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日本企業と中国企業の補完と競争
日本企業と中国企業の補完と競争 ASNET「日中関係」第2回 2012年4月20日 丸川知雄 1 1. 直接投資の概要 2 「直接投資」(FDI)とは? • 外国に自社の支配下にある子会社・関連 会社を設ける行為。「支配下」とは国際収 支統計の上で株式の10%以上の取得を基 準としている。融資、株式投資、不動産取 得などは間接投資。 • Stephan Hymerは企業はなぜ現地企業に 比べて不利な異国に直接投資をするのか、 と問うて、それは企業の固有の優位性 (advantages)があるからだ、と考えた。 • 途上国企業の「優位性」とは何か? • 現地企業に対する相対的な優位性 3 0 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1988 1987 1986 1985 1984 1983 1982 1981 1980 1979 1978 1977 Billion US$ 直接投資の送り出し国として台頭する中国 Outward Foreign Direct Investment 140 120 100 80 60 Japan China 40 20 -20 4 直接投資の導入額は中国はますます増加 直接投資の受入額 120 100 80 10億ドル 60 中国 日本 40 20 0 ‐20 5 日中間では日本→中国の方が圧倒的に多い 日本と中国の間の直接投資 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 億円 日本→中国 中国→日本 3,000 2,000 1,000 0 ‐1,000 6 中国の投資有望度に関する日本企業の評価は 相変わらず高い 図1 日本企業の対中国直接投資と投資有望度評価 100 8,000 90 7,000 80 6,000 5,000 60 50 4,000 3,000 2,000 1,000 0 中期有望度(3 年後)、長期有 望度(10年後)、 投資金額の動き がほとんど同じ。 なぜ? 40 投資有望度評価(%) 直接投資額(百万ドル) 70 直接投資額 中期有望度 長期有望度 30 20 10 0 (出所) JETRO、国際協力銀行 7 2. 日本の対中直接投資の経緯 8 改革開放初期の苦労 • 1979年から中国は外国直接投資の受け入れを 開始 • 1981年、福建日立電視機有限公司(カラーテレビ を生産)、中国大塚製薬有限公司(輸液を生産) など設立 • いずれも中国国内市場を狙った進出 • しかし、中国の通貨(人民元)の外貨に交換でき るとの期待は1985~86年に中国が貿易赤字を 記録したあと裏切られた。 • 外資系企業は必要な外貨を自ら輸出などによっ て稼ぐことを迫られた。 9 輸出向け生産には不向きだった中国 • 1986年のレポートによれば、深圳の労働コストは 香港の90% • 国有企業や農村での労働経験しか知らない労働 者たちが日系企業の労働リズムや社内規則に 従うことは容易ではなかった。 • 筆者が1988年に広州市で訪問した日系アパレル 工場では「生産性は日本の3~4割。賃金が安く てもコストは日本と余り変わらない」と言っていた。 10 輸出生産拠点としての中国の有利さが1980年 代後半以降増大した • ①人民元の為替レート切り下げ 中国の為替レートと貿易収支 1.2 3500 3000 1 2000 0.6 1500 1000 貿易収支(億ドル) 0.8 実質実効為替レート(左目盛) 名目為替レート(左目盛) 貿易収支(右目盛) 0.4 500 0.2 0 0 20 08 20 06 20 04 20 02 20 00 19 98 19 96 19 94 19 92 19 90 19 88 19 86 19 84 19 82 -500 19 80 19 78 為替レート(1994=1.0) 2500 年 11 ②輸出向け生産に好都合な「委託加工」の仕組 • 村などが「村営企業」を設立 する。といっても、建物を建て るだけで、中の設備は外国側 が持ち込む。 • 外国側が「村営企業」に部品・ 材料を提供して加工を委託し、 加工賃を支払う。 • メリット:現地法人を設立しな いので、生産の開始・中止が 簡単。納税・社会保険など面 倒な手続きは村に任せ、外国 側は生産に専念 12 「委託加工」の発達した深圳・東莞に大勢の出 稼ぎ労働者が流入 • 深圳市龍崗区、宝安 区は地元人口46万人 +出稼ぎ労働者399 万人 • 東莞市は地元人口 154万人+出稼ぎ労 働者490万人 13 中国の国内需要を狙った直接投資 中国の産業政策の一翼を担った日本企業 • 1989年にパナソニックが北京でカラーテレビ 用ブラウン管の合弁企業で生産開始 • 1995年、パナソニックは大連でVTR基幹部品 の合弁工場を稼働 • 1997年、NECが中国のIC国産化プロジェクト のために華虹NECに資本参加(28.6%)、 技術も提供 • 1993-96年に日本の電機メーカー各社(の各 事業部)が一斉に中国に工場を設立。パナソ ニックは一気に40-50社も。 14 日本の自動車産業と中国との長い付き合い • 1980年代半ば、中国側ではトヨタへの期待が 高まる。 • 一方、トヨタはアメリカとの貿易摩擦対策のた め、アメリカへの工場進出に忙しく、中国は輸 出で対応すればいいと判断。 • 代わりにVWが進出し、独占的利益を享受。 • 1990年代初め、中国の自動車市場が成長す るなか、各国メーカーの進出意欲が高まるが、 中国政府は進出企業を絞る政策を採り、GM だけが進出を許され、トヨタ、日産は拒否され た。 15 日本自動車メーカー、その後 • 1998年、ホンダがPeugeot撤退の後に入る 形で広州へ進出を果たし、Accordを生産し て大成功。 • トヨタ、三菱自動車は進出と国産化政策を にらみ、まずエンジン工場を設立。 • 三菱自動車は本社の経営がおかしくなり、 完成車での進出ができなくなったが、トヨタ は2002年完成車の現地生産を開始。日産 も同じ頃進出。 16 日本企業の対中進出その他の重要事例 • • • • • • ヤオハン 味千ラーメン ローソン サイゼリア サントリービール 唐沢製作所 17 3. 中国企業の日本進出 18 中国企業の日本進出事例 • 2002年、ハイアールジャパンセールス、三洋ハイアール設立。 ハイアールの洗濯機、冷蔵庫の日本での販売を始める • 池貝(工作機械メーカー)に上海電気が資本参加(2004年) • MSK(太陽電池メーカー)をサンテックが買収(2006年) • ラオックス(家電量販店)を蘇寧電器が買収 • オギハラ(金型)の工場をBYD(自動車メーカー)が買収 (2010年) • レナウン(アパレル)が山東如意の傘下に入る(2010年) • ハイアールがパナソニックから三洋電機の冷蔵庫、洗濯機事 業部を買収。AQUAブランドを取得(2011年) • NECのパソコン部門がレノボとの合弁になる。(2011年) 19 ハイアールの事例 • 2001年に三洋電機と包括提携。 • 中国企業が日本企業の得意な分野(家電)で日本市 場を攻略するのは容易ではない。中国では通用する 品質でも日本では受け入れられない。販売不振のた め三洋ハイアールは2007年に解散。 • 三洋電機は経営悪化し、パナソニックによって救済合 併。(提携したとき、ハイアールは偉大な先輩と組んだと思った かもしれないが、日本の電機メーカーのなかでは劣位の企業に 過ぎなかった。) • 価格が3割以上安い、または製品が非常に特徴的 (dyson, DeLonghi)でないとだめ。 • 三洋の事業部の買収でようやく日本メーカーと同じ競 争のスタートラインに立てた。 20 レノボの事例 • 1990年代後半以来中国でトップのPCメー カーになった。 • 2004年にIBMのPC事業部を17億ドルで買 収。東芝などにもオファーが来ていた。 • 経営の国際化に努め、2011年にはDellを 抜いてHPに次ぐ世界2位のシェアを獲得。 • NECは1980年代後半には日本のPC市場 の半分ほどを占める有力企業で、ノートPC を初めて製品化。 • 1990年代以降、ずるずる後退。 21 サンテックの事例 世界の太陽電池メーカーの生産量 2001 尚徳電力(中) 晶澳太陽能(中) ファーストソーラー(米) 保定英利(中) 常州天合光能(中) Qセルズ(独) Gintech(台) シャープ(日) モーテック(台) 京セラ(日) Solarfun(中) Neo Solar(台) 阿特斯陽光電力(中) サンパワー(米) Ningbo(中) E-TON(台) 三洋電機(日) China Sunergie(中) ショットソーラー(米独) 三菱電機(日) カネカ(日) 計 Suntech JA Solar First Solar Yingli Solar Trina Solar Q-Cells Sharp Motech Kyocera Hanwha-SolarOne 75 4 54 2002 2003 2004 28 2005 82 3 6 20 10 8 28 75 166 123 8 60 198 17 72 324 35 105 428 60 142 Canadian Solar SunPower Sanyo Schott Mitsubishi Kaneka 23 19 35 21 14 8 371 29.5 24 7.5 542 35 65 125 42 63 95 42 75 100 13.5 20 21 749 1199 1782 (単位:MW) 2006 2007 158 327 25 113 60 207 35 143 7 37 253 389 55 434 363 102 176 180 207 88 36 7.5 63 100 7.5 60 155 165 80.3 93 79 111 121 28 43 2459 3710 2008 498 277 504 282 210 570 180 473 275 290 172.8 102 71.6 237 80 95 215 111 145 148 52 6823 2009 704 509 1011 525 399 537 368 595 360 400 220 200 326 398 260 225 260 160 102 120 40 10660 2010 1584 1464 1400 1117 1116 939 800 745 715 650 532 530 523 520 421 420 405 336 320 210 25 23889 2006年にMSKが買収された時点ではサンテックはシャープの3分 の1程度の生産量だったが、2010年には2倍以上に拡大。 再生可能エネルギー法の施行(今年8月)でサンテックの日本での市 場は大きく拡大する可能性がある。 22 まとめ • 最近まで直接投資の流れは日本から中国へ一方的だった。 • それはほとんどの業種で日本企業が中国企業に対して優位 性をもっていたからである。 • しかし、2000年代に入ってから中国企業の中には日本企業の 競争相手になる企業が増えている。レノボ、華為技術、中興 通訊、ハイアール、サンテックなど。ところが、これらの企業は 中国、欧州、途上国などを主たる市場としているため、その強 大化に日本企業は余り気づかなかった。同様に韓国のサム スン、LGの強大化に気づくのも遅れたが、それは日本市場へ の進出が少ないためである。 • ハイアール、レノボ、サンテックが買収を通じて日本市場に 入ってきたのは、日本の産業界の「太平の夢」を醒ますきっか けになるはずである。 23