...

第1号 2011.05

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

第1号 2011.05
ARC住宅不動産通信第 1 号
「コンサルタントの眼 」
震災の前と後で何が変わったのか?
~第 90 回不動産経営者講座に参加して~
旭リサーチセンター主席研究員 川口満が住宅
不動産とその関連分野でのさまざまな動きを、不
プログラム概要 第1日4/14
動産コンサルタントの眼から解説してまいります。
基調講演 三菱地所会長 木村敬惠司氏
よろしくお願いします。
「日本経済の動向と今後の不動産・住宅産業」
シンポジウム(日刊不動産経済通信記者司会)
第 1 回は先日開催された業界団体セミナー、不
「ビル賃料底打ちはいつか?
動産経営者講座の紹介です。今回は、東日本大震
災後はじめての開催であり、業界関係者の関心は、
震災の影響やニュービジネスチャンスは?」
震災の前と後で不動産市場がどう変わったのか、
ニッセイ基礎研究所 松村徹氏
あるいは変わっていないのかにありました。
みずほ証券チーフ不動産アナリスト 石澤卓志氏
リレー講演(不動産ビジネスを巡る新しいトレンド)
不動産市場の課題は変わらない
一日目の基調講演では三菱地所会長
学研ココファンホールディングス社長 小早川仁氏
木村敬惠
シービーリチャードエリス リサーチディレクター 二瓶博和氏
司氏が震災前と後の不動産市況を、ビル賃貸、マ
東急リバブルソリューション事業本部戦略企画部長 牧野高樹氏
ンション分譲、商業ホテルなどの分野に分けて説
新生銀行常務執行役員 工藤英之氏
明されました。不動産業としては商業部門特にホ
第2日4/15
テルの稼働率大幅な低下がありますが、他の分野
基調講演 衆議院議員 田村謙治氏(前半のみ)
には大きなダメージは出ていません。つまり、不
早稲田大学総合研究機構 赤井厚雄氏
動産市場全般としては、震災の前後で大きな変化
「大震災からの復興にむけてー再生政策の今後の課題」
は生じていないようです。今回震災の被害が主に
日本ビルファンドマネジメント社長 西山晃一氏
津波による東北沿岸部に集中したこともあります。 「Jリート市場10周年と新たなステージの運用戦略」
むしろ東京などではビルの耐震性が確認されたと
トップ講演(わが社の事業・経営戦略)
もいえます。
三井不動産レジデンシャル社長 松本光弘氏
不動産の世界では、震災後も都市再生が変わら
長谷工アーベスト社長 岡正徳氏
ぬ課題であり続けるようです。すなわち、①首都
オープンハウス社長 荒井正昭氏
直下型の地震への対策、②環境への配慮、③生産
特別講演 元内閣府政策統括官 柴田高博氏
年齢人口減少への対応、がテーマになると述べら
「住宅の耐震化と防災都市づくり
れました。
~東日本大震災からの復興に向けて~」
ビル賃貸市場は震災よりも原発が心配
シンポジウムではオフィス市場に焦点を当てた市場分析がなされました。こちらも概ね影響は軽微と
いえますが、今後の事務所需要はこれからのマクロ経済の復興ペースに左右されます。大型の優良賃貸
ビルは、不動産ファンドを通して投資家がオーナーになっていることが多いので、海外の投資家も関心
が高いようです。海外から投資資金は今回の震災があっても、都市部の防災性を評価して日本から逃げ
出している様子はありません。しかし、新たな投資には慎重で様子見が多いようです。それは、震災と
いうより東京電力福島第一原子力発電所の安定化に見通しが立たないことが響いているようです。
原発、停電、帰宅難民などの震災の影響を見れば、一極集中の脆弱さも気になります。首都機能分散
の声がありますが、一方で世界的な都市間競争を考えれば、東京の価値を高める必要もあります。
1
詳報:今後の進展が期待される不動産と金融の連携
震災から復興にあたり、「震災国債」「復興税」などが議論されています。復旧・復興に巨額の資金が必要
とされる状況で、新成長戦略のテーマでもある都市部の開発、再生ピロジェクトの資金調達は順調に進めら
れるのかが注目されます。首都圏の直下型地震、東海などの大地震への対策に関心が高まっており、民間
資金主導による防災強化をめざす都市再開発は、大きな意義があります。震災復興に資金が大量に必要な
今こそ、不動産と金融の連携によって広く資金を呼び込む制度づくりを進めたいものです。
民主党政権になって以降の以下の取り組みが紹介されました。
・新成長戦略に基づき都市再生基本方針を改定(内閣官房所管)
昨年の新成長戦略でかかげられた、成長の牽引役としての大都市再生という基本方針に基づき、今
年2月に都市再生基本方針の改定が閣議決定されています。
・不動産と金融を如何につなぐか(国土交通省所管)
不動産投資市場戦略会議が昨年11月に設置されました。国交相の私的諮問機関ですが、政策分野・業
界の縦割りを越えて、幅広い関係者からのヒアリングをふまえ、不動産と金融を結びつける場の機能につい
て議論が進められました。資金を呼び込むために、不動産市場の慣行を改めることになりそう。
・資産流動化に関する規制を弾力化(金融庁所管)
成長戦略のため「金融資本市場及び金融産業の活性化等のためのアクションプラン」が、昨年12月に発
表されました。従来、金融庁は投資家保護のため、不動産証券化に関しては厳しい規制を課していました。
現在、それを見直し、投資機会を増やし、リスクマネーを呼び込むために資産流動化スキームの規制を弾力
化するよう関連法案の改正を目指しています。証券化手法を活用し不動産の取得・開発・再生等を促すこと
で不動産市場の活性化が期待されます。
以上の政策の3本柱を、民主党は「政治主導」で進めたと強調しています。
政治主導の成果を強調するも、政策実現へは遠い
二日目は、民主党田村謙治氏(元財務省官僚)が、不動産投資市場戦略会議の座長代理であった赤井
厚雄氏の応援を得て基調講演しました。上記のコラムにあるように、不動産と金融の連携に力点があり
ます。政治主導によって省庁の垣根をこえた議論の場ができたことは良かったようですが、具体化はこ
れからです。結局、法案を作り、具体化するには官僚の協力が是非とも必要なのです。
それよりは最後の特別講演で柴田高博氏(元内閣府政策統括官)が指摘した、政治のリーダーシップ
の欠如が大きな問題です。柴田氏は阪神大震災の際に、現場で指揮をとった経験から、今回の東日本大
震災と阪神大震災の根本的な違いを強調しています。阪神では、被災地域が 20 から 30 キロメートルに
限定され、隣接の大阪市からのアクセスが容易なため、大量のボランティアが動員でき、避難所運営は
スムーズにできたのです。一方東北は、被災地域が 300 キロメートル以上と広大で孤立した集落が多く、
寸断された道路のため物資搬入が遅れ、ボランティアが入ることも困難な条件です。したがって、避難
所運営が難しく、仮設住宅の供給もスムーズには進まないのです。今回の大震災に対応するには、阪神
のケースを参考にしつつも、大胆に復興手法を変える政治的決断が必要なのです。
10 年目の J リート(不動産投資信託)市場の今後の見通し
今年は J リート上場 10 周年目という節目にあたり、これまでの成長、変革の過程が解説されました。
最初の J リートが 2001 年 9 月 10 日に東証上場されてより、順調に拡大して、2007 年には時価総額が
7 兆円近くまでになった不動産投資信託でした。それがサブプライムローン破綻から翳りをみせ、2008
2
年 9 月のリーマンショックでは市場がフリーズし、資金繰りに窮した J リートの破綻が相次ぐ事態とな
り、市場は時価総額が 2 兆円ほどまでにしぼんでしまいました。市場崩壊の危機に直面し、2009 年に
は債券を買い支えるための官民ファンドが設立され、さらに 2010 年には金融緩和の一環として日銀に
よる J リート購入がはじまりました。資金繰り改善による市場安定化が実現したこともあり、時価総額
も 4 兆円までに回復しそうです。現在では新たな賃貸不動産の取得も再開され、未ださまざまな制度上
の改善点をかかえつつも J リートは着実な成長が見込めるようです。
元気な会社の現場の力強さに注目
そのほかリレー講演、トップ講演では成果を上げている元気な企業が紹介されました。
高齢者向け賃貸住宅を提供する「学研ココファン」は、2004 年に発足した若い企業です。2005 年に
第 1 号が開設されてより、賃貸住宅だけではなく併設するクリニック、介護事業所なども黒字化させる
オペレーションの優秀さが印象的です。国の高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律)
改正に伴い、医療・介護連携型の高齢者専用賃貸住宅が供給の柱と期待されていますが、併設する医療・
介護施設の採算性が課題となっており、注目される実績といえるでしょう。
町場の不動産屋の出身である荒井社長が率いる「オープンハウス」は、世界的な不動産業者チェーン
のセンチュリー21の登録業者の中で 11 年連続売上日本一となった新興不動産会社です。バブルのと
きに急成長する会社はあっても、市場の変化に応じて長く成長し続けることは不動産業界では至難の業
です。大手デベロッパーに頼らず、子会社で用地取得、親会社は新築戸建の仲介販売業に特化するユニ
ークな方式をとっています。さらにリクルートに倣った新卒者の積極的採用、高い課題に応えられる人
材育成、思い切った権限委譲などにより驚異の持続成長を実現しました。
上記の両社は、ともにトップの意志が明確でありそれについてこられる現場の力強さを育てられたこ
とが成功の要因ではないかと思われます。
3
Fly UP