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季節はずれの「ヒラリー旋風」

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季節はずれの「ヒラリー旋風」
みずほインサイト
米 州
2014 年 5 月 26 日
季節はずれの「ヒラリー旋風」
欧米調査部
大統領選を「フライング」させたオバマの苦境
03-3591-1307
部長
安井明彦
[email protected]
○ 米国で、にわかにヒラリー・クリントン前国務長官を巡る報道が活発化している。背景には、2016
年大統領選挙における民主党候補者としての圧倒的な支持がある。
○ もっとも、大統領選の投票日までには相当の時間がある。現時点の世論調査のみに頼って、2016年
の大統領選挙に関する多くの示唆を得ることは難しい。
○ むしろ示唆されるのは、オバマ政権の苦境だ。「今年11月の中間選挙での巻き返しは困難」との認
識の広がりこそが、2016年大統領選挙が「フライング」気味で始まった真の理由である。
1.吹き荒れる「ヒラリー旋風」
米国では、にわかにヒラリー・クリントン前国務長官の周辺が騒がしくなっている。2014年5月中旬
には、日曜日に主要各局が放送するテレビ報道番組で、前長官の名前が98回も言及されたことが話題
になった1。2014年6月10日には国務長官時代を扱った2冊目の自伝が発売されるだけに、しばらく前長
官への注目度が高い状態が続きそうな雲行きだ2。国務長官退任から1年強。米国に、時ならぬ「ヒラ
リー旋風」が吹き荒れている。
背景には、2016年大統領選挙での民主党候補者としての圧倒的な支持がある。2014年4月に行われた
世論調査では、クリントン前長官を民主党候補者として支持する割合が約7割に達している(図表1)。
予備選候補者支持率
図表 2
民主党予備選トップ候補支持率
(%)
70
ヒラリー・クリントン
(前国務長官)
60
民
主
党
ジョー・バイデン
(副大統領)
50
40
エリザベス・ウォーレン
(上院議員)
30
クリス・クリスティー
(NJ州知事)
20
10
共
和
党
0
20
40
60
80
クリントン
ゴア
クリントン
ゴア
ハート
クオモ
ランド・ポール
(上院議員)
ケネディ
0
ケネディ
ジェブ・ブッシュ
(元FL州知事)
ケネディ
図表 1
1976 80 84 88 92 96 2000 04 08 12 16 (年)
(%)
(注)大統領選 2 年前の第 1 四半期に実施された調査の平均。
(資料)Enten(2014)により作成。
(注)2014 年 4 月 13~15 日調査。
(資料)Fox News 調査により作成。
1
クリントン前長官の人気の高さは、過去の選挙と比較しても突出している。Enten(2014)は、1976
年の大統領選挙まで遡り、予備選挙初期(大統領選2年前の第1四半期)にトップだった候補者の支持
率を比較している(図表2)3。これによれば、民主党で過去に前長官ほどの支持を集めた例はない。
次いで高支持率を記録した2000年選挙でのアル・ゴア氏は当時の現職副大統領であり、民主党候補へ
の選出が当然視されていた。そう考えると、前長官の人気の高さはさらに際立つ。
「ヒラリー旋風」は、早くも2016年の大統領選挙が始まったかのような状況を生み出している。前
述の5月中旬の報道の盛り上がりは、ジョージ・W・ブッシュ政権の上級顧問だったカール・ローブ氏
が、クリントン前長官の健康問題が大統領選挙の障害となる可能性を示唆したことがきっかけだった。
実際の政策運営の舞台でも、前長官の存在感は復活している。先頃下院に設けられたリビアでの米国
領事館襲撃事件に関する調査委員会では、前長官が証言を求められる可能性が取り沙汰されており、
大統領選挙への影響を案ずる前長官側近が、関係者と対応を協議していると報道されている4。
共和党との状況の違いも鮮明だ。民主党とは対照的に、候補者争いは過去にない混戦様相。飛び抜
けて高い支持を集めている候補者は存在しない(前傾・図表1)。Enten(2014)による比較でも、共
和党トップ候補の15%を割り込む支持率は、1976年以降の最低水準となっている5。
2.深読みは禁物
もっとも、現時点の世論調査から2016年大統領選挙への多くの示唆を読み取ろうとすることには慎
重であるべきだろう。2016年11月8日の大統領選挙投票日までには、2年以上の時間がある。2014年の
議会中間選挙すら終わっていない現時点での盛り上がりは「フライング」であり、深読みは禁物だ。
2016年の大統領選挙でクリントン前長官が勝利するまでには、三つのハードルがある。第一に、前
長官が出馬を決断するかどうかだ。例えば健康問題は、前長官が出馬をためらう理由になり得る。投
票日時点で69歳となる前長官は、出馬すれば過去の候補の中でも高齢になる(図表3)。2012年12月に
は脳血栓が見つかったこともあり、大病を経験した夫のビル・ク
図表 4
リントン元大統領の健康とあわせ、不安材料になりかねない。
潜在的な民主党候補
ジョー・バイデン
1 マーティン・オマリー
図表 3
選挙年
大統領候補の年齢
共和党
民主党
候補
生年
年齢
1980 レーガン
1911
69
年齢差
候補
生年
年齢
カーター
1924
56
13
84 レーガン
1911
73
モンデール
1928
56
17
88 ブッシュ
1924
64
デュカキス
1933
55
9
92 ブッシュ
1924
68
クリントン
1946
46
22
96 ドール
1923
73
クリントン
1946
50
23
2000 ブッシュ
1946
54
ゴア
1948
52
2
04 ブッシュ
08 マケイン
1946
1936
58
72
ケリー
オバマ
1943
1961
60
47
▲2
25
12 ロムニー
1947
65
オバマ
1961
51
14
クリントン?
1947
69
16
(注)網掛けは当選候補。投票日時点の年齢。年齢差は「共和党-民主党」。
(資料)各種資料により作成。
2
副大統領
メリーランド州知事
エリザベス・ウォーレン
上院議員
アンドリュー・クオモ
ニューヨーク州知事
クリスティン・ジルブランド
上院議員
デバル・パトリック
マサチューセッツ州知事
ブライアン・シュバイツァー
前モンタナ州知事
ジョン・ヒッケンルーパー
コロラド州知事
エイミー・クロブシャー
上院議員
ジェイ・ニクソン
ミズーリ州知事
マーク・ワーナー
上院議員
2
3
(注)有力度が高い順に1からランク付け。
(資料)Cillizza(2014)により作成。
第二のハードルは、民主党の予備選挙を勝ち抜くことである。民主党で潜在的な大統領候補と目さ
れているのは、クリントン前長官だけではない(図表4)6。前長官の人気の高さゆえに、有力候補が
出馬を見送る気配はある。しかし、ビル・クリントン政権時代を含めた「クリントン流」の中道路線
には、民主党内リベラル派の不満が燻っている7。振り返れば、過去の民主党の予備選挙では、平均す
ると3人以上の有力候補が出馬してきた8。Enten(2014)にあるように、1976年以降の大統領選挙にお
いて、民主党の予備選挙初期にトップだった候補のうち、実際に民主党の候補に勝ち残ったのは、2000
年のゴア副大統領(当時)のみである(前傾・図表2)。
当然のことながら、第三のハードルは本選挙での勝利である。米国では民主党と共和党の勢力が拮
抗している。まして2016年の大統領選挙は、民主党のバラク・オバマ政権が二期続いた後の選挙であ
る。同政権のメンバーでもあったクリントン前長官は、「民主党政権の三期続投」を有権者に納得さ
せなければならない。現時点での高支持だけを理由に、「楽勝」を予測するのは無理がある。
不安材料はある。例えばクリントン前長官が大統領候補となった場合には、過去に民主党が勝利し
た1992年(ビル・クリントン大統領)や2008年(オバマ大統領)の選挙のように、「チェンジ」を掲
げて戦うのは容易ではないかもしれない。1980年以降の大統領選挙では、ほとんどの場合において民
主党候補が共和党候補よりも若年だった(前傾・図表3)。これに対して2016年の場合には、潜在的な
共和党の候補者は前長官よりも総じて年齢が若い。有力候補の一人と目されるジェブ・ブッシュ元フ
ロリダ州知事は、投票日の時点で63歳。マルコ・ルビオ上院議員に至っては、45歳である。
現時点でクリントン前長官が有利な立場にあるのは疑うべくもない。出馬すれば、米国初の女性大
統領を目指し、強力な候補になるだろう。但し、波乱が起きる可能性を排除するには、時期が早すぎ
る。現時点の数字から多くの示唆を得ようとすることには、慎重であるべきだろう。
3.「フライング」を招いたオバマ政権の苦境
2016年大統領選挙の行方はともかく、「ヒラリー旋風」が明白に示しているのは、オバマ政権が陥
った苦境の深刻さだ。2016年大統領選挙が「フライング」気味で始まった背景には、「今年11月の中
間選挙での巻き返しは困難」との認識の広がりがある。
オバマ政権は、低空飛行が続いている。共和党が下
院の多数党を占める「ねじれ議会」を相手に、二期目
の政策運営は、これといった成果があげられないまま
推移している。足元ではやや上向いているとはいえ、
大統領支持率も50%を割り込んだままだ(図表5)。
こうした中で米国では、「オバマ政権は指導力を発
揮できない状況から抜け出せない」という見方が広が
っているように感じられる。巻き返しの数少ない機会
と目されている中間選挙でも、一向に民主党への追い
風が吹かないからだ。
図表 5
オバマ大統領支持率
(%)
65
支持
60
55
50
45
40
35
30
25
不支持
20
15
2009年1月 2010年9月 2012年5月 2014年1月
(注)10 日間移動平均。
(資料)Real Clear Politics により作成。
3
中間選挙での民主党の戦況は厳しい。主要機関の予測では、下院での民主党の多数党奪回は、ほぼ
絶望とされている。むしろ焦点は、民主党が多数党を死守しなければならない上院に移っている。そ
の上院では、共和党の議席増が確実視されており、
図表 6
過半数をはさんだ厳しい戦いが繰り広げられてい
中間選挙の戦況
る(図表6)。
(議席)
中間選挙で民主党が下院の多数党を奪回できな
上院
ければ、オバマ政権がレイムダック化を回避する
民主党優勢
ことは難しくなる。こうした停滞感の強まりが、
(民主 党現有)
次に変化が起こり得るタイミングとして、一足飛
拮抗
びに2016年の大統領選挙が意識されている背景に
共和党優勢
ある。
(共和 党現有)
下院
47
192
(55)
(201)
5
12
48
231
(45)
(234)
2016年の大統領選挙を展望すれば、かつては政
権の一員だったクリントン前長官にとっても、オ
バマ政権の苦境は逆風になり得る。「季節はずれ」
であるだけに、一見すると前長官にとっては嬉し
(注)下院は Cook Political Report、Rosenberg Political
Report、University of Virginia の 3 社、上院は
FiveThirtyEight、New York Times を加えた 5 社の平
均。2014 年 5 月 26 日確認時点での最新発表予測。
(資料)各社資料により作成。
いはずの「ヒラリー旋風」も、必ずしも良い兆し
ではないのかもしれない。
1
Fuller, Jaime(2014), “Hillary Clinton’s Name was Mentioned 98 Times on the Sunday Shows. 98!”, Washington
Post, May 19
2
Clinton, Hillary Rodham(2014), Hard Choices, Simon & Schuster, June 10
3
Enten, Harry(2014), “GOP Field Hasn’t Been This Split in 40 Years”, FiveThiryEight, March 21
4
Sherman, Jake and Anna Palmer(2014),“Clinton Allies Pressured Dems on Benghazi”, POLITICO, May 21
5
Enten(2014)集計による第 1 四半期の共和党支持率トップは、マイク・ハッカビー前アーカンソー州知事。同氏が
実際に予備選挙に出馬すると見る向きが決して多くない点からも、共和党の混戦ぶりが伺える。
6
Cillizza, Chris(2014),“ Hillary Clinton is the Only Person who Can Stop Hillary Clinton”, Washington
Post, May 18
7
圧倒的な人気が注目されているクリントン前長官だけに、予備選挙では多少の苦戦となっただけで本選挙に悪影響が
及びかねない。Williamson, Elizabeth(2014),“Former Montana Governor Brian Schweitzer Auditions as Hillary
Clinton's Populist Challenger”, Wall Street Journal, May 21
8
Sabato, Larry J.,(2014), “Hillary’s No Slam Dunk in 2016”, POLITICO, January 20
●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに
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