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EC市場統合と ドイ ツ生命保険産業

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EC市場統合と ドイ ツ生命保険産業
E C市場統合とドイツ生命保険産業
下和田 功
(一橋大学教授)
1.はじめに
2. EC市場統合と生命保険
2-1 EC市場統合と生命保険指令
2-2 EC市場統合とドイツ生命保険産業の立場
3. EC保険市場におけるドイツ生保市場の地位
3-1生命保険料でみた市場規模
3-2国民1人当たり生命保険料でみた保険密度
3-3生命保険料でみた成長性
3-4市場集中度
3-5生保商品
3-6販売チャネル
4.主要指標でみたドイツ生保市場の発展
4-1生命保険料
4-2保有契約高
4-3保険給付
4-4資産運用
5.ドイツ生保市場の基本構造
-1-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
5-1生保市場の基本的枠組み
1)保険監督行政の特質 2)生保会社数とその形態 3)EC域内
市場
5-2生保市場の集中度
1)保険市場の集中度 2)収入保険料 3)保有契約高 4)総資産
5-3保険コンツェルン・グループ
6.ドイツ生保企業の行動
6-1アルフイナンツの動向
6-2保険企業のアルフイナンツヘの対応
7.おわりに
1.はじめに
「1992年EC市場統合」はEC統合のキイワードとなっていたが、
いよいよ1993年1月1日からEC市場統合がスタートしたことによ
1)
り、 ECへの関心は内外各方面で一層高まっている。
保険業務においても、 1992年EC市場統合にあわせて、保険市場
の統合ないし調整をめざした加盟諸国間の利害の調整が進められてき
2)
た。第3次生命保険指令も1992年11月にEC閣僚理事会で正式に採
択されて、 EC生保市場の統合が本格的に進展しようとしている。な
お、保険分野の動向については、すでにわが国でもある程度紹介され
3)
ているので、ここでは本稿との関連で必要最小限の範囲で、生命保険
業務の主要な動きについて、 2-1で若干触れるにとどめる。
他方、ソ連や東欧諸国の社会主義的計画経済の崩壊により、これら
諸国においても、国家再編を含めて、市場経済原理の導入による新し
い市場ブロックの形成が模索されている。ベルリンの壁の崩壊以後の
-2-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
急速な展開により、社会主義国家であったドイツ民主共和国いわゆる
4)
旧東ドイツはドイツ連邦共和国いわゆる旧西ドイツに併合された。統
一後の現在、旧東ドイツ地域では高い失業率、環境汚染問題など、多
くの経済的社会的問題を抱えているが、それらの問題に着実に対応し
ながら、新生ドイツは確実にたくましく前進しているように思われ
る。しかも、ドイツは今後のソ連・東欧諸国の経済再建に積極的にコ
ミットしようとしており、その動向が大きく注目を浴びている。これ
らソ連・東欧問題の動向は、 EC統合にも影響を及ぼしており、現代
史を動かすいわば二つの台風の目がお互いに影響しあいながら、ダイ
ナミックな展開を示している。
こうした'動向において各方面からドイツが脚光を浴びているが、
ECの保険市場ないし生保市場においても、ドイツ生保産業ないしド
イツ生保市場の動向が今後のEC市場発展のキャスティングボートを
握っているといえよう。本稿は、従来、英米に比べて十分に検討が行
なわれてきたとはいえないドイツ(本稿では旧西ドイツが中心となる
が、以下では単にドイツとよぶ)の生保産業ないし生保市場に焦点を
あてて、その基本的枠組み、市場構造などを検討し、 EC生保市場に
おけるその位置づけを明らかにす-ることを目的としている。
注1) EC市場統合の背景とその課題などについては、 FジュリストJ 961号(1990.8.
1-15)の特集「EC市場統合の展望第1郡市場統合とその背景」 「同第2部市場統
合と法的課題」掲載の各論文を参照されたい。
なお、一橋大学商学部主催の国際シンポジウム「変貌する世界と金融市場」 (神田
-ツ橋の如水会館で1993年3月23、 24日の両日開催された)にゲストスピーカーの
一人として招待され、初来日したドイツのケルン大字ファールニー教授(Prof.Dr.
Dieter Farny)はEC保険市場の最近の動向と関連して、以下のテーマで4回にわた
-3-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
り講演を行ない、聴講者に多大な感銘を与えた。
(彰TECの保険市場」 (Insurance Market in the European Community, in ;
Hitotsubashi International Symposium, FinanとIal Markets in the Changing
World (Proceedings), Tokyo 1993, pp.153-169)
(参「生命保険におけるEC域内市場とアルフイナンツ」 (Der EG-Binnenmarkt
fdr Lebensversicherungen und Allfinanzgeschaft) (本講演は生命保険協会主催に
より1993年3月26日に行なわれた。その講演内容については、 Tインシュアランス
(生保版) I 3556号(1993年4月22日)および同3557号(1993年5月6日)を参
照されたい)
@ 「アルフイナンツードイツ市場を中心としてみた保険業務と銀行業務の結合-」
(Allfinanz - The Linkage of Insurance and Banking Business under Particular Consideration of the German Market - ) (本講演は生命保険文化研究所主催
の特別研究会<大阪>において1993年3月27日に行なわれた。その講演録の全訳は
F文研論集』の本号に、またその要旨はr文研月報J 1993年5月号に掲載されている
ので、参照されたい)
、唾) 「単一市場を背景としたヨーロッパ保険業者の企業戦略」 (Corporate Strategy
of European Insurers against the Background of the Single Market) (本講演
は頒害保険事業総合研究所主催により1993年3月29 Hに行なわれた。その全訳は近
刊のr損害保険研究j に掲載される予定である)
2)たとえば、田中淳三「EC第3次生命保険指令案について」 『生命保険経営j 59巻
4号(1991年7月)、帆刈寛康「EC保険市場統合と第3次生命保険指令の採択につい
て」 F生命保険経営1 61巻3号(1993年5月)など参照。
3)たとえば、以下の文献を参照のこと。
伊賀山栄雄「EEC域内における保険自由化の動向(l)-(2-完) r損害保険研究j 24
巻2号・同3号
石田満「ECにおける保険監督法の調整」 f上智大学法学論集1 30巻2 ・ 3合併号
-4-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
(1987年)
牛越博文「EC市場統合の生命保険会社への影響」 r生命保険経営」 63巻6号(1988
年11月)
日本損害保険協会業務開発室F保険監督法制海外調査報告書 欧州共同体(EC)
編』 1989年3月
朝日生命総合企画部編『新版生命保険最新事情』東洋経済新報社、 1989年
倉田久「EC統合と生命保険業界」 『保険学雑誌』 528号(1990年3月)
小池青史「ECにおける損害保険市場の統合」 F保険学雑誌』 528号(1990年3月)
山下友信「ECにおける保険法の調整」 『ジュリスト』 961号(1990.8.1-15)
田中淳三「ECにおける生命保険営業の自由化」 『生命保険新実務講座8 ・外国事
情』 1990年12月
「EC生命保険第3次指令案合意」 F生命保険経営1 60巻6号(1992年11月)
帆刈寛康・前掲論文
4 )ドイツでは旧西ドイツを旧州(Alte Bundesl云nder, Altesl云nder)、旧東ドイツを新
州(Neue Bundesl云nder, Neul云nder)とよんで区別している。
2. E C市場統合と生命保険
2-1 E C市場統合と生命保険指令
5)
ECにおけるL保険指令では、その業務の性質上国際化が急がれる撹
害保険事業に関してまず第1次損害保険指令(The First Non-life
Insurance Directive [73/239/EEC] ) (正式には「生命保険を除く
元受保険事業の開始および実行に関する法律・命令・行政規則を調整
するための閣僚理事会第1次指令」という。以下同様に略称のみを示
す)が1973年7月に採択され、次いで第2次損害保険指令(88/3・57/
EEC)が1988年6月に採択された。また、第3次損害保険指令(92/
-5-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
49/EEC)は1992年6月にEC閣僚理事会で採択された。
先行する損害保険に追随する形で、生命保険事業については、第1
次生命保険指令(The First Life Insurance Directive [79/267/
EEC] )が1979年3月に、第2次生命保険指令[90/619/EEC]が
1990年11月にそれぞれ採択された。第3次生命保険指令案は1991
年2月に発表されたが、最終指令としての第3次生命保険指令[92/
96/EEC]は1992年11月にEC閣僚理事会によって採択されてい
る。第1次指令では損保と生保で約6年の時間差があったのが、第2
次指令では2年5カ月に縮まり、第3次指令ではわずか約4カ月の差
となり、生保の調整もスピードアップされてきている。
第1次損保指令を受けて、第1次生保指令はまず第1条で、その対
象となる生命保険事業の範囲を明確にしている。第1次生保指令の特
色は、生保会社がEC域内の他国にが子会社、支店、代理店などの形
で進出する際に進出先国の監督官庁の認可・監督権に服することを求
める、という進出先国主義(host country control)の原則を採用
し、設立・買収に関する統一基準を定めて、 EC域内における「設立
の自由」を促進することを目指している点にある。また、生損保兼営
禁止を原則とするが、指令通達時に既に両業務を兼営している会社に
ついては、両業務を区分して運営管理し、区分経理を行なうなど、一
定条件を満たす場合に引き続き兼営を認めることにしている。ただ
し、兼営会社は生保業務については、国外に支店、代理店を設立する
ことを禁止している。また、契約者保護の観点から支払余力(solvency margin)など保険会社の財政的保証に関する規定を設けてい
る。この指令に従って、加盟各国は1989年1月までに本指令に則し
た国内法の改正を終了している。
第2次生保指令は、第2次損保指令と同様に、先の第1次生保指令
I---16-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
を補正し、生命保険における「サービス(役務)提供の自由」化をは
かることを主眼としている。本店の所在する国(home country)で
認可を得ている保険会社は所定の認可書類をサービス提供対象国の監
督官庁に提出した目より、保険の引受を開始できる(届け出制)。す
なわち、域内の保険会社が子会社・支店を設置することを前提とせず
に、他の加盟国で生命保険を販売する(サービスを提供する)権利を
認めている。他方、保険会社が顧客の居住する国に営業拠点を持つと
否とに関わらず、顧客は自らの意思により加入する場合には域内のど
の保険会社からも保険商品を買うことができることを定めている。こ
の場合には、消費者保護の必要性は相対的に低いとの考えから、保険
会社の所在する国の法律が契約に適用されることになっており、ここ
では母国監督主義(home country control)ないし本店所在地監督
主義の原則が採られている。第2次生保指令でも、生損保兼営禁止を
原則としており、既存の兼営会社は1995年12月末まで営業できるこ
とになっており、サービス提供の自由による生命保険の引受を兼営会
社には禁止している。第2次生保指令は各国の保険規制の相違を前提
としており、限定的なものではあるが、生命保険事業の全面的なサー
ビスの自由化のための道標になるものといわれている。
第3次生保指令は第2次生保指令を補完し、 EC域内におけるサー
ビス自由化を一層促進することを目指している。すなわち、サービス
提供に関して母国監督主義を採用し、生保会社はEC加盟の特定の1
カ国で免許を得れば、域内全域で自由に営業することができ(域内共
通免許-単一免許)、その生保会社の業務は本店所在地すなわちその
母国で業務全体の監督を行なわせることにしている(母国監督主
義)。生損保兼営会社の取扱いについては、第2次生保指令で規定さ
れていた1995年12月末以降の兼営を禁止した経過規定を削除し、
-7-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
1995年以降も区分経理を条件に引き続き兼営を認められることにし
ている。ただし、各加盟国は自国で兼営を認めるかどうかについてオ
プションを持てることになっている。また、投資規制の自由化のため
の原則的規定と保険料率・責任準備金の一般的算出原則を定めてい
る。
なお、第3次生保指令については、生損保兼営禁止原則の維持、約
款・保険料率・責任準備金などに関する監督規制の維持、消費者保護
6)
などの観点からの批判が行なわれている。
これらの指令を受けて、 EC加盟各国は自国の関連法や規則、 ∴命令
などを整備することになっているが、第3次生保指令は第3次損害保
険指令と同様に1994年7月1日までに施行することが義務付けら礼
ている.なおEC主要国の法改正の進捗状況は表211の通りである。
表2 - 1 EC保険関係指令各国反映状況 1993年1月現在)
採択 番号
イ ギ リス
フラ ンス
ド イ ツ
生命保険 第 1 次指令
指
令
名
19 79 年 3 月 5 日
採
択
日
79/2 67/ E E C
○
○
○
生 命保 険 窮 2 次 指 令
19 90 年 1 1 月 8 日
90/6 19/ E E C
△
△
×
生命保 険第 3 次指令
19 92 年 1 1 月 10 日
9 2/9 6/ E E C
×
X
×
損害保 険第 1 次指令
19 73 年 7 月2 4 日
7 3/2 39/ E E C
○
○
○
損害保 険第 2 次指令
19 88 年 6 月2 2 日
88/3 57/ E E C
(⊃
○
○
損 害保 険 第 3 次 指 令
19 9 2年 6 月3 0 日
9 2/4 9/ E E C
×
×
×
保 険 計 算 書 指 令
19 9 1年 1 2 月 19 日
9 1/6 74/ E E C
×
×
×
保 険 仲 介 者 指 令
19 7 6年 12 月 13 日
7 7/9 2/ E E C
○
○
○
* 〇一-・反映済 △一一一部反映 ×---未反映
〔出所〕 『インシュアランス(生保版)』 3554号(1993年4月8日) 11ページ0
2-2 E C市場統合とドイツ生命保険産業の立場
3次にわたるEC生保指令の内容からも判断できるように、銀行・
証券はもちろん、損害保険と比べても遅れていた生命保険分野の調整
-8-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
も確実に進展しており、 EC単一生保市場の実現に向けての種々の努
力が行なわれていることが理解できる。
国際性の高い損保分野のみならず、個人保険の比重が大きく、もと
もとドメスティックないしローカルな市場といわれてきた生保分野に
おいても、今後EC域内市場の自由化・バーモニゼ-ションがさらに
進行し、加盟各国の生保会社が国境を越えて相互に進出し、保険の販
売・引受を行なうことが一般化すれば、国内、国外の生保会社間の競
争が一層発まることは必至であるo したがって、 EC域内の生保会社
もEC単一生保市場の到来に対応するために、すでに業際や国境を越
えた種々の模索を試みてきた。ドイツの生保会社も当然その渦中にあ
り、後述するように、業界トップのアリアンツを始めとするドイツの
保険会社のEC統合を視野に入れたアルフイナンツ戦略、グローバル
戦略などは、 EC域内諸国からはもちろん、域外諸国からもきわめて
注目されている。
保険規制、保険監督行政の在り方は加盟各国でかなり異なってい
る。周知の通り、監督規制の緩やかなイギリスに対して、ドイツは厳
7)
しい実体的監督主義を採用している(表2-2参照)。イギリスでは営業
免許が認可制になっているのみであるが、ドイツでは営業免許、保険
料率・計算基礎、保険約款、契約者配当がすべて認可制になってお
り、その他も監督対象となっている。したがって、 ECにおける保険
法に関するバーモニゼ-ションと自由化の進展に、国内の伝統的な保
険監督行政をいかに調和させるかに苦慮し、努力してきたかというの
が、これまでのドイツの実情であったといえよう。しかし他方で、保
険事業に関する厳しい監督規制によって、ドイツでは日本と同様に戦
後保険企業の倒産はほとんど発生しておらず、契約者利益の保護と健
全な保険事葉の育成という保険行政の目的をほぼ完全に達成してき
-19-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
た、という自負をドイツの行政当局は持っている。ドイツはそう、した
国内における経験を生かして、 ECの保険法のバーモニゼ-ションの
在り方に大きな影響を与えてきたといえよう。
表2-2 EC主要国における保険監督の状況
凶
名
監督 対象
営
業
免
許
イ ギ リス
オ ラ ンダ
*
*
+
保 険料 率 、 計 算 魅 礎
付
軍
的
任
if-
払
ド イ ツ
*
*
*
*
+
* l)
*
*
'A
,
+
+ .
*
*
*
金
十
+
+
+
十
+
算
+
+
+
+
十
+
力
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
○
.
+
+
*
+
+
+
+
能
続
的
監
督
契
約
者
配
当
産
イ † 11 -r
備
継
資
7 7 ンス
阜蝣
j
決
支
スペ イ ン
運
用
+
f
*蝣・・・-認可 +-・-証明 01・・-報告 -・-・.・監督対象外
注1 )団体契約には不適用
〔出所〕Dleter Nonhoff Lebensversicherung im EG-Binnenmarkt-Wechselwirkung im Hinblick
aL】f Produkt - und Marktverfassung, in : Zeitschrift fur die gesamte Versicherungswissenschaft, 2ノ1991.S.239.
とくにドイツでは、保険企業の支払能力ないし財務力の維持に保険
行政の重点がおかれており、そのことを通じて契約者利益の保護を実
現するという姿勢が重視されてきた。その結果、ドイツの生保会社に
は財務状態・資金力の充実した企業が多く存在し、ドイツの監督当局
も国内の生保会社の足腰の強さや競争力については確固とした自信を
もっている。ドイツの生保会社の経営者層に対する聞き取り調査で
も、 EC域内単一生保市場が実現しても、十分対応していけると考え
る企業が多いという結果が出ている。
このことは、たとえばイギリスの調査機関の分析でも裏づけられて
いる。すなわち、ドイツの生保会社の実際の収益率は決算時の数字以
-10-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
上に高く、低価法に基づく会計システムのために財産価値は時価で評
価した場合の数分の1でしか示されておらず、したがって、ドイツの
生保会社の財務状態は実体よりもかなり低く評価されているといわれ
8)
る。歴史的に形成されてきた秩序ある市場の状況を反映して、ドイツ
の生保市場はEC諸国の中でも最も良好かつ安定したパーフォマンス
を挙げてきた、と外国からも評価されてきたのである。
国内的にも、ドイツの生保会社の全金融機関資金量に占める割合は
1960年末の5.6%から85年で8.4%と約3パーセント・ポイントも上
昇しており、戦後の生保市場の順調な成長に支えられて、その金融的
地位は戦後一貫して高まっている(後述6-1参照)0
EC域内の保険会社数は約4,700社あるといわれ、きわめて多数に
のぼる。 EC統合の伸展によって、保険会社間のM&Aや提携が国内
のみならず、多国間にまたがって活発に展開され、 EC全体の業界再
編が今後急速に進むことが予想される。また保険会社自体の経営多角
化、グループ化などによるリストラクチャリングもさらに進展すると
思われる。その際に、強い競争力と財務力を持ったドイツの保険会社
や金融機関がEC全体の動向の重要な鍵を握ることになる。
1988年の「非統合ヨーロッパのコスト」研究委員会報告書いわ珍
るチェッキーニ報告(Paolo Cecchini, The European Challenge
1992 -The Benefits of a Single Market [田中素香訳「EC市場
統合 1992年」東洋経済新報社] )では、域内経済統合に伴うEC
経済の活性化により、
(彰各種障壁の除去に伴うコストの低減、
(塾域内均一市場の実現による規模の利益の享受、
(参競争促進による企業の効率化と経済体質の改善・強化、
④コスト低減、効率化などに伴う物価の安定ないし下落、
-ilil-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
⑤国際競争力の束化と雇用の改善
9)
などのEC市場統合の経済的効果が期待されることを指摘している。
そして、 ECの信用市場・保険市場の統合から生じる消費者余剰の利
益の推定額217億ECUのうち、イギリスの51億ECUに次いで、ド
1 0)
イツが46億ECUを享受できるものと推定しており、ドイツの消費
者の享受できるEC統合によるメリットも決して少なくないのであ
る。
注5) ECの保険市場に関係する指令全般について展望するには、以下の文献が有益であ
る。
Clifford Chance, Insurance in the EEC: the European Community's programme for a new regime: a Lloyds of London Press Industry report, London 1990.
Bill Pool.Der Binnenmarkt fur Versicherungen : Stand und Ausblick : Dokument (Kommission der Europaischen Gemeinschaften). Brussel-Luxemburg
1991.
Ulrich Jurgens, Birgit Rabe, Thomas Rabe, Der europaische Versicherungsmarkt, Bonn 1993.
なお、 EC加盟各国の保険市場に関する基本的資料を得ることを目的に、 EC委員
会は各国の研究者に「集中と競争の展開」に関する研究を要託したが、その成果が
ドイツについてはファールニーを中心とした研究グループにより、また各国の研究
成果を跨まえて、 EC市場についてはア一口ノピッチなどにより、以下の文献にまと
められている。
Dieter Farny u.a., Die deutsche Versicherungswirtschaft: Markt- Wettbewerb-KOnzentration, Karlβruhe 1983.
Sam Aaronovitch/Peter Samson, The Insurance Industry in the Countries
-12-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
of the EEC: Structure, Conduct and Performance, Luxembourg 1985.
6)第3次生保指令案に対するドイツ生保業界の批判的見解としては、 Die deutsche
Lebensversicherung, Jahrbuch 1991, SS.8-15を参照。
7)ケルン大学保険論ゼミナールがEC加盟国の保険実務家を対象に実施したアンケー
ト調査によると、 EC加盟国で保険税制度の最も輯い国はドイツ(2.35)で、以下フ
ランス(2.15)、イタリア(2.00)、ポルトガル(1.96)、ギリシャ(1.92)、スペイン(1.
75)、アイルランド(1.75)、デンマーク(1.66)、ルクセンプルグ(1.48)、ベルギー(1.
45)ー イギリス(1.40)、オランダ(128)の順となっている. (Vgl. Dieter Farny,
Erwartungen europaischer Versicherer an den Binnenmarkt, in ; Zeitschrift
fur die gesamte Versicherungswissenschaft, 1989, SS.67 it-)
8 ) Cf. Fox-Pitt, Kelton, European Insurance Perspective, June 1989, p.20.
9)小池・前掲論文41-42ページ参照。
10)小池・前掲論文42-43ページ参照。
3. EC保険市場におけるドイツ生保市場の地位
311生命保険料でみた市場規模
EC加盟国12カ国からなるEC生保市場はアメリカの2.44億人、
日本の1.22億人を上回る人口3.24億人を擁する-大市場であるが、
生命保険料でみた市場規模は1987年では世界シェアで日本32.7%、
アメリカ30.3%に次ぐ22%で、世界第3の生保市場となっている(表
3-1参照)。この点からいえば、 EC生保市場の潜在的成長性は日本や
アメリカ以上にあるといえよう。ただし、以下にみるように、加盟国
間では生保の普及率などが大きく異なり、遅れて加盟したスペイン、
ポルトガルなどのように普及率も低く、市場規模も小さく、これから
高い成長が期待される国もあれば、英、仏、独のようにすでに市場が
-13-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
かなり成熟している国もある。
EC加盟国の中では英、仏、独3カ国が主要市場となっており、
1987年ではイギリスの生命保険料収入が402億ドルで最も多く、こ
れはEC生保市場全体の33.4%を占める。ドイツはイギリスに次ぐ
EC第2の生保大国であり、その生命保険料収入は364億ドルで、
EC生保市場全体の30.3%を占めている。第3位がフランスで212億
ドル、 17.7%となっている。したがって、この3カ国で、 EC生保市
場全体の81.4%を占めており、他の9カ国が残りの5分の1のマー
ケットシェアを共有していることになる(表3-1参照)。なお、損保市
場では、ドイツが英、仏を抜いて、 EC加盟国最大の市場となってい
る。
表3-1 EC、アメリカ、日本の生命保険市場(1987年)
人 口
国
名
生 命 保 険 料 合 計
( 百 万 人 ) 日 1 万 ドル )
%
i K
i 人 当た り
生 命保 険 糾 ドル )
田 内総 生 産 に 対 す る 生
生命側鮒
鈴保 険 糾 の 割 糾 % )
罪/ i ア (% ー
壮
イ
ギ
リ
ス
5 6 .9
40 ,15 5 ( 3 3
4 )
7 0 5 .8
5
西
ド
イ
ツ
6 1 .2
36 ,39 1
3 0 ▼3 )
5 9 4 .9
2 .8 6
6 .6 7
フ
ラ
ン
ス
55 .6
2 1 ,23 6
1 7 .7 )
3 8 1 7
2
3 .90
蝣
t-
-"・
s"
14 .7
7 ,0 8 3
5 .9
4 3 8 .Z
2 .9 2
1 .30
イ
タ
ア
5 7 ▼4
4 ,27 0 (
3 .6 )
74 ー
4
0 ー
5 1
0 .78
デ
ン マ
ベ
ル
リ
ー
ギ
ア イ ル ラ ン
ス
ギ
ポ
ペ
リ
ル
メ
37
ク
5
l ,90 3 (
1 6 )
3 7 1 .0
1
6 7
0 .35
9 .9
1 ,9 72
1 .6
1 9 8 .9
1 .2 3
0 .36
3 .5
2 ,5 17
2 . 1
7 1 1 .0
7 .6 0
0 .4 6
3 .4
107 ー
5
1 .2 7
0 .77
ド
1
イ
ン
38 .8
4 ,17 5
シ
ア
10 .0
20 3
0 .2 )
2 0 .3
0 .4 0
0 .0 4
ト ガ ル
10 . 4
13 5
0 ー1 )
1 3 .0
0 .3 5
0 .02
0 .4
6 6
E C 合 計
日
15
7
ー
ル クセ ン ブ ル ク
ア
2 5
リ
0 .1
178
4
0 .8 4
3 7 0 .8
2 .4 8
2 2 .03
3
6 9
30 .34
0 . 1.1
3 2 .7 1
32 3 .9
1 2 0 , 1 0 6 ( 10 0 .0 )
カ
24 3 .8
16 5 ,4 14
6 7 8 .6
本
12 2 .1
17 8 ,34 4
1 ,4 6 0 . 7
0
0 1
荏)生命保険料合計欄の( )内は対EC構成比。国民1人当たり生命保険料のEC合計欄は
EC平均練。
〔出所〕 Sigma, Swiss Re.
312 国民1人当たり生命保険料でみた保険密度
国民1人当たり生命保険料でみた保険密度では、ドイツは595ドル
SES
EC市場統合とドイツ生命保険産業
となっており、アイルランドの711ドル、イギリスの706ドルに次い
で、 EC加盟国中第3位にランクされている(表3-1参照)。市場の未
成熟なスペイン、イタリア、ギリシャ、ポルトガルの保険密度は100
ドルないしそれ以下となっており、ドイツの5分の1以下ときわめて
低い。
313 生命保険料でみた成長性
生命保険料でみた生命保険市場の成長率は、各国とも国内総生産
(GDP)や損害保険市場のそれよりも高くなっており、順調な発展を
遂げている(図3-1参照)。ドイツでも同様なことがいえ、生保市場の
成長率がGDPや損保の成長率を上回っている。ドイツの生保の成長
率は5%台であり、 84-86年についてみると、 20%を超える成長を記
録しているスペイン、イタリア、フランスよりはかなり低くなってい
るが、ベルギー、オランダ並みのマイルドなものとなっている。
図3 -1 GDPおよび保険料の実質成長率
図3 - 1 a 1975-83年の平均実質成長率
享日日7日 至P責
15
EC市場統合とドイツ生命保倹産業
図3 -1 b 1984-86年の平均実質成長率
GDP
■ 生サsサ
・・ n書書■
ベ デ フ フ ド イ オ ノ ボ ス ス ス イ
ル ン イ ラ イ タ ラ ル ル ベ ウ イ ギ
ギ マ ン ノ ソ リ ン r) ト イ 1 ス リ
1 1 ラ ス 7 タ ェ ガ ン l ス
ク ン l ル ァ
ド ノ
〔出所) Fox-Pltt. Helton: EuroDeiiTi /jisuronce Pe▼ipecttve-June 1989, p 4.
3-4 市場集中度
各国の生保会社数は統計資料によってまちまちなので、正確な比較
蝣・:
は容易ではないが、ノンホフによれば、 1987年では、ドイツは119
社で、 EC加盟国ではイギリスの130社、スペインの123社に次いで
多くなっている。第4位のフランスは109社である。
生保会社上位5社の収入保険料が国内市場に占めるマーケットシェ
アで各国の市場集中度を比較すると、ドイツは30%で、デンマー
ク、ベルギー、イタリア、オランダなど60%以上の国や50%強のフ
ランスよりもかなり低く、イギリス並みとなっている(図3-2参照)0
しかし、ドイツでは特にコンツェ)I,ン、グループ経営が発達してお
り、その点を考慮に入れて市場集中度をみる必要があろう。
-16-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
図312 上位5社が保険布場に占める市場占率
からみた市場集中度
∴ aaaコ
だ nォォM
ベ デ フ フ ド イ オ ノ ボ ス ス ス イ
ル ン イ ラ イ タ ラ ル ル ベ 't イ f
千
T 言 ま ソ 羊 ≠ r'L 右 1, ア ズ 呈
ク ン I ル 丁
ド ン
〔出所〕 Fox-Pitt. Kelton 」ォ, ,5♪・cli.t, 1989, ♪・9
315 生保商品
ヨーロッパの各国市場で販売されている生保商品は税制その他の影
1 2 )
響を受けて多様であるが、イギリス、オランダ、スペインでは一時払
保険料の控除があることから、一時払商品の比重が多く、また貯蓄型
商品の利子に対する税制優遇措置によりイギリスではユニットリンク
保険、個人年金、フランスではカピタリザシオンやPER (個人老後
貯蓄プラン)などの貯蓄型保険が主力商品となっている。
一方、ドイツでは契約期間12年以上の継続払保険料の生命保険に
税制上の優遇措置が与えられていることから、主力商品は養老保険な
どのいわゆる-時金保険(Kapitalversicherung)であり、個人保険
の8割強(新契約の件数、金額ともに)を占めており、この商品をめ
ぐる生保会社間の利益配当競争が展開されている。イギリスの主力商
Iilh-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
晶が一時払ユニットリンク保険という投資型商品であるのとは対照的
であり、 EC域内市場における「設立の自由」や「サービスの自由」
措置に対してドイツ生保関係者が憂慮している点は、商品面において
は、死亡保障と老後保障を組み合わせたドイツで主流となっている養
老保険などの保障型商品(予定利率は保証されている)とイギリスで
主力商品となっている一時払ユニットリンク保険といった投資型商品
(投資リスクを契約者自身が引受ける)が、透明性を欠いたままで同
一市場で販売されることによって、消費者に無用な混乱をひき起こす
のではないかということである。
316 販売チャネル
販売チャネルも各国で特色がある。イギリスでは、 1986年公布の
金融サービス法の影響により生保の販売チャネルは急速に変化しつつ
ある。すなわち、これまで個人保険の販売で重要な役割を演じてきた
独立エージェントが90年よりコミッションの開示を義務づけられる
ようになったことから減少し、特定会社の専属エージェントが増加す
る傾向にある。
一方、ドイツでは生命保険の販売の約80%が特定の会社に専属す
るコミッション・ベースのエージェントであり、しかもその大部分は
生損保のための専業の営業職員である。独立の総代理店・ブローカー
は約10%を占めるにすぎず、 DM (ダイレクト・メール)販売に特化
している会社も数社あるが、その比率は微々たるものである。
注11) Vgl. Dieter Nonhoff, "Uberblick uber die Situation der Lebesversicherung
in wichtigen europaischen Markten , in : Versicherungswirtschaft, August
1989.
-18-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
12) EC諸国の生保商品および販売チャネルについては、詳しくは前掲r生命保険新実
務講座8 ・外国事情』の「第2章EC諸国」 111ページ以下参照.
4.主要指標でみたドイツ生保市場の発展
4-1生命保険料
ドイツの生命保険市場は、奇跡の経済復興とその後の経済成長、物
価安定に支えられて、急速に再建軌道に乗り、国民経済の成長率を上
回る成長率を一貫して維持してきた。家計の可処分所得は1960年か
ら1988年までに約7倍になったのに対し、生命保険料はこの間に15
倍も増加しており、生命保険料は可処分所得を上回る成長率を記録し
13)
てきた(図4-1参照) 0
図4 - 1可処分所得と生命保険の収入保険料の伸び
I960 1970 J980
〔出所j Gesamtverband tier Deutscheii Versicherungswirlschaft
(GDV).胞rktenlwicklung und Harklstriiklur in tier
Lebenヽlemcherung. 1989 Karlsnihe. S 19
-1 9-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
生保会社の収入保険料をみると、 1950年では8億マルク、 1960年
30億マルクであったが、その後急増し、 1970年94億マルク、 1980
年269億マルクとなり、 1988年には450億マルクに達している。
生命保険料の成長率はかなり国民経済のそれに影響されており、高
度成長期の1960年代は生命保険料の成長率も年平均約1 5 %と高い
のに対して、 1980年代は10%以下に低下している(図4-2参照)。も
ちろん、その場合に物価上昇率も考慮する必要があり、 1980年代に
入って物価は非常に安定しており、 1984年からのこの数年は2%な
いしそれ以下になっている。
図4 - 2 国民総生産と生命保険の収入保険料の成長率
nei-サぴサ'蝣サl
EC市場統合とドイツ生命保険産業
保険種類別にみると、ほとんど大きな変化は見られず、養老保険な
どの一時金保険が、団体保険を含めた主要保険種類の収入保険料の約
8割と圧倒的に大きな比重を占めている。財産形成保険は低下傾向に
あり、 1988年で約6%、年金保険は約5%となっている(表4-1参
樵)。このように、一時金保険がドイツにおける主力商品であり、戦
後長年にわたり安定した業績を示している。
表4-1主要保険の収入保険料
そ
個
主要 保 険 の
収 入保 険料
年 度
合
計
人
の
保
内
訳
険
特別料率 による
一 時金保険
(変的保険 F L V を含む
財形生命保険
年 金 .退 職 年 金 保 険
団
体
保
険
が、
財 形保険 は除 く)
百万 D M
百万D M
%
百万 D M
%
百万 D M
%
百万D M
%
9 80
2 4 ,67 6
19 ,5 59
7 9 .2
2 ,2 17
9 .0
95 5
3 .9
1,9 45
7 .9
19 8 1
26 ,65 0
2 1 ,3 2 1
80 0
2 ,2 24
8 .4
991
3 7
2 , 114
7 9
19 82
28 ,30 3
22 ,6 25
7 9 .9
2 ,3 22
8 .2
1 ,10 5
3 9
2 ,2 5 1
1.0
19 83
30 ,97 0
24 ,20 5
7 8 .1
2 ,2 80
7 4
2 ,13 1
6 .9
2 ,3 54
7 .6
19 84
32 , 16 6
25 ,8 5 1
80 ▼
4
2 ,4 33
7 6
1 ,39 4
4 ..1
2 ,4 88
7 ▼
7
19 85
34 ,0 56
27 ,56 2
8 0 .9
2 ,5 12
7 .4
1 ′43 7
4 .2
2 ,545
7 .5
19 86
3 6 ,40 4
29 ,4 90
8 1.0
2 ,58 2
7 .1
1 ,60 1
4 .4
2 ,7 3 1
7 5
19 87
3 9 ,26 4
3 1 ,7 5 2
S ii 9
2 ,6 48
6 .7
1 ,95 9
5 0
2 ,9 05
7 .4
19 88
4 2 ,69 5
34 ,5 2 3
3 .9
2 ,7 04
6 .3
2 ,30 1
5 .4
3 ,167
7 .4
Juelle : Verband der Lebensversicherungs-Unternehmen
〔出所〕GDV, a.a.0リS.23.
412 保有契約高
保有契約高は件数と金額で示されるが、件数では横這いであるが、
金額では高い成長率を維持しているといえる。
1970年頃から既にドイツでは人口総数が減少しはじめているが、
こうした人口要因の影響もあって、契約件数は1980年代に入って伸
-21-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
びなやみ、約6,700万件の水準で横這いであり、 1988年現在で約
6,850万件となっている(表4-2参照)。1988年の世帯数2,650万で割る
と1世帯平均2.55件の生命保険契約を締結していることになり、高
い普及率を示している。
表4-2 生命保険業績の推移
総 収
入 保
険 料
1)
保 険 契 約
件 数
保 険
金 納
午
対 前 年 伸 び率
1 0億
D
M
19 70
9 .4
19 75
16 .1
19 80
2 6 .9
19 8 1
2 8
19 8 2
1
対 前 年 伸 び 率
(I
%
'J
廿
対 前 年 伸 び 率
10 億
%
D
M
-
5 6 ー2
2 3 5 .5
-
6 3
4 48 .4
9
6 6 .9
%
7 8 5 .S
蝣
1.5
6 7 .2
0
8 6 1 .6
9 .7
2 9 ▼9
6
6 7 .7
0 .7
9 ] ;i . ド
ォ. (蝣
'
19 83
3 2 .7
9 .4
6 7
8
0 . 1
9 84
2
7 . ii
1 98 4
3 4 .0
4 .2
6 7 .6
ー 0 .3
10 48
0
6 .5
19 8 5
3 6 .2
6 .3
6 7 .6
0 .1
1 1 1 7 ー1
tl . t.1
19 8 6
3 8 .7
7 ,0
6 7 .8
0
2
1 189 .7
h .D
198 7
4 1
8
7 .8
6 7 ▼7
】 0 .1
12 9 3 .7
8
1 988
4 5 .1
8 .7
6 8 .5
1
14 15 .9
9 .3
4
4
2
7
注1 )配当準備金からの繰入金を除く
Juelle : Bundesaufsichtsamt fur das Versicherungswesen (BAV), Lebens-Verband
〔出所〕GDV, a.a.0., S.28.
他方、金額では1980年代も毎年6-10%の高成長率を維持してお
り、 1970年では2,355億マルクであった保有契約高も1975年4,484
億マルク、 1980年7,858億マルクと5年おきでほぼ倍増し、 1988年
では1兆4,159億マルクに達している。前述の収入保険料の場合同様
に、一時金保険の比重が保有契約高でも最も高く8割弱を占めてい
る。
新契約高についても、保有契約高と同様の傾向が指摘できる。
-2 2-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
413 保険給付
生保会社の保険契約者に対する保険給付には、支払保険給付(保険
金、年金、給付と同時に支払われる配当金および満期前給付を含む)
と将来の保険給付のための諸準備金(責任準備金、配当準備金、剰余
金残高)すなわち給付支払債務額があるが、ここでも一時金保険の給
付が大半を占める1980年から1988年までの保険給付の推移は図
4-3に示してあるが、そのうち支払保険給付は1960年の10億マル
ク、 1970年の40億マルク、 1980年の113億マルクであったが、 1988
年は約280億マルクに増加している。
図4-3 保険給付の推移
(中位.10惜DM)
支払 保険 給付
(保険金、年金、緒給付、支払済配当金、鵡期前給付)
将来の保険給付のための緒準備金
(責任準備金、配当準備金、剰余金枝高)
29.6 33.7 37! 423 448 9.3 526 54.E 60.I (lO催DM)
1980 1981
1982 1983 1985 1986 1987 1988年
(出所) GDV, . 0.,S.25.
-23-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
保険契約者に対する給付支払債務額は1980年の183億マルクから
1988年は325億マルクに増加しているが、この給付支払債務額の約
9割は責任準備金で占められている。この巨額の責任準備金は生保会
社によって投資運用されるが、ドイツでは生命保険の重要な機能とし
て、この資本蓄積機能があげられ、生保事業は国民経済の成長にとっ
ての重要な資金供給源の一つとして位置づけられている。
414 資産運用
資産運用総額は1950年では27億マルク弱であったが、 1960年に
は142億マルク、 1970年520億マルク、 1980年1,731億マルクと毎
年10数%の割合で増加し、 1988年では3,803億マルクに達している
(表4-3参照)。 1970年から1988年までの年平均増加率は約12%であ
るが、 1987、 88年の両年は初めて9%台に低下しているが、それで
も他の経済指標の増加率と比較すれば、高い数値である。
投資対象では、不動産、抵当貸付の割合が1970年の40%から、
1988年の23%に低下している。これに対して、記名債権、証書質
付、貸付金は34%(1970年)から50%(1988年)に増加し、最大の投資
対象となっている。有価証券は約20%(1970年)から23%(1988年)に
増加している。生保資金の性格から、その資金運用はドイツでも長期
的視点から運用されており、またその公共性から住宅建設、連邦・州
・自治体などの発行する公債などにも投資さ、れている。
注13)本節での統計数字は、毎年ドイツ生命保険協会から発行されている『ドイツ生命保
険年報』 (Verband der Lebensversicherungs-Unternehmen e.V., Die deutsche
Lebensversicherung. Jahrbuch 1990 u.a.)の各年版およびGesamtverband der
Deutschen Versicherungswirtschaft e.V., Marktentwicklung und Marktstruktur in der Lebensversicherung,1989 Karlsruheから引用している。
-24-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
表4 - 3 生命保険会社の資産運用
事 業 年 度
の
総
増
加
純
増
加
貸 借 対 照 表 の 数 値
午
対 前 年
a
i] n M
伸
対 前 年
び 率
(%
百 万 D M
)
び 率
(%
2 .6 6 7 .4 1 '
19 50
伸
対
百 万 D M
前 年
伸
)
び 率
; %
42 9 .5
>
35 1 .9
19 60
14 ,180 .7
1 7 .4
2 ー8 5 8 .0
4 .2
19 6 5
2 8 ,4 2 9 , 1
1 3 .2
5 , 3 4 3 .2
17 .6
19 70
5 2 ,0 2 1 . 3
ll .0
19 7 5
5 ,9 6 7 . 2
19 7 6
19 7 7
2 ,0 7 5 . 0
1 0 .6
3 ,65 4
5
10 .2
,6 13 .7
7 .4
5 ,8 3 2 . 9
蝣1 .0
8
1 7 , 4 9 1 .9
2 1 .4
10 ,54 9 .2
8 .8
109 ,24 2 .8
1 2 .7
1 9 , 5 4 9 .4
ll .8
12 ,28 4 .1
16 .4
1 2 2 ,7 2 4
5
12 .3
22 ,5 17 .5
15 . 2
1 3 ,778 .6
1 2 .2
19 78
138 ,140 .6
12 .6
2 7 , 3 9 1 .0
2 1 .6
1 5 ,28 4 .3
1 0 .9
19 79
1 5 5 ,0 1 1 . 4
1 2 .2
2 8 , 3 2 7 .8
3 .4
16 ,86 5 .6
10 .3
19 80
173 ,103
1
ll .7
29 ,02 1.4
2 .4
1 8 ,0 2 4 . 8
19 8 1
1 9 4 ,2 0 9 . 7
12 .2
3 3 , 2 3 7 .6
14 . 5
2 1 ,33 7 .9
19 8 2
2 1 6 ,4 4 6 . 9
ll .5
3 6 , 8 6 4 .7
10 . 9
2 2 ,52 5 .0
19 83
2 3 8 ,8 9 7 . 0
12
3
4 4 , 2 8 3 ▼2
29 .1
2 2 ,45 0 .1
19 84
2 6 2 ,2 7 2 .4
10 .1
42 ,97 2 .7
19 8 5
2 8 8 ,9 5 9 . 4
10 .2
8 , 3 3 3 .9
19 8 6
3 1 7 ,8 5 1 . 0
1 0 .0
19 8 7
3 4 7 ,4 7 1
9 .3
19 88
3 8 0 ,3 2 0 . 6
13
6
9 .2
年
5 .6
P
0 ▼4
3 .0
2 3 ,37 5 .4
4 .1
12 .5
2 6 ,68 7 .0
1 4 .2
5 7 , 5 5 8 .8
19 .1
2 8 ,89 1 .6
8
9 ,47 3 .5
20 .7
2 9 ,6 2 0 . 6
r> .i.
7 1,50 0
平
均
-
ti .i>
1 8 .4
0
伸
3 .0
び
3 2 ,8 4 9 . 0
率 ( %
3
1 0 .9
)
19 50 -
60
×
18
2
×
2 1
0
×
1 9 .4
19 60 -
70
×
13 .9
×
ll .7
×
1 0 .9
19 70 -
80
×
12 .8
×
12 .9
×
1 2 .0
19 80 -
88
×
10
×
l l .9
×
7 .8
3
注1) 1951年始の数値である。
Quelle : BAV. Lebens-Verband
〔出所〕 GDV, a. a. 0., S.31
-25-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
5.ドイツ生保市場の基本構造
511生保市場の基本的枠組み
1)保険監督行政の特質
ドイツの保険監督主義は、 1901年に旧保険監督法(VAG)が制定さ
れて以来行政による実体的監督主義が採られている1931年に規制
強化を目的とする大改正が行なわれて後は、数次にわたる改正を経て
現在に至っている。営業範囲が州内に限られ、経常規模の小さな企業
は各州が連邦保険監督庁(BAV)の委任を受けてその監督にあたる
が、その他の企業は連邦保険監督庁が管轄しており、保険会社も原則
としてその監督下におかれている。
既述の、 EC閣僚理事会で採択済みの第1次損保指令、第2次損保
指令および第3次損保指令ならびに第1次生保指令、第2次生保指令
および第3次生保指令に国内法を調整(バーモニゼ-ション)する作
業も進められてきた。
保険監督法7条1項では、保険会社の経営形態としては株式会社、
相互保険組合ならびに公法上の団体・施設の3形態が認められてい
る。同じく同法7条2項は、保険企業が他業を営むことを禁止してい
る(他業禁止)。ただし、資本参加を通じて他業を営むことは認めら
れている。同法8条1 a項は、生命保険事業と非生命保険事業の兼
営禁止を定めている。生命保険と損害保険の兼営禁止に加えて、監督
行政の方針に従い、疾病保険、信用・保証保険、訴訟費用保険の兼営
も禁止されており、この点がドイツの兼営禁止の特色となっている。
しかし、こうした兼営禁止が存在するにもかかわらず、資本参加が認
められていること、自由資産(自己資本や内部留保的な負債)による
株式取得が認められていることから、ドイツでは今世紀はじめから保
-26-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
険コンツェルンの形成が促進されてきた。戦後も競争制限防止法の制
定にもかかわらず、保険コンツェルンやグループ化は容認されたこと
から、ドイツの多くの保険会社がコンツェルン・グループを形成し
て、多種類の保険を販売しており、実質的に兼営禁止は形骸化してい
る。ただし、 1965年の株式法制定後は、保険監督法上もコンツェル
1 -I 1
ン規制が設けられている。
2)生保会社数とその形態
連邦監督下にある生保会社数は、 110社前後で戦後安定して推移し
てきており、 1988年で118社となっている(表5-1)。新設会社による
参入や、合併・吸収などによる退出は年に数件にとどまっている。法
形態的には株式会社が増加する傾向にあり、表5-2では109社中64
社と59%を占めている。相互組合(相互会社と小相互組合)は1970
年代には減少したが、現在は26社(組合)と安定している。公営会
社は11社である。外国会社数も8社とあまり変動がない。収入保険
料のシェアでみると、株式会社が約63%と最も多く、相互組合約
23%、公営会社は1980年代に漸増して10%となっている。外国会社
のシェアは3%台であるが、ただし資本参加を含めると、 10%強にな
1 5)
るといわれる。
日本の人口の約半分のドイツに日本の3倍強もの多数の生保企業が
活動しているが、その大部分が相互会社で占められている日本と異な
り、ドイツでは10大生保の大部分が株式会社で占められている。ま
た、地域、職域などを限定して営業活動を行なう会社が多いのもドイ
ツの特色の一つといえよう。商品面に特化している会社もみられ、た
とえば債務残高保険を重点的に販売している会社がある。
-2 7-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
表5 - 1連邦監督下の生命保険企業
午
会
社
数
参
入 1)
撤
退 1)
196 0
102
19 6 1
102
19 6 2
104
196 3
105
19 6 4
105
19 6 5
110
5
0
196 6
110
0
0
19 6 7
110
0
0
19 6 8
IV'
3
1
19 6 9
109
0
3
19 7 0
107
2
4
19 7 1
107
4
4
19 7 2
110
4
1
197 3
110
1
1
19 7 4
11 1
4
3
19 7 5
113
2
0
19 7 6
11 1
1
3
197 7
108
0
3
19 7 8
107
0
1
19 7 9
107
0
0
19 8 0
108
1
0
198 1
109
2
1
19 8 2
109
1
1
19 8 3
107
2
4
198 4
109
2
0
198 5
110
1
0
19 8 6
11 1
1
0
19 8 7
115
5
1
198 8
118
3
0
注1)参入・撤退の数字は1965年から公表されている。
Quelle * Bundesaufsichtsamt fur das Versicherungswesen
〔出所〕 GDV, a. a. 0., S.56
-2 8-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
表5 - 2 法形態別および収入保険料占率別の連邦監督下にある生命保
険企業
合
計 一
一
株 式 会社
相 互 組 合 l)
公 営 企 業 2ー
外 国 会社
午
企
莱
数
19 55
90
38
37
9
19 60
97
4 1
37
ll
s
19 70
10 3
42
38
12
ll
19 75
10 8
56
29
ll
VI
19 80
10 3
56
27
ll
9
19 8 1
10 3
56
27
ll
9
19 82
10 3
56
26
ll
10
19 83
10 1
fill
26
ll
8
19 84
10 3
58
26
ll
8
198 5
10 4
59
26
ll
8
19 86
10 5
60
26
ll
s
198 7
10 9
64
26
ll
収
入
保
険
料
6
s
(百 万 D M )
構 成 比
(%
195 5
1 ,64 3 .5
64
9
23 .2
9 ー
9
2 .0
19 60
3 ,02 9 8
h i ^
2 2 .5
9 .7
2 .3
19 70
9 .42 6 .7
6 5 .0
2 2 .1
9 ▼9
3 ▼0
19 75
16 ,13 4 .6
66 .2
2 2 .3
8
1
3 .4
19 80
26 ,89 0 .t
6 6 .0
2 1 .」
8 .7
3 .5
198 1
28 ,09 3 .7
65 .1
2 2 .2
蝣
I.1
3 .6
198 2
2 9 ,8 8 8 . 2
64 .3
22 .9
9 .2
3 ti
198 3
3 2 ,68 4 .4
64 .4
2 2 .5
9 4
0 .6
19 84
34 ,04 3 .1
6 3 .6
23 .1
9 .5
3 8
198 5
36 ,17 7 .2
63 .5
23 .1
9 .6
3 .8
198 6
38 ,72 5 .7
63 .1
23 .2
9 .9
3 ′8
198 7
4 1 ,75 5 .8
6 2 .8
23 .5
10 .2
3 .5
)
注1 )保険監督法第53条による小相互組合を含む
2)連邦監督と州監督に服する企業
3 )連邦および州監督下にある生保会社で配当準備金繰入額を除く数値
Juelle : BAV, Geschaftsberichte, Tabellen 010, Oil, 020, 150 ab 1975(vorher : Tabelle 9)
〔出所〕 GDV, a. a. 0., S.57.
-2
9-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
販売チャネルの中心は営業職員であるが、直接販売や通信販売など
もみられる。多くの生保会社が各種保険を販売する保険グループかコ
ンツェルンに属しているのみならず、他業種の企業と販売協定を結ん
でいることも多く、たとえば公営保険会社が貯蓄金庫の窓口で保険商
品を販売したり、労働組合や職業団体といった大組織と生保会社が販
売協定を結んで協力しているケースもみられる。
3) EC域内市場
ドイツの生命保険の制度的、経済的枠組み条件に重要な影響を及ぼ
すのは、 EC域内市場の生成である。 EC生保単一市場の実現までに
はまだ貯余曲折があるにしろ、それはノ\-モニゼ-ション、自由化の
伸展とともにドイツ生保市場にとって今後ますます重要性を高めてゆ
くと思われる。しかし、その場合に、既に2)で述べたように、ドイ
ツではこれまで多くの外国生保会社が営業活動を展開してきたことを
無視すべきでは.ない。 1979年の第1次生保指令による設立の自由化
によって、外国生保会社をまドイツで国内の生保会社とまったく同一秦
件で営業できることになっている。
また、第2次生保指令、第3次生保指令によってサービスの自由化
が促進されているが、この点については、ドイツでは消費者保護の観
点から若干の危供をもたれている。サービスの自由化によって、 EC
域内の1国で営業許可を得ている生保会社は本店所在国の監督に服す
るのみで、国内国外を問わず、 EC全域でサービスを提供できること
になる。したがって、ドイツの消費者がドイツの監督に服さないEC
域内の外国会社の生保商品を自由に購入できることになる。たとえ
ば、フランスで一般的なカピタリザシオンやトンナン年金のような、
一部の国でしか認可されていなかった商品をドイツの消費者も購入で
きるようになる。これまでドイツ保険法では、顧客が完全に随意にか
-30-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
つ自由意志に基づいて生命保険契約を締結する場合にかぎり、通信手
段で、または外国滞在中に外国会社と生命保険を締結することを認め
ていた(通信販売保険- Korrespondenzversicherung)c しかし、第
2次生保指令および第3次生保指令では、国内に居住するドイツ人が
外国会社の生保商品を自由に購入できることになる。ただし、顧客が
自己のイこシャテイブで保険保護を求める場合、すなわち生命保険会
社からみて「受動的なサービス提供取引」である場合に限定されてい
る。しかし、その場合に保険契約者の居住する国で営業しているブ
ローカーが仲介することも認めている(いわゆるブローカー条項).
そうなるとブローカーによる能動的販売活動で顧客が外国会社の生保
商品を購入する場合も認められることになり、 「受動的なサービス提
供取引」かいなかが唆味なものとなる。
いずれにしろ、各国の保険法のバーモニゼ-ションが行なわれる前
に、こうしたサービスの自由化が進められると、ドイツの保険監督行
政でこれまで維持されてきた高い消費者保護基準が崩壊することにな
1
6さ
る、とドイツでは危倶されている。ドイツの生保商品は老齢・遺族保
障を主目的としたものであり、投資型商品ではない。 EC諸国では保
障型商品が主力商品となっている国もあれば、投資型商品が人気のあ
る国もあり、消費者保護の必要性も投資型商品よりも保障型商品で高
い。それゆえ、ドイツの監督官庁や保険業界からみれば、 EC委員会
の通信販売を拡大する提案ないしサービスの自由化は、従来ドイツで
重視されてきた生命保険における消費者保護にとってきわめて危険な
ものである。したがって、ドイツの保険業界はブローカーを仲介した
通信販売保険には反対の立場をとっている。
-31-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
5-2 生保市場の集中度
1)保険市場の集中度
ドイツ独占委員会の資料によると、ドイツの主要産業の市場集中度
は表5-3のようになっている1985/86年について、上位10社が有
する市場占有率で産業部門別の市場の集中度をみると、保険業は、鉱
山業はもちろん鉄鋼業、投資財製造業よりも市場集中度が低く、金融
業並みの35%を示しており、消費財製造業の18%よりも高い数値を
示している。
表5 I 3 産業部門別にみた上位10社の市場占有率 1985/1986年)
市 場 占 有 率 (%
鉱 山業
原材料
)
9 2 .3
. 生産 財製 造業
6 1 .2
‥‥‖鉄 鋼 業
74 .1
…… 化学
4 7 .5
投 資材製造 業
4 6 .4
.‥… 事 務 用 器 材 /
E D
P
8 9 .0
… … 自動 車 産 業
7 4 .5
‥‥‖エ レ ク ト ロ ニ ク ス 産 業
4 7 .3
消 費材製造 業
1 8 .2
」ォ
3 6 .6
蝣
保 険業
3 5 .0
〔出所〕 Hauptgutachten der Monopolkommission 1986/87, BT-Drucksache 1 1/2677
また、ドイツの生保市場はその規模が大きいことと、生保会社数が
多いこともあって、ヨーロッパ諸国のなかでは集中度のもっとも低い
国の一つとなっている。
-32-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
2)収入保険料
1988年末の収入保険料による上位生保会社10社の市場占有率をみ
ると、第1位のアリアンツが生保会社全体の13.5%と高いシェアを占
め、 2位のハンブルグ・マンハイマ-の6.4%を大きく引き離してい
る。上位10社の収入保険料シェアは48.1%となっており、ほぼ5割
を占めている(詳しくは表5-4参照)。ドイツでは損保より生保の集
中度が5、 6%ほど高くなっている。
表5 -4 10大生命保険会社の業績(1988年末)
(単位. 100万DM %)
収
l剛 立
】
会
社
現 在 契 g l高
入
名
総 資 産
保 険 料
件 数
経営 形 態
保 有 金 勧
( 千 件 ー
13
48
6 .10 9
,2
8
88
158 , 120
II
15
6 2 ,9 4 3
(I
15
64
株 式
2
V o lk s fu rs o r g e
2 ,70 7 (3)
5
96
5 ▼5 6 4
,3 )
8
10
76 ,2 06
3
5
38
2 5 ,0 4 8
2
6
22
株 式
3
H a m lbu rg ーM a n n h a m e r
2 .88 2
6
3 5
7 ,4 50
,1 )
10
84
8 1 ,4 6 5
2
5
75
2 4 ,9 7 2
3
6
20
H . rt
4
V ic to r ia
1 ▼6 6 5
5 )
3
6 7
2 ,54 9
4 )
3
71
45 ,0 93
6 ー
3
18
1 6 ,8 8 1
4
4
19
株 式
5
U un a
1 ,5 54
6 )
3
4 2
2 ,1 5*
17 ー
3
14
5 1 ,590
5
3
64
14 ,216
5
3
S3
相 互 .
6
R +
1 , 8 9 1 (4 )
4
1 6
2 ,54 9
4
3
7 1
68 ▼
9 4 1
(4
4
86
1 4 ,204
3
53
相 互
7
G e ri m s
1 , 3 5 9 (7 )
2
99
1 ,28 0
8 )
1
86
36 ,0 59
8
2
54
1 3 ,6 2 9
7
3
39
株 式
8
A lte L e ip z 一
ger
1 , 2 3 8 (9 )
2
7 3
66 6 tO)
0
97
3 1 ,4 6 5
(10
2
22
10 ,540
8
2
62
相 為二
9
C o io ru a
1 , 1 8 2 (i一
o)
Z
60
1 .14 0
9 1
1
66
3 5 ▼0 7 3
2
47
1 0 , ユ4 3
(9)
2
52
株 式
A achener und M unchener
1 , 2 5 9 (8
2
7 7
2 ▼2 3 7
6 )
3
26
44 ,502
3
14
9 ▼
8 92
(1 0)
2
46
株 式
21 ,86 0
48
ユ4
31 ,69 2
4 6
13
628 ,514
4 4
33
20 2 ,468
5 0
30
4 5 .4 12
100
00
6 8 .70 5
10 0
00
1 ,4 1 7 ,7 0 4
00
4 0 2 ,5 4 1
10 0
00
1
M li.山
蝣
10
上
V
位
蝣
1-
6 ,12 3
Ldb 的
U 由
10
II
i sv e rs ic h e r u n s
枚
計
t
1
2ー
日
9 )
(7
100
(6 1
1)
注1 )同社は1989年7月に相互会社から株式会社に組織変更しているo
〔出所〕 Bundesaufsichtsamt f-∫ das Versicherungswesen, Geschaftsbericht 1988.
表515では、 1970年から1987年までの市場集中度の推移をさらに
詳しくみるために、上位5社、上位10社、上位20社のシェアが示さ
れている。個別会社のランクの変動はあっても、この表で示された数
字では、あまり大きな変動は見られず、上位5社のシェアが35%前
後、上位10社のシェアが5割弱、上位20社のシェアが68%前後と
安定している.ただし、ローレンツ曲線でみた比較では、 1970年よ
りも1987年の方がy-Xという45度の直線に接近しており、個々の
-33-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
生保会社間の市場占有率の差が縮小していることを示している(図
5-1参照)0
表5-5 総収入保険料に上位生
保会社(5大生保、 10大生保、20大生
保)の占めるマーケットシェア(%)
年
5 大 生 保
10 大 生 保
20 大 生 保
970
35
2
49
と3
68
7
19 7 2
J3
5
48
3
69
7
974
33
2
4b
6
00
5
19 7 5
3 3 .9
4 7 .3
6 7 .3
19 7 6
34
48
68
6
19 7 7
3 4 ー5 5
4 8 ー3 5
68
78
19 7 8
3 4 、8 7
4 8 ー9 6
b 8 .tS4
19 7 9
3 4 .9 3
4 8 .6 3
6 8 .5 9
19 8 0
3 7 ー4 3
50
69
19 8 1
3 5 .3 8
4 9 .4 3
6 8 .7 6
19 8 2
3 5 .6 6
4 8 .8 7
6 8 .0
19 8 3
3 6 、4 1
5 0 ▼3 8
69 .5
19 8 4
3 5 . 12
4 9 .2 8
6 8 . 55
19 8 5
3 5 .4 0
4 9 .3 5
6 8 . 24
19 8 6
3 4 .8
4 8 .9 2
6 8 . 72
19 8 7
3 4 .0 2
4 8 .6 1
6 7 .8 3
7
4
66
6
市域占率の
累計百分率
〔出所〕 GDV, a. a. 0, S.63.
図5-1収入保険料の
ローレンツ曲線
会社数の
hh団SM
20 40 60 80 100
注) Y-Xの直線にローレンツ曲線が接近するほど、個別供給者間の市場占率の差は縮小するo
C出所〕GDV, a a 0..S.61.
-34-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
3)保有契約高
1988年末の保有契約高についてみると、件数ではトップのハンブ
ルグ・マンハイマ-が10.8%を占め、アリアンツは8QO/で2位となっている。しかし、金額ではアリアンツが11.2%で、 2位のハンブ
ルグ・マンハイマ-の5.8%を大きく引き離している(表514参照)O
件数と金額で会社間のランクが食い違っているのは、一時金保険の平
均保険金額の差によるところが大きい。また、上位10社のシェアは
件数で46%、金額で44%となっており、先の収入保険料よりもシェ
アは低い。
表5-6および表5-7によれば、件数ではマーケットシェアは上位5
社で35%前後、上位10社で50%前後、上位20社で69%前後と長期
にわたり安定的に推移しているが、金額では1980年代には若干低下
表5 - 6 上位生保会社(5大生保、10大生保、20大生保)
の保険契約件数に占めるマーケットシェア(%)
午
5 大 生 保
10 大 生 保
20 大 生 保
1 97 0
3 5 .6
5 1 .3
7 2 .S
1 97 2
3 5 .3
5 1 .0
7 1 .2
1 97 4
3 4 .5
5 0 .0
6 9 .9
1 97 5
3 4 .1
4 9 .5
6 9 .3
1 97 6
3 4 .9
50 .7
7 0 .9
1 97 7
3 5 .05
50 .25
70 .ll
1 97 8
3 4 .85
4 9 .6 6
6 9 .3 1
1 97 9
3 4 .78
49 .26
6 8 .8 3
1 98 0
3 4 .67
4 8 .7 7
6 7 .9 8
1 98 1
3 4 .8
4 8 .8 8
68 .18
1 98 2
3 4 .95
4 8 .8 3
3 .0 6
19 8 3
3 6 .14
5 0 .7 8
6 9 .2 5
1 98 4
3 6 .2
5 0 .9 2
6 9 .2
19 8 5
3 6 .0
5 0 .4 2
6 8 .8 2
1 98 6
3 5 .7
5 0 .4 6
6 8 .2 6
19 8 7
3 5 .72
5 0 .8
〔出所〕 GDV, a. a. 0., S.63.
-35-
3 .4 1
EC市場統合とドイツ生命保険産業
表5 - 7 上位生保会社( 5大生保、10大生保、20大生保)
の保有金額に占めるマーケットシェア(%)
午
5
大 生 保
10 大 生 保
2 0大 生 保
19 70
3 4 .7
4 9 .」
7 0
19 72
3 3 .9
4 8 .4
6 9 .4
8
19 7 4
3 3 .8
4 8 .3
6 8 .7
19 7 5
3 3 .6
4 8 .2
6 8 .6
19 76
3 3 .7
4 8 .1
6 8 .4
19 77
3 3 .8 4
4 8 .7 3
6 9 .25
19 78
3 3 .6 5
4 8 .7 9
6 9 .3 5
19 79
3 3 .2 7
4 8 .4 1
6 8 .8 6
19 80
3 3 .3 0
4 8 .3 6
6 8 .6 2
19 8 1
33 .15
4 8 .2 9
6 8 .37
198 2
3 2 .9 6
4 8 .0 6
3.09
19 8 3
3 2 .9 3
B .7 4
6 8 .5 2
19 84
3 2 .8 5
4 8 .2 0
6 7 .8 5
19 85
3 2 .5 4
4 7 .6 9
6 7 .28
198 6
3 2 .0 4
4 7 .0 2
6 6 .5 2
19 8 7
3 1 .33
4 6 .12
6 5
6 7
〔出所〕GDV, a.a.0,. S.64.
傾向にあり、 1987年で上位5社31%、上位10社46%、上位20社
66%となっている。
保有契約高による集中度も、基本的には収入保険料の場合と同じで
ある。
4)総資産
1988年末の総資産額では、アリアンツが15.6%の高いシェアを占
め、 2位以下の会社を大きく引き離してトップにたっている。上位
10社の総資産シェアは50.3%と5割強になっている(表5-4参照)o
513 保険コンツェルン・グループ
ドイツの保険市場の状況を分析する場合には、個別企業の業績のみ
を見ただけでは不十分である。ほとんど全ての保険会社がいずれかの
-36-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
コンツェルンないしグループに属しており、また市場での企業活動が
しばしばコンツェルンないしグループ単位で行なわれる場合も多いか
らである。コンツェルン(多数企業が統一的運営のもとに結合したも
の)とグループ(統一的運営はない。アリアンツ・ミュンヘン再保グ
ループのように、アリアンツ・コンツェルン、ハンブルグ・マンハイ
マ-/ドイツ疾病保険コンツェルン、カールスルーエ.コンツェルン
など複数のコンツェルンが1グループを形成しているケースもある)
の販売政策はケースバイケースで異なり、一概にはいえない。ドイツ
でコンツェルンが発達した主な理由としては、既述の生損保兼営禁止
に加えて、疾病保険、信用・保証保険、訴訟費用保険の兼営も禁止さ
れているという点が挙げられる。
多数の保険コンツェルン・グループの存在が知られているが、なか
1一蝣)
でも7大保険コンツェルン・グループが有名である. 7大保険コンツ
ェルン・グループの中でも、アリアンツ・ミュンヘン再保グループの
マーケット・シェアがどの保険部門でも群を抜いて高く、生命保険の
総保険料で見ると24.2%、すなわち生保市場全体の約4分の1を占め
ていることになる。以下、フォルクスフユアゾルゲの7.3%、ビクト
リア DASの4.4%、ライン・グループの4.1 、ゲーリング・コ
ンツェルン3.4%、ア-へン/ミュンヘン2.79%、 SRB(スイス再保
険資本参加グループ)1.3%の順位となっており、 7大保険グループ・
コンツェルンのみで生保市場の実に5割弱のシェテを有している(秦
5-8参照)0
4大保険コンツェルンについて、その傘下の保険会社名および収入
保険料でみた各保険市場でのマーケット・シェアを示したのが表5-9
である。いずれも持株会社を中核会社としてコンツェルン・グループ
が形成され、統一的運営の下に、市場での活動が活発に展開されてい
-37-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
る。
保険業務に限定されず、他の産業分野にも進出し、 -大グループを
形成しているアリアンツ・ミュンヘン再保グループの組織図について
は、後掲の図6-1を参照されたい。
表5-8 7大コンツェルン・グル-プの市場占率 (総収入保険料/1980年)
(単位%)
グルI
プ .コ ン ツ ェ ル ン 名
A llia n z M u n c h e n e r B u c k
生 命 保 険
24 .18
医 寮 保 険
全 保 険
害 保 険
部 門
2 2 .9 6
2 2 .6 3
1 .36
5 .10
6 .2 1
4 .47
4 .3 7
3 ▼
51
3 .74
G e r lin g ーK o n z e r n
3 .3 8
3 .2 6
3 .17
A a che ner un d M u nch ene r
2 .7 9
4 .10
3 .08
2 .98
S
1 .2 5
1 4 .0 6
2 .4 8
2 .94
4 7 .28
3 6 .9 6
4 2 .86
4 5 .0 3
V o lk s fu r s o r g e
7 .26
R h e in is c h e G r u p p e
4 .0 5
V ic to r ia ′D A S
B
B
合
計
18 .3 1
損 害 . 傷
0 .49
〔出所〕Farny u.a., a.a.0., S.118.
注14)村山淳喜・平鉢成美「西ドイツ」 F生命保険新実務講座8 外国事情J 176ページ参
Ho
15) Vgl. Gesamtverband der Deutschen Versicherungswirtschaft, a.a.0., S.5816) Vgl. Gesamtverband der Deutschen Versicherungswirtschaft, a.a.0., SS.
53-55 und Die deutsche Lebensversicherung, Jahrbuch 1991, SS.14-1517) Vgl. Farny,a.a.0., SS.40-49 und 112-121.
-38-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
表519 ドイツ(旧西ドイツ)における4大保険コンツェルン
(1985年)
中
核
会
社
ア リア ンツ持株 会 社
生 命 保 険
会 社
ア リア ンツ
医 療
保 険 会 社
損 害 保 険 会 社 等
ア リア ンツ
ドイ チ エ
ベ ル リニ ッシユ
(損 )
ハ ンブ ル グ .マ ンハ イ
マ一
ハ ン ブル グ .
マ ンハ イマ P
(損 )
ア ル ゲ マ イ ネ (信 用 )
カ一 ルス ル一 エ
ヘ ル メ ス (信 円 )
ミ ュ ンヘ ン (再 )
テ ラ (技 術 )
2 2 .
6
2 4 .
ア ヘ ナ 一 .ミユ ン ヘ ナ ー
1
1 8 .
ア ヘナ 一 .
3 1
ツ エ ン トラ ル
コスモ ス
9 6 :
ア ヘ ナ - . ミユ ン ヘ ナ }
蝣
・
ミユ ンヘ ナ ー
持 株会 社
2 2 .
蝣
.1,
コ スモ ス
(損 )
テ ユ リ ンギア
7 、 4 5 %
ヴ ィ ク ト リア 持 株 会 社
6 .
8 4 !
4 .
ヴ ィ ク ト リア
5 9 !
ヴ ィク トリア . ギル デ
生命 保 険会 社
3 .
7 4 !
ゲ 一 リン グ . コ ンツ エ
ル ン持 株 会 社
4 .
・v "
9 .
(伝 )
2 9 :
ヴ ィ ク ト リア
(損 )
ヴ ィ ク ト リ ア (再 )
3 7 !
3 .
5 1 '
ゲ ー リ ン グ lコ ン ツ エ ル
ゲ I リ ング .
ン. ア ル ゲ マ イ ネ (柄 )
コ ン ツェ ル ン
ゲ ー リ ン グ . コ ン ツェ ル ン
.ス ペ ソ イ ア ル (信 用 )
ゲ ー リ ン グ . コ ン ツ エ )レ
ン l グロ ーバ ル
3 .
1 7 !
A
3 .
(再 )
3 . 2 6 1`
3
if
3 6 .
9
3 8 .
2 2 .
7 7 !
9 0 !
3 9 .
0 2 !
(注)百分比は、収入保険料シェア(1980年)。なお、ヴィクトリア・ギルデは1981年に設立
されている。
〔出所〕生命保険協会『欧米各国の生保金融業務』1989年、 271ページ。
-39-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
6.ドイツ生保企業の行動
6-1 アルフイナンツの動向
ECでは、銀行指令により、すでに銀行などの金融サービスで域内
共通免許(単一銀行免許)制の導入と母国監督主義(home country
control)を徹底させており、損害保険分野でも、 EC域内の1カ国で
免許を受けた保険会社がEC域内の他の加盟国において企業物件を対
象とした各種損害保険を直接引受けることができるようになってい
る1992年EC統合に向けての各国業界の対応も、銀行や損保の方
が生保よりも進展している。しかし、生保分野でも既に見たように、
第2次生保指令、第3次生保指令によりサービス提供の自由化が進め
られてきており、銀行や損保と同様な方向に進もうとしている。
こうした保険サービスを巻き込んだ金融サービス分野でのEC単一
市場へ向けての自由化の動きのなかで、今後の金融市場における競争
の激化に対応し、市場統合後少しでも有利な地位を確保するために、
国境を超えた提携・合弁などの金融業界再編の動きが活発に展開され
MSEm
ドイツではEC統合をにらんだアルフイナンツ(Allfinanz-総合金
融)の動きが活発であり、銀行と保険会社の業務提携、子会社ないし
1 8)
持株会社などを通じた両業界の相互進出が急速に進行しているO
ドイツの銀行はもともと銀行業務と証券業務全体を兼営するユニ
バーサル・バンク制度をとり、幅広い金融サービスを提供してきた
が、 EC統合に向けて従来の金融業務に加えて、保険業務などに参入
するアルフイナンツの動きをこの数年来活発化してきている。その例
サ蝣-サ:
として、業界トップのドイツ銀行のケースが知られている。
ドイツ銀行はすでに1983年にベルリン生命保険会社と提携して、
-4
0-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
2 0)
生命保険付き貯蓄プランを発売していたが、所期の経営効果を得られ
なかったことから、独自の生命保険子会社であるドイツ銀行生命保険
株式会社を設立し、 1989年9月から業務を開始し、本格的に生保市
場に参入している。銀行窓口での販売のほかに、ブローカーを通じた
販売も行なっており、各種の個人保険を販売している。既に現在生保
上位20社に入る業績を挙げているといわれ、 1990年からは従業員10
人未満の小規模企業を対象とした企業保険の販売を開始し、さらに
1991年6月には別会社を設立して、団体生命保険と企業年金を販売
している。ドイツ銀行は1992年にはドイツ・へロルド保険持株会社
への過半数以上の出資を発表している。ドイツ銀行はECにおける自
由化の伸展にあわせて、他の加盟国にも支店を設置し、銀行業務のみ
ならず保険業務についても業務拡大を進める計画といわれる。
ドレスナ-銀行は、後述のように、 1989年にアリアンツ保険と販
売協定を締結し、さらにハンブルク・マンハイマ一、ビクトリアの各
保険会社と提携した。また、コメルツ銀行は1990年にドイツ公務負
保険会社の株式を取得し、販売協定を締結している。
こうした銀行の活発な生保業務への進出・提携の動機としては、
(彰EC保険市場自由化への対応
②大銀行の金融・資本市場への支配体制の強化
③銀行の収益機会の拡大
④東西ドイツ統一への対応
などが挙げられるが、しかしなんといっても銀行の金融的地位の相対
<・蝣:
的低下に対する危機感が背景にあることは間違いない。表6-1にある
ように、個人金融資産に占める銀行預金(長期金融資産としての)の
マーケット・シェアは1985年の18.5%、 1986年の19.2%から1987
年では14.4%となり、 4--5%低下している。また、短期金融資産と
-41-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
しての銀行預金はその時々の金利変動に応じて不安定な動きを示して
いる。逆に、保険は年々シェアがアップしており、 1960年の16.5%
から1970年には13.2%に低下したものの、その後上昇傾向を示し、
87年では25.5%、 88年26.6%と大幅に上昇している。保険のシェア
・アップの主要部分が生命保険であり、個人金融資産の生保へのシフ
トが1970年代、とくに80年代に進行してきたのである。
表6 - 1個人部Flの金融資産形成
(10億DM-%)
長
期
金
銀
融
資
行
預
産
金
建 築 貯 蓄 金 庫 預 金
保
険
確 定 利 付 証 券 取 ′
得
t
f
.t
企
短
業
期
金
銀
そ
金
融
年
恥
金
請
融
他
資
求
資
行
の
巾
預
の
産
権
産
金
債
合
券
計
19 6 0
19 6 5
15 . 2
32
86
4
7
6
9
(9 0 . 6 )
16
8
43 2
(4 6 . 3
1 S
3.4
10
2
9.4
19 7 0
51 5
(8 7 ー3 )
113
23
(3 9
74. 1
( )
0
0)
5 4
9 2 )
2 .9
5
0
( 16 . 5
( 13
8
V S
u .2十
4
1
10 2
0
9
( 5 1 )
0
9
5 1
( T
)
198 5
19 8 6
19 8 7
8 1 0
9 2 2
8 1. .?
96.4
8.3
6 7.5
(7 3 1
6 1 8
(6 8 ー7 )
(65 3 )
20
( 14
-3.7
( ∼ )
15
(1 3
6 8
( ∼
8
ti 3
5 3 )
)
15 3
( I
)
7
6
0
2 2 ー0
18
3
23
(1 8
3
5 )
-1.1
;・
.
! o
(2 6
9
_6
( 19
2
2
▼1 . 7
( )
2
4
▼3 3
( T
)
1988
1 ー0
0 7
36
5
3 5 ▼8
40.0
(2 6
7
( 25 ー5 )
(26.6 )
2 4 8
2 1 5
8 0
26 4
48.1
(17 3 )
( -
)
(2 0 7 )
(17 0 )
5.9
(18 8
(32 0
1 ▼3
( 3 ー6 )
1 4
( 2 4
1 6
( )
lo g
( 1
)
3 5
2 8 )
3 6
2.8
5 9
( 4 2
2 ー6
( 1 ー7 )
2 0
3 7
5 7
( 5 5
( 6 3
2 5
3.4
i.6
( 14 . 2
9 4
(12 9
T
.
-
-
-
-
17 6
3
198 0
(11 3
1 0
( 100 )
197 5
6 8
( -9.33
-
13 3
ll.1
11 6
ll.4
( 8 8
( 8.5
8.1
6.8
3 9 0
33.9
52 2
l l. 0
52 2
(3 2 . 5
(2 6 . 9
2
(31 3
(34 7
35 8
(29 8
29 5
47.0
39 6
(23.4 )
34.4
(28 2
( 3 1 ー0 )
( 1 1 ▼1 )
( 38
10.3
4 6 ー7
3 2
4 5
-
( 2.7
3 6
5 2
{ 3 8
4 5
( 3.2
( 3.7
5 5
36 3
59.0
10 4 . 0
120.0
126.:
136 5
140.4
150.5
100
100
100
100
( 100
100
100
100
〔出所〕ドイツ連邦銀行月報。
612,保険企業のアルフイナンツヘの対応
既述のように、保険監督法7条2項では、保険会社が保険事業と直
接関係のない他の業務を営むことを禁止しているが、持株会社には言
-42-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
及しておらず、持株会社を通じた他業務への進出は可能となってい
る。保険コンツェルン・グループによるアルフイナンツないし経営多
角化は持株会社を設立し、それを核に子会社、関連会社などを支配す
る場合が多い。
ドイツのみならず、 EC最大の保険企業であるアリアンツは1980
年代に入ると、イギリスやアメリカなどに本格的に進出し、 M&A
を活発に展開していった。しかも、いまやEC市場のみならず、世界
2 2)
市場を視野にいれたグローバル戦略を展開している。 EC統合市場に
おける業務拡大のために1984年末に社長の名前を付けた「シーレン
計画」を策定し、組織改革に着手したが、 1985年設立のアリアンツ
・ホールディング(株式会社、ミュンヘンに本店を置く)を中核にし
て、保険業務のみならず、その他の産業分野にも資本参加などを通じ
て経営多角化を進め、図6-1にあるように、いまや世界的大コンツェ
ルンを形成している。しかし地域的には国内に次いで、ヨーロッパが
最も重視されており、 EC域内では、ヨーロッパの統括会社であるア
リアンツ・ヨーロッパ・ホールディングを1981年に設立し、 1983年
にイギリスの生保会社の買収に挑んだのを手始めに、その後もイタリ
ア、フランスなどの保険会社の買収も試みており、 EC域内他国に支
店などを設置し、保険業務の自由化に対応した拠点づくりを行なって
いる。
もともとアリアンツはドイツ銀行と密接な関係を持っていたが、ド
イツ銀行が独自の生保子会社の設立を1989年1月に連邦監督庁に申
請すると、アリアンツ保険は同年3月に銀行業界第2位のドレスナ銀行(Dresdner Bank)と提携し、相互の販売提携協定を締結した。
両者は相互に株式持合いを行なっており、協力関係を強化している。
アリアンツはドレスナ-の数百ある支店網を保険販売に利用し、
-43-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
国6-1アリアンツ・コンツェルンの組織図
資本参加
I 100K
I 100%
EC市場統合とドイツ生命保険産業
1987年現在、かソコ内は持ち株会社を通じる資本参加)
Munchener Ruck
Versicherungs Ges
Mtinchen
国 外 保 険 会 社
その他の産業分野
EC市場統合とドイツ生命保険産業
ドレスナ-はアリアンツのエージェント網をモーゲージなどの銀行商
品の販売に利用している。こうして、アリアンツは銀行との提携を通
じてアルフイナンツの体制を施化している.
保険コンツェルンが銀行と提携する例は多く見られ、たとえば
DVB+パートナー・コンツェルン(生保部門はDVB生保会社)は
コメルツ銀行との提携を行なっており、 R+V コンツェルン(生保
部門はR十Ⅴ生保会社)はグループ企業のドイツ協同組合銀行およ
び信用協同組合との資本関係をさらに残化しているo また、ア-へン
・ミュンヘン・コンツェルン(生保部門はア-へン・ミュンヘン生保
会社)は1987年に共同経済銀行の大株主となり、その傘下におさめ
た。ただし、その後同コンツェルンは共同経済銀行の株式をフランス
のクレディ・リヨネに売却している。ゴータ生命とゴータ銀行は合弁
2 3 )
でゴータ・コンツェルンを設立している。
注18)アルフイナンツの特質および保険会社、保険監督法、銀行からみたアルフイナンツ
の可能性と限界については、以下を参照。
Helmut Gies u.a., Moglichkeiten und Grenzen von Allfinanzkonzept, Karlsruhe 1990.
19)邦文文献としては、たとえば相沢幸悦「ドイツ銀行の生命保険業務-の参入」 F文
研論集』 (生命保険文化研究所)第97号、 1991年12月、 93ページ以下参照。
20)下和田功「生命保険における新羨争」 r山口経済学雑誌j第3 4巻第3 ・ 4号(昭
和60年6月)参照。
21)相沢・前掲論文80、 94ぺ-ジ参照。
22)くわしくは、相沢幸悦「EC統合とアリアンツのグローバル戦略」 F文研論集』 (生
命保険文化研究所)第91号、 1990年6月、 59ページ以下参照。
23)相沢・前掲論文83-85ページ参照。
-46-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
7.おわりに
人口でみると、アメリカ2.4億人、日本1.2億人に対し、 EC12カ
国は3.2億人を擁しており、 EC市場は西側世界で最大の統一市場と
なる。
ドイツは人口2千万人の旧東ドイツを加えることにより、約8千万
の人口を有し、 2位のイギリス5千7百万人を大きく離して、 EC最
大の部分市場となる。
ドイツの生保市場は1987年度では保険料収入でみると、イギリス
に次いで第2位となっているが、旧東ドイツ市場が順調に成長すれ
ば、数年内にイギリスを追い抜くことが容易に予想される。旧東ドイ
ツには、旧西ドイツの10大保険コンツェルン・グループがすべてす
でに進出しており、活発な販売活動が展開されている。アリアンツは
旧東ドイツの独占保険会社であったドイツ保険株式会社(DVAG)杏
90年半ばに早速買収し、旧東ドイツ地域に強力な拠点を確保してい
る。
ドイツがECにおける最大の部分保険市場であり、成長性が高いと
いうことは、域内他国の保険会社にとっても座視しえない魅力ある市
場ということになり、すでにイギリス、フランス、その他の域内諸国
から提携、買収、子会社設立などを通じた多様な進出が展開されてい
る。したがって、ドイツの生保会社にとっても、域内の他国からの進
出にも対応して、ドイツ国内市場で有利な地位を確保することがきわ
めて重要になっており、アルフイナンツの動向もそうした試行錯誤の
過程ととらえることができよう。同時に、ドイツの生保会社は外国会
社との競争に対応するために、価格、品質その他の面でドイツの消費
者にアッピールする商品・サービスを提供することを迫られていると
-47-
EC市場統合とドイツ生命保険産業
いえよう。
ドイツはイギリスとは対照的に監督規制の厳しい国である。このこ
とから、ドイツの市場は外国からの新規参入者や新商品にとってチャ
ンスのほとんどない市場である、という見方が一般的であった。しか
し、別の観点からは、規制の厳しかった分だけ、他国に比べて未開拓
の分野の多い市場であるともいえ、基本的な保険商品でさえも未開発
で、ニーズが十分に満たされてこなかった分野が残されている市場で
あるということもできる。その意味では、ドイツ市場は内外の新規参
2 4)
入者にとってもチャンスに恵まれた市場ということができよう。
一方、国内で厳しい規制を受けているドイツの保険企業の国際化
は、イギリスなどと比較するとかなり遅れていたが、 1970年代、と
くに1980年代に入って外国へ本格的に進出していった。とくにEC
の市場統合に対応するために、 ECにおける金融業務、保険業務その
他の分野の自由化ないし規制緩和が進められると、それをチャンスと
して捉えて、域内他国に拠点網を構築してきた。その代表的例をアリ
アンツ・コンツェルンにみることができる。今後のEC保険市場を
リードしてゆくのも、こうしたドイツの保険グループ・コンツェルン
であると考えられ、その動向に注目しなければならない。
注24)たとえばゲスナー・ウルム大教授も、以下の文献で同様の見方をしている.
Peter Gessner, Banken und Versicherung als Wettbewerber, in : Wettbewerbam Markt fur Finanzdienstleistungen, Frankfurt a.M.1987, SS.67-68.
(本稿は生命保険文化センターから受けた「生命保険に関する研究
・調査助成」による研究成果の一部である。 )
-48-
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