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肺がん検診喀痰細胞診の癌発見率向上に関与する要因の検討

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肺がん検診喀痰細胞診の癌発見率向上に関与する要因の検討
調査研究ジャーナル 2014 Vol.3 No.2
第 52 回千葉県公衆衛生学会優秀演題
原著
肺がん検診喀痰細胞診の癌発見率向上に関与する要因の検討
田口明美 1、金親久美 1、沢田ひとみ 1、早田篤子 1、桑原竹一郎 1、柳堀朗子 1、鈴木公典 1、
藤澤武彦 1、柴光年 2、中谷行雄 3、吉野一郎 4
Analysis of Factors Related to the Lung Cancer Detection Rate in Mass Screening
with Sputum Cytology
Akemi Taguchi1, Hisami Kaneoya1, Hitomi Sawada1, Atsuko Soda1, Takeichiro Kuwabara1,
Ryoko Yanagibori1, Kiminori Suzuki1, Takehiko Fujisawa1,
Mitsutoshi Shiba2, Yukio Nakatani3, Ichiro Yoshino4
要旨
肺がん検診喀痰細胞診の癌発見率は、細胞判定のみならず種々の要因による影響が推察される。そ
こで喀痰検診による肺癌発見率向上を目的に、1995 年~ 2008 年の喀痰集検受診者のうち喀痰細胞
診が契機で発見された肺癌症例を対象とし、年齢、性別、喫煙指数、血痰症状の有無、精検受診率、
集検受診から肺癌確定までの経過観察期間について解析した。発見肺癌の年齢は 70 歳~ 74 歳にピー
クが認められ、喫煙指数は 600 以上が 88.6%でその約半数は 1,000 以上の重喫煙者であり、1,000
以上群のⅠ期癌比率は 47.8%で他群に比較し高率であった。また市町村別の精検受診率と肺癌発見
率の散布図は、緩やかな正の相関傾向が認められた。喀痰集検の中等度異型群では、61.7%が肺癌
確定までの経過観察期間に 3 年を要していた。
肺癌発見率の向上には、重喫煙者の検診受診者数を増加させるとともに、精検受診率を向上させ、
中等度以上の異型細胞出現症例に対し、喀痰細胞診検査および胸部 CT 検査による 3 年間の慎重な
経過観察が必要である。
(調査研究ジャーナル 2014;3(2):108-113)
キーワード:肺がん検診、喀痰細胞診、癌発見率、喫煙指数、経過観察
はじめに
現在のがん検診は、健康増進法に基づく市町
村事業として実施されている。がん検診の実施
においては、有効性が確立された方法により高
質の精度管理を維持し、効率的に行われること
が望まれている。肺がん検診喀痰細胞診は早期
肺扁平上皮癌の発見を目的に「肺癌取扱い規約」
1)
(表 1)に従い実施されているが、喀痰細胞診
による肺癌発見率は、細胞判定のみならず種々
の要因に影響されていることが推察される。肺
がん検診において喀痰細胞診がより有用な検査
法となるよう、喀痰検診の適切な実施と精度向
上を目的に、肺癌発見率に関わる要因について
検討したので報告する。
表 1 肺がん検診喀痰細胞診の判定区分と指導区分
1
判定区分
2
A
公益財団法人ちば県民保健予防財団
国保直営総合病院君津中央病院 呼吸器外科
3
千葉大学大学院医学研究院 診断病理学
4
千葉大学大学院医学研究院 呼吸器病態外科学
連絡先:田口明美
〒 261-0002 千葉県千葉市美浜区新港 32-14 公益財団法人 ちば県民保健予防財団
(E-mail: [email protected])
(Received 30 Jun 2014 / Accepted 3 Sep 2014)
細胞所見
喀痰中に組織球を認めない
指導区分
材料不適、再検査
正常上皮細胞のみ
B
基底細胞増生
軽度異型扁平上皮細胞
現在異常を認めない
次回定期検査
繊毛円柱上皮細胞
C
D
E
中等度異型扁平上皮細胞
核の増大や濃染を伴う円柱上皮細胞
程度に応じて6ヶ月以内の追加検査と追跡
高度(境界)異型扁平上皮細胞
悪性腫瘍の疑いある細胞
直ちに精密検査
悪性細胞を認める
(日本肺癌学会 肺癌細胞診判定基準改訂委員会)
108
田口ほか:喀痰検診癌発見率向上に関与する要因の検討
対象と方法
肺がん検診喀痰細胞診は、年齢 50 歳以上の
うち喫煙指数(SI:Smoking Index 一日平均
喫煙本数×喫煙年齢)600 以上の者、40 歳以
上で 6 ヶ月以内に血痰の自覚症状があった者、
有害業務従事者のいずれか一つに該当する者を
肺癌高危険群として対象者にしている。1995
年~ 2008 年の肺がん検診喀痰細胞診の受診者
122,075 人(非高危険群を含む)のうち、喀痰
細胞診が契機で発見された肺癌症例 194 例を対
象とした。癌発見率への関与が推定される要因
の中から、①肺癌症例の年齢、②性別、③喫煙
指数、④血痰症状の有無、⑤精検受診率、⑥集
検受診から肺癌確定までの経過観察期間につい
て、検診成績を基に集計し比較検討した。
①肺癌症例の年齢は、5 歳ごとに集計した年
齢分布にて検討した。②性別については、大多
数は男性肺癌であったが、比較対照として少数
の女性肺癌を詳細に集計した。③ SI は 600 以
上の重喫煙者を 600 ~ 799、800 ~ 999、1,000
以上の 3 群に分類し、Ⅰ期肺癌比率について比
較した。またⅠ期癌症例について、気管支鏡有
所見の中枢型と気管支鏡無所見で亜区域支まで
に腫瘍所見のない末梢型に分類し、症例数を比
較した。④血痰症状の有無は、血痰の自覚症状
があった肺癌症例の頻度・組織型・SI について
集計した。⑤精検受診率は、1995 年~ 2008 年
に喀痰集検受診者の延人数が 1,000 を超えた 29
の実施市町村を対象に、喀痰細胞診が契機で発
見された各市町村の肺癌発見率を集計した。次
に同期間における各市町村の精検受診率と肺癌
発見率の散布図を作成し、関連性の有無につい
て解析した。⑥肺癌症例の集検受診から肺癌確
定までの経過観察期間については、喀痰集検の
D,E 判定(高度異型・悪性:要精密検査)群お
よび C 判定(中等度異型:要追加検査)群の 2
群について集計し、カイ 2 乗検定にて統計学的
な解析を行った。
結果
1995 年 ~ 2008 年 の 喀 痰 集 検 の 受 診 者 数
122,075 人(非高危険群を含む)のうち、肺癌
は 194 例で癌発見率 10 万対 159 であった。肺
癌組織型の比率では扁平上皮癌が全体の約半数
を占め 52.4%、そのうち中枢型は 31.4%、ま
た末梢型は 18.0%であり、腺癌 21.1%、小細
胞癌 8.2%であった。喀痰集検の各判定比率は
C 判定 2.57%、D 判定 0.13%、E 判定 0.12%、
各判定からの症例数は C 判定 62 例、D 判定 39
例、E 判定 93 例で、D 判定と E 判定の判定比
率を合わせた要精検率は 0.25%であった。①肺
癌症例の年齢は 70 歳~ 74 歳に発見数のピー
クが認められ、60 歳以上が全肺癌の 92.2%を
占め、50 歳代では 7.8%、50 歳未満は 0.0%で
あった(図 1)。②女性肺癌は 194 例中 4 例 2.1%
であり、平均年齢は 70 歳であった。SI および
組織型の内訳は、SI:600 以上 1 例(扁平上皮
癌)、SI:600 未満 2 例(扁平上皮癌)、非喫煙
者 1 例(腺癌)、また肺癌病期はⅠ期 1 例、Ⅱ
期 2 例、Ⅳ期 1 例であった。③肺癌症例の SI
は 600 以上が 172 例 88.6%、600 未満は 19 例
9.8%であった。SI:600 以上の約半数は 1,000
以 上 の 重 喫 煙 者 で 90 例 46.4 %、600 ~ 799、
800 ~ 999 がそれぞれ 41 例 21.1%であった(図
2)。さらに SI:600 以上の重喫煙者 3 群につい
てⅠ期癌比率を比較すると、SI:1,000 以上群
50%
30%
25%
40%
肺癌症例
肺癌症例
56
20%
15%
90
30%
40
40
20%
10%
41
41
600~799
800~999
22
21
5%
10%
10
0%
5
0
0%
80
75
上
以
79
~
74
〜
70
69
~
64
~
59
~
54
~
満
未
年 齢
65
60
55
50
50
n=194
(1995年~2008年)
図 1 喀痰集検より発見された肺癌症例の年齢
分布
70 歳~ 74 歳に肺癌発見数のピークが認められ、60 歳
以上が全肺癌の 92.2%を占め、50 歳代では 7.8%、50
歳未満は 0.0%であった。
n=194
8
400未満
11
400~599
3
1000以上
喫煙指数
〔1日の平均喫煙本数×喫煙年数〕
不明
(1995年~2008年)
図 2 喀痰集検より発見された肺癌症例の喫煙
指数分布
喫煙指数 1,000 以上が最も多く 90 例 46.4%で、全体の
約半数であった。
109
調査研究ジャーナル 2014 Vol.3 No.2
47.8 %、800 ~ 999 群 46.2 %、600 ~ 799 群
34.1%であり、喫煙指数が高い群ほど高い傾向
が認められ、1,000 以上群が最も高率であった
(図 3)。また 3 群のⅠ期癌における中枢型およ
び末梢型の比率は、SI:1,000 以上群 [ 中枢型
21 例 23.3%・末梢型 21 例 23.3%・部位不明 1
例 1.1% ]、800 ~ 999 群 [ 中枢型 8 例 19.5%・
末 梢 型 11 例 26.8 %・ 部 位 不 明 0 例 0.0 % ]、
600 ~ 799 群 [ 中枢型 4 例 9.8%・末梢型 9 例
22.0%・部位不明 1 例 2.4% ] であった。④肺
癌症例の血痰の自覚症状については、肺癌 194
例中 9 例 4.6%であり、SI および組織型の内訳
は SI:600 以上が 8 例で扁平上皮癌 6 例・小
細胞癌 2 例、また SI:600 未満の肺癌は非喫煙
者の腺癌 1 例のみであった。⑤精検受診率につ
いては、延受診者数が 1,000 人を超える 29 の
実施市町村について調査した。精検受診率〔精
検受診者数/ D,E 判定要精検者〕と肺癌発見率
を散布図に示すと、明らかな有意差はなかった
が、近似曲線は緩やかな右肩上がりで正の相関
傾向が認められた(図 4)。⑥集検から肺癌確定
までの経過観察期間については、D,E 判定(高
度異型・悪性:要精密検査)群で平均 0.6 年で
あり、82.6%が 3 年未満に肺癌が確定していた。
それに対し C 判定(中等度異型:要追加検査)
群では平均 2.5 年で、3 年未満の癌確定比率は
61.7%であった(図 5)。C 判定は集検受診から
癌確定までに期間を要するが、C 判定のⅠ期癌
比率は 61.3%で D,E 判定の 40.2%よりも高率
であった。C 判定と D,E 判定の経過観察期間に
おけるバラツキの程度を比較すると、統計学的
に有意差が認められた(P ≦ 0.001)。
肺
肺癌発見
率(10万 対比)
700
考察
厚生労働省による人口動態統計によると、肺
癌死亡数は 1958 年から増加し、2012 年には男
性 51,372 人・女性 20,146 人で 7 万人を超えた 2)。
わが国では 1987 年から老人保健法により各市
町村で肺がん検診が導入され、胸部 X 線検査お
よび喀痰細胞診検査の併用により「早期肺癌発
見」を目的に実施されている。喀痰細胞診は、
喀痰中に混入した異型細胞を顕微鏡で観察し、
細胞の微細な変化を識別することで肺癌を検出
する検査法であり、早期肺癌のみならず前癌病
変の検出も可能である。
肺がん検診における喀痰細胞診の特長は、気
管支に発生する微小肺癌、気管支表面を進展す
る表層進展肺癌、癌が上皮内に限局する上皮内
癌等の胸部 X 線無所見早期肺癌の検出であり、
43
47.8%
47.8%
1000以上
2
2.2%
2.2%
中枢型:21 末梢型:21 不明:0
中枢型:21 末梢型:21 不明:0
90
19
46 3%
46.3%
46.3%
46
3%
800~999
5
12 2%
12.2%
12.2%
末梢型:11 不明:0
中枢型:8 末梢型:11
中枢型:8
不明:0
41
14
34.1%
34.1%
600~799
5
12.2%
12.2%
中枢型:4 末梢型:9 不明:1
末梢型:9 不明:1
中枢型:4
41
0%
10%
Ⅰ
20%
Ⅱ
30%
Ⅳ
50%
9
10.0%
10.0%
60%
18
20.0%
20.0%
6
14 6%
14.6%
14.6%
7
17.1%
17.1%
11
26.8%
26.8%
40%
Ⅲ
18
20.0%
20.0%
1
2.4%
2.4%
70%
4
9 8%
9.8%
9.8%
10
24.4%
24.4%
80%
不明
90%
100%
(1995年~2008年)
図 3 喫煙指数 600 以上の肺癌病期
喫煙指数 600 以上の重喫煙者を 3 群に分けてⅠ期癌比
率を比較すると、喫煙指数が高いほどⅠ期癌比率も高
い傾向が認められ、1,000 以上群が最も高率であった。
y = 2 2 3.68x + 2.3446
R² = 0 . 0396
600
500
77
C判定
400
31
31
11.7%
66
18
18
50.0%
11.7%
中等度異型
10.0%
28.3%
50.0%
10.0%
28.3%
62
300
✻
200
22
22
87
87
D,E判定
100
65.9%
16.7%
65 9%
65.9%
高度異型/悪性
66
3
16.7%
16
7%
4.5%
17
17
12.9%
12 9%
4 5% 12.9%
4.5%
132
0
40%
50%
n=29 (延受診者数1000人以上)
60%
70%
精検受診率
80%
90%
100%
(1995年~2008年)
図 4 喀痰集検実施市町村の精検受診率と肺癌
発見率
市町村別の精検受診率〔精検受診者数/ D,E 判定要精
検者数〕と肺癌発見率を散布図に示すと、近似曲線は
緩やかな右肩上がりで正の相関傾向が認められた。
110
n=194
✻
P≦0.001
✻P≦0.001
0%
10%
0~1年
年
20%
30%
1~3年
年
40%
50%
年以
3年以上
60%
不明
70%
80%
90%
100%
(1995年~2008年)
((1995年~2008年)
年
年)
図 5 喀痰集検より発見された肺癌症例の経過
観察期間
D,E 判定(高度異型・悪性)では 82.6%が 3 年未満に
肺癌が確定しているのに対し、C 判定(中等度異型)
では 61.7%であった。
田口ほか:喀痰検診癌発見率向上に関与する要因の検討
喀痰中に異型細胞が混入していれば画像に写ら
ない肺癌の発見の契機になり得ることである 3-13)。
また胸部 X 線では、心臓、縦隔、横隔膜、骨、肺
門部などの既存構造と病変が重なると肺の画像
上の死角(肺容積:26.4%、肺面積:43.0%)14-17)
が生じ、X 線による発見が困難になるため、喀痰
細胞診による肺癌発見動機の可能性が高くなる。
さらに胸部 X 線が有所見であっても、肺炎に類
似した所見を呈する浸潤性粘液産生腺癌 18)、ま
た画像での識別が困難な肺結核と肺癌の合併症
19-23)
、既存の肺の変化と鑑別しにくい瘢痕様陰
影肺癌 24) 等の場合に、喀痰細胞診が診断の一
助になれば肺がん検診に寄与できると考えられ
る。
今回の調査では、発見肺癌の年齢は 60 歳以
上が 92.2%で 70 歳~ 74 歳にピークが認めら
れた。我が国の肺がん治療における高齢者の定
義は、2012 年の日本肺癌学会ガイドライン改
訂で 70 歳から 75 歳以上に引き上げられている。
近年において胸腔鏡下手術および縮小手術の導
入、定位放射線治療による局所治療の開発、体
力の温存が可能な分子標的薬の対応など、高齢
者のがん治療の適応が広がりつつある 25-27)。高
齢者は実年齢と暦年齢の差が個々において大き
いため、高齢者総合的機能評価(comprehensive
geriatric assessment;CGA)が行われるよう
になり、高齢者肺癌に対しても治療前評価を行
い、暦年齢に依らない治療やケアの個別化の検
討が始められている。今後、団塊の世代が肺癌
年齢にさしかかれば肺癌罹患率の増加が予測さ
れるが、高齢者の全身状態に配慮した肺癌治療
の確立とさらなる治療技術の進歩が期待され
る。
SI については全肺癌の 88.6%が 600 以上で、
その約半数は 1,000 以上であることから、SI:
1,000 以上の重喫煙者の受診勧奨による受診者
数の増加は、肺癌発見率向上において最も効率
的な方策であることが示唆された。また SI:
1,000 以上の発見肺癌の約半数はⅠ期肺癌であ
り、喫煙指数の高い群ほどⅠ期癌比率が高率で
あった。また肺癌症例を気管支鏡有所見の中枢
型と気管支鏡無所見の亜区域支までに腫瘍所見
のない末梢型に分類し、喫煙指数との関係につ
いて検討すると、最も喫煙指数の高い SI:1,000
以上群では中枢型と末梢型は同数であり、800
~ 999 群 600 ~ 799 群の順に中枢型の比率が
低くなっていた。今回の結果から、重喫煙者の
受診者数の増加は、肺癌の発生部位を問わず、
早期肺癌発見率向上に有用である可能性が示唆
された。
喀痰細胞診は安全に自己採取できる検査法で
あり、被曝の心配もなければ痛みを伴うことも
ない。また喀痰を採取する喀痰保存容器は常温
保存が可能で、安価なうえ取扱いも簡便である。
多くの特長を兼ね備えている喀痰細胞診である
が、一般住民の認知度は低い。重喫煙者の受診
率向上には、パンフレット、ポスター、インター
ネット等による肺がん検診の広報活動を強化す
るだけでなく、全住民ファイルからの未受診者
チェックを行い、郵便を利用した積極的な個別
の受診勧奨を行うことが重要である。また検診
の自己負担金の削減もしくは無料化は、受診率
向上に大きな効果が期待できると思われる。重
喫煙者だけでもサポートできるような対策が必
要である。
また肺癌確定者の血痰の自覚症状は全肺癌の
9 例 4.6%で、SI:600 未満は腺癌 1 例 0.52%
のみであった。血痰症状があった肺癌の殆どが
SI:600 以上の対象者に含まれることが明らか
であった。
肺癌を確定するには、気管支鏡検査および胸
部 CT 検査等の精密検査の受診が必要である
が、喀痰細胞診陽性者のなかには精検未受診者
が存在している。市町村別の精検受診率と肺癌
発見率の関係を確認するために散布図を作成す
ると、明らかな有意差はなかったが、近似曲線
は緩やかな右肩上がりで正の相関傾向が認めら
れ、精検受診の重要性が示唆された。肺癌の有
効な治療法を選択するには、癌の進達度および
組織型の正確な診断が不可欠であり、速やかに
適切な病院で適切な検査を受診することの重要
性を再認識する必要がある。実施市町村は精検
対象者および精密検査結果を把握し、未受診者
に対しては郵便のみならず電話による積極的な
個別の受診勧奨を行い、受診者をサポートする
ことが重要である。
集検受診から肺癌確定までの経過観察期間に
ついて 3 年間の癌確定比率をみると、喀痰細胞
診判定が D,E 判定(高度異型・悪性:要精密検査)
群で 82.6%、C 判定(中等度異型:要追加検査)
群では 61.7%であった。喀痰細胞診で C 判定(中
等度異型)細胞が出現した症例は肺癌の超危険
群であるが、高度異型細胞や癌細胞の出現ある
いは胸部 X 線異常陰影の出現までに期間を要す
る。当財団では喀痰細胞診検査と胸部 CT 検査
を併用した経過観察を行っている。C 判定から
のⅠ期肺癌の比率は D,E 判定に比較し高率で
あり、早期癌発見に寄与するためには、3 年間
の慎重な経過観察を行う必要があると考えられ
た。また、D,E 判定(高度異型・悪性)細胞が
111
調査研究ジャーナル 2014 Vol.3 No.2
出現した症例が、精密検査にて癌が確定しない
場合においても、経過観察の有用性が示唆され
た。
また癌発見率の調査報告は、集検年度の翌年
と翌々年に実施されているが、調査報告後にも
経過観察から発見される肺癌症例は少なくな
い。喀痰細胞診にて早期肺癌を疑う異型細胞の
出現を認めても、より早期の肺癌であるほど部
位確定が困難な場合が多く、経過観察期間が必
要となる。このような肺の臓器特異性も、癌発
見率に関与する要因の一つになっていると考え
られた。
喀痰細胞診は中枢型扁平上皮癌の早期発見に
有用な検査法であるが、発見肺癌の 18.0%は
扁平上皮癌末梢型、また 21.1%は肺末梢に多く
発生する腺癌であり、末梢型肺癌の異型細胞の
検出も可能である。しかし肺がん検診喀痰細胞
診は、肺癌発見率に関わる様々な要因により複
数のバイアスが掛かり、統計学的な有意差を明
らかにすることが困難になっている。肺がん検
診は喫煙指数 600 以上の高危険群が対象である
が、受診者には非高危険群が含まれており、非
高危険群を癌発見率の母数から分離できない状
況にある。また喀痰細胞診は、異型細胞は検出
できても病巣の特定ができないため、肺癌確定
までに平均 15 か月のタイムラグが生じ、癌発
見率の調査報告に間に合わない症例が存在して
いる。癌発見率に関与する要因は様々であるが、
喀痰細胞診がより有用な検査法となるよう、こ
れからも適切な実施を模索する必要があると思
われた。
まとめ
肺がん検診喀痰細胞診では、受診者の喫煙指
数、精検受診率、経過観察期間が、肺癌発見率
に大きく関与する可能性が示唆された。肺癌発
見率向上には、重喫煙者の受診者数を増加させ
るとともに、精検受診率を向上させ、中等度以
上の異型細胞が出現した受診者に対しては、中
枢型のみならず末梢型を含めた早期肺癌の発見
率向上のため、少なくとも 3 年間の経過観察を
行う必要があると考えられた。
なお、本論文の要旨は、平成 25 年度(第 52 回)
千葉県公衆衛生学会において発表した。
参考文献
1)日本肺癌学会編.肺癌取扱い規約 改訂第7版.東京:金
原出版.2010;184-91.
2)厚生労働省「2012年人口動態調査」より.
112
3)近京子,中嶋隆太郎,小野寺美枝,他.早期肺扁平上皮
癌のスクリーニングと判定における細胞質染色性
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