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19. 大容量導入質量分析法による体液中揮発性薬毒物及び乱用薬物の

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19. 大容量導入質量分析法による体液中揮発性薬毒物及び乱用薬物の
 上原記念生命科学財団研究報告集, 22(2008)
19. 大容量導入質量分析法による体液中揮発性薬毒物及び乱用薬物の
超高感度同定・定量法の確立
石井 晃
Key words:ガスクロマトグラフィー,低温オーブントラッピン
グ法,質量分析,揮発性有機化合物
*藤田保健衛生大学 医学部 法医学教室
緒 言
法医学において, 中毒事例の重要性は増大しており, 中毒起因物質の同定及び定量は重要なテーマである.しかし中毒起因
物質は,化学的性質の違いに応じて分析手法が異なる.揮発性有機化合物(Volatile organic compounds, VOCs)の多く
は , い わ ゆ る ヘ ッ ド ス ペ ー ス ( Headspace, HS ) 法 と 呼 ば れ る 方 法 で 気 相 を 採 取 し , ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー (Gas
chromatography, GC)法で分析することが可能である.
しかし,従来の GC 法では,導入できる気相量はたかだか数百 μl に過ぎないため,われわれのグループは低温オーブント
ラッピング(Crogenic oven trapping, COT)法を開発した.この方法は,カラムオーブンを氷点下まで冷却し,気相中の目的
物質をカラム先端に高濃度に凝集させる.この方法により,われわれは,これまでに青酸,クロロフォルム,全身麻酔薬,エタノ
ール等,多数の VOCs の高感度検出に成功した 1〜5).しかし,通常の GC 法の検出器では特異性が低いため,目的物質の
同定まで至らなかった.特に水素炎イオン化検出器(Flame ionization detector, FID)では夾雑物質の影響が著しく大きいた
め,このことが本方法の欠点であった.特に腐敗サンプルの場合,アセトンや各種のアミンをはじめとする有機化合物が生成す
るため,これらの夾雑物質が目的物質の検出を著しく妨害する.このような場合,目的物質の同定には質量分析計(Mass
spectrometer, MS)を用いた測定が不可欠であるが,大量の気相の導入は,真空度の低下とそれに伴うシステムの不安定化
を惹起するため,これまでは極めて困難であった。
一方,最近の GC/MS の一部には,高性能のターボポンプが装備されており,真空度を極端に低下させることなく大量の気
相を導入することができる.今回我々は,従来の COT 法と GC/MS 法を結合させ,目的物質の構造解析と再現性の高い定量
ができるシステムを開発し,法医中毒学への応用を試みた.
方 法
17 種 類 の VOCs (2-methylbutane, pentane, octane, diethylether, dichloromethane, t-buthylmethylether,
hexane,
chloroform,
1,1,1-trichloroethane,
1,1,2-trichloroethane,
benzene,
trichloroethylene,
toluene,
ethylbenzene, m- 及び o-xylene, stylene)及び内部標準(d10-diethylether 及び d8-toluene)を適宜メタノールに溶解し
て標準溶液とし,ヒト全血に添加した.20 ml のバイアルに全血 0.5 ml,蒸留水 1.5 ml,塩化ナトリウム 0.3 g を加え,直ち
に密栓する.サンプルをオートサンプラー TurboMatrix 40 (ParkinElmer 社製)にセットし,60℃で 15 分間加熱した後,
HS を GC/MS に導入した.GC/MS は島津 QP2010 を用い,インジェクター温度: 240℃,イオン源温度:220℃,インターフ
ェース温度:250℃とした.カラムは,Restek 社の Rtx-Volatile (30 m × 0.32 mm, film thickness 1.5 μm)を用い,カ
ラム温度は−30℃から 20 ℃/min で 200℃まで昇温した.
*現所属:名古屋大学大学院医学系研究科 法医・生命倫理学
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結果および考察
まず,各 VOCs のピークにおける,温度依存性を検討した 6).図1に 2-methylbutane,pentane, diethylether のピーク
の温度依存性を示す.
図 1. 3 種類の化合物のピーク形状の温度依存性.
それぞれ,a: 2-methylbutane, b: pentane, c: diethylether のピークを示す.
特に,保持時間が短い,2-methylbutane 及び pentane は,初期オーブン温度が 20℃では,ピークはほとんど検出できない
のに対し,初期温度を−30℃まで低下させると,はっきりとしたピークが確認された.次に,初期温度を−30℃に設定し,各
VOCs のマスクロマトグラムを採取した.図2に VOCs のうちの 2 種類の内部標準を含む 13 種類のマスクロマトグラムを示す.
2
図 2. 11 種類の VOCs のマスクロマトグラム.
内部標準として,d10-diethylether 及び d8-toluene を用いている.
図のように,これらピークはクロマトグラム上で良好に分離されている.
次に,各化合物の検量線を作成した.いずれの VOCs においても,血中濃度が 1 から 2,000 ng/ml の間において,良好
な直線性を示した.検出限界は,hexane の 0.1 ng/ml から,diethylether の 5 ng/ml までで,幅はあるものの,おおむね
良好であった.検出限界の低いものうち,xylene 及び toluene は環境中に存在している可能性が示唆された.その他,保持
時間が短い物質は検出しにくい傾向が認められた.さらに,日内変動及び日間変動を検討した.日内変動(n = 6)は,100
ng/ml で約 5 %以下,日間変動(n = 6)は,100 ng/ml で約 9 %以下と,再現性も良好であった 7).
最近,VOCs の高感度分析として広く用いられている方法は,固相マイクロ抽出(Solid phase microextraction, SPME)法
があり,いくつか報告されている 8〜10).これらの報告での検出限界は,おおむね 10 pg/ml 程度と高感度である.しかし上述
した方法は,環境科学での応用であり,使用するサンプルも,環境水のような不純物の極めて少ないものである.これらの点も
考慮に入れると,今回の報告と従来の報告とを単純に比較することはできない.今回の方法は,全血のような,不純物を多量に
含み,かつ扱いの困難な試料を使用しても高感度が得られている.加えて,今回の方法は,試料調製も容易であり,スループ
ットネスも良好である.従って,本方法は,法医中毒学的に十分応用可能であり,今後広く使用されることが期待される.
本研究の共同研究者は,藤田保健衛生大学法医学教室の金子理奈(現 名古屋大学院医学系研究科法医・生命倫理学教
室),平田ゆかり,浜島 誠及び,浜松医科大学医学部法医学教室の渡部加奈子である.
文 献
1) Watanabe, K., Seno, H., Ishii, A., Suzuki, O. & Kumazawa, T.: Capillary gas chromatography with
cryogenic oven temperature for headspace samples: Analysis of chloroform or methylene chloride in
whole blood. Anal. Chem., 69: 5178-5181, 1997.
2) Hattori, H., Iwai, M., Kurono, S., Yamada, T., Watanabe-Suzuki, K., Ishii, A., Seno, H. & Suzuki, O.:
Sensitive determination of xylenes in whole blood by capillary gas chromatography with cryogenic
trapping. J. Chromatogr. B: Biomed. Sci. Appl., 718: 285-289, 1998.
3) Ishii, A., Seno, H., Watanabe-Suzuki, K., Suzuki, O. & Kumazawa, T.: Determination of cyanide in
whole blood by capillary gas chromatography with cryogenic oven trapping. Anal. Chem., 70:
4873-4876, 1998.
4) Watanabe-Suzuki, K., Seno, H., Ishii, A., Kumazawa, T. & Suzuki, O.: Ultra-sensitive method for
determination of ethanol in whole blood by headspace capillary gas chromatography with cryogenic
oven trapping. J. Chromatogr. B: Biomed. Sci. Appl., 727: 89-94, 1999.
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5) Kojima, T., Ishii, A., Watanabe-Suzuki, K., Kurihara, R., Seno, H., Kumazawa, T., Suzuki, O. &
Katsumata, Y.: Sensitive determination of four general anaesthetics in human whole blood by
capillary gas chromatography with cryogenic oven trapping. J. Chromatogr. B: Biomed. Sci. Appl.,
762: 103-108, 2001.
6) 金子理奈,平田ゆかり,南雲紗耶香,濱島 誠,服部秀樹,妹尾 洋,石井 晃: 第 32 回日本医用マススペクトル
学会抄録集 p. 69, 2007.
7) 石井 晃,金子理奈,平田ゆかり,浜島 誠: 新しい質量分析技術の法医学領域への応用. 質量分析 56: 131-138,
2008.
8) Poli, D., Manini, P., Andreoli, R., Franchini, I. & Mutti, A.: Determination of dichloromethane,
trichloroethylene and perchloroethylene in urine samples by headspace solid phase microextraction
gas chromatography-mass spectrometry. J. Chromatogr. B. Analyt. Technol. Biomed. Life. Sci., 820:
95-102, 2005.
9) Blount, B. C., Kobelski, R. J., McElprang, D. O., Ashley, D. L., Morrow, J. C., Chambers, D. M. &
Cardinali, F. L.: Quantification of 31 volatile organic compounds in whole blood using solid-phase
microextraction and gas chromatography-mass spectrometry. J. Chromatogr. B. Analyt. Technol.
Biomed. Life. Sci., 832: 292-301, 2006.
10) Jockmann, M. A., Yuan, X. & Schmidt, T. C.: Determination of volatile organic hydrocarbons in water
samples by solid-phase dynamic extraction. Anal. Bioanal. Chem., 387: 2163-2174, 2007.
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