...

公認会計士 不動産鑑定士補 石渡 朋徳

by user

on
Category: Documents
30

views

Report

Comments

Transcript

公認会計士 不動産鑑定士補 石渡 朋徳
「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(案)」に向けて
公 認 会 計 士
不動産鑑定士補
石 渡 朋 徳
企業会計基準適用指針公開草案第6号の公表を受けまして、会計監査及び不動産鑑定評価
の双方の実務経験より、回収可能価額(正味売却可能価額)について、下記に私見をまと
めましたので、ご参考になれば幸いです。
第 27 項について
正味売却可能価額の算定において、
「不動産については、
『不動産鑑定評価基準』
(平成 14
年 7 月1日全部改正)に基づいて算定する。
」とある。
ここで第一に、不動産鑑定評価基準では、会計上の時価概念すなわち正味売却可能価額や
再調達価額といった概念を有していないことに留意すべきである。したがって、本草案に
基づき自社で見積もることはもちろん、不動産鑑定士に依頼したとしても、本来の目的で
ある正味売却価額の算定は困難なものと考える。
極端な例を挙げると、倒産等で資産の早期売却を進める必要のある不動産などは、通常の
半値という場合もあり得る。これは、売却までの期間の短さ等に起因する。これは極端な
例であるが、想定する売却期間を定める必要性もあろう。また、大規模工場など個別性が
特に強く、相当の需要の減退が想定される。この場合、購入時と比較し、売却時は分割売
却等特別な手法が必要となる。
このような再調達価額と正味売却可能価額に相当の乖離の生じうる不動産について、不動
産鑑定士は、通常、
「正常価格」という概念の基、鑑定評価額を決定する。したがって、現
状ではおそらく、減損会計適用の参考とするための鑑定評価は、正常価格で評価されるも
のと考えられる。なお、この「正常価格」は不動産鑑定評価基準上、
「市場性を有する不動
産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成され
るであろう市場価値を表示する適正な価格」と定義されている。一見、「市場価格に準ずる
もの」としてとらえられそうだが、前述したように、そもそも会計上の概念と乖離してい
る。公共団体等の用地買収などの補償的要素の強いものが「正常価格」を基礎としている
ことを考えると、昨年の基準全面改定により現実の市場価格に近づいたとは言え、まだ、
再調達価額的な色合いが強いと考えられる。
さらに、鑑定評価にあたって様々な条件が付されることがある。一般的なものとしては、
「独立鑑定評価」というものが、挙げられる。これは「不動産が土地及び建物等との結合
により構成されている場合において、その土地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)
として鑑定評価の対象とすること」を言う。現に建物等が存在するのであるから、この鑑
定評価額を、そのまま使用することは当然できないはずである。しかし、この価額を採用
したとしても、不動産鑑定評価基準に従っているのは事実であり、また、おそらく会計監
査においても気付きもしないであろう。もっとひどいケースもある。例えば、
「土壌汚染の
影響はないものとして評価する」などと記載のある場合は、危険である。一定の場合の除
き、このような想定は鑑定評価基準上も許されていないが、可能性の排除はできない。
以上より、会計上の概念と鑑定評価上の概念には相当の乖離があるものと考える。そこで、
この乖離を縮めない限り、正味売却可能価額に不動産鑑定評価基準に従った評価額をあて
ることはできないと結論づけられる。
この乖離の縮小には、当初より鑑定評価の条件を指定してしまうことが有効と考える。す
なわち、
「正常価格」ではなく「特定価格」の鑑定評価としてしまうのである。「特定価格」
とは、
「市場性を有する不動産について、法令等の社会的要請を背景とする評価目的の下で、
正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示す
る価格」とされている。この「法令等」は「不動産鑑定基準運用上の留意事項」によると、
「法律、政令、内閣府令、省令、その他国の行政機関の規則、告示、訓令、通達等のほか、
....... ....
最高裁判所規則、条例、地方公共団体の規則、企業会計の基準、監査基準をいう。
」とある。
これを実務指針等により明確化することが、非常に効果的と考える。ただし、不動産鑑定
士サイドとも、連絡を密にし、鑑定士側からも減損会計適用のための鑑定評価に関する留
意事項を公表してもらう等の、措置が必要と考えられる。
第二に、
「不動産については」との文言であるが、ここで「不動産」とは何を意味するの
であろうか。不動産鑑定評価基準では、不動産とは「土地とその定着物」とある。この「定
着物」には当然、建物も含まれるが、それ以外にも借地権や地上権、場合によっては空中
権や借家権等も鑑定評価の対象となりうる。このように不動産鑑定基準では、不動産に関
する権利についても、言及している。この「不動産」の適用範囲によっては、財務諸表に
影響を与える諸要因が発生する可能性がある。例えば、定期借地権や定期借家権などの借
り主側で、通常より高い賃料で賃借りしている場合、何らかの経済損失を認識する必要性
はないか。
第 100 項、第 101 項、第 104 項について
この項において、不動産鑑定基準を例に、価額算定の三方式に言及ししている。しかし、
正味売却価額を算定する手法として、コスト・アプローチを他の手法と並列に記載されて
いることは妥当性に欠くものと考える。単純比較はできないが、棚卸資産の低価基準にお
ける連続意見書の立場が、マーケット・アプローチを適当とし、把握のしやすさからコス
ト・アプローチも認めるという状況と考えると、減損会計でも「正味売却可能価額」とし
ている以上、コスト・アプローチを並列におくべきではないと考える。
また不動産鑑定基準上の「原価法」をコスト・アプローチとしているが、大きな誤解を生
じる可能性がある。原則としては、誤りではないが、「開発法」という手法を全く無視して
いるものである。例えば、広大な土地の場合、分筆し売却やマンション開発というケース
が考えられる。この際、最終の販売価格から建築費用等を控除して、積算価格を求める。
この手法は建築コスト等に焦点をあてているため原価法に分類されるが、不動産デベロッ
パー等が使用する手法でもあり、マーケット・アプローチに近いものである。
さらに土地そのものは生産することが不可能な資産であるため、土地及び建物を一体評価
した場合の積算価格は、土地価格は比準価格を採用し、建物価格のみを再調達原価を基礎
として、試算する。この時、土地部分が価額の大部分を占める場合、はたしてコスト・ア
プローチと言い切っていいのか疑問が残る。
このように軽々な不動産鑑定基準の抜粋は、誤解を生ずるため、避けるべきである。
そして、第 101 項や第 104 項に、不動産鑑定評価基準を例示しているが、前述より記載
の通り、会計上の概念と鑑定評価上の概念が乖離している以上、会計基準の文章として適
切ではないと考える。また不動産以外の資産に適用など比較するべきものではない。
[設例5]について
当該設例の手法を見ると、不動産鑑定基準における収益還元法の一つであるDCF法に酷
似している。使用する利回りこそ違えども、考え方は同じものと思われる。ここで、本設
例は賃貸“不動産”を資産グループにしていることから、以下の状況が生じる。
これは不動産であるため、正味売却可能価額の算定に関して、不動産鑑定評価基準を適用
する。ここで、正味売却可能価額の算定では、不動産鑑定評価基準にしたがった収益価格
を試算し、鑑定評価額の基礎とする。一方、使用価値は、会社独自の算定を行っている。
ここで、同じ基礎データを使用すべきもの、例えば将来キャッシュ・フローの見積りや還
元利回りなど、について、異なった数値が採用されないか、懸念がある。
そこで、このように一部に不動産の指標を用いるべき場合、不動産鑑定士等の意見を聴取
するといった措置が必要なものと考えられる。不動産鑑定士は、不動産の価格に関する専
門家であることに鑑みると、鑑定評価を依頼するまで至らなくとも、一部の指標や見積り
に対して、専門家としての意見を参考にする旨、実務指針に明文化することなどは、非常
に有意義なことと考える。
不動産に関する会計基準について全般的総括
前述している通り、不動産鑑定評価額というものは、会計上の時価概念とは異なっている。
このため、不動産鑑定評価額をそのまま会計に反映させるとは、そもそも無理がある。今
回、固定資産の減損会計に関することが主であるが、国際会計基準で全面時価会計が採用
とも言われている中、全般的に不動産に関する会計基準を鑑定評価との概念の乖離を認識
したうえで、再検討する必要があると考える。近年の「販売用不動産等の強制評価減の要
否の判断に関する監査上の取扱い」などでは、開発が必要な不動産に関する記述もあるが、
これは不動産鑑定評価基準に記載の開発法に他ならない。
また減損会計に関しても、例えば、赤字覚悟で宣伝広告のため銀座の一等地を高値で購入
した場合など、購入後即、減損の対象となりうるだろうが、そもそも取得価格を取得原価
としていいのか、という疑問もある。購入時の時価と取得価格との乖離は、本来、何であ
るのか、営業権的なものなのではないのかなどの見解もとれよう。
土地は非償却資産のため、売買時のインパクトが非常に大きい。このように不動産に関す
る会計基準を見るに、まだまだ改善の余地が大きいように思える。不動産という特殊な世
界の中で、会計がどう機能を発揮できるか、今後の議論を深める必要があるであろう。場
合によっては、不動産会計基準とでもして、一括してまとめることも、有意義であるかも
しれない。
以上。
Fly UP