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《ポリシリコン業界》 需給バランス崩壊後の新たな競争軸の獲得へ
10 年夏特別号 《ポリシリコン業界》 需給バランス崩壊後の新たな競争軸の獲得へ 株式会社野村総合研究所 技術・産業コンサルティング部 上級コンサルタント 岩間 公秀 一方、太陽電池セルメーカにとっては、ポリシリコンの 調達が最大の課題となっていた。そのため、太陽電池セ ルメーカの中には、ポリシリコンを内製している企業も少 なくない。 1.出遅れた日系ポリシリコンメーカ ポリシリコンとは、太陽電池ウェハに使用される原料で ある。金属シリコンを多結晶化することによって得られ、 現在、シーメンス法というプロセスが業界標準となってい る。ポリシリコンは、従来、主に高純度の半導体ウェハの 原料として用いられてきたが、太陽電池市場の急拡大に 伴い、脚光を浴びている。 太陽電池用ポリシリコンを供給している上位企業は、 半導体で実績のある Wacker(ドイツ)、Hemlock(米国) の2強が占めている。しかしながら、日系の半導体ポリシ リコンメーカの老舗であるトクヤマ、三菱マテリアルなどの 存在感はほとんどなく、グローバルシェアでは下位に留 まっている。 図2 ポリシリコン価格の推移と今後の予測 500 (US$/kg) 価格 400 スポット価格 長期契約価格 300 200 100 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 出所)NRI 推計 図1 世界の太陽電池用ポリシリコン市場の構成 (2008 年) 太陽電池企業の売上シェア順位の推移(図3)をみる と、日本企業がここ数年で大きく順位を落としている。一 方で台湾、中国企業が急激に順位を上げている。この 光景は、一見、日本企業が後塵を拝した液晶や半導体 事業と同じような推移にみえる。しかし、太陽電池に関し ては、迅速な投資判断と技術キャッチアップの要因に加 えて、ポリシリコンの調達力が影に潜んでいる。 三菱マテリアル(日本) 1% Asia Silicon(亜州硅業)(中国) 1% Emei Semiconductor(峨眉半導体)(中国) 1% その他 7% Wacker(ドイツ) 15% Sichuan Xinguang Silicon(四川新光)(中国) 2% Beconcour(Timminco)(カナダ) 3% GCL Silicon(香港) 3% トクヤマ 4% Hamlock(米国) 13% Luoyang Zhonggui (洛陽中硅) 5% Dow Corning (オーストリア) 7% エム・セテック(日本/台湾) 11% 図3 太陽電池企業の売上シェア順位の推移 OCI(DC Chemical) 8% (韓国) 9% 10% MEMC(米国) REC(ノルウェー) 出所)NRI 推計 2.戦略調達に失敗した日系太陽電池企業 ポリシリコン市場は、スペインバブルが崩壊した 2008 年上半期まで供給不足が続き、需給が逼迫していた。 2000 年代以降、FIT(Feed-In Tariff)を導入した欧州諸 国が需要を大きく牽引する一方で、供給側のポリシリコン メーカの参入企業が少なかったからである。そのため、 ポリシリコン価格は 300 ドル/kg 以上の高値で取引されて いた(図2)。 売上順位 2005年 2006年 2007年 1 Sharp Sharp Q-Cells 2008年 Q-Cells 2 Q-Cells Q-Cells Sharp First Solar 3 Kyocera Kyocera Suntech Suntech 4 Sanyo Suntech Kyocera Sharp 5 三菱電機 Sanyo First Solar Motech 6 Schott Solar 三菱電機 Motech Kyocera 7 Suntech Motech Sanyo Suntech 8 Motech Schott Solar SunPower JA Solar 9 Isofoton SunPower Suntech SunPower 10 Shell Solar Isofoton Deuch Solar/ Solar World Deuch Solar/ Solar World 出所)資源総合システムの資料をもとに NRI 作成 -㪈当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyrightⓒ2010 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 10 年夏特別号 シェアを急速に上げたアジアの太陽電池企業は、大 手ポリシリコンメーカと長期供給契約を締結することによ り、ポリシリコンの調達を優位に進め、ここ数年の欧州の 太陽電池バブルにうまく乗じた。一方、日本の太陽電池 企業は、戦略的な調達に失敗し、08 年のスポット市場の 価格高騰の際は相当に苦しめられた。 4.激化する国際競争の中での日本企業の 打ち手 3.需給バランスの崩壊と中国の資源政策 これまで需給が逼迫していたポリシリコン市場であるが、 スペインバブルの崩壊と金融危機が相まって、現在は需 給バランスが崩壊し、一気に供給過剰となった。中国な どの新興企業の後発参入が相次いだことも大きな要因 である。現在、70 社以上の中国企業が乱立しているとも いわれ、ポリシリコンメーカとして名乗り出ている企業数 は、グローバルで 100 社程度あるとみられている。 この需給バランスの崩壊によるポリシリコンメーカへの 大打撃もさることながら、中国企業の相次ぐ後発参入は、 別の意味で日本企業にとっては脅威となる。それは、ポ リシリコンの原料である金属シリコンの争奪戦になる可能 性をはらんでいるからである。 現在、日本企業は金属シリコンの約 80%を中国から 調達している。その他、豪州、ブラジル、南アフリカ、ノル ウェーからも輸入しているが、コスト競争力と地の利の面 で中国への依存度は大きい。そのため、今後、中国のポ リシリコンメーカの能力が高まり、中国の内需が拡大する に伴い、日本企業は金属シリコンの安価で安定した調達 が難しくなる危険性がある。さらに、金属シリコンは光ファ イバーの用途にも使われるため、中国の光ファイバー市 場の行方によっては、金属シリコンの調達難がまぬがれ ない事態となる。 すでに中国政府は、この金属シリコンの原料に対して、 日本企業にとっては極めて不利な政策を打ち出してきて いる(図4)。まさに、レアメタルの政策で世界各国を混乱 の渦に巻き込んだのと同様な道筋を辿ってきている。一 方で、乱立した中国ポリシリコンメーカの統制に向けて、 参入規制など厳しい条件も新たに設けている。 図4 中国の政策動向 年 2005 【12月】鉄合金業界 の盲目的な拡張と 低水準の重複建設 国内生産 を抑制するため、 『鉄合金業界参入条 件』を実施 輸出 2006 2007 2008 【1月】大部分の鉄合 金を対象にEL制度を 実施開始(Si-Feと金 属シリコンが、対象リ ストに入っていなかっ た) 【1月】金属シリコンに 対して10%の輸出関 税を徴収開始 【12月】金属シリコン の輸出関税を10% から15%に引き上げ 【10月】金属シリコン を含む高いエネル ギー消耗産業に対し て、差別電力料金の 政策を実施 【5月】金属シリコン の輸出税還付政策 を取り消し 上記のような競争環境の中で、筆者は、日系ポリシリコ ンメーカは以下のような取り組みを実施すべきと考える。 ①事業構造変革による勝ち組顧客との関係強化 前述のとおり、現在、日本のポリシリコンメーカは、市 場 の 低 位 に 留 ま っ て い る 。 ト ッ プ を 走 る Wacker や Hemlock と比較すると、1万トン以上の生産能力の差が 生じている。現在の需給バランスが崩壊した状況を考え ると、安易に能力を増強するのは得策ではない。しかし、 ここで投資を控えるとさらにその差は開き、トップの座を 狙う意欲が失われてしまう。 そこで、革新的プロセスを確立し、インゴットやウェハ 事業への事業領域の拡大を同時に推し進めながら、世 界の有力顧客企業を囲い込むことを、筆者は提案したい。 すでに、世界の大手太陽電池企業の中には、太陽電池 の効率、生産歩留まり向上のため、従来のポリシリコンの 調達から、より品質の高いウェハの大量調達に切り替え ている企業も出てきている。今後、太陽電池企業の川下 展開が加速するにつれ、川上のウェハ工程をポリシリコ ンメーカが取り込む余地も大きくなってきている。 ②金属シリコンの調達ルートの多様化 日本企業の金属シリコンの調達難を避けるため、今後、 金属シリコンの調達ルートの多用化は最重要な経営課 題である。チャイナ・プラス・ワン戦略の実行、リデュース・ リサイクルによる対処、中国進出等による直接的な原料 確保を伴う海外展開等、複数の戦略オプションが想定さ れる。中国進出にあたっては、すでに 70 社程度あるとい われる乱立する中国企業の中で、有力企業とパートナー シップを構築するという選択肢も想定される。今後は、中 国でも太陽電池市場の成長が期待されるため、資源確 保に加えてエマージングな中国のボリュームゾーン市場 を狙う意味合いも、日本企業にとっては大きいだろう。 ③SOG プロセスの本格実現 最後に期待したいのは、潜在的なコスト競争力を持つ SOG(SOlar Grade Silicon)プロセスによる起死回生の一 手である。つまり、現在の主流であるシーメンス法に代わ る非連続な工法革新により、コモディティー化が急速に 進むポリシリコン市場を勝ち抜く新たな量産技術を早期 に実現することである。シーメンス法に匹敵する高い純 度と品質のばらつきを抑えられれば、ビジネスチャンスは 大きい。 今こそ、日本企業の技術開発力の底力に大きく期待し たい。 出所)中国政府発表資料をもとに NRI 作成 -2当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyrightⓒ2010 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.