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第2章 TRIPS協定を踏まえた多様な知的財産保護の強化(※容量大

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第2章 TRIPS協定を踏まえた多様な知的財産保護の強化(※容量大
第2章 TRIPS 協定を踏まえた多様な知的財産保護の強化
Ⅰ.我が国企業の国際的な営業秘密侵害事案への対応
1.はじめに
近年、我が国企業が保有する大型の技術情報の漏えい事案が顕在化しており、我が国に
おいて営業秘密の保護強化に対する関心が非常に高まっている。近時訴訟という形で顕在
化した2つの大きな事件として、高機能鋼板の製造技術の漏えいが問題となっている新日
鐵住金対韓国 POSCO の件、そして、NAND 型フラッシュメモリーの技術の漏えいが問題
となっている東芝対韓国 SK ハイニックスの件が挙げられる。
以下では、我が国企業の国際的な営業秘密侵害事案への対応として、この 2 つの事例の
事件の概要、訴訟に至る経緯及び特徴を記載する。ただし、前者については現在も審理中
であり、また、後者についても 2014 年 12 月に一部和解が成立し、訴訟記録も閲覧制限が
かかっているため、以下の記載は、報道資料を基にしたものであり、情報の正確性はその
報道資料による点に留意されたい。
2.新日鐵住金対 POSCO の件
(1)事案の概要・特徴
新日鐵住金対 POSCO の件は、2012 年の春に、新日鐵住金が韓国 POSCO と、新日鐵の
元従業員1名に対して東京地裁に民事訴訟を提起した、という事案である。これは、不正
競争防止法上の営業秘密の不正取得・不正使用等の差止めと損害賠償等を求める訴えで、
損害賠償額が約 1000 億円と非常に高額な事案である。
本件の特徴は、その対象がかなり高度かつ複雑な技術であり、非常に長期間にわたって
開発され、新日鐵住金において営業秘密として使用されていた技術というところにある。
また、国境をまたぐ渉外的な要素を有する営業秘密の侵害事案であること、また相手方が
韓国を代表する鉄鋼メーカーで、新日鐵住金とはお互いに提携関係にあり、通常協力し合
う関係にある中での訴訟であること、も特徴として挙げることができる。
2015 年 3 月末時点で、本件は訴訟提起からほぼ 3 年が経過するものの、未だ判決には至
っていない。その一方で、本件については、POSCO 側が、上記の東京地裁への訴訟提起後
の 2012 年 7 月に韓国浦項の裁判所で債務不存在確認訴訟を提起しており、
日韓の裁判所に
並行して審理が進行中である。また、新日鐵住金は、POSCO 及びその現地法人を相手取り
本件の技術に関連する特許権の侵害を理由とする民事訴訟(損害賠償請求及び差止請求)
を米国で提起している。
(2)我が国での訴訟に至る経緯
新日鐵住金対 POSCO の件が我が国での訴訟に至ったのは、2007 年 10 月に POSCO の元
従業員が POSCO の方向性電磁鋼板に関する営業秘密を中国企業に売り渡したことに起因
- 91 -
し、韓国で逮捕、起訴された刑事事件が端緒となっている。この裁判の中で、POSCO の元
従業員が、中国企業へ売却した営業秘密は、POSCO が新日鐵から不正に入手した新日鐵の
技術情報であるとして、無罪を主張した。韓国の裁判所は、判決において、POSCO が新日
鐵の退職技術者と契約を締結し、各種資料と情報の提供を受け、その資料の一部を正当で
ない方法で取得、保有している事情が一部うかがえるとした。一方で、POSCO の元従業員
が売却した技術情報はそれだけではなく、
POSCO 独自の技術の部分もあるとして有罪を認
定し、懲役 3 年、執行猶予 5 年の判決を下した。新日鐵住金は判決の上記認定より営業秘
密漏えいに関する事実を把握して、調査を開始した。
この刑事事件を端緒として、新日鐵住金は訴訟提起前の調査として、関係者のヒアリン
グや元従業員の自宅等に証拠保全の手続をし、元従業員、その関係者等々から情報提供を
受けて資料を収集し、それらを踏まえて訴訟を提起した。
(3)論点
本件は、渉外的要素があるため、国際裁判管轄及び準拠法の問題がある。営業秘密の事
件に関する国際裁判管轄及び準拠法については様々な議論があり、議論がまだ固まってい
ない。よって、本件のように我が国の企業が国内で秘密管理する営業秘密が盗取され海外
で不正使用された事件において、国際裁判管轄及び準拠法をどのように解すべきかが一つ
の問題となる。この点についても本件では争われているようである。
上記の通り、本件は韓国でも債務不存在確認訴訟が提起されており、日韓で並行して訴
訟が係属している。新日鐵住金が我が国で勝訴したとしても、外国判決の承認・執行の問
題が生じることになるが、この国際訴訟競合も論点となりうる。
また、本件は営業秘密に関する事例であるため、本件技術情報の営業秘密該当性(秘密
管理性や非公知性等)も問題になると思われる。
さらに、本件は民事訴訟であるため、その性質上、証拠収集が通常は困難であると思わ
れる。本件では、韓国での POSCO の元従業員の関連する刑事事件の存在があり、元従業
員宅への証拠保全等も行われたようであるが、こうした事情がない民事訴訟においては、
下記の東芝対 SK ハイニックスの件のように、刑事手続きでの証拠収集や協力者がいない
場合には、その証拠収集はより一層困難になると思われる。
3.東芝対 SK ハイニックスの件
(1)事案の概要
東芝対 SK ハイニックスの事件は、東芝の業務提携先である米国サンディスク社の日本
法人の元技術者で、サンディスク社退社後に韓国 SK ハイニックスに転職していた X を、
警視庁が不正競争防止法違反で逮捕したことが 2014 年 3 月 13 日付で報道された。また同
日に、東芝は SK ハイニックス及び X に対して、約 1100 億円の損害賠償を求める訴えを提
起した。本件で対象となっている営業秘密は、フラッシュメモリーの大容量化に必要な絶
縁膜に関する情報を含む研究データである。
- 92 -
本件の特徴の 1 つは、刑事事件と民事事件が並行して進行しているところである。
なお、
2014 年 12 月 19 日に東芝と SK ハイニックスが和解したという発表がなされたが、
X との間では和解に関する情報は発表されておらず、また X に対する刑事事件も引き続き
東京地裁に係属しており、2015 年 3 月 9 日、X に対し、懲役 5 年、罰金 300 万円の実刑判
決が下されたようである。
(2)我が国での訴訟に至る経緯
東芝はサンディスク社と提携しており、サンディスク社の技術者であった X は、東芝の
サーバーへのアクセス権限を有していた。X は、2008 年春ごろにその研究データをコピー
した後、同年 5 月にサンディスク社を退社し、同年 7 月に韓国 SK ハイニックスに転職し、
当該データを SK ハイニックスに提供した。
X は SK ハイニックス社で役員級の待遇を得、
高額な報酬を得ていた。X は、2011 年 6 月に同社を退職して帰国した。
本件では、X と同様にサンディスク社から SK ハイニックスへ転職した社員から東芝へ
の情報提供が端緒となり、東芝が内部調査により証拠を集めて、2013 年 7 月に警視庁に告
訴をした。当該告訴を受け、警視庁が SK ハイニックス社に保管されていたデータの詳細
を確認し、東芝からサーバーの接続記録等を警視庁に提供するなどの協力の結果、警視庁
は 2014 年 3 月に X を逮捕し、起訴した。
証拠収集に関しては、本件は USB メモリーを用いたデータの持ち出しであったため、接
続記録が残り持ち出しの痕跡が比較的わかりやすい事案であった。また、持ち出した先で
も、掲載者がわかる状態で、データを共有フォルダーに掲載し、開発担当者にメールで送る
などしており、営業秘密不正使用の痕跡が比較的わかりやすく技術的な証拠が残っていた。
(3)特徴・論点
本件においては、2005 年の不正競争防止改正により刑事罰が強化され、国外の行為や退
職者の行為などにまで刑事罰の対象が広がったことにより、営業秘密侵害事案の刑事事件
化による逮捕及び捜索という手段を採ることができた。日本の営業秘密関連の事件では、
刑事が先行する例は多くは確認できないが、韓国などでは、刑事事件を先行させることが
非常に盛んで、刑事事件において検察庁が集めた証拠を用いて民事訴訟を行うという実務
が確立しているようである。民事訴訟では、原告による証拠収集が難しいため、刑事事件
を先行させることは証拠収集という観点からも有益である。
本件では、業務提携先から情報漏えいが生じており、営業秘密の「秘密管理性」につい
て、保有者は適切な秘密管理をしていても、その業務提携先での秘密管理が不十分である
ことが問題となる可能性があることを示唆する。
本件刑事事件は、営業秘密に関する刑事公判となるため、平成 23 年の不正競争防止法改
正で導入された、刑事手続における秘密の保護のための制度の適用についての論点も含まれ
ている。上記のように本件の SK ハイニックスとの民事訴訟は和解で終了しているが、損害
賠償請求額 1100 億円中 330 億円程度という非常に高額の和解金を SK ハイニックスが東芝
に支払うということになっており、このような高額の和解金の支払い例は稀であるといえる。
- 93 -
Ⅱ.営業秘密保護強化に向けた制度整備について
1.はじめに
近年、我が国において、企業の基幹技術漏えいを巡る大型の紛争事例が顕在化している。
経済産業省の調査によれば、85%の企業が「技術・ノウハウの漏えいリスクが高まってい
ると感じる」と回答しているが、こうした漏えい事例は、米国や韓国、EU 等の諸外国に
おいても増加傾向にある。一方、我が国企業の営業秘密管理状況には濃淡があり、これを
どう改善していくかが重要な課題となっている。
営業秘密の漏えいを防止するためには、我が国企業が、その業態や規模等に応じて、保
有する営業秘密の漏えい防止対策を効率的かつ効果的に実施しうる環境整備が必要である。
また、このような環境整備とともに、不正に営業秘密を侵害する行為に対しては、制度面
から抑止力を引き上げていく必要がある。
こうした中、経済産業省では、産業構造審議会知的財産分科会の下に「営業秘密の保護・
活用に関する小委員会」
(以下、
「小委員会」という)を設置し、営業秘密管理指針の見直
し、中小企業等に対する営業秘密管理の支援のあり方及び営業秘密漏えいに対する制度の
見直しについて、平成 26 年 9 月から 4 回にわたって審議を行ってきた。
2.制度整備に向けた検討の視点について
我が国競争力の源泉たる営業秘密をこれまで以上に活用していくためには、我が国企業
が、営業秘密を合理的な努力の下で秘密として効率的に維持し、その漏えいに対しては差
止め等の救済を受けられるような、国としてのシステムの構築が求められる。
小委員会では、①中小企業等を含めたオープン・クローズ戦略推進の必要性、②営業秘
密の保有形態の多様化や、活用と秘匿のバランス、③IT 環境の変化、④営業秘密の漏えい
に対する抑止力向上の必要性、といった視点に留意しつつ、議論が行われた。
3.今後の具体的対応について
小委員会における議論の「中間とりまとめ」
(平成 27 年 2 月)では、今後の具体的対応
として、以下の 3 点が提示されている。
ア.営業秘密管理指針の改訂等
平成 15 年に策定された営業秘密管理指針は、これまで 4 度の改訂が行われているが、
当該指針に関し、
「秘密管理性の定義が不明確である」
、
「どのような対策をどの程度まで講
じればよいのかわからない」
、
「企業が最低限なすべき事項を明確に示すべきだ」等の意見
が寄せられている。そこで、営業秘密管理指針については、秘密管理性要件の明確化等の
ための法解釈に特化したものとしてこれを全面改訂すると共に、営業秘密管理手法等の一
層の高度化のためのベストプラクティスについては、
「営業秘密保護マニュアル(仮称)
」
として別途まとめることとする。
- 94 -
イ.中小企業等に対するワンストップ支援
資金・人材・情報等に限りがある中小企業等にとって、オープン・クローズ戦略に即し
た権利化・秘匿化の判断や、秘匿化を選択した場合の効率的・効果的な秘密管理の実施は、
必ずしも容易ではない。
そこで、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)において、ワンストップで企
業 OB や弁護士、弁理士等に相談できる体制を構築する他、原本証明の補完によるノウハ
ウ保護の強化(公的機関を活用した、タイムスタンプの長期安定的保管)について、具体
的検討を進める。
ウ.制度面での抑止力向上
営業秘密侵害に対し、民事、刑事両面から抑止力向上を図るため、刑事罰においては、
IT 環境の変化や内外の具体的な侵害事例等を踏まえた制度設計をする必要がある。また、
民事手続においても、より被害者の救済に資する制度設計を目指す必要がある。
このような観点から、刑事規定・民事規定それぞれについて、以下のような方向性で検
討を進める。
①刑事規定:処罰範囲の拡大
・国外犯
・未遂犯
・転得者
・営業秘密侵害品の譲渡・輸出入等
②刑事規定:法定刑等の在り方の見直し
・罰金刑の引上げ
・海外重罰導入についての具体的検討
・犯罪収益の没収
・非親告罪化
③民事規定
・被害企業の立証負担軽減
・除斥期間の延長
・営業秘密侵害品の譲渡・輸出入等禁止
4.最近の経済産業省の取組について
経済産業省では、平成27年1月28日に営業秘密管理指針を全面改訂するとともに、官民
の代表者が参画する「技術情報等の流出防止に向けた官民戦略会議」を開催し、“営業秘密
侵害を断固として許さない社会”を創出するための官民の今後の取組に関する「行動宣言」
をとりまとめた。また、2月2日にはINPITに営業秘密・知財戦略相談窓口(~営業秘密110
番~)を新設し、営業秘密や知財戦略に関する相談受付を開始したところである。
- 95 -
Ⅲ.米国・韓国の水際規制における不正競争行為の扱い
1.米国の水際規制における不正競争行為(州法関連規定を含む)の扱い
(1)水際規制の概要
米国の知的財産権を侵害する製品の輸入は、原則として禁止される1。米国税関当局(US
CBP: US Customs and Border Protection)は、連邦知財当局(US Patent and Trademark Office/US
Copyright Office)に登録された商標権及び著作権の侵害物品については、権利者による申
立て(recordation)又は職権により、侵害品等の留置及びその後の差押え、没収を行う権
限を有する2。それ以外の特許権(意匠権を含む)
、半導体回路配置、トレードシークレッ
ト等の知的財産権を侵害する製品については、国際貿易委員会(US International Trade
Comission: ITC)による排除命令に基づいて、税関で侵害品について差押え、没収を受ける
ことができる。
すなわち、米国での不正競争行為に対する水際での保護の方策としては、19 U.S. C. §1337
に基づく、ITC における輸入差止等の手続(以下、「337 条手続」という)によることになる。
不正競争行為に対する水際での保護の方策として、337 条手続を利用するためには、①
輸入行為、②不公正行為、③国内産業、及び④損害、が存在する必要がある(19 U.S.C.
§1337(a)(1)(A))3。特に水際措置の対象となる②不公正行為として、不公正な競争方法、不
公正行為が規定されている(同前)
。この類型に該当するものとしては、コモンローに基づ
く商標権4、営業秘密の不正利用(下記 TianRui 事件他5)
、詐欺広告6、詐称通用(虚偽表示)
などがある。
7
(2)コモンロー上及び州法における不正競争行為8
(1)のように米国での不正競争行為の水際規制は、不公正な競争方法、不公正行為と
特許庁「平成 15 年度 先進国における模倣品流通対策法制の実態調査報告書」
(2004 年)15 頁。
“Intellectual Property Rights Enforcement - How Businesses Can Partner with CBP to Protect their Rights”
http://www.cbp.gov/sites/default/files/documents/ipr_guide.pdf; CBP Enforcement of Intellectual Property Rights
http://www.cbp.gov/sites/default/files/documents/enforce_ipr_3.pdf; CUSTOMS DIRECTIVE NO. 2310-010A
“DETENTION AND SEIZURE AUTHORITY FOR COPYRIGHT AND TRADEMARK VIOLATIONS”
http://www.cbp.gov/sites/default/files/documents/2310-010a.pdf
3 小宮山展隆「米国国際貿易委員会における 337 条手続(その 2)
(完)
」61 巻 7 号 1077 頁(2011 年)
。
4 See, e.g., In re Certain Automotive Measuring Devices and Products Containing Same, USITC Inv. No 337-TA-494,
Complaint at 19 (May 2003); In re Certain Bearings and Packaging Thereof, USITC Pub. 3736, Inv. No. 337-TA-469, 2
(Dec. 2004); In re Certain Aerospace Rivets and Products Containing Same, USITC Inv. No. 337-TA-447, Complaint at 3
(Dec. 2000).
5 See e.g., In re Certain Cast Steel Railway Wheels, USITC Inv. No. 337-TA-655, 1 (Aug, 2008); In re Certain Dental
Positioning Adjustment Appliances, USITC Inv. No. 337-TA-562, 6 (Jan. 2006).
6 See, e.g., In re Bearings, USITC Inv. No. 337-TA-469 at 2; In re Cigarettes, USITC Inv. No. 337-TA-424, 15 (Aug.
1999).
7 See, e.g., In re Bearings, USITC Inv. No. 337-TA-469 at 2 (Mar. 2002); In re Multiple Implement, Multi-Function Pocket
Knives and Related Packaging and Promotional Materials (Multi-Function Pocket Knives), USITC Inv. No. 337-TA-398, 2
(Mar. 1997).
8 以下の特に①②については、TMI 総合法律事務所「平成 18 年度 東アジア大における不正競争及び営業秘密
に関する法制度の調査研究報告 -欧米の法制度との対比において-」報告書(2007 年 3 月,経済産業省委託事
業)第Ⅰ編第 2 部第 2 章第 5 節参照。
1
2
- 96 -
なるコモンロー上の不正競争行為等を規制している。このコモンロー上の不正競争行為等
については、第 3 次不正競争リステイトメント、各種モデル法に基づく州法やその他各州
における個別立法(カリフォルニア州の不正競争法やニューヨーク州の一般事業法など)
により州法として具体化がなされている。
① 第 3 次不正競争リステイトメント9
アメリカ法律協会によって起草されたリステイトメントのうち、不正競争関連法の分野
では、1993 年に起草された第 3 次リステイトメントが最新である。パッシングオフ(詐称
通用、Passing-off)
、トレード・ドレス(Trade Dress)
、ダイリューション(希釈化、Dilution)
、
営業秘密等についての準則が掲載されている。
(a)パッシングオフ(詐称通用、Passing-off)
パッシングオフとは、販売者の商品又は役務の出所に関する不実表示(False Designation
of Origin)をいい、欺罔的取引(Deceptive Marketing)の一種である(第 3 次不正競争リス
テイトメント第 4 条)
。
第3 次不正競争リステイトメント第4 条によれば、
①商品又は役務との取引に関連して、
②自己の事業を他人の事業であると誤認させ、又は自己が他人と代理・系列・提携関係等
があると誤認させ、又は自己の取引する商品・役務を他人のものと誤認させ、③需要者を
欺罔し又は誤導するおそれのある④表示をする者は、当該他人に対し、同第 2 条の欺罔的
取引の一般原則に基づき、差止め(同第 35 条)を受け、又は、損害賠償(同第 36 条)責
任を負う。欺罔の意図は責任要件ではない。
(b)トレード・ドレス(Trade Dress)
トレード・ドレスとは、商品又は役務の全体的な外観・イメージを表現することが多い
が、商品の包装において用いられるラベルや包装紙、容器の外観、及び商品を需要者に提
示する際に用いられるディスプレーその他を含む概念である。
第 3 次不正競争リステイトメント第 16 条によれば、包装、ラベル、容器、ディスプレー
若しくは装飾のデザイン、若しくは商品、商品の特徴若しくは商品の諸特徴の結合のデザ
イン等の、需要者に提示される商品若しくは役務の外観又はイメージを構成する要素のデ
ザインは、自他識別力(Distinctiveness)があり、かつ、当該デザインが機能的(functional)
ではない場合には、商標と同様に保護される。
(c)ダイリューション(希釈化・Dilution)
他人の商標、商号等と類似する表示を、それらと行為者の商品、役務又は事業を関連付
けるおそれがあるような態様で使用する者は、適用される反ダイリューション法の下で、
9
Restatement of the Law Third, Unfair Competition (1993)
- 97 -
①他人の標章が高度に自他識別力を有しており、当該標章と行為者の商品、役務又は事業
との関連がその自他識別力を減殺させるおそれがあるとき(Blurring・不鮮明化行為)
、又
は②他人の標章と行為者の商品、役務又は事業との関連が、他人の商品、役務又は事業を
誹謗し又は他人の標識と関連するイメージを毀損するおそれがあるとき(Tarnishment・汚
損行為)には、混同の証明を要さずに責任を負う(第 3 次不正競争リステイトメント第 25
条)
。
(d)営業秘密に係る不正行為
営業秘密の保護に関するコモンローの集大成として、第 3 次不正競争リステイトメント
第 39 条から第 45 条までに、その保護についての準則がまとめられている。
営業秘密は、
「事業又はその他の企業の運営において利用可能であり、かつ、他人に対す
る現実的又は潜在的な経済的優位をもたらすに十分な価値を有し秘匿されているすべての
情報をいう」と定義される(第 3 次不正競争リステイトメント第 39 条)
。
この営業秘密の侵害となる行為として、他人の営業秘密と知りながらの不正取得行為、
(1)守秘義務違反での、
(2)不正取得した営業秘密の、
(1)
(2)の介在を知っての、
及び偶発的な営業秘密取得者による営業秘密と知っての使用・開示行為、を挙げる(第 3
次不正競争リステイトメント第 40 条)
。
② モデル法
(a)統一欺瞞的取引慣行法(Uniform Deceptive Trade Practices Act)
各州において、
不正競争及び欺瞞的商行為を統一的枠組みで規制するために 1964 年に策
定され、1966 年に改訂された統一法であり、イリノイ、デラウェアなど十数州により州法
として制定されている。
具体的には、以下の行為を欺瞞的取引慣行として規定する(同法 2 条)
。
(1)詐称通用、(2)商品又は役務の出所等の混同・誤認のおそれを生ぜしめる行為、
(3)系列、
取引先、提携関係等の混同・誤認のおそれを生ぜしめる行為、(4)地理的出所の欺瞞的な表
示・称呼の使用、(5)商品又は役務の品質・数量等の虚偽表示、(6)中古品等を新品と表示す
る行為、(7)事実に反して特別品質等を表示する行為、(8)虚偽の説明等で他人の商品等を誹
謗する行為、(9)おとり広告、(10)公衆の需要を満たす意思をもたない広告、(11)値引きに関
する事実についての虚偽の説明、(12)その他、混同・誤認のおそれを生ぜしめる行為。
この欺瞞的取引慣行に対する救済方法として、
差止命令が認められる
(同法 3 条)
。
なお、
この規定は、コモンロー又は州制定法の救済方法を排除するものではない(同条)
。
(b)統一営業秘密法:Uniform Trade Secrets Act(UTSA)
営業秘密の保護に関しては、1979 年、統一州法委員会全国会議(National Conference of
Commissioners on Uniform State Laws)により公表された統一法営業秘密法により、各州に
おける統一的な営業秘密の保護が図られることとなった。現在、同法は、ニューヨークな
- 98 -
どを除く 43 州及びコロンビア特別区で制定されている。
同法 1 条では、
「不正な手段」
(窃盗、贈収賄、不実表示、機密保持義務の違反又はその
違 反 の 誘 因、 若 し く は電 子 的 、 その 他 の 手 段で の ス パ イ活 動 。)、「 不 正 使 用 等」
(Misappropriation;不正開示、不正取得も含む。
)及び「営業秘密」について定義する。本
法の規制対象となる「不正使用等」につき、以下のように定義する。
営業秘密が不正な手段によって取得されたことを知っている又は知り得べき者による営
業秘密の取得、
(A)営業秘密の不正取得者、
(B)使用・開示の時点で、営業秘密が不正な
手段によって取得した者から取得されたこと等を知っている又は知り得べき者、又は(C)
営業秘密と知りながら偶然取得した者による他人の営業秘密の開示又は使用。
また、
「営業秘密」につき、非公知かつ経済的価値のある、秘密維持のために合理的努力
の対象となっている様式、模型、編集物、プログラム、装置、方法、技術又はプロセスを
含む情報と定義する。
同法 2 条では差止救済について定め、その特則として営業秘密消滅(ceased to exist)後
の差止めの終了と商業的利益の排除のための継続(a)
、使用のために合理的ロイヤリティ
を支払う場合の差止の制限(b)
、営業秘密保護のための積極的行為の命令(c)を規定する。
同法 3 条では、損害賠償(実損害、不当利得、合理的ロイヤリティ)及び故意の場合の懲
罰的損害賠償(最大 2 倍)について定める。
なお、同法は、弁護士費用の支払い(4 条)
、訴訟上の機密保持(インカメラ等;5 条)
、
訴訟提起可能期間(発見後 3 年;6 条)
、営業秘密の不正使用に関する不法行為、不当利得、
民事的救済に関する本法の優先(7 条)についても規定する。
③ 各州における個別立法10
各州において不正競争行為を制限する法律として、カリフォルニア州における不正競争
法(Business and Professions Code)
、ニューヨーク州おける一般事業法(General Business Law)
などが、それぞれ制定されている。また、ルイジアナ州及びワシントン州では、外国にお
いて著作権などを侵害して生産された製品の州内における流通を禁止する州による立法が
なされている。
(a)カリフォルニア州
カリフォルニア州の Consumers Legal Remedies Act(California Civil Code §1750-1784)で
は、詐称通用、虚偽広告、虚偽表示、信用毀損行為等の不公正又は欺瞞的取引方法が規制
されている。これにより損害を受けた消費者は、損害賠償、差止、原状回復措置、及び懲
罰的損害賠償等を請求することができる。また、California Business & Profession Code
(CBPC:§17200-17210, §17500-17509)においては、不公正又は詐欺的な取引方法又は慣
10 以下(a)
(b)につき、日本知的財産協会フェアトレード委員会第 2 小委員会「米国における不正競争行為
規整の概観(その 2・完)」知財管理 53 巻 5 号 776-777 頁(2003 年)
、牧山嘉道・森山義子「不正競争防止に関す
る各国の法制度--12 カ国の制度と運用(第 14 回)米国(3・完)」国際商事法務 37 巻 8 号 1053-1054(2009 年)等
を参考にした。
- 99 -
行、虚偽広告又は誤認を惹起させる広告等を規制している。これに対しては全ての私人(司
法長官を含む)が救済措置を求め訴訟を提起できるが、救済措置としては、差止め及び原
状回復のみが認められている(本法の情報技術盗用事例への適用事例については、下記 e
参照。
)
。なお、虚偽広告を行った者には、6 ヶ月以下の禁固若しくは 2500 ドル以下の罰金、
又はそれらが併科される(CBPC§17500)
。
(b)ニューヨーク州
ニューヨーク州では General Business Law(NYGBL: New York State Consolidated Laws:
Chap.20)が制定されており、欺瞞的な行為又は慣行、虚偽広告が規制されている
(NYGBL§349, 350)
。それらの行為により被害を受けた者又は司法長官は、欺瞞的な行為
又は慣行、虚偽の広告を行った者に対して、差止め又は損害賠償を請求することができる
(司法長官は原状回復の請求も可能。)。故意に欺瞞的な行為等を行う者には、裁判所が
1000 ドルを限度に損害額の 3 倍までの賠償を命じることができる(NYGBL§349, §350-e)
。
(c)ルイジアナ州
ルイジアナ州制定法第 51 編[商取引法]第 13 章[不正取引慣行及び消費者]1427 条11
( TRADE AND COMMERCE 12 CHAPTER 13. UNFAIR TRADE PRACTICES AND
CONSUMER §1427(RS 51:1427)
)において、盗用又は冒用コンピュータ・ソフトウェア
等の使用により開発・製造される製品又はサービスの提供を不正競争行為としている。
具体的には、
「製品やサービスが本州で事業を行っている者と競合して販売又は販売の申
し出をされる場合に、盗用又は冒用財産(property)を使用して製品を開発又は製造し、若
しくはサービスを提供する行為」を違法とする。この財産には、
「必要な著作権の許諾を得
ていないコンピュータ・ソフトウェアを含むが、これに限定されるものではない」とされ
ている(51:1427A)
。ただし、
「本条の違反は、不公正な競争方法かつ不公正な慣行又は不
公正な行為でなければなら」ないとされている。
これらの行為に対して、司法長官(51:1404)及び確認可能な損害(ascertainable loss)を
被った個人(51:1409)が訴訟を提起できる。救済として、個人は実損害及び故意の場合に
は、違反者は最大 3 倍賠償や弁護士費用及び訴訟費用の支払い(51:1409)
、並びに差止め
(51:1409)を求めることができる。司法長官は差止めを求めることができる(51:1407)
。
また、補償のため必要に応じて追加の救済を求めることができる(51:1408、51:1409)
。
§1427 不正又は詐欺的取引慣行・取引行為:盗用(stolen)又は冒用(misappropriated)コンピュータ・ソフ
トウェア:違反
A. 以下の行為は違法である:ある者が、その製品やサービスが本州で事業を行っている者と競合して販売又は
販売の申し出をされる場合に、盗用又は冒用財産(property)を使用して製品を開発又は製造し、若しくはサ
ービスを提供する行為。この財産には、必要な著作権の許諾を得ていないコンピュータ・ソフトウェアを含
むが、これに限定されるものではない。
B. 本条の違反は、不公正な競争方法かつ不公正な慣行又は不公正な行為でなければならず、本条の違反は、違
反者を本章に定めるすべての法的措置(actions)及び罰則の対象にする。本条の目的のため、そのような製品
又はサービスを販売又は販売のために提供する都度違反が発生するものとする。
12 http://legis.la.gov/lss/lss.asp?folder=125
11
- 100 -
本法の適用に関する実例として、2013 年 12 月ルイジアナ州で、盗用したソフトウェア
を使用して活動したとして中国のグリルメーカーに対して、司法長官は本法に基づき訴訟
を起こす旨のレターを送付した。その後、中国企業がソフトウェアの合法化のために 25
万ドルの支払いをすることに合意し、和解した13。
(d)ワシントン州14
情報技術(ソフトウェア及びハードウェア)を無権限で使用する製造業者の競争上の不
当な優位性に着目し、法的対抗手段(損害賠償及び差し止め)を規定しているワシントン
州法第 19 章 330 節(Revised Code of Washington Title 19 Chapter330 . Stolen or Misappropriated
Information Technology)と題する法(以下「RCW 19.330」という。
)がある。
同法の要件及び効果は以下の通りである。
(イ)要件(不公正競争行為)
盗まれた又は不正利用された情報技術をその事業活動に使用して物品又は製品を製造し
た者であること、
当該使用の結果として重大な競争上の侵害
(4 か月間 3%超の小売価格差)
を引き起こしたこと、当該物品又は製品が、ワシントン州において販売され、非違反物品
又は製品と競合すること、著作権により保護される最終製品等に関する場合や、特許侵害
による主張、営業秘密の不正利用による主張、又は、連邦特許法による主張に基づく場合
のいずれにも該当しないこと、及び、違反通知がされ、その是正期間(通知受領後 90 日)
が経過した後であること。
(ロ)効果
司法長官又は被害者は、侵害者に対して当該物品の販売又はその申出を禁止する等、差
止請求訴訟を提起できる。司法長官又は被害者は、裁判所が違反と判断した後、侵害者に
対して、損害賠償を求める訴訟を提起できる。裁判所が違反と判断し、判決が登録された
後、司法長官又は被害者は、侵害物品又は製品を本州において販売し、又はその申出をす
る第三者に対して損害賠償請求を、その訴訟に付加することができる。
(ハ)実例
2013 年 4 月ワシントン州では、マイクロソフトが、ブラジルの航空機メーカーとのソフ
トウェアライセンス紛争を解決するため RCW 19.330 を使用した。司法長官は、正式手続
前に、この問題を解決するためブラジル企業にいくつかのレターを送った。その結果とし
て、上記問題は解決され、ブラジル企業は RCW 19.330 の違反を取りやめた15。
13
14
15
https://www.ag.state.la.us/Article.aspx?articleID=823&catID=5
詳しくは、
『国際知財制度研究会』報告書(平成 24 年度)85~92 頁参照。
http://www.atg.wa.gov/pressrelease.aspx?&id=31143#.Umo96XC-2So
- 101 -
(e)その他の州における情報技術流用への対策
上記の(c)及び(d)の立法がなされた 2011-2012 年当時、連邦取引委員会法(FTC
法)に規定のある「取引における又は取引に影響する、不正な競争方法及び不正又は欺瞞
的な行為又は慣行は、違法である」とする FTC 法 5 条を、広く"情報技術の盗用による不
当な競争上の優位"にも適用すべしとの議論が起こり、これを 39 州・地域の司法長官が支
持した16。そのため、FTC 法 5 条、又はいわゆるベビーFTC 法(州の不正競争又は欺瞞的
取引行為に対処する制定法であり、FTC 法と類似の内容となっている。
)に依拠して、下
記のように情報技術流用に対して執行する動きが現れた。そのためか、上記の(c)
(d)
のような情報技術流用への対策を行う立法の動き自体は止まったようである17。
ベビーFTC 法等の一般的な州法による執行の実例としては、以下の例が知られている18。
・2014 年 3 月オクラホマ州では、中国石油機器メーカーに対して、より低い価格で州
での競合機器を販売するために海賊版技術を使用したとして、欺瞞的取引慣行、独
占禁止、不正競争防止法違反として司法長官が訴状を提出した19(係属中)
。
・2013 年 1 月カリフォルニア州では、輸入され州内で販売された衣類に海賊版ソフト
ウェアを使用することにより、不公正に競争上の優位性を獲得したことが、California
Business & Profession Code の不正競争行為に当たるとして中国とインドのアパレル
メーカーに対して、司法長官が訴訟を提起した(現在保留中)20。
・2012 年 10 月マサチューセッツ州では、Massachusetts General Laws(MGL)93A 章に
基づき、海賊版のソフトウェア製品を使用することにより、同州で不当に製品を販
売し、納入したタイの水産加工会社に対して司法長官が訴訟を提起した。被告は 1
万ドルの罰金を支払い、ソフトウェアの使用を中止することに同意した21。
(3)Tian Rui Group Co. Ltd v. ITC 事件22
国外で盗用された営業秘密により製造された製品の輸入を 337 条に基づき禁止する ITC
の命令につき、いわゆる域外適用との関係でこれに対して適用すべき法が問題となった事
例として、Tian Rui Group Co. Ltd v. ITC 事件がある。
Amsted 社は、米国イリノイ州の鋳鋼鉄道車輪メーカーで、ABC 工程を含む車輪の製造
方法についての営業秘密を有していた。中国企業の TianRui 社は、Amsted 社の ABC 工程
のライセンシーである Datong 社の従業員を雇った上で、機密保持契約に反して ABC 工程
http://www.naag.org/assets/files/pdf/signons/FTCA%20Enforcement%20Final.PDF 2011 年 11 月に 39 州・地域の司
法長官(Attorney General)が署名した FTC 宛の要望書において、国外の企業による情報技術の「盗用」が米国
の製造業及び雇用に対して甚大な損失をもたらしていることを挙げつつ、それは不公正競争である旨指摘し、
FTC 法 5 条の適用を促している。
17 いくつかの法案が出されていた(
『国際知財制度研究会』報告書(平成 24 年度)92 頁参照。
)がその後成立
したものはないようである。
18 http://naji.org/initiatives/ag-enforcements/
19 http://www.newson6.com/story/24967084/oklahoma-ag-sues-chinese-company-for-violating-antitrust-laws
20 http://oag.ca.gov/news/press-releases/attorney-general-kamala-d-harris-files-unfair-competition-lawsuits-over-use な
お、
『国際知財制度研究会』報告書(平成 24 年度)93-94 頁も参照。
21 http://www.mass.gov/ago/news-and-updates/press-releases/2012/2012-10-18-narong-seafood-co.html
22 TianRui Group Co. Ltd. v. Int'l Trade Comm'n, 661 F.3d 1322 (Fed. Cir. 2011)
16
- 102 -
を開示させ、Amsted 社の営業秘密を用いて中国で車輪の製造を開始した。そこで、Amsted
社は、その営業秘密の盗用を理由として、ITC に対して、TianRui 社の車輪の輸入の禁止を
求め 337 条に基づく申立てを行った。
ITC は、TianRui 社が中国で Amsted 社の営業秘密を盗用し製造した車輪を米国に輸入す
ることにより同社の国内産業を害したとした上で、TianRui 社の車輪の米国への輸入を 10
年間禁止する限定的排除命令を下した。この命令に対し、TianRui 社は、CAFC へ控訴した。
CAFC は、米国法は反対の意思が表明されていない限り国内行為のみに適用されるとの
推定が働くが、337 条の立法の意図等から製品が国外で営業秘密を盗用して製造されたと
しても、ITC はその製品の輸入を禁止する権限を有しているとして、ITC の決定を支持し
た。
適用法に関して、CAFC は、
「特定の行為が、337 条に違反し、輸入において『競争の不
公正な方法』及び『不公正な行為』を構成するかどうかが問題となる場合、争点は連邦法
の問題であり、特定の州の不法行為法を参照することによるのではなく、均一な連邦基準
(a uniform federal standard)の下で判断されるべきである。
」とする。
なお、TianRui 事件以降に ITC が営業秘密の不正使用による違反を取り扱った事例がい
くつかある23。例えば、Robotic Toys 事件では、消費者向けロボット玩具を製造する米国企
業が、意匠や図面、製造方法にかかわる営業秘密の不正流用を主張して ITC に救済を申し
立てた24。
また、TianRui 事件後の ITC での営業秘密の不正使用に関する判断が問題となった CAFC
の判決として、uPI Semiconductor Corp. v. ITC 事件判決25が存在する。同事件は、営業秘密
不正使用及び特許権侵害製品の輸入行為について、377 条違反有りとする同意命令が出さ
れた後の同命令違反に対する民事制裁金を科す執行命令が問題となったものである。その
ため、
営業秘密不正使用製品の輸入が 337 条手続きの対象となることは争われていない26。
(4)州の個別立法と水際規制
州の個別立法と水際規制との関係について、特に 337 条手続きにおいて、上記(2)③
の各州における個別立法の違反(州法違反)を直接問題とすることができるであろうか。
この点については、上記(3)の TianRui 事件判決が、337 条手続きの対象である「不公正
行為」を構成するかは、特定の州法ではなく、均一な連邦基準によるべきとしている。そ
のため、州法違反となる行為を直接 337 条手続きにおいて問題とすることは困難である。
しかし、各州のベビーFTC 法及び州法固有の IT 盗用を反競争行為とする法に違反する行
為は、下記のように連邦法である FTC 法(Federal Trade Commission Act of 1914)5 条を介
23 Electric Fireplaces, 337-TA-791/826 (May 1, 2013); Certain Rubber Resins and Processes for Manufacturing Same,
337-TA-849 (Jan 15, 2014);
24 Robotic Toys, 337-TA-869 at 2-3, 16-18 (Jan. 4, 2013). なお、和解で終了したようである。
25 uPI Semiconductor Corp. v. ITC, 767 F.3d 1372 (Fed. Cir. 2014)
26 執行命令の判断中において、行政法判事・委員会共に同製品が営業秘密を侵害すること無しに製造されたこ
とを認めた。これに対して、CAFC での争点中、営業秘密に関しては、営業秘密侵害の有無、特にクリーン・
ルームによる営業秘密使用の回避が問題となったが、クリーン・ルームが不完全で、無意味なマーキングの残
存していたことから、営業秘密が使用されていないとは認められないとして、ITC の判断を破棄し、更なる判
断のため差し戻した。
- 103 -
して 337 条手続きにおける「不公正な競争方法」と評価されうる。
まず、337 条の「不公正行為」には、FTC 法 5 条との文言の類似やシャーマン法からの
文言の借用があること27から、価格カルテル、顧客割当、集団ボイコット、取引拒否及び
独占の共謀の行為が含まれ、知的財産に関連する事例ではないが FTC 法 5 条違反を含むそ
れらの反競争法的行為に対して 337 条手続きを適用した先例28がある。そのため、FTC 法 5
条違反の行為に対しては、FTC による手続きだけではなく、337 条手続きも利用可能であ
る。なお、FTC 法 5 条を技術情報盗取に適用することができるか否かについては、適用す
べきという考え方が広がっているようであるが(上記(2)③(e)
)
、いまのところその
適用可能性は不明なままである。
そして、各州のベビーFTC 法(上記(2)③(a)及び(b)の例)は、もとより FTC
法を範としたものであり、また固有の IT 盗用を反競争行為とする法(上記(2)③(c)
及び(d)の例)についても、上記の FTC 法 5 条が技術情報盗取に適用可能であるかとい
う問題の結論次第であるが、それらの違反行為は、FTC 法 5 条に関連することで、
「均一
な連邦基準」の下で 337 条手続きにおける「不公正な競争方法」を構成しうると理解する
ことができる(各州のベビーFTC 法による技術情報盗取の規制についても同様である)
。
2.韓国の水際規制における不正競争行為の扱い29
韓国における水際規制は、関税法による規制と不公正貿易行為調査及び産業被害救済に
関する法律30(以下「不公正貿易調査法」又は「法」という。
)による規制の 2 通りある。不
正競争行為(営業秘密及び原産地表示等)を取り扱うのは、後者である。
(1)貿易委員会(KTC)
① 貿易委員会
貿易委員会(略称 KTC)は、不公正貿易行為に対する調査・判定、輸入の増加・ダンピ
ング・補助金などによる国内産業被害の調査・判定、産業競争力の影響調査等に関する業
務を遂行するために産業通商資源部に設置された機関31である(法第 27 条 1 項)
。不正競
争行為(営業秘密及び原産地表示等)の一部を不公正貿易行為としてそれに対する調査・
27 William P. Atkins & Justin A. Pan, An Updated Primer on Procedures and Rules in 337 Investigations at the U.S.
International Trade Commission, 18 U. Balt. Intell. Prop. L.J. 105, FN.43 (2010).
28 FTC 法 5 条の文言の類似、シャーマン法からの文言の借用から、337 条には、価格カルテル、顧客割当、集
団ボイコット、取引拒否、独占の共謀を含まれる。See In re Electronically Resistive Noncomponent Toner, USITC Inv.
No. 337-TA-253, Order at 10; In re Certain Laminated Floor Panels, USITC Inv. No. 337-TA-545, Answer to Complaint at
14 (Sept. 2005); In re Certain Recordable Compact Discs and Rewritable Compact Discs, USITC Inv. No. 337-TA-474,
Petition to Review at 24 (Nov. 2003); In re Certain Set-Top Boxes and Components, USITC Inv. No. 337-TA-454, Petition
to Review at 22-23 (July 2002).
29 以下では、脚注記載のものの他に、知的財産研究所『知的財産侵害物品に対する水際制度の在り方に関する
調査研究報告書』
(2006 年 3 月)
、鎌田邦彦・山本和人・金成鎬「特許権行使と税関の輸入差止制度--日本、米
国(ITC)、韓国(KTC)の実情」知財ぷりずむ 101 号 37 頁以下(2011)等も参考にした。
30
불공정무역행위 조사 및 산업피해구제에 관한 법률
KTC は、準司法機関であるとしている。KTC「제 3 장 무역위원회의 조직과 기능 01 무역위원회 2. 법적성격」
『무역위원회 20 년 - 어제와 오늘』available at http://www.ktc.go.kr/db/cl/kdc_ReportPart_view.jsp?seq=253&sn=1
31
- 104 -
判定及び暫定措置の決定を行い、不公正貿易行為を行った者に対する是正措置及び課徴金
の付加を行う(法第 28 条)
。
② 不公正貿易行為に対する調査
KTC による不公正貿易行為の調査の根拠法は不公正貿易調査法である。不公正貿易行為
としては、知的財産権侵害物品の輸入等の行為等が定められている。
具体的には、不公正貿易調査法 4 条で、大韓民国の法令又は大韓民国が当事者である条
約32により保護される特許権、実用新案権、商標権、意匠権(デザイン権)
、著作権、著作
隣接権、プログラム著作権、半導体集積回路の配置設計権、地理的表示又は営業秘密を侵
害する物品等(以下「知的財産権侵害物品等」という。
)を海外から国内に供給する行為、
輸入、輸入後国内販売、輸出、輸出目的で国内で製造する行為(1 項 1 号)
、及び原産地虚
偽表示、原産地誤認表示物品、原産地表示を毀損・変更した物品、原産地表示を欠く原産
地表示対象物品(2 号)
、品質虚偽・誇張表示物品(3 号)の輸入、輸出する行為が不公正
貿易行為と定められている。
③ KTC の組織
KTC は委員長 1 名を含む 9 名以内の委員で構成される(法第 29 条 1 項)
。KTC の全般
業務を処理するために貿易調査室が設置されている。貿易調査室には貿易救済政策チー
ム・産業被害調査チーム・ダンピング調査チーム・不公正貿易調査チームの 4 つのチーム
があり、不公正貿易調査チームが不公正貿易行為の調査業務を担当している。
(2)不公正貿易行為33調査制度
① 手続及び流れ
(a)調査申請
不公正貿易行為が認知できる場合には何人でも書面で不公正貿易行為調査の申請が可能
である(法第 5 条 1 項)
。申請は不公正貿易行為があった日から 1 年以内でなければならな
い(2 項)
。KTC は不公正貿易行為の疑いがあり、調査の必要がある場合には職権で調査
を行うこともできる(法第 6 条)
。
(b)調査開始の可否決定
KTC は、上記の申請があった場合、申請後 20 日以内に調査を開始するか否かを決定しな
ければならない(法第 5 条 3 項)
。調査開始の決定をした場合、KTC は不公正貿易行為があ
32 このような文言があることから保護対象権利の範囲には「外国の知的財産権」も含まれると解する見解が有
力とされている(申賢哲「韓国貿易委員会における知的財産権の侵害物品の水際規制(1)水際規制の範囲および
特許庁と法院の判断との関係を中心に」阪大法学 62 巻 5 号 170 頁(2013 年)
)
。ただし「条約」の範囲について
争いがある。
33 知的財産権侵害行為を含む。
- 105 -
ったのかの調査を決定日から6か月以内に行い、
判定をしなければならない
(法第9条1項)
。
(c)暫定措置
不公正貿易行為により回復できない被害を被っており、又は被るおそれがある者は、
KTC に当該行為の中止、その他の被害を予防するための措置(暫定措置)の申請が可能で
ある(法第 7 条 1 項)
。なお、暫定措置の申請をする者は、暫定措置の実施を決定するまで
に KTC に担保を提供しなければならない(法第 8 条 1 項)
。
(d)審議、議決
貿易調査室での調査の結果に基づいて KTC で審議を行い、不公正貿易行為かの判定を
し、是正措置の手段及び水準を出席委員の 1/2 の賛成で議決する(法第 32 条 1 項)
。KTC
が下す是正措置としては、以下の是正措置命令及び課徴金賦課などがある。
是正措置命令(法第 10 条)として、該当物品などの輸出、輸入、製造、及び販売の行為
の中止、搬入排除及び廃棄処分、訂正広告、是正命令を受けた事実の公表、及び是正のた
めに必要な措置がある。
また、課徴金として KTC は、取引金額の 30%以内又は、取引額の算定が困難な場合に
は、5 億ウォン以内の支払を命じることができる(法第 11 条 1 項)
。なお、KTC は、知的
財産権侵害物品についての不公正貿易行為の調査申請人や職権調査の場合の重要な資料や
情報の提供者には、課徴金賦課額の 10%以内の額として大統領令で定める金額を報奨金と
して支給することができるとされている(法 14 条の 3)
。
(e)不服
KTC の処分に不服のある者は、処分の通知を受けた日から 30 日以内に KTC に異議申立
ができる(法第 14 条 1 項)
。KTC はこの異議申立について 60 日以内に決定しなければな
らない(法第 14 条 2 項)
。異議申立をした者は、この異議申立とは別に行政審判又は行政
訴訟を提起することができる(法第 14 条 3 項)
。
(f)刑事罰
原産地虚偽表示、原産地誤認表示物品、原産地表示を毀損・変更した物品、原産地表示
を欠く原産地表示対象物品を輸出し、又は輸入した者若しくは上記の暫定措置命令又は是
正措置命令に違反した者は、3 年以下の懲役又は 3000 万ウォン以下の罰金に処される(法
第 40 条 1 項)
。
② 実績
実績として、2013 年度末までに 320 件の調査申請があった34。その内訳は、特許権侵害
34
http://www.ktc.go.kr/sub_frame.jsp?link_menu_id=0401
- 106 -
41 件、実用新案侵害 4 件、商標権侵害 105 件、意匠権(デザイン権)侵害 14 件、著作権
侵害 12 件、営業秘密侵害 6 件、原産国違反 71 件、虚偽・誇張表示 2 件、輸出入秩序阻害3565
件である。
いわゆる不正競争行為については原産地表示違反に対する申請が突出しており、
知的財産権侵害も主は商標権侵害に対する申請であり、調査申請の大部分は表示に関する
違反行為に対するものである。
以下では、営業秘密侵害や特許権侵害を取り上げるが、それらは KTC の事例としては
少数であることに注意する必要がある。
(3)韓国の水際規制の特異点
① 営業秘密侵害物品の輸出入の行為
我が国における水際規制とは異なり、営業秘密侵害物品の輸出入の行為及び輸出入目的
での製造を不公正貿易行為として、調査・是正措置等の対象としている。
近時の事例として、
「カラオケアンプ営業秘密侵害事件」36を取り上げる。被申立人は、
申請人会社の開発部長(対象技術の開発統括・秘密管理責任者)として勤務し、退職後に
申請人の技術を利用した製品を生産して販売するため、自分の PC に本件技術情報を含む
ファイルを保存することで、本件技術情報を取得した。また、被申立人は、本件技術情報
を利用して対象物品を製造し、ベトナムへ輸出した。申請人は、本件技術情報は、申請人
の営業秘密に該当し、被申立人が申請人の営業秘密を侵害した対象物品を製造・輸出した
行為は、不公正貿易行為に該当するとして、是正措置等を求めた37。これに対して、KTC
は、本件技術情報を利用した物品の輸出及び製造行為は不正貿易行為に該当するとしてそ
の中止を命じ、課徴金(48,388,115 ウォン)を賦課した。
少々古い事例ではあるが、
「殺鼠剤・殺虫剤営業秘密事件」38も例として取り上げる。殺
鼠剤・殺虫剤を生産、輸出する申請人の従業員だった A は退職後、被申立人会社を設立し、
申請人の海外取引先を相手に殺鼠剤・殺虫剤の取引行為(輸出目的での製造及び輸出)を
行なった。これが申請人の営業秘密である生産技術と海外取引先の情報を侵害していると
いう理由で、申請人は KTC に調査申請をした。KTC は、被申立人の取引行為が申請人の
営業秘密(海外取引先情報のみ)を侵害する不公正貿易行為に該当すると判定し、その是
正措置(輸出及び輸出目的の製造行為の停止)を決定した。
両事件ともに判断の過程においては、KTC は、本件技術情報の不正競争防止法上の営業
秘密該当性及び被請求人の行為の営業秘密侵害行為(取得・使用)該当性を判断した上で、
被申立人の営業秘密侵害物品の製造及び輸出の行為が不公正貿易行為に該当すると判断し
ている。また、
「カラオケアンプ営業秘密侵害事件」では、是正措置の判断において、不正
競争防止法の目的から職業選択の自由や営業の自由の不当な制限とならないよう、幾つか
35 不公正貿易行為の一種、
「輸出入契約の実施に関連して、契約内容と著しく異なる物品等の輸出入や紛争の発
生などを通じて大韓民国の対外信用を害し、その地域への輸出又は輸入に支障を与える行為」と定義される(法
4 条 4 項)
。
36 貿易委員会 2013 年 8 月 21 日議決第 2013-21 号
37 なお、既に被申立人は、不正競争防止法違反の罪で有罪判決(懲役 10 か月、執行猶予 2 年)を受けている。
38 貿易委員会 2003 年 2 月 19 日議決第 2003-2 号。
- 107 -
の考慮要素39を検討した上で、製造、輸出の中止は判定の日から 3 年としている。
なお、公開されている KTC の議決には、海外で(韓国国内又は海外の)営業秘密を侵
害して製造された営業秘密侵害物品の輸入が問題となった事例は掲載されていないようで
ある。
② 外国知的財産権等の侵害に対する KTC 手続の利用可能性
上記のように不公正貿易調査法 4 条は、大韓民国が当事者である条約により保護される
知的財産権侵害物品等も救済の対象としているが、外国法に基づき成立した外国の知的財
産権も水際規制の保護対象に含まれるか問題となる。この点については、水際規制の保護
対象には外国の知的財産権も含まれるとする見解が有力なようある40。また、
「条約」は、
2 国間条約を意味するとする見解と、パリ条約や TRIPS 協定等の多国間協定をも意味する
とする見解とがある41。
KTC の事例では、米国でのみ登録されている特許権侵害物品が水際規制の対象とされた
「携帯用懐中電灯事件」42がある。本件において、申請人は、自己の米国特許権を侵害す
る物品を韓国で製造し米国へ輸出する被申立人の行為が不公正貿易行為に該当すると主張
した。しかし、調査手続の進行中に、申請人が調査の撤回を要請したことにより調査手続
が終了した。そのため、実務上、外国法に基づき成立した外国の知的財産権の侵害が不正
貿易行為に該当するか、
「条約」が何を意味するのかは明らかではない43。
③ 輸出、輸出目的で韓国国内で製造する行為に対する規制
上記のように KTC の規制対象行為として、
「輸出、輸出目的で国内で製造する行為」を
挙げており、是正措置命令として、輸出や製造行為の中止等を定めている。そのため、韓
国では、外資系企業が、韓国国内での国内企業の特許侵害等を理由に製造・輸出中止を韓
国政府に頻繁に要請しており、KTC を韓国の輸出企業に対し圧迫するツールとして乱用し
ているとの批判がある44。
外国企業が申請人となって「輸出、輸出目的で国内で製造する行為」が問題となった事
例として、「脊椎後屈復元術用風船カテーテル事件」45がある。同事件は、スイスの企業
39 ①申請人が、本件営業秘密を開発するのに掛かった期間と費用、②本件営業秘密の開発時期と内容、③被申
立人が申請人の会社で担当した役職と担当業務、④被申立人が独自開発やリバース・エンジニアリングなどの
合法的な方法によって、本件営業秘密を取得しようとする場合に必要な時間と開発の成功率、⑤当該技術市場
の特性、⑥その他。
40 前掲注 32・申 170 頁。
41 前掲注 32・申 170-171 頁。
42 貿易委員会 2003 年 7 月 16 日議決第 2003-16 号。調査申請の申請人による取下げの可否を判断した議決であ
る。
43 ただし、韓国が米国との間に、互いに相手国の知的財産権を水際で保護すべき旨を定めた 2 国間条約を締結
していないにもかかわらず、米国の特許権の侵害の成否が調査の対象とされたことに鑑みると、本件では、
「条
約」の解釈につき、多国間協定の場合が想定されていた、とする見解がある(前掲注 32・申 172 頁)
。
44 「貿易委員会が韓国企業の輸出を自ら妨害している。」http://www.jetro-ipr.or.kr/newsSearch_view.asp?news_id
x=3475&syear=1999&smonth=1&sday=1&eyear=2014&emonth=5&eday=29&keyword=&page=109
45 貿易委員会 2010 年 5 月 25 日議決第 2011-08 号。
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が、脊椎後屈復元術用風船カテーテルに関する特許権を侵害する物品を製造又は輸出する
行為が不公正貿易行為に該当するとして、その行為の中止を求めた事例である。KTC は、
これを認め対象物品の輸出目的での製造又は輸出行為を中止する旨の議決を下した。
なお、
本件は、被申立人が異議申立をしたところ、KTC が、本件特許発明に対する大法院の特許
登録無効判決46を根拠に原議決の主文全文を取り消す決定47を下している。
また、外国企業による韓国企業の「輸入」に関連する国内行為の規制事例としては、「塩
酸ゲムシタビン事件」48がある。同事件は、米国企業(イーライリリー)が、塩酸ゲムシ
タビンを特許権の侵害者(インドのドクターレディ社)から輸入し、これを使用した抗が
ん剤を販売している韓国の製薬企業(進風製薬株式会社)の不公正貿易行為(特許権侵害)
により、回復不能な被害を受け、又はそのおそれがあると主張し、法第 7 条に基づき、調
査対象物品の輸入及び製造·販売を中止する措置を申請し、その暫定措置が認められた事例
である。
なお、虚偽表示について韓国企業が申請人・被申立人である事例で、被申立人が安全認
証を受けていない製品に安全認証番号などを表記する方法で品質などを偽表示した製品を
「輸出」した行為が法第 4 条 1 項 3 号の不公正貿易行為に該当するとして、是正措置(輸
出の停止)及び課徴金を賦課するよう申請人が請求しそれが認められた事例49がある。
公開されている KTC の議決は、こうした国内事業者同士による輸入に関連する事例が
ほとんどで、外国企業の調査申請により、輸出やそのための製造が問題となった事例は余
りないようである。
大法院 2011 年 7 月 14 日宣告 2010 후 1107 判決。
貿易委員会 2011 年 8 月 24 日議決第 2011-14 号。
48 貿易委員会 2006 年 3 月 23 日議決第 2006-4 号。なお、本文記載のとおり、輸入に関連する国内行為でありか
つ、暫定措置の決定に関する議決である。
49 貿易委員会 2013 年 8 月 21 日議決第 2013-23 号「サウンドアンプの品質等の偽表示の不公正貿易行為調査」
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