...

焼酎について

by user

on
Category: Documents
32

views

Report

Comments

Transcript

焼酎について
焼酎について
Ⅰ.焼酎の歴史
1.火と酒の出会い
世界の蒸留酒は,それぞれの国の伝統的な酒の「もろみ」を火で炊い
て蒸留してつくられる。蒸留酒は,人間が自らの醸造酒を持ち,火を自
由に操ることにより誕生した。ちなみに,ブランデーはワインの,ウイ
スキーはビールの,そして焼酎は清酒のもろみから誕生した。
2.人類が初めて飲んだ酒
記録などは残されていないが,ブドウなどの果物や蜂蜜,ヤシの樹液
など,容器にためておくだけで発酵して酒になる「単発酵」と呼ばれる
ものであったと考えられる。中でも野生のブドウは温帯西アジアからヨ
ーロッパ中・南部にかけて2500万年前にはあったといわれているので,
人類が容器を発明したとき,これらの地域の人は手製のワインを飲んで
いたと考えられる。ビールのような穀物の酒の誕生は,「デンプンの糖
化」という余分な手間がかかるので,果実酒よりも遅くなるのは当然と
考えられるが,紀元前3千年頃のメソポタミアに,ビールの製法につい
ての記録が残っている。
3.神の造った酒
古代ギリシャ人はディオニソス神(バッカス)がブドウを栽培し,ワ
インを造ったといい,エジプト神話では,オシリス神が灌漑を広め,春
や秋のオオムギの収穫を可能にし,ビールを造ったと伝えている。古代
の儀式や生活にとって,酒がいかに大切な役割を果たしていたかを想像
させる話である。
4.錬金術と蒸留機
古代ギリシャのアレクサンドロス大王は,その生涯を賭けた東征の過
程で,エジプトを征服し,紀元前331年に,地中海に面した地に都市ア
−112−
レクサンドリアを建設した。このことにより,ギリシャの科学は古代エ
ジプトの秘法と融合し,紀元7世紀まで,錬金術の花を咲かせることと
なった。それは,鉄,銅などの卑金属から,金・銀を造り出そうとする
もので,その重要な道具として使われたのが蒸留機であった。
この蒸留機は,7世紀にアレクサンドリアに侵入したアラビア人の手
にわたり,欧亜にまたがるサラセン帝国を媒体として,アランビックと
いう名で東西に伝えられた。江戸時代の焼酎の蒸留機が「らんびき」と
呼ばれ,現在のブランデーやウィスキーの蒸留機はそのまま「アランビ
ック」と呼ばれる所以である。
5.中国の焼酎
中国では北宋の時代に,タイ国の蒸留酒が造り方とともに初めて紹介
され,元朝にはいると確実な記録として現れてくる。東南アジアではす
ぐに発酵して酒となる樹液や果物でつくった酒が広く分布しており,中
でもヤシ酒は宗教的儀式に重要な役割を果たし,その樹液を飲むことは
汚れをはらうとされていた。しかしヤシ酒はアルコール分が低く,腐り
やすいことから,アラビア人の蒸留技術を応用し,蒸留酒が生まれたの
であろう。
元の蒸留機はそのアラビアのものと同じ構造をしており,現在の雲南
を中心とする地方を通じて伝えられたと考えられている。
6.日本への伝来
焼酎の日本への伝来は,中国直輸入説や朝鮮経由説,琉球経由説等い
くつかの説がある。1404年に朝鮮焼酎が対馬藩に贈られたというのが
最初の焼酎の記録とされているが,製造された事跡はない。また琉球で
焼酎(泡盛酒)が造られるようになったのは1400年代の後半と考えられ
ている。
平成11年度は,フランシスコ・ザビエルの渡来450年にあたるが,ザ
ビエルの日本布教のきっかけを作ったといわれるポルトガルの貿易商ジ
ョルジュ・アルヴァレスが,1546年に薩摩半島の山川港にやってきた
とき,
「米から造るオラーカ(米焼酎)
」があることを記録に残している。
−113−
7.イモ焼酎の誕生
メキシコから中央アメリカを原産とするさつまいもは,コロンブスに
よりヨーロッパに紹介されたが,その後,フィリピン,中国,琉球を経
て,1700年前後に薩摩に伝わり,全国に普及していった。さつまいもの
伝来は,稲田に恵まれない薩摩にあっては大変な福音であり,それまで
焼酎の原料としていた煮米を蒸したさつまいもで代用するのには,それ
ほど時間はかからなかったと考えられる。
8.さまざまな焼酎
さつまいもが鹿児島に伝わった頃,米のほか,キビ,アワ,ヒエなど
の雑穀でも焼酎を造っていた。その後薩摩の焼酎はさつまいもが主流を
占めていき,米に恵まれた球磨地方(熊本県)ではコメ焼酎の伝統が残
り,また雑穀焼酎は宮崎県北部に伝わり,ソバ焼酎の基礎を築いていっ
た。
また,第二次大戦中,空も海も封鎖された奄美地方では,江戸時代か
ら造ってきたコメ焼酎に代わるものとして,サトウキビの茎の搾汁やこ
れを煮つめて固めた黒糖で焼酎をつくった。昭和28年に米国から返還さ
れたとき,これまでの実績から,本来焼酎原料としては,認められてい
なかった黒糖の使用が奄美諸島に限り認められた。
Ⅱ.本格焼酎の製造工程
現在我が国でつくられている焼酎の大部分は「醪取(もろみとり)
」方
式で製造されている。醪取焼酎の製造は,まず麹を造ることから始まる。
麹の原料はほとんどが米であるが,大麦を使う場合もある。白米をよく
洗米し,充分水を吸わせた後,蒸気発生釜(ボイラー)からの蒸気を通
して蒸し上げる(50分程度)。蒸米を冷まし,品温が45℃以下に下がっ
たところで種麹を混ぜ,よく攪拌(かくはん)し,品温が34∼38℃にな
ったところで保温してねかせる。ここまでの操作はドラム型製麹機で行
われる。
種麹を混ぜてから約20時間すると麹菌の生育が活発となり,麹の温度
が42∼43℃まで上がるので,冷却のため箱型通風製麹棚(三角棚)に移
−114−
し,品温を除々に下げていく。種をつけてから約30時間以降は品温を34
∼36℃に保ち,約10時間(計40時間)で麹ができあがる。最近では,
ドラム型完全自動麹製造装置や円盤型製麹装置が導入され始めている。
(図1)
次に酒母である一次醪を造る。麹の原料米重量の約1.2倍の水に加え,
これに焼酎酵母の培養液を添加する(仕込み温度20∼23℃)。1,2日
経ち酵母の増殖が旺盛になると醪の温度があがり,2∼3日目に最高温
度に達するが,酵母の活性を保つため,冷却器を使って冷やしながら品
温を調節する。こうして約7日で一次醪ができあがる。
米焼酎,いも焼酎などと製品にうたわれる原料名は二次醪で使用され
る原料(主原料)のことである。デンプン質の原料は醪で糖化されやす
いよう浸漬・蒸しなどの処理が行われる。いも焼酎の場合は,主原料の
さつまいもを水洗いし,いもの両端を切り,病害や痛んだ部分を取り除
くと同時に蒸しやすいように適当な大きさに切る。そして蒸し機で約50
分蒸し,冷風を送り冷却し,破砕機で砕いて二次醪に仕込む。
(図2)
−115−
(図3)
一次醪に主原料と水を加えると,糖化と発酵が同時に進行(並行複発
酵)して二次醪をつくる。ここに加えられる主原料の種類で米焼酎・い
も焼酎など,本格焼酎の個性が生まれる。
二次醪の発酵は一次醪から供給された大量の酵母とクエン酸によって安
全確実に進行する。仕込みは20℃くらいで行われるが,旺盛な発酵のた
め翌日には30℃に達する。発酵は10∼15日で完了し,醪のアルコール分
は米焼酎の場合は18度,いも焼酎で14度くらいとなり,これを蒸留する。
蒸留には単式蒸留機が使われる。醪に蒸気を直接吹き込む常圧蒸留法
と,蒸気で蒸留釜を外側から加熱しながら蒸留釜内部の圧力を下げて行
う減圧蒸留法がある。蒸留の始めには,アルコール分70度を超える酒が
留出し,しだいにアルコール分は低下する。蒸留はアルコール分10度前
後のところで止める。
(図4)
−116−
使用原料1トン当たり米焼酎の場合アルコール分43度の原酒が約1,050
雀,いも焼酎では37度の原酒が約540雀とれる。
蒸留したばかりの焼酎は油性成分を多く含んでいるために白濁してお
り,そのまま放置すると油が酸化して焼酎に油臭がつくので,早急に油
を除去する。
油を除去した焼酎はタンクに貯蔵し熟成を図る。この間アルデヒドな
どガス臭の原因物質が揮散し,味もなれてくる。熟成した焼酎は成分分
析し,きき酒による官能検査を行い,各貯蔵タンクの原酒のきき酒結果
からタンクごとの組み合わせを決め,調合タンクでこれを混和する。調
合のもう一つの目的はロット間の酒質の均質化を図ることにもある。調
合した焼酎は規格のアルコール分まで水で割り,瓶詰めされ,市場に出
荷される。
(図5)
−117−
一口メモ
○麹(こうじ)
米,大麦などに麹菌等を生やしたもの。カビが造り出す酵素がデンプ
ンやタンパク質をそれぞれ糖やアミノ酸に分解することを利用して酒類,
発酵調味料,漬物,菓子等の製造に使われる。沖縄の泡盛を除いて本格
焼酎の麹は明治の末まで清酒と同じ黄麹菌を生やした米麹であったが,大
正初期に泡盛菌といわれる黒麹菌が導入され,さらに大正7年河内源一
郎により黒麹菌の白色変異株(白子)である白麹菌が開発されて,昭和
20年代になり白麹菌が普及し,現在では沖縄県産以外の本格焼酎はほと
んど白麹菌を使っている。しかし,最近では黒麹が見直されている。
泡盛菌や白麹菌はクエン酸をよくつくり,これで仕込んだ醪は酸性が
強く雑菌汚染を受けにくいので,特に暖地での酒造りに適している。
○醪(もろみ)
酒類を製造するため原料・糖化剤(麹,麦芽など)・水を混合し,酵
母を加えてアルコール発酵したもの。調味料用のものは諸味と書く。
○蒸留の種類と特徴
酒類の蒸留は主に常圧蒸留で,単式又は連続式の蒸留法が採用されて
いる。それぞれの特徴と適用を整理すると下表のようになる。
蒸留の種類
特
徴
適
用
単式蒸留
精製度は低いが,多種類 本格焼酎,中国の蒸留酒(白
酒)
,
アラック,
モルト・ウィス
の風味成分の回収が可能
キー,
ブランデー,
ラム,
ジン,
であること。
精油
(香料成分)
,
薬用成分
連続式蒸留
精製度が極めて高く,単 焼酎甲類,ウオッカ,グレー
ンウイスキー,原料用アルコ
一成分の分離,精製が可
ール,石油燃料(ガソリン,
能であること。
灯油,軽油,重油)
引用文献:焼酎の事典(菅間誠之助編著,三省堂)
−118−
Fly UP