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関西・地方圏の一次産業の課題(PDF:1384KB)

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関西・地方圏の一次産業の課題(PDF:1384KB)
JRI
news release
関西・地方圏の一次産業の課題
2006 年 6 月 7 日
株式会社 日本総合研究所
調査部
関西経済研究センター
http://www.jri.co.jp
※尚、本件は関西金融記者倶楽部、大阪経済記者クラブにて登録しております。
(会社概要)
株式会社 日本総合研究所は、三井住友フィナンシャルグループのグループIT会社であり、情報システム・コンサルテ
ィング・シンクタンクの3機能により顧客価値創造を目指す「知識エンジニアリング企業」です。システムの企画・構築、ア
ウトソーシングサービスの提供に加え、内外経済の調査分析・政策提言等の発信、経営戦略・行政改革等のコンサルテ
ィング活動、新たな事業の創出を行うインキュベーション活動など、多岐にわたる企業活動を展開しております。
名
称:株式会社 日本総合研究所(http//www.jri.co.jp)
創
立:1969年2月20日
資本金:100億円
従業員:2,871名(平成18年3月末現在)
社 長:木本 泰行
理事長:門脇 英晴
東京本社:〒102-0082 東京都千代田区一番町16番
TEL
03-3288-4700(代)
大阪本社:〒550-0013 大阪市西区新町1丁目5番8号
TEL 06-6534-5111(代)
本件に関するご照会等は調査部 関西経済研究センター(横田) (℡06-6534-5204)宛お願い致します。
(Email: [email protected])
目
要
次
旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1. 関西のなかの地方圏・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
(1)関西・地方圏の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
(2)人口減少と高齢化の進展・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2.関西・地方圏の一次産業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(1)縮小する一次産業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(2)一次産業を取り巻く環境の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(3)関西・地方圏の可能性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
3.一次産業をコアとした新しいパートナーシップの形成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
4.新しいパートナーシップの形成の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(1)製造業からの参入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(2)産学連携の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(3)一般生活者との連携・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
5.事例からみた課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
6.提言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
(1)製造業と一次産業の接点の提供・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
(2)大学や研究機関との連携の促進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
(3)コミュニティ・ビジネスの促進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
要
旨
1.関西では、京阪神大都市圏がわが国の三大都市圏のひとつとして成長してきたが、京
都府北部や兵庫県中・北部、和歌山県等は地方としての性格が強い。これらの関西・地方
圏は既に、人口の減少傾向が長期に続いている。人口減少を前提とした地域の自立のため
には、産業振興が重要となってくる。
2.関西・地方圏の産業構造をみると、一次産業の割合が高いことが大きな特徴である。
一次産業は、全体としては衰退傾向ではあるが、ブランド化や流通改革、新たな工夫を加
えた新産品開発等の高付加価値化を図ることによって、地域の就業を創出しうる産業に育
成していくことができる。こうした取り組みを支援して、一次産業の特色を生かした産業
の形成が必要である。
3.関西・地方圏は①京阪神大都市圏の大きなマーケットに近接し、消費者ニーズを把握
しやすい、②関西には若者が多く、これから定年を迎えるシニア層も多いため、これらの
人々の力を活用することが可能である、③食品や化学、機械等の製造業、大学や研究機関
が多く立地しており、産学連携に取り組みやすい、④関西には、これまでも京野菜や但馬
牛など、全国に有名な地域ブランドが多くあり、ブランド化を通じた一次産業の活性化の
可能性が高い、という強みがある。
4.一次産業は、多様な担い手の参入・連携を図り、ブランド化や消費者の安全への志向
等に対応してマーケティング戦略を重視し、製造業等の人材や技術、ノウハウを一次産業
と融合させ、新しいビジネスモデルの成功事例を創りあげていくことを考えていかなけれ
ばならない。また、現在の担い手の高齢化や後継者難に対して、事業の存続を図って行か
なければならない。このため、生産者と大学・研究所、製造業・流通業、NPO 等の新しい
パートナーシップが必要となっており、各地でこれらとの連携の動きが始まっている。
5.各地の事例研究から、一次産業振興のためのパートナーシップ形成には、①一次産業
は、製造業と十分連携が取れていない、②製造業の技術を一次産業に利用するために、技
術開発すべきことは多い、③NPO 等によるコミュニティ・ビジネスの事業性の確立はこれ
からである、という課題が示される。
6.事例から得られた課題について、①製造業と一次産業の接点の提供(公的研究機関に
よる一次産業と他産業の間のコーディネート)
、②大学や研究機関との連携の促進(一次産
業関連だけでなく、工業関連の研究機関とも連携を図る)
、③コミュニティ・ビジネスの促
進(NPO 創出のための側面支援、行政から民間への事業の移転)、を提言する。
- 1 -
1. 関西のなかの地方圏
全国で人口減少が始まりつつある。今後は大都市圏に人口が集中し、地方では人口の一
層の減少が進むものと見られている。関西では大阪市、京都市、神戸市の三つの政令都市
を中心とする京阪神大都市圏がわが国の三大都市圏のひとつとして成長してきたが、京都
府北部や兵庫県中・北部、和歌山県等は地方としての性格が強い。これらの関西・地方圏
は既に、人口の減少傾向が長期に続いている。
(注)関西・地方圏の定義・・・国勢調査における京阪神大都市圏に属さない、滋賀県、京都府、大阪
府、兵庫県、奈良県、和歌山県の自治体を関西・地方圏とした。京阪神大都市圏は大阪市、京都市、
神戸市を中心市とし、中心市への 15 歳以上通勤・通学者数の割合が当該市町村の常住人口の 1.5%
以上であり,かつ中心市と連接している周辺市町村で構成される地域である。
(1)関西・地方圏の概要
関西・地方圏の人口は 224 万人(2005 年)と関西全体の 10.7%であるが、面積は 1 万
6,700k㎡(2002 年)と関西の面積の 64.1%を占めている。滋賀県の北部、京都府の北部、
兵庫県の中・北部、奈良県中・南部、和歌山県の大半で構成される。日本海、太平洋に
面すると共に、山間部の大半を占め、人口規模の小さい自治体で構成される地域である。
(2)人口減少と高齢化の進展
関西・地方圏では長期的に人口が減少してきた。多くの自治体では、既に死亡者数が
出生数を上回る自然減が生じており、地域外との人の流入・流出である社会増減もマイ
ナスである。
また、今後についても、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2000 年~2015
年、2015 年~2030 年共に、京阪神大都市圏よりも関西・地方圏の人口減少率が大きくな
る見込みである。
関西・地方圏は大都市圏に比べ、現在でも高齢化率が高いが、今後、人口が減少する
中で高齢者の割合が一層上昇するだけでなく、高齢者のうちでも後期高齢者(75 歳以上)
が増加する等、高齢化の影響が強く現れる。
- 2 -
2.関西・地方圏の一次産業
人口減少を前提とした地域の自立のためには、産業振興が重要となってくる。しかし、
関西・地方圏では、既に高齢化率も高く、今後の人口減少率も大きいという人的資源の制
約がある上に、平地が少ない等の自然的条件により、製造業は集積の規模が小さく、産業
は現状では衰退傾向にある。
(1)縮小する一次産業
就業者数から関西・地方圏の産業構造をみると、一次産業の割合が高いことが大きな
特徴である(図表1)。一次産業の内訳では、農業 10 万人(全就業者の 7.9%)、林業 4
千人(同 0.3%)、漁業 9 千人(同 0.7%)となっている。また、公共事業に依存した建
設業が多い(図表2)。一次産業就業者は農閑期には公共工事に従事するなど、地方では
一次産業と建設業の関係は深い。しかし、これらの産業は担い手の高齢化、後継者不足
や公共投資の減少によって厳しい状態にある。
(図表1)地域別産業別就業人口(関西、2000年)
(単位:1,000人)
二次産業
総数
関西・地方圏
京阪神
大都市圏
一次産業
1,259
(100.0%)
8,569
(100.0%)
112
(9.0%)
106
(1.2%)
うち建設業
433
(34.4%)
2,549
(29.8%)
三次産業
131
(10.4%)
762
(8.9%)
713
(56.6%)
591
(69.0%)
(資料)総務省「国勢調査報告」
(注)15歳以上就業人口
(図表2)地域別普通建設事業費(関西、2003年度)
歳出総額
関西・地方圏
京阪神
大都市圏
11,986
(100%)
74,195
(100%)
投資的経費
2,651
(22.1%)
9,994
(13.5%)
(資料)(財)地方財政協会「市町村別決算状況調」
- 3 -
(単位:億円)
普通建設事業費
うち
普通建設事業 のうち単独事業費
2,591
1,504
(21.6%)
(12.5%)
9,978
6,063
(13.4%)
(8.2%)
関西全体の一次産業の就業人口は、
1980 年の 41 万 2,000 人が、2000 年には 21 万 8,000
人とほぼ半減している(図表3)
。内訳を見ると、農業 47.4%減、林業 58.1%減、漁業
33.9%減となっている。
(図表3)一次産業就業者数の推移(関西)
(万人)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
漁
業
林
業
農
業
1980
85
90
95
2000
(年)
(資料)総務省「国勢調査報告」
(注)15歳以上就業人口
関西全体の農地面積は約 20 万 ha あり、全国の約5%を占めている(図表4)。そのう
ち耕作放棄地の割合は 9.3%となっている。内訳をみると、関西・地方圏の性格が強い中
間農業地域と山間農業地域の耕作放棄割合が高くなっている。
(図表4)耕作放棄地面積と農地面積に占める割合(関西・全国、2005年)
(単位:ha)
関
(ア)耕作放棄地面積
西
(イ)農地面積
(ア)/(イ)
全
(ウ)耕作放棄地面積
国
(エ)農地面積
(ウ)/(エ)
都市的地域
平地農業地域
5,141
2,748
50,256
54,147
10.2%
5.1%
77,302
99,748
605,551
1,793,547
12.8%
5.6%
中間農業地域
山間農業地域
7,206
3,457
67,859
26,196
10.6%
13.2%
147,508
60,121
1,171,289
409,790
12.6%
14.7%
18,553
198,459
9.3%
384,680
3,980,177
9.7%
合 計
(資料)農林水産省「農林業センサス」
(注)経営耕地面積と耕作放棄地面積の合計を農地面積とした。
- 4 -
(2)一次産業を取り巻く環境の変化
一次産業は、全体としては衰退傾向ではあるが、農業、水産業、林業などは地域資源
を活用するという特徴を持っており、ブランド化や流通改革、新たな工夫を加えた新産
品開発等の高付加価値化を図ることによって、地域の就業を創出しうる産業に育成して
いくことができる。こうした取り組みを支援して、一次産業の特色を生かした産業の形
成が必要である。
そこで、関西以外の地域も含め、一次産業を取り巻く環境を見ると、次のような変化
が生じている。
①他産業からの参入
近年、政府による、農業の法人化推進(1992 年)、株式会社による農業参入の容認(2000
年)、構造改革特区における農地リース方式による民間企業の農業参入の容認(2003 年)
など、農業に他分野の産業からの参入を促すような改革が行われてきた。大手製造業等
では 1980 年代半ばから一次産業分野への参入が行われていたが、近年、その規模を拡大
する例が出てきている。また、地域の中小製造業や建設業などでも農業分野に参入する
事例が増えている。構造改革特区の農地リース方式による農業参入は、2005 年 10 月か
ら特区だけでなく、全国で同様の規制緩和がなされた。
政策面においては、地域内の関連するあらゆる主体を連携して地域産業の活性化や新
産業の創出を目的とする地域クラスター政策が、経済産業省の産業クラスターは 2001 年、
文部科学省の知的クラスター創生事業は 2002 年から始まっているのに対し、農林水産省
の食料産業クラスターは「食料・農業・農村基本計画」で位置づけられ、2005 年から開
始されたばかりである。
前述のとおり耕作放棄地が増加しているが、新しく一次産業に進出する者にとっては
耕作地を入手するチャンスとも考えられる。
②産学官連携の変化
製造業では、大学や公的な研究所と企業との共同研究や技術移転等の連携が進んでい
る。一方、一次産業では、各地の公的研究所で、従来の農業等生産者に対応した研究開
発だけでなく、加工メーカーや流通・販売までを意識した研究開発を行うために、組織
改革がようやく開始された段階である。先行する取り組みとして、九州では経済産業省
と農林水産省が連携して、一次産業と製造業のマッチングを行い、製造業の持つ技術を
一次産業分野に活用する試みがなされつつある。また、関西では大学が自らの研究開発
の成果を活用してベンチャー企業を設立し、事業化を進めるケースも出ている。
③一般生活者の一次産業への関心の高まり
農村の自然環境や景観、生産者がわかる産地直送などにより、都市に生活する生活者
- 5 -
が一次産業へ関心を持つようになってきた。これらの人たちを一次産業につなぐことに
より一次産業に対する関心をより深めようとする、ボランティアやコミュニティ・ビジ
ネスが注目されるようになってきた。これらは NPO によって行われているが、その中に
は自ら耕作放棄地の経営に乗り出そうとするものもある。
上記のように、一次産業の革新のための取り組みは、まだ始まったばかりのものが多
く、今後事業をより進めて行くための支援策や、参加者の広がりを持たせるための活動
が必要である。
(3)関西・地方圏の可能性
これからのわが国の一次産業のあり方は大きく変化する。わが国の一次産品の品質は
高いが、今後は食品供給システムの全体の品質をめぐる競争力が重要になってきている。
関西・地方圏は人口 1,870 万人の京阪神大都市圏のマーケットに近接し、消費者ニー
ズを把握しやすい。また、関西には大学が多いことから若者が多く、これから定年を迎
えるシニア層も多いため、これらの人々の力を活用することが可能である。さらに、食
品や化学、機械等の製造業、大学や研究機関が多く立地しており、産学連携に取り組み
やすいという強みがある(図表5,6)。
2006 年から、地域ブランドを保護することにより、地域経済の活性化を図ることを目
的とする「地域団体商標制度」ができた。この登録出願状況をみると、4 月 10 日までの
関西からの出願は 154 件と、全体(324 件)の約半分を占め、関西の地域ブランド化へ
の意欲を示している(図表7)。関西には、これまでも京野菜や但馬牛など、全国に有名
な地域ブランドが多くあり、ブランド化を通じた一次産業の活性化の可能性が高い。
(図表5)一次産業関連の学部のある大学
学 校 名
学 部
京都大学
農学
神戸大学
農学
京都工芸繊維大学
京都府立大学
大阪府立大学
滋賀県立大学
近畿大学
長浜バイオ大学
工芸科学
農学
生命環境科学
環境科学
農学、生物理工学
バイオサイエンス
内 容 (学 科)
農学、農芸化学、農業工学、農業経済学、
森林科学、生物生産・資源学、水産学
農学、農芸化学、農業工学、
生物生産・資源学、畜産学
生物生産・資源学
農学、森林科学、生物生産・資源学
農学、農芸化学、獣医学
生物生産・資源学
農学、農芸化学、農業工学、水産学
農芸化学
(資料)毎日進学ナビホームページ、各校ホームページ
- 6 -
(図表6)関西の一次産業に関する公的研究所
名 称
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
近畿中国四国農業研究センター
独立行政法人 家畜改良センター 兵庫牧場
独立行政法人 森林総合研究所 関西支所
滋賀県農業総合センター
農林技術振興センター
滋賀県農業総合センター
畜産技術振興センター
滋賀県農業総合センター 水産試験場
京都府農業総合研究所
京都府農業資源研究センター
京都府丹後農業研究所
京都府茶業研究所
京都府林業研究所
京都府畜産技術センター
京都府立海洋センター
大阪府立食と緑の総合技術センター
大阪北部農と緑の総合事務所
大阪中部農と緑の総合事務所
大阪南河内農と緑の総合事務所
大阪泉州農と緑の総合事務所
大阪府立水産試験場
兵庫県立農林水産技術総合センター
農業技術センター
兵庫県立農林水産技術総合センター
北部農業技術センター
兵庫県立農林水産技術総合センター
淡路農業技術センター
兵庫県立農林水産技術総合センター
畜産技術センター
兵庫県立農林水産技術総合センター
森林林業技術センター
兵庫県立農林水産技術総合センター
水産技術センター
奈良県農業総合センター
奈良県森林技術センター
奈良県畜産技術センター
和歌山県農林水産総合技術センター 果樹試験場
和歌山県農林水産総合技術センター 農業試験場
和歌山県農林水産総合技術センター 林業試験場
和歌山県農林水産総合技術センター 畜産試験場
和歌山県農林水産総合技術センター 水産試験場
(資料)各機関ホームページ
- 7 -
所 在 地
京都府綾部市
兵庫県たつの市
京都府京都市
安土町、水口町、栗東市、木之本町
日野町、今津町
彦根市
亀岡市
精華町
京丹後市
宇治市
京丹波町、福知山市
綾部市、京丹後市
宮津市
羽曳野市、寝屋川市
茨木市
八尾市
富田林市
岸和田市
岬町
加西市
朝来市
南あわじ市
加西市
山崎町、山東町
明石市、香美町、朝来市
橿原市、五條市、奈良市、榛原市
高取町
宇田市、御杖村
有田川町、紀の川市、みなべ町
紀の川市
上富田町
すさみ町、日高川町
串本町
(図表7)地域ブランド(地域団体商標)の出願状況(2006年4月10日現在)
(件)
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
関西
九州・
沖縄
東海
北陸 甲信越 関東
中国
北海道
北陸
四国
海外 (地域)
(資料)特許庁資料
(注)関西の内訳:京都109件、兵庫21件、滋賀7件、奈良7件、和歌山7件、大阪3件。
3.一次産業をコアとした新しいパートナーシップの形成
一次産業を取り巻く環境の変化は、今まで一次産業に直接の関わりがなかった分野の企
業や機関、人々が担い手として登場しつつあることを示している。
既存の担い手から多様な担い手の参入・連携を図り、ブランド化や消費者の安全への志
向等に対応してマーケティング戦略を重視し、製造業等の人材や技術、ノウハウを一次産
業と融合させ、新しいビジネスモデルの成功事例を創りあげていくことを考えていかなけ
ればならない。また、現在の担い手の高齢化や後継者難に対して、事業の存続を図って行
かなければならない。
このため、生産者と大学・研究所、製造業・流通業、NPO等の新しいパートナーシッ
プが必要となっており、各地でこれらとの連携の動きが始まっている。
連携の意義を①製造業、②研究機関、③一般生活者の3者に分けて整理すると次のよう
に考えることが出来る。
①製造業
一次産業では、よりよい農作物を作るなどの努力はされてきたが、自然条件により生
産量や収穫時期が左右され、価格の変動も大きいことから、製造業のような工程管理や
納期管理、原価管理などについて弱い面があった。また、製造業とうまく連携し、新し
い技術を取り入れて生産効率を上げるという姿勢は少なかった。一方、製造業が一次産
- 8 -
業に参入する場合でも、自然を制御することは容易ではなく、一次産業の特性に関する
深い知識は不可欠となる。このため、それぞれの持つ知識や技術を持ち寄り、実際に連
携して共同開発することなどによって、一次産業の生産性や生産物の安全性を高めるこ
とが出来る。また、生産システムの合理化によって、企業組織的な就業形態をとること
が可能となり、経験のない人でも新しく一次産業に就業しやすくなる。
②研究機関
一次産業の占める割合の大きな地域では、主に公設の農業技術試験場や水産技術試験
場等で、品種改良や食品加工技術の開発が行われてきた。近年、工業試験場ではより事
業化に近い研究開発を行い、新たな産業おこしで雇用を創出することを目指すようにな
っている。一次産業に関する研究機関についても産学官連携などを一層活用して、新産
業創出までも視野においた活動を進めるべきである。特に、一次産業に関する研究機関
は地域ごとの自然生産物に関して多くの知識、技術を有しており新しく参入した他分野
の担い手にとって役に立つ存在となることができる。
③一般生活者
一次産業の生産者は減少しており、かつ高齢化が進んでいるため、収穫等の繁忙期に
は人手が足りなくなっている。また、後継者が少ないため、今後、生産を維持できなく
なる可能性が大きい。一方、食や自然への関心が一般生活者の間に高まっている。また、
団塊世代の退職を控えて定年後に農業に従事する人が増えることが期待されている。実
際に農業等の作業に携わる機会が増えれば、現状の一次産業の人手不足を解消すると共
に、実際に経験することによって新しい就業者が増える可能性がある。
4.新しいパートナーシップの形成の事例
前述したように一次産業の新しい担い手が各地で生じつつある。各地で実際に行われて
いる以下の事例に基づき、関西での課題を探ることとする。
(1)製造業からの参入
一次産業と製造業の連携により、一次産業だけでなく製造業と一体となって地域を活
性化する必要がある。現在のところは、新分野として製造業が取り組み始めたところで、
一次産業からの働きかけは少ない。
- 9 -
①アンデス電気㈱(青森県)
ア)概要
電気機器メーカー(液晶カラーフィルター、空気清浄機等)の地元企業が、健康産
業分野への事業展開として、ベンチャー企業の技術を活用し無農薬野菜の栽培に進出
している。2004 年に実験を開始し、2005 年から出荷を始めた。工業化された農産品生
産手法(液体化した堆肥を霧状にして植物の根に直接吹き付ける栽培方式)により無
農薬で高品質なオオバを生産し、供給している。アンデス電気㈱は、今後、サプリメ
ントが伸びるという見通しの下に、無農薬オオバのように食の安全、安心を考えた農
産物は、サプリメントの原材料として需要が伸びると考えている。このため、将来的
にオオバを利用した加工物(機能性食品や化粧品の材料)の開発、生産を目指してい
る。また、雪の積もる期間が多い青森県で工業技術を生かし、天候に左右されない、
工業と農業の融合した 21 世紀型の農業の確立を目指している。さらに、高齢者の雇用
の場としての活用も考えている。
当面、2006 年度より地元食品会社とともに国等の補助制度を活用して、加工食品へ
の利用を共同研究する。
イ)地域への効果
アンデス電気㈱によれば、本事業により、新規雇用が 100 人(労働集約型であり
雇用効果は大きい)、設備投資が 7 億円の効果があった。また、地元の水産加工産業
で生じた魚の骨等を使用し、ナノ状に細かく粉末にし堆肥に混ぜて使う等、地元の
材料を活用している。
ウ)課題
アンデス電気㈱によれば、以下の課題が指摘されている。
技術的に生産の安定性が、まだ、確保できていない。
有機作物の付加価値が、販売価格に反映されていない。
食品業界や薬品業界に売り込む場合は、粉末や液体に加工する必要がある。加工し
て売り込む場合、試験や認定の費用が数百万円かかり、中小企業にとっては費用負
担が大きい。
現状は、生産されたオオバは全量商社が引き取る契約になっている。将来的には
自社で販路を開拓していきたいと考えているが、農産品は流通ルートが限られてい
る。
将来的には、栽培品目の増加を図りたいと考えているが、生産技術が開発されてい
る植物は、まだ少ない。
② 加太菜園㈱(和歌山県)
ア)概要
カゴメ株式会社と、オリックス株式会社が、和歌山県和歌山市・加太地区で生食用
- 10 -
トマトを生産する加太菜園㈱を 2004 年に設立した。近畿圏を中心に中国、四国、中部
圏の量販店や業務用ユーザーを販売の対象としている。
加太菜園は大規模ハイテク菜園(ハイテクグリーンハウス)で、カゴメの栽培指導
により、カゴメブランドの「こくみトマト」等を栽培している。第1期の温室面積は
5.2ha、出荷開始は 05 年 10 月、年間出荷量は約 1,500tを計画しており、更に、第
2期として 5.2ha(2008 年3月出荷開始予定)、第3期として 9.7ha(2010 年5月
出荷開始予定)の増設を予定している(図表8)。全施設が完成するとアジア最大規模
のトマト菜園となる。最終的な年間出荷量は約 6,000t、年間売上高 23 億円を目指し
ている。
(図表8)カゴメ㈱の全国のハイテクグリーンハウス
名 称
美野里菜園
世羅菜園
四万十みはら菜園
安曇野みさと菜園
山田みどり菜園
いわき小名浜菜園
加太菜園
響灘菜園
所 在 地
温室面積
茨城県美野里町
1.3ha
広島県世羅町
8.5ha
高知県三原村
2.7ha
長野県三郷村
4.9ha
千葉県山田町
3.0ha
福島県いわき市
10.2ha
和歌山県和歌山市 約5ha(約20ha)
福岡県北九州市
4.2ha(8.5ha)
竣 工
1999年
2001年
2001年
2004年
2004年
2005年
2005年
2006年
(資料)㈱カゴメ資料
(注)( )内は最終完成時
イ)地域への効果
和歌山県によれば、雇用人数は、約 300 人(全施設稼動時、パートを含む)を見込
んでいる。現在は、平日に約 120 人の雇用があり、土日対応として、和歌山市シルバ
ー人材センターから 65 人の派遣が行われている。総事業費は約 47 億円(第 1 期~第
3 期)を予定しており、現在、約 30%程度の投資が終わっている。
ウ)課題
特にない。食物加工メーカーとして長年培われた、知識と技術で作られたビジネス
モデルであり、カゴメ㈱のブランド力と相俟って、生産は順調に伸びている。
(2)産学連携の取り組み
一次産業でも、新しい農産品・加工品の開発や高付加価値化、生産システムの改善、
食品の品質や安全性の確保など、大学や公的研究所と連携して解決すべき技術的課題は
多い。また、製造業や流通業も含めを一体となって、農産品の改良から加工製品の開発、
製造、販売まで産学連携を進めて行くことによって、よりマーケットニーズに即した新
製品を作ることができる。
- 11 -
①T.M.L とよはしを核とする産学連携(愛知県)
ア)概要
豊橋市を含む東三河地域は日本有数の農産地であるが、加工分野まで幅を広げ、独
自色を持った食料生産地域にするため、地元の大学や製造、販売の各分野の企業が連
携している。
豊橋商工会議所がベンチャー創出を検討するなかで、早稲田大学社会システム研究
所が 2003 年に設立した㈱T.M.Lの持つ低温スチーム加工技術と経営理念に着目し、㈱
T.M.Lとよはし(地元企業 5 社が出資)を 2005 年に設立した。低温スチーム加工技術
によりあく抜き・下処理を行うと、従来の加工法に比べて食材の栄養素や風味、香り
が損なわれず、加工時間や温度の調節により硬さを自由に調節できるため、使い勝手
のよい加工食品となる。㈱T.M.Lとよはしでは、単に新製品を開発・製造するだけでな
く、最終的には、高齢化社会に対応し、高齢者が安心して簡単に調理できて、おいし
く安心して食べられる食材を提供できる食材・惣菜開発、医・食を一体化した食生活
の実現、地産地消を基本とした食システム構築、食品廃棄ゼロを目指した環境に優し
い食循環体系作り、高齢者の食生活改善と生活サービス拡充、地域農業振興と商店街
活性化に貢献するなど地域ネットワークの構築を基本理念としている。
このため、まず第一段階として、㈱T.M.Lとよはしを核として製造・流通部門の企業と
大学が連携し、市場創出に取りかかっている(図表9)。
(図表9)低温スチーム加工による新加工食品市場創出事業の参加企業、機関
名 称
業 種
役 割
㈱T.M.Lとよはし
食品製造
低温スチーム加工による食品の
製造販売、事業の全体管理
㈱北海屋
肥料・飼料小売
食材調達
㈱大三コーポレーション
食品包装資材等製造、販売
販路開拓
トヨハシ種苗㈱
種苗・農業資材等製造、販売
食材の生産・栽培方法の開発
㈱T.M.L
早稲田大学発ベンチャー、
技術指導
低温スチーム加工技術の特許管理
早稲田大学
大学
低温スチーム加工技術の研究協
力
豊橋技術科学大学
大学
量産化技術の開発協力
(資料)中部経済産業局資料
イ)地域への効果
㈱T.M.Lとよはしによれば、事業化が始まったばかりであり、効果はまだ出ていない
が、将来的には地域の豊富な一次産品の新しい活用を企業、研究機関が連携して行う
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モデルケースになることが期待される。一次産品の加工工程を地域内に組込むことで、
付加価値を高め、安全・安心な「東三河ブランド」の食材の開発により、地域活性化
を目指す。
ウ)課題
㈱T.M.Lとよはしによれば、現状では、コスト高であり、一層の生産技術の開発、高く
ても売れる商品開発が必要という課題がある。
②㈱アーマリン近大(和歌山県)
ア)概要
㈱アーマリン近大は、新事業創出促進法の一部改正による最低資本金規制特例制度
を利用し、近畿大学水産研究所が研究・養殖した魚を「安全」で「安心」さらに「美
味しさの探求」にこだわった魚として広く消費者に届けることを目的に 2003 年に設立
された。
近畿大学水産研究所がこれまで展開してきた養殖の生産技術や販売事業を礎に「ク
エ鍋セット」などの加工食品やハマチ、マダイ、シマアジ、ヒラメ、トラフグをはじ
め、2002 年 6 月に世界で初めて完全養殖に成功したクロマグロなども、近大ブランド
で販売している。
値段は高いが養殖技術や餌、安全性などトレーサビリティー(生産履歴)がはっき
りしているところで、付加価値をつけている。
イ)地域への効果
㈱アーマリン近大によれば、近畿大学水産試験場は国内大学では唯一、地元業者と
共同で実験・開発を行い、地域の水産養殖業者へ技術移転を行ってきている(図表 10)。
(図表10)㈱アーマリン近大の生産施設(近畿大学水産研究所)の実験場、事業場
名 称
所 在 地
白浜実験場
和歌山県白浜町
白浜事業場
浦神実験場
和歌山県那智勝浦町
浦神事業場
新宮実験場 和歌山県新宮市
設 置 経 緯
1948年、大阪理工科大学(近畿大学の前身)
の付属白浜臨海研究所として設置
1960年、浦神漁業協同組合の要望により開
設
1974年、三重県御浜町の淡水実験場(1964
年開設)を新宮市の要望により移転
研究対象魚種
マダイ、ヒラメ、トラフグ、シマア
ジ等
シマアジ、マダイ、イシダイ、マ
チ戻し、ハマチ等
アユ、アマゴ、ウナギ、チョウザ
メ等
大島実験場 和歌山県串本町
1970年、水産庁委託のマグロ等外洋性高級 クロマグロ、クエ、マダイ、ヒラ
魚の養殖研究のため開設
メ、シマアジ等
すさみ分室
1986年、地元の要望により開設
マダイ、トラフグ、カンパチ、ア
ユ、ブリヒラ、クエ、シマアジ等
富山実験場 富山県射水市
1991年、富山県、新湊市(現 射水市)、堀
岡漁業協同組合からの要望により開設
ヒラメ、アユ、エゾアワビ等
奄美実験場 鹿児島県瀬戸内町
1998年、クロマグロの試験飼育のため開設
クロマグロ、イシダイ、クエ、マ
ダイ等
和歌山県すさみ町
(資料)近畿大学水産研究所ホームページ、㈱アーマリン近大ホームページ
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ウ)課題
㈱アーマリン近大は、独自の養殖技術の開発で高級魚を生産し、かつ、大学ブラン
ドで安全性を保証することによって、高付加価値の養殖魚販売を可能にしている。
和歌山県農林水産総合技術センターによれば、和歌山県の水産物養殖は他地域に比
べ、規模的に小さく価格面で四国や九州などとの競争力が弱い。マグロやクエなど単
価の高い高級魚を技術開発を先行して行い、地域ブランドを確立する必要がある。
(3)一般生活者との連携
一次産業に対する一般生活者の関心を喚起することにより、一般生活者が一次産業の
維持を手助けしたり、農地保全に取り組むようになる可能性がある。しかし、一次産業
の個々の生産者からの働きかけは行われていない。一次産業と一般生活者を近づける仕
組みが NPO 等により作られてきている。
①NPO法人学生耕作隊(山口県)
ア)概要
過疎化、高齢化により、農村では農繁期の労働力の不足が切実な問題となっている。
農業に関心のある若者と若者の労働力を必要とする農家をつなぐ事業を山口大学の学
生約 30 人が有償ボランティアの援農サークルとして 2002 年に開始し、同年 NPO を
設立した。
2003 年からは、一般のシニア会員をつのり、派遣者を大幅拡大した(経済産業省市
民ベンチャーモデル事業委託)。現在、約 100 人の学生会員と、定年退職者を中心に約
50 人のシニア会員が登録し、農作業支援を依頼する農家会員は約 30 戸、年間延べ約
2,000 人を派遣している(図表 11)。
(図表11)NPO法人学生耕作隊の主な活動内容
活 動 区 分
内 容
例
農作業支援
農家会員への農作業支援を行うことにより、
いちご・もも・ぶどう・なし・米 等
人在不足等の問題を解決する
農作物を生産して農地
の荒廃を防ぐ
耕作放棄地や荒廃した農地を活用して農
茶・サツマイモ 等
産物を生産することにより、農地を保全する
農業体験に関する
農業体験の場を紹介するとともに、農業体
験のイベントも開催する
農産物むらまち交流
農産物の販売を通じて消費者と生産者をつ
なぐことにより、農業の現状を紹介し、農業・ 農・食・耕作Shop「大地」 等
農村の活性化を啓発する
農業・農村の活性化に
関する啓発・広報
インターネットによるメルマガ、広報誌作成
(資料)NPO法人学生耕作隊ホームページ
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イモ植え会、イモ収穫会 等
HP、広報誌メルマガ 等
受け入れ農家は、援農に参加した人に 1 時間当たり 500 円と交通費、事務局に対し、
1 時間当たり 200 円の利用料を支払う。事務局は、援農に参加した人に 1 時間当たり
地域通貨「耕作シティ」100 円分を支払う。
現在、所有者が耕作しなくなった茶園の管理を 67 アール請け負っており、耕作支援
隊の援農会員に対し、耕作支援隊が賃金を払い、茶の栽培を行っている。今後、同様
の耕作放棄地を活用して農産物を生産する農地保全活動にも力を入れて行く。その他、
米、茶の販売、研修生の受け入れ、就農相談も行っている。
イ)地域への効果
NPO法人学生耕作隊によれば、農家の労働力不足問題を、若者や定年退職者を派
遣し解決している、学生への農業体験の提供・農業理解の促進、シニア層への生きが
いの提供・農業理解の促進を行っている、農業後継者の掘り起こしに成功している等
の効果が出ている。
ウ)課題
NPO法人学生耕作隊によれば、以下のような課題がある。
現在では、農作業支援の依頼は全国各地からくるようになっているが、交通費が高
くなる等のため対応できていない。
学生は卒業していってしまうため、知識の蓄積が出来にくい。組織の能力向上、事
務局スタッフの人材育成が必要である。
②西米良型ワーキングホリデービレッジ事業(宮崎県)
ア)概要
宮崎県西米良村は、1997 年のワーキングホリデー制度(賃金を支払って仕事をして
もらいながら休暇と交流を楽しんでもらう都市と農村の交流の取り組み)の導入等に
より、全国的に知名度が上昇した。この結果、西米良村を訪れる人が増加し、村民の
自主的な取り組みによるイベントの開催や、観光の目玉である村営(第三セクター)
温泉施設の住民による清掃など、村の活性化にまで発展した。
西米良型ワーキングホリデー制度は、柚子や花卉の栽培など季節的に人手が不足す
る仕事について農業体験をしてもらうというものであるが、参加者に対して受け入れ
側の農家が賃金を支払うというところに特徴がある。参加者は休暇を含めて3日間か
ら1週間は滞在してもらうようにしている。
イ)地域への効果
西米良村によれば、以下のような効果があった。
1997 年から 2004 年までの延べ参加者数は 1,724 人・日、平均滞在日が 5.4 日とな
っている(図表 12)。
西米良型ワーキングホリデー制度が新聞・テレビ・ラジオ・雑誌等で全国に報道さ
れ、九州の山奥にある西米良村が全国に知られるようになった。ワーキングホリデー
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参加者だけでなく、観光客が増加してきている。
若者の定住が年間数人であったものが近年では、U・Iターン者が増えている。
ワーキングホリデーの成功などで、村への訪問・滞在者数は、1994 年の約 45,000
人から、2004 年には約 126,000 人へと大幅に増加した。
(図表12)ワーキングホリデー参加者(人・日)の推移
(人・日)
600
500
400
300
200
100
0
1997
98
99
2000
01
02
03
04 (年)
(資料)西米良村資料
(注)①02年は一年間滞在した人があったため、大幅に増加した。
②03年に大口受け入れ先(40~50人)が廃業したため、以降減少している。
③04年は台風による国道寸断により減少した。
ウ)課題
西米良村によれば、次のような課題がある。
現在受け入れ者は、花卉生産農家が5戸、柚子生産農家が2戸、柚子加工所が1社
となっている。この制度は、受け入れ側の需要が前提であり、参加者の希望とが一致
した場合にのみ成り立つものであるため、季節や仕事によっては、希望者があるにも
かかわらず成立しない場合がでている。
現在の運営主体は、第三セクターであり、行政からの委託金を含めれば黒字を維持
している。しかし村の財政基盤が弱く、自治体の存立が長期的には厳しくなる可能性
がある。このため、2006 年度には指定管理者制度の導入を予定している。
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5.事例からみた課題
事例からは、以下のような課題がある。
①一次産業は、製造業と十分連携が取れていない
事例からみると、一次産業へ製造業が進出する場合、自社の技術やベンチャー企業の
開発した技術を導入することによって行っている。また、一次産業に生産委託する場合
でも、製造業からの働きかけによるもので、一次産業から積極的に製造業の持つ技術を
活用する例は少ない。
②製造業の技術を一次産業に利用するために、技術開発すべきことは多い
事例では、大学の開発した技術を導入して地元一次産品の加工による高付加価値化に
取り組んでいるが、低価格で量産するための技術開発や、新商品開発など技術面で取り
組む課題は多い。また、養殖の例のように、これからの一次産業では高付加価値化とと
もに、ブランド化とそれを裏づけるトレーサビリティのための技術開発が重要になって
いる。
③NPO 等によるコミュニティ・ビジネスの事業性の確立はこれからである
一次産業を支援する NPO が出てきているが、まだ事例は少ない。また、一次産業が中
心となる中山間部においては産業振興に自治体が深く関わっているが、自治体の財政状
況が悪化してきており、継続性の面で厳しくなっているため、地域住民の自主的活動に
移行してゆく必要がある。
6.提言
農産物や食品を中心としてそれに関連する企業、研究機関、NPO等との間の競争・協
力関係を形成し、産業を発展させる新しい産業振興政策が必要となっており、各地で動き
が出始めている。
事例から得られた課題について、下記を提言する。
(1)製造業と一次産業の接点の提供
一次産業と他産業の双方が有するニーズとシーズをマッチングさせることによって、
生産の効率化や農産品の高付加価値化、ひいては新産業・新事業を創出する可能性が
期待される。一次産業からの働きかけが少ない現状では、各地に立地し一次産業の支
援を行ってきた公的研究機関がコーディネートし、相互理解と自主的なビジネス化へ
の側面支援をすることが望ましい。
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(2)大学や研究機関との連携の促進
①農産物の工業技術を活用した生産や加工には、大学や研究機関との連携を図る。特に、
新分野進出となる場合は、知識の蓄積のある一次産業関連の研究機関や大学と連携す
ることが必要である。各府県の一次産業に関する公設の研究所では、農業、畜産、水
産等、一次産業のなかで横断的に研究の連携を図りつつあるが、工業関連の研究機関
とも連携を図るべきである。
②公的研究機関の重点研究項目として、食品の品質や安全性を科学技術によって裏づけ
る技術や機器の開発を行う。特に、トレーサビリティに関する技術開発は地域産品の
ブランド化に重要である。
(3)コミュニティ・ビジネスの促進
①行政は、一次産業のサポートを行うコミュニティ・ビジネスを担う NPO 等の創出を促
進するための啓蒙活動や、意欲ある人に対する立ち上げ支援を行う。
②民間企業の進出が難しく行政が第三セクター等で地域産業振興事業を行ってきた中山
間地域では、それに代わって住民が主体的にコミュニティ・ビジネスとして行うよう、
指定管理者制度の活用等によって、行政から事業を移して行く。
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