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アルコール性肝硬変に重症型アルコール性肝炎を合併し, 多臓器不全に

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アルコール性肝硬変に重症型アルコール性肝炎を合併し, 多臓器不全に
455
聖マリアンナ医科大学雑誌
Vol. 30, pp.455–462, 2002
症例報告
アルコール性肝硬変に重症型アルコール性肝炎を合併し,
多臓器不全にて死亡した若年男性の 1 例
おかもと な
ほ
こ
よつやなぎ
なが せ
よしひこ
ふじ た
かずひこ
長瀬
良彦1
藤田
和彦1
みちひろ
こばやし
たけひこ
まえやま
鈴木
通博1
小林
健彦2
前山
うちこし
としゆき
いい の
打越
敏之2
飯野
岡本菜穂子1
四柳
はやし
すず き
たけし
毅1
林
ひろし
宏1
し ろう
史朗2
し ろう
四郎1
(受付:平成 14 年 8 月 1 日)
抄 録
28 歳,男性。18 歳時より大量飲酒を続けており,平成 8 年に肝機能障害を指摘された。その後
も大量飲酒を続け平成 11 年,発熱,黄疸,腹水が出現したため入院となった。入院時検査成績
で AST 優位のトランスアミナーゼ上昇,ビリルビン上昇,白血球増加,γ-GTP 上昇を認めた。腹
部 CT で大量腹水,脾腫がみられ,肝合成能の低下,高アンモニア血症を認めたことから,肝硬
変に重症型アルコール性肝炎を合併したと考えられた。肝補助療法を含む各種治療を施行したが,
急性呼吸不全,腎不全を合併して全身状態は悪化し,第 29 病日に死亡した。剖検所見では,肝
臓重量は 1550 g と腫大し,表面には多数の小結節を伴う乙型類似アルコール性肝硬変であった。
病理学的にはアルコール性肝硬変の所見に加え,多数のマロリー体および多核白血球を認め,臨
床,病理学的に重症型アルコール性肝炎の病像であった。本例は重症型アルコール性肝炎の本邦
男性例としては最も若年であり,貴重な症例として報告する。
索引用語
重症型アルコール性肝炎,成人呼吸窮迫症候群
し,成人呼吸窮迫症候群(ARDS)から多臓器不全を
緒 言
合併し死亡した若年男性例を経験したので報告する。
近年,アルコール摂取量の増加とともにアルコール
症 例
性肝障害の症例が増加している。特に,従来日本では
症 例: 28 歳,男性。
少ないとされていた重症型アルコール性肝炎の症例が
増加している
1~6)
主 訴:黄疸,腹部膨満。
。本症は多臓器不全を合併するた
め,迅速かつ適切な診断,治療が必要であるが,確定
既往歴:特記すべきことなし。
診断に苦慮する症例が多いのが実状である。今回,ア
生活歴:アルコール; ビ ー ル 5 本 お よ び ウ オ ッ カ
1 瓶/日,約 10 年間(積算飲酒量 1 t)。タバコ; 40 本/
ルコール性肝硬変に,重症型アルコール性肝炎を合併
日,約 10 年間。
1 聖マリアンナ医科大学 内科学教室(消化器・肝臓内科)
2 聖マリアンナ医科大学 病理学教室
233
家族歴:特記すべきことなし。
現病歴:平成 8 年 6 月 3 日,鼻出血を主訴に新潟県
456
岡本菜穂子 四柳宏 ら
Table 1 Laboratory data on first admission
Table 2 Laboratory data on second admission
Blood Cell Count
Blood Cell Count
WBC
23,800 /µl
Hb
PLT
11.5 g/dl
RBC 312 × 10 /µl
WBC
Hct
Hb
4
32.3 %
14.2 × 104 /µl
PLT
40.1 %
HPT
Hct
24.1 %
HPT
32.0 %
13.0 × 104 /µl
PT
60.6 %
36.0 %
Biochemistry
Biochemistry
TP
8.4 g/dl
RBC 229 × 104 /µl
Coagulation
Coagulation
PT
7,300 /µl
5.7 g/dl
Alb
TP
2.8 g/dl
4.0 g/dl
Alb
3.0 g/dl
T-Bil
33.5 mg/dl
D-Bil
24.2 mg/dl
T-Bil
27.1 mg/dl
D-Bil
AST
165 IU/l
ALT
53 IU/l
AST
67 IU/l
ALT
21.0 mg/dl
38 IU/l
LDH
356 IU/l
ALP
425 IU/l
LDH
354 IU/l
ALP
304 IU/l
γ-GTP
ChE
192 IU/l
LAP
78 IU/l
81 IU/l
LAP
88 IU/l
2.5 IU/l
BUN
30.1 mg/dl
γ-GTP
ChE
2.5 IU/l
BUN
19.0 mg/dl
Cr
2.1 mg/dl
Na
139 mEq/l
Cr
1.2 mg/dl
Na
135 mEq/l
K
4.4 mEq/l
Cl
104 mEq/l
K
3.3 mEq/l
Cl
96 mEq/l
Chol
128 mg/dl
CRP
7.5 mg/dl
Chol
82 mg/dl
CRP
6.0 mg/dl
NH3
47 µg/dl
FPG
220 mg/dl
NH3
26 µg/dl
FPG
103 mg/dl
IgG
689 mg/dl
IgM
71 mg/dl
IgA
110 mg/dl
anti-HBs
(–)
Fibrin
(–)
Rivalta
(–)
Serology
Serology
IgG
1,890 mg/dl
IgA
440 mg/dl
IgM
290 mg/dl
Viral Markers
Viral Markers
HBs-Ag
(–)
anti-HCV
(–)
anti-HBs
(–)
HBs-Ag
(–)
anti-HCV
(–)
Pleural effusion
内の総合病院を受診したところ,黄疸を伴う肝障害
(T. Bil 27.0 mg/dl,AST 304 IU/l,ALT 104 IU/l,ALP
332 IU/l)を指摘され入院した。アルコール性肝炎の
SG
1.010
pH
8.0
cell count
176 (Mono. 152, Seg. 24)
Occult blood(3+)
診断で加療を受け軽快退院したが,退院後も大量飲酒
を続けていた。平成 9 年 9 月 22 日の検査成績は T. Bil
1.2 mg/dl,AST 170 IU/l,ALT 109 IU/l,ALP 464 IU/l,
見られないため,精査加療目的で当院へ転院となっ
γ-GTP 118 IU/l であった。以後医療機関へは通院する
た。
当 院 転 院 時 現 症 : 身長 168 cm,体重 62 kg,体温
ことがなかった。
37.4˚C,血圧 152/80 mmHg,脈拍 100 /分, 整。意識清
平成 11 年 7 月 20 日頃より,黄疸,腹部膨満感,発
熱が出現し,8 月 7 日,神奈川県の総合病院を受診し
明,眼瞼結膜に軽度貧血あり,眼球結膜に黄疸あり。
たところ,黄疸を伴う肝機能障害が認められ即日入院
皮膚黄染あり。両側下肺野の呼吸音減弱,収縮期心雑
となった。入院時検査成績を Table 1 に示す。白血球
音あり。腹部; 軟, 膨満(腹囲 96 cm),弾性硬・辺縁
増加,高度の黄疸,肝合成能の低下,アンモニア増加
鈍な肝を剣状突起下 4 横指触知。下腿浮腫あり。羽ば
が認められた。また,腹部 CT では大量腹水,脾腫が
たき振戦なし。
入院時検査所見(Table 1):左方移動を伴う白血球
認められた。
以上の所見から,アルコール性肝硬変にアルコール
増多,CRP 増加があり,血小板は 14.2 万/ µl と保たれ
性肝炎あるいは感染を合併した状態と診断された。ア
ていたが,肝合成能,凝固能の低下,ビリルビンの上
ルブミン製剤点滴,肝庇護剤投与,グルカゴン – イン
スリン(GI)療法を行ったが,肝機能に改善傾向が
昇を認めた。HBs 抗原,抗体,HBc 抗体,HCV 抗体
(第 II 世代抗体)はどれも陰性であった。
234
重症型アルコール性肝炎の1例
Fig. 1
a b
c d
a; Chest X-ray on admission.
b; Chest X-ray reveals infiltration of bilateral lung field.
c, d; Chest X-ray and CT scan shows exacerbation of
congestive shadow.
457
Fig. 2 Abdominal CT scan shows hepatosplenomegaly
with massive ascites.
転院時検査所見(Table 2):白血球数,CRP 値,ビ
ン・利尿剤・肝庇護剤の投与,GI 療法は継続した。
リルビン,トランスアミナーゼ値は低下したが,凝固
感染巣を検索したが,喀痰,尿,血液,腹水,糞便培
能,貧血は悪化した。胸水穿刺は細胞数増加はあった
養は陰性であった。経過中,貧血の進行を認め,上部
が,漏出性であった。肝炎ウイルスマーカーは陰性で
消化管内視鏡を施行したところ,十二指腸球部後壁に
あった。
H1 stage の潰瘍を認めたが,保存的治療で改善した。
入院時胸部単純 X 線写真(Fig. 1-a):両側胸水貯留
9 月 2 日より咳嗽,湿性ラ音を聴取し,胸部 X 線上左
肺野に浸潤影を認めた(Fig. 1-b)。喀痰培養では細菌
と無気肺を認めた。
腹 部 CT( Fig. 2): 肝は左右両葉とも腫大してお
は検出されなかったものの,肺炎の合併を疑い第三世
り,表面は凹凸不整であった。脾腫,大量腹水を認め
代セフェムの点滴静注を開始した。翌日には浸潤影は
た。
両肺野に拡大し(Fig. 1-c),呼吸困難も出現した。著
臨床経過(Fig. 3):前医入院後,黄疸・腹水・発
明な低酸素血症(pH 7.404,PaO2 49.9 mmHg,PaCO2
熱が認められ,白血球増多・ CRP の上昇を合併して
31.4 mmHg)も認められた。胸部 CT 上両側上肺野を
いたため,感染症を疑い,各種培養を提出したがいず
中心に air bronchogram を伴う浸潤影を認め(Fig. 1-d)
,
れも陰性であった。抗生物質(セフェム系)の投与を
臨床的には ARDS の病態と考えられた。人工呼吸器
行ったが,効果は見られなかった。
を装着し呼吸管理を行ったものの,呼吸不全は改善せ
ず,最終的には多臓器不全となり,9 月 21 日死亡し
当院転院後は,抗生物質の効果が認められていな
かったこと,発熱および肝障害の原因となっている可
た。
能性があることから,抗生物質を中止した。アルブミ
235
458
岡本菜穂子 四柳宏 ら
a
b
Fig. 3 Clinical course after admission.
剖検所見:
肉眼所見;肝臓の重量は 1550 g であり,表面には
小結節を多数伴う乙型類似アルコール性肝硬変の所見
c
であった。脾臓は重量 490 g と腫大していた(Fig. 4a, b)。肺重量は左 790 g,右 880 g と増加しており,
肺水腫が認められた(図 4-c)。十二指腸球部後壁側に
潰瘍が多発しており,出血が認められた。黄色の腹水
300 ml と血性胸水(左 200 ml,右 400 ml)を認めた。
組織学的所見;肝臓は完成されたアルコール性肝硬
変の所見に加え,多数のマロリー体および多核白血球
を認め,アルコール性肝炎の所見が加わった acute on
chronic の像で,臨床,病理学的に重症型アルコール
性肝炎の所見であった。また,胆汁鬱滞が認められた
Fig. 4 Gross appearance of the liver and lung at autopsy.
a; Liver weight was 1550 g and multiple small nodules with
thin septa were seen on the surface.
b; Constiguity.
c; Both lungs were voluminous, edematous and focally
congestive. The weight of both lungs were 790 g and 880 g,
respectively.
(Fig. 5a, b, c)。
両肺に,間質の増生と瀰漫性肺胞内器質化病変が認
められた。散在性に硝子膜形成を認め,ARDS の所見
と考えられた(Fig. 5-d)。
考 察
本例は病理解剖の結果,慢性的病像としてのアル
コール性肝硬変に急性のアルコール性肝炎が重複した
症などを伴い,断酒にも関わらず肝腫大は持続し,多
病態である。「アルコールと肝」肝炎班では病型の 1
くは 1 ヵ月以内に死亡するものを指す 3)。また,アル
つとして,重症型アルコール性肝炎を挙げており,こ
コール性肝硬変を合併することもある。一般にアル
れはアルコール性肝炎の中で,肝性脳症,肺炎,急性
コール性肝炎は禁酒の上,
糖質を主体とした栄養管理,
腎不全,消化管出血などの合併や,エンドトキシン血
安静臥床により肝機能障害は速やかに改善するが,重
236
重症型アルコール性肝炎の1例
a
b
c
d
459
Fig. 5 Microscopical findings.
a; Mono-sublobular pseudolobular formation with narrow septa.
b; Marked bilestasis in the periportal area. Fibrous septa was generally narrow with mild mononuclear cell proliferation.
c; Parenchymal damages with Mallory body (arrow).
d; Scattered foci of hyline membrane in the lung. Note alveolar destruction with congestion and inflammation. Dotted
tumorlet and membranes are seen.
症型アルコール性肝炎の予後は極めて不良とされる。
症例について,肝機能検査の推移を検討すると,肝炎
これはエンドトキシン血症,高サイトカイン血症から
発症後黄疸が遷延し,肝予備能,血小板数の低下傾向
他臓器疾患を合併するためと考えられる 7)。
がみられる 8)9)。したがって,アルコール性肝硬変に
本 例 は ARDS を 合 併 し て い た と 考 え ら れ る が ,
おける肝炎の反復は,予後を増悪させる重要な因子の
1 つである。Theodossi ら 8) はアルコール性肝炎の死
ARDS の定義は,肺疾患の既往のない例で,肺に直截
的にまたは間接的に種々の原因による重篤なストレス
亡率は,肝硬変に至る前での合併では 27% であった
が加わった結果,最終的に招来される共通の肺損傷に
のに対し,肝硬変にアルコール性肝炎を合併すると
起因する急性呼吸不全である。臨床的には,酸素療法
77% に上昇すると報告しており,Chedid ら 9) は 4 年
に反応しにくい低酸素血症,胸部 X 線上のびまん性
間の肝硬変非合併例の生存率は 58% であるのに対し,
(スリガラス様)陰影で特徴づけられる。本例の場合
肝硬変合併例では 35% であったと述べている。した
これら臨床的特徴に合致する。また,細菌は検出され
がってアルコール性肝硬変に合併したアルコール性肝
なかったものの,発熱,咳嗽に引き続き肺末梢の浸潤
炎は,的確な診断が必要である。本例の場合入院時に
影が出現している。したがって,重症型アルコール性
消化器症状がなく,白血球,CRP の上昇を伴う発熱
肝炎,肺炎という重篤なストレスををきっかけに
が前医から持続していたため,感染症,薬剤熱の否定
ARDS を発症したものと考えられる。
に時間を要した。また,本例は転院時に腹水と凝固能
アルコール性肝硬変にアルコール性肝炎を合併した
低下を合併していたため,肝生検を行うことができ
237
460
岡本菜穂子 四柳宏 ら
Table 3 Reported cases of severe alcoholic hepatitis
Pt. No.
Age
Sex
Outcome
GI
PI
ATIII
CS
PE
HD
1
56
M
Dead
+
–
–
–
–
–
Other therapy
2
55
F
Dead
–
–
+
–
–
–
3
67
M
Dead
–
–
–
–
–
+
4
50
M
Dead
+
+
+
–
–
–
5
43
M
Dead
–
+
+
–
–
–
6
31
F
Dead
+
+
–
+
–
–
7
66
M
Dead
+
+
–
–
–
–
Splenic arterial infusion therapy
8
36
M
Dead
+
+
+
+
–
–
Splenic arterial infusion therapy, PGE1
9
54
M
Dead
+
+
–
–
+
+
PGE1
10
35
F
Dead
+
+
+
–
–
–
Splenic arterial infusion therapy
11
55
F
Dead
+
–
–
+
–
–
PGE1
12
28
M
Dead
+
+
–
–
–
–
13
33
M
Alive
–
+
+
–
+
+
14
24
F
Alive
–
+
+
–
+
+
15
44
M
Alive
–
–
+
+
–
–
16
43
M
Alive
+
+
+
–
–
–
17
45
F
Alive
+
+
–
+
–
–
PGE1
18
61
M
Alive
–
–
–
–
–
–
PGE1
19
31
M
Alive
+
+
+
–
–
–
PGE1
20
49
F
Alive
+
+
+
+
+
–
HBO
21
67
M
Alive
–
–
–
+
–
–
22
60
M
Alive
+
+
–
–
+
–
23
61
M
Alive
+
+
–
–
–
–
24
40
M
Alive
+
+
–
–
+
–
25
44
F
Alive
–
–
–
+
+
–
26
47
M
Alive
–
–
+
+
–
–
Splenic arterial infusion therapy
Continuous hemofiltration
PGE1
GI: Glucagon-Insulin Therapy. PI: Protease Inhibitor. ATIII: Anti-Thrombin III. CS: Corticosteroid.
PE: Plasma Exchange. HD: Hemodialysis. PGE1: Plostaglandin E1. HBO: Hyperbaric Oxygen.
ず,肝臓の組織学的検索を行い得なかったため,生
われている。副腎皮質ホルモン製剤はマクロファージ
前に確定診断に至ることができなかった。
の translocation を阻害することにより,TNF-α や IL-2
本例には完成されたアルコール性肝硬変が認められ
などの産生を抑制し,全身性炎症反応(SIRS)を改
た。本例の積算アルコール摂取量は約 10 年間で 1 t で
善させ,病態の進展を抑えると考えられる。したがっ
あり,アルコール性肝炎の既往も認められることか
て,肺炎などの感染症を伴わない例,発症早期の症例,
ら,大量飲酒を繰り返すことにより,アルコール性
消化管出血を伴わない例には(症例 15, 17),第一に
肝炎からアルコール性肝線維症,さらにはアルコール
行われるべき治療法と考える。本例は,既に肝硬変に
性肝硬変と極めて急速に進展したものと考えられる。
至っており高エンドトキシン血症や高サイトカイン血
また,本例は 28 歳という若年,大酒家の男性に発
症を合併していた可能性があるが 10~14),診断に難渋
症した重症型アルコール性肝炎例である。これまで本
し,感染,出血を合併したため,副腎皮質ホルモン製
邦で報告されている重症型アルコール性肝炎をまとめ
剤を投与できなかったことが本例を救命できなかった
たものが Table 3 であるが,自験例は最も若年であ
原因の 1 つと考えられる。
る
15)
その他の治療法としては,血漿交換療法(PE: 凝固
。
因子の補充やビリルビン除去を目的とする),血液透
重症型アルコール性肝炎に対しては様々な治療が行
238
461
重症型アルコール性肝炎の1例
4) 前山史朗, 河野誠, 岡部和彦, 打越敏之. 重症肝疾
患と ARDS. 医学と薬学 1996; 20: 667-676.
析(HD: 水分, 電解質のバランスを調節し, 中低分子の
昏睡起因物質, 有毒物質を除去することを目的とす
5) Furube M, Sugimoto M, Asakura I, Mizukami H,
る),エンドトキシン吸着療法(PMX: エンドトキシ
Akita H, Hatori T, Abei T and Sasaki K. Sex differ-
ン濃度の低下による循環動態の改善を目的とする)な
ence in alcoholic liver disease: with special reference
どの血液浄化療法がある。実際に,PE に CHDF(持
to the severity of alcoholic hepatitis. Arukoru Kenkyuto
続血液濾過透析)を併用した若年発症重症型アルコー
Yakubutsu Ison 1989; 24: 135-143.
ル性肝炎 2 症例(症例 13, 14)と PMX を 2 回施行し
6) Tesh VL, Vukajlovish SW and Morrison DC.
た 1 症例(症例 21)を救命することができたと報告
Pathophysiological effects, clinical significance, and
されている。
phamacological control. New York, Aran R Liss,
1988: 47-62.
本例は生前に確定診断を得ることができず,副腎皮
7) 加藤真三, 玉井博修, 大木英二, 石井裕正. エンド
トキシンとアルコール性肝障害. 肝胆膵 1997;
質ホルモン製剤投与,血液浄化療法の機会がないま
ま,患者は死の転帰をとった。重症型アルコール性
35: 319-324.
肝炎を疑った時には経頚静脈的肝生検を行ってでも積
8) Theodossi A, et al.
極的に診断をつけ,早期に副腎皮質ホルモン製剤の投
Controlled trial of methyl-
predonisolone therapy in severe acute alcoholic hepa-
与を行う必要がある。また,本症は最終的には多臓器
titis. Gut 1982; 23: 75-79.
不全に至る疾患であり,早期から血液浄化療法を含め
9) Chedid A, et al. Prognostic factors in alcoholic liver
た集中治療を行う体制で治療にあたる姿勢が望まれ
disease. Am J Gastroenterol 1991; 86: 211-217.
10) 加藤真三, 水上健, 大木英二, 石井裕正. アルコー
る。
ル性肝障害, アルコール性肝疾患. 日本臨床 領域
別症候群 1997; 8: 3-6.
11) Nolan JP.
文 献
1) 高田昭, 松田芳郎, 高瀬修二郎, 奥平雅彦, 太田康
The role of endotoxin in liver injury.
Gastroenterology 1975; 69: 1346-1356.
幸, 辻井正, 谷川久一, 蓮村靖, 佐藤信紘, 石井裕
12) Nolan JP. Endotoxin, reticulo-endothelial function,
正, 原田勝二, 岡上武, 佐藤千史. わが国における
アルコール性肝障害の実態 (その 3) —1992 年全
13) Nolan JP.
and liver injury. Hepatology 1981; 1: 458-465.
Intestinal endotoxins as mediators of
hepatic injury. Hepatology 1989; 10: 887-891.
国集計の成績から—. 日消誌 1994; 91: 887-898.
2) 谷川久一, 石井邦英. 重症アルコール性肝炎. ア
ルコール代謝と肝, 7, 国際医書出版, 東京, 1988:
14) Bode C, Kugler V and Bode JC.
Endoxemia in
patients with alcoholic and non-alcoholic cirrhosis
and in subjects with no evidence of chronic liver
405-415.
disease following acute alcohol excess. J Hepatol
3) 高田昭, 奥平雅彦, 太田康幸, 太田康幸, 辻井正, 谷
1987; 4: 8-14.
川久一, 蓮村靖, 佐藤信紘, 石井裕正, 原田勝二, 岡
15) 石井邦英, 神代龍吉, 佐田通夫, 谷川久一. 重症型
上武, 佐藤千史, 高瀬修二郎. アルコール性肝障
害に対する新しい診断基準試案の提案. 肝臓
アルコール性肝炎の治療と予後の推移. 肝胆膵
2000; 40: 69-79.
1993; 34: 888-896.
239
462
岡本菜穂子 四柳宏 ら
Abstract
A Young Male Case with Alcoholic Cirrhosis Complicated, by Severe
Alcoholic Hepatitis and was Dead of Multiple Organ Failure
Nahoko Okamoto1, Hiroshi Yotsuyanagi1, Yoshihiko Nagase1, Kazuhiko Fujita1,
Takeshi Hayashi1, Michihiro Suzuki1, Takehiko Kobayashi2, Shirou Maeyama2,
Toshiyuki Uchikoshi2, and Shirou Iino1
The presented case is a 28-year-old man with a history of alcohol overtake since the age of 18 years. Even
after admission for alcoholic hepatitis three years ago, he continued alcohol overtake. He was admitted to our
hospital in 1999 complaining of fever, jaundice, and ascites. Laboratory data on admission showed leukocytosis
and high levels of transaminases, bilirubin, and γ-GTP. Thrombocytopenia, hyperanmoniemia, and low levels of
serum protein were also noted. Abdominal computed tomography revealed irregular-surfaced liver with splenomegaly
accompanied by massive ascites. From these findings, we diagnosed him as severe alcoholic hepatitis with liver
cirrhosis. In spite of intensive therapy, he suffered from pneumonia, which lead to adult-respiratory-distress
syndrome. He died multiple organ failure on the 29th day, after admission. Autopsy disclosed type F liver cirrhosis
and congestive lung. Histological examination of the liver showed multiple Mallory-bodies and polymorphic
neutrophils in addition to micronodular cirrhosis. He is the youngest Japanese male among reported cases of
severe alcoholic hepatitis. (St. Marianna Med. J., 30: 455–462, 2002)
1 Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Internal Medicine
2 Department of Pathology
St. Marianna University School of Medicine, 2-16-1 Sugao, Miyamae-ku, Kawasaki 216-8511, Japan
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