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電子書籍市場 - Nomura Research Institute

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電子書籍市場 - Nomura Research Institute
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
2012 JAN. VOL.22
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断
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著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright ⓒ 2012 Nomura Research Institute,
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republication without written permission.
1
電子書籍市場
前原孝章
1
ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタント
様々なプレイヤーが
相次いで配信サイトを開設
アメリカにおけるアマゾン(Kindle)
の成功により注目を集めている電子書籍
であるが、日本での電子書籍市場の立ち
性があるため、今後もこれらの企業の動
コンテンツ別の内訳をみると、新刊の
ように電子書籍ビジネスにおいて複数の
たKindleは、待機画面の表示時に広告を表
ことになる。このことは、企画数(新刊
きに注視する必要があろう。
書籍が最も自炊されており、自炊された
事業領域をカバーし、電子書籍市場の成
示することで、広告が表示されない同型
の数)を更に増やすことが可能になるこ
新刊の書籍は年間111億円に上ると推計
長段階や外部環境変化等に応じて最適な
端末よりも販売価格が25ドル抑えられて
とを意味する。
される(図表1)
。
収益モデル・ビジネスモデルを柔軟に選
いる。この広告は、利用者からの投票に
電子書籍化に伴い、これまで出版社が
択してきた。
より選別され(Admash)
、また利用者は自
取っていた在庫リスクが無くなる(返品
アマゾンは当初、コンテンツを安価に
分の端末に表示される広告テーマを自身
の負担を考えなくて良くなる)
。これによ
抑え、端末で収益を得るモデルを目指し、
の嗜好に合わせて選択することができる。
り、これまで「売れないかもしれない」
出版社との間で、同社のサイトで販売す
このように、米国では電子書籍の利用
という事でお蔵入りしてしまってきた企
る電子書籍コンテンツの販売価格を独自
者が大きく拡大した結果、ビジネスモデ
画の出版や、コンテンツの海外販売を実
に決定できるという契約(ホールセール
ルの多様化が進んでいる。
現しやすくなる。出版した書籍がヒット
2
上がりは諸外国に比して早く、2010年に
は620億円に達している。これは米国と
コンテンツ拡充が進むも、
人気コンテンツの電子化が
遅れている
前述のように配信サイトが急増してい
0
20
40
60
80
100
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(億円)
120
111
55
ほぼ同等の市場規模である。この大半を
る電子書籍市場だが、併せて各配信サイ
携帯電話(フィーチャーフォン)向けの
トにおけるコンテンツの充実も進んでいる。
配信が占めている点が諸外国と比較した
新刊点数と電子書籍のコンテンツ数は、
特徴である。
米国でアマゾンがKindle事業を始めた際
2010年以降は、携帯電話以外の端末へ
の水準を既に上回っている。アマゾンで
これらの市場は、電子書籍サービスの
一部のコンテンツを赤字で販売した。す
の配信サービスへの新規参入が相次いだ。
はベストセラー作品の大半を電子書籍コ
拡大によって取り込むことが可能である
なわち、コンテンツビジネスの収益を犠
5
2010年5月のソニー(SONY)
、凸版印刷、
ンテンツとして購入可能であるが、日本
(但し、コンテンツの金額市場は、電子化
牲にし、Kindleの普及を推進してきたと
今後は、読書に適したタブレット端末
意味でプラス面が大きい。
KDDI、朝日新聞社による電子書籍配信事
では大手の配信サイトであってもベスト
により紙の書籍の場合よりも金額が小さ
考えられる* 。
やスマートフォンの普及拡大、および電
電子書籍化により絶版という概念を排
業での連携・参入を皮切りに、出版社、
セラー作品の多くを読むことができない。
くなる可能性がある)
。
その後の外部環境変化を受けて徐々に
子書籍コンテンツの充実を受けて、日本
する事ができるので、過去の資産(絶版
携帯通信事業者、印刷会社、端末機器メ
多チャンネルサービスにおける欧州サ
自炊を行っている利用者は、その大半
このモデルは変化した。この背景には、
でも電子書籍の市場は一層拡大すると見
本など)を売上に変えることも可能となる。
ーカ等が相互に連携し、電子書籍事業に
ッカーのように、コンテンツ配信サービ
がスマートフォンやタブレット端末を所
iPhoneやAndroidOSを搭載したモバイル
られる。短期的には新刊などのコンテン
また、書籍販売のECサイトでは、棚の制
参入する動きが活発化している。
スを普及させるにはキラーコンテンツが
有している割合が高いことから* 、これら
端末の急速な普及、出版社との間の契約
ツをさらに充実させることで、ユーザー
約が緩和されるため、年間数冊しか売れ
2011年6月には、国内インターネット
不可欠といえる。電子書籍配信サービス
の端末を使って自炊した書籍を読んでい
形態の変化があった。
数を増やすことが課題となる。中長期的
ないことを理由にリアルな書店には置い
通信販売大手の楽天が、ソニー、パナソ
においては、いわゆる「ベストセラー」
る可能性が高いと考えられる。今後のス
アマゾンがKindleの初代機を発売開始し
には「電子化ならでは」の付加価値提供が、
ておくことが難しい本からも大きな収益
ニック、紀伊国屋書店と連携して電子書
がキラーコンテンツに当たると言える。
マートフォンやタブレットの普及拡大を
た2007年11月以降、iPhoneや各種Android
電子書籍市場拡大の鍵になると見られる。
が得られている(いわゆる「ロングテール」
)
。
籍事業に参入することを表明、8月には配
市場拡大に向けてはベストセラー作品の
受けて、電子書籍の潜在的な市場はます
搭載端末など、通信機能を有するモバイル
なぜなら、書籍の電子化は、書籍の提供
電子書籍化により、前述の新刊数の増大
信サイト「Raboo」をオープンさせた。
更なる電子化が望まれる。
ます拡大し、コンテンツ整備ニーズはさ
デバイスが続々と市場に投入され、電子書
者と利用者の双方に新たな価値を創出す
と併せて、ロングテールのテール部分を
らに高まると考えられる。
籍の閲覧が可能な端末が一気に普及した。
ると考えられるためである。
更に伸ばすことが可能になる。
アップルは電子書籍アプリケーション
書籍の電子化により、提供者にとって
電子書籍市場の中長期的な拡大に向け
iBooksをリリースした際、コンテンツの売
は、読者市場のマーケティングが可能と
ては、これらの電子書籍ならではのメリ
価は出版社が決定し、アップルは売価の一
なる。紙の書籍の場合は、著者や出版社
ットを最大限活用し、前述のようなビジ
部を受け取るという契約を出版社との間に
と読者間のコミュニケーションは非常に
ネスモデルの多様化や、新たな価値を創
出していくことが求められる。
また、同年9月には出版社20社が「出
版デジタル機構(仮称)
」の設立に合意し
電子書籍市場の潜在力
としての「自炊」市場
䜷䝣䝇䜳
64
出所:
「情報通信サービスに関する調査(NRI)
」を基に推計
3
契約)を交わしていた。このため、コン
テンツの販売価格を低く抑えることができ、
5
するかどうかの見極めはベテランの編集
中長期的な市場拡大の鍵は
電子化による新たな価値創出
ツの電子化に積極的に取り組む動きを見
3
せていることから、出版業界の今後の動
新刊などの分野で電子書籍コンテンツ
4
きも注目される。
の整備が不十分である状況を受けて、配
Kindle発売以降、米国では電子書籍市場
交わした。これを機に、アマゾンも出版社
限定的であった。しかし、電子化により、
さらに、米国最大手のアマゾンが日本
信サイト経由ではなく、利用者自身がス
が急拡大している。この急拡大と併せてビ
との契約形態を同様のものに変えざるを得
読者の属性情報・購買情報の収集や、イ
においてもサービスを近々スタートさせ
キャナー等で書籍を読み取り電子化する、
ジネスモデルも大きく変化している。
なかったと言われている。これらの変化に
ンターネット上で著者・出版社・読者間
るとの報道があった* 。出版社との交渉
いわゆる「自炊」を行う向きもある。
アマゾンは、電子書籍ビジネスにおいて、
より、かつて自社の利益を抑えてコンテン
で直接的なコミュニケーションが行うこ
は続けられているが、その際、国内の事
NRIが実施したアンケート*2によると、
端末やコンテンツの販売、コンテンツを
ツを安価に提供していたアマゾンも、コン
とが容易になる。
業者とは大きく異なる取引条件などを提
2010年度に自炊によって電子化された書
配信する通信サービスまで一貫して提供
テンツ販売から収益を得るビジネスモデル
また、電子書籍を配信するにあたっては、
示していると言われる。アマゾンの参入
籍(新刊・コミック・文庫本)の市場規
し、
「端末売上」
「コンテンツ販売マージン」
へと転換することとなった。
紙の購入、物流にかかる費用などが必要
は配信サービスの形態や電子書籍コンテ
模は、230億円と推計され、これは同年
「通信」という電子書籍事業全体での収益
2011年春以降、アマゾンは広告から収
ないため、一点一点の書籍の単位で事業
ンツの価格設定等に変化をもたらす可能
度の書籍市場全体の2.8%に上る。
最大化を目指している* 。同社は、この
益を得る試みを開始した。4月に発売され
を考えると、損益分岐点は大きく下がる
た。それら以外の出版社も書籍コンテン
1
01
図表1:「自炊」書籍市場規模(2010年度)
多様化する収益モデル・
ビジネスモデル
4
者にも難しく、しばしば博打にも例えら
れる。新刊の数を低リスクで増やせるこ
とは、難しい見極めを必要としなくなる
*1 2011年10月20日 日本経済新聞 1面
*2 情 報 通 信 に 関 す る ア ン ケ ー ト 2011年8月 実 施
n=2,069
*3 アンケートによると、自炊を行っている利用者のタブ
レット所有率は、回答者平均の6.5倍、スマートフォン所有
率は2.2倍となっている
*4 アマゾンはMVNO(Mobile Virtual Network Operator、
仮想移動体サービス事業者)としてKindle利用者に対して通
信サービスを提供している。
*5 使われている部品の原価から、Kindle端末の粗利益率
は高いと想定される。
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