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日本の発行体におけるデフォルト率と格付遷移 1990-2014年

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日本の発行体におけるデフォルト率と格付遷移 1990-2014年
CORPORATES
AUGUST 24, 2015
SECTOR COMMENT
コンタクト:
東京
03.5408.4100
北山 慶
03.5408.4161
代表取締役
[email protected]
日本の発行体におけるデフォルト率と
格付遷移 1990 – 2014 年
Default and Rating Transitions of Japanese
Debt Issuers, 1990 – 2014
本稿は、日本の発行体に関するムーディーズの 6 回目のデフォルトスタディで
ある。1990-2014 年の社債・ローンのデフォルトおよび発行体の格付遷移を公表
する。概要は以下の通りである 1。
»
ムーディーズが格付けする日本の発行体において、2014 年も 5 年連続 で
新たなデフォルトは発生しなかった。2014 年年始時点で 122 の社債・ロー
ン発行体が格付を付与されており、そのうち 4 発行体のみが投機的等級で
あった。
»
ムーディーズが格付を付与する日本の発行体のデフォルト率は 1990-2014
年を通じて比較的低水準であった。日本の発行体の年間平均デフォルト率
は全発行体でわずか 0.2%、投機的等級発行体で 1.1%であった。世界の
発行体の年間デフォルト率はそれぞれ 1.9%、4.6%であった
»
ムーディーズの格付による、日本の発行体の相対的な信用力の順位付けは
機能していると考えられる。格付の精度を表す指標である平均デフォルトポ
ジション(AP)比率は、1 年間で平均 92%、5 年間でも 88%を維持している。
世界の平均デフォルトポジションは 1 年間で 93%、5 年間で 87%と、ほぼ同
水準であった。
»
ムーディーズの格付は、1 年の期間でみた場合、概して安定的である。1990
年以降、日本の発行体の 82%が 1 年にわたり同一の文字格付カテゴリーを
維持している。格付が取り下げられた割合は 8%だった。
03.5408.4149
グレム・ナウド
マネージング・ディレクター
[email protected]
イアン・ルイス
03.5408.4033
アソシエイト・マネージング・ディレクター
[email protected]
NEW YORK
+1.212.553.1653
Albert Metz
+1.212.553.4867
Managing Director - Credit Policy Research
[email protected]
Sharon Ou
+1.212.553.4403
Vice President - Senior Credit Officer
[email protected]
Shawn Kong
+1.212.553.8895
Associate Analyst
[email protected]
Sumair Irfan
Associate Analyst
[email protected]
+1.212.553.1035
HONG KONG
+852.3551.3077
Clara Lau
Senior Vice President
[email protected]
+852.3758.1333
1
本デフォルト・スタディは、長期格付を付与された金融機関、事業会社、政府発行体を対象としている。
詳細については付録を参照。
CORPORATES
図表 1
日本の発行体の年間デフォルト率, 1990 – 2014 年
Aaa
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
年
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009*
2010
2011
2012
2013
2014
Aa
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
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0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
A
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
1.22%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
Baa
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
13.85%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
Ba
n.a.
n.a.
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
2.04%
0.00%
2.13%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
33.33%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
B
n.a.
n.a.
n.a.
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
4.76%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
n.a.
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
Caa-C
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
100.00%
n.a.
n.a.
100.00%
100.00%
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
投資適格等級 投機的等級
0.00%
n.a.
0.00%
n.a.
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
3.05%
0.00%
1.41%
0.00%
1.54%
0.00%
1.67%
0.00%
1.59%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.49%
0.00%
1.16%
25.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
全格付
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.60%
0.30%
0.30%
0.31%
0.31%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.48%
1.72%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
格付 Baa の発行体のデフォルト率 13.85%は 2 社のデフォルトに起因する。2009 年については、同年のコーホートに含まれる発行体 の数が少ないため、格付 Ba のデフォルト率
33.33%および投機的等級発行体のデフォルト率 25.00% は統計的に有意ではない。事実、 これらはいずれもわずか 1 件のデフォルトによるものである。
出所: Moody's Investors Service
図表 2
平均累積デフォルト率 1990 – 2014 年
日本
Aaa
Aa
A
Baa
Ba
B
Caa-C
投資適格等級
1年
0.00%
0.00%
0.06%
0.10%
0.68%
0.76%
n.a
0.06%
2年
0.00%
0.00%
0.13%
0.33%
1.58%
2.75%
n.a
0.17%
3年
0.00%
0.00%
0.23%
0.52%
2.56%
5.21%
n.a
0.28%
4年
0.00%
0.00%
0.32%
0.72%
3.64%
8.43%
n.a
0.39%
5年
0.00%
0.00%
0.41%
0.93%
5.03%
11.02%
n.a
0.50%
6年
0.00%
0.00%
0.52%
1.18%
6.44%
14.22%
n.a
0.63%
7年
0.00%
0.00%
0.75%
1.32%
7.74%
18.37%
n.a
0.78%
8年
0.00%
0.00%
1.02%
1.57%
8.26%
23.44%
n.a
0.98%
9年
0.00%
0.00%
1.33%
1.94%
8.26%
23.44%
n.a
1.23%
10 年
0.00%
0.00%
1.55%
2.37%
8.26%
23.44%
n.a
1.47%
投機的等級
1.10%
2.19%
3.40%
4.79%
6.31%
7.90%
9.46%
10.43%
10.43%
10.43%
全格付
0.20%
0.44%
0.70%
0.97%
1.26%
1.56%
1.86%
2.14%
2.37%
2.59%
世界
Aaa
Aa
A
Baa
Ba
B
Caa-C
1年
0.00%
0.02%
0.08%
0.18%
0.86%
3.38%
15.25%
0.10%
2年
0.02%
0.06%
0.21%
0.47%
2.30%
8.07%
25.43%
0.27%
3年
0.02%
0.12%
0.43%
0.80%
4.00%
12.96%
33.72%
0.49%
4年
0.02%
0.21%
0.67%
1.17%
5.91%
17.32%
40.42%
0.74%
5年
0.02%
0.34%
1.00%
1.57%
7.55%
21.40%
46.10%
1.03%
6年
0.02%
0.47%
1.36%
2.01%
9.25%
25.31%
50.16%
1.35%
7年
0.02%
0.59%
1.75%
2.42%
10.78%
29.00%
53.55%
1.67%
8年
0.02%
0.68%
2.18%
2.86%
12.30%
32.11%
56.57%
2.01%
9年
0.02%
0.77%
2.62%
3.34%
13.97%
34.82%
59.86%
2.36%
10 年
0.02%
0.90%
3.05%
3.88%
15.71%
37.11%
62.52%
2.74%
投機的等級
4.56%
9.09%
13.39%
17.16%
20.47%
23.46%
26.14%
28.46%
30.63%
32.57%
全格付
1.87%
3.68%
5.35%
6.76%
7.98%
9.05%
10.00%
10.82%
11.58%
12.29%
投資適格等級
出所: Moody's Investors Service
本件は信用格付付与の公表ではありません。文中にて言及されている信用格付については、ムーディーズのウェブサイト(www.moodys.com)の発行体の
ページの Ratings タブで、最新の格付付与に関する情報および格付推移をご参照ください。
2
AUGUST 24, 2015
セクター・コメント:日本の発行体におけるデフォルト率と格付遷移 1990 - 2014 年
CORPORATES
図表 3
ムーディーズの格付対象の日本におけるデフォルト 1990 – 2014 年*
社名
業種
デフォルト年
デフォルト事由
格付対象債務の
デフォルトの有無
AC リアルエステート**
資本財
1999 年
借入債務免除
無
アイフル
ファイナンス
2009 年
事業再生 ADR
有
ダイエー
小売・流通
2002 年
借入債務免除
無
日本航空インターナショナル
運輸
2009 年
事業再生 ADR
有***
兼松
ファイナンス
1999 年
借入債務免除
無
熊谷組
資本財
2000 年
借入債務免除
無
マイカル
小売・流通
2001 年
民事再生法
有
2008 年
民事再生法
有
無
ニューシティ・レジデンス投資法人 不動産
雪印乳業
消費財
2003 年
借入債務免除
武富士
ファイナンス
2009 年
救済目的の債務交換 有
*
このリストに含まれるのは、社債および/またはローンでデフォルトし、かつデフォルト前 1 年以内に、ムーディーズが格付を付与してい
た発行体のみである。東京生命保険、東邦生命保険、第百生命保険、千代田生命保険、協栄生命保険は、社債、ローンに格付が付
与されていなかったため、このリストから除外されている(付録の「デフォルトスタディの対象」の項を参照)。
** 旧フジタ
*** ムーディーズは JAL の社債のみに格付しており、ローンには格付していなかった。JAL は事業再生 ADR 申請後も社債の支払を継続
して いたが、その後 2010 年 1 月に会社更生法申請を行うに至り、社債はデフォルトした。
出所: Moody's Investors Service
図表 4
2014 年にデフォルトした日本の発行体の格付履歴
2014 年にはムーディーズが格付を付与する日本の発行体のデフォルトは発生していない。
図表 5
平均年間格付遷移率 1990 – 2014 年
日本
Aaa
Aa
A
Baa
Ba
B
Caa-C
格付取り下げ
Aaa
70.12%
24.11%
0.27%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
5.50%
0.00%
Aa
0.50%
82.49%
10.99%
0.12%
0.00%
0.09%
0.00%
5.81%
0.00%
デフォルト
A
0.24%
2.78%
83.47%
5.51%
0.18%
0.04%
0.00%
7.72%
0.06%
Baa
0.00%
0.00%
5.26%
83.73%
2.90%
0.21%
0.08%
7.74%
0.09%
Ba
0.00%
0.00%
0.06%
8.58%
78.11%
4.88%
0.13%
7.59%
0.65%
B
0.00%
0.00%
0.00%
0.26%
11.24%
72.13%
0.90%
14.77%
0.71%
Caa-C
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
16.67%
83.33%
世界
Aaa
Aa
A
Baa
Ba
B
Caa-C
格付取り下げ
デフォルト
Aaa
85.33%
9.21%
0.34%
0.00%
0.05%
0.00%
0.00%
5.08%
0.00%
Aa
0.73%
83.45%
8.74%
0.52%
0.06%
0.00%
0.01%
6.46%
0.02%
A
0.04%
2.31%
85.17%
5.78%
0.47%
0.09%
0.04%
6.02%
0.07%
Baa
0.03%
0.15%
3.65%
85.63%
3.55%
0.70%
0.20%
5.93%
0.17%
Ba
0.00%
0.05%
0.30%
6.06%
73.46%
8.10%
0.83%
10.41%
0.80%
B
0.00%
0.02%
0.10%
0.28%
4.41%
72.91%
7.20%
11.95%
3.13%
Caa-C
0.00%
0.01%
0.02%
0.06%
0.33%
7.85%
65.10%
12.38%
14.25%
出所: Moody's Investors Service
3
AUGUST 24, 2015
セクター・コメント:日本の発行体におけるデフォルト率と格付遷移 1990 - 2014 年
CORPORATES
図表 6
直近コーホートにおける日本の発行体の格付遷移
2014 年の年間
格付遷移率
Aaa
Aa
A
Baa
Ba
B
Caa_C
格付取り下げ
Aaa
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
Aa
0.00%
37.21%
55.81%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
6.98%
0.00%
A
0.00%
0.00%
93.02%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
6.98%
0.00%
Baa
0.00%
0.00%
5.94%
77.23%
0.99%
0.00%
0.00%
15.84%
0.00%
Ba
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
100.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
B
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
100.00%
0.00%
0.00%
0.00%
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
デフォルト
Caa-C
デフォルト
3 年格付遷移率,
2011-2014 年
Aaa
Aa
A
Baa
Ba
B
Caa
格付取り下げ
Aaa
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
n.a
Aa
0.00%
32.21%
51.01%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
16.78%
0.00%
A
0.00%
0.00%
62.72%
8.96%
0.29%
0.00%
0.00%
28.03%
0.00%
Baa
0.00%
0.00%
5.66%
38.68%
4.72%
0.00%
0.00%
50.94%
0.00%
Ba
0.00%
0.00%
0.00%
30.00%
30.00%
0.00%
0.00%
40.00%
0.00%
B
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
0.00%
60.00%
0.00%
40.00%
0.00%
n.a
n.a
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Caa-C
出所: Moody's Investors Service
図表 7
日本の発行体の格付の年間安定性と格付取り下げ
同一の文字格付カテゴリーを維持した発行体の割合
格付が取り下げられた発行体の割合
1990-2014 年平均
2014 年
82%
91%
8%
11%
図表 8
平均デフォルトポジション 19902014 年
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AUGUST 24, 2015
1年
5年
日本
92%
88%
世界
93%
87%
セクター・コメント:日本の発行体におけるデフォルト率と格付遷移 1990 - 2014 年
CORPORATES
付録:
データソースと手法
デフォルトスタディの対象
本稿の調査は、長期債務(社債およびローン)発行体の格付とデフォルトに関するムーディー
ズの独自のデータベースに基づいている。日本については、ムーディーズ・ジャパンが格付を
付与する地方政府、政府系発行体、プロジェクトファイナンス、不動産投資信託(J-REIT)も含
まれている。また、Toyota Credit Canada Inc など日本国外を拠点とする日本の発行体の子会
社も対象としている。だが、BMW Japan Finance Corp など日本に拠点のある日本以外の発行
体の子会社、ストラクチャード・ファイナンス証券、短期格付のみを有する発行体は除外してい
る。
ムーディーズのデフォルトの定義
ムーディーズのデフォルトの定義は、証券もしくは証券に類似する債務(スワップ契約等)のみ
に適用される。ムーディーズの定義では、次の 4 種類の事由がデフォルトを構成する。
a) 関連契約が定めるところに従い、契約上義務となっている利払いまたは元本返済の不履
行または遅延(支払の不履行が、契約上許される猶予期間中に解消された場合を除く)
b) 破産法の適用申請、あるいは管財人による発行体または債務者の法的管理により、契 約
上義務となっている債務の支払に関して、今後不履行または遅延が起こると考えられ る
場合
c) 救済目的の債務交換(ディストレスド・エクスチェンジ)、すなわち(a)債務者が、当初の債
務よりも負担を軽減した新たな証券、リストラクチャリングされた証券、又は証券/現金もしく
は資産からなる新たなパッケージを債権者に提供し、かつ、(b)債務交換が、債務者に よ
る将来の倒産もしくは支払不履行の回避につながる場合、あるいは
d) 国が関連契約に定める支払条件を変更することにより、金銭債務負担が軽減される場合。
(債務者自身、または債務者の主権国による)強制的な通貨デノミ、あるいはインデックス化
や償還期限など、当初の約束のその他の点の強制的な変更などがある
ムーディーズのデフォルトの定義には、最大レバレッジ比率や最小債務カバレッジの違反な
どの、いわゆる「テクニカル・デフォルト」は含まれない 。ただし債務者が違反を解消せず、そ
の結果起こりうる期限の利益の喪失に対応できなかった場合には、その限りではない。また、
長期債務に関わる支払いが、まったくのテクニカルなもしくは事務的なエラーを理由に行われ
ず、しかもそれが 1)支払いを行う能力または意思とは関係がなく、2)きわめて短期のうちに解
消される(通常、1-2 日)のであれば、デフォルトには該当しない。
推定シニア格付
ムーディーズのデフォルトスタディに使用されている信用格付は、特定の債務についての格
付ではない。また、使用されている信用格付は概念的なもので、発行体の社債やローン格付
から導出された発行体レベルの格付である。特定の債務レベルの格付から発行体レベルの
格付を導くのにムーディーズが用いるプロセスはシニア格付アルゴリズム(SRA)と呼ばれ、そ
れによって得られた格付を推定シニア無担保格付、あるいは単純に推定シニア格付と呼ばれ
ている。ある発行体の推定シニア格付は実際のシニア無担保債務格付と同等に設定され、シ
ニア無担保債務格付がない場合は、格付のある劣後債あるいは担保付債を基準にしてシニ
ア無担保債の格付の推定を行う 2。
2
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AUGUST 24, 2015
詳細は、ムーディーズのスペシャル・コメント Senior Ratings Algorithm & Estimated Senior Ratings (Moody’s Investors
Service, February 2009)を参照されたい。
セクター・コメント:日本の発行体におけるデフォルト率と格付遷移 1990 - 2014 年
CORPORATES
推定シニア格付を導出する必要がある理由は、社債やローンに対するムーディーズの信用格
付は想定信用損失に対するムーディーズの見解であり、(1)予想デフォルト確率、および(2)デ
フォルト時の元本・利子の予想損失率から構成されるためである。。したがって、格付カテゴリ
ーごとのヒストリカルなデフォルト確率(予想デフォルト確率の推定値となる)を算出するために
は、損失率の想定を一定に維持する必要がある。多くの場合、想定シニア格付 から導出され
るデフォルトリスクの評価は、担保や資本構造上の位置付けの影響を比較的受けにくい。
格付遷移率、デフォルト率、平均デフォルトポジション
格付遷移率、デフォルト率、平均デフォルトポジションの算出については、ムーディーズのス
ペシャル・コメント"Glossary of Moody's Rating Performance Metrics" (Moody’s Investors Service,
September 2011)を参照されたい。
過去のレポートにおけるデータの変更について
ムーディーズは、過去のデフォルトデータの補充や、基礎となるデータおよび手法の小幅な
変更により、過去のデータにマイナーな変更を加えることがある。これまで同様、直近のデフォ
ルトスタディに含まれるデータは、過去のレポートに含まれていたデータを更新したものとして
取り扱われる。
ムーディーズが格付する発行体の定義付け
2012 年下半期から、ムーディーズは発行体のシニア無担保債務格付の推定と、ムーディー
ズが格付する債務発行体の定義に用いることのできる適格債務のリストから、ミディアム・ター
ム・ノート(MTN)プログラムを除外した。実際に支払義務を負う債務であるミディアム・ターム・
ノートと異なり、MTN プログラムは、資金をの借り入れることのできるクレジット・ラインに類 似
している。プログラムであるため、実際に利用されておらず、プログラムからの債務残高が存
在しないこともあり得る。そのようなケースでは、デフォルトが発生するような MTN プログラム
からの債務が存在しない。MTN プログラム以外の債務を持たない発行体をデフォルト率の計
算に含めれば、デフォルト率の分母が過大に見積もられることになる。
デフォルト率の算出
2012 年から、1 年および複数年のデフォルト率の算出に、これまでのレポートとは異なる手法
を用いている。1 年デフォルト率および複数年デフォルト率の算出には離散時間ハザード率
を用いる。従来のデフォルトスタディでは、期間をコーホート形成日からの年数と定義してい
た。従って、複数年デフォルト率は、複数年のハザード率から導かれていた。2012 年以降は、
期間をコーホート形成日からの年数ではなく月数と定義している。その結果、1 年デフォルト
率は単一の 1 年ハザード率ではなく 12 の月次ハザード率から、5 年デフォルト率は 5 つの年
次ハザード率ではなく 60 の月次ハザード率から算定される。この変更の主な改良点は、より
短い期間を単位とすることにより、格付取下げのタイミングをより的確に把握できるようになるこ
とである。従来の 1 年ハザード率手法では、1 年間に発生した格付取下げは全て、年央に起
こった、すなわち、半年間リスクにさらされていたと想定していた 3。月次ハザード率手法に変
更することにより、格付取下げが具体的にどの月に発生したかを的確に把握できる 4。
格付の精度を示す新たな指標
2012 年よりムーディーズは、格付による順位付けシステムの精緻度を評価する新たな指標と
して平均デフォルトポジション(AP)を用いており、これは Gini 率(あるいは精緻度(AR))より直
感的に理解しやすいものである。AP は、デフォルト発行体より格付の高い発行体の割合をも
って、デフォルト発行体の平均ポジションを示すものである。AP が高い水準にあることは、デ
フォルト発行体より高い格付が付与された発行体が多く、デフォルト発行体は概して低い格付
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2006 年発行のムーディーズのスペシャル・コメント”Measuring Corporate Default Rates” (Moody’s Investors Service,
November 2006)を参照されたい。
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詳細については、2012 年発行の”Moody’s Annual Default Study”の 15-16 ページ(日本語版 (2012 年 4 月発行)「年次
デフォルトスタディ:社債・ローンのデフォルト率と回収率 1920-2011 年」13-14 ページを参照されたい。月次ハザード率
手 法を用いてデフォルト率を算定する方法を例示している。
セクター・コメント:日本の発行体におけるデフォルト率と格付遷移 1990 - 2014 年
CORPORATES
カテゴリーにあるということを示すため、格付システムの識別がより適切になされていることを示
唆する。Gini 率(または AR)と AP 比率は、AP=(1 十 AR)/2 の一次式で表される関係にある。
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セクター・コメント:日本の発行体におけるデフォルト率と格付遷移 1990 - 2014 年
CORPORATES
Report Number:
183823(Japanese)
1005976 (English)
著者
Shawn Kong
プロダクション・アソシエイト
高瀬 美紀
著作権表示(C)2015 年 Moody' s Corporation、Moody's Investors Service, Inc.、Moody’s Analytics, Inc. 並びに(又は)これらの者のライセンサー及び関連会社(以下、総称して「ムーディーズ」といい
ます)。無断複写・転載を禁じます。
Moody's Investors Service, Inc.及び信用格付を行う関連会社(以下「MIS」といいます)により付与される信用格付は、事業体、与信契約、債務又は債務類似証券の相対的な将来の信用リス
クについての、ムーディーズの現時点での意見です。ムーディーズが発行する信用格付及び調査刊行物(以下「ムーディーズの刊行物」といいます)は、事業体、与信契約、債務又は債務
類似証券の相対的な将来の信用リスクについてのムーディーズの現時点での意見を含むことがあります。ムーディーズは、信用リスクを、事業体が契約上・財務上の義務を期日に履行で
きないリスク及びデフォルト事由が発生した場合に見込まれるあらゆる種類の財産的損失と定義しています。信用格付は、流動性リスク、市場価値リスク、価格変動性及びその他のリスク
について言及するものではありません。信用格付及びムーディーズの刊行物に含まれているムーディーズの意見は、現在又は過去の事実を示すものではありません。ムーディーズの刊行
物はまた、定量的モデルに基づく信用リスクの評価及び Moody’s Analytics, Inc.が公表する関連意見又は解説を含むことがあります。信用格付及びムーディーズの刊行物は、投資又は財
務に関する助言を構成又は提供するものではありません。信用格付及びムーディーズの刊行物は特定の証券の購入、売却又は保有を推奨するものではありません。信用格付及びムー
ディーズの刊行物はいずれも、特定の投資家にとっての投資の適切性について論評するものではありません。ムーディーズは、投資家が、相当の注意をもって、購入、保有又は売却を検
討する各証券について投資家自身で研究・評価するという期待及び理解の下で、信用格付を付与し、ムーディーズの刊行物を発行します。
ムーディーズの信用格付及びムーディーズの刊行物は、個人投資家の利用を意図しておらず、個人投資家が何らかの投資判断を行う際にムーディーズの信用格付及びムーディーズの刊
行物を考慮することは、慎重を欠く行為です。もし、疑問がある場合には、ご自身のフィナンシャル・アドバイザーその他の専門家にご相談することを推奨します。
ここに記載する情報はすべて、著作権法を含む法律により保護されており、いかなる者も、いかなる形式若しくは方法又は手段によっても、全部か一部かを問わずこれらの情報を、ムーディ
ーズの事前の書面による同意なく、複製その他の方法により再製、リパッケージ、転送、譲渡、頒布、配布又は転売することはできず、また、これらの目的で再使用するために保管すること
はできません。
ここに記載する情報は、すべてムーディーズが正確かつ信頼しうると考える情報源から入手したものです。しかし、人的及び機械的誤りが存在する可能性並びにその他の事情により、ムー
ディーズはこれらの情報をいかなる種類の保証も付すことなく「現状有姿」で提供しています。ムーディーズは、信用格付を付与する際に用いる情報が十分な品質を有し、またその情報源が
ムーディーズにとって信頼できると考えられるものであること(独立した第三者がこの情報源に該当する場合もあります)を確保するため、すべての必要な措置を講じています。しかし、ムー
ディーズは監査を行う者ではなく、格付の過程で又はムーディーズの刊行物の作成に際して受領した情報の正確性及び有効性について常に独自に確認することはできません。
法律が許容する範囲において、ムーディーズ及びその取締役、役職員、従業員、代理人、代表者、ライセンサー及びサプライヤーは、いかなる者又は法人に対しても、ここに記載する情報
又は当該情報の使用若しくは使用が不可能であることに起因又は関連するあらゆる間接的、特別、二次的又は付随的な損失又は損害に対して、ムーディーズ又はその取締役、役職員、
従業員、代理人、代表者、ライセンサー又はサプライヤーのいずれかが事前に当該損失又は損害((a)現在若しくは将来の利益の喪失、又は(b)関連する金融商品が、ムーディーズが付与
する特定の信用格付の対象ではない場合に生じるあらゆる損失若しくは損害を含むがこれに限定されない)の可能性について助言を受けていた場合においても、責任を負いません。
法律が許容する範囲において、ムーディーズ及びその取締役、役職員、従業員、代理人、代表者、ライセンサー及びサプライヤーは、ここに記載する情報又は当該情報の使用若しくは使用
が不可能であることに起因又は関連していかなる者又は法人に生じたいかなる直接的又は補償的損失又は損害に対しても、それらがムーディーズ又はその取締役、役職員、従業員、代理
人、代表者、ライセンサー若しくはサプライヤーのうちいずれかの側の過失によるもの(但し、詐欺、故意による違反行為、又は、疑義を避けるために付言すると法により排除し得ない、その
他の種類の責任を除く)、あるいはそれらの者の支配力の範囲内外における偶発事象によるものである場合を含め、責任を負いません。
ここに記載される情報の一部を構成する格付、財務報告分析、予測及びその他の見解(もしあれば)は意見の表明であり、またそのようなものとしてのみ解釈されるべきものであり、これに
よって事実を表明し、又は証券の購入、売却若しくは保有を推奨するものではありません。ここに記載する情報の各利用者は、購入、保有又は売却を検討する各証券について、自ら研究・
評価しなければなりません。
ムーディーズは、いかなる形式又は方法によっても、これらの格付若しくはその他の意見又は情報の正確性、適時性、完全性、商品性及び特定の目的への適合性について、(明示的、黙
示的を問わず)いかなる保証も行っていません。
Moody's Corporation (以下「MCO」といいます)が全額出資する信用格付会社である Moody's Investors Service, Inc.は、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及び CP を
含みます)及び優先株式の発行者の大部分が、Moody's Investors Service, Inc.が行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、1500 ドルから約 250 万ドルの手数料を Moody's
Investors Service, Inc.に支払うことに同意していることを、ここに開示します。また、MCO 及び MIS は、MIS の格付及び格付過程の独立性を確保するための方針と手続を整備しています。MCO
の取締役と格付対象会社との間、及び、MIS から格付を付与され、かつ MCO の株式の 5%以上を保有していることを SEC に公式に報告している会社間に存在し得る特定の利害関係に関す
る情報は、ムーディーズのウェブサイト www.moodys.com 上に"Investor Relations-Corporate Governance-Director and Shareholder Affiliation Policy"という表題で毎年、掲載されます。
オーストラリアについてのみ:この文書のオーストラリアでの発行は、ムーディーズの関連会社である Moody's Investors Service Pty Limited ABN 61 003 399 657(オーストラリア金融サービス認可
番号 336969)及び(又は)Moody's Analytics Australia Pty Ltd ABN 94 105 136 972(オーストラリア金融サービス認可番号 383569)(該当する者)のオーストラリア金融サービス認可に基づき行わ
れます。この文書は 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「ホールセール顧客」のみへの提供を意図したものです。オーストラリア国内からこの文書に継続的にアクセスした場合、
貴殿は、ムーディーズに対して、貴殿が「ホールセール顧客」であるか又は「ホールセール顧客」の代表者としてこの文書にアクセスしていること、及び、貴殿又は貴殿が代表する法人が、直
接又は間接に、この文書又はその内容を 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「リテール顧客」に配布しないことを表明したことになります。ムーディーズの信用格付は、発行者の
債務の信用力についての意見であり、発行者のエクイティ証券又はリテール顧客が取得可能なその他の形式の証券について意見を述べるものではありません。リテール顧客が、ムーディ
ーズの信用格付に基づいて投資判断をするのは危険です。もし、疑問がある場合には、ご自身のフィナンシャル・アドバイザーその他の専門家に相談することを推奨します。
日本についてのみ:ムーディーズ・ジャパン株式会社(以下、「MJKK」といいます。)は、ムーディーズ・グループ・ジャパン合同会社(MCO の完全子会社である Moody’s Overseas Holdings Inc.の
完全子会社)の完全子会社である信用格付会社です。また、ムーディーズ SF ジャパン株式会社(以下、「MSFJ」といいます。)は、MJKK の完全子会社である信用格付会社です。MSFJ は、全
米で認知された統計的格付機関(以下、「NRSRO」といいます。)ではありません。したがって、MSFJ の信用格付は、NRSRO ではない者により付与された「NRSRO ではない信用格付」であり、
それゆえ、MSFJ の信用格付の対象となる債務は、米国法の下で一定の取扱を受けるための要件を満たしていません。MJKK 及び MSFJ は日本の金融庁に登録された信用格付業者であり、
登録番号はそれぞれ金融庁長官(格付)第 2 号及び第 3 号です。
MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)は、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及び CP を含みます。)及び優先株式の発行者の大部分が、MJKK 又は MSFJ(のうち該
当する方)が行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、20 万円から約 3 億 5,000 万円の手数料を MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)に支払うことに同意していることを、ここ
に開示します。
MJKK 及び MSFJ は、日本の規制上の要請を満たすための方針と手続も整備しています。
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セクター・コメント:日本の発行体におけるデフォルト率と格付遷移 1990 - 2014 年
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