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クレイジー・アイランド2

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クレイジー・アイランド2
クレイジー・アイランド2
桝田珪赤
!18禁要素を含みます。本作品は18歳未満の方が閲覧してはいけません!
タテ書き小説ネット[R18指定] Byナイトランタン
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁ノクターンノベルズ﹂﹁ムーンライトノ
ベルズ﹂﹁ミッドナイトノベルズ﹂で掲載中の小説を﹁タテ書き小
説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は当社に無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範囲を超え
る形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致します。小
説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
クレイジー・アイランド2
︻Nコード︼
N4953BH
︻作者名︼
桝田珪赤
︻あらすじ︼
戦後放棄された巨大工業団地がスラムとして成長したその街の名
を、誰かが・何時からか︹島︺と呼んだ。ボスの統率するカジノを
中心に発展した非合法独立国家における番犬は、クレイジーなティ
ーンズ達だった。15歳のヒルコと、17歳のマトーは今日も仲良
く殺し合ったりしている。オレンジ色のフライパンが宙を斬り、真
っ赤な金属バットが唸る。他にもビッチやドMやホモやレズやカニ
バリストや変態なんかが、気狂い達の︹島︺でファンキーに大暴れ
1
している。ちまちま更新します。↓2となっていますが単品で読め
ます。因みに1はサンプルを上げています。今秋11月に和光大学
の学園祭にて販売予定。
2
︵前書き︶
超が付くアングラなので、ご注意下さい。
3
屋外。曇天の空。
雛菊印の棒付き飴を、二人が同時に舐めていた。その姿は同じ器か
ら水を飲み残飯を漁る二匹の犬に似ていた。つまり、二人は顔を寄
せ合って舌先で一つの飴玉にご奉仕していたのだ。そー・くれいじ
ー!
﹁キッモ﹂
その様子を見て、コンクリートから露出した鉄骨の上に座っていた
ネズミは唾を吐き捨てた。地上十四階の高さ。ぷらぷらと足を振り
子のようにして。ポーンと吹き飛んでいってスクラップの山に着地
するサンダル。黒いストラップが拘束具に似たエナメル製だ。因み
に右。ヒールはピンで10センチ。高い。ムカつく二人は彼方下の
方に居て、唾は生憎と届かない。
屋外でペッティング紛いの糖分摂取を行っているのは若い男女のカ
ップルではなく、顔見知りの少年二人だ。ばさばさの切れ毛と枝毛
塗れの色落ちしたアッシュの髪を束ねているのがヒルコで、そうじ
ゃない方がマトー。
がりりっ。ヒルコがマトーの舌を齧った。ぱたぱたと落ちる血と唾
液。丸まって引きつる舌。マトーがにやり、口角を上げる。
﹁あーにすんだよ﹂
﹁なんか、旨そうだったしぃ?﹂
へらりととろけた笑みを浮かべて、ヒルコはマトーを見上げた。ヒ
ルコは160センチになったばかりの15歳で、マトーは175セ
ンチはある17歳だ。唇の端から血を垂れ流しながら、年上らしく
JUNGLE
苦笑いしてマトーはナイフを取り出した。腰のベルト。黒いツナギ
を横断。吊られたホルダー。SOGのFUSION
PRIMITIVEはぎざぎざの刃が美人。アメリカ軍御用達。
4
これさえあればベトナム戦争も安心安全!マトーはヒルコの頸動脈
を掻っ切った。屠殺された獣にそっくり。多分、ウサギ。白いし。
マトーはヒルコが大事だし可愛い。
ぶらん。半分切れてばっくり開く傷口。食道の内側がエロティック。
ヒルコの着たグレーのパーカとその下に着た黒いランニングに血が
どろどろに染み込んで容赦なく酸化してく。
んべっ。
顔を上げてマトーは舌を出した。無言のままネズミではない目撃者
を嘲る。柱の陰に隠れ切れていない丸いぶよぶよとした脂肪の塊。
が、汗と脂を吸ったTシャツ一枚に覆われている。精気のない目は
皮膚に埋もれてどんな形か分からない。うっわマジ引くわ。そう呟
いて、マトーは大事な大事な世界にたった一人しか居ないヒルコを
ぬいぐるみのように引き摺って退散した。
名もなき太った男はヒルコとキャンディを食べたくてヒルコに噛ま
れたくてヒルコの頸動脈をぶった切りたい。要は所謂ストーカーと
いうやつで、きっとヒルコは名もなきデブもといデヴの存在を視界
に入れた三秒後には認識出来なくなっている。
﹁⋮でりーしゃす!﹂
口に入れたキャンディは鉄臭くて最低の風味だったから、マトーは
奥歯を使ってすぐさま噛み砕いた。
ぱんぱん。ぱぱんっ!
シンは手を叩いた。家庭教師のモノマネが最近のマイ・ブーム。泣
く子も黙るかも知れない︹伍︺のシン。番号付きは、この日本の九
龍城で好きに振る舞う権利があるので、今日も今日とてシン先生は
生徒を集めて授業を始める。三十人前後集まった生徒の平均年齢は
リアルにアラフォーだが、シン先生はピチピチ︵死語︶の19歳だ。
5
真っ黒ツヤツヤな長い髪に水色のエクステを混入して、高い位置で
縛っている。左目の下の泣きボクロがチャームポイント。猫みたい
なアーモンド型の瞳。
﹁はーい、では授業を始めまっす。今日の授業はザコい皆さんが如
何にしてこの︹島︺で生き残るかについてです。まずは前回の復習
からいこうか。この日本最大のスラムは戦後間もなくして作られた
工業団地が前身となった無法地帯なんだ。突然会社の社長が経営不
振を理由に失踪。その跡地がホームレスの居城になっていた所を我
らが偉大なマムが買い取ったって訳だ。その後、マムの経営する非
合法賭場、カジノ・アイランドを中核として︹島︺は発展。今に至
る訳だ⋮はい、ここで皆さんに質問です。この︹島︺の法律にあた
るものは何かな?﹂
はいっ!はいっ!次々と手が挙がる中、一人の痩せた老人をシンが
指名した。すぐに﹁マムと、番号付きの皆さんです﹂と答えた。シ
ンはにこやかに軽い拍手をする。
﹁正解です。正解者に拍手っ!そして、知っている人も居ると思い
ますが、みんなのシン先生も番号付きです。えー、番号付き、とは。
一体何なのか、具体的には先生も、他の番号付きも知りません。噂
によると、現代哲学と古代呪術を融合させた新しい手段と処置を施
された存在です。特徴としては、番号付きは驚異的な回復力と、頑
丈さを誇るという所です。番号は漢数字の︹零︺とアラビア数字の
︹00︺から、漢数字は︹拾︺アラビア数字は︹11︺までとなっ
ていて、数が少ない程能力は高いです。今このスーパーエリートを
張っている︹零︺と︹00︺が誰だか分かる人は居るかな?﹂
次々と手を挙げる生徒の中、一番左端に座っていたアル中男が勝手
に答えた﹁ヒルコとマトーだろぉ﹂何という悲劇で喜劇。アルコー
ルは魔法の液体だ。飲めばこの世に恐れるものは何もない。
がっ。
鏡面仕上げばりに磨き上げられた巨大な鉈が、ぱっくり。行儀のな
っていない生徒の頭をスイカのように割った。不気味にクリーム色
6
の脳味噌がフレッシュ。
﹁はぁ∼い、発言時には手を上げましょうね。授業を続けます。さ
て、今の︹00︺と︹零︺はヒルコとマトーですが、この二人につ
いてはまぁ、ちょっかいを出さなければ大丈夫です。拷問や殺人も
基本的にはちょっとだけしかしません。するのは精々、無銭飲食ぐ
らいの割と優しい二人組です。ほぼホモですがホモではないと本人
達は言い張っているので交流を持つ際には追求を止め、思考を停止
させましょう。ですが、時々ヒルコのファンにジェラシーを抱いた
マトーが壮絶な事件を派手に起こすので、ホモやショタコンな女性
の方々はヒルコには惚れないよう注意しましょう。マトーに惚れて
しまった場合は、ヒルコよりは寧ろ眼球フリークの変態︹08︺の
ミツバチに注意しましょう。結論としては共依存な二人の世界が出
来上がっているのでスルーして下さい。何か質問のある人は?﹂
シン先生が引き伸ばした一枚の写真を崩れかけたコンクリの壁にナ
イフを使って突き刺した。果物ナイフは消耗品だと皆が皆知ってい
る。
壁には不規則にひしゃげた真っ赤な金属バットが規則的に並んでい
た。棚には目玉を漬けたホルマリン溶液が詰まったガラス瓶が並び、
コルクボードにはありとあらゆるメモが虫ピンで病的に磔にされて
いる。パラノイア!
片目を隠す真っ赤な髪を額に汗で張り付けて、ミツバチは熱中して
いた。恍惚。汗。規則的な律動。はっ、はっ、はっ、はぁ⋮炎天下
の犬のような吐息。暑い狭い部屋の中でミツバチの枕からはらり。
一枚の写真が落ちた。
﹁あっ⋮ぅん!﹂
低い癖に鼻に掛かった甘ったるい声が抜ける。濡れる手。どくどく。
7
心音。引いてゆく興奮。残留が残滓に変換。ミツバチのオナニーラ
イフは充実してる。ティッシュで拭いて手を洗ったらお洒落な服着
てお出掛けシマショウ。
愛しいあの人をれっつ・すとーきんぐ!
床に落ちた紙切れの中に幽閉したのは黒いツナギ着たサッカー部の
中学生みたいに短い黒い髪とバター色の肌に、極上のグリーン・ア
イズ。翡翠の目。眼球コレクターのミツバチは彼の目が欲しくて仕
方ない。眼球以外の付属品も欲しくて仕方ない。
ぎぃ。
錆びたドアを開けて安全靴で歩き回る。コンクリートは今日もよく
分からない汚水で濡れている。ウェッティ。ぴちゃ、ぴちゃ、ぴち
ゃ。ある棟の三階から五階には人影がない。四階には︹零︺と︹0
0︺が棲んでいる。フロア丸々が住居。汚くなったら適当にまた別
な家に住む。ステキなヤドカリ生活。
階段で立ち止まるとヒルコがマトーに纏わりついてベタベタしてい
た。後ろから腰回りに抱き付いて、へらへらふらふら、二人は動い
て回る。猫の子供達。ヒルコはマトーの弟だ。極秘だけど。マトー
はヒルコの兄だ。極秘だけど。番号付きには周知の事実。
えっ。
ヒルコが自分の口に人差し指と中指を突っ込んで噛みかけのガムを
摘みだした。球を付け糸を引く唾液。その指をマトーのお口にイン
!マトーは普通に噛み始める。ミツバチは舌打ちをする。
べっ。
マトーが床にガムを捨てる。意味不明な爆笑。二人は団地の一室に
入ってゆく。馬鹿な中学生そのもの。学校、通ってないけど。
﹁⋮ちくしょう﹂
かつん。かつん。夢遊病みたいにミツバチは足を進めて、ガムのか
みかすの前に跪いた。小さなジップロックの中に摘んで収める。水
分を含んだ物体の水分の大半はヒルコなのが不満だけど仕方がない。
ないよりはマシ。下から視線を感じて見下ろすと、キモいデブが見
8
上げてた。汗だくのデブ。手には小さなピンクのデジタルカメラ。
﹁行けよ﹂
デブはわたわたと慌ただしく退散した。飛び散る汗と滲む脂。
ミツバチは何時も、ヒルコがキモいホモ野郎どもに輪姦されて死ぬ
か女に強姦されまくって発狂すれば良いのにと思って妄想に耽る。
取り敢えずヒルコは童貞でセックスフォビアだから公衆便所系で。
そしたらきっとマトーはヒルコを黒いゴミ袋に詰めて娼館に突き出
すだろう。ミツバチは頭蓋骨の中でファンタジーを温めている。
かつ、こつ。
黒い革靴が背後で響いた。
くちゃくちゃくちゃ⋮
ダサい緑色のジャージの袖と裾を捲って、生肉を食べながらシンは
黒板がわりの壁の前をぐるぐると歩き回った。気分はもうシャーロ
ック・ホームズ。手には鉈。
﹁さあって、お弁当も済んだ所で、午後の授業を始めます。前の時
間はマトーの凄惨な殺し方だったので、今日は︹08︺ミツバチに
ついての授業です。こらこらそんな嫌そうな顔をしない。先生だっ
て嫌だ!だけどな⋮先生はみんながこの︹島︺で生きていけるよう
に教えてやらなきゃいけないんだ。わかったな?みんなは良い子だ
から分かるよな?⋮よし。まず、ミツバチは眼球マニアの変態なの
で、綺麗な目をした外国人やハーフの皆さんはミツバチの姿を見た
らまず逃げて下さい。アジア系ならあんまり心配はありません。で
すが、眼球を狙われてロックオンされた場合は八割方殺されるので
注意が必要です。加えて、ミツバチはマトーのストーカーなので、
マトーと変に仲良くしてると漏れなく拷問↓惨殺コースです。つい
でに、ミツバチはホモ寄りのバイな上に基本的にはネコなので、時
9
々発情します。迫られた際には速やかに命を諦めて下さい。ですが
︹08︺なんてたかが知れています。だから取り敢えず殺す気で挑
んで隙を作ったら自殺するか完全に仕留めるかして下さい﹂
くちゃくちゃ、くちゃ⋮
お弁当タイムは終了したのにシンはまだ摘み食いをしている。とぽ
ぽ。レトロなデザイン昔ながらの醤油差しから醤油を生肉に垂らす。
筋肉質なシン先生は肉が好きだし、基本的には醤油をかけておけば
多分・きっと・絶対にオールオッケーだと信じている。
﹁あ、とは⋮ミツバチは基本的にヒステリックなクレイジーなので、
発作的に喚いている場合があります。ヤク中ではないので見分けら
れるように頑張りましょう。以上です﹂
崩壊寸前の教室は生唾を飲む音と息遣いに支配されている。ぽたり。
一滴ずつ誰かの汗と醤油が落ちた。
ピッ。
網膜を焼く昼下がりの太陽をガン無視してヒルコはテレビのリモコ
ンを握る。この時ばかりは歴戦の友・オレンジ色のフライパンも脇
に置く。下らないバラエティ番組が終われば時刻は12:30を示
す。暑苦しい男性歌手が歌うコテコテの熱血。ポップなオレンジ色
を大量に使ったアメコミ風のオープニングが流れ出す。毎週火曜日
全国放送の意欲作。マトーは沢山アニメやマンガを見るけど、ヒル
コはこれしか見ない。一筋。一本。録画予約をしているからって言
10
ってマトーはお腹が減ったから昼メシを買いに行ったけどヒルコは
行かない。だってこの時間に今週の分を見るのが良いから。ささや
かな拘りとありきたりなファン心理。
ゆさゆさゆさ。貧乏ゆすりをしながら体育座りAでヒルコはコマー
シャル・メッセージが終わるのを待つ。きらきらする目。青白い筈
の頬はバラ色。全身オレンジ色のマッチョマンが画面に映る時、ヒ
ルコは脳内が﹁うきゃ︱︱︱︱︱︱っ!﹂って感じだ。何時も。あ、
やばい。いきなりピンチ。オレンジ色したヒルコのヒーローはいき
なり頭を銃で撃たれて粉砕された。派手に飛び散る橙色の液体。背
筋はぞくぞく大興奮。
﹁やぁっぱ、いよかん星人じゃないとダメだよなぁ。第一期いよか
ん星人で第二期がレモン星人とか訳分かんねーし。大体マジカルレ
モンってなんだよ。リリカル☆ファンシー系に行くとかマジ意味不
明だしぃ?でも第三期のいよかん星人のが一期より面白いから良い
けど。頭の飛び散り方ハデだし。果汁の吹き出す時に画面ほぼ全面
いよかん色にするのがも、サイコー。あっ!やばい!みかん星人が
っ⋮!あ、うん⋮あー、良かった。ってか♂がいよかん星人で♀が
みかん星人って設定がマジ神。みかん星人はリモコン使えば一瞬で
人類洗脳して征服出来るけど何もしないっていうのがお茶目だし。
みかん星人かわいい。よしっ!いよかん星人そこだ!地球防衛軍の
頭をねじ切れ!やった!わー!早くいよかん星人青い地球をオレン
ジ色にしてくんねぇかな。きっと今も毎日川にオレンジジュース垂
れ流してるんだろうけど。出たっ!いよかんビィイイィムっ!⋮こ
ないだカンキツ星に帰ってった時はびっくりしたけど、スターニプ
レス取りに行く為だったんだよな。いよかん星人カッコいい。マト
ーは地球防衛軍総督のハルオが良いって言うけどマジあれはない。
なんかのパロディっぽい
けどオレそんなの知らないしぃ?﹂
きぃ⋮こ、ぎぃ、ばたん。
蝶番が軋んでも、アニメと一人語りに夢中で今夏公開される劇場版
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いよかん星人を観に行きたいヒルコは気付かない。優先順位第一位
のテレビ番組。放送中は梃子でも動かないのを知っているから、過
去何度かマトーはテレビをぶっ壊している。メンズ・ジェラシーか
ら時々喧嘩になったりもする。そんな日常の殺し合い。
のし、のし、みしっ⋮
古びた畳が悲鳴を上げる。繊維が切れる。背後に立った相手にヒル
コは気付かない。画面の中では二発目のいよかんビームが頭部いよ
かんのオレンジ色マッチョマンの乳首から放射されている。派手な
CG処理。ヒルコは歓声を上げる。
ぶん。振り上げられる鈍器。ヒルコが甲高い声でいよかん星人の台
詞をトレースする。
﹁何時でも果汁は120%!濃縮還元も大概にしろよ☆﹂
がんっ。
赤い金属バット⋮ではなく、黒いバールがヒルコの脳天を殴打した。
開きっぱなしの窓。網戸さえしていないベランダから、逆さまにな
ったネズミが覗いてる。
﹁キャハハハハハハハハハ!バーカ!﹂
キャハハハハハハハハハ!キャハハハハハハハハハ!キャハハハハ
ハハハハハ!ネズミが笑う。
パツッ。
太った男はリモコンを拾って、テレビを消した。
暑い教室の中で、シン先生は熱血教師なせいでまだ熱弁を奮ってい
る。生徒の内の何人かは啜り泣きしていて、更に数名は既に意識を
手放している。今時珍しい全力指導。
﹁それでは、今日も授業を始める!着席!礼!着席!よし!今回は
一番重要な授業になるぞ?皆、暑いからって気を抜かず、きちんと
12
聞くんだぞ!ほら、寝るな!﹂
どかっ!どかっ!どかっ!
寝ているケシカラン生徒の頭を、シン先生は机と机の間を周りなが
らウインクして次々に鉈で叩き割ってゆく。ぱっくり。真ん中に命
中。切り口は標本並みにアーティスティックで絶好調。
﹁まったく⋮お前たち、あんまり夜更かしするなよ!では、早速だ
が︹壱︺ネズミについての授業を始める!この中で、ネズミを見た
事がある奴は手を上げろ。いち、にい⋮なんだ、殆ど全員か。じゃ
あ、容姿に関しては軽く説明だけで済まそう。大抵は露出過多のキ
ャミソール+ミニスカ叉はショートパンツにサンダル。髪型は春夏
秋冬ツインテールだが、秋冬は靴がブーツになって上からコートを
羽織るようになる。要は、見た目は頭の軽い日曜日の女子高生と大
差ない。見分けようと思ったら、甲高いキャハハハハハハハハ!と
いう笑い声で区別するしかない。しかし、厄介な事にネズミはその
名の通り神出鬼没な上、回復力に優れた︹壱︺でありながら、火器
を好んで使う。男好きのアバズレでストライクゾーンは東京ドーム
三個分ぐらいだからかなり危険な相手だ。気分が盛り上がってくる
と屍姦をする癖があるから、ネズミに狙われた場合は抵抗を諦めて
麻薬に走るか何かしてくれ。以上。何か質問のある奴は居るか?﹂
しんと静まり返る教室を見渡して、誰からもリアクションがない事
にシンは眉を寄せた。ピンク色のチョークを使って、コンクリの壁
に板書する。ビッチ、の三文字。
﹁⋮で、ついでに説明すると、ネズミのお気に入りはヒルコとジャ
ックです。次の時間はジャックについて説明するから、楽しみにし
ろよ?﹂
ぐちゅ。
露わになった脳みそに、ピンクのチョークが挿入された。
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じゃっ。どぅるるん、どぅるるるるん。
エンジン音がして、マトーは反射的に振り向いた。ぎぎぎぎぎ!が
がががが!金属と金属が乱闘を始める。首を狙ってきたのはジェイ
ソンも真っ青なアメリカ製チェーンソーだった。いや、カラーは赤
だったけど。
ががっ。
火花を上げて、マトー愛用の真っ赤な金属バットの塗装が剥げる。
不愉快さに無表情なまま、嫌々マトーは口を開いた。ほっぽり出さ
れた白いビニール袋の中にはジューシーなお肉がたっぷり詰まった
アツアツの肉まんが三個、直で入ってる。不法入国した本番中国の
シェフお手製の逸品。
﹁なんだよ、ミツバチ﹂
はー⋮ぼりぼり。溜め息を吐きながら、頭を掻いた。変態でドMな
ミツバチは名前を呼ばれただけで目を潤ませて頬を染める。うげ。
キモい。正直な感想はミツバチの耳には届かなかったらしい。
﹁マトー、あ、あの、ぼ、ぼくに目玉⋮頂戴。ダメなら恋人でいい
からっ⋮﹂
﹁やぁだね。だって、ヒルコのが可愛いしぃ?﹂
もうマトーはミツバチを視界に入れるのが早くも嫌になってしまっ
たので手っ取り早く逆上させてから殴り殺す事にした。マトーは闘
牛士を尊敬している。オーレッ!ヒルコの名前は血のように赤い。
ミツバチの眦がつり上がって、頬が更に赤くなって突っ込んでくる。
マトーは欠伸をした。うぃいいいいいん!チェーンソーが唸る。ミ
ツバチの黒いシャツが翻って、中に着た赤いタンクトップが捲れて
14
臍が見える。薄く筋肉が浮いた青白い肌が気持ち悪い。
﹁よっと﹂
突っ込んできたミツバチの足に足を引っ掛けて、その拍子に待ち構
えてたバットが顔面にヒット!えーんど、ノーラン。派手にすっ転
んだミツバチの手からチェーンソーが離れて転がる。喧しい。
﹁ん?﹂
マトーは抵抗出来ないようにうつ伏せのまま喚く鼻血まみれのミツ
バチの頭を踏みつけた。ぐりぐり。土下座させる。
﹁おいミツバチ、お前これどういう事だよ殺すぞ﹂
正面からは見えなかったが、ミツバチは腰からフライパンを吊って
いた。取っ手の穴に紐を通して、後ろに回ったフライパンはオレン
ジ色で弾痕付き。世界に一つだけのフライパン。超見覚えあるんだ
けど?とにっこり。マトーは漸くミツバチの姿をまともに見た。会
話するのは人生で初めてかも知れないがしかし、それが分かったの
はミツバチだけだった。残念!
﹁しっ、知らない奴に、も、持ち掛けられたんだよっ⋮ヒルコの奴
を処分出来る奴が居るから、マトー足止めしろってぇ⋮ぞっ、ぞじ
たら、マトーだってぼくの事見てく、ぎゃあああああああっ!﹂
ぼきん。バットの先で、指の骨を粉砕する。ぐりぐり。多分四本ぐ
らい折れた。
﹁バッカじゃねぇの?ヒルコ殺せる奴何て居ないだろ。ま、連続し
て弾丸ブチ込むなら別だけど?﹂
﹁あ、あ、あ、あの、ストーカーのデブっ⋮あいつを使うって、あ
ああああっ!やめっ、ごめん!ごめんなさいマトー!﹂
ばきん。ぐりぐり。さっきは右手だったから今度は左手に。バッキ
バキに骨を砕く作業を続けながら、記憶の彼方にあるストーカーの
デヴに関する記憶を引っ張り出す。たっぷり10秒ぐらい時間を使
って﹁あ、あれか﹂今朝も飴食ってた時に居たっけと考える。多分、
覗いてた奴だ。
﹁あー⋮なる。ちょびっとヤバいかもな﹂
15
足をミツバチから退けて、軽やかにマトーは歩き出した。はっ。は
っ。はっ。息を整えるミツバチ。じゃり。目の前には某有名ブラン
ドのパチモンなスニーカー。
どぅるるん。エンジンが戦慄く。
﹁じゃ、取り敢えずバラす方向で﹂
ああ、マトーが。あのマトーがぼくのチェーンソー持ってる使って
る凄く綺麗な笑顔浮かべてる。やばいカッコいい。あのチェーンソ
ーもう捨てない。今晩頬摺りして寝よう。ああ、凄いマトーが見て
る。凄い凄い。緑の目がこっち向いてる。こんな事なら拷問も良い
かも⋮
﹁じゃ、まずは目から。イラッとするし?﹂
ちゅいいいいいいいいん!
﹁で
す
よ
ね
!
!﹂
ばきばきごしゃっ!響く僅かな機械音とミツバチの野太い悲鳴でヒ
ルコは目を覚ました。いつだってあの不愉快な声はヒルコの睡眠を
妨げる。
じゃら。
頭の上で鎖が鳴った。不思議な浮遊感と痺れる手。また鳴る。じゃ
ら。ん?あれ?なんかおかしいぞ。ヒルコは額から流れた自分の血
をぺろり。舌で舐めた。しょっぱい。雨上がりの鉄棒味。
はっ、はっ、はっ、はぁ⋮
野良犬みたく浅くて激しい呼吸を繰り返しているのは目の前に立っ
てこっちを見下ろしてくる巨デブだった。ヒルコはこいつが誰だか
どうしても思い出せない。でも見覚えはある。デジャヴ?てってっ
て∼てれってってってれれ∼♪背中からぶわっと冷や汗。壊れたラ
16
ジオから昔聞いた懐かしき80'sテクノが脳内でエンドレスリピ
ート。ヤバい時にはいつもこの曲がBGM。
﹁もしかしなくてもやべぇカンジぃ?﹂
デブの手には小さなナイフが握られている。明らかに安物。チャチ
い。ヒルコは刺されても死なない。
誰かの意識の外に出た途端出る度にヒルコは生まれ変わる。それは
マトーも同様で最早世界の法則なのだ。苦痛はあんまり問題じゃな
い、って言い切りたいけどイタイのは嫌だ。ちょうこわい。今フラ
イパンねぇし。
ぴっ。
ナイフの先がヒルコのつるっ・スベっな肌を裂いた。赤い線。痛痒
い。ヒルコは笑いたくなった。へらへら。へらへら。あー、早くマ
トーがフライパン持って迎えに来ねぇかなぁ。ヒルコ愛用のフライ
パンがオレンジ色なのはいよかん星人をリスペクトしているから。
﹁え﹂
ふと天井に視線を漂わせてみたりしちゃったら、ハードラックの女
神ならぬビッチが廃工場の屋根を支える鉄骨に座って、にやにやし
てた。一際音量を増す不愉快なテクノポップ。ヤバいヤバいヤバい
ヤバいヤバい。よくわかんないけどなんかヤバい。含み笑いを頑張
って堪えているネズミはサンダルをぷらぷらさせている。
﹁え﹂
かちゃかちゃ。ベルトが外される。ヒルコの両手は鎖に繋がれて頭
の上だ。チェーンと巨大な南京錠は形式美。ナイフを握る芋虫みた
いな指は器用に動く。ずるっ。ズボンと一緒にボクサーパンツが下
ろされる。おマヌケなカッコ!下半身裸。頬の傷が痛痒い。
⋮あれっ?何でベルトに意識いかなかったんだろう。
不健康に真っ白な太ももに、太った指がぎりりと食い込む。痩せっ
ぽちでひょろい体はイージー。簡単に持ち上げられる。開脚。身も
蓋もないカッコ。一応バネは︵多分、いやきっと︶ある筈の腹には
腹筋が浮いてない。お肌スベスベ。臍は綺麗に窪んでる。すすすす
17
す。じめった手が腹と、骨の浮いた腰を撫でさすりながらTシャツ
とパーカーをたくし上げる。蛇腹になる服。つつつつつ。頬から血
が垂れる。取り敢えず状況把握はOK.インなミッションをコンプ
リートは困難。膝をつくデブ。フレームの歪んだ汚い眼鏡。銀縁。
はっ、はっ、はっ、はぁ⋮
ぽたぽた脂混じりの汗がひんやりした腹に落ちてくる。ぶわっ!ト
リハダ。ぷつ。ずぷぷ。ナイフの刃がお臍の下辺りに沈んでく。ひ
ぐっ。変な音が喉から飛び出す。
﹁や、ぁぐっ⋮﹂
皮膚と血管と薄く付いた脂肪が引き裂かれて、魚を捌くように蛙の
解剖をするように。赤黒さに沈んだコーラルピンクの内臓がご開帳。
オー・セクシー!ジョン・ウェイン・ゲイシーのように。素人にし
ては鮮やかな手捌き。迷い箸ならぬ迷い指。べたべた大胆に這い回
る手。厚顔無恥。
﹁ひ﹂
生理的に滲む涙。機能しない喉が、足の付け根に触られた途端、機
能。腹の傷と頬の傷がまだ存在している。太った男の顔は陰になっ
ていて見えない。鉄の梁から、ぶらん。逆さにネズミがぶら下がる。
反転した顔の上でつり下がる口角。
﹁やだぁああぁあぁあぁああっ!﹂
﹁キャハハハハハハハハハハハ!﹂
声変わり前の高い声が金切り声を上げた。普段スラムでよく聞く声
と全く一緒。少年の声は大量生産品。ネズミはヒルコが輪姦されれ
ば良いと普段から思っていて、あわよくばその素晴らしくチープに
陳腐な饗宴にメインゲストとして参加したい。ビッチは大抵、アダ
ルト・ビデオが好きだ。ブルー・フィルムも︹島︺の大事な産業。
しょわわわわ。激しく痙攣と抵抗と絶叫をしながら、ヒルコは失禁
した。
ごっ、がいん。
デブの脂ぎってべとべとの頭がハラワタにダイブ!おかあさんのお
18
腹に帰るように一直線。胎内回帰願望?奇妙な妄想に耽りながら、
ヒルコのヒーロー︹零︺のマトーが非常にカッコ良く且つガラが悪
く見参した。
﹁キャハハハハハハハハ!キャハハハハハハハハ!キャハハハハハ
ハハハ!この腐れホモが﹂
﹁ネズミ﹂
ぴっ。ネズミのキャミソールの左肩紐が切れた。小さなナイフが突
き刺さる。ヒルコの腹を裂いたものだ。マトーはネズミが嫌いだ。
だから自分のナイフを汚したくない。
﹁キャハハハハハハハハ!その程度?キャハハハハハハハハ!﹂
ネズミは害獣らしい俊敏さで退散した。突き刺さったナイフの運命
は知らない。
﹁ヒールコっ﹂
振り向くと、ヒルコは下半身裸のお漏らしした状態で幼稚園児のよ
うにひぐひくべそべそ泣いている。デヴの死体を念入りにクラッシ
ュしながら会話を続ける。いらいら。いらいら。マトーはヒルコが
可愛く無様に泣いているのが気に入らない。
﹁戻ったんならぁ、オニーチャンの言う事、分かるよな?﹂
﹁マトーっ、マトーマトーっ、マトーっ⋮!﹂
ひゅごっ。だだ泣きしながら見上げてくるヒルコの肺を、マイ・ス
ウィート・ナイフで刺した。
﹁俺以外に殺されてんなって、何時も言ってんだろ?﹂
ぱくぱく開閉する口から、血の泡が儚く浮いた。蒼白な顔がマトー
には人魚姫のモザイクに見える。
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蝉の鳴き声が煩い半青空教室で、シン先生の授業はまだまだ続く。
ボトルのしょうゆは残りが三分の二ぐらいになっていて、辺りには
美味しそうな匂いが漂っている。反面教師的な教育方針だ。
﹁はぁ∼い︹11︺ジャックで、す、が、っ、くちゃくちゃ⋮本当
は一般人だった所を⋮くちゃくちゃ⋮使い勝手が良いからマムの一
存で番号を増やして、今のポジションに収まっています。要は言う
こと聞かない番号付きを宥めてあやしてどうにか遣り繰りしようっ
ていう事で︹11︺はベビー・シッターならぬナンバー・シッター
です。限りなく能力もパンピーに近いので殺ろうとすれば簡単に殺
れますが⋮くちゃくちゃ⋮殺ってしまうと︹11︺の後任は決まっ
ていないので皆さんの為にはなりません。命が惜しくてある程度平
和なストレイ・ドッグ・ライフが好きな人はジャックをトるのは控
えましょう。この︹島︺に安息の時がなくなります﹂
うっ、うっ、うぅっ⋮教室の隅からしゃくり上げるような声が聞こ
えた。脂でベトベトに固まった髪を蠅にたかられているホームレス
の男がぐずぐずに泣いている。
﹁山田クン、隣の子の迷惑ですよー、っと﹂
﹁ひぐっ⋮!﹂
どか。シンの鉈が宙を華麗に舞って、出ました!10.0!見事に
惨たらしく山田クン︵仮名︶の脳天に着地しました!
くちゃ、くちゃくちゃ⋮
﹁おいおいおい、何だよこのめちゃめちゃ臭い教室は﹂
デカいフレームの黒縁メガネに赤と黄色の太いボーダーのネクタイ。
白く細い縦縞の走るホスト風黒スーツ。今丁度授業の教材にされて
いた︹11︺ジャックのおなぁーりぃー。
﹁おー、ジャック、どうしたー﹂
思わずシンが先生の皮を脱ぎ捨てて素に戻る。シンとジャックは飲
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み仲間で、番号付きの中でシンは二番目に紳士的だ。イモジャーだ
けど。そしてジャックは一番紳士的だ。ピアス中毒のドMだけど。
﹁ボスが呼んでる。だから毎回毎回言ってんだろうがよ、携帯の電
源切るなって﹂
﹁悪い。授業中だったからさー。ほら、まずは教師が生徒の模範に
ならなきゃダメだろ?﹂
やれやれだぜ。リスペクトする某漫画の主人公のセリフをトレース
しながら、ジャックがわざとらしく肩を竦めた。
﹁んー、まあ、しょうがねぇなあ。ちゃっちゃと終わらせちゃって
くれよ、ちゃっちゃと⋮﹂
授業終了のお知らせ。
席に座らされ、気温の高い中椅子に針金で縛り付けられた生徒の大
半は死んでいる。大抵は頭がパックリかち割られているが、残りは
熱射病だか熱中症だかで死んでいる。ジャックは熱射病と熱中症の
ボーダーラインを知らない。列と列の間を縦に、指導教官のように
歩きながら、時々誰かが漏らした小便の水溜まりを避ける。瑞々し
いフレッシュな脳みそは黒い醤油をかけられた上で、同じく黒い蠅
にたかられている。
﹁で、ボスは何だって?﹂
どかっ。
シンが中年ヤク中男の頭を両断しながら振り向いた。この︹島︺の
帝王の名称はボスとマムで、統一されていない。
﹁ハンティングだ。ハンティング。ヒルコとマトーをトろうとした
奴が居た﹂
ヒュウ。シンが高く口笛を吹いた。深い深い溜め息を吐いて、ジャ
ックが続ける。
﹁イタリアマフィアが︹島︺を取ろうとしたらしい。それでミツバ
チとヒルコのストーカーを使ったらしいんだが⋮あーやべ。ヒヤヒ
ヤする。すごいヒヤヒヤする﹂
﹁なんだよ、先言えよジャック﹂
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﹁まあ、まあ、あれだ。勿論0コンビの勝利で終わったんだが、ギ
リギリもギリギリだったらしい。特にヒルコの方が﹂
﹁マジでか。ストーカーすげぇ﹂
﹁で、ボスもカンカンならマトーもカンカン。ヒルコも超不機嫌な
上に、ネズミも一枚噛んでたようで始末に負えない。何も起こらな
い訳がない。そんな訳でねぇ⋮シン、頼む﹂
どかっ。
﹁うーん、そうだなー⋮﹂
最後の一人の頭を首もとまで真っ二つにして、適当に哀れな被害者
の服で鉈を拭いながら、シンは指先で顎を擦った。神仏を拝むよう
に両手を合わせてくるジャックを助けてやりたいが、正直言って面
倒くさい。特にネズミ。ビッチは発情するととても面倒くさい。始
末に負えない。関わり合いになりたくない。
﹁行っても良いけどな、ジャック、お前の三番目のカノジョ、まだ
ヤクも煙草もやってないっけ?だったらその女くれたら行っても良
い﹂
﹁おうおう、分かった。今度連れてく﹂
﹁あ、捌くまではやんなくて良いから、ヨロシクぅ﹂
ウキウキな気分で弾む気持ちで鼻歌を歌いながら、シンは脳裏に茶
髪の少女の姿を思い浮かべた。痩せ過ぎず太り過ぎず、美人でもな
ければ不細工でもない女だ。多分、年は16か17。一番旨い頃合
いだ。次はよし、医者先生になって診察ごっこから手術ごっこコー
スだな、と、週末の予定を立て始める。今日は火曜日だ。
﹁殲滅戦?﹂
﹁勿論勿論﹂
﹁アシは?﹂
﹁いち。オレ同伴で電車。因みにデパートでショッピング付き。に。
バイク。ホームセンターでショッピング付き。さん。車。ネズミと
のお喋り付き﹂
﹁取り敢えず3以外のどっちか﹂
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1と2はどちらも捨てがたいが、3だけは本気で遠慮したい。この
︹島︺で3を希望する奴が居たとすれば、そいつは自殺志願の変態
ドM野郎だ。ピアス中毒でドMのジャックはまだ人生を謳歌したい。
目指せラビ・アン・ローズ。
﹁うんうん、そうだよな。シン、お前のそういう所が凄いラク。ほ
んとラク﹂
苦労の滲むジャックの呟きは、番号付きは悪趣味だと決まっていて、
ネズミが嫌いでもジャックへ嫌がらせをプレゼントする為だけに3
を選ぶ奴が過半数を越えるから。ボスのパシリも大変だ。
﹁じゃあ1で﹂
﹁ゼロ番達にはナイショだぞ!﹂
某ポップスの名曲を模してジャックがワンフレーズだけを歌った。
普通、番号付きは逃亡の危険があるから一般人が集まる場所には行
けない。だから移動するなら車かバイク。だけどシンは模範的な番
号付きで日常に満足していて頭が良いからボスのお気に入りだ。い
や、まあ、使い勝手の良い道具として、って意味で。我らがボスは
マムでありレズビアンであり美人の愛人が常に三人は居て、大体が
二ヶ月ですっかり入れ替わる。愛人だろうが部下だろうが使い勝手
に拘る彼女は唯物論者で、しかし人心掌握術も心得ていらっしゃる。
良い子にはご褒美を忘れない。デパートでショッピングは破格の待
遇。都会の人混みの中ではよく躾られた犬にしか存在する権利がな
い。
ぶぅん。ぶぅん。ぶろろろろろろろ⋮
荒っぽい運転で車体を跳ねさせながらヤマハのVMAXブラックが
走る。運転手はノーヘルで黒いツナギを着ていて首に掛けた紫色の
ヘッドホンからテクノを垂れ流しにしている。その運転手にしがみ
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付いているのはダサいゴーグルを装置してキューティクルが死滅し
た白っぽい髪をヘルメットに収めた少年で、運転手の腰を掴みなが
らも、無駄に重心を後ろへ後ろへと傾けている。マトーはバイクの
運転が出来るがヒルコは出来ない。大体、ヒルコは15歳のオトコ
ノコにあるまじき話だが、バイクとか車だとかいう機械に全く興味
関心意欲態度がなかった。
﹁わーぉ、ろでお・どらーいぶ﹂
青林檎味のチューイングキャンディーを噛まずにレロレロ舌先で弄
びながら、ヒルコは大分嫌になっていた。前のめりになってエンジ
ンに無茶を強いるマトーは不機嫌で、さっきから不穏な空気が漂っ
ている。さっき三回もぐちゃぐちゃに刺殺されてあげたのにマトー
はまだご機嫌ナナメで、ヒルコはどうして良いか分からない。普段
機嫌を取るのはヒルコの役じゃなくてマトーの役だ。
あ、なんかちょっとイライラしてきた。いよかん星人最後まで見れ
てないし。いや、録画はしてるけど。
一般道をカッ飛ばして数時間、そろそろお尻が痺れてきた頃に、漸
くヒルコとマトーは某地方都市に到着した。住宅街に入ってとろと
ろ走って、無駄に長い煉瓦とアイアンの柵が続く壁を右手に延々と
進む。いかにもな感じのでかい門を見付けて、マトーは一気にエン
ジンをふかした。
﹁どっせぇい!﹂
派手なウィリー。バイクが大破。ひしゃげる鉄格子。じりりりりり
りり!鳴り響く警鐘。知るかそんなもん。吐き捨てながら実際にべ
っ、とアスファルトに唾を吐いたマトーを見てヒルコがわざとらし
く肩を竦める。
﹁やべぇどうしようマトーがオッサン臭いでもカッコイイ﹂
背中を丸めてひしゃげた格子の隙間から中に入ってゆく後ろ姿が、
ツナギのせいもあってガテン系っぽい。
青々とした芝生の上に黒いケースを捨てて、マトーは真っ赤な金属
バットで素振りを始めた。ちょこっと凹んで塗装がはげているのは
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主にミツバチのせいで、マトーはそれも気に入らない。対するヒル
コは大事な大事な歴戦の友・オレンジ色のフライパンを弄んで上の
空だった。絵に描いたような豪邸に浮かれている。ヒルコはお出掛
けが好きだ。
﹁みなさーんっ、こーんにーちはーっ!﹂
ばたばたと走ってきたオシャレなスーツの強面系オッサン&オニイ
サンの群れに、ヒルコは口調だけ元気良くご挨拶した。
﹁ちぃーす、ミカワヤでぇっす﹂
マトーが茶化す。
ぱん!ぽん!ぱん!美術彫刻みたいな顔立ちの人々は手にしたチャ
カで発砲した。ヒルコがささっとしゃがんで、マトーは右の口角だ
けを上げて棒立ち。頭。胸。腹。流石に本番出身のプロ。見事なヒ
ット率。穴あきになったマトーが着弾の衝撃によろけながら足を踏
み出す。ぱたたっ。緑の芝生に真っ赤な鮮血。季節外れのクリスマ
ス・カラー。ぶんっ。空を斬る金属バット。遠心力の音の直後に或
いはそれと同時に、マトーの傷は塞がって元に戻る。種も仕掛けも
⋮ない。多分。実際はマトーもヒルコもどうしてこうなるのか分か
らない。別にいいけど。
軽快に、たったった!盗塁王もビックリの走りを見せたマトーが、
ごしゃっ!一人の外国人イケメンの顔面だか頭部だかをめっこめこ
にして、マフィアの皆さんが作った半円形の陣形を崩す。頭に幾つ
も開く風穴が熱くてスースーして落ち着かない。くるくるとダンス
みたいな足運びで次々と人体を破壊。ヒルコは銃で撃たれると死ぬ
かもしれないので、マトーに群がる奴らの間を縫ってちょこまか動
きながら、矢張り同じようにフライパンを鈍器に頭を滅多打ちにし
てゆく。
﹁あぶないっ!﹂
そろりそろり、ニヤニヤしながらスキンヘッドの後頭部を殴打しよ
うとしたヒルコが後ろから撃たれそうになっているのを見て、卑怯
な男の頭に、よく研がれた鉈が突き刺さった。お見事な投げ鉈を披
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露してくれたのは勿論シンだ。左手には醤油のボトルを握っている。
﹁シン!﹂
颯爽と現れたイモジャーの小さいお兄さん︵150センチ︶の姿を
見て、ヒルコの表情がぱあっと明るくなった。が、狙われていたと
分かった男の方が振り向きそうになって、間一髪。ヒルコはセミみ
たいにその独活の大木の背中にビタッと張り付くのに成功した。
﹁ちょっと痛いけど、我慢しろよー﹂
くるくるくるくる、どかっ!直線上に並んだ独活の大木とヒルコの
頭が同時にもう一振りの鉈にかち割られる。ずしん。倒れる巨体の
下敷きになったヒルコの青白い手が、バタバタと死にかけた虫みた
いに動く。
﹁おいおいおいおい、ガードはオレ任せってどういう事だよ一体⋮﹂
敵陣の中を堂々と歩いて鉈を拾いに行くシンを、ジャックがポーカ
ーフェイスで援護する。ぱちっぱちっ!違法改造されたスタンガン。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://novel18.syosetu.com/n4953bh/
クレイジー・アイランド2
2016年7月6日14時44分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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