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農作業体験を含む食農教育が大学生の食意識に与える影響 名寄市立

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農作業体験を含む食農教育が大学生の食意識に与える影響 名寄市立
名寄市立大学 道北地域研究所 年報 第30号(2012)
研究報告
農作業体験を含む食農教育が大学生の食意識に与える影響
──名寄市立大学保健福祉学部食農教育科目受講者を対象として──
清水池 義治
1. はじめに
2005年に食育基本法が公布されて以降、各地で食育の取り組みが活発化している。2008年に学教給食法が
改正され、学校給食の目的に食育が掲げられるようになった。また、2006年に食育基本法にもとづき国レベ
ルで決定された食育推進基本計画では、学校給食食材における地場産品使用割合の上昇を目標に謳っている。
都道府県・市町村レベルでも食育推進計画が策定されているが、そこでは地産地消に代表される地域農業振
興施策と一体的に食育推進施策が位置づけられ、食育と地域農業とが密接不可分の関係となりつつある。名
寄市においても、2008年に名寄市食育推進計画が策定され、地域特性を活用した体験学習や農業体験などを
通じて、健康的な食生活・食知識の向上・地産地消・食の重要性と感謝の意識の涵養に向けた取り組みが進
んでいる。このように、農作業体験を組み込んだ食育(食農教育)の重要性についての認識が高まっている。
そこでは、当然こういった食育の効果として、教育を受けた対象者の意識がどのように、そしてどういった
要因で変化するかの把握が求められていると言えよう。
本論文の課題は、農作業体験を含む食農教育が大学生の食意識に与える影響を考察し、特に食農教育によ
って生じたと思われる食意識変化の要因を明らかにすることである。事例対象として、名寄市立大学保健福
祉学部教養教育科目「北海道の農と食」の受講者を取り上げる。受講者に対して受講前と受講後に実施した
アンケート結果を用いて、食意識に生じた変化の全体的傾向を定量的に把握するとともに、受講者が記述し
た講義感想文・農作業体験実習レポートから食意識の変化要因を定性的に分析する。
本論文では、まず、講義概要とアンケートの質問項目の構成を述べる。つづいて、一次意識・二次意識・
三次意識の3つに区分された食意識ごとにアンケート結果を考察する。そして、食意識における変化の全体
的傾向を把握した後に、食意識の変化要因を解明する。
2. 講義概要とアンケートの質問項目
(1)講義の概要
2011年度における講義「北海道の農と食」の概要を、表1に示した。本講義は前期に開講され(4月から
7月まで)
、
名寄市立大学保健福祉学部の栄養学
科・看護学科・社会福祉学科の2年生から受講
表1 講義「北海道の農と食」の概要(2011年度)
可能である。2011年度の受講者数は60名で、そ
講義名称
北海道の農と食
科目区分
保健福祉学部教養教育科目・地域の理解
あった。本講義は、大学でおこなわれる座学の
配当学年
2年次
講義と、受講者が実際に名寄市内の農家に出向
開講時期
前期
いて実施される農作業体験実習から構成されて
開講時間帯
の内訳は栄養22名・看護26名・社会福祉12名で
いる。
大学での講義は同一の教員1名が担当し、1
回につき90分間の講義が12回実施された。講義
金曜日5・6限(13 時10 分から14 時40 分まで)
対象学科
保健福祉学部 栄養学科・看護学科・社会福祉学科
受講者数
60 名(栄養22 名、看護26 名、社会福祉12 名)
資料:名寄市立大学保健福祉学部シラバス等より作成。
キーワード:食農教育、農作業体験、食意識、大学生
− 65 −
名寄市立大学 道北地域研究所 年報 第30号(2012)
内容は、国際的な食料問題・食料自給率問題2回、北海道農業の歴史2回、現代の北海道農業(稲作・畑作・
酪農)2回、北海道農業と関連産業(食品産業・小売業)3回、将来的な方向性1回などである1)。受講
者は講義後には毎回、講義の感想や質問を「出席カード」に記入し、講義感想文として提出する。
表2は、2011年度の農作業体験実習の実施概要である。農作業体験実習では、受講者が実際に名寄市内の
農家まで行って農家の指導の下に農作業を体験する。5月から7月にかけて月1回のペースで合計3回ほど
実施した。受講者は各3名程度のグループに分かれ、3回とも同一グループかつ同一農家で実習をおこなっ
た。2011年度の受入農家は21戸で、内訳は名寄地区3戸・風連地区12戸・智恵文地区6戸である。稲作、畑
作農家がほとんどであり、畜産を含む複合経営農家も実習を受け入れたが、畜産部門での体験は実施してい
ない。主な実習内容は表に示したとおりだが、観光農園などで多い播種・定植・収穫作業に限らず、草取り
や作業準備、片付けなど日々農家がおこなっているありのままの農作業を体験しているのが特徴である。
表2 農作業体験実習の実施概要(2011年度)
回
実施日
参加者数
受入農家戸数
主な実習内容
1
5月22 日(日)
54 名
21 戸
トマトの定植、草取り、田植
え、出荷箱の清掃、風よけの
カバーかけ
2
6月26 日(日)
52 名
21 戸
草取り、アスパラ収穫・定
植、イチゴの選定、花の定
植、ミニトマトの選定
3
7月24 日(日)
54 名
21 戸
スイカ出荷前作業、草取り、
ミニトマトの収穫、マルチ片
付け、ハウス片付け
資料:「北海道の農と食」講義資料より作成。
(2)アンケートの質問項目と構成
食意識に関するアンケートの質問項目は、野田〔2007〕におけるアンケート質問項目を参照して作成した。
表3は、今回使用したアンケート質問項目の一覧である。食意識に関する項目21、回答者属性に関する項目
7の合計28項目である。
野田〔2007〕は、食意識を、
「 一次意識」
(感性的な個別意識=体験で感性的に得られる意識→食べ物の質・
農産物の特性に関する意識)、「二次意識」
(目的意識的な活動による自然法則・概念の体系的獲得=学びや
思考を経て行動につながる可能性のある意識→購入判断基準等)
、「三次意識」
(自然観=食物観→食べ物の
本質に関わる基礎認識・社会的価値意識)から構成される重層的構造として捉えており2)、この把握にも
とづき、各次意識を測定するための質問項目を設定した。今回用いた食意識に関するアンケートの質問項目
は、野田〔2007〕におけるアンケート質問項目を参照して作成した。
食意識の質問項目に続いて、回答者の属性を尋ねる項目を列挙した。農作業経験の有無・頻度、その状況、
育った地域3)、出身地、所属学科、性別、学籍番号4)の7項目である。
アンケート回答者には、食意識の項目では質問内容に対して「強くそう思う」・「そう思う」・「どちら
でもない」・「そう思わない」・「全くそう思わない」の5段階評価で、回答者属性の項目では自分に該当
する選択肢を回答してもらった。
食意識に関するアンケートは、講義を受講する前である講義第1回目のガイダンス時(4月15日)と、
講義を受講した後である第15回目の最終講義時(7月29日)に実施した。アンケート項目は回答者属性の
一部を省略した以外、受講前後で同様である。また、受講者との比較対象群として、1年次開講の保健福祉
学部教養教育科目「経済学」受講者にも、ほぼ同様のアンケートを実施した5)。それらの結果、アンケート
− 66 −
農作業体験を含む食農教育が大学生の食意識に与える影響 ー名寄市立大学保健福祉学部食農教育科目受講者を対象としてー
表3 アンケートの質問項目
内容別分類
一次意識
項目
質問番号
食べ物の質・
農産物の特性
に関する意識
外見・質に
よる購入判断
基準
二次意識
農家に対する
考えによる
購入判断基準
コミュニケーション
食べ物の本質
に関わる基礎
認識
三次意識
社会的価値
意識
回答者属性
1
旬の野菜を食べたい。
2
同じ野菜でも、品種や産地・栽培方法で味の違いがある。
3
ほとんどの食べ物はもともと生きていたものである。
4
野菜に付いた土は、汚くはない。
5
野菜などの農作物は、規格にあわせて作るのは難しい。
6
野菜は見た目を重視して買わない。
7
野菜や果物などの農作物は、季節によっては手に入らなくてもよい。
8
忙しくても、切ってパックされた野菜は買いたくない。
9
値段が高くても、減農薬または無農薬の野菜を買いたい。
10
野菜などの農作物は、安くても輸入品は買いたくない。
11
安全性に問題はなくても、輸入品は買いたくない。
12
地元産の野菜を食べたい。
13
家族と、食べている食材に関する話をよくする。
14
食べ物は、農業や水産業などの生産物である。
15
食べ物と人間のくらしは自然の循環のなかにある。
16
食べ物は、労働の産物である。
17
食べ物は、自然の恩恵である。
18
食べ物は、風土が作り出す文化である。
19
コンビニ弁当などが賞味期限切れで廃棄されるのは問題がある。
20
農業は、日本の先端科学技術と同じくらい大切だ。
21
国民が生きていくための食料は自給すべきだ。
22
あなたは今まで農作業をしたことがありますか。
23
あなたが農作業をしたのはどういうときでしたか。
24
あなたが育った地域はどんなところですか。
25
あなたの出身はどちらですか。
26
あなたの学科はどこですか。
27
28 (注3)
あなたの性別は何ですか。
学籍番号を記入して下さい。
資料:野田〔2007 〕p.297の第3表にもとづき筆者作成。
注:1)野田〔2007 〕の項目と意味内容は同じだが、文調は一部変更している。
2)受講後のアンケートでは質問番号の22 から25 を省略した。
3)比較対象群へのアンケートでは質問番号28 を削除した。
4)実際に配布したアンケート用紙には「質問番号」と「項目」のみを記した。
回答数は受講前67、受講後59、比較対象群97となったが、途中で履修放棄した受講者、記入漏れがある回
答分を除外した結果、最終的に集計に用いた数は受講前54、受講後54、比較対象群93となった。なお、受
講前・受講後の回答者は完全に同一の集団である。
3. アンケートの結果
(1)アンケート回答者の属性
表4にアンケート回答者の属性を示した。前述の通り、集計に用いる数は「北海道の農と食」受講者54、
比較対象群93である。回答者の各属性をみると(以下、受講者の属性)、性別は女85%・男15%、所属学科
は栄養37%・看護44%・社会福祉18%、出身は北海道内70%・北海道外30%、育った地域は「都会」17%・
「農村」33%・「どちらでもない」50%、農作業の経験は「たくさん」19%・「数回」63%・「1回」9%・
− 67 −
名寄市立大学 道北地域研究所 年報 第30号(2012)
「全くない」9%であった。ちなみ
表4 アンケート回答者の属性
に、表には記載していないが、農作
業の経験があると回答した49名にそ
「北海道の農と食」受講者
比較対象群(注1)
の状況を複数回答で尋ねたところ、
回答数
54
93
「学校の授業・学外研修」61%、
「実
性別
女46(85%),男8(15%)
女77(83%),男16(17%)
栄養20(37%),看護24(44%),
社 福10(18%)
栄養32(34%),看護27(29%),
社 福34(37%)
学科内訳
家や親戚が農家でお手伝い」が47%、
「家庭菜園」20%、「アルバイト」
が16%となった。高校までに過半の
出身
道内38(70%),道外16(30%)
道内63(68%),道外30(32%)
育った地域
都会9(17%),農村18(33%),
どちらでもない27(50%)
都会12(13%),農村33(36%),
どちらでもない48(52%)
受講者が授業など教育の場面で農作
たくさん10(19%),
業を経験していることが確認できる。 農作業の経験 数回34(63%),1回5(9%),
全くない5(9%)
また、出身地域の特性からも、平均
的な大学生より、受講者の農作業経
たくさん21(23%),
数回51(55%),1回9(10%),
全くない12(13%)
資料:アンケート結果より作成。
験は豊富であると考えられる。
注:1)比較対象群は1年次開講の「経済学」受講者。
受講者群と比較対象群とを比較す
2)中途で履修放棄した受講者、記入漏れがあるアンケートは集計から
除外した。
ると、学科構成は若干異なるものの、
3)パーセンテージは小数点第1位を四捨五入しているので、合計しても
性別・出身・育った地域・農作業の
100% にならない場合がある。
経験といった属性の大きな違いはな
いと思われる。本論文では、この比
較対象群が大学生における食意識の一般的水準を示すものとして取り扱う。
(2)一次意識
つづいて、食意識の質問項
表5 一次意識に関するアンケート結果
単位:%
目に関するアンケート結果を、
一次・二次・三次意識の順に
考察する。ここでは質問項目
質問番号
1
項目
回答者属性
支持率
「強くそう思う」
「そう思う」
前(n=54)
90.7
38.9
51.9
旬の野菜
に対する肯定的評価である
後(n=54)
100.0
42.6
57.4
比較(n=93)
94.6
33.3
61.3
前(n=54)
75.9
18.5
57.4
後(n=54)
88.9
42.6
46.3
比較(n=93)
80.6
26.9
53.8
前(n=54)
87.0
35.2
51.9
後(n=54)
94.4
57.4
37.0
比較(n=93)
86.0
40.9
45.2
前(n=54)
46.3
9.3
37.0
後(n=54)
61.1
20.4
40.7
比較(n=93)
36.6
16.1
20.4
前(n=54)
83.3
20.4
63.0
後(n=54)
96.3
50.0
46.3
比較(n=93)
76.3
21.5
54.8
「強くそう思う」と「そう思
う」の比率、ならびにこれら
2
味の違い
2つの数値の合計値を「支持
率」と定義して、これら3つ
3
生きていたもの
の数値を指標に分析を進めて
いく。
4
土汚くない
表5は、一次意識に関する
アンケート結果である。各質
問項目に受講前・受講後・比
5
規格難しい
較対象群の数値を示した。ま
た、受講前と受講後を比較し
資料:アンケート結果より作成。
て、10ポイント以上数値が上
注:1)「支持率」は、「強くそう思う」と「そう思う」の合計値。
昇している場合、網掛けをし
2)受講前と受講後の数値を比較して10 ポイント以上の差がある場合は、網掛けを
してある。
てある。これによると、各項
目の支持率は、「4.土汚くない」で14.8ポイント、「2.味の違い」で13.0ポイント、「5.規格難しい」
− 68 −
農作業体験を含む食農教育が大学生の食意識に与える影響 ー名寄市立大学保健福祉学部食農教育科目受講者を対象としてー
で13.0ポイント上昇した。「強くそう思う」では、4で11.1ポイント、2で24.1ポイント、5で30.0ポイン
ト上昇した。「3.生きていたもの」は支持率の上昇は大きくはないが、「強くそう思う」は22.2ポイント
上昇した。「1.旬の野菜」はいずれもさほど大きな変動はない。受講後の支持率は、4を除き、9割程度
以上で非常に高水準である。
比較対象群との比較では、受講者の4と5の受講後支持率が明らかに高く6)、受講の結果、一般的水準よ
り支持率が上昇したと推察される。
(3)二次意識
表6は、二次意識に
表6 二次意識に関するアンケート結果
単位:%
関するアンケート結果
である。各項目の支持
質問番号
項目
6
見た目
重視せず
率は、「安い輸入品買
わず」で27.8ポイント、
「9.減・無農薬野菜」
見た目重視せず」で
13.0ポイント、「7.
季節で入手できない」
で13.0ポイント、「8.
9
菜」では支持率はさほ
「強くそう思う」が
11
12
いずれもほとんど変化
33.3
比較(n=93)
41.9
11.8
30.1
前(n=54)
44.4
3.7
40.7
13
「強くそう思う」
「そう思う」
後(n=54)
57.4
13.0
44.4
比較(n=93)
41.9
6.5
35.5
前(n=54)
44.4
14.8
29.6
後(n=54)
57.4
18.5
38.9
比較(n=93)
37.6
15.1
22.6
前(n=54)
33.3
0.0
33.3
後(n=54)
48.1
5.6
42.6
比較(n=93)
29.0
4.3
24.7
前(n=54)
18.5
5.6
13.0
後(n=54)
46.3
9.3
37.0
比較(n=93)
37.6
8.6
29.0
前(n=54)
18.5
1.9
16.7
後(n=54)
20.4
1.9
18.5
比較(n=93)
25.8
7.5
18.3
前(n=54)
85.2
29.6
55.6
後(n=54)
90.7
57.4
33.3
比較(n=93)
73.1
35.5
37.6
前(n=54)
31.5
3.7
27.8
後(n=54)
37.0
13.0
24.1
比較(n=93)
29.0
9.7
19.4
地元産野菜
つ安い輸入品買わず」
と「13.食材の話」は、
29.6
16.7
安全かつ安い
輸入品買わず
27.8ポイント上昇し
ている。「11.安全か
7.4
50.0
安い輸入品
買わず
10
ど変化していないが、
37.0
後(n=54)
減・無農薬
野菜
で13.0ポイント上昇
した。「12.地元産野
前(n=54)
パック野菜
買わない
8
パック野菜買わない」
支持率
季節で入手
できない
7
で14.8ポイント、「6.
回答者属性
食材の話
がない。受講後の支持
率をみると、12は高水
資料:アンケート結果より作成。
準だが、6・7・8・
注:表5と同じ。
9・10は50%前後であ
り、11と13は4割を切っている。
比較対象群と比較すると、受講者の7・8・9の受講後支持率が高くなっており、受講の結果、一般的水
準より支持率が上昇したと推察される。12については、受講前から受講者の意識が高いと考えられる。
(4)三次意識
表7は、三次意識に関するアンケート結果である。各項目の支持率は、「18.風土と文化」で14.8ポイン
ト、「16.労働の産物」で11.1ポイント上昇した。18と16は「強くそう思う」もそれぞれ22.2ポイント、
− 69 −
名寄市立大学 道北地域研究所 年報 第30号(2012)
42.6ポイント上昇している。
支持率はさほど上昇していな
いが、
「強くそう思う」が上昇
したのは、
「15.自然の循環」
表7 三次意識に関するアンケート結果
質問番号
14
項目
15
支持率
「強くそう思う」
「そう思う」
前(n=54)
77.8
18.5
59.3
後(n=54)
83.3
35.2
48.1
農業の生産物
33.4ポイント、「17.自然の
恩恵」33.4ポイント、「14.
回答者属性
比較(n=93)
68.8
16.1
52.7
前(n=54)
94.4
25.9
68.5
自然の循環
農業の生産物」16.7ポイント、
後(n=54)
94.4
59.3
35.2
比較(n=93)
89.2
38.7
50.5
前(n=54)
83.3
24.1
59.3
後(n=54)
94.4
66.7
27.8
比較(n=93)
81.7
30.1
51.6
前(n=54)
92.6
33.3
59.3
29.6
「19.賞味期限切れ廃棄は問
題あり」16.7ポイント、「20.
16
労働の産物
農業は大切」11.2ポイントで
ある。「21.食料自給すべき」
17
自然の恩恵
はいずれもさほど変化がない。
受講後の支持率は、14以外は
18
比較対象群と比較すると、
19
96.3
66.7
96.8
51.6
45.2
前(n=54)
85.2
27.8
57.4
後(n=54)
100.0
50.0
50.0
風土と文化
9割以上と非常に高く、14も
8割を超えている。
後(n=54)
比較(n=93)
賞味期限切れ
廃棄は
問題あり
比較(n=93)
88.2
34.4
53.8
前(n=54)
85.2
29.6
55.6
後(n=54)
90.7
46.3
44.4
比較(n=93)
84.9
41.9
43.0
前(n=54)
96.3
48.1
48.1
後(n=54)
98.1
59.3
38.9
比較(n=93)
91.4
54.8
36.6
前(n=54)
87.0
51.9
35.2
後(n=54)
96.3
59.3
37.0
比較(n=93)
87.1
51.6
35.5
受講者の16・18の受講後支
持率が高くなっており、受講
20
農業は大切
の結果、一般的水準より支持
率が上昇したと推察される。
21
15・17・19・20・21の受講後
食料自給
すべき
支持率は、一般的水準とさほ
ど差がない。
資料:アンケート結果より作成。
注:表5と同じ。
4. 食意識への影響と変化要因
(1)食意識における支持率の変化傾向
前節のアンケート結果をふまえて、食農
12
教育の受講によって生じた食意識変化の全
体的傾向を把握していく。図1は、一次・
100
二次・三次意識における受講後支持率の水
80
準および受講前後での上昇度合を示したも
70
のである。横軸が受講前後における支持率
50
上昇ポイント、縦軸が受講後の支持率を示
す。
これによると、支持率に変化がなかった
20
90
15
3
16 5
21
19
14
A
B
18
2
8
60
4
7
40
9
6
13
20
10
C
30
11
D
10
0
0
「15.自然の循環」を除いた全ての項目で
5
支持率が上昇しており、支持率が下落した
項目はない。また、三次意識は他の意識と
比して、支持率の上昇度合が緩やかである
傾向が窺える。受講後の支持率は、三次意
識の項目は総じて8割以上と非常に高く、
1
17
% & − 70 −
'
10
15
20
25
30
農作業体験を含む食農教育が大学生の食意識に与える影響 ー名寄市立大学保健福祉学部食農教育科目受講者を対象としてー
一次意識の項目も「4.土汚くない」が例外的にやや低いほかは8割以上の高水準となっている。それらに
対して、二次意識の項目に関する受講後支持率は、高水準の「12.地元産野菜」を除き、2割から6割程度
の水準になっており、一次・三次意識と比較して全体的に支持率水準が低いと言える。
図1に示したように、受講後の支持率水準、ならびに受講前後を比較した支持率上昇度合の2つの指標で
表現される食意識の変化傾向にもとづいて、各質問項目の類型化を試みた。A群を「高水準・不変」、B群
を「高水準・上昇」、C群を「中低水準・上昇」、D群を「中低水準・不変」と名付けた。
A群=「高水準・不変」は、受講前から支持率が高く、かつ受講後もさほど支持率が上昇しなかった9項
目(三次意識6・一次意識2・二次意識1)で構成される。受講前から支持率が8割以上の項目が多いため、
支持率がさほど上昇しないのは当然ではある。しかし、
「3.生きていたもの」・「12.地元産野菜」・「14.
農業の生産物」・「15.自然の循環」・「17.自然の恩恵」では、「強くそう思う」の比率が受講前後、そ
して比較対象群との比較でも高くなっている。この点で、より肯定的な評価が強まったと思われる項目もあ
る。
B群=「高水準・上昇」は、受講により支持率が上昇し、その結果として受講後支持率が高水準になった
4項目(一次意識2・三次意識2)から構成される。「5.規格難しい」・「16.労働の産物」・「18.風
土と文化」では、受講後支持率および「強くそう思う」比率がともに受講によって上昇し、比較対象群と比
しても高くなった。
C群=「中低水準・上昇」は、受講により支持率が上昇したが、受講後の支持率は中低水準である6項目
(二次意識5・一次意識1)で構成される。「6.見た目重視せず」・「7.季節で入手できない」・「8.
パック野菜買わない」・「9.減・無農薬野菜」・「10.安い輸入品買わず」は、受講前の支持率は2割か
ら4割程度だったが、受講により上昇し、5割程度にまで上昇した。特に、10は全項目で最も高い上昇度合
を示している。C群は、受講を通じて肯定的でない評価が減り、肯定的な評価が増えた項目であり、食農教
育上で重要な意味を表していると言える。
D群=「中低水準・不変」は、受講前から支持率が低く、かつ受講後もさほど支持率が上昇しなかった2
項目(二次意識2)から構成される。特に、「11.安全かつ安い輸入品買わず」は受講前後でともに支持率
が2割程度にすぎず、全項目中で最も低い水準となっている7)。
(2)食意識の支持率が変化した要因
それでは、これらの食意識はいかなる要因で変化したのであろうか。受講により支持率が上昇したB群・
C群の項目の中から、一次意識「2.味の違い」・二次意識「10.安い輸入品買わず」・三次意識「18.風
土と文化」を対象に、受講者の書いた講義感想文と農作業体験実習レポートの文章内容から分析したい。こ
れら3つの項目を選択した理由は、「同じ野菜でも、品種や産地・栽培方法で味の違いがある」・「野菜な
どの農作物は、安くても輸入品は買いたくない」・「食べ物は、風土が作り出す文化である」8)という意
識が、地域農業振興に直結する地産地消(国産)に肯定的な購入判断基準を表していると考えられるからで
ある。
1)一次意識「2.味の違い」
実習レポートから、項目2に関する評価が肯定的に変化した学生の文の一部を抜き出してみる。「農家の
みなさんが芽かきなど、野菜がちゃんと成長することができるように手助けをしてあげているからこそ、こ
こまで大きく成長することができているのだなと思いました」(学生ア、「どちらでもない」→「強くそう
思う」9))。「(スーパーで野菜をみたとき)今回の農家と同じように手間暇かけて作っている作物であ
ると感じることができ(た)」(学生イ、「どちらでもない」→「強くそう思う」)。「スーパーで買う新
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名寄市立大学 道北地域研究所 年報 第30号(2012)
鮮なキュウリとは違い、本当に新鮮なキュウリはサボテンを触ったような感じの痛いトゲであることを自分
の指で実感した」(学生ウ、「どちらでもない」→「そう思う」)。学生ウは、タマネギの苗を農家からも
らって自分で育てたところ、全く違うものになってしまい、作る人によって農作物は異なる育ち方をするこ
とも記述している。大まかに共通するのは、農家でもらった野菜がスーパーのそれと見かけや味が異なるこ
と、農家が手間暇をかけて農産物を育てていることを見出している点である。
講義で項目2に直接関係する内容は多く取り扱っていない。現代の北海道農業を取り扱った講義に対して、
米や野菜の品種が多いことに驚いた感想が見られるが、項目2の評価の変化との関連は見いだせない。
2)二次意識「10.安い輸入品買わず」
同様に、実習レポートから、項目10に関する評価が肯定的に変化した学生の文の一部を抜き出してみる。
「お店に並んでいる綺麗で真っ直ぐなアスパラたちは多くの農家によってきちんと選別されたものが並んで
いることを実感した。農薬を使った農作物は正直なところ好んで食べたいと思えないが、農家の苦労を考え
るとしょうがないと思った。農薬に関しては良いイメージはなかったが、農家の人が一生懸命育てた作物を
虫や病気によって無駄にしてしまうことの方が良くないと考え方が変わった」(学生エ、「そう思わない」
→「そう思う」)。「本当に細やかな大変な作業から、私達はおいしい野菜を頂いているんだということを
学んだ。朝の早い時間から外へ出て労働することはとても身体的に疲労がたまるだろう。スーパーで『この
商品は有機野菜です』というパッケージを見たことがあるが、大変な苦労があったんだということを農作業
体験を通じて学んだ」(学生オ、「そう思わない」→「そう思う」)。「農家は収穫したら終わりではなく
て、出荷までしっかりと気をつかわなければならない職業なのだと感じた。手作業で収穫や草刈りを行って
いる農家の方の苦労などを理解することができた。今回の農作業実習を通して、野菜は農家の方に大切にさ
れて出荷されていることを改めて実感した」(学生カ、「そう思わない」→「そう思う」)。また、学生カ
は思っていたより農作業は機械を使った作業が少ないことも指摘している。共通して言えることは、農作業
の大変さを実感したこと、そしてそういった労働を日々している農家への感謝の思いである。
講義では、世界的な食料価格の上昇と飼料価格高騰などによる北海道農業への影響、日本の食料自給率の
現状について取り上げた。自給率が低いと食料危機の影響を受けやすい、世界の飢餓人口が多いことへの驚
き、子どもが飢餓の犠牲になっている、低い自給率は問題ありといった感想が見られた。これら感想を書い
た学生の中には項目10の評価が上昇した学生もいたが、明確な傾向としては確認できなかった。
3)三次意識「18.風土と文化」
同様に、実習レポートから、項目18に関する評価が肯定的に変化した学生の文の一部を抜き出してみる。
「今年は、悪天候が続きあまり農作業が進んでいないということだった。やはり、農業は自然との折り合い
の中で行われている物だと思った」(学生キ、「どちらでもない」→「そう思う」)。「私たちにとって小
さな天候の差でも、農作業の遅れや、作物の生育状態に大きな影響を与えてしまうことも分かりました。(受
入農家)さんが61歳になっても元気で若々しいのは、こうして自分で育てたおいしい野菜を食べているから
なのだろうなと思いました」(学生ク、「どちらでもない」→「そう思う」)。「普段なら今時期は出荷で
忙しいらしいのだが、今季は気候変動が激しく、寒暖の差によってなかなか収穫時期を迎えることができな
いという話も聞かせてもらった」(学生ケ、「どちらでもない」→「そう思う」)。学生ア(「そう思う」
→「強くそう思う」)は、ミニトマト栽培に関して、その土地土地の「風土」によって栽培方法(与える水
の量)が変わることを指摘している。共通するのは、気象や気候によって農作業や栽培方法、作物の生育が
影響を受けることを理解した点である。
講義では、この点について直接関係する内容を取り上げていない。ただ、項目18は歴史的理解に関わると
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農作業体験を含む食農教育が大学生の食意識に与える影響 ー名寄市立大学保健福祉学部食農教育科目受講者を対象としてー
いう仮説にもとづいて、北海道農業の歴史を取り上げた講義の感想を検討した。北海道開拓や戦後の急激な
農業構造の変動について、先人たちの非常な苦労があって今の北海道農業がある、北海道農業の歴史が実は
浅いことへの驚きを書いた学生の一部に項目18の評価の上昇が見られた。だが、この傾向を十分に説明でき
る因果関係は見いだせなかった。
5. おわりに
本論文では、名寄市立大学保健福祉学部教養教育科目「北海道の農と食」受講者を対象として、農作業体
験を含む食農教育により大学生の食意識がどのような影響を受けたか、アンケートと学生が記述したレポー
トなどから明らかにすることを課題とした。その際、食意識を一次意識・二次意識・三次意識の重層的構造
をもつものとして把握した。その結果、アンケートからは、一次意識では「4.土汚くない」・「5.規格
難しい」、二次意識では「7.季節で入手できない」・「8.パック野菜買わない」・「9.減・無農薬野
菜」、三次意識では「16.労働の産物」・「18.風土と文化」については、受講後に支持率が上昇し、その
支持率は比較対象群と比較して高く、教育効果があったと考えられる。そして、食意識の変化要因に関して
実習レポートと講義感想文の分析からは、座学の講義よりも、農作業体験実習からの影響が強いことが示唆
される。農作物を実際に生産している農家と接して農作業の実態を直に体験することが、食意識を変える点
で重要な役割を果たしていると考えられる。
最後に、今後の課題を3点ほど述べたい。第1に、本論文ではアンケート分析を専ら単純集計によってお
り、検定やクロス集計といった手法を用いていない。回答者属性の違いによって食意識の変化が異なってい
る可能性があり、今後の解明が待たれる。第2に、定性的分析手法の精緻化である。今回の実習レポート、
講義感想文を用いた分析の不十分さは否めず、食意識の変化をもたらした因果関係を見落としていることは
否定できない。テキストマイニングといった、より精緻化された手法の採用を検討する必要がある。また、
食意識が変化した受講者の中から特徴的な対象を選択して、変化したプロセスをさらに深く掘り下げていく
アプローチを用いることも考えられる。第3として、食意識の重層的構造モデルについてである。野田〔2007〕
の食意識モデルは、一次意識により二次意識が促され、最終的に三次意識に達するという発展段階が想定さ
れている。だが、本論文の結果では、一次・三次意識の支持率水準より、二次意識の支持率水準は明らかに
低い。これをどう考えるべきであろうか。例えば、食料自給をほとんどが支持するにもかかわらず、安い輸
入品を買わないという支持は半分程度である。自給すべきだが経済的理由で輸入品購入もやむを得ないとい
う理解もある。ただ、食料自給・農業の重要性といった概念を社会的に望ましい価値観としてさしあたり理
解はしているが、なぜそういった価値観が“望ましいのか”を自分自身の実感として、あるいは体験的に理
解していない可能性も指摘できる。地産地消や農業理解を進めていくためには、単にそう思うだけではなく、
それらの意義を実際に感覚したり、実際に体験することを通じて“体得”する必要がある。その意味で、そ
のシンプルな手法としての農作業体験の重要性は高まっていくと言えよう。
【註】
1) 講義全体の到達目標、各講義のテーマおよび到達目標に関しては、清水池〔2011〕pp.134-135を参照。ただし、2010年度
の講義内容は2011年度と一部異なっている。
2) 詳細は野田〔2007〕p.301を参照。
3) この項目では、回答者の育った地域を「都会」・「農村」・「どちらでもない」から選択してもらった。農業に対する馴
染み・主観的な距離感をみる指標と位置づけた。
4) よって、本アンケートは厳密な意味での無記名アンケートではない。学籍番号を尋ねたのは、個々の受講者が講義の前後
で具体的にどう変化したかを分析するためである。なお、アンケート実施時には口頭および文書にて、学籍番号を尋ね
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名寄市立大学 道北地域研究所 年報 第30号(2012)
る理由を説明した上で、アンケートの回答によって講義成績が左右されない旨を説明した。
5) 詳細は表3の注を参照。
6) 支持率の前後変化と同様に、10ポイント以上の上昇をもって判断した。
7) 「13.食材の話」は、回答者が、家族と別居した一人暮らしの多い学生であることを考えると、適当な質問項目でなかっ
たように思われる。
<
8) フランスの有名な地域産品表示制度であるAOC(Apellation d origine controlee)は、まさにそういった認識の上に成立
している。
9) 実習前と実習後の評価の比較。以下、同じ。
【参考文献】
上岡美保〔2010〕『食生活と食育──農と環境へのアプローチ──』農林統計出版、2010年。
河合和子・佐藤信・久保田のぞみ〔2006〕『問われる食育と栄養士──学校給食から考える──』筑波書房、2006年。
佐藤真弓〔2010〕『都市農村交流と学校教育』農林統計教会、2010年。
清水池義治〔2011〕「地元農家組織と連携した食農教育の実践──名寄市立大学保健福祉学部教養教育科目『北海道の農と
食』の事例から──」『地域と住民』第29号(名寄市立大学道北地域研究所年報)、pp.133-138、2011年3月。
内藤重之・佐藤信編著〔2010〕『学校給食における地産地消と食育効果』(日本農業市場学会研究叢書No.10)筑波書房、2010
年。
野田知子〔2007〕
「農業体験が利用者の食意識に及ぼす影響に関する一考察──練馬区農業体験農園利用者を対象として──」
『2007年度日本農業経済学会論文集』、pp.294-301、2007年。
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