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Fe - 東京農工大学
スピンフラストレーションによる保磁力の増強 ~最強の磁石を目指す研究~ 工学部 物理システム工学科4年 香取研究室 磯崎勝哉 ~目的~ ~背景~ 最近、フラストレーションが内在する磁性体において巨大保磁力が報 告された(LuFe2O4[2]、Sr5Ru5-xO 15 (x=0.9) [3]、 [Co(hfac)2・BPNN] (BPNN=p-butoxypheny1-NN) [4])。 本研究はフラストレーションを磁性体に注入して保磁力を増加させるこ とを目的とする。 磁性体とは? 磁性体の種類は大きく分けて4つある。 ①常磁性体 ②反強磁性体 ③強磁性体 ④フェリ磁性体 物質を構成している原子に含まれる電子が作る磁気モーメントの外場に対する 応答を調べる。単位体積あたりの磁気モーメントを磁化という。 ②反強磁性体 ④フェリ磁性体 隣り合うスピンがそれ ぞれ反対向きを向い て整列しており、全体 として磁気モーメント を持たない。 反強磁性体のように隣り 合うスピンは逆向き。し かし、その数や大きさが 異なるため、全体として 磁化が残る。強磁性体に 近い振る舞いを示す。 ③強磁性体 予想されるメカニズム D フラストレーションが磁壁の動きを鈍くする B 磁区が成長しにくくなる 磁化がゼロになりにくくなるため保磁力が大きくなる A E 強磁性体の磁化曲線 は以前にどのような状 態を経たかに依存する →履歴曲線 外部磁場H>Hc 磁化0 D C 外部磁場H ~今後の方針、展望~ 保磁力 E B LuFe2O4の構造[2] -Hc 合計の磁化0 A ・鉄原子のスピンはc軸方向に対し平行、反平行に向く ・Fe原子はそれぞれ反強磁性相互作用があり、それらが三 角構造をつくるため、幾何学的フラストレーションが生じる ・c軸方向に巨大保磁力が見られる C 隣り合うスピンが同一の方向を向く。 互いに磁気モーメントの向きが違う磁 区という領域を形成する。その境界を 磁壁という。 巨大保磁力を持つLuFe2O4について 飽和磁化 残留磁化 Mr 常温におけるネオジム磁石の保磁は1.1テスラに対し、 4ケルビンにおけるLuFe2O4単結晶の保磁力は9テスラ H=0 残留磁化 外部磁場Hc 保磁力とは? フェリ磁性体に、非磁性体を混ぜることでフラストレーションを注入でき るのではないかと考え、現在フェリ磁性であるFe3O4のFe(鉄)を非磁性 であるGe(ゲルマニウム)と置き換え、GexFe3-xO4という物質を作っている。 Fe3O4は下のようなスピネル構造をとり、図のAにはFe3+が配置し,Bには Fe2+とFe3+が半分ずつランダムに配置されている。Bはパイロクロア構造 という三角格子を持つ構造をとる。AとBのそれぞれで反強磁性相互作 用がありフェリ磁性となる。このAに配置されているFe3+を非磁性である Ge4+に置き換えることで下の右の図のようにフラストレーションが生じる のではないかと考えている。 x=1であるGeFe2O4という物質は、フラストレーションが内在するときに見 られることがあるスピングラスという性質を示し、これは巨大保磁力を持 つLuFe2O4にもみられる性質であるため、そういった面でも期待される。 この研究により、フラストレーションと保磁力の関係がわかれば、他の物 質の保磁力の増強も可能となり、最強の磁石の作成につながるのでは ないかと考えている。 ・磁化された磁性体を磁化されていない状態(磁化がゼロの 状態)に戻すために必要な外部磁場の強さHcのこと。 A ・磁石が反対向きの磁場にどれだけ耐えられるかの指標に なっている 磁性体においてスピン間に働く相互作用の競合のためにすべての相互作 用を同時に満たせない状態が生じる場合がある→フラストレーションという B スピネルの構造 A Fe3O4 Fe3+ GeFe2O4 Ge4+ B Fe2+/Fe3+ Fe2+ スピンが相互作用に従って並べず相互 作用の競合が生じてしまい、スピンの 並びに不安定性が生じてしまう。 . →フラストレーション 非磁性原子によ り、相互作用の秩 序が乱れ、フラスト レーションが生じる ? B原子がつくるパイロクロア構造 幾何学的フラストレーション[1] 非 磁 性 原 子 AのFe3+をGe4+に置き換えることでパイロ クロア構造によるフラストレーションの影 響も生じると考えている。巨大保磁力を 持つLuFe2O4もパイロクロア構造同様に 三角格子によるフラストレーションをもつ ことから、GexFe3-xO4が巨大保磁力を持 つ期待は大きい。 スピンフラストレーションの概念図[1] サイト間が全て反強磁性相互作用 だが、幾何学的にフラストレーショ ンが生じる場合もある。 反強磁性 相互作用 磁性原子を非 磁性原子に置 き換える 保磁力が大きい=磁石としての性能が失われにくい フラストレーションとは? 磁 性 原 子 [1]安藤悠一:東京農工大学大学院物理システム工学専攻博士課程2014年修士論文 [2] Weida Wu et al.,Physical Review Letters 101,137203(2008) [3]Ayako Yamamoto et al., Chem. Matr.2010,22,5712-5717 [4]Noriko Ishii et al., J.AM.CHEM.SOC.2008,130,24-25