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1-2) レースで要求される能力の定量化 レースで求められる能力はどれくらいなのだろうか?勝つためには何をどれくらい練習すればいいのか? 選手の能力を測定する事と同じくらい重要だと考えているのが「レースで勝つために求められる能力」の測定です。これは実際にレースでパワーメーターを使用 して測定しなければわかりませんし、毎年開かれる同じレースでも、レースのたびに違う事も考えられます。しかし、レースの特徴、勝負に関わるレースをするた めにどのような能力が必要なのか?について、なんらかの指標となる数値(Power プロファイル)を示してくれます。 もうひとつ大事な事は、選手が本当の力を発揮するのはレースの場であり、レース時の測定値が真の力であることです。レース後にデータをダウンロードして みると、その練習の時の値との違いに驚くと思います(HR でも同じ事を経験した事はあると思います)。 毎年10月に開催される Japan カップは、スタート地点からスタートしてすぐに始まる登りが勝負に関わるポイントのひとつですが、実際のレースでは、どれほど の Power が必要とされるのでしょうか? JapanCup 登り区間のPower値 Japan カップで実際に測定した、最初の登りの地点の Power 値を左図に示します。 600 勝負が決まる事の多い登りの区間は約 800m、走行時間にして 3 分ほどですが、例 Power[W] 500 えばこのデータを記録した選手は平均 Power 値で約 350W を発揮しています。これ 400 は優勝に関わる事のできる集団についていくために必要な Power 値です。3分間と 300 言う時間は、最大酸素摂取量(VO2max)に相当する高い強度の運動を維持できるく 200 らいの時間です。もしこの選手の最大 Power 値が 400W であったらどうでしょうか? おそらく楽々とはいきませんが、ある程度の余裕を持って走る事ができるでしょう。 100 0 0.366 しかしもしこの選手の最大酸素摂取量時(VO2max)の Power 値が 350W であったらど うでしょうか?。どうにかついていく事ができますが、数周繰り返すうちに脚が「売り 0.566 0.766 距離[km] 0.966 1.166 切れ」に近い状態になります。Japan カップのコースはこの後しばらく下りが続きま す。この間に脚を休める事ができますが、これをゴールまで繰り返す事は難しいで しょう。 1-3) トレーニング量の定量化 では、この選手は、Japan カップで勝負に関わる集団に残るためにはどうすればいいのでしょうか?少なくとも VO2max 時の Power 値をもっと上げるトレーニング をして、350W で3分間走る事になってもある程度余裕のある様、能力を上げる必要があります。しかし成長が止まった段階で VO2max を上げる事はそれほど簡 Copyrights BlueWych Co. Ltd. 5 単ではありません。しかしレースのコースを考え、どこで休むかを考えて、短時間の繰り返し高強度の運動に耐えられるよう、インターバルトレーニングの量をも っと増やす(あるいは他のトレーニングとの組み合わて組み込む)ようメニュを変更する必要があります。そしてトレーニング時には 350W~を目標の Power 値とし て維持する必要があるでしょう。 この様に、レースで勝つ確率を上げるためのトレーニングポイントを明確にし、そのメニューでこなさなければならない運動強度を数値で設定する事ができるの です。 1-4) パワーメーターの可能性 このように「定量化」という観点から考えると、パワーメーターはいろいろな使い事ができる事が容易に想像できます。自分の能力を定期的に測定して(しかも自 分のお気に入りの練習コース上で)、トレーニングの効果を自分で測る事ができます。また自分でデザインしたトレーニングの効果も測る事ができるでしょう。 BR-3 から BR-1 に上がるにはどれくらいのレベルが必要か?、BR-1 でランキング上位に入るには、どのレベルである必要があるか?、ヨーロッパでプロとして 走るにはどれくらいのレベルに上がらなけれならないか?。こういった漠然としていた目標も数値で示す事ができます。年間を通しての調子の推移、競技選手と しての特徴も把握できるようになります。 また TT のポジションの最適化にも使えます(SRM 社はこの方法でプロツアーチーム選手のポジションを決めています)。ざっくりとですが、フレームの性能、ホイ ールの性能など、機材の性能の比較もできます。 パワーメーターで数値を記録する仕事をしていると、「科学的トレーニング」に取り組んでいると言われる事が多くなります。「定量化」はこれまで感覚でつかん でいたものを数値に置き換える作業なので、科学的な手法は使っています。そういう意味では「科学的トレーニング」だと思います。しかしよく聞くとそうではなく、 「科学的トレーニング」と「根性」はなぜか相反するもののように分けられ、どちらをとるのか?二者択一的な比較をされる場合があります。そういう比較をする場 合、多くは「スポーツで大事なのは根性で、科学的手法に頼るようではダメだ」という否定的な意識が入っているように感じます。 しかしこの二つは分ける事ができるのでしょうか?レースでは、高い身体能力だけでは勝てない事は、ロードレースを見ている方はよく知っていると思います。 それが自転車ロードレースのおもしろさなのです。高い身体能力は勝つ確率を上げるための一要素です。根性も同じです。勝つ確率の高い選手は、高い身体能 力、なにがなんでも勝ちたいというという執念、普段の生活やレースを通して得たチームメイトから信頼、レース全体の流れを読む視野、状況に応じた判断力、勝 負に出る勇気など、持てる力全てを総動員して勝利をもぎ取るのです。勝ちたいと強い思いのある選手は根性だけではなく、出来得る限りの準備をします。 パワーメーターを具体的にどう使うか?についてはまだあまりよく知られていません。私は、運動生理学の知識と情報処理の技術をベースにして、トレーニング への活用手法を体系化する事を研究テーマとしています。 まだ研究の途上ですが、この web ページ上では、パワーメーターで自転車競技を「定量化」をするためにはどう使ったらいいのか?、各社から出ているパワーメ Copyrights BlueWych Co. Ltd. 6 ーターの違いは何か?、日本のレースではどれくらい走れる必要があるのか?、と言った実践的なパワーメーターの使用法・可能性について紹介していきます。 Copyrights BlueWych Co. Ltd. 7