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研究紀要第209号 [1879KB pdfファイル]
研究紀要 第 209 号 生物多様性保全の観点から環境保全行動を促進する 環境教育プログラムの開発(Ⅱ) 平成27年(2015年)3月 大阪市教育センター 研究紀要 第 209 号 生物多様性保全の観点から環境保全行動を促進する 環境教育プログラムの開発(Ⅱ) 本研究では,まず,生物多様性保全に主体的に取り組む人材を育成するた めには,幼少期から自然体験を通して感性を育み,生態系概念の初歩の理解 を図る必要があることを押さえた。次に,子どもの思考や脳の発達に関する 知見をもとに,小学校の低学年では諸感覚を通して生物に親しみ,生物への 愛着の気持ちを高める,中学年では生物の多様性と共通性,生物と環境との かかわり,生命の連続性についての見方・考え方を深め,生物多様性が保持 された環境の意義を理解する,高学年では生物多様性はすべての生物の生存 基盤であることを認識し,その認識のもとに生物や生態系を保全する活動に 意欲的に取り組む,というように発達に応じて環境教育を進めることが有効 であるとの見解を得た。さらにその考えにもとづいて,小学校第1~6学年 において環境教育プログラムを開発し,授業を通してその有効性を検証し た。 【キーワード】 生物多様性保全 教育振興担当 環境教育 生態系概念 谷 村 自然体験 載 美 環境保全行動 目次 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Ⅰ 研究の経過と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Ⅱ 生物多様性保全の観点から環境保全行動を促進する環境教育の進め方 1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 生物多様性保全の観点から環境教育を進め際の留意点 2 生物多様性保全の観点から環境保全行動を促進する環境教育の進め方 1 ・・・・・・・・・・・・ 4 生物多様性保全の観点から環境保全行動を促進する環境教育プログラムの開発とその実践 ・・・ 6 小学校低学年における環境教育プログラムの開発と実践 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 小学校中学年における環境教育プログラムの開発と実践・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 (1) 第1学年「やそうとなかよし」の学習 (2) 第2学年「土の中のたからもの」の学習 2 (1) 第3学年「いろいろなこん虫のくらし」の学習 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 小学校高学年における環境教育プログラムの開発と実践・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 (2) 第4学年「ヤゴの育ちとかんきょう」の学習 3 (1) 第5学年「『ミニ田んぼ』とその周辺の生物調査」の学習 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37 (2) 第6学年「樹木とわたし」の学習 Ⅳ 1 ・・・・・・・・・・・・・・ 1 Ⅲ 1 研究のまとめと今後の課題 おわりに -3- はじめに 能力を養う必要性が明記されている。 大阪市においても「学校教育指針」に環境教 生物多様性の損失は生物の存在そのものを危 育の必要性を強調し,児童生徒の自然体験度を うくするだけでなく,我々ヒトも危険にさらさ 高めるための施策を進めてきた結果,学校内の れる。生物多様性保全は,人類にとって喫緊な 自然環境の整備と活用に努力が重ねられてきた。 課題となっている。 しかし,筆者が実施した調査によれば,大阪市 こうした事態を踏まえ,「生物多様性国家戦 内の小・中学生の動植物を見た経験率,採集し 略2010」(平成22年3月)は,生物多様性を脅か た経験率,名前及び生息環境の認識度のいずれ す要因の一つに,生物に関する基本的な知識を についても,1991年に比べて2001年及び2011年 身に付ける機会の減少があると指摘したうえで, の方が低下していることが明らかとなっている 5)。 学校教育等が豊かな自然体験や学習の機会づく こうした現状を改善するには,これまで以上 りを担う必要があると提起した 1) 。また,改正 に,児童生徒が生物との直接経験を通して生物 された学校教育法には,「学校内外における自 多様性保全の重要性を理解し,その認識のもと 然体験活動を促進し,生命及び自然を尊重する に行動できるよう,環境教育プログラムを開発 精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこ し,展開することが課題となる。 と」(第二十一条第二号,平成19年6月)が義務 そこで,本研究では昨年度に引き続き,生物 教育の目標として位置づけられ,学習指導要領 多様性保全に主体的に取り組む人材の育成を目 改訂後の理科では,環境教育の一層の推進の観 指した環境教育プログラムを開発することを目 点から,地域の特性を生かし,その保全を考え 的とする。 た学習の充実が求められている 2)。さらに, 日 Ⅰ 本学術会議の統合生物学委員会は, 「 多様な主体 研究の経過と課題 が問題の重要性を理解し行動するうえで欠かせ ない生物多様性と生態系に関する十分な科学的 環境教育において生態学的な自然観を育成す 素養の醸成のためには,自然史と生態系に関す ることは欠かせない。自然環境の少ない大阪市 る学習を初等教育,幼年教育から重視する必要 においてもそれを可能にし,生物多様性保全に がある」 3)と指摘している。自然体験を通して 主体的に取り組む人材を育成するための具体的 生物多様性及び生態系への理解を深め,生物多 な方途を探るために研究を継続してきた。 様性の保全と持続可能な利用に向けた取組に積 2012年度の研究では,1991年,2001年,2011 極的に参画する人材の育成が切望されているの 年において小・中学生の動植物に対する体験・ である。 認識及び環境意識の実態を把握した調査の結果 しかし,内閣府の世論調査(平成26年7月) を比較分析し,大阪市における生物的自然を題 では,生物多様性という言葉を「聞いたことも 材にした環境教育の方向性を探った。その結果, ない」と答えた者が約5割を占め,平成24年度よ これまで以上に,①教科書教材にとらわれるこ り11%増加していることが明らかとなっている となく学校や地域に生息する野生生物の教材化 4) 。そうした現状を踏まえ, 「生物多様性国家戦 を図る,②直接経験を通して生物への関心を高 略2011-2020」では,子どもの頃から自然や生物 め,生態系概念を育む学習プログラムを開発・ を知り,体感することの大切さを強調し,発達 展開する,③生物多様性保全の重要性を理解し, に応じた教育によって生物多様性に関する理解 その認識のもとに行動できるよう,学習内容を や知識を深め,それを行動へと結びつけていく 工夫する,④上記①②③を可能にするために, -1- Ⅱ 自然環境の乏しい都市域においても動植物に対 生物多様性保全の観点から環境保全 行動を促進する環境教育の進め方 する採集経験率を高められるよう,学校ビオト ープの整備・活用を図る,必要性が明らかにな った 6) 。 1 そうした結果を踏まえ,2013年度の研究では, 生物多様性保全の観点から環境教育を進め る際の留意点 小学校における生物的自然を題材にした環境教 小学校において生物多様性保全の観点から環 育の進め方を検討・整理し,それをもとに小学 境保全行動を促進する環境教育の進め方につい 校4・5・6学年の児童を対象にした環境教育 ては,2013年度の研究において既に明らかにし プログラムを開発・実践した。その結果,次の た通りであるが,環境教育プログラム開発にあ ような成果を得た。 たって欠かせないため,再整理しておきたい。 第4学年においては,季節ごとに「生き物は, アメリカのH.ハンガーフォードらは,環境保 どこで,何をしているのか」を視点にした観察 全行動を促進するには,その入り口段階として 活動を展開した結果,季節による生物の成長に 環境に対する感性を磨くとともに生態系に関す ともなって,その生物とかかわる生物の活動の る知識が必要なことを明らかし,「生態系概念 様子も変化することをとらえるなど,児童の生 は,環境教育を構成する必須の部分である」 7) 物や生態系に対する見方・考え方を深めること と述べている。日本においても,沼田眞の「環 ができた。その認識のもとに,第5学年では学 境問題は人間環境が問題ではあるが,それに対 校内に自然環境を整備する行動へと導き,生物 処する基礎的立場はエコロジカルな自然理解に の観察・調査を展開することによって,生物多 よってきずきあげられる」8),鈴木善次の「す 様性保全を目的とした環境整備の重要性を児童 べてが生態系の一員であり,生態系のルールの に実感させることができた。 枠でしか生きられないという思想が必要である。 こうした第4・5学年における学習を通して 環境教育の基本理念は,こうした思想をもち, 高まった児童の環境保全への意欲を具体的な行 それをもとにした行動規範を定め,それを実践 動に導くよう第6学年における学習を展開した する人々を育成することである」9)との主張に 結果, 「1年生と『実のなる森』の観察会」やタ 認められるように,従来より生態系概念育成の ブレット端末を活用した「生き物図鑑」づくり, 重要性が指摘されてきた。保全生態学者である 観察路の整備などを自分たちで企画し,それら 鷲谷いづみは,生態系を変質させ単純化させて の活動に積極的に取り組む態度を育成すること いくリスクを実感するには,生態系を読み解く ができた。それは,第4学年当時には,「草は, 力,生態系リテラシーを高めることが必要であ たとえそれがなくても,人間に影響が及ばない るとし,そのためには,幼少期から実体験をと から抜いた方がよい」との考えを示したS児が, もなう自然環境学習の機会を多く与えなければ 第6学年の2学期には草の大切さを知らせるた ならないという 10) 。 めに1年生に草花遊びを熱心に教えたり, 「 生き こうした指摘を踏まえ,生物多様性保全に主 物図鑑」の作成を企画したりするまでに成長す 体的に取り組む人材を育成するには,小学校に る姿にも認められた。 おいてどのように環境教育を進めればいいのだ さらに,生物多様性保全に主体的に取り組む ろうか。環境教育では,トビリシ勧告で示され 人材の育成をめざすには,多くの環境教育プロ た環境教育の目標をもとにした「気づき」から グラムを開発し,提案していくことが課題となる。 「参加」へ,あるいはin→about→forという流 れが,おおまかな流れとされている。このこと -2- を阿部治は「生涯学習と環境教育」として図Ⅱ 教育の観点からみると,段階2の「自然の中の -1のように示し,幼児期では,自然(=自然 つながり」だけであり,段階1や段階3,また に対する教育)の中で感性を養うことと大人の 段階2の「人間と自然のつながり」はほとんど 愛情につつまれ,子どもどうしもまれて育つこ 扱ってこなかったと言う 13) 。 と(=人間に対する教育)が環境教育の主たる 活動であり,それが豊かな〔感性〕と人間愛や 表Ⅱ-1 信頼感を育てることにつながる。さらに学齢期 環境教育における3つの段階 14) 各段階の目標 においては,学校などで自然のしくみや環境問 段 階 1 題(=自然)について,また人間自身や人間を 取り巻く文化・社会問題(=人間)について〔知 自然(=人間の意図とは独立した営み) が存在することに気づき,理解を深める 「自然の中の様々なつながり」や「人間 段 階 と自然のつながり」に気づき,理解を深 2 める 識〕を学ぶことが,この時期の環境の主たる活 動となる。そして高学年(さらには成人期)に なるに従い,環境(=自然)を〔守り〕,環境問 段 段階1と段階2を踏まえ,生活や社会の 階 3 望ましい在り方を探る 題や人間を取り巻く諸問題(=人間)を解決する ための〔行動〕をとることが環境教育の中心課 題になると示している 11)。 これらの指摘を踏まえると,生物多様性に関 する理解をもとに生物多様性保全に主体的に取 り組めるようにするには,以下の点に留意する 環 境 教 育 の 場 必要があると考える。 ① 学校や地域の野生生物との直接経験を通し て生物に対する感受性を豊かにし,生命を尊 重する態度を育成する。 ② 図Ⅱ-1 生涯学習と環境教育 人間の意図に依存しない野生生物のありの ままの生活の様子を把握し,生物は食餌や生 12) 息環境を通じて互いに関係を保ちながら生命 を連続しているとの見方・考え方をもつこと 広木正紀は,表Ⅱ-1 のような3つの段階を意 ができるようにする。 識して環境教育を実践する必要があるとし,次 ③ の点に留意するよう示している。 地球上の生物はそれぞれに役割があり,そ 小学校,中学校,高校などのレベルによらず, れらがつり合いを保って生活していること, 段階1,段階2,段階3が必要。段階1は,段 生物は無機的な環境と密接に関係しながら生 階2,3の基礎であり,段階2は段階3の基礎 活していることを理解できるようにする。 ④ である。「段階2に進めば段階1は不要,段階 人間活動が自然界のバランスを崩した場合 3に進めば段階1,2は不要」というものでは などの影響について考え,自然と共生する在 なく,基礎的な段階ほど,学習の進行にかかわ り方について考えられるようにする。 ⑤ らず,何度でも繰り返される必要がある。また, 地域の自然環境の保全・復元・創造するこ 段階1の前に「遊びの段階」があるが,ここで との重要性について認識を深め,その認識に は段階1に一括して示しているとしている。さ もとづいて生物多様性保全に主体的に取り組 らに,これまでの理科が扱ってきたのは,環境 む意欲と態度を育成する。 -3- 2 小学校において生物多様性保全の観点から 表Ⅱ-2 環境保全行動を促進する環境教育の進め方 発達に応じて組み入れられる学習内 容 学習内容 では,小学校において低・中・高学年の発達 低学年 に応じてどのような学習内容を組み込んでいけ 中学年 ばよいのだろうか。 永江誠司によれば,図Ⅱ-2に示した神経回 路形成の3つの時期は,ピアジェの示した思考 高学年 の発達段階の節目にあたる時期とみることがで ・視覚,聴覚などの感覚を十分に活用する。 ・基礎的な学習。 ・自分の行為を計画して実行する。 (感情をコントロールする経験) ・自分の行為を計画し,それを実行して結 果を評価する。 ・ある目標に向けて思考を練り上げる。 ・感情をコントロールする経験。 き,神経回路形成の第1段階(生まれてから3 歳頃まで)は,感覚運動的段階から前操作的段 編)』(2007年)において,低学年では自然の 階の象徴的思考段階まで,第2段階(4歳から 観察を通して自然環境や事象に対する感受性や 7歳頃まで)は直観的思考段階,そして第3段 興味・関心を高めるとともに,自然のすばらし 階(10歳前後)の頃は具体的操作段階から形式 さや生命の大切さを感得するように配慮する, 的操作段階への移行期にそれぞれ対応している 中学年では自然とのかかわりを重視し,自分た という。また,ゴールデンの「脳の発達段階」 ちの生活が地域とかかわって成り立っているこ によれば,5歳頃までには視覚・聴覚・運動系 とを意識できるようにする,高学年では環境問 における初歩的で重要な学習が出来るようにな 題を捉える場合の素地となる物の連鎖(つなが り,12歳頃までには基礎的な学力の形成と感情 り)や循環という考え方を身に付け,より主体 や行動のコントロールが出来るようになるとい 的に環境とかかわり,環境を大切にすることが う 15) 。 できるようにする 17),としているのに照応して いる。 この考えをもとに生物多様性保全の観点から 環境教育プログラムを開発するにあたって,小 学校学習指導要領(平成20年版)の理科(生物 分野)においてはどのように生態系概念の初歩 の理解を図ろうとするのか,また,『環境教育 指導資料(小学校編)』(2007年)に示された 「環境をとらえる視点」を育もうとするのか検 図Ⅱ-2 討した。その結果,理科の学習内容の多くは, 神経回路の形成 16) 「環境をとらえる視点」と深く関係しているこ こうした脳科学の知見も考慮すると,小学校 とが明らかになった(表Ⅱ-3)。とりわけ, において生物多様性保全の観点から環境保全行 中学年においては「身近な自然」を新設したり 動を促進するには,低学年では視覚,聴覚など 扱う生物の種数に関する規制を緩和しているこ の感覚を十分に活用する,中学年では基礎的な と,高学年においては生物の「食う食われると 学習を行う,高学年では自分の行為を意図的に いう関係」に関する内容を追加するなど,生物 計画し,それを実行して結果を評価するという 多様性保全を視野に入れた改善がなされている 学習内容を組み入れることが可能だと考える ことが読みとれた。こうした学習指導要領の内 (表Ⅱ-2)。 容も考慮して,低・中・高学年の発達に応じた 環境教育の進め方を表Ⅱ-4のように整理した。 この進め方は,『環境教育指導資料(小学校 -4- 表Ⅱ-3 小学校学習指導要領理科編(平成20年版,生物分野)にみる生物多様性保全に関する内容 学年 単元 環境を 内容 身近な自然の観察 3 昆虫と植物 とらえる視点 身の回りの生物の様子を調べ,生物とその周辺の環境と 多様性 の関係についての考えをもつことができるようにする。 共生 身近な昆虫や植物を探したり育てたりして,成長の過程 生命尊重 や体のつくりを調べ,それらの成長のきまりや体のつく 生命の連続性 りについての考えをもつことができるようにする。 4 季節と生き物 植物の発芽・成 長・結実 身近な動物や植物を探したり育てたりして,季節ごとの 多様性 動物の活動や植物の成長を調べ,それらの活動や成長と 共生 環境とのかかわりについての考えをもつことができるよ 循環 うにする。 生命尊重 植物を育て,植物の発芽,成長及び結実の様子を調べ, 生命の連続性 植物の発芽,成長及び結実とその条件についての考えを 生命尊重 もつことができるようにする。 5 動物の誕生 魚を育てたり人の発生についての資料を活用したりして, 生命の連続性 卵の変化の様子や水中の小さな生物を調べ,動物の発生 生命尊重 や成長についての考えをもつことができるようにする。 植物の養分と水の 通り道 植物を観察し,植物の体内の水などの行方や葉で養分を 循環 つくる働きを調べ,植物の体のつくりと働きについての 考えをもつことができるようにする。 6 生物と環境 動物や植物の生活を観察したり,資料を活用したりして 有限性 調べ,生物と環境とのかかわりについての考えをもつこ 環境保全 とができるようにする。 表Ⅱ-4 小学校における生物多様性保全の観点から環境保全行動を促進する環境教育の進め方 環境教育の3要素 学年 幼稚園 小学校 低学年 環 境 の 中 で 環境教育の進め方 観察や採集的遊びなどの諸感覚を通した生物との直接経験を通 して,生物への興味・関心を高め,生物とかかわる楽しさや自然の 不思議や面白さを感じ取り,命あるものを大切に思う心を育めるよ うにする。 〔親しむ〕 生物の成長や体のつくり,生物とその周辺の環境とのかかわりな 環 境 に つ い て 小学校 どについて調べ,生物の多様性と共通性,生物と環境とのかかわり, 中学年 生命の連続性についての見方・考え方を深め,生物多様性が保持さ れた環境の意義を理解できるようにする。 環 境 の た め に 小学校 高学年 以降 〔知る〕 生物多様性はすべての生物の生存基盤であることを認識し,自分 たちと自然環境とのかかわりについての見方・考え方を深め,その 認識をもとに生物や生態系を保全する活動に意欲的に取り組める ようにする。 〔行動する〕 -5- Ⅲ 生物多様性保全の観点から環境保全 明らかになっている 行動を促進する環境教育プログラムの 開発と実践 18) こうした現状をもたらした要因の一つとして, 長期間にわたって教科書に収録される植物教材 が栽培植物を中心とするものであったことが考 前章までに,生物多様性保全に主体的に取り えられる。人の世話を必要として育つ栽培植物 組む人材を育てるには小学校段階から生態系概 を対象とした学習に傾斜すると,植物は自分た 念の初歩の理解を育成すること,また,生物を ちが世話をしなければ育たないもの,自分たち 題材にしてその具体化を図るには,低学年では の思い通りになるものという間違った認識をさ 生物に「親しむ」,中学年では生物について「知 せてしまう恐れがある 19) 。 る」,高学年では生物のために「行動する」とい 植物は本来野外で生育するものである。人手 うように発達に配慮して環境教育を進めていく が介入しなくても環境と適応しながらたくまし 必要があることを押えた。 く生きる野草とかかわることにより,自分たち 本章では,そうした考えのもとに自然環境の の生活圏に豊かな生命力をもつ命の存在がある 乏しい大都市・大阪市においても実施可能なよ ことに感動し,それらを愛護しようとする意識 うに,学校内自然環境等を題材にした環境教育 を高められるであろう。校庭などに自然発生的 プログラムを開発・実践し,その有効性を検証 に生育する野草は,表Ⅲ-1に示すような点で した結果を提示する。授業は,当センター研究 小学校における環境教育教材としての価値があ 協力委員の協力を得て実践した。 る。小学校低学年においては,諸感覚を通した 観察や遊び,製作活動を通して野草への愛着の 1 小学校低学年における環境教育プログラム 気持ちを高めることをねらいとしたい。 の開発と実践 小学校低学年では,観察や採集的遊びなどの 表Ⅲ-1 小学校における野草の教材化の視点 諸感覚を通した生物との直接経験を通して,生 ○ 「生物の構造と機能」,「生物の多様性と 物への興味・関心を高め,生物とかかわる楽し 共通性」「生命の連続性」「生物と環境と のかかわり」を学ぶ さや自然の不思議や面白さを感じ取り,命ある ・種類は異なっていても,体のつくりは根, ものを大切に思う心を育めるようにすることを 茎,葉からできているという共通点がある。 ねらいとする。 ・種類によって,根,茎,葉,花の色,形, (1) 第1学年「やそうとなかよし」の学習 1) 大きさなどのつくりは多様である。 ・種子の散布方法は多様である。 野草の教材化 都市部の公園などに生育する野草は,「雑草」 として引き抜かなければならない邪魔者として ・種類によって生育環境が異なる。 ・春,夏,秋,冬の季節によって生育する野 草の種類は異なる。 扱われることが多く,児童にとって「かかわり ・栽培植物と同様,芽が出て成長し,開花し たくないもの」としてとらえられ,嫌悪感を示 て種子等をつくり,子孫を残す。 ○ す者も少なくない。筆者が実施した調査におい 遊びや製作活動等の材料となる ・見る,聞く,触れる,作る,探す,育てる, ても,以前より小学校1~3年生の教科書に収 遊ぶ,集めるなどの活動ができる。 録されてきたタンポポやエノコログサを採集し ・草花遊びやゲームの材料となる。 た経験率は依然として高いものの,収録頻度の ・手漉き紙等の製作活動の材料となる。 低いシロツメクサやオオバコを採集した経験率 ・食すことができるものがある(カタバミ, ヨモギなど)。 は,この 20 年間で約 15%低下している実態が -6- 2) 指導の目標と計画 特徴があることや季節によって成長の様子に違 ① 単元の目標 いがあることをとらえるとともに,身近な自然 野草を素材とした遊びや製作活動を楽しむ活 とかかわり合う楽しさを感じとり,その思いを 動を通して,野草は種類によって体のつくりに ② 単元の評価規準 生活への関心・意欲・態度 ○野草の特徴や成長の様子に関心 をもち,親しんだり大切にした りしようとする。 ③ 活動や体験についての思考・表現 ○野草の特徴を生かした遊びや貼 り絵をしたり野草の果実の特徴 を生かした遊びを考えたりする ことができる。 身近な環境についての気付き ○野草にはそれぞれに特徴がある ことに気付いている。 ○野草は自分たちにとって身近な 植物であり,生命をもっている ことや成長していることに気付 いている。 指導計画 次 (時) 1 (3) 全12時間(生活科) 学習活動 指導・支援 評価の観点,方法 ・諸感覚を通して野草と触れ合い,葉の 色が濃くなっている様子など,春に比 べて成長した様子や変化に気づくよ うにする。 ・貼り絵を通して,野草それぞれの特徴 の違いに気づくようにする。 ・野草を使った遊びを工夫し,自分なり の表現ができるようにする。 ◎野草の特徴や成長に 関心をもっている。 (関心・意欲・態度) <行動観察> ◎野草の特徴を生かし て貼り絵をすること ができる。 (思考,表 現)<作品> 初夏の野草で遊ぼう ・春と比べながら,初夏の野草の様子 を観察する。 ・集めた野草の特徴を生かして,貼り 絵をする。 ・野草を使った遊びを工夫し,友だち と紹介し合う。(草相撲,船やアク セサリーづくりなど) 2 (4) 文や絵で表すことができる。 「草ねんど」で好きなものを作ろう ・葉や茎をちぎったときに糸のような ・「草ねんど」に適した野草を集める活 ものがみられる野草から,「草ねん 動を通して,野草それぞれの特徴に気 ど」を作れることを知る。 づくようにする。 ・「草ねんど」になる野草をグループ ・野草から繊維を取り出す作業は授業者 で協力して集め,「草ねんど」を作 が行ない,その様子を適宜観察できる る。 ようにする。 ・「草ねんど」で自分の好きなものを ・「草ねんど」の手触りを十分に楽しめ 作る。 るようにし,創作活動への意欲を喚起 する。 3 (4) 秋の野草で遊ぼう ・初夏と比べながら,秋の野草の様子 ・季節による野草の種類や様子の変化に を観察する。 気づくようにする。 ・野草の果実や種子を探し,それらを ・野草によって果実の形や大きさ,色な 使った遊びを工夫し,友だちと紹介 どに違 いが ある ことに 気づ くように し合う。 する。 4 (1) ◎「草ねんど」を使っ た製作活動の楽しさ に気づいている。 (気 付き)<行動観察> 活動をふりかえろう ・野草とかかわる活動をふり返る。 ◎野草の果実の特徴を 生かした遊びを考え ることができる。 (思 考・表現)<ワーク シート,行動観察> ◎野草は自分たちにと って身近な植物であ ・野草とかかわってよかったところや, り,生命をもってい もっと やっ てみ たいこ とを 考え発表 ることや成長してい できるようにする。 ることに気づいてい る。 (気付き)<ワー クシート> -7- 3) 授業の概要 授業者が新聞紙から紙粘土ができることをヒン ① 初夏の野草であそぼう(第1次) トにして考案したものである。 「春より大きくなっているかな」 「 花がさいて まだ,どの野草を集めればいいのかわからな いるかな」とつぶやきながら,児童は初夏の野 い児童や虫がいるからと触るのを嫌がる児童が 草の観察に校庭へと出かけた。児童は,春とは いるいっぽうで, 「ほそながくさ」と名付けるB 野草の草丈や種類が異なる様子,種子をつくっ 男の言葉に触発されて多くの児童が積極的に野 て枯れた野草の姿にも気づいていった。次に, 草を採集した。 自分の好きな野草を数種類集めて貼り絵をした。 採集した野草から繊維を取り出す作業は授業 「ギザギザの葉は,ここに貼ろう」 「丸い葉っぱ 者が行い, 「草ねんど」は児童が手作りすること は,目にしようかな」などと葉や茎をロボット にした。 「 ティッシュをぬらしたんに似てる」 「ふ や動物の形になるよう貼り合わせながら,野草 わふわしてる」など,野草の繊維の手触りを楽 それぞれに特徴があることに気づいていった。 しみながら作業を進めていく。次に,工作糊を 入れて十分に混ぜ合わせた「草ねんど」を使っ て,自分の好きなものを作り,一週間ほど陰干 しをして待った(写真2)。出来上がった作品を みて,児童は,あんなに柔らかく重たかった粘 土が軽く固くなったことに驚きを隠せないよう だった。それぞれの作品を紹介し合いながら, 友だちのよさにも気づいた。 「草ねんど」の作り 方は,表Ⅲ-2の通りである。 写真1 野草の特徴を生かした貼り絵 次は, 「草遊び」の時間である。野草で遊んだ 経験の少ない児童の中には,どうしていいかわ からず戸惑う者もいたが,草相撲をしたり笹船 を作って池に浮かばせたりして楽しんでいる友 達の姿をみて,自分でも試すようになった。そ 写真2 れぞれに工夫して遊んでいる中で, 「 この草はち 「草ねんど」の材料 写真 3 の感触を楽しむ 「 草ね ん ど」 で 好きなものをつくる ぎったら糸みたいなのが出てくる。これのほう が相撲に強いねん」という気づきをしたA男の 表Ⅲ-2 「草ねんど」の作り方 言葉で,全員が野草に繊維があることをとらえ 1. 葉の細長い野草を集める。 た。 2. 集めた野草に薄い水酸化ナトリウム水 ② 「草ねんど」で自分のすきなものをつくろう 溶液を加えて,葉が柔らかくなるまで (第2次) 加熱する。 児童がみつけた「糸になりやすい草」から, 「草ねんど」ができることを知らせると, 「そん 3. 水洗いを繰り返して繊維を取り出す。 4. 水分を絞りとった野草の繊維に,工作 なんつくれるん?」という声と「早くつくりた 用の糊を加え,十分に混ぜ合わせる。 い」という声が入り混じった。「草ねんど」は, -8- ③ 秋の野草で遊ぼう(第3次) ② 野草に対する見方・考え方 初夏には見当たらなかった野草に果実がいっ 地面を表す線のみを示した質問紙に児童が自 ぱいついている様子をみつけ, 「草の実探し」が 由に野草の絵を描いた結果を,事前事後で比較 始まった。ヌスビトハギ,イノコズチ,オヒシ した。事前では「わからない」と記述する児童 バ,メヒシバ,エノコログサ,イヌタデなどの が 34 人中9人,絵に表す部位として「葉のみ」 野草を集め,果実を採取して各自で遊びを考え (10 人), 「葉と根」 (6人)が上位を占めたが, た。 「くっつけ鬼ごっこ」や「アクセサリーづく 事後には,「わからない」は0人となり,「根・ り」など,第1次に比べて多様な遊び方をして 茎・葉」 (16 人), 「葉と根」 (11 人)が上位を占 いる児童が増えた。 めた(表Ⅲ-3)。また,一人ひとりの絵を比較 次に,採集した野草を押し葉にして実物図鑑 してみてもバランのように一塊になった葉しか をつくった。画用紙の左半分に押し葉にした野 描けなかった児童が,葉を一枚一枚意識して描 草を貼り,右半分には遊び方や自分で付けた名 けるようになったり,根を描けるようになった 前などを書き入れ,自分なりの表現方法でまと りしている(図Ⅲ-1)。表現能力の向上という めた。 「せんぷうき草(カヤツリグサ)」 「こしょ 面を考慮しなければならないが,児童が野草の こしょ草(エノコログサ)」など,自分で名前を 外部形態を的確に表現できるようになったとい つける児童が大半であるが,野草の和名を調べ える。さらに,知っている野草の名前について る児童も認められた。 尋ねた結果,事前では1種類のみしか記述でき その後,遊びや製作活動をした楽しさだけで ない者が 34 人中 25 人いたが,事後には2種類 なく,さまざまな野草に実際にふれることがで 以上の名前を記述する者が 22 人に増加した。野 きた喜び,野草について多くの発見ができこと 草にはそれぞれに特徴があり名前があることを などを話し合い,活動をふり返った。一人ひと 認識できているといえる。 りがつくった野草の「実物図鑑」を一冊にまと め,活動の締めくくりとした。 4) 授業の評価 ① 野草にかかわろうとする意欲 表Ⅲ-3 児童が描いた野草の部位 記述数 記述内容 事後調査において野草に対する好き嫌いを尋 ねた結果,全員が「すき」と回答した。その理 由として, 「 草でいっぱい遊んだり作ったりでき る」 「いろいろな形の草があっておもしろい」な ど,野草と触れ合う楽しさを感じたり,野草の 事前 事後 根・茎・葉の部位 5 16 根・葉の部位 茎と葉の部位 6 0 11 1 根と茎の部位 茎と葉の部位 4 0 0 1 葉のみ 「わからない」 10 9 5 0 特徴に面白さを見出したりした内容が大半を占 (N=34) めた。そのなかには, 「最初,ぼくは虫しか好き ではありませんでした。だけど,今は虫と草が 大好きです。いつか動物や海などの生き物も好 きになるかもしれません」という記述も認めら れた。体験を通して野草に関する知識を得る楽 しさが,他の生物ともふれ合いたいという意欲 事前 を喚起したものと考えられる。 事後 図Ⅲ-1 事前と事後にA児が描いた野草の絵の比較 -9- (2) 第2学年「土の中のたからもの」の学習 ・土が作られるには,長い時間がかかる。 1) 土壌の教材化 ・土には,土壌生物が数多く生息しており,そ アスファルトやコンクリートに覆われた大都 市に生活する子どもにとって, 「土」は身近なも れらの働きで豊かな土が作られる。 ・土は,多くの植物や動物を育てており,生命 のとはいえない状況となっている。そのうえ, 学習指導要領における土壌(以下,土)の取り 扱いは十分とは言えない状態が続いている 20) 。 活動の基盤となっている。 ・土には,浄化作用,保水性がある。 ・土は,物質循環の要として重要な役割を担っ そのような中で,土に対して「汚いもの」 「なる ている。 べく触りたくないもの」という悪いイメージを 小学校低学年では,まず,感覚を通して土に もつ者が増えつつあり 21) ,土壌汚染に対する大 阪市の小・中学生の関心は極めて低いものとな っている 親しみ,多くの生物を育む場として土をとらえ られるようにすることが重要だと考える。 22) 。森林保全の場,農業生産の場,建 築材料や医薬品等の材料などとして我々の日常 2) 指導の目標と計画 生活と密接にかかわり,地球上の全ての生物の ① 単元の目標 生命維持を支える土が遠い存在となりつつある ○ 土や土の中の生物に興味・関心をもち,感 のである。 覚を活用してかかわる活動を通して,土の中 いまいちど,自然界で重要な位置にある土に には多様な生物が生活していることに気づき, ついて学習する機会をつくり,土に関心をもつ とともに健全な土を保全する大切さを認識でき それらを愛護しようとする。 ○ るようにする必要がある。土に関して育成した い認識 23) 飼育・栽培活動を継続したり楽しく製作活動 としては,次のようなものがある。 をしたりすることができる。 ・土は,自然を構成する環境要因の一つである。 ○ ・土は,地学的作用に生物的作用が加わって生 成され,時間とともに熟成する。 ② 土や土の中の生物とふれ合う方法を考えて, 生物を飼育・観察した結果や製作したもの で遊んだ経験を発表し,交流することができ る。 単元の評価規準 生活への関心・意欲・態度 ①土に興味・関心をもち,意欲的 に土の中の「たからもの」 を探 そうとする。 ②土の中の生物(土壌動物等)に 興味・関心をもち,それらと親 しんだり大切にしたりしようと する。 ③土の中の生物の飼育・栽培活動 を継続したり土を使った製作活 動をしたりして,土や土の中の 生物と楽しくふれ合おうとす る。 活動や体験についての 思考・表現 ①感覚を十分に使って,場所によ る土の違いを見付けることがで きる。 ②発見した土の中の「たからもの」 を,絵や文で表現することがで きる。 ③土や土の中の生物とふれ合う方 法を考えることができる。 ④土の特性を生かして製作活動を することができる。 - 10 - 身近な環境についての気付き ①場所によって土の感触や特性に 違いがあることに気づいてい る。 ②土の中には,生命をもっている ものが含まれていることに気づ いている。 ③土の中の生物に合った飼育・栽 培の仕方があることに気づいて いる。 ④みんなで生物の飼育・栽培活動 をしたり土を使った製作活動を したりすると,楽しいことに気 づいている。 ⑤生物の飼育・栽培活動や土を使 った製作活動を通して,友だち のよさや自分との違いに気づい ている。 ③ 指導計画 次 学習活動 (時) 1 ⑵ 全9時間(生活科+図画工作科) 指導・支援 場所による土のちがいをみつけよう ○「砂や土とともだち」の学習で,校庭 ・一学期の学習で土の手触りを比 の砂や土の感触,色,におい,音など べた経験を思い起こすようにす を調べた経験を思い起こし,その結果 る。 を発表し合う。 2 ○3つの箱の中に隠された,砂場,運動 ・感覚を十分に使って,場所によ 場,裏庭の土(メタセコイヤの落ち葉 る土の違いをみつけるようにす ことに気づいている。 の堆積等で生 成された 土) を手で触 る。 (思考・表現)<行動観 土の中の「たからもの」をさがそう が含まれているのか調べ,絵や文で記 録する。 意欲的に土の中の「たか する。 らもの」を探そうとして ・肉眼で確認できる土壌動物は別 含まれているか,虫メガネなどを使 の容器に入れて観察するように って観察する。 する。 の」を絵や文で表現し,発表し合う。 ・自分の気づきを大切にしながら 表現できるようにする。 ③他にもどのような「たからもの」が ・水を加えて撹拌 した後の変化に 含まれているか調べるために,ペッ 興味をもち,観察するようにす トボトルに土と水を入れ,よく攪拌 して置く。 る。 <行動観察> ◎発見した土の中の「たか らもの」を,絵や文で表 現することができる。 (思考・表現)<ワーク シート> ◎土の中には,生命をもっ ているものが含まれて ④水を加えて攪拌し,1~2日置いた 土には,さまざまなものが含ま いることに気づいてい 土の様子を観察し,みつけたことを れていることを捉えやすくす る。(気付き)<ワーク 記録する。 る。 シート> 「土や土の中の生き物と,してみたいこと大さくせん」をしよう 考え,楽しく活動する。 ①土や土の中の生物ともっとふれ合 う方法を考え,発表し合う。 ②グループを編成し,考えた方法で 土や土の中の生物とふれ合う。 ・まず,一人ひとりが考え,発表 するようにする。 ・自由に楽しく発想できるよう, 友だちの考えを否定しないよう に助言する。 ・責任をもって生物の飼育・栽培 を行うようにする。 ・計画に従って,活動を進められる ようにする。 ⑴ いる。(関・意・態) ・運動場の土と比較し,黒褐色の ○土や土の中の生物とふれ合う方法を 4 ◎土に興味・関心をもち, つけられるように,意欲を喚起 ①黒褐色の土(裏庭の土)の中に何が ②ワークシートにみつけた「たからも ⑷ 触や特性に違いがある 察,発言> ○土の中にはどのような「たからもの」 ・たくさんの「たからもの」をみ 3 ◎感覚を十分に使って調 べ,場所によって土の感 り,違いをみつける。 ⑵ 評価の観点,方法 の上の方に沈 んでいる 粘土 を利用し て,手の指で絵を描く。 心をもち,それらと親し んだり大切にしたりし ようとする。(関・意・ 態)<行動観察,ワーク シート> ◎土や土の中の生物と楽 しくふれ合う方法を考 えることができる。(思 考・表現)<ワークシー ト> ◎土の特性を活かして製 粒の小さな土で絵をかこう ○水を加えて攪拌し,1~2日置いた土 ◎土の中の生物に興味・関 作活動をすることがで ・自由に表現できるようにする。 ・友だちの作品のよさを知るよう にする。 ○作品を紹介し合う。 きる。(思考・表現)< 行動観察,作品> ◎土を使った製作活動を 通して,自分や友だち のよさに気づいてい (図画工作科) る。(気付き)<発言> - 11 - 3) 授業の概要 ① 土の中の「たからもの」をさがす(第2次) 授業者は,虫に対して嫌悪感をもつ児童がい る実態を考慮して,土壌動物への抵抗感を軽減 するよう「先生は裏庭の土の中に,たからもの をみつけました。みんなにもたくさん見つけて 欲しいと思います」と投げかけ,裏庭から採取 した土を披露した。 児童は,砂とは違ったにおいのする黒褐色の 土の中にどんな「たからもの」が入っているの か探し始めた。「わあー,ダンゴムシや」 「ミミ 図Ⅲ-2 児童がみつけた土の中のたからもの ズをみつけた」 「 ありが3匹」 「 木の実があった」 などと声を出しながら夢中で「たからもの」探 表Ⅲ-4 学習後の感想 しを行い,裏庭の土の中にさまざまな動植物が ○ その勉強を始めたときは,「本当にたからも 含まれていることをみつけた。団粒構造の存在 のは,あるの?」と思っていましたが,本当 にありました。もやしみたいな草や宝石みた にも気づき,指でつぶすと粉々になる様子を楽 いな石やいろいろな石,草や虫たちがいっぱ しみながら,黒褐色をした裏庭の土には他の場 い,いっぱいありました。 ○ 裏庭の土の観察をしました。いっぱい虫と 所にはない「たからもの」がたくさん含まれて か,草とか,木とか,土のかたまりがたくさ いることを確かめた。その内容をワークシート んあって,観察できて嬉しかったです。 に記録し,発表し合った。 その後,実際に裏庭に出かけ,落ち葉が堆積 まず,児童一人ひとりがどのような活動をし した下の土の中に大きなミミズやアリ,ダンゴ たいか考え,文と絵で表現する。その後,同じ ムシなどの生物がいることを確かめた。次に, ような考えをもつ者同士でグループを編成し, ペットボトルに土と水を入れて攪拌してしばら 「してみたいこと」「ざいりょう」「やり方」に く放置し,他にどんな物が含まれているのか, ついて話し合い決定し,活動を進めた(図Ⅲ- また,どのように変化するのか観察し,みつけ 3)。 たことをワークシートに書き足していった(図 Ⅲ-2)。 児童は,土の中にはたくさんの「たからもの」 が含まれていることに驚き,また,それらを見 付けられたことに喜びを感じていた(表Ⅲ-4)。 ② 土や土の中の生きものと,してみたいこと 土の中の虫を飼育し観察する 裏庭の土で植物を育てる 大作戦(第3次) 土の中には土壌動物や植物の種子などの「た からもの」がたくさん含まれていることを見つ けた児童は,それらともっとかかわりたいと要 望するようになった。そうした児童の意欲を「裏 土の違いを調べる 庭の土や土の中の生き物と,してみたいこと大 作戦」の学習へと授業者はつなげた。 図Ⅲ-3 - 12 - 土の中の様子を調べる 土と土の中の生物とかかわる活動例 落ち葉が堆積している場所でダンゴムシの生 このように,土の中の生物とかかわる中で, 息を確認する児童,土の中にどんな種子が埋ま 児童はそれらに対する愛着の気持ちを深めてい っているか探し出そうとする児童,アリや幼虫 った。 を探すのに夢中になっている児童など,全員が ② 土や土の中の生物に対する見方・考え方 意欲的に取り組んだ。活動の中で,約 15 ㎝のミ 図Ⅲ-4は,事前と学習終了2か月後に「土」 ミズが土の中から現われたのをみて, 「 ミミズは から思い浮かぶことがらを3つ記述させた結果 土をよくするためにおるんやで」と教え合いな を比較したものである。事前では「感触」や「冷 がら,生物が生息する裏庭の土の豊かさを改め 温感」といった土を触ったときの印象に関する て感じとった。 語句が全体の半数を占めており,生物に関する その後,生物の飼育・栽培などを続け,土や 記述は 1 つであったのに対して,2か月後には 土の中の生物とかかわりを深めていった結果を 14 に増えている。また, 「大切なもの」 「土がな 発表し,情報を共有した。各グループの発表後 ければ生きられない」などの「価値観」に関す は,わかったことやもっと知りたいこと,友だ る記述が認められるようになっている。 ちのいいところについて意見交流した。 ペットボトルに土を入れて何が育ってくるか 「土」ということばから思いつくこと (記述数 ) 25 23 ケノザが成長する様子を観察することができ, 20 5 図Ⅲ-4 性 0 他 そ 材 料 0 透 物 3 2 1 浸 感 感 触 2 生 構 価 してダンゴムシのオスとメスの違いや好む食べ 0 温 とができた。たとえば,A児は,飼育活動を通 0 1 感 0 7 6 4 色 に お い 物にかかわろうとする意欲の高さを読みとるこ 事前 2ヶ月後 10 7 5 観 ワークシートの内容から,児童の土の中の生 5 物 土の中の生物とかかわろうとする意欲 14 の 12 10 10 値 ① 授業の評価 成 4) 17 15 15 冷 満足感を得ていた。 快 を継続観察していた児童は,翌年の4月にホト N=26 土という言葉から思いつくこと 物が認識できるようになっている。また, 「ダン 学習終了後2ヶ月を経た時点でも,生物の存 ゴムシのめいろ」の遊びを通して,障害物をさ けるために触覚を常に動かしながら行動し,触 覚の触れた方に右,左と方向を変えながら移動 するダンゴムシの生態をとらえるようになって いる。B児は,アリが巣づくりしている様子を 観察して「がんばりやさんのアリにはまけられ ないなあ」と評価を与え,そのアリがミミズを 在が児童の記憶に残っていることは, 「 あなたが みつけた『土の中のたからもの』は何ですか」 と問いかけた結果にも表れている。全員が2種 類以上の生物名を記述し,なかには7種類(ミ ミズ,ムカデ,ダンゴムシ,アリ,カタツムリ,ハサミ ムシ,幼虫)の生物名を記述した児童もいる。 土の中の生物の存在が長期記憶に残っている 好むか調べるなど,アリへの愛着を深めている。 C児は,ハナムグリの幼虫が土を黒色に変える ほど糞をしている様子を観察し,元気に育って 欲しいと願う気持ちを強めていった。裏庭の土 が植物を育てるのに適していると考えたD児は, 土の中でみつけた植物だけでなくダイコンの種 子等を育てるようになった。 のは,飼育・栽培や遊び活動といった生物との 直接経験を十分にできる場を保障したためと考 えられる。 児童が土の中の生物をみたり,さ わったり,臭いをかいだりした経験が,心を 揺さぶられた出来事として記憶にとどめられ たからであろう。 - 13 - 2 小学校中学年における環境教育プログラム どんな種類の昆虫がどんな体のつくりをしてい の開発と実践 るのか,どのようなところにすみ,何を食べて 小学校中学年では,生物の成長や体のつくり, 暮らしているのか,その昆虫を食べる動物から 生物とその周辺の環境とのかかわりなどについ どのようにして身を守っているのかを調べる。 て調べ,生物の多様性と共通性,生物と環境と その結果をもとにして,昆虫は呼吸をし,食べ のかかわり,生命の連続性についての見方・考 物をとり,消化して不要物を排出し,他の生物 え方を深め,生物多様性が保持された環境の意 の攻撃から身を守り,仲間を増やすという,動 義を理解できるようにすることをねらいとする。 物が備えている条件をすべてもっていることを (1) 第3学年「いろいろなこん虫のくらし」の学習 とらえられるようにする 1) ための戦略はそれぞれに異なっていることにも 昆虫の教材化 昆虫は,①多様である,②身近な存在である, 。さらに,生き抜く 気づけるようにする。 ③小型である,④採集が容易である,⑤飼育が 2) 指導の目標と計画 容易である,⑥一生が短く,いろいろな場面が ① 単元の目標 見られる,⑦環境とのかかわりが大きいなど 26) 24) , 身近な昆虫の様子を比較する活動を通して, 生物教材としての適性が高いため,教科書の教 昆虫の育ち方には一定の順序があり,その体は 材として長年にわたって取り扱われてきた。し 頭,胸及び腹からできており,胸に6本の脚が かし,大阪市内の小・中学生がアゲハやトノサ あるという共通点をもつが,昆虫によってその マバッタ,ツヅレサセコオロギを採集した経験 形態や色などが異なり,昆虫の生活に合うよう 率は,この 20 年間で 10%以上低下している 25) 。 になっていることをとらえられる。また,昆虫 そうした現状を改善するために,昆虫への興 は食べ物や生息環境を通して他の生物とつなが 味・関心を高め,観察を通して動物としての昆 りあっていることをとらえられる。 虫の生活の様子をとらえられるようにしたい。 ② 単元の評価規準 自然事象への 関心・意欲・態度 ○身近な昆虫に興味をも ち,進んでそれらの体 のつくりや成長のきま りを調べようとする。 ○身近な昆虫の生活の様 子を観察する活動を通 して,それらを愛護し ようとする。 科学的な思考・表現 観察・実験の技能 ○昆虫同士を比較して, 差異点や共通点につい て予想や仮説をもち, 自分の考えを表現して いる。 ○昆虫の体の色や形,大 きさ,体のつくりなど に差異点があるのは, それぞれの生息環境や 食べ物に適応している からだと考え,自分の 考えを表現している。 ○昆虫は,樹木,草本, 水辺,土などを生息環 境として,うまく棲み 分けて生活しているこ とを見出すことができ る。 ○虫メガネなどの器具を 適切に使いながら,昆 虫の体のつくりなどの 観察をすることができ る。 ○昆虫の体のつくりや育 ち方を観察し,その過 程や結果を記録してい る。 - 14 - 自然事象についての 知識・理解 ○昆虫の育ち方には一定 の順序があり,その体 は頭,胸及び腹からで きており,胸に6本の 脚があるという共通点 をもつが,昆虫によっ てその形態や色などが 異なることを理解して いる。 ○昆虫は,食べ物や生息 環境を通じて植物や他 の動物とつながりをも って生きていることを 理解している。 ○昆虫には,さなぎにな らずに,卵→幼虫→成 虫と育つものがいるこ とを理解している。 ③ 指導計画 次 (時) 1 (2) 全7時間(理科+総合的な学習の時間) 学習活動 指導・支援 どんなこん虫が,どんな所で,何をしているのか,また,体のつくりはどのようになっているか調べよう ○チョウの学習を想起し,動物であ る昆虫はどんなことをしながら生 きていくか考え,観察の観点につ いて話し合う。 ・食べ物を食べる ・攻撃から身を守る ・成長して子孫を残す など ○グループで観察場所を分担して, どんな昆虫が,どんな所で,何を しているのか,また,体のつくり はどのようになっているのかを調 べ,文章や図などで記録する。 ・体の色,形,大きさ ・体のつくり ・脚や羽の数とその付き方 ・生息環境 ・食べ物 など (理科) 2 (2) 評価の観点,方法 ・電子黒板にチョウの成長過程 を映し出し,チョウが生きるた めにして いるこ とを想 起 でき るようにし,昆虫を生き物とし てとらえられるようにする。 ◎身近な昆虫に興味・ 関心をもち,進んで それらの生活の様子 や体のつくりなどを 調べようとする。 (関・意・態)<行 動観察> ・観察に必要なものや,注意点 ◎虫めがねなどの器具 を知らせる。 を適切に使いなが ・時間をかけて観察し,どのよ ら,昆虫の体のつく うな生息環境にすみ,何を食べ りなどの観察をする て暮らしているのか,どのよう ことができる。(技 にして身を守っているの かな 能)<行動観察> ど,昆虫のありのままの生活の ◎観察した結果を図や 様子を記録できるようにする。 文などで記録するこ ・児童一人ひとりが昆虫を採取 とができる。(技能) して観察できるよう,ペットボ <ワークシート> トルなどの容器に入れて,虫メ ガネなどの器具を適切に使え るようにする。 こん虫の体のつくりについて,似ているところと違うところをみつけよう ○調べた結果をもとに,昆虫の体の つくりを比較して,共通点をみつ ける。 ○昆虫の体のつくりを比較して差異 点をみつける。 ・昆虫の体のつくりを比較し, 昆虫の体はどれも頭,胸,腹 からできており,胸には脚が 6本あることをとらえ,昆虫 以外の虫との差異点を明確に できるようにする。 ・昆虫は体の色,形,大きさなど の姿が違うだけでなく,生活場 所 や食 べ 物 が 違う こ と に 気 づ くようにする。 ・観察記録から,自分なりの考 えをもち,話し合いが出来るよ うにする。 ◎昆虫の体のつくりを 比較して,共通点や 差異点があると考え 自分の考えを表現し ている。 ( 思考・表現) <ワークシート> ○昆虫の種類によって体のつくりや ◎昆虫の体の色や形, 生活の仕方に特徴があるのはどう 大きさ,体のつくり してか,すみかや食べ物とのかか などに差異点がある わりから考え,話し合う。 のは,それぞれの生 ○デジタル教科書などの資料をもと ・電子黒板にデジタル教科書(啓 息環境や食べ物に適 に,昆虫が敵から身を隠しながら 林館理科3年 「生きもの資料 応しているからだと 生活している様子を知る。 集」の「こん虫のすがたとくら 考え,自分の考えを し」を映し出し,昆虫の口と食 表現している。(思 べ物とのかかわりや昆虫が敵 考・表現)<ワーク から身を隠しながら生活して シート> いる様子などを知らせ,昆虫の 巧みな生活ぶりに気づくよう にする。 ・昆虫の種類によってすみかや食 ◎昆虫は食べ物や生息 - 15 - べ物が異なることから,昆虫の 体の特徴は,その昆虫が生活し て いく の に 都 合よ く で き て い ることに気付くようにする。 (理科) 3 (1) こん虫の育ち方を比べて,チョウと似ているところと違うところをみつけよう ○飼育や資料収集を通して,いくつ かの昆虫の育ち方をチョウと比較 し,共通点と差異点を調べる。 (理科) 4 (2) ・飼育したり電子黒板に映し出 したデジタル教科書等(NHK デ ジタル教材,「こん虫のいろい ろな動き」「こん虫の動きのひ みつ」)の映像を活用したりし て,昆虫には,チョウのように 卵→幼虫→蛹→成虫の順に育 つものと,トンボやバッタのよ うに,卵→幼虫→成虫の順に育 つものがいることをとらえら れるようにする。 ◎昆虫の育つ過程を調 べ,昆虫には蛹を経 ないで成虫になるも のもあるが,育ち方 には一定の順序があ り,生命が連続して いくことを理解して いる。(知識・理解) <ワークシート> 「こん虫図かん」をつくろう ○タブレット端末を活用して,調べ ・タブレット端末を活用して文 たことを文章や図などで表現した 章や図などを効果的に組み入 「こん虫図かん」を作成する。 れ,昆虫の体のつくりや成長 ○ペアやグループで友だちが作成し 過程などの特徴をわかりやす た内容を評価し,良い点,改善点 く表現できるように指導・助 について話し合う。 言する。 ○作成した「こん虫図かん」を発表 する。 (総合的な学習の時間) 3) ① 環境を通じて植物や 他の動物とつながり あって生活している ことを理解している。 (知識・理解)<ワ ークシート ◎観察した結果を文章 や図などを使ってわ かりやすく図鑑に表 現している。 (思考・ 表現)<「こん虫図 かん」> 授業の概要 どんなこん虫が,どんな所で,何をしてい になって採集しようと追いかけていた児童もい るのか,また,体のつくりはどのようになっ 録した結果をまとめることによって,昆虫には ているか調べる(第1次) 色,形,大きさなどの違いはあるが,その体の 児童は,校庭と学校に隣接する公園内に観察 つくりには共通点があることに気付き出した。 場所を決め,「どんなこん虫が,どんな所で, また,「アゲハがミカンの木に卵を産みに飛ん 何をしているのか」を視点に,昆虫の生活の様 で来た」「ショウリョウバッタが草を食べてい 子を観察した。専門家から捕虫網の使い方を教 た」「コアオハナムグリが花粉を食べていた」 わった児童は,担当した観察場所の草地や樹木 「ヤマトシジミがカタバミの葉の上で休んでい の植栽空間に入っていった。オンブバッタやヤ た」などと記述し,昆虫と植物とのかかわりが マトシジミ,ツマグロヒョウモン,ナナホシテ 深いことにも気付いていった(図Ⅲ-5)。 ントウなどの生息を確認し記録していった。自 ② た。その後も,校庭や公園での観察を続け,記 こん虫の種類によって,体の特徴や行動の 分では同定が難しい昆虫については専門家に同 仕方が違うのはどうしてか,考える(第2次) 定してもらい,意欲的に生物を採集していった。 児童は,昆虫の観察記録を整理しなおし,昆 事前では昆虫に対する嫌悪感を示していた児童 虫の体のつくりの共通点を見出した後,「エン の中には,オオシオカラトンボを友だちと一緒 マコオロギは草や木の茂みにいると目立たない」 - 16 - 「カマキリはかまのような前足」「ア った。 ゲハは花の蜜を吸うときは翅をあげて 表Ⅲ- ふるわせる」などのように,昆虫の種 5 班に 類によって体の大きさ,食べ物,口の おける話 形,住処,確認できる季節,行動の仕 し合いの 方などが異なることを確認し,それに 場面 は理由がありそうだと考えるようにな c1:全部同じ虫やっ った。 同じやし,場所 そこで,授業者は,「昆虫によって やん。 特徴がいろいろあることがわかりまし c2:食べるものがな た。じゃ,なぜ,昆虫の種類によって c3:食べるものがな 体の特徴や行動の仕方に違いがあるの c4:あー,そうや か考えてみましょう。まずは,自分の c1:まとめよう。食 考えをワークシートに記入 図Ⅲ-5 してから班で話し合いまし 昆虫の観察記録の例 べ物がなくなっ c2:たとえばアリが 住処ばっかりに ょう」と投げかけた。 c3:全部同じ虫やっ 児童の話し合いには,表Ⅲ-5のよ うに食べ物に着目して話し合う班や「こん虫そ れぞれに敵が違うから,どんどん食べられんよ る。 c4:あー言われた。 c1:季節ごとにどれ うに食べられんように,みんなの虫がどんどん 困るから,食べ 違うようになったと思います」と敵から身を守 くなる。 る防護手段に着目して話し合う班などが認めら c2:体の特徴と一緒 れた。その後全体で意見交流し,昆虫の体のつ か違う方がいい くりや行動の仕方に違いがあるのは,その昆虫 c3:チョウだけが何 が生きていくのに都合よくなっているためであ ることをとらえていった。 こうした話し合いの後,授業者が電子黒板に 映し出すさまざまな昆虫の口の形や擬態の様子 を視聴し,昆虫の体のつくりの特徴と生活との かかわりについての理解を深めた。 ③ 「こん虫図かん」をつくろう(第4次) 昆虫の観察記録をもとに,タブレット端末を 活用して「こん虫図かん」を作成した(図Ⅲ6)。草地や水辺,樹木などの生息環境別に昆虫 をまとめ提示するようにしたことで,昆虫がう まく棲み分けて生活していることをとらえてい - 17 - c4:花の蜜をすうや c1:他の虫は別の口 c3:同じような虫ば も住処もなくな c2:死んでしまう。 図Ⅲ-6 タブレット端末を活用して作成した「こん虫図かん」の一部 4) 授業の評価 ① 昆虫にかかわろうとする意欲 大切さをとらえているといえる(表Ⅲ-6)。 事前では昆虫を採集した経験者は 30 人中 16 表Ⅲ-6 昆虫について伝えたいこと 数 主な記述内容 人であったが,事後では 23 人に,飼育経験者は 観点 11 人から 28 人に増加した。 ・生きるためにいろいろなそれぞれ また,事前では「気持ち悪くて怖いから」な に違う体をしているんだ。なぜだ どを理由に,昆虫に対する嫌悪感を示した児童 と思いますか?調べてみてくださ は8人であったが,事後には2名に減少してい 多様性 18 る。その中には, 「生きていくために頑張ってい ・アリなどの他にも覚えきれないほ どたくさんの種類がある。食べる るから」と記述し,命あるものへの愛着の気持 ものも違って,でてくるときも違 ちを高めたことが伺える。 ② い。おもしろいですよ。 うことを教えてあげたい。 昆虫に対する見方・考え方 ・虫は気持ち悪くないということで 事後に「虫について伝えたいこと」を自由記 す。私も虫が嫌いでしたが,だん かかわる 述式で尋ねた結果,昆虫の多様性に関する記述 大切さ 7 だん慣れてくるとおもしろいし, 自分がもし「キャー気持ち悪い」 が 30 人中 18 人と最も多く,次に,昆虫にかか とか言われると嫌だからです。ぜ わる大切さが7人,体のつくりが5人と続いた。 ひ虫の勉強をしてみてください。 こうした記述内容から,生態観察などを通し 体のつくり て昆虫の多様性に気付くとともに,その生命の - 18 - 5 ・昆虫の体は,頭,腹,胸に分かれ ていて,脚が6本あること。 (N=30) (2) 第4学年「ヤゴの育ちとかんきょう」の学習 1) ・幼虫から成虫への変化が著しく,不完全変態 プールのヤゴ(トンボ)の教材化 をとらえやすい。 大阪市内であっても,都市公園の池などにシ ・羽化は自然のきびしさと自然の営みのすばら オカラトンボが飛来する機会は多い。しかし, しさを感じさせてくる。 小・中学生がシオカラトンボを採集した経験率 ・幼虫と成虫では,その形態,食べ物,生息場 や名前を正しく指摘できる割合は,1991 年に比 所などが異なり,生物とそれが生息する環境 べて 2011 年に 10 ポイント以上低下している 27) 。 自由に立ち入れる水辺の少ない大阪市では,ま とのかかわりについての理解が深まる。 ・水中で繰り広げられる生物の「食う食われる すます児童と水辺との距離は広がり,水辺の自 然を保護する必要性に気づくことも少なくなる という関係」をとらえやすい。 ・特徴的な形態は児童にも識別が可能で,地域 恐れがある。 に点在する水辺や緑地に飛来するトンボの生 そこで,都市部の学校においても比較的容易 態を調べることにより,学校と地域の自然環 に入手でき,児童にとっても親しみやすく飼育 境とのつながりについて気づきやすい。 可能なプールのヤゴ(トンボ)の教材化を考え 2) 指導の目標と計画 たい。ヤゴ(トンボ)は,次のような点から自 ① 単元の目標 然の巧みさや,厳しさ,生物のしたたかさを, ○ ヤゴ(トンボ)やそれとかかわる生物に対 感動をもって学びとれる教材となると考えられ して興味・関心をもち,それらの生活の様子 る。 を継続して観察する活動を通して,その体の ・プールや小さな池に産卵するトンボであれば つくりと育ちの様子をとらえたり自然の営み 採集しやすく,観察・飼育教材としてその確 保が比較的容易である。 の素晴らしさや厳しさをとらえたりしている。 ○ ヤゴ(トンボ)やそれにかかわる生物の生 ・コンテナ,水槽,ペットボトルなどの小さな 息環境を調べることによって,生物が生息し 容器でも飼育が可能で,水の管理さえ怠らな やすい環境という視点で地域の環境を見直す ければ世話しやすい。 ことができる。 ② 単 元の評価規準 自然環境への 自然環境についての 思考・表現 観察・実験の技能 ○ヤゴ(トンボ)やそれ ○水中で繰り広げられる ○ヤゴからトンボへの成 ○生物は,食餌や生息 とかかわる生物に興味 生物の「食う食われる 長過程を観察し,その 環境を通して他の生 をもち,進んでそれら という関係」の観察を 結果を図や文で記録す 物とつながりあって の生活の様子を調べよ 通して,生物は他の生 ることができる。 生きていることを理 うとする。 物とつながりあって生 ○学校内や地域で,トン ○ヤゴ(トンボ)などの 活していると考え,自 ボが交尾や産卵,飛行 ○学校と地域の自然環 生物の生活の様子を 分の考えを表現してい している様子を観察 境にはつながりがあ 観察する活動を通し る。 し,「トンボマップ」 ることを理解してい に記録することがで る。 関心・意欲・態度 て,それらを愛護しよ うとする。 ○観察を通して,学校と 地域の自然環境はつな がっていると考え,自 分の考えを表現してい る。 - 19 - きる。 知識・理解 解している。 ③ 指導計画 次 (時) 1 (1) 全 20 時間(理科+国語+総合的な学習の時間) 学習活動 指導・支援 評価の観点,方法 プールにはどんな生き物がいるか調べよう ・プールの水を採取し,どんな生物が生 ・観察結果から,プールには様々 ◎プールに生息する生物 息しているか観察する。 な命が存在していることをと に興味をもち,意欲的 らえられるようにする。 に観察しようとしてい る。 (関心・意欲・態度) (理科) <行動観察・観察記録> 2 (5) プールのヤゴを救出し,どのように成長するのか調べよう ・水位を下げたプールに入り,ヤゴなど ・プール清掃の前に児童の膝丈 の水生昆虫を採取する。 までにプールの水位を下げ, ・ヤゴの飼育計画を立て,それに従って, ヤゴなどの生物を採集しやす ヤゴが羽化してトンボになるまでの様 くする。 子を観察し,記録する。 ・図書やインターネットなどの 情報をもとに自分たちで飼育 計画を立て,グループや個人 で羽化するまで責任をもって (理科) 飼育できるようにする。 3 (3) 説明文「ヤゴからトンボヘ」を書こう ・観察記録をもとに,ヤゴが羽化するま での様子を説明する文章を書く。 (国語) 4 (7) ・観察記録をもとに,飼育方法 やヤゴの成長過程,伝えたい ことなどを整理し,段落相互 の関係に注意した構成を考え て説明する文章を書けるよう にする。 ◎段落相互の関係に注意 した構成を考えて,説 明する文章を書くこと ができる。 (思考・表現, 技能)<説明文> 「トンボ池」をつくり,ヤゴ(トンボ)を中心とする生き物のつながりを調べよう ・「トンボ池」をつくる。(夏季休業中) ・ 「トンボ池」にすむ生物のつながりを調 べる。 ・学校内や地域でトンボが交尾や産卵, 飛行している様子を観察し,「トンボ マップ」に記録する。 ・調べた結果をもとにして,トンボなど の生物が生息しやすい環境について考 える。 (総合的な学習の時間) 5 (4) ◎ヤゴからトンボへの成 長過程を観察し,その 結果を図や文で記録す ることができる。(技 能)<観察記録> ・学校周辺の自然環境とのつな がりを考慮して,適切な場所 に「トンボ池」を整備するよ うにする。 ・生物は,食べ物や生息環境を 通して他の生物とつながりあ って生きていることに気づけ るようにする。 ・ 「トンボマップ」の作成を通し て,トンボなどの生物が生息 するためには,緑地や水辺が 欠かせないことをとらえられ るようにする。 ◎生物は他の生物とつな がりあって生きている ことを理解している。 (知識・理解)<ワークシ ート> ヤゴやトンボが育つ環境を守り,育てよう ・校区やその周辺にヤゴやトンボが生息 ・調査記録をもとに地域の自然 できる水辺や緑地がどの程度あるか調 環境を見直し,自分たちの考 べ,地域の環境を見直す。 えを交流できるようにする。 ・学習したことを整理し,他者に伝える。 (総合的な学習の時間) - 20 - ◎学校と地域の自然環境 にはつながりがあるこ とを理解している。(知 識・理解)<発言内容> ◎図や表などを使ってわ かりやすく伝えている。 (技能)<ワークシート> 3) 授業の概要 飛び立たせた後,残り全てのヤゴが羽化に成功 ① プールのヤゴを救出し,育てる(第 2 次) することを願いながら,何匹のトンボが羽化で 第 1 次においてプールにどんな生物が生息し きるか記録していった。 ているか調べた結果,児童の予想に反して,ヤ しかし,現実は厳しいものである。足が殻に ゴを初めとする様々な生物の生息が確認できた。 引っかかって死んでいくもの,殻からでてきた 「とてもくさいもの中にヤゴとそのえさのアカ ものの羽が広がらなかったり,足がちぎれて飛 虫がいることがわかった」 「 ヤゴは水の中を移動 べなかったりしたものが相次いだ。飼育してい するとき,おしりから空気を出して飛ぶように たヤゴのうち,無事に羽化に成功したものは半 して移動していた。おもしろかった」などの記 数にも満たなかった。児童は,羽化できなかっ 録にあるように,児童はプールの生物の観察を たり飛べなかったりしたトンボの姿を目の当た 楽しみ,新たな発見をした。また,水面に飛来 りにして,自然の営みとは厳しいものであるこ するトンボをみて「ヤゴがトンボになるところ とを知ったのである。 をみたくてたまりません」と飼育への意欲を高 ②「トンボ池」をつくり,ヤゴ(トンボ)を中 めた。そんなときに,プールに生息する生物は プール清掃の際に下水道に流される運命にある 心とする生き物のつながりを調べる(第4次) ○ 「トンボ池」をつくる ことを授業者が知らせると, 「かわいそうや,助 ヤゴに出会った感動や,ヤゴの飼育方法,ヤ けたろ」という声があがり, “ヤゴ救出作戦”が ゴの行動の特徴,羽化の困難さなどを説明文に 立てられた。 まとめ終えた後に,児童から一年中安心してヤ いよいよヤゴを救出する日となった。初めは ゴがすめてト ンボが産 卵できる池を 自分たち 一匹を捕まえるのがやっとという様子であった で作りたい,「ヤゴのすむ学校」にしたいとの が,時間が経つに 要望が出された。この願いを実現するために, つれて採集活動に 限られた敷地内のどこに,どのような方法で整 も慣れ,200 匹も 備するのか,クラスのみんなで情報を収集して のヤゴの救出に成 計画を立て,その内容を授業者から学校長に伝 功した(写真4)。 えてもらった。しばらくして,プールに隣接す その後,飼育方 る樹木園の中につくる許可をもらい,夏季休業 法を調べてグルー 写真4 ヤゴの救出 中に完成することに決定した。 プでヤゴを飼育し 夏季休業に入るとすぐに作業を開始した。プ 始めたが,次第に各個人で飼育したいという欲 ール指導前の 時間を利 用して 交代で 池作りに 求が高まっていった。児童は家から古くなった 取り組んだ。約一週間をかけて土を掘り,大き 日用品を持ち寄り,それを飼育容器として各自 さ1.2m×2.2m,深さ 30cmの池を完成さ で責任をもって飼育していくこととした。これ せ,水道水を入れて作業を終えた。 が継続観察の原動力になったようである。体の ○ つくりや餌の食べ方などのヤゴの生態を丁寧に 観察し記録していった。 「トンボ池」にすむ生物のつながりを調べる 児童は,水道水を入れただけの池が今後どの ように変化し,トンボがいつ産卵に来てくれる 6月初旬,羽化が始まった。児童は,生まれ のかを楽しみに,池の様子を継続して観察・記 て初めてみる羽化後のトンボの存在に感動し, 録した。毎日当番制で1日4回,気温,水温, 大きな拍手と歓声で羽化の成功を喜んだ。羽化 池とその周辺の生物の様子を観察し,記録した。 第一号のタイリクアカネの成虫を教室の窓から しばらくは何の変化もないようにみられた池 - 21 - であったが,9月末にはプランクトンやユスリ た。その結果,校内ではプールや樹木園によく カの幼虫,カエルなどの生息を確認した。10 月 飛来し,日中に一番活動している様子が記録さ にはトンボが池の水面に腹部の先をつけ産卵す れた。次に観察場所を広げ,校区内でも同様の る様子やヤゴを見つけることができ,手作りの ことがいえるのか,観察地域を分担して調べた。 池が命の誕生の場となっていることに児童は大 多くは公園の緑地や水辺,高等学校や中学校の 喜びした。 緑地,そのほかに,数は少ないが畑地,田んぼ, 観察を続けている児童の次の問題は,「『トン 水溜りなどにもトンボが飛来する様子を確認し, ボ池』のヤゴはえさを与えなくても育っている。 「トンボマップ」に記録していった。 ヤゴは何を餌とし,その餌は何を食べているの 各自が調べた結果を交流する中で,児童は, か」であった。池の水や泥を採取し,どんな生 体を休めたり餌を捕獲できたりする草本や樹木 物が何を食べているのかを調べた。その結果, は,トンボにとって欠かせないものであること ヤゴはユスリカの幼虫を,ユスリカの幼虫はプ をとらえていった。 ランクトンを食べて生活していることが分かり, ④ 池の中で「食う食われるという関係」があるこ (第5次) とに気づいていった(図Ⅲ-7)。 ③ ヤゴやトンボが育つ環境を守り,育てよう ○ トンボはどんな所にすんでいるのか調べ, 「トンボ池」と地域の自然とのつながりを 調べ,地域の環境を見直す 「トンボマップ」に記録する 学校内や校区の中でトンボがよく飛来する場 もう一つの問題は,「『トンボ池』に産卵した 所を調べた児童は, 「トンボ池」のヤゴは池の生 トンボはどこから来たのか,トンボはどんな所 物だけでなく校区の他の生物ともつながって生 によく来るのか」であった。 きていることに気づいていった。そんなとき, この問題を解決するために,まずは,学校内 「トンボ池」に今までとは種類の異なるヤゴの のどんな所にトンボが飛来するのか調べること 生息を確認した。専門家に同定を依頼したとこ にした。各自が朝,昼,夕方の3回にトンボが ろ,大阪市内ではめったに見られないトンボで, 飛来する様子を調べ,校内地図に交尾の様子が 隣の市にある生駒山で生息が確認されているヤ みられたら黄色,産卵していたら緑色,飛行し ブヤンマのヤゴであることがわかった。遠く離 ているのは赤色のシールを貼って記録していっ れた山に生息しているヤブヤンマが小さな池の 存在を見逃さず産卵場所に選んだこ の事実は,児童に生物のしたたかさ と生物のつながりの広さを知らせる ものとなった。 その結果を受けて,次に, 「トンボ 池」に生息するヤゴを中心に学校の 樹木園,校区とその周辺においてど のような生物のつながりがあるのか 考え,まとめることにした。池の中 での「食う食われるという関係」や 池とその周辺の自然環境とのつなが りをまとめていくなかで,多様な生 図Ⅲ-7 学習記録にみる生物どうしのつながり - 22 - 物がかかわりあって生きるには,生物が安心し あと思うこと」として「いろいろな虫に触れる て生息できる緑地や水辺が必要であることを再 ようになった」(21 人)と記述している。これ 確認した。 らのことから,児童がヤゴ(トンボ)を中心と する生物と積極的にかかわってきたことが読み 取れる。なかでも,生物の生息環境を認識する うえで重要な採集経験が可能になったことの意 味は大きい。 ② ヤゴ(トンボ)等の生物に対する見方・考 え方の深化 生物と積極的にかかわる中で,児童は生物に 対する認識を深めていった。 「 食う食われるとい う関係」などにみられる自然の仕組みの厳しさ 図Ⅲ-8 学習記録にみる「トンボ池」と地域 の自然環境とのつながり や羽化などにみられる自然の営みの素晴らしさ に気づき,ヤゴやトンボなどを自分たちと同じ 命ある存在として受け止めた。こうした認識が, 次に,自分たちの地域にそうした環境がどれ 多様な生物が生息できる環境を保全していこう だけ残されているか,調べることにした。校区 とする意識を高めたといえる(表Ⅲ-7)。また, を分担して調べた結果,緑地や水辺はごくわず 生物に対する認識の深まりや環境保全への意欲 かしかないことが分かった。さらに,校区とそ の向上が,本授業に対する評価を選択式で尋ね の周辺の様子を映し出した航空写真をみても, た項目に対して,全員が「新しい発見があった」, 緑や水のある空間はほんの数ヶ所しか認められ 「おもしろかった」,「満足した」と回答したの なかった。こうした現状から,児童は,ヤゴだ につながったものと考えられる。 けでなく多様な生物が安心して暮らせる環境が たくさんあってほしいという願いを強めた。そ 表Ⅲ-7 事後調査にみる児童の生物に対する見方・考え方 ○ ヤゴやトンボなどの生き物が教えてくれ たこと ・厳しい自然の中で,精一杯生きようとする 努力のすばらしさ。 ・ヤゴやトンボが安心してすめるには ,水 だけでなく木などの緑が必要なこと。 ・ヤゴはアカムシを食べ ,アカムシは緑の ぬるぬるの中の小さな生き物などを食べ るように,食べたり食べられたりしてい ること。生き物たちのつながり。 ○ 校区をつくりかえられるとしたら,してみ たいこと ・木の少ない公園を,草・花・木の多い自然 公園にし,鳥や虫にたくさん来てほしい。 ・排気ガスをなくして空気のきれいな町にし たい。森を増やして草木や動物が安心して 育つようにしたい。 ・人間と自然が楽しく住める町。 して,自分たちは「トンボ池」を守り続けよう という決意を新たにした。その後,学習した内 容をスライドにまとめ,参観日に保護者を対象 に発表し,地域にトンボなどの生物が生息でき る水辺や緑地があることの重要性を伝えた。 4) 授業の評価 ① ヤゴ(トンボ)などの生物とかかわろうと する意欲 事後調査(31 人対象)において「私ががんば ったなあと思うことは」に続く言葉を自由記述 させた結果,ヤゴの採集(22 人),羽化するま での飼育(28 人), 「トンボ池」の生物のつなが りの観察(19 人),校内や地域における交尾や 産卵をするトンボの探索(17 人)に関する記述 が認められた。また, 「今までよりよくなったな - 23 - 3 小学校高学年における環境教育プログラム た, 「バケツ稲」等の実践の多くは,食料生産の の開発と実践 場としての水田の機能に重点をおいたものとな 小学校高学年では,低・中学年で学んだこと っている。その結果,イネにかかわる生物をす を踏まえ,生物多様性はすべての生物の生存基 べて害虫とみなし,クモ類などの益虫やユスリ 盤であることを認識し,その認識をもとに生物 カなどのただの虫が互いに食物連鎖でつながっ や生態系を保全する活動に意欲的に取り組める ていることをとらえる機会は極めて少ない。 ようにすることをねらいとする。 (1) 第 5 学年 そこで,校内の樹木園や草地などの付近に「ミ 「『ミニ田んぼ』とその周辺の ニ田んぼ」を整備し,無農薬で育つイネの成長 生物調査」の学習 とともに変化するイネにかかわる生物の様子や 1)「ミニ田んぼ」とその周辺環境の教材化 「ミニ田んぼ」やその周辺環境に生息する生物 農村地域の水田等は,農業生産の場である一 の様子を観察することによって,そこに「生物 方で,多様な生物の生息環境となることが注目 どうしのつながり」が形成されることをとらえ され,水田内にビオトープを設置する取組が進 られるようにする。また,自分たちが育てたイ められている。水田を中心とする環境は,耕起・ ネから収穫したコメを食すことで,我々人間は 代掻き・田植え・水管理・稲刈りなどの人為的 生物多様性保全の恩恵を受けて生活している事 攪乱によって複雑な環境を形成する,水深の浅 実に改めて気づかせることができると考える。 い水田は高水温になるために水生生物の餌量と 2) 指導の目標と計画 なるプランクトンやベントスが豊富に発生する, ① 単元の目標 田植え前後は水面が開けているが水稲が生育す ○ 「ミニたんぼ」とその周辺の生物調査を通 るにつれて開水面が減少するなど,時間的・空 して,新たな環境を整備することによる「生 間的に多様な生物の生息環境となり,生物にと 物どうしのつながり」の変化をとらえる。 って非常に重要な場所となるからである 28) 。 ○ 育てたイネを食すことによって,我々の生 大阪市内においては,こうした生物多様性保 活は生物多様性の恵みを受けて成り立ってい 全上重要な役割を担っている水田は,昭和60年 ることを理解し,生物多様性保全への意欲を 以降急速に減少した。そのため,大阪市の児童 高める。 が水田の生物と直接触れ合う機会は少なく,ま ② 単元の評価規準 学習活動への 学習活動にかかわる 総合的な思考・表現 関心・意欲・態度 技能 ・イネの成長とそれにかか ・観察結果をもとに,イネ ・定期的にイネの成長とそ わる生物や「ミニ田ん の成長とそれにかかわる れにかかわる生物や「ミ ぼ」とその周辺の生物の 生物の活動の変化及び ニ田んぼ」とその周辺の 様子に興味・関心をも 「ミニ田んぼ」の整備と 生物の様子を観察し,記 ち,生物調査に意欲的に それによる生物の活動の 録している。 取り組もうとしている。 変化を関係付けて考え, ・定期的に観察した記録を ・生物の生態調査を通して 自分の考えを表現してい もとに,イネの成長とそ 生物への愛着の気持ち る。 れにかかわる生物や「ミ をもち,大切にしようと ・生物多様性保全に関する ニ田んぼ」とその周辺の している。 資料を収集・整理し,図 生物の様子の変化を整理 や写真を効果的に活用し し,まとめている。 てプレゼンテーション資 ・パソコンを活用したプレ 料にまとめている。 ゼンテーションの方法を 習得している。 - 24 - 学習活動にかかわる 知識・理解 ・生物は食餌や生息環境を 通して互いにかかわりあ って生活しており,その かかわり方は環境整備の 仕方によって変化するこ とをとらえている。 ・我々の生活は生物多様性 の恵みを受けて成り立っ ていることを理解し,生 物多様性保全の重要性を 理解している。 ③ 指導計画 次 (時) 稲 作 全 20 時間(理科+総合的な学習の時間) 学習活動 指導・支援 <理科> イネの種子が発芽・成長するためには,何が必要か調べよう 1 (7) 播 種 ・ 育 苗 5 月 ・イネなどの種子が発芽し,成長 するためには何が必要か予 想・仮設を設定し,それを確か めるために条件を統一しなが ら実験し,その方法や結果を記 録する。 ・実験結果を交流し合い,種子が 発芽するための条件や発芽後 に成長する条件について整理 する。 ・発芽したイネの苗を育てる。 ・条件制御の必要性を知らせ,変 える条件と変えてはいけない 条件を整理して考えられるよ うにする。 代 掻 き 評価規準(観点)<評価方法> ◎植物の発芽・成長にかかわ る条件を見いだし,自分の 考えを表現している。(思 考・表現)<学習記録> ◎条件統一して実験したり, ヨウ素液などを適切に使 ったりして実験し,その結 果を記録している。 ( 技能) <行動観察,学習記録> ◎植物の発芽には,水や空 気,適当な温度が必要で あること,植物は種子の 中の養分をもとにして発 芽すること,植物の成長 には日光や肥料などが関 係していることを理解し ている。(知識・理解) <学習記録> <総合的な学習の時間> 「ミニ田んぼ」の整備予定地とその周辺に生息する生物の様子を調べよう 2 (2) 6 月 3 (3) + 夏 季 休 業 中 田 植 え 水 の 管 理 7 ・ 8 ・ 9 月 ・米作りを成功させるために必要 な作業や米作りと生物とのか かわりについて知る。 ・「ミニ田んぼ」の整備予定地と その周辺に生息する生物を観 察したり採集したりし,その結 果を記録する。 ・水田では,イネの成長にかかわ って生物の「食う食われるとい う関係」がみられるようになる ことを知らせ,継続して観察す ることの大切さを知らせる。 ・専門家の協力を得て,児童が採 集した生物の同定を行う。 ◎観察したり採集したりし て,田植え前の生物の様 子を調べ,その結果を記 録している。 (技能)<行 動観察,観察記録> 田植え前に比べて「ミニ田んぼ」とその周辺の生物の様子がどのように変化したのか調べよう ・「ミニ田んぼ」の整備と田植え が行なわれたことにより,生物 の様子にどのような変化がみ られるのか調べ,記録する。 ・イネの成長にともなってイネと かかわる生物の様子がどのよ うに変化するかを中心に,「ミ ニ田んぼ」とその周辺の生物の 様子を継続して調べ,記録す る。 ・水辺に生息するようになった生 物の特徴を調べるために,実体 顕微鏡と電子黒板を使って拡 大して提示し,水中で繰り広げ られる生物の「食う食われると いう関係」を知らせる。 ・専門家の協力を得て,生物の同 定を行うようにする。 ・夏季休業中も,水泳指導の前後 を利用して観察を継続するよう 働きかける。 ◎生物調査に意欲的に取り 組 も う と し て い る 。( 関 心・意欲・態度)<行動 観察> ◎田植え後の生物の様子が どのように変化していく のか継続して調べ,その 結果を記録している。 (技 能)<行動観察,観察記 録> 夏に比べて「ミニ田んぼ」とその周辺の生き物の様子がどのように変化したのか調べよう 4 (2) 10 月 稲 刈 り ・イネの黄熟期を迎えた「ミニ田 んぼ」とその周辺の生物の様子 が,夏に比べてどのように変化 しているか調べ,記録する。 ・夏に比べて,観察したり採集し たりできる生物の種類や数が 変化していることに気づける ようにする。 ・専門家の協力を得て,生物の同 定を行うようにする。 - 25 - ◎夏に比べて生物の様子が どのように変化したのか 調べ,その結果を記録し ている。 (技能)<行動観 察,観察記録> イネの成長過程と「ミニ田んぼ」やその周辺の生物の様子をまとめよう 乾 燥 5 (2) 11 月 も み す り ・観察記録をもとにして,イネの 成長過程とともに「ミニ田ん ぼ」とその周辺の生物の様子が どのように変化したか整理し, まとめる。 ・整理した結果からわかったこと を発表し合う。 精 米 ・イネの成長過程と生物の様子を まとめてわかったことを個人 で考え,その後グループで話し 合い,活発に意見交流できるよ うにする。 ・「ミニ田んぼ」の整備が,その 周辺環境を多様な生物の生息 空間と変化させたことに気づ き,自分たちの取組が生物多様 性保全につながったことをと らえられるようにする。 生物調査の結果をもとにして,生物多様性保全の重要性を知らせよう 6 (4) 1 月 ・生物多様性保全のために自分た ちにできることを考える。 ・パソコンを活用してプレゼンテ ーションできるよう操作方法 を学び,図やグラフなどを活用 して資料を作成する。 ・参観日に保護者を対象に発表す る。 ・環境省の資料を参考にして,自 分たちの行動を見直し,次に取 り組む必要のあることを考え られるようにする。 ・パソコンを活用してプレゼンテ ーションできるよう,操作方法 を指導する。 3) 授業の概要 ① 「ミニ田んぼ」とその周辺の生物の様子を ○ ○ ・生物は食餌や生息環境を 通して互いにかかわりあ って生活しており,その かかわり方は環境整備の 仕方によって変化するこ とをとらえている。また, 我々の生活は生物多様性 の恵みを受けて成り立っ ていることを理解し,生 物多様性保全の重要性を 理解している。(知識・ 理解)<ワークシート> ◎パソコンを活用したプレ ゼンテーションの方法を 習得している。(技能) <行動観察> ◎生物多様性保全に関する 資料を収集・整理し,図 や写真を効果的に活用し てプレゼンテーション資 料にまとめている。(思 考・表現)<作成資料> 田植え後(7月,分けつ期)(第3次) 7月になりイ 調べる(第2~4次) ネが分けつ期を 田植え前(第2次) 迎える頃に,2 児童は,「ミニ田んぼ」の整備予定地とその 度目の生物調査 周辺に出かけ,どのような生物が生息している を実施した。 「ミ か調べた。 「ミニ田んぼ」の整備予定地ではアブ ニ田んぼ」では しか確認できなかったが,草地ではトノサマバ ボウフラやヤゴ ッタやショウリョウバッタの幼虫,ナナホシテ が生息するよう ントウ,シロテンハナムグリなどを,土の中で になったり,草地ではバッタ類が大きくなった はダンゴムシ,ワラジムシ,ミミズなどの生息 りする様子を観察してきた児童は,生物調査の を確認し記録していった。児童は,自分では同 日を楽しみにしていた。水中に網を入れて生物 定が難しい生物については専門家に同定しても を掬い取りバットに入れたり,イネの茎のとこ らい,意欲的に生物を採集していった。事前で ろで捕虫網を動かし生物を採取したりして意欲 は虫に対する嫌悪感を示していた児童の中には, 的に活動した。その結果, 「ミニ田んぼ」ではユ コスナゴミムシダマシという名前に面白さを感 スリカの幼虫やボウフラ,ヤゴなどを, 「実のな じたり,友達が捕虫網でつかまえた昆虫に興味 る森」 (果樹園と草地)では前回と同様のバッタ を示したりする者もいた。生物調査後しばらく 類やチョウ類に加え,ウスバキトンボの飛来を してから,自分たちで育てたイネの苗を「ミニ 確認した。なかでも児童が興味を示したのは, 田んぼ」に植えた(写真5)。 水中の小さな生物の存在であった。 - 26 - 写真5 田植えの様子 そこで,水中における生物の「食う食われる 表Ⅲ-8 という関係」を中心に,この日に確認した生物 話し合う場面 c1:水田には水の中から飛んでくるカを食べる生 き物がきて,カは幼虫で過ごすので,田んぼ について専門家から解説してもらった。実体顕 微鏡につないだ電子黒板にミジンコの透き通っ はなくてはならないものだと思いました。 c2:田んぼのイネが成長していくのといっしょに た体の中やユスリカの幼虫の口,ヤゴの頭など 生き物が増えているということから,この田 んぼには生き物やイネにとっての栄養がある がクローズアップされるたびに,児童は声を上 げて興味を示した。また,ミジンコなどのプラ ということがわかりました。 t:田んぼのイネが成長することでまわりに生き ンクトンはユスリカの幼虫やボウフラの餌とな 物が増えているから,栄養を育むいい場所に なるのではないかなということですね。具体 り,それらはシオカラトンボのヤゴの餌となる という「食う食われるという関係」について説 的にはどうですか。 c3:田んぼをつくることによって植物が増え,ボ 明を受け,生物界の巧みな仕組みを理解した。 ○ ウフラが増えることでヤゴが増えたり,トン ボの種類が増えたり,いろんな生き物が増え 黄熟期(10 月)(第4次) 10 月に入ってイネが黄熟期を向かえた頃,3 ました。 t:C 2 さんが言ったことを具体的に説明してくれ 度目の生物調査を実施した。 「 ミニ田んぼ」では, ました。生き物が増えて,それを食べる生き 物が増えるということですね。 ウスバキトンボの姿はみられなくなり水中の生 物の種類も少なくなったものの,シオカラトン c4:田んぼを作ることによって田んぼにしか来な い虫が来るようになって,去年より虫が増え ボのヤゴを多数確認した。イネの茎にはヒゲナ たと思います。 c5:ボウフラやアカムシも子孫を残そうと必死だ ガヤチバエを観察した。 「実のなる森」では,オ ンブバッタ,キリギリスなどの姿や昆虫が野草 から,カが嫌いだからといって殺してはいけ ない。でも,大量発生してもいけないし絶滅 の茎を食べている様子を観察した。 してはいけないと思うので,バランスが大事 だと思います。 専門家からは,水中の虫の数が減少したのは 成虫になって飛んでいったためであることや, c6:「食物連鎖」って言わな。(と促す) t:こういうことにも当てはまりますね。背の高 ウスバキトンボの姿が見られなくなるのは熱帯 い草もうっそうとしてきたら歩きにくいけ ど,全部取り除くのではなく,バランスが大 のトンボであるために越冬のし方を知らずに死 んでしまうためであることを学んだ。夏に比べ 事ということですね。 c5:食物連鎖があることが大事ということです。 て生物の様子が大きく変化したのは,そうした t :食物連鎖,ボウフラはヤゴに食べられて,ヤ ゴはクモに食べられて,クモやヤゴが成長し 自然界の原理・原則に従ったものであることを 理解した。 ② 観察結果から分かったことについて たトンボは? c6:鳥に食べられると続くのが食物連鎖。 イネの成長過程と「ミニ田んぼ」とその周 c7:食物連鎖がなくなると,すべての生き物が死 辺の生物の様子の変化をまとめる(第5次) んでしまうのだと思います。 児童は,まず,授業者が電子黒板に映し出す イネの成長過程をみながら, 「ミニ田んぼ」とそ の周辺でどのような生物を観察したり採集した 整備し,イネを育てたことによって昨年より生 りしてきたか発表し合い,その結果をワークシ 物の種類や数が増えたこと,それは「食う食わ ートにまとめていった。次に,イネの成長過程 れるという関係」によってバランスを保とうと と生物の様子をまとめてわかったことについて する自然界の仕組みによるものであることを理 自分の考えをワークシートに記入し,班で話し 解した。ワークシートの中にも「『ミニ田んぼ』 合った結果を全体で交流した(表Ⅲ-8)。 をつくることによって植物が増え,ミジンコが 話し合いによって,児童は「ミニ田んぼ」を 増え,ボウフラが来て,ヤゴが増え,トンボの - 27 - 種類が増えたりアブやハチが田んぼのまわりを 撃してくる虫もいるから」などを挙げた。 ぐるぐる回ったりと去年よりいろいろな生き物 ② が集まってきた。普通の農家のように農薬をま 生物や生態系に対する見方・考え方 第5次の終了後に,「生物どうしのつながり」 いたりしたら生き物は増えなかったと思う」 にどの程度気づけたか,「『ミニ田んぼ』とその 「『ミニ田んぼ』や『実のなる森』は生き物の一 周辺の環境で起こっている『いのちのつながり』 生を支える大切なもの。これからも生き物がた について知っていることを教えてください。言 くさん集まる場所としてあってほしい」 「 私たち 葉や図でかいてください」と尋ねた。その結果, が嫌いといっている生き物も,私たちが生きる 「田んぼでボウフラ,ヤゴ,アカムシが増えて, のに重要なもの」という記述が認められた。こ やがて成虫になってカになるとクモに食べられ うして児童は生物の多様性が保持された環境の る。トンボになったら鳥に食べられる。そして, 重要性に気づき, 「ミニ田んぼ」を整備しイネを カを食べたクモもいろいろな生き物に食べられ 栽培した自分たちの行為を価値あるものととら てしまう」など,観察事実にもとづいて生物の えた。 「食う食われるという関係」について記述して その後,生物多様性保全のために自分たちに いる者が 29 人中 26 人認められた。他の3人は, 出来ることとして,児童は生物多様性保全の重 チョウが卵から成虫に成長していくという生命 要性を身近な人に伝えることを選び,これまで の連続性にかかわる内容を記述している。 に学習した内容をパソコンのプレゼンテーショ 生物の「食う食われるという関係」は,児童 ンソフトを活用して資料にまとめ,参観日に保 にとって印象深いものであり,生命の営みの巧 護者に説明した。 みさを理解した内容であったため, 「 まだ知らな 4) 授業の評価 い人に,「『ミニ田んぼ』や『実のなる森』のこ ① 生物とかかわろうとする意欲 とを知らせたいことは」に続く言葉を自由記述 第5次の終了後に実施した調査の結果,生物 した内容にも, 「『ミニ田んぼ』や『実のなる森』 を採集した経験者は,事前の 29 人中 12 人から にはたくさんの種類の生き物がいて,私たちが 事後には 27 人に増加した。生物の観察活動が好 勉強したり家に帰ったりしている間も食物連鎖 きか嫌いかと5段階評定尺度で尋ねた結果, 「好 を繰り返している。そのつながりがなくなると き」 (「好き」+「少し好き」)と回答する者は事 人間は生きていけない」というような「生物ど 前の 15 人から 24 人に増加し, 「嫌い」 (「少し嫌 うしのつながり」に関する記述が 16 認められた。 い」+「嫌い」)は事前の7人から事後には4人 他に, 「田んぼを作ることによって,虫のすみか に減少した。「好き」の理由としては,「生き物に や環境が変わる。 『 ミニ田んぼ』や『実のなる森』 は人と同じ命があるから」 「 自然の中でどうやっ があることによって生き物が増える」など,自 て生きているのか知りたいから」など,自分た 然環境の価値に関する記述が8,生物とふれ合 ちと同じ生命あるものとしての存在に興味・関 うことの意義に関する記述が4あった。 心を高めた内容や「前までは,トンボやヤゴな そうした認識が,第6次において生物多様性 どに触ったことがなく触れなかったけど,この 保全に関して自分たちに何ができるか個人で考 授業が始まってからいろんな生き物に触ってみ える際に, 「田んぼにおける生態系」や「絶滅危 ようという気持ちになった」など,虫に対する 惧種」 「守ろう!知ろう!生物のつながり」など 嫌悪感を和らげられたという内容も認められた。 をテーマに,生物多様性保全の重要性を他者に しかし,依然として「少し嫌い」とする4人は, 伝えたいと要望する児童が多く認められたこと その理由に, 「 毒をもっている虫もいるから」 「攻 につながったものと考えられる。 - 28 - (2) 第6学年「樹木とわたし」の学習 の生活基盤となっていることやそれらを保全 1)校庭の樹木の教材化 することの重要性を理解している。 日本の国土の約 70%を占める森林は,森林生 ○ 観察の結果や資料等を活用し,図や写真を 態系を形成し二酸化炭素の吸収や地表の環境の 効果的に取り入れた樹木プレートや樹木マッ 安定に重要な役割を果たしている。また,さま プを作製することができる。 ざまな生物を育み,生物多様性の保全に重要な ○ 樹木の枝や果実などを利用した壁掛けやブ 機能を有し,地球環境のバックボーンとなって ローチなどの作り方を習得し,その方法を一 いる(表Ⅲ-9)。他の土地への転用や自然要因 年生に伝え,一緒に製作活動を楽しむことが によって多くの森林が消失し続けている現状を できる。 食い止めなければならない。大都市の中にあっ ても樹木や森林の有する機能を児童に認識でき 樹木からの恵み 29) 1 生物多様性保全 るようにすることが求められる。 森林が,心に安らぎを与え,健康の保持に役 立つという豊かな人間性の育成や福祉と健康と の基盤になっていること,災害防止,防火,騒 音阻止,大気浄化など,樹木がその周辺の環境 に対して防護的,保全的に働き,間接的に人間 生活の健康と安全に寄与していることなどにつ いて,その一端を理解できるようにしたい。 遺伝子保全,生物種保全,生態系保全 2 地球環境保全 地球温暖化の緩和(二酸化炭素吸収,化石燃料 代替エネルギー),地球の気候の安定 3 土砂災害防止/土壌保全 表面侵食防止,表層崩壊防止,その他土砂災害 防止,雪崩防止,防風,防雪 4 水源涵養 洪水緩和,水資源貯留,水量調節水質浄化 5 快適環境形成 小学校高学年においては,樹木と環境とのか かわりについての理解を図り,生態系における 樹木の役割について理解を促すことが大切にな 気候緩和,大気浄化快適生活環境形成(騒音防 止,アメニティーの維持) 6 保健・レクリエーション療養 保養(休養 散策 森林浴),行楽,スポーツ 7 文化 る。 2) 表Ⅲ-9 景観・風致,学習・教育(生産・労働体験の場, 自然認識・自然とのふれあいの場),芸術,宗 教・祭礼,伝統文化,地域の多様性維持 指導の目標と計画 ① 単元の目標 ○ 樹木を対象にした観察・実験,調査,遊び 8 物質生産 木材,食料,工業原料,工芸材料 や製作活動を通して,森林や樹木は自分たち ② 単元の評価規準 関心・意欲・態度 ①樹木を対象にした観 察・実験,調査等の活動 に進んで取り組もうと している。 ②自分たちが決めた環境 保全の目標を達成する ために,進んで自分の役 割を果たし,友だちと協 力して実践しようとし ている。 ③自分自身や学習集団と して成長したことを確 認し,これからの学習や 生活に活かそうとして いる。 思考・判断・表現 技能 ①樹木を対象にした観察・ ① 図 書 や イ ン タ ー ネ ッ ト 実験,調査等の結果か などを利用して環境問 ら,樹木とヒトや他の 題に関する情報を収 生物とのかかわりにつ 集・整理し,その結果を いて考え,自分の考え 記録している。 を表現している。 ②樹木を対象にした観 ②環境保全のための具体 察・実験,調査を正しく 的な取組項目や行動計 行い,その過程や結果を 画を考え,自分の考えを 記録している。 表現している。 ③樹木の枝や果実などを ③樹木について調べたこ 利用した壁掛けやブロ とをもとに図や写真な ーチなどの作り方を習 どを効果的に活用し,樹 得し,その方法を1年生 木プレート等を作成し に伝えている。 ている。 - 29 - 知識・理解 ①生態系を保全すること や樹木の多様性を保持 することの重要性を理 解している。 ②森林や樹木が環境に果 たす役割は大きく,自分 たちの生存基盤となっ ていることを理解して いる。 ③ 指導計画 次 学習活動 指導・支援 評価の観点,方法 ○ エ コ チ ェッ ク 表 や 事 前 調 査 の 結 果 をも と ・エコチェック表や事前調査の ◎環境保全のための に環境保全のための行動目標を決め,行動 結果をもとに,省エネ・省資 具体的な取組項目 計画を立てる。 源だけでなく自然環境の保全 や行動計画を考え, に関する内容に取り組む必要 自分の考えを表現 があることに気づけるように している。 する。 (思考・表現) (時) 1 (2) 全 21 時間(理科+総合的な学習の時間) 環境保全のための行動目標を決め,行動計画を立てよう ・意見交流し合い,行動計画を練 り上げられるようにする。 2 (1) ○ゲームや観察活動を通して,生態系を保全 ・専門家の協力を得て,ゲームを ◎生態系を保全する することや樹木の多様性を保持すること 通して生態系の重要性を理解 ことや樹木の多様 できるようにする。 性を保持すること ・校庭の樹木への関心を高め,樹 の重要性を理解し 木の特徴を調べる活動を通し ている。 (知識・理 て,樹木の多様性に気づくこと 解)<ワークシー ができるようにする。 ト> ◎樹木を対象にした 3 樹木とヒトや他の生物にはどのようなかかわりがあるか調べよう ・調べ学習や観察・実験,調査を を正しく行い,そ かわりがあるのか,図書やインターネット 通して,樹木が環境に果たす役 の過程や結果を記 等を活用した学習や樹木を対象にした観 割は大きく,その恩恵によって 録している。(技 察・実験,調査を通して調べる。 ヒトや他の生物が生かされてい 能)<行動観察, ・蒸散作用 ることをとらえられるようにす ・光合成 る。 ワークシート> ◎樹木を対象にした 観察・実験,調査 等の結果から,樹 木とヒトや他の生 物とのかかわりに ついて考え,自分 の考えを表現して いる。 ( 思考・表現) <ワークシート> ・一本の樹木の葉が一年間に吸収 ・校庭に生育する 10 種類の樹木が,一年 する二酸化炭素の量を視覚的に 間に吸収する二酸化炭素の量(「こども とらえやすくするために,レジ 葉っぱ判定士」事業パンフレットを参考 袋一枚の製造から廃棄までに排 に作成したワークシートを活用) 出される二酸化炭素の体積の何 倍分になるかを計算して提示す (理科) 4 観察・実験,調査 ○ 樹 木 と ヒト や 他 の 生 物 に は ど の よ うな か ・樹木の気温抑制効果 (5) 言内容> 観察やゲームを通して,自然環境の保全の大切さを学ぼう の重要性について学ぶ。 (5) <学習カード,発 る。 樹木の特徴や名前を調べ,「樹木プレート」を作製しよう ○ 観 察 や 資料 収 集 を 通 し て 樹 木 の 特 徴等 を ・諸感覚を通して特徴を把握する 調べ,その結果を記録する。 よう働きかける。 ◎樹木について調べ たことをもとに図 ○ ゲ ス ト ・テ ィ ー チ ャ ー の 指 導 を も とに し ・図鑑などを利用して,樹木名だ て,観察結果だけでなく樹木に関する新た けでなく自分たちの生活とのか 的に活用し,「樹木 な情報を収集し,整理する。 かわりについても調べるように プレート」を作製し する。 ている。(思考・表 ○ そ の 結 果を も と に , パ ソ コ ン を 活 用し て 「樹木プレート」を作製する。 や写真などを効果 ・他学年の児童の樹木に対する興 現)<ワークシー 味・関心を高めるために,呼び ト,樹木プレート> かけやクイズ,写真や図などを - 30 - 組み入れて「樹木プレート」を 作製するよう指導する。 5 (6) 樹木の枝や果実を素材にした工作を一年生と楽しもう ○ 友 達 の 家族 が 幼 少 期 に 樹 木 を 題 材 にし て ・国語の学習で学んだ依頼文の書 遊んだ内容を教えてもらう依頼文を書く。 き方を参考に,伝えたいことを ○「ペア学年」の一年生とともに校区内の公 園に出かけ,校庭の樹木と比較しながら樹 木を観察したり,工作に使う材料を集めた りする。 明確にして手紙が書けるよう にする。 ・1年生が樹木に興味・関心をも てるように,校庭で調べた樹木 の情報を活用して説明できるよ ◎樹木の枝や果実な ○ゲスト・ティーチャーの指導のもとに,樹 うにする。 どを利用した壁掛 木の枝や果実などを素材にブローチなど ・1年生に教えることができるよ けやブローチなど を製作し,学んだ内容を一年生に伝え,一 う,作り方を習得できるように の作り方を習得し, 緒に工作を楽しむ する。 1年生に伝えてい ・1年生の主体的な活動を引き出 る。 (技能)<行動 せるよう,支援の方法を工夫で 観察,ふり返りの きるようにする。 作文> 6 (2) みんなに活用してもらえる「樹木マップ」を作製しよう ○ 樹 木 マ ッ プ を 作 製 す る た め に 必 要 な 資 料 ・他学年の児童が活用しやすい「樹 ◎樹木マップを作製 を収集・整理する。 木マップ」にするにはどのよう するために必要な な内容にすればよいかを考え, 資料を収集・整理 話し合えるようにする。 することができる。 (技能)<ワーク ○活動をふり返り,これからの学習や生活の あり方を考える。 ・今後引き続き取り組んでいきた シート> いことなど,前向きに考えられ ◎自分たちの取組が るよう助言する。 環境保全につなが っていることを理 解している。(知 識・理解)<ふり 返りシート> 3) 授業の概要 の保全に関しては,森林の保全につながる身近 ① 環境保全のための行動目標を決め,行動計 でできる取組内容として,他学年の児童も校庭 画を立てる(第1次) の樹木に興味・関心をもち,樹木を大切にする 児童は,5年生から続けている環境保全活動 気持ちをもてるようにすることを目指して「樹 を振り返り,省エネ・省資源活動に比べて自然 木プレート」を作製することとした。また,そ 環境の保全に かかわる 行動の実施率 が低い こ の前提として,自分たちが樹木とふれ合ったり とをとらえ,それを6年生における重点課題と 樹木が環境に果たす役割について調べたりする 決めた。国語教材「イースター島にはなぜ森林 必要があることを,事前調査の結果から確認し がないのか」の学習によって,人類が存続する た。 ためには自然 環境の保 全が欠かせな いこと を ② 理解したこともその決定に影響を与えた。 樹木とヒトや他の生物にはどのようなかかわり があるのか調べる(第3次) 次に,具体的な取組内容を考えた。自然環境 - 31 - 第2次におけるゲームや観察を通して,樹木 には「動植物の生息場所となる」という働きが あることを知った児童は,他にどんな働きがあ で測り,記録する(写真6)。 ② 「幹の太さ」と「葉の面積の合計」の関係 るのか,自分たちとどのようなかかわりがある を示した表(「こども葉っぱ判定士」事業パ のかという問題意識をもち,資料を収集して調 ンフレットを参考に改変)を利用して,樹木 べた。その結果,「地球温暖化を防ぐ」「豊か 1本が 1 年間に吸収する二酸化炭素の量を な水を育む」「木材を生産する」「風や砂,潮 計算する。 害を防ぐ」など,さまざまにあることを再確認 ③ 樹木が1年間に吸収する二酸化炭素の量を した。なかでも,「大気を浄化する」や「気温 視覚的にとらえやすくするために,授業者が の上昇を抑える」は,自分たちの命に直結する 次の計算結果を提示した。 ことだと受けとめ,実際に観察・実験で確かめ ②で求めた1年間の吸収量(質量)を体積 たいと要望した。 に変換し,樹木が1年間に吸収する二酸化炭 そこで,授業者は理科の単元「生物と環境」 素の体積を求める。レジ袋(高密度ポリエチ の学習において,観察・実験を通して樹木とヒ レン製買い物袋)一枚の製造から廃棄までに トや他の生物とのかかわりの深さについて理解 排出される二酸化炭素の量を 90 g とし,そ できるようにした。次は,その概要である。 れを体積に換算すると 44.8Lになるため,レ ○ ジ袋一枚をごみとして廃棄する際に 45L用 樹木は,日光が当たると二酸化炭素を吸収 することを確かめる ポリ袋1杯分と同じ体積の二酸化炭素を排出 晴れた日の朝に,校庭の樹木 10 本を選定し, するとして,その何杯分になるか換算する。 その枝先に息を数回吹き込んだ透明のポリエチ レンの袋をかぶせ,約1時間後に袋の中の酸素 と二酸化炭素の濃度を気体検知管で測定し,事 前の数値と比較した。その結果,サザンカでは 二酸化炭素が 3.2%から 0.3%に減少し,酸素 が 14.2%から 21%に増加するなど,いずれの 樹木についても,日光を当てたあとに二酸化炭 素濃度が減少し,酸素濃度が増加していること を確認した。その結果を受けて,児童は「校庭 写真6 樹木の高さと幹の太さの測定の様子 の木の全体で,どれくらい二酸化炭素を吸って いるのか調べたい」という意欲をもった。 ○ 以上の観察・実験等を通して,樹木によって 校庭の樹木が一年間に吸収する二酸化炭素 吸収する量に違いはあるものの,10 本全てをあ の量を調べる わせると 45ℓ用ポリ袋の約 200 個分にあたる体 先と同様の樹木 10 本について,次のような 積の二酸化炭素を吸収することを確認した。そ 手順でそれぞれの樹木が一年間に吸収する二酸 の結果から,樹木が環境に果たす役割が大きい 化炭素の量を換算して調べ,環境問題と自分た ことや自分たちの日常の生活活動が地球環境の ちの日常生活とのかかわりについて考えるよう 悪化をもたらしていることを実感し,継続して にした 30) 。 環境保全活動に取り組むことの必要性を痛感し ① 樹木を高木(3m以上)と中低木(3m未 た(表Ⅲ-10)。その後,樹木を対象とした学 満)に分類し,高木では地面から約 1.2 m の 習と並行して進めている省エネ・省資源活動を 高さで,中低木は根元で,幹の太さを巻き尺 学校全体の活動に広げるため,グループに分か - 32 - 表Ⅲ-10 学習後の感想例 ・木がこんなにたくさんの二酸化炭素を吸っていたことを知ってびっくりした。「木を増やそう」とい う意味がまた一つ分かった。こんなに木が二酸化炭素を吸い取っているのに,まだ二酸化炭素が減ら ないのは人間がいけないんだなあと思った。スーパーやコンビニでもらうポリ袋一つで二酸化炭素が たくさん出てしまえば,木も大変だと思う。だから,できるだけもらわないようにしようと思った。 ・この話を聞いたり調べてみたりして,自分たちで二酸化炭素をたくさん出して,結局は木に頼ってし まっていると思う。森林伐採が進んでいるが,全部切ってしまえば二酸化炭素が全部残って,私たち が生きられなくなってしまう。だから,森林を増やさなくてはならない。 ・このようなことを知って,学校でも木を植えていこうと,また,思うことができた。また,こんな事 ができたら嬉しい。木に感謝する気持ちをもつことができた。 ・たった1本の木が多くの二酸化炭素を吸ってすごいなあと思った。これは人間にはとてもできないこ となので,木にはすごい力があるんだなあと思った。私が調べた木は少なかったけれど,他の人が調 べた木には多いものがあった。一つ一つの木にも仕組みがあって,二酸化炭素を吸う量も違うんだな あと思った。また,いろんな木の仕組みについて調べたい。 てはならない」 「 樹木のお世話になり続けるお礼 れて各教室に出向いて,①地球温暖化の現状と として,もっと樹木について調べたり,樹木と その要因,②それを防ぐために一人ひとりが環 遊んだりしてふれ合いたい」という意見を交わ 境保全に取組む必要性,学校全体でできる実践 し,これまで以上に樹木との体験活動を充実す 内容について説明し,協力を求めた。 ることとした。 ○ 樹木が周囲の気温を下げる働きを調べる 先の実験の際に樹木の枝先にかけたポリエチ レンの袋に水滴がついていた事実から,樹木に は蒸散作用があり,そのことによって周囲の気 温が低くなることを知った児童は,樹木の気温 上昇抑制効果を確かめることにした。 各グループに分かれ,先の調査と同様の 10 本の樹木について,樹下の地面,幹の 1.2~1.5 m付近,葉の茂った所の気温,それらとあわせ て建物の影,運動場での気温を同時刻に測定し, 比較した(図Ⅲ-9)。運動場の各地点は 34~ 36℃,建物の影は 30℃を示したのに対して,ク スノキの樹下の地面では 29.5℃,幹では 32℃, 葉の茂った部分では 31℃というように,調べた 樹木の全てについて周りの空気の温度が低いこ とがわかった。児童は,日頃から樹下が涼しい 図Ⅲ-9 ことを感じているが,測定値となってその働き が明らかとなったことで,自分たちが樹木の恩 ③ 恵を受けて暮らしていることを実感した。また, 気温の測定結果 樹木の特徴や名前を調べ,「樹木プレート」 を作製する(第4次) 児童は,各グループに分かれて「樹木プレー 「命を守ってくれている樹木に恩返しをしなく ト」を作製する樹木を選定し,諸感覚を通して - 33 - 樹木の全体の形,葉,花,果実,幹肌などの様 して,「樹木プレート」を完成させた(図Ⅲ- 子を調べた。また,インターネットなどで樹木 11)。 の名前やその由来,生活とのかかわりなどを調 ④ 樹木の枝や果実などを素材にした工作を, べ,それらの結果を図Ⅲ-10のように記録して 一年生と楽しむ(第5次) いった。 当初は,自分たちだけで樹木を材料にした工 その後,他学年の児童が「樹木と親しんでみ 作をする予定であったが,せっかくの機会を活 たい」「樹木のことをもっと知りたい」と思え かし,自分たちが学んだことを「ペア学年」の るような「樹木プレート」とするためには,ど 1年生の児童に伝え,一緒に工作を楽しむこと のような視点をプレートに盛り込んでいけばい とした。 いのか専門家から指導を受けた。 まず,1年生と一緒に校区にある総合公園 その内容と自分たちが調べてきたことを整理 (11ha)に出かけ,校庭の樹木と比較しながら ・キリの特徴は,幹はだがザラザラで,花の色が薄紫色です。 ・葉っぱの大きさは,15~30cmぐらい(1m近くになることもある)。徳川家康の 家紋に使われている。 ・キリは火に強いので,なかなか燃えません。5年生の教科書「森林のおくりもの」 にもでてきます。 ・キリの木で,タンス,家具,嫁入り道具,金庫などがつくられます。 マ) , 図Ⅲ-10 (原文マ 児童が樹木について調べた学習の記録 樹木を観察したり工作の材料を集めたりした。 その後,講師の指導を受けながら樹木の枝や果 実などを用いた壁掛け,ブローチ,マグネット などの製作方法を習得し,その内容を一年生に 伝え,一緒に工作を楽しんだ。児童は,一年生 が戸惑うことなく 工作を楽しめるよ う,自分たちが学 んだことを丁寧に 伝えていった(写 図Ⅲ-11 専門家から指導を受ける様子と 完成した「樹木プレート」 真7)。 学習後の感想には ,写真 7 1年生と工作を楽しむ - 34 - 樹木や一年生とふれ合うことの楽しさやその重 だちとの話のときに,樹木のことが話題になる 要性に気付いた内容などが記述されていた(表 ようになったり,樹木とふれ合う機会が増えた Ⅲ-11) りした」「いままで木に興味がなかったけど, いろいろな活動をして木の名前を知ったりして 表Ⅲ-11 学習後の感想例 関心がもてるようになった」などと,樹木に対 ・一年生と一緒に工作をして,一年生が笑顔に なるほど楽しかったことがよかった。 ・木とふれ合う,親しむことの楽しさがこんな にもすばらしいものとは思わなかった。 ・木や木の実でこんなにすごいことができるん だと思った。なにげなく見ている木が,こん なに活用できるんだ!と思ったし,壁掛けや ブローチ,マグネットにできるんだと思った。 木に親しんで,新しい発見や木がすごいとい うことを改めて感じることができた。 する体験度や意識が変化したことについて記述 した者が34人中21人認められた。他は,地球温 暖化の緩和に向けて省エネ・省資源に意欲的に 取り組んだ内容であった。 ② 樹木に対する見方・考え方 事前では,「樹木を見ると落ち着く」「嫌な ことを忘れさせてくれる」というように,やす らぎを与えてくれる存在として樹木をとらえて いる児童が34人中17人と多く,表Ⅲ-9(p.29) 4) 授業の評価 に示した「生物多様保全」「地球環境保全」の ① 樹木とかかわろうとする意欲 観点から捉えている児童は数名にとどまってい 事前調査では,校庭に植栽されている樹木の た。事後では,樹木がヒトの生存基盤であり地 名前について「1~2本知っている」が34人中 球温暖化の緩和に寄与するなどのはたらきを有 21人と最も多く,次に「5本以上知っている」 することを指摘できるようになっている。それ (7人),「3~4本知っている」(6人)が に加えて,樹木とかかわることや環境保全に取 続いていたが,観察や調査活動などを進める過 り組むことの重要性に関する記述が認められた 程で,全員が5本以上の樹木について,その実 (表Ⅲ-12)。 物と名前が一致するようになり,特徴について 以上から,観察や調査などの活動を通して, も他者に説明できるまでになった。事後調査に 児童が生態系における樹木の役割について理解 おいて「学級全体でよくなったことやできるよ を深め,自分たちと樹木とのかかわりの深さを うになったこと」を尋ねた設問に対しても, 「友 実感したことがわかる。 表Ⅲ-12 記述数 恩 恵 樹 ・ 大 木 切 の さ 19 わ る 重 要 性 樹 木 と か か 8 環 重 境 要 保 性 全 の 7 樹木について伝えたいこと 主な記述内容 ・樹木がどれほど大切か,どれほど人にかかわっているか知って欲しい。地球温暖化は人ご とではなく自分の問題でもあり,みんなの問題なので,簡単なことからでもいいから,一 つ一つ取り組んで欲しい。 ・樹木は人間が生きていくために大切な役割をしていることを知ってほしい。そして ,ふれ 合ってほしい。緑はCO 2 を吸収することを知ってほしい。 ・樹木とふれ合うと楽しいし,いろいろなことを知ると,樹木は自分たちのどんな役に立っ ているかが分かって楽しいし,守らないとあかんなと思うので,樹木のことを勉強してく ださい。 ・樹木のゲームや工作教室などをして,樹木の大切さや樹木を使ったゲームの楽しさなどを みんなに知ってもらいたい。 ・自分たちにできることをしてほしい。それは木と緑を増やすこと,花や木や草を植えたり すること。こんなことをしていけば,絶対に森林破壊とかオゾン層の破壊は止まると思い ます。だから今からこのことを世界中の人々に知ってもらいたいです。 ・木や花などを増やしてくれたらいい。もし,植木鉢がなかったら,ペットボトルで植木鉢 を作ったらエコにいいと思う。 - 35 - Ⅳ 研究のまとめと今後の課題 生物の観察活動だけでなく,遊びや栽培などの ふれ合い活動などを重視した結果,土の中に生 本研究では,まず,生物多様性保全に主体的 息する命の存在に気付かせることができた。ま に取り組む人材を育成するためには,幼少期か た,学習終了後2ヶ月を経た時点でも,それら ら自然体験を通して感性を育み,生態系概念の を「大切なもの」として記述するなど,土や土 初歩の理解を図る必要があることを押さえた。 の中の生物に対する愛着の気持ちを高めること 次に,その目標に迫るには小学校においてどの ができた。 ような段階を踏んで指導すればよいのか,子ど 第3学年では,昆虫の体のつくりや生息環境, もの思考や脳の発達に関する知見をもとに再検 食べ物を調べた結果をもとに昆虫の特徴に違い 討した。 のある理由を考えたり, 「こん虫ずかん」を作成 その結果,小学校の低学年では,観察や採集 したりする学習を展開した結果,生物の多様性 的遊びなどの諸感覚を通した生物との直接経験 や関係性についての児童の理解を深めることが を通して,生物への興味・関心を高め,生物と できた。 かかわる楽しさや自然の不思議や面白さを感じ 第4学年では,池の中での生物の「食う食わ 取り,命あるものを大切に思う心を育めるよう れるという関係」を調べたり学校内や地域にお にする。中学年では生物の成長や体のつくり, けるトンボの生息状況を調査したりする学習を 生物とその周辺の環境とのかかわりなどについ 展開した結果,池の中での「生物どうしのつな て調べ,生物の多様性と共通性,生物と環境と がり」や学校内と地域の自然環境とのつながり のかかわり,生命の連続性についての見方・考 についての児童の理解を深めることができた。 え方を深め,生物多様性が保持された環境の意 第5学年では, 「ミニ田んぼ」とその周辺にお 義を理解できるようにする。高学年では生物多 ける生物の観察・調査活動を定期的に行った結 様性はすべての生物の生存基盤であることを認 果,生物の多様性が保持された環境の重要性に 識し,その認識をもとに生物や生態系を保全す ついての児童の理解を深めることができた。ま る活動に意欲的に取り組めるようにする,とい た,その認識のもとに,生物多様性保全の重要 うように環境教育を進めることが有効であると 性を他者に伝える活動へと導くことができた。 の見解を得た。 第6学年では,観察・実験,調査などを通し 次に,こうした考えをもとに新たに開発・実 て樹木と自分たちとのかかわりの深さを理解し, 践したり,これまでの実践を検討・整理したり 身近でできる樹木の保全活動を実践できるよう して,小学校の第1~6学年における環境教育 学習を展開した結果,児童が「樹木プレート」 プログラムとその有効性を検証した結果を提示 の製作や1年生とともに行う樹木の観察会など した。授業実践の結果,次のような成果を得る を企画し,それらに意欲的に取り組む態度を育 ことができた。 むことができた。 第1学年では,野草を題材に観察だけでなく 以上,低学年では自然環境の中で生物に「親 遊びや製作活動の時間を十分に確保することに しむ」,中学年では生物と環境とのかかわりにつ より,児童の野草にかかわろうとする意欲を高 いて「知る」,高学年では生物多様性保全のため め,その結果として野草の多様性に気付かせる に「行動する」というように,発達に応じて環 ことができたり野草に対する愛着の気持ちを高 境教育を進めていくことが有効であることが示 めたりすることができた。 唆された。今後も,環境保全に主体的に取り組 第2学年では,諸感覚を通した土や土の中の む人材の育成をめざした環境教育プログラムの - 36 - 開発及びそれが展開できる学校内の自然環境の 整備のあり方について追究したいと考える。 ru/.../index.html(2012.5.8参照) 2)文部科学省.小学校学習指導要領解説理科編. 大日本図書.2008,p.6. おわりに 3)日本学術会議 統合生物学委員会.提言 生 物多様性の保全と持続可能な利用~学術分野 我々人類が生存し続けるためには,「低炭素 からの提言~.2010,http:// www.scj.go. 社会」や「循環型社会」とともに「自然共生社 会」の実現を図らなければならない 31) jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t90-1.pdf 。それは, (2013.8.28 参照) 生物の膨大なつながりとその相互作用により長 4)内閣府大臣官房正負広報室.平成 26 年 7 月調 い年月をかけて創られてきた自然環境が,飲料 査 . 環 境 問 題 に 関 す る 世 論 調 査 . http : 水や食料の供給,気候の安定性など,我々に様々 //www.cao.go.jp/survey/h24/h24-kankyou/( な恵みをもたらすからである。また,我々を取 2014.12.10 参照) り巻く環境に生息生育する生物がいなくなるこ 5)生物多様性国家戦略 2012-2020 とは,我々の命が脅かされることだからである。 ~豊かな 自然共生社会の実現に向けたロードマップ~. 「自然共生社会」の実現にむけて,学校にお 2012,http://ww.biodic.go.jp/biodiversity ける環境教育では,児童生徒の生物に対する興 /about/initiatives/files/2012.../01_honb 味・関心を高め,生物多様性や生態系に対する un.pdf(2014.5.15 参照) 認識を深め,その認識のもとに行動できる人材 6)谷村載美.小・中学生の動植物に対する体 を育成するプログラムの開発とその実践が求め 験・認識及び環境意識に関する研究―1991 年, られる。 2001 年,2011 年における調査結果の比較分析 そうした要請に応える先行研究として本稿の ―.大阪市教育センター研究紀要 役割を果たせるなら幸いである。多くの方々の ご指導をお願いする次第である。 第 203 号,2013,pp30-31. 7)HARORD HUNGERFORD etal:Goals for Curriculum なお,本研究における授業実施にあたり,忙 Development in Environmental Education THE しい時間を割いてご協力くださった関係の方々 JOURNAL OF ENVIROMENT EDUCATION Vol.11NO. 3. に対して,心から感謝申しあげる次第である。 1980,pp.42-47 とりわけ,研究協力委員の方々には授業実践や 8)沼田眞『環境教育論―人間と自然のかかわり 資料の提供をいただいた。 ―』東海大出版会 1982,p.6 9)鈴木善次『人間環境論』明治図書 1978, <研究協力委員> 10)鷲谷いづみ他『生態系へのまなざし』財団法 加 藤 洋 子(大阪市立榎本小学校 当時) 竹 上 美 紀(大阪市立城東小学校 当時) 金谷美夜子(大阪市立泉尾東小学校 人 東京大学出版会 2005,p.185 11)阿倍治.環境教育の国際的動向.環境教育推 当時) 進研究会議.生涯学習としての環境教育実践 富 崎 直 志(大阪市立堀江小学校) ハンドブック-21 世紀に向けての地域のよ 松 田 健 吾(大阪市立田辺小学校) り良い環境づくりのために.第一法規. 1992,pp.25-26. 注) 12)阿部治.前掲書.1992,p.26. 1)生物多様性国家戦略.2010,p.231.前文p.6. 13)広木正紀.理科から環境へ広がる学び-総合 http://ww.biodic.go.jp/biodiversity/waka - 37 - 的な学習の時間と環境教育-.理科教育研究 会.変わる理科教育の基礎と展望. 境教育に関する基礎的研究.大阪教育大学 2002,p.86. 理科教育修士論文.1996,p. 14)広木正紀.前掲書.P.86 24)生方秀紀.生物教材としての昆虫の適性.理 15)永江誠司.脳の発達の心理学-脳を育み心を 科 の 教 育 . Vol.40 育てる-.ブレーン出版.2004,pp.28-29 及 日本理科教育学会. 1991,p.20. び坂野登.こころを育てる脳のしくみ.青木 25)谷村載美.前掲書.2013,p.3. 書店.1999,p.79 を基に整理した。 26)北野日出男.動物としての「昆虫」の指導― 16)中垣啓.認知発達と第二の誕生.安彦忠彦編. 子どもの発達と脳科学 小学校レベルを中心とした内容と方法につ カリキュラム発達 いて―.日本理科教育学会.理科の教育 Vol. のために.勁草書房.2012,p.148. 40.1991,p.11. 17)国立教育政策研究所教育課程研究センター. 環 境 教 育 指 導 資 料 ( 小 学 校 編 ). 27)谷村載美.前掲書.2013,p.4. 28)久米幸毅ほか.近畿大学田んぼビオトープに 2007,pp23-24. 見られる水生生物.近畿大学農学部紀要 18)谷村載美.前掲書.2013,p.4. 第 41 号.2008,p.136. 19)沼田眞.環境教育論―人間と自然とのかかわ 29)日本学術会議「地球環境・人間生活にかかわ り―.東海大学出版会.1982,p.91. る農業及び森林の多面的な機能の評価につ 20)秦明徳・松本一郎,2010,「理科における土 いて(答申)」.2001, http://www.scj.go. 教材開発の視点」,『島根大学教育臨床総合研 jp/ja/info/kohyo/pdf/shimon-18-.pdf(201 究 』, http://www.edu.shimane-u.ac.jp/_ 4.9.4参照) files/00080552/2009-10.pdf,9:11-122. 30)「 1本の木が一年間に吸収する二酸化炭素の (2014.8.27 参照) 量」を調べる学習の実施には,大阪教育大学 21)福田直.環境教育としての土の教材性に関す る研究.環境教育.Vol.13.No.2.2004,p.3. 理科教育講座の協力を得た。 31)環境省.21 世紀環境立国戦略.2007,pp2-4. 22)谷村載美.前掲書.2013,p.27. http://www.env.go.jp/guid/info/21c_ens/ 23)奥村裕之.理科における土壌を題材にした環 index/html(2014.5.15 参照) - 38 - 研究紀要 第 209 号 平成 27(2015)年 3 月 25 日 発行所 大 阪 市 教 育 セ ン タ ー 552-0007 電 話 発行者 発行 大阪市港区弁天 1-1-6 06( 6572) 0667 沢田 和夫 - 39 -