Comments
Description
Transcript
「複合生物系等生物資源利用技術開発」 事後評価報告書
「複合生物系等生物資源利用技術開発」 事後評価報告書 平成15年2月 新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術総合研究所 技術評価委員会 目 次 はじめに 分科会委員 分科会委員名簿 委員名簿 審議経過 評価概要 技術評価委員会におけるコメント 技術評価委員会委員 技術評価委員会委員名簿 委員名簿 1 2 3 4 6 7 第1章 評価の実施方法 1-1 第2章 プロジェクトの概要 2-1 第3章 評価 1.プロジェクト全体に関する評価 1.1 総論 1.2 各論 2.要素技術に関する評価 3-1 第4章 評点法による評価結果 4-1 参考資料1 プロジェクトの概要説明資料 参考資料2 周辺動向調査 参考資料3 標準的評価項目・評価基準 参考資料 1-1 参考資料 2-1 参考資料 3-1 はじめに 「複合生物系等生物資源利用技術開発」は、平成9年度より5年間の計画で開始さ れた。本プロジェクトは、単一生物種の機能を利用した従来のバイオ技術の枠を超え、 複合生物系が持つ高度な機能の利用を実現するために必要な解析技術及び産業利用 技術の開発を目指した。そのために、①複合生物系の解析・分離技術の開発、②複合 微生物系等の利用技術の開発、の基盤開発を目的としていた。これまで未解明・未利 用であった複合生物系を主とする新規生物資源・機能の入手が可能となり、生物資源 開発がより円滑化し、新規産業創出、国内バイオ産業競争力強化に大いに貢献する。また 複合生物系による新規バイオリアクターによる効率化、高性能バイオプロセスの実現とそれによる 有用物資の生産またはバイオレメディエーション等の高度化が実現する。 平成14年度に、新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術評価委員会「複合生 物系等生物資源利用技術開発」分科会(分科会長:冨田 房男 北海道大学大学院農 学研究科 教授)において、当該分野に係わる国内外の研究開発動向や社会情勢の変 化も踏まえつつ、プロジェクトの目的・政策的位置付け、目標・計画内容、研究開発 体制や運営状況、成果の意義、実用化可能性や波及効果、今後の展開等について事後 評価を実施した。 本書は、これらの評価結果をとりまとめたものである。 平成15年1月 新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術総合研究所 技術評価委員会 1 「複合生物系等生物資源利用技術開発」 事後評価分科会委員名簿 (平成 15 年 1 月現在) 氏名 分科会 会長 とみた ふさお 冨田 房男 い が ら し やすお 五十嵐 泰夫 いけじま まさひろ 池島 政広 かねこ 分科会委員 せいじ 金子 誠二 きりむら こうたろう 桐村 光太郎 は た の かずのり 波多野 和徳 ひらいし あきら 平石 明 所属 北海道大学 大学院農学研究科 応用生命科学専攻 教授 東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専 攻 教授 亜細亜大学 経営学部 教授 大成建設株式会社 エンジニアリング本部 副本部長 早稲田大学 理工学部応用化学科 教授 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 顧問 豊橋技術科学大学 工学部エコロジー工学系 教授 敬称略、五十音順 2 審議経過 ! 第1回 分科会(平成 14 年 10 月 16 日)10:00∼17:00 公開セッション 1.開会(分科会会長、挨拶、資料の確認) 2.分科会の公開について 3.評価の手順等について 4.評価の分担等について 5.周辺動向調査 6.プロジェクトの全体概要 非公開セッション 7.プロジェクトの詳細 8.全体に関する質疑等 9.今後の予定 10.閉会 ! 第2回 分科会(平成 15 年 1 月 8 日)13:00∼17:00 非公開セッション 1.開会、資料の確認 2.評価書(案)の説明 3.評価書確定の進め方などについて 4.実施者からの補足説明と質疑 公開セッション 5.評価書(案)の審議と確定 6.今後の予定、連絡事項 7.閉会 ! 第7回技術評価委員会(平成 14 年 2 月 10 日)10:00∼12:30 1.評価報告書の審議/報告 3 評価概要 評価概要 1.プロジェクト全体に関する評価 1.1 総論 1)総合評価 複合微生物群集の構造と機能については、生態環境におけるその潜在的重要性や産 業的応用の可能性の大きさ等にも関わらず、世界的にみても未だ萌芽的研究段階であ ると言える。再生可能なバイオ資源をいかに確保し有効活用するかという観点から、 複合生物資源の利用技術開発はきわめて重要であり、重要性や緊急性が大である。よ って、国の事業として妥当であり、事業目的・政策的位置付けは評価できる。 研究開発のマネジメントについては、プロジェクトリーダーが実質的にその機能を 果たすためにある程度の予算を手元に残し、これを特定分野に臨機応変に配分し、効 率を上げた点はこれまでわが国では行われていなかったものであるが高い効果を上 げたと評価できる。 「B. 複合生物系利用・生産技術」では、予想した進捗が得られな かった際の早期の方針変更が充分でなかった研究課題があった。 複合微生物の解析技術、分離培養技術では、我が国の独自技術としてすぐにでも実 用化可能な基礎技術開発がなされ、複合微生物の機能強化の面でも大きな進展が見ら れた。創造的で極めて先導的な要素技術が開発されたと評価される。複合系における 各微生物の役割を明らかにするには主役となる微生物のほか、周辺に存在する他の微 生物についても多くの情報が必要であるため、解析する微生物の種類の範囲を広げる ことにより、複合系全体の作用をより深く理解出来るようになると考える。 本プロジェクトの大きな成果としては、研究開発に成功した分野から新しい国家プ ロジェクトに相当するものが3課題生まれたことは高く評価できる。 2)今後の研究開発の方向性等に関する提言 本プロジェクトの成果は、今後我が国の新規産業創造に寄与できる新たな微生物バ イオテクノロジーの核となる要素技術を多く含んでいる。従って、複合生物系あるい はそれから派生する「新規な微生物資源」の開発と高度利用に関する基盤的研究成果 を早く手に入れることが極めて重要である。そのためには、応用への道を考えて、個々 の微生物の生理状態解析および集団としての機能発現のメカニズムの解析へと研究 を展開していくことが必須である。 新規な微生物資源および微生物遺伝子資源の開発と保存は、極めて重要であるため、 今後は、先導的役割を果たした本プロジェクトの成果を産業に還元するための国家的 支援が必要と考える。 1.2 各論 1)事業の目的・政策的位置付けについて 生物多様性条約の発効以来、各国は新たな生物資源の取得に向けて様々な施策を実 施してきた。特に、開発途上国は自国の生物資源の囲い込みを図り、わが国をはじめ とする先進諸国には生物資源の取得が難しくなってきている。一方、複合微生物群集 の構造と機能については、生態環境におけるその潜在的重要性や産業的応用の可能性 の大きさ等にも関わらず、世界的にみても未だ萌芽的研究段階であると言える。 このような世界情勢の中で、我が国が、世界に先駆けて複合微生物系研究の大型プ ロジェクトを立ち上げたことは、解析や利用が難しいといった理由でほとんど手付か ずの資源に着目し、その利用と応用を目的としたもので、生物資源を取得するための 4 新たな展開を図ったものである。本プロジェクトは、民間企業では興味があってもリ スクが高く踏み込むことがためらわれる研究領域であったため、NEDO(国)の研究 開発プロジェクトとして妥当であったと言える。また、バイオテクノロジーの領域の 中でも、日本が独自の強みを発揮できる可能性が高い研究分野であることや研究成果 が国際競争力を高めるための基盤的技術となり、新規産業創製に大きな可能性がある こと、などから事業目的・政策的位置付けは妥当であったと評価できる。 2)研究開発のマネジメントについて 研究開発の目標設定、研究開発の計画立案に関しては、根拠が明確に示されている 研究課題が多かった。また、広範な技術分野で開発を進めていくために、プロジェク トリーダーを中心にアドバイザリーボードや研究推進委員会を適切に活用したこと や成果に応じた研究予算のメリハリをつけたことなどは評価できる。中間評価結果を 適切に反映して計画の見直しが行われていたと評価している。従って、概ね的確なプ ロジェクト運営ができたと判断できる。 ただし、特殊な研究、応用性の強い研究の一部には、目的・目標の明確でないものも あった。また、相互に関連する技術については、より親密な連携のもとに研究開発を 進めるべき点もあった。中間評価での判断をもう少し厳しくしても良かったのではと 感じる。研究開発体制としては、計画の立案段階で、微生物生態学や分子生態学の専 門家をもう少し研究推進委員会、あるいはアドバイザリーボードに入れるべきであっ たと思う。 3)研究開発成果について 従来の方法では、培養や検出が困難であった微生物や微生物群が多数取得され、新 規の複合生物系としての機能解明が行われたことは評価に値する。特に、新規な未利 用微生物の分離・培養技術の開発(ゲルマイクロドロップ法、他)、微生物の検出技 術や動態解析技術の開発、新規な DNA 関連技術の開発など、今後のバイオ関連技術 開発の基幹的なものが成果として得られており、国家プロジェクトとして優れた成果 をあげたと評価される。 環境中における複合系の働きをさらに深く理解するためには、より広い範囲の微生 物群を対象にした検出・解析が必要であろう。その複合系の主役となる微生物と脇役 となる周りの微生物との相互作用を明らかにすることによってその複合系の働きを より深く理解でき、新たな生物資源の確保や利用が可能となろう。 蛍光消光を用いた新規遺伝子の検出やゲルマイクロドロップ法などの優れた成果 に関しては、その普及型の開発に進むべきである。 成果の普及、公開に関しては、開催したシンポジウム等を通じて積極的になされて いる。また、本プロジェクトの開始以降に、本プロジェクト参画者以外の多く研究グ ループが各個のテーマを掲げて当該分野の開拓に乗り出しており、波及効果について は極めて高く評価できる。 4)実用化、事業化の見通しについて 研究開発目標が基盤技術開発の確立であるため、産業技術に直接結びつくものは多 くない。しかし、排廃棄物処理・環境浄化における産業技術や蛍光消光を用いた複合 生物系モニタリング技術、ゲルマイクロドロップ法による菌の分離や培養化などは早 期に実用化が期待できる成果として極めて高く評価される。また、本プロジェクトの 成果を基にして、新しい大型プロジェクトを 3 課題生み出したことも極めて高く評価 5 される。 技術評価委員会におけるコメント 技術評価委員会におけるコメント 第7回技術評価委員会(平成 15 年 2 月 10 日開催)に諮り、技術評価委員から以下 のコメントが出され、了承された。 ● 本プロジェクトに限定した話ではないが、研究成果の波及効果を具体的に評価 することは非常に大事な要素である。今後も、評価項目として波及効果を重要 視していただきたい。 ● 成果を基にして3つのプロジェクトを創出できたことは認められる。しかし、 研究テーマとしては幅が広く設定されており、事前評価時点で、複数のプロジ ェクトに分離させることを考えても良かったのではないか。 ● NEDOに対する要望としては、本プロジェクトの成果と社会情勢を検討し、 遺伝子解析やその二次代謝物の情報等を組み込み、微生物を使った物質生産技 術等を更に発展させることを意識したテーマ設定を行っていただきたい。 6 技術評価委員会委員名簿 委 員 長 岸 輝雄 稲田 絋 大滝 義博 大西 匡 垣田 行雄 小柳 光正 瀬田 重敏 曽我 直弘 高村 淑彦 谷 辰夫 冨田 房男 西村 吉雄 丹羽 清 畑村 洋太郎 平澤 泠 三浦 孝一 村上 路一 独立行政法人 物質・材料研究機構理事長 東京大学大学院工学系研究科教授 株式会社バイオフロンティアパートナーズ代表 取締役社長 豊田工機株式会社取締役会長 財団法人日本システム開発研究所専務理事 東北大学大学院工学研究科教授 旭化成株式会社特別顧問 独立行政法人産業技術総合研究所理事 東京電機大学工学部教授 諏訪東京理科大学工学部システム工学部長 北海道大学大学院農学研究科教授 東京大学大学院工学研究科教授 東京大学大学院総合文化研究科教授 工学院大学国際基礎工学科教授 政策研究大学院大学教授 京都大学大学院工学研究科教授 株式会社宇宙情報技術研究所代表取締役副社長 (合計 17名) (敬称略、五十音順) 7 第1章 評価の実施方法 第1章 評価の実施方法 本評価は、「技術評価実施要領」(平成 13 年 5 月制定)に基づいて技術評価を 実施する。「技術評価実施要領」は、以下の 2 つのガイドラインに定めるところ によって評価を実施することになっている。 ! 総合科学技術会議にて取りまとめられた「国の研究開発評価に関する大綱 的指針」(平成 13 年 11 月内閣総理大臣決定) ! 経済産業省にて取りまとめられた「経済産業省技術評価指針」 (平成 14 年 4 月経済産業省告示) NEDO における技術評価の手順は、以下のように被評価プロジェクト毎に分科 会を設置し、同分科会にて技術評価を行い、評価報告書(案)を策定の上、技術評 価委員会において確定している。 ! 「技術評価委員会設置・運営要領」に基づき技術評価委員会を設置 ! 技術評価委員会はその下に分科会を設置 NEDO 理事長 評価報告書 事務局 技術評価委員会 NEDO 技術評価部 評価報告書(案) 分科会 A 分科会 D 分科会 B 分科会 C 図 1 評価手順 1-1 1.評価の目的 実施要領において、評価の目的は、 ! 評価をする者(評価者)と評価を受ける者(被評価者)が意見交換を通 じ研究開発の意義、内容、達成状況、今後の方向性等について検討し、 より効率的・効果的な研究開発を実施していくこと、 ! 高度かつ専門的な内容を含む研究開発の意義や内容について、一般国民 にわかりやすく開示していくこと、 ! 限られた研究開発リソースの中で、国の政策や戦略に対応した重点分 野・課題へのリソース配分をより効率的に実施していくこと、とされて いる。 本評価においては、この趣旨を踏まえ、本事業の意義、研究開発目標・計画の妥当 性、計画と比較した達成度、成果の意義、成果の実用化の可能性等について検討・評 価した。 2.評価者 実施要領においては、事業の目的や態様に即した外部の専門家、有識者からなる委 員会方式により評価を行うこととされているとともに、分科会委員選定に当たっては 以下の事項に配慮した選定を行うこととされている。 ! 科学技術全般に知見のある専門家、有識者 ! 当該研究開発の分野の知見を有する専門家 ! 研究開発マネジメントの専門家、経済学、環境問題その他社会的ニーズ 関連の専門家、有識者 ! 産業界の専門家、有識者 また、評価に対する中立性確保の観点から事業の推進側関係者を選任対象から除外 し、また、事前評価の妥当性を判断するとの側面にかんがみ、事前評価に関与してい ない者を主体とすることとしている。 これらに基づき、分科会委員名簿にある6名が選任された。 なお、本分科会の事務局については、新エネルギー・産業技術総合開発機構技術評 価部評価業務課が担当した。 3.評価対象 平成9年度から平成13年度までの計画で実施されている「複合生物系等生物資源 利用技術開発」プロジェクトを評価対象とした。 なお、分科会においては、当該事業の推進部室である新エネルギー・産業技術総合 開発機構 バイオテクノロジー開発室、及び以下の研究実施者から提出された事業原 1-2 簿、プロジェクトの内容、成果に関する資料をもって評価した。 研究実施者 株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 財団法人バイオインダストリー協会 4.評価方法 分科会においては、当該事業の推進部室及び研究実施者からのヒアリングと、それ を踏まえた分科会委員による評価コメント作成、評点法による評価及び実施者側等と の議論等により評価作業を進めた。 なお、評価の透明性確保の観点から、知的財産保護の上で支障が生じると認められ る場合等を除き、原則として分科会は公開とし、研究実施者と意見を交換する形で審 議を行うこととした。 5.評価項目、評価基準 (1)評価項目、評価基準に関して 分科会においては、次ページに揚げる「評価項目・評価基準」に準じて評価を行っ た。プロジェクト全体に係わる評価においては、主に事業の目的、計画、運営、達成 度、成果の意義や実用化への見通し等について評価した。各個別技術に係る評価につ いては、主にその目標に対する達成度等について評価した。 (2)評価項目、評価基準の改訂に関して 『評価項目・評価基準は、被評価プロジェクトの性格、中間・事後評価の別等に応 じて、各分科会において判断すべきものである。』との考え方に従い、第1回分科会 において事務局が改訂案を提出し、承認された。 なお、NEDO のプロジェクト評価における「標準的評価項目・評価基準」 (平成 14 年 4 月 9 日、第3回技術評価委員会)は、参考資料3に示す。 1-3 プロジェクト全体に対するコメント票 1.1 総論 1.1.1 総合評価 1.1.2 今後の研究開発の方向等に対する提言 (1) 本プロジェクトの成果を踏まえて、次段階の研究開発を進めるか否かも含めた 将来像に対する提言。 # 次段階の研究開発とは、実用化補助金或いは民間の資金による研究開発の ことです。 1.2 各論 1.2.1 事業の目的・政策的位置付けについて (1)NEDO(国)のプロジェクトとしての妥当性 特定のプログラム制度(産業技術開発制度)の下で実施するプロジェクトの場 合、以下の項目を参照しつつ当該制度の選定基準等への適合性を問うこととする。 【注1】 ・「市場の失敗」 (行政改革委員会「行政関与の在り方に関する基準」 (平成 8 年 12 月)参照)に該当しているか。しない場合、民間活動のみでは改善できな いこと、公共性の高いことが説明されているか。その際、当該プロジェクトに 必要な資金規模や研究開発期間、民間企業の資金能力等は示されているか。 ・他の類似プロジェクトや関連技術動向を踏まえ、NEDO(国)の関与がなか った場合(放置した場合)と比較して、NEDO(国)が関与することの優位 性がより高いものであるか。 ・当該政策目的の達成に当たって当該プロジェクトを実施することによりもたら される政策効果が、投じた政策資源との比較において効率的・効果的であるか (費用対効果はどうか)。 (知的基盤・標準整備等のための研究開発の場合を除 く) (2)事業目的・政策的位置付けの妥当性 ・プロジェクト業開始時点の時代背景認識から見て、事業の目的は妥当で、政 策的位置付けは明確か。 ・評価時点から見て、事業の目的は妥当で、政策的位置付けは明確か。 ・政策課題(問題)の解決に十分資するものであったか。 ・国としての国際競争力に資するものであったか。 1.2.2 研究開発マネジメントについて (1)研究開発目標の妥当性 ・プロジェクトの目的を達成するために、具体的かつ明確な開発目標、目標水 準を設定していたか。 ・目標達成度を測定・判断するための適切な指標が設定されているか。 1-4 (2)研究開発計画の妥当性 ・目標達成のために妥当なスケジュール、予算(各個別研究テーマ毎の配分を 含む)となっていたか。 ・目標達成に必要な要素技術を過不足なく取り上げていたか。 ・研究開発フローにおける要素技術間の関係、順序は適切か。 (3)研究開発実施者の事業体制の妥当性 ・目標を達成する上で、事業体制は適切なものか。 ・関係者間の連携が十分行われるような体制となっていたか。 (4)研究開発実施者の運営の妥当性 ・意思決定、進捗状況、計画見直し等の検討が適切に行われていたか。 ・プロジェクトリーダー(サブテーマのリーダーを含む)が有効に機能してい たか。 ・プロジェクト開始後の情勢変化(目標未達が明らかになった場合を含む)へ の対応は適切であったか。 (5)情勢変化への対応の妥当性 ・技術動向や社会・市場ニーズの変化等に対応して、計画を適切に見直したか。 ・計画の見直しに当たっては、時代背景の変化を考慮していたか。 (6)中間評価結果の反映 ・中間評価結果を基にして、計画の見直しに当たったか。 1.2.3 研究開発成果について (1)計画と比較した目標の達成度 ・成果は研究開発目標をクリアしていたか。 ・全体としての目標達成はどの程度か。 ・立案時点または計画見直し時点の時代背景認識から見て、事業は研究開発と して成功したといえるか。また、評価時の時代背景から見てどうか。 (2)要素技術から見た成果の意義 ・世界最高水準、世界で初めて、又は国際水準から見て優れた成果があるかあ ったか。 (ある場合は、その根拠及びインパクトが明確に説明されているか。) ・新たな技術領域を開拓するような成果の独創性が認められるか。 (認められる場合は、新たな技術領域の内容、その根拠、規模及び発展性はど うか。) ・新たな市場創造につながるような新規性、先進性が認められるか。 (認められる場合は、新たな市場の内容、その根拠及び発展性はどうか。) ・汎用性のある(応用分野の広い)技術が開発されているか。 ・当初想定していなかったような成果(派生技術等)はあるか。 1-5 (3)成果の普及、広報 ・論文の発表は、質・量ともに十分か。 ・特許は適切に取得されているか。 ・基本特許が的確に取得されているか。 ・特許性は十分あると判断されるか。 ・外国特許が適切に出願されているか。 ・成果の公共性を担保するための措置、あるいは普及方策を講じているのか。 ・広報は一般向けを含め十分に行われているか。 1.2.4 実用化、事業化の見通しについて (1)成果の実用化可能性 ・産業技術としての見極め(適用可能性の明確化)ができたか。 ・公共財としての需要が実際にあるか。見込みはあるか。 ・公共性は実際にあるか。見込みはあったか。 ・事業化が見込めるか。 (2)波及効果 ・成果は関連分野へのインパクトを期待できるものか。 ・当初想定していなかった波及的な成果はあるのか。 ・プロジェクトの実施自体が当該分野の研究開発を促進するなどの波及効果を 生じているか。 【注1】 : 「必要性」の観点からの評価は、政策効果からみて、対象とする政策に係る 行政目的が国民や社会のニーズ又はより上位の行政目的に照らして妥当性 を有しているか、行政関与の在り方からみて当該政策を行政が担う必要が あるか等を明らかにすることにより行うものとする。 (政策評価に関する基 本方針(閣議決定平成 13 年 12 月)参照) 【全体注】:評価においては、プロジェクトに対する提言を含めて検討を実施するも のとする。 1-6 (参考資料) 政策立案・評価ガイドライン(抜粋) (平成 11 年 12 月経済産業省策定) IV.評価事項 1.事前評価 (1) 施策・制度の必要性[どのような問題が存在するのか、なぜその問題を改善する上で行政の関 与が必要なのか] 民間活動のみでは改善できない問題であって、かつ、行政が関与することにより改善できるも のが存在することを論証しなければならない。 行政の関与の必要性については、 「市場の失敗 市場の失敗」 「市 市 市場の失敗 と関連付けて説明すべきことを原則とする。 場の失敗」については以下に概念を示すが、より詳しくは、行政改革委員会「行政関与の在り方 場の失敗 に関する基準」 (平成 8 年 12 月 16 日)の「行政関与の可否に関する基準」による。 行政関与の必要性の説明として、 「市場の失敗」 市場の失敗 に該当しないものも許容するが、その場合には、 上述した問題の存在することの説明や公共性が高いことの根拠はできる限り客観的に明らかにし なければならない。 <市場の失敗 市場の失敗>…行政改革委員会「行政関与の在り方に関する基準」 (平成 8 年 12 月)による 市場の失敗 (a) 公共財的性格を持つ財・サービスの供給(経済安全保障、市場の整備、情報の生産、 文化的価値を含む) 複数の人が同時に消費できたり、対価の支払いなしに(まま)消費を制限することが 困難である財・サービスのことをいう。 例:市場ルールの形成 (b) 外部性 ある個人・企業の活動が、市場を経ずに他の個人・企業の経営環境に影響すること をいう。好ましいものを正の外部性、好ましくないものを負の外部性という。 例:負の外部性の例として地球環境問題(正の外部性については、解釈に幅があると される) (c) 市場の不完全性 不確実性や情報の偏在(財や価格について取引の当事者間で情報量にばらつきがあ ること)などがあるために市場取引が成立しないこと。 例:技術開発(不確実性) 、製品事故(情報の偏在) (d) 独占力 独占力は、一般には、市場におけるマーケット・シェアやライバル企業と異なる品 質の製品を提供することによって生まれる価格設定力である。市場参加者が大きな独 占力を持っている場合には、行政の関与が許容される場合があるとされる。 (e) 自然独占 平均生産費が、市場で需要される産出量を超えても逓減するため、新規参入が利潤 をもたらさず、また 1 社だけ存在することが効率的になるため生ずる独占のことをい う。 (f) 公平の確保 公平の確保を図るための施策については、機会の均等を図ることを第一とし、事後 的な公平については、所得・資産の多寡を基準とした再分配に原則として限定し、そ れ以外の施策からは原則として撤退する、とされている。 1-7 第2章 プロジェクトの概要 当該事業の推進部室及び研究実施者から提出された事業原簿をもって、当該プロジェクトの概 要を示す。 [産業技術開発制度] [複合生物系等生物資源利用技術開発] 事業原簿 作成者 作成時期 新エネルギー・産業技術総合開発機構 バイオテクノロジー開発室 2003年1月8日 0.概要 制度名 産業技術開発制度 事業の概要 事業名 複合生物系等生物資源利用技術開発 本研究開発は、単一生物種の機能を利用した従来のバイオ技術の枠を超え、複合生 物系が持つ高度な機能の利用を実現するために必要な解析技術及び産業利用技術の開 発を目指す。そのために、①複合生物系の解析・分離技術の開発、②複合微生物系等 の利用技術の開発、の基盤開発を目指す。 本研究開発の対象とする複雑な生態系を解析し、有用な複合生物系を解析、利用する技 1.NEDOの関与の必要性 術を開発するためには、長期的かつ大規模な研究開発投資が必要であり、民間企業独 ・制度への適合性 自で研究開発に着手することは困難である。また国が主導して研究開発を行うことに よって、生物多様性条約に基づき生物資源保有国との信頼関係を構築しつつ研究開発 の円滑な実施を図ることが出来る。 2.事業の背景・目的・ 位置付け 従来の単一生物種を基本としたバイオテクノロジーで取り扱い可能な生物種は、例えば微 生物では0.1∼1%前後と言われており、有用な複合生物系はハンドリングできる技術が無 いため未利用のままである。本研究開発には、単一生物系を対象としてきた従来技術 を一歩進めた新しく高度な技術体系が必要であり、独創的かつ基盤的な研究開発を実 施し、①革新的技術シーズの発掘、②産業技術としての成立性の見極めを目指す。 3.事業の目標 (全体目標) ①複合生物系の解析・分離技術の開発(複合生物系をハンドリングする基盤技術開発) ②複合微生物系等の利用技術の開発(複合微生物系等のハンドリング技術を用いて産業利用 に役立てるための技術開発) 4.事業の計画内容 H9fy H10fy H11fy H12fy H13fy 総 額 (単位:百万円) JBA・MBI一般会計 (5年間) (当初) 24 24 22 30 30 130 (実績) 24 23 175 29 29 280 (補正額含む) JBA・MBI特別会計(電多) (当初) 0 0 0 0 0 0 (実績) 0 0 0 0 0 0 JBA・MBI特別会計(石油) (当初) 1,119 1,102 1,135 1,127 1,131 5,614 (実績) 1,074 1,065 1,052 1,056 1,054 5,301 JBA・MBI特別会計(エネ高) (当初) 510 454 398 277 215 1,854 (実績) 471 416 368 257 199 1,711 (当初) 110 105 71 61 42 389 (実績) 110 105 71 61 42 389 (当初) 0 0 0 0 0 0 (実績) 0 0 0 0 0 0 (当初) 0 0 13 11 17 41 (実績) 0 0 13 11 17 41 (当初) 0 0 7 6 6 19 (実績) 0 0 7 6 6 19 AIST一般会計 AIST特別会計(電多) AIST特別会計(石油) AIST特別会計(エネ高) 総予算額(計) (当初) 1,763 1,685 1,646 1,512 1,441 8,047 (実績) 1,679 1,609 1,686 1,420 1,347 7,741 研究開発体制 省内担当原課 経済産業省 (実態に併せて記載) 運営機関 新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託先 ㈱海洋バイオテクノロジー研究所 財団法人 製造産業局 生物化学産業課 バイオインダストリー協会 再委託先 インドネシア技術評価応用庁(BPPT)及びBakrie&Brothers 共同研究先 独立行政法人 産業技術総合研究所 5.実用化、事業化の見 これまで未解明・未利用であった複合生物系を主とする新規生物資源・機能の入手が 通し 可能となり、生物資源開発がより円滑化し、新規産業創出、国内バイオ産業競争力強化に 大いに貢献する。また複合生物系による新規バイオリアクターによる効率化、高性能バイオプロセ スの実現とそれによる有用物資の生産またはバイオレメディエーション等の高度化が実現する。 6.今後の展開 本プロジェクトで開発された基本的な原理・手法を産業化に繋げるためには、①基本的原 理・手法を適用した機器化(デバイス化)、②基本的解析手法を適用した複合生物資源の 持続的利用(生物資源保有国との協調関係構築)、③複合生物系における機能性ゲノム開 発に焦点・重点化を図り、今後継続的に行うことにより実用化が必ず出来るものと考 えられる。 7.中間・事後評価 中間モニタリング評価(平成12年11月) 事後評価(平成13年1月) 8.研究開発成果 特許出願数:165(42)、特許審査請求数:44(30)、登録特許数:14(10)、査読論文数213 (115)、新聞発表数:53(1)(()は全体件数内AISTが占める件数) 9.情勢変化への対応 基本計画の変 特に無し 更 変更内容 ― 評価履歴 中間モニタリング評価(産業技術審議会 10.今後の事業の方向性 作成日 平成15年1月8日 評価部会・評価委員会) 目 次 1.NEDOの関与の必要性・制度への適合性 1.1 NEDOが関与することの意義 1.2 費用対効 2-1 2-1 2-2 果 2-3 2.事業の背景・目的・位置付け 2.1 事業の背景・目的・意義 2-3 2.2 事業の位置付け 2-6 3.事業の目標 2-7 4.事業の計画内容 2-8 2-8 4.1 事業全体の計画内容 4.2 要素研究項目毎の計画内容の詳細 2-10 4.3 研究開発実施主体の体制 2-12 5.実用化、事業化の見通し 2-15 6.今後の展開 2-19 7.中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期 2-23 8.研究開発成果 2-24 2-24 8.1 事業全体の成果 8.2 要素研究項目毎の成果 (別冊)非公開扱い 2-30 9.情勢変化への対応 2-31 10.今後の事業の方向性 2-32 1.NEDO 1.NEDOの関与の必要性・制度への適合性 NEDOの関与の必要性・制度への適合性 1.1 NEDOが関与することの意義 が関与することの意義 本研究開発の対象とする複雑な生態系を解析し、有用な複合生物系を解析、利用する技術を開 発するためには、既存の技術に比べてより高度な技術体系が必要となり、このような複合生物系 に関わる技術は未だ無い新領域と言える。その技術開発には長期的かつ大きな規模の研究開発投 資が必要であることから、国の主導によりこれを構築することなしに、従来技術の延長線上での 研究開発を中心とする民間企業独自では着手し、取り組むことは困難である。 一方、バイオ産業にとって極めて重要な資源である生物資源へのアクセスについては、生物多 様性条約により、資源保有国の権利を尊重しつつ、相手国との間で適切な枠組みを構築すること が必要となる等、困難になりつつある。欧米諸国はすでに生物資源については国家的長期戦略の もとで、産官学が連携して、数世紀にわたる生物資源確保に取り組んできているのに対し、我が 国は生物資源確保について極めて貧弱な現状であり、また、我が国産業界も生物資源保有国との 連携関係の蓄積が貧弱である。このような背景のもと、バイオ産業の国際競争力を維持するには、 生物資源の確保、すなわち、資源保有国の権利を尊重しつつ、良好な信頼関係を構築・維持する 事が不可欠であるが、これらの取り組みは、民間企業の営利目的のための一時的な活動ではなく、 国家としての戦略の中に位置づけ、長期的な視野のもとに効率的になされる必要がある。 また、本研究開発は複合生物系を対象とし、その基礎となる解析・機能評価技術及びその産業 利用のための利用技術を確立することを目的としている。その実現のための技術シーズは生態系 を解析できる技術であり、大学及び国研を中心として研究されているものである。こうした要素 技術を、複合生物系を利用する産業技術の有効なものとして体系化するには、民間企業のニーズ と連携した研究開発を進めることが必要である。 さらに、本研究開発の成果・将来展開としては、未利用の有用生物機能、また複合生物系を用 いた物質生産・物質分解技術を活用した新たなバイオプロセスの利用により、21世紀型の環境 に調和した持続的発展可能型のバイオテクノロジーの産業応用や、従来、複数の生物が関与して いるために技術の高度化が困難であったバイオレメディエーション等に、新たな展開をはかるこ とが可能となると考えられている。また、複合生物系の利用だけではなく、生態系の解析、保全 にも応用し得ると考えられ、生物多様性条約締結国として、我が国が行う技術的側面での国際貢 献にも成り得るものである。これらの期待される成果についても、産業界に移転・利用され、新 たな生物資源の開発に応用され、得られた生物資源の利用技術開発につながっていくことが重要 であること、併せて、生物資源保有国に還元するなど、国際的な貢献を行うことが必要であるこ とから、国の実施する産学官の共同プロジェクトとして位置づけることが必要である。 以上のような背景のもと、科学技術会議18号等答申においてバイオインダストリーの基盤となる生物 資源への研究開発の重要性、また、産業科学技術研究開発指針の通商産業省(現・経済産業省) として取り組むべき研究開発の方向において生物資源開発の重要性を指摘するとともに、特に単 純な系から複雑な系への拡大として、生物機能の応用の幅を広げるために生物単体から共生系、 生態系へと生物の機能の解明、利用に係わる研究開発を展開すべきと示されている。本プロジェク ト(複合生物系等生物資源利用技術開発)において実施する研究開発は、まさにこの方向性に沿 ったものである。 2-1 1.2 費用対効果 本技術開発は従来のバイオ技術では産業利用が難しい複合生物系の機能を産業利用するため に、「複合生物系の解析技術・分離技術の開発(複合生物系をハンドリングするための基盤技術 開発)」および「複合微生物系等の利用技術の開発(複合微生物系等のハンドリング技術を用い て産業利用に役立てるための技術開発)」を研究項目として、平成9年度∼平成13年度の5年 間実施された。初年度である平成9年度の総予算額は17.63億円であった。 本技術開発により、(1)これまで未解明、未利用であった生物種、複雑な生態系の中で有用 な機能を示す複合生物系を中心とする新たな生物資源、生物機能の入手が可能となり、生物資源 の開発が円滑に行われ、これを利用することによって成立するバイオ産業の発展に寄与する。 (2)複合生物系を利用する新たなバイオリアクターによる効率的、高性能なバイオプロセスの 実現とそれによる新たな有用化学物質の生産、複合微生物系が行う分解過程の効果的制御による バイオレメディエーション等の高度化が実現する。 (1)に対する具体的な取り組みからは、種々の分子遺伝学的解析技術の開発により、効率的 な微生物の検出が可能になり、産業上有用な微生物モニタリング技術としての応用面での効果が 大いに期待される。また、微生物の多様性を反映した分子系統学的新規分類同定技術等の進展が 期待できる。培養困難な微生物の取得技術の開発は99%が手付かずに残されている微生物資源 の産業利用を大幅にアップする効果がある。共生微生物の人工培養化への取り組みもまた生物資 源拡大につながる意義を持っている。ハイスループット複合微生物機能解析ロボットの開発は微 生物の移植、スクリーニングの自動化により微生物機能スクリーニング効率の飛躍的向上が見込 まれる。 (2)について、複合生物系による工業的物質生産を可能にする基盤技術である複合微生物の 培養制御技術は未開拓で複合生物系を産業利用する上で不可欠の技術開発である。世界的な油糧 植物アブラヤシにおける植物病原菌早期検出システムの開発は油脂化学工業の安定化に貢献で きる。また、物質分解ではバイオレメディエーションによる環境修復、活性汚泥処理等において、 関与する複合微生物の検出、モニタリングと制御技術開発による効率化が期待される。 本技術開発は基盤技術開発であり、その効果を定量的に記述することは難しいが、例えば以下 のような効果が試算される。 ・パームオイルの生産量は1730万t(1997年)に達し、その80%以上がマレーシアとイ ンドネシアで生産されている。パームオイルの生産コストは29,000円/t(Nick Norvell, Oil and Fats International, Vol.12, No.6 (1996)による)とすれば、総額5000億円になる。一 方、栽培されているアブラヤシの7∼8%が茎腐れ病に罹病していて、その拡大が懸念されて いる。 本プロジェクトの技術開発による病原菌早期検出アラームシステムが実用化された場 合、年間数100億円の経済効果が期待される。 以上のように、複合生物系のハンドリング技術開発は費用対効果の大きい技術開発であり、 多岐の分野に渡り、波及効果が期待できる。 2-2 2.事業の背景・目的・位置付け 2.1 事業の背景・目的・意義 (背景) ヒトやイネの遺伝子解析が開始され、21世紀は、バイオテクノロジーが様々な産業領域で活 用される時代となると予想されていた。先進諸国は、様々な戦略・戦術を駆使し、バイオ産業、 バイオテクノロジーの根幹を支える材料ともいえる生物資源の確保をますます進めつつあった。 例えば、米国は、コスタリカの国土の27%を占める国立公園であり自然保護区である地域の事 実上の管理権を手中に収め、またイギリスは王立キュー植物園を中心に、野生植物資源の確保活 動を開始していた。両国以外の欧米各国も、特に旧植民地の宗主国は、植民地時代のコネクショ ンをも活用して、海外の生物資源へのアクセスルートの確保に活発な活動を展開していた。 一方、従来の海外生物資源採種については、先進国が熱帯の途上国などの資源保有国の権利を ないがしろにして生物資源を採種して自国に持ち帰るといったやり方に対する反省から、生物資 源保有国の、生物資源に対する権利を尊重することを基本理念とする国際条約の制定が進められ つつあり、もともと海外の生物資源へのアクセスルートを維持することに熱心でなかった我が国 にとって、新たな生物資源へのアクセスルート構築も困難となる事態を迎えることになった。 このような中で、熱帯・亜熱帯地域、特に我が国に近い東南アジア、西太平洋地域の国家にお ける生物資源について、通商産業省により総合開発計画調査「アジア諸国における研究開発基礎 調査−熱帯地域の生物多様性の保全と利用に関する基礎調査」(平成3年度)が実施され、生物 種は、極めて重要な資源であり、途上国との協力関係を構築しつつ、これを保全しつつ持続的な 利用を可能にするため、国家レベルで取り組むことが喫緊の課題であるとの提言が提出された。 平成5年度より、産官学で、「熱帯生物機能利用技術研究開発に関する勉強会」が組織されると 共に、工業技術院・産業科学技術研究開発制度のもとで、NEDOによる先導研究「熱帯生物機能 利用技術」が開始された。これら及びこれらに引き続いて実施された「生物多様性保全と持続的 利用等に関する研究協力」などにより、生物資源利用技術に関する重要技術課題の検討が進めら れた。 それらの結果、最重要技術課題として複合生物系等生物資源利用技術が取り上げられた。この 技術は、おおきく2つの意味を含んでいる。 その1つは、従来の単一生物種を基本としたバイオテクノロジーで取り扱い可能な生物種は、 例えば微生物の場合で0.1∼1%前後(出典; R. I. Amann et al., Microbiol. Reviews, Vol. 59, p. 143-169, 1995)と言われており、99∼99.9%の生物資源が未利用のまま放置されている。これら の未利用生物種は、他の生物種との複雑な相互作用のもとで、生命活動を維持していると考えら れており、複数の生物種が存在する系(複合生物系)をそのまま取り扱う技術を開発することで、 人類が利用できる生物資源の量を飛躍的に拡大できると考えられた。これは、生物資源の確保に ついて先進国に対して大幅に遅れをとった我が国が、速やかに国際的優位性を確保できるキーテ クノロジーとして重要な意味をもつとされた。 もう一つは、殆どすべての生物種が、他の生物種との相互作用のもとで生命活動を展開してい るが、従来の生物の有用機能・有用物質探索は、単一生物種を対象としたものであり、複合生物 系を取り扱う技術を構築することで、新たな有用機能・有用物質が探索できること、さらに既存 の生物資源でも他の生物種と合わせ、複合生物系として解析することで、新規機能・新規有用物 質の探索源として活用できる可能性があることが、指摘された。 2-3 すなわち、前者で、人類が取り扱える生物資源の量的拡大、後者で、その生物資源から得られ る有用機能・有用物質の新規性・質的差異に重要な意味があるとされ、この2つの意義から、複 合生物系等生物資源利用技術開発が取り上げられた。 技術的な背景としては、複合状態の生物種を高精度の定量的に分類・同定する解析技術、複合 状態の個々の生物種を、それぞれ区別して操作・取り扱う技術、複合状態を維持したまま飼育・ 培養制御を行う技術など、複合生物系を取り扱う技術は殆ど手つかずの状態であり、これらの技 術開発に取り組むことで、国際的な技術開発競争に優位性を維持できると考えられた。 また国際的な生物資源に関わる社会背景として、生物資源保有国の権利を尊重する生物多様性 条約の精神を尊重し、資源保有国との協力関係を構築しつつ、国家としての生物資源利用技術開 発に取り組む必要性が高まっており、我が国の技術ポテンシャルを生かすべく、本テーマについ て当該諸国と共同研究を展開することにより生物資源の確保も円滑化することが可能と考えら れた。 (目的) 自然界の多くの生物は、生物と生物、生物と環境(気候、風土等)が深く相互に関与し、多様 な相互関係を維持しながら共存している(以下、「複合生物系」という。)。その多くは、単一 生物では得られない高度な機能を持っているものと予想される。単一生物系を対象とした従来の バイオ技術では、取り扱い可能な生物種が、微生物の場合で0.1∼1%前後と言われており、複合 生物系を取り扱う技術がないため、多くの生物資源が未利用のまま残されている。 本研究開発は、単一生物種の機能を利用した従来のバイオ技術の枠を超え、複合生物系(例え ば、ある特定機能を有する2種以上の微生物で構成される複合微生物系等)が持つ高度な機能の 利用を実現するために必要な解析技術及び産業利用技術を開発することを目的とする。そのため に、分子生物学的手法等を用いて、複合生物系をそのままの状態で解析できる複合生物系解析技 術を確立するとともに、複合生物系による物質生産及び物質分解等における培養制御技術等を開 発する。また、生物資源の保全と持続的利用に資するため、本研究開発を熱帯等多様な生物資源 を保有する国と協調して実施することに努める。これにより、バイオテクノロジー分野での新規 産業の創造に資する。 (意義) 本テーマは複合生物系を対象としており、単一生物系を対象とする従来技術を一歩進めた、新 しく高度な技術体系が必要であり、独創的かつ基礎的な性格を有している。またバイオテクノロ ジーに必須の、新たな生物資源開発に応用することが可能であり、科学技術の振興に必要な基盤 整備にも資することが可能である。 我が国のバイオ関連産業は、2000年時点の予測では2010年には25兆円(出典;「21世紀の バイオインダストリーの創造に向けた政府の戦略資料集」(2000年4月)日本バイオ産業人会議 より)に成長すると想定されている。本研究開発により、単に利用可能な生物資源の量的拡大が 果たされるだけでなく、従来と質の異なる新規の有用機能・物質の探索が可能となるなど、本研 究開発の成果を利用した複合生物系の利用により、バイオ産業の展開に重要な技術基盤の構築が 期待される。 (学問的・技術的波及効果) (学問的・技術的波及効果) 多くの複合微生物系の機能は現在でもブラックボックスであり、そのブラックボックスを解明 しようという動きはプロジェクト発足前の2∼3年で、世界的に大きな流れとなっている。 2-4 複合生物系の機能解明は昔からある議論であり、これまでに研究者がそれにチャレンジしてき たが技術的にはブレークスルーされていない。これまで技術的に不可能であった共生等複合生物 系の機能解明、分離・培養等はPCR、DNAプローブ手法等の分子遺伝学的手法等の技術進展 に伴って可能となってきているものの、複合生物系中の構成生物の生物種、構成比、生理的機能 の解析・解明にそのまま適用するのはいまだに困難で、大きな壁が存在している。 本研究においては複合生物系の解析・システム化等の技術開発項目についての研究開発を行い つつ、複合生物系を用いた物質生産および物質分解技術の確立を目指す。 具体的には、(1)微生物―微生物複合系、(2)微生物―昆虫等複合系(3)微生物―動植 物複合系についての研究を行った。 上記から、本プロジェクトを遂行することによる学問的ならびに技術的波及効果は、極めて大 きいと考えられる。 (国内外の関連/類似研究とポテンシャル) 複合微生物系を対象とした現象としては、「物質の分解」を中心として事例が見られるものの、 機能解析はされておらず、その機能の制御・最適化された利用はなされていない。本プロジェク トの発足前の関連研究例を以下に示す。 ・共生微生物系でポリビニルアルコールの分解。 ・活性汚泥系での有機化合物の分解。 ・窒素固定の例に見られる植物/根粒菌の共生関係の研究例は古くからあり。 ・メタン発酵による有機物質の分解。 ・Nitrosomonas とNitrobacter 等によるアンモニアが硝酸を経て、窒素まで変換される廃水処 理での脱窒。 ・酪酸を代謝物とするClostridium butyricum と光合成細菌 Rhodosprillum rubrum との混合 培養により、酪酸を炭素源として水素発生を行う。 ・好熱性絶対共生菌による耐熱性トリプトファナーゼの生産 Symbiobacterium thermophilum は耐熱性酵素のトリプトファナーゼを生産するが、同菌の 生育にはBacillus sp. S株のつくる蛋白質物質が必須である。 (当該技術に関する特許の動向とポテンシャル) 複合生物系を解析するための技術の構成要素となる分子遺伝学的解析手法としてのPCR法 ならびに gyrB 遺伝子による細菌の同定検出法については、国内外共に特許が成立しているが、 それらを当該分野において適用、体系化した例はない。 また複合生物系を利用する技術としての、活性汚泥法による廃水処理技術に関する特許も確立 されているが、本研究開発が目指す複合生物系の構成生物種の管理、制御、複合生物系再構成技 術、複合生物系を利用した物質生産等の基盤技術については、現在のところほとんど報告された 例はない。 このような当該技術に関する特許動向のもと、昭和63年度発足の「高機能化学製品等製造法 (海洋生物活性)」(通称:海洋バイオプロジェクト、産技制度、昭和63年度∼平成8年度)にお いて、gyrB 遺伝子による細菌の分子遺伝学的同定・検出手法の開発、石油分解菌等の分離なら びに遺伝子レベルでの解明、フジツボ等の接着蛋白質と付着阻害物質、また平成5年6月発足の 産技先導研究「熱帯生物機能利用の先導研究」(通称:熱帯バイオプロジェクト)において、マ ングローブ等熱帯系植物等と生態系の関係についての調査研究を行ったとともに、平成7年8月 2-5 に先導研究の成果を海洋バイオプロジェクトに追加した「高機能化学製品等製造法(海洋・熱帯 生物活性)」を行ってきている。このようなプロジェクト研究を行ってきたことにより、複合生 物系そのものではないが、その周辺及びその基礎となり得る研究蓄積、技術ポテンシャルを有し ている。さらにプロジェクト外において、活性汚泥、メタン発酵等の複合微生物系を対象とした 研究、エステル結合型蛍光染色剤による土壌中の生きている全微生物をそのままの状態で染色す る手法の開発を行ってきていた。以上の研究蓄積が示すように、複合生物系等生物資源利用技術 開発に係る研究開発能力のポテンシャルを有していた。 2.2 事業の位置付け (事業の類型) 本プロジェクトにおける複合生物系とは、「生物と生物、生物と環境(気候、風土等)が深く 相互に関与し多用な相互関係を維持しながら共存している状態」と定義することとした。すなわ ち本研究開発は、単一生物種の機能を利用した従来のバイオ技術の枠を越え、複合生物系(例え ば、在る特定機能を有する2種以上の微生物で構成される複合微生物系等)が持つ高度な機能の 利用を実現するために必要な解析技術及び産業利用技術を開発することを目的とする。 本テーマは複合生物系を対象としており、単一生物系を対象とする従来技術を一歩進めた、新 しく高度な技術体系が必要であり、独創的かつ基礎的な性格を有している。またバイオテクノロ ジーに必須の、新たな生物資源開発に応用することが可能であり、科学技術の振興に必要な基盤 整備にも資することが可能である。 以上のことより、事業の類型としては、①革新的技術シーズの発掘、②産業技術としての成立 性の見極めである。 (内外の研究開発の中での位置づけ) 複合系にも利用可能な分析技術等の進展により、ここ数年で複合生物系の機能解明、利用の動 きが活発化している。 国内においては昭和63年発足の「高機能化学製品等製造法(海洋・熱帯生物活性)」(通称: 海洋バイオプロジェクト)等において、複合生物系の対象としてシャコガイの共生関係、マング ローブとの共生関係等について研究を行っていたが、海洋バイオプロジェクト及び熱帯バイオプ ロジェクトにおいてはそれ以上の発展性が見られなかったため、複合生物系という視点、切り口 からの研究の進展はなかった。 また、本プロジェクト発足時までの国際的な動向を以下に記した。 (イ)1994年OECD東京ワークショップ報告書 微生物により環境を浄化するというコンセプトのバイオレメディエーション分野におい て、従来はブラックボックスとして扱われていた「共生・複合微生物等のコンソーシアムの 機能解明・多様性解明」が極めて重要であると結論づけられた。 (ロ)1995年米国ホワイトハウス報告書 「Biotechnology for the 21th Century: New Horizons」 今後、米国としてバイオテクノロジーの優位性を21世紀に持続させるために必要な重要 技術分野を列挙。「複合微生物系」の研究を、その技術のポテンシャルから環境への利用分 野での第一プライオリティに挙げている。 (ハ)ユーレカプロジェクト報告(1995年) 2-6 EUにおいても、1996年以降複合微生物系の技術開発(自動モニタリング技術)に着手する。 本プロジェクト発足後の内外の動向を以下に記した。 (ニ)米国環境保護庁(EPA)の「STARプログラム」 1995年以降複合生物系に関する研究が始められている。研究内容は複合生物系を分子生物 学的手法で解析するものが殆んどであるが、複合生物系による塩素系有機化合物の分解過程にお ける微生物相の変化などを追跡出来るようになりつつある。 (ホ)米国国立科学財団(NSF)の「微生物観測(MO)プログラム」及び「環境中のバイオ 複雑性(BE)プログラム MOは未知微生物探索が主目的であり、2000年から微生物の同定や系統学的関係、相互作 用等の解明を目指している。また、BEは微生物の複雑性に関する研究を行なう総合的なプログ ラムで初年度の2001年採択の中に「昆虫の草食を介する共生微生物の遺伝学的生態学的統合 解析」と云う、共生微生物の役割解明を目的とした研究が入っている。 (ヘ)米国エネルギー省(DOE)の「微生物ゲノムプロジェクト」 2001年度の予算規模は公募された5分野で600万ドルであり、その中に「コンソーシア 及び難培養微生物」分野があって2∼3件、総額100万ドルが充てられている。 (ト)産総研における国家プロジェクト「環境中微生物の高精度・高感度モニタリング技術の開 発」 平成13年度より、組換え微生物の産業利用上の安全性を評価する目的で、多様な環境中にお ける微生物相の動的変化を定量的に解析する技術開発が行われている。 3.事業の目標 (1)事業の全体目標 本研究開発は、単一生物種の機能を利用した従来のバイオ技術の枠を超え、複合生物系(例え ば、ある特定機能を有する2種以上の微生物で構成される複合微生物系等)が持つ高度な機能の 利用を実現するために必要な解析技術及び産業利用技術を開発することを目的とする。そのため に、分子生物学的手法等を用いて、複合生物系をそのままの状態で解析できる複合生物系解析技 術を確立するとともに、複合生物系による物質生産及び物質分解等における培養制御技術等を開 発する。また、生物資源の保全と持続的利用に資するため、本研究開発を熱帯等多様な生物資源 を保有する国と協調して実施することに努める。 これにより、バイオテクノロジー分野での新規産業の創造に資する。 複合生物系等生物資源利用技術に係わる技術開発の中で、以下の研究項目について、別紙の研 究開発計画に基づき研究開発を実施する。 ①複合生物系の解析技術・分離技術の開発 (複合生物系をハンドリングするための基盤技術開発) 複合生物系の利用を図るための、複合生物系を分子遺伝学的手法等を用いて解析すると ともに、その構成微生物等の分離等を可能にする基盤技術の開発を目標とする。 ②複合微生物系等の利用技術の開発 2-7 (複合微生物系等のハンドリング技術を用いて産業利用に役立てるための技術開発) 従来ほとんど未利用であった複合微生物等を活用した有用機能物質の高効率生産等の新 規産業への展開の実現のため不可欠な複合微生物系等のプロセスを利用するための基盤技術 の開発を目標とする。 (2)目標設定理由 (2)目標設定理由 バイオインダストリーにおけるこれまでの生物資源に係わる研究開発、及びその利用は、生物 種の単離、単離された単一生物の持つ機能の利用を中心とするものであった。本テーマにおいて、 その産業利用の実現を目的とする生物機能は、複合生物系において示されるものであり、その機 能評価・利用には、より高度かつ複雑な技術体系が必要であり、独創的かつ基礎的な性格を有す るものである。すなわち、本テーマは複合生物系を対象として、単一生物系を対象として発展し てきた従来のバイオテクノロジーに関する技術の枠を一歩超え複合生物系(例えば、ある特定機 能を有する2種以上の微生物で構成される複合微生物系等)が持つ高度な機能の利用を図るのに 必要な基盤的な解析技術及び基盤的な産業利用技術を開発することを目的としている。 以上に示すような本テーマの設定に対して、本テーマの発足時点においては前述の類似研究の項 で記したように共生微生物系でのポリビニールアルコールの分解、活性汚泥系での有機化合物の 分解、好熱性絶対共生菌による耐熱性トリプトファナーゼ等にみられるように、物質の分解を中 心にして少数の学際的研究例が散見されるものの、産業への展開を図るという事例は、我が国を はじめとしてEUのユーレカプロジェクト(複合微生物系モニタリング技術)を除いて、世界各 国のナショナルプロジェクトにおいてもほとんど皆無に等しかった。一方、OECDやホワイトハウスの報 告書に見られるように複合微生物系等の新領域に対し、我が国だけではなく欧米先進国の関心が 高まりつつあった。このような状況のもと産技制度集中管理型第1号として、1997年に本テーマ は欧米先進国より一早くスタートを始めた。 4.事業の計画内容 4.1 事業全体の計画内容 本研究開発は単一生物種の機能を利用した従来のバイオ技術の枠を一歩超え、複合生物系が持 つ高度な機能の産業利用への展開を図るのに必要な新規性、独創性に富んだ基盤的な①解析技術 及び②産業利用技術の、技術シーズの発掘とその見極めを研究開発の目標としている。このため に、以下に示す研究項目①「複合生物系の解析技術・分離技術の開発(複合生物系をハンドリン グするための基盤技術開発)」と研究項目②「複合微生物系等の利用技術の開発(複合微生物系 等のハンドリング技術を用いて産業利用に役立てるための技術開発)」を設定し、各要素研究毎 の相互の関連を密接にリンクさせながら研究開発を行うこととした。 研究項目①「複合生物系の解析技術・分離技術の開発(複合生物系をハンドリングするための 基盤技術開発)」研究開発計画 1)研究開発の必要性 生物資源の利用に係るこれまでのバイオ技術は、単離された単一生物の持つ機能の利用が中心 2-8 である。例えば、微生物系の大部分を占めると想定されている複合微生物系はハンドリングでき る技術が無いため、有用な生物資源がほとんど未利用のままである。この複合生物系の利用を実 現するため、その機能と構成生物種の活性等を複合状態のままで解析できる新たなハンドリング 技術を開発する。 2)研究開発の具体的内容 ①分子遺伝学的・組織化学的解析技術 様々な自然環境下での複合生物系構成微生物等の遺伝情報物質を主な対象とし、遺伝情報成 分の効率的な回収手法、分画(ぶんかく)手法、存在状態(in situ)解析手法、遺伝子多様性 解析手法等の分子遺伝学的解析手法を用いて複合微生物系の構成微生物種・量等を解析する技 術を開発することを目標とする。また複合生物系構成微生物の細胞を存在状態のままで、識別、 解析するin situ特定微生物検出手法や定量的画像解析手法等の組織化学的解析手法を用いて 複合微生物系等の構成微生物種・量等を解析する技術を開発する。 ②分離・培養技術 本研究開発における分子遺伝学的・組織化学的解析技術、機能解析技術等を用いて、従来 技術では分離・培養できなかった複合微生物系構成微生物や、寄生・共生微生物等の分離・培 養を可能とする新しい技術開発を行う。 ③機能解析技術・複合生物系解析システム 生体成分の分析や高性能検鏡システム等による機能解析手法、生物間シグナル物質分析等 による生物間相互作用解析手法等を用いて、複合生物系構成生物間での寄生、共生、共存微生 物等の生態、生理、相互作用等の機能の解析技術を確立する。また構成微生物種の生物量及び 動態解析手法等を用いて、特定機能を有する複合微生物系を構成する微生物の量等を、迅速か つ適切に解析し、その手法をシステム化する技術を開発する。 3)達成目標 上記の各要素技術の開発を行うことによって、複合生物系をハンドリングするための基盤技術 を確立することを目標とする。 研究項目②「複合微生物系等の利用技術の開発(複合微生物系等のハンドリング技術を用いて 産業利用に役立てるための技術開発)」研究開発計画 1)研究開発の必要性 従来ほとんど未利用であった複合微生物系等を利用することにより、新たなバイオプロセスを 活用した有用機能物質の高効率生産の実現等、新規産業への展開が期待される。本研究開発にお いては、その実現のため不可欠な、複合微生物系等のプロセスを利用するための基盤技術の開発 を行う。 2)研究開発の具体的内容 ①微生物―微生物複合系利用による物質生産・分解技術 機能性物質生産能を有する複合微生物系等を、安定的に培養する技術を開発するとともに、 生産プロセスを構築するための制御技術等を開発し、その有効性を明らかにすることを目標と する。また海洋や土壌の環境汚染物質を分解浄化する複合微生物系等を、安定的に培養する技 術を開発するとともに、 自然環境模擬条件下での環境汚染物質の分解浄化の有効性を明らかに し、地球環境浄化技術の開発に資する。 ②微生物―昆虫等複合生物系利用による未利用資源の利用技術 2-9 未利用資源を有用物質に変換する機能を有する複合生物系由来微生物(群)の探索・分析 を行い、その人工培養手法ならびに人工共生系を開発することにより、複合生物系由来微生物 (群)を用いた末利用資源の高付加価値物質への効率的活用技術を開発する。 ③微生物―動植物複合系の利用生産技術 有用物質蓄積・生産能を有する動植物と生産性を向上または阻害する微生物との相互作用 を解析・システム化する技術を開発するとともに、微生物による有用動植物活性化手法等を用 いて、高付加価値物質への生産技術を開発する。 3)達成目標 複合微生物系等による培養制御技術、利用技術等の開発を行い、複合微生物系等を用いた物 質生産及び物質分解技術を確立することを目標とする。 4.2 要素研究項目毎の計画内容の詳細 A.複合生物系解析技術(複合生物系ハンドリングのための基盤技術) 本技術開発では、微生物―微生物複合系等を用いて実際の機能性複合生物系を材料に新規な解 析技術の開発を行い、複合生物系の利用に資する基礎技術を開発することを目的とする。すなわ ち複合生物系中の構成生物の生物種、構成比、生理的機能を、複合状態のまま解析する手法を開 発する。従来の生物化学的・分子生物学的手法は、単離・培養可能な生物にのみ用いることの出 来る技術であり、これら技術の多くは複合生物系の解析に、そのまま適用するのが極めて困難で ある。また微生物の分野においては、従来の単離手法によって得られる微生物種は全体の0.1∼ 1%前後にしか満たず、残りの全ての微生物群については研究すら行われていないことから、単 一の生物種、もしくは特定機能生物群(純粋な共生培養生物系等)を複合生物系から単離する操 作技術を開発することにより、未利用生物群の高度利用に資することを目的とする。各要素研究 毎における手法ならびに目標レベルの設定を以下に記す。 A-1. 分子遺伝学的・組織化学的解析技術 分子遺伝学的・組織化学的解析技術 16S/18S rDNA, gyrB等、生物種を越えて普遍的に存在し、かつ生物種によって異なる塩基配 列を持つ特定遺伝子を用いた複合生物系の分子遺伝学的解析技術開発を行う。併せて免疫化学的 手法や画像解析手法を各種顕微鏡システム(蛍光顕微鏡)に適用し、個々の細胞を存在状態のま ま( in situ )識別化して解析する技術の開発を行う。 A-2. 分離・培養技術 本技術開発では、従来法では分離できなかった特定微生物集団ならびに、その構成微生物や細 胞を分離・培養するための技術開発を行う。具体的には、難分離・難培養微生物の新規な分離・ 培養手法の開発等を行う。 A-3. 機能解析技術・複合生物系解析システム 特定の生物機能に関わる生体成分を解析することで、複合生物系内の特定生物種の機能、生物 量等を推定する技術を確立する。併せて複合生物系による物質生産、物質分解等に資するため、 微生物コンソーシア等の内における主たる微生物の機能、役割及び位置づけを明らかにするため に、当該目的微生物コンソーシア等を構成する個々の微生物の存在量等の動態を解析し、システ ム化する技術の開発を行う。 B. 複合生物系利用・生産技術 産業上有用な機能を持つ複合生物系の、利用に資する基盤技術の開発を目的とする。すなわち 2-10 本研究においては複合生物系の解析・システム化等の技術項目についての開発を行いつつ、複合 生物系を用いた物質生産及び物質分解技術の基礎・基盤の開発を目指す。 具体的には、B-1. 微生物―微生物複合系、B-2. 微生物―昆虫等複合系、B-3. 微生物―動植 物複合系についての研究を行う。以下に、各要素研究毎における手法、ならびに目標レベルの設 定を記した。 B-1. 微生物―微生物複合系利用による物質生産・分解技術 B-1-1. 機能性物質生産技術 機能性物質生産技術 従来まで全く試みられなかった、複合生物系を用いた機能性物質等の生産技術の基盤を開発す る。すなわち、個々の構成生物の生物量を安定的に保存し、その複合微生物系による機能性物質 生産において、生産性を定常化するための生物学的かつ培養工学的な技術の開発を行い、複合生 物系による物質生産のための培養制御技術の開発を行うと共に、極く極く初期のプロトタイプの 培養モニタリング装置等を試作し、その技術的有効性を明らかにする。 B-1-2. 環境汚染物質の効率的分解等地球環境浄化技術 炭化水素、多環芳香族化合物等の、複合微生物系による効率的分解・浄化技術の確立を目的と する。用いる複合微生物系は、広く海洋や陸地環境から求める。個々の技術開発要素は、難分解 性物質の分解能を有する複合生物系の構成生物の生物量、活性などを解析・システム化する技術 を開発する。 また個々の構成生物量を安定的に維持・制御するための生物学的かつ培養工学的な技術の開発 を行う。さらに個々の微生物を独立して培養した後に、再構成し、安定化するための培養制御技 術及び機能強化・向上技術を開発すると共に、ベンチスケールでの技術評価を行い、技術的有効 性を明らかにするとともに緊急時にも対応可能なマニュアルの作成を行う。 B-2. 微生物―昆虫等複合生物系利用による未利用資源の利用技術 シロアリ等に生息する微生物群あるいは、一般環境に存在するポリフェノール系物質分解微生 物群等を対象とし、木質等未利用資源ならびに未利用石油留分の高度利用技術の開発を目的とす る。 すなわちシロアリ等昆虫共生(寄生)微生物等の人工培養化ならびに人工共生系を構築するこ とにより、リグニン等の未利用木質資源分解能を有する複合生物系の利用技術を開発すると共に、 リグニン関連物質と類似の化学構造を有するダイオキシン等内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホル モン)の分解複合生物系を構築することを目指す。 さらにまた、石油留分分解能を有する複合微生物系の構成生物の生物量を安定的に維持・制御 し、中間生産物もしくは最終生産物として各種有用芳香族化合物や炭化水素類の生産性の維持・ 安定化のための生物学的かつ培養工学的な技術の開発を行う。さらに個々の微生物を独立して培 養した後に、再構成し、安定化するための培養制御及び機能強化・向上技術の開発を行うと共に、 生産プロセスをシステム化し、その技術的有効性を評価する。 B-3. 微生物―動植物複合系の利用・生産技術 有用物質生産植物(例えば油脂蓄積植物等)や海産動植物等と共生(又は寄生等)微生物との 関係を明らかにしつつ、従来まで試みられなかった動植物―微生物複合系を用いた有用物質生産 技術、海洋動植物の有用資源・物質生産技術、ならびに複合生物系による環境汚染物質のバイオ モニタリング等の開発を目的とする。すなわち有用物質蓄積・生産能を有する植物と病原微生物 等との相互作用を分子レベルで解析し、早期検出する技術を開発すると共に石油代替エネルギー 2-11 資源等の有用物質生産のための基盤を築くことを目指す。またこれら植物―微生物間相互作用に 関わる物質を特定し、その機構を明らかにする。併せて植物―微生物間の相互作用を解析するた めのモデル複合系を用いて、植物・微生物複合系の認識応答プログラムを解明することを目的と する。更に、海洋藻類−微生物共生系等による培養制御因子や有用物質生産における物質生産性 を安定的に維持・制御するための遺伝子工学的かつ細胞工学的な技術及び機能強化・向上技術を 開発する生産プロセスを構築し、その技術的有用性を明らかにする。さらに、海藻等と共生微生 物との関係を解明し、海藻等海産資源からの有用物質生産技術及びこれら資源の物質分解合成複 合生物系利用による有用物質生産技術の基盤を築くことを目的とする。また、海洋共生藻等によ る環境汚染物質のバイオモニタリングシステムの開発を目的とする。 4.3 研究開発実施主体の体制 (1)―1.研究開発体制の全体の枠組み 本研究開発では、共同研究に参加する産・学・官の各研究グループの有する研究ポテンシャル の最大限の活用により、効率的な研究開発の促進を図るとの観点から、研究現場の研究責任者(プ ロジェクトリーダー)の下に産・学・官の研究者を結集して大規模・集中的に研究開発を実施す る方式(集中管理型)を採用した。本研究開発は、産業技術総合研究所(以下「産総研」という) と、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)の委託先である(財)バイ オインダストリー協会および㈱海洋バイオテクノロジー研究所との間で共同研究を行うととも に、必要に応じて再委託を行って(東京大学、東京農工大学、理化学研究所等)研究開発を実施 した。 なお、本研究開発は、単一生物種の機能を利用した従来のバイオ技術の枠を一歩超えた未だ 無い新領域であり、既存の技術に比べてより新規性、独創性に富んだ高度な技術体系が必要であ ると共に、各要素技術間の相互に密接な有機的連携が必要である。このためには従来型の持ち帰 り型の研究開発体制ではなく、プロジェクトリーダーを中心とした集中管理型の研究開発体制により、 研究開発を行うことがより効果的であると判断された。このことにより本研究開発においては集 中管理型体制を採用することとした。 集中研究場所としては、これまでの研究開発ポテンシャル等を考慮し以下の2つの集中研究場 所を採用した。 ①産総研・JBAグループ:産総研 ②MBIグループ:MBI研究所 この場合において、研究開発の一体的な推進を図るため、NEDOは、研究責任者及び工業技 術院と密接な関係を維持しつつ、研究実施者の研究達成状況等情報の集約を行い、研究開発の適 正な運営を図った。 (1)―2.実施場所等 (1)―2.実施場所等 PLの研究指導能力が実質的に担保されるために必要な範囲で、研究場所を出来るだけ1カ所 ないし少数の場所に絞ることとし、集中研究場所として以下の2つで研究している。 ①産総研・JBAグループ:独立行政法人産業技術総合研究所(以下産総研)、及び②MBIグルー プ:㈱海洋バイオテクノロジー研究所(以下MBI)釜石、清水にて集中管理型研究開発を行っ た。 以下に集中研究場所に選定した理由を記す。産総研においては、これまでに活性汚泥及びメタ 2-12 ン発酵等を中心にして、複合微生物を集団として研究してきた長い歴史を有すると共に、最近の 分子遺伝学的手法等もいち早く取り込み、その研究開発能力は高く評価されてきている。企業研 究者から構成されるJBAグループが同所にて産総研グループと共同研究を行うことで、産総研に おける研究開発ポテンシャルを活用することが出来、且つ両グループの事業目標達成の相乗効果 を期待することが出来る。また、MBIにおいては本プロジェクト発足前の「高機能化学製品等 製造法(海洋・熱帯生物活用)の研究開発」(いわゆる海洋バイオプロジェクト)において、海 とバイオの2つのキーワードのもとに石油分解微生物や海洋生物の取り扱い技術(例としてはフ ジツボの付着忌避物質等)に10年近くの研究開発を行ってきており、その研究開発能力は高く 評価されている。さらにJBAにおいては我が国におけるバイオインダストリーの産学官の接点の 中心的存在として活躍し、内外からその活動は高く評価されている。以上のような観点より上記 の2箇所を集中研究場所として選定した。 なお、本プロジェクトにおける研究開発の一環として、赤道の±5°の熱帯地域のみに生育す る油糧植物(アブラヤシ)と微生物の複合生物系を研究課題として選定したため、インドネシア にサテライトラボを設けた。更に、新たな生物資源開発のため、平成12年度にインドネシアと 共同研究覚書(MOU)及び遺伝資源移転契約(MTA)を締結して、熱帯のシロアリ、担子菌等 へのアクセスを可能にすると共に、資源保有国との信頼関係の構築に勤めた。 (1)―3.国内大学等との共同研究(又は技術指導) 各要素研究にとって有効な研究項目について、国内外の大学等研究機関への再委託研究は延べ 19件、技術指導延べ138件を行った。 (2)成果普及広報体制 (2)成果普及広報体制 工業技術院としては、新規産業創出型産業科学技術研究開発制度パンフレット及び通商産業省 ホームページにおいて複合生物プロジェクトを紹介するともに、年度ごとに作成する新規産業創 出型産業科学技術研究開発制度成果概要において、プロジェクトで得られた成果を広く国民に対 して発表した。さらに、工業技術院の機関誌である「工業技術」(通商産業省ホームページでも 紹介)に複合生物プロジェクトシンポジウムの案内を掲載してシンポジウムへの参加を募るなど、 成果普及を図った。 またNEDOにおいては、一般を対象に事業報告会を毎年開催しており、本会合の場でNEDO が推進する各プロジェクトの成果報告を行い、国民への成果の広報に努めている。さらにNEDO のホームページには、プロジェクトの成果報告書が掲載され、一般へのプロジェクト成果の普及 に役立っている。 さらに、産総研・JBA・MBIの3者による本研究開発共同体としての成果普及広報体制として は、一般を対象とした参加費無料の公開シンポジウムを毎年開催し、本プロジェクトの最新の研 究成果を発表すると共に、複合生物系分野に造詣の深い学識経験者による招待講演を行い、国民 の本プロジェクトひいては複合生物系分野への、一層の興味と理解を促すことに努めた。ちなみ に参加者数は、平成10年度は400名、平成11年度は450名、Bio Japan2000と同時開催の平成12 年度は600名、平成13年度は420名であり、主として企業からの多数の参加者を得ており、大変 盛況であった。 また産業技術総合研究所・JBAグループ及びMBIグループを併せた集中研究体全体の、これ までの成果普及広報実績は、論文213件(115)、講演594(282)、特許165件(4 2-13 2)、報道53件(1)である(()は全体件数内AISTが占める件数)。 (3)研究開発のマネージメント手法等事業運営管理 初年度より、プロジェクトリーダー(PL)による集中管理型体制にて行った。PLの機能とそ の重要性は本研究開発の遂行上必要不可欠である。 ①PL、SPLの指導体制 PL:倉根 隆一郎 (独立行政法人産業技術総合研究所 生物遺伝子資源研究部門 総括研究員) PLを補佐するために、2名のサブプロジェクトリーダー(SPL)をおいた。 SPL:西田 浩史(財団法人バイオインダストリー協会 技術顧問) SPL:川本 勲(株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 常務取締役) なお、平成13年9月1日付で、川本SPLは㈱海洋バイオテクノロジー研究所 津里芳一所長及び釜石研究所 清水研究所 志 原山重明所長の両名にバトンタッチした。また同年10月2日付を もって、倉根PLは西田SPLにPLをバトンタッチした。産総研・JBAグループでは、PL交 替後、産総研における山岡正和・金川貴博両グループリーダー(GL)がPLを補佐して集中管理 に臨んだ。 本プロジェクトの事務局を、財団法人バイオインダストリー協会(以下JBA)内におき、 PLの指導及び事務を補佐した。 ②研究体制 研究マネージメントにおいては、PLによる集中管理型体制をとった。PLのもとに、産総研 ・JBAグループは、集中研究場所を産業技術総合研究所(以下産総研)に置き、1カ所集中型と したが、一部の研究については分室において持ち帰りを行った。また、海外ではインドネシアに おいて海外サテライトラボを設け、日本から研究員が長期出張を行いともに、PLが直接、現地 にてミーティングを開催し、共同研究の効率的推進に努めた。更に、MBI(㈱海洋バイオテク ノロジー研究所)グループは、清水研究所及び釜石研究所において、集中研究を行った。 ③委員会の推進体制及び研究指導体制について ⅰ.研究推進委員会 産総研・JBAグループ及びMBIグループの2つの研究グループの研究を推進するために、 PLのもとに、研究推進委員会(構成メンバー:PL、SPL2名、産総研各GL4名、JBA 4名、JBA各グループ分室長7名、MBI本社3名ならびに釜石・清水研究所3名程度)、NEDO バイオテクノロジー開発室、経済産業省製造産業局生物化学産業課、及び同省産業技術環境局 研究開発課からトータル30名程度参加)を隔月毎に開催した。本委員会では、グループ単位 の研究進捗状況を把握し指導することにより、研究の方向性を与え、それと共に運営に必要な 事項を協議・決定した。 ⅱ.アドバイザリーボード委員会 JBAにおいては、大学・企業の学識経験者から構成されるアドバイザリーボード委員会を 設置し、これを適宜開催して大所高所より研究の進め方に対し直裁的な指導・助言等を受けた。 ⅲ.テーマ別進捗検討会 両グループ間の研究者レベルの情報交換を密にするために、テーマ別進捗検討会を設け、3 ヶ月毎にこれを開催した。 ⅳ.PL及びSPLによる研究所訪問指導 2-14 PL及びSPLによるJBA分室訪問を隔月毎に行い、分室での研究進捗を把握し、指導した。 同様に、MBI(釜石・清水研究所)訪問を隔月毎に行い、場所的な距離感を薄め相互の意志 疎通を図った。 ⅴ.所内研究進捗検討会 (イ)産総研・JBAグループにおいては、月1回のペースで参加研究者全員による研究者レベ ルでの発表・討論による所内研究進捗検討会を行い、各個人毎の研究進捗・進め方に ついての深い討議を行った。さらに、各グループ(産総研+JBA各グループ)による グループミーティングを、月1回のペースで行った。 (ロ)MBIにおいても、釜石・清水研究所毎に、月1回のペースで月例の研究進捗検討会を 開催し、研究の進捗を図ると共に、両研究所間のプロジェクト研究開発の運営に関して はMBI本社にて調整を行った。 ⅵ.NEDO推進委員会 NEDOにおいては当該技術分野における高度な専門知識を有する外部有識者、PL、NE DOバイテクノロジー開発室長、総括主任研究員から構成される推進委員会を設置し、研究実 施者の研究達成状況等情報の集約を行い、研究開発の効率的推進及び適正な運営を図った。 ⅶ.技術指導等 技術指導者、再委託研究先については、被指導者らがPLと協議し、その必要性、効果等を 評価・検討し、実施または継続を決定した。 ⅷ.研究員の人選 プロジェクト研究開発に携わる出向及び併任の適者人選に際しては、PLが面談を行い、適 否を判断した。 ⅷ.事務管理 プロジェクトチームメンバー間クローズドの、パソコン通信システムを設置し、事業の運営 ・管理を行った。 5.実用化、事業化の見通し(政策目的達成時のイメージ) 本プロジェクト成果実用化の主なイメージは、これまで未解明・未利用であった複合生物系を 中心とする新規生物資源、生物機能の入手が可能となり、生物資源開発がより円滑化し、新規産 業創出、国内バイオ産業競争力強化に大いに貢献することである。また複合生物系による新規バ イオリアクターによる効率化、高性能バイオプロセスの実現とそれによる有用物資の生産または バイオレメディエーション等の高度化実現である。 以下に、事業全体についての実用化、事業化の見通しについて各要素研究成果の中でも代表的 なものについて記述する。 ①複合生物系の解析技術・分離技術の開発(複合生物系をハンドリングするための基盤技術 ①複合生物系の解析技術・分離技術の開発(複合生物系をハンドリングするための基盤技術 開発) 開発 ) A. 複合生物系解析技術: 複合生物系解析技術: A-1-1 分子遺伝学的・組織化学的手法による複合微生物解析技術(産総研) 環境中全微生物遺伝子の効率的回収法、抽出・定量化等の手法が新規微生物・遺伝子資源の獲 2-15 得、環境モニタリング、環境アセスメント等に利用される。 A-1-2 組織化学的染色法(JBA) 蛍光染色色素による顕微画像解析とマニピュレーション技術を組み合わせた土壌等自然試料 からの新規微生物資源分離システムとして利用される。 A-1-3 特定蛋白質遺伝情報による分子系統学的解析技術(MBI) gyrB、top2遺伝子解析技術を微生物コンソーシアの微生物迅速検出に利用。また、分類・同 定のデータベースとして利用される。特定感染症の診断、生ごみ処理機内複合微生物系遷移の調 査、カルチャーコレクションの一部菌株の品質管理にも用いられる。将来的には、DNAチップ 化等より簡便かつ有効な解析システムへの発展形が考えられる。 A-1-4新規の認識ペプチド活用微生物検出法(MBI) 微生物コンソーシア中の特定微生物の検出に利用。更に、モノクローナル抗体代替の臨床診断 薬、研究試薬や環境モニタリング等の利用途が考えられる。 A-2. 分離・培養技術 A-2-1新規分離・培養技術(産総研) 植物油脂を原料として、ラビリンチュラ海生菌を用いた新規なDHAの工業生産が期待できる。 A-2-2 培養困難な微生物の検出と分離・培養技術(JBA) 分離培養困難な微生物の新規探索技法としてのゲルマイクロドロップ法の実用化の可能性が 高く、さらに本法を応用した簡易スクリーニング装置の開発が期待される。 A-2-3 3次元マトリックス内培養法(MBI) 未知の海洋微生物を高密度に培養・分離できる付着濃縮微生物分離装置の開発を目指す。 A-3. 機能解析技術・複合生物系解析システム A-3-1 特定複合微生物系等のin situ での検出、分離、機能解析技術(JBA) 微生物アッセイロボットが微生物の移植、培養、アッセイ等の自動化システムとして実用化さ れる。コンビバイオへの応用も期待される。 A-3-2 微生物コンソーシア解析技術(産総研) 活性汚泥に有害な糸状性細菌の測定キットとしての実用化の可能性が高く、将来的には糸状性 細菌動態監視システムも考えられる。 A-3-3 海洋環境適応機構の解析技術(MBI) 常法では取得の難しい海洋環境適応微生物(プロテオバクテリウムαサブグループに属する海 洋細菌、海洋グラム陽性細菌等)について、コロールミシン感受性を指標とした簡便且つ正確な 選抜法の確立。これにより海洋環境を修復する複合微生物系構築の際、最適微生物の選抜ができ る。 A-3-4 溶媒耐性機構の解析技術(MBI) 芳香族炭化水素を細胞内に取り込むポリン(xvlN)破壊による溶媒耐性獲得菌株を、ガソリン等 汚染浄化に、また溶剤を多用する工場の活性汚泥等に応用できる。また、溶媒耐性菌株のEPS (細胞外多糖)を海洋・土壌環境、活性汚泥等の微生物の浄化機能向上や、洗剤、化粧品等に利 用できる。 A-3-5 微生物コンソーシアの多様性解析技術(MBI) 2-16 GyrB等各種蛋白質遺伝子を対象に、縮重プライマー増幅遺伝子断片による PCR/TGGE(DGGE)法を特異的配列検索システム(有用酵素遺伝子データベース等)と組合せ た複合微生物系解析システムを構築し、環境モニタリング事業(バイオレメディエーションのモ ニタリング)、発酵過程の追跡等の品質管理、安全性管理等を展開することができる。 ②複合微生物系等の利用技術の開発(複合微生物系等のハンドリング技術を用いて産業利用に ②複合微生物系等の利用技術の開発(複合微生物系等のハンドリング技術を用いて産業利用に 役立てるための技術開発) B. 複合生物系利用・生産技術: B-1. 微生物―微生物複合系利用による物質生産・分解技術 B-1-1. 機能性物質生産技術 B-1-1-1 微生物コンソーシア培養制御基盤技術(産総研) アセトン浸漬法が生物遺伝子資源採集現場における生物試料簡易保存法として利用できる。 B-1-1-2 環境調和型油水分離ポリマー生産微生物コンソーシアの利用技術(JBA) 蛍光消光プローブ技術をベースとした全自動複合微生物モニタリング装置の実用化及び将来 的には複合微生物培養制御システム化が期待できる。 B-1-1-3 微生物コンソーシアにおける遺伝子交換を人為的に行わせる技術(JBA) グラム陰性細菌間の種を超えた遺伝子伝播法として、有用な変異株育種への利用が考えられる。 B-1-2. 環境汚染物質の効率的分解等地球環境浄化技術 B-1-2-1 海洋複合生物系における制御物質の生産技術(MBI) 環境修復における有用微生物の制御、物質生産プロセス効率化のための微生物制御、植物や魚 類等の病原菌の制御等にアシル化ホモセリンラクトンの利用が考えられる。また、微生物間相互 作用物質を用い、未知微生物資源探索法としても活用できる。 B-1-2-2 フェノール分解性微生物コンソーシアの培養制御技術(MBI) 活性汚泥法による高効率なフェノール分解(選択的バイオスティミュレーション法、投入微生 物の飢餓処理による高効率利用法、外来遺伝子を複合微生物系に定着させる方法)が可能になる。 将来的にはより幅広い活性汚泥、バイオレメディエーションへの適用が期待できる。 B-1-2-3 石油分解微生物コンソーシアの機能強化・向上技術(MBI) 海洋及び土壌石油汚染浄化のバイオレメディエーション技術の実用化、またバイオレメディエ ーション安全性評価法が確立される。 B-2.微生物−昆虫等複合生物系利用による未利用物質の利用技術 B-2-1 木質等未利用資源の高度利用技術(JBA) 共生微生物の人工培養化技術が新規生理活性微生物資源の探索に利用される。ダイオキシン等 環境汚染物質分解に新規白色腐朽菌の利用が期待できる。 B-2-2 海産藻類等の未利用資源・物質の高度利用技術(MBI) 複合微生物系によるカラギーナンオリゴ糖生産プロセスが実用化可能と考えられる。 B-2-3 未利用石油留分の高度利用技術(MBI) 石油中難分解性成分分析法のバイオレメディエーションへの活用、また微生物変換技術による 石油中シクロアルカンから安息香酸の生産が考えられる。 2-17 B-3. 微生物―動植物複合系の利用生産技術 B-3-1 植物・微生物系の認識応答プログラムの解読と応用(産総研) 植物防御遺伝子の発現制御エレメントと防御応答を制御する遺伝子の探索技術として利用で きる。将来的には、植物工場における植物の病害抵抗性の向上、生産性の向上に貢献できる。 B-3-2 機能解析手法による複合微生物系解析技術(産総研) 植物個体に殆ど損傷を与えないアブラヤシ健康診断法の実用化と高感度精密検査を組み合わ せた早期感染アラームシステムを確立できる。 B-3-3 熱帯油糧植物の高度有効利用技術(JBA) PCRやin situ hybridization法を用いたアブラヤシ病原菌の早期モニタリングは現地での診 断受託事業を目指す。アブラヤシの分子育種の実用化は食用・工業用の両面で重要であるが長期 の年月を必要とする。 B-3-4 海産無脊椎動物−微細藻類共生系を利用した環境ストレスのモニタリングシステムの開 発(MBI) イソギンチャク等の共生系を利用した有機スズ等環境ストレスモニタリングシステムの開発 が可能になる。 B-3-5 海洋動植物の有用資源・物質等生産技術(MBI) 単離に成功した大型緑藻類の形態形成活性物質を藻類培養に必要不可欠なビタミンとしての 商品化が考えられる。 なお、以下は本プロジェクトの中間モニタリング評価報告書 第3章評価「5.産業の実用化 の可能性、波及効果」の抜粋である。 本プロジェクトは、取扱いが難しい対象をあえて取扱った事業である。バイオテクノロジーの ブレークスルーに必須な新規生物種と未知の生物機能を発見するための手段を提供するもので あり、短期間に実用化や成果の波及効果を多く期待することは、もともと適当ではないかもしれ ない。 近未来に“産業化”を期待させるようなテーマは非常に少なかった。その理由は、非常に限定 された範囲での成果の実現に追われて、“一般化”に向けての具体的な方策まで手が回っていな いということである。しかも、現在進めている限定範囲での経験的成果から、その原因を基礎的 に解明した後、ようやく他分野に展開できるというテーマが多く、産業化までにはまだかなり時 間を要すると感じさせるものがほとんどであった。 現象の解析やモニタリングなど、いくつかの成果については実用化の可能性はあるものの、実 用化に近いと思われるテーマでも、競合技術との比較が現段階ではまだ不充分と感じられるもの が多かった。産業化には自動化、またコストの問題を克服する必要がある。 全体的にみると、もう少し装置化を意識して事業を進めた方が良かったようにも思われる。も っと計測技術や電子・機会関連分野のエンジニアの協力を得ていれば、装置化などでは、より多 くの実用化の可能性が生まれたのではないだろうか。 波及効果も一般化まで到達すれば非常に大きいが、現状の限定された範囲での成果に留まれば あまり大きくならない可能性が高い。 ただし、新規物質の有効性、複合生物系の培養方法の普遍性、新規生物種発見手法としての一 2-18 般性などに関する実証がさらに進めば、この手法は広い範囲で導入されるだろう。加えて、現在 多くの研究者、技術者が感じている生物種およびその機能に対する飽和感を打破できるという点 で、この成果に大きな波及効果があるものと感じられる。 なお、蛍光消光による1遺伝子コピー検出定量法とその装置の開発の成果は、医療、農業、バ イオインダストリー等の広い分野において利用・応用され、それらからの大きな産業的効果が期 待できるとの意見もあった。 6.今後の展開(政策目的達成までのシナリオ) 本プロジェクトの政策目的主旨は、以下に二大別される。 〔1〕新規バイオプロセスの開発 未利用の有用生物機能、即ち複合生物系による物質生産・物質分解技術を活用した新規 バイオプロセスの開発。それを用い、環境調和型で持続発展可能な産業社会構築に資するバ イオテクノロジー産業応用技術の高度化(実用までにさらなる高度化が求められているバイ オレメディエーション等の複数生物機能利用技術の新展開)を行い、我が国バイオ産業の国 際競争力を維持・強化する。 〔2〕生物資源の確保 微生物系の大部分を占めると想定されている複合微生物系は、ハンドリングできる技術 が無いため、有用な生物資源がほとんど未利用のままである。この複合生物系の機能と構成 生物種の活性等を複合状態のまま解析・ハンドリングできる新規技術を開発し、バイオテク ノロジーの大前提である生物資源確保と利用実現を図る。また、これまでに開拓手段がなく 未開拓であった国内外の生物資源にアクセスし、 これを利用可能とする未利用複合生物系利 用技術の開発。また本プロジェクト実施を通じ、資源保有国との国際的協調関係、生物資源 開発のための共同研究枠組みの構築。これらを行うことで、我が国バイオ産業の円滑な発展 を実現する。 平成13年9月21日の総合科学技術会議では、技術開発の分野別推進戦略としてライフサイエン ス分野重点領域の一つに「生物機能を高度に活用した物質生産・環境対応技術開発」が挙げられ た。その主な内容では、近年急速に蓄積されつつあるゲノム情報やバイオインフォマティクス等 のゲノム関連技術を活用し、生物の持つ多様な機能を高度に活用することが必要であること。さ らに廃棄物や環境汚染物質の大幅低減等、循環型産業システム実現には生物による有用物質生産 技術や環境汚染物質の分解技術等を開発し、産業競争力を強化することの必要性を掲げ、生物遺 伝資源等共通基盤の整備拡充の推進が指摘された。 本プロジェクトは、上記重点領域で明言されている各種課題に平成9年度から先駆けて取り組 み、これまでに政策目的達成の戦力となり得る基本的原理・手法等の開発に成功してきている。 これら基本的な原理・手法を実用化、事業化に結びつけるためには、①基本的原理・手法を適用し ①基本的原理・手法を適用し た複合生物系新規有用物質探索技術及び機器( デバイス た複合生物系新規有用物質探索技術及び機器 (デバイ ス)化開発技術、②複合生物系の基本的解析 手法を適用した複合生物資源の持続的利用( 手法を適用した複合生物資源の持続的利用(生物資源保有国との国際的協調関係の更なる拡大 並びに嫌気性複合微生物系への拡充等) 、③複合生物系における機能性ゲノムの開発に焦点・重点 並びに嫌気性複合微生物系への拡充等 )、③複合生物系における機能性ゲノムの開発 化を図り、今後継続的に行うことにより実用化、事業化が必ず出来るものと考えられる。 2-19 以下に、今後の展開(政策目的達成までのシナリオ)について要素研究毎に記述する。 ①複合生物系の解析技術・分離技術の開発(複合生物系をハンドリングするための基盤技術 開発) 開発 ) A. 複合生物系解析技術: 複合生物系解析技術: 生態系等における分子遺伝学的解析に係わる研究開発分野は、日本が欧米を急追している基盤 的な分野であり、それのみで解析装置等として実用化を図るには、さらに市場ニーズや製品イメ ージ等の検討が必要である。一方、本研究開発からもたらされる二次的な波及効果は大きく、新 規生物・遺伝子資源の獲得や環境アセスメント技術、環境修復技術等において、作業の効率化や 精度向上、利用拡大等をもたらし、将来的にはその実用化を大きく促進するものと考えられる。 A-1-1 分子遺伝学的・組織化学的手法による複合微生物解析技術(産総研) 環境中全微生物遺伝子の効率的回収法や抽出・定量化等の手法が、新規微生物・遺伝子資源の 獲得、環境モニタリング・アセスメント等に利用されるには、多様性解析の更なる効率化・自動 化を進め、複合微生物系の連続的モニタリングを可能とし、解析の結果見出された標的微生物を、 細胞または空間レベルで限定化する手法や分離・培養手法との融合化を図ることが主な課題であ る。本研究開発でより明確になった解析手法の問題点・改善点を、装置・試薬メーカー技術者と 刷り合わせ解決することで実用化することができる。 A-1-2 組織化学的染色法(JBA) 蛍光染色色素による顕微画像解析とマニピュレーション技術を組み合わせた新規微生物資源 分離システムへの到達には、装置の簡便性・易操作性・解析の高速性について更なる追及が求め られる。特に分離システムについては、ロボティックス分野からの技術流入が必要である。 A-1-3 特定蛋白質遺伝情報による分子系統学的解析技術(MBI) gyrB、top2遺伝子解析による微生物コンソーシアの微生物迅速検出・分類・同定法の確立の ため、蓄積した塩基配列データを配列解析プログラムを用い各種特異配列を抽出、これらを用い 同定検出のためのデバイス開発を行う。 A-1-4新規の認識ペプチド活用微生物検出法(MBI) ファージディスプレイで作成した認識分子を用い、多様なサンプル中の微生物を簡便に同定す るシステムを構築するには、認識分子の特異的認識能の更なる改良が求められる。また自動化シ ステムへの応用には、少量のファージライブラリーから高感度にスクリーニングするシステムの 開発が必要である。 A-2. 分離・培養技術 A-2-1新規分離・培養技術(産総研) 植物油脂を原料としたラビリンチュラ海生菌による新規なDHA工業生産の実現には、ラビリ ンチュラ海生菌の増殖活性化機構と油脂添加効果の解析、次いでDHA変換酵素機能解析と改良、 スケールアップと生産性向上等の検討を行っていく必要がある。 A-2-2 培養困難な微生物の検出と分離・培養技術(JBA) 2-20 分離培養困難な微生物の新規探索技法としてのゲルマイクロドロップ(GMD: Gel Micro Droplets)法確立については、各分離源に最適の分離工程を把握すること。また分離したVBNC 微生物の培養法に関しては、VBNC現象のさらなる基本的解析・解明を行い、汎用性ある培養 法を追求する必要がある。本法応用の簡易スクリーニング装置化については、GMD法そのもの を確立し、それに基き簡易装置化を図ることが必要である。 A-2-3 3次元マトリックス内培養法(MBI) 未知の海洋微生物を高密度に培養・分離できる付着濃縮微生物分離装置の開発には、現行の担 体を用いた濃縮分離装置に、連続培養系を接続・改良することが必要である。また難分離・難培 養機構の解明、また宿主と共生微生物との生育因子の相関等の解明も、可培養化を行う上での課 題である。 A-3. 機能解析技術・複合生物系解析システム A-3-1 特定複合微生物系等のin situ での検出、分離、機能解析技術(JBA) 微生物アッセイロボットの微生物の移植・培養・アッセイ等の自動化システムへの実用化、ま たコンビバイオへの応用が考えられるが、同ロボットを用いての微生物機能探索研究の継続によ る更なる機能改良、またコロニー画像解析工程の汎用性(放線菌以外の細菌にも適用可能)付加 等が必要である。 A-3-2 微生物コンソーシア解析技術(産総研) 活性汚泥に有害な糸状性細菌の測定キット、また糸状性細菌動態監視システムの実用化には、 蛍光消光プライマーを用いたリアルタイム定量的PCR法のさらなる簡便化、ひいてはDNAチ ップ化を行うことが必要である。また、糸状性細菌動態と活性汚泥処理との相関を研究し、活性 汚泥処理の更なる高効率化・制御技術にまで繋げるのが今後の課題である。 A-3-3 海洋環境適応機構の解析技術(MBI) 海洋環境適用細菌の選抜法の確立には、選択培地の汎用性を追及すること、また実用化にはコ ロールミシンのより安価な製造方法を確立する必要がある。 A-3-4 溶媒耐性機構の解析技術(MBI) ポリン(xvlN)破壊菌株による石油バイオレメディエーションの実証試験を行い、同株の汚染浄 化能を実証する。また、石油分解に有用な各種EPSの構造解析・比較検討を行い、石油可溶化、 分解活性促進、石油毒性からの微生物保護等の生理機能との関連を検討する必要がある。 A-3-5 微生物コンソーシアの多様性解析技術(MBI) 縮重プライマー増幅遺伝子断片によるPCR/TGGE(DGGE)法を、gyrBやTOP2のみならず直接 機能に関連した各種遺伝子に応用する。そのためにはまず、各種有用酵素遺伝子配列情報のデー タベースを構築する必要がある。 ②複合微生物系等の利用技術の開発(複合微生物系等のハンドリング技術を用いて産業利用に ②複合微生物系等の利用技術の開発(複合微生物系等のハンドリング技術を用いて産業利用に 役立てるための技術開発) B. 複合生物系利用・生産技術: B-1. 微生物―微生物複合系利用による物質生産・分解技術 B-1-1. 機能性物質生産技術 2-21 B-1-1-1 微生物コンソーシア培養制御基盤技術(産総研) アセトン浸漬法は生物遺伝子資源採集現場での生物試料簡易保存法として既に実用されてお り、今後バイオ産業の現場でも広く用いられる可能性が高い。。 B-1-1-2 環境調和型油水分離ポリマー生産微生物コンソーシアの利用技術(JBA) 蛍光消光プローブ技術をベースとした全自動複合微生物モニタリング装置の実用化について は、分析装置の迅速・簡便化に重点がおかれ、また複合微生物培養制御システム化については、 前者装置による利用対象複合微生物系の制御データ蓄積とその適用が求められる。 B-1-1-3 微生物コンソーシアにおける遺伝子交換を人為的に行わせる技術(JBA) グラム陰性細菌間の種を超えた遺伝子伝播法の確立には、プロトプラスト調整の役割を担う介 在細菌の細胞外分泌酵素の比活性の向上、またプロトプラスト融合促進の役割を担う介在細菌の 活性の更なる向上が挙げられる。 B-1-2. 環境汚染物質の効率的分解等地球環境浄化技術 B-1-2-1 海洋複合生物系における制御物質の生産技術(MBI) 環境修復や物質生産に有用な複合微生物系の機能制御や、植物や魚類等の病原菌増長制御を、 アシル化ホモセリンラクトン等の微生物間情報伝達物質を用い行うには、既存の各種活性微生物 について情報伝達機構と物質の探索・解明を行い、基礎的知見を収集し制御に繋げる必要がある。 汎用性ある未知微生物資源探索法として微生物間相互作用物質を実用するには、さらに多くの種 類の微生物間情報伝達物質を探索し、その作用機作を解明する必要がある。 B-1-2-2 フェノール分解性微生物コンソーシアの培養制御技術(MBI) フェノール分解活性汚泥コンソーシアの能力強化・高効率化技術を、他の処理系に適用するた めの研究開発を実施する。また、外来微生物・遺伝子導入に関しては、安全性評価に関する研究 開発も実施する必要がある。 B-1-2-3 石油分解微生物コンソーシアの機能強化・向上技術(MBI) 海洋及び土壌石油汚染浄化のバイオレメディエーション技術実用化のために、実際の汚染サイ トでの実証試験を実施する。また汚染開始からバイオレメディエーション完了までの汚染サイト での菌相遷移の把握、併せて各種パラメータと石油分解進捗との相関の把握 を行う必要がある。バイオレメディエーション安全性評価法の確立については、石油分解産物の 慢性・急性毒性に対し、より高感度な生物検定系を構築する必要がある。 B-2.微生物−昆虫等複合生物系利用による未利用物質の利用技術 B-2-1 木質等未利用資源の高度利用技術(JBA) 今回開発した共生微生物人工培養化技術を、シロアリ以外の昆虫に適用を試み汎用性を持たせ る必要がある。またダイオキシン等環境汚染物質分解複合微生物系を実用化させるためには、活 性株からの機能性ゲノム取得と育種改良、及び混合培養法の開発を行う必要がある。 B-2-2 海産藻類等の未利用資源・物質の高度利用技術(MBI) 複合微生物系による海藻多糖からのカラギーナンオリゴ糖の生産は、その用途開発ができれば、 機能性新素材として工業的生産への実用化は容易と考えられる。 B-2-3 未利用石油留分の高度利用技術(MBI) また石油中シクロアルカンから安息香酸を生産する微生物変換技術の確立には、活性微生物の 2-22 安息香酸生産経路を特定し、生産性向上のため関連酵素系遺伝子を同定、機能解析を行う必要が ある。 B-3. 微生物―動植物複合系の利用生産技術 B-3-1 植物・微生物系の認識応答プログラムの解読と応用(産総研) 解析された植物防御遺伝子の発現制御エレメントと防御応答を制御する遺伝子を形質転換植 物において改変することで、植物の生体防御機能を制御する技術が開発でき、植物工場における 植物の病害抵抗性の向上、生産性の向上に貢献できる。 B-3-2 機能解析手法による複合微生物系解析技術(産総研) 植物個体をほぼ損わないアブラヤシ健康診断法の実用化には、詳細な反応機構(病原菌―植物) の解析、検出指標の更なる追加、現地におけるフィールドデータの蓄積により、診断技術の信頼 性向上を更に図ることが必要である。 B-3-3 熱帯油糧植物の高度有効利用技術(JBA) アブラヤシ病原菌の早期モニタリングシステムは、現地農園試料を用いた実証試験(感度と診 断コスト)を行い、実用化条件を確立することが必要である。またアブラヤシの分子育種の実用 化には、食用・工業用の両面で重要であるが長期の年月を必要とする。 B-3-4 海産無脊椎動物−微細藻類共生系を利用した環境ストレスのモニタリングシステムの開 発(MBI) イソギンチャク等の共生系を利用した有機スズ等環境ストレスモニタリングシステムの開発 には、各共生系(固着共生生物)での環境ストレスへの応答の仕方を更に詳細に検討し、また共 生生物相を更に簡便且つ高感度に解析できる技術の開発が求められる。 B-3-5 海洋動植物の有用資源・物質等生産技術(MBI) 大型藻類の培地開発には、形態形成活性物質の高収量活性菌株の取得、あるいは同活性物質の 構造決定による化学的合成が考えられる。また、活性物質によって緑藻細胞内で起こるメカニズ ムを分子生物学的に解明、マキヒトエ他各種藻類や他の生物に対する活性や安全性試験を実施す る必要もある。 7.中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期 以下は、「複合生物系等生物資源利用技術開発 中間モニタリング評価報告書」より抜粋、詳 細については同報告書を参照のこと。 <評価項目・評価基準> 評価委員会においては、次に揚げる「研究開発事業評価における標準的評価項目・評価基準」 (平成12年8月25日、産業技術審議会評価部会)に準じ、大きく事業全体及び研究開発項目別に 分けて評価を行った。事業全体に係わる評価においては、主に事業の目的、計画、運営、達成度、 成果の意義や実用化への見通し等について、評価をおこなった。各研究開発項目に係わる評価に ついては、主にその技術的達成度等について評価した。 <評価手法> 評価委員会においては、事業推進部署及び研究実施者からのヒアリングと、それを踏まえた評 2-23 価委員による評価コメント作成、評点法による評価及び実施者側等との議論等により評価作業を 進めた。 なお、評価の透明性確保の観点から、知的財産保護の上で支障が生じると認められる場合等を 除き、原則として、評価委員会は公開とし、研究実施者と意見を交換する形で審議を行うことと した。 <実施時期> 〔本委員会〕 第1回評価委員会(平成12年8月22日) 事業の概要説明 ・事業の概要説明・質疑応答 ・評価の論点の説明・質疑応答 ・評価項目、分担の決定 第2回評価委員会(平成12年11月1日) 評価報告書意(案)審議 ・評価報告書(案)の審議 〔作業委員会〕 評価作業委員会(平成12年9月22日) ・成果等の説明・質疑応答 ・評価報告書構成について 〔評価部会〕 第11回評価部会(平成12年12月22日) 評価報告書の了承 8.研究開発成果 8.研究開発成果 事業全体の成果 本プロジェクト複合生物系の解析・分離技術(基盤技術)と、複合微生物系の利用技術において 8.1 は、以下に示すような基本的な原理・手法等を開発してきており、事業全体の成果概要として主 たるもの(10大成果)について次に列挙する。 ①1コピー遺伝子でも検出でき10 コピー遺伝子でも検出でき10∼ 10∼106コピーで定量性を持つ蛍光消光プローブを用いた、プラットフォーム 型(様)特許になり得る新規遺伝子検出・定量手法の発明とモニタリング装置の試作、②ゲルマイクロドロップ 特許になり得る新規遺伝子検出・定量手法の発明とモニタリング装置の試作、②ゲルマイクロドロップ ・フローサイトメトリー法による難分離・難培養微生物の新規分離培養法、③昆虫と内部共生微生物の共 進化機構の解明、④効率的な遺伝子回収・分画手法、⑤トポイソメラーゼ遺伝子を用いた真核微生物 新規分類法、⑥複合系微生物スクリーニング装置の試作と抗真菌リード候補化合物、⑦3 新規分類法、⑥複合系微生物スクリーニング装置の試作と抗真菌リード候補化合物、⑦ 3次元マトリックス担体 による海洋生物共生微生物の人工培養と装置化、⑧ダイオキシン等強力分解菌の取得と利用技術の開 発、⑨藻類―微生物複合系における認識応答関与物質の解明(世界最強活性物質)、⑩活性汚 泥のバルキング菌の検出・定量法 泥のバルキング菌の検出・定量法 ①複合生物系の解析技術・分離技術の開発( ①複合生物系の解析技術・分離技術の開発(複合生物系をハンドリングするための基盤技術開発) 複合生物系をハンドリングするための基盤技術開発) 以下に、各要素研究の中で主な成果について、さらに詳しく記述する。 2-24 A. 複合生物系解析技術: 複合生物系解析技術: A-1.分子遺伝学的・組織化学的解析技術 1.分子遺伝学的・組織化学的解析技術 〔効率的遺伝子回収・分画に成功、昆虫内部共生微生物の共進化の解明に成功〕(産総研) 〔効率的遺伝子回収・分画に成功、昆虫内部共生微生物の共進化の解明に成功〕 (産総研) 複合生物系等自然界の未利用微生物資源の探索や利用を図るための基盤的な解析技術開発を 行い、効率的なDNA調製手法(現場微生物大量濃縮、安定保存、非破壊半定量的調製)、分子・ 細胞レベルでの群集定量手法(特定微生物直接計数、相対分子定量)、新規微生物資源の検出手 法(迅速多様性解析、優占種特定、蛍光分光学的全微生物検出)等、非培養法による新しい解析 手法の開発に成功した。特に、昆虫内部共生微生物の多様性解析や環境水中微生物等の識別・定 量化に大きな進展が見られ、目標とした半定量的な解析や比較定量解析を実現した。その生物・ 遺伝子資源に係わる情報の拡大をもたらしたことは大きな成果である。同技術の適応の結果、土 壌等から多数の新規生物・遺伝子資源を獲得できた。 〔トポイソメラーゼ遺伝子を用いた真核微生物の新規分類法に成功〕 〔トポイソメラーゼ遺伝子を用いた真核微生物の新規分類法に成功〕( 規分類法に成功〕(MBI) MBI) トポイソメラーゼII遺伝子(top2)を用い、真核微生物を種レベルで分類あるいは検出するための方法 を開発した。これによって、従来の方法では見分けることが出来なかった近縁の真核微生物を10 倍以上の解像度で検出・同定することが可能となった。特定遺伝子gyrB 、TOP2 配列のプロフィ ールを作成、これを用い多重アラインメントを簡便に行うことができ、この結果からgyrBには、 複合微生物系から特定微生物を同定検出するのに有用な複数特異的挿入配列が存在することが 判明した。このプロフィールからエントロピーを求め、エントロピーの低い領域(置換の度合い が高い領域)は特定種同定検出のPCRプライマーやプローブに有効であることが分かった。 A-2.分離・培養技術 2.分離・培養技術 〔自然生態系を模倣した海生菌効率的分離・培養手法の開発〕(産総研) 〔自然生態系を模倣した海生菌効率的分離・培養手法の開発〕 (産総研) 難分離で未利用の海生菌 バクテリア共存系モデルとしてラビリンチュラ科海生菌の系を扱い、バクテリアを共 存させることで分離源からの分離・培養が可能となり、さらに植物油脂を添加・培養することによ り、従来の約 倍の増殖量が得られ、植物油脂からの 生産技術を見出した。同分離・培養法を 国内各地沿岸採取試料に用いた結果、新規な高度不飽和脂肪酸( ュラ株を得た。培養条件検討により、 以外の新規 )組成を持つラビリンチ 生産方法が開発できる。また、海洋生 物熱抽出物添加によって海洋生物に寄生・共生する微生物が分離培養でき、機能発現を促進する ことを見出した。 〔ゲルマイクロドロップ法による難分離難培養微生物の新規分離法に成功〕( 〔ゲルマイクロドロップ法による難分離難培養微生物の新規分離法に成功〕(JBA) JBA) 分離培養困難な微生物を、アガロース内包し短時間培養後、フローサイトメトリーで識別・分離するゲルマイクロド ロップ法で分離可能であることを世界で初めて見出した。本法を用いて、有用機能を有する各種新 種・新属微生物の取得が出来、分離法の有効性を実証した。また大腸菌株を人工的にVBNC化し、 その蘇生方法を確立することができた。 〔3次元マトリックス内培養用担体〕( 次元マトリックス内培養用担体〕(MBI) MBI) イソカイメン類等の微生物解析により、新規微生物の優占的存在を確認した。これに基づき、 カイメンを模倣した3次元マトリックス・モデル担体として、海洋細菌の接着量が最も多かったナイロンメッシュを選 択、海水中の培養不可能なプロテオバクテリアαサブグループ属細菌を含むコンソーシアの継代培養に成功した。 接着微生物相の優占種は担体特異的であり、これを適用した付着濃縮微生物分離装置を開発した。 2-25 A-3.機能解析技術・複合生物系解析システム 3.機能解析技術・複合生物系解析システム 〔複合系微生物スクリーニング自動化装置の試作と抗真菌リード候補化合物の発見〕( JBA) 〔複合系微生物スクリーニング自動化装置の試作と抗真菌リード候補化合物の発見〕 (JBA ) 複合微生物系で特異的に生産される代謝産物スクリーニング自動化システム・プロトタイプを開発し、生理活 性物質の探索研究を行った。その結果、抗菌、抗真菌活性等を有す複数の新規化合物を見出し、 国内特許出願、PCT出願を行った。 〔活性汚泥のバルキング菌の検出・定量に目処〕 〔活性汚泥のバルキング菌の検出・定量に目処〕(産総研) 性汚泥のバルキング菌の検出・定量に目処〕(産総研) 廃水処理用活性汚泥による廃水処理に害作用を及ぼす糸状性細菌について、遺伝子の相違に着 目した新しい検出方法を見出した。更に、リアルタイム定量的PCR法を用いる誤差の少ない新 規定量法を開発した。 〔海洋細菌群の新しい分離方法〕( 〔海洋細菌群の新しい分離方法〕(MBI) MBI) 海洋環境適応細菌を選別し有用複合微生物系利用に資するため、海洋微生物特異的抗生物質コ ロールミシンの阻害機構が、ナトリウムポンプとの反応であることを明らかにした。コロールミ シンとプロトンポンプ阻害剤CCCP併用により、従来法では得られにくい海洋細菌群の新規選抜法を 開発、難分離海洋細菌の分離に成功した。 〔溶媒耐性微生物の発見〕( 〔溶媒耐性微生物の発見〕(MBI) MBI) 溶媒耐性石油成分菌の溶媒耐性機構には、芳香族炭化水素の選択的細胞取り込みを行うポリン 変異による炭化水素の外膜通過減少、また細胞外多糖類(EPS)を利用した耐性の獲得の2つの 分子的機構があることを見出した。溶媒耐性石油分解菌(Rhodococcus)のEPSの効果は、様々 な海水で再現性があり、このEPSを天然海水中の石油分解コンソーシアに加えることにより、芳 香族画分の分解のスピードを3倍近くに上昇させることが出来た。 ②複合微生物系等の利用技術の開発( ②複合微生物系等の利用技術の開発(複合微生物系等のハンドリング技術を用いて産業利用に役立て るための技術開発)) るための技術開発 B. 複合生物系利用・生産技術: B-1. 微生物―微生物複合系利用による物質生産・分解技術 コピー遺伝子の新規検出法と定量法の発明(プラットフォーム型特許を出願)〕( JBA) 〔1コピー遺伝子の新規検出法と定量法の発明(プラットフォーム型特許を出願)〕 (JBA ) 複合微生物系を培養制御する上で必須の複合微生物系モニタリング装置について、蛍光消光現象を 用いた全く新規な遺伝子検出・定量技術の開発に成功した。本技術を基本原理とする世界初の完 全自動型複合微生物モニタリング装置のプロトタイプを試作した。すなわち、ある種の蛍光色素はグアニン特 異的な光励起電子移動型の可逆な蛍光消光現象を示す事を見いだした。本現象を利用し、核酸相 補鎖形成により著しく蛍光消光する蛍光色素修飾DNAプローブを設計した。本プローブをモデル複合系 に適用し、迅速簡便な構成微生物のモニタリングを可能にした。また本蛍光プローブをPCRプライマーに適用 した簡便な定量的PCR法を実現し、10∼106コピー遺伝子の定量と1コピー遺伝子の検出が可能であっ た。 本手法を制限酵素処理と組合わせ、同一遺伝子の多様性を定量的に評価する新規定量的多型 解析法を開発した。さらに、環境調和型油水分離ポリマーが、複合微生物により生産されることと、 その生産メカニズムを明らかにした。 〔複合微生物遺伝子等の長期保存法を開発〕(産総研) 〔複合微生物遺伝子等の長期保存法を開発〕(産総研) 生物試料を採取地において、後日の分析用試料としてその場で保存する簡単な方法としてアセ トン浸漬法を開発した。この方法では生物体内のDNAやRNAやタンパク質を無傷で長期間保存す ることが可能であった。また、リン除去汚泥の長期保存では、糖等の保護剤は無添加のほうが試 料の残存活性が高く保たれることが分かった。 2-26 〔第3 〔第3微生物共存によるプロトプラスト融合再生効率の向上〕( 微生物共存によるプロトプラスト融合再生効率の向上〕(JBA) JBA) 微生物コンソーシアにおける指標遺伝子水平伝播モデルのプロトプラスト融合については、M. luteus 等第3 微生物共存下で、融合株取得効率を従来の約8倍に高めることができた。このメカニズムは、第 3微生物の菌体表面の多糖構造に起因するプロトプラスト安定性向上によるプロトプラスト再 生促進効果が要因の一つと推察され、属の異なる3種類のグラム陰性細菌に有効であった。 〔高濃度フェノール廃水処理法に目処〕 〔高濃度フェノール廃水処理法に目処〕( ノール廃水処理法に目処〕(MBI) MBI) 活性汚泥のフェノール分解微生物コンソーシア解析法を確立し、高負荷フェノール存在下でのコンソーシアの挙動を調 べ、selective biostimulation法、飢餓処理による投入微生物高効率活用法、外来遺伝子を複合微 生物系に定着させる方法を開発、2.0g liter−1 day−1 のフェノール負荷を処理できる活性汚泥 プロセス構築に成功した。 〔石油汚染浄化の優占微生物を複合微生物系から検出・実証〕( 〔石油汚染浄化の優占微生物を複合微生物系から検出・実証〕(MBI) MBI) 石油汚染またバイオレメディエーション実施時に優占化する石油分解菌(Alcanivorax)を特定 ・単離し、その石油分解特性を明らかにした。アルカン分解菌について、優占化への関与が考え られる遺伝子のクローニングに成功、芳香族分解菌についてはバイオスティミュレーション法を 確立した。石油の微生物分解産物の急性毒性評価技術を確立し、バイオレメディエーション実施 マニュアルを作成した。これら成果は海洋のみならず、油汚染土壌にも適応可能と考えられる。 〔細胞間情報伝達物質を利用した石油分解〕( 〔細胞間情報伝達物質を利用した石油分解〕(MBI) MBI) 有用複合微生物系制御に有用な機能性物質探索・現象解明を目指し、石油難分解性成分フェナント レン分解菌(Sphingomonas属)から分解に関与する新規微生物間情報伝達物質アシル化ホモセリンラクトン AHL(3OHC7)を発見した。さらに、その精製・構造決定・合成も行い、遺伝子破壊株を作製した。 この株のフェナントレン分解能が大幅に低下したことから、AHLの分解能関与が明らかになった。また AHL分解菌を単離・同定し、2種の分解酵素を精製、同酵素活性がAHLで誘導されることが分か った。鉄イオンキレート物質シデロフォアとAHLを介する新規な8種類の異種微生物間応答を見いだし、その 現象解析を行った。この応答現象を利用した、シデロフォアとAHLを添加した新規微生物単離法の開 発を行った。同法は、嫌気的環境における新規微生物探索にも有効と考えられる。 B-2. 微生物―昆虫等複合生物系利用による未利用資源の利用技術 〔共生微生物の人工培養化とダイオキシン等強力分解菌の取得〕( 〔共生微生物の人工培養化とダイオキシン等強力分解菌の取得〕(JBA) JBA) 共生微生物の人工培養化では、シロアリ腸内に共生し木質分解に関与する放線菌を選択的・効 率的に分離できる特殊木質系培地を開発した。人工共生系の構築では、ダイオキシン等環境汚染 物質分解の新規分解菌探索を実施し、ワサビタケに属するダイオキシン強力分解菌を取得できた。 〔複合微生物系による海産多糖からのオリゴ糖の効率的生産〕( 〔複合微生物系による海産多糖からのオリゴ糖の効率的生産〕(MBI) MBI) 海産藻類等に潤沢に含まれるカラギーナンから、オリゴ糖を効率的に生産する複合微生物系を 発見した。また、その系では分解活性の無い微生物が、分解活性を有する微生物の酵素活性を遺伝 子レベルで増強していることを明らかにした。このオリゴ糖について、微生物酵素でのサイズの変 換(4∼8糖)を行うことができ、インフルエンザウィルス感染阻害活性を見出した。 B-3. 微生物―動植物複合系利用の利用生産技術 植物・微生物の認識応答を解明〕(産総研) 〔植物・微生物の認識応答を解明〕 (産総研) 動物の免疫応答に相当する植物特有の生体防御応答解明のため、植物の生体防御応答を誘導す る微生物のシグナル物質(エリシター)の同定・評価を行った。エリシターを同定、同遺伝子をクローニングし機能解 析を行い、特定微生物由来のエリシターが特異的に植物細胞の防御応答を誘導することを明らかにし 2-27 た。また、植物―微生物相互作用モデル実験系として、培養植物細胞と微生物エリシターを用いた防御応 答機能実験系を確立した。この実験系を用い、生体防御応答機能を解析、微生物のエリシターに応答す る防御遺伝子発現を制御するDNAエレメントと転写因子を同定、その遺伝子発現制御機能を解明 した。 〔植物・菌類の早期アラーム法を確立〕 (産総研)植物個体-菌類系のモデル系として、アブラヤシ-Ganoderma 属菌の系を解析し、アブラヤシ (産総研) 葉の酸性ニンヒドリン反応物定量によりGanoderma 属菌感染樹と非感染樹を、樹木を損わず識別す る方法を開発した。検出感度は病斑部の大きさで成木が約17%、幼苗が20%以下であり、病徴を認 識した時点での病斑部の大きさ(成木約50%、幼苗33%以上)と比較して感染をかなり早期に検出 できた。さらに、感染樹の植物組織からPCR法によりGanoderma 属菌を高感度(植物組織 1 mg 当り菌体DNA 2.0 pg)で検出・確認することに成功した。 (JBA) JBA)熱帯油糧植物の高度有効利用を目指し、再委託研究を実施するインドネシアのパーム農園から アブラヤシ重大病原菌Ganodermaを採取し形態学的に解析、本菌がG. boninenseであると同定、また rDNA塩基配列の解析により同菌特異的配列を見出し、その配列をPCRのプライマーあるいはin situ hybridizationのプローブに用いることで、特異的検出システムを開発した。また土壌微生物アグロバクテリウ ムを利用した、アブラヤシの形質転換に初めて成功し、カルスからの植物再分化システムも確立しており、形質 転換植物の作出に大きく近づいた。アブラヤシより耐病性関連遺伝子を単離し、本プロモーターが果 肉特異的発現を誘導することを見出した。また脂肪酸の不飽和化反応関連酵素遺伝子の単離にも 成功した。 〔共生藻による環境ホルモン・有機スズのバイオモニタリング〕( 〔共生藻による環境ホルモン・有機スズのバイオモニタリング〕(MBI) MBI) 海産無脊椎動物―微細藻類共生系による環境ストレスモニタリングシステム構築を目指し、共生藻の分類同 定手法を確立し、これまで一種と考えられていたシャコガイ共生藻が2種以上であることが分かった。 また、イソギンチャク共生藻を宿主より除去・再共生させる技術を開発した。2次元電気泳動による蛋 白質解析では、共生藻と共生系に環境変化に伴い変動する複数スポットを認めた。 〔大型藻類の形態形成活性物質の単離に成功〕( 〔大型藻類の形態形成活性物質の単離に成功〕(MBI) MBI) 複合微生物系による大型藻類の高効率培養技術開発のために、モデル生物による実験系を構築 し、活性菌のスクリーニングと解析、活性菌の活性因子合成遺伝子の解明、緑藻の葉状体形成遺 伝子の解明、活性菌からの活性物質の分離、構造決定を行い、形態形成誘引物質を世界で初めて 単離(世界最強活性)した。 〔当初想定外の波及的効果等〕 以下に、当初想定外の波及的効果等を記述する。 ①複合生物系の解析技術・分離技術の開発(複合生物系をハンドリングするための基盤技術開 発) A. 複合生物系解析技術: 複合生物系解析技術: A-1. 分子遺伝学的・組織化学的解析技術(産総研) 分子遺伝学的・組織化学的解析技術(産総研) 昆虫共生微生物多様性解析の結果として、これら新規微生物DNAのATに富む領域が、PCR時のよい 内部標準試料になることを見出し、共生微生物を対象に定量的PCRを実現したことは、当初予定し ていなかった成果である。 A-2. 分離・培養技術 2-28 (JBA) JBA)本研究で開発した難分離・難培養微生物単離法(GMD法)により、新属・新種微生物とし て、硝酸・亜硝酸などの有害な窒素酸化物を無害な窒素に変換する脱窒機能の高い微生物を見出 したことは、難分離微生物の分離手法の新規性を実証したものである。 (MBI) MBI)またカイメン等から共生細菌を分離し、これらが抗菌物質を生産すること 海洋性バクテ リアが 化合物を生産することは新しい知見 を明らかにした。 海洋生態系における未利用生物資源であるラビリンチュラ科海生菌などについての研究会を組織し、 シンポジウムを開催したことは、本分野が急速に発展していることを示すものである。 A-3. 機能解析技術・複合生物系解析システム (JBA) JBA)複合微生物系特異発現代謝産物の探索を行った結果、複数の新規抗MRSA物質及びユ ニークな作用機作を持つ新規な抗真菌物質等を単離した。これは真菌細胞壁合成過程に必須の GFPアンカー蛋白質阻害剤と推定される新規化合物であり、創薬リード候補として試験を行っ ている。 (産総研)活性汚泥による廃水処理に害作用を及ぼす糸状性細菌について、生理的、遺伝的性 (産総研) 質を詳細に調べた結果、3種類に分類され、いずれもThiothrix 属に属し、2種は新種として提案、 あとの1種は、既存種T. eikelboomii の定義を変更することでこれに含めた。 (MBI) MBI)コロールミシン作用機構解明に関する論文発表後、国内外の複数研究機関からコロー ルミシン分譲の依頼を受けた。 ②複合微生物系等の利用技術の開発( ②複合微生物系等の利用技術の開発(複合微生物系等のハンドリング技術を用いて産業利用に役立て 複合微生物系等のハンドリング技術を用いて産業利用に役立て る B. 複合生物系利用・生産技術: B-1. 微生物―微生物複合系利用による物質生産・分解技術 (JBA) JBA)蛍光消光プローブ等による特定遺伝子検出法は、定量的PCR法や新規定量的多型解析 法に適応できたのをはじめとして拡張性が高かった。これらの遺伝子検出技術については米国、 欧州6カ国に特許申請済みである。 (MBI) MBI)発ガン性・難生分解性環境汚染物質である多環芳香族ベンツピレン(benzo[a]pyrene)の、高分 解能を持つ芳香族炭化水素分解コンソーシアの取得に成功したことは、今後のバイオオーギュメンテーションに道を 拓くものと期待できる。 B-2. 微生物―昆虫等複合生物系利用による未利用資源の利用技術 JBA) (JBA )シロアリ腸内放線菌の人工培養化の成功により、抗細菌活性がなく、真菌のみに特異的に活 性を示す物質(抗真菌剤)を産生する微生物が得られた。 (MBI) MBI)石油分解菌Alcanivorax 及びCycloclasticus は独立のバイオレメディエーション実験 で共通して優占化した。これら細菌の増殖と石油成分分解率には相関が見られ、汚染や浄化の指 標菌として、将来のバイオレメディエーション実験に有効である。 B-3. 微生物―動植物複合系利用の利用生産技術 産総研) (産総研 )担子菌Ganoderma 属の種の分類が混乱している中で、罹病アブラヤシ分離菌株が形態学 的にはGanoderma boninense の文献記載形態データと矛盾しないこと、検討した範囲で他の罹病ア ブラヤシ分離株及び小笠原分離株とITS領域の相同性が高いことを明らかにした。また、罹病アブラ ヤシから単離した担子菌には形態的、分子分類的に大別して少なくとも2種あり、内1種は非病原 2-29 性であることを明らかにした。 (MBI)光照射原油成分分解複合微生物系について、長アルキル鎖の単環シクロアルカンを分解 (MBI) する系を得た。この系の Alcanivorax から安息香酸を蓄積する新規代謝経路を見出した。 8.2 研究開発項目毎の成果 別冊の「研究開発項目毎の成果」をご参照。 2-30 9.情勢変化への対応 (プロジェクト原簿一部修正) B.複合生物系利用・生産技術、B-3-1.木質等未利用資源の高度利用技術(産総研、JBAグル ープ)の研究開発内容を、以下要領にて一部修正(追加)した。 修正前①:プロジェクト原簿文中「リグニン分解技術」 修正前②:プロジェクト原簿文中「複合系内における微生物間相互作用の解析」 修正後①:プロジェクト原簿文中「リグニンや関連環境汚染物質分解技術」 修正後②:プロジェクト原簿文中「複合系内における微生物間相互作用の解析と共に、環境汚染 防止・浄化を含めた利用」 (修正理由) 修正理由) 国内の有機塩素系化合物による土壌・地下水汚染は1万件以上と予測され、また石油による汚 染も工場用地の汚染等と含めると数千件と予測されている。 1999年3月に、汚染問題が表在化してきているダイオキシン類の土壌環境基準値が、環境庁より都 道府県、政令指定都市に通知された。このガイドライン(「土壌中のダイオキシン類及びコプラナー PCBに関わる暫定的ガイドライン」)では、基準値(ダイオキシン等土壌中濃度:1000pg-TEQ(Toxicity Equivalence Quantity)/土壌1g)を超える汚染濃度を発見した場合は、自治体が汚染原因者に 適切な対処を指導することが求められている。これらのことを含めて、平成11年7月にダイオキシン 類対策特別措置法が制定された。 上記テーマでは、白色腐朽菌が有する木材中のリグニン成分を選択的に分解する能力を、複合 微生物系による混合培養によって、分解能を向上させる成果を上げている。本プロジェクトでは、 こうした社会情勢を鑑みて、複合微生物系による効率的分解をはかる物質として、ダイオキシン等環 境汚染物質も対象に含め、研究開発を進捗することとした。そこで平成11年7月に、工業技術院 に上記プロジェクト原簿の修正申請手続きを行った。 2-31 10.今後の事業の方向性 2-32 第3章 評価 プロジェクト全体に関する評価 1.1.総論 1.1.1 総合評価 複合微生物群集の構造と機能については、生態環境におけるその潜在的重要性や 産業的応用の可能性の大きさ等にも関わらず、世界的にみても未だ萌芽的研究段階 であると言える。再生可能なバイオ資源をいかに確保し有効活用するかという観点 から、複合生物資源の利用技術開発はきわめて重要であり、重要性や緊急性が大で ある。よって、国の事業として妥当であり、事業目的・政策的位置付けは評価でき る。 研究開発のマネジメントについては、プロジェクトリーダーが実質的にその機能 を果たすためにある程度の予算を手元に残し、これを特定分野に臨機応変に配分 し、効率を上げた点はこれまでわが国では行われていなかったものであるが高い効 果を上げたと評価できる。 「B. 複合生物系利用・生産技術」では、予想した進捗が 得られなかった際の早期の方針変更が充分でなかった研究課題があった。 複合微生物の解析技術、分離培養技術では、我が国の独自技術としてすぐにでも 実用化可能な基礎技術開発がなされ、複合微生物の機能強化の面でも大きな進展が 見られた。創造的で極めて先導的な要素技術が開発されたと評価される。複合系に おける各微生物の役割を明らかにするには主役となる微生物のほか、周辺に存在す る他の微生物についても多くの情報が必要であるため、解析する微生物の種類の範 囲を広げることにより、複合系全体の作用をより深く理解出来るようになると考え る。 本プロジェクトの大きな成果としては、研究開発に成功した分野から新しい国家 プロジェクトに相当するものが3課題生まれたことは高く評価できる。 <肯定的意見> ○ 国家プロジェクトとして取り組むべき困難な課題に立ち向かい、特に基盤要素研 究の部分で大きな成果が得られた。 ○ 複合微生物の解析技術、分離培養技術では、我が国の独自技術としてすぐにでも 実用化可能な基礎技術開発が為され、複合微生物の機能強化の面でも大きな進展 が見られた。 ○ 将来の医療、環境問題等の解決につながる有望な産業を創り出す基盤的な技術開 発のプロジェクトとして成功したと考えられる。しかも、今後の日本の国際競争 力の源泉ともなりうるものであり、これに国が積極的に関与したことは正解であ った。また、これだけ多くの研究テーマを纏め上げた PL のリーダーシップおよ び研究開発体制を高く評価するものである。 ○ 本研究プロジェクトは、複合生物系の生物資源としての利用を最終目標として進 められたもので、新規かつ創造的な研究成果の提出と極めて先導的な要素技術の 開発がなされたことで、大きな成功を収めたものと高く評価される。本研究プロ ジェクトは総合的にも各個的にも優れた成果から成るものと評者は判断している。 ○ 本研究プロジェクトの目的は、(1)新規な生物資源の開発、(2)微生物機能の 開発と応用、(3)生物機能の利用に関する要素技術の開発と実用技術への展開、 3-1 の3つと考えられる。(1)(2)については優れた実績があげられ、それは特許 の数や論文等の発表件数からも明らかである。とくに強調すべきは、これらの成 果は従来法によっては達成困難であったことで、従来は培養あるいは検出すら困 難であった新規かつ多種多様な微生物あるいは複合微生物群が取得され、新規物 質の取得あるいは新規生物機能の解明が行われ具体的かつ産業上有用な成果が提 示された。これらの成果は、別の観点からは、未利用微生物資源の秘めた重要性、 すなわち新規な生物資源の開発がいかに産業上有用であるのかを多数の実例をも って明らかにした画期的な例証ともいえる。また、 (3)については、新規な未利 用微生物の分離・培養技術の開発(ゲルマイクロドロップ法、他)、微生物の検出 技術や動態解析技術の開発、新規な DNA 関連技術の開発など、今後のバイオ関 連技術開発の基幹的なものが成果として得られており、これらは知的所有権の根 幹をなすものとして、あるいは新規な産業基盤の核となるものとして、日本の国 益となるバイオサイエンス・バイオテクノロジー分野の極めて重要な成果である。 また、強調すべきは、これらの成果が誰も行ったことがない新規かつ(プロジェ クト開始段階では無謀と感じられるほど)極めて困難な「複合生物系」という課 題に挑戦したからこそ得られた成果である、ということに尽きる。独自性と独創 性こそが新規なものを生み出し、研究とそれを支援する技術の開発、すなわち研 究における基礎と応用が両者一体となり融合的に優れた成果(本プロジェクト的 に表現すれば「複合的な成果」)をあげたことは、国家プロジェクトとして極めて 高い成功例といえる。 ○ 本プロジェクトの素晴らしい点は、研究における日本の独自性と独創性を示した ことにもあり、バイオ関連(とくに微生物機能)の研究に関して、新しい課題に 挑戦する意欲(知的好奇心)と日本が有する潜在的な研究能力そして技術力・技 術開発力の高さを世界に知らしめたことにある。日本が中心となって発信する成 果としては、近年まれに見るほどのインパクトがあったことは間違いない。すな わち、諸外国が本研究プロジェクトの影響を受けて新たな微生物研究のプロジェ クトを急遽立ち上げたり、あるいは現時点で数々のものが企画中と仄聞する。研 究開始の時点から Japan-original でなければ「日本の成果として」世界は受け入 れないという現実にきちんと応答して、基幹的な知的所有権を主張しうる成果を あげた本プロジェクトは、そのような意味からも大成功といえる。本プロジェク トを企画、参画あるいは協力された研究者各位の苦労は並々ならぬものであった はずで、特筆して賞賛されるべきものと付記しておきたい。 ○ 一般的に多くの微生物は複合系を形成しお互いに影響を及ぼし合いながら生存し ている。これまではその中から分離しやすい微生物を利用してきた。複合系のコ ミュニティでは相互の助けがなければ生育できない生物、生育コンペティション から劣性を余儀なくされ、なかなか姿を現さない菌などまだまだ利用に供されて いない微生物は多数存在する。新たな微生物資源の開拓を考えると、これら複合 系の営みに焦点を当てて解析解明していくことは新たな微生物の分離源やその利 用の範囲を広げる意味でも重要な事である。今回のこのプロジェクトはそういう 意味でも時宜を得たものである。特に、複合系微生物コミュニティの解析が進め ば、その中における各生物(微生物)間における相互関係の理解も深まり、それ らの利用範囲がさらに広がる事が期待できる。 ○ 非常に広範囲な分野を先端的手法で挑戦している。生物は全て複合系で構成さ れている。それぞれの役割について解析的アプローチで臨んだ本プロジェクトは 3-2 ○ ○ ○ ○ 今後種々の方面で活用されるであろう。近年複合系を意識したコンソーシアムを 農業資材として販売している組織もあり、その効用は必ずしも学問で裏付けされ たものではない。見えないものをいいことにして主観と結果で主張し消費者を困 惑させているものも販売されている。今後の環境やヒトの健康から見れば複合系 の重要度は益々増大する。複合系とは総合化、システム化のもっとも必要な分野 であり、生態・微生物・動植物の各専門分野が融合するこのような場を提供出来 るプロジェクトが継続的・永続的に認知されるような政策を期待したい。 21世紀は環境、食糧、エネルギー問題に鑑み、脱石油化学の産業構造およびラ イフスタイルを目指していかなければならない時代であることは明白であり、そ のために再生可能なバイオ資源を如何に確保し有効活用するかという先進国の共 通した認識がある。この意味で、複合生物資源の利用技術開発はきわめて重要で あり、その重要性、緊急性にも関わらずこれまであまり手を付けてこられなかっ た経緯もあり、国の事業としての本プロジェクトの起ち上げはきわめて妥当であ る。練り上げられた計画、事業体制、運営、研究の実施、達成度についても概ね 妥当である。 本プロジェクトは、目的基礎研究、あるいは期限付き(一定の見通しを前提とす る)開発研究を通常とする民間では成し遂げられない内容を数多く含んでおり、 国の主体的関与はきわめて妥当である。複合微生物群集の構造と機能については、 生態環境におけるその潜在的重要性や産業的応用の可能性の大きさ等にも関わら ず、世界的にみても未だ萌芽的研究段階であり、我が国がこの分野で先導的立場 を確保する意味においても(現在は欧米に比べてやや遅れをとっており、追いつ くべき立場にいる)、また地球規模での生物資源確保が益々困難な状況に至ること を克服する意味においても、緊急性が高い優先的に行う研究事業テーマの一つと 考えられる。上記の意味において本事業の政策的位置づけも明確である。意志決 定、目標設定、進捗状況の把握、計画見直し、プロジェクトの仕上げについては プロジェクトリーダー(サブリーダー)のリーダーシップのもとに、そつなく機能していると 思われる。 要素技術の開発研究においては想定できるテーマを概ねカバーしており、成果の 達成度も完全とは言わないまでも満足できるものである。 これまでにほとんど行われていなかった未開拓分野である複合微生物系、これま で培養できなかったものや培養の困難だったものを複合系を構築することで可能 にならしめるように試み、その結果として評価に値する新技術や新知識を多く得 ることができた。その基盤の上に新しい国家プロジェクトに相当するものが3課 題生まれたことは高く評価できる。また、プロジェクトリーダーが実質的にその 機能を果たすためにある程度の予算を手元に残し、これを特定分野に臨機応変に 配分し、効率を上げた点はこれまでわが国では行われていなかったものであるが 高い効果を上げたと評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 一部になぜこの複合微生物研究に含まれるか理解困難な研究もあり、初期の段階 での再整理の必要があったのではないか。 ● 個々の研究テーマを見ると、新たな産業化への道筋が曖昧なものが多く、この点 については、プロジェクト内部でももっと論議をすべきであったと考えられる。 ● 米国あるいは欧州では(もちろんそれを表に出して記すことはしないが)本「複 合生物系」のプロジェクトに触発されて、「微生物資源の開発」「微生物機能の応 3-3 ● ● ● ● ● ● 用」 「微生物共生」に関する新たな研究プロジェクトを立ち上げており、あるいは 新規な企画を策定中である。したがって、本プロジェクトが育ててきた良い芽を 大樹にまで育て、日本の産業にフィードバックするための国家的支援が必要不可 欠である。具体的には、後続の大型・中型のプロジェクトを並行してあるいは継 続的に立ち上げ、諸外国の追随を許さない距離にまで独走するために確固たる態 勢を立てて支援することが重要である。これは日本のみならず広く東南アジア全 体の産業育成にも重要な意味を持つ事業となろう。評者の個人的意見として付け 加えれば、微生物バイオテクノロジーを日本の産業の生命線と位置付け、強力な 支援を行うことは国家プロジェクトを企画・運営する側の使命である。 複合系における各微生物の役割を明らかにするには主役となる微生物のほか、 その周りに存在する他の微生物についても多くの情報が必要である。解析する微 生物の種類の範囲を広げることにより、複合系全体の作用をより深く理解出来る ようになると考える。 BSE は多くの問題を我々に提起した。食糧、輸血、細胞培養を原点にした再生医 療にヒトの健康への複合系の挑戦のような出来事であった。知らない事実をとや かく言うことではないが、生態、自己増殖の限界を示された。複合系の興味とし てさらなる研究者の確保を含めてここで終わらしては困る分野ではないだろうか。 複合系の研究拠点を明確にするような論議を期待したい。 本プロジェクトの目標、性格、および実際取り上げられたテーマの内容から考え ると計画立案、研究推進段階においてより工夫があってもよかったのではないか と考えられる。本プロジェクトは高度な生態学的情報や解析技術情報が必要であ り、その意味で微生物生態学や分子生態学の専門家をもう少し研究推進委員会、 あるいはアドバイザリーボードに入れるべきであったと思う。国内外には微生物 生態学会をはじめとしてプロジェクトにとって有用と思われる学会があるが、そ れらからの専門メンバーの登用もあってもよかった思う。このプロセスは以後の 研究グループの選定や研究設計(study design)に大きく影響を与えたと考えられ る。 研究開発目標の内容そのものは妥当であるが、予算,人員およびスケジュールを 考慮すると必要なテーマが過不足なく設定されているかというと必ずしもそうで はない。事業内容や類似分野の国際的研究状況からして考慮すべきと考えられる 要素研究や要素技術があった。特に高度な生態学的情報に基づく複合微生物系の 解析(相互作用、二者以上の複合系の機能連関解析とその利用など)においては ほとんど研究テーマに盛り込まれなかった。 プロジェクトの性格や予算の大きさからみて、むしろ生物間や複合微生物群集の 構造と機能に関わる基本原理に迫る基礎研究部門が必要ではなかったかと思われ る。具体的には、例えば Nature, Science などの学術週刊誌に話題提供できるよ うな成果がほしかった。このような成果は基本特許の取得を含めて、国際的優先 性を保つ上で重要である。設定された研究テーマは目的基礎研究や開発研究が多 かったと思われるが、やや散発的で、結果としてどのような性格の研究だったの か中途半端に終わっている要素技術開発研究が多かったように思われる。大学で の大学院生の基礎研究と区別がつかないような"小粒"な研究も見られ、国による" 国家プロジェクト研究"の identity を示せないまま終わっているものもある。 設定された要素技術は概ね妥当であるが,追加可能な要素技術はいくつか存在し た。たとえば DNA マイクロアレイ技術など。また、市場性や将来性を考えると健 3-4 康、食品などの関連でヒトを含めた哺乳類に関わる複合微生物系の解析(腸内細 菌動態、プロバイオティクスなど)がもっとあってもよかったのではないかと思 う。 ● 予想したとおりの評価がでなかったところに対する予算配分やテーマの変更に 当たっての対応にやや問題があった。例えばシロアリの腸内細菌叢を利用した難 分解物質の分解は、分野としてこれまでのところでも大きな矛盾はないが、別の 分野の方がふさわしかったように思われる。また予算の思い切った配分減があっ ても良かったように思われる。 <その他の意見> • 本プロジェクトは、複合微生物系を構成する微生物種の解析、および集団中の個々 の微生物の挙動が研究の中心になっていた。今後、応用への道を考えると、個々 の微生物の生理状態の解析および集団としての機能発現のメカニズムの解析が重 要となるのではないかと考えられる。 • 日本の国家プロジェクトの多くが米国のプロジェクトを雛型とした追随型の形態 を取るものが多い中で、本研究プロジェクトは世界にも類を見ない独自なテーマ をもって企画され、新規な領域に踏み込む形で大きな展開を見せた。本プロジェ クトは日本の独創性を諸外国にアピールした点でも高く評価されるべきである。 すなわち、開始当初は独走であってもそれが独創性すなわち知的所有権を生み出 すことを明らかにしたことで、今になって振り返ってみれば「国家プロジェクト 自体の大きな実験」が成功した例ともいえる。今後も日本独自の、とくに日本が 得意とする分野での研究プロジェクトの推進が国際競争力を維持する原動力であ ることを確認しながら、先導的役割を果たした複合生物系のプロジェクトの成果 を産業に還元するための国家的支援が必要不可欠である。 • この性格の研究プロジェクトでは、計画の立案段階で、民間研究、culture collections 等との連帯を意識した進め方をすれば、より強固なプロジェクトと なるかもしれない。 • この課題は、ここで終わっているのでどのように述べるのが適切かどうか疑問が あるが、先(評価委員コメント欄)に述べたように,期待した成果は上がってお りそのまま次段階に進めることも可能であったと思われるが、新たなる課題をこ の課題の成功分野から大型プロジェクトを生み出したことをよりいっそう評価す る。即ち科学進歩の早い今日では長いスパンの研究はこのような分野ではふさわ しくなく、新たに課題を作る方が良いと思われる。 3-5 1.1.2 今後の研究開発の方向等に対する提言 本プロジェクトの成果は、今後我が国の新規産業創造に寄与できる新たな微生物 バイオテクノロジーの核となる要素技術を多く含んでいる。従って、複合生物系あ るいはそれから派生する「新規な微生物資源」の開発と高度利用に関する基盤的研 究成果を早く手に入れることが極めて重要である。そのためには、応用への道を考 えて、個々の微生物の生理状態解析および集団としての機能発現のメカニズムの解 析へと研究を展開していくことが必須である。 新規な微生物資源および微生物遺伝子資源の開発と保存は、極めて重要であるた め、今後は、先導的役割を果たした本プロジェクトの成果を産業に還元するための 国家的支援が必要と考える。 ○ 本プロジェクトは、複合微生物系について比較的基礎的な研究をするプロジェク トであり。その成果も基礎研究の面で多く挙がっている。本研究の成果をできる 限り今後の実用化技術に役立てるのは当然であり、特に今後、応用への道を考え て、個々の微生物の生理状態の解析および集団としての機能発現のメカニズムの 解析へと研究を展開していくことが必須である。 ○ われわれの生活や生命に繋がってくる新たな産業を創り上げてくる基盤技術の開 発であったので、その中でも有望な技術については迅速に実用化に向かって研究 を進めるべきであろう。また、アジアへの貢献の視点からも、アジア諸国と共同 研究を積極的に進めて、信頼のネットワークを今まで以上に増強していってもら いたい。 ○ 本研究プロジェクトは成功裡に終了したと考えられるが、まだ萌芽段階にあるこ とも事実である。その理由の一端は、ある意味では複合生物系に関する成果は「新 しすぎる」ため、企業をはじめ世間一般はそれをどのように活用すべきかを戸惑 っているということにある。したがって、本研究プロジェクトに連なる次段階の 研究を強力に推進し、複合生物系あるいはそれから派生する「新規な微生物資源」 の開発と高度利用に関する基盤的研究成果を早く手に入れることが極めて重要で ある。とくに、経済産業省管轄のプロジェクトであれば、萌芽段階で放置するこ とは論外で、熟した果実(実用的技術の確立)を収穫してこその国家プロジェク トといえる。 ○ 本研究プロジェクト開始の時点では、ヒトゲノム計画に代表されるようにバイオ サイエンス・バイオテクノロジーの領域においても巨大研究プロジェクトが世界 的にも展開され始め、とくに国家的プロジェクトに関しては計画的、組織的かつ 網羅的に研究を推進する方向に大きく推移する時期であった。米国では微生物ゲ ノムプロジェクトに多大な資金を投入し始めた時期でもあり、欧州でも微生物機 能を有力視したプロジェクトが次々と実施された。さらに現在では、地球環境の 保全あるいは環境調和型技術の開発がさらに求められる時代になり、世界的に微 生物資源(とくに未利用微生物)の有用性と重要性についての認識が高まってい る。したがって、日本が得意とする微生物利用技術に関する潜在能力を背景とし て、諸外国の追随を許さないように、複合生物系に関する研究を国家的支援のも と新たな目標を掲げて推進していくべきである。 ○ 米国あるいは欧州では(もちろんそれを表に出して記すことはしないが)本「複 合生物系」のプロジェクトに触発されて、新たな「微生物資源の開発」 「微生物機 3-6 ○ ○ ○ ○ ○ 能の応用」 「微生物共生」に関する新たな研究プロジェクトを立ち上げており、あ るいは新規な企画を策定中である。本プロジェクトの成功が「日本独自の考え方」 の正しさを証明しており、諸外国もこれを認めたわけである。したがって、本プ ロジェクトの成果を「収穫」に導くための強力な支援は必要不可欠である。具体 的には、後続の大型・中型のプロジェクトを並行してあるいは継続的に立ち上げ、 確固たる信念のもと屹立した態勢によって支援することが重要である。 日本のお家芸とも言われるアミノ酸発酵や核酸・ビタミン発酵、酵素応用技術が 1950年代から21世紀の今日に至るまで、陰になり日なたになりながら日本 のバイオ産業の核となってきたことは明らかである。このような歴史は、微生物 バイオテクノロジーを日本の産業の生命線(控え目に述べてもその1つ)と位置 付けることの正しさを証明している。本「複合生物系」プロジェクトの成果は、 50年の時を経て登場した、新たな微生物バイオテクノロジーの核となる成果の 宝庫である。評者の個人的意見として強調すれば、本プロジェクトで得られた基 幹的な成果をもとに正しい方向に育成し、さらに実り多いものへと進化させるこ とが国家プロジェクトを企画・運営する側の使命と信ずるものである。 複合系に存在する微生物やその動的変動の理解は、環境保全や種の多様性の保存 などに重要である。特に、バイオレメディエーションなどによる効率的な環境浄 化の技術開発には微生物コンソーシアの理解は必須である。本プロジェクトでそ の糸口が見えてきたところである。この研究をさらに継続し、複合系の仕組みを より詳しく理解出来るようにするのが肝要と考える。 進めるべきであり、実用化補助金を申請すべき成果も多く見られた。開発責任企 業になれるものもある。しかし、複合系は底が深い分野であり、複合系の研究拠 点を明確にしてさらなるプロジェクトの継続を期待したい。なぜなら、生態学を 基本にした、あるいは資源学を基本にした研究者は民間にはなかなか雇用出来な いからで、産業化の視点で、もまれている民間研究者の雇用確保も含めて総合的 取り組みが今から必要であると痛切に感じる成果が得られているからである。 複合生物利用という面では、現状では次段階に進めるべき成果が少なく難しいだ ろう。環境保全、浄化技術では複合系の利用が最も期待されるが、本プロジェク トでは、環境保全、浄化技術に複合系の適用を可能とするブレークスルーとなる技術成 果がまだ充分得られておらず、その目的のための新たなプロジェクトが必要にな る。一部に特化した形で進められるものがあるとすれば、DNA マイクロアレイ技術、 バイオインフォマティクスを絡めた微生物情報の食品、健康産業、食糧・エネル ギー関連のへの応用がある。 新規な微生物資源および微生物遺伝子資源の開発と保存は、極めて重要であるた め、プロジェクトの成果を産業界へ展開するためには、国家的な支援が必須であ る。 <その他の意見> • この研究を進めるために民間が自己の研究資金で行うのは難しいのではないだろ うか。 • 複合系の研究拠点の認知、その支援、民間資金の活用などの仕組みの論議をはじ めてみたい。 • 日本の国家プロジェクトの多くが米国のプロジェクトを雛型とした追随型の形態 を取るものが多い中で、本研究プロジェクトは世界にも類を見ない独自なテーマ 3-7 をもって企画され、新規な領域に踏み込む形で大きな展開を見せた。本プロジェ クトは日本の独創性を諸外国にアピールした点でも高く評価されるべきである。 すなわち、開始当初は独走であってもそれが独創性すなわち知的所有権を生み出 すことを明らかにしたことで、今になって振り返ってみれば「国家プロジェクト 自体の大きな実験」が成功した例ともいえる。今後も日本独自の、とくに日本が 得意とする分野での研究プロジェクトの推進が国際競争力を維持する原動力であ ることを確認しながら、先導的役割を果たした複合生物系のプロジェクトの成果 を産業に還元するための国家的支援が必要不可欠である。 3-8 1.2 各論 1.2.1 事業の目的・政策的位置付けについて 生物多様性条約の発効以来、各国は新たな生物資源の取得に向けて様々な施策を 実施してきた。特に、開発途上国は自国の生物資源の囲い込みを図り、わが国をは じめとする先進諸国には生物資源の取得が難しくなってきている。一方、複合微生 物群集の構造と機能については、生態環境におけるその潜在的重要性や産業的応用 の可能性の大きさ等にも関わらず、世界的にみても未だ萌芽的研究段階であると言 える。 このような世界情勢の中で、我が国が、世界に先駆けて複合微生物系研究の大型 プロジェクトを立ち上げたことは、解析や利用が難しいといった理由でほとんど手 付かずの資源に着目し、その利用と応用を目的としたもので、生物資源を取得する ための新たな展開を図ったものである。本プロジェクトは、民間企業では興味があ ってもリスクが高く踏み込むことがためらわれる研究領域であったため、NEDO (国)の研究開発プロジェクトとして妥当であったと言える。また、バイオテクノ ロジーの領域の中でも、日本が独自の強みを発揮できる可能性が高い研究分野であ ることや研究成果が国際競争力を高めるための基盤的技術となり、新規産業創製に 大きな可能性があること、などから事業目的・政策的位置付けは妥当であったと評 価できる。 <肯定的意見> ○ 我が国が、世界に先駆けて複合微生物系研究の大型プロジェクトを立ち上げたこ とは、その後の世界の情勢を見るに大正解であったと判断される。これだけの基 礎研究を民間のみで行うことは不可能と信じる。基礎的な研究が多く、実用化技 術として対費用効果が高くないのはやや致し方ないと判断する。本プロジェクト で開発された解析技術が実用化され、いち早く我が国の研究者に普及することが 望まれる。 ○ 本プロジェクトの政策的位置づけはかなり明確であったといえる。このような研 究はとても個別企業ではリスクが高く、国が積極的に関与すべきものと考えられ る。しかも、バイオの領域の中でも、日本が独自の強みを発揮できる可能性が高 い研究である。また、日本の国際競争力を高める基盤的な研究という側面だけで なく、東南アジア諸国との共同研究を通じて国際的にも貢献できる分野である。 ○ 本研究プロジェクトの目的は世界的に見ても壮大かつ斬新、創造的であり、その 重要性は誰もが認めるものであろう。研究開始当時は重要性と重大性は認識され るものの、具体的にどのような成果が得られるのかが予想できない面が多く、そ の目標とするものがあまりにも巨大かつ遠大なもののようにも(とくに外部にい る評者には)感じられた。しかし、5年の歳月を経て得られた成果は極めて重要 なものばかりで、とくに強調したいことは新規概念あるいは基幹的概念を含む研 究成果が多く提出されたことである。これは、知的所有権が国際競争力の基盤と なった現代においては最も重要なことであり、国家プロジェクトとして推進した 場合の理想的な姿と判断される。したがって、本プロジェクトの目的は十分に(あ るいは予想された以上に)果たされたものと判断される。 ○ 民間企業では興味があっても踏み込むことがためらわれる研究領域であっただけ 3-9 ○ ○ ○ ○ ○ に、NEDO のプロジェクトとして行うことには大きな意義があった。予算的にも 当時のバイオ関連の研究プロジェクトとしては破格のものと聞き及ぶが、ある程 度の大きさをもって進めたことで今日の成果にまで到達しえたと考えられる。す べてのプロジェクトが巨大である必要はないが、本プロジェクトの成功要因の1 つは大部隊が一丸となって目標を目指したことにあるものと評者自身は感じてい る。 本研究プロジェクトは明確な目的をもって研究が遂行され、国家プロジェクトと しても極めて妥当であり、実り多い成果をもたらしたものと判断される。また、 研究面でも「複合生物系」という新規な概念を形あるものにしたことで高く評価 される。 生物多様性条約の発効以来、各国は新たな生物資源の取得に向けて様々な施策を 実施してきた。特に、開発途上国は自国の生物資源の囲い込みを計り、わが国を はじめとする先進諸国には生物資源の取得が難しくなってきている。今回のプロ ジェクトは自国内にありながら、解析や利用が難しい理由でまだ手つかず状態の 資源に着目し、その利用と応用を目的としたもので、生物資源を取得するための 新たな展開をはかったものである。よって、NEDO(国)のプロジェクトとして 妥当であり、その事業目的は評価できる。 再生可能資源としての生物資源の特性評価とその利活用の研究は政策的に遂行さ れなくてはならないプロジェクトであり、産・学では広範な学問・技術分野に対 応するには限界が多い。我が国は全ての産業分野を国内に有している数少ない国 であり、生物資源をあらゆる角度が評価する基礎的体系は出来ている。今後競争 の激しい分野になるのは目に見えている分野であり、生物資源探索としての複合 系プロジェクトは国としてふさわしい分野と考えている。 バイオテクノロジーの基礎から応用までここ 20 年ヒトゲノムを中心にされてき ているがこれは付加価値の高い医薬品の開発を目的にしている。また、グローバ ル化から研究にも国境がなくなり、人件費の安い、あるいは集中投資のされやす い諸外国に研究の人材、資金も流出が民間企業で始まっている。確かに付加価値 から見れば投資資金の回収は医薬品に限定され、また命というコスト外の分野で あれば、税金を使うことの国民の合意も取りやすい。しかし、本来研究は生活を 中心にした分野に投下されるべきでバイオテクノロジーの活用の原点も生活関連 であろう。となると本プロジェクトの意義も大きい。我が国の原点を形成する生 活・環境保全へのバイオテクノロジーの活用として、もちろん生活には産業振興 が優先されるから、国としてもう一度バイオテクノロジー戦略の見直しをさせる 必要がある。このようなプロジェクトは国の基盤技術形成の必至技術として継続 的に一定資金を投じていく分野ではないだろうか。資金的にはこのくらいの投資 を継続して、民間を含めて研究者の確保を行いポテンシャルの向上を常に心がけ るべきと考える。 本プロジェクトは、目的基礎研究、あるいは期限付き(一定の見通しを前提とす る)開発研究を通常とする民間では成し遂げられない内容を数多く含んでおり、 国の主体的関与はきわめて妥当である。複合微生物群集の構造と機能については、 生態環境におけるその潜在的重要性や産業的応用の可能性の大きさ等にも関わら ず、世界的にみても未だ萌芽的研究段階であり、我が国がこの分野で先導的立場 を確保する意味においても(現在は欧米に比べてやや遅れをとっており、追いつ くべき立場にいる)、また地球規模での生物資源確保が益々困難な状況に至ること 3-10 を克服する意味においても、緊急性が高い優先的に行う研究事業テーマの一つと 考えられる。上記の意味において本事業の政策的位置づけも明確である。 ○ 長いスパンを視点に入れたものであったが、時代の流れに即応して事業を終結し て、新たな分野を立ち上げる方向転換をしたことは政策的にも優れた決断と評価 する。 <問題点・改善すべき点> ● 基礎研究部門の成果に比較して、実用化研究の成果の弱さが指摘される。恐らく 本研究開始の時点では、実用化はそれ程強く意識されていなかったと推察する。 評価の段階になって、実用化などの出口を求めるというのは若干酷であり、むし ろ今後の課題と考えるべきであろう。 ● 本プロジェクトの終了(終点)は新しい出発点である。本プロジェクトの成果を、 真の意味で国際競争力の核として(あるいはそこまで育成して)活用するのであ れば、後続のプロジェクトで「果実の収穫」=「産業化」さらに「新たなる基盤・ 基幹的成果の育成(知的所有権の確保)」を強く意識して、成果の保護と育成を考 えていく必要がある。 ● 生物資源探索、欧米では博物館がかなりの機能を果たしている。我が国はその機 能は弱く、産業基盤形成に微生物に限定しない総合的な生物資源の保存、保存の あり方、特性評価と有用性探索、データーベースなどの国として継続的・永続的 投資を期待したい。 ● 事業目的をさらに先鋭化し、基礎部門と開発研究部門を分け、研究実施者の役割 分担をより明確にすればよかったのではないか。 ● 課題の進行状況に応じた、課題の分野設定の柔軟性がもう少しあっても良かっ た。また必要に応じて参加者の差し替えも効率よく行うことが望まれる。 <その他の意見> • 極論すれば、日本が自由に入手できる資源は「人的資源」と日本にある「微生物 資源」しかない。しかし、後者については、現在のところ培養可能な微生物は全 体の1%に満たないと考えられている。資源の確保と有効利用の観点からは、鉱 物資源の探査と同様な考え方で、常に新規な微生物資源を確保するための研究が 継続される必要があり、これは企業や研究機関が行うべき性格のものではなく国 家が国益保護のために行うべき事業なのである。 3-11 1.2.2 研究開発マネジメントについて 研究開発の目標設定、研究開発の計画立案に関しては、根拠が明確に示されてい る研究課題が多かった。また、広範な技術分野で開発を進めていくために、プロジ ェクトリーダーを中心にアドバイザリーボードや研究推進委員会を適切に活用し たことや成果に応じた研究予算のメリハリをつけたことなどは評価できる。中間評 価結果を適切に反映して計画の見直しが行われていたと評価している。従って、概 ね的確なプロジェクト運営ができたと判断できる。 ただし、特殊な研究、応用性の強い研究の一部には、目的・目標の明確でないも のもあった。また、相互に関連する技術については、より親密な連携のもとに研究 開発を進めるべき点もあった。中間評価での判断をもう少し厳しくしても良かった のではと感じる。研究開発体制としては、計画の立案段階で、微生物生態学や分子 生態学の専門家をもう少し研究推進委員会、あるいはアドバイザリーボードに入れ るべきであったと思う。 <肯定的意見> ○ 基礎的な研究に関しては明確な目標のもと計画的に研究が進行したと評価する。 特殊な研究、応用性の強いものその他一部には、目的・目標の明確でないものも あったように思うが、開始時点でなるべく広く扱うと言うことであったと思う。 むしろ途中に於ける再評価をもう少し厳しくしても良かったのではと感じる。 ○ PL のもとに、本プロジェクトは効率的に運営されていたようである。26の全テ ーマについて毎年きちんと研究の評価を行い、それを次期の予算の増減(最大 50% の増減)に反映していた。なかなか研究の評価は難しいところであるが、基盤技術 開発の実現化の視点から、研究予算の配分にメリハリをつけたことは評価に値す る。また、研究発表会等を通じて有意義な情報交流を頻繁に行っていたようであ る。さらに、インドネシアのサテライトラボに駐在員をおいて、積極的に共同研 究を進めたことは国家間の信頼を向上させ、今後、海外での研究開発の推進にプ ラスに働くことになろう。 ○ 目標の設定ならびに計画の設定、運営は極めて順調に進行したものと評価される。 本プロジェクトの場合には、あまりにも未知の領域に踏み込むため具体的な目標 の設定は極めて困難であったに相違ないが、それを超えて極めて優れた成果が提 出されたことは、プロジェクトリーダーとサブリーダー、各研究者の努力による ところが大きいものと判断される。 ○ アドバイザリーボード、研究推進委員会など設け、目標設定や研究の進捗状況を 十分に把握し、このプロジェクトを進めており、よくマネージメントされている。 ○ 新しい仕組みとして評価出来る。プロマネが途中交代しているのが残念であり、 大胆な人選が必要であったのでは。研究相互の連携もよくされており、報告も読 みやすかった。 ○ 意志決定、目標設定、進捗状況の把握、計画見直し、プロジェクトの仕上げにつ いてはプロジェクトリーダー(サブリーダー)のリーダーシップのもとに、そつなく機能して いると思われる。要素技術の開発研究計画においては想定できるテーマを概ねカ バーしており、研究もほぼ計画どおり速やかに行われた。 ○ 自己評価、中間評価をかなり良く反映して計画の見直しが行われたと評価して いる。特にPLは、良く機能していたといえる。むしろもう少しPLに権限を持 たせても良かったかもしれない。 3-12 ○ 情勢変化への対応も適切と思われる。一方、評者は中間評価には参画していない ので、書面で見るかぎりではあるが、中間評価結果の反映も適切に行われたもの と判断される。 <問題点・改善すべき点> ● プロジェクトの中で位置づけが明確でないものがあった。(A)と(B)の構成で煩雑で わかりにくい部分があった。 ● リスクの高い研究テーマを成功に導くことは大変なことであるが、今回上手くい かなかったテーマについては、その原因(研究目標設定の甘さ等)を論議して将来の 研究開発の推進に役に立ててもらいたい。 ● 情勢変化への対応も適切であったと思われるが、諸外国の動向を見れば本研究を 追随するものが出ていることが理解されたはずである。また、本プロジェクトは 中間評価においても高い評点を得ており、順調な進行も確認されていたはずであ る。したがって、これは運営側の問題と思われるが、予算の減額などはすべきで はなかったことは明らかで、適切なある時機(たとえば中間評価終了直後など) には本来は増額あるいはそれまでに得られた成果をもとにしたサテライト(ミニ) プロジェクトを立ち上げるなどの配慮する必要であったと感じられる。意味もな く(あるいは要求もされていない)研究費をばらまく必要はないが、成功しつつ あるプロジェクトについては研究員全体と士気を高める、あるいは成果を反映し ての自由度を高める意味での柔軟な資金配分についても考慮する必要があろう。 ● 研究目標の設定が明確であった反面、その難易度の高低にややバラツキが認めら れた。設定時は高い目標であったのであろうが時代が進むに連れて情報が多くな り、低くなってくるものもあるのだろう。 ● リーダーの意思決定が報告の中で読みとることも出来なかった。B-2-1 では 5 年 の期間で研究の方向がダイオキシンにまで変更されるには無理が多い。白色腐朽 菌の研究例も多くオリジナルな研究としては中途半端で終了しているのが残念で ある。今アメリカのベンチャーから投資の勧誘に来ているセルローズ・バイディ ング・ドメイン(CBD)のような研究がどうして我が国で定着しないか、リーダー のあり方、選定の仕方、専門性から脱却した将来を見据えた視点が不足していた のではないかと報告書を読んでの感想である。 ● 計画の立案段階で、微生物生態学や分子生態学の専門家をもう少し研究推進委員 会、あるいはアドバイザリーボードに入れるべきであったと思う。このプロセス は以後の研究グループの選定や研究設計(study design)に大きく影響を与えたと 考えられ、かなり異なったプロジェクトの内容(より良好な内容)になった可能 性もある。 ● 混合培養系の探索システムとして、医薬を対象にする事はある程度の理解はでき るが、医薬系物質の実用化(当然実証試験も含む)は時間のかかるものであり、 目的から判断してこのプロジェクトで実施することは必ずしも適切ではなかった と言える。 ● 関連する技術(例えば A-1-3 と A-3-5)は、相互連携を取りながら研究開発を進め るべきであった。 <その他の意見> • 国家プロジェクトの場合、いかにすぐれたものであっても最終年度が尻すぼみに なることが多く効率の悪さが目立つ。重要なプロジェクトの場合には柔軟性を与 3-13 • え、最終年度の予算配分では減額をしないなど、ラストスパートがかけられる態 勢づくりにも配慮すべきであろう。 プロジェクト立ち上げ時に、リーダーの公開・公募性を導入したらどうか。生態 学からの選考も考慮してほしい。 3-14 1.2.3 研究開発成果について 従来の方法では、培養や検出が困難であった微生物や微生物群が多数取得され、 新規の複合生物系としての機能解明が行われたことは評価に値する。特に、新規な 未利用微生物の分離・培養技術の開発(ゲルマイクロドロップ法、他) 、微生物の 検出技術や動態解析技術の開発、新規な DNA 関連技術の開発など、今後のバイオ 関連技術開発の基幹的なものが成果として得られており、国家プロジェクトとして 優れた成果をあげたと評価される。 環境中における複合系の働きをさらに深く理解するためには、より広い範囲の微 生物群を対象にした検出・解析が必要であろう。その複合系の主役となる微生物と 脇役となる周りの微生物との相互作用を明らかにすることによってその複合系の 働きをより深く理解でき、新たな生物資源の確保や利用が可能となろう。 蛍光消光を用いた新規遺伝子の検出やゲルマイクロドロップ法などの優れた成 果に関しては、その普及型の開発に進むべきである。 成果の普及、公開に関しては、開催したシンポジウム等を通じて積極的になされ ている。また、本プロジェクトの開始以降に、本プロジェクト参画者以外の多く研 究グループが各個のテーマを掲げて当該分野の開拓に乗り出しており、波及効果に ついては極めて高く評価できる。 <肯定的意見> ○ 複合微生物系の解析技術の開発という初期目標は、ほぼ達成されたと評価する。 この部分では、世界水準の成果も複数あった。 ○ 成果の普及も概ね目標達成したと評価する。特にシンポジウム等の入場者数は多 かった。 ○ 蛍光消光を用いた新規遺伝子の検出やゲルマイクロドロップ法による培養困難な 微生物の検出と分離・培養技術のような世界レベルで独自の優れた技術を開発し ていることは、このプロジェクトとして成功したといえよう。成果の普及につい てはシンポジウム等を通じて積極的になされているといえる。 ○ 本研究プロジェクトは、複合生物系の生物資源としての利用を最終目標として進 められたもので、新規かつ創造的な研究成果の提出と極めて先導的な要素技術の 開発がなされたことで、大きな成功を収めたものと高く評価される。研究(開発) 目標は優に達成し、プロジェクト計画立案当時の先見性を証明したものと判断さ れる。 ○ 本研究プロジェクトは総合的にも各個的にも優れた成果から成るものと評者は判 断している。計画通りあるいはそれ以上の成果を収めており、各個の研究内容あ るいは基幹的な成果となった要素技術も世界的に見ても極めて高い水準のもので、 新規かつ創造的なものが多い。成果そのものは「新しすぎる」ため現時点で実用 技術となったものは少ないかもしれないが、これはプロジェクトの性格上やむを 得ないことである。むしろ、長期にわたる原動力となる基幹的な成果が出たこと、 日本独自の成果と諸外国が認める成果があげられたことを高く評価すべきである。 これらは、近い将来新たな実用化技術だけでなく産業そのものを創出する力を秘 めている(内容は後述)。新規な DNA 関連技術など、当初は予想されなかった、 しかし極めて重要な技術(しかも新機軸のもの)が開発されたことも素晴らしい。 ○ 研究テーマの波及効果の面では、とくに日本において数年前(?)までは、とも すれば「どのように手をつけて良いかがわからない」ため複合生物系の研究は放 3-15 ○ ○ ○ ○ ○ 置されていた。しかし、本プロジェクトの展開と確かな手ごたえが「やればでき る」との希望を与え、多くの(本プロジェクト参画者以外の)研究グループが各 個のテーマを掲げて当該分野の開拓に乗り出したことは特記すべきであろう。新 規な研究領域を起こし新たな方向性を与えたことについても、本プロジェクトは 高く評価されるものである。心配なこととしては、これが一時の流行に終わって しまうことであって、ようやく浸透した「複合生物系」の研究が日本の研究土壌 に根付くようにすることも考えていく必要がある。 本研究プロジェクトの目的は、(1)新規な生物資源の開発、(2)微生物機能の 開発と応用、(3)生物機能の利用に関する要素技術の開発と実用技術への展開、 の3つと考えられる。(1)(2)については優れた実績があげられ、それは特許 の数や論文等の発表件数からも明らかである。とくに強調すべきは、これらの成 果は従来法によっては達成困難であったことで、従来は培養あるいは検出すら困 難であった新規かつ多種多様な微生物あるいは複合微生物群が取得され、新規物 質の取得あるいは新規生物機能の解明が行われ具体的かつ産業上有用な成果が提 示されたことである。また、 (3)については、新規な未利用微生物の分離・培養 技術の開発(ゲルマイクロドロップ法、他)、微生物の検出技術や動態解析技術の 開発、新規な DNA 関連技術の開発など、今後のバイオ関連技術開発の基幹的な ものが成果として得られており、これらは知的所有権の根幹をなすものとして、 あるいは新規な産業基盤の核となるものとして極めて重要な成果である。また、 強調すべきは、これらの成果が「誰も行ったことがない」新規かつ(研究当初は 無謀と感じられるほど)極めて困難な「複合生物系」という課題に挑戦したから こそ得られた成果である、ということに尽きる。独自性と独創性こそが新規なも のを生み出し、研究とそれを支援する技術の開発、すなわち研究における基礎と 応用が両者一体となり融合的に優れた成果(本プロジェクト的に表現すれば「複 合的な成果」)をあげたことは、国家プロジェクトとして極めて高い成功例といえ る。 目標どおりの成果をあげ、特許の取得、報告ならびに広報など適切にされていた。 事業原簿がよく作成されているので成果の水準もよく理解された。複合生物系解 析技術の中に将来の分析機器や測定機器に応用されるべき成果が多く散見された。 いずれも高額な機器が想定されるので、機器メーカーとの共同でコストダウンを 期待したい。特許申請について記載されているが、筆者の視点からみればさらな る特許申請がされてもいい成果が多くみられた。成果評価の多様性を図った組織 の必要性を感じた。複合生物系利用・生産技術はアジア諸国のニーズ解決という 意図と思われるが、成果の活用に関しての記載が不十分な為に市場創造の期待が 大きい。しかし、どのような市場創造を行うかのフロー図などの記載がほしい。 研究者も経営者的視点が必要であるため。 目標の達成度、成果の意義ともにまずまずと思われる。市場創造につながるよう な新規性、先進性もある程度みられる。発表論文、特許、公共媒体への登場に関 しても絶対量としては十分と考えられる。 非常に良い成果が出たと評価できる。つまり世界に先駆けた研究成果が多くで ていることを評価する。 <問題点・改善すべき点> ● 実用化については、個別的には充分実用化に耐えるものもあったが、 、当初から本 3-16 ● ● ● ● プロジェクトでは大きな目標としていなかったため、対費用効果という面での評 価は高くない。 海外のプロジェクトの調査あるいは文献検索をはじめとする研究調査も十分に行 われており、この点は高く評価される。一方、その内容を知ることができる人間 が少なかったことも事実であり、この点は改善すべきことと思われる。プロジェ クトの評価や政策決定など秘密にすべき箇所はもちろん公開の必要はないが、一 般的な調査内容やその概要はもう少し積極的に公開することを行った方が良い。 一般情報として調査内容の一部が閲覧できるようにする、などの措置が今後のプ ロジェクトでは行われることを期待したい。研究者間で広く情報を共有すること によって、研究の促進が図れるであろうし、プロジェクトに関する理解そのもの も深くなるであろう。調査費用の(おそらく)5∼10%で十分にこれらの情報 公開は可能と思われるので、バイオ関連の調査内容に関しては、少なくともバイ オインダストリー協会会員であればインターネットなどで簡単に閲覧できるよう に配慮していただきたい。 要素技術からみて、特定の菌の検出、解析技術は相当のレベルまで到達し複合系 の動的解析もかなりの成果を上げていた。環境中における複合系の働きをさらに 深く理解するためにはより広い範囲の微生物群を対象にした検出・解析が必要で あろう。その複合系の主役たる微生物と脇役たる周りの微生物との相互作用を明 らかにすることによってその複合系の働きをより深く理解でき、新たな生物資源 の確保や利用が可能となろう。 成果の広報を含めて、成果のプレゼンが事業にしようとする姿勢が感じられない。 成果とは新たな共同研究先が手を挙げてきたとか、自社資金で継続的に行うとか の動機付けをさせることが重要で、プロジェクト内部での成果は単なる結果であ る。果物であれば成果は熟れてこそ売れるので結果は単なる成果のなる以前の前 駆体でしかならない。成果は熟れさせる、熟れさせようとする組織を形成させた ら大いなる成果である。特許申請の動機付けなどリーダーを含めて新たな評価組 織を必要としたのではないか、残念である。 予算、人員数をベースにした成果の比活性は必ずしも高くない(ベースが高く、 人件費等の影響もあるので単純な割り算での比活性の導き方には問題もあると思 うが)。その分、質が問われると思うが、世界的なトピックスに繋がる成果はなか ったように思う。 <その他の意見> • 成果の公表も十分に行われ、成果に対する関心またプロジェクトへの期待度の高 さは毎年の公開シンポジウム参加者の人数の多さがそれを証明している。あえて 付言すれば、成果の公表や広報は現状で十分であろう。むやみに一般向けの発表 を増やすことをはじめとして、研究者の雑用(?)を増やし研究のための時間を 減らすようなことはすべきではないことを述べておきたい。 • 評価委員会に知的財産担当も入れたらどうであろうか。また、科学部の新聞記者 とかもよい。 3-17 1.2.4 実用化、事業化の見通しについて 研究開発目標が基盤技術開発の確立であるため、産業技術に直接結びつくものは 多くない。しかし、排廃棄物処理・環境浄化における産業技術や蛍光消光を用いた 複合生物系モニタリング技術、ゲルマイクロドロップ法による菌の分離や培養化な どは早期に実用化が期待できる成果として極めて高く評価される。また、本プロジ ェクトの成果を基にして、新しい大型プロジェクトを 3 課題生み出したことも極め て高く評価される。 <肯定的意見> ○ 本研究の特質からいって、産業技術に直接結びつくものは多くない。しかし、分 析技術・解析技術としてはすぐに実用に結びつくものが多くあった。廃棄物処理・ 環境浄化における産業技術も実用化に繋がるものが数点あった。 ○ もともとの研究開発目標が基盤技術開発の確立ということであるので、本プロジ ェクトを実用化・事業化の視点から見ると判断の難しいところである。その中に あっても、蛍光消光を用いた複合生物系モニタリング技術の活用のように事業化 が想定されているものがあることは喜ばしいことである。 ○ 優れた基幹的な成果も出ているため、これらを核とした産業技術の開発、実用化 の可能性は高い。また、関連分野への波及効果が大きいこと、新規 DNA 関連技 術の開発などの派生的ではあるが極めて重要な成果があげられたことも、本研究 プロジェクトの特長であり、高く評価すべき点である。 ○ ゲルマイクロドロップ法による菌の分離や培養化は実用化されるだろう。本法の 利用により新たな微生物資源の獲得が期待できる。 ○ コンソーシア解析用の各種デバイスについては、実用化が図られることが期待で きる。 ○ 公共財としては生物資源の確保と複合系としての役割が本プロジェクトで定量的 に把握されたことに意義は大きい。共同研究を行いたい成果が散見された。もち ろん共同研究するにはあまりにも分野が異なる場合は参画できないが、許される ので在れば業界全体で取り組んでみたいものもあった。今後どのような手続きで 行うことが出来るか、担当研究者は確保出来るのか今後の見通しも聞かせてほし い。 ○ 産業基盤整備としてこのようなプロジェクトは継続し、一定程度の研究員は確保 していなくてはならない。構造不況をあおりを受け我が国の民間での植物バイオ テクノロジーの研究者は減少している。植物資源としての価値が見いだされてい ないからで、NEDO というグローバルな視点を有する組織でややもすると縦割り な生物資源探索組織を本プロジェクトの成果を切っ掛けにして大きく取り上げて いく姿勢を期待したい。 ○ 成果については新規性のあるものが多くみられ、関連分野への波及効果はある程 度期待できる。実用化については難しいが、公共性、および事業性についてはヒ ントになる成果が得られている。 ○ 新しい大型プロジェクトを3課題生み出したので大成功といえる。 <問題点・改善すべき点> 3-18 ● 本研究は複合微生物研究の基礎技術の開発が中心であり、直接の産業技術への応 用を目的としていない。ただ今回の研究は、「集団の中にどんな微生物がいるか」 が中心であり、その微生物が「集団の中でどのような働きをしているか」や「集 団中の微生物間の関係の解明」は今後に残された。 ● 確かに、将来、医療や環境問題等を解決できるような有望な研究もあるが、新規 産業の創出という視点から見れば、全般的にその道筋が曖昧なものが多い。 ● 本研究プロジェクトは成功裡に終了したと考えられるが、まだ萌芽段階にあるこ とも事実である。その理由の一端は、ある意味では複合生物系に関する成果は「新 しすぎる」ため、企業をはじめ世間一般はそれをどのように活用すべきかを戸惑 っているということにある。したがって、本研究プロジェクトに連なる次段階の 研究を強力に推進し、複合生物系あるいはそれから派生する「新規な微生物資源」 の開発と高度利用に関する基盤的研究成果を早く手に入れることが極めて重要で ある。とくに、経済産業省管轄のプロジェクトであれば、萌芽段階で放置するこ とは論外で、熟した果実(実用的技術の確立)を収穫してこその国家プロジェク トといえる。鉱物資源のボーリング調査でたとえれば、有望な鉱脈を掘り当てた 段階で手放すなどあってはならないことで、有望な鉱脈の調査を綿密に進め、無 理と無駄がないように資源を掘り進め実際に必要な資源を効率よく手に入れるこ とが重要である。残念ながら、日本には誇るべき鉱物資源は少なく、現状では農 業国になることもできない。存在するものは、極論すれば優秀な人的資源(研究 能力と技術創出力)と微生物資源のみであろう。したがって、新規な微生物資源 の確保と利用を目的とした複数のプロジェクト(最終目標や発想の異なるもの) を並行して進め、遺漏なく本プロジェクトの成果を産業に還元する努力が必要で ある。並行的、段階的、あるいは競争的なプロジェクトにより瞬発力をもって実 用と応用に向けた展開を図るべきである。 ● あえて強調しておくが、本プロジェクトの成果は、21世紀日本の微生物バイオ テクノロジーの核となる成果を含んでおり、それを活用する努力を早急に進める か否かは今後50年の日本のバイオ産業に影響が及ぶ重大事である。 ● 一般に広く普及させるためにはこれらを行う技術や操作方法などは簡便であり、 機器などは安価である事が求められる。現在の状態では、開発された機器は高価 で利用するには高度な技術と専門性を有するのでその点の改善を期待したい。 ● 民間研究者としては産業基盤としての民間の視点を持った研究員は雇用確保出来 る体制、流動化出来る体制を是非考慮してほしい。本プロジェクトの成果を民間 で活用したい場合、担当研究員は民間に出向可能、あるいは民間研究員を全額費 用負担で国研に受け入れるとかの助成事業の創製を期待したい。でなければここ で消滅するような成果がある。 ● 全般的に実用化の見通しは暗い。実用化に見合うブレークスルーになる基本原理 の発見や技術開発の進展がなかったし、実用化を目指した研究設定になっていな かった。 ● 特に大きな問題はなかったが、成果のでなかったものの整理の仕方にやや甘か ったところがある <その他の意見> • 多くの国家プロジェクトでは最終年度の予算が極めて少なくなることが通例であ 3-19 るが、その後の展開が期待されるプロジェクトについては「ラストスパート」の ために減額せずに(むしろ増額して)走らせることも必要であろう。あるいは、前倒 しで新組織に改組して新たな研究を開始する態勢が組めるようにするなど柔軟性 を認めるようにすべきであろう。国家プロジェクトにおける研究でよく見られる 「最終年度の尻すぼみ」 「研究者の士気の低下」を回避するための新たな方策を考 案していく必要がある。 3-20 要素技術に関する評価 3.1 A-1-1:分子遺伝学的・組織化学的手法による複合微生物解析技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 自然環境に存在する微生物叢の培養を介さないで、培養困難な細菌を検出し、動態 解析への途を拡いたことは高く評価される。特に、放射性同位元素を用いないブロッ トハイブリダイゼーション法によるコンソーシア優占種解析や特定菌用プローブを 用いた挙動解析は、複合系微生物群の実体を解明する大きな手がかりになる。 本研究での手法は、環境内微生物の検出技術として適用範囲が広く実用化の期待が 高いと判断する。 他の定量方法との比較検討を行い方法としての正確さを検証すること、環境内に存 在する他の微生物検出範囲を明確にすること、などが課題として残されている。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 特定微生物の検出技術技術としては、様々の分野での利用実績を構築しながら、簡 便にかつ定量的な手法となるような開発を行うことを望む。 3.1.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 様々な自然環境に存在する微生物叢を培養を介さないで定量的に測定する技術の 開発は評価できる。、 ○ フローサイトメトリーや FISH 法を駆使して培養困難な細菌を検出し、動態解析 への途を拡いたことは高く評価される。また、従来より動態が不明とされていた 通常の細菌より小さい生物(ナノプランクトンと同義の可能性もある)あるいは ウイルス(様細胞)からの DNA の回収を可能にして、一例として海水中におけ る定量解析の可能性を見出したことも大きな成果と思われる。 ○ 非 RI を用いたブロットハイブリ解析によるコンソーシア優占種の解析や特定菌 用プローブを用いた挙動解析は、複合系における微生物群の実体を知る上で重要 な手がかりを得ることが出来るようになり評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 一部の解析法については、特定微生物の検出法としては見るべき成果があるが、 複合微生物系の解析の面からは、さらに機能面等への適用範囲の拡大が図られる べきと考える。 ● PCR による DNA 定量の方法などで新規な「ものさし」を設定し適正化などへの 取り組みがなされたことは興味深い。しかし、既知量の混合 DNA を含む試料に ついてデータを測定して他の定量方法との比較を行うなど、対照実験をもとにし た「方法としての」正確性を実証するための研究も必要と感じられる。PCR 法自 体が有する限界も存在するはずで、環境中の任意の DNA を定量する方法として、 開発した方法がどの程度の汎用性と限界を有するのかを明らかにすることも重要 3-21 であり、これらの点には深く踏み込んで検討することが必要と思われる。 ● 複合系における微生物の各群の役割を知るためには多くの菌を広くモニタリング し、その相互作用を明らかにしていかなくてはならない。その為には、多くの菌 種の特定プローブを用意しなければならない。 ● 従来の技術に比較してどの程度の新規性や改善があったのかあまり明確でない。 3.1.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 特に特定微生物の検出技術素技術として広く適用可能な技術が開発されている。 ○ 新規な方法が開発されつつあり、多方面への応用が期待できる。なお、複合微生 物の解析技術としての適用性を明らかにすることで、実用性の拡大が期待できる。 ○ 特定な微生物とはいえ環境内微生物のモニタリングが可能になり、その複合系の 役割が明らかになってくることが期待できる。 ○ 実用化の見通しは、極めて高い。新分野への発展を期待する。 <問題点・改善すべき点> ● 有用微生物の取得、機能性集団の取得の面での展開が少なかった。 ● 「ゲノム(DNA?)・SNPs 等遺伝子多型検出への貢献」を波及効果としているが、 それは本研究による成果というより、TacMan PCR などの既存技術あるいはその 部分的な改良によるものと感じられた。 ● 複合系の役割を明確にするためには、その環境内におけるある特定の微生物のモ ニタリングばかりでなく、他の微生物についてもモニタリングしなければならな いが、それがどれぐらいの種類の菌をモニタリングしなければならないのか予想 できない。 ● 成果の描写に具体性がないので実用化については評価が難しい。 3.1.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ どこに、だれが、どれだけいるか?という当初の目的は達せられていると思うが、 機能面での解析に繋がっていくような手法の開発が今後望まれる。 ○ 本項目の研究によって「検出可能」であった微生物を「培養」し「単離」しうる ものかどうかなど興味は尽きない。このような意味からは、 「単離・培養」を主体 とした A-2-2 との技術の融合によって、 「検出」→「培養」への一体化した方法論 とそれに基づく(実際的な)技術と応用例が開発されることを望む。 ○ 複合系における菌の多様性と量的変化のモニタリングには、今日の方法をさらに 改善し、簡便に定量的に出来るようにすることが望まれる。 ○ 広く広報して、様々の分野での利用実績を作ることが望ましい。 3-22 3.2 A-1-2:組織化学的染色法 【成果と実用化の見通しに対する評価】 顕微画像法と蛍光エステラーゼ基質を用いた方法により、生きている微生物を直 接検出できるようになったこと、本法を応用して土壌から多数の新規微生物株を取 得できたこと、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)に代替しうる新規 な蛍光タンパク質を取得したこと、などは世界をリードできる研究成果である。 中間評価においても指摘されているが、顕微分光装置による複合微生物群集の解 析手法を実用化するためには、コスト面をクリアすることと自動化の見込みを得る ことが望まれる。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 中間評価でも指摘されているが、顕微分光装置による土壌中複合微生物群集自動 解析手法の確立には、電子分野、光学分野、機械分野の工業化技術を付加すること が重要であり、民間企業も含めた共同開発体制が望まれる。 3.2.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 稀少微生物の検出・取得法の開発に見るべきものがある。 ○ 従来は顕微鏡下であっても見ることが困難であった試料や顕微鏡像が不明確であ った試料について、複合生物系の集団を検出可能にする(あるいは鮮明な観察像 を提供しうる)技術を開発したことは高く評価される。また、GFP(オワンクラ ゲ由来の緑色蛍光タンパク質)に代替しうる新規な蛍光タンパク質を単離した細 菌より取得したことも興味深く、発展が期待できる。 ○ 蛍光色素―エステラーゼと顕微画像法を用いて自然界に生存している微生物を直 接検出できることは、複合系の微生物群を知る上で極めて重要であり、それを映 像化した点は評価できる。 ○ 用いられた非培養系分子技法、蛍光顕微技術は大部分は既存の方法ではあるが、 その適用性について成果が得られており、良好な達成度である。蛍光エステラー ゼ法における消光物質の添加等に工夫がみられる。生細胞と周辺 pH の同時測定、 顕微分光装置による複合微生物群集の解析は非常に興味深い技術である。 ○ 興味ある趣向開発が少しはある。 ○ 世界の先端を走る技術基盤の整備ができたことを評価する。消光法は、ユニーク でありこれからの活用分野が広がることが期待できる。つまり波及効果も大きい と判断される。 ○ 中間評価以後に行った研究としては、1)顕微蛍光分光法による微生物検出法の改 良、2)本法を応用した土壌からの新規微生物株の取得、3)土壌微生物から新し い蛍光タンパク質の発見がある。いずれの項目についても、世界をリードできる 成果であると評価する。 <問題点・改善すべき点> ● 組織化学的染色法というには、蛍光法に偏っている。その適用範囲にも疑問が残 る。 ● 考案されたそれぞれの方法は興味深く、異分野の研究者にとって参考になる部分 3-23 が多いものと考えられる。しかし、それぞれの方法は「ある生物に対して」特異 的なものが多く、一般的な方法への展開を図るのであればさらなる技術開発が必 要と感じられる。 ● EDTA を用いて細胞壁への透過性を改善したが、どれほど多くの菌に対して 有 効であるか立証されていない。 ● 生細胞と周辺 pH の同時測定においては土壌一般において適用可能か、追試が欲し かった。 ● 光学系、電気・電子メーカー等の民間の技術力をもっと活用する手だてがあった のではないか? 3.2.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 稀少微生物の取得法としては利用可能である。 ○ 本研究では新規な成果が得られており、この中から実用に適した方法論と研究対 象を選別し新たな目標を設定することで実用的な成果への結実が期待される。 ○ 自然界に存在している微生物を直接検出できる基本的な技術が確立でき、実用化 の目途がたった。 ○ 蛍光エステラーゼ法の改善法や pH 測定技術は実用面で展開しやすく期待がかかる。 ○ 興味ある要素を含んでいる。しかしまだ進化過程にある。 <問題点・改善すべき点> ● 本研究における生細胞と死細胞の判別技術の基盤は従来法の改良(あるいは条件 を整えた適用)と考えられるので、比較対照に使用するのは妥当だが独創的な展 開を図ることには困難が感じられる。そのような意味からも、研究対象の選別な ど今後の展開の基盤となる目標の再設定が重要と考えられる。 ● ロボット化によるオートマチックな採菌方法の開発が待たれる。コストの問題も 付随してくるだろう。 ● 顕微分光装置による複合微生物群集の解析はコスト面をクリアする必要がある。 現時点においては非現実的か? ● 中間以降の進歩がよく分らない。 3.2.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 特定組織を持つ微生物の検出に展開していって欲しい。 ○ 本研究で新規に開発した染色法(チトクロム添加法、他)などを基盤とした新規 な微生物検出技術の開発や応用例の集積などの展開が望まれる。 ○ 技法開発の面が強い分野であるので、光学系、電気・電子メーカー等の民間の技 術力をもっと活用することが重要と考える。 ○ 応用分野の狙いを絞った展開を望む。あまりに欲張るとよくない。 3-24 3.3 A-1-3:特定蛋白質遺伝情報による分子系統学的解析技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 16S rDNA より解像度の高いⅡ型トポイソメラーゼ遺伝子(TOP2)を用いた同 定技法を分子生態学的な微生物叢解析手法に導入し、コンソーシアの解析のみなら ず微生物の分類・同定における評価項目の一つとなることも考えられ、世界的にも 他の追随を許さない成果として高く評価される。 これらのデータベースが公開され研究者が広く利用できる仕組みを構築したこ と、結核病原菌の検出方法への適用例を示したこと等から、実用化に向けた成果が 出ていると評価できる。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 Ⅱ型トポイソメラーゼ遺伝子(TOP2)を用いた同定技法として PCR プライマー 等の設計などに重点を置き、解析手法が技術的に一般化されることを望む。 これらを用いたデータベースは、種の広がりに留意した拡充が望まれる。 幅広い波及効果をもたらすために、病原菌のみでなく、有用微生物、環境微生物検 出チップへの応用を期待する。 3.3.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 16S-rDNA に頼らない分類法を分子生態学的な微生物叢解析手法に導入したこと は今後の展開が期待できる基盤技術として評価される。 ○ 結核の原因となる菌種の検出方法の開発、その応用例など実用化に向けた成果も 出ており、一定の成果が得られている。 ○ 16S rDNA より解像度の高い gyrB を用いた同定技法はコンソーシアの解析のみ ならず 微生物の分類・同定における評価項目の一つとなることも考えられ重要 な技法である。 ○ 微生物株の gyrB 塩基配列の特定領域を用いたプローブを作成し、特定菌の検出が 出来る ようになったことはその菌の検出・分離に有効な手段となる。 ○ TOP2 を用いた系統解析、検出同定については従来 MBI グループの独創的なアイデ アに基づくオリジナル研究であり、世界的にも他の追随を許さない成果として高 く評価される。 ○ 真核生物についても top2 が、系統分類のマーカーになることを示したことは新規 なことであり高く評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 本研究の成果が複合生物系の研究全体にどれほどの貢献があるかは現段階では判 断がむずかしい。 ● gyrB の増幅に問題はないのか。多型は無いのか。類似な配列を有した遺伝子は無 いのか。 ● 系統別における PCR プライマー等の設計などに重点をおいた研究が望まれた。現 時点においてはこの技法が一般化できるかどうか(用いる PCR プライマーの種類、 増幅領域の設定等)の情報が曖昧である。 ● 同義置換、非同義置換のみによる系統解析での結果が具体的に欲しい。 3-25 3.3.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 16S rDNA と相補関係にある新たな分子生物学的分類手法となり得る。 ○ 結核の原因となる菌種の検出方法の開発の応用例など、既に実用に向けた成果も 出ており、この点について問題はない。 ○ gyrB のデータベースが構築され、公開されていることは、多くの研究者がこれを 広く利用できることで研究の進展につながる。 ○ 微生物種の識別に客観的な判断基準を提供できる技法として実用化が期待できる。 ○ 病原菌同定チップは開発成果を評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● さらなるデータの蓄積と普及。 ● 本研究で得られた成果が微生物の分類に関して独創的なものであることはわかる が、それが「各微生物の遺伝子レベルの個性」ではなく「(微生物の)分類学的な (あるいは遺伝学的な)系統」をどれほど明らかにしているのか、という点につ いては客観的な例証が少ないように感じられる。 ● ひとえに TOP2 に基づく解析法が技術的に一般化できるかにかかっている。 ● データベースの構築を急ぐべきである。 ● 一部の系統群については gyrB 配列の相同性と DNA-DNA 相同性との相関が得ら れていると思うが、今後より広い系統群について研究を展開し、情報を一般化し ていく必要がある。 ● 複合系という世界に先駆けた研究であり、これまでの分子分類学に新しい手法を 加えるという発想を基にした開発の試みがあってもよかったと思われる。 3.3.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 病原菌のみでなく、有用微生物、環境微生物検出チップへ応用していって欲しい。 ○ 本研究で開発している「特定蛋白質による分子系統的解析技術」が、複合生物系 の研究に大きな影響力をもった技術となるかどうかは今後の課題である。すなわ ち、 (微生物の)分類学的な(あるいは遺伝学的な)系統」に関して客観的な例証 が少ないように感じられるため、本研究を実施したグループだけの各論的方法に とどまってしまう可能性もあり、一般に普及する手法あるいは実用的成果への展 開に向けて新たな方向性を見出す必要が感じられる。 ○ 16S rDNA より解像度の高い gyrB を用いたデータベースの構築は重要となるで あろう。このデータベースにどれだけ種の広がりを持たせられるかが重要になっ てくる。また、伝統的手法で分類され、種として確立されている細菌との整合性 はどの程度あるのかも調べておく必要がある。 ○ これからはむしろ、TOP2 特定配列を用いた DNA マイクロアレイ技術への応用へ 期待がかかる。 ○ チップの開発を可能にし、結核菌用のチップを SRS との共同開発して、製品化も 近いことは非常に高く評価できる。 3-26 3.4 A-1-4:新規の認識ペプチド活用微生物検出法 【成果と実用化の見通しに対する評価】 新規な抗原認識ペプチドを生成したこと、抗原認識ペプチドを利用し特定の細菌 を蛍光顕微鏡を用いて簡便に検出出来るようにしたことなど、基礎研究としては成 果が得られている。 本検出法が複合生物系にどのように適用されるかの事例を示すことができていれ ば、更に良かった。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 本検出法の適用先を明確に設定する必要がある。例えば、病原性細菌や土壌中の 有用微生物の動態解析等を簡便に検出できる数多くの抗原認識ペプチドの開発と キット化が望まれる。 3.4.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 人工抗体作成法、環境中の特定微生物の検出法としては評価できる。 ○ 新規な抗原認識ペプチドの作成など新規な成果は得られている。 ○ 抗体と同程度の感度で細菌の抗原を特異的に認識できるペプチド分子を創成し、 発光色素との結合体にし、特定の細菌を蛍光顕微鏡を用いて簡便に検出出来るよ うにしたのは評価出来る。 ○ 試み自体はおもしろく技術的に高く評価される。 <問題点・改善すべき点> ● データの少ない微生物にどのように展開していくのか。多くの微生物を取り扱う には、手間がかかりすぎるのではないか。 ● 本研究の概要を見るかぎりでは、複合生物系を研究対象とした研究例がない。方 法論としての研究が中心であったことは理解できるが、複合生物系への応用には 至っていない。 ● ポリサッカライド系抗原(特に O 抗原)へのアプローチがあれば病原菌などの 簡 便な検出キットが開発できるのではないか。 ● H 抗原を標的とすることにより、何を目指そうとしたのか(どの分類学的、生物学 的レベルの菌を検出するのか)が不明瞭である。 ● RNA アプタマー等に対して多様性で有利とあるが、具体的な証拠はあるか? ● ファージディスプレイ法は、それほど新規なものではない。このような手法の 開発もこのプロジェクトで行うことの整合性がよく分らない。 3.4.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 性質の良く判っている微生物の検出には適用可能であろう。 ○ 新規な抗原認識ペプチドの作成など新規な成果は得られており、一般的な研究と しては実用への展開も期待できる。 ○ この知見と技術を利用してさらに多くの抗原認識ペプチドの開発が出来る。これ 3-27 により種々の菌を簡便に検出する幅を広げられる。 <問題点・改善すべき点> ● 環境微生物の解析には適用困難では。 ● 現段階では、複合生物系の研究に本研究の成果が積極的に応用されうるとは考え にくい。本研究を単に継続することには問題があり、複合生物系を対象とした研 究が順調に展開されるとは考えにくい。 ● 開発技法の用途開発についての青写真が不明瞭である。他の技法に比べ、開発に 時間やコストがかかる方法と思われ、しかも標的がフラジェリン合成菌のみに限 定される。本技法の有利な点が不明。 ● 特許出願との兼ね合いもあるが、誌上発表論文が少ない。 ● もう少し実用化のためには、倍率(検出効率)の上昇が必要と思われる。 3.4.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 情報の少ない、種類の多い、環境微生物の簡易検出法の開発が望まれる。 ○ いろいろな病原性細菌を簡便に検出できる数多くの抗原認識ペプチドの開発 キット化が望まれる。 ○ もし本技法の標的を明確にできれば実用化が加速される可能性がある。 ○ これ以上は他の課題とした方が適切と思われる。 3-28 と 3.5 A-2-1:新規分離・培養技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 海洋生態系における海生菌とバクテリア共存系であるラビリンチュラ科海生菌 の混合培養により、ドコサヘキサエン酸(DHA)の生産性を高めたことは、新規 な方法であり評価できる。 実用化を考えると、従来の従来の真菌を用いた発酵法と比較して生産能力や培養 方法の容易さ、生産コストなどが比較の基準となる。しかし、現状では、事例がほ とんど示されていないので、明確な評価はできない。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 実用化を考えた場合は、有用菌と共存菌の最適バランスを維持できる大量培養技 術の確立を早急に行う必要があること、DHA の生産コストの試算を行い、従来技 術によりも安価に製造できるか否かの判断を行うことが必要である。 3.5.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 分離培養の困難であった菌の大量培養法の確立は高く評価できる。 ○ ラビリンチュラ科海生菌を対象として、従来は困難であった分離と培養を可能に するとともに、DHA の生産などへの実用的成果に向けた展開が図られたことは大 きな成果である。 ○ ラビリンチュラ科海生菌の生育が、ある種のバクテリアによって促進されること は既知のことであり、またこれらの菌がDHAを生産することも知られている。 しかし、2菌の混合培養によりDHAの生産性を高めたのは従来の発酵法には無 い観点からのアプローチと判断するため評価できる。 ○ 当初の目標を達成できた、あるいはそれ以上の成果として、ラビリンチュラ共生 系を用いた混合培養技術の開発が高く評価できる。これからの工業的発酵培養技 術に大きな影響を与え得る成果である。 ○ 新規な分離法の開発は評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 難分離で未利用の海生菌−バクテリア共存系のモデルとしてラビリンチュラ科海 生菌を扱い、バクテリアを共存させることで分離源からの分離・培養が可能とな った。但し、バクテリアが共存する必要性に関する分子的な解析と考察が不足し ている。 ● 「培養困難であった微生物(ラビリンチュラ科海生菌等) 」の分離や培養に関する 方法論が一般化されるような取り組みにも期待したい。 ● 現在市場にでまわっている DHA の価格より安く生産できなければ商業ベースに 乗らない。それを凌駕するほどの生産量をあげる必要がある。現在の発酵法で十 分採算がとれるのか。 ● 共生系の保存、安定性、管理技術に関する情報がもう少しほしい。 3.5.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> 3-29 ○ 有用だが培養の困難であった菌の大量培養法を確立して有用物質生産の道を開い た。 ○ 新規な DHA 生産菌や抗菌活性物質生産微生物が取得されており、これらを利用 した実用技術への展開とその評価が本プロジェクト全体にとっても今後の大きな 課題となる。ただし、生産菌の候補が得られているとはいえ本研究は萌芽段階に あると考えられ、真の意味での生産性評価などは今後の展開にかかっている。 ○ 共生培養系については、安定化技術と保存技術が確立すれば産業的応用が期待さ れる。 <問題点・改善すべき点> ● 実用面では、従来の DHA 生産菌との生産能力の比較や培養の容易さなどが比較 の基準となろう。したがって、新たな生物資源(利用可能な生物)としての培養 法の確立や生産能力の維持方法などが大きな課題となろう。 ● 真菌を用いた発酵法による方法と、ラビリンチュラ科海生菌による方法で、不飽 和脂肪酸の生産性を比べてみる必要がある。 ● 保存、管理培養技術の進展が望まれる。 ● 大量培養技術の開発が急務であり、これができるかどうか不明の状態では、あま り実用化への期待はできない。 3.5.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 今後、基礎的には共存微生物の必要性の理解、実用的には有用菌と共存菌の大量 培養技術の確立が重要。 ○ 本研究についての今後の展開を考えた場合、複合生物系ではなく単離菌について の研究が主体となることも予想される。しかし、これも「複合生物系」から得ら れた成果であることを共通認識として、 「培養困難であった微生物の培養技術の確 立」との観点から積極的に進めるべき課題と考えられる。以上に述べた本項目の 内容は、本研究グループに対する問題ではなく、研究テーマの許容性の問題にな るが、あえて記述するものである。 ○ 大量培養法の工夫が必要である。 (あるいは遺伝子の分離により他の菌での生産を 工夫する必要がある。) 3-30 3.6 A-2-2:培養困難な微生物の検出と分離・培養技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 難分離・難培養性微生物の分離法と培養法に関して、極めて独創的かつ新規な方 法論が確立されたことには大きな意義がある。とくに、ゲルドロップ・フローサイ トメトリー法(GMD法)が開発され、複合系に存在する微生物に適用し、実際に 新規な細菌が単離されたことは評価に値する。また、VBNC*1と考えられてい た一部の菌をカタラーゼ処理により蘇生可能とすることも新しい微生物の取得に つながる知見である 本方法に関しては、方法論として有用性は明らかにされているため、多方面への 展開が可能であり、新規微生物の取得に大きく貢献できると期待する。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 今後は、汎用化を目的として、大学・国研・民間企業などの専門家が容易に使用 できるような、比較的安価な専用機器の開発、周辺機器の開発を行うことが必要で ある。 基本特許を有するので、プロジェクトの重大な成果の1つとして広く公表すべき である。VBNCとされている菌の培養化できる要因を解明できるような研究を期 待する。 *1 VBNC(Viable But Non-Culturable)本来培養可能な細菌が、その活性は確認され ているものの、何らかの理由(飢餓状態や塩ストレスなど)で培養ができない生理状態(休眠 状態)になっていること。 3.6.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 難培養微生物の新規取得法・培養法の新規技術として極めて重要な成果が得られ ている。 ○ 難分離・難培養性微生物の分離法と培養法に関して、極めて独創的かつ新規な方 法論が確立されたことには大きな意義がある。とくに、ゲルドロップ・フローサ イトメトリー法が開発され、実際に新規な細菌が単離されたこと(実効的な証明 に至っていること)は高く評価される。また、基幹的な方法論は知的所有権を主 張する上で最重要な要素であり、そのような観点からも本研究の成果は極めて高 く評価される。 ○ 複合系に存在する微生物をGMD法により個々に分けることにより培養困難な菌 を培養化を可能にした技法はすばらしい。また、VBNCと考えられていた一部 の菌をカタラーゼ処理により培養可能にした知見も新しい微生物の取得につなが る知見である。 ○ 一つの細胞をゲルに包埋するゲルマイクロドロップ法は従来にない技術として 高く評価できる。VBNC 細胞の蘇生技術も、従来の VBNC 研究に一石を投じた新しい 現象や方法として評価できる。 ○ 世界に先駆けた成果であり、高く評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 研究の前提として分離困難の定義を明確にする必要があった。 ● ゲルマイクロドロップ法のプロセスが当事者では高く評価されているが、study 3-31 design が悪く、その意義を押し出せていない。培養困難な基準として NB 培地によ るふるい分けが行われているが適切でない。自然界の細菌の多くは NB 上で生育し ないが、一般的に合成培地、貧栄養培地、自然素材抽出液などで培養可能である。 NB 培地や酵母エキスに生育阻害物質が含まれていることも既知の事実である。物 理化学的培養条件の検討も詳細に行われていない。デキトストリンの効果が何に よるものかより明確にすべきでり、単に阻害物質のマスキング効果ということで あれば、研究としては的外れである。培養困難な細胞をゲルの中で生育させるこ とに意義が置かれるべきであった。 ● 培養困難な細菌については、2者以上による共生的増殖、ヒートショックによる 増殖復活、基質濃度勾配による増殖等のアプローチも必要であろう。 ● 実用的な普及型の装置を開発する。 3.6.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 難培養微生物の新規取得法・培養法の新規技術として今でも実用化可能。 ○ 難分離・難培養性微生物の分離法と培養法については、すでに方法としての有用 性は明らかにされているため、多方面への応用が可能であり、新規な成果が連続 的に得られることはほぼ確実なものとなっている。本方法の汎用化を目標とした 専用機器の開発、周辺技術の開発、本方法を適用した希少微生物(遺伝子資源) のライブラリー作成など、実用的な成果も着実に得られることが確信される。 ○ 新規微生物の取得に道を拓く新しい技術である。 ○ ゲルマイクロドロップ法の展開や VBNC 細胞の復活培養技術の実用化に期待がかか る。 ○ これは次の課題と言うことになろうが基本的な特許を持っているのであるから海 外も含め普及型の装置の開発に力を入れて欲しい。 <問題点・改善すべき点> ● フローサイトメトリーなど使用機器は高額であることから、実際にこの方法によ って微生物の分離が実施できる大学の研究室や研究機関、企業の研究室は限られ たものになるであろう。それは欠点ではないが、広く普及しうる汎用法あるいは (比較的安価な)専用機器が開発されることによって、本研究の成果はより広く 世界に浸透するにちがいない。それによって、本プロジェクトの存在感と成果を 強くアピールすることも重要と思われる。 ● ゲルマイクロドロップ法の用途開発が不十分であり、明確な意義付けや一般化を 行う必要がある。NB 培地以外でのふるい分け、ゲル内増殖などの試み等が必要。 3.6.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 技術のさらなる改良と低価格化。 ○ 本研究の成果は基幹的なものであり、その独創性と優位性を世界に向けて強くア ピールすること、そして知的所有権を保護しながら強く主張していくことも極め て重要である。 ○ 開発されたゲルドロップ・フローサイトメトリー法により単離された微生物のす べてが細菌(原核微生物)であるため、本法が細菌だけに限定される方法との見 3-32 方をするむきも多い。原理的には酵母や糸状菌などの真核微生物の分離も可能な はずであり、適用範囲の拡大を意識したスクリーニングが行われ、希少あるいは 新規な真核微生物が単離されそれらが産業に資することにも期待したい。 ○ この技法を用いて、VBNCとされている菌の培養化できる要因を解明できるよ うな研究を期待する。 3-33 3.7 A-2-3:3次元マトリックス内培養法 【成果と実用化の見通しに対する評価】 培養困難であった海洋生物(カイメンおよび海洋微生物)に対して、ナイロンネ ットやスポンジに微生物吸着が起こることを確認し、培養方法、濃縮分離の方法を 確立したことは、高く評価される。特に、海中にいる菌の濃縮方法は、実用化の目 処が立ったと言える。 共生関係、マトリックス内の分布、スポンジへの吸着等の現象の科学的解明など については、未実施である。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 今後は担体(3 次元マトリックス)内やスポンジ内における、微生物の分布解析 等を実施し、集団としての構造解析・機能解析に進んでほしい。 3.7.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ マトリックスあるいは固体表面を意識した新しい取り組みであり、新規知見も得 られている。 ○ 培養困難であった海洋生物(カイメンおよび海洋微生物)の培養方法を確立した ことに大きな意義がある。ナイロンネットや人工スポンジを利用した培養など地 道な研究も成果をあげており、基礎研究の成果は高く評価される。 ○ カイメンの種類により常在微生物群が異なることを見いだしたのは興味深い。 ○ 通常の方法で分離した菌とクローンとしてみた 16S rDNA 塩基配列とが異なるこ とを見いだし、VBNC菌が常在していることを見いだしたのは新知見である。 ○ ナイロンネットやスポンジに微生物吸着が起こることを確認し、濃縮分離の道を 開いたことは高く評価される。 ○ スポンジの利用は、動物細胞(肝細胞など)でも試みられ成功を収めている。 ここでも成功を収めたことはスポンジ法の有用性を確証するもので評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 共生関係、マトリックス内の分布、スポンジへの吸着等の現象の科学的解明にあ まり手がつけられていない。 ● 研究内容は新規なものであるが、成果をさらに集約し、独創性のある考え方や方 法論を明瞭にアピールできるようにするべきである。 ● VBNC菌の単離と培養化を他の研究グループが開発した手法を用いて試みてほ しい。 ● 3次元マトリックス法では用いる素材の種類を拡大して試験。たとえば比較的生 分解性が弱い PLA 等を用いた生分解性プラスチックの適用ができたのではない か。 ● スポンジの材質の評価も必要であったと思われる。 3.7.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 自然界の微生物叢を容器内等にトラップする技術として将来性有り。 ○ ある面では本研究は応用研究のための「基礎固め」の部分であり、実用的な成果 3-34 を求めるには未だ萌芽的な段階にあると考えられる。本研究による方法によって のみ培養可能な生物群から、どのような有用物質を発見できるか、あるいは有用 技術を生み出すかは今後の進展に委ねられている。 ○ 開発した、海水中にいる菌の濃縮方法は、実用化の目処が立ったと言える。 ○ 実用化の見通しは高い。 <問題点・改善すべき点> ● 有用微生物群の取得、解析をする必要がある。 ● 濃縮分離に使用できる材料系の開発や吸着機構の解明が急がれる。 3.7.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ マトリックス内、スポンジ内における微生物の分布の解析等から、この集団の構 造・機能解析に進んで欲しい。 ○ 未知の微生物資源の有効利用に関する成果を期待したい。 ○ VBNC菌の培養化に向けた研究とその応用面の開発研究への展開を期待する。 ○ 動物細胞での利用を見ながら開発方向を定める必要がある。 3-35 3.8 A-3-1:特定複合微生物系等の in situ での検出、分離、機能解析技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 複合微生物を利用した機能スクリーニングの方法が開発され、とくに自動化装置 (ロボット)による方法が構築されたこと、また、この方法を利用して新たな生理 活性物質の検索に成功したことは高く評価される。今後は、共生微生物や複合微生 物自体の検索と分離に応用することも可能と考える。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 複合微生物探索の安定化と自動化システムの普及を図ることを期待する。そのた めには、小型化、低価格化が是非とも必要である。 開発した方法を応用して、広く「複合生物系機能物質(群)」とでも呼称すべき 有用物質を集中的に探索・分離するプロジェクトを別働させて国の支援する体制で 行うことは重要である。その可能性についても検討していただきたい。 3.8.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 自動化システムを構築し、新規生理活性物質の検索に有効であることを示した。 ○ 複合微生物を利用した機能スクリーニングの方法が開発され、とくに自動化装置 (ロボット)による方法で新規抗生物質が得られたことは高く評価される。 ○ 混合培養系をロボット化し、多様な混合系を作り出しそこからリード化合物を探 索する系を構築し、成果が得られたことは新たな培養法の開発につながる。 ○ 複合微生物探索のための自動化システムの開発を高く評価する。 <問題点・改善すべき点> ● 自然生態系を意識するともっと良い。 ● AFM 技術が複合微生物系の解析にどの程度有用なのか明確でなかった。 ● アッセイ系、探索系のスクリーニングロボットは医薬メーカー等の民間レベルで はごく当たり前の装置として常備しており、これらに対してどの程度の優位性を 持つのか今一つ明確でない。 ● 混合培養系の探索システムとして、医薬を対象にする事はある程度の理解はでき るが、ここでは系の確立にとどめておくべきであったように思われる。つまりこ の時間スパン及び混合培養系の複雑さと不安定さを考えると必ずしも適切ではな いように思われる。むしろ複合系を安定化させる物質などの検索をやって欲しか った。 3.8.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 自動システムによる効率的システムが構築されている。 ○ すでに実用的な成果が得られている。今後は、コンビナトリアル・スクリーニン グ法の最適化を図ることによって、多種多様な有用物質が得られることが確信さ れる。また、同様の手法を共生微生物や複合微生物自体の探索と分離に応用する ことも可能と考えられる。 ○ 釣菌やアッセイを自動化したことならびに混合培養をロボット化したことは評価 できる。 3-36 <問題点・改善すべき点> ● 普及のためには小型化、低価格化が望まれる。 ● 微生物の自動釣菌システムの向上の必要がある。 ● 既存のアッセイ、探索技術に対してどの程度のメリットを示すことができるかが 必要。 ● 医薬系物質の実用化は時間のかかるものであり、また目的からしてこの課題で実 施することは必ずしも適切ではなく、実用化はまだまだ見込みは立たない。 3.8.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 様々な環境下において、微生物集団中の微生物が単独または協同で生産する物質 および機能の展開を大々的に展開して欲しい。 ○ 本研究(現段階)では抗生物質などの医薬品リード化合物に特化した研究が行わ れたが、検出方法の交換によって酵素やさらに多様な生理活性物質、未知の代謝 産物など多種多様な新規物質あるいは新規生物機能の開発が期待できる。したが って、この方法を応用して別の生物機能を追及する研究グループを別働させて、 広く「複合生物系機能物質(群)」とでも呼称すべき有用物質を集中的に探索・分 離することも重要であり、そのような可能性についても検討していただきたい。 ○ 混合培養系の有用性・有効性を広めるような研究開発が望まれる。 ○ 複合微生物探索の安定化と自動化システムの普及型を図ることを提言する。 3-37 3.9 A-3-2:微生物コンソーシア解析技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 活性汚泥や産業廃水のバルキングの原因となる微生物を蛍光色素を用いて可視 化して検出し、さらに新規な DNA 技術によって定量可能な段階にまで発展させた ことは大きな成果である。産業廃水処理の効率化を可能にする技術が確立されう る。 実用化を考えると、分析用サンプルの保存方法やコンピュータを利用した数値解 析技術、画像処理技術などの開発が必須であろう。また、活性汚泥全体の微生物を モニタリングできる研究の実施も必要である。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 活性汚泥は、処理材料や地域による差が大きいと考えるので、さらに研究を多方 面に発展させるべきである。 3.9.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 活性汚泥中の特定微生物の検出定量を可能にした。 ○ 活性汚泥や産業廃水のバルキングの原因となる微生物を可視化して検出し、動態 を目に見える形で検討し、さらに新規な DNA 技術によって定量可能な段階にま で発展させたことは大きな成果である。明確な研究方針が簡潔かつ有用な成果を 生み出したことも、理想的な研究展開であり、高く評価される。 ○ バルキングの原因菌を特定したことやその種別の判定に蛍光色素を用いて目視化、 定量化したことから研究目標を達成したことは評価できる。 ○ バルキング原因菌を分類学的に特性評価できたこと、現場での動態に関する技術 を開発したことは評価に値する。また QP-PCR は魅力ある技法で、用途開発が期待 される。 ○ 活性汚泥の微生物叢の研究に新機軸を出したことを評価する。特に Eikelboom type 021N のモニタリング手法の開発は評価が高い。 <問題点・改善すべき点> ● 微生物機能(動態)の追跡技術となっていない。 ● 活性汚泥全体の微生物を解析できたなら、バルキングの原因がより明快に説明さ れると考えられ、系全体にいる微生物のモニタリングも考える必要がある。 ● バルキング原因菌の population dynamics に関する定量的知見を目指した研究ア プローチができたのではないか。 3.9.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 活性汚泥の沈降性等、特定微生物の存在によっておこる現象の診断が可能になる。 ○ 活性汚泥や産業廃水のバルキングの原因菌(Thiothrix eikelboomii)Eikelboom type 021N などを特定しており、産業排水処理の効率化を可能にする技術が確立 されうる。実用化に向けての研究展開から、基礎的な面にフィードバックされる 3-38 新規な知見も数多く得られていくものと期待される。 ○ バルキング原因菌を短時間のうちに定量化でき、モニタリングが容易になった。 ○ 実用化の見込みは極めて高い。 <問題点・改善すべき点> ● 活性汚泥法による廃水処理のバルキング対策を考えた場合、ある微生物がそこに 「存在」するかどうかだけでは診断できない問題をどうするか。 ● この分析には高度な知識と高価な装置が必要なことから現場サイドでのモニタリ ングは難しいのではないか。分析依頼をする場合は、サンプルの変化を極力防ぐ ような輸送方法・保存方法を検討しておくことも必要。 ● コンピュータを活用した数量解析技術、画像処理技術、プログラム開発などが実 用化に向けては必須であろう。 3.9.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 活性汚泥中の主要微生物の生理的状態のモニタリング技術の開発が必要。 ○ 新規な QP-PCR 法や簡便なバルキング原因菌検出技術が実用化に向けて検討中と 仄聞している。これらの開発型研究によっても新規かつ重要な研究成果が得られ ることは明らかで、新展開が大いに期待できる。 ○ 特定微生物に関する予測微生物学の研究が必要と思われる。 ○ この成果を他の活性汚泥についても検討することを提言したい。活性汚泥は、 処理材料や地域による差が大きいと考えるので、さらに研究を多方面に発展させ るべきであると提言する。 3-39 3.10 A-3-3:海洋環境適応機構の解析技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 海洋微生物を対象として、薬剤(コロールミシン)添加による新規微生物の単離 法の開発は評価できる。機能を目的とした微生物探索との組合せによって新規な有 用物質が得られる可能性がある。但し、実用化を考えた場合、さらに広い範囲で海 洋微生物全般を対象とした検討が必要と考える。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 今後は、海洋環境適応機構の広範な理解の方向に向かって欲しい。 3.10.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 海洋微生物の生理学の面からは成果がある。 ○ 海洋からの新規微生物の単離法に有効性がある。 ○ 海洋微生物を対象として、薬剤(コロールミシン)添加による新規な単離方法が 開発されたことは意義深い。 ○ コロールミシンの作用機序を明らかにし、その知見をもとにコロールミシン非感 受性菌群を選択分離する方法の開発は評価できる。 ○ コロールミシンの作用機構に関する知見に関しては評価できる。 ○ 海洋微生物コンソーシアの選抜法の開発は、評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 特定の化合物の特定の機能を利用したものであり、限られた範囲の成果となって いる。海洋微生物一般への展開が必要。 ● 得られた成果が複合生物系の解析あるいはその利用に大きく貢献するものとは考 えにくい。すなわち、実際に行われた研究は従来の微生物単離技術と考え方が大 きく異なるものではなく、実際に解析している対象も単離微生物であって、とく に新規性があるとは考えにくい。 ● 難培養化しているカイメン共生α-proteobacteria の単離と培養化の検討が望まし い。 ● 複合生物利用に向けた要素技術の開発の主旨とコロールミシンの作用機構の研究 の間にギャップがあり、study design としては失敗の感がある。 3.10.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 海洋由来の微生物をより幅広く取得できるようになった。 ○ 機能を目的とした微生物探索との組み合せによって新規な有用物質が得られる可 能性がある。 ○ コロールミシンを用いた特定菌群の選択分離は実用化の目途がたったことが評価 できる。 ○ 実用化の見込みは高いと思われる。 3-40 <問題点・改善すべき点> ● 実用化を考えた場合、さらに広い範囲で海洋微生物全般を対象とした検討が必要 と考える。 ● 単離された微生物の中には新規なものが含まれていることが予想される。しかし、 その実態は未解明なため生物資源として活用可能かどうかは現段階では判断しに くい。 ● 研究当事者も指摘しているようにコロールミシンの供給体制が確立されなければ 実用化は難しい。 3.10.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 海洋環境適応機構の広範な理解の方向に向かって欲しい。 ○ 今後も同内容の研究が継続されるとしても、現段階では何を目標とした海洋微生 物探索を行う予定なのかが不明なため、方向性について述べることは評者にはで きない。 ○ わが国は海洋国であり、さらにこの分野の研究の発展を期待する。 3-41 3.11 A-3-4:溶媒耐性機構の解析技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 石油分解菌の有機溶媒耐性細菌 Rhodococcus rhodochrous S-2 株の作る細胞外 多糖(EPS)が有機溶媒耐性に有効であることや石油分解に有効であることを示し た点は評価できる。また、溶媒耐性石油分解菌の耐性機構の解明をしたことも評価 できる項目である。 in situ での応用を考えるとより、高濃度の炭化水素に対して耐性を有するか、 または、より高い分解能を有する菌種の獲得が必要である。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 対象微生物が、この分野で頻度よく見つかる Rhodococcus のみを対象にしてき た事は得られる成果の幅が少なかったように思われる。今後は、さらに実用的な微 生物叢の活性化等による石油汚染の処理に関して幅広い(菌種、方法など)研究展 開を望む。 3.11.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 細胞外多糖が有機溶媒耐性に有効であること、石油分解に有効であることを示し た。 ○ 有機溶媒耐性細菌 Rhodococcus rhodochrous S-2 株について、細胞外多糖(EPS) が細胞の保護効果を示すことで溶媒耐性に寄与するとの知見を得るなど新規な成 果が得られている。また、石油分解における微生物コンソーシアへの EPS の添加 促進効果が検討されたことにも意義がある。 ○ 細胞外多糖(EPS)の炭化水素分解への寄与を明らかにした。特に、EPS を添 加する事により海洋性多環芳香族分解菌 Cycloclasticus 属細菌の優占化を認めた ことは興味ある。 ○ ポリン変異や EPS の存在と溶媒耐性との関係を見いだしたことは高く評価される。 ○ 溶媒耐性石油分解菌の耐性機構の解明の重要性は明らかであり、その成果はある 程度評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 溶媒耐性の研究が細胞外多糖に限定されている。 ● 石油分解における微生物コンソーシアに関する新規な知見は得られているが、こ れが自然界における微生物生態を理解する上で重要な現象であるかどうかは現時 点では判断できない。 ● 高濃度な炭化水素に対する耐性または分解促進の研究が必要である。 ● コンソーシアや複合系における EPS の存在意義についてはどうであったのだろう か。 ● 対象微生物が、この分野で頻度よく見つかる Rhodococcus のみを対象にしてきた 事は得られる成果の幅が少なかったように思われる。 3.11.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> 3-42 ○ 本研究は開発型の研究ではなく、石油分解における微生物生態の把握が中心的な 課題と判断されるため、実用化に関する肯定的意見は不要と判断した。 (無理に実 用化を目標とすることは避けるべきである。) ○ EPSの添加による炭化水素分解促進効果の確認は、分解菌の探索と相まって実 用化に近づく。 ○ ある程度の評価ができる。 <問題点・改善すべき点> ● 微生物の生産する細胞外多糖を石油汚染に利用できる可能性は少ない。 ● EPS の添加が微生物コンソーシアの増殖に促進効果を有することを見出したこと は評価される。しかし、実験条件での EPS 添加濃度は 100μg/ml と実用的な使用 濃度に比較して高いことから、石油バイオレメディエーションへの促進剤として 利用するとの計画は現実的ではない。また、当初の目標の1つであった「原油汚 染現場で生育可能な(原油分解)微生物コンソーシアの構築」には至っていない と判断されるため、この課題の解決が優先されるべきである。 ● EPSの生産性と炭化水素分解との間に相関関係があるとしたら、EPSを多量 に生産する株などの育種または取得が必要になる。in situ での応用を考えるとよ り、高濃度の炭化水素に対して耐性かより高い分解能を有する菌種の獲得が必要 である。 ● EPS の意義や構造解析に関する研究を進める必要がある。 ● 用いた菌種が少なかったように思われる。 3.11.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ さらに実用的な微生物叢の活性化等による石油汚染の処理を考えていって欲しい。 ○ 得られた成果をもとにして、自然界における石油分解に貢献しうる実践的な研究 が展開されるべきである。 ○ 幅広い(菌種、方法など)研究展開を提言する。 3-43 3.12 A-3-5:微生物コンソーシアの多様性解析技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 16S rDNA より解像度の高い gyrB 塩基配列を用いた PCR/TGGE 解析により石 油分解コンソーシアの菌の多様性を精度よく明らかにした。また、TGGE/DGGE 法のプローブを開発したことは、gyrB 遺伝子の複合系解析適用の成功例として高 く評価される。 PCR/TGGE の定量性の明確化、プライマー設計や技法の一般化に関する研究な どが同時に行われることが望まれた。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 今後は、さらに多くの菌種の gyrB データベース構築を行うことが必要である。 また、プライマー設計など基礎的な方向を目指した研究を目指して国が支援するこ とが必要である。 3.12.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 16S rDNA に替わり得る TGGE- DGGE 法のプローブを開発した。 ○ 細菌の gyrB 遺伝子を使用した新しい系統分類法を考案し、16S rDNA による方法 以上の解像度で細菌の検出に成功している。 ○ 16S rDNA より解像度の高い gyrB 塩基配列を用いたTGGEによりコンソーシ アの菌の多様性を精度よく明らかにした。 ○ gyrB 遺伝子の複合系解析適用の成功例として高く評価される。 ○ 多様性の解析に TOP2 と TGGE/DGGE の組み合わせを採ったことはある程度評 価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 「機能解析を意図したコンソーシア解析」との表現は本研究で行われた内容に比 較して大きすぎる概念である。 (もしその内容を字義通りに理解したとすれば)本 研究の成果は到底そのレベルには至っていないことが明らかで、適切な表現に修 正した方が誤解は少ない。また、本研究全体としても多様性解析技術が確立した とは考えにくく、複合生物系の研究に新規な方向性を与える成果は少ないと判断 される。 ● gyrB 塩基配列を用いたTGGE法の定量性がどのくらいあるのか疑問である。 ● プライマー設計や技法の一般化に関する研究が同時に望まれた。 ● TOP2 と TGGE/DGGE の組み合わせ以外の広い展開が必要だったように思われ る。 3.12.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 16S-rDNA 法より詳細な系統樹が書ける。 ○ 個別的にあるいは各論的には新規な成果はあるが、それが実用を目指す出発点と なるかどうかは現段階では判断しにくい。 3-44 ○ 微生物コンソーシア構成細菌の解明には有効であり、実用化が期待される。 ○ gyrB 遺伝子配列を利用した解析技術の応用が期待できる。 ○ 直ちに実用化できる部分がある。 <問題点・改善すべき点> ● データの蓄積。研究者への普及。 ● DGGE 解析などで改良点があり有効なデータも示されているが、それをもって実 用に向けての研究が進展するとは考えにくい。プライマー設計などの考え方にも 新規な点はあるが、それが複合生物系あるいは他分野の研究において大きな発展 に結びつく基盤的な研究内容とは考えにくい。 ● さらに多くの菌種の gyrB データベース構築が必要。 ● データベースやプライマー設計など支援研究・事業の充実にかかっている。 ● もっと幅広いアプローチを期待する。 3.12.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 16S-rDNA には膨大な蓄積データ、先行技術の優位性があるが、国産技術として 今後も努力して、データの蓄積・技術の開発に努めて欲しい。 ○ 本研究の成果を発展させるためにはより基礎的な方向での研究が必要とされるこ とが明白で、複合生物系の1テーマとして扱うと制約が大きくなり自由な展開が 阻まれる危険性が高い。したがって、 (可能であれば)より基礎的な方向を目標と した別のプロジェクトでの展開が望ましい。 3-45 3.13 B-1-1-1:微生物コンソーシア培養制御基盤技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 リン処理活性汚泥の活性(微生物コンソーシア)を保ったまま保存する方法につ いて糸口を見つけたことを評価する。また、生物試料の簡易保存法としてアセトン 法は非常に興味深い技術であり、簡便ながらその開発は高く評価される。 -85℃冷凍保存に関しては、多くのコンソーシアに適用した用途開発研究の展開 が望まれた。また、溶媒の組合せなどを試みて、活性保持率を上げる努力が必要で ある。一方、アセトン法は遺伝子保存法として期待がかかる技術であるが、再現性、 信頼性が得られればすぐに実用化できる。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 多くのコンソーシアに適用し、各種溶媒の組合せも考えて、活性の保持率を 60% 以上にする試みを望む。用途開発の視点からは、活性汚泥からの資源回収、例えば 将来枯渇するリン酸肥料回収など、に応用してほしい。今後は、例えば NBRC の ような機関で国家的戦略として遺伝資源の確保に尽力する必要がある。 3.13.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ コンソーシアの保存・復帰技術として、基礎的な部分を確立した。 ○ 複合系でのジーンバンク機関(生物遺伝資源を収集,保存,配布する業務の総称 のこと)としての保存手法の糸口が見いだされた。-85℃冷凍保存は簡便な方法で あり、必ずしも専門性の高くない機関でも採用可能である。生物保存であるアセ トンも同様である。 ○ アセトン法は非常に興味深い技術であり、簡便ながらその開発は高く評価される。 ○ リン処理活性汚泥の活性(微生物コンソーシア)を保ったまま保存する方法につ いて糸口を見つけたことを評価する。 <問題点・改善すべき点> ● 多くのコンソーシアに適用し、微生物叢およびその機能保存の解析をして欲しか った。 ● 標準化には課題が多い。A1-1 の分子遺伝学・組織化学的手法による解析技術で、 種々のコンソーシアを解析しつつ、この研究を実施してほしい。 ● 本研究は NITE のような組織的なジーンバンク機関の中で実施するのが望ましい。 ● 標的試料を拡げた用途開発研究がもっとほしかった。 ● アセトン法の信頼性、再現性に関する実証データがほしい。 ● 各種溶媒の組み合わせも考えて、活性の保持率を 60%以上にする試みを望む。 ● 昆虫についての試みが少ないことと昆虫に於ける共生の概念を考慮した試みが少 ないことは特徴をあまり考慮していないと思われる。 ● まだモデル系の段階であり、広く多くの研究者に使ってもらい、その効果を確認 する必要がある。 3.13.2 実用化の見通しに関する評価 3-46 <肯定的意見> ○ 簡便な方法によるコンソーシアの保存・復活を成し遂げた。 ○ 活性汚泥からの資源回収、例えば将来枯渇するリン酸肥料回収など、に応用して ほしい。 ○ アセトン法は遺伝子保存法として期待がかかる技術である。再現性、信頼性が得 られればすぐに実用化できる。 <問題点・改善すべき点> ● 本復活法の適用範囲と保存中の微生物叢解析および機能解析が不十分。 ● あまりにも検討ケースが少ない。多くの研究機関に同時に提案型で検討するよう な仕組みがほしい。 ● 実用化の見通しは、かなりあるがまだ活性の 60%しか保持されていないことから、 モデル系を実用系に高める必要がある。 ● 溶媒の組み合わせなどを試みて、活性保持率を上げる努力が必要である。 ● 昆虫のような共生系についての効果・保持率の実態などをもう少し改良する必要 がある。 3.13.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 本復活法に於ける微生物叢解析・さらには微生物の生理状態を広く追跡して欲し い。 ○ 提案であるが、大学、専門学校などの学生実習のテーマに予算を配分し、包括的 に保存系を検討させるようなコストが掛からず、そして総合的に検討することが できる技術開発体制を期待したい。 ○ 各遺伝資源を保存している民間を含めた機関に予算を配分して、データーベース を作るような組織的対応が必要であろう。NITE に期待したい。 ○ 保持率の向上を図る必要がある。 ○ 国家的戦略での遺伝資源の確保に尽力する必要がある。NBRC に期待する。 3-47 3.14 B-1-1-2:環境調和型油水分離ポリマー生産微生物コンソーシアの利用技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 蛍光消光を利用した特定遺伝子の検出技術手法は、オリジナル性も高く連続装置 までに仕上げた功績はすばらしい成果である。複合微生物系による物質生産の例を 示した点でも評価できる。また、この方法は簡便であり、コンソーシアを利用した 有用物質生産系には応用範囲が広いため、早急に国産普及型を作製し、普及させる べきである。 実用化のためには、複合微生物系を用いる物質生産に当たっての制御ファクター 抽出、自動化の方法や、再現性、信頼性、適用範囲等が解決すべき問題点として残 されている。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 純国産技術であることを認識し、検出技術手法は、小型化・低価格化の方法を探 り、早急に国産普及型を作製し、わが国の得意分野である微生物の利用に広く役立 てるような方策が望まれる。また、機能性プローブを用いた新規遺伝子解析技術を 用いた技術開発が望まれる。 3.14.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 新規原理による遺伝子検出法を開発した。 ○ 複合微生物系による物質生産の例を示した。 ○ 本技術の中心となるモニタリング手法は簡便であり、コンソーシアを利用した有 用物質生産系には応用範囲が広い。またオリジナル性も高く連続装置までに仕上 げた功績はすばらしい成果である。 ○ 蛍光消光を利用した特定遺伝子の検出技術の開発は高く評価できる。 ○ 蛍光消光法の開発を高く評価する。 <問題点・改善すべき点> ● 連続培養過程でのモニターデーターと培養条件、生産能力低下データとの関連に ついても記述がほしい。 ● モニタリング装置開発をテーマの主眼に置いたのなら仕方ないが、学術的な応用 例として記載してほしかった。研究秘密なら仕方ないが、特許出願しているのな らば、選ばれ、貴重な研究資金を導入してもらった研究者の説明責任として分科 会の報告の中で公表してほしい。 ● 自動化、再現性、信頼性、適用範囲等クリアしなければならない課題がある。 ● 蛍光消光法を普及するための広報活動や普及型の開発する必要がある。 ● 油水分離ポリマーについてその効果を的確に示す必要がある。 3.14.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 遺伝子検出法は国産技術として早急に普及されるべきである。 ○ 応用範囲は広い。実用化を期待したい。市販を考えてほしい。 3-48 ○ 応用の可能性は広く、国産普及型を作製し、わが国の得意分野である微生物の利 用に広く役立てるような方策が望まれる。 ○ 機能性プローブを用いた新規遺伝子解析技術を用いた技術開発が望まれる。 <問題点・改善すべき点> ● 複合微生物を用いる物質生産におけるエンジニアリングの問題点はなにか、でき る限り普遍化すべきであった。 ● 他の培養系での実施例がほしい。 ● 土壌などのコンソーシア解析の応用研究を期待したい。 ● 複合微生物系を用いる物質生産に当たっての制御ファクター抽出など制御の問題 点を洗い出す必要がある。 ● もう少し事例を増やすべきであった。 3.14.3 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 今後の研究開発の方向性等に関する提言 遺伝子検出法は小型化・低価格化の方法を探り、普及に努力して欲しい。 実用化プロジェクトの資金で早期実用化を目指して欲しい。 物質生産に係わる機能性プローブの開発を進めてほしい。 活性汚泥などのような複雑系での応用を期待したい。 適用事例を多くして真に実用化するための問題点をあらいだすこと。 更に高感度化を図ることも必要であろう。 具体的のどのくらいの数の複合系で実施可能かの検証が必要であろう。 3-49 3.15 B-1-1-3:微生物コンソーシアにおける遺伝子交換を人為的に行わせる技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 本研究課題のプロジェクト内での意義は、従来の遺伝子工学的手法の範囲を越え た新しい遺伝子移入技術の確立であったが、微生物コンソーシアでの遺伝子交換・ 導入技術とはなっていない点が問題である。しかしながら、プロトプラスト融合の 効率を高める第三微生物の存在を見出したことは評価できる。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 今後の見通しは決して容易ではない。プロジェクト内での位置付けを明確にして 取り組むべき課題であったと思われる。 3.15.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ プロトプラスト融合の効率を高める第3の微生物を取得した。 ○ 自然界でも行われていると考えると逆解析的で興味が持たれた。 ○ 是非酵素精製まで行ってほしい。 ○ 従来法に勝る可能性を示した点は評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 微生物コンソーシアでの遺伝子交換・導入技術とはなっていない。 ● 研究時間数と研究経費との関連が不明なので評価しにくいが、成果に対して解析 的アプローチがほしい。深みというか研究のツメが甘いと感じる。 ● 税金を使った研究補助であるので民間研究者としては遺伝子解析などの A 群(複 合生物系解析技術)の研究成果を活用する横の連携がほしい。 ● 低温細胞壁分解酵素の比活性の向上を解決する手法を進めて欲しい。 ● プロジェクト内での意義は、第 3 微生物を介した微生物コンソーシア内での遺伝子の水 平伝播技術の確立であり、実際にプロトプラスト(スフェロプラスト)再成率向上作用のある第 3 微生物を見出してはいるが、一般的に微生物コンソーシアに応用できるようなレベルに いたっていない。 ● プロトプラストの再生率・安定性に改良の余地が多い。 ● バイオレメディエーション技術への利用が見込まれるとしているが、その実現性 を示す根拠は少ないと思われる。 3.15.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 単離微生物のプロトプラスト融合には有効かもしれない。 ○ 新しい取り組みとして新鮮に報告を読ましてもらった。バイオレメディエーヘシ ョンに応用してみたい。 ○ チャレンジングな課題に果敢に挑戦したことの意義はある。 <問題点・改善すべき点> ● 既存の技術と比べてどこが優れているのか明確でない。 3-50 ● 技術の価値評価としてコスト面からの評価をしたかった。 ● 本課題の狙いが今ひとつ明確でない。 ● 本技術はプロトプラストの融合確率や融合株再生確率を高めることが期待できる が、種特異性も考えられ、有用性の期待できるドナーとレシピエントの組み合わ せについて検討しなければ、進歩性の評価を下せない。今後の重要な検討課題と なる。 3.15.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 微生物コンソーシアへの遺伝子導入技術としての可能性を追求して欲しい。 ○ 基礎か実用化段階か評価しにくいが、基礎分野として継続研究を要請したい。中 間評価の記載とおりプロジェクト内の本研究の位置付けが不明確であるが、遺伝 子解析技術を活用していけば、自然界でのコンソーシアの性能評価などに応用可 能と考える。 ○ 今後の見通しは決して容易ではない。プロジェクト内での位置付けを明確にして 取り組むべき課題であったと思われる。 ○ プロトプラストができたとしても再生率・安定性・増殖速度など解決すべき問題 の多いことは、当初から予想されたところであると思われるので、この課題設定 のチャレンジングなところは認めるが、本プロジェクトで行うには的確性に疑問 がある。 3-51 3.16 B-1-2-1:海洋複合生物系における制御物質の生産技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 石油分解機能を持った微生物群の微生物間情報伝達物質を取得したことは、基礎 学問的には優れた成果である。また、微生物間情報伝達物質による未知微生物単離 の可能性を示したことは高く評価できる。今後の石油分解機能集団の解析や微生物 の取得には大きな役割を果たすことが期待される。 一方、未知微生物の培養単離法として広範に利用するにはまだ事例が不足してい る。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 石油分解以外の分解機能を持つ微生物集団でも同様の現象が見られるのか、研究 を展開していく必要がある。また、広い範囲への適応性を試すために、物質生産や 変換反応への応用の可能性の観点から、より多くの事例を試みる必要がある。 3.16.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 石油分解機能を持った微生物群の微生物間情報伝達物質を取得した事は、基礎学 問的に高く評価される。 ○ 複雑系である石油分解で情報伝達シグナル物質と分解の過程について解明した。 ○ 情報伝達物質と遺伝子発現との関係について明らかにしたことも興味ある成果で ある。 ○ 情報伝達物質の解析から難培養微生物の大量培養手法が見いだされる期待が予見 される。 ○ 新規情報伝達物質の発見は、基盤整備として評価できる。 ○ 微生物間情報伝達物質による未知微生物単離の可能性を示したことは高く評価で きる。 <問題点・改善すべき点> ● 石油分解以外の分解機能を持つ微生物集団でも同様の現象が見られるのか、研究 を展開していく必要がある。 ● 説明が複雑で研究のポイントが分からない。 ● 基礎研究領域であり、もう少し単純な系で検討すべきであろう。 ● 実用化を意識するより、コンソーシアの微生物生態解析手法として有用なテーマ である。 ● この手法の汎用性を試験する必要がある。 ● 物質生産や変換反応への応用の可能性を探る必要がある。 ● 広い範囲への適応性を試すために、より多くの事例を試みる必要がある。 3.16.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 石油分解機能集団の解析、微生物の取得には大きな役割を果たす。 3-52 ○ 伝達物質の存在と遺伝子発現との関係を制御可能であれば実用性が高い。 ○ どのような手法をとれば実用化に結びつくか、さらなる基礎的研究と事例の積み 重ねが必要であろう。再現性なども不明。 ○ 伝達物質を新発見したことは、高く評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 基礎的研究と認識した。 3.16.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 学問的にはさらに詳細な作用機作、応用的には他の機能集団ではどうなっている のか、研究を続けて欲しい。 ○ 総合的に本テーマに絞って提案公募型の研究を行うべきと考える。 ○ アイデアと解析に係わるもっとも競争原理に基づいた成果が期待される分野であ る。 ○ 未知微生物の培養単離法として広範に利用するにはまだ事例が不足している。基 礎研究としては興味ある発見であるが、更なる検討が必要である。 3-53 3.17 B-1-2-2:フェノール分解微生物コンソーシアの培養制御技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 フェノール分解活性汚泥の生物学的制御法が開発されたことは高く評価される。 特に、外来の高活性フェノール分解菌を投入する前に飢餓状態にすることで高効率 の処理を行えることを見出したことは実用へ向けての大きな進歩である。 中間評価時点で「実処理系での実証のために、更なるデータの蓄積が必要である」 との指摘に対しては、複数の石油コンソーシアに本解析技術を適用した。その結果、 ほとんどのケースでフェノール分解活性汚泥の主要微生物ポピュレーションが捕 らえられたことは高く評価できる。 実用化のためには、より実処理に近い模擬試験が必要であったことや遺伝子操作 による安全性評価に関する研究開発が必要であった。 一方、外来遺伝子の操作に関しては、パブリックアクセプタンスの面から、でき れば機能強化に遺伝子操作を使わないで達成する方法も考えて欲しい、との意見も あった。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 本手法の普及のためには、活性汚泥中への有用微生物・遺伝子・各種機能の維持・ 強化技術として一般化を図ることや外来遺伝子導入の安全性評価研究を継続して 進めることが必要である。 他方では、現状では遺伝子操作を使わない方がパブリックアクセプタンスがよい が、組換え体の環境への応用例の一号としての期待もある。 3.17.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 微生物集団中の重要機能微生物の維持、および重要遺伝子の維持によりその機能 を高めたことは極めて高く評価される。 ○ わかりやすいシンプルな成果で実用性も高い。特異な処理対象を有する活性汚泥 処理に開発の考え方を示唆した。応用範囲が広い。土壌処理などに応用してみた い。 ○ フェノール分解活性汚泥の生物学的制御法が開発されたことは高く評価される。 ○ フェノール分解活性汚泥の主要微生物ポピュレーションが捕らえられたことは高 く評価できる。 ○ 外来の高活性フェノール分解菌を投入する前に飢餓状態にすることで高効率の処 理を行えることを見出したことは実用へ向けての大きな進歩である。 ○ その他広範な応用も期待できる。 <問題点・改善すべき点> ● 特に改善を指摘するような内容はない。完成度が高い。類似物質に対象を広げた 例示がほしかった。 ● 実処理に近い模擬実験が必要であった。 ● フェノール関連物質に対する実証試験(模擬試験)があった方がよかった。 3-54 3.17.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 活性汚泥中での残存性を利用したフェノール分解機能の維持・強化は他機能への 応用も期待できる。 ○ 実用性は極めて高い。特許が成立すると思われる。 <問題点・改善すべき点> ● 活性汚泥法を完全な閉鎖系で行うのは困難であり、パブリックアクセプタンスの 面からできれば機能強化を遺伝子操作を使わないで達成する方法も考えて欲しい。 ● 外来遺伝子導入について規制緩和が可能な研究例を例示してほしい。 ● 指摘されている外来遺伝子導入の安全性評価の問題点を本研究から解決するアイ デアが記載してほしかった。遺伝子の系外流出の可能性とフェノールが枯渇した 場合の消長など。 ● 実際の系は用いられた系よりもかなり複雑と考えられる。実用化のためには、よ り実処理系での実験が必要と考えられる。 ● 基盤技術は確立されていると思われるので早急に実用化試験を実施すべきであろ う。 3.17.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ このまま研究を進めて、活性汚泥中への有用微生物・遺伝子・各種機能の維持・ 強化技術として一般化して欲しい。 ○ 継続して一つの実験系として外来遺伝子導入の安全性評価研究を行ってほしい。 その他の微生物分解性が問題となる化学物質の生分解性について研究を継続して ほしい。本手法の応用性、普及性の為に。 ○ 現状では遺伝子操作を使わない方がパブリックアクセプタンスがよいが、組換え 体の環境への応用例の一号としての期待もある。 3-55 3.18 B-1-2-3:石油分解微生物コンソーシアの機能強化・向上技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 コンソーシア解析、優占化機構、乳化と石油分解などの研究において全般的に一 定水準以上の成果が出されており、バイオレメディエーションに向けた技術的提言 もできている。さらに、石油分解産物の急性毒性を評価する方法を開発したことや バイオレメディエーション法についてマニュアルを作成したことなど、本研究は内 容においてオリジナル性が発揮されており高く評価される。 石油分解過程において微生物群の変化を定量的にかつ時系列に解析できる技術 の開発が望まれた。本研究課題で得られた知見を利用し、別の NEDO プロジェクト 「重質油汚染土壌の高度修復技術の開発」にて、実証実験を行っており実用化に向 けた取組みに着手していることは評価できる。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 特に海洋の石油汚染現場で、実施に適用できる技術レベルまで早急に到達しても らいたい。そのためには、実用化に必要な海洋条件、海水温の影響、散布方法、石 油の動態と分解微生物の固定化などを含んだ技術的検討を行った後、実証試験を戦 略的に行い早急な実用化計画を実行してもらいたい。 3.18.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 石油分解コンソーシアの主要微生物の性質を調べて分解能の強化に成功した。 ○ 分解産物等の安全性を評価できるようになった。 ○ 石油分解過程の微生物群の変遷を解明し特異的な FISH プローブと PCR プライマ ーを開発した。 ○ 優占化、乳化、芳香族分解などの分解過程と微生物層が明らかにされた。 ○ 流出事故を想定した実験から指標微生物が提案され、微生物製剤の開発の基礎情 報が得られた。 ○ コンソーシア解析、優占化機構、乳化と石油分解などの研究において全般的に一 定水準以上の成果が出されており、バイオレメディーションに向けた技術的提言 もできている。石油分解は古くからのテーマではあるが、本研究は内容において オリジナル性がよく出ており高く評価される。 ○ 石油分解産物の急性毒性をシオミズツボワムシを用いて評価する方法を開発した ことは評価できる。 ○ バイオレメディエーションについてマニュアルを作成したことを評価する。 ○ FISH 法によるモニタリング法の完成は、高く評価できる。 ○ 人工コンソーシアの確立に成功したことを評価する。 <問題点・改善すべき点> ● 特定のコンソーシアの研究であり、一般化されていない。 ● 模擬実験について実際の海洋条件を考慮した大規模実験例がほしかった。 ● 波浪、乳化、揮発成分の揮発や水へのとけ込みなどによる石油成分の時間的変化 に対応した微生物群の変化をとらえてほしい。 ● 群集の変化や生態学的影響などについての定量的評価、あるいは定量的把握技術 3-56 の開発が欲しかった。 ● 時系列における数量解析、予測技術があればもっとよい。 ● 微生物活性促進法(biostimulation)の適用可能な物理的範囲と方法論に関する 具体的データがない。 ● 中間評価でも指摘されていた汚染サイトでの実証試験が欲しかった。 3.18.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 安全性評価は実地での適用・評価に有効である。 ○ 海洋バイオ発足以来、このような体系的石油分解の研究例を期待していた。 ○ コンソーシアの保存、製剤化などの実用研究を是非継続して実施してほしい。 ○ このままだと単なる研究例に終わり、実用化に必要な海洋条件、海水温の影響、 散布方法、石油の動態と分解微生物の固定化などの検討を進めて欲しい。 ○ コンソーシアの応用範囲の拡大が期待できる。 <問題点・改善すべき点> ● 汚染現場での機能強化に対する有効性は不明である。 ● 石油流出事故は生態的被害が大きく、少量の流出でも広大な海域に影響を及ぼす。 是非、大型水槽での実験とこれまでの情報を活用したシュミレーションモデルの 開発に心がけてほしい。 ● 適用可能な物理的範囲の設定とその対策に関する研究を進めるべきであろう。 ● 低温下におけるバイオレメディーションの可能性についてさらに検討を行うべき。 ● このままでは実験事例に過ぎない。実証試験を戦略的に進める必要がある。 ● 土壌汚染などにも活用を拡大できる可能性がある。 ● 陸系では嫌気下でのバイオレメディエーションが必須となるのでこの面の研究を 促進する必要がある。 3.18.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 石油汚染現場(特に海洋)における栄養素・微生物群添加の影響等、現場に役に 立つ情報を提供して欲しい。 ○ 中途で終わらせるのではなく、将来石油流出事故対策事業団などの政府一体とな った対策組織が必要と考えているので、組織形成に必要な技術項目を洗い出し、 開発に着手してほしい。 ○ 実証試験を戦略的に行い早急な実用化計画を実行してもらいたい。 3-57 3.19 B-2-1:木質等未利用資源の高度利用技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 ラッカーゼ・メディエータの単離精製と同定、およびリグニン化合物を効率よく 分解するシロアリ消化管内複合微生物の分離培地開発は高く評価できる。 また、プロジェクト実施期間中に生じた環境問題に呼応し、社会的要請に応えて 開始したダイオキシン分解は、それまでに得られていたリグニン分解の研究開発成 果を踏まえて行われたものである。基礎技術として、ダイオキシンの生物分解を吸 着と分けて客観的に評価できたことは優れた成果である。 但し、シロアリの腸内細菌叢によるリグニン分解については、複合生物系におけ るシロアリの腸内細菌叢の能力の限界が見えたところ(中間評価時点)での大胆な 研究方針の方向転換が必要であった。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 産業上の生物資源探索手法として重要な分野であるため、多くの共生微生物につ いての体系的な研究手法の開発を進める必要がある。社会的ニーズに応じた内分泌 撹乱物質の分解の実用化プロセス開発に方向転換した国家プロジェクトの策定が 望まれる。 3.19.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ ダイオキシンの生物分解を吸着と分けて客観的に評価した。 ○ 共生微生物研究の手法とその実用化について特に新たな生理活性物質の探索資源 として複合系が注目される事例としてよく表現されている。 ○ リグニンモデル化合物の効率分解に関与する消化管複合微生物の培養手法は昆虫、 微少動物などを探索資源にする場合非常に有効である。 ○ ラッカーゼ・メディエータの単離精製と同定、およびリグニン化合物を効率よく 分解するシロアリ消化管内複合微生物の分離培地開発は高く評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● ダイオキシンの分解は、未だモデルシステムに留まっている。 ● 実験室や規制の関係から仕方ないが実際のダイオキシンでの研究成果がないのが 残念。但し、新規性についてはダイオキシンについてであるが疑問。 ● 微生物の専門家がさらーとおさらいしたという印象があるため、腸内微生物に限 定して新規生理活性物質の探索にしぼった研究にしてほしい。 ● 木質等未利用資源の利用技術におけるダイオキシン分解系研究の位置づけの不明 瞭さと study design の失敗。分解・代謝系の基礎研究なのか無毒化・バイオレメ デイエーションの研究なのかはっきりしなかった。 ● ダイオキシン等内分泌撹乱物質の分解については、むしろ汚染の実態に即した研 究アプローチが必要で、その意味では達成度は低い。 ● ダイオキシンについては TCDD 以上の多塩素化物の実験がない。既知論文で報告 があるように、白色腐朽菌は多塩素化合物の分解においてもっとも特徴が発揮で きる微生物である。TCDD 以上については、効果はあまり期待できないかもしれ ないが、汚染焼却灰や汚染土壌を使う実験も可能と考えられる。 3-58 ● シロアリに注目した点は評価できるが、その結果がそれほどでないことが判明し た時点(中間評価)での方向転換が必要であったと思われる。 ● ダイオキシンの分解にもシロアリの腸内菌叢を使うことにはやや無理があった。 3.19.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 時間と場所を十分にかけ、微量ダイオキシン汚染に対して有効であることを示し た。 ○ 抗真菌活性は興味惹かれる。生態的に考えると理由はどうしてだろうか。 ○ 昆虫の腸内細菌の研究手法を開発している点は、評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● どの程度の汚染物をどのように処理しようと言うのか、明確でない。 ● 実用化を意識しているとは思えない。異業種との連携で実用化に向けたストリー とスケジュール、組織を提示してほしい。 ● 資源探索として重要な分野であり、是非体系的に行うべきという提案となるよう な力強い纏めがほしかった。 ● 実用化の具体的目標がはっきりしていない。例えばシロアリ共生、寄生微生物の 生理活性物質に関する情報が貧弱であり、明確化する必要がある。ダイオキシン 分解等の環境浄化、環境修復事業に関しては従来の知見を越えるに至っておらず、 何に対する実用化なのか意義を見いだすことは困難である。 ● シロアリの腸内細菌叢の能力の限界が見えたところでの大胆な方向転換が必要で あったと思われる。 ● 白色腐朽菌を用いることの限界(土壌には利用できない)ことを考慮した研究展 開をすべきであった。 3.19.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ きのこ類を利用することの利点は何処にあるのか、その利点を考慮して有効な技 術を考えて欲しい。 ○ 産業上の生物資源探索手法として重要な分野である。微生物だけでなく昆虫・天 然物化学などの広い研究者群で取り組んでほしい。力づくでやるという日本人に は不向きな現状を打破する為には。 ○ 多くの共生微生物についての体系的な研究手法の開発を進める必要がある。 ○ 社会的ニーズに応じた内分泌撹乱物質の分解の実用化プロセス開発に方向転換す べきである。 3-59 3.20 B-2-2:海産藻類等の未利用資源・物質の高度利用技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 海産藻類に関してカラギーナンからオリゴ糖を生産する酵素(カラギナーゼ)の 活性が倍増する複合微生物系を見出したことは評価に値する。複合系での遺伝子発 現の定量から遺伝子レベルでの活性が増強されていることを明らかにしたことは 興味深い結果である。インフルエンザウイルス感染阻止作用を発見したことや冷凍 白身魚の変化に対する阻害作用を見つけたことなどは、適用例を示した点で評価で きる。 実施者が述べている様に、オリゴ糖の医薬品への応用展開は、既存医薬との競合 を考えると困難であると判断する。オリゴ糖生産の従来法との比較を行い、用途開 発の方向性を決めるべきである。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 オリゴ糖の用途開発のターゲットとしては、機能性新素材や食材として利用する 方向に転換する方が望ましい。広く海草由来の多糖からオリゴ糖を作製して付加価 値をつけることは興味ある課題である。 3.20.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 複合系利用による有用酵素生産量の強化が示された。 ○ 海産藻類で複合微生物系でカラギナーゼ活性がカラギナーゼ非生産菌との組み合 わせで高まるという興味ある結果が得られ、複合系での遺伝子発現の定量から遺 伝子レベルでの活性が増強されていることを明らかにした。 ○ 人工の共生、複合系を構成したことは今後の応用研究の考え方の範囲を拡大させ た。 ○ 複合系の探査に分析システムの確立が発見のきっかけというのも興味を引く。 ○ カラギナーゼ活性が倍増する複合微生物系を見い出したことは評価に値する。ま た生成オリゴ糖の活性や機能について解析し、利用範囲拡大に繋げたことも高く 評価される。 ○ カラギーナンからオリゴ糖を生産し、インフルエンザウイルス感染阻止作用を発 見したことを評価する。 ○ タンパク質の変成作用を活用した冷凍白身魚の変化に対する阻害作用を見つけた ことは食品加工への応用をひらくものと評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 遺伝子操作法等の他の方法と比較しての優位性が明確でない。 ● 用途開発の手法まで進展してほしかった。 ● 実用化を目指した用途開発を同時に目指すべきであったろうか? ● オリゴ糖を医薬品として開発することはこの課題になじまない。 3.20.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> 3-60 ○ 生理活性多糖が得られた。 ○ 共同研究にまで進展させる研究者の成果に対する熱意がいい。研究者は結果を出 すが成果については多く自己満足。応用研究まで広げる説明責任と説得させる、 またその呼びかけに応じるリスポンスビリティからよい成果が生まれると思う。 今後の共同研究成果に期待。 <問題点・改善すべき点> ● この複合系を利用した方法は他の従来法より、どこがどれだけ優れているのか。 ● 成果にさらなる可能性を示唆させ、多くの共同研究が生まれるような動機付けが ほしい。 ● 実施者も述べているように医薬面におけるオリゴ糖と既存医薬との競合は難しい。 ひとえに用途開発にかかっている。 ● 医薬品の開発を本プロジェクトで実施することはなじまない。 3.20.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 機能性新素材としてのオリゴ糖の用途開発に期待。植物のストレス耐性など、以 前検討したがその評価が困難で中断した経緯がある。 ○ オリゴ糖を食材として利用する方向に転換する方が望ましい。 ○ 広く海草由来の多糖からオリゴ糖を作製して付加価値をつけることは興味課題で ある。 3-61 3.21 B-2-3:未利用石油留分の高度利用技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 石油成分の難分解物質の中で、シクロアルカンから安息香酸への変換反応に関与 する Alcanivorax の分離と代謝経路を検出したことは評価に値する。 但し、この研究課題は難度の高いものであったため、全般的には目標に達成して いない。プロジェクトの内部で毎年厳しく自己評価を行っていたが、研究目標を修 正するにはいたらなかった。 また、5年間のプロジェクト期間の4年目に中間評価が行われたため、中間評価 結果を、プロジェクトのマネジメントに十分反映することは困難であった。よって、 中間評価の実施時期にも問題があった。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 重要な課題でありもう一度課題設定からやり直す必要がある。 3.21.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 複合微生物研究との接点が不明。 ○ 生分解性の限界と光照射という自然界で遭遇する事象で生分解性がどのように変 化するか、その過程でのコンソーシアの役割、複合系で分解が進むという事実は 興味ある成果である。 ○ 生態学的にどのように Alcanivorax゛の優占されたコンソーシアが形成されるの だろうか、興味引かれる。 ○ 分解機構をよく解明している。 ○ シクロアルカンから安息香酸への変換反応に関与する Alcanivorax の分離と代謝 経路の検出に関しては評価に値する。 ○ 基礎的な知見が得られたことを評価する。 <問題点・改善すべき点> ● A 群(複合生物系解析技術)の解析を展開してコンソーシアの微生物生態学的位 置付けまで進めてほしい。 ● 分解の複合系を探索するにはどのような思考で生態的にはどのような視点で行っ ていくか、整理してほしい。 ● Study design の初期設定の失敗により全般的に目標に達成に程遠い結果になった 感がある。 ● 初期課題の設定に無理があった。 3.21.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ このような生分解性については光環境が必要になるが、その環境は限られている。 しかし、難分解性が光化学的に緩和されるのであれば土壌汚染や流出事故などの 事例に活用される場面があると思われる。光源を土壌に挿入して前処理を行う工 3-62 法特許を取っているだろうか。 ○ 安息香酸の新しいプロセスを生み出せる可能性がある。 <問題点・改善すべき点> ● 複合微生物利用の利点が不明。 ● 工法、分解方法などの工学的特許が取られているか気になる。 ● 研究の目標設定から変えるべきではないか。 ● 当初の目標設定が違っていたときの対処法を考えておくべきであった。この点が 中間評価でも厳しく問われなかった評価システムにも問題があった。 3.21.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 重要な課題でありもう一度課題設定からやり直す必要がある。 3-63 3.22 B-3-1:植物・微生物系の認識応答プログラムの解読と応用 【成果と実用化の見通しに対する評価】 植物病理学の研究手法として細胞面から検討し、免疫に関与する遺伝子の機能解 析まで進めている。植物のエリシター応答の基礎研究としては評価できる。方法論 としてのモデル系の確立は理解できるが、一方、植物と微生物の相関系モデルの研 究は初期より手をつけるべきだったと思われる。 細胞レベルモデルでの基礎研究であるため、実用化に関しては評価できる段階に ない。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 微生物と植物の相互作用に関する体系的・戦略的な研究体制の確立が必要であ る。 3.22.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 植物のエリシター応答の基礎研究として評価できる。 ○ 植物病理学の研究手法として細胞面から検討し、免疫に関与する遺伝子の機能解 析まで進めている。エリシターの研究として進歩していると思われる。 ○ モデル系が確立され、基礎研究として評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 初期の微生物または微生物酵素関与の部分の研究がない。 ● 何故エリシターを取り上げたかは疑問。植物に共生している微生物の役割などせ っかく行うのであれば実際の植物体からはじめてほしかった。エリシター関連遺 伝子を導入した場合、植物体そのものの生育特性が変化する。 ● 植物体での研究に初期より手をつけるべきだったと思われる。 ● 方法論としてのモデル系の確立は理解できるが、一方、植物体の研究がなくては 実体がないように思う。 3.22.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ エリシター応答の分子機構が明らかになる。 ○ 基礎的、実用化にどのように貢献するか判断つかない。 ○ 細胞レベルモデルでの基礎研究がある程度成果を収めた。 <問題点・改善すべき点> ● 基礎研究でさし当たり実用化には結びつかない。 ● 植物の共生系の研究は少ないし、その役割も不明なことが多い。共生している微 生物群の生態的な位置づけなどの基礎研究を重視すべきで、要素技術の課題であ るなら、植物研究者として既成概念をとり払った創造的分野で挑戦してほしかっ た。 ● 実用化に関して評価できる段階でない。 3-64 ● 実用化研究には結びつかないように思われる。 ● この課題のプロジェクト全体における位置付けがはっきりしない。即ち植物と微 生物の関係には共生から寄生(病原性)まであり、焦点をどこにしたのか明確で ない。 3.22.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 微生物と植物の関係という観点から研究を進めて欲しい。 、 ○ 植物にエンドファイトに代表される共生している微生物群の生態的な位置付けや、 アレロパシー等の役割などの基礎研究を重視し、体系的に進める必要がある。 ○ 微生物と植物とのどのような関係を焦点にするのかをはっきりさせた体系的・戦 略的研究体制が必要である。 3-65 3.23 B-3-2:機能解析手法による複合微生物系解析技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 植物に対する感染症を複合微生物系の観点から捉え、アブラヤシの菌類感染検出 技術を開発し、感染樹の植物組織から Ganoderma 菌の感染の状況を把握できる簡便 な方法を開発したことは評価できる。とくに樹体を痛めずに葉を用いた早期診断技 術の確立により、感染初期に患部を集中的に薬剤処理することの可能性を示したと ころは評価できる。 ただし、実用化のためには課題が多く山積している。特に、直接、微生物制御に 結びつけるための技術課題をクリアする必要がある。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 実用化のためには現地で使用できることを念頭に置く必要がある。液体窒素を併 用する分光光学的方法の改造や定量的 PCR 技術の適用と精度向上等が挙げられる。 さらに、Genoderma 感染機構と発症に関する生化学、分子生物学的研究の推進や防 疫的な検討をする必要がある。 3.23.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 作物生産の観点から、国際的に見て、微生物-植物の相互関係の面で重要な研究で あり、将来の微生物制御に繋がる知見が得られている。 ○ 特に簡易検出法は大きく進展した。 ○ アブラヤシの菌類感染検出技術を開発、また感染樹からの PCR プライマーの開発 の意義は実用的で技術貢献度が高い。 ○ 病斑の出る以前に感染の有無が判断されることは感染対策に有効である。 ○ 植物に対する感染症を複合微生物系の観点から捉え、アブラヤシ茎枯れ病の診断 法を提示したことは評価に値する。 ○ 感染の状況を把握できる簡便な方法を開発したことは評価できる。 ○ Ganoderma は、難しい菌であり、これにチャレンジの糸口を見つけたことを評価す る。 <問題点・改善すべき点> ● なかなか直接、微生物制御に結びつかない。 ● 実用的な研究であるが機能解析手法という命題との関係が分からない。 ● アフラヤシのみの研究ならよいが、複合系というのなら椰子全体での微生物、菌 類との関係を検討するのが基礎的には必要ではないか。 ● アブラヤシ病原菌検出に液体窒素を併用する分光光学的方法が用いられているが、 もう少し現地に即した技術に改良して欲しい。 ● Ganoderma の PCR 検出に関して標準誤差と再現性に関する検討が欲しかった。 3.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 検出法の確立は微生物制御の第一歩として評価される。 3-66 ○ 防疫的な検討に実用性が高い。 ○ アブラヤシ茎枯れ病の診断法の実用化に期待がかかる。 ○ 病状を把握できるようになったことを評価する。 <問題点・改善すべき点> ● 防疫系を確立してほしい。機能性解析手法の意味が分からない。 ● アブラヤシ茎枯れ病の診断については正確さが要求されるので、精度向上に関す る研究が要求される。定量的 PCR 技術の適用と精度向上等が考えられるが現地で 使えるかどうかが問題である。 ● Genoderma 感染機構と発症に関する生化学、分子生物学的研究の推進が望まれる。 ● Ganoderma は、極めて制御の難しい菌であるので、防疫或いは治療はかなり難しい ものがあると予想されるが、病木を伐採除去する以外の方法を早急に研究する必 要がある。 3.23.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ ○ ○ ○ このまま微生物制御に本格的に取り組んで欲しい。 少なくともこのプロジェクトで扱うテーマだろうか。 防疫として拮抗やアレロパシーにまで検討してほしい。 生態的に捉えて複合系の仕組みや新しい知見を得る挑戦的な研究材料を選定して ほしい。国の研究費をつぎ込むには探索、資源開発のコンセプトが重要。 ○ 診断法のみでは役に立たないので、新たなる研究計画が必要である。そのような 課題は、このプロジェクトとは別に行うべきものと思われる。 ○ Ganoderma 自体の研究も必要である。(分類学的 diversity, 効果的薬剤の探索な ど) 3-67 3.24 B-3-3:熱帯油糧植物の高度有効利用技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 周辺土壌の汚染検出システムの確立は微生物制御にとって重要である。特に、油 やしカルスへのアグロバクテリウムの感染に成功したことは分子育種に向けた技 術として評価できる。また、耐病性遺伝子と想定されるものの単離に成功したこと も評価に値する。 実用化の観点では、本遺伝子を分子育種に応用することで、耐病性品種の開発に 繋がる糸口を見つけたという点で評価に値する。また、本研究課題は、まだ基本的 遺伝子レベルの研究段階であったが、現在実証試験も進めていることも評価でき る。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 植物病理の視点をいれ,且つ他の有用植物への応用を視点に入れた新しいプロジ ェクトの設定を望む。 3.24.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 周辺土壌の汚染検出システムの確立は微生物制御にとって重要である。 ○ 油椰子の遺伝子操作系を開発したことは今後の育種にとって重要である。 ○ 形質転換系が出来たことは分子育種には効果的である。 ○ パーム油の石油代替エネルギー化を目指した分子育種技術、細胞工学的技術の研 究であり、技術的側面からは高く評価できる。また、B-3-2 と関連するが Ganoderma の検出技術の開発も評価に値する。 <問題点・改善すべき点> ● 植物体の病状把握の方法論を示したのでその他の有用植物への応用を含む植物病 理学の立場での研究に移行すべきであろう。 ● 生物資源保有国への協力テーマとしては有効と思う。油糧植物として長期的テー マとして取り上げるのなら、環境ストレス(耐寒性・耐塩性)等複雑なことにも 取り組むことが望まれる。 3.24.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 油椰子の生産の安定化、効率化への道は近くはないが、確実にゴールに近づいた。 ○ 分子育種の見通しが立つ。 ○ かなり実用性・実現性の高いレベルに近づいてきている。 ○ 油やしカルスへのアグロバクテリウムの感染に成功したことは分子育種に向けた 技術として評価できる。 ○ 耐病性遺伝子と想定されるものの単離に成功したことを評価する。 <問題点・改善すべき点> ● 基礎レベルにおける研究であり、実用化には程遠い。 ● 石油代替エネルギーとしてパーム油の位置づけが適当かも含めて(コスト試算、 3-68 LCA 試算)検討すべきである。 ● Ganoderma の制御系の研究を並行しておくべきであったと思われる。 3.24.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ 時間をかけて、このまま進んで欲しい。 ○ 植物病理の視点をいれ,且つ他の有用植物への応用を視点に入れた新しいプロジ ェクトの設定を望む。 ○ クローン苗の生産も重要な課題とおもわれるが、これは本プロジェクトの延長上 ではない別のプロジェクトであろう。 3-69 要素技術に関する評価 3.25 B-3-4:海産無脊椎動物−微細藻類共生系を利用した環境ストレスのモニタリングシス テムの開発 【成果と実用化の見通しに対する評価】 共生系の変化のモニタリング技術の開発が最優先と考えられるが、そこまで至っ ていないので、初期における研究の方向転換や重点化を考慮すべきだった。 但し、海洋無脊椎動物に共生する藻類を解析し、それを除去する方法を確立したこ とやシャコガイに2種以上の共生藻類が存在することを明らかにしたことは、基礎 的研究としては評価できる。さらに、新規共生藻を新たに分離したことや共生藻集 団組成変化を再現性よく検出できるようになったことなども評価できる。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 海洋国日本にとっては、陸上での化学物質の最終的な流入場所でもあることや海 産無脊椎動物と藻類との共生系の研究は少ないことから、もう一度基礎に立ち返っ た更なる基盤研究が必要と思われる。 3.25.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 海洋無脊椎動物に共生する藻類を解析し、それを除去する方法を確立したことは、 基礎的研究として評価される。 ○ 複合系としてとりあげるに相応しいテーマであることと、共生の生態的な位置付 けから検討していることは挑戦的であり、評価できる。 ○ シャコガイに2種以上の共生藻類が存在することを明らかにしたこと、および新 規共生藻を新たに分離したことなどにおいて成果がみられる。 ○ 共生藻集団組成変化を再現性よく検出できるようになったことは評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 共生メカニズム等が調べられていない。 ● 共生メカニズムの考察から環境ストレスにどのような反応があるかを検討してか ら研究に着手してほしかった。 ● 光合成関連では説明できないのか。共生系の光合成関連遺伝子に差異がないのか、 宿主からの脱却で評価可能であれば光合成にも変化があるのでは。 ● 温帯ではどのようにするのか指摘がほしい。 ● やや中途半端な成果に感じる。 ● 異なる環境ストレスにおける共生藻の集団組成に関する意義(それが必須である のか、可逆的に起こるのか等)に関する研究をより促進すべきではなかったか。 現在では現象の信頼性・再現性を確実にするところまで達していない。 ● モニタリング技術を開発できなかったことに、課題の未達成感が残る。 3.25.2 実用化の見通しに関する評価 3-70 <肯定的意見> ○ サンゴの白化現象に繋がれば面白い。 ○ このようなモニタリングシステムは存在していないので継続してほしい。 ○ 地球温暖化(ストレスによる)のサンゴの白化に利用できれば面白い。 ○ 有機錫の共生藻に対する感受性に差があることを明らかにした。 <問題点・改善すべき点> ● 機能面からの有用性、重要性、面白みが明確でない。 ● 種々の共生系で、温度感受性などを評価、あるいは環境ホルモンの感受性遺伝子 から取り上げたらどうであろうか。 ● 分類学的位置づけの成果を生かして変異解析まで、さらなる感受性の高い遺伝子 まで検討出来ないか。 ● 環境ストレスのモニタリングという点では克服しなければならない点が多く、実 用面での具体像も示されていない。 ● 環境ストレスのモニタリング技術開発といっているが、目標設定から変える必要 があるのではないか。その上で学術基礎研究なのか、目的基礎研究なのかを明確 にする必要がある。 ● モニタリング手法の開発が最優先のように思われるが、これには失敗しているの で、初期の目的を達成するための研究の方向転換や重点化を考慮すべきだった。 ● 海産無脊椎動物と藻類との共生系の研究は少ないので、環境の保全やモニタリン グを行う上で更なる研究が必要である。この場合、ここでも見られるように非常 に基盤的なところからはじめる必要があり、今回のようなプロジェクトにはなじ まないが、海洋国日本には必要な研究課題である。 3.25.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ エチニルエストラジールなどのホルモン様物質の生分解性について取り上げてほ しい。 ○ もう一度基礎に立ち返った研究体制が必要であると思われる。 ○ 海洋国日本にとっては、陸上での化学物質の最終的に流入場所でもあり更なる基 盤研究が必要と思われる。 3-71 3.26 B-3-5:海洋動植物の有用資源・物質等生産技術 【成果と実用化の見通しに対する評価】 藻類の形態形成を起こす誘導物質の検出は、学問的に極めて高く評価される。た だし、活性物質の構造解析や生産菌の分類学的同定と特性評価を進め、物質の安定 した生産系の確立を進めるべきであった。 【今後の研究開発の方向性等に関する提言】 当該物質の構造解析と作用機構が明らかになれば利用展開が可能となり、藻類の 人工栽培に利用されるという大きな可能性を秘めている。藻類を活用した産業応用 が広く考えられるので、実用化を目指したプロジェクトを進めて欲しい。 3.26.1 成果に対する評価 <肯定的意見> ○ 藻類の形態形成を起こす誘導物質の検出は、学問的に極めて高く評価される。 ○ 研究の着目がよい。植物分野でもこのような着目からはじめてほしかった。 ○ 形態形成誘導物質を明らかにしたのは極めて優秀な成果である。 ○ このような反応系が大型藻類以外でもあるのではないか。分析の限界に挑戦して いるのも評価出来る。が構造が決定されてないのが残念である。 ○ 藻類の形態形成誘因物質を見いだしたことで、本プロジェクトはまずまずの成果 を出したと評価できる。 <問題点・改善すべき点> ● 生態的事象からのアプローチとしては現在の所の学術手法では限界のように感じ る成果であるが、共生系の役割が明確になったことから、今後とも他の複合系に おいてもこのような研究を継続してほしい。複合系は生態的視点が最も重視され るべき分野でこのようなプロジェクトが終了してしまうと全体の活力が低下する 懸念を感じる。最後に複合系の研究の方向を示唆する良い成果が得られたので、 この成果をてこにして新たな複合系のプロジェクトを立ち上げてほしい。 ● 活性物質の大量取得についての実験系を確立し、構造解析に重点をおくべきであ った。 ● 生産菌の分類学的同定と特性評価を進め、物質の安定した生産系の確立を進める べきであった。菌の実体を早急に明らかにすべきである。 3.26.2 実用化の見通しに関する評価 <肯定的意見> ○ 今のところどのように利用されるか不明だが、将来、藻類の人工栽培に利用され るという大きな可能性を秘めている。 ○ 干潟造成、藻場造成環境土木工学に応用したい成果である。人工的に苗床を形成 して共生系を形成させるような資材を開発すれば可能と思われる。関連特許を多 数申請し、実用化プロジェクトに応募してほしい。 ○ 当該物質の構造解析と作用機構が明らかになれば利用展開ができる。 3-72 <問題点・改善すべき点> ● 有識者を集めて関連特許を申請すべき。極めて応用範囲が環境面で多い。自己完 結に終わらないでほしい。 ● 活性物質の構造解析が必須。 3.26.3 今後の研究開発の方向性等に関する提言 ○ このまま基礎研究として継続して欲しい。 ○ 実用化プロジェクトにすべき。フィールドが問題となるので他省庁の調整を NEDO に期待したい。真珠養殖などの養殖対策としての藻場造成。アマモではど うだろうか。沿岸の用途の決まらない工業団地における工業廃水集約処理と藻類 を活用した飼料工場などのゼロエミッション工業団地などに活用可能。 3-73 ○ 要素技術の評点に関して プロジェクト全体に関する評点法(第4章)とは別に、要素技術ごとに評点付 けを行った。評点の基準は、第4章の評点法に準じた。 【成果に関する評価】 ・ 非常に良い →A ・ 良い ・ 概ね妥当 →B →C ・ 妥当とはいえない →D 【実用化の見通しに関する評価】 ・ 明確に実現可能なプランあり →A ・ 実現可能なプランあり →B ・ 概ね実現可能なプランあり ・ 見通しが不明 →C →D 要素技術ごとの評価結果を次ページに示す。 3-74 要素技術ごとの評点結果 成果に対する評価 NO. 実用化に対する見通し 要素技術の名称 平均点 素点 平均点 素点 2.6 A A A A C 2.5 A A B B 分子遺伝学的・組織化学的手法による複合微生物解 A-1-1 析技術 A-1-2 組織化学的染色法 2.4 A A B B B 1.8 B B B B C A-1-3 特定蛋白質遺伝情報による分子系統学的解析技術 2.4 A A B B B 2.2 A A B B C A-1-4 新規の認識ペプチド活用微生物検出法 2.2 A A B B C 1.6 A B C C C A-2-1 新規分離・培養技術 2.6 A A A B B 2.2 A B B B B A-2-2 培養困難な微生物の検出と分離・培養技術 2.8 A A A A B 2.6 A A A A C A-2-3 3次元マトリックス内培養法 2.4 A A B B B 2.0 A B B B C 2.6 A A A A C 2.5 A A B B 特定複合微生物系等の in situ での検出、分離、 A-3-1 機能解析技術 A-3-2 微生物コンソーシア解析技術 2.8 A A A A B 2.2 A A B B C A-3-3 海洋環境適応機構の解析技術 2.4 A A A B C 2.0 A B B C A-3-4 溶媒耐性機構の解析技術 2.2 A B B B B 1.4 A C C C C A-3-5 微生物コンソーシアの多様性解析技術 2.2 A A B B C 1.8 B B B B C B-1-1-1 微生物コンソーシア培養制御基盤技術 2.3 A A C 2.0 A B C 2.7 A A B 2.7 A A B 2.3 A B B 1.7 B B C 2.3 A B B 2.0 B B B 2.7 A A B 2.3 A A C 石油分解微生物コンソーシアの機能強化・向上技術 2.3 A B B 2.3 A B B B-2-1 木質等未利用資源の高度利用技術 1.5 B B C C 1.7 B B C B-2-2 海産藻類等の未利用資源・物質の高度利用技術 1.8 A B C C 1.7 B B C B-2-3 未利用石油留分の高度利用技術 1.7 A C C 2.0 A B C B-3-1 植物・微生物系の認識応答プログラムの解読と応用 1.7 B B C 1.3 B C C B-3-2 機能解析手法による複合微生物系解析技術 2.0 A B C 1.7 B B C B-3-3 熱帯油糧植物の高度有効利用技術 2.0 A B C 1.5 B B C C 2.0 B B B 1.8 B B B C 2.3 A A B C 2.0 A B C 環境調和型油水分離ポリマー生産微生物コンソーシアの B-1-1-2 利用技術 微生物コンソーシアにおける遺伝子交換を人為的に行わ B-1-1-3 せる技術 B-1-2-1 海洋複合生物系における制御物質の生産技術 フェノール分解微生物コンソーシアの培養制御技 B-1-2-2 術 B-1-2-3 海産無脊椎動物−微細藻類共生系を利用した環境ス B-3-4 トレスのモニタリングシステムの開発 B-3-5 海洋動植物の有用資源・物質等生産技術 3-75 1.成果に関する評価 要素技術ごとの評点結果 2.実用化の見通しに関する評価 A-1-1 2.5 A-1-2 1.8 A-1-3 2.4 2.2 A-1-4 2.6 2.4 2.2 1.6 A-2-1 2.6 2.2 A-2-2 2.8 2.6 A-2-3 2.4 2.0 A-3-1 2.5 A-3-2 2.6 2.8 2.2 A-3-3 2.4 2.0 A-3-4 2.2 1.4 A-3-5 2.2 1.8 B-1-1-1 2.0 2.3 2.7 2.7 B-1-1-2 B-1-1-3 2.3 1.7 B-1-2-1 2.0 B-1-2-2 2.3 2.3 2.3 2.3 B-1-2-3 1.5 B-2-1 1.7 B-2-2 1.7 B-2-3 1.7 B-3-1 1.8 2.0 1.7 1.3 B-3-2 2.0 1.7 B-3-3 2.0 1.5 B-3-4 2.0 1.8 B-3-5 2.0 0 2.7 1 2 3-76 2.3 3 第4章 評点法による評価結果 第4章 評点法による評点結果 1. 経緯 (1)評点法の試行 通商産業省(当時)において、平成 11 年度に実施されたプロジェクトの評 価(39 件)を対象に、評点法を試行的に実施した。その結果を産業技術審議 会評価部会に諮ったところ、以下の判断がなされた。 ! 数値の提示は評価結果の全体的傾向の把握に有効 ! 評価者が異なっていてもプロジェクト間の相対的評価がある程度可能 (2)評点法の実施 平成 12 年 5 月の通商産業省技術評価指針改訂にて「必要に応じ、評点法の 活用による評価の定量化を行うこととする」旨規定された。 以降、プロジェクトの中間・事後評価において、定性的な評価に加え各評 価委員の概括的な判断に基づく評点法が実施されており、NEDO においても 平成 13 年度のプロジェクト評価開始以来、評点法を実施してきた。(当初は 1,3,5 の3段階評価) 2.評点法の目的 ! 評価結果を分かりやすく提示すること ! プロジェクト間の相対評価がある程度可能となるようにすること 3.評点の利用 ! 評価報告書を取りまとめる際の議論の参考 ! 評価報告書を補足する資料 ! 分野別評価、制度評価の実施において活用 4.評点方法 (1)の付け方 ! 各評価項目について4段階(A、B、C、D)で評価する。 (2)点法実施のタイミング ! 第 1 回分科会において、各委員へ評価コメント票とともに上記(1)の点数の 記入を依頼する。 ! 評価報告書(案)を審議する前に、評点結果を委員に提示、議論の際の参 考に供する。 ! 上記審議を行った分科会終了後、当該分科会での議論等を踏まえた評点の 修正を依頼する。 ! 評価報告書(案)の確定に合わせて、評点の確定を行う。 4-1 (3)評点結果の開示 ! 評点法による評点結果を開示するが、個々の委員記入の結果(素点)につ いては、「参考」として公表(匿名)する。 ! 評点法による評価結果の開示については、あくまでも補助的な評価である ことを踏まえ、評点のみが一人歩きすることのないように慎重に対応する。 ! 具体的には、図表による結果の掲示等、評価の全体的な傾向がわかるよう な形式をとることとする。 4-2 5.評点結果 2.9 1.事業の目的・政策的位置付け 2.研究開発マネジメント 2.6 3.研究開発成果 2.6 2.0 4.実用化・事業化の見通し 0.0 0.5 評価項目 1.0 1.5 平均値 2.0 2.5 3.0 平均値 素点(注) 1.事業の目的・政策的位置付けについて 2.9 B A A A A A A 2.研究開発マネジメントについて 2.6 A A A B A A C 3.研究開発成果について 2.6 A A B B A A B 4.実用化・事業化の見通しについて 2.0 B B B B A B C (注)A=3,B=2,C=1,D=0として事務局が数値に換算。 4-3 <参考> 評点法による評価シート 【記入方法、結果取扱いについて】 ・各委員からは、各項目について、A、B、C、Dのいずれかを記入してく ださい。 ・各委員記入の結果(素点)は、「参考」として公表(匿名)いたします。 (1)事業の目的・政策的位置付けについて <判定基準> ・非常に重要 →A ・重要 →B ・概ね妥当 →C ・妥当性がない又は失われた →D (2)研究開発マネジメントについて <判定基準> ・非常によい ・よい ・概ね適切 ・適切とはいえない (3)研究開発成果について <判定基準> ・非常によい ・よい ・概ね妥当 ・妥当とはいえない A B C D A B C D A B C D A B C D →A →B →C →D →A →B →C →D (4)実用化、事業化の見通しについて <判定基準> ・明確に実現可能なプランあり →A ・実現可能なプランあり →B ・概ね実現可能なプランあり →C ・見通しが不明 →D 4-4 参考資料1 プロジェクトの概要説明資料 本資料は、第1回「複合生物等生物資源利用技術開発」 (事後評価)分科会において、プロジェ クト実施者がプロジェクトの概要を説明する際に使用したものである。 参考資料 1 :極めて貧弱、産業界も生物資源保有国との連携関係の蓄積が貧弱 (3)大学・国研・民間企業と連携した研究開発の推進 (2)国家としての戦略化、長期的な視野での効率的な推進 (1)生物資源の確保、資源保有国と良好な信頼関係の構築・維持 <生物資源利用に関する研究開発> ・我が国 ・欧米諸国 :国家的長期戦略、産官学が連携、数世紀にわたる生物資源確保に取り組 (2)生物資源へのアクセス :生物多様性条約により困難 (1)生物資源 :バイオ産業にとって極めて重要な資源 <バイオ産業における生物資源> 1.本技術開発を取り巻く状況 参考資料 2 ・ 単一の微生物では得られない複合生物系の高度な機能も未利用 ・ 大多数の異種生物から構成されている複合生物系をハンドリングする技術なし ・ 単離できない、即ち分離増殖できない大多数の生物資源が未利用 (取り扱い可能な生物種は、微生物では 0.1∼1%前後) ・単離した、単一生物種をハンドリングする技術が中心 <生物資源の利用に関するこれまでのバイオ技術> <参考>平成 13 年 9 月 21 日の総合科学技術会議 :平成14年度以降の分野別推進戦略として重点領域の一つに 「生物機能を高度に活用した物質生産・環境対応技術開発」の重要性を指摘 から共生系、生態系へと生物の機能の解明、利用に係わる研究開発を展開) ・ 単純な系から複雑な系への拡大(生物機能の応用の幅を広げるために生物単体 ・ 生物資源開発の重要性 (2)産業科学技術研究開発指針の通商産業省(現・経済産業省)としての研究開発方向: (1)科学技術会議 18 号等答申:バイオインダストリーの基盤となる生物資源への研究開発の重要性 <政策的意義> 参考資料 3 その多くは単一生物では得られない高度な機能を持っているものと予想される。 維持しながら共存している状態。 「複合生物系」:生物と生物、生物と環境(気候、風土等)が深く相互に関与し、多様な相互関係を 『複合生物系等生物資源利用技術開発』プロジェクト発足 :平成9年度 複合生物系利用基盤技術開発の確立 ・これらの機能を利用した有用機能性物質の高効率生産や環境浄化技術の開発 ・複合生物系の構成生物種を複合状態のまま取り扱う技術の開発 ・複合生物系の構成生物種を正確・迅速に検出・解析・分離する技術の開発 <生物資源の利用に要求されるこれからのバイオ技術> 参考資料 4 ③微生物―動植物複合系の利用生産技術・・生産性の向上 / 阻害 ②微生物―昆虫等複合生物系利用による未利用資源の利用技術・・人工培養、共生他 ①微生物―微生物複合系利用による物質生産・分解技術・・培養、制御、浄化他 (複合微生物系等のハンドリング技術を用いて産業利用に役立てるための基盤技術開発) (2)複合微生物系等の利用技術の開発 ③機能解析技術・複合生物系解析システム・・生態、生理、相互作用機能他 ②分離・培養技術・・寄生、共生微生物他 ①分子遺伝学的・組織化学的解析技術・・遺伝情報物質の回収手法他 (複合生物系を複合状態のままでハンドリングするための基盤技術開発) (1)複合生物系の解析・分離技術の開発 2.研究開発の内容 参考資料 5 (共同研究) ・サテライトラボ:油糧植物(アブラヤシ)と微生物 インドネシア技術評価応用庁 Bakrie &Brothers 社 大学等 相模中央化学研究所 メルシャン 三菱化学 (再委託) ㈱海洋バイオテクノロジー研究所 ・釜石、清水研究所 (集中研究室) <集中研究体> 東京大学 東京農工大学 理化学研究所等 JBA 会員企業 (出向) (財)バイオインダストリー協会 (略称:JBA) (委託) 推進委員会・PL NEDO 経済産業省 三菱化学生命科学研究所 山之内製薬 味の素 環境エンジニアリング (共同研究) 産業技術総合研究所 JBA 生物資源総合研究所 (集中研究室) 研究員派遣 3.研究開発体制 参考資料 6 1,763 1,685 454 1,102 129 H10 1,646 405 1,148 93 H11 1,512 283 1,138 91 H12 (石油:石油安定供給対策費、エネ高:エネルギー需給構造高度化対策費) 総予算額(計) 510 特別会計(エネ高) 134 H9 1,119 度 特別会計(石油) 一般会計 費 目 年 4.研究開発費用 8,047 1,873 5,655 519 (5年間) 総 額 (当初予算額ベース) 1,441 221 1,148 72 H13 (単位:百万円) 参考資料 7 ③バイオレメデーション等の高度化が実現。 ②有用物資の生産 ①高性能バイオプロセスの実現 (2)複合生物系を利用する新たなバイオリアクターにより ③国内バイオ産業競争力強化に寄与。 ②新規産業創出 ①生物資源開発の円滑化 な複合生物系を中心とする生物資源、生物機能の入手が可能 (1)これまで未解明・未利用であった生物種、有用な機能を示す新た 5.実用化、事業化のイメージ ④ 主な研究成果の紹介 ③ 複合生物系研究体制 (体制・マネージメント手法・研究推進に 関する事柄等) ① 複合生物系の概念およびプロジェクトの目的 ② 複合生物系の研究項目 複合生物系プロジェクト全体について 参考資料8 参考資料9 参考資料10 参考資料11 A-1. 分子遺伝学的・組織化学的解析技術 利用技術 B-3. 微生物・動植物複合系の利用生産技術 B-2. 微生物-昆虫等複合微生物系利用 による未利用資源の利用技術 B-1. 微生物-微生物複合系利用による B. 複合生物系等の 物質生産・分解技術 A-3. 機能解析技術・複合生物系解析システム A. 解析・分離技術 A-2. 分離・培養技術 ~従来技術の枠を一歩越えた複合生物系をハンドリングするための基盤技術~ 複合生物系等生物資源利用技術開発プロジェクト 要素研究開発項目 参考資料12 研究プロジェクトの運営方法 (26テーマグループ、関係人員延べ130名) 1.プロジェクトリーダー(PL)、SPLによる集中的 研究推進、直接指導 2.委員会・検討会 1)研究推進委員会(2ヶ月毎) ・管理運営事項 ・外部情報伝達及びアドバイザーからの意見 ・研究状況 2)月例研究進捗検討会 ・研究結果検討 3)テーマ別進捗検討会(必要に応じ開催) 3.運営のポイント ・情報の共有 ・アイディア交流 ・機器・資材の相互利用 ・競争原理 ― 研究成果、対外発表、予算措置 4.予算措置 ・各研究テーマの年次評価 (四者査定:生物化学産業課・工技院・NEDO (四者査定:生物化学産業課・工技院・NEDO・ NEDO・PL) PL) A, A, B, C評価による次年度予算の増減 C評価による次年度予算の増減 ・特別テーマへの集中投入 ・特別テーマへの集中投入 参考資料13 参考資料14 参考資料15 参考資料16 参考資料17 参考資料18 参考資料19 参考資料20 蛍光消光プローブによる遺伝子検出技術と その応用 <本法の特徴> 1.蛍光色素が1種類 → 低コスト 2.プローブ設計が簡便・確実 3.高感度 → 1コピー遺伝子の検出が可能 <機能性プローブ技術の応用> 1.新規定量的PCR 1.新規定量的PCR装置 PCR装置 2.特定微生物モニタリング装置 3.次世代型発現解析チップ 4.新規 4.新規SNP 4.新規SNPs検出用デバイス SNPs検出用デバイス 参考資料21 参考資料22 参考資料23 参考資料24 参考資料2 本資料は、第1回「複合生物等生物資源利用技術開発」 (事後評価)分科会において、評価の事務 局である新エネルギー・産業技術総合開発機構技術評価部から、株式会社ダイヤリサーチマーテ ックへ関連技術の周辺動向調査を依頼したものである。 複合生物系等資源利用技術 周辺技術の概況(案) 目 次 1章.当該プロジェクトをとりまく状況 ............................................................................. 1 1.複合生物技術における多様な技術要素...................................................................... 3 2.国内外の関連プロジェクト実施状況 ....................................................................... 10 3.生物多様性条約(Covention on Biological Diversity :CBD)下における 生物資源アクセスの現状.......................................................................................... 17 (1)生物資源を巡るさまざまな国際機関による取り組み ....................................... 19 (2)各国の取り組み状況.......................................................................................... 20 4.複合生物関連技術の現状.......................................................................................... 21 第2章 個々の技術に関する動向調査............................................................................... 24 1.分離培養技術............................................................................................................ 24 (1)フローサイトメトリー ...................................................................................... 25 (2)マイクロフルイディスク .................................................................................. 26 2.遺伝子増幅手法 ........................................................................................................ 30 3.自然界からの直接機能DNAの取得 ....................................................................... 35 図リスト 図1 複合生物関連の多種多様な技術要素 .................................................................. 1 図2 農薬の分解機構 ................................................................................................... 4 図3 バイオレメディエーションのプロセス............................................................... 6 図4 複合生物系等生物資源利用技術開発の国外開発状況....................................... 10 図5 生物多様性条約(CBD: Convention on Biological Diversity) ..................... 18 図6 CBD に関連する他機関の動き ......................................................................... 18 図7 周辺技術の流れと物質生産............................................................................... 21 図8 分離セルの概念図 ............................................................................................. 27 図9 分離プロセスの概要.......................................................................................... 27 図 10 セルソーターチップの構造図 .......................................................................... 28 図 11 新規増幅法の例 ................................................................................................ 31 図 12 PCR 発展の例 .................................................................................................. 32 図 13 変異検出 PCR の例 .......................................................................................... 32 図 14 バイオ支援機器開発の重要性 .......................................................................... 33 図 15 PCR および DNA シークエンサーの市場変化(日本国内) .......................... 33 図 16 新たな注目を集める Real Time PCR.............................................................. 34 図 17 遺伝子資源収集法 ............................................................................................ 36 図 18 Diversa 社の技術と特許.................................................................................. 37 図 19 Diversa 社資源アクセス.................................................................................. 39 図 20 Diversa 社の経営状況 ..................................................................................... 40 表リスト 表1 代表的な地下水汚染浄化技術のコスト比較例(米国) ..................................... 7 表2 土壌修復のコスト比較 ........................................................................................ 7 表3 大気汚染の処理コスト ........................................................................................ 7 表4 水処理コスト....................................................................................................... 8 表5 土壌処理技術のコスト比較................................................................................. 8 表6 生物多様性条約への各国の対応 ....................................................................... 20 表7 分離技術別の有用情報数 .................................................................................. 24 表8 フローサイトメトリーによる生細胞の分取研究一覧....................................... 25 表9 微生物の分離・利用方法 .................................................................................. 36 表 10 Diversa 社の開発技術(抜粋)....................................................................... 38 1章.当該プロジェクトをとりまく状況 複合生物系とは、土壌中や水中の微生物同士の共生関係から始まり、動物・ヒトと腸内 細菌との共生、植物と微生物、昆虫と微生物まで、お互いに深く相互に多様な生物相が関 係を築きながら生育しているその生物系を指す。近年の微生物の取扱いや解析手法の進展 により、土壌中には多くの難培養性微生物が存在することが示唆された。その難培養性微 生物の土壌中における存在比率は、現在我々が扱うことができている培養可能な微生物の 100 倍から 1,000 倍といわれ、かつそれらの未知の微生物には多くの有用な機能が備わって いることが期待されている。 土壌中・水中さまざまな場所に存在する微生物を資源として利用するには、図1に示し たような多様な技術要素をクリアすることが課題となる。それには非常に幅が広く多様な 技術が存在する。以下に主な技術要素とその利用の現状を簡単に記す。 複合生物系 基本的な 技術開発 再構築 分離、培養技術 遺伝子資源の蓄積が 必要 フローサイトメトリー マイクロフルイディクス 未知微生物の探索 微生物情報 データベース 機能解析技術 微生物バンク 微生物解析・同定技術 DNA解析など 複合生物系としての利用 各種生物 ゲノム配列 情報 環境修復 有用物質生産 モニタリング 馴化 実証試験が 始められて いる (株)ダイヤリサーチマーテック作成 図1 複合生物関連の多種多様な技術要素 この多様な技術の多くは、分子生物学・ゲノム工学の進化による技術革新に支えられた。 参考資料 2-1 その結果 1990 年代後半には、新たな手法を用いることによりいままで不可能であったよう な解析を迅速かつ正確に実施することが可能となった。具体的な例としては、16SrRNA(リ ボゾームの小亜粒子の重要構成成分:進化速度が遅いため微生物系統樹の指標として使用 される)を PCR をつかい、高速に検出する手法などが挙げられる。 また、これらの技術発展を駆使して、今までは微生物を介してその遺伝子を収集したも のが、サンプル中から直接遺伝子を収集することができる手法も開発された。これらの動 きを総称してメタゲノムとも呼ばれている。 一方、1990 年頃より、遺伝子資源に対する資源国側の権利意識が芽生えてきた。さらに 微生物を資源として捉え、国家レベルで収集していこうという NBRC(生物遺伝資源センタ ー)の役割も重要視されてきた。ただし、Science に掲載された論文に著名な微生物学者 G.Strobel が指摘しているように、どんなによい素材をあつめたとしても利用していく技術 の開発および多額の研究費を投入してはじめて産業利用が可能となるという視点もあり、 今後微生物あるいは複合微生物利用技術はますますその重要性が増すものと予測される。1 参考資料 2-2 1.複合生物技術における多様な技術要素 (1)分離培養技術 微生物の分離培養技術については、1980 年中頃より血球などの分離に使われたフローサ イトメトリーを微生物の分離や濃縮に応用する試みが始まっている。まず、1994 年、米国 クリスプス研究所とカリフォルニア大学において、海綿(Dysidea berbacea)に寄生する 糸状シアノバクテリアを分離した例2に始まり、1997 年にはドイツのマックスプランク研究 所は、活性汚泥から分布数の少ない微生物層を 280 倍に濃縮した例を報告している。3ただ し、分離が可能になってもこの微量微生物を利用するには、単離された微生物の培養方法 の開発が必要となる。また、2002 年夏には米国カルフォルニア大学より、微生物の単利を を可能とするナノテクを基盤としたポリカーボネイト皮膜された新規フィルターの開発が 報告されている。4 (2)微生物同定技術 微生物同定技術においては、バイオマーカーとして、例えば、従来より微生物系でよく 保存されており、進化上での類縁関係を示す分子として知られている 16SrRNA がある。こ の配列を直接的に比較する手法が、1980 年代には、分子生物学的手法の発展により可能と なった。さらに 1990 年代半ばには、遺伝子増幅手法である PCR 手法の進化により、遺伝 子多型を解析することが可能となり、配列の詳細な違いまで明らかにすることが可能とな った。例えば、1995 年に Vos らにより開発された技術 AFLP(amplified restriction fragment length polymorphism)5を微生物の遺伝子多型の解析に応用した報告が 2000 年 にベルギーのゲント大学6からなされた。このように遺伝子増幅手法を利用した微生物遺伝 子多型を利用した微生物の解析技術が 1990 年代後半から増えてきた。まだ限られた微生物 群にしか利用できないが、微生物ゲノム解析の進展やゲノム工学の進展とあわせてこの種 の解析が広く行われていくと考えられる。 (3)微生物同定技術 機能解析技術においては、DNA や蛋白質を含むバイオチップやファージディスプレイな ど各種の蛋白質ディスプレイ技術、あるいは機能推定技術としてのバイオインフォマティ クスにおける進展がみられている。 実際に、1998 年米国ミネソタ大学では、残留農薬(アトラジン)を分解する複合微生物 系に関してその分解過程に関わる遺伝子、蛋白質を機能解析した。7アトラジンとは、日本 でも 30 億円程度の市場を形成しており、米国ではもっともよく使用されている農薬の 1 つ である。まず分解に関与する遺伝子を単離し、得られた情報を基に複合生物系を探索して、 分解に関わる新たな微生物を発見し、そのブラックボックスであった分解のメカニズムを 明らかにした。具体的には、4種類以上の微生物からなる複合生物系から単離されたアト ラジン分解菌(Pseudomonas sp.strain ADP)における3種類の分解酵素をコードする遺 参考資料 2-3 伝子をクローニングした。これらの遺伝子をバイオマーカーとして、土壌中の複合生物系 を解析して、CN1(Pseudomonas sp.strain CN1)と Clavibacter michiganeseATZ1 の 2 つの菌が基本の分解を担当し、さらに特定はできなかったが何種類かの微生物がその反応 を促進していることを示した。まず ATZ1がアトラジンをアタックし、N-エチルアンメリ ドまで分解し、その後 CN1によりシアヌール酸まで分解された。8(図2参照) 4種以上の微生物から構成される複合生物系 Pseudomonas Clavibacter michiganese ? sp. strain CNI ATZI ? Clavibacter michiganese ATZI AtzA Cl N N H2O HCl N N N N N Atrazine 塩素 AtzC AtzB OH H 2O H 2 N OH N N N N HO N N N hydr o xyac e azin e Pseudomonas sp. Strain CNT cyanuric acid N- e th ylam m elide H 2O H 2 N OH Appl. Environ. Microbiol (1998), 64(1), 178-184 University of Minnesota N HO OH N N N N HO N N OH AtzC 図2 農薬の分解機構 (4)複合生物の利用 複合生物を効果的に利用することによって、環境修復や環境モニタリングなど環境改善 にも有効な結果が示されている。環境修復へ向けたバイオレメディエーション技術利用の 特徴、環境モニタリングに利用される手法等を概説する。 1)環境修復 ・バイオレメディエーション(BR) 参考資料 2-4 BR とは、微生物の代謝機能を巧みに利用して環境負荷物質を分解したり、無害化して最 終的に炭酸ガス、メタン、水、無機塩、バイオマスなどに変換してしまう技術である。 そのため、一時的な対策ではなく恒久的な浄化を行うことが可能である。微生物による炭 化水素の分解は、自然に行われている作用であるため有機塩素系化合物や石油系炭化水素 など、ほとんどの有機化学物質の浄化に適用可能である。 BR 技術の特徴は、微生物の化学物質分解機能を活用して汚染した環境を修復する点にあ る。原位置(オンサイト)で汚染物質を分解・除去でき、外部エネルギーをあまり必要と せず、焼却処分法や産業廃棄物として処分する方法に比べコストが1/2から1/3程度 と経済的にすぐれているという特徴がある。BR 技術は①バイオスティミュレーション (Biostimulation)(汚染した土壌・地下水に窒素、リン、有機物、空気等を導入し、現場に 生育している微生物の浄化活性を高める方法)②バイオオーグメンテーション (Bioaugmentation)(汚染現場に浄化微生物が生育していない場合に、培養した浄化微生物 を導入して汚染環境を浄化する方法)の二つに区分される。 BR における最も重要なポイントは、有害物質を分解する微生物をいかに有効に活用する かということである。BR のプロセスを以下に述べる。 BRでは汚染の状況を正確に把握した上で対策を立てる必要がある。即ち汚染物質の種 類と濃度、汚染の広がり、汚染土壌の物理化学的性質、地下水の水理学的特性を調べる必 要がある。ついで現場における汚染物質の分解の可能性を明らかにし、分解が困難な場合 には、汚染物質を分解する微生物の分離、育種を試み、さらに分解微生物の特性を把握す る。ついで状況に応じて、個体処理、スラリー処理、原位置処理、バイオリアクター等の 中で最も適した処理方法を検討し、さらにパイロットスケール規模での試験を実施したう えで現場への適用が決められる。以上のように、BRの実施に至るまでには、生物、化学、 工学など多くの分野の研究と知見が必要である。 BR プロセスの評価として以下のことを考慮することが求められる。 すなわち BR は生物的なシステムであるので、一日 24 時間、一週間に7日間休みなく稼動 している。生物化学的プロセスは、pH 値と温度を最適な範囲にすると効率よく働く。微生 物には反応速度を高めるための物質、通常は酸素と栄養源を供給する必要がある。 多くのシステムでは、有機汚染物質を分解して炭酸ガスと水およびバイオマスが生成す るが、そのプロセスの間には中間生成物が生産されることがある。嫌気性の雰囲気では他 の副生物が生じることもある。このような反応は現場では自然に起こるが、BR ではこのよ うな副生物を生産する反応が最小になるように設計する必要がある。 BRのイニシアルコストとランニングコストは、汚染物質の種類、現場の条件、処理す る容積、現場の修復値の目標値などによって決まる。BRの主な費用には、液体や土壌を 反応ゾーンに移動させるコスト、酸素を供給するコスト、営業源を調合するためのコスト などが含まれる。 参考資料 2-5 汚染現場の調査 ・ 汚染物質の種類、濃度、分布 ・ 土壌の種類 ・ 水理、地質学的特性 汚染分解微生物の分離・育種 汚染物質分解微生物の特性把握 処理システムの検討 図3 バイオレメディエーションのプロセス BR法の適用限界は、まず混合汚染への適用に関する制約である。BR プロセスにおいて は、全てその適用範囲が生物分解可能な汚染物質に限られる。従ってそうでないものとの 混合物では、BRと他の修復技術を組み合わせなければならない。一般的に土壌のBRは、 粘土質で透水性の低い土壌には適用が難しい。第二に高濃度汚染への適用に関する制約で ある。生物分解可能な成分を含む場合でも、汚染濃度が高い場合や修復の目標レベルが高 い場合には難しい。第三にBRは生物反応であり、その分解速度は微生物の増殖速度と分 解活性に支配されており浄化に長時間を要することである。汚染現場が広大な土地を有し、 かつ浄化期間の制限がない場合は最適であるが、建設工事のように工期が定められた中で 浄化をおこなわなければならないような事態が生じた場合にはその浄化期間が問題になっ てくる。 BRの経済性に関しては、現場の条件により変わるので一概には云えない。汚染物質、 濃度、処理量、サイトの施行、環境条件、地域住民との関係、自治体の規制等によって設 備費、ランニングコストとともに大きく変わってくる。ここでは、いくつかのケースを他 法との比較も含めてまとめた。 ①石油系炭化水素汚染土壌の浄化 ・熱脱着法で油分濃度5%、含水率 20%の汚泥土壌を対象に、5t/h の処理能力を有する装 置で1年間運転したときの処理コストを試算した。熱脱着法は、汚染土壌を加熱するこ とで土壌から汚染物質を揮散、脱着させ、汚染物質を回収するとともに浄化された土壌 の埋め戻しを行う。実機での運転の結果、設備の償却も含めた処理コストは汚染土壌1t 当たり5∼10 万円であった。 ・BR法 参考資料 2-6 油分濃度 2000g/kg(H.C 濃度:3000mg/kg)の軽油汚染土壌 10,000m3 をソイルパイル で処理すると仮定した場合の処理コストの試算は、汚染土壌1t 当たり1∼3万円であっ た。熱脱着法に比べBR法は処理コストは安くなることが推察される。 ②地下水汚染の浄化 米国における TEC 汚染浄化の他法との比較例を示す。TEC 濃度 10mg/L、汚染の広が りは約 60m×60m、汚染帯水槽の深さは約 15m と想定した。 表1 代表的な地下水汚染浄化技術のコスト比較例(米国) 処理法 揚水曝気法 土壌ガス吸引/エアスパージング 化学処理法 水素徐放剤(HRC)注入 浄化年数 6年 6年 2年 3年 概算浄化費用 $876,000 $1,068,000 $1,636,000 $316,000 (注)*HRC 法はリジェネシス社(米国)が自然浄化を促進する商品として開発した。 乳酸化合物を主成分とし、地下水に注入すると嫌気的に分解し水素イオンを放出 塩素化合物の塩素イオンと反応する。残りはエチレンになる。 *米国での比較例につき、日本の価格を反映したものではない ③環境汚染(土壌、大気、水)の生物学的、非生物学的処理コスト(オランダ) 表2 土壌修復のコスト比較 土壌修復法 浄化コスト(ギルダー/トン) in situ ・BR 法 ・抽出法 ・電気的再生利用法 ・蒸気取去法 ・70∼150 ・125∼150 ・150∼300 ・250∼300 on/off site ・ランドファーミング法 ・抽出法 ・熱処理法 ・50∼140 ・120∼240 ・100∼300 (注)ランドファーミング法はBR法の一つである。 表3 大気汚染の処理コスト 大気処理 ・バイオフィルトレーション法 ・生物学的 ・化学的 ・吸着法(活性炭) ・燃焼 ・触媒作用 処理コスト(ギルダー/1000m3) ・0.50∼5.00 ・3.00∼6.00 ・1.00∼>20.00 ・1.00∼10.00 ・2.50∼25.00 ・2.50∼20.00 参考資料 2-7 し、 表4 水処理コスト 水処理 ・BR法 ・底汚沈降法 ・浮遊法 ・吸着法 ・化学的酸化 ・超濾過 処理コスト(ギルダー/m3) ・0.10∼1 ・0.05∼30 ・0.10∼2 ・1.00∼10 ・0.50∼>5 ・<1.00∼20 ④ex site 土壌処理技術のコスト計算(ドイツ) 表5 土壌処理技術のコスト比較 方法 ・熱処理(燃焼)法 ・物理化学的手法 ・微生物処理法 処理コスト(ドイツマルク/トン) ・80∼450 ・20∼200 ・50∼150 以上の結果から、BR法は他のレメディエーション法と比較して経済性において優位性 があると思われる。 2)環境モニタリング 複合生物系の相互作用を利用して有用物質を生産したり、有害物質・環境汚染物質を分 解したりするためには、その物質の生産・分解に関与する特定の微生物各々の生育及び活 性化の環境条件を整備することが必要である。特に生産率向上には、その特定の微生物以 外の微生物を分離、不活化したり、または逆にある種の微生物の添加も必要となる。また 微生物自体のの反応による環境条件の変化に対応して、それに続く反応の最良環境条件を 人為的に変化・整備することが重要である。こうした制御を可能にするためには微生物の 生育状況等を迅速あるいはリアルタイムにモニタリングする技術の開発が必須である。 複合生物の迅速モニタリングシステムとしては次のようなものがあげられる。 ①物理的方法 (a)電気泳動法 ・通常の電気泳動法 微生物を荷電粒子として、拡散現象を人為的に加速して分離能を向上させる。 ・キャピラリー電気泳動法 キャピラリーに緩衝液を満たして分子篩い的に微生物を分離する。 ・リソグラフィー加工したマイクロキャピラリー電気泳動法 リソグラフィー法で基板表面に任意の形状と任意の幅、深さの溝を作成し、基板全体 を電場中に置いて、微粒子の大きさにより微生物を分離する。 参考資料 2-8 ・誘電泳動法 不均一な定常的な交流場に置かれた微粒子群が横断的な運動をする現象を利用した 微生物分離法 (b)フローサイトメトリー 細胞・微生物試料を多くの場合蛍光物質でラベルし、懸濁液にしてから高速度の水流に し、これにレーザー、水銀ランプ等の微細光を照射し、生じる散乱光や励起された蛍光強 度を測定し、試料の量、大きさを定量する。 (c)分子ビーコン 均質溶液中の特定な核酸物質の存在を検出するのに有効な特殊な新しい型の核酸プロー ブを用いる方法。このプローブは目標とハイブリダイズすると立体配座変化をおこし、自 発的に蛍光を発する。 ②化学的方法 (a)高感度 FISH 法 モニタリング技術として CARD(catalyzed reporter deposition)-FISH と呼ばれる高感 度 FISH 法が開発されている。 (b)バイオセンサー 発酵の不調により生じる代謝物(低級脂肪酸等)を計測する (c)代謝系遺伝子のモニタリング技術 主要な菌の消長を検出するために、key enzyme をモニタリングする (d)PCR 法 ターゲット遺伝子をモニタリングする 参考資料 2-9 2.国内外の関連プロジェクト実施状況 欧米においては、日本に先駆けて国家レベルで複合生物系に関する研究プロジェクトを 立ち上げている。これ等の複合生物系関連プロジェクトについて調査したところ、日本の ように複合生物系のみを対象としたプロジェクトはなく、環境、微生物や分子生物学とい う大きなプログラムの一部として複合生物系プロジェクトが実施されているようである。 これらのプロジェクトの中で、特に予算規模の大きなものについて取り上げる。(図4参 照) 国 省 Program名 1996 BIOTECH-1 1997 1998 年 度 1999 2000 2001 2002 高精度微生物自動同定と関連生態系への適用 (1.42百万 百万€) 百万 (161件 件 186百万 百万€, 件 百万 4年 年) 欧州 BIOTECH-1、2 IMPACT(作物の根圏における接種及び既存微生物間の相互作用) (作物の根圏における接種及び既存微生物間の相互作用)(2.33百万 百万€) 百万 ( 507件 件 596百万 百万€ 件 百万 4年) 年) MAST-3 AIMS(Automated Identification of Microbial Subpopulations) 微生物サブポピュレイションの自動同定 ( 456件 件 243百万 百万€ 件 百万 4年 年) 沈殿物中のPCB脱塩素における微生物相の動力学 (51万ドル) 米国 環境省 STAR (200件、1億ドル/ 年) 原水及び飲料水に発生する微生物のDNAマイクロアレイによる検出(52万ドル) 国立科 MO 学財団 (350万ドル/2000 San Pedro 海峡からの難培養性細菌Archea 及びProtistaの発見と同定 (126万ドル) 年度) 非培養海洋ピコプランクトンの遺伝的多様性、遺伝子内容及び遺伝子潜在性 (129万ドル) BE (1.365億ドル/2001 年度) 昆虫が植物を食するのを仲介する共生微生物の遺伝生態系的解析の統合 (220万ドル) ― エネル ギー省 バイオレメディエイションにおける分解能力推定のための遺伝子プローブ法の開発 (106万ドル) ― ? 質量分析機によるバイオレメディエイションにおける微生物相の迅速DNA解析 (68万ドル) (株)ダイヤリサーチマーテック作成 図4 複合生物系等生物資源利用技術開発の国外開発状況 1)欧州 欧州の複合生物系の主な研究開発プロジェクトとしては、欧州連合のバイオテクノロジ ー・プログラム(EC DGXⅡ)に属する「BIOTECH-1」及び「BIOTECH-2」が挙げられる。 また欧州委員会による「フレームワークプログラム」の第 4 委員会のプログラムの一つで ある「MAST-3」(Marine Science and Technology Program-3)の中にも関連するプロジ ェクトが見うけられる。 (1) 「BIOTECH-1」及び「BIOTECH-2」 「BIOTECH-1」は農業、工業、健康、栄養及び環境分野への利用のため共通基盤となる基 参考資料 2-10 礎的知見強化のためのプロジェクトであり、期間は 1990 年∼1994 年の 4 年間で、全プロ ジェクト数は 161 件、全予算は 186 百万€(1€=120 円として約 223 億円)であった。 また「BIOTECH ー2」は「BIOTECH-1」に引き続いて実施され、加速度的に進歩した分 子生物学や細胞生物学を利用しバイオ技術を実用化して、その成果を産業や社会の利益に 結びつけることを目的とするものであり、1994 年∼1998 年の 4 年間で、全プロジェクト 数 507 件、全予算は約 596 百万€(約 715 億円)であった。 プロジェクト名: Ecological and molecular study of gene-mobilizing capacity of soils and related ecosystems (土壌及び関連生態系の遺伝子易動性に関する生態学・分子生物学的研究) 実施機関: Dienst Landbouwkundig Onderzoek 研究期間: 1993.01.01∼1998.08.31 研究予算: 1.42 百万€(約 1.7 億円) 内容:目的はプラスミドやトランスポゾンのような易動性の遺伝子の土壌中での発生や役 割についてについて既存及び新規の方法 (外因性や内因性のプラスミドの分離や PCR 法等) を用いて評価を行う。 プロジェクト名: High resolution automated microbial identification and application to biotechnologically relevant ecosystems (高精度微生物自動同定と関連生態系への適用) 実施機関: Gesellschaft für Biotechnologische Forschung mbH 研究期間: 1995.01.01∼1997.06.30 研究予算: 内容:このプロジェクトの目的は、微生物を迅速に、信頼性高くかつ安価に同定できる自 動的な方法を開発し、特に問題となる菌類を使ってそれを比較、検証することである。目 標としては、特に未知の微生物の迅速、正確な自動化同定技術の開発、新技術に適したデ ータベースの確立、分類学、コスト、利便性の面からこの技術が環境試料に適応できるか どうかの評価に置いた。16S 及び 23SrRNA の配列データを中心に他の指標との相関を検 討し、配列データベースは 7,000 以上に達した。 プロジェクト名: IMPACT(Microbial interactions between innoculants and resident populations in the rhizoshere of agronomically important crops in typical soils) (作物の根圏における接種及び既存微生物間の相互作用) 実施機関: National University of Ireland, Cork 研究期間: 1993.09.01∼1996.08.31 (BIOTECH-1) 参考資料 2-11 1996.11.01∼1999.10.31 (BIOTECH-2) 研究予算: 2.33 百万€(約 2.8 億円) (BIOTECH-1) 内容:目的は作物の根圏での農業的見地から重要なプロセスの理解、操作及び予測を可能 にする微生物生態分子的アプローチをしようとするものであるが、プロジェクト目標は根 圏の生態系に対する野生種と遺伝子組換え種の影響を解明することである。野生種と遺伝 子組換え種のモニター法として PCR 等の分子生物学的法を開発することが、一つの開発項 目となっている。具体的には ARDRA(Amplified Ribosomal DNA Restriction Analysis)に よって株を同定し、RAPD(RAndom Amplified Polymorphic DNA markers)によって、種 を同定する。そして、これらをデータベース化し、指紋領域を比較することによって自動 的に評価するシステムの開発を目指している。 (2) 「MAST-3」 「MAST3」は海洋の持続可能な利用や地球の変化に対する海洋の役割を調べるために、 水槽の規模で必要な科学技術的知見を得ることを目的とするプログラムで、期間は 1994 年 11 月∼1998 年 12 月、プロジェクト数 456 件、総予算は 243 百万€(約 292 億円)であっ た。この中から AIMS プロジェクトについて紹介する。 プロジェクト名: AIMS(Automated Identification of Microbial Subpopulations) 微生物サブポピュレイションの自動同定 実施機関: Marine Biological Association of the United Kingdom 研究期間: 1997.10.01∼2001.03.31 研究予算: 内容:AIMS はフローサイトメトリー技術を用いて海洋微生物数を測定すると共に、細胞の 性質を測定する技術を開発するプロジェクトである。 「MAST3」では植物プランクトンの細胞数を測定するための「EUrOPA」と呼ばれるフロ ーサイトメトリーが既に開発されており、さらに、自動的に植物プランクトンをサンプリ ングして測定する「Cytobouy」と呼ばれるフローサイトメトメーターも開発された。AIMS は、これ等の成果を発展させて、植物プランクトンと微生物の細胞数とそれらの細胞の性 質を測定する装置及びソフトウェアを開発することを目的とする。具体的には、植物プラ ンクトンについては、クロロフィルの蛍光を連続測定すると共にrRNA プローブを用いた 測定もあわせて行い比較検討する。このような複数のデータを組み合わせることにより、 従来定性的であったものを定量的に行うソフトウェアを開発する。 2)米国 米国では環境保護庁、国立科学財団、農業省、エネルギー省で複合生物系に関するプロ ジェクトを実施している。 参考資料 2-12 (1)米国環境保護庁(U.S. Environmental Protection Agency: EPA) 同庁の実施している研究プロジェクトの内、複合生物系に関するものは 2 つあるが、そのう ちの一つに、環境モニタリング及びアセスメントプログラム(Environmental Monitoring and Assessment Program: EMAP)がある。これは米国におけるエコロジーの状況とトレ ンドをモニタリングし、評価することを目的とした研究プロジェクトであるが、この中の エコロジー指標に関する大学の研究に「STAR」(Science to Achieve Results : STAR)とい う研究費を援助するプログラムがあり、この研究の中に複合生物系の研究が含まれる。 「STAR」プログラムは 1997 年以降年間の予算枠は1億ドル程度で、年間約 200 件のテ ーマの資金援助を行っている。この「STAR」プログラムは広範囲な分野の多数のプロジェ クトを包括しているが、複合生物系に関しては、1995 年頃から研究援助が始まり、毎年数 件から 10 件程度が実施されているようである。当初は培養が困難なことでブラックボック スであった複合生物系を分子生物学的手法によって解析するものが殆どであったが、複合 生物系による塩素系有機化合物の分解過程における微生物相の変化等の追跡が出来るよう になりつつあることが分かる。最近では下記に示すように DNA マイクロアレイ法による原 水及び飲料水中の微生物分析の研究も行われている。予算規模の小さいプロジェクトが多 いようであるが、その中で比較的大きな 2 件を以下に示した。 プロジェクト名: Microbial community dynamics of PCB dechlorination in sediments (沈殿物中の PCB 脱塩素における微生物相の挙動) 実施機関: New York State University 研究期間: 1997.01.01∼1999.12. 31 研究予算: $508,964 内容: セントローレンス川の沈殿を用いて、従来法である MPN(most probable number) 技術により、脱塩素微生物の細胞数を決定し、その後 16S-rRNA ハイブリダイゼイション. プローブを使った手法と化学的分析法を組み合わせて、複合生物系による PCB の脱塩素の 機構を解明した。 プロジェクト名: Detection of emerging microbial contaminants and drinking water with DNA microarrays (原水及び飲料水に発生する微生物の DNA マイクロアレイによる検出) 実施機関: Battelle Memorial Institute Pacific Northwest Div. 研究期間: 2000.03.01∼2003.03.01 研究予算: $517,818 内容:DNA マイクロアレイ法は原水及び飲料水中の多数の病原菌の high throughput 検出 法として有望であると思われるが、遺伝子や医薬開発への利用に集中して、環境分野への 利用は遅れている。本研究は DNA マイクロアレイ法の環境試料に対する初めての適用であ 参考資料 2-13 り、プローブ、蛍光ラベル等の検討を通じで、同法が培養・PCR に基づく分析法の限界を 克服できるかを検討する。 (2)米国国立科学財団(National Science Foundation: NSF) 米国国立科学財団は米国の基礎研究に対し研究助成する機関であり、バイオ分野への研究 助成は 5 分野に分類されている。複合生物系に関する研究は、環境バイオ及び分子生物学、 基盤技術の一部である。 2000 年に複合生物系に関係する 2 つの研究分野が発表された。 「微 生物観測(Microbial Observatories: MO)」及び「環境中のバイオ複雑性(Biocomplexity in the Environment: BE) 」である。 1)「MO」 「MO」は未知の微生物の探索が主目的であり、微生物の多様性や系統学的関係、相互作 用などを解明することを目指しており、2000 年度に 350 万ドルで 5∼10 テーマを研究助成 することになった。現在このプロジェクトは 44 テーマを包括しているが、この中で特に大 きいものを 2 件示した。 プロジェクト名: Discovery and characterization of uncultivated bacteria, Archea and Protista from the San Pedro Channel time series (San Pedro 海峡からの難培養性細菌 Archea 及び Protista の発見と同 定) 実施機関: University of Southern California 研究期間: 2000.09.01∼2004.09.30 研究予算: $1,259,667 内容: このプロジェクトは最新の分子生物学的アプローチを用いて、培養することなく、 直接自然の生態系から微生物を発見し同定することを目指している。従来の蛍光プローブ 法でフィールド試料の微生物の定量を行い、また統合された同位体蛍光プローブ法により 試料中の優先種の生理的な性質を検討する。この研究で新種の微生物を発見し、培養を可 能化し、地球上に最も多く生息しているが殆どわかっていない海洋生物群の構成と活動を 解明する。 プロジェクト名: Environmental genomics and microbial observatories: Analysis of uncultivated marine picoplankton (環境遺伝子学と微生物観測:非培養海洋ピコプランクトンの遺伝的多 様性、遺伝子内容及び遺伝子潜在性) 実施機関:Institute for Genomic Research 研究期間: 2000.10.01∼2003.10.01 参考資料 2-14 研究予算: $1,290,074 内容:海洋の一次産物の 20∼50%を消費するとされるピコプランクトン(径 0.2∼2mm) の殆どは培養困難であるが、本プロジェクトの目的は最新のゲノム技術を使ってこのピコ プランクトンの特性を明らかにすることである。特に自然界のピコプランクトンの長い挿 入染色体 DNA の配列、アノテーションを分析することで、遺伝子の構成や機能蛋白の分布 が初めて明らかになる。この研究により、大洋のエネルギーや物質の変化の仲立ちをして いる非培養微生物に関する知見が増える。また海洋複合生物系の多様性や遺伝子発現の high throughput モニタリングのためにデザインされた DNA マイクロアレイの設計にも必 要な情報を与える。 2)「BE」 「BE」は地球環境問題とヒトの健康、エコシステムの共通部分として微生物の複雑系が あるという認識のもとに、微生物の複雑性(Biocomplexity)に関する研究を行う総合的な プログラムである。この中に複合生物系に関する研究がとり入れられている。2001 年度の 予算は1億 3,650 ドルである。 このプロジェクトでは共生微生物に関する研究が採択された。しかし共生微生物の実態を 解明することが目的であり、積極的に複合微生物系を利用しようという段階ではない様に 思われる。 プロジェクト名: Integrating genomic and ecological analysis of symbiotic Bacteria that mediate insect herbivory (昆虫が植物を食するのを仲介する共生微生物の遺伝生態系的解析の統合) 実施機関: 研究期間: 2000.10∼ 研究予算: $2,218,180 内容:植物の根系に於ける昆虫は共生微生物によって栄養供給を受けている。この共生微 生物の役割を遺伝学的に解明する。さまざまな環境における宿主植物の栄養状態と生長に 対する共生微生物の長期的な影響を調査する。 これら「MO」及び「BE」の 2 つのプログラムに見られるように、米国の基礎研究分野 においても複合生物系の重要性が認識され始めていることがうかがえる。しかし、現状で はまだ、複合生物系を解析する技術、微生物を単離同定する技術といった基盤整備の段階 であると位置付けられていることがわかる。 (3)米国エネルギー省(U.S. Department of Energy: DOE) 米国エネルギー省における微生物に関する研究プロジェクトは非常に多い。複合生物系に 参考資料 2-15 関するものは、高温条件下での微生物相や海洋プランクトン、汚染地域の微生物相など対 象はさまざまであるが、いずれも遺伝子情報をもとにした解析を行っている。また、培養 困難な微生物の遺伝子情報を用いた解析も行っている。 プロジェクト名: Development and application of gene probe to determine degradation potential and to improve in situ bioremediation efforts バイオレメディエイションにおける分解能力推定のための遺伝子プロー ブ法の開発 実施機関: Envirogen Inc. 研究期間: 1994.07.21∼1997.06.20 研究予算: $1,059,842 内容:新しい DNA プローブ法(new arbitrarily primed PCR)を開発し、実際の汚染現場 で微生物相を解析した。培養できない微生物も解析できた。分解の進行に伴う微生物相の 変化をモニターするには更なる最適化が必要。 この他 DOE では、1996 年 8 月から環境マネージメント(Environmental Management Science Program Research)に関する研究助成を行っている。その中に 複合生物系の関連する下記のプロジェクトがある。 プロジェクト名: Rapid Mass Spectrometric DNA diagnostics for assessing microbial activity community during bioremediation (質量分析機によるバイオレメディエイションにおける微生物相の迅速 DNA 解析) 実施機関: ローレンス・バークレー国立研究所 研究期間: 1996∼ 研究予算: $675,000 内容:これまでの研究で、DNA 解析によりバイオレメディエイションにおける微生物の挙 動を分子レベルで調べられることがわかった。この方法は、複数の微生物の挙動解析や、 複合生物の活性測定に役立つシグナル検出に応用できる。質量分析は、高感度かつ迅速に DNA 解 析 を 行 え る 可 能 性 が あ る 。 PCR 法 と 質 量 分 析 ( MALDI-MS: Matrix-associated-desorption-ionization Mass Spectrometry)を組み合わせることにより バイオレメディエイションにおける微生物相を解析する手法を開発する。 しかしこれらの研究は年間数千万円程度で、数年間の研究であり、大規模研究プロジェ クトとはいい難い。またこれらの研究は 2000 年以前に終了している。一方、DOE では 1997 年より微生物ゲノムプロジェクトおよび 2002 年より微生物細胞プロジェクトをスタートさ せ微生物のゲノム解析に関する研究プロジェクトが主体と考えられる。 参考資料 2-16 3.生物多様性条約(Covention on Biological Diversity :CBD)下における生物資源アクセ スの現状 CBD は、生物資源の保全と利益の最適分配を目的とした条約であり、現在では日本他 180 カ国余りが批准している。また、CBD はアクセスと利益配分の義務化(Access and Benefit-sharing:ABS)を条約として掲げてあり、ここが先進国と発展途上国の議論の焦点 となることが多い。 途上国においては、生物資源(遺伝資源)へのアクセスを規制する権限は原産国の政府 にあり、その資源を利用した企業は商業的利益を生産国に配分する義務があることを主張 し、その結果として生物多様性条約が成立した。しかし、生物資源のアクセスと利益配分 (Access and Benefit ー sharing:ABS)は、多くの要素からなる複雑な問題であり、南北問 題の一環として、今後長期的にわたって議論されていくと考えられる。この ABS が問題と してあげられた経緯には、微生物や植物中の成分を利用して数多くの医薬品が作り上げら れ、大きな市場を形成するにも、その利益配分が資源原産国に存在しないことに対する資 源国の不満からであった。 その後、1992 年、国連環境会議を主体に定められた(Covention on Biological Diversity : CBD)は、さらに2年ごとに締結国会議(The Conference of the Parties: COP)をひらき、 その CBD の具体的な取り組み方や対応を検討し続けている。さらに、ある資源を利用して 特許が成立した場合においての資源国の権利や、伝承医学に対する特許権の付与の正当性、 あるいは各国間の政治的戦略などが絡み、①世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization:WIPO)や②世界貿易機関(World Trade Organization:WTO)に議題 としてあげられるなど、環境問題にとどまらず、幅広い場面での重要な議題として提案さ れている。 今回の調査では、ここ 10 年間の CBD、WIPO、WTO など様々な国際機関による複雑な 取り組みの経緯を明確にし、資源国および先進国各国の取り組み、および両者の議論の焦 点などを調査した。 (図5、6) 参考資料 2-17 2000 1995 1990 第1回カルタヘナ議定書 政府間会合 (2000/12) フランス *LMO (Living Modified Organism)の安全な移送、 取扱い、利用 COP1(1994/10) バハマ *資金メカニズム CBD採択 (1992/5) ナイロビ COP2(1995/11) インドネシア *遺伝資源へのアクセス *生物多様性の保全と 持続可能な利用 地球サミット (1992/6) ブラジル 第2回カルタヘナ議定書 政府間会合 (2001/10) COP3(1996/11) アルゼンチン *農業の生物多様性 *資金メカニズム *重要な地域・種の特定と モニタリング、影響評価 *知的財産権 日本が条約 締結・批准 (1993/5) CBD発効 (1993/12) ブラジル MOP1(2002/4) 第1回カルタヘナ議定書 締約国会合 オランダ COP4(1998/5) スロバキア *伝統的知識、遺伝子資源の 利用から生じる利益の公正 で衡平な配分 182ヵ国が加盟 (2002/3現在) 但し、米国、タイが未締約 103ヵ国が署名 (2001/9現在) 5ヵ国が批准 日本、米国、タイ、 豪州、ブラジル、 ロシアは未署名 COP5(2000/5) ケニア *乾燥地、地中海、半乾燥 気候、草原地帯の生態 系持続 *遺伝資源へのアクセス COP: The Conference of the Parties COP6(2002/4) オランダ *森林の生物多様性、移入種、 利益配分 *ボンガイドラインの採択 COP7(2004) マレーシア (株)ダイヤリサーチマーテック作成 図5 生物多様性条約(CBD: Convention on Biological Diversity) 1990 177ヵ国加盟 (2001/7) パリ条約 (1883) *内外人平等の原則 *特許独立の原則 *優先権制度 APPI設立 (1897) 1995 2000 WIPO外交会議でPLT採択 (2000/6) *特許法条約 *特許出願手続きの簡素化 *国際的統一化 *出願人のミス救済 WIPO(1991) 特許調和条約の 基本案成立 WIPO第1回専門委員会(1985) *特許ハーモナイゼーション 条約の草案作りに着手 WIPO (世界知的所有 権機関) 177ヵ国加盟 (2001/3) 仲裁裁判所開設 (1999/12) WIPO設立 (1967/7) *知的所有権保護の国際的 促進 *知的所有権に関する条約、 国際登録業務の管理運営 112ヵ国加盟 (2001/9) PCT改革案提出 (2000/9) *出願手続きの一層の簡素化 PCT条約発効 (1978) *特許協力条約 143ヵ国加盟 (2001/12) WTO (世界貿易機関) SCP委員会設置(2000/11) *SPLT条約策定作業再開 (実体的特許法条約) WTO設立 (1995/1) TRIPs協定 1995/1 *知的財産権保護の遵守 すべき最低限の保護基準 *各国毎に段階的履行 (最終2006) WTO第4回閣僚会議 (2001/11) *中国、台湾が加盟 TRIPs(2000) *ロシア、東欧と開発途上国 延べ約120ヵ国に特許制度 施行 (株)ダイヤリサーチマーテック作成 図6 CBD に関連する他機関の動き 参考資料 2-18 (1)生物資源を巡るさまざまな国際機関による取り組み 1)生物多様性条約(Covention on Biological Diversity:CBD) CBD は、その目的を「生物多様性の保全、その構成要素の持続可能な利用、および遺伝 子資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」とする国際条約である。1992 年 CBD を採択するための最後の政府間交渉がナイロビで行われ、1993 年、生物多様性条約 (Covention on Biological Diversity:CBD)は、リオデジネイロでの国連環境開発会議 (United Nations Conference on Environment and Development: 通称リオ環境サミット) で締結された。条約は全部で 39 条からなり、内容は生物多様性の保全、生物資源の利用と 利益配分、資金、組織・手続などから構成されている。特に生物資源の利用と利益配分に 関しては、資源国と資源利用国(先進国)の間で、立場の違いから意見の対立がみられ、 締結後さまざまな形で話し合いが続けられている。 2)世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization:WIPO) 生物資源の議論の中で知的所有権制度の見直しまで含む議論が入ってきたのは、WTO 設 立以後の 1996 年 COP3以降のことである。 1999 年9月のコロンビア提案(特許法常設委員会 WIPO)の要旨は、 “特許保護を求め る製品またはサービスが本条約の締約国の秘湯を原産地とする遺伝子資源から製造または 開発されたものである場合には、出願人特許出願書類に当該遺伝子資源へのアクセスを認 める契約書の番号を明記し、その契約書の写しを添付しなければならない”である。多く の途上国がコロンビア提案を支持したが、先進国が強く反発したために、コロンビアは次 の修正案を 2000 年 9 月修正案を再提案した。その概要は“発明が遺伝子資源および/また は生物資源から得られた場合であって、その必要がある時には、締結国がこれらの資源へ のアクセスの合法性を証明する書面であって関係国内機関が発行したものの写しを国内特 許に提出することを要求することができる”であったが、先進国が再度拒否した。 2001 年5月 遺伝資源、伝統的知識、フォークロアに関する委員会(ジュネーブ、世界 知的所有権機関(WIPO))が開催され、下記のポイントに関して年に二回の会合にて話し合 うこととなった。 ・契約実務ガイドライン ・伝統的知識(Traditional Knowledge:TK)の知的所有権による保護の可能性の検討 ・フォークロア(先住民(indigenous and local communities)間に伝わる民間伝承)の表現を 保護するための国内法のモデル条約の改定 3)世界貿易機関(World Trade Organizaiton :WTO) 1995 年 WTO の創設に合わせて新たな貿易関連ルールの一環として発効した TRIPS 協 定(Agreement on Trade‐Related Aspects of Intellectual Property Rights:知 的 所有権の貿易関連の側面に関する協定)は、知的財産権の保護に関して WTO 加盟国が遵 参考資料 2-19 守 すべき最低基準(ミニマム・スタンダード)として機能しており、WIPO とともに、国際 的 な知的財産権制度のルールメイキングの両輪となっている。 意義 ・先進国、途上国を 問わず各国が遵守すべき知的財産権保護の最低基準を明確化した。2002 年 1 月時点で加盟 国・地域は 146 である。 (2)各国の取り組み状況 資源国側においては、国内法あるいは近隣地域間での地域協定を結び自国資源の権利保 護に取り組んでいる。また先進国においては、各国独自の考え方に基づき取り組み方に特 徴がある。これらを表6に示す。 表6 生物多様性条約への各国の対応 国 名 フィリピン 内 容 策定年月 独自の遺伝資源アクセス法を作成。世界初のアクセス規制(大統領令247号) 生物/遺伝資源の調査に関する実施規則および規定(省庁命令第96ー20号) 1995.5 1996.6 ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー、ベネズェラの5カ国。遺伝資源アクセスと利益配分 アンデス協定 で地域協定締結(カルタヘナDecision391)。各国はこれをベースに国内法を整備中。 1996.7 マレーシア 国家多様性政策を制定(政策、戦略、アクションプラン) タイ 植物品種保護法。 商業目的でその地方特有の植物品種を使用し得た利益を分配する協定締結が必要 植物品種の保全・開発者20%、集落の共同収入60%、行政機関・農民・共同組合20%分配 1999.1 独立の遺伝資源アクセス法(オスマル提案、政府案、Joequs Wagner提案)を作成中。 審議中 ブラジル インドネシア 1999 Conserving plant seed managementに関する法律として制定された 1995 先進国 米国 CBDを批准していない。遺伝子資源はフリーアクセスが基本との考え方。(生物資源の取引で 国際的条約は不要との立場)。基盤整備の必要性を認識し、調査研究資金を献金。 欧州 基本スタンスはフリーアクセス。遺伝資源移転契約ハーモナイズ化の動きがあるが、遺伝資 源獲得契約のハーモナイズ化の動きは未だない。商業利益の配分で利益範囲の特定の問題 やロイヤリティーの設定方法に関し具体的な検討開始。 日本 「新・生物多様性国家戦略」を策定した。当面の政策目標として①種の絶滅の防止②重要地 域の適切な保全③持続可能な方法による利用、長期的目標として多様な生態系と生物種の 保全と持続可能な利用 2002.3 (株)ダイヤリサーチマーテック作成 (3)生物資源を利用した大型薬剤例 一般名ビンクリスチン(商品名:オンコビン Oncovin/イーライリリー-)は、植物(ビン カ)アルカロイド系医薬品の一種で悪性リンパ腫や白血病を含む含むある種のガンの治療 薬や、イチイの木から取り出され、半合成品として改良されている 20 世紀最高の抗がん剤 といわれるパクリタクセル、ドセタクセル(商品名:タキソー ル. /ブリストル・マイヤ ーズ・スクイブ)などが植物から抽出された例である。 微生物由来の生産物で有名なものは、ペニシリンをはじめとした各種抗生物質、高脂血 症薬であるプラバスタチンナトリウム ( 商品名:「メバロチン」/三共製薬) 、FK506 ( タ ク ロ リ ム ス : 日 本 で 発 見 さ れ た 画 期 的 免 疫 抑 制 薬 、 生 産 菌 は Streptomyces tsukubaensis )などが挙げられる。 参考資料 2-20 4.複合生物関連技術の現状 (1)周辺技術の流れと物質生産の変遷 先に述べたように、当然のことながら、複合生物に必要な各種技術の進展は、バイオテ クノロジー全体の技術発展に大きく支えられている。ここでは、バイオテクノロジーの中 で主流を占める分子生物学の近年の発展を顧みる。 20 世紀は科学の時代といわれるが、同時に生物学の時代でもある。その幕開けの 1900 年にメンデルの法則の再発見により、遺伝という考え方が再発見された。その後、1940 年 代には遺伝子の本体が DNA であることが確認され、1953 年に DNA の2重らせん構造が ワトソン、クリック等により提唱される。1970 年代に、遺伝子組換え操作、塩基配列決定 技術が開発され、遺伝子の発現調節が可能になり、遺伝子産物の産業応用への道が開かれ た。1990 年代後半には、インフルエンザ菌に始まり、全 37 種の生物の全ゲノム塩基配列 が決定された。2000 年には、20 世紀掉尾を飾るできごととして、ヒトゲノムのドラフト配 列が公開されるにいたった。 1985 年、ダルベッコによりヒトゲノム計画が提唱された時には、まさに夢物語だったヒ トゲノム解析が 99.9%の精度で公開されるにいたるまでの技術の進歩は、目を見張るもの がある。こうしたここ半世紀の進歩を、時代の流れに沿ってまとめてみる(図7)。 従来のバイオテクノロジー ゲノム時代 1990 遺伝子組換え技術の進展 2000 ポストゲノム時代 ゲノム工学の進展 ヒトゲノム解析 ・国際プロジェクトス タート DNAレベルから 蛋白レベルの解析へ (ゲノ ム創薬etc) ヒトゲノム解析 解読終了 微生物ゲノム ・ Haemophilus influenzae イネゲノム SNPs(東大医科研) 完全長cDNA(Helix研) 糖鎖工学、蛋白工学 ゲノム解読 (Science 269, 496, 1995) 解読スタート (1991年) ・Saccharomyces cerevisiae (1997) ゲノム解読 配列決定方法の機能 向上 ・PCR ( 特許2 0 93 7 3 0) ・精度、スピード の向 上(US5747249) 配列決定法 (Sanger法) 機能推定方法 ・DNA配列の比較 (ホモロジー検索) 機能解析方法 ・DNAチップ(US 5744305) ・酵母ツーハイブリッド (US 5283173) Proc.Natl.Acad. Sci., USA 74:5463, 1977 Proc. Natl. Acad. Sci., USA 80: 726, 1983 DNAデータベース ・Gen Bank(1982) ・EMBL(1982) ・DDBJ(1984) 製品化 (解析スピードと コストの競争へ) Nature 326: 347, 1987 J. Mol. Biol., 215: 403, 1990 バイオインフォマティクス ・ホモロジー検索 FASTA BLAST ・モチーフ検索 プロテインインフォマティクス ・立体機能検索 ホモロジーモデリング 3D-1Dアライメント 〇 〇 〇 〇 二次元解析から 高次元解析へ 〇 〇 〇 〇 Science 253: 164, 1991 Proc.Natl.Acad. Sci., USA 87: 826, 1990 単一微生物による物質生産 蛋白質 CohenBoyer 遺伝子 組換え US4237224 IFN-α 特公平3-21150 特公昭63-61960 組み換え作物 GMトマト 抗体医薬 (ヒト化抗体) 複合生物による物質生産 Zenapax (1997) Herceptin (1999) G-CSF 特公平4-2599 特公平3-31437 エリスロポエチン 有用化学物質生産 オリゴ糖 特公平2-17156 (株)ダイヤリサーチマーテック作成 図7 周辺技術の流れと物質生産 参考資料 2-21 DNA 1970 年半ばからの 10 年間は、遺伝子工学の時代であった。制限酵素の開発、DNA 塩基 配列決定の基本手法であるサンガー法の開発、配列決定法の自動化、各種ベクターおよび ライブラリ―技術の開発など遺伝子組換え分野での技術の進歩があった。こうした技術の 進歩に支えられ、インスリン、B型肝炎ワクチン、成長ホルモンなどが生産された。当時 のベンチャー企業 Genentech 社、Amgen 社、Chiron 社、Genzyme 社等は、いまでは中堅 製薬会社へと成長を遂げている。この時代においては、長年培われた発酵プロセス法で世 界をリードする日本は、米国から最も手強い競争相手とみなされており、バイオテクノロ ジー分野において日本が世界に伍して競争力を持っていた時期であった。この時代に開発 された手法が、その後のバイオテクノロジー分野の基礎技術となって発展していく。 1980 年代半ばからの 10 年間は、1995 年以降のバイオテクノロジー分野の膨大なデー タ算出の時代を支える各種技術の開発改良の時代となった。1980 年代後半には、DNA シ ーケンサーの改良、発見された遺伝子を増幅する PCR 法の開発、シーケンス関連技術(シ ョットガン法・ベクターの改良)の開発等が行われ、次のステージの推進力となった。 また 1990 年代前半には、 IT 関連技術がバイオテクノロジーに適応できるように進化し、 大きくこの分野の発展に貢献した。膨大な情報を効率よく蓄積し、必要な情報のみ抽出 できるようなソフトウエアの開発、インタ−フェースの改良、多量なデータの蓄積や計 算ができるようなハードウエア(記憶容量の向上)および解析用ツールの開発が行われ た。 併せて遺伝子組換え産物の一つである蛋白質の機能および構造解析法の進化があった。 蛋白質の機能解析法として、酵母2ハイブリッド法が開発された。また、一度に多数の遺 伝子の発現が調べられる DNA アレイが数種類開発された。構造解析技術としては、従来法 のX線結晶解析や NMR の改良に加え、新たに Mass spectrometry の利用やコンピュータ による蛋白質構造推定法が開発された。 1990 年代半ばより、進化を遂げたシーケンサーとシーケンス技術に支えられ、蓄積され たデータをもとにコンピュータを駆使しながら網羅的に遺伝子およびその蛋白質を取り扱 う分子生物学の情報化時代が到来した。すなわち、今まで個々の遺伝子に対して行ってき た機能付けを、全ゲノムあるいはゲノム産物に対して行う網羅的な解析が試み始められる ようになった。遺伝子の機能付けとして、コンピュータを使用した機能予測手法が開発さ れた。蛋白質の機能付けの手法においても、より微少の構造変化を検出でき、かつ多量の 試料を同時処理できるような手法(TOF-Mass、ペプチドマッピング、プロテインチップ等) が開発された。 このように、1970 年代には日本も技術を蓄積していた遺伝子工学から発展し、IT と結合 して大発展を遂げたのが、1990 年代後半のゲノム研究である。 バイオテクノロジーの研究開発において、有用蛋白質の利用面では従来最初に機能が明 らかな蛋白質をみつけて単離精製した後に、その蛋白質を利用して遺伝子を単離するとい う方法で研究開発がなされてきた。例えばインターフェロン−αの場合には、最初に蛋白 参考資料 2-22 質特許が出され、その後関連する遺伝子の特許が出願された(特公平 3-21151、特公昭 63-61960)。その後分子生物学の進展により、EPO のように遺伝子と特許が一緒に出願さ れるようになる(特公平 2-17156) 。この例からもわかるように分子生物学の進展は、研究 開発メソッドの変化をもたらした。遺伝子組換え技術(最初に新規な蛋白質が発見され、 次にそれをコードする遺伝子を単離する)から、遺伝子解析技術(最初に遺伝子が発見さ れ、ついで対応する蛋白質が同定される。)ともいえる。この技術の変化により、有用物質 生産の面では、抗体医薬など幅の広い物資生産を可能とした。 (2)微生物による物質生産 これまでアミノ酸、抗生物質、化学物質等多くの微生物による物質生産は、単一微生物 を利用したものであったが、1998 年に報告されており、現在実用化されている協和発酵に よるオリゴ糖生産プロセスは、複数の微生物の混合培養を利用した例である。3種類の必 要な糖鎖合成酵素をもつ微生物を遺伝子組換えにより作出し、それらの微生物の混合培養 をおこない、糖鎖を低コストで工業生産するプロセスを世界で初めて作り出している。9 微生物発酵を核として発展してきた日本のバイオテクノロジーの歴史をみても、あるい は後述の世界における複合生物関連プロジェクトの分布からみても、微生物による物質生 産という概念は日本が一番強く、今後さらに複合生物としての利用という概念を取り入れ て研究開発を進めることにより大きな産業上のメリットが得られるもの予測される。 参考資料 2-23 第2章 個々の技術に関する動向調査 複合生物系資源利用技術開発プロジェクトでは、生物資源の確保および利用促進を目的 に基盤技術開発を行ってきた。特に複合微生物利用を目的に遂行されたプロジェクトであ り、分離培養技術、解析技術、複合生物を利用した物質生産等幅の広い技術開発が行われ た。 複合微生物を利用して、物質生産まで結びつけるためには、複合状態の微生物を一旦、 分離し純粋な系として培養し、個々の微生物の特性を活かしてさらに複合系に組み上げる 手法と、ゲノム抽出、ライブラリー化後、遺伝子の特異性を活かした複合系をくみ上げる 技術、複合系をそのまま利用して微生物の共生状態を制御する手法に分けられる。 本プロジェクトでは幅の広い技術開発がなされたが、その中で重要ないくつかの技術に ついて動向調査を行った。 1.分離培養技術 生態系に生息する微生物の内、現在の培養技術により培養可能な微生物は全体の1%程 度とごく限られたものであり、大部分の微生物は未開拓のまま放置されている。このよう な未開拓の微生物分離培養技術に係わる複合生物系プロジェクトの成果に、フローサイト メトリーを用いるゲルマイクロドロップ法(GMD:gel microdroplets)がある。細胞をゲ ル微粒子に封入、培養後、フローサイトメトリーで分取する技術であり、本技術を活性汚泥 サンプルに適用して新種の微生物が発見されている。 本技術に関連した微生物分離技術について文献及び特許調査を行った。データベースと して、JICST 及び PATOLIS を用い、検索期間は 1990 年∼2001 年 9 月 4 日とした。文献 検索では、分離対象となる微生物について、キーワードとして、微生物及び細胞、それら の集合体を意味する群、相、集合、コンソーシアム、ミクロフローラ等の用語を用い、ま た分離技術については、フローサイトメトリーやマイクロフルイド等8種の分離手法を用 い、分離対象と分離手段との 'and' 検索を行った。520 件の出力件数の内、内容を検討し 目的に合致する 82 件の有用情報を分離技術別に分類した結果を表7に示した。 表7 分離技術別の有用情報数 分離技術 有用情報の数 1)マイクロフルイド 2)フローサイトメトリー 3)セルソーター 4)磁気 5)沈降 6)フィルター 7)電気泳動 8)誘電泳動 9)複数技術の組み合わせ 合計 参考資料 2-24 6 7 1 8 12 10 12 10 16 82 一方、特許検索では対象微生物を土壌微生物に限定し、分離方法については、分離、分 取及び分画というキーワードを使用した。出力した 159 件の内、目的に合致した情報は 18 件であった。 これらの情報の中から、代表的なフローサイトメトリー、マイクロフルイディスク及び フィルターを利用した分離技術について紹介する。 (1)フローサイトメトリー フローサイトメトリー(Flow Cytometry)とは、 、毛細管の中を一列となって、高速に流 れる細胞にレーザーの照射を行い、大きさやDNA含量、酵素活性等の特徴、あるいは蛍 光抗体や蛍光色素等の標識の付加により、細胞レベルで分析・分離する手法をいう。これ に使われる装置をセルソーター(Cell Sorter)といい、多くの場合蛍光物質を用いることから 蛍光活性化セルソーター(Fluorescence-Activated Cell Sorter:FACS)と呼ぶ場合がある。 本来は血液系細胞や植物細胞のような数ミクロン程度の大きな細胞の分離に使用されて きたが、最近では微生物の分離にも使用されている。特異的性質を持った微生物のフロー サイトメトリーによる単細胞分離の研究例を表8に示す。10 表8 フローサイトメトリーによる生細胞の分取研究一覧 適用場面 (Application) コンソーシアの分離 生物種 (Organisms) 標的特性 (Target characteristics) バクテリア3種のコン 細胞構造(散乱光) ソーシア (Alcaligenes sp., Sphingomonas sp., and Mycoplana sp.) poly-β- hydroxy-butylrate Alcaligenes europhus の生産 単細胞培養、クローン培 微細藻類 養 carotenoid β-caroteneの Dunaliella salina 生産 carotenoid astaxanthinの生 Phaffia rhodozyma 産 thiaminの生産 パン酵母 プロトプラスト融合(植 野生イネの培養細胞 物) プロトプラスト融合(酵 Saccharomyces diastaticus, 母) Saccharomyces fibuligera 利用技術 (Techniques used) 注) R体(refractile bodies)(散 乱光) 細胞成分(クロロフィ ル)の蛍光 細胞成分(β-carotene) の蛍光 細胞成分(astaxanthin) の蛍光 蛍光(thiochrome) ゲルマイクロドロップ レット技術と fluorogenesis 蛍光ラベルと細胞成分 蛍光ラベルと二重蛍光 (クロロフィル)の蛍光 分析 二重蛍光ラベル 蛍光ラベルと二重蛍光 分析 参考資料 2-25 交配(酵母) Saccharomyces cerevisiaeの3株 蛍光強度の増幅 バクテリア 合成化学 バックグラウンド蛍光の減 少 リンパ球 蛍光in situハイブリダイゼ ーション(FISH法)と免疫 蛍光顕微鏡 核酸結合色素(染色体) バクテリア4種 二重蛍光ラベル 蛍光ラベルと二重蛍光 分析 散乱光、DNA量 オイル分解組換えバクテリ 組換えEscherichia coli 細胞表面抗体 アのスクリーニング (Acinetobactor calcoaceticus) Saccharomyces β-Galactosidase β-Galactosidase活性 cerevisiae; Escherichia coli 組換えβ-Galactosidase; ゲルマイクロドロップレット 技術 呼吸活性あるいは呼吸機 Saccharomyces cerevisiae 能障害 呼吸活性あるいはミトコン ドリア膜ポテンシャル バクテリアの生存性(呼吸 バクテリア 活性) Saccharomyces 遅速成長 cerevisiae 呼吸活性あるいはプラズ マ膜ポテンシャル 散乱光と緑色蛍光蛋白 緑色蛍光蛋白質とゲルマ 質 イクロドロップレット技術 成長速度 抗体分泌 ほ乳動物、糸状菌、お バイオマス(FITC染色) よびバクテリア細胞;マ ウスのハイブリドーマ マウスのハイブリドーマ 抗原-抗体反応 ゲルマイクロドロップレット 技術 ゲルマイクロドロップレット 技術と抗原-抗体反応 (捕捉ビーズ) 注) Katsuragi et al.(1997), 発酵工学会年会講演要旨、250ページ フローサイトメトリーは試料が液性の場合は容易に適用可能であるが、試料が固形の場 合には、適用が困難であるという問題点がある。 (2)マイクロフルイディスク マイクロフルイディスク技術(Microfluidiscs)は、液体をミクロのレベルで制御処理す る技術であり、マイクロ電気・機械システム(MEMS: Micro Electro Mechanical System) と し て 各 方 面 か ら 注 目 さ れ て い る 。 一 般 に は 、 ''Lab on a chip''(Laboratory on a microchip)とよばれ、ガラスやプラスチックの小さな基板に細い溝を掘り蓋をし、この溝に 液体を流し込み、反応、分離、精製等を行うものである。最近では、このチップ上で細胞 を泳動させ、分離・定量が出来る、いわゆるフローサイトメトリーを可能にする技術の開発 も行われている。この技術を微生物の分離に適用した報告が 2 件ある。 参考資料 2-26 1)微生物高速分離システム11 本システムは従来のマイクロピペットを用いる接触式手法とは全く異なり、マイクロ流 体回路内でレーザートラップ、誘電泳動、キャピラリーフローを複合的に利用して 1 菌体 の分離を行う非接触式マニピュレイション手法をベースにしている。マイクロ流体回路は エッチングにより円形ガラス基板上に形成し、分離部分の流路近辺にマスク状の電極をパ ターニングしたものをカバーグラスと結合することにより製作した。この分離セルを光学 顕微鏡ステージに設置し、送液ポンプと接続することで分離セル内の流れを調節する。こ のシステムでは、顕微鏡視野内で選択された微生物を誘電泳動力と光ピンセットによって 単離し、1 菌体当たり 20 秒以内で取り出すことが可能であった。大きさ数ミクロンの微生 物菌体を捕捉、移動するためには光ピンセットが適しているが、不純物を含めて障害物が 多数分散しているサンプル中では、点の力だけでは不十分であるので誘電泳動を用いて障 害物を目標物の周辺から除去し送液ポンプによるキャピラリーフローを用いて目的菌体を 単独に回収する。すなわち本システムでは、レーザートラップ力、誘電泳動力、マイクロ キャピラリーフローによる力を複合的に利用してマイクロ流体回路内で 1 菌体の分離作業 を行っているわけである。分離セルの概念図を図8に示す。 図8 分離セルの概念図 図9 分離プロセスの概要 ここで、注入ポート(Injection port)は目的とする微生物を含んだサンプル溶液を入れ るポートである。入力ポート(Input port)は送液ポンプからの流れを分離セル内に導入する ためのポートである。抽出ポート(Extraction port)は選別されたターゲットを分離セル外に 取出すためのポートである。排出ポート(Drain port)は障害物やゴミなどを排出するための ポートである。分離セルを用いた分離プロセスの概要を図9に示す。分離プロセスの流れ は以下のようになる。 (1)サンプル溶液の注入 (2)光ピンセットによる目標微生物の捕捉 (3)誘電泳動力による障害物の除去 (4)捕捉した目標微生物の流路分岐点までの搬送 参考資料 2-27 (5)送液ポンプによる目標微生物の搬出 (6)回収 この技術に関しては 5 件の特許が申請されている。 特開平 09 ー 271379 マイクロマニピュレイター及びこれに用いるセル(出願人 モリテック ス、新技術事業団)他 2)誘電泳動力を用いたオンチップセルソーター 一木隆範(東洋大工学部)はマイクロファブリケイションを応用した細胞分離・分析シ ステムに関する最近の研究成果を紹介している。 (科学技術振興事業団 2001 年 8 月 24ー 26 日、JST異分野研究者交流ワークショップ「バイオマイクロシステム」 ) 本セルソーターは任意細胞の分取を可能にするセルソーターチップであり、下図のよう に細胞導入用流路、その下流に位置する一対の電極で挟まれた細胞収集用流路とその両側 に位置する廃棄用流路からなる。シースフローを形成することにより細胞を効率よく収集 用流路口(Cell Collection Port)に送り込み,電極に交番電界を印加して生じる反発性誘電泳 動力により、不必要な細胞のみを廃棄する原理である。セルソーターチップは顕微鏡下で 動作出来るため既存のセルソーターでは不可能であった高解像観察情報を判断基準に利用 出来る。 図 10 セルソーターチップの構造図 この方式では個々の細胞に対して確実に取捨選択が可能であり、細胞は層流中で扱われ、 電界が印加されないマイルドな条件で採取されるなど実用上有効な特徴を持つ。 3)フィルター フィルターによる細胞分離システムに関する報告について最近の成果を一例報告する。12 参考資料 2-28 本手法は不織布の細胞捕捉機能を利用したものであり、白血球や赤血球あるいは血漿の 分離に実用化されている。フィルターの材質を検討することにより微生物の分離への応用 が考えられる。 フィルターの濾材は平均繊維径 2.3 ミクロンのポリエステル不織布(2 ー hydroxyethyl methacrylate と N,N'-dimethylaminoethyl methacrylate の共重合体をコートして表面改 質してある)である。原料細胞液をフィルターに通液すると繊維に接着され易い細胞(例 えば白血球)はフィルター内部の不織布に捕捉され、接着しにくい細胞(例えば赤血球) と液体成分(例えば血漿)はフィルターを通過して排液されるので細胞を分離出来る。フ ィルターに捕捉された細胞は、フィルターを逆洗することにより容易に回収出来る。細胞 の捕捉状態を電子顕微鏡で観察すると、球状の形態を維持しており、また回収された細胞 は in vitro 及び in vivo の試験により生理的機能は維持されていることが確認されている。 参考資料 2-29 2.遺伝子増幅手法 難培養性微生物に関しても分離後、微生物種の同定が必要である。そのためには、微量 検出システムが必要不可欠である。さらに物質生産においては、存在する微生物のポピュ レーションおよび活性化の度合いなどをモニタリングして物質制御する際にも微量検出シ ステムが必要である。また、現在、全世界的レベルで研究が進められているゲノム研究に おいても遺伝子配列決定後、その遺伝子の機能を決める必要性があり、あるいはその遺伝 子多型の検出、プロテオミクス研究においても遺伝子増幅手法が注目されている。その用 途に合わせて、mRNA を増幅できる遺伝子増幅法、あるいは、細胞の中に存在する核酸の 量比関係をそのまま把握で期す遺伝子増幅手法、さらに発展して細胞のなかに1遺伝子の み存在するようなごく微量の核酸を増幅可能とするシステムなどさまざまな遺伝子増幅手 法が開発されている。 遺伝子増幅手法の歴史をたどれば、1985 年に、Cetus(シータス)社の Mullis 博士が polymerase chain reaction (PCR)を利用した遺伝子増幅技術を開発したことに始まる。 PCR は 、 プ ラ イ マ ー ( 化 学 的 に 合 成 さ れ た DNA の 短 い ヌ ク レ オ チ ド 鎖 ) と DNA polymerase(DNA 合成酵素)を利用して生細胞なしで特定の DNA 配列のクローニングを行 う手法である。その後、1988 年、純化された好熱性細菌から分離した耐熱性 polymerase 発見により PCR の装置の自動化が可能となり、Perkin-Elmer 社より第1号機の PCR 装置 が発売された。 PCR の基本的な原理は、2段階からなっている。サイクル1では2本鎖 DNA の目的遺 伝子を取り出し、これを 95℃に加熱して1本鎖に変性させてプライマーを結合させる。こ のときプライマーは反応開始の起点の役目をする。DNA 重合酵素はこのプライマーを起点 として、鋳型に相補する DNA 合成を行い、2本鎖を作る。サイクル2では、これをそのま ま加熱変性させて1本鎖を作り、再びプライマーと DNA 重合酵素の存在下で2本鎖を作ら せる。このサイクルを繰り返すことによりベクターを使った遺伝子クローニング法では数 日かかるものが、わずか1∼2時間で達成できる この PCR は分子生物学の発展に於けるもっとも重要な技術の一つとして認められ、1989 年 Science において Molecule of the Year と評価され、さらに 1993 年にノーベル賞を受賞 している。この特許権は、Cetus 社より Perkin-Elmer 社、その後 Hofmann-LA Roche 社 に売却された。現在は、臨床診断、分子生物学・遺伝子工学基礎研究、法医学等広い分野 での基礎技術として利用されている。Roche 社は、基本的には独占的使用権を主張し、診 断薬開発において PCR を利用する場合は、莫大なライセンス料を請求することを表明して いる。 Roche 社が PCR に対する応用分野にまでおよぶ独占的使用権を主張する一方、各社は新 たな遺伝子増幅手法の開発に着手している。現在、約 10 種類におよぶ技術が開発されてお り、その多くは PCR の操作上の欠点である、温度の上下が不要な新規な系の開発に関わる ものである。 参考資料 2-30 PCR 法の発明以後、前述したような様々な研究用途に応じて、数多くの改良型 PCR 装置 や各種試薬が発売されている。栄研化学の LAMP 法や宝酒造の ICAN 法など、日本でも polymerase を利用しない遺伝子増幅手法が開発されており、日本初の技術として注目を集 めている(図 11 参照) 。PCR の開発競争は激しく用途別各種改良キットの開発がなされ、 販売されている(図 12 参照) 。また、研究者のニーズにあわせ定量性や感度の向上が図ら れている。さらに様々な変法を利用して現在遺伝子解析分野で注目を集めている多型解析 への応用も可能となった。このような流れの中、PCR および遺伝子増幅技術は、ますます 重要な技術となっていくと推測される。 (図 13 参照) 経済的な側面から考えると、バイオテクノロジー技術の応用分野は幅広いが、その中で もバイオ支援機器開発は市場規模も大きく、製品化までの時間が短いため、産業創出効果 が早くあらわれる分野である。現在の支援機器の中で PCR 技術は DNA シークエンサーに 続き、総額 96 億円と大きな市場規模を誇っている。しかし、他国の ABS や Roche と比較 して、日本企業である宝酒造の海外への販売比率はきわめて小さく、海外へも通用あるい は海外へも販売できる解析技術の確立が重要と考えられる(図 14 参照)。また、PCR 市場 は年々増加傾向を示し、かつ PCR からリアルタイム PCR へ技術の中心が移ってきている ことが推測される。また PCR 関連市場をみると PCR 機器の売り上げの約 1/2 の PCR 試薬 の売り上げが予測され、PCR 関連試薬市場への期待も大きい(図 15 参照) 。当該プロジエ クトでも高感度型リアルタイム PCR 開発に重要な意味を持つ消光型プローブも開発に成功 している(図 16 参照) 。 TM ICAN ICANTM法 法 TM LAMP 法 LAMPTM法 <プライマーの構造> <反応機構> 宝酒造 キメラプライマー、鎖置換活性と鋳型交換活性を有する DNA ポリメラー ゼ、RNaseH を用いて等温で遺伝子増幅できることが特徴である。 具体的には、キメラプライマーが鋳型と結合した後、DNA ポリメラーゼ により相補鎖が合成される。その後、RNaseH がキメラプライマー由来の RNA 部分を切断し、切断部分から鎖置換反応と鋳型交換反応を伴った伸 長反応が起こる。2000 年に開発 <特徴>DNA を PCR 法と同等以上の感度、等温で増幅・検出が可能。 工業スケールでの物質生産に最適。 栄研化学 6領域4種類のプライマーと鎖置換型の DNA polymerase,ターゲット DNA を混合して等温で反応させると、いくつかのステップ経て両方の末 端でループを巻いたダンベル構造をした一本鎖が生成される。さらにこ のダンベル構造をした一本鎖は複製される。また(9)(10)を経て相補的な 配列が交互に繰り返した構造の遺伝子増幅産物が蓄積する。 <特徴>DNA を PCR 法と同等以上の感度、等温で増幅・検出が可能 特異性が高い 出典:http://www.takara.co.jp/news/2000/07-09/00-i-019.htm 出典: http://www.eiken.co.jp/index-j.html 図 11 新規増幅法の例 参考資料 2-31 Comoetitive PCR(1990年) RT(reverse transcription)-PCR DNA・RNA定量PCR mRNA増幅法 RNA量 目的RNA Competitor mRNA 鋳型DNA ① ② 1回目PCR ③ polyA tail reverse transcriptaseによる逆転写 first strand cDNA 1回目の増幅産物 RNA抽出 耐熱性DNA polymeraseによるPCR 2回目PCR 逆転写酵素反応 2回目の増幅産物 PCR ① ② ゲル電気泳動 増幅されたcDNA断片 ③ スロット(DNAを入れる溝) 目的DNA由来のcDNAの増幅産物 competitorRNA由来cDNAの増幅産 物 電気泳動図 Hot Start PCR(1991年) LA (long and accurate)-PCR(1994年 Barns) 感度向上(非特異) 長いDNAを増幅可能:構成機能をもつ耐熱性 DNAポリメラーゼを加える 3' 5' モノクローナ抗体 A 3' 耐熱性DNAポリメラーゼ 新生DNA 5' 活性型 不活性型 5' 3'→5'エキソヌクレアーゼ 活性が誤りを直す A A 合成の再開 新生DNA T A 3' 1サイクル 2サイクル 鋳型DNA 3' 3' -+ 温 度 誤った塩基の取り込みは DNA合成を阻害する A 鋳型DNA 30サイクル 秀潤社 PCR Tipsを元に改変 時間 図 12 PCR 発展の例 PCR-SSCP法 PCR-CFLP法 遺伝子多型による一本鎖DNAの立体構造変化 野生型 PCR後、ヌクレアーゼであるCleaveaseⅠにより切断した後電気泳動 多型または突然変異 多型または突然変異 野生型 PCR PCR 変性 1本鎖DNA 非変性条件 1本鎖DNAは高次 構造を形成する 変性 2本鎖を作った 一部のDNA ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (非変性条件) 非変性条件 1本鎖DNAは高次 構造を形成する PCR-RFLP法 PCR後制限酵素による分解性の差異 野生型 制限酵素 認識部位 消失したヘアピン 構造の位置に対応 したバンドが消失し ている CleaveaseⅠによる切断 多型または突然変異 PCR 切れない 変性ポリアクリル アミドゲル電気泳動 制限酵素処理 アガロースゲル電気泳動 秀潤社 PCR Tipsを元に改変 図 13 変異検出 PCR の例 参考資料 2-32 2000年日本国内市場規模 バイオテクノロジー支援 市場 ハード DNAシークエンサー 174億円 ソフト サービス PCR 66億円 72% 日本 ロッシュ ABS Real Time PCR 30億円 日本以外 宝酒造 NMR 49億円 DNAチップ関連 50億円 代表的な機器開発会社売り上げ 日本マーケット売上比率 富士経済資料を基にDRMI作成 図 14 バイオ支援機器開発の重要性 (億円) 250 (億円) 80 70 60 50 150 40 100 試薬市場 機器市場 200 30 20 50 10 0 1998 1999 PCR 2000 2001 リアルタイムPCR 2002 2003 DNAシークエンサー 国内シェア(2001年) PCR装置 PCR試薬 PCR試薬 バイオラッ ド 10% 宝 39% アプライド 50% ロッシュ 27% 総市場 72億円 0 (年) その他 24% その他 13% アプライド 42% 2010 シークエンス用試薬 リアルタイムPCR その他 17% 宝 41% 2005 総市場 37億円 アプライド 37% 総市場 49億円 (株)ダイヤリサーチマーテック作成 図 15 PCR および DNA シークエンサーの市場変化(日本国内) 参考資料 2-33 検出法 プローブが分解 Taq Manプローブ<PE Biosystems> R 増幅法 Q ハイブリダイズ プローブ R R 5'→3'エキソ ヌクレアーゼ PCR増幅産物 A B 定量用Hybプローブ<Roche Diagnositics 検量線 104 103 102 101 100 コピー R Ct値 PCR産物量 反応タイムコース Q Q Q R プローブ ハイブリダイズ プローブ Q PCR増幅産物 サイクル数 100 101 102 4 103 10 Molecular Beaconプローブ<Stratagene社> ハイブリダイズ R Q Q R PCR増幅産物 プロジェクト成果 遺伝子検出手法 蛍光消光法も適応 電気泳動不要 秀潤社 PCR Tipsを基に改変 図 16 新たな注目を集める Real Time PCR 参考資料 2-34 3.自然界からの直接機能DNAの取得 複合生物系等生物資源利用技術として、構成生物群を単一生物に還元することなく、そ のままの形で解析し、僅か 0.1∼1%前後といわれる培養可能な微生物を除く大部分の培養 不可能な微生物を培養可能化し、それらの複合生物系の持っている広範囲な未利用の機能 を産業利用しようとする試みがある。このためには、それぞれの微生物をモニタリングす る技術(解析技術)や機能をスクリーニングする技術などが必須であり、精力的に開発さ れている。 一方、1990 年代後半からは、自然界に存在する生物の遺伝子を直接分離して利用しよう という試みが始まった。これは、 1)各種生物の DNA 配列決定および各種遺伝子の機能決定 2)PCR 法等の遺伝子増幅法の出現したこと 3)DNA(RNA)を利用した複合生物系の解析技術(生物種の分類と定量)の進歩 4)high throughput 技術の進歩による多検体の培養や機能スクリーニングの高速化が可 能となったこと 等によりこのようなアプローチが可能になったからである。 自然界の試料から直接遺伝子を取得することが出来れば、次に示す様なメリットがある。 1)培養困難な微生物を培養可能にすることは、微生物による個別的要素が強く、また極 めて難度の高い研究であるが、この工程を割愛できる。 2)従来培養不能であった生態系の 99%を占める微生物の遺伝子を容易に利用できる ことになり、より広範囲な新しい機能を開発できる。 3)それらの未利用の遺伝子を利用することにより、これまで困難であった複合生物系の ハンドリングが容易になる。 このような新しい方法と従来法に基づく微生物による物質生産系の比較を表9及び図 17 に概念的に示した。次に、このような研究開発の代表的な研究機関例として以下の2例を 挙げる。 参考資料 2-35 表9 微生物の分離・利用方法 従来 対象微生物 必要な要素技術 利用方法 利用例 培養可能微生 物 (全微生物の 1%) ・微生物分離 ・培養 ・生産物スクリーニング ・突然変異 ・遺伝子組換え ・単一菌株による目 的生産物の取得 ・L-グルタミン酸発酵 ・抗生物質生産 ・アミラーゼ生産 (インシュリン生産) ・複合生物系の構成種の解 析(固定、定量) ・有用種のスクリーニング ・個別種の培養 ・相互作用解析 ・混合培養系の制御 ・複合生物系制御に ・排水処理の効率化 よる新機能生産物 ・メタン発酵の効率化 及 び 効 率 的 生 産 ・バイオレメディエイ (分解)方法 ション ・有用物質生産(オリ ゴ糖) ・複合生物系からの遺伝子 抽出 ・目的遺伝子選抜 (ハイスループットスク リーニング) ・進化分子工学による生産 物機能の改変 ・難培養微生物由来 新規機能 遺伝子産物の生産 ・生合成系遺伝子の 再構成による効率 的生産系の構築 複合系 難培養微生物 (全微生物の 99%) メ タ ゲ 難培養微生物 ノム (全微生物の 99%) ・新規高度好熱菌由来 の高機能生産物(酵 素、抗生物質) ・ Minimum Genome Factory 純粋分離 (生態系の1%) 従来法 培養 機能スクリーニング 目的菌株 難培養性 新法 A A B C D B C D E DNA mixture( 全生体系) DNA ライブラリー 機能スクリーニング 目的遺伝子 (株)ダイヤリサーチマーテック作成 図 17 遺伝子資源収集法 参考資料 2-36 (1)Diversa 社 1)技術 Diversa 社(以下 D 社と略す)は自然界の試料から、微生物を分離することなく直接に 機能を持った遺伝子を取得する研究に着手し、現在はその最先端を走っている。D 社の技 術の platform は、その出願された特許から図 18 に示した様に、自然試料から、目的機能 遺伝子取得に至る各段階、例えば試料の前処理、バイオパニングによる DNA 集団の分別、 更には取得クローンの進化分子工学を利用した改変法まで多岐にわたる。 Biopanning 環境サンプル D NAサンプル DNA probe Ligan d + Normalized library DNAライブラリー A A B C 3 : A A 1 : 2 C B C 1 : 1 US.6 ,0 54 ,2 67 (Biopan nin g) Targe t DNAs : 1 US.5 ,7 63 ,2 39 US.6 ,0 01 ,5 74 C US.5 ,9 5 8 ,6 7 2 US.6 ,0 3 0 ,7 7 9 (Biopann in g, c e ll- fre e re ac tion ) (Mu tage ne sis) Satu ration mutagen e sis (US.6 ,17 1 ,8 2 0 ) Se xu al PCR (US.5 ,96 5 ,4 0 8 ) Expre ssion US.6 ,1 6 8 ,9 1 9 (Liqu id phase scre e in g) US.6 ,1 7 4 ,6 7 3 (En c apsu lation , FACS) Sc re e n in g US.6 ,0 5 7 ,1 0 3 (Pre se le c tion of microorgan isms, FACS) (株)ダイヤリサーチマーテック作成 図 18 Diversa 社の技術と特許 しかしその最も特徴的な技術は、自然界の微生物等の集団から得た平均化したゲノム DNA ライブラリーを作製し、そのライブラリーを利用した効率的な活性スクリーニング法 である(米国特許 5,763,239、特表 2002-505121) 。すなわち、自然界においては DNA ク ローンの存在量は非常に異なり、通常の方法では、存在量の多いクローンは取得できるが、 存在量の少ないクローンは取得することが出来ない。従って作製した DNA ライブラリーは 存在量の多いクローンが優先し、稀有なクローンはマイナーとなり、不均質であり多様性 のあるライブラリーとならず、それを利用したスクリーニングは効率が悪い。 そこで D 社は集団中に多量に存在する過剰な DNA クローンを減らし、希少なクローン 参考資料 2-37 量を増やす、いわゆる DNA クローンの平均化(normalization)を行うことにより、多様 性のあるライブラリー作製技術を創出した。平均化の方法は、1)単離された DNA 集団の コピー数の増幅、2)目的とする性質を持つゲノム DNA 画分の回収、の少なくとも一つを 行うことである。具体的には、次の様な方法が提示されている。DNA 断片の混合物を加熱 融解し、冷却により再アニールさせると、多量に存在する DNA 配列は、希少な配列を有す る DNA よりも、早くそれと相補的な鎖を見つけだす。ハイブリダイズしたニ本鎖 DNA 断 片を一本鎖 DNA 断片(希少な配列を有する DNA)から分離し、一本鎖 DNA は PCR 法に より増幅する。この操作を数回繰り返すことにより平均化された DNA クローンが得られる。 D 社はこのような技術を開発し、この技術をもとに世界の製薬、化学及び農業分野の大 手企業と提携して新製品、新プロセスの開発研究を行っている。具体的な酵素名や反応は 明示されていないが、その主なものを表 10 に示す。 表 10 Diversa 社の開発技術(抜粋) 製品(製造工程) 移転先(提携先) 用途 備考 時期 フィターゼ Finnfeed International 試料添加 フィチン燐酸の利用率 向上 1996 耐熱性 DNA ポリメ ラーゼ Invitrogen PCR 反応 ThermalAce(商品名) 2000 化合物製造用微生物 Celanese 既存微生物法の生産速 度向上 2000 既存及び新規工程用 生体触媒 Dow Chemical 酵素の耐熱性向上 1997 組換え植物 農薬新規合成工程の 開発・最適化 Syngenta Agribusiness Biotechnology Research Inc. Glaxo SmithKline 農業分野の複数 R&D テーマについて提携 1999 代謝系ライブラリーを 利用した特異的活性物 質の探索研究 2000 酵素法 PDO 製造過程 炭水化物 SORONA 繊維製造原 料 2002 D 社ライブラリー利 用した新規有用化合 物探索 1,3 プロパンジオー ル(PDO)製造用炭 水化物 (Diversa 社 Du Pont 繊維原料 ホームページより抜粋) 2)Diversa 社の概要 住所:米国カリフォルニア州 San Diego 市 創立:1994 年、1997 年 8 月 Recombinant Biocatalysis 社から社名変更。 Key Person: Dr. Jay M. Short (President, CEO & Chief Technology Officer) 参考資料 2-38 業務概要:好熱菌を始め各種微生物のゲノム解析結果をもとに、新たな生理活性物質、酵 素、化学品、医薬品、農業用品等の探索・開発を行っている。多様な環境試料中から微生 物を分離することなく、直接酵素遺伝子、や遺伝子のの単離、発現、塩基配列を決定し、 独自の高速スクリーニング技術を使って有用な遺伝子を見つけを探索分離し、更にその遺 伝子を進化分子工学技術により改変し、最適化を行っている。有用な酵素や低分子化合物 の生産を目指した研究開発を行っている。 また同社は、Dow Chemical 社と、Joint Venture を、また Syngenta Seed 社と工業や 農業分野を志向した短期商品化製品の JV を設立し、また Celera Genomics 社、Dow Chemical 社、Du Pont 社、Glaxo SmithKline 社、Invitrogen 社、Syngenta Biotechnology 社等と研究開発面で提携している。 3)D 社 資源アクセスの取り組み D 社は、全世界各地に対して幅の広い資源アクセス件を獲得している。 http://www.diversa.com/ 図 19 Diversa 社資源アクセス 参考資料 2-39 4)D 社の資産状況 D 社の 2001 年度の Annual Financial Data によると、 同社の最近1年間の収入は約 $30 百万、その 9 割は提携先からの研究資金収入である。年間支出は約$60 百万で、その 中で研究開発費は約$46 百万であり、年間損失は約$30 百万である。 下記の 1980 年代のバイオベンチャーである Amgen 社との比較を図示した。これらによる と、現在の技術に対して注目は集まっているものの、まだまだ大型製品はでていない現状 がうかがい知れる。 (図 20 参照) 製品例 耐熱性DNAポリメラーゼ ( In vitrogen ) ; 20 0 0 年 酵素の耐熱性向上 ( Dow Ch e mic al) ; 1 99 9 年 25 倍 5000 (M $ ) 収入 4000 3000 利益 1,120M$ (M $ ) 200 運転資金 150 運転資金 100 4,016M$ 2000 1 7 2 M$ 経費 2,896M$ 2 , 8 9 6 M$ 収入 50 1000 経費 5 2 M$ 赤字3 0 M $ 36M$ 0 Amgen社 (7 , 7 0 0 人) 0 Diversa社 (2 7 6 人) 創立 1 9 8 1 年 創立 1 9 9 4 年 Biotechnology news, Vol. 22 No.9を基に (株)ダイヤリサーチマーテックにて作成 図 20 Diversa 社の経営状況 (2)Wisconsin 大(Dr.Handelsman)等の技術 Dr.Handelsman 等は、Appl. Envilon Microbiol. 66(6) 2541-2547(2000)において、土壌 からの遺伝子の直接分離について報告している。彼等は微生物の多様性の範囲を完全に調 査 す る こ と が 出 来 る 方 法 を 開 発 す る た め に 、 細 菌 人 工 染 色 体 ( Bacterial Artificial Chromosome, BAC)ベクターを用いて土壌から分離したゲノム DNA のライブラリー(メ タゲノムライブラリーと呼ぶ)を構築した。そのライブラリーから回収した 16SrRNA 遺伝 子配列の系統発生学的分析により、非常に多様な分類群に由来する微生物の DNA が含まれ ていた。またライブラリーをスクリーニングすることにより土壌由来と推定される遺伝子 を発現するいくつかのクローンが同定された。これにより BAC ベクターは、環境中の DNA の維持、発現、分析に利用できることが確認された。またこれ等の DNA クローンは抗菌活 性、リパーゼ、アミラーゼ、ヌクレアーゼ及び溶菌活性を発現することが明らかになった。 参考資料 2-40 このようなメタゲノムライブラリーは土壌の微生物の多様性を探索する強力なツールであ り、また培養出来ない土壌微生物の遺伝情報の入手を可能にする。またこの技術により、 土壌中から微生物を分離することなく、多様な機能を持った遺伝子を取得できる可能性が 開けた。 また彼等は、この BAC を用いた土壌からの遺伝子分離について特許出願している。 WO99/20799 (特表 2000-520055) Wisconsin 大の技術の特徴は、比較的大きい DNA 断片を挿入できる BAC を用いて非培養 微生物の DNA 群をライブラリー化するところにあり、これを用いて遺伝子の機能をスクリ ーニングし、目的遺伝子の選抜を試みている点である。 ただし、彼等の報告は、DNA クローンの生産物の生理活性および生産物の同定については 触れていない。 1 G.Strobel(2002)Science,297,519-520 2 Unson,M.D,(1994)Mar.Biol(berlin),119(1),1-11 3 GAsol,Jasep M(1997)Appl.Environ Microbiol.63(8),3268-3273 4 NEDO 海外レポート NO.891,2002.9.30 および http://www.eurekalert.org/pub_releases/2002-07/uoc--snf070202.php - size 4.8K 5 P Vos(1995)Nucl. Acid Res. 23(21)4407-4414 6 Bossier, Pater(2000)Environ Microbiol.(2000),2(1) 7Lawrence 8 P(1999)Book of Abstracts,218th ACSNational Meeting,Aug.22-26,AGRO-177 Lawrence P(1998)Appl Environ Microbiol.(1998)64(1)178-184 9 S.koizumi(1998):Nature Biotech,16,847Screening for microorganisms with specific characteristics by flow cytometry and single cell sorting, Katsuragi, T and Y. Tani, J Biosci. and Bioeng. 89(3) 217-222(2000) 10 11 レーザートラップと誘電泳動を用いた一菌体の高速分離システム 新井史人 他 日本機 会学会論文集(C編)、 67(653) 146 ー 153(2000) 12 澄田政哉 BIOINDUSTRY、18(8)42 ー 49(2001) 参考資料 2-41 参考資料3 参考資料3には、NEDO のプロジェクト評価における「標準的評価項目・評価基準」 (平成 14 年 4 月 9 日、第3回技術評価委員会)を示す。 標準的評価項目・評価基準 【本標準的項目・基準の位置付け(基本的考え方)】 本項目・基準は、あくまでも標準的な評価の視点の例であり、各分科会にお ける評価項目・評価基準は、被評価プロジェクトの性格、中間・事後評価の別 等に応じて、各分科会において判断すべきものである。 なお、短期間(3年以下)又は少額(予算総額5億円以下)のプロジェクト に係る事後評価については、以下の「3.」及び「4.」を主たる視点として、 より簡素な評価項目・評価基準を別途設定して評価をすることができるものと する。 1.事業の目的・政策的位置付けについて (1)NEDO(国)の事業としての妥当性 単独で立ち上げる事業については、以下の項目により評価することとする。な お、特定のプログラム制度(研究開発制度)の下で実施する事業の場合、以下の 項目を参照しつつ当該制度の選定基準等への適合性を問うこととする。 【注1】 ・「市場の失敗」 (行政改革委員会「行政関与の在り方に関する基準」 (平成 8 年 12 月)参照)に該当しているか。しない場合、民間活動のみでは改善できな いこと、公共性の高いことが説明されているか。その際、当該事業に必要な資 金規模や研究開発期間、民間企業の資金能力等は示されているか。 ・他の類似事業や関連技術動向を踏まえ、NEDO(国)の関与がなかった場合 (放置した場合)と比較して、NEDO(国)が関与することの優位性がより 高いものであるか。 ・当該政策目的の達成に当たって当該事業を実施することによりもたらされる政 策効果が、投じた政策資源との比較において効率的・効果的であるか(費用対 効果はどうか)。(知的基盤・標準整備等のための研究開発の場合を除く) (2)事業目的・政策的位置付けの妥当性 ・評価時点或いは事業開始時点の時代背景認識から見て、事業の目的は妥当で、 政策的位置付けは明確か。 ・政策課題(問題)の解決に十分資するものであるか。 ・国としての国際競争力に資するものであるか。 2.研究開発マネジメントについて (1)研究開発目標の妥当性 ・目標達成のために、具体的かつ明確な開発目標、目標水準を設定しているか。 ・目標達成度を測定・判断するための適切な指標が設定されているか。 ・費用対効果分析が適切に行われているか。(エネルギー特別会計を使用してい る場合には費用対効果分析を踏まえ定量的なエネルギー政策上の目標が立て られているか。) 参考資料 3-1 (2)研究開発計画の妥当性 ・目標達成のために妥当なスケジュール、予算(各個別研究テーマ毎の配分を 含む)となっているか。 ・目標達成に必要な要素技術を過不足なく取り上げているか。 ・研究開発フローにおける要素技術間の関係、順序は適切か。 (3)研究開発実施者の事業体制の妥当性 ・目標を達成する上で、事業体制は適切なものか。 ・各研究開発実施者の選定等は適切に行われたか。 ・関係者間の連携/競争が十分行われるような体制となっているか。 (4)研究開発実施者の運営の妥当性 ・意思決定、進捗状況、計画見直し等の検討が適切に行われているか。 ・プロジェクトリーダー(サブテーマのリーダーを含む)が有効に機能してい るか。 ・プロジェクト開始後の情勢変化(目標未達が明らかになった場合を含む)へ の対応は適切であったか。 (5)情勢変化への対応の妥当性 ・技術動向や社会・市場ニーズの変化等に対応して、計画を適切に見直したか。 ・計画の見直しに当たっては、時代背景の変化を考慮していたか。 3.研究開発成果について (1)計画と比較した目標の達成度 ・成果は目標値をクリアしているか。 ・全体としての目標達成はどの程度か。 ・立案時点または計画見直し時点の時代背景認識から見て、事業は研究開発と して成功したといえるか。また、評価時の時代背景から見てどうか。 (2)要素技術から見た成果の意義 ・世界最高水準、世界で初めて、又は国際水準から見て優れた成果があるか。 (ある場合は、その根拠及びインパクトが明確に説明されているか。 ) ・新たな技術領域を開拓するような成果の独創性が認められるか。 (認められる場合は、新たな技術領域の内容、その根拠、規模及び発展性はど うか。) ・新たな市場創造につながるような新規性、先進性が認められるか。 (認められる場合は、新たな市場の内容、その根拠及び発展性はどうか。 ) ・汎用性のある(応用分野の広い)技術が開発されているか。 ・当初想定していなかったような成果(派生技術等)はあるか。 ・将来の時代背景の変化により、重要性の増すあるいは減る成果はどのような ものか。 参考資料 3-2 (3)成果の普及、広報 ・論文の発表は、質・量ともに十分か。 ・特許は適切に取得されているか。 ・基本特許が的確に取得されているか。 ・特許性は十分あると判断されるか。 ・外国特許が適切に出願されているか。 ・必要に応じ、成果の規格化に向けた対応が取られているか。 ・広報は一般向けを含め十分に行われているか。 (4)成果の公共性【注2】 ・成果の公共性を担保するための措置、あるいは普及方策を講じているのか。 (JIS 化、国際規格化等に向けた対応は図られているか、一般向け広報は積極 的になされているか等) 4.実用化、事業化の見通しについて (1)成果の実用化可能性 ・産業技術としての見極め(適用可能性の明確化)ができているか。 ・公共財としての需要が実際にあるか。見込みはあるか。 ・公共性は実際にあるか。見込みはあるか。 (2)波及効果 ・成果は関連分野へのインパクトを期待できるものか。 ・当初想定していなかった波及的な成果はあるのか。 ・プロジェクトの実施自体が当該分野の研究開発を促進するなどの波及効果を 生じているか。 (3)事業化までのシナリオ ・コストダウン、導入普及、事業化までの期間、事業化とそれに伴う経済効果 等の見通しは立っているか。 【注1】 : 「必要性」の観点からの評価は、政策効果からみて、対象とする政策に係る 行政目的が国民や社会のニーズ又はより上位の行政目的に照らして妥当性 を有しているか、行政関与の在り方からみて当該政策を行政が担う必要が あるか等を明らかにすることにより行うものとする。 (政策評価に関する基 本方針(閣議決定平成 13 年 12 月)参照) 【注2】:知的基盤・標準整備等のための研究開発のみ。 【全体注】:評価においては、プロジェクトに対する提言を含めて検討を実施するも のとする。 参考資料 3-3 (参考資料) 政策立案・評価ガイドライン(抜粋) (平成 11 年 12 月経済産業省策定) IV.評価事項 1.事前評価 (1) 施策・制度の必要性[どのような問題が存在するのか、なぜその問題を改善する上で行政の関 与が必要なのか] 民間活動のみでは改善できない問題であって、かつ、行政が関与することにより改善できるも のが存在することを論証しなければならない。 行政の関与の必要性については、 「市場の失敗 市場の失敗」 「市 市 市場の失敗 と関連付けて説明すべきことを原則とする。 場の失敗」については以下に概念を示すが、より詳しくは、行政改革委員会「行政関与の在り方 場の失敗 に関する基準」 (平成 8 年 12 月 16 日)の「行政関与の可否に関する基準」による。 行政関与の必要性の説明として、 「市場の失敗」 市場の失敗 に該当しないものも許容するが、その場合には、 上述した問題の存在することの説明や公共性が高いことの根拠はできる限り客観的に明らかにし なければならない。 <市場の失敗 市場の失敗>…行政改革委員会「行政関与の在り方に関する基準」 (平成 8 年 12 月)による 市場の失敗 (a) 公共財的性格を持つ財・サービスの供給(経済安全保障、市場の整備、情報の生産、 文化的価値を含む) 複数の人が同時に消費できたり、対価の支払いなしに(まま)消費を制限することが 困難である財・サービスのことをいう。 例:市場ルールの形成 (b) 外部性 ある個人・企業の活動が、市場を経ずに他の個人・企業の経営環境に影響すること をいう。好ましいものを正の外部性、好ましくないものを負の外部性という。 例:負の外部性の例として地球環境問題(正の外部性については、解釈に幅があると される) (c) 市場の不完全性 不確実性や情報の偏在(財や価格について取引の当事者間で情報量にばらつきがあ ること)などがあるために市場取引が成立しないこと。 例:技術開発(不確実性) 、製品事故(情報の偏在) (d) 独占力 独占力は、一般には、市場におけるマーケット・シェアやライバル企業と異なる品 質の製品を提供することによって生まれる価格設定力である。市場参加者が大きな独 占力を持っている場合には、行政の関与が許容される場合があるとされる。 (e) 自然独占 平均生産費が、市場で需要される産出量を超えても逓減するため、新規参入が利潤 をもたらさず、また 1 社だけ存在することが効率的になるため生ずる独占のことをい う。 (f) 公平の確保 公平の確保を図るための施策については、機会の均等を図ることを第一とし、事後 的な公平については、所得・資産の多寡を基準とした再分配に原則として限定し、そ れ以外の施策からは原則として撤退する、とされている。 参考資料 3-4