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運転支援と自動運転 ∼日産自動車の取組 - ITU-AJ
特 集 情報通信が支える次世代のITS 運転支援と自動運転 ∼日産自動車の取組∼ ふくしま 日産自動車 株式会社 環境・安全技術渉外部 技術顧問 まさ お 福島 正夫 1.はじめに 最近、 「自動運転」という言葉が、いろいろな場で出てき 危険が顕在化 していない ます。ここではこの「自動運転」と、その土台となる「運転 支援」について、日産自動車の取組を御紹介します。 ドライバーはクルマの運転中に、知覚、認知、判断、操作 衝突する かもしれない という作業をしていると言われています(図1) 。 ITS技術による補助 知覚 外界 認知 操作 判断 人間 危険が顕在化 している 衝突が避け られない 衝突・衝突後 図2.Safety Shield Concept クルマ 図1.運転支援のモデル 3.運転支援の原則 運転支援は「ドライバー主権」と言って、ドライバーの意 ここで言う運転支援とは、IT(Information Technology) 思を尊重し、ドライバーの安全運転を支援するものです。あ /ITS(Intelligent Transportation System)などの技術で、 くまでもドライバーが主体的に、責任を持って運転する、と これらの一部を機械が補助(支援)するというものです。運 いうのが前提です。これまでの運転支援はドライバーが主、 転支援はクルマの周囲の状況を察知し、ドライバーに情報の 機械の支援が従という関係で、機械がすることをドライバー 提供や注意の喚起、また必要に応じて警報や制御介入を行 の意思で打ち消すことができます(オーバーライド) 。 うことで、交通事故の予防的防止の支援やスムーズな交通の 実現を支援するものです。 最近、しばしば報道される事故形態として、ブレーキとア クセルペダルの踏み間違えがあります。クルマを停止させよ うとしてドライバー本人はブレーキを踏んだつもりなのです が、何らかの原因で実はアクセルペダルを踏んでいる、とい 2.Safety Shield Concept う事象です。ドライバーはブレーキを踏んだのにクルマが減 交通事故防止支援について、日産では、Safety Shield 速しないのに驚き、更に強くペダルを踏み込みます。その結 Concept(クルマが人を守る)という安全コンセプトに基づ 果、瞬時にフルスロットル状態となり、ドライバーが混乱し いて数々の運転支援システムを開発し、商品化しています。 て何もできない中、駐車場から数十mも走って店に突っ込ん 交通事故に至るまでには様々な段階があります。すなわち、 「危険が顕在化してない」 、 「危険が顕在化している」 、 「衝突 するかもしれない」、「衝突が避けられない」、等々です。 Safety Shield Conceptはそれぞれの段階において、状況が更 に悪くならないよう、数々の運転支援装置でクルマの全周に バリアを作る、という考え方です(図2) 。 既に様々な運転支援システムが実用化されていて、特定 の場面や状況では機械が人間の運転を部分的に代行してい るものもあります。 出典:日産自動車ホームページ 図3.踏み間違い防止アシスト 12 ITUジャーナル Vol. 44 No. 7(2014, 7) 自動車の自動運転 運転支援システム(ドライバーの運転を支援するシステム)による走行 ︵ 自1 自 動0 動 化0 車 ︶% ︵ シ ス テ ム ︶ の 運 転 へ の︵ 関運 与転 度者 合が い 全0 て% ︶ 無人運転 *ドライバーは運転やシステムの監視を行う ④完全自動運転 ②システムの複合化 ②システムの複合化 ①単独のシステム 更なる複合化 + 高精度化 ACC + レーンキープアシスト ACC 衝突被害軽減ブレーキ レーンキープアシスト 高度化 技術レベル 出典:国土交通省オートパイロット検討会web資料より 図4.自動運転の定義(例) だり、立体駐車場から転落するなどの事故が多発しています (年間約7,000件) 。 5.自動運転に向けての取組 自動運転車の開発には、高い外界センシング機能と、人 これを防止するために、日産では「踏み間違い衝突防止ア 工知能が必要で、日米欧の官、民で盛んに研究開発がされ シスト」をいち早く実用化し、搭載車種を拡大中です。これ ています。日産も2020年までに革新的な自動運転技術を複 はドライバーがペダルを踏み間違えたと判断された場合、ド 数車種に搭載する予定です。この計画に沿って、現在、初 ライバーに警告するとともに、自動的にエンジン出力やブレ の自動運転車開発専用のテストコースを日本で建設中で、 ーキを制御することで、障害物への衝突防止や過度の加速の 2020年以降のモデルチェンジの中で、幅広いモデルラインナ 防止を支援するものです。 ップに同技術を搭載することを目標にしています。このため これは、ドライバーの操作(アクセルペダルの踏み込み) に、マサチューセッツ工科大学(MIT) 、スタンフォード大 を機械が打ち消す(加速を抑制し、ブレーキをかける) 、と 学、カーネギーメロン大学、オックスフォード大学、東京大 いうものです。人間でも機械でもその時その場の状況で、よ 学などのトップレベルの大学と共同で研究を実施しています。 り信頼できる方を使う、という考え方で、次に述べる自動化 技術の一つの基礎となる考え方です。 6.おわりに このごろ、カーメーカー各社から前走車への追突防止をう 4.自動運転について 自動運転については「ドライバーが運転しない無人運転」 たった衝突被害軽減ブレーキがいろいろ発売されています。 しかしながら実際の事故は自車と衝突相手との関係は非常 というのが世間一般のイメージだと思います。が、今までの に多岐にわたり、 「条件がそろえば、衝突しないで止まれる」 関係者の大方の論議では、究極は無人運転としながらも、 というのが現状だと思います。自動運転は運転に関わる人間 機械が部分的にでも運転(加速・操舵・減速)の代行を行 の関与を減らし、ヒューマンエラーをカバーして事故防止に うものは自動運転の分類に含まれるということになっていま つなげるという狙いもさることながら、自動化を実現する技 す。最近の論議では、加減速とか、操舵だけとかの支援は 術が既存の運転支援システムの高度化・スマート化に使わ 「運転支援」、加減速と操舵を相互に組み合わせた支援は れ、事故防止支援のカバー率を上げていくのも狙いです。自 「自動運転」の範疇に入る、また名称は「自動走行システム」 動化技術が交通事故削減や渋滞緩和に早く役立つよう、今 にしよう、ということになっています。図4は国土交通省が 後も努力していきます。 民・学の専門家と検討を行ってきた「オートパイロット検討 会」でまとめた、自動運転の定義で、自動運転検討の基本 となっています。 ITUジャーナル Vol. 44 No. 7(2014, 7) 13