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抑うつ症状が表情認知に及ぼす影響
抑うつ症状が表情認知に及ぼす影響 ○須惠明音 1・美濃哲郎 1 (1 関西福祉科学大学大学院社会福祉学研究科) キーワード:抑うつ・共感性・表情 The effect of depression on recognition facial expression ○Akane SUE1 and Tetsuro MINO1 (1Graduate School of Social Works, Kansai University of Welfare Sciences) Key Words: Depression, Empathy, Facial Expression 目 的 他者の心の状態を理解して行動することは、円滑なコミュ ニケーションをとるうえで重要である。また、顔に表れる表 情は特に情報量が多いとされており、対人コミュニケーショ ンの中心的役割を担っているといえる(野村・竹原, 2008)。 うつ病では、否定的な認知や悲観的な見方による推論の誤 りから、対人コミュニケーションにおいて問題を生じさせて いるケースが見受けられる。インプットした他者の表情をど のように評価しているのか、その正確さと抑うつ傾向の関係 性について検討することを試みる。 本研究では、抑うつ症状が表情認知に及ぼす影響について 基本 6 感情の表情写真を使用した表情理解テストで検討し、 抑うつ症状と情動知能および共感性の関係性について検討す ることを目的とする。 方 法 参加者 私立 R 大学の学生 117 名を調査対象とした。データ 分析に使用された有効回答者数は、男性 59 名、女性 41 名、 合計 100 名であった。平均年齢は 19.8 歳であった。 質問紙 抑うつ尺度として日本語版 CES-D(島・鹿野・北村・ 浅井, 1985)および日本語版 BDI、情動知能尺度として J-ESCQ(豊田・森田・金敷・清水, 2005)および J-WLEIS(豊 田・山本, 2011)、共感性尺度として IRI(Mark H. Davis, 1999) を使用した。 課 題 Ekman, P. & Friesen, V. W. (2000) より、基本 6 感 情 (幸福・悲しみ・恐怖・怒り・驚き・嫌悪) の表情写真を 2 枚ずつ表情理解テストの課題として使用した (男女各 1 枚) 。 表情写真はモノクロであり、Microsoft Office 社の PowerPoint において、プロジェクタに呈示された。 手続き 参加者は質問紙に回答した後、表情理解テストに回 答した。表情理解テストでは、はじめに画面中央に注視点を 1000msec 呈示し、続いて表情写真を 1 枚 1000msec 呈示し た。参加者には、表情写真の示す感情を判断し、基本 6 感情 の中から選択するように求めた。回答時間は 5000ms であり、 全 12 試行実施された。 結 果 得点化 表情理解テストは 1 問 1 点の 12 点満点であった。 複数回答については、2 つの感情語を回答したうち 1 つが正 答であった場合は 0.5 点、3 つの感情語を回答したうち 1 つ が正答であった場合は 0.33 点とした。なお、6 つの感情語す べてを回答した参加者はいなかった。 表情理解テスト 平均正答率(64%)を境界線として低群と 高群に分け、各尺度得点においてt検定を実施したところ、 全体の正答率が低い群の方が、CES-D 得点が有意に高いこと が示された(t(99)=2.09,p<.04)。その他の尺度に関しては、有 意差は認められなかった。 CES-D 得点の平均 17.75 点を境界線として低群と高群に分 け、表情理解テストの全体の正答率を比較したところ、有意 差は認められなかった。また、基本 6 感情ごとにカイ二乗検 定をしたところ、CES-D 得点が高い方が恐怖感情の正答率が 有意に低いことが示された(χ(1)=4.59,P<.04, Figure1)。 100% 80% 60% incorrect 76.5 67 correct 40% 20% 39.5 17 0% Low High CES-D Figure1 The score of feare face task in facial cognition test. 考 察 本研究において、CES-D 得点を基準とする抑うつ傾向が強 くなると、表情理解テストの成績が低くなることが示唆され た。また、CES-D 得点が高くなると、恐怖表情の正答率が有 意に低くなることが示された。 しかし、本研究では、表情理解テストの課題数が少なく、 表情によっては回答が 2 つに分かれるケースも存在した。そ のため、本研究の表情理解テストの成績のみから、表情認知 の正確さや抑うつ症状との関係性について論じることはむず かしいといえる。今後、より洗練された表情刺激を用いたさ らなる研究が期待される。 引用文献 Mark H. Davis (1999). 共感の社会心理学-人間関係の基礎-. 川島書店, 東京. 野村理朗・竹原卓真 (2008) 「顔」研究の最前線. 3rd ed. 北 大路書房, 京都. P.エクマン・W.V.フーリセン (2000) 表情分析入門―表情に隠 された意味をさぐる―.7th ed. 誠信書房, 東京. 島悟・鹿野達男・北村俊則・浅井昌弘 (1985) 新しい抑うつ 性自己評価尺度について 精神医学, 27, 717-723. 豊田弘司・森田泰介・金敷大之・清水益治 (2005) 日本語版 ESCQ (Emotional Skills & Competence Questionnaire) の開発.奈良教育大学紀要, 54, 1 豊田弘司・山本晃輔 (2011) 日本語版 WLEIS (Wong and Law Emotional Intelligence Scale) の作成. 教育実践 総合センター研究紀要, 20, 7-12. (Akane SUE, Tetsuro MINO)