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衛星画像で見る世界大河のフラクタル性評価
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE Title 衛星画像で見る世界大河のフラクタル性評価 Author(s) 後藤, 惠之輔; 川内, 透; 内田, 篤志 Citation 長崎大学工学部研究報告 Vol.28(51) p.193-198, 1998 Issue Date 1998-07 URL http://hdl.handle.net/10069/5039 Right This document is downloaded at: 2017-03-30T15:40:03Z http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp 長崎大学工学部研究報告 第28巻 第51 号 1 93 平成 1 0年 7月 衛星画像 で見 る世界大河のフ ラクタル性評価 後 内 藤 田 恵之輔 *・川 篤 志 *** 内 透 ** Fr a c t a lEva l ua t i o no fWo r l dLa r geRi ve r s Us i ngSa t e l l i t el ma ge r i e s by Ke i n o s u k eGOTOH*, To mKAWACHI ** a n dAt s u s h iUCHI DA*** Thema ino bj e c t i veo ft hi ss t udyi st ome as ur et hef r a c t a ldi me ns i o nsa ndt hec ha r ac t e is r t i c so fbo t h t hewo r l dl a r ger i ve r sa nds omeJ a pa ne s eo ne sbyus i ngs a t e mi t ei ma ge r i e sa nds a t e l l i t er emo t es e ns i ng nume r a lda t a,r e s pe c t i ve l y.Thef ol l owi ngr e s ul t swe r eo bt ai ned:( 1 ) Thef r a c t a ldi me ns i onsofwo r l d l a r ger i ve r sc ha r a c t e r i z et heo ut l i neo fr i ve r swhi c hha vet heva l ue sof1 . 0 0t o1. 2 0,( 2 ) Theus eo f s at e l l i t er e mo t es e ns i ngda t ama ke st hef r a c t a le va l ua t i o no fr i ve r sve r ye a s y,and( 3) I ti sve r yus e f ult o me as ur et hef r ac t l di a me ns i o nso fr i ve r sbyc o mbi ni ngbo t ht hes a t e l l i t ei ma ge r ya ndt her e mo t es e ns i ng nume r a lda t a. Fi nal l y, t hea ut ho r sc o nc l udedt I l a tt hede c i s i o noft r a ns ve r s ea ndl o ngi hdi na lf r ac t a ldi me ns i o nsofr i ve r saswe l la spl a neonei sofi mpor t a nc ei nt hej udgme ntofr i ve r si mpr o ve me ntwo r ks. 1.は じめに 本研究では,衛星画像 か ら世界の河川のフラクタル 最近,フラクタル という言葉 をよ く見かけ るように 次元 を求め る とともに,国内の河川のフラクタル次元 r a c t us な った。 フ ラクタル とは,語源が ラテン語の f を衛星 リモー トセンシングデー タか ら求め,それぞれ で ,「破 片 , こわ れ た」 とい う意 味 で あ る。 Man- の河川の特徴 を捉 える ものであ る。 de l br o t の命名 に よる自己相似性 を持つ図形 の ことを 言 う。新 しく定義 したフラクタル次元 によ り,複雑 な ) , 2 ) . 図形 を簡単 に表 す ことがで きるようにな った 1 2.フラクタル理論 フラクタル とは,Ma nde l br o t が提唱 した理論 であ そのフラクタル次元 を求め るには,デ ィバ イダーで り, 自己相似性 を持つ図形 を意味す る。彼 は今まで取 測 る方法やボ ックスカウソテ ィソグ法な どがあ る。本 り扱 えなか った複雑 な図形 の中に,フ ラクタル とい う 研究では,衛星画像及 び衛星 リモー トセンシングデー 一つの数学的捉 え方 を発見 した。 自己相似性 を持つ と タを使用す るため,ボ ックスカウンテ ィング法 を用 い い うことは,図形の一部分 を拡大すれば同 じような図 た。衛星 リモー トセンシン グデー タは正方形 メ ッシ ュ 形 が見 え,巨視的に見て も微視的 に見て も形 が大 して デー タであ る性質上 ,いちいち対象物 ( 又は対象地) 変わ らない とい うこ とであ る。不規則 な海岸線や山の を正方形 で細分する必要 がな く,かつ極めて容易 にそ 起伏,雲 の形 な どは,フラクタル性 を持つ と言われて の個数 をコンピ ュー タで計算で きる利点 があ る。 い る。 また , これ 以 外 に もフ ラ ク タル性 を持 つ 形 1 998 年 4月24日受理 *社会開発工学科 ( De pa r t me ntofCi ilEng v ine e r i ng) **大学院修士課程社会開発工学専攻 ( Gr a dua t eSt ude nt ,De pa r t me nto fCi vi lEngi nee r i ng) ***基礎地盤 コンサル タンツ ( 秩) ( Ki s oJ i ba nCo ns ul t nt a sCo. ,Lt d. ) 1 9 4 後藤恵之輔 ・川内 透 ・内田 篤志 や現象が次 々 と発見 されている1 ) ・ 3 ) . あ る k次元 の図形 を a倍 に相似拡大 すれば , k 倍 にな る。 しか し,フ ラクタル図形 にお 量は a いては kが整数 とは限 らない. この ときの kを フラクタル次元 と定義する。全体の構造 を分割 し, 分割 されたそれぞれの差 し渡 しが全体 の a分 の 1になるように した とき,各 々の部分が全体 と統 計的 に相似であ り, これ らの個数が平均 b個であ る とき, ak-bであ るため,全体の構造のフラク タル次元は k-l ogabであ る。 一般 に,曲線の次元は l次元 と 2次元の間にあ る と考 え られ る4) o フラクタル次元を求め る とい うことを要約すれば,次の ようである。 ( D与 え られた構造の部分 を拡大 した ものが,全体 と同 じように見えるか どうかを確かめ,その構 造 がフラクタルか どうかを確認する。 図 - 1 アマゾン川 ( マナウス付近,原図は文献 7)による) ( 令差 し渡 しが何分の 1の ものが平均何個集 まって 全体 を構成 しているかを調べ,フラクタル次元 を対数 を使 って求める。 以上の二つを調べれば,ある構造の複雑 さを特 徴づけた ことになる5) 0 3.世界大河のフラクタル性 3.1測定方法 6) 本研究では,フラクタル次元の測定方法 として ボ ックスカウンテ ィング法を使用する。ボ ックス カウソテ ィング法 とは以下の とお りであ る。 図 一 2 イルチシ川 ( 西 シベ リア,原図は文献 9)による) 図形 Ⅹが一辺 dの正方形 N( d)個 で覆 われた とす る。 ここであ る定数 kにおいて,様 々な大 きさの一 d) を測定 した ところ, 辺 dに対 し正方形 の個数 N( N( d) と dk の間に比例関係 N( d)-〝dk( βは正の定数) 3.2 測定結果 アマゾン川 とイルチシ川の測定結果 について,その 自然対数 をプロ ッ トした ものが図 -3である。見た 目 がある とき, 自然対数 を とれば, に単純そ うな河岸線であるアマゾン川 ( 右岸)のフラ l ogN( d)ニーkl ogd+l ogf l クタル次元は,図 - 3 ( a) よ り0 . 9 9であ り, 1に近 とな り,l ogN( d)と l ogdの関係は直線の式 を意味 し い値 が得 られた。逆 に,見た 目に複雑そ うな西シベ リ てい る。 したが って,一辺 の長 さ d とその正方形 の アのイルチシ川 ( 右岸)のフラクタル次元は,図 -3 個数 N( d) を測定 した とき,l ogN( d) と l ogdの間 ( b) よ り1.1 8であ った。理論上,直線のフ ラクタル に債 き -kの直線関係があれば,kをフラクタル次元 次元は 1であ り,また平面全体のフラクタル次元は 2 とする。 であるため,曲線のフラクタル次元は 1か ら 2の間で また,本研究の測定 に用 いたデー タは L ANDS AT あ ると考 え られ る。アマゾン川の右岸は 1より小 さい 画像集 7 ) ・8) ・9)を使用 し,河川の線形 を抽 出 して測定 値 が得 られているが,フラクタル次元が 1に近 い値 で を行 う。対象 としたのはそれぞれの河川の本流のみで あったため,測定時の誤差が影響 して本来の値 よ り小 ある。測定 に用いた河川の例 として,アマゾン川 ( マ さ くな り, 1をわずかに切 った と考 え られ る。 また, ナウス付近)の河岸線 を図 - 1に,西 シベ リアのイル イルチシ川の ように複雑 と思われる河岸線のフラクタ チシ川のそれを図 -2に示す。 ル次元は,測定前に想像 していたほ どには大 き くなか った。 1 95 衛星画像で見る世界大河の フラクタル性評価 1 3 2 4 2 1 5 3 1 ogd 1 ogd ( a) アマゾン川 ( b) イルチシ川 4 図 - 3 アマゾン川 とイルチシ川の l o gd-l o gN( d)関係 ( 右岸のみ) 義 - 1世界河川のフラクタル次元の例 河 川 川幅 左岸 右岸 全体 アマゾン ( ブラジル .マナウス) L 0. 9 8 0. 9 9 1. 34 イルチシ ( ロシア .ハンチマンシークス) S 1. 1 6 1.1 8 1. 1 5 ユーフラテス (トル コ .ケバン) S 1. 05 1. 03 1. 05 セーヌ ( フランス .パ リ) S 1. 0 8 1 . 06 1 .1 2 スモーキー ( カナダ .アルバ-タ州) M 1. 05 1. 02 1. 1 0 モスクワ ( ロシア .モスクワ) S 1. 0 8 1. 1 4 1. 1 5 タパホヌ ( ブラジル .イタイ トバ) L 0. 9 7 0. 98 1. 1 8 ウス リー ( ロシア .ビギン) S 0. 9 9 0. 99 1. 04 ソソカー ( ベ トナム .ビン) S 1. 0 8 1. 06 1. ll スワン ( オース トラリア .パ-ス) S 1. 06 1. 04 1. 08 マ レー ( オース トラリア .ミルヅ- ラ) S 1.1 5 1. 1 5 1. 1 4 名 注)L:川幅大 ,M :川幅中,S:川幅小 同様 に,その他の世界大河 について,測定結果のい くつかを表 - 1に示す。表 - 1より,左岸 と右岸のフ ラクタル次元には大 きな差はな く,それぞれ同 じよう 4.衛星デ ータを用いた 日本河川のフラクタル性 4.1 測定方法 衛星 リモー トセンシン グデー タ と して ,SPOT, な値が得 られている。すなわち,同 じ河川では左岸, LANDSAT/ TM,LANDSAT/ MSS デー タを用いる. 右岸は同 じような複雑 さであった。ほ とん どの川の河 これ らの衛星デー タでは,地上の大 きさがそれぞれ異 00- 1 . 20の範囲に集中 して 岸線はフラクタル次元が1. なっている。そ こで 2画素 ×2画素, 3画素 ×3画素 いたため,河川の河岸線はそれほ ど複雑な曲線ではな と,正方形の一辺をデータが読める範囲まで変 えてい いことが言える。 したがって,河川の河岸線のフラク d)個 で覆 わ き,その とき図形 Xがそれぞれ画素 N( タル次元は1. 00 程度の値か ら,大 き くて も1. 2 0 程度 に れた とする. 3.1と同様に,ある定数 kにおいて, なる と考 え られ る。 また,川幅を含めた河川全体のフ 様 々な正方形 の一辺 dに対 し画素の個数 N( a)を測 ラクタル次元は,義 - 1の 「 全体」 にあるように川幅 定 した とき,l o gN( d)と l o gdの間に傾 き-kの直 が広いほ ど大 きな値が得 られている。 線関係があれば, kをフラクタル次元 とす る。 1 9 6 後藤恵之輔 ・川内 透 ・内田 篤志 本章では,対象 として筑後川,六角川のフラクタル 性 を調べ る。筑後川は筑後大堰付近 よ り下流の本流の みを,六角川は北方町 と武雄市の境界付近 より下流の 本流のみ を対象 とした。 また,筑後川の SPOT画像 a) に,LANDSAT/ TM 画像 を画像 を画像 1 1 ( 1( ち) に,LANDSAT/MSS画像 を画像 - 1 ( C) にそれぞれ示す。 4.2 測定結果 図 -4は,筑後川左岸の結果 について,その 自然対 数 をプ ロ ッ トした ものであ る。SPOT デー タか らの a) よ り1. 03,LANDI フ ラク タル 次元 は図 - 4 ( SAT/ TM データか らのフラクタル次元は図- 4 ( b) よ り1 . 00,LANDSAT/MSSデー タか らのフ ラクタ C) よ り1 . 0 0であった。それぞれの ル次元は図 - 4 ( 衛星デー タか ら求まったフラクタル次元に大 きな差は な く,似たような値 が得 られている。 しか し,筑後川の場合 ,LANDSAT/ MSSデー タ ではデー タが 5個 しか得 ることがで きなかった ( 図一 ( a)S POT画像 ( 1 9 8 6. 1 0. 2 0 観測) ( b)LANDSAT/ TM 画像 ( 1 9 9 2. 9. 1 7 観測) 4( C) 参照 )。 そ こで ,SPOT, LANDSAT/TM , LANDSAT/ MSS のデー タ 3つをま とめるこ とで, ( C)LANDSAT/ MSS画像 ( 1 9 7 9, 8. 8 観測) 画像 - 1 筑後川下流域の衛星画像 1 9 7 衛星画像 で見 る世界大河の フラクタル性評価 データ数の少な さを補 うこ ととした。 3つのデー タを 一つに した ものが図 - 5であ る. 図 - 5よりフラクタ ル次元は1. 01 であ った。 プロ ッ トした点 もはば直線上 にあ り ( 相関係数 rニー0. 998),フラクタル性 を有 し ている と言 える。それぞれの衛星 デー タか ら求めたフ ラクタル次元 と大 きな差 はな く,河岸線のフラクタル 次元を求め る場合, 3つのデー タをま とめることも可 能 であ ることが言 える。 筑後川,六角川の測定結果 を表 - 2に示す。表 - 2 よ り両河川 ともに左岸,右岸 に大 きな差 はな く,両河 3 3. 5 4 4. 5 5 5. 5 6 l ogd 岸 は同 じ程 度 の複 雑 さを持 ってい る とい うこ とにな る。 また, 3つの衛星デー タをま とめて も,同 じ様な フラクタル次元 が得 られ ることが分 かる。 ( a)SPOT 4 3 3. 5 4 4. 5 5 5. 5 6 l ogd 4. 5 5 5. 5 I ogd ( C)LANDS AT/ MSS ( b)LANDSAT/ TM 図 -4 筑後川左岸の l o gd-l o gN( d )関係 ● A SP OT L ANDSAT/ TM □ L ANDSAT / MSS 3 3. 5 4 4. 5 5 5. 5 6 l ogd 図 一5 筑後川左岸の l o gd-l o gN( d)関係 (デー タ併用) 6 1 9 8 後藤恵之輔 ・川内 表 -2 筑後川,六角川のフラクタル次元 祝 後 川 六 角 川 透 ・内田 薄志 いため,河川 を横断的,縦断的に見て,そのフラク タル次元を求めてい くことが今後の課題である。 左岸 右岸 全体 左岸 右岸 全体 SPOT 参 考 1 . 0 31 . 0 31 . 7 91 . 01 1 . 01 1 . 6 0 LANDSAT/ TM 1 . 0 01 . 0 01 . 6 21 . 0 01 . 0 01 . 5 8 LANDS AT/ MSS 1 . 0 01 . 01 1 . 3 81 . 0 41 . 01 1 . 3 6 文 献 1)佐藤文隆 ・蔵本 由紀 :イ ミダス9 6,集英社 ,p. 9 62, 1 9 9 6. 2)高安秀樹 ・高安美佐子 :フラクタルって何だろう, 8 8, 1 9 8 8. ダイヤモン ド社 ,p. 5.まとめ 本研究の結果,得 られた成果をま とめれば,次の と お りである。 ( 1 )世界大河における河岸線のフラクタル次元は,河 . 0 0 川の線形 を特徴づけることがで き,その値は1 程度にある。 1. 2 0 ( 2)川幅を含めた河川全体のフラクタル次元は,川幅 が広 いほ ど大 きな値 を持つ。 ( 3)衛星 リモー トセンシングデータを用いることで, 河川のフラクタル次元が容易に求め られる。 ( 4)異なる衛星 リモー トセンシングデータを組み合わ せて,フラクタル次元を測定することがで きる。 著者 らの研究では,本論及び文献 6) に見 られる ように,これまで河川を平面的 に しか見て きていな 3)石村貞夫 ・石村園子 :フラクタル数学,東京図書, p. 2 3 8, 1 9 9 0. 4)岡部恒治 :イミダス9 6,集英社 ,p. 9 8 4, 1 9 9 6, 6 9-7 5. 5)前出 2),pp. 6)後藤恵之輔 ・川内 透 ・内田篤志 ・前間英一郎 : 衛星 リモー トセンシングデータを用いた河川線形 と 海岸線形のフラクタル性評価,土木構造 ・材料論文 集 ,γo l . 1 3 ,pp. 1 41 -1 4 8, 1 9 9 7. 1 2. 7)チ ャールズ ・シェフイール ド:宇宙か ら見た地球 1 0 -1 5 9, 1 9 8 3. 文明 MANONEARTH,旺文社 ,pp. 8)辻井連一 ・飯坂譲二 :宇宙か ら見た世界の森林, p. 1 4 -1 4 9, 1 9 8 6. 共立 出版 ,p 9)前島郁雄 ・飯坂譲二 :宇宙か ら見た世界の地理, p. 6 -1 2 5, 1 9 9 2. 共立 出版 ,p