Comments
Description
Transcript
単細胞海藻の大量開放栽培槽における通気撹拌方式の
単細胞海藻の大量開放栽培槽における通気撹拌方式の検討 An aeration・agitation method for open-air mass-culture of uni cellular marine algae 物質・環境システムコース 1085114 永松 伸一 要旨 背景 海産性単細胞藻 Phaeocystis sp.は分厚い多糖の外被を持ち、その外被は熱または酸 処理によって剥離し、分取することが出来る。外被および藻体は簡易浄水材、マルチフ ィルム、生分解性プラスチック、赤潮凝集材、自養植林杭などに応用研究されている。 今後、さらにこれらの研究を進めるためにも材料となるこの藻をより大量に栽培するこ とが必要となる。そのために、大量栽培に用いる海水槽の通気撹拌装置を検討した。現 在、Phaeocystis sp.は人工海水と PES 培地を使用し、100L タンクで開放型栽培を行 っている。次の段階として 2000L のタンクを使っての栽培をするために、タンクを十分 に通気撹拌するための装置が必要である。その装置の条件として次のことがあげられる。 ・ タンク全体を効率よく撹拌できること ・ 炭酸ガスを十分に供給できること ・ 高効率であり、ランニングコストを抑えることが出来ること ・ 維持管理がしやすい構造であること 方法 藻体の栽培に不可欠な二酸化炭素は、海水面からの溶入では不十分なので、海水中に 通気する必要がある。この通気によって発生する気泡のみを動力として用いる、撹拌装 置の検討,製作を行った。2000L タンク(丸型水槽 1720mm 上部直径 1950mm 下部直径 高さ 900mm)の5分の 1 スケールの水槽を作り、側面内壁に水流をコントロ ールする為のヒレと、ヒレ下部にエアストーンを設置した。その後、通気による水流の 発生の有無を確認した。次に、実際の 2000L タンクで、同様のヒレ、エアストーン設置 形式のものを作り、ヒレの大きさを変えたもの、ヒレを片側一枚のみにしたもの、対極 の位置に一枚ずつ計二枚取り付けたものなどを製作した。また、エアストーンをタンク 底部の中心に設置、その上部から、外周に向けてヒレを伸ばしたものを製作した。それ ぞれの装置について、海水中の[半径×深さ]の断面で、流速分布の測定を行った。 結果 5分の1スケールの水槽で通気を行った結果、水槽内を旋回する水流が生まれた。実 際のタンクにおいて、タンク側面内壁にヒレを設置する形式により、タンク外周におい て強い水流を得ることができた。しかし、タンク中心に行くにつれて流速は弱くなり、 中心部では流れが停滞していることがわかった。タンク中心部にヒレを設置する形式に おいては、タンク上部では、設置したヒレにより、タンク全体を回す水流を発生させる -2- ことが出来た。また、エアストーン下部で渦を発生させ、その渦により吸引力を生み出 した。これら2つの力の作用により、タンク側面内壁にヒレを設置する形式と同じ通気 量にもかかわらず、より強い水流を生み出すことに成功した。したがって、この形式を 用いることで、単純な構造かつ効率的にタンクを撹拌できる可能性が見出せた。 -3- 目次 5 5 緒言 1章 材料と方法 1-1 Phaeocystis sp.について.vvvvvvvvvvvv 6 v6 1-2 機器類 2章 ヒレと通気による水流のコントロール 2-1 目的 77 2-2 方法 2-3 結果 88 2-4 考察 3 章 5 分の 1 スケールタンクにおける水流の把握 3-1 目的 88 3-2 方法 3-3 結果 3-4 考察 4章 99 10 10 実際のタンクを用いて流速の測定 4-1 目的 11 11 4-2 方法 4-3 結果及び考察 4-3-1 ヒレを二枚設置した装置 結果と考察 12 12 4-3-2 ヒレを一枚設置した装置 結果と考察 13 13 4-3-3 幅狭いヒレを一枚設置した装置 5章 結果と考察 14 14 15 15 中央竜巻方式 5-1 目的 16 16 5-2 方法 5-3 結果 5-4 考察 総括 18 18 謝辞 20 20 -4- 緒言 本研究室では、海産性単細胞藻 Phaeocystis sp.を用いてさまざまな応用研究を行 っている。この Phaeocystis sp.は、分厚い多糖の外被を持ち、その外被は熱または酸 処理によって剥離し、分取することができる。外皮および藻体は簡易浄水材、マルチフ ィルム、生分解性プラスチック、赤潮凝集材、自養植林杭などに使われている。今後、 さらにこれらの研究を進めるためにも材料となるこの藻をより大量に栽培することが必 要となる。 現在、Phaeocystis sp.は人工海水と PES 培地を使用し 100L タンクで約4週間、通 気開放型培養を行っている。次の段階として 2000L(丸型水槽 上部直径 1950mm 下 部直径 1720mm 高さ 900mm)のタンクを使って栽培をするために、現在の通気撹拌装 置のスケールアップでは、このタンクを十分に撹拌する事ができない。この通気撹拌装 置は、タンク底部に沈めた散気管を用いる。散気管から発生する気泡は、次の二つの役 割がある。 一つは、海水面からの溶入ではまかないきれない二酸化炭素を供給する役割である。二 酸化炭素は藻の成長において不可欠であり、培養の速度を握っている。今一つは、タン ク内を撹拌する水流を発生させ、タンク内壁に藻が付着すること抑制している。藻は、 壁面などに付着し大きなコロニーを作ると、増殖速度が低下する。 通常の撹拌装置は、プロペラ、スクリューなどをモーターで回転させる機構のもがほ とんどである。この機構では、通気のためのポンプと撹拌のためのモーターが必要であ る。そのため将来、この 2000L タンクを多数設置するとランニングコストを考える必要 がある。ランニングコストは、この藻を用いた製品の原価につながるので、この問題は 非常に重要である。また、藻の栽培は、複数のタンクを使い、それぞれ栽培開始日をず らして栽培し、二,三日ごと、または、各週で藻の回収を行うことを考えている。その ため、撹拌装置の機構が複雑なものを用いると、ろ過装置で藻を培養液から回収するな どの作業をおこなう上で維持管理が問題となる。これらを踏まえて、撹拌装置の条件と して次のことがあげられる。 ・ タンク全体を効率よく撹拌できること ・ 炭酸ガスを十分に供給できること ・ 高効率であり、ランニングコストを抑えることができること ・ 維持管理がしやすい構造であること 上記のことを念頭に置き、このタンクを撹拌できる装置の検討、製作を行いある程度満 足すべき結果を得た。 -5- 第1章 材料と方法 1-1 海産性微細藻類 Phaeocystis sp. Phaeocystis sp.はハプト藻綱、ブリネシウム目に属する、藻体の周りに分厚い外被 多糖を持つ海産性微細藻である。 図 1.Phaeocystis sp.の顕微鏡写真 図 2.Phaeocystis sp.の 100L タンク培養の様子 Phaeocystis sp.の培養には、すべて人工海水(アクアマリン、八洲薬品)を用い、栄 養塩強化培地を加えた PES 培地で培養を行っている。まず、Phaeocystis sp.を 1%寒天 培地に移植し、1-2 週間で得られるコロニーを液体培地 500mlにスケールアップし無 菌振盪培養を行なった。その後、100l のポリカーボネートのタンクに移し、散気管を設 置し通気によって通気と撹拌を同時に行い、約4週間(明期 16 時間 暗期 8 時間)培養し た。培養した Phaeocystis sp.は集藻ろ過装置で、濃縮しながら回収した。 1-2 機器類 電磁式エアーポンプ LP-40A 安永(株) 簡易型プロペラ式水流計 VR-201 KENEK(株) -6- 第2章 ヒレと通気による水流のコントロール 2-1 目的 藻体の栽培に不可欠な二酸化炭素は、海水面からの溶入では不十分なので、海水中に 通気する必要がある。そのため、この通気により発生する気泡を動力として水流を発生 させることはできないかと考えた。通常、タンク底部中心に散気管を設置すると散気管 上部で上昇する水流が起き、タンク外周で沈み込みが起きる。しかし、これではタンク 内の水が、ほぼ同じ位置を循環してしまい、あまり好ましくない。そこで、タンク内に 発生する水流は、タンク底部と上部を撹拌できることに加え、タンク内を旋回させるこ とも必要だと考えた。まず、このような水流を発生させることが可能であるか、確かめ た。以下の装置は、散気管から発生する気泡の流れをヒレで制御することで、タンク内 の水流をコントロールできないかと考え、製作した装置である。 2-2 方法 円柱の水槽に、塩化ビ二-ルの板(厚さ 4mm)を扇型に切り出したヒレ繋ぎ合わせて 製作した、螺旋階段状のヒレを沈め、水槽底部に塩化ビニールパイプを使って製作した 散気管を設置し、通気を行った(図3)。 図 3.螺旋階段状撹拌装置の写真 -7- 2-3 結果 散気管より発生した気泡は、まず螺旋階段状のヒレまで上昇し、ヒレにぶつかるとヒ レに従って上昇した。それに伴い、気泡の流れとほぼ同じ流れの、水槽内を旋回する水 流が生まれた。 2-4 考察 この結果より、水流は気泡の流れに従って発生し、気泡の流れはひれの形によって、 決まることが確認できた。このことより、この気胞の流れを制御するヒレをタンク内に 設置することで、水流をコントロールできる可能性が見出せた。そこで次に、2000L タ ンク 5 分の 1 スケールのタンクを用いて実験をすることとした。 第3章 5 分の 1 スケールタンクにおける水流の把握 3-1 目的 ヒレと通気により水流をコントロールできる可能性が見出せたので、実際の 2000L タ ンク(丸型水槽 上部直径 1950mm 下部直径 1720mm 高さ 900mm)での実験に移る 前に、5 分の 1 スケールタンクで、さまざまな形のヒレを設置し、そこで発生する水流 の概要を得ることとした。 3-2 方法 タンク側面内壁に水流をコントロールするためのヒレ(塩化ビニール板 厚さ 3mm) と、ヒレ下部に散気管(熱帯魚用)を設置した。ヒレは、対極の位置に二箇所、一箇所に つき二枚設置したもの,一枚のみのもと、いくつか形を変えて設置した。その後、細か く裁断した新聞紙を水に沈め、通気を行い、発生した水流を目視で観察した。 3-3 結果 図 4 片側二枚ヒレ、片側一枚ヒレとも、発生した気泡の流れにより、図 5 矢印のよう なタンク内を旋回する水流が得られた。しかし、図5.A 点において、新聞紙がたまり 流れが滞っていることが確認できた。また、新聞紙の動き方の違いにより、タンク内で 複雑な流れが起きていることがわかった。 -8- 3-4 考察 この装置により、タンク内を旋回する大まかな流れは確認できた。しかし、図5 A 点 のような場所で流れが滞り、新聞紙が沈んで溜まっている箇所やタンク内壁付近の非常 に速い流れが起きている箇所など、同じタンク内でありながら複雑な流れが起きていた。 また、部分的な流れのよどみは、この装置のヒレの形と設置角度によって、流れの死角 ができていると考えた。そこで、実際の 2000L タンクで、5 分の 1 スケールタンクと同 じようにヒレを設置し、発生した水流の流速の分布を詳しく測定し、装置の改善を行う ことにし た。 図4.ヒレの形と設置位置 図5.通気により発生した流れ -9- 第4章 実際のタンクを用いて流速の測定 実際のタンクで、模型と同じように対極2枚のヒレを設置し、通気により発生した流 れを見た。5 分の 1 スケールの模型と同様に気泡はヒレに従い上昇し、タンク全体を旋 回する水流が発生した。しかし、散気管から発生した気泡が、水中に気泡の壁を作り、 発生した左から右へ動く流れを阻害していた。そのため、散気管右側、タンク底部によ どみが起き、ごみなどの浮遊物が沈殿していた(図6)。そこで、改善策として、散気管 の設置位置を底部より少し浮かすことで、タンク底部をそのまま左から右へと通過する 流れが発生し、よどみは改善された(図7)。よって、以下の実験では、散気管は全てタ ンク底部から少し浮かせてある。 図6.よどみの発生位置 図7.装置改善後の流れ - 10 - 4-1 目的 タンク内の流速の分布を測定することで、最も効率良くタンクを撹拌できるヒレの形 を調べる。また、5 分の 1 スケールの模型で発生したであろう流速の分布を数値化し、 特定の場所のおいて流れが滞っていた原因の調査を目的とした。 4-2 方法 ヒレは塩化ビニールのダンプレートを材料に製作している(以下ヒレは全てこの素材 を用いて製作している)。 このヒレの幅を変えたもの(図9 W=幅)、ヒレをタンクに一 枚設置したもの、二枚設置したものを製作した。測定機器は、簡易型プロペラ式水流計 KENEK VR-201 任意の点(横 を用いて測定した。測定位置は、タンクを縦半分に切った断面積の 15cm 縦 15cm 間隔)で、流速を測定した。 図8.タンク断面図、流速測定点 図9.ヒレの形と設置位置 - 11 - 4-3-1 ヒレを二枚設置した装置の流速分布測定結果 この装置は 5 分の 1 スケールの模型と同型のヒレを設置した構造である。 図 10.幅 40cm(図9 W=40) ヒレ二枚を設置した装置での流速測定結果 図 10 の測定結果より、タンク中心付近ではほとんど流れがないことがわかった。し かし、タンク外周においては、10~20cm/S 程の強い水流が発生していた。また、上記 の表 A~B 間でも局所的に流れが無い場所があった。 考察 5 分の 1 スケールの模型と同じ構造のこの装置で発生した水流は、模型の時と同様に 複雑流れが起きていた。この事は図 10 の表に示した数値のばらつきとしてあらわされ ている。この原因は、ヒレの構造、設置位置にあると考えられる。タンク外周、ヒレが 細くなり切れる付近で気泡の吹き上がりが起きる。ヒレ下部では、気泡と同じ流れの水 流が形成されることで、タンク外周において強い流れが形成される。図 10 黒矢印はこ のタンク内の水の流れを表しており、外周に沿って流れた強い水流の一部は、次のヒレ にぶつかる。その後、ヒレに乗り上げるようにして押し流され、タンク外周より内側に 別の流れを形成していたからだ。これらのことより、タンク内のいくつかの場所におい て、それぞれの流れがぶつかり合うことで、複雑な流れを作り上げていたと考えた。 - 12 - 4-3-2 ヒレを一枚設置した装置の流速分布測定結果 この装置は、図 10 と同じヒレと散気管を片側のみに設置した構造である。よって、 散気管から出る空気の量は、倍になっている。 図 11.幅 40cm(図9 W=40) ヒレ一枚を設置した装置での流速測定結果 図 11 の測定結果より、A~B 間において、図 10 の A~B 間より速い流れが発生してい た。しかし、C~D 間では、外周においては 10cm/S 程度の流れはあるものの、中心付近 に行くにつれて、ほとんど流れが無かった。 考察 図 11A~B 間と C~D 間の流速の分布に大きな差ができた要因は、この装置の撹拌能力 不足にある。散気管を一つにすることで、散気管から出る空気の量は倍になった。それ で、A~B 間で発生している流速も、図 10 の A~B 間より強くなっている。しかし、ヒレ と散気管が無くなった C~D 間では、極端に流速が落ち、外周以外では、ほとんど流れ が起きていなかった。 - 13 - 4-3-3 幅が狭いヒレを一枚設置した装置の流速分布測定結果 この装置は、先ほどの図 11 と同じく、ヒレと散気管を片側のみに設置した構造であ る。 ただし、ヒレの幅(図9.W=幅)を狭くした構造である。 図 12.幅 30cm(図9 W=30) 幅が狭いヒレ一枚を設置した装置での流速測定結果 図 12 の測定結果より、C~D 間において、図 11 の C~D 間より速い流れが発生してい た。しかし、図 12 の A~B 間では、流れがまばらで、流れが滞っている箇所が多く見ら れた。また、中心部でも流れが滞り、ごみが沈殿していた。 考察 この構造の特徴は、図 12 の A~B 間において局所的な強い水流が発生しているが、そ のすぐ隣では、水流が全く無いといった現象が見られた。これはこの装置において、ヒ レの幅を細くすることで、気泡の流れを集約し、より強い流れを得ようとしたためであ る。そのため、ある一定の場所では、より強い水流が発生し、その流れの道筋以外では 流れが滞ってしまったからである。しかし、この強い流れの影響で、図 12 の C~D 間で は図 11 の C~D 間より強い水流が得られた。 - 14 - 第5章 中央竜巻方式 図 10~12 の装置でタンクを撹拌すると、外周では流速が極めて早く、中心付近では流 速がまったくないことが問題だった。それゆえ、これとは逆に、中心付近で強い流れを 起こすものと、考えたときに思いついたのが竜巻だった。竜巻はあまり大きな規模はな いものの、その渦の中心付近で強力な力を発生させる。そこで、このタンク内に竜巻の ような流れを、水中で発生させることができないかと、試行錯誤し、作り上げたのが以 下の装置である。 この装置は、散気管一つ、ヒレ一つという極めて単純な構造である。散気管をタンク 中心部、底から少し浮かして設置する。その上にヒレを設置し、ヒレをタンク内壁に向 けて伸ばした構造である(図 13)。この装置で通気をおこなうと、発生した気泡はヒレに 沿って上昇し、ヒレの先とタンク内壁がぶつかる場所で吹き上がりが起きる。吹き上が った水は、タンク全体を動かす力となる(図 14)。一方、タンク底部では、散気管を少し 浮かすことでできた隙間に、通気によってできた、散気管からヒレに向かって上昇する 水流と、ヒレによって発生したタンク全体を撹拌する水流、この二つが合わさることで、 強力な吸引力を持った渦をタンク中心部底に発生させる(図 15)。 図 13.ヒレの形と設置位置 - 15 - 図 14.タンク上部の水流 図 15.タンク下部の水流 - 16 - 5-1 目的 この装置における、タンク内の流速の計測 5-2 方法 測定機器は、簡易型プロペラ式水流計 KENEK タンクを縦半分に切った断面積の任意の点(横 15cm VR-201 を用いた。測定位置は、 縦 15cm 間隔)で、 流速を測定した。 5-3 幅が狭いヒレ一枚を設置した装置での流速測定結果 図 16.幅 30cm(図9 W=30) 幅が狭いヒレ一枚を設置した装置での流速測定結果 タンク全体で高い流速が観測できた。また、タンク下部において高い数値を示してい る箇所は、タンク下部に発生している吸引力を持った渦の力を反映している。 5-4 考察 タンク全体で高い数値を示し、底部では吸引力を持った渦の力により、さらに強力な 水流が発生していることがわかる。散気管の位置で海水が上昇し、タンク上層へ移動、 タンク 7 内を旋回しながら下部へと移動、といったお互いの流れがぶつかることなく循 環しているからである。また、このタンク底部において、吸引力のある速い水流の力で、 以前の装置では中心付近に沈殿していたゴミ等は全て巻き上げられている。この力は、 実際の藻の栽培に役に立ち、藻がタンクの底に沈殿する事を抑えることができる。 - 17 - 総括 今回、実験に用いた装置の特徴をそれぞれ上げる。 図 10.幅 40cm(図9 W=40) ヒレ二枚を設置した装置 ・ この装置は、ヒレ二枚、散気管二個の構造で、最もタンク外周で強い水流を起こせる。 これは、各二枚のヒレで発生した水流が常に外周を流れるからである。しかし、この装 置の問題点は、二枚のヒレの位置の微妙なずれ、タンクを置いている地面のわずかな傾 きに影響を受け、各ヒレによって発生する水流の強さが異なってしまう。そのため、長 期間バランスをとり続けることは困難である。 図 11.幅 40cm(図9 W=40) ヒレ一枚を設置した装置 ・ この装置は、ヒレ一枚、散気管一個の構造で、ヒレを設置した側では、速い流速を得 ることができた。しかし、ヒレが無い方では、外周以外ほとんど流れは無かった。発生 した水流は、お互いがぶつからず、相殺することなくタンク内を旋回するが、発生して いる水流の力が弱いためタンク全体を撹拌するにいたらなかった。この装置において、 通気量を増やし、発生する水流の規模を大きくさせることで、より全体を撹拌すること は可能である。しかし、タンク外周に、水流を発生させる装置がついている以上、中心 付近に台風の目のような、渦の中心ができること否めない。そのため、その沈殿ができ る位置に散気管を設置し、吸引力を持った渦を新たに作る、などの改善が必要である。 ・ 図 12.幅 30cm(図9 W=30) 幅が狭いヒレ一枚を設置した装置 この装置は、ヒレ一枚、散気管一個の構造でヒレの幅が 30cm と他のヒレより 10cm 小さい。そのため、気泡の流れを集約することができる。そのため、今回製作した 装置の中で、極所的には最も強い水流を発生させることが可能である。ただし、そ の流れは、タンク内の一部にしか及ばず、タンク全体を撹拌するには不向きであっ た。 - 18 - ・ 図 16.幅 30cm(図9 W=30) 幅が狭いヒレ一枚を設置した装置 この装置は、水流を発生させる動力源がタンクの中心にある。また、タンク内に発生 する渦が、吸引力を持つという、上記の三つの装置とは仕組みが全く異なっている。タ ンク内では、主に二つの大きな流れがあり、タンク上部に発生し、タンク全体を撹拌す る水流。 もう一つは、タンク下部に発生し、強力な吸引力を持った渦である。この二つの流れの 相乗効果により、単純な構造ながらも、非常に効率よくタンク全体を撹拌することに成 功した。その上、この装置はヒレの設置角度や位置を変えることで、タンク中心底部で より強力な渦を発生させることが可能である。ただし、現在のタンクでこのより強力な 渦を起こすと、タンク全体を撹拌する流れが弱くなってしまう。渦の強さと全体を撹拌 する力は、反比例しているように見えた。その上、この渦は強くすればするほど不安定 になってしまう。この渦を安定して形成できれば、さらなる可能性が見出せると考えて いる。 今後の課題として、現在までに製作した各装置を用いて、溶存二酸化炭素量の測定や 藻の増殖速度とハプトースの収量の関係、それらとランニングコスト等を比較し、最善 の装置を選んでいく必要がある。 - 19 - 謝辞 本研究をまとめるにあたり、絶えず懇切なご指導とご助力を賜った高知工科大学院特 任教授の向畑恭男教授に深く感謝の意を表します。また、研究遂行上種々の有益なる御 尽力をいただいた 高知工科大学堀澤栄講師に厚く御礼申し上げます。 本研究遂行にあたって絶えずご協力いただいた関博美氏をはじめ環境治材開発センタ ーの卒業生及び在籍する諸君に感謝し厚く御礼申し上げます。 - 20 -