Comments
Description
Transcript
プレゼン資料
アフリカにおける産業政策の新課題 −FDIとローカル企業の連携− ジェトロ・アジア経済研究所 「アフリカ開発援助の新課題」研究会 2008.1.25 西浦昭雄・福西隆弘 1 Introduction 発表の目的 産業政策(industrial policy)の中でも外国(海外) 直接投資(Foreign Direct Investment: FDI)に対 する政策に注目し,アフリカで課題となっている外 資とローカル企業の連携の弱さ(いわゆる「飛び地 経済」)を解消するための政策方向性を示すこと 2 Introduction アフリカにおける産業政策の変遷 • 独立時∼1970年代 産業保護政策、担い手は政府、外資には消極的 →経済成長の停滞、製造業の弱体化 • 1980年代∼1990年代前半 構造調整による政府部門縮小 →民営化の受け皿に外資、貿易自由化による輸入増 • 1990年代後半∼ 投資環境整備 鉱業分野へのFDIの急増、非鉱業FDIも増加 ⇔ローカル企業との連携が課題 産業政策の新課題 3 Introduction 報告の流れ 1 産業発展におけるFDIの役割 2 アフリカFDIの傾向と非鉱業FDIの事例 3 産業の課題と政策の方向性 4 1.産業発展におけるFDIの役割 FDIによるスピルオーバー効果(Saggi [2002] ) • 内生経済成長理論:生産性の向上には技術の向上と 知識の普及が不可欠 • 技術と知識の獲得方法(Romer[1986]) ①企業自らがR&Dや経験による学習(Learning-by-Doing) ②他企業の持つ技術や知識の模倣や共有 スピルオーバー 技術的に後発の途上国企業のキャッチアップに不可欠 FDIを通じた海外の技術や知識の吸収が鍵 (Lall[2003],Ernst et al.[1998]) 5 1.産業発展におけるFDIの役割 FDIがスピルオーバーを促進する要因 (1)デモンストレーション効果:同じ国の技術を模倣する方が容易 (Evenson and Westphal[1995]) (2)労働移動:多国籍企業からローカル企業への技術者の移動 例:アジアの衣料産業や電子・電気産業 (Rhee and Belot [1989], Pack [1997]) (3)垂直リンケージ:ローカル企業による下請け生産、部品供給 例:アジアの衣料産業や自動車産業(Lall[2003]) ローカル企業の受容能力、ホスト国の投資環境と産業政 策によって左右される(Abramovitz[1986]、Hall and Jones [1996] 、 Parente and Prescott [2002] ) 6 1.産業発展におけるFDIの役割 FDIとローカル企業の関係:アジアの経験 ・輸出志向の貿易政策によるFDIの増加と技術習得 例:シンガポール、マレーシア、タイ (World Bank[1993]) ・電子・電気産業:日本企業によるマレーシア、タイ、インドネシア等 への生産拠点移転 →部品サプライヤーとしてのローカル企業の集積 (ただし、技術力や付加価値の低い分野に限定) ・二輪車産業、繊維産業、自動車産業:FDIとローカル企業の連携 が比較的強い ・アジアでも後発のASEAN諸国ではFDIが産業成長に貢献 ・FDIはローカル企業へのスピルオーバーを生んでいるものの、 ローカル企業への技術的向上がスムースに実現するとは限らない 7 2.アフリカFDIの傾向と非鉱業FDIの事例 アフリカにおけるFDI ・1970-1990年代前半まで停滞 ・1990年代後半以降、急増傾向 ・増加は鉱業分野(石油、金、リン鉱など) ・非鉱業分野にも投資が入ってきている。 (1)輸出市場向け:南ア自動車、園芸産業、衣料産業、 モザンビークのアルミニウム精錬 (2)国内市場向け:ショップライト、携帯電話、ナイジェ リア・自動二輪車 ・多国籍企業とローカル企業の連携に焦点をあてる 8 対内直接投資額の変化(1970∼2006年) 単位(100万ドル) 25000 20000 北アフリカ サブサハラ・アフリカ 南アジア 15000 10000 5000 (出所)UNCTAD Online database. 2006 2004 2002 2000 1998 1996 1994 1992 1990 1988 1986 1984 1982 1980 1978 1976 1974 1972 1970 0 9 アフリカにおける対内直接投資額(1997-2006年)上位15カ国 単位:100万ドル 対内直接投資額 国 名 2004年 年平均(1997-2006年) 2005年 2006年 対内直接投資 残高(2006年末 時点) 1 エジプト 2,323 2,157 5,376 10,043 38,925 2 ナイジェリア 2,180 2,127 3,403 5,445 40,251 3 南アフリカ 2,177 799 6,251 -323 77,038 4 モロッコ 1,653 1,070 2,946 2,898 29,795 5 スーダン 1,123 1,511 2,305 3,541 13,291 6 アンゴラ 1,120 1,449 -1,303 -1,140 10,993 7 チュニジア 880 639 782 3,312 21,779 8 アルジェリア 825 882 1,081 1,795 10,151 9 赤道ギニア 860 1,651 1,873 1,656 9,018 10 チャド 411 495 613 700 4,482 11 タンザニア 328 331 448 377 6,109 12 リビア 310 357 1,038 1,734 3,755 13 エチオピア 295 545 221 364 3,133 14 コートジボワール 285 283 312 253 4,155 15 コンゴ 237 -13 724 344 3,467 10 (出所)UNCTAD Online databaseより筆者作成。 2.アフリカFDIの傾向と非鉱業FDIの事例 (1)輸出市場向け:南ア自動車産業 • 日米欧7メーカー+インドのタタが進出:生産60万台弱 • 国内部品産業は約350社 • 組立工場の内製率が高い、技術水準の遅れ ⇒日系部品メーカーの進出 ・1995年 ローカルコンテンツ規制を廃止後、生産拡大 1995∼2006年 生産台数 1.5倍、輸出台数 11倍に ※部品の国内生産化の推進と品質の向上が課題 11 2.アフリカFDIの傾向と非鉱業FDIの事例 (1)輸出市場向け: 園芸産業:ケニア、エチオピア、ザンビア • 欧州向け花卉輸出が急増(ケニアのバラ等) 多国籍企業による投資が牽引 大企業に生産が集中する傾向(大規模資本が必要) 中小企業が厳しい状況に • 野菜・果実の欧州向け輸出 ローカル企業や小農が生産 高度な技術と設備が要求され大規模化が進む ※園芸産業では直接投資や輸出活動を通じて、技術や知識が ローカル企業に移転されているが、恩恵は大企業に集中 12 2.アフリカFDIの傾向と非鉱業FDIの事例 (1)輸出市場向け: 衣料産業:レソト、スワジランド、ケニア、マダガスカルなど • アメリカ成長機会法(AGOA)効果でアジア、南ア、 モーリシャス投資が流入 投資受入国の雇用効果は大きい • しかし、ローカル企業への波及効果は限定的 労働コストが高く、生地をつくる繊維産業が弱い 南部アフリカでは繊維産業への投資やクラ スターを形成する動きがみられる ※アフリカの衣料産業の生産性はアジアと同程度だが、労働 コストの高さを補うためには生産性の向上が必要 13 レソト: Ever Unison Garments社 本社は台湾。2002年に投資。 従業員はレソトに2,500人 14 2.アフリカFDIの傾向と非鉱業FDIの事例 (1)輸出市場向け: アルミニウム精錬:モザンビーク • FDI主導の製造業が高い経済成長の牽引力に • モザール:アルミニウム精錬 BHP Bulliton、三菱商事、南ア産業開発公社などが出資 2000年から生産開始(年産50万トン) • ローカル企業への波及効果は小さいが萌芽がみられる ①モザールに隣接して工業自由区(IFZ)の設置:15社 ②世銀の協力で中小企業の能力向上プログラム:中小 企業15社との取引を開始 15 モザンビーク: モザールと工業自由区 16 2.アフリカFDIの傾向と非鉱業FDIの事例 (2)国内市場向け 小売業:ショップライトなど • 都市化の進展を背景に、南アのスーパーマーケットによる東南 部アフリカ進出が活発 • ショップライト:南ア本社、アフリカ16カ国に1,181店舗 ⇒ショップライトに野菜・果物を供給できるかが農家の死活問題に(現地調達 を優先する方針) マラウイ:現地調達率が50%、品質と安定的な供給が決定要因 ザンビア:現地調達率が73%に増加 ショップライトが品質基準を設定 南ア国内:EurepGAPを適用(80%のサプライヤー達成) アフリカ諸国:基準を低くし、ローカル・サプライヤーの育成 ※十分な資本や技術をもたない中小農家には負担感 17 モザンビーク アフリカで展開するショップライト レソト ウガンダ 18 2.アフリカFDIの傾向と非鉱業FDIの事例 (2)国内市場向け 携帯電話産業 • ボーダコム、MTN、Celtelがアフリカ各地に投資し、 急速な事業展開(南ア、イギリス、クウェート資本) • 通信設備:中国企業が大きなシェアを占める 華為技術(Huawei):アフリカ25カ国に進出 中興通訊(ZTE):アフリカ29カ国に進出 知識の普及には効果があるが、輸入品に依存しているた めに技術の移転は限定的 ※設備製造へのFDIやローカル企業の参入に期待 (マレーシアのM dot Mobile社がザンビア進出を計画) 19 20 2.アフリカFDIの傾向と非鉱業FDIの事例 (2)国内市場向け 自動二輪車産業:ナイジェリア • ナイジェリア国内では自動二輪車需要が大きい • 日本企業による現地生産 ⇒1990年代末より中国製新車がシェアトップに • ローカル企業による輸入部品の組み立てのみ実施 ※現地部品生産までには相当の期間が必要 21 3.産業の課題と政策の方向性 (1)産業の課題 〔アジアの経験〕 ・ローカル企業に必要な技術や知識の蓄積は,生産ネットワー ク内部の取引企業(主に外国企業)からもたらされることを示 しており,参入に成功した企業は技術の向上が期待できる 〔アフリカの非鉱業〕 ・自動車、園芸、小売業のローカル・サプライヤーは技術や品 質の向上、生産規模の拡大といった課題に直面 ・衣料、携帯電話産業ではローカル企業への波及が限定 グローバルな生産ネットワークに参入するローカル企業が発生 しなければ,多国籍企業が持ち込む技術や知識を蓄積する ことができず,産業の発展が見られない 22 3.産業の課題と政策の方向性 (2)政策的支援の方向性 =多国籍企業とローカル企業の取引を支援 ①ローカル・サプライヤーを利用するインセンティブの付与 × ローカル・コンテンツ規制、外資の出資制限 現地調達率の上昇を促すインセンティブ (輸入原材料の関税率や法人税免除率(期間)との連動など) ②多国籍企業とローカル企業のマッチング 多国籍企業が要求する規格や品質基準とローカル企業の供給 可能性とを結ぶ機能を国や地方政府が提供 (例:日本の全国中小企業取引振興協会、モザンビーク) 23 3.産業の課題と政策の方向性 (2)政策的支援の方向性 =多国籍企業とローカル企業の取引を支援 ③技術向上の支援 ・ローカル企業技術面のギャップを埋めることが多国籍企業との 取引を始める必要条件 外部からの支援が必要 ・生産性機構間による協力促進 (APOや社会経済生産性本部によるアフリカ生産性向上支援) ・DFIDによる地域基準プログラム(RSP):南部アフリカ地域計画 1)南ア・スーパーマーケットと協力し、ローカル農家の品質向上 を図り、2010年までに現地調達率を30%増加 2)貧困国によるヨーロッパ植物衛生基準への適応を支援し、 2010年までに園芸輸出を5%増加 ※マーケティングを意識した技術援助 24 主要参考文献(1) • Abramovitz, Moses [1986] “Catching Up, Forging Ahead, and Falling Behind,” The Journal of Economic History, Vol. 46, No.2, pp.385-406. • Ernst, Dieter, Tom Ganiatsos and Lynn Mytelka eds. [1998] Technological capabilities and Export Success in Asia, London: Routledge. • Evenson, Robert E. and Larry E. Westphal [1995] “Technological Change and Technology Strategy,” in J. Behrman and T.N. Srinivasan eds., Handbook if Development Economics, Volume III, Elsevier Science, pp2209-2299. • Hall, Robert E. and Charles I. Jones [1996] The Productivityof Nations, NBER Working Paper No. 5812, Cambridge, National Bureau of Economic Research. • Lall, Sanjaya and Shujiro Urata eds. [2003] Competitiveness, FDI and Technological Activity in East Asia, Cheltenham; Edward Elgar. • Pack [1997] “The Role of Exports in Asian Development,” in N. Birdsall and F. Jaspersen eds., Pathways to Growth: Comparing East Asia and Latin America, Washington D.D.; Inter-American Development Bank. 25 主要参考文献(2) • Parente, Stephen L. and Edward C. Prescott [2002] Barriers to Riches, Cambridge: The MIT Press. • Rhee, Yung Whee and Threse Belot [1989] Export Catalysis in Low- income Countries: Preliminary Findings from a Review of Export Success Stories in Eleven Countries, Industry and Energy Department Working Paper Series No.5, Washington D.D., World Bank. • Rhee, Yung Whee, Katharina Katterbach, Therese Belot, Antonia Bowring, Young Wook Jun and Kwang Chul Lee [1995] Inducing Foreign Industrial Catalysts into Sub-Saharan Africa: Firm Level Study of Supply Sources of Potential Foreign Industrial Catalysts for Sub-Saharan Africa’s Private Sector Development, PSC Occasional Paper Series No.1, World Bank; Washington D.C. • Romer, Paul M [1986] “Increasing Returns and Long-Run Growth,” Journal of Political Economy, Vol.94, pp.1002-1037. • Saggi, Kamal [2002] “Trade, Foreign Direct Investment, and International Technology Transfer: A Survey,” The World Bank Research Observer, Vol.17, No.2, pp.191-235. • World Bank [1993] The East Asian Miracle, New York: Oxford University Press. 26