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T B R 産 業 経 済 の 論 点 No.10-8 2010年10月8日 コンビニ業界の現状と課題 ― 市場伸び悩みのコンビニ業界、 女性・中高年層の取り込み、海外展開加速で成長図る - 永井 知美 東レ経営研究所 産業経済調査部 シニア産業アナリスト TEL:047-350-6192 E-mail:[email protected] <ポイント> 1 コンビニエンスストア販売額は、猛暑効果もあり一時回復傾向にあったが、競争激化、少子 高齢化、消費者の低価格志向といった構造問題を抱え、先行きは楽観できない。 2 新規出店で成長してきたコンビニ各社が、市場が飽和に近づくなか、既存店のてこ入れに舵 を切ろうとしている。個店強化を図るセブン-イレブン・ジャパンとファミリーマートに対し て、ローソンは店舗フォーマットの多角化で顧客の取り込みを図っている。 3 大手 3 社は海外進出を加速している。有望視されているのは、経済成長が著しく市場規模が 大きい中国などアジア諸国である。 4 国内市場でうまく開拓できていなかった女性と中高年層を取り込めるか、アジア市場で成果 をあげられるかが、コンビニ業界の今後を左右するだろう。 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 1 はじめに リーマンショック後の世界的不況で百貨店、スーパーが不振を極めていた頃、コンビニは好 調だった。たばこ自動販売機用成人識別ICカード「taspo(以下タスポ) 」1 導入により、タス ポ作成は面倒だと考える人がコンビニに流れ、売上を押し上げたためである。ついで買いをす る人も多く、たばこ以外の商品も売れた。 コンビニは、2009 年半ば以降「タスポ効果」一巡で反動減に見舞われていたが、猛暑効果、 値上げを前にしたたばこの駆け込み需要等により、2010 年 7~9 月の既存店売上高は前年比プ ラスで推移した。だが、先行きは楽観できない。飽和に近づく国内市場、競争激化、少子高齢 化、消費者の低価格志向といった構造問題を抱えているためである。 コンビニは、新たな成長源を見つけられるのだろうか。それとも、国内店舗数が 4 万店を超 えた今、過当競争で伸び悩む業界になってしまうのだろうか。人口減少・少子高齢化による市 場縮小は、内需型産業に共通する問題でもある。今回は「消費者ニーズへの対応」 、 「店舗フォ ーマットの多角化」 、 「海外進出」等をキーワードに、厳しい環境下でのコンビニの成長戦略に ついて考えてみたい。 1. コンビニ業界の現状 「タスポ効果」一巡で反動減に見舞われていたコンビニエンスストア販売額2(既存店ベース) が、回復基調をたどっている(図表1) 。 図表1 百貨店・スーパー・コンビニ販売額推移(前年比伸び率) % 15 コンビニ 10 5 スーパー 0 -5 -10 百貨店 7 4 10 10 /1 7 4 09 /1 7 10 4 08 /1 7 10 4 7 4 10 07 /1 06 /1 -15 注:既存店ベース 出所:経済産業省「商業動態統計調査」 タスポは、未成年者の喫煙防止を目的に導入された。2008 年 3 月の鹿児島、宮崎を皮切り に、同年 7 月には全国で稼動した。 2 経済産業省「商業動態統計調査」による。 1 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 2 コンビニエンスストア販売額は、 「タスポ効果」により、2008 年 5 月から 2009 年 5 月まで 前年同月比 13 ヵ月間連続プラスで推移したあと、 「タスポ効果」剥落、天候不順3、消費マイ ンド悪化による商品単価下落、ついで買い減少などにより低迷した。 だが、2010 年 7 月、コンビニエンスストア販売額の前年同月比伸び率は 14 ヵ月ぶりにプラ スに転じた。 「タスポ効果」反動減がなくなったことに加え、猛暑で飲料、冷麺等が好調だった ことによる。 2010 年 10 月には、コンビニ売上の約 2 割を占めるたばこが値上げされた4。値上げを前に した駆け込み需要もあり、7~9 月の販売額は前年比プラスと好調だった。 2. コンビニ業界の構造問題 回復傾向を見せているコンビニ業界だが、先行き課題は少なくない。大量出店により国内市 場が飽和に近づいていること、惣菜、弁当等利益率の高い分野における他業態(24 時間営業ス ーパー、ディスカウントストア等)との競合激化、少子高齢化、消費者の低価格志向などであ る。 (1) 大量出店で国内市場は飽和に近づく 1974 年、セブン-イレブンの第 1 号店開業から本格展開が始まったコンビニ業界は、長時間 営業、ワンストップ・ショッピングという高い利便性、消費者のニーズに合わせた商品開発、 。1990 品揃えのよさ5、フランチャイズ・システム6による大量出店で成長を遂げてきた(図表 2) 年代半ば以降、景気低迷で小売業全体の年間販売額が減少したときも売上を伸ばし、2009 年に は販売額で百貨店を上回った(図表 3) 。 だが、国内店舗数が 4 万店に近づくにつれ、高成長を遂げてきたコンビニ業界にも成長鈍化 の兆しが出てきた。まず変調をきたしたのが既存店ベース売上高である。2000 年前後になると 前年比マイナスとなる時期が多くなり、それまで順調に拡大していた全店ベースの売上高も頭 打ちとなった。大量出店によりコンビニ同士の競争が激化したことが大きいが、24 時間営業ス ーパー、ディスカウントストア等新たな競争相手の出現も売上減少の要因となった。 3 百貨店、スーパーに比べ、コンビニ販売額は天候に左右される度合いが高い。他業態に比べ て食品の比率が高いこと、その日購入しなければならないおかずの材料というより飲料、アイ スクリームといった天候の影響を受けやすい嗜好品寄りの商品が多いためである。売上は大雨 が降れば 1 割、雪が降れば 2 割減少すると言われる。 4 2010 年 10 月のたばこ税増税を機に、たばこメーカー各社はたばこを値上げした。日本たば こ産業の「マイルドセブン」を例にとると、1 箱 300 円から 410 円への値上げ。 5 コンビニは他の業態に比べ IT(POS データ等)活用度が高く、立地・季節・時間に応じて 商品構成を変えている。 6 フランチャイズ・システムは、本部(セブン-イレブン・ジャパン等)と加盟店が契約を結び 店舗運営を行う形態である。本部は物流・商品開発・広告・経営指導等に責任を負う代わりに、 加盟店は商品発注・接客・従業員採用等を行い、契約に従って本部にロイヤリティを支払う。 本部からみれば、直営店より少ない負担で出店できる。 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 3 図表2 コンビニ売上高・店舗数推移 売上高(左目盛) 兆円 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 83 85 87 89 91 93 店舗数(右目盛) 95 97 99 01 03 千店 05 07 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 09 年度 注1:売上高は全店ベース 注2:店舗数は3月31日時点の数値 出所:日本フランチャイズチェーン協会 図表3 百貨店・スーパー・コンビニの年間販売額推移 百貨店 兆円 スーパー コンビニ 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09年 出所:経済産業省「商業動態統計調査」 そうした中、コンビニ業界の救世主となったのが 2008 年 3 月の「タスポ」導入である。未 成年者の喫煙防止が目的のタスポだが、カード作成は面倒だと考える人、使うと監視されてい るようで嫌だと考える人がコンビニでたばこを購入するようになり、販売を押し上げた。タス ポ導入を機にコンビニに来店するようになったのは主に 40~50 代男性だが、コンビニ側が「缶 コーヒーいかがですか、フライドチキンいかがですか」などの声がけを奨励したこともあり、 ついで買いも誘発された。 だが、この好調期に新規出店も増加した。コンビニの国内店舗数は 5 万店が飽和点とされて 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 4 いる。足元の出店ペースは落ちているが、過当競争という問題が解決されたわけではない。 (2) 少子高齢化と消費者の低価格志向 少子高齢化と消費者の低価格志向という地殻変動も起きている。 日本の人口の 43%は 50 歳以上だが、セブン&アイ・ホールディングスの資料によれば、セ ブン-イレブンの 50 歳以上の顧客比率は年々上昇しているものの、まだ 28%である(図表 4) 。 性別では男性が顧客の過半を占めると見られ、 中高年層と女性を今以上に取り込む必要がある。 図表4 年齢別1日平均客数(1店舗あたり) 20 歳未満 セブン-イレブン(2 009年度) 20―29歳 10 日本 の年齢別人口 構成比(20 09年12月 1日確定値) 18 30― 39歳 22 11 23 14 40―49歳 17 50歳 以上 28 43 13 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100 % 出所:セブン-イレブン・ジャパン来店客調 査、総務省統計局 消費者の低価格志向も根強い。コンビニは日常的に食べる食品の比率が高いうえ(図表 5) 、 価格より利便性・新奇性を優先する 20~30 歳代男性客が多かった。他業態に比べると不況に 強いと言われた所以だが、低価格志向が若年層にも広がっていること、価格に敏感な中高年層 と女性を取り込む必要に迫られていることから、対応が求められている。 図表 5 主な小売業態の売上構成比(2009 年) 百貨店 コンビニ サービス 4% 非食 品 32% ファーストフード および日配商 品 34% 加工食品 30% スーパー その他 24% その 他 23% 衣料 品 13% 衣料品 48 % 飲食料品 28% 飲食料品 64% 出所:経済産業省「商業動態統計調査」 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 5 3. 新たな成長源を模索するコンビニ業界 ― 「セブン―イレブンに追いつけ!」から各社各様の戦略へ ― コンビニ各社はこうした構造問題にどう対応しているのだろうか。コンビニ業界は、他業態 に比べ寡占度が高い(図表 6)7。ここではセブン-イレブン・ジャパン、ローソン、ファミリ ーマートの大手 3 社を中心に課題への対処を見ていきたい。 図表6 コンビニ業界の全店売上高シェア(単体、2009年度) その他 16% ミニストップ 4% サークルK サンクス 11% セブン-イ レブン・ジャ パン 34% ファミリー マート 16% ローソン 19% 出所:経済産業省、各社発表資料 まず、国内市場への対応から見ると、①新規出店で成長してきたコンビニ各社が、市場が飽 和に近づくなか、新規出店から既存店のてこ入れに舵を切ろうとしていること、②2 位以下が セブン-イレブン・ジャパンの成功事例を追う展開になっていたのが、各社各様の戦略をとるよ うになってきたことが、最近の動きとして挙げられる。 国内市場への対応は大きく 2 つに分かれている。セブン-イレブン・ジャパンとファミリーマ ートが、既存店を強化する方向へ向かっているのに対して、ローソンは既存店強化に加え「ロ ーソンストア 100」 、 「ナチュラルローソン」など店舗フォーマットを多角化することで、顧客 を取り込もうとしている。 海外市場への進出も加速している。海外展開という点では、海外店舗数が国内店舗数を上回 ったファミリーマートの動きが目を引くが、セブン-イレブン・ジャパン、ローソンも前向きの 姿勢を見せている。 (1) 国内市場への対応 ① 個店強化のセブン-イレブン・ジャパン、ファミリーマート 大手コンビニ各社は、長い間新規出店で成長を続けてきた。だが、新規出店には弊害がある。 店舗数が増えれば 1 店あたりカバー人口は減少する。コンビニ間の顧客の奪い合いや他業態と の競争激化により、大手 3 社の日販は伸び悩んでいる。 小売主要業態の上位4社シェアを比較すると、コンビニ 80%、スーパー37%、百貨店 45% (2009 年度) 。 7 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 6 出店余地のあるうちは、既存店の売上の落ち込みを新規出店でカバーできるが、国内店舗数 が 4 万店を超えるに及び、その手法にも限界が見えてきた。既存店強化で売上アップを図ろう としているのがセブン-イレブン・ジャパンとファミリーマートである。 セブン-イレブン・ジャパンは、 「近くて便利」を打ち出すことで売上増を図っている。背景 にあるのが、小売店舗数の減少である。コンビニは増加しているが、小売業界全体では店舗数 がピーク時の約 7 割にまで減少している(図表 7) 。個人商店閉店、地方の地場スーパー倒産な どによるものだが、農村部は言うまでもなく、都市部でも商店街のシャッター通り化、スーパ ー閉店などにより、 「買い物難民」が現れている地域がある。高齢となり遠くまでいけない人、 フルタイムで働いているため調理に時間をかけられない女性の増加など、新たなニーズも生ま れている。セブン-イレブン・ジャパンはこれを商機ととらえ、近隣買い物需要を取り込もうと している。 図表7 小売店舗数の推移 万店 200 150 100 50 0 1982 1985 1988 1991 1994 1997 1999 2002 2004 2007 年 出所:経済産業省「2009 平成21年版 我が国の商業」 女性の就業率上昇、高齢者や単身者世帯の増加に伴いニーズが高まるのが、惣菜やサラダ、 日用品である。セブン-イレブン・ジャパンは、食品・飲料、日用品に幅広く展開するセブン& アイグループの共通プライベートブランド(PB=自主企画) 「セブンプレミアム」8の導入、店 内調理9の拡充でこうした需要を取り込もうとしている。 セブン-イレブン・ジャパン同様、従来型店舗のてこ入れで国内市場の変化に対応しようとし ているのがファミリーマートである。ファミリーマートでは、既にメイン顧客層が 20~30 代 から 30~40 代にシフトしている。顧客層の変化に伴い、同社は 2010 年度から「中高年層」 、 8「セブンプレミアム」は「NB 商品の品質と同等かそれ以上、2~3 割安、安心・安全」を目 指して開発されている。例えば「ポテトサラダ(120g、118 円) 」は保存料なしだが、チルド で 1 ヵ月保存できる。他にも「肉じゃが(185g、198 円) 」 、 「酢豚(180g、198 円) 」など、 メーカー明記・食べきりサイズ・お手ごろ価格を前面に打ち出して売上を伸ばしている。 9店内で揚げるフライドチキン(骨なし、165 円) 、コロッケ(80 円)などの種類も増やし、 「も う一品」需要をすくい上げようとしている。 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 7 「30 代」 、 「15 歳までの子ども」をターゲットに設定したが、最重視しているのが「中高年層」 である。 2008 年 4 月、ファミリーマートは刺身等の生鮮品や野菜を扱う「ファミマフレッシュ」コ ーナーを始めた。中高年層を主要ターゲットに据えた取組だが、生鮮商品へのニーズが高い都 市部を中心に取扱い店舗を約 5,000 店に拡大した10。惣菜の品揃えも拡充し、中高年層を中心 とする「家で食べる」需要の取り込みを目指している。 ② 店舗フォーマット多角化のローソン 一方、従来型の店舗では消費者ニーズの変化に十分対応できないとみて、店舗フォーマット の多角化に重点を置いているのがローソンである。 ローソンは従来型ローソン以外に、20~30 代の働く女性と健康志向の強い人をターゲットに した「ナチュラルローソン」 、生鮮コンビニ「ローソンストア 100」 、従来型とローソンストア 100 のハイブリッド型「ローソンプラス」 、店内調理強化型、ドラッグストアとコラボしたヘル スケア強化型の店舗フォーマットを展開している。中長期的には従来型から他店舗フォーマッ トへの転換を進め、国内ではヘルスケア強化型、生鮮強化型、店内調理強化型を柱に据える意 向である(図表 8) 。 図表 8 ローソンの店舗フォーマット多角化戦略 出所:ローソン 足元好調に推移しているのが、生鮮食品や PB 商品「バリューライン」を基本的に 105 円(税 込み)で販売する「ローソンストア 100」である。 「ローソンストア 100」は従来型ローソンと 異なり、マルチメディア端末など店内サービスがほとんどない。コンビニというよりミニ・ス ーパーに近く、主要顧客は主婦、高齢者、学生である。キャベツを 2 分の 1 カットにして 105 10 静岡県を除く関東・関西・中部地区限定。コンビニの生鮮食品へのニーズは、地方で低く都 市部で高い。これは、地方は世帯人員が都市部より多く、生鮮食品も車でスーパーに出かけ購 入することが多いのに対して、都市部住宅街では世帯のスリム化が進んでいる上、徒歩や自転 車での移動が多く、コンビニで生鮮食品も購入したい人が多いためである。 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 8 円で売るなど、小ロットで販売しているので、小家族や高齢者の支持を集めている。 人口減少が始まっている日本だが、単身世帯は増加している。また、高齢化が進むと、車で 乗りつけるような大型店舗より近所の小型店舗が好まれるようになる。高齢者は遠くへ行くこ とを好まないうえ、小型店舗のほうが品物を探しやすいためである。ストア 100 の商品は、ス ーパーに比べると割高な場合もあるが、 「近所にあって小ロット」は大きな魅力のようである。 ローソンは、店内調理強化型という新フォーマットも展開している。2010 年度に店内調理強 化型「ローソン神戸ほっとデリ」を関東・関西を中心に「ローソン」200 店舗に、2015 年度ま でに全国 1,000 店舗に展開する計画である。 コンビニ弁当の売上は、競争激化・価格低下で 13 年連続の前年比マイナスとなるなど、長 期低迷している。ほっとデリは店内にキッチンを設けることで「オムライス」などのできたて メニュー、セルフ式盛り放題コーナー、できたて弁当を提供する11。オフィス街ではランチ需 要が大きく、住宅街店舗では主婦が「もう 2、3 品」ということで盛り放題コーナーを利用す るケースが多い。足元、ほっとデリを始めた店舗は売上が 20~25%増加しており、ローソンは 「店内調理強化型」として店舗フォーマットの柱の 1 つに育てたいとしている。 (2) 低価格志向への対応 コンビニは長らく定価販売だった。だが、リーマンショック後の世界的な不況、所得の伸び 悩みで消費者の低価格志向が加速、 「コンビニは高い」と敬遠する人も出てきた。 大手 3 社中、ローソンは「ローソンストア 100」で低価格志向に応えているが、従来型ロー ソンでの安易な値下げには否定的である。NB商品を値下げしてもあまり売上が増加しないた めだが、PB商品「バリューライン(基本的に税込み 105 円) 」や主に女性をターゲットにした PB商品「ローソンセレクト」12の導入で、顧客層の拡大を狙っている。 セブン-イレブン・ジャパンとファミリーマートも、値下げとは基本的に距離を保っている。 デフレで NB 商品の価格が下落、スーパーの売価との差が開いて、一時期コンビニでの NB 商品の売れ行きが鈍ったが、セブン-イレブン・ジャパンは、NB 商品より 2~3 割安い PB 商 品「セブンプレミアム」導入で、低価格志向に対応しようとしている。 「セブンプレミアム」は メーカー明記で品質にも注意を払っており、 「安かろう悪かろう」とは一線を画している。 ファミリーマートは、コンビニは価格で勝負する業態ではないと見ている。安易な値下げは メーカー・物流・コンビニのいずれにとってもプラスにならず、価格と品質のバランスを重視 したいとしている。NB 商品で出せない風味を追求した「あじわい Famima Café」は、 「タ ピオカミルクティー(238 円) 」など、比較的高めの値段設定のため、当初「売れないのでは」 と見られていたが、2009 年 4 月から 2010 年 2 月末までの累計販売本数が 6,000 万本のヒット 商品になっている。 価格はオムライス 390 円、盛り放題コーナー390 円など。店内で飲食できる店舗もあるが、 基本的にはテイクアウトである。 12 「バリューライン」が少量・小分けで主に単身者・高齢者をターゲットにしているのに対し て、 「ローソンセレクト」はティシュ 5 箱(298 円)など家族向けで、NB 商品に比べ 2 割程度 安い。どちらを導入するかは、立地によって違う。 11 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 9 (3) 加速する海外進出 ① 大手コンビニ各社、海外進出の背景 大手コンビニ各社は、国内市場飽和を見越して海外進出を加速している。海外進出にはイン フラ構築に多大な費用と時間がかかること、日本とは商習慣や就労意識が異なるなどハードル が高く、実際に進出しているのはセブン-イレブン・ジャパン、ローソン、ファミリーマート、 ミニストップの 4 社にとどまっている(図表 9) 。 図表9 コンビニ大手3社の海外展開の状況 セブン-イレブン ローソン ファミリーマート 日本 12771 9761 7886 韓国 2449 台湾 4722 4985 2495 中国 1696 300 412 タイ 5511 米国 6579 その他海外 4704 587 9 3 海外小計 25661 300 8491 合計 38432 10061 16377 注1:セブン-イレブンの中国の店舗数のうち、北京・天津は93 注2:セブン-イレブンは2010年6月末、ローソンは2010年2月末(中国は2009年12月末)、ファミリーマートは2010年 7月末 出所:各社IR資料 1990 年代半ばまで、日本のコンビニの海外進出は、台湾のファミリーマート以外苦戦が伝え られていた。物流システムがなかなかうまく機能しなかったこと、フランチャイズの加盟者の 集まりが悪かったこと、人材の定着率の低さ、法規制などによる。ただ、コンビニは、物流等 インフラづくりが軌道に乗るまではなかなか店舗が増えないが、ある段階を超えると飛躍的に 拡大していく。日本のコンビニは、地域ニーズに密着した小型店舗の効率運営という点で、他 に例を見ない高度なノウハウを持っており、経済成長著しく「便利」を追求し始めたアジア諸 国を中心に受け入れ土壌があると見られる。 ② ファミリーマートは海外店舗数が国内上回る コンビニは、1 人当たり GDP が 3,000 ドルを超えると普及段階に入るとされる(図表 10) 。 海外店舗数が国内店舗数を上回り、海外進出に最も積極的な姿勢を見せているのがファミリ ーマートである。 セブン-イレブン・ジャパン、ローソンと違って日本発祥のコンビニである同社は、しがらみ もなかったことから早い時期から海外を目指し、主に現地有力企業と合弁会社を設立する形で 2010 年 7 月末時点で、 ファミリーマートの店舗数は国内 7,886 店、 海外店舗を展開している13。 海外 8,491 店と海外店舗数のほうが多い。2015 年度末には海外 1 万 5,500 店、日本 9,500 店 の 2 万 5,000 店体制を築くことを目指している。 ファミリーマートは、短期的には韓国、長期的には中国が有望と見ている。韓国で約 5,000 店を運営しコンビニ・ナンバー1 の地位にある同社は、韓国のコンビニ業界は、競合は厳しさ を増しているものの、経済規模から見てまだ出店余地があると見ている。リーマンショック後 の韓国では「節約」 、 「実用」が消費のキーワードとなっており、近場で買い物できるコンビニ は好調である。ファミリーマートは、今後 3~4 年、年 400~500 店のペースで出店を続ける予 ファミリーマートは 1988 年の台湾を皮切りに海外に進出している。小売はローカルな産業 という考えから、合弁企業を設立する際の持分比率は、基本的に現地パートナー51:ファミリ ーマート 49。 13 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 10 定である。 図表10 一人あたりGDP(名目、2009年)比較 1031 1060 2329 3678 3940 インド ベトナム インドネシア 中国 タイ 北京市 10070 11563 上海市 16392 17074 台湾 韓国 29826 32785 香港 EU 39731 日本 46381 米国 0 10000 20000 30000 40000 50000 ドル 注:EUは27ヵ国の数値 出所:日本貿易振興機構 長期的に最も有望と見ているのが中国である。中国は国営コンビニが優遇されるなど人治的 な面があること14 、フランチャイズ制度の運用面で難しい面が残っていること15 、都市部の賃 料の高さ、渋滞が激しい上海などでは交通規制が厳しく物流面で難しい面があることなど数々 のマイナス面もあるが、人口規模の大きさ、高い経済成長性に加え、米飯文化で食の嗜好が近 く、所得水準の向上に伴い「便利」を求める段階に達していることなど、大きな魅力もある。 現在、上海、広州、蘇州の 3 エリアで計 412 店を展開しているが、2015 年度末までに約 11 倍 の 4,500 店にまで増やす計画を発表している。 中国には、台湾をルーツとする中国の大手食品メーカー「頂新グループ」 、台湾ファミリーマ ート、伊藤忠商事と組んで展開している。上海に約 4,000 店ある地場コンビニは中食が弱く、 接客レベルも高いとはいえない。進出当初は、フランチャイズへの理解が薄く、ファミリーマ ートへの加盟希望者も少なかったが、利にさとい国民性もあり、儲かると見て希望者が増えて いるとのことである16。 ファミリーマートは、ベトナムにも進出した。ベトナムの 1 人当たりGDPはホーチミンでも 14中国のコンビニではたばこ販売がかなりの比率を占めるが、外資系コンビニのたばこ販売が 突然禁止されたかと思うと、批判を受けてその後撤回されるなど(現状は不明。当局次第とい う説もある) 、不透明な騒ぎが時として起きる。 15 中国では 2005 年に「商業特許経営管理弁法」が施行され、外資系企業がフランチャイズ経 営をできるようになった。だが、本部と加盟店が電気代を折半できないなど、日本で認められ ているスキームが十分活用できていない面もある。 16上海ではファミリーマート直営店の店長がフランチャイズのオーナーになるケースが多く、 現在、店舗の約 6 割がフランチャイズである。 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 11 1,600 ドルだが、経済成長が著しく新しい物好きの国民性もあり、将来性は高いと見ている。 この時期に出て行ったのは、コンビニ業界では最初に進出したチェーンがトップになることが 多いためである17。これまでエアコンも無いようなパパママストアしかなかったことから注目 度は高く、店舗あたり売上高は予想の 2 倍に達している。 ③ 重慶に進出したローソン ファミリーマートやセブン-イレブンが上海、北京といった中国沿海部に進出したのに対して、 内陸部の重慶に店舗展開を始めたのがローソンである。 ローソンは、1996 年と早い時期に上海に進出し、現在 300 店を構えている。工場、配送セ ンターも構築し、おでんやおにぎりで人気を集めているが、賃料が高騰していること18、競争 が激化していること、 現在の工場・配送センターの陣容では 300 店が適正規模であることから、 上海では状況を見ながら出店というスタンスをとっている。 今回進出した重慶は、北京・上海・天津に次ぐ中国第 4 の直轄都市であり、人口 3,200 万人 を擁する世界最大級の都市でもある。重慶はウォルマートやメトロなど外資系スーパーは進出 しているが、コンビニは国営も含めまったくない。中国(特に内陸部)は日本に比べ所得水準 が低いが、経済成長が続く中、多忙な人が増えていること、多少高くても「時間を買う」志向 があること、所得水準が上がるにつれ、 「安心・安全」への関心が高まっていること19から、コ ンビニへの潜在ニーズはあると見られる。 ローソンでは、ベトナム、インドネシア、インドなど、経済発展著しいアジア諸国への進出 も検討しているが、欧州も案外可能性があると見ている。日本同様高齢化が進展しており、小 型店舗が好まれる傾向にあるためである20。 ④ エリアライセンシー運営店舗の底上げ目指すセブン-イレブン・ジャパン セブン-イレブンはもともと米国生まれであり、北米・欧州・アジアにいたる世界 15 ヵ国(日 本を含めると 16 ヵ国)に進出、海外店舗数は大手 3 社中一番多い。ただ、セブン-イレブン・ ジャパン子会社が店舗を運営しているのは米国、カナダ、北京・天津であり、他の国・地域は 地元の有力企業がエリアライセンシーとして店舗を経営している21。 子会社が 93 店を運営している北京・天津では、調理人が各店舗で調理する弁当等が人気を 博している。中国人はもともと冷たい食事を好まないとされてきたが、経済発展につれ嗜好が 変わってきており、おにぎりや常温保存の弁当、サラダなども売れているとのことである。 17 韓国では最初に進出したファミリーマートがトップチェーンになった。 18上海で立地条件のよい場所の賃料は東京並みである。 2002 年冬から 2003 年春にかけて SARS が流行した際は、 「日本のコンビニなら安心」とい うことで、ローソンの売上が伸びた。 20 例えば、 イギリスの大手小売業者テスコは、高齢化により小型店舗志向が強まると見て、 「テ スコエクスプレス」というミニ・スーパーの展開に注力している。 21 セブン-イレブンの海外店舗は、エリアライセンシーが経営する形態が多いが、これは、も ともと米国でセブン-イレブンを展開していた米サウスランド社(現 7-eleven.Inc.)が、各国有力 企業とライセンス契約を結んでいたためである。 エリアライセンシーが統括する国・地域では、 収益の一部をライセンス・フィーとして 7-eleven.Inc.に支払う。 19 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 12 ここへきて、セブン-イレブン・ジャパンが注力しているのが、欧州、アジアなどのエリアラ イセンシー運営店舗の底上げである。 セブン-イレブンの各国店舗の日販を比較すると、1 位日本、2 位北京、3 位ハワイと、子会 社が運営するエリアが上位に並んでおり、同じ中国でもエリアライセンシーが運営する広州セ ブン-イレブンの日販は、日本の 4 分の 1 にとどまっている。店舗運営、商品力でセブン-イレ ブン・ジャパンに劣っているためだが、2010 年 3 月、東京に世界各国のセブン-イレブン・ラ イセンシーが集まる「インターナショナル・ライセンシー・サミット」が開催され、セブンイレブン・ジャパンの商品開発や情報システムなどについて情報共有がなされた。現在、世界 のセブン-イレブン年間売上高は 5.5 兆円だが、5 年後には店舗増と日販引き上げで同 10 兆円 に拡大することを目指している。 ⑤ アジア事業が収益寄与へ このように、大手 3 社は海外進出に積極的な姿勢を見せているが、収益にはどの程度寄与し ているのだろうか。 海外事業は、子会社や持分法適用会社が運営しているケースが多く、業績開示は一部にとど まっているが、セブン-イレブン(7-Eleven,Inc.)米国の業績は、厳しい経済状況にもかかわら ず底堅く推移している。 2009 年度業績をみると、 ガソリンが売上の 4 割弱を占めていること22、 円高が進行したことから、円ベースでの売上高は減少したが、完全子会社化による売り場改善 や商品開発てこ入れにより、ホットスナック、ピザ等中食が伸びて営業利益は微減にとどまっ た。セブン-イレブン北京の売上高は、順調に拡大している(図表 11) 。 図表11 セブン-イレブン北京の売上高推移 億円 60 50 40 30 20 10 0 2005 2006 2007 2008 2009 年度 出所:セブン& アイホールディングス「CORPORATE OUTLINE 2010」 22 2009 年度のガソリン価格は、前年度に比べ大幅に下落した。 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 13 コラム 北欧のセブン-イレブン 2010 年夏、北欧ツアーに参加した。 訪れたフィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマークの 4 ヵ国中、スウェーデン(191 店) 、ノルウェー(176 店) 、デンマーク(121 店)は欧州で唯一(いや、唯三つ)セブン-イレ ブンが展開する国である。あの労働者の権利意識の強い欧州で、なぜ北欧にだけセブン-イレブ ンがあるのか不思議ではある。 北欧のセブン-イレブンも、品揃えは日本によく似ている。食品がメインで、電池など日用品 を置いている。 北欧の物価は高い。現地ガイドによれば、世界一物価水準が高いのはノルウェー、2 位がス イスだそうである。ノルウェーのベルゲンという町で、レストランで食事をしたら 2 人で 3 万 円だった。贅沢をしたわけではなく、 「別にこれが普通」という感じである。 デンマークのコペンハーゲンのセブン-イレブンで昼食を買った。サンドイッチ、フルーツ・ ジュース、ビール、焼き鳥 2 本で約 3,000 円。ここまで来ると金銭感覚がおかしくなっていて、 「おお、安い」と感じる。サンドイッチは野菜やハム、ツナがふんだんに入っていておいしい。 焼き鳥はカウンターで温めた状態で販売されていて、 これも東京で売れそうなレベルである (な 。 ぜ焼き鳥なのかは不明。日本食ブーム23の余波か…) セブン-イレブン・ジャパンは海外エリアライセンシーのてこ入れを図っている。北欧セブン -イレブンのファストフードのレベルは高かった。値段も高かったけど。 ファミリーマートは、アッパーミドルをターゲットにした FAMIMA CORPORATION(米 国)が金融危機の直撃を受けて赤字に終わったものの、台湾、タイ、韓国は黒字を計上してい る。海外の利益貢献度(経常利益ベース)を、2009 年度の約 7%から 2015 年度には 20%近く まで伸ばしたい考えである。 ローソンの上海事業は 2006 年度に黒字化、2009 年度はほぼ収支とんとんだった(営業利益 ベース) 。 4. 業界再編の動向 2009 年 12 月、ファミリーマートがam/pm(コンビニ業界第 7 位、店舗数約 1,100 店)を買 収した。am/pmをめぐっては、当初ローソンが買収で合意していたものの、買収後の店舗名を どうするかで紛糾し、破談となった経緯がある24。1,000 店を超える規模の買収はコンビニ業 界初であり、成り行きが注目されたが、am/pmからファミリーマートに転換した店舗の売上は 約 3 割増加するなど、順調なスタートを切っている模様である。 ファミリーマートが am/pm を買収したのは、am/pm が首都圏に多くの店舗を持つためであ 余談になるが、ベルゲン(ノルウェー)には「Running Sushi(回転寿司のことらしい) 大 中国」という不思議な名前の飲食店があった。北欧の都市部では日本料理店をよく見かけた。 ヘルシーなイメージの日本食は、北欧でも大人気である。 24 ファミリーマートは、am/pm 買収にあたってブランド統一を主張、交渉は難航したが、最 終的には「ファミリーマート」に一本化することで合意した。 23 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 14 る。首都圏の消費者は、他地域に比べ購買力が高い。この買収により、ファミリーマートの都 内店舗数はセブン-イレブン・ジャパンに拮抗する規模となった。 もともとコンビニ業界は寡占状態にあるが、再編後、大手 3 社のシェアは一段と上昇した。 今後、新たな再編は起きるのだろうか。 コンビニは、情報システム構築に多額の投資が必要なうえ、PB 商品開発も一定の企業規模 がないと難しい。中小と大手の差は開きつつあり、大手が中堅以下を飲み込む形で一段の再編 が起きる可能性はある。 おわりに ここまで見てきたように、大手コンビニ各社は飽和に近づく市場25、競争激化、少子高齢化、 消費者の低価格志向といった構造問題に対して、国内では既存店の強化、海外ではアジアを中 心とする出店加速で乗り切ろうとしている。 中高年層、女性といった未開拓領域を開拓するにあたって、セブン-イレブン・ジャパンとフ ァミリーマートは個店強化、ローソンは店舗フォーマットの多角化と戦略が分かれているが、 POS データ等 IT を駆使し商品開発につなげるというコンビニのビジネスモデルは、大きな強 みとなるだろう。 一方、高い経済成長を遂げているアジア市場に隣接しているというのは、コンビニ業界にと って大きなプラスである。アジア諸国は所得水準が向上しているだけでなく、 「便利」を求める 時期にさしかかっており、高度なノウハウを蓄積している日本のコンビニにとって大きなビジ ネスチャンスとなりうる。国によっては人治国家的な側面が強い場合もあるが、こうした市場 を攻略できれば、コンビニの新たな成長源になると見られる。 参考文献 1) 川端基夫「日本企業の国際フランチャイジング 新興市場戦略としての可能性と課題」新 評論(2010) 2)高橋俊樹編著「世界の消費市場を読む 中間層を軸に広がるビジネスチャンス」ジェトロ (2010) (ご注意) ・当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、東レ経営研究所はその正確性を保証するもので はありません。内容は予告なしに変更することがありますので、予めご了承ください。 ・当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、何らかの行動を勧誘するものではありません。当資料に 従って決断した行為に起因する利害得失はその行為者自身に帰するものといたします。 25 ただ、セブン-イレブン・ジャパンには国内市場飽和の認識はない。同社は四国、東北等を 中心に未出店県が 9 県(2010 年 8 月末時点)あり、こうした地域に工場や物流網を構築すれ ばまだ拡大の余地があると考えているからである。 東レ経営研究所「TBR産業経済の論点」 2010. 10. 8 15