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海外産業技術研修における産業デザイン科の取組み

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海外産業技術研修における産業デザイン科の取組み
海外産業技術研修における産業デザイン科の取組み
高橋
1.
はじめに
洋光 *
12 月 12 日
ヴィースの巡礼教会,ノイシュバン
シュタイン城,リンダーホフ城視察
本校では開校翌年の平成 10 年より,海外におけ
12 月 13 日
終日班別自主研修
る産業技術の現状に触れ,国際的視野を身につける
12 月 14 日
ミュンヘン空港着(途中ニンフェン
ことを目的として海外産業研修旅行を実施してい
ブルク城経由)フランクフルト乗継
る.最初の研修旅行は矢巾校の 1 年生(2 期生)と
12 月 15 日
2 年生(1 期生)の 2 学年合同で実施した.以後,
なお,産業デザイン科からは 1 年生 23 名中,20
一部変則的な実施があったものの 1 年生を対象と
羽田空港着
同日短大着
名が参加した(図 1)
.
している.また,平成 16 年に水沢校が開校したこ
とにより両校合同での実施となった.さらに,研修
先はパリ・ロンドン/パリ・ローマの 2 都市 2 コー
スから,平成 20 年度にはパリのみに変更となり,
平成 25 年度からは南ドイツとした.
筆者は平成 26 年度の研修旅行において産業デザ
イン科を引率することとなった.学生達にとっては,
ドイツの歴史や文化を肌で感じ,デザイン教育の現
場を見ることで,デザインを学ぶ上で大きくプラス
となったことと思われる.本稿では,産業デザイン
科における産業技術研修旅行の意義について,事前
図1
学習の経緯と現地研修について報告する.
2.
研修先での産業デザイン科 1 年生
3.
海外産業技術研修について
事前学習
平成 26 年度の海外研修は 12 月 9 日から 12 月 15
資料の配布とプレゼンテーション形式での口頭
日までの 7 日間の日程で実施した.現地研修の日数
説明だけでは,学習効果という点では十分とは言え
は 3 日間で,11 日と 12 日をコース毎の研修,13 日
ない.このことは通常の訓練(特に学科)において
は,各科数人で班を編成し各班の計画に基づく班別
顕著である.それらは学生自身が考えるためのきっ
自主研修である.バイエルン州の州都ミュンヘンを
かけであると考え,2 ヶ月程前から週 1 時限ペース
起点として,矢巾校・水沢校の 8 科を 2 科ずつの 4
で海外研修に関する授業を行いレポート作成に取
コースに分けて研修を行った.産業デザイン科は情
り組んだ.
報技術科と同じコースである.主な日程と研修先は
3.1 ドイツ製品やデザインについて
以下のとおりである.
デザインに関するサービスの提供と,社会の関心
12 月 9 日
短大出発
を高めることを目的として 1953 年に iF デザイン大
1)
が設立された.世界的に注目されているデザ
12 月 10 日
羽田空港発 同日ミュンヘン着
賞
12 月 11 日
ミュンヘン応用科学大学デザイン学
イン賞のひとつで,iF マークは優れたデザインと高
部視察,ドイツ博物館視察
*
産業デザイン科
品質の証であるとされている.
また,ドイツ製品の事例として,LAMY,Braun,
デア・モデルネの 3 つの美術館 を見学することと
Lieca,PORSCHE DESIGN など著名なプロダクトを
した.それぞれに中世からバロック期の古典絵画,
提示することで,その特徴を学ばせた.Braun 社の
18 世紀から 20 世紀の絵画,現代美術や工業製品や
デザイン部門のトップに在籍していたインダスト
市販されていない著名なプロトタイプが収蔵され
リアルデザイナーのディーター・ラムスは,数々の
ており,ドイツのデザインを学ぶ上で,その根底に
優れたデザインの製品を世に送り出し,ニューヨー
ある歴史や,デザイナーの作品を観ることは有益で
ク近代美術館に収蔵されるなど,後のデザイナーに
ある(図 2)
.
大きな影響を与えた.
一通りドイツの文化やプロダクトを紹介した後,
さらに各自で調査し考えることを目的として,ドイ
ツデザインについて自由テーマでレポートを作成
させた.機能的なデザインが特徴,地域によってデ
ザインに差がある,クオリティが高い,派手ではな
いが存在感がある,デザインに規律がある,シンプ
ルでスマート,技術と品質を重視している,自分の
手で作る/修理する,無駄のないデザインである,
生活のためのデザインである等の感想が多く見ら
れ,モノと生活に対する考え方の違いを見いだせた
ようである.
3.2 海外のグラフィックデザインについて
図2
ピナコテーク・デア・モデルネ館内
また,自主研修において移動の合間に各自スケッ
産業デザイン科の 1 年生は,デザインを学び始め
チを描くことを課題とした.単に建築物や街並を漠
てまだ半年あまりしか経過しておらず,国内外のデ
然と眺め,写真に撮る以上の効果を期待するもので
ザインに触れる機会が少ない.そこで海外のデザイ
ある.スケッチの対象にテーマや制限は設けず,各
ナーは日本をどのように見ていて,どのように表現
自の判断によるデザイナー目線での街並とそのデ
するのかの理解を促すため「DESIGN FOR JAPAN」
ィティールを探すことを目的とし,観察し描くこと
2)
のウェブサイト(東日本大震災を題材に世界中の
デザイナーがポスターを制作し販売.その売上が震
災義援金として寄付される)から,各自の判断で作
で,見たもののデザイン的価値が自分のものとなる
ことを狙いとした.
4.
グループ別現地研修
品をひとつ選択しレポートを作成させた.
日本人としてはなかなか手が出せない日の丸を
2 日間のグループ別研修では,その日の研修につ
独特の解釈で加工し表現されたもの,前向きでポジ
いて簡単なレポートを作成し翌日提出することと
ティブな印象を受けるものなどが多かった.その理
した.その中から主にデザイン教育に関係が深いも
由として,シンプルなのに伝えたいことがはっきり
のを紹介する.
わかる,という意見が多く,最小限のメッセージを
4.1 ミュンヘン応用科学大学
スピーディーに伝えられているポスターに関心が
学生総数 18,000 人ほどの国内有数の大学であり,
向けられた傾向にある.
デザイン学部はフォトデザイン,工業デザイン,コ
3.3 自主研修計画について
ミュニケーションデザインの 3 コースとマスター
ドイツ訪問は 2 度目となるが,前回はすべての行
コースで構成されている.昨年同様,今回も同大学
程がグループ毎の団体行動であったため,ミュンヘ
のデザイン学部を訪問し,Matthias Edler-Golla 教授
ンでの終日フリーとなる自主研修は初めてであり
より,大学の概要やデザイン学部のカリキュラムに
視察先の情報に乏しい.そこで,産業デザイン科に
ついて説明していただいた(図 3)
.
ついては,ホテルから徒歩圏内にあるアルテ・ピナ
コテーク,ノイエ・ピナコテーク,ピナコテーク・
その後,学部アシスタントによる説明を受けなが
ら実習設備を見学させていただいた(図 4).
本校でも使用しているものと同様の機器類も多
が展示されている.科学技術発展の歴史と併せて,
く,作業内容の説明はスムーズに理解できたようで
モノと人の関わりも見ることができ,学生のレポー
ある(図 5)
.
トで,かつて人類が空を飛ぶことを夢見てから実現
基本的に課題制作は学生自らがテーマを決めて
するまでの間に,鳥や虫の羽を参考した事例を紹介
取り組む形となっており,学生の目からはそれらに
したものがあった.アイデアの源泉がどこにあるか
関心集まったようである.また,不要になったもの
を考えるきっかけとなることが期待できる.また,
を再活用して新たなプロダクトを作るという課題
「科学技術に対する人々の思いが理解できた」「展
作品について,作品のクオリティだけでなく課題の
示品からインスピレーションを受けた」などの意見
設定そのものに多くの学生が刺激を受けていた.
があった.
主な感想として「発想に刺激を受けた」「作品の
ヴィース巡礼教会,ノイシュバンシュタイン城,
完成度が高い」などの他,「短大の設備を(自分た
リンダーホフ城の視察について,その歴史的価値お
ちは)生かしきれていない」「アイデアが出るのに
よび建設の経緯などはよく知られて所ではあるが,
やろうとしないのはもったいない」「産技短の学生
現物を目にすることの意義は大きい.レポートでは,
と比べて自主性に差がある」などの反省も見られ,
部屋の目的による装飾の違い,設備,装飾の精緻さ
デザインを学ぶ姿勢に多少なりとも刺激となった
を上げる学生が多かった.そこで感じたことの意味
のではないかと思われる.
を考え,今後のデザイン指導に生かすよう指導して
いきたい.
図3
Matthias Edler-Golla 教授
図5
5.
シルク印刷の実演
自主研修
5.1 街頭スケッチ
前述のとおり,各班の研修計画に街頭スケッチを
課題として盛り込んだ.見るだけ,撮影するだけで
は記憶に残らず,細かな部分を見落としがちである.
スケッチのための観察により,何かを発見すること
を期待し取り組ませることとした.以下,提出され
たスケッチから主なものを紹介する.
図4
木材加工の工房
4.2 ドイツ博物館と歴史的建造物
ミュンヘン市内にある国立博物館で,農業や航空,
船舶,宇宙開発など,膨大な数のドイツの科学技術
図 6 は,街中で見かけた建築や道路標識をまとめ
たもの.日本にはない造形に目が向けられている.
図 7 は,信号機を描いたもの.交通システムがど
うなっているかに焦点を当てている.図 8 は,公園
の砂場に設置してある遊具を描いたもの.
「自分の中で,最低限このクォリティーのものづく
りをするという基準がはっきりした」
程度の差はあるが,各自の視点でドイツの文化と
産業,デザインを吸収できたのではないだろうか.
図6
学生のスケッチ
図8
6.
学生のスケッチ
おわりに
今回の海外産業技術研修では,一方通行な指導と
単に見聞きするだけの行程は避け,知らず知らずの
うちに自分で考え,学び取れるような仕組みがない
図7
学生のスケッチ
ものかという視点で取り組んでみた.十分な準備と
指導だったとは到底言い難いがたく,定量的な効果
5.2 効果
として表すことも困難であるが,わずかでも学生に
以下,帰国後に提出させた,簡単な感想をまとめ
プラスとなることを願っている.
たレポートからの抜粋である.
「美観を損なわない心遣いが各所に見られる」
7.
参考文献
「建物のデザインなど,個々で存在するのではなく
1) iF DESIGN AWARD 公式サイト
周囲に合わせてあるように感じる」「建物が直線的
http://www.ifdesign.de/
で近寄りがたい印象だった」「ゴミ箱や標識など,
2) DESIGN FOR JAPAN 公式サイト
日本とのデザインの違いが面白いが,何故その形に
http://designforjapan.tumblr.com/
なったのかが気になる」「デザインを難しく複雑に
考えずシンプルさも大切だということを学んだ」
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