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英国の「仕事と生活の調和策」から学ぶこと 英国の「仕事と生活の調和策
研究レポート 英国の「仕事と生活の調和策」から学ぶこと ―企業業績の向上にもつながる「調和策」を目指して― 2004 年 10 月 【要 旨】 1. 少子化の急速な進行の中で、人々の働き方を見直して、仕事と仕事以外の生活の両立 を重視する「仕事と生活の調和(work and life balance)」への関心が高まっている。 本稿では、仕事と生活の調和に向けた英国企業と政府の取り組みを考察する。英国を 取り上げるのは、仕事と生活の調和は従業員の生活の質を高めるだけでなく、企業業 績の向上にもつながるという見方がされており、日本への示唆に富むためである。 2. 英国では、大企業が中心になって柔軟な就業形態を提供しており、人々の仕事と生活 の両立に貢献している。柔軟な就業形態には、パートタイムやフレックスタイムの他 に、学校の学期期間中のみ働く「学期期間労働」など様々な形態がある。フルタイム で働く男性雇用者の 2 割弱、女性雇用者の 3 割弱が柔軟な就業形態を活用している。 3. 英国企業が柔軟な就業形態を提供する背景には、90 年代中頃から長期に景気が拡大し て労働需給が逼迫し、労働者の確保・定着を図る必要があったことがあげられる。他 方、労働者側の変化としては、80 年代から共働き世帯や一人親世帯が急増し、家事・ 育児・介護などの責任を担う労働者が増えており、柔軟な働き方を求めていた。 4. 多くの経営者は、柔軟な就業形態の提供など「仕事と生活の調和策」は、労使関係、 従業員の労働意欲、従業員の定着などに良い影響をもたらすとみている。また、調和 策を積極的に導入する企業は、消極的な企業に比べて、平均よりも企業業績が良いと いう傾向がみられる。 そして、企業業績にも良い影響を与える調和策を導入するためには、従業員、顧客、 企業のニーズを調整するプロセスが重要だと指摘されている。 5. 英国政府は、従業員にも企業業績にも良い影響をもたらす調和策を広めるために、2000 年から「仕事と生活の調和キャンペーン」を始めた。具体的には、企業が調和策の導 入にあたりコンサルティング機関を利用した場合、その費用を政府が負担する制度を 創設した。また、英国政府は民間企業と協力しながら先進事例について調査を行い、 他企業に有益な情報を提供している。 さらに、仕事と生活の調和を下支えするために、①労働規制の整備、②出産・育児 休暇等の法改正、③子供のいる世帯への経済的支援の引き上げ、④保育所整備、とい った総合的な政策が実施されている。 6. 今後日本でも労働力人口の減少が予想され、労働需給が逼迫する可能性がある。また、 既に共働き世帯数は片働き世帯数を上回っており、家事・育児・介護などに責任をも つ労働者が増加している。日本でも、仕事と生活の調和が企業業績に影響を与える状 況が生まれつつある。 7. 英国の調和策から学ぶべき点としては、①「適切な調和策であれば企業業績にも良い 影響をもたらす」ことについて、政府は先進事例などを収集・分析して一般企業に情 報提供していくこと、②各企業が適切な調和策を導入できるように、企業の計画作成 段階でのコンサルティングを支援・強化していくこと、③柔軟な就業形態に適した労 働法制の整備や、子供をもつ家庭への経済的な支援の引き上げなど、仕事と生活の調 和を下支えする政策を総合的に導入していくこと、④正社員と非正規社員の固定的な 雇用管理を改めていくこと、などがあげられる。 社会保障 藤森クラスター 主任研究員 藤森 克彦 Tel: 03-5281-7567/Fax: 03-5281-7514 Email:[email protected] 【目 次】 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.なぜ「仕事と生活の調和」が求められるのか・・・・・・・・・・・・・・・・・2 (1) 「仕事と生活の調和」の意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 (2) 「仕事と生活の調和」が注目される背景について日本と英国の違い・・・・・・2 2.英国における柔軟な就業形態の実態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 (1)出産・育児に際しての就業状況の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 (2)柔軟な就業形態の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 (3)柔軟な就業形態を提供する企業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 (4)雇用者の利用状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 3.英国企業が仕事と生活の調和策を導入する背景・・・・・・・・・・・・・・・・10 4.仕事と生活の調和策が企業業績に与える影響・・・・・・・・・・・・・・・・・12 (1)仕事と生活の調和策に対する経営者の見方・・・・・・・・・・・・・・・・12 (2)調和策が企業業績に与える影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 (3)調和策を導入した企業の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 5.仕事と生活の調和に向けた英国政府の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・17 (1) ブレア政権が仕事と生活の調和に力を入れる背景・・・・・・・・・・・・・17 (2) 具体的な取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 6.日本への示唆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 (1) 日本において柔軟な就業形態が拡大する背景・・・・・・・・・・・・・・21 (2) 柔軟な就業形態を広げる上での日本の課題・・・・・・・・・・・・・・・23 (3) 英国の仕事と生活の調和策から学ぶこと・・・・・・・・・・・・・・・・24 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25