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パネルディスカション - Japan for Sustainability

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パネルディスカション - Japan for Sustainability
JFSサステナビリティセミナーNo.5
2005/6/14
パネルディスカション
■ 枝廣
パネルディスカッションに入る前に、少し私の方からパネルのフレームをお話して、それからみなさんに
お話をしていこうと思っています。
新しい考え方や新しい商品、新しいサービスなど、これまでになかったものを「イノベーション」と呼びます。
例えば「これまでは環境のことを考えないでモノを作っていたけれども、これは環境に配慮した商品だ」、
もしくは「これまではいろいろなことを考えずに、安ければいいとやっていたけど、これはフェアトレードだ」
というように。そういう新しい考え方や商品、つまりイノベーションをどうやって広めていくか、が今回のテ
ーマです。イノベーションの普及に関する詳しい話をする時間がありませんが、ご興味があれば、アラン・
アトキソン著『カサンドラのジレンマ』に理論や例が出ていますので、読んでみて下さい。
ここに出てくる実例では、あるイノベーション、つまりとても役に立つ考え方が最初に作られてから社会全
体で使われるようになるまで、264 年もかかっています。いかに良い考え方・良い商品があったとしても、
それを社会全体で使うようにならなければ、あまり効果を発揮できない。そして現在、環境やフェアトレー
ド、平和の分野でいうと、264 年待つことはおそらくできないのではないか、変化や普及を加速していくに
はどうすればいいか、と考えています。
広げていくための戦略として、「イノベーション普及理論」という考え方があります。これは非常にほっとす
る考え方なんですね。なぜかというと「世界を一度に変える必要はない」と言ってくれるからです。「そうし
ようとすると失敗する」と。そうではなく、「新しい考えには必ず反発する人がいるものだ。だから、そうで
はない、受け入れてくれる人たちにまず広げていこう」、そのように順番を追って広げていこうという考え
方なのです。
何事でも、実際に最初に新しい考え方を考えつく人がいます。例えばフェアトレードを思いついた人がい
る。もしくは“つぶつぶ”という形で雑穀をもう一度導入しようとした人がいる。でも、その人だけでは広が
らない。次に変化の担い手(チェンジエージェントと英語で言いますが)が出てきて、新しい考え方を広く
伝わるような言葉で伝えていく。そして一番効果的なところに働きかけていく。そうすると社会の中で、「だ
ったら面白そうだからやってみよう」とか、「じゃ、フェアトレードを買ってみよう」とか、「“つぶつぶ”にいっ
てみよう」とか、新しいことをやってみようという人たちが出てきます。そして、最後に、その様子を見てい
る社会の大多数である主流派の人たちが「あの人がやっているのだったら、買おう」とか「やっても悪いこ
とはなさそうだからやってみよう」とのってくる。こんな考え方です。
***
変化を起こすための“ギルマンの方程式”が『カサンドラのジレンマ』に載っています。どういうときに人々
は変化を起こすのか。例えばこれまでは普通の白いご飯を食べてたけど、ある時から雑穀も食べよう、
とか、買うものを変えるとか。「行動の変化が起こる条件」とは、新しい方法があって、それから古い方法
(これまでやってきた方法)があって、それぞれの良さを比べますよね。もちろん新しい方法が良いからす
すめているわけですが、でも新しい方法が良いとわかっても、人々はなかなか行動を変えません。なぜ
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かというと、行動を変えることには必ずコストがかかるからです。これは「値段が高くなる」というお金の面
だけではなく、例えば前よりも少し面倒だとか、前とは違うのでやりにくいとか。そういう「コスト」がその変
化を起こした場合のプラスよりも小さい時にはじめて、人は変化を起こすのだ、という方程式です。
ですから、「これじゃだめだ」とこれまでのやり方を非難するだけではなくて、「こうやればいいんですよ」と
いう“乗り換える舟”を用意することが重要だと思っています。そして、コストには、時間やお金など、いろ
いろなものがあるのですが、それをできるだけゼロに近づけていくこと、できればそれを逆転して「変える
ほうがかっこいいんだ」と変えていければいいと思います。この本に、「広げるための条件」がいくつか挙
げられています。今説明した「相対的な利点」がひとつ。もっとも、これは「ある」というだけでは十分では
なくて、それをみんなに認識してもらう、つまり、みんなに伝えることができるかどうかが鍵を握っていま
す。
それから、「わかりやすさ」もそうです。例えば、レインフォレスト・アライアンスのラベルと言うのは分かり
やすいし、ぱっと見ただけでみんなが理解できる。そういった取り組みです。あと、「試しやすさ」。これは
例えば“つぶつぶ”で言うと、「これはひき肉の代わりになります」というと試しやすいですよね。何か新し
いことをやるとなると「えっ?」と引きがちですが、「今日はハンバーグだから“つぶつぶ”をやってみよう
か」という感じでできます。それから「効果が見えるかどうか」もとても重要ですし、「あなたの性格を変え
ないとこれはできません」というのではなかなかみんなやりませんので、大切なのは「両立できること」。
これまでのやり方やこれまでの考え方を捨てなくても変えることができるのなら、変えやすくなります。
“3割ケータリング”という大谷さんのお話を聞いて、まさにいくつかの点でピッタリだなと思います。3割し
か変えなくていいんだったら全とっかえする必要ないのですから、これまでのやり方や考え方と両立しま
すし、試しやすいです。そしてたぶん 10 割変えるよりも7割ホテルの料理、3割“つぶつぶ”料理が並んで
いて、フタを開けてみたらみんな“つぶつぶ”料理の方にいくということになると、効果が見えやすいです
よね。そしたらホテルにも「次からうちもやろうかな」と影響を与えることができます。
以上、イノベーション普及理論を基にしたいくつかの考え方をご紹介しました。環境やフェアトレードの分
野で、マーケティングやブランディングなどをもっともっと勉強して、理論的な考え方を裏付けに、効果的
な広げ方をしていきたいなと思っています。
***
最初に、サブリナさんにぜひお聞きしたいことがあります。レインフォレスト・アライアンスのいろいろな認
証がとても広がっているというお話がありましたが、どうやって広げるかということを考えている立場から
すると、どうしてこんなに広がっているのか、その理由や秘訣をぜひお聞きしたいです。
ふつう、フェアトレードにしても、こういった認証にしても、私たちがふだん売ったり買ったりするものにして
も、まず生産者がいて、そこで作ります。それから流通があって、小売り店なりで売って、消費者が買い
ます。消費者が生産者から直接買うということは、ほとんどありません。流通があいだに入ります。例え
ばレインフォレスト・アライアンスの活動でいうと、生産者が「一緒にやりたい」「自分たちのも扱ってくれ」
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という要望はたくさんくると思うのですが、それをどうやって流通に乗せていくのか、流通の人たちをどう
やって変えていくのかが鍵を握っていますよね。例えば、チキータのバナナのように、流通が変われば、
消費者はあまり考えなくてもスーパーに行けば、認証を受けたバナナしか売っていない、という状況にな
ればいいわけですよね。そういう例もあるし、もしくは消費者の側から、「こういう認証を受けたバナナが
ほしいんだ」と流通をプッシュして初めて、流通がその商品を置くようになる、という例もあると思います。
ですから、私たちの取り組みの対象は、小売りを始め、お店として消費者の人たちに売っている立場の
人にどう働きかけるか。それから、一般の消費者にニーズを高めてもらわないと動きが進みませんから、
一般の人たちにどう働きかけるか。その両方があると思います。チキータの例で、これほど大きく変わっ
たのは何が原動力だったのかということをぜひお聞きしたいですし、チキータに限らず、いろいろなところ
がサポートをしてこの認証が広がっています。このあたりの理由は何なのか。流通やもしくは小売りや一
般消費者に対してどういう働きかけが有効でこれまで広がってきたのか。このあたりをまずサブリナさん
にお聞きしたいと思います。
■サブリナさん
レインフォレスト・アライアンスでは日本においての戦略としては、森林と農業とずいぶん分野が違いま
すし、業界もサプライチェーンも違うんですけれども、まず森林に関しての戦略から申し上げますと、認証
を受けている土地の面積を合計値として増やしていくということ。それから先ほど少しお話しましたサプラ
イチェーンの中できちんと管理ができているという生産者から、メーカー、物流と一連のサプライチェーン
の中できちんと管理ができているという認証を増やしていく。この2つに重点を置いています。現在日本
では3つの森林管理組合に対して認証を出していますが、これをどんどん増やしていきたいと考えてい
ます。
さらに、もっとも必要とされているのが消費者の意識の向上、消費者に対する啓発活動です。私どもは
非営利の団体ですので宣伝広告費の予算は持っていません。ですので、レインフォレスト・アライアンス
のマークを扱っている生産物を売ってくれる会社、企業にその宣伝広告を頼っていることになります。で
すから私たちはマーケティングやコミュニケーションの担当として、レインフォレスト・アライアンスの生産
物、あるいはレインフォレスト・アライアンスの認証を受けた生産物を扱ってくれている企業と一緒に協力
をして、たとえばPOSのツールですとか、コミュニケーション・ツール、プレスリリースなどを一緒に作って
いっています。そうすることで、新しい概念や様々な認証を受けた製品、生産物を発展させていく、その
普及を推進していくということを行っています。
チキータの場合は、いちばん初め、そのような認証に向けて努力をしているということ、また現状どうなっ
ているかということを周りに伝えたがらなかったんです。というのは、自社農園で 95%以上のところで認
証ができるまではまだ公表しないでおこうという非常に慎重な態度をとっていました。ご承知の通り、チキ
ータはバナナ生産会社のうちの大手でして、非常に大規模なサプライチェーンを掌握しています。生産
者から流通、小売りにわたって大きな影響力のある形でサプライチェーンを管理しているので、その意味
では、このような取り組みをしていますよということを発表するタイミングを計って、慎重に進めていった
のは正しいやり方だったのかもしれないと思います。非常に大きな取り組みでありますので、与える影響
も大きいということで慎重だったのだと思います。
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現在、カエルのマーク(レインフォレスト・アライアンスの認証マーク)はヨーロッパでチキータのフルーツ
について使われることになりました。またレインフォレスト・アライアンスと協同してチキータはPR、宣伝
広告費をかけてテレビ・コマーシャルや印刷物での宣伝を行っています。これは最初にスイスとスウェー
デンで行われたのですが、順次その他のヨーロッパ諸国でも行っていく予定です。日本でのチキータに
ついてはレインフォレスト・アライアンスの承認を受けたものについてカエルのマークをいずれ使っていく
計画があると伺っています。
いずれにしても、もっとも求められているのは消費者側の意識が高まっていくということ、消費者のほうが
「カエルのマークの付いたものがほしい」と声を上げていくことだと思います。企業や、その製品を使う企
業、たとえばスーパーマーケットやレストラン、ホテルなどがどんどん利用を高めていく、あるいは普及を
促進していくことが必要だと思います。というのは、実際にその製品を扱うスーパーやレストランですと、
実際に販売する場面で消費者と直接コミュニケーションできることになります。ですから、彼らがこういっ
た製品について非常によい反応を示してくれれば、それがどんどん広がっていくわけです。コーヒーの場
合は非常に成功しましたので、この成功を他の生産物にも生かしたいと考えています。つい最近、レイン
フォレスト・アライアンスが認証したオレンジジュースを市場に導入しました。ココアパウダーもこれから導
入していく予定です。
このカエルのマーク(フロッグ・シール)は非常に人気が高まっていますので、レインフォレスト・アライアン
スが認証している生産物を扱っている企業に対してもカエルのマークを使いたいと言っているところが増
えてきています。特に最終的な消費者であるお客さんと接点のある企業でそういった声が高まっている
ようです。一例を申し上げると、例えば、印刷に使う紙は今までのところはFSCという団体の認証―例え
ばFSCが認証した材木が 30%使われているというロゴなりマークなりが入っているんですが―今後はも
しその印刷の紙を扱っている企業が求めるのであれば、レインフォレスト・アライアンスが使っているカエ
ルのマークをFSCのロゴと一緒に使うことも認めていく方向でいます。
■枝廣
ありがとうございました。さきほどの“つぶつぶ”のネーミングとも重なるところがあるのですが、このラベ
ルのカエルがかわいいですよね。このイメージって大きいと思います。今、消費者の意識というお話があ
りました。NGOですし広告もたくさん打つわけにもいきません。でも、広告代理店じゃありませんが、消費
者に宣伝してもらうような取り組みがNGOには必要なのだろうなあと思います。ですから皆さんがスーパ
ーにバナナを買いに行ったら、ただ買うのではなくて、「え、このバナナ、カエル(のマーク)がついていな
いんですかあ?!」と大きい声で叫ぶ、そういう活動がたぶん必要だろうと。
■胤森さん
今、チキータの例が出たんですけれども、私たちは特にフェアトレードでは、地域、農村ですとか小さなコ
ミュニティといった所を支援することを目的にしています。そういったところで、こういった大手がどんどん
参加してくると、例えばチキータのすごく大きな農場がカエルのマークを付けてどんどんそのバナナが普
及していくと、例えば日本ではATJさんというフェアトレード団体がフィリピンのバナナを生協とかに卸して
らっしゃいますけれども、そういったところは特にそういうラベリングをされていないわけですよね。そうす
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ると、そういった小規模の人たちがどんどん排除されていくことにつながっていくんじゃないかという危惧
がありますが、それに対してはどうお考えなのでしょうか。
■サブリナさん
今のは非常によいご指摘だと思います。ここで強調したいのは、レインフォレスト・アライアンスはあくまで
小規模と大規模、両方の事業者に対してフォーカスしているという点です。あくまでレインフォレスト・アラ
イアンスの目的はメイン・ストリーム(主流派)での持続可能性を追求するということですので、基準を考
える際にも、可能な限りもっとも高い基準を設けるようにしました。そうすることで、自然資源そして人々
の生活が長期的に持続可能であることを確実にしたいと考えたからです。
確かに現実的には、バナナについてはほんの少数の大手の生産者が独占しているような状況です。小
規模の生産者は、そういった大規模な生産者のために年間のうち一部の地域について供給するというこ
とをしています。ただ、バナナについてはレインフォレスト・アライアンスは小規模の生産者とも協力して
いますが、大規模な生産者と協力することが多いです。
対して、コーヒーとカカオについてはかなり小規模な生産者が多くなっています。記憶が正しければ、コ
ーヒーの生産者の 95%が 5 ヘクタール以下の農地しか持っていない小規模な生産者です。ですので、な
るべく全部の作物について公正に振り分けられるようにしていますが、コーヒーについてはかなり小規模
な生産者とも協力しています。たしか、1~5ヘクタールの農地で生産している生産者が何千もいます。
ただ、小規模の生産者と協力していくということは非常に長い時間のかかることですし、手間もかかりま
す。というのは、なぜそういう特定のやり方で農業をしていかなければならないかということを教育しなけ
ればいけないからです。ですので、私どもの場合は、外部の団体、たとえば国連、国連開発計画、あるい
はアメリカの国際開発庁(USAID)といったところの協力を得て、技術支援を仰いでいます。そうすること
で小規模な生産者に対して理解を促進してもらい、どうしたら自然資源を長期的に保全しながら使ってい
けるかということを学んでもらっています。
また、小規模の生産者については、どうしたら市場へのアクセスを得ることができるかということを、私た
ちも何千ものバイヤーとの付き合いがあるので、そういったところに紹介することで、マーケットへのアク
セスを高めていっています。実際今までのコーヒーの価格よりも2倍から3倍の価格で売れるようになっ
たという事例もあります。
コーヒーについてはもう一つ申し上げたいんですが、いちばん不利な状況に置かれている生産者とも、
今まで協力してきました。例えば、僻地にある、さらに高地に住んでいるグアテマラのマヤ族のコーヒー
生産者を支援してきたということもあります。こういうへき地に住んでいる人の場合ですと、例えば、道路
がそこにあっても洪水で寸断されて輸送手段がなくなってしまう、市場へのアクセスがなくなってしまうと
いうことがあります。また、コーヒーの実についても、コーヒーの実そのものは非常にいいものが採れる
んですが、それをどう加工したらいいのかわからない、またその加工のための道具がないという問題が
今までにありました。
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こういった生産者のグループを先ほど申し上げたような団体に紹介して技術支援を受けられるようにす
る、また例えば、より大きな加工場を作るための財政支援もしてもらうということをしています。その結果、
こういったグループでは今までの収入よりも4倍、5倍の収入が得られるようになったということもわかっ
ています。私たちのほうで価格を決めるということはしていません。あくまで、自由な市場に売っているわ
けですので、価格を決めてしまうということはないのですが、こういった認証を受けた製品がどんどん普
及していくように、多くの努力をしています。
■枝廣
ありがとうございました。今度はお3人に同じ質問をします。質問は3つあります。3つ合わせて、それぞ
れお答えください。1つ目は、今それぞれ活動されていて、その活動の対象がだれか、どういう人たちに
広げたいと思っているのか、どういう人たちを動かしたいと思っているのか、どういう人たちにアウトリー
チしたいと思っているのかです。2番目は、これまでの活動でそのうち何%ぐらいの人に届いたと思って
いるか、これはまったくの勘というか直感で全くかまいませんので。自分が届けたい相手のうち、何%ぐ
らいこれまで届くことができたか、です。3番目は、おそらくそこにギャップがあると思うので、そのギャップ
を埋めて、届いているカバー率を引き上げるために何が必要だと思っているか、何があれば、広げたい
対象の人たちにもっともっと広げることができると思っているのか、です。よろしくお願いします。
■胤森さん
はい、私たちは、商品を「ピープル・ツリー」というブランドで衣料品から雑貨、コーヒー、紅茶まで幅広く
扱っているので、対象といえばすべての人、自分でお買い物をするすべての人というふうに贅沢になる
んですけれども、具体的に商品開発をするときには、だいたい主には女性、20 代から 40 代ぐらいのいち
ばん消費ということに関して近いところにいる人たちを対象としています。実は男性ももっと視野に入れ
たいんですけれども、「お買い物で国際協力」といったコンセプトがより理解されるのは、女性のほうが圧
倒的に多くて、私たちがどんなにがんばって男性ものを開発しても、実際はお客様の 95%は女性なんで
すね。そういった意味で、ターゲットを絞って 20 代から 40 代の女性というふうにすると、かなり普及はして
きているんじゃないかとは思います。
ただ、フェアトレードについて認知度は高まっているとはいえ、実際にその商品を買ったり使ったりしてい
るかということになると、普及という意味では、まだまだ低いんじゃないかなと思っています。認知度とし
て私たちはきちんとリサーチをしたことはないんですけれども、たぶんまあ 10%ぐらいの人が知っていて、
そのうち3分の1ぐらいの人が実際に買ったことがあるのかなというのが私の個人的な感覚です。実際
はお買い物をするすべての人たちが対象であるわけですから、そこからすると、まだまだ低いなと思って
います。
そのために私たちが実際に努力してきていて、ある程度達成はしているけれども、もっと努力が必要だと
いうのは、ひとつは、メディアの力というのはものすごく大きいと思っています。ですから、さきほどビジラ
ンテさんもおっしゃっていましたけれども、プレスリリースを一生懸命出して、「これが今トピックスなんだ」
と、「これを取り上げるべきだ」というのを、新聞社、雑誌社といったところにどんどんネタを紹介して、「フ
ェアトレード・ファッションというのが今おしゃれだ」というかたちで雑誌に取り上げてもらう。あるいは、「世
界フェアトレード・デーというのが5月にある」というイベント性で新聞に取り上げてもらう。そうやって自分
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たちでニュースを作るということは非常に努力してきましたけれども、まだまだ改善の余地はあるなと思
っています。
あとはフェアトレードというのは先ほどもお話ししたように商品を介して広がる運動でもあるので、商品の
力がないといけないんですね。ですから、商品をいかに魅力的なものにしていくか、いい商品を作る、売
れる商品を作るという努力に関しては、私たちはフェアトレードでない一般のメーカーや商社以上に努力
しないといけないと思っているんですね。そういった商品開発力と広報、その2つが重要だと思っていま
す。
■大谷さん
私たちは、いのちと食べ物の本当の関係を知って生命力を高める料理を毎日する暮らしによって、いか
に自分の力が高まるかということを本当に実感しているので、本当はもうすべての人に「知らないと損だ
よ!」というかんじで伝えたいというのが本音です。中でも、特に今は自分の体が病気だったり、あるい
はアレルギーだったり、思わぬいろんな問題で悩んでいる人たちが、実は食べ物といのちの関係をちょ
っと知るだけで解決できることがあるんだよということ。あるいは、時代、社会がどうしても破壊型になっ
て行く中で、もうちょっと平和に暮らしたい、何か今とは違う暮らしを望むんだけど一歩どこから出ていい
かわからないという人に、「台所に行っておいしいものを食べるだけで何か変われる方法があるんだよ」
ということを、一人でも多くの人に伝えたいというふうに考えています。
とりわけ最近思うのは、男性に伝えたい。どうしてもお料理というと「女性」というのがあるので、このまま
行くと女性ばっかりどんどん元気になって、男性がどんどん討ち死にしていなくなってしまったんでは、と
ても困ると。だから特に最近は下宿を始めた学生が、やはり男の方はデートしても何でもお金がかかるし、
いろんなやってみたいことも多いから、食べるものを節約して、添加物いっぱいのものだけを毎日食べち
ゃうというのが多いんですね。だから、大学に入って半年目ぐらいで本当に難病になって家に帰っちゃう
という男の子が急増しています。特に腸の病気、クローン病とかが若い男性にすごく激増していると小泉
武夫先生がおっしゃっているんで、私はどちらかというとぜひ男性、一人で暮らし始めた単身赴任の男性
とかに、生理的にこの時代を生き抜くサバイバル術として、ぜひ知ってほしいなと常に思っているんで
す。
雑穀に関しては、私が始めた 22 年前はほとんどの若い人は「それなあに」、あるいはお年寄りは何か
「そんなものは二度と食いたくねえ」とか、あるいは貧しくて大昔の人が我慢して食べた、まずくてぼそぼ
そして栄養のない食べ物というイメージがあったんです。それが、今は「お、雑穀って健康にいいそうだ
ぞ」と言って、ちょっと講演会で話しても、「雑穀を食べたことがない人?」って言うと1人もいないくらいに
なったのです。全くお金のない、小さな団体がやってきた活動としては、まず雑穀を社会に知らせたとい
う意味では、一応全然しらない人はいなくなったので、すごいパワーかなと。ただ、命と食べ物の本当の
関係という意味で、食の大事さを本当に分かるという意味では、まだ 0.01%ぐらいかなと思って、運動とし
てはいよいよ、これからだなと思っています。
もう一つは、本当にこの栄養学を進化させて、関係性の食学というものが今ないと、栄養士さんもみんな
困っているんですね。子どもたちがどんどんアトピーになっていって、これではまずいまずいと思って違う
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食にしようと思うと、栄養計算とルールから外れてしまう。もう本当にいろいろな人の思いがあっても、今
は栄養学というものが全部それを邪魔しているのです。ただ、私は栄養学にもいいところがあるので、栄
養学をなんとか包含し、進化させた形で命の関係性というものをどうしても知ってほしいと強く思っていま
す。
そのために今、一番何が必要かというと、食という命にとって大事なものを変えるには、社会基盤が整備
されない限りは難しいので、今までは個人のために、「ほら、楽しいでしょう、おいしいでしょう」と、「グルメ
をしながら、健康になれて、地球も元気になれるのよ」という感覚論できたんだけれども、やはりそろそろ
具体的に栄養士さんが本当に安心して食を変えられるような一つの学問としたい。そして、私はあるとき、
はっと気がついたんですけど、食品学とか栄養学などはあるんだけれども、「食べるってなあに?」という
大事な視点、「食学」というものが欠如しているのです。できればたくさんの企業の方たちと一緒に、「食
学」を本気で育てていきたいと思っています。何十年も料理と向き合う中から、そんなに添加物などを入
れなくてもおいしいもの、保存性の良いものを作ることができます。実は、日本にはすごい技術があるの
です。今までのように何かついつい足していた発想を転換して、“何もしない”というところから、全く新しく
食品加工をするような概念をぜひ、育てたいです。
そういう視点で成功している小規模なメーカーさんなどが全国にたくさんいるので、その人たちとともに、
マイナスの食品加工研究の技を磨き広めていこうと考えています。社会的影響力のある、大きな、多量
の食品を加工しているようなメーカーさんたちが、このマイナスの食品加工という視点を学び、そして今
までの栄養学を一度頭から忘れていただいて、本当に命にとって、必要な食べ物って何なのか、私たち
の命の未来をつくるために自分たちは食品会社として何をしたらいいのかということを本気で考えてくれ
るようになるのが夢です。
そのために、私はサブリナさんに聞きたいことがあります。それは、18 年前に、レインフォレスト・アライア
ンスができたときに、例えばチキータバナナとか企業とかにどうやって言いにいったのか、どうやったらみ
んながその気になって取り組んでくれたのか、それが今日聞けたら幸せです。
■枝廣
レインフォレスト・アライアンスが最初にできたころは、それほど知られた組織ではなかったと思います。
そういったNGOが企業に行って、一緒にやりましょうと、私たちが認証するから、それを扱ってくださいと
話しに行かれたときに、どういうふうにして、企業の耳を傾けさせることができたのか、どういうふうにコラ
ボレーションを始めることができたのか、そのあたりをサブリナさんにぜひ教えていただければと思いま
す。
■サブリナ
非常によい質問だと思います。ここで一つ興味深いなと思って聞いていたんですが、私たちは一番始め、
農業、バナナで活動を始めました。その最初に始めたときは、全生産者を集めてセミナーを開いたんで
す。小規模、中規模、大規模の生産者に一堂に会していただいて、持続可能なマネジメント管理というの
はどんなものなのか、これからどういうふうに農業のやり方を変えていけばいいのかということをお話しし
ました。
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初めはプレッシャーを与えたわけではなく、あくまでこういうことがあるということに気づいてもらう、私たち
がそこにいて、いつでも手助けできますよということを知ってもらう、こういうサービスを提供していますよ
ということを知ってもらう、それだけにとどめたんです。けれども、少しずつ変わっていきました。一番初め
は大会社、大手の企業は非常にこういう提案について懐疑的でしたし、反発もしました。というのは、大
手の企業であればあるほど、活動家のグループから環境に悪い方法でビジネスをしているという批判を
受けやすかったからなんですね。
数年前、このレインフォレスト・アライアンスで、バナナ業界に対して働きかけを始めた際は、実際にその
農業のやり方は非常にまずいものでした。非常に環境に対して害を与える方法で生産をしていましたし、
それが当時は普通のことだと思われていました。それでよしとされていたんです。けれども、チキータは
まず、そこから1歩を踏み出してきて、レインフォレスト・アライアンスに歩み寄ってきました。
まず、きっかけはというのは、恐らくレインフォレスト・アライアンスのスタッフに対して信頼を深めてくれた
ということ、それから、そばにいて気楽に話せる間柄になったというところが大きかったと思います。あと
もう一つ大きかったのは、レインフォレスト・アライアンスの基準というのは科学に基づいているということ。
そして、非常に具体的であり、かつ検証可能な基準をもっているという点だったと思います。また、レイン
フォレスト・アライアンスは、多くの土地所有者や企業と協力して、サプライチェーン全体を変えていく。今
までの栽培の仕方、農業慣行を変えていこうとしているということを理解してもらえたということも大きかっ
たのではないかと思います。
もちろん、当初チキータと協力し始めたというときは、批判もありました。「あんなにまずいやり方でやって
いるチキータとなぜ協力するんだ」という批判も受けたわけです。ただ、それに対して私たちはチキータと
いうのは、あれだけ大きな存在なので、ここで変えることができれば、そのインパクトも非常に大きくなる
んだということを話しました。そういうふうに実際の取り組みが始まったわけですが、もちろん始めからチ
キータのCEOと話ができたわけではありません。最初に始まったのは、プランテーションの担当者が聞
きつけてきて、それで興味をもったということがありました。というのは、プランテーション担当者が、現場
で何が起こっているのか、農場で何がおこっているのかが一番見える立場にあったからなんです。そこ
から、グリーンの変化が起こってきました。金銭的だけではなく、長期的な資源の保全や、労働者の労働
条件の向上など、いろいろメリットはあると思うんですけれども、そういったプラスの要素を受け入れてく
れて、実際にプログラムに参加してもらえることになり、そこで初めてCEOのところまで話がいきました。
それからは、チキータの会社全体で意識が高まりましたし、理解も深まって、チキータのスタッフもこのプ
ログラムに参加しているということに誇りをもってくれるようになりました。そのことについて、私たち自身
も誇りをもっています。
18 年前は私たちはただの草の根のグループでした。非常に大きな環境団体でもありません。世界中に
130 人のスタッフを抱えてはいますが、そんなに大きな団体ではありませんでした。でも、非常に効率的
に、また効果的に活動をしていっています。こういうふうに私たちの活動は始まりました。
先ほど枝廣さんの話の中に変化の担い手という言葉が出てきましたが、先ほどのバナナの話では、プラ
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ンテーションのマネージャーが変化の担い手だったわけです。プランテーションのマネージャーがまず、
熱意をもって会社の人に話をしていき、それで広まったということがありましたが、これは生産者の規模
によらず、小規模であれ、中規模、大規模であれ、企業の一部でまずそういう動きを起こす人が出てきて、
それがどんどん周りに伝わっていったという経緯をたどっています。例えばある購買担当者が何かそう
いったことを聞きつけて来て、そこから始まっていくというようなこともあるんです。その会社にきちんとし
た基本理念があって、最終的にそのプログラムを受け入れていくということであれば、必ずやはり初めの
人が熱意をもって、周りに伝えていくので、これは伝染するものだと思っています。そこから全社的な取り
組みに変わっていくわけです。
あともう一つお話ししたいのは、ただ単にマーケットシェアを上げたいからだとか、他社との差別化を図り
たいからという理由だけで、こういった取り組みを始めようとする企業は長期的に見ると成功しないという
点です。本当にプログラムの中味を理解して、それを受け入れる、長期的なコミットメントをする、長期的
に努力をしていくという用意がないと、一晩では変わらないものです。例えば、大規模なコーヒーメーカー
がある日突然訪ねてきて、1,000 の店舗に大量のコーヒーが必要なので、今すぐレインフォレスト・アライ
アンスの認証をしてくれと言ってきた場合、それに対してはこちらも根気強く対応して、今これから実際に
開発をしていきますけれども、協力していかないと時間もかかることですよということも話して、そこで、一
緒に協力を始めていくということになると思います。逆に私たちがいくらでも、どんな数量でもいいので、
一晩で供給しますというようなことを言ったら、それはかえって懐疑的に受け止められると思います。とい
うのは、一晩でそれだけ大量のコーヒーを供給しないといけないとなると、農園だとか、農場で本当に認
証が受けられたのか、今までのやり方を変えたのかという問題になってくるからです。ですから、他社と
の差別化ということでプログラムに参加してくる企業は、究極的には成功しないでしょう。
■枝廣
ありがとうございました。あと2時間ぐらい時間があればなあ!と思います。本当にもっとお聞きしたいこ
とがありましたし、会場の皆さんもそれぞれきっとご質問をお持ちだったと思います。きょうは、本当に限
られた時間だったので、ご質問を受けることもできず、申し訳ありませんでした。ぜひ、続きができればと
思っています。いつになるか分かりませんが、またそのとき、よろしかったら続きの議論にぜひご参加く
ださい。今回、このように壇上のパネリストやコーディネータがすべて女性、というのもなかなか珍しい会
でしたね。
***
では、最後に共同代表の多田から、一言ショートコメントをもらって、会を閉めたいと思います。
■多田
皆さん、本当に今日はありがとうございました。大変楽しく、興味深く聞かせていただきました。大谷さん
から少し挑発があったので、10 分ぐらいしゃべりたいんですけど、時間がありませんのでやめます。JFS
は、持続可能性というのを5つの視点で定義しています。今日はその切り口で3つのビジネスモデルを切
るとどうなるかという話をしたかったんです。
サブリナさんのところは熱帯雨林ということで、生物多様性、要するに「多様性」という概念が軸になって
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JFSサステナビリティセミナーNo.5
2005/6/14
いますよね。それから、大谷さんのところは、関係性ということがキーワードで出てきて、これは、私たち
の言葉で言うと「意思とつながり」をもう1回取り戻すというところなんですね。それから、胤森さんのとこ
ろは、これはもう地域間公正という「横(空間)の公平性」みたいなところと、「縦(時間)の公平性」みたい
なところが織りなしています。
私が思ったのは、今日は、「NGOと企業とのコラボレーション」というテーマですけれども、持続可能性と
いうものを見直して、それをそれぞれのモデルの中に埋め込むことで、企業であれ、NGOであれ、新し
い価値の創造のモデルができるんだということです。今日は、私は3つのパターンを聞かせていただいて、
大変楽しく、勉強になってうれしく思いました。
=完=
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