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論文要旨・審査の要旨

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論文要旨・審査の要旨
学位論文の内容の要旨
論文提出者氏名
論文審査担当者
論
文
題
目
高橋
主
査
小川
佳宏
副
査
澁谷
浩司、竹田
大栄
秀
WNK4 is the major WNK positively regulating NCC in the mouse
kidney.
(論文内容の要旨)
<要旨>
我々は遺伝性高血圧疾患である偽性低アルドステロン症 II 型の病態解析を通じ,腎遠位尿
細管において WNK-OSR1/SPAK カスケードが Na-Cl 共輸送体(NCC)の制御を行うことを見出
した.しかし,WNK4 の NCC 制御における真の役割については未だ議論がある.このため
我々は WNK4-/-マウスを作製し種々の条件で検討を行った.WNK4-/-マウス腎では WNK1 は
著増しており,SPAK リン酸化の低下は軽度にとどまったが,NCC の発現及びリン酸化はほ
ぼ完全に失われていた.
ゆえに WNK4 が NCC の主要な正の制御因子であり,WNK1 は WNK4
欠損を代償できないことが示された.また,インスリンあるいは低カリウム食による NCC リ
ン酸化刺激に対する応答は WNK4-/-マウスでは失われており,これらの系が WNK4 依存であ
ることが示された.また従来,野生型マウスを用いた実験で,高塩食による angiotensin II,
aldosterone 抑制下で NCC の発現とリン酸化が抑制されることが知られていたが,この NCC
抑制は WNK4-/-マウスにおいて軽減されなかった.このことから,angiotensin II 非存在下では
WNK4 が NCC の負の制御因子として機能するという仮説は否定された.本研究によって,
WNK4 が本質的に腎 NCC の正の制御因子であることが確実となった.
<諸言>
偽性低アルドステロン症 II 型(pseudohypoaldosteronism type II, PHAII)は,高カリウム血症,
代謝性アシドーシス,サイアザイド感受性を特徴とする遺伝性高血圧疾患であり,2001 年に
with-no lysine kinase (WNK) 1 及び WNK4 がその原因遺伝子として同定された.PHAII のサイ
アザイド感受性から,その病態に腎遠位尿細管(DCT)の Na-Cl cotransporter (NCC)の関与が予
想されたため,
これまで WNK による腎 NCC の制御機構について様々な研究が行われてきた.
当初,Xenopus oocyte を用いた実験結果から,WNK4 はキナーゼ活性と無関係に NCC を負に
制御すると報告された.しかしその後,WNK1 及び WNK4 が oxidative stress-responsive 1
(OSR1)および Ste20-like proline/alanine-rich kinase (SPAK)をリン酸化することが報告され,
我々が作製した PHAII 病態モデルマウス(WNK4D561A/+)の解析では OSR1/SPAK を介した NCC
のリン酸化亢進が明らかとなった.
さらに WNK4 hypomorphic マウスは OSR1/SPAK 及び NCC
- 1 -
のリン酸化低下を示したことから,WNK-OSR1/SPAK-NCC シグナルカスケードは本病態に
おいて重要な役割を担うことが示された.即ち,WNK4 による NCC の制御機構には正と負,
2 つの相反する仮説が存在しており,WNK4 の真の生理的役割は長らく不明であった.
2011 年,PHAII の新たな原因遺伝子 KLHL3 及び Cullin3 が報告された.我々は KLHL フ
ァミリーが Cullin3 と複合体を形成しユビキチンリガーゼとして機能することに着目し,
KLHL3-Cullin3 E3 リガーゼ複合体が WNK4 のユビキチン化を制御すること,また DCT にお
ける WNK4 の発現量増大が PHAII を引き起こすことを報告した.このことは WNK4 が NCC
に対する正の制御因子であることを強く支持するものであった.
近年,Castañeda-Bueno らが,WNK4 ノックアウトマウスを解析し報告したが,これは生
理的条件下では WNK4 は NCC を負に制御するという立場から,angiotensin II 負荷或いは低
塩刺激下での限定的な WNK4 の役割を述べるにとどめており,WNK4 機能の controversial な
部分について十分に回答したとは言えない.
このため,我々は独自に作製した WNK4-/- (KO)マウスを用いて,WNK4 による NCC 制御
について検討を行った.その結果,WNK4 が NCC に対して抑制的に機能することはなく,
WNK4 が本質的に NCC の正の制御因子であること,また WNK1 による代償が働かないこと
が明らかとなった.
<方法>
WNK4 BAC clone の exon 2 を loxP 配列で挟んだコンストラクトを作製し,作出された
WNK4flox/+ マウスを Cre マウスと交配することで WNK4+/-(Hetero)マウス,及びそこから
WNK4+/+ (WT)マウス及び WNK4 KO マウスを作製した.WNK4 KO マウスの表現型として,
採血,テレメトリー法による血圧測定を行った.次に,腎における種々のタンパクの発現に
ついて免疫染色やイムノブロッティングを用いて検討した.続いて WNK4 の腎における役割
を解析するため,WNK4 活性化刺激である低カリウム負荷やインスリン刺激を行った.さら
に,高塩による angiotensin II 抑制下での検討も行った.
<結果>
WNK4 KO マウスでは腎 WNK4 の発現が消失していた.WNK4 WT マウスと比較し,血清
pH の上昇を認めたが,血清 K に差はなかった.常塩食及び高塩食ではマウスの血圧に差は
なかったが,低塩食では WNK4 KO マウスの血圧は数日かけて低下した.また,この低血圧
は常塩食に戻すことで WNK4 WT と同程度まで回復した.次に常塩食下で腎における
WNK-OSR1/SPAK-NCC リン酸化カスケードを評価した.WNK4 Hetero マウスでは,WNK4
の発現量は WNK4 WT の半分になっていたが,OSR1/SPAK, NCC の発現やリン酸化は保たれ
ていた.一方 WNK4 KO マウスでは,SPAK のリン酸化は低下し,NCC の発現とリン酸化は
ほぼ完全に失われていた.このとき WNK1 の発現量は著明に増加していた.WNK1 の局在を
免疫染色で確認すると,WNK4 KO マウスでは,DCT における WNK1 の発現が増大している
にも関わらず,NCC の発現は減弱し,DCT は拡張していた.このことから WNK1 は WNK4
の機能を代償できないことが分かった.
- 2 -
既知の WNK-OSR1/SPAK-NCC カスケード刺激因子には塩分,カリウム,aldosterone,insulin
などが存在するが,これらが腎臓においてどの WNK を介するかは不明であった.このため,各
条件下での WNK カスケードの変化を検討した.低カリウム食あるいはインスリン刺激に対する
NCC の反応は WNK4 KO マウスでは失われていた.このことから,低カリウム食あるいは insulin
刺激による NCC へのシグナルは,主に WNK4 が担うことが分かった.
最後に,renin-angiotensin-aldosterone (RAS)系抑制下での WNK シグナルを評価するため,高塩
食負荷を行った.WNK4 KO マウスの血清 aldosterone 値は WNK4 WT マウスと差はなく,高塩食
によって同様に抑制されたことから,WNK4 KO マウスでも高塩により RAS 系は抑制されること
が分かった.このとき,WNK4 WT では高塩によって SPAK 及び OSR1 のリン酸化は抑制されて
いた.また,WNK4 KO マウスでは SPAK のリン酸化は変化がなく,NCC の増大は確認されなか
った.前述の血圧評価でも,WNK4 KO マウスは高塩食による血圧上昇は示さないことから,
WNK4 は NCC の負の制御因子としては働かないことが示唆された.
<考察>
NCC の N 末端付近のリン酸化は,その頂端部細胞膜への発現や輸送活性に重要であり,その
リン酸化の程度が in vivo での活性を反映することが知られている.故に NCC のリン酸化を制御
する WNK-OSR1/SPAK カスケードは NCC の制御因子として重要である.加えて KLHL3-Cullin3
による WNK 分解系の障害が PHAII の原因となることは,NCC の正の制御因子としての機能が
WNK の本態であることを示している.本研究において,我々は WNK4 KO マウスでは NCC のリ
ン酸化がほぼ完全に喪失していること,及び WNK4 を刺激する既知の因子を用いても NCC のリ
ン酸化は確認されないことを示した.さらに,高塩による Angiotensin II 抑制によっても,NCC
の活性化は確認されず,即ち WNK4 が生体内では負の制御因子として機能する場面は存在しない
と考えられた.
また,本研究では WNK1 についても興味深い知見が得られた.WNK1 は WNK4 同様 NCC を
活性化する.しかしながら WNK4 KO マウスでは,DCT における WNK1 発現量は増大し,SPAK
のリン酸化は一部保たれるにも関わらず,WNK4 を機能的に代償できないことが判明した.より
正確な理解には WNK1 及び WNK4 が増大する病態モデルマウスである KLHL3 ノックインマウス
と WNK ノックアウトマウスを交配し検討することなどが必要であるが,本研究によって WNK4
が腎 NCC リン酸化において最も重要な WNK であることが明確となったと言える.
<結論>
WNK4 KO マウスの作製および解析により,生体において WNK4 はリン酸化を介した NCC の
正の制御因子として働くことが明確となった.また,WNK4 KO 下では WNK1 の発現量増加は
WNK4 の欠損を代償できないことから,WNK4 が NCC 制御を担う主要な WNK であると考えら
れた.
- 3 -
論文審査の要旨および担当者
報 告 番 号
論文審査担当者
甲 第
4720 号
高橋
主
査
小川
佳宏
副
査
澁谷
浩司、竹田
大栄
秀
(論文審査の要旨)
1.論文内容
本論文は腎臓において WNK4 が NCC を正に制御することを証明した論文である。
2.論文審査
1)研究目的の先駆性・独創性
偽性低アルドステロン症 II 型(PHAII)の原因遺伝子である WNK4 は NCC を正に制御するのか負
の制御因子であるのか最終的な決着がついていなかった。申請者は WNK4 ノックアウトマウスを
用いて、WNK4 が NCC の正の制御因子であることを証明し、評価に値するものである。
2)社会的意義
・WNK4 はリン酸化を介した NCC の正の制御因子として機能することを照明した。
・WNK4 が生体内では腎 NCC の正の制御因子として必須であることを証明した。
以上のように WNK4 が正の制御因子であることを明らかにし、WNK4 は WNK1 と拮抗的に働くと
いう説を含め、WNK4 が NCC の負の制御因子であるという説が否定され、WNK4 の機能を明確にし
た。
3)研究方法・倫理観
本研究は本学動物実験委員会の許可に基づいた動物実験であり、ヒト検体は使用していない。
使用マウスの数は極力減じるように施行された。
4)考察・今後の発展性
本研究により、WNK4 が生体内で正の制御因子であることが明らかになった。今後、NCC のみ
ならず、WNK キナーゼによる ROMK の制御機構を明らかにする必要がある。WNK4 ノックアウトマ
ウスの解析により、肥満や糖代謝における新しい WNK4 の機能解析を進めている。
3.審査結果
以上により、本論文は博士(医学)の学位を申請するのに十分な価値があるものと認められた。
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