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第3次愛媛県イノシシ適正管理計画 (特定鳥獣保護管理計画)
第3次愛媛県イノシシ適正管理計画 (特定鳥獣保護管理計画) 平 成24年3月 愛 媛 県 目 次 1 計画策定の目的及び背景 ......................................................... 1 2 保護管理すべき鳥獣の種類 ....................................................... 1 3 計画の期間 ...................................................................... 1 4 保護管理が行われるべき区域 ..................................................... 1 5 保護管理の目標 .................................................................. 2 (1)現状 .......................................................................... 2 ア 生息環境 .................................................................... 2 イ 生息動向及び捕獲状況 ....................................................... 4 ウ 被害及び被害防除状況 ....................................................... 9 エ 狩猟者登録数 ................................................................ 11 (2)保護管理の目標................................................................ 12 ア 管理区分..................................................................... 12 イ 保護管理目標................................................................. 12 (3)目標を達成するための施策の基本的考え方....................................... 12 6 数の調整に関する事項 ........................................................... 14 (1)個体数管理 .................................................................... 14 (2)個体数管理の方法.............................................................. 15 7 生息地の保護及び整備に関する事項 ............................................... 15 8 その他保護管理のために必要な事項 ............................................... 15 (1)被害防止対策 .................................................................. 15 (2)モニタリング等の調査研究 ................................................... 16 (3)計画の推進体制 ............................................................. 16 1 計画策定の目的及び背景 イノシシは、日本に古くから生息する野生動物で、生態系を構成する一要素として、また、貴重な 狩猟資源として重要な役割を果たしている。 しかし、本県においては、これまであまり見られなかった島嶼部でもイノシシの捕獲実績が報告さ れるなど、近年、イノシシの生息地域が県内のほぼ全域に拡大し、中山間地域や島嶼部を中心に農林 作物等への被害が深刻化しており、食害による直接的な被害はもとより、農業者等の生産意欲の減退 にもつながる社会問題となっている。イノシシ被害に対しては、防護柵の設置等による被害防除対策 や加害獣を捕獲する有害鳥獣捕獲等が実施されてきたが、農林作物等の被害減少にまでは至っていな い。 こうした状況の中、イノシシによる農林作物等被害を軽減して、人とイノシシとの共存を図るため には、イノシシの生息状況や農林作物等の被害状況等を把握し、専門家や関係者の幅広い協力を得な がら、効果的な捕獲、被害防除、集落環境の整備等の対策を総合的に講じることにより、計画的な保 護管理を図る必要があることから、平成 16 年3月、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成 14 年法律第 88 号)に基づき、イノシシの生息数を適正なレベルにコントロールするための目標と手 法を定める特定鳥獣保護管理計画の策定に至った。 その後、第2次計画(平成 19 年度~平成 23 年度)を経て、狩猟の規制緩和等によりイノシシの生 息数の適正管理に努めた結果、農林作物等被害額の増加は抑えることができたが、被害レベルは横ば いのまま推移している。 このため、当計画では、農林作物等被害額を、増加が始まる以前の平成5年度のレベルに抑えるこ とを保護管理の目標とし、捕獲圧を強化してイノシシの生息数の適正管理に努め、引き続きイノシシ の長期にわたる安定的維持とイノシシによる被害の軽減を図ることとする。 2 保護管理すべき鳥獣の種類 イノシシ 3 計画の期間 本計画の期間は、平成 24 年4月1日から平成 29 年3月 31 日までの5年間とする。 4 保護管理が行われるべき区域 愛媛県全域とする。 - 1 - 5 保護管理の目標 (1)現状 ア 生息環境 (ア)地勢 本県は、県を東西に横断する中央構造線を境として北側には瀬戸内海に面した平野が広がり、 南側には四国山地や四国カルストが広がっており、全体的に山地の多い地形となっている。一 方、瀬戸内海、宇和海には大小 200 余の島々が散在し、県東部から中部にかけての瀬戸内海沿 岸は遠浅の砂浜海岸が続き、佐田岬半島から南の宇和海沿岸はリアス式海岸となっている。 (イ)気候 本県の瀬戸内海沿岸地域は、年間降水量が 1,100~1,500mm と少なく、年平均気温 16℃前後 と比較的温暖な瀬戸内気候となっている。一方、県南西部の宇和海沿岸地域や山間部の年間降 水量は、1,600~2,000mm と比較的多い。 また、山間部では、冬季になるとかなり気温が下がり、比較的多量の積雪も見られる。 (ウ)植生 県の総面積 5,677km2 のうち林野面積は約 4,000km2 で県土の約 70%を占めており、そのうち 約 2,460km2 が人工林となっている。 環境省自然環境基礎調査(植生メッシュ)によると、愛媛県における第 2・3 回(昭和 54・58 ~61 年)~第 4・5 回(平成元~10 年)にかけて植生の変化は、市街地、耕作地植生等が増加し、 コナラ林などの雑木林が含まれるヤブツバキクラス域代償植生が減少しており、里山が宅地化 する様子がうかがえる。また、植林地の面積はほとんど変化していない。 表-1 自然環境保全基礎調査における植生メッシュ(1km×1km)数の比較 コード 植生区分名称 植生例 市街地 等 第 2・3 回調査 第 4・5 回調査 昭和 54・58~62 年 平成元~10 年 262 269 0 その他 1 寒帯・高山帯自然植生 0 0 2 亜寒帯・亜高山帯自然植生 0 0 3 亜寒帯・高山帯代償植生 ササ群落 7 7 4 ブナクラス域自然植生 スズタケ-ブナ群団 等 45 45 5 ブナクラス域代償植生 ブナ-ミズナラ群落 等 149 148 6 ヤブツバキクラス域自然植生 サカキ-ウラジロモミ群落、ウバメガシ群落 等 109 109 7 ヤブツバキクラス域代償植生 コナラ群落、オンツツジ-アカマツ群落 等 1189 1179 8 川辺・湿原・塩沼地・砂丘植生 ヨシクラス、ツルヨシ群集、砂丘植生 等 5 5 9 植林地・耕作地植生 スギ-ヒノキ植林、畑地雑草群落 等 3660 3667 2516 2517 うち植林地 - 2 - (エ)耕作地の利用状況 本県の平成 22 年の耕作地面積は 37,042ha で、平成 17 年(40,623ha)の約 91%に減少して おり、これに伴い、平成 22 年の耕作放棄地面積は 10,416ha と平成 17 年(9,620ha)の約 108% に増加している。 〔図-1〕 これらの要因としては、高齢化・過疎化による農業の担い手の減少、農作物の価格低迷等に よる収益性の悪化等が考えられ、耕作地の管理不足や放棄等による雑草の繁殖や未収穫作物等 の放置等が、野生鳥獣を人里に呼び込む要因となっている。 耕作地面積の推移 700 耕作地面積(百ha) 600 500 400 300 200 100 0 H2 H7 H12 H17 H22 H17 H22 耕作放棄地面積の推移 120 耕作放棄地面積(百ha) 100 80 60 40 20 0 H2 H7 H12 資料: 「農林業センサス」 図-1 耕作地面積と耕作放棄地面積の推移(県全体) - 3 - イ 生息動向及び捕獲状況 (ア)生息の分布状況 平成 21 年度のイノシシ狩猟結果によると、県内のほぼすべての地域でイノシシの捕獲が確 認されていることから、イノシシの生息地域は県内全域に及んでいると考えられる。 特に、以前はほとんど確認されていなかった中島、大三島、弓削島等の島嶼部でも、近年、 イノシシの捕獲が報告されるようになっており、生息地域は拡大傾向にある。 〔図-2〕 0 頭 1~9頭 10~29 頭 30~69 頭 70 頭以上 愛媛県自然保護課資料 図-2 平成 21 年度イノシシ捕獲位置 - 4 - (イ)生息数の状況 イノシシは増加率が極めて高く短期間で大幅な個体数の変動があることから、個体数や生息 密度については、科学的な推定方法が確立されておらず、その生息数を把握することは困難で あるが、平成 22 年度に農家、狩猟者を対象に行ったアンケート調査(対象者数 1,000 人、回 答率 56.5%)結果では、過去 10 年間でイノシシの生息数が「非常に増加」 、 「やや増加」の回 答が全体の 81.6%を占めており、生息数の増加傾向が推測される。 また、回答にはイノシシの秋仔の増加を指摘する意見も多かった。 (ウ)捕獲状況 イノシシの捕獲頭数は、 平成5年度までは 2,000 頭を下回っていたが、 平成 10 年度には 4,000 頭を超え、 平成 14 年度には 8,000 頭超、 平成 21 年度には約 12,000 頭、 平成 22 年度には約 17,000 頭と急増している。 また、イノシシは狩猟と有害鳥獣捕獲により捕獲されており、従来、狩猟による捕獲の比率 が高かったが、平成 22 年度には有害鳥獣捕獲がほぼ半分(約 49%)を占めるようになってい る。 〔図-3〕 地域別にみると、狩猟、有害鳥獣捕獲ともに南予地域が多く、平成 22 年度の捕獲頭数は県 全体の約5割、有害鳥獣捕獲は約7割を占めており、他地域と比較して有害鳥獣捕獲の比率が 高い。 〔図-4〕 18,000 16,000 狩 猟 有害捕獲 捕獲頭数(頭/年度) 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 S56 S57 S58 S59 S60 S61 S62 S63 H1 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 図-3 イノシシ捕獲数の推移 - 5 - 愛媛県自然保護課資料 東予 10,000 9,000 狩 猟 捕獲頭数(頭/年度) 8,000 有害捕獲 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 中予 10,000 9,000 狩 猟 捕獲頭数(頭/年度) 8,000 有害捕獲 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 南予 10,000 9,000 狩 猟 捕獲頭数(頭/年度) 8,000 有害捕獲 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 (単位:頭/年度) 県全体 東予地域 中予地域 南予地域 県外者 年度 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 狩 猟 1,517 1,574 1,807 2,153 2,785 2,342 3,235 3,923 有害捕獲 449 276 328 341 611 636 1,343 1,521 計 1,966 1,850 2,135 2,494 3,396 2,978 4,578 5,444 狩 猟 451 382 398 432 728 466 594 858 有害捕獲 40 36 35 33 80 71 139 109 計 491 418 433 465 808 537 733 967 狩 猟 395 559 544 858 1,073 907 1,276 1,481 有害捕獲 151 100 93 106 214 177 371 425 計 546 659 637 964 1,287 1,084 1,647 1,906 狩 猟 577 574 806 776 940 893 1,305 1,517 有害捕獲 258 140 200 202 317 388 833 987 計 835 714 1,006 978 1,257 1,281 2,138 2,504 狩 猟 94 59 59 87 44 76 60 67 H12 3,610 1,911 5,521 687 169 856 1,387 586 1,973 1,478 1,156 2,634 58 H13 3,999 2,019 6,018 707 182 889 1,314 537 1,851 1,862 1,300 3,162 116 H14 5,108 3,260 8,368 943 398 1,341 1,908 905 2,813 2,183 1,957 4,140 74 H15 3,829 2,854 6,683 680 287 967 1,343 719 2,062 1,746 1,848 3,594 60 図-4 地域別イノシシ捕獲数の推移 H16 5,254 3,351 8,605 999 403 1,402 1,723 808 2,531 2,436 2,140 4,576 96 H17 4,395 2,862 7,257 818 273 1,091 1,323 677 2,000 2,177 1,912 4,089 77 H18 4,400 3,948 8,348 788 341 1,129 1,308 816 2,124 2,189 2,791 4,980 115 H19 4,959 3,426 8,385 911 327 1,238 1,233 416 1,649 2,706 2,683 5,389 109 H20 6,069 4,851 10,920 1,113 429 1,542 1,770 993 2,763 3,049 3,429 6,478 137 H21 6,696 4,944 11,640 1,908 599 2,507 1,719 975 2,694 2,919 3,370 6,289 150 H22 8,797 8,311 17,108 2,667 1,062 3,729 2,194 1,715 3,909 3,801 5,534 9,335 135 愛媛県自然保護課資料 また、平成 22 年度における免許別の狩猟による捕獲頭数は、第一種銃猟によるものが約 5,000 頭で全体の約 58%を占め、わな猟によるものは約 3,700 頭、同約 42%となっている。 - 6 - (エ)その他 ・イノシシの生息環境嗜好性 平成 22 年 12 月~平成 23 年2月に県内 111 地点で痕跡調査を実施した。 〔図-5〕 環境別に確認された痕跡例数をみると、耕作放棄地で 94 例と最も多く、次いで果樹園で 86 例、畑で 73 例と多かった。これらの環境に低木林を加えた4環境で、今回確認された痕跡の約 7割を占めていた。 環境別に痕跡種類の違いを見ると、痕跡が残りやすい畑や水田、空き地、耕作放棄地等にお いて足跡の占める割合が大きく、足跡が残りにくい広葉樹林や低木林、笹原、竹林等では代わ りに獣道が残されていた。これら2種類の痕跡は、いずれもイノシシの移動の目安となりうる ものである。 ヌタ場は水田や耕作放棄地、果樹園等において多く確認でき、掘り返しは全ての環境におい て確認できたが、特に笹原や広葉樹林において少なかった。また、擦り付けは樹木の有無に左 右されるため、ほぼ針葉樹林や低木林、果樹園等に限定されていた。 環境の特性によって残りやすさに相違があるものの、イノシシが残すこうした痕跡は、イノ シシの生息環境嗜好性を推測する重要な手がかりになるものであり、被害防止対策を検討する 上でも参考になると考えられる。 食痕 針葉樹林 広葉樹林 低木林 笹原 竹林 果樹園 水田 畑 耕作放棄地 道路及び道路端 空き地 ヌタ場 掘り返し 0 2 0 0 0 2 0 5 9 3 0 21 0 1 0 0 0 10 4 3 10 0 0 28 4 3 14 1 7 29 16 27 32 8 2 143 巣 抜け毛 鳴き声 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 0 0 0 0 2 0 0 3 目撃 けもの道 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 合計 2 6 17 3 7 8 2 1 8 4 0 58 11 18 54 6 16 86 31 73 94 39 8 436 80% 60% 40% 20% 空き地 道路及び道路端 耕作放棄地 畑 糞 抜け毛 水田 果樹園 足跡 巣 けもの道 竹林 笹原 擦り付け 掘り返し 目撃 低木林 食痕 ヌタ場 鳴き声 広葉樹林 0% 針葉樹林 空き地 道路及び道路端 耕作放棄地 畑 糞 抜け毛 水田 果樹園 足跡 巣 けもの道 竹林 笹原 擦り付け 掘り返し 目撃 低木林 広葉樹林 食痕 ヌタ場 鳴き声 糞 0 1 3 0 0 10 7 19 7 11 5 63 100% 針葉樹林 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 足跡 1 0 3 0 0 6 0 0 1 0 0 11 確認例数比率 確認例数 合計 擦り付け 4 4 17 2 1 21 2 18 25 11 1 106 資料:平成 22 年度野生鳥獣生息調査事業 「イノシシ生息調査事業」報告書 図-5 環境別痕跡確認状況 - 7 - ・イノシシの食餌嗜好性 平成 23 年1月~2月に県内において捕獲されたイノシシ 12 個体の胃の内容物について分析 した。 〔図-6〕 胃内容物湿重量を比較すると、東予の5個体では、ほとんど食餌していない個体が1個体見 られたが、その他の個体は胃内容物湿重量が比較的多い個体であり、中予の1個体も、他と比 較して多かった。一方、南予の6個体は全体としてやや少なめであった。 胃内容物の内容項目の占める割合については、胃内容物湿重量が比較的多い個体については、 内容項目も多岐にわたり、また、そのバランスもやや均等化している傾向が認められた。一方、 胃内容物が少ない個体では、単一の内容に偏っている傾向が強かった。 なお、胃内容物から見た食餌選択性には地域性が認められず、餌が少ない場所では根茎等の 限られた種類の餌に依存せざるを得ないものと推察される。 このことから、生息地において、餌が限定された場合、ある程度は根茎等でしのぐことがで きるが、逆に、近くに畑地や果樹園といった容易に餌が確保できる環境があった場合、それを 優先的に餌場とする可能性があると考えられる。 個体 番号 四国中央市 〃 西条市 今治市 〃 松山市 西予市 大洲市 宇和島市 〃 愛南町 〃 合計 A B C D E F G H I J K L 内容物の種類別割合(%) 湿重量 (g) 捕獲場所 堅果類 1,151 907 2,428 174 1,047 2,304 1,164 925 775 537 708 670 種子 果実 塊茎・根 5.00 30.00 11.24 10.00 20.00 8.72 20.00 2.37 20.00 18.21 1.67 0.25 7.34 68.50 8.89 2,500 その他 95.00 62.50 25.00 87.92 89.60 47.50 97.63 50.00 68.75 82.93 87.22 30.00 54.02 15.35 37.50 15.00 0.84 1.68 32.50 30.00 13.04 17.07 11.11 1.25 14.40 100% 90% 胃内容物湿重量比率(%) 胃内容物湿重量(g) 2,000 1,500 1,000 500 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 0 A B C 東予 堅果類 種子 D E 中予 果実 F G H I J K A L C 東予 南予 塊茎・根 B 堅果類 その他 図-6 胃内容物の分析状況 - 8 - 種子 D E 中予 果実 F G H I J K L 南予 塊茎・根 その他 資料:平成 22 年度野生鳥獣生息調査事業 「イノシシ生息調査事業」報告書 ウ 被害及び被害防除状況 (ア)被害状況 平成 22 年度に行ったヒアリング調査結果から得られたイノシシによる被害分布の状況をみ ると、東予から中予にかけては主に水田、南予では畑に対する被害が大きかった。 〔図-7〕 あわせて実施したアンケート調査結果から、イノシシによる被害発生時期は平成になってか らとの回答が多く、平成 10 年頃からとの回答が最も多かった。また、被害増加の意識は、南 予、中予、東予地域の順で強かった。 100% 回答数比率 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 東予 中予 南予 地方区分 水田 畑 栗林 水田 その他 畑 栗林 その他 資料:平成 22 年度野生鳥獣生息調査事業 「イノシシ生息調査事業」報告書 図-7 イノシシ被害を受けている環境 平成 14 年度のイノシシによる農林作物等の被害状況は、被害額でみると県全体で約2億円 であり、うち果樹が約 8,000 万円、稲が約 7,000 万円、野菜類が約 1,500 万円となっている。 平成5年度からの被害額の推移をみると増減をくり返しているが、全体的に増加傾向にあり、 平成 14 年度は平成5年度の約2倍に、平成 22 年度には約 2.5 倍になっている。 また、被害面積をみると、昭和 62 年から平成 7 年度まで平成4年度を除いて約 400ha 前後 で推移し、平成8年度に急増して約 800ha を超え、平成 12 年度には 1,300ha を超えてピーク に達した。 〔図-8〕 〔表-2〕 - 9 - 単位:千円 H5 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 101,000 175,000 164,184 213,667 180,751 195,785 192,729 218,132 216,987 326,018 203,076 224,357 201,746 248,884 獣害全体 140,000 225,000 238,764 263,887 235,295 228,787 229,341 266,935 258,992 375,086 249,911 272,556 255,088 312,439 イノシシ 350 被害額(百万円) 300 250 200 150 100 50 0 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H7 H8 H9 H10 1400 1200 稲 芋類 野菜 果樹 その他 被害面積(ha) 1000 800 600 400 200 0 S58 S59 S60 S61 S62 S63 H1 H2 H3 H4 H5 H6 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 愛媛県担い手・農地保全対策室資料 図-8 イノシシによる農林作物等の被害額・被害面積の推移 表-2 イノシシによる作物別・地域別被害額 H14 H22 東予地域 中予地域 南予地域 県全体 東予地域 中予地域 南予地域 県全体 稲 23,226 21,607 25,129 69,962 11,064 7,232 30,935 49,231 果樹 16,700 18,432 46,450 81,582 25,993 45,942 78,674 150,609 野菜 3,110 6,000 5,804 14,914 2,071 2,252 7,034 11,357 芋類 3,185 2,036 7,775 12,996 4,102 100 22,220 26,422 その他 4,590 7,581 4,160 16,331 1,125 20 10,120 11,265 単位(千円) 耕作地面積当たり 計 50,811 3,806 55,656 4,028 89,318 4,598 195,785 4,202 44,355 4,513 55,546 5,807 148,983 9,319 248,884 7,034 愛媛県担い手・農地保全対策室資料 - 10 - (イ)被害防除状況 平成 22 年度のアンケート調査結果によると、回答者のうち約半数が被害防除対策を行って おり、金網柵、電気柵、トタン板、防護ネット等を設置している。このうち、最も効果のある 被害防除対策として、電気柵の設置をあげたものが多かった。 県では、被害防止対策を推進するため、金網柵や電気柵等の被害防除施設の整備に対して助 成を行っているが、 「設置金額が高い」 、 「手間がかかる」 、 「管理が大変」等の意見もあった。 エ 狩猟者登録数 県内の狩猟者登録数は、年々減少し続けているが、わな猟の割合が増加している。 〔図-9〕 6,000 網・わな猟 網猟 わな猟 第一種銃猟 第二種銃猟 狩 猟 者 登 録 数 (人 ) 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 図-9 免許種別狩猟者登録数の推移 愛媛県自然保護課資料 狩猟免許者も同様に平成年間で減少しており、平成 22 年度には、60 歳以上が6割強を占め、 狩猟に携わる人の高齢化が進行している。 〔図-10〕 12,000 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60歳以上 免 状 交 付 件 数 (件 ) 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 S42 S43 S44 S45 S46 S47 S48 S49 S50 S51 S52 S53 S54 S55 S56 S57 S58 S59 S60 S61 S62 S63 H1 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 図-10 年齢別狩猟免許交付件数の推移 - 11 - 愛媛県自然保護課資料 (2)保護管理の目標 ア 管理区分 管理の単位は地域個体群で行うのが基本であるが、イノシシの場合には県内の分布が連続して おり、地域個体群管理は保護管理上あまり重要ではないと考えられる。また、地域区分による捕 獲や被害状況の既存情報が不足していることから、本計画では地域区分は設定しない。 なお、今後、イノシシの捕獲数及び被害の動向などの十分な地域情報が得られた段階で、地域 区分の設定を検討することとする。 イ 保護管理目標 対症療法的な有害鳥獣捕獲による捕獲ではなく、捕獲数と被害状況をモニタリングしながら計 画的に捕獲する捕獲管理システムを確立し、併せて被害防除対策を推進することにより、農林作 物等の被害を低減させながら、自然環境とバランスのとれた形でイノシシの個体数管理を行う。 しかし、現状では県内におけるイノシシの生息密度や個体数を推定できないことから、農林作 物等被害を管理目標の指標とする。引き続き当面の管理目標として、被害が急増する以前の水準 まで農林作物等被害を抑えることとし、 「被害額を平成5年度のレベルに抑える。 」とする。 なお、モニタリング結果により、必要に応じて見直しを行うこととする。 (3)目標を達成するための施策の基本的考え方 科学的・計画的な保護管理を行うため、各施策の実施、モニタリングと評価、施策の見直しを繰 り返し行って、長期的に取り組むことが必要である。 そのため、モニタリングによりイノシシの生息数の指標となる捕獲数と被害額の正確な情報を一 体化して把握するとともに、イノシシの生息数の動向と各種施策による農林作物等被害軽減効果の 評価を行い、次年度の各施策や次期計画に反映させることとする。 〔図-11〕 - 12 - 特定鳥獣保護管理計画 ・個体数管理 ・被害防除対策 ・生息地の保護及び整備 ・計画の推進体制 施策実行計画 施策の実行 捕獲状況の把握 生息動向の把握 被害状況の把握 有害鳥獣捕獲申請 農協共済申請 被害報告 鳥獣害防除施設の整備状況 人工的な環境の把握 生息環境の把握 愛媛県特定鳥獣適正管理検討委員会 評価・検討 図-11 イノシシ適正管理のフロー - 13 - フィードバック 有害鳥獣捕獲日誌 狩猟日誌 実態の把握(モニタリング) フィードバック 関係機関、狩猟者、農家の協力 6 数の調整に関する事項 (1)個体数管理 平成5年度以降の捕獲頭数と被害状況の推移では、捕獲頭数は、有害鳥獣捕獲頭数の増加に伴い 全体に増加傾向にあるにもかかわらず、被害額は平成5年度と平成 17 年度から 22 年度の平均値を 比較すると 2.4 倍に増加している。 〔図-12〕 保護管理目標の「被害額を平成5年度のレベルに抑える。 」ためには、当面の間、強力な捕獲圧を 加えることが必要である。 そのため、本計画期間中においては、狩猟期間を拡大することで、主として狩猟圧の強化による 対応とするとともに、必要に応じて許可による捕獲を実施することにより、平成 17 年度から 22 年 度の平均捕獲頭数の 2.4 倍である年間 25,000 頭を目標に捕獲に努めることとする。 なお、目標捕獲数については、モニタリング調査結果に基づき必要に応じて見直すこととする。 10,000 350 9,000 捕獲頭数(頭/年度) 7,000 250 6,000 200 5,000 4,000 150 3,000 100 被害額(百万円) 300 8,000 2,000 50 1,000 0 0 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 狩猟 年度 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 被害額 (千円) 101,000 112,014 92,752 143,631 131,056 175,000 164,184 213,667 180,751 195,785 192,729 218,132 216,987 326,018 203,076 224,357 201,746 248,884 有害捕獲 狩猟 1,517 1,574 1,807 2,153 2,785 2,342 3,235 3,923 3,610 3,999 5,108 3,829 5,254 4,395 4,400 4,959 6,069 6,696 8,797 被害額 捕獲頭数(頭) 有害捕獲 計 449 1,966 276 1,850 328 2,135 341 2,494 611 3,396 636 2,978 1,343 4,578 1,521 5,444 1,911 5,521 2,019 6,018 3,260 8,368 2,854 6,683 3,351 8,605 2,862 7,257 3,948 8,348 3,426 8,385 4,851 10,920 4,944 11,640 8,311 17,108 伸び率 0.94 1.15 1.17 1.36 0.88 1.54 1.19 1.01 1.09 1.39 0.80 1.29 0.84 1.15 1.00 1.30 1.07 1.47 捕獲頭数:愛媛県自然保護課資料 被 害 額:愛媛県担い手・農地保全対策室資料 図-12 イノシシの捕獲頭数と被害額の推移 - 14 - (2)個体数管理の方法 ア 狩猟期間の延長 県内全域の捕獲圧を高め、目標捕獲頭数を達成するために、法令で定められている狩猟期間 11 月 15 日から2月 15 日までを 11 月1日から3月 15 日まで延長する。 イ 休猟区における狩猟の特例制度の活用 県内の休猟区の全部又は一部についてイノシシに関して捕獲等をすることができる区域を指定 し、本計画の効果的・効率的な目標達成を図る。 ウ 狩猟における禁止猟法の一部解除 イノシシについては、輪の直径が 12cm を超えるくくりわなによる狩猟を認めることとする。 エ 箱わなの奨励 狩猟者の高齢化が進む中で、銃猟による捕獲は次第に困難になりつつあること、被害が大きい 人里近くの耕作地に出没するイノシシの銃猟による捕獲は危険が大きいことから、農業者による 自衛のためのわな猟免許の取得を推進し、補助金による助成を含め箱わなによる捕獲を奨励する とともに捕獲技術の向上を図る。 7 生息地の保護及び整備に関する事項 鳥獣保護区等の指定による生息環境の保護を図るとともに、長期的には、人工林の間伐等による下 層植生の回復、広葉樹林の導入等による森林構成の多様化などイノシシが生息できる自然環境の整備 を図り、人による生産活動とイノシシの生息場所の棲み分けができる環境づくりを進めていく必要が ある。 また、被害の多い中山間地域においては、耕作放棄地や周辺の山林の管理不足がイノシシの餌場や 隠れ場として生息に適した環境を提供していると考えられることから、中山間地域振興施策等関連施 策との連携を図りながら、耕作放棄地や竹林等の管理など、耕作地周辺の被害要因の排除に努めるよ う地域住民への啓発を行う。 なお、休猟区等の指定にあたっては、イノシシの極端な増加要因とならないよう、農林作物等の被 害状況等に応じ、地域の実情にあった指定を行う。 8 その他保護管理のために必要な事項 (1)被害防止対策 野生鳥獣による農林作物等被害を軽減させるには、効果的な捕獲により個体数を調整するだけで なく、集落への侵入を防ぐことが極めて重要である。このため、未収穫作物等の除去や農地周辺の 草刈など、有害鳥獣を呼び込まない集落環境の整備や、金網柵、電気柵、トタン板、防護ネット等 の設置など、有害鳥獣を侵入させないための被害防除施設の整備を積極的に推進し、集落ぐるみで 取り組む鳥獣害防止対策の普及に努める。 また、研究機関等で開発された効果的な被害防除方法について情報を収集するとともに、農業者 や地域の指導者等に対し研修会等を通じて適切な被害防止対策の普及に努める。 なお、施設整備等の推進にあたっては、各種補助制度の積極的な導入を図るとともに、助成につ いて情報の提供に努める。 - 15 - (2)モニタリング等の調査研究 本計画を実効性の高いものとするためには、モニタリング調査等により、その生息分布、捕獲数・ 捕獲場所、被害発生場所・被害規模等の情報を収集し、その結果を客観的に評価し、保護管理へ反 映することが重要である。 このため、以下のモニタリング等の調査研究を実施する。 ア 狩猟による捕獲数等の把握 狩猟期間の捕獲実態を把握するため、毎年、猟友会の協力を得て狩猟実態調査を実施する。 狩猟日誌を県猟友会の各支部に配布し、出猟月日、捕獲方法、出猟場所、従事者数、出合数、 捕獲頭数等の調査を行う。 イ 有害鳥獣捕獲による捕獲数等の把握 有害鳥獣捕獲による捕獲実態を把握するため、毎年、市町・捕獲隊(者)の協力を得て有害鳥獣 捕獲実態調査を実施する。 有害鳥獣捕獲日誌を各市町を通じて配布し、出動月日、捕獲方法、捕獲場所、捕獲従事者数、 出合数、捕獲頭数、個体の性別等の状況調査を行う。 ウ 農林作物等被害状況の把握 生息数の推移をみる1つの指標である農林作物等被害の状況について、毎年、県関係機関、市 町、JA、JA共済等の協力を得て、被害発生場所、被害作物、被害規模等の調査を行う。 エ 被害防除状況の調査 市町の協力を得て被害防除状況について場所、規模、種類等の調査を行う。 オ モニタリング情報のデータベース化 モニタリングで得られた捕獲や被害の位置に関する情報は、イノシシの生息分布を把握するた めの基礎資料として重要である。収集された情報を集積・管理し、定量的に整理・解析するため のデータベースの構築について検討を行う。 (3)計画の推進体制 ア 愛媛県特定鳥獣適正管理検討委員会 専門的な見地により、本計画の実施状況、モニタリング調査等の調査結果の分析・評価を行う とともに改善点や計画の見直しについて検討を行う「愛媛県特定鳥獣適正管理検討委員会」を設 置する。 イ 関係機関等の連携・協力 本計画の推進にあたっては、地域住民はもとより、幅広い関係者の理解と協力を得ることが不 可欠である。そのため、県及び市町の行政機関、猟友会、JA等の関係機関が相互に連携・協力 して各施策を推進する。 また、本計画の広域的かつ効果的な推進を図るため、 「愛媛県鳥獣害防止対策推進会議」 、 「愛 媛県鳥獣害防止対策班」 、 「地区鳥獣害防止対策協議会」において県レベル、地域レベルで各施策 を総合的に検討、実施するとともに、 「四国地域野生鳥獣対策ネットワーク」との連携を図り、 隣接県との情報交換や連絡調整による適切な対策を検討するものとする。 - 16 - ウ 捕獲実施体制の整備 目標捕獲頭数の達成に向けて、捕獲圧を確保するため、狩猟免許の取得促進や捕獲技術の向上 を図り、狩猟者の人材育成を推進する。 これに加えて、有害鳥獣捕獲にあたっては、捕獲隊等の組織化を促進し、計画的な捕獲に努め るものとする。 愛媛県特定鳥獣 適正管理検討委員会 四国地域野生鳥獣 対策ネットワーク 愛媛県農産園芸課 担い手・農地保全対策室 愛媛県自然保護課 各地方局産業振興課 愛媛県猟友会 猟友会支部 各地方局(支局)森林林業課 ・地域農業室 愛媛県鳥獣害防止 対策推進会議 愛媛県鳥獣害防止 対策班 地区鳥獣害防止対策 協議会 各市町 農業関連機関(JA等) 鳥獣保護員 狩猟者・捕獲者 農家・地域住民 図-13 推進体制 - 17 -