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アクティビティ連想型モデルの概念と可能性について
アクティビティ連想型モデルの概念と可能性について ─アクティビティ連想型モデルを用いた設計方法 その 1 ─ 設計モデル 設計プロセス 設計ツール 空間構成 行為 物語 1 研究の背景と目的 この研究の目的は、人の動きや行為、物語といった、ア クティビティを重視し、それらを容易に扱える設計モデル ( 設計プロセスにおいて、設計者の思考内容を何らかの表 現媒体によって外在化したもの ) と設計方法を開発するこ とにある。建築デザインの初期段階における空間構成法と して、容器としての空間形態を検討することから始めるの ではなく、中身としてのアクティビティを検討することか ら始める設計方法を提案したいと考えている。 物語を描くことは誰もが簡単にできる。例えば「庭を見 ながら朝ご飯を家族とたべて . . .」「家族を見送ったら庭 にでて、花に水をやって . . .」など、建築設計を専門的に 学んだことのない人であっても、このようなイメージなら ばごく普通に想い描くことができる。このような物語性を 重視した設計方法が確立できれば、設計の専門知識を持た ない人にとっても、生活の場面をつなぎあわせ、生活の物 語を描くだけで建築を考えることが可能ではないだろう か。 そのような設計方法を容易にする設計ツール ( 設計モデ ルの作成に用いるキット ) を開発することができれば、 ユーザー自身が新しい生活の物語を描きつつ、建築空間に ついて自由に構想することが可能になるであろう。また、 専門家が設計を行う場合においても、建築をより具体的な 生活や行為に基づいて構想し、アクティビティと空間との 関係を重視した設計を進めることが可能になると考えら れる。さらに、このような設計ツールは、専門家である設 計者と非専門家であるユーザーとの共通言語となりうる ため、設計モデルの作成を共同で行い、対話型で設計を進 めるための有効な手段にもなりうるであろう。 2 既存モデルの比較分析 アクティビティを表現できる設計モデルとして、どのよ うなものがあり得るかを検討するため、まずは既存のさま ざまな空間モデルを取り上げて分析を行った。建築設計で 慣習的に用いられるものだけではなく、立体的な空間イ メージの構想に役立つモデルや、空間内での人や物体の動 きや移動経路を表現できるモデル、物語を表現できるモデ ル等を広く取り上げ、それらの中から、互いに特徴が異な る 12 のモデルを選定して分析結果を表にまとめた。 (表 1) 表 1. The Concept and the Possibility of the Activity Association Model -Activity Association Model and the Design Method, Part 1- 正会員 同 ○ 川北 健雄 * 赤松 麻衣 ** 注 (1) 注 (2) 注 (3) 注 (4) 今回、開発を試みるモデルは、物語性のある行為が表現 でき ( a )、三次元空間の表現ができ ( b )、空間の中身が表 現でき (c)、かつ設計で用いることができる (d) ものでな くてはならない。既存の 12 のモデルの分析結果を見ると、 すべてのモデルにおいて、これら 4 項目のうちのいずれ かの要件が満たされていないことがわかる。4 項目のうち 3 項目までを満足するモデルとしては、三次元 C A D モデル とリカちゃんハウスがある。前者については、今後三次元 的な表現がさらに容易になり、インターラクティブな操作 性を高めることができるなら、今回の目的に沿ったモデ ルとして利用できることが考えられる。後者については、 玩具的な表現を設計に適したものに改良し、個別的な場面 表現が主であるのを建築全体の空間構成まで検討できる ものに改良すれば、やはり今回の目的に沿った設計モデル になりうる可能性が考えられる。 そこで、これら 2 つの可能性のうち、三次元 C A D モデル を用いる可能性については別途検討することとし、ここで は後者の可能性を具体化したものとしての、アクティビ ティ連想ツールについて提案を行う。 3 アクティビティ連想型モデルの提案 まずは、図 2 に示す、行為や場面のつながりを連想させ るような、身体スケールに近い様々な ( 家具・建具・階段・ 生活雑貨・樹木のような ) オブジェクトによって構成され る設計のためのキットを、アクティビティ連想ツールとし *KAWAKITA Takeo, **AKAMATSU Mai て用意する。これらのオブジェクトは、具体的な事物のイ メージやそれらの事物から派生する様々な行為を連想し やすくするためには、ある程度の大きさが必要であるが、 建築設計のためのモデルとしての操作性の点からは、過度 に大きくては具合が悪い。そこで両者のバランスを考慮し て、これらのオブジェクトの縮尺は 20 分の 1 に設定して いる。また、具体的なイメージを連想しやすくするために は、事物の形態はある程度詳細に表現する必要がある一 方、オブジェクトの汎用性を高め、イメージの広がりを限 定されにくくするためには、事物の表現は具体的すぎても いけない。そこで、一定の抽象度を確保するための方法と して、今回用意したアクティビティ連想ツールは、すべ て白一色に統一している。また、立体的な空間の構成を 検討する場合には、柱や壁等で支えられた床の上にも様々 なオブジェクトを自由に配置する必要がある。そこで、接 続部の形を工夫して、立体的な床構成を簡単に組み立てる ことのできるスチレンボード製の構成部材をアクティビ ティ連想ツールと共に用意した。 本研究ではこれらを用いてアクティビティ連想ツールの 配置を行ない、そこから想起されるイメージにしたがって 柱・壁・床・屋根等の空間限定要素の配置を決定してゆく ことで作成されるモデルのことを、アクティビティ連想型 モデルと呼ぶことにする。 ヴォリューム模型を用いた設計 アクティビティ連想型モデルを用いた設計 さらに、アクティビティ連想型モデルに示された情報か ら平面図の作成を試みたところ、ヴォリューム模型 + 間取 り図の情報をもとにして作成できるのと同等の水準での 図面化が可能であることがわかった。 図 3. アクティビティ連想型モデルを用いて完成した模型と図面 模型 平面図 5 まとめ 図 2. アクティビティ連想ツール一例 いす→座る [ そのものの機能 ] ベッド+ ほん [ 行為の具体性 ] つくえ+ たべもの [ 機能に意味を与える ] 4 建築設計における利用可能性の検証 本稿では、アクティビティと 空間との関係を重視した設計 断面図 を進めるためのひとつの方法と して、アクティビティ連想型モデルを用いた設計方法の提 案を行った。 まず最初に、アクティビティを重視した設計方法に適し たモデルに求められる特質について検討し、その特質を 有すると考えられるアクティビティ連想型モデルの定義 を行った。次に考案したモデルが実際に設計に利用可能 かどうかを検証するため、同じ設計課題をヴォリューム 模型を用いた設計方法とアクティビティ連想型モデルを 用いた設計方法の比較を行った。その結果、アクティビ ティ連想型モデルを用いても、一般に行われるヴォリュー ム模型と間取り図を用いた設計方法と同等以上の水準で、 設計対象である建築空間の具体的表現が可能であること がわかった。 以降、本研究ではアクティビティ連想型モデルを用いた 様々な実験を行い、この設計方法の特質を明確にするとと もに、実用上の様々な問題点についても検討する予定であ る。その結果、専門家である設計者と非専門家であるユー ザーの両者にとって、物語性のある建築空間を創り出すた めの有効な手法を確立したいと考えている。 提案するアクティビティ連想型モデルが実際に建築設計 に利用可能かを検証するために、ヴォリューム模型とアク ティビティ連想型モデルを用いた 2 つのパターンの住宅設 計のスタディを行った。両者における設計プロセスと成果 物とを比較分析して、アクティビティ連想型モデルを用い ても、一般に用いられるヴォリューム模型を用いた設計方 法と同等の水準で建築空間を表現することが可能である かどうかを調べた。 スタディを行ったところ、ヴォリューム模型を用いた設 計では、内部の空間構成を検討するには、模型と並行して 紙の上に間取りを描いて考えることが不可欠であったが、 アクティビティ連想型モデルでは、模型で外部形態と内部 の空間構成を同時に検討することが可能であった。 注 (1) 写真を切り抜いて組み立てた 模型を意味するフォトグラフィー・モデルの略語。 『フォトモ:路上写真の新展開』非ユークリッド写真連盟・糸崎公朗、森田信吾/ (2) 日色真帆、 小嶋一浩らによって提案された空隙部分をブロックのように扱う、空間の表記法。(3) 砂を 入れた箱の上に、小さなオブジェを自由に乗せて作成する自分の内面世界を知る心理療法の ための模型。(4)(株)タカラトミーから発売されている着せ替え人形とおうちのセット * 神戸芸術工科大学建築・環境デザイン学科 助教授・博士 (工学) ** 神戸芸術工科大学 芸術工学研究所 特別研究員 *Associate Prof., Dept. of Environmental Design, Kobe Design Univ, Ph.D. **Researcher,Design Research Institute, Kobe Design Univ.,M.of Design