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第Ⅱ編 長寿命化対策編

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第Ⅱ編 長寿命化対策編
第Ⅱ編
長寿命化対策編
第Ⅱ編 長寿命化対策編
第 1章
1.1
水再生センター土木施設の劣化 ......................................................................................................II-1
下水道施設に用いられるコンクリートの劣化.......................................................................................II-1
1.1.1
コンクリートの劣化機構......................................................................................................................II-1
1.1.2
コンクリートの中性化について .........................................................................................................II-2
1.1.3
コンクリートの化学的侵食について ...............................................................................................II-8
1.1.4
コンクリートの表面劣化について .................................................................................................II-10
1.2
コンクリートの劣化と対策の方向性......................................................................................................II-11
1.2.1
コンクリートの劣化要因と主な劣化メカニズム.......................................................................II-11
1.2.2
かぶりコンクリートの性能の向上..................................................................................................II-13
1.2.3
コンクリートの腐食の発生しやすい施設及び部位................................................................II-15
第 2章
点検・調査の考え方.............................................................................................................................II-16
2.1
点検・調査技術の展開 ............................................................................................................................II-16
2.2
点検調査結果の評価の基本概念 ......................................................................................................II-18
2.3
一次点検調査の標準化について........................................................................................................II-19
2.3.1
目視調査の標準化..........................................................................................................................II-19
2.3.2
目視調査範囲と目視評価基準..................................................................................................II-19
2.4
点検・調査結果の評価の考え方 .........................................................................................................II-27
2.4.1
一次点検調査の点数付け(二次点検の必要性の判断) ................................................II-27
2.4.2
一次点検調査結果の面的評価の考え方..............................................................................II-29
2.4.3
一次点検調査結果の面的評価(試案)..................................................................................II-36
2.4.4
中性化速度の評価..........................................................................................................................II-40
2.4.5
一次点検・二次点検に基づく将来の劣化予測の考え方.................................................II-43
2.4.6
点検調査結果に基づく劣化グレードの判定 ..........................................................................II-45
2.5
対策の考え方 ..............................................................................................................................................II-50
2.5.1
対策の考え方 ....................................................................................................................................II-50
2.5.2
劣化グレードに応じた対策の考え方 .........................................................................................II-54
2.5.3
補修等前処理工法.........................................................................................................................II-55
2.5.4
対策箇所と時期................................................................................................................................II-66
第 3章
平成20年度の点検調査結果を踏まえた今後の取組 ..........................................................II-69
3.1
Plan:長寿命化計画に基づく計画的な点検調査スケジュール..............................................II-69
3.2
Do:点検調査計画に基づく実務的な点検調査............................................................................II-70
3.3
Check:点検調査結果の評価.............................................................................................................II-71
iii
3.4
Action:長寿命化対策の立案と補修・保全の実施....................................................................II-72
3.4.1
管理ナビゲータを用いた長寿命化対策..................................................................................II-73
3.4.2
要素技術の総合化等による長寿命化対策の最適化.......................................................II-78
iv
第 1章 水再生センター土木施設の劣化
1.1
下水道施設に用いられるコンクリートの劣化
1.1.1
コンクリートの劣化機構
上に示されるように、各種コンクリートの劣化機構のなかで、下水道施設において特徴的な劣化現
象は、①二酸化炭素による中性化、②酸性物質・硫酸イオンによる化学的侵食、③セメント・骨材中
のカルシウム分の溶出による部材の疲労・すり減りと同様の現象である。下水道施設の管理に係る者
は、これら劣化要因と劣化機構に着目して適切に点検調査を行い、劣化の進行状況を把握するとと
もに、適切に対策(Counter measures)を講じる必要がある。
II-1
1.1.2
コンクリートの中性化について
水再生センターの土木構造物はコンクリートを主体とする鉄筋コンクリート構造で構築されており、
施設の耐用年数は鉄筋コンクリートとしての健全性の確保いかんで決定されると言っても過言でない。
そこで、下水道施設に使用されるコンクリートの劣化(に起因する鉄筋の腐食)に注目した施設の長
寿命化の検討を行う。
下水道施設に用いられるコンクリートの主な劣化は、「中性化による鉄筋腐食」と「化学的侵食によ
るコンクリート・鉄筋の腐食」が挙げられる。しかしながら、特定の部位に集中して生じる化学的侵食と
異なり、中性化は大気や中性化原因物質に曝される構造部全面にわたって発生し、中性化の深さ
が鉄筋に達した時点で鉄筋の腐食(発錆)に対する抵抗性を大幅に減じ安全な鉄筋コンクリート構造
物としての性能を喪失することとなる。すなわち、下水道施設に用いられるコンクリートの中性化の進
行は、鉄筋コンクリートで構築された下水道施設の耐久性を示すバロメータとなっている。
II-2
中性化の進行は、空気中に含まれるCO2の影響が大きい表面部(露出部)から始まり、深部へと
進行していく。特に中性化の進行はひび割れ等のコンクリート表面の劣化箇所において、大きく、深く
なるおそれがある。
II-3
中性化の派生原因は、コンクリート中にあるアルカリ性の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が、大気中
のCO2の影響で炭酸カルシウム(CaCO3)になることで生じる現象であり、中性化の進展によるpHの
変化は、上図に示すとおり、CaCO3部で低く、Ca(OH)2部で高い傾向を示し、Ca(OH)2のみが存
在する部位では、鉄筋表面が不動態膜で覆われるpH11 以上となっていることがわかる。なお、この
傾向は、気中部のみならず、水中部でも確認されており、表面から深部へのCa(OH)2からCaCO3
の量が変化している。
II-4
コンクリートに生じる中性化の速度は、CO2 のコンクリート中への拡散浸透により生じる。このため、中
性化の速度は、CO2 濃度に大きく関係し、上図に示すように、CO2 濃度の対数に比例して中性化の速
度が大きくなることがわかる。
一方、コンクリートの中性化の進行は、セメントペースト中に存在する(OH-)イオンを CO で置換する
ことで緻密化し、極めてわずかではあるが、圧縮強度を向上させる。しかし、Ca(OH)2 の減少は、コン
クリート中のアルカリ性を中性化し、鉄筋の保護層である不動態層を破壊し、水分や酸素の侵入によ
る鉄筋の腐食を許すこととなる。従って、次頁の 2 つの図からわかるとおり、時間とともに中性化が進
行し、中性化深さが鉄筋のかぶりに達する時期に鉄筋に腐食が発生し※1、構造部材の耐力を減じて
いく。
このように、中性化の進行に対して鉄筋を健全な状態で守り続けるためには、時間とともに進行する
中性化をどの深さ(中性化深さ)で管理していくかが重要となる。
II-5
※ 荷重によるひび割れ等の
発生で、中性化は急に増
大する可能性がある
鉄筋の腐食確率は、主に中性化が寄与し、他の化学的な要因とともに外荷重等の外乱要因が付
加されることにより増加すると思われる。
鉄筋のかぶりコンクリートは、加熱や鉄筋の腐食から防護するものであり、鉄筋まで至った場合には、
さらに発錆・膨張によってひび割れの増大や耐力の低下を誘発する。
II-6
※1:中性化による腐食の発生時期について
鋼材の腐食は周囲の pH の低下によって生じるが、pH が高アルカリ領域にあっても腐食速
度は厳密には 0 でない。したがって、腐食開始を判定する指標を定義することは難しい。しか
し一般に、中性化による腐食については、中性化深さが鋼材位置に到達する以前に開始す
ることが多くの研究および実構造物の調査から明らかになっている。
また、腐食開始時期はかぶりと中性化深さの差である中性化残りによって整理されている
場合が多い。これらの検討では、中性化残りが 10mm 以下になると腐食している事例が急激
に増加している。ただし、実際の鋼材腐食は中性化残りだけでなく、コンクリートの品質や環境
条件等の多くの要因の影響を受ける。このため、中性化残りが 10mm 以上であることが、どの
ような場合においても鋼材が腐食しないことを保証するものではない。しかし、中性化残り
10mm 以上では腐食しても構造物の機能を損なうような重大な腐食が生じた例がきわめて
少ないことから、腐食開始の判定は中性化残り 10mm としてよい。
なお、コンクリート中に塩化物が含まれている場合、中性化の進行によりセメント水和物に固
定化されていた塩化物イオンが解離し、未中性化傾城に濃縮するために腐食の開始が早ま
る。海砂等に起因する塩化物イオンを含み・中性化が進行した構造物の調査結果では、中
性化残りが 15mm 程度を下回ると、鋼材腐食が顕著になる構造物の割合が増加することが
報告されている。しかし、この値は塩化物イオン量やコンクリート中の水分量等により変動す
ることが想定され、また、塩化物イオンが存在する場合の鋼材の腐食速度は中性化のみに
よる腐食速度よりも大きいことから、鋼材腐食が開始する中性化残りは構造物の点検結果も
踏まえ、適切に定めるのがよい。
コンクリートにひび割れが発生している場合には、ひび割れ部における中性化の進行を予測
する必要があるため、ひび割れ部にある鉄筋界面のコンクリートが中性化していれば、ひび割
れ幅が小さくとも腐食が発生するため、ひび割れ部における最深の中性化深さをかぶりと比
較することが必要である。
中性化残りからではなく、直接コンクリートの空隙中の水分の pH から腐食の開始を予測する
場合には、コンクリートの空隙中の水分のイオン組成やコンクリート中の鋼材腐食の電気化学
的メカニズムを適切に評価する必要がある。
(出典:コンクリート標準示方書 維持管理編(2007 年制定))
II-7
1.1.3
コンクリートの化学的侵食について
化学的侵食は、下水の嫌気条件下等において硫酸還元菌によって生成された硫化水素が、物
理作用により気中に拡散し、コンクリート表層部で硫黄酸化細菌によって硫酸に酸化され、コンクリー
II-8
トが侵食されるものである。従って、嫌気的条件となり易い沈砂池,最初沈殿池,汚泥処理系統など
で化学的侵食が生じやすい。
コンクリート中の成分と硫酸の反応
コンクリートは、硬化に伴って水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を遊離し、pH12∼13 の高アルカリ性になってい
る。コンクリート表面で硫酸イオン濃度が増加すると、局所的にコンクリート中のアルカリ成分である水酸化カ
ルシウムが硫酸イオンと反応し、二水石膏(CaSO4・2H2O)が生成する。生成した二水石膏は、コンクリート細
孔溶液中ではカルシウムイオンと硫酸イオンに解離し、このフリーになった硫酸イオンは、セメント水和物の
一つであるモノサルフェート(3CaO・Al2O3 ・CaSO4 ・12H2O)や未反応のアルミン酸三カルシウム(3CaO・
Al2O3)と反応し、コンクリートの表面領域でエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)を生じる。
Ca(OH)2+H2SO4 → CaSO4・2H2O (二水石膏)
3(CaSO4・2 H2O)+3CaO・Al2O3+26H2O → 3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O(エトリンガイト)
エトリンガイトはアルカリ性の環境では安定しているが、コンクリート表面からの硫黄酸化細菌による硫酸
の供給が増加すると、コンクリート中の硫酸イオン濃度が上昇しつつコンクリート表面部の pH が低下し、中性
域あるいは酸性域になると、エトリンガイトから二水石膏が再生成される。
pH1∼2 の領域では、二水石膏はパテ状になり、下水の飛沫等の衝撃でも容易にはく離する。コンクリート
腐食がかなり進行している箇所では、表面にパテ状になった二水石膏が容易に観察される。したがって、表
面からの硫酸の供給によるコンクリート腐食の進行とともに、表面の二水石膏層とその内部のエトリンガイト
の層はより深部へと移動する(下図参照)。この際、二水石膏層の内側に鉄イオンの褐色の薄い層(以下 Fe
層とする)が形成される。
下水道施設内での硫黄酸化細菌の増殖に伴うコンクリート腐食は、硫酸のコンクリート内面への侵入に
より特徴づけられる。
図 硫酸によるコンクリート腐食の進行の概念図
(出典:「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」(日本下水道事業団))
なお、化学的侵食は、中性化に比べて進行速度が速く、下水道施設の主要な劣化要因として注
目されており、対策方法も確立されてきた。
II-9
1.1.4
コンクリートの表面劣化について
セメントの主成分であるカルシウムは、比較的水に溶出しやすく、特にpH が低い水中(反応タンク
後段など)では、溶出が増長される。骨材と骨材を接合するセメント成分が水中に溶出した場合、細
骨材が安定性を失って流出しやすくなり、結果的に粗骨材がコンクリート表層に露出することになる。
また、粗骨材に石灰岩を使用した場合も同様に、石灰岩中のカルシウム分が溶出し、骨材表面が脆
弱化する。
これらの表面劣化にともなって、鉄筋かぶりが小さくなり、鉄筋の発錆(腐食)の可能性が高くなる
ため注意が必要である。
II-10
1.2
コンクリートの劣化と対策の方向性
1.2.1
コンクリートの劣化要因と主な劣化メカニズム
下水道施設におけるコンクリートの主な劣化要因は(外乱要因を除き)、
① 中性化(CO2)等によるコンクリート中のアルカリ度の消失に伴う鉄筋の腐食(膨張)
→コンクリートのひび割れ発生原因
② H2S あるいは H2SO4 に起因するコンクリートの腐食
③ 水中のコンクリート中の Ca が溶脱することによるコンクリート表面の劣化 等である。
性能の保全(持続可能性)と、長寿命化に向けて先導的な役割を果たすため、様々な取組みを
開始する必要がある。
① 点検・調査手法の整理
② 長寿命化対策の抽出
③ 対策の信頼性設計の検討
④ 新技術の開発と効率化
⑤ これらのベストミックスによるPDCAサイクルの構築
⑥ 推進役としての「管理ナビゲータ」の設置
等
コンクリート構造物に対する影響が大きい硫化水素については、各水再生センターで流入水量
の制御を行っている関係で、滞留汚水が流入する水再生センター前段で物理化学作用により液
中の H2S が気散し、沈砂池,最初沈殿池等での気中硫化水素濃度が高くなる可能性がある。
また、反応タンクの好気槽において、硝化反応が進むため下水中のpH が低下するとともに、活
II-11
性汚泥による処理反応に伴って CO2 濃度が上昇する※。このため、コンクリート中の Ca2+と OH-イオ
ンの減少(溶出)が生じ、表面コンクリートの劣化(脆弱化)が進行する。
※
一般に下水中の有機物は活性汚泥中の微生物によって、主に次のような反応により分解される。
CXHyOz+(x+y/4-z/2)O2→x・CO2+y/2・H2O+エネルギー
II-12
1.2.2
(1)
かぶりコンクリートの性能の向上
鉄筋コンクリートの組成と仕組み
微細なセメント粒子に細骨材、粗骨材を加え、6割の水分からなるコンクリートが鉄筋の上に敷き詰
められ(覆い)、かぶりコンクリートがアルカリ性や耐熱性であるため、鉄筋を腐食や熱による膨張から
防護している。
1)コンクリート表面付近には、主にモルタル(セメントペースト等:セメント+細骨材)が集って、表層
を形成しており、その厚さは 2∼3mm 程度である。
2)次に、その下部∼鉄筋までのかぶり部分は、通常のコンクリート(セメント+細骨材+粗骨材)で
被覆されている。
(2)
鉄筋の保護の必要性
同じ一定のかぶりを有する鉄筋をより長期的に保護するためには、表層部に発生する乾燥収縮等
に起因するひび割れの幅や数をより小さく、少なくする必要がある。
また、ひび割れを鉄筋に至る深部(制御層)まで進行させないよう制御(対策)する必要がある。
II-13
この制御層に著しいひび割れが発展しないように、充分施工に注意する(混和剤の混合や適切な
W/C 等)とともに、ひび割れが深部までに至らないよう適切な養生等の施工管理を行い、中性化等
による劣化が鉄筋まで達しないようにする必要がある。
なお、このひび割れに付随して、コンクリートの中性化等が進行する場合については、1.1.2 節に示
したとおりである。
(3)
安定化
表層部のモルタル成分が少なくなり(溶出)すぎると、個々のひび割れは不安定となり、その微細な
クラック幅の状態を長期間保持できなくなる。これを防ぐためには、
① 溶出(あるいは洗い出し)されないための強度(材料間の接着力)が必要である。しかし、あまり
強度を高くすると、単位セメント量が多くなるとともに、流動性を確保するため結果的に単位水
量が増加し、ひび割れを誘発するおそれが高まる。
② 深部に至るひび割れを誘発したり、促進させないためには、不安定なひび割れを早期に抑制
(低減)し、安定的なかぶりコンクリート※とする必要がある。
コンクリート強度を
高くする
かぶりコンクリート
の性能を向上する
ひび割れを
誘発させない
※
化学的侵食作用が非常に厳しい場合には、一般に、化学的侵食を抑制するためのコンクリート被
覆や腐食防止措置を施した補強材の使用などの対策を行うのが良い。(土木学会「コンクリート標
準仕様書 設計編」 2007 年度版 p124)
II-14
1.2.3
コンクリートの腐食の発生しやすい施設及び部位
下水道施設における硫酸によるコンクリート腐食は、流れの乱れや撹拌が大きく、密閉され、発生
する H2S ガス濃度が高いところでの発生事例が多い。水再生センターにおいて、H2S ガスが発生しや
すい施設・部位は次のとおりであり、これらの箇所に対しては、硫酸によるコンクリート腐食に注意する
必要がある。
・
着水井、沈砂池と連絡水路の気相部
・
分配槽と連絡水路の気相部
・
最初沈殿池越流ぜき部と流出水路の気相部
・
反応タンク流入部の気相部
・
汚泥濃縮槽の越流ぜき・ピットの気相部
・
汚泥貯留槽の気相部
・
嫌気性汚泥消化槽からの脱離液のピットの気相部
・
汚泥処理施設からの返流水管
(出典:「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」(日本下水道事業団))
図 下水道施設における硫化水素ガスが発生しやすい部位
II-15
第 2章 点検・調査の考え方
2.1
点検・調査技術の展開
下水道施設の長寿命化を図る上で重要な点検・調査技術は、簡便でかつ精度の高い結果が得ら
れることが必要である※。このため、簡便な目視点検を基本とする「一次点検」と物理化学試験等を
取り入れた精度の高い「二次点検」を組合わせた手法とすることが望ましい。すなわち「一次点検」と
「二次点検」の長所をあわせることで、それぞれの手法のもつ短所をおぎなう組合せ手法を導入する
必要がある。
※
多数の部位があるため、頻繁な点検・調査が困難であることから、可能な限りグルーピ
ングしたまとまった機会を設けることが望まれる。
II-16
一次点検では、コンクリート構造物の表面の劣化状況を把握できる定性的な調査であり、例えば、
中性化の進行状況を定量的に把握することはできないが、表面劣化や局所的な不具合からコンクリ
ートの劣化状況を評価できる。コンクリートの劣化状況は、コンクリート深部を含めて定量的に評価す
ることが必要であり、一次点検と二次点検を適切に組み合わせて調査を実施する必要がある。
II-17
2.2
点検調査結果の評価の基本概念
点検調査結果に基づき、適切な補修等長寿命化対策工法を選定するためには、一次点検と二
次点検を合わせて総合的に劣化状況等を評価する必要がある。一次点検では、材料特性、構造特
性(部位状態)等が重要な評価要素になるとともに、二次点検では現状性能(中性化深さ)、経過年
数、環境条件、供用条件等が重要な評価要素となる。
特に高度処理化に伴う反応タンクの改造等によって、環境条件が著しく変化する場合や、同一槽
でも垂れ壁等の存在により部位によって著しく環境条件が異なる場合等、各部位の劣化度を分析す
る際には現地の環境条件を考慮する必要がある。
II-18
2.3
一次点検調査の標準化について
2.3.1
目視調査の標準化
目視調査結果の客観性を確保するとともに、バラツキを少なくし評価精度を向上させることを目的
とする標準化手法を導入する。
標準化手法には、無作為に抽出した施設を詳細に調査するランダム抽出的手法と、対象とする
施設全ての特定の部位に対して調査を実施する全量検査的手法がある。
調査結果から得られた下水道施設の特性は、次のとおりである。
① 同一の系列にある施設でも機能の違いによって、生じる損傷は大きく異なっている。
② 損傷が発生しやすい施設や部位をある程度特定することができる。
③ 長期間にわたる運用・供用に起因して生じる損傷に加えて施工時等の問題に起因する
損傷の発生が確認できる。
ここに、以上の下水道(土木)施設に生じる損傷の特性から、均一な工業製品の検査手法として
用いられるランダム抽出的手法により、計画期間内の全量検査的手法が適していると考え、全ての
施設で損傷が生じやすい特定の部位を対象とする全量検査的手法を導入した、一次点検調査の標
準化を提案するものである。
2.3.2 目視調査範囲と目視評価基準
(1)
目視調査範囲
目視調査範囲の設定にあたっては、既往の調査結果をもとに、次に示す中性化、腐食と表面劣
化(Ca溶出)の3つの劣化要因を整理した。
表 コンクリートの劣化要因と発生部位の相関
コンクリートの
目視で確認できるコンクリートの
劣化
状況
中 性 化
腐
食
Z 絵表面劣
化
鉄筋の発錆(さび汁、露出、かぶ
気 相 部 全 面に 渡 っ て 発
りのひび割れ)
生
コンクリートの表面劣化、剥離、
気相部全面
かぶりの減少(進行により、鉄筋
( 適 度な 湿 り 気 を お び る
の発錆、露出)
所)
表面劣化(粗骨材の露出、モル
タルの減少)
(ひび割れ)
※
注目箇所
梁部、柱部、壁
スラブや柱・梁が
接合する部位
液 相 部 全 面に 渡 っ て 発
生
(Ca溶出)
構造的異状
発生部位
ひび割れの発生位置やパターン
大きな力が作用する場所
(発生密度、発生方向)
や力が作用する方向が
ひび割れ発部からの鉄筋の腐食
急に変わる
なお、施工条件の不良等で生じる初期欠陥に起因して生じる鉄筋の腐食等は供用環境等に
II-19
よらず生じるため、発生パターンを基本として評価する。
前頁の相関表より、目視調査の対象とすべき主要な範囲は、次図のとおり、気相部:水槽スラブ
下2mの範囲と、液相部:側壁下部ハンチ上1m、さらに梁(スラブ)下面、側面(水路等の下面を含
む)とする。これは、中性化の発生が CO2 に起因することを考慮し、スラブ下等の CO2 の影響を受け
やすい部位を設定したためである。また、側壁下面ハンチ上1mの範囲は鉄筋の発錆・膨張やひび
割れにより生じる耐力の不足が構造体の安定に影響を及ぼすことを考慮して施設の構造的耐力を
評価可能な範囲とした。なお、構造的部材の要である上下部範囲にある柱、梁や側壁との接合部を
含めるものとした。
上図を参考に、壁面を面的にマトリクス割りして点検調査し、経年変化を観察する必要がある。
II-20
(2)
目視調査の判定基準
1) ひび割れ
コンクリートのひび割れに関しては、次回点検時に進行状況を把握できるよう、ひび割れの 位置 、
方向 、 幅 、 長さ を記録する必要がある。
また、ひび割れの評価については、現時点では「コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針」
(日本コンクリート工学協会)に準じ、耐久性からみた場合の補修の要否を判断するひび割れ幅の限
度を採用し、許容ひび割れ幅を.4mmとした。
※
液相部に関しては、鉄筋の表層部にひび割れがあると、漏水や鉄筋さび汁の溶出の危険性
が増すものの、鉄筋さび汁の溶出は時間の経過に伴い平衡に達し、鉄筋の爆裂までは至ら
ないこと、また、一次点検で下水処理施設内の目視調査を行う場合には、ひび割れ幅の相
違を見分けることは困難であることが想定されることから、建物等の防水性や居住性等から
みた場合のひび割れ幅の限度 0.2mm は採用しないものとした。
表 補修の要否に関するひび割れ幅の限度
(出典:「コンクリートのひび割れ調査、補修、補強指針」日本コンクリート工学協会)
II-21
また、一般にコンクリート構造物にはコンクリートの水和反応や乾燥収縮等からひび割れはつきもの
であるが、構造物の性能に悪影響を及ぼす悪いひび割れに対しては適切な措置を講ずることが必要
であるため、構造物の性能に悪影響を及ぼすひび割れを見分けることが重要である。次に構造物の
性能に悪影響を及ぼすひび割れの事例を示す。
II-22
今後、下水処理施設で観測される劣化現象を蓄積し、傾向を分析していく必要がある。
II-23
2) 鉄筋の腐食
部材に生じた鉄筋の腐食の評価においては、鉄筋の腐食が構造的に大きな影響を及ぼすか否
かの評価を行う必要がある。そこで、次図に示す鉄筋の腐食のパターン(発錆間隔)を評価すること
で、局所的な対応でよいかあるいは全体的な対応を行う必要があるかの判定を行う。なお、判定は
目視調査範囲の全体に渡ってカウントした鉄筋の腐食状況(例えば、1m以内に2本以上の鉄筋が
腐食した箇所数)で評価を行う。
II-24
3) コンクリートの表面劣化
カルシウム分の溶出に起因するコンクリートの表面劣化は液相部である側壁下部等に生じやすい。
そこで、側壁下部の目視点検結果を用いて評価を行う。なお、表面劣化の評価にあたっては、骨材
の露出の状況を基準として行うものとする。なお、ここで述べるコンクリートの表面劣化は、初期欠陥
は除くものとする。
II-25
4) コンクリートの腐食
コンクリートの腐食は、臭気成分が作用する気相部を中心に発生することが知られている。そこで、
コンクリート腐食の評価基準の設定においては、腐食の深さと表面性状の両方を考慮するものとす
る。
II-26
2.4
点検・調査結果の評価の考え方
2.4.1
一次点検調査の点数付け(二次点検の必要性の判断)
調査結果を、施設の構造に及ぼす影響の度合いによる重要度を評価し、二次点検の必要性を判
断するものとする。
重要度は、施設の構造的健全性の維持に大きな影響を及ぼすひび割れの発生と、鉄筋の腐食を
中心に重み付けた評価値を設定するものとする。また、硫化水素等による腐食は、部位や供用条件
によっては急速に進行することが考えられるが、過去の防食・補修等履歴を考慮するとともに、コンク
リートの中性化が√t 則によることや長期供用後の経過年数を勘案して換算した評価値(換算評価
点)を設定する。
一次点検の結果を基に換算評価点を試算した結果は次頁上表のとおりである。
また、経過年数の平方根(√t)と換算評価点の関係をグラフ化したものは次頁下図のとおりであり、
単純計は経年に比例するが、劣化現象と√t則によるによる重み付けを反映した換算評価点によっ
て、各施設の劣化状況を比較することができ、3つにグルーピングすることができる。このグルーピング
に基づいて二次点検の必要性を判断するが、劣化箇所が比較的多い、もしくは、劣化箇所が多いと
分類される施設(換算評価点が 15 点以上の施設)については、二次点検を実施する。なお、ここで
設定した各グループの境界値(評価基準値)は、今年度行った一次点検の結果設定したものであり、
今後データを蓄積することによって評価基準の精度を向上する必要がある。
II-27
表 一次点検調査結果と評価点数の関係
項目
重要度係数
表面
骨材
ひび
鉄筋
たわみ
漏水
経過
合計
換算
1
3
3
3
4
3
年数
点数
評価点
初沈
7
12
19
10
0
1
49
40年
133
21.0
反応T
6
11
1
19
1
6
44
40年
121
19.1
中部
初沈
56
26
15
39
0
12
148
46年
332
49.0
金沢
反応T
4
2
2
1
0
0
9
26年
19
3.7
初沈
0
0
2
2
0
0
4
26年
12
2.4
反応T
14
4
2
6
0
0
26
26年
50
9.8
終沈
5
3
20
4
1
3
36
26年
99
19.4
沈砂池
0
0
10
1
0
3
14
30年
42
7.7
終沈
0
15
1
2
0
0
18
30年
54
9.9
栄一
初沈
2
4
1
4
0
7
18
27年
50
9.6
南部
終沈
1
13
5
6
0
2
27
45年
79
11.8
初沈
7
8
5
4
0
0
24
26年
58
11.4
反応T
21
2
15
13
0
0
51
26年
111
21.8
反応T
計
1
11
0
0
0
0
12
26年
34
6.7
124
111
98
111
2
34
480
−
−
−
北一
港北
栄二
西部
都筑
計
※換算評価点 15∼25 点はオレンジに、25 点を超えるものはピンク色に着色した。
II-28
2.4.2
(1)
一次点検調査結果の面的評価の考え方
水処理の側壁劣化モデル
例えば、処理施設系列の側壁を8列×5行の格子状に配列された40個の LTU(格子ユニット:
Lattice Unit)とする。断面方向(z方向)に表層から鉄筋までのかぶりコンクリートと、鉄筋からかぶり
コンクリートの四つのLYU(層ユニット:Layer Unit)で構成する。
この構成は、コンクリートの劣化の特徴に合うように、LTUとLYUの配置や接続が分かるようにして
いる。
そこで、時系列的に見ると、格子LTU1は、表層のLTU1の劣化(腐食)がかぶりコンクリートに伝播
し、次に鉄筋のLYU9に影響(発錆、体積膨張)し、さらに、爆裂がかぶりコンクリートユニットにひび割
れを生起させ、コンクリートの損傷に至る。
なお、行方向も同様なユニット構成が考えられる。
II-29
(2)
奥行き方向の伝播メカニズム
各表層ユニットを介して、並列的にかぶりコンクリートを劣化させ、ある範囲(Σ LTU ij)で劣化が
進行し、部分的に鉄筋ユニットLYU(Σ LTU ij)を腐食させ、かぶりコンクリートの顕著な範囲(Σ L
TU ij)の損傷をもたらすものと考えられる。
(3)
クラスタリング(Clustering)
1)クラスタリング※
各 LTU(格子ユニット)の代表的な劣化現象、劣化度を設定する。複数の劣化現象が LTU 内に存
在する場合には、一次点検調査において確認された劣化状況・程度について、各調査員の主観的
評価を極力排除して、評価の類似性に着目して当該部位の類似的な劣化現象・劣化度を評価(割
り振り)する必要がある。
※
ここでの「クラスタリング」とは、 複数のデータをその類似度に基づいて分類すること、また
そのための統計学的手法 のことを指す。分類対象の集合を内的結合(internal cohesion)
と内的分離(external isolation)が達成されるような部分集合に分割することであり、統計
解析や多変量解析の分野ではクラスター分析(cluster analysis)とも呼ばれる。
2)劣化現象の平面的な伝播
各 LTU の表層部の劣化現象は、表層部に接する気相部、液相部の環境条件により支配されると
ともに、深部からの影響が表面に伝播する場合がある(鉄筋の爆裂→コンクリートひび割れ等)。
II-30
中性化/腐食/表面劣化等の現象は、表層環境が影響し、中性化であれば CO2 濃度、腐食で
あれば硫化水素濃度・湿度、表面劣化であれば液相のpH が影響因子となり、コンクリートの表層から
深部に向けて劣化が進行するため、平面的な(LTU をまたぐ)伝播を考える必要性は少ない。
一方、LTU の端部等にひび割れ、鉄筋の腐食等がある場合には、それらの劣化箇所を核として劣
化が広がる可能性があり、近接する LTU への劣化現象の伝播の可能性を推定する必要が生じる
(例:鉄筋の爆裂が生じる場合には、周囲のコンクリートの損傷を伴う等)。
3)面的スケジューリング
面的スケジューリングとは、8列×5行のユニットLTUがある時間軸(t)のとき、どの程度の劣化度
にあるのかの平面的な分布の範囲を示すものである。
(4)
劣化情報の拡張
一次点検や二次点検の調査結果情報は、点的分布情報あるいはそれらをつなげた線的分布情
報である。
土木施設は、面的拡がり(あるいは立体的)を持つ施設であるため、全体的(少なくとも面的)な劣
化情報に加工(拡張)する必要がある。
そこで、点及び線的分布情報から積算あるいは統計処理して、面的情報(データ)を算出する。
例えば、壁面を 8×8 分割したエリア(マトリクス)のうち、どの範囲が同様な程度の劣化状態にある
おそれがあるかを評価することになる。
II-31
(5)
目視点検の考え方
一次点検は目視点検であるため、検査員による判定のばらつきや、同一検査員における体調や
環境、習熟度による差異の影響等が出るおそれがある。
そこで、調査票(劣化状態をチェックする帳票)及び数量化(チェック数を積算する)等において、
人の感覚と対象とする物理(化学)特性を可能な限り、バラツキなく概括的に関連付けられるように
構成する必要がある。
また、目視点検のバラツキを無くすために、画像解析技術等を活用した、表面劣化状況を自動判
定する技術の開発等が将来的に期待される。
II-32
(6)
劣化の進展の考え方
1)中性化及びコンクリート腐食の進展と鉄筋の発錆によるコンクリート表面の変状
コンクリートの中性化、腐食を要因とした、表層→鉄筋→表層への劣化の進展は、中性化を主因
とする場合においては二酸化炭素が、腐食(化学的侵食)を主因とする場合には硫酸(生物学的酸
化で生じる)がコンクリート内部に浸透することで、表層から深部へと中性化域が進展する。さらに、コ
ンクリート腐食の場合には、コンクリート自体が酸による影響を大きく受けることとなる結果、硫酸イオ
ンによる二水石膏が生成し、自重や水流により侵食され、断面が欠損しかぶりが減少することとなる。
更に、中性化や硫酸イオンが鉄筋表面に達した結果、鉄筋の成分が溶出、あるいは膨張し、その
影響がコンクリート表面に伝達することで、コンクリート表面の状態が変化する。
(コンクリートの中性化)
(コンクリートの腐食)
(コンクリートの中性化) (コンクリートの腐食)
※表面の状態が様々に変化する
二 酸 化 炭素の 侵 入
による中性化の進行
H2SO4 の侵入による
コンクリートの腐食と
中性化の進行
鉄筋が腐食すること
でコンクリート表面の
状態が変化
鉄筋が腐食すること
でコンクリート表面の
状態が変化
鉄筋の溶出と膨張
(溶出<膨張)
鉄筋の溶出と膨張
(溶出>膨張)
図 鉄筋コンクリートの劣化
この表層部→深部、深部→表層への劣化のプロセスについて、コンクリート自体の腐食の影響が
少なく、処理過程による CO2増加に伴う中性化を例に次頁に示す。
II-33
2)コンクリート表面からの劣化進展モデル
中性化を対象とした場合表層部から鉄筋への劣化の進展は次のプロセスで生じている。
液相部においては、局所的なひび,表面劣化,かぶり不足等により、鉄筋中の鉄イオンの溶出環
境となった場合や、中性化が鉄筋に至った場合には、錆汁,錆こぶの発生が生じる。この場合は美
観が悪くなるものの、平衡状態に達し、構造的な影響は軽微である。
一方、気相部においては、中性化が鉄筋に至った場合には、鉄筋が腐食、膨張し、爆裂に至る可
能性がある。爆裂に至った場合は、鉄筋の構造耐力が著しく低下するため、構造的な影響が大きく
注意が必要である。
なお、液相部、気相部とも、コンクリート内部の腐食の進行は、表層部→深部(鉄筋)へと垂直方
向の進展が卓越している。
II-34
3)鉄筋の発錆とコンクリート表面の変状の相関を表す進展モデル
目視調査においては、コンクリート表面で確認される変状からコンクリート内部の状態、例えば、鉄
筋の状態を推察する必要がある。そこで、鉄筋の腐食が生じた場合について、表層部に向けての劣
化の進展を予想することを検討する。検討にあたって、劣化の進展を模式化し、コンクリート深部の状
況と、表層部の目視調査の結果から設定する劣化グレードとの関係(劣化グレード分け)を整理する
と次図のとおりとなる。
中性化の進行は、鉄筋が発錆し体積を膨張させコンクリート表面に変状を及ぼすまで目視で確認
することは困難である。このため、目視を中心とした一次点検だけでなく、中性化の物理化学的試験
を行う二次点検によってコンクリート深部の状況(中性化の進行状況)を、適切かつ定量的に把握す
ることができる。
【液相部】
・
鉄筋の表面的な発錆が生じていても、膨張まで至らなければ表層の劣化グレードは未だ健
全と評価される
・
鉄筋の発錆・部分的な膨張が生じていても、表面にひび割れ・錆汁が確認されなければ、
表層の劣化グレードは未だ健全と評価される可能性がある
【気相部】
・
鉄筋の膨張・爆裂が生じた場合、直ちに補修を要する劣化グレードに至るため、爆裂が生じ
る前に長寿命化対策を行うことが重要である
II-35
2.4.3
一次点検調査結果の面的評価(試案)
現時点では、目視調査により構造物の面的評価に到達する手法が確立されていないため、劣化
メカニズムから推定した面的評価方法(試案)を提案する。
(1)
要求性能の考え方
構造物の要求性能として、安全性、使用性、第三者影響度、美観・景観、耐久性があるが、下水
道施設において最も重視すべきは、 安全性(断面破壊に対する安全性、疲労破壊に関する安全性
及び、構造物の安定に対する安全性) であると考える。
安全性を担保するためには、鉄筋コンクリートとしての機能を維持する必要があり、下水処理施設に
及ぼす劣化現象、部位ごとに次の点について留意する必要がある。
表 劣化現象ごとの鉄筋コンクリートへの影響
劣化現象
中性化
コンクリート
鉄筋
圧縮強度に対して直接的な影響
中性化が鉄筋に達した時点で、
はなし
鉄筋表面に形成された不動態
(鉄筋の腐食に伴い、コンクリート
膜が破壊され、鉄筋が腐食する
にひび,浮き,剥離等の現象が
環境におかれる。
生じる)
化学的侵食(腐食)
化学的侵食が進展することによ
硫酸イオンの浸透による中性化
(主に硫化水素の生物
り、コンクリートの脆弱化と欠損が
の進行で、中性化同様鉄筋周囲
学 的 酸 化 によ る 硫 酸
進み、コンクリートの断面(かぶり
の不動態膜が破壊され、鉄筋が
に起因)
部分)が減少する。
腐食する環境におかれる。
表面劣化
下水中へのCaの溶出に起因し
表面劣化の範囲がかぶりに達す
(コンクリート中の水酸
た表面劣化の進行により、表層
るまでは直接的な影響なし
化カルシウムの減少)
部のコンクリート強度が減少する
(中性化の進行を早めることによ
とともに、透水性や透気性が高く
り、鉄筋中の鉄イオンの溶出の
なり、中性化の進行を早める要
危険性が高まる)
因となる。
II-36
表 部位ごとの鉄筋コンクリートへの影響
部位
液相部
コンクリート
鉄筋
・中性化の進行が遅い
鉄筋のかぶりが不足していたり、コンクリ
・水流及び水の性状により、表面劣化
ートが密実でない場合には、鉄筋が発
が発生する可能性が高い。特に pH が
錆しやすくなり、鉄筋に腐食が発生する
低い下水に接する場合は、カルシウム
と、コンクリート部の空隙から水中に鉄
分の溶出速度は大きくなる
筋中の鉄イオンが溶出するとともに、鉄
イオンの酸化による、錆こぶが生成さ
れる。(平衡状態)
気相部
・液相部に比較して中性化の進行が早
・中性化の進行による鉄筋の腐食が進
い
むとかぶり部のコンクリートを爆裂させる
・生物学的に生成された硫酸による化
可能性が高くなる
学的侵食が発生する可能性が高い
・腐食性物質が鉄筋表面に達すること
で、鉄筋断面を減少させる可能性が高
くなり、部材の構造耐力が低下する原
因となる
II-37
(2)
評価方法
評価単位
評価単位は、柱・梁は柱梁単位、壁面、底版は系列一面を単位とする。
評価方法
評価方法は次のとおりとする。
z
調査箇所は 2.3.2(1)に示したとおり、気相部:水槽スラブ下2mの範囲と、液相部:側壁
下部ハンチ上1m、さらに梁(スラブ)下面、側面(樋の側下面を含む)を基本とする。
z
鉄筋の状態については、2.3.2(2)1)に示したとおり、1m以上の間隔での鉄筋の腐食は、
局所的な現象(点的)であると考え、1m間隔未満の鉄筋の腐食(錆汁、露出等)につい
て、腐食の占める割合が、評価単位の 1/4 以上/未満のいずれに該当するかを目視
点検によって確認し、調査結果を次頁表に当てはめて点数化するもの(面的)とした。
(例:0.5m間隔で 3 本の鉄筋露出がある場合には、腐食幅を 1.5mとするマトリクス)
z
コンクリートの状態については、表面劣化(Ca 溶出による)や、化学的侵食の状態を現地
で確認し、調査結果を次頁表に当てはめて点数化するもの(面的)とした。
注)鉄筋の状態評価、コンクリートの状態評価ともに、複数の劣化現象が確認された
場合には、最も点数が高くなる劣化現象を適用するものとした。
z
鉄筋、コンクリートの状態を評価し、点数化したものを、次頁図にあてはめて、劣化グレー
ドを評価・設定する。
z
ひび割れに関しては、2.3.2(2)1)に示した、構造物の性能に悪影響を及ぼすひび割れ
が確認された場合は、『要対策』と位置づけるものとする。
注)ひび割れに関しては、必ずしも経年劣化のみによらないため、それのみでは劣化
グレードを設定しないものとした。
II-38
表 一次点検調査結果集計
全面的
(1m未満間隔の腐食が
評価単位の1/4幅以上)
局所的
(1m未満間隔の腐食が
評価単位の1/4幅未満)
0
0
2
1
4
2
6
4
全面的
(評価単位の1/4以上)
局所的
(評価単位の1/4未満)
0
0
1
0.5
2
1
4
2
6
4
8
6
変化なし
鉄筋の状態
錆汁
鉄筋露出
浮きまたは切断部あり
コンクリート 物理的
変化なし
ザラザラして砂利が確認
できる
ゴツゴツして砂利が落ち
込んでいる
へこんでいるブヨブヨし
物理化学
ている
大きくえぐれている
的劣化
の状態
劣化
やせ細って壊れそう
※
評価単位は、柱・梁単位、壁面・底版は系列一面とする。
※
各項目数値が点数である。x 軸方向に鉄筋の腐食状況、y軸方向にコンクリートの状態を
点数化し、全パターンの点数分布を次図に示した。
一次点検調査結果評価
※赤字は設定した劣化グレード
0
0
1
2
0, 0
1, 0
2, 0
0, 0.5 0
1, 0.5
2, 0.5
1
0, 1
1, 1
2, 1 Ⅱ
2
0, 2
1, 2
2, 2
Ⅰ
コンクリートの腐食状況(点)
鉄筋の腐食状況(点)
3
4
5
6
7
Ⅲ-2
4, 2
Ⅲ-1
3
4
0, 4
1, 4
2, 4
4, 4
6, 4
1, 6
2, 6
4, 6
6, 6
1, 8
2, 8
4, 8
5
6
0, 6
Ⅱ
7
8
6, 8
Ⅳ-1
9
※劣化グレードについては、2.4.6 節に後述する。
II-39
Ⅳ-2
2.4.4
中性化速度の評価
前項で、ある時点での構造物の目視調査結果を判断する手法を提案したが、目視点検を 5∼10
年に 1 度程度実施する場合において、次回の実施までの期間に進行する劣化の程度を予測し、対
策の要否を判断する必要がある。
そこで、劣化要因のなかでもある程度予測可能な中性化に関して、標準中性化速度を設定し、そ
れを上回る中性化が確認された場合には、より厳しい評価(劣化度の進行)を行うこととした。
II-40
中性化速度式は、「コンクリート標準示方書(維持管理編)」に記載されている標準式を用い、供用
年数 25 年単位で、標準中性化速度を上図のとおり算定した。計算の設定条件を次のとおり示す。
標準中性化深さの設定(高炉 B 種混合 W/B=52%として)
y=R(-3.57+9.0 W/B)√t
気相 R=1.6
水中 R=1.0
想定
使用混合セット高炉 B (30∼60)45%
W/B=0.57
W/B=W/(Cp+k・Ad)
単位水量 170kg (想定)
=170/(164.01+0.7×134.19)
単位結合材 298.2kg (想定)
=0.659
高炉 B(スラグ) K=0.7
Ad=45%=134.19
Cp=164.01
◎ 気相部
y=1.6×(-3.57+9.0×0.659)√t
=3.776√t
・・・土木学会式
t= 50 = 26.7
mm
→ 0.53 mm/年
t= 25 = 18.9
mm
→ 0.76 mm/年
t= 50 = 16.6
mm
→ 0.33 mm/年
t= 25 = 11.7
mm
→ 0.47 mm/年
◎ 液相部
y=1.0×(-3.57+9.0×0.659)√t
=2.352√t
・・・土木学会式
II-41
今回設定した標準中性化速度と、二次点検で測定した中性化速度を比較した結果は上図のとお
りであり、港北水再生センター(反応タンク)、西部水再生センター(反応タンク)、栄第一水再生セン
ター(初沈)で標準中性化速度を超えていた。
反応タンク気相部の調査で中性化速度が標準中性化速度を超過していた港北・西部については、
いずれも旋回流式の曝気方式を採用しており、散気装置が設置されている側の側壁(Yウォール)の
内壁側の中性化が進んでいた。
また、西部・栄第一については、いずれも建屋内に下水処理施設があるという点で共通しており、
これらの事項が中性化を促進する環境要因となっている可能性がある。
II-42
2.4.5
一次点検・二次点検に基づく将来の劣化予測の考え方
上図は、一次点検、二次点検に基づいた将来の劣化度予測のイメージを示したものである。
一次点検、二次点検の役割は次のとおりとなる。
① 一次点検:現況の劣化度評価(定性的、概括的)
② 二次点検:現況の劣化度評価(物理化学的)+将来の劣化度予測(進行度や対策時期
評価)
一次点検において、現況の劣化グレードの判定による現況評価(概括的)を行う。また、二次点検
結果を基に中性化進行速度等を予測し、今後の影響度を推計する。
II-43
二次点検を行った各センターにおいて、中性化が鉄筋に達するまでの予想年数、鉄筋かぶり
10mm まで(コンクリート標準示方書に示す管理目標値)に達する予想年数を算定した結果は次表の
とおりであり、港北、西部の2水再生センターでは中性化が鉄筋に達しており、また、北部第一、栄第
一の2水再生センターが鉄筋かぶり 10mm に達するまでの予想年数が 50 年を下回っていた。これら
のセンターにおいては鉄筋の発錆の進展が懸念される。
※
北部第一については、中性化速度は標準中性化速度を下回るが、かぶり厚さが少ないた
めに残余年数が短くなっている。
II-44
2.4.6
(1)
点検調査結果に基づく劣化グレードの判定
下水道施設(土木構造物)の劣化要因
下水道施設(土木構造物)の耐久性を低下させる劣化原因は、反応タンクに代表されるコンクリー
トの中性化(中性化を促進させるコンクリートの溶出を含む)と、最初沈殿池、沈砂池に代表されるコ
ンクリートの腐食に大きく分けられる。従って、下水道施設(土木構造物)の劣化グレードを設定する
ためには、コンクリートの中性化と腐食の状態を的確に判定する必要がある。さらに、鉄筋コンクリート
部材の構造的健全性を評価するためには、コンクリートの状態を推定するとともに、各劣化要因の作
用によってコンクリート中に存在する鉄筋がどのような状態にあるかを推定する必要がある。
コンクリート中にある
鉄筋の健全性
沈砂池・最初沈殿池
(主に生物学的に生成される硫酸
下水道施設(土木構造物)劣化グレード
によるコンクリート侵食とその進行に
・
よる鉄筋腐食)
目視点検の結果から鉄筋の定性的
状態を推定することが可能
・
反応タンク
部材の局所的劣化状態の評価が
可能である
(中性化進行が主因となりアルカリ
度喪失による鉄筋の腐食)
II-45
(2)
劣化グレードの判定方法
ここで、コンクリートの劣化に対する対応を判断するためには、施設に生じた劣化の程度や影響を 1
次点検と 2 次点検の結果をもとに構造部材に生じた劣化現象とグレード別に分類する必要がある。
そこで、施設に生じる鉄筋、コンクリートの劣化の組み合わせと、CO2 に起因する中性化深さから施設
の劣化状況をグレード別に分類する手法を提案する。
水再生センター土木施設の構造的健全性の評価に用いる劣化グレードは、土木学会「コンクリート
標準示方書(維持管理編)」に示されている 中性化の進展による外観上のグレードと健全性の低
下 及び、 化学的侵食(腐食)の進展による外観上のグレードと構造的健全性の低下 を説明可能
な範囲でマトリクスにしたもので、横軸に「鉄筋の状態」、縦軸に「コンクリートの状態」を置いて分類す
る。
なお、劣化グレードの分類にあたっては、施設の運用環境の違いやその他の要因により異なってく
ると考えられる中性化速度をパラメータとし、標準中性化速度を上回る施設については、より厳しい
評価を導き出す手法としたものである。
II-46
【中性化速度が、標準中性化速度以下の場合】
【中性化速度が、標準中性化速度を超過する場合】
※ 中性化速度が全処理施設で計測された中性化速度の平均値より大きい場合には、中性
化の進行による鉄筋腐食の加速するおそれが考えられるため、変状が確認されない場合
でも、定期的に点検を行う等の注意が必要である。
II-47
劣化グレード毎の状況
劣化グレード 0
劣化グレード I
コンクリート表面に大き
な変化なし
コンクリート表面が劣化
している(進んでいる)
※今回点検調査(金沢)
※今回点検調査(北一)
劣化グレード II
劣化グレード III
・錆汁が溶出している
・鉄筋錆が部分的に露出している
コンクリート表面がブヨ
ブヨしている(脆弱化)
※今回点検調査(中部)
劣化グレード III
※参考事例
劣化グレードⅣ
・鉄筋が破断している
・コンクリート塊が抜け落ちている
・鉄筋が連続的に露出している
・かぶりコンクリートが剥げ落ちている
※参考事例
II-48
※参考事例
(3)
点検調査結果に基づく劣化グレードの判定
2.4.1 項に示した手法で一次点検を行った各センターで算出した換算評価点と、(2)項に示した方
法に基づいて劣化グレードを判定した結果は上図のとおりである。劣化グレード0の施設が多いが、西
部水再生センターは中性化速度が速いため劣化判定ランクを厳しくし、中部水再生センターは劣化
箇所が多いことから、それぞれ劣化グレードⅡと判定した。
また、栄第一水再生センターは、中性化速度が速いため劣化判定ランクを厳しくし、港北水再生
センター(終沈)と、北部第一水再生センターは比較的劣化箇所が多いことから、それぞれ劣化グレ
ードⅠと判定した。
なお、港北水再生センター北3系反応タンクの二次点検結果によれば、中性化が進行しているこ
とが確認されたが、一次点検ができなかったため、グレード判定には至らなかった。
II-49
2.5
対策の考え方
2.5.1
対策の考え方
(1)
対策の基本的考え方
施設の長寿命化を行うためには、各種対策、材料の中から、環境条件、施工条件などを勘案し最
適な補修等長寿命化対策を選定する必要がある。また、補修・保全等長寿命化対策手法を検討す
るためには次の観点に注意する必要がある。
z
劣化の原因
z
劣化の進行度
z
劣化部の状態
z
施工箇所の環境条件
z
施工条件
z
補修等長寿命化対策箇所の外的条件
コンクリートの劣化要因別の対策メニューを次頁に示す。
II-50
次のとおり、各劣化要因に対する長寿命化対策の考え方を示す。
(2)
化学的侵食対策の考え方
II-51
(3)
中性化対策の考え方
II-52
(4)
表面劣化対策(カルシウム溶出対策)の考え方
II-53
2.5.2
劣化グレードに応じた対策の考え方
先に設定した劣化グレードに応じた対策工法は上図のとおりであり、劣化状況に応じてライフサイク
ルコストを考慮しながら適切な補修・保全等長寿命化対策(工法)を選定する必要がある。
上表は、部分的(Partial)な対策の提示であり、横軸に「劣化グレード」を示し、縦軸にそれに対応
する「部材の状況」と、「長寿命化対策工法等」を表わした。
なお、系列壁面全体に対する面的な対策の要否については、別節で述べる。
II-54
2.5.3
補修等前処理工法
西部水再生センターの長寿命化対策の前例を踏まえて、今後の長寿命化対策は、「防食対策
(防食工)」を基本に、事前の「前処理」(準備工、あるいは、下地処理工等)として、次のとおり補修
等前処理工法を適用するものとする。
注)次のとおり、(1)∼(7)までの対策工法の事例図は、「これから始めるコンクリート補修講
座」(2002 年 日経コンストラクション編集)から抜粋した図を添付し、補修等対策工法
を紹介するものである。各工法の詳細については参考資料を参照されたい。
(1)
ひび割れ補修
II-55
II-56
(2)
コールドジョイントの補修
II-57
(3)
豆板の補修
(4)
豆板・ジャンカの補修
II-58
(5)
浮きの補修
(6)
鉄筋腐食によるひび割れの補修
II-59
(7)
再アルカリ化
II-60
【参考:横浜情報文化センター(旧横浜商工奨励館)での再アルカリ化工法適用事例】
II-61
II-62
II-63
II-64
II-65
2.5.4
対策箇所と時期
長寿命化対策を効率的効果的に行い施設を長寿命化するためには、点検調査に基づいて施設
の機能の低下状況を把握し、劣化が許容できないレベル(劣化グレードⅣ)に至る前に適切な長寿
命化対策を行うことが必要であり、かつ、ライフサイクルコストを考慮して、適切な対策時期を判定す
る必要がある。
横浜市では、平成 21 年度から土木施設の長寿命化対策を推進するする計画であり、今回の一
次点検・二次点検結果に基づいて、第一号となる長寿命化対策の施行箇所と工法及び時期を選定
することを検討する。
II-66
一次点検・二次点検調査の結果をもとに各施設の劣化グレードを判定し、早期に長寿命化対策
が必要な施設を評価した結果は上図のとおりである。2.5.2 節に示した「劣化グレードに応じた対策の
基本方針(案)」に基づき、長寿命化対策の要対策施設としては、劣化グレードⅡ以上の施設を位置
づけ、中部(初沈)、西部(反応タンク)に対する長寿命化対策が必要となり、これらを長寿命化対策
(第一号)に位置付けた。
また、劣化グレードⅠと評価された、北部第一(初沈、反応タンク)、港北(終沈)、栄第一(初沈)
については、次回の点検調査時に劣化が進行していることが確認された段階(劣化グレードⅡに至っ
た段階)で長寿命化対策を施すことも考えられるが、今回が劣化度データ等の蓄積の最初であり、次
回点検調査までに時間を要すること、設備更新等対策の実行可能時期や安全衛生等を考慮して、
予防保全的な取組が望ましいことから、これらも長寿命化対策(第一号)に位置づけることとした。
また、劣化グレード0と判定された施設についても、目視点検の結果コンクリートの劣化が確認され
た箇所は、局所的不具合が劣化を促進するおそれがあるため、設備工事などで槽内を空にできる段
階で補修等長寿命化工事を実施することが適切であると評価し、一次点検調査を行った全施設を
対象として、第一号の長寿命化対策を実施するものとした。
対策方法については、面対策が必要な箇所は、西部水再生センターの長寿命化対策工事を踏ま
え、「防食工」を基本に、準備工及び下地処理工等としてそれぞれ劣化部はつり工、鉄筋処理工、
断面修復工等を措置することを原則とする。
従って、グレードⅡの施設(中部(初沈)と西部(反応タンク))では、ひび割れ処理工、劣化部はつ
り工、鉄筋処理工、断面修復工を事前に処置したうえで、気相部については、最終仕上げとして主に
II-67
A種の防食工※を実施することとなる。
一方、劣化グレード 1、劣化グレード O と評価された施設も同様に、劣化状況に応じて、ひび割れ
処理工、劣化部はつり工、鉄筋処理工、断面修復工等の長寿命化対策の前処理を実施するととも
に、気相部の防食対策を基本に、施設の長寿命化を図るものとする。
長寿命化対策工事を実施する段階では、部分的対策で足りるものか、面的対策を要するものか
を再度評価したうえで劣化グレードを区分し、グルーピングして対策を実施する必要がある。
なお、①西部(反応タンク:気相部)、栄第一(初沈:気相部)については、一部今年度既に長寿命
化対策を実施済みである。また、②港北水再生センターは、一次点検を経て評価するものとする。
※
A種とは、防食被覆工法のなかで最も耐酸性能が低い部類に属する防食対策であり、設計腐
食環境Ⅳ類(汚泥消化槽の液相部)に対して用いられる塗布型ライニング工法である。
汚泥消化槽では酸発酵に伴いpHが低下することを考慮し、腐食環境をⅣ類と設定しているが、
反応タンクでも硝化反応の進展に伴いpHが低下することから、汚泥消化槽と同等の対策が必要
であると判断した。
II-68
第 3章 平成20年度の点検調査結果を踏まえた今後の取組
3.1
Plan:長寿命化計画に基づく計画的な点検調査スケジュール
今回の点検調査結果を踏まえ、長寿命化計画に基づく計画的な点検調査スケジュールを上図に
示す。
頻度は土木構造物のなかで標準的耐用年数が短い防食材・防水材に合わせて、当初点検調査
(H20∼24)から5∼10 年が経過するまでに 1 度は定期点検を行う必要がある。
また、調査箇所については、劣化の特性に応じて施設ごとに重点的な点検項目及び箇所数を設
定する必要があり、腐食が卓越する汚水沈砂池、最初沈殿池は表面劣化・ひび割れ、鉄筋腐食等
を調査点検し、中性化が卓越する反応タンク、最終沈殿池、雨水沈砂池は骨材露出、ひび割れ、
かぶり不足箇所の鉄筋腐食※を重点的に調査点検する必要がある。
※ 常時水中にある施設と異なり、水中状態(頻度と時間が異なる)が少ない施設では、気中
時期に鉄筋が急速に腐食することで爆裂現象を生じるおそれがあるため注意が必要であ
る。
II-69
3.2
Do:点検調査計画に基づく実務的な点検調査
点検調査は定性的な調査である一次点検と物理化学的試験等を行う二次点検を組み合わせて
行うものとする。
一次点検調査は、本プロジェクトで行った目視点検に加え、比較的簡便に調査が可能である環境
条件調査(pH、硫化水素、二酸化炭素)を行うものとする。
また、二次点検では、代表箇所,不良箇所のコア抜き調査を基本に行い、かぶり厚さ、中性化試
験、圧縮強度試験等により、次のチェック段階における劣化予測の推計等に用いるものとする。
なお、当面の間、参考資料-4(資料編 p5∼16)「下水道施設(土木構造物)に係る点検マニュア
ル(案)」により運用するものとする。
II-70
3.3
Check:点検調査結果の評価
一次点検、二次点検の調査結果の評価(時系列比較、定量評価、劣化予測等)を行うとともに、
「管理ナビゲータ」を活用して適切な長寿命化対策計画を策定するとともに、PDCA のシナリオ検討に
つなげる必要がある。
また、膨大な資産ストックを抱える下水道事業においては、適切な下水道使用料収入の範囲で持
続可能な下水道サービスを提供する必要があるため、ストックマネジメントとして最適な PDCA サイク
ルの構築を目指す。
II-71
3.4
Action:長寿命化対策の立案と補修・保全の実施
設備更新等に併せ、「管理ナビゲータ」の選定条件(助言・指導)を基にした適切な長寿命化対策
を実施し、最適な PDCA サイクルにより、LCC の最小化を図るものとする。
また、さらなる要素技術の開発を進め、効率的効果的な対策とする必要がある。
「管理ナビゲータ」を用いた長寿命化対策に関して、次に解説する。
II-72
3.4.1 管理ナビゲータを用いた長寿命化対策
(1)
管理ナビゲータの必要性
適切な長寿命化対策計画を策定するためには、点検調査結果から最適な長寿命化対策を選定
するシステムである「管理ナビゲータ」(部門)を設置する必要がある。これは関連する情報を一元的
に集約・管理するためであり、長寿命化対策のPDCAサイクル(P:長寿命化計画、D:点検調査の
実施、C:点検調査結果の評価、A:補修・保全等)の各段階において、最適な条件でナビゲートする
ことを可能にする。
II-73
(2)
管理ナビゲータの役割
接続可能な下水道サービスにおいては、下水(汚水)処理を継続すること(供用の持続)に伴って、
長寿命化対策をタイムリーに実施することが重要課題である。「持続性を強化するため、点検調査、
長寿命化対策計画の策定、対策の実施と検証」に至るPDCAサイクルを最適化する必要がある。
一般にPDCAサイクルの評価を考えるとき最終的には「コストの評価」となろうが、PDCAサイクル
のあるべき姿を個別具体的に考えた場合、コストを目標値とすると、入力すべき多量のデータ(経年
等のパラメータや資産額等)や長期間に及ぶ検証が必要となることから、迅速にその最終評価をす
ることが困難な実情にある。
そこで、評価にあたっては、PDCAサイクルにおける入力条件、システム条件、出力条件の流れを
水の流れになぞらえ、水の流れが適切に制御されることを必要条件とし、この適切に制御された流れ
がシステムの持続性に良い影響(プラスの影響)を与えると評価できれば、このシステムを継続すべ
きとされるものとする。
II-74
(3)
管理ナビゲータによるPDCAサイクルの最適化の概念
最適化されたPDCAサイクルでは、現場ニーズを満足させながら、リードタイム※を最短化し、また、
劣化度を最小限に抑えた状態にある。
PDCAサイクルの工程間を移動する入・出力情報や作業を水流に例えると、水流がよどまず、
粛々と流れている状態にあり、具体的には、途中のタンクにたまらず(残情報や残作業をなくす)かつ
速い流れ(最短のリードタイム)で、適切な量(ニーズに合った情報量や作業量)の水が流れる姿であ
る。水の流れを定量化(具体化)するのは、蛇口となる各工程の計画(部門)である。そこで、工程計
画は、PDCAサイクルの管理者(以下、「管理ナビゲータ」という。)の意思を反映させた形で立案さ
れることになる。効率的なPDCAサイクルを実現するためには、管理ナビゲータを中心とした工程計
画が重要になる。
※
リードタイムとは、命令が発せられてから完了するまでの期間(ある目的のためにかかる期間)のこと
をいう。すなわち、施設の維持を行う場合、補修の必要性を確認したときから、工事が終了するま
でのことで、通常は日単位、日数で示す。
リードタイムの短縮は維持管理にとっての重要な事項である。補修工法の良否をこの部分で評
価することも可能で、リードタイムの短さにより作業の緊急性を判定させる。
II-75
(4)
管理ナビゲータの座標軸
4つの工程からなるPDCAサイクルにおいては、それぞれの工程における調査・検証により不具合
の発生やよどみの増加が判明する場合がある。現場で要求されるニーズは多様であり、不具合も現
場ごとに異なるので、各種対策の適用性を確認・検討している間によどみが起こりやすい。
各現場では、トラブルの根本原因となっている先頭工程への情報入力(リスク情報)と4工程での
個別のよどみ実績(実態)、最終工程での出力実績(よどみの実態)がとらえられ、「管理ナビゲータ」
に報告される必要がある。
II-76
(5)
管理ナビゲータのフィードバックコンセプト
各現場を水流モデルに表し、問題解決施策として「プロセス制御」を勘案すると、プロセスの目的を
適切な状態(よどみの最小化)に制御するために、「フィードバックプロセス制御」が管理ナビゲータと
して持つべき妥当な方法と考えられる。
管理ナビゲータは、次の3つの機能をフィードバックコンセプトとして持ち、工程計画の立案(改善)
と実施を検討する必要がある。下水処理場の維持管理においては、
① 対策必要施設の数を平準化(抑制)して、予測量をもとに補修(補正)工程への入・出
力量を算出する機能
② 平準化(抑制)した予測量と実績量の差を最小化するように工程計画を修正する(見
直す)機能
③ 修正された工程計画と途中工程の予測量との差をフィードバックする機能(補修(補
正)計画の最適化)
II-77
3.4.2 要素技術の総合化等による長寿命化対策の最適化
(1)
要素技術の総合化と最適化等
長寿命化対策の推進にあたっては、企画、設計、施工という従来の設計・施工プロセスを、より効
率的・効果的なものに向上する必要がある。
プロセス下流の施工準備での関係者が、プロセス上流の企画段階で、対策の要素技術(各施工
技術)と劣化度等との関係を十分理解していることが大切である。その結果、施工段階で起こり得る
不都合(施工法が現場と不適合等)を事前に回避することができるようになり、プロセス下流からの後
戻りを防ぐことができる。
プロセスの各担当者が、それぞれの作業の遂行で有用な要素技術の情報を共有することができ
れば、それぞれの作業の進捗を促進することが可能となり、迅速な対応や工期短縮が期待できる。
すなわち、長寿命化対策を迅速かつ合理的にするには関連情報(特に現在ある情報=顕在情
報)を、データベースに集約して、「管理ナビゲータ」が把握するとともに、情報共有の範囲は、管理
部門からパートナー部門(経理・契約部門等)に広げる必要がある(コラボレーティブエンジニアリン
グ)。
さらに、設計・施工段階で求められる機能(性能)向上とコスト削減に対しては、未来情報(潜在情
報)を可視化・共有化して、いかに設計データに的確に組み込むことができるかが重要となる。また、
コスト削減手法の導入にあたっては選定した施工法等が設計者の意図どおりに機能するかどうか検
証し、その適合性を改善・向上(最適化)させる必要がある。
II-78
(2)
長寿命化対策に向けた設計・施工過程の最適化
長寿命化対策の品質(成果)の確保やプロセス時間の短縮等を図るため、設計プロセスでは、機
能や品質の向上やLCCの最小化、施工工程では対象現場での施工性や環境条件等を考慮した各
過程の最適化が求められる。
II-79
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