)に取り組み、パ
ソコンを使い答え合わせをする。
C
本単元における個別の目標と支援
【資料6-4 単元におけるF児に対する目標と支援】
目
1
標
支
援
パソコンを使い、問題を解いてから教科書を読
む。そして、重要な箇所にアンダーラインを引き、
学習プリント(1枚目)に記入していく。
○
パソコンを約束通り正しく操作して学習に取
○
り組むことができる。(技能・表現)
○
前単元復習「政治の綜合
パソコンを使った学習時の約束を
確認する。
発展」の学習プリン
○
トを 80~100%正解できる。(知識・理解)
前単元番号で不正解だった問題に
取り組み、何度も繰り返して定着させ
る。
○ 「わたしたちの生活と経済
発展」の学習プリ
○
ントを、教科書を読み、答えを見つけ、重要な語
答えを見つけられないときは、問題
の内容が書かれた項や箇所を示す。
句はアンダーラインを引いたりして憶えようと
する。(思考・判断)
○
パソコンを利用して、楽しく集中して意欲的に
○
取り組むことができる。(関心・意欲・態度)
F児の好きなキャラクターを使っ
た画像を使い、集中力の低下を抑える
よう準備をする。
○
パソコンを利用して印象を深め、語彙を増やす
○
ことができる。(知識・理解)
F児の好きなキャラクターを使っ
た画像を使ったPCソフト教材を準
備をする。
2
パソコンを使い問題を解いてから、教科書を見
ないで学習プリント(2枚目)を解き、パソコン
を使い答え合わせをする。
○
自力で問題を導き出すことができる。(思考・
○
判断)
○「わたしたちの生活と経済
PC画像を思い出すようヒントを
出す。
発展」(2枚目)の
○
不正解だった問題に再度PCで取
学習プリントを 50%以上正解できる。
(知識・理
り組み、何度も繰り返して定着させ
解)
る。
3
パソコンを使い問題を解いてから学習プリン
ト(3枚目)に取り組み、パソコンを使い答え合
わせをする。
○「わたしたちの生活と経済
補充」(3枚目)の
学習プリントを 85~100%正解できる。
○
不正解だった問題に再度PCで取
り組み、何度も繰り返して定着させ
る。
D
個別の評価表
本時は「わたしたちの生活と経済
補充」の学習を、まずはパソコンを使い問題を解いてか
ら学習プリント(3枚目)に取り組み、答え合わせもパソコンを使って行う活動を設定した。
-特支 39-
主眼「パソコンや学習プリントを利用して印象を深め、語彙を増やすことができる。」「パソコ
ンを操作し、問題に取り組むことができる。」を達成させるために、F児の好きなキャラクター
に関連した画像を利用し、興味関心を継続させ内容を強く印象づけるために、パソコンを活用
して学習に取り組ませた。このことについて、具体的な内容を個別の評価表で示し、検証した。
②
○
考察
「個別の教育支援計画→個別の指導計画→単元計画→個別の評価表」の系統的な作成によ
り、F児の将来像達成のためには何が必要であるかを明確にすることができ、現時点での教育
的ニーズとそれに応じた支援を考える上で大変有効であった。
○
「個別の教育支援計画→個別の指導計画→単元計画→個別の評価表」の作成過程で、障害
に対する支援の在り方について、今までは苦手を改善する・克服するということにとらわれて
いたが、得意を生かすことが具体的な支援の際に生きてくるということが分かった。
(2)支援2について
①
個別の評価表を活用した本時指導の実際と考察
【資料6-5 個別の評価表と改善点】(A:できた
B:大体できた
C:できなかった)
個 別 の 評 価 表
段
主 な 活 動
階
めざす子どもの姿
つ
1
あいさつをする。
か
2
本時の確認。
む
3
目標の確認。
具体的支援
活動の確認を期
PCを使った学
待感を持った表情
習であることを知
で聞いている。
らせる。
目標の確認に意
前回の活動の良
欲が感じられる。
かった点を評価す
評
価
対象児の状況
疲れた表情。
B
(午前中テスト
受験)
無表情。
(午前
B
る。
中の疲れが感じ
られる)
【改善点】更に興味・関心・印象を深めることができるよう
に、F児の実態把握に努め、画像の効果を高める工夫をする。
追
究
す
る
4
パソコンを使い学
習を開始する。
○「9
政治の総合
補
充」の復習をする。
パソコン操作の
ヒントが必要 で
約束①「答えを言
あれば Enter キー
ってから Enter キ
を指し示す。
大体覚えてい
た。
A
ーを押す」が言え
る。
パソコン操作の
ヒントが必要で
約束②「問題を読
あれば問題を指し
むときはキーボー
示す。
大体覚えてい
た。
A
ドに触れない」が
言える。
【写真6-1 パソコンで学習】
パソコン操作の
ヒントが必要で
約束③「活動と関
あればキーボード
係ない操作をしな
を指し示す。
い」が言える。
-特支 40-
大体覚えてい
た。
A
追
○
本時の内容学習プ
究
リント「10
す
ちの生活と経済
る
展」に入る。
わたした
発
パソコンを使っ
しばらく画面を
あくびを1回
て楽しく集中して
楽しむ時間を設け
かみ殺す。伸び
問題を解くことが
る。
できる。
(あくびや
A
はなかった。
伸びが活動中2回
以内)
5
学 習 プ リ ン ト 「 10
学習プリントの
わたしたちの生活と
問題を黙読でき
経済
声かけをして気
付かせる。
黙読できた。
A
発展」をする。 る。
分かる問題から
解いていくことが
時間内に書き
時間を知らせ
る。
A
きた。
できる。
6
パソコンを使い、自
「10
上げることがで
わたしたち
不正解だった問
85 % 達 成 す
ることができ
分で答え合わせをす
の経済
発展」の
題に再度PCで取
る。
問 題 で 85 % ~
り組み、何度も繰
B
た。
100%正解できる。 り返させて定着さ
せる。
【改善点】ぎりぎりの線での目標達成であった。長文の記憶
がやはり難しいので、更に細かく印象づける工夫が必要。
ま
7
パソコンを使い、本
「復習問題9
政
不正解だった問
と
時のはじめにした復
発展」
題に再度PCで取
め
習の問題を再度する。 の 問 題 で 90 % ~
り組み、何度も繰
る
治の総合
時間不足のた
め中止。
―
100%正解できる。 り返らせて定着さ
せる。
後片付けができ
どの時間でも同
る。
(PCシャット
じように取りま
ダウン、ごみとり) せ、習慣化させる。
机の上を専用
A
のほうきとちり
とりで掃除し
た。
ア
○
教材の工夫について
以前は黒板に絵を描いていたが、F児の興味関心が高いパソコンのプレゼンテーションソ
フトを使った。(資料 6-6)
○
更に、PCでF児の好きなキャラクターを使い、重要語句のイメージを画像(静止画や動
画)として見せた。(資料6-7)
【資料6-6 プレゼンテーション開始場面】
【資料6-7 好きなキャラクターで重要語句のイメージ】
-特支 41-
イ
発問・声かけの工夫について
○
「短く・簡潔に」を心がけた。
○
キーボードの指差し、タイムタイマーの利用など、視覚的に支援した。
ウ
○
活動の工夫について
学習プリントを解く場所とパソコンを操作する場所を変えることで、変化と活動内容の明
確化を図ってみた。(写真6-2
○
活動場所)
視覚的に印象づけた後で、1枚目は教科書を見て調べ、2枚目は更に深く定着するように
学習プリントに書き、3枚目まで繰り返して定着を図った。
【写真6-2 活動場所】
②
○
【写真6-3 集中しやすいパソコン】
考察
F児の日常の様子から、興味関心があることに関する知識の豊富さや、視覚的記憶が得意
ということを生かして、集中しやすいパソコンと好きなキャラクターを登場させた画像の利用
は、注意の集中や記憶の定着の面で効果が大きかった。
○
学習プリントに書き込むときには自分の机から学習プリントをする場所へ、パソコンを使
って問題の内容を理解して解くときにはパソコンをする場所へと、活動場所を変えたことは、
今何をしなければならないかの活動内容をF児が明確につかむことにつながり、合わせて座
る・歩くと1単位時間の中で適当な気分転換を図ることができ、授業に集中することにつなが
った。
2
実践の成果と課題
(1)指導の成果
○
長期目標達成のために、個別の教育支援計画から個別の評価表まで作成し授業を行うこと
は、生徒理解が深まり、F児の興味関心を高め、効果的な支援につながることが明らかになっ
た。
○
F児の理解を深めることによって、F児の苦手とする面だけでなく、得意な面をより明ら
かにすることも大変重要であり、支援のために有効であった。
(2)指導の課題
○
社会科公民的分野だけでなく他教科等でのパソコン活用を図る必要を感じるが、教材研究
の充実、教材作成の時間の確保等、課題として残った。
-特支 42-
【実践事例7】
養護学校
数学科
高等部 第2学年アンパンマングループにおける実践
単元「数ゲームで数を数え、キャラクターカードをもらおう」
久留米市立久留米養護学校 教諭 江田 美江
実践の概要
ダウン症で知的障害のある G 児は、本校に高等部から在籍している。将来は「作業所などで
支援を受けながら働き、達成感のある充実した生活を送れること」という保護者の願いと、興
味のない活動はしようとせず、指示通りには動こうとしない、周りのみんなと同じ行動がとれ
ないという G 児の実態を踏まえて、個別の支援計画・指導計画を作成した。また、「簡単な足
し算が出来て欲しい」という保護者の願いから、数学科では、日常的に必要な数の学習として
1から10までの数の理解に重点を置いて取り組んだ。
「自分にもできる、自分でしようとする
教材・教具」を工夫し、飽きさせず変化を加えながら繰り返し学習できるよう工夫した。
キーワード
知的障害、教材・教具の工夫、活動構成の工夫、個別の評価表
1
実践の実際と考察
(1)支援1について
保護者の願いと本人の願い・実態をもとに、個別の教育支援計画を作成し、それに基づいて
個別の指導計画を作成した。数学科においては、日常生活に必要な数の理解として、
「時刻・お
金・一桁の足し算の学習」を長期目標とし、短期目標(単元目標)として「1から10までの
数を読む・数える・書くことができる」とし、指導に当たった。また、個別の評価表を作成し、
教師のめざす姿への支援が適切であったかを検証した。
①
個別の教育支援計画から個別の評価表まで
ア
G児の状況
G 児は高等部から本校に入学してきた。心臓疾患1級である。母親からの幼児期の話では「や
っと命を取り留めた」という状態であったようだ。周りの人が手をかしてくれた反面自立の力
が育っていないようである。現在の具体的な状況・実態を個別の指導計画から抜粋して下記に
述べている。
【資料7-1
G 児の状況】
現在の子どもの状況・実態(抜粋)
生活面
・トイレ、入浴時に一部介助が必要。
・1から10までを数唱できるが、6以上の数になると数えることが難しい。
学習面
・自分の名前をひらがな(名字は漢字)で書くことができ、ひらがなのなぞり書
きを、ほぼ書き順通りにできるが、生活の中で、自分から文字を読んだり書いた
りすることはなく、話す言葉も限られている。
社会性
対人関係
興味関心
など
イ
・集団の中で指示通り動かないで、みんなと同じ行動がとれず、自分のやりたい
ことをやってしまう。
・友達(人)が大好きでよく話しかけ、接触をしたがる。
・かまってもらいたいが為に、不適切な言葉や態度をわざと行うことが多い。
・音楽を聴くことが大好きで童謡はほぼ何でも知っている。
・アンパンマン・パズルが好き。
個別の教育支援計画(主要課題と支援目標)
とりわけ現時点において指導が必要な主要課題と支援の目標を述べる。
-特支 43-
○ 1~3の数についての理解度は高いが、6 以上になると数え間違えることが多い。
そこで、数学科の学習や日常生活の場をとらえて、生活とつなげた具体的な操作活動やくり
返しの活動などを工夫することで、生活していく上で必要となる「1から10までの数を理解
し、1桁の計算をする、何時・何時30分という時刻を読む、1000円までのお金を持って、
店の人に支援してもらって買物をする」ことができるようにする。
○ 人と関わることが大好きなのだが、かまって欲しいために不適切な言葉や態度で接してい
ることが多い。
そこで、不適切な言葉や態度には反応せず正しい言葉遣いや態度を教えて言い直させたりす
ることで、その場に応じた正しい言葉遣いや態度がとれるようにする。
○ 状況判断ができず自分の感情のまま動くことが多く、周りと同じ行動がとれない。
そこで、友達と一緒にいたいという欲求を生かして、教師や友達の行動を見て真似させるこ
とで、集団の中で一緒の行動がとれるようにする。
ウ
個別の指導計画
A
長期目標(1年間を目途として)
1年間を目途として、次の点を長期目標とした。
1
ごっこ遊びやゲーム、キャラクターを登場させるなどG児の興味関心を生かした体験活
動や操作活動を工夫することで、日常生活に必要な数学的知識(1~10 の数、10 円・50 円・
100 円の識別、何時の読み)を身につけるようにする。
2
友達や先生と話したり一緒に行動するとき、不適切な言葉遣いや態度には反応せずに正
しい言葉遣いや態度を教えやり直しをさせることで、その場に応じた正しい言葉遣いや態度
がとれるようにする。
3
授業場面や生活場面で意図的に集団活動を導入したり、挨拶場面を取り入れたりするこ
とで、集団生活に必要な挨拶やマナー、ルールを身につけるようにする。
以上の長期目標の1をうけて、数学科の「数」領域において、
「買物・魚釣り・汽車を走らせ
る」の3つの体験的な活動を繰り返し、半具体物と抽象数をマッチングさせながら、1から 10
までの数を読む・数える・書くことができるようにする。」ことを短期目標として指導を行った。
B
数学科
高等部第 2 学年
単元「数ゲームで数を数え、キャラクターカードをもらおう」の全体指導計画
本単元「のねらいは、1から10までの数を読む・数える・書くことができるようになるこ
とである。この「数ゲームをしよう」は、学習グループの 6 名の生徒と互いに刺激を受け合い
ながら、繰り返し学習に取り組める教材だと考える。学習活動としては、「サクランボを買い
に行こう」
「魚釣りをしよう」
「機関車をはしらせよう」と変化をもたせることで、飽きさせず、
意欲的に学習できると考える。また、指導に当たっては、まず出会う段階では、「サクランボ
を買いに行こう」を通して、
「サクランボ」という半具体物を数えることができるようにする。
そのために、3種類の皿(何もしていない皿、数字とドット、数字とドットと枠)を準備し、
個に応じて取り組めるようにする。次に、さぐる段階では、「魚釣りをしよう」を通して、魚
の裏に示されたドットを数え、適した数字カードを選ぶことができるようにする。最後に、広
げる段階では、
「機関車を走らせよう」を通して、レールを数え、数字が書けるようにしたい。
a
○
単元目標
「数ゲーム」に興味を持ち、進んでゲームに取り組み、出来た後のキャラクターカードを
貼ることで、達成感を味わうことができる。
○
個に応じた方法で、1から10までの数を読む・数える・書くことができる。
b
単元指導計画(16時間)
-特支 44-
【資料7-2
段階
で
あ
う
ねらい
学習活動と内容
支援
○ 半具体物を
1 「サクランボを買いに行こう」を行う。
○ 3種類の皿(数字のみ、数
数えることができ
○ 引換券に示された数のサクランボを数えな
る。
○
さ
ぐ
る
単元「数ゲームで数を数え、キャラクターカードをもらおう」の全体指導計画】
がら皿の上にのせる。
ドットを数
え、数字カードを
選ぶことができ
る。
配時
字とドット、数字とドットと枠)
・ サクランボの模型
○ できたら黒板にキャラクターカードを貼る。
・ キャラクターカード
2 「魚釣りをしてアンパンマンカードをもらお
○ ドットが示された魚
う」を行う。
5
・ 数字カード
○ 魚の裏に示されたドットを数え、数字カード
を選ぶ。
6
・ ドットカード
・ キャラクターカード
本時
3/5
○ ドットカードで確かめる。
○ できたら黒板にキャラクターカードを貼る。
ひ
ろ
げ
る
○ レールを数
3 「機関車を走らせよう」を行う。
○ レールが入った袋
え、数字を書くこ
○ 袋に入っているレールを数え、数字を紙に
・ 機関車
とができる。
書く。(数字カードを選ぶ)
・ 数字カード
○ 機関車を走
○ ドットカードで確かめる。
・ ドットカード
らせることで活動
○ レールをつなぎ、機関車を走らせる。
・ キャラクターカード
の達成感を味わ
○ キャラクターカードと数を書いた紙を黒板
う。
C
5
に貼る。
短期目標の実現に向けた支援
【資料7-3 単元おける G 児に対する目標と支援】
目
標
支
○ 1から10までの数を読む、数える、書
くことができる。
援
○ 教材を工夫し、目的を変化させることで
意欲的に繰り返し学習に取り組ませる。
○ 「数ゲーム」に興味を持ち、進んでゲー
ムに取り組むことができる。
○ 自分にも出来るという自信を持たせ、段
階的に取り組ませる。
○ できたことが周りにも自分にもはっきり
と分かり、達成感を味わうことができる。
○ できた後に大好きなアンパンマンカー
ドを黒板に貼らせ、賞賛する。
○ 学習集団のなかで、学習規律(あいさつ・ ○ どのように行動すると良いのか、具体的
自分の席で待つ・指示に従う)を身につける。
D
な声かけや誘導をする。
個別の評価表
上記に述べた目標と支援が G 児の教育的ニーズに応じた内容と支援となっているか、個別の
評価表を作成し、検証することで明らかにしていく。
本時の目標である「①魚釣りに興味を持ち、進んでゲームに取り組むことが出来る。②魚の
裏に示されたドットを数え、適したカードを選ぶことが出来る。」この 2 点と単元目標である「達
成感を味わう・学習規律を身につける」ことについて、具体的な内容や支援方法を個別の評価
表に示し、検証を行った。
②
○
考察
個別の支援計画→個別の指導計画→長期目標→短期目標→個別の評価表とこのような手順
で作成していくことは、今子どもにつけたい力・教育的ニーズに応じた支援の内容と方法を明
らかにするために有効であった。
○
個別の評価表を取り入れたことで、対象児にどのような力をつけたいのか、そのためには
-特支 45-
具体的にどのような支援が必要で、その支援が適切であったかを検証することが出来た。
(2)支援2について
①
個別の評価表を活用した本時指導の実際と考察(別紙参照
ア
教材・教具の工夫について
○
資料7-4)
G児が興味を持ち、意欲的に繰り返し学習に取り組めるようゲーム性を取り入れ、活動し
た自己表現として大好きなアンパンマンカードを黒板に貼らせたことで、意欲的に活動するこ
とができた。
○
水槽を 4 つ準備し、教師側が意図した数のドットがついた魚を釣れるようにしたことで、
最初に「できた」喜びを味合わせることができ、意欲を高める効果があった。
○
数字カードは2種類(数字のみ・数字とドット)提示し、どちらからでも選べるようにし
たことで、5以上の数字カードを選ぶときはドットのついた数字カードを自分から選び、マッ
チングをしようとする姿がみられた。
○
釣った魚は自分の机の上のカゴに入れるようにしたことは、活動を繰り返すための励みと
なった。
イ
○
発問・声かけの工夫について
自信を持って答えることが出来ている「数字当て」を授業の最初に行うことで、授業に対
する意欲を高めることができた。
○
出来る限り否定的な言い方は避け、肯定的な言い方(「○○します。」「○○してください」
など)をするようにし、できていないことを注意するのでなく、つぎに何をすべきか、どう行
動したらよいのかが分かるように、声かけや誘導をし、できたときは、はっきりと賞賛するこ
とで、学習意欲やセルフエスティームを高める効果があった。
ウ
活動の工夫について
○ 活動の場(魚釣りをする)→考える場(数字カードを選ぶ)→評価の場(確認をしてもら
う、確認をする)→表現の場(アンパンマンカードを貼る)と活動過程ごとに場所を決め、固
定することで、活動内容が分かりやすく有効であった。
②
考察
数の概念を今後深めようと考え、ドットの5のかたまり10のかたまりを意識して数字カー
ドを使用したが、G児にとっては、6以上は「たくさん」という意識のようでドットを使用し
た効果が見られなかった。事前にドットをつけた数字カードを一緒に作成するなどして、ドッ
トで示した5のかたまり10のかたまりの理解をさせる学習が必要であった。
2
実践の成果と課題
(1) 指導の成果
○ 個別の支援計画・指導計画に基づき、長期目標・短期目標を定め、実践していくことは、
毎日の授業が将来の目標とどうつながっているのかが明確になり有効であった。また、本時に
ついての個別の評価表を作成したことでG児の課題や支援方法が明確になり、検証しやすく、
また今後の課題も分かりやすく有効であった。
○ ゲーム性を取り入れ、大好きなアンパンマンカードを黒板に貼ることで自己表現でき、で
きたことが視覚的にもはっきりとし、賞賛を繰り返すことで、活動への意欲を高めることが出
来た。
(2) 指導の課題
○ 個別の支援計画・指導計画を常に見直し、日々の実践へとつなげていくことが大切である。
○ 課題を明らかにし、さらに学習を深めていくための、活動する意欲をもてる教材・教具と
繰り返しのある活動構成の工夫が必要である。
-特支 46-
① 個別の評価表を活用した本時指導の実際と考察
【資料7-4 個別の評価表と改善点】
学 習 活 動
○ 出席確認をする。
めざす子どもの姿
名前を呼ばれたら、教師のてのひらと自
1 前時までの学習を振り返り、本時学習のめあてをつかむ。
(1)
1~10までの数字当てゲームをする。
(2)
本時学習のめあてを知る。
分のてのひらを合わせてタッチする。
具体的支援
評価
対象児の状況
C
をさしだしているのに気付き、
両手で
T1が名前を呼ぶと同時に側に
居るT が両手のてのひらを差し出
しばらくしてから、
教師が手のひら
す。
タッチできた。
【改善点】今後もおなじような動作を繰り返し行う。
数字当てゲームで、黒板に貼られた数字
魚つりをして、アンパンマンカードをもらおう。
を声に出して答える
自信をもてるように、答えたこ
とに対して、はっきりと賞賛す
数字を提示している教師の方を見
A
る。
(3)
①
学習活動の流れが分かる。
学習の流れに沿って、これから行う活動
魚を釣る→②魚の裏に示されたドットを数える→③同じ数
カードを選ぶ→④アンパンマンカードをもらい、黒板の自
分の写真の下に貼る→⑤魚をかごに入れる、
2 魚釣りゲームをする。
※
のモデル演示をしている友達を見る。
教師の指示に従って、第 1 回目の魚釣り
をする。
為ができる。
A:1.2.3の集まり
B:4.5の集まり
C:6.7の集まり
D:8.9.10 の集まり
①順番に魚を釣りに行く
で演示させる。
釣竿を渡し、一緒に水槽に移動
する。
魚の裏にあるドットを数えるという行
4 つの水槽を用意する。
関心を持っている友達を選ん
ドットの色を今まで親しんで
いる赤にする。
て、数字の読み方を迷うことなく、声
を出して答えていた。
A
A
B
友達の動きを目で追っていた。
教師と一緒に、
興味を持って水槽ま
で移動できた。
間違えた時もあったが、
必ずドット
を数えようとしていた。
【改善点】間違えた場合は、教師と一緒にドットを指さして数えさせる。
数字カードを選び、担当の教師に持って
行き、確認してもらうことができる。
確認する場所と確認する教師
を固定する。
アンパンマンカードをもらいたい
A
と、
自分から進んで確認してもらって
いた。
間違っていた時は、再度数字カードを選
び直すことができる。
確認後、教師が正解か間違いか
を伝え、選び直す行動に移るよう
自分から間違いに気付くことがで
C
声かけをする。
きず、教師の声かけで選び直してい
た。
【改善点】数字と合わせてドットを書き入れさせ、量としての数を意識させる。魚の裏のドットを数えさせ、自分が書き入れた
【写真7-1 魚釣りの場の工夫】
②ドットを数える
数字カードのドットと比べさせるという活動を、繰り返しさせる。
アンパンマンカードを黒板に貼ること
ができる。
自分の写真を提示し、貼る場所
を示す。
ー特支 47―
C
友達の場所に2回貼り、
教師から張
り直されていた。
【改善点】自分の写真と貼る場所を確認させ、貼る場所も固定する。
自分が魚釣りをする番になるまで、自分
の席に座って待つことが出来る。
【写真7-2 ドット】
うろうろする時間を作らない
席に座ることをいやがり床に座り
ように可能なかぎり魚釣りに誘
込んだり、
自分の存在を周りにアピー
い、活動しない時間は自分の席ま
C
で誘導する。
③数字カードを選ぶ。
ルするかのように、
教室内で手をたた
きながら円状に歩くことがあった。
【改善点】今後も学習の習慣がつくように、上記の支援を繰り返す。
教師の声かけにより、魚つりを 5 回以上
繰り返すことができる。
最初はAの水槽から釣るよう
に誘導し、自信を持たせてから
B・C・Dの水槽へと誘導してい
自分から釣竿を持とうとするなど、
A
意欲的で10回魚釣りをすることが
できた。
く。
1・2・3の数字カードは間違えずに選
【写真7-3 数字カード】
ぶことが出来る。
自信を持たせるため、最初はA
(1・2・3)の水槽に誘導する。
1・2の数字は見るだけで、3は自
A
④確認してもらう
分で指さしをしながら数え、
正しい数
字カード(数字のみ)を選ぶことがで
きた。
⑤アンパンマンカードを黒板に貼る。
【写真7-4 とったアンパンマンカード】
4・5の数字カードはドットを比べるこ
とで選べる。
A(1・2・3)の水槽で自信
自分で指さしをしながら数えるこ
を持たせると共に、ドットを数え
とができ、正しい数字カード(数字の
ることに慣れさせてから、B
A
み)を選ぶことができた。
(4・5)の水槽へと誘導する。
6~10の数字カードは教師からの支
援をうけて選ぶことができる。
数字の下にドットが提示され
ドットを比べるだけでは正しい数
た数字カードから選ぶように声
字カードを選ぶことはできず、
教師が
かけをし、数えるときは、教師が
A
声は出さずに指さしをしながら、
①~⑥の活動を繰り返す。
て数えることができた。
自分で数えさせる。
⑥魚をカゴに入れる。
*
指さしをすることで、
自分で声を出し
みんなと一緒にアンパンマンカードを
見て、声に出して数えることができる。
黒板に、魚釣りをした回数を示
すアンパンマンカードを貼った
ままの状態にしておく。
3 アンパンマンカードをみんなで確認して、学習を振り返る。
【改善点】体調が良ければ前に出させ、教師と一緒に数えさせる。
ー特支 48―
少し微熱があったこともあり、
集中
C
が続かず、うつ伏せになっていた。
資 料1
個別の教育支援計画 Ⅰ(プロフィール)
記入者
記入日
年
月
記入日
記入者
最低、1年間に1回、子どもの育ちに沿って「個別の教育支援計画」を
年
月
記入日
年
月
記入者
修正する。修正する場合は、修正したことが分かるように書き方を工夫す
記入者
記入日
年
月
る。修正した時、記入者と記入日を書き入れる。
記入日
年
月
記入者
記入者
記入日
年
月
ふりがな
生年月日
平成
氏 名
性 別
( 男 ・ 女 )
保護者氏名
年
月
日生
続柄
℡
℡
電話番号
住 所
緊急連絡先
続柄
氏
名
年 齢
-
-
-
-
備 考(家族の中での留意事項等)
家
族
(出産) 体重
生
育
暦
g
:
通常分娩 (
)
(授乳)
(離乳)
何ヶ月とか何年と
(寝返り)
(首のすわり)
か、生まれてから
(お座り)
(はいはい)
の期間を書く。
(歩き始め)
(発語)
(排泄)
(食事)
(その他)
療育手帳
有
無
判定(
) 番号(第
号) 交付年月日
年
月
日
身障者手帳
有
無
判定(
) 番号(第
号) 交付年月日
年
月
日
主たる障害
診断名
その他の障害
主治医名
診断機関
連絡先
症 状
有
けいれん
無
服 薬
(最終日)
発作等
(様子)
服薬時間
保育園
の
様
子
昼
夜
担任名
の様子
育
朝
園 名
幼稚園
療
薬名
(頻度)
期
間
担 当 者
機関・病院名
内
容
1枚目の「プロフィール」や2枚目、3枚目の「実態1・2」については、
保護者からの情報が主となるものが多い。必要に応じて関係者からも話を聞
くことが望ましい。その際は必ず保護者の了解を得ること。
-特支 49-
個別の教育支援計画 Ⅱ
諸 検 査 結 果
(実態―1)
結 果 か ら 分 か る こ と
入学前の検査については保護者に
検査結果の分析については、自分でやれないときは、専門医
お願いして資料を提供してもらう。ま
師や指導主事、久留米養護学校の担当の先生、また、スクール
た、新しく検査をする場合は保護者の
カウンセラーの先生等にお願いする。
理解を得ること。
できる 一部介助 全介助
歩
できる 一部介助 全介助
行
走
行
できる 一部介助 全介助
できる 一部介助 全介助
階段昇降
立位・座位
できる 一部介助 全介助
本 排
できる 一部介助 全介助
尿
排
便
できる 一部介助 全介助
できる 一部介助 全介助
人 着衣・脱衣
食
事
できる 一部介助 全介助
できる 一部介助 全介助
の 言語・会話
要求伝達
できる 一部介助 全介助
できる 一部介助 全介助
状 集団参加
数
唱
できる 一部介助 全介助
できる 一部介助 全介助
況 数の大小
危険の
認知
形の弁別
危険なものの理解(
目的に向かって飛び出す(
その他気を付けること
(
(
(
(
(
)
信号機の理解(
) 学校外へ出る(
-特支 50-
)
)
)
)
)
)
)
個別の教育支援計画 Ⅲ
(実態―2)
学習面
本人の状況欄は、抽象的な表現にならざるを得ない。例えば、
「学習面」
を例にとると、
「文字について、清音は全部読めて書けるが、その他は不
本
確かである。
」とか、
「一生懸命聞いているように見えるが、話の内容はほ
集団参加
・社会性
とんどつかめていない。
」
「勉強することは大好きで嫌がらない。
」など。
その子の得意な面とか不得意な面、興味関心があることや嫌いなことな
ど、全体としてその子の特徴がつかめればよい。
学 校
「この子はこんなよさがあるのだなあ。こんな面は苦手なのだなあ。
」
ということが分かる程度になる。
人
対人関係・
コミュニ
具体的・分析的な実態把握は「個別の指導計画」に書き入れるようにす
る。
ケーション
の
その他
家族関係
状
家 庭
生活の
様子
どの程度は自分でしているのか、
どの程度の
支援を必要として生活をしているか等。
況
地 域・
地域関係については、例えば子ども会とか、近所の方の支援の有無等。
関 係
関係機関については、例えば施設との関係等。
機 関
<現在の生活、将来の生活についての願い>
本人や保護者の思いや願いに耳を傾け、つかむ。何度
も書き加えるつもりで。
<本人の願い>
<保護者の願い>
将来の人生設計「こんな生活をおくりたい。
」
「こんな生活ができるように
させてやりたい。
」などの自立の方向・内容等の目標を書く。
-特支 51-
個別の教育支援計画 Ⅳ
年
1年
2年
3年
組
組
組
組
特別支援学級担任
交流学級担任
(計画)
年
4年
5年
6年
組
組
組
組
特別支援学級担任
交流学級担任
小学校は6年生卒業時、中学校は3年生卒業時を目途に対象児の目指す到達目標とそのための支援
の具体的な内容を盛り込んで書く。基本的には①学習面、②集団参加・社会性、③対人関係・コミュ
ニケーション、④それ以外から、その子の自立のために一番必要な項目を選び設定する。子どのも実
支援の
目標
態・状況から項目の数は子どもによって違ってよい。支援の目標の書き方は「・・・・・・支援の内容・・・・・
することで、・・・・・・・到達目標・・・・・・・・・ができるようにする。
」
主 な 支 援 内 容
学
学
級
校
支援の目標に向かって、対象児と関わる学校・家庭・地域・関係機関がそれぞれの立場で支援する
内容を書く。ここに書いたことは、それぞれが連携する必要があるので、学校が中心となって関係者
会議を開き、それぞれの支援の内容を確認する必要がある。
定期的にそれぞれの支援状況等をつかみ、支援内容を見直すことが大切である。
校
内
小学校6年間、中学校3年間を通しての支援内容となるので、
「誰が、どのよ
うな内容を支援するか」を明確にすることが重要となる。
例えば、怠けではなく自分ではちゃんとしたいと願っているのに、自分で必要
家 庭
な物を準備する時、抜けるものが多く、結果として忘れ物が絶えないという子ど
もがいた場合、この子の自立を考えると、自分で必要な物を準備できるようにな
そこで、学級としては、連絡帳に明日必要な物を、黒板を見て自分で落とさず
書くようにさせることを目標として取り組む。支援の内容としては、
「準備する
手順が分かる特別の連絡帳を準備すること。連絡帳を書くように声かけをするこ
と。連絡帳を書く時間を確保すること。連絡帳に正しく書いているか点検するこ
関 係
機 関
と。
」等が考えられる。その場合の支援者としては担任、友だちが考えられる。
(医療・福
けさせる。)→本人にさせながら、困っている時手伝う。
」→本人にさせ、見守る。
」
祉・盲・ろ
等が考えられる。支援者は、対応できる人、例えば父母とか祖父母など。
う等)
個別の教育支援
計画の形式はこの
限りではない。
子どもの状況や
実態、教育的なニ
ーズにあった形式
ることは大変重要なことである。
地 域
支 援 者
家庭では、
「一緒に準備する。(一つ準備したら連絡帳に「準備した」の印を付
項目は「学習面」
「集団参加・社会性」
「対人関係・コミュニケーション」から、
を学校で、個に応
じて作成すること
もあってよい。
子ども一人一人
を大事にするとい
う視点で、実践に
より生かせる、よ
りよい個別の教育
支援計画を作成し
てほしい。
必要な項目を選ぶ。
1年
2年
評価及び
引継ぎ事
項
3年
4年
1年間の実践を終えて書く。
特に「支援の目標」に対してどの程度まで到達しているか、その段
階等は必ず書く。引継ぎ事項については、例えば「母親と毎日、十分
な連絡をとること。連絡ノートの活用だけでなく、週に2回程度は電
話や家庭訪問等を行って、顔を見て話すことが大事である。
」など。
引継ぎ事項の具達的な内容については、個別の指導計画にその欄を
5年
設けている。
6年
-特支 52-
平成
年度
久留米市立
学校
個別の指導計画
氏
名
性別
生 年 月 日
学年
資 料 2
学
級
特別支援学級在籍
の子どもについて
障害の種類
・状態
個別の指導計画は、1年間の計画であるので、
「個別の教育支援
は、交流学級名・担
計画Ⅱ」の「諸検査結果」とだぶる必要はない。但し、詳しい分
任名を加えて記入
析等はここに書く。また、新しい検査等を行った場合もここに書
する。
く。ただし、個別の教育支援計画には項目等が分かるように書き
加える。
支援の目標は、
「個別の教育支援計画」に書かれている支援の目標
支援の目標
のことである。子どもの成長に伴って変わる可能性はある。
< 課 題 表 >
現在の子どもの状況・実態
聞く
話す
読む
書く
学
原 因 ・ 課 題
現在の子どもの状況や実態を書
く。
教科・領
域
例えば、
「聞く」という項目で、
「45
分間の授業時間中、何度も席を立って、
個別の教育支援計画の「本人の
落ち着いて学習に取り組むことが出来な
状況」欄を現在に視点を当てて、
い。
」という実態があった場合、原因とし
表のように具体的な項目を設定し
て「今、何をしなければならないかが分
て書く。1年間の指導・支援をよ
からなくて、友だちの様子を見るために
り子どものニーズにあったものに
席を立っているようだ」ということが分
するためである。
かったとします。そうすると、課題「何
をすればよいか、順序立てて事前に分か
言語
るような工夫をする。
」が見えてくると思
数と
個別の指導計画は、特に学校の
習 計算
教育活動をいかに個のニーズにあ
量と
ったものにするかという視点で作
測定
成するものであるので、学習面に
教科・領域の欄は、課題解決をするための教
おいては、教科・領域で表すこと
科・領域を書く。例えば、全教科の学習の中で
とする。
課題への支援を行う場合は「全教科」と書く。
面
図形
います。
出来ていること、出来ていない
音楽
こと、興味を持っていること、持
っていないこと等、よさ・強みも
図工
全部の欄を埋める必要はない。対象児に
とって必要な項目について書く。
書く。
また、項目はこれに限らず、対象児の状
況・実態に応じて設定する。
体育
学年や、子どもの実態に応じて欄を付け加える。
-特支 53-
基本的な
生活習慣
集
団
参
加
・
社
会
性
例えば「1対1で対応する時は、相手の言うことも理解でき、落ち着いて行動できるが、5
~6人の小集団になると突然動き回ったり、他の子どもとは違う行動をする。
」という状況・実
態であるとすると、原因・課題には「周りが気になって不安定になるので、まず、2・3人の
中で活動する場面を設定して、自分以外の友だちがいる場合の行動の仕方を身に付けさせる。
」
ということが考えられる。
対ニ
人ケ
関|
係シ
コョ
ミン
ュ
そ
の
他
「音楽の時間は、特別支援学級で行う。
」
「虫が好きで、昆虫の名前をよく知ってい
「学級の虫係りを任せ、帰りの会等で虫
る。
」とか、
「音に敏感で、大きな音は苦手であ
の様子を報告させ、自分にやる気と自信
る。合唱に耳をふさぎ、その場から逃げる。
」
を持たせると同時に、他の子どもたちが
など。
A児のよさを認識するようにする。
」
また、認知特性(例えば「絵や図など視覚的
な訴えをすると理解しやすい。
」なども。
「説明や指示をする時、音声言語だけで
なく絵や図、言葉・文など目で見させる
ようにする。
」
など
1 年間の目標である。個別の教育支援計画に書かれている支援の目標を今の段階で具体化した
ものである。項目としては、支援の目標に沿って、①学習面、②集団参加・社会性、③対人関係・
長期目標
コミュニケーション、④その他から書く。ただし、この限りでなない。子どもの教育的ニーズを
大切にしたい。書き方は支援の目標と同じで「・・・・支援の具体的な内容・・・することで、
・・・
到達目標・・・できるようにする。
」
長期目標に向かって、学期毎や月
1学期
毎、単元毎に焦点を絞ってより具体
段階的に具体的な目標を予め設定して実
的な目標を設定する。
短期目標の欄は、学期毎にこだわ
3学期
践し、1つの段階・期間が終了して見直
しをして修正をするというように考えて
らない。
短期目
標
2学期
短期目標は、1 年間をいくつかに分け、
長期目標の数とそれぞれの段階で
の短期目標の数は同じでなくてもよ
も良いし、1段階ずつ(ここで言えば、
1学期ずつ)書き入れることもよい。
い。1年間を通して長期目標を達成
子どもの今の状況・実態を大事にし、
するという方向で短期目標を考え
きめ細やかなステップをとるということ
る。
「この学期はこれを徹底して支援
が原則である。
しよう」ということがあってもよい。
-特支 54-
書き方は支援の目標、長期目標と同じ。
< 具体的な計画 >
教科・領域
具 体 的 な 目 標
評価
具 体 的
な 支 援
評
価
聞く
短期目標を更に具体化したものが具体的な計画である。
学校が作成する指導計画であるので、基本的にはこの表のよう
な項目で作成する。しかし、子どもの実態や教育的な二―ズによ
話す
学
っては、その子にあった項目を設定して具現化の方向を探る。
読む
評価は3段階で行う。
「達成」
「大
体達成」
「まだまだ不十分」
項目によっては1年間を通じて評
書く
価し年度終わりに最終の評価をする
もの、1学期で評価が終わるものな
習
言語
どがある。
評価の項目によってふさわしい時
面
数と
計算
量と
測定
個別の指導計画の形式は自由である。ここ
にあげているのはあくまで、モデルと考えて
ほしい。
期に評価する。
また、次の短期目標設定の参考に
する。
ただ、子どものよさや可能性を伸ばし、現在の社会の
図形
中で生きづらいということを少しでも改善するための、
教師にとっての指導・支援の方向や内容を明らかにする
音楽
ためのものであるので、
実践するために準備しておく必
要がある項目を見定めて、
学校独自の個別の指導計画を
図工
作成してほしい。
体育
個別の教育支援計画、個別の指導計画の形式・項目は学校で工夫することは、対象児を理
生活単元
解するという意味で大切なことである。
しかし、言葉の使い方は全国共通語の場合はその意味を踏まえて使うこと。例えば支援の
基本的な
生活習慣
集団参加
・社会性
目標と長期目標を混同して使うなど。支援の目標は6年間、あるいは3年間の長い期間を見
通した目標である。これを長期目標と表現しない。長期目標は1年間の目標のことである。
重点目標という言い方はあまり見かけないが、重点目標をあえて使うならばいくつかある長
期目標の中で特に対象児にとって重要であるというものを選び、それを重点目標とする。1
年間の支援を語るときは長期目標、短期目標(学期の目標や単元の目標など機関を決めて)
で。
対人関係・
コミュニケ
ーション
一年間を振り返
って
次年度への引継
ぎ事項
個別の教育支援計画にも次年度への引継ぎがあるが、ここには、その内容を更に具
体的に書くこと。
ここまで書き終わったら、個別の教育支援計画と前年度までの個別の指導計画を綴
じている専用のファイルに綴じ、管理職を通して次の担任に渡す。
6年生を卒業したら、管理職を通じて中学校に引き継ぐ。
大事な個人情報であるので、取扱いには十分留意する。
-特支 55-
Fly UP