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中・高等学校の技術・家庭科,家庭科の指導と評価に関する研究

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中・高等学校の技術・家庭科,家庭科の指導と評価に関する研究
中・高等学校の技術・家庭科,家庭科の指導と評価に関する研究
―
「家族と家庭生活」領域における実践的・体験的な学習を通して
【研
究
―
者】
教科教育部
指導主事
【研究指導者】
【研究協力員】
永井
理恵
広島大学大学院教育学研究科
安芸高田市立吉田中学校
県立日彰館高等学校
教諭
教諭
田村 博美
伊藤佐和子
教 授
柴
静子
府中市立第二中学校
県立広島井口高等学校
教諭
教諭
篠原 晶子
長谷中久美
研究の要約
学習指導要領の改訂に伴い,家庭科では実践的・体験的な学習を一層重視すること,社会の変化
に対応して家庭の在り方や家族の人間関係,子育ての意義などの内容を一層重視することが求めら
れている 。そこで本研究は ,文献研究や研究協力校の実践から明らかになった成果と課題を踏まえ ,
「家族と家庭生活」領域における実践的・体験的な学習を取り入れた指導と評価について提言し,
今後の家庭科教育の充実と発展に資することをねらいとした。
指導と評価の一体化に視点を据えた文献研究から,評価においては自己評価を生かすこと,指導
においては目標類型に応じた学習目標を設定し,適切な実践的・体験的な学習活動を取り入れるこ
とが重要であることが分かった。
実践研究としては,中学校で保育実習とロールプレイング,高等学校でロールプレイングとホー
ムプロジェクトに関する研究授業を行い,指導と評価の改善を試みた。実践の分析を通して,目標
分析と生徒の実態に応じた柔軟な実践的・体験的な学習活動の工夫により,授業改善が可能である
ことが明らかとなった。
キーワード: 家族と家庭生活
目
目標類型
次
はじめに
Ⅰ 研究の概要
Ⅱ 研究の基本的な考え方
Ⅲ 研究協力校における授業実践と分析,考
察
Ⅳ 実践的・体験的な学習を取り入れた指導
と評価の在り方についての提言
おわりに
161
162
162
165
179
180
はじめに
家庭科教育は小学校,中学校,高等学校での系
統的な学習を通して,家庭生活を創造する能力と
態度の育成を目指している。具体的には,学習対
象である家庭生活や地域の生活において課題を見
いだし,解決方法を考え,計画を立てて実践でき
実践的・体験的な学習
るようになることを意味している。
中央教育審議会答申で提唱された「生きる力」
のとらえには ,
「 自分で課題を見付け ,自ら学び ,
自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問
題を解決する資質や能力」が含まれる。この「生
きる力」は前述のとおり,家庭科教育において従
来から求めてきた目標と重ねることができる。
家庭科教育で追求する「生きる力」について,
赤崎眞弓(2000)は「毎日の生活活動における価値
意識形成」が重要視されるべきであると述べてい
る 。「 ひと ,も の , こと 」 を 学 習対 象 と す る家庭
科では,科学的な知識・理解や基礎的・基本的な
生活技術の習得とともに ,生活観や価値観の形成 ,
意思決定能力の育成が必要である。そのために,
家庭科の学習指導では実践的・体験的な学習活動
を中心とし,学習したことが児童生徒各自の生活
の場で生かせるようにするとともに,ゆとりをも
- 161 -
って問題解決的な学習に取り組ませるなど,意図
的・計画的な授業の設計が必要とされている。昨
今では指導計画と同時に,学習のねらいをどの程
度達成できたかをみとるための評価計画を立てる
など,より効果的な学習指導の研究がなされてい
るところである。
Ⅰ
1
研究の目的
(2) 研究の方法
○
○
文献研究
実践研究
Ⅱ
研究の基本的な考え方
1
指導と評価についての基本的な考え方
(1) 指導と評価の一体化について
研究の内容と方法
(1) 研究の内容
○
○
中学校及び高等学校での授業実践による研究
授業実践の分析と考察
研究の概要
教育課程審議会の答申では,家庭科の改善の基
本方針として,実践的・体験的な学習を一層重視
すること,社会の変化に対応して家庭の在り方や
家族の人間関係,子育ての意義などの内容を一層
重視することが示された。
中学校の学習指導要領解説技術・家庭編に ,「B
家族と家庭生活」の学習内容では「実習や観察,
ロールプレイングなどの学習活動を中心とするよ
う留意する」とある。また,高等学校普通教科家
庭では,家庭の機能は「家族員それぞれの協力に
より果たされることを理解させる」とあり,具体
的な事例や演習を通して考えさせたり,話合いや
調査・研究を取り入れたりするなど,生徒が主体
的 に 取 り組 む 学 習活 動 の 工 夫が 求 め られ て い る。
これまで実践的・体験的な学習活動を取り入れ
た授業実践は多くなされてきたが,指導と評価の
一体化の視点をもった実践研究はあまりなされて
こなかったという現状がある。また学校では,実
践的・体験的な学習活動を取り入れはするもの
の,その評価について課題意識をもちながらも,
具体的な改善がなされないままに過ぎてきた観が
ある。
そ こ で ,「家 族 と 家 庭 生 活 」領 域 に おけ る 実 践
的 ・体 験 的 な 学 習 を取 り 入 れ た指 導 と 評価 に つ い
て,中学校と高等学校で実践研究を行い,その成
果と課題を踏まえた提言を試みることにより,今
後の家庭科教育の充実と発展に資することをねら
いとした。
2
○
○
指導と評価に関する研究
「家族と家庭生活」領域の学習指導に関する
研究
○ 実践的・体験的な学習に関する研究
近年,指導と評価の一体化については研究が多
くなされ,学校の研究主題に据えて取り組むとこ
ろも増えている。評価の意義について,梶田叡一
(1994)は学習者,教師及び教育を管理運営するも
のの三者においてそれぞれの意義があると唱えて
いる。そのうち,本研究は学習者と教師における
評価について研究を行う。まず,学習者における
評価として自己評価の在り方について研究し,自
ら学習を振り返るようにする。教師における評価
については ,学習目標の明確化 ,実現状況の把握 ,
実現に向けての手だてについて研究し,指導の改
善に生かすことができるようにする。
このように,本研究では指導と評価の一体化を
図ることを重視し,授業実践を踏まえた研究を行
うこととする。
(2) 自己評価について
梶田(1994)は,教師における評価がいかに適切
であろうと,一学期に数回は生徒自身がきちんと
自己評価をする機会を設定することが重要である
と述べている (1)。自己評価に関しては,日台利夫
(1994)が 指摘 して いる と おり ,「子ども たちの学
習ぶりはどうだったかを指導者が知るための手だ
てとしての自己評価」にとどまっていてはならな
い 。 本来 の 意 義 であ る ,「 子ど もが 自 ら , 自分自
身の力で,これからの自分の学習の仕方や行動を
変えていくため」(日台1994)に行われ,指導に生
かす手段として,自己評価が取り入れられるべき
である。
自己評価の方法について,安彦忠彦(1997)はチ
ェックリスト法と文章記述法の二つをあげてい
る 。鶴 田敦 子(2001)は ,「家族や 家庭生 活」領域
の評価における自己評価の有効性を述べ,単純な
三段階での評価ではなく,子ども自身の言葉で語
るような方法を取り入れることを提唱している。
また,奈須正裕(1998)は,単に手続きとして「振
- 162 -
(1) 家庭科の改訂の趣旨
り返りカード」に○印を付けたり,反省を書いた
りするだけでは教育的効果は期待できず,同様の
自己評価カードでも,児童生徒自身が学習過程や
成果のどのような視点に注目し,振り返り,価値
付ければよいかが分かるような観点を表すことが
重要であると述べている。
これらのことから,学習者における評価におい
ては,記述形式による自己評価を取り入れた実践
と,振り返りの視点を明示した自己評価票を取り
入れた実践を行うこととした。
平成10年7月の教育課程審議会答申の中で,小
学校から高等学校の家庭科の改善の基本方針が4
点示された 。その一つに社会の変化を考慮して「 家
庭の在り方や家族の人間関係,子育ての意義など
の 内 容を 一 層 充 実す る 。」 とあ る。 家 庭 科 では衣
食住や消費生活と環境など,他の領域も生活の自
立・創造には欠かせないが,新しく改訂された学
習指導要領では「家族と家庭生活」領域に大きな
変化が見られる。詳しくは次の項で述べる。
(3) 学習の目標について
(2) 「家族と家庭生活」領域とは
指導に生かす教師による評価を行うためには,
まず適切な学習目標の設定が必要である。目標に
は表1のように三つの類型が考えられる。
家庭科の場合,触れ合い活動や学校家庭クラブ
活動など ,到達性をすぐには評価できなかったり ,
具体の到達目標によって確かめることができなか
ったりする学習があると考える。ホームプロジェ
クトも問題解決能力を育てることがねらいであ
り,一度の取組みで生徒全員が基礎・基本として
その力を身に付けることは難しい。したがって,
授業中や題材末に行う評価は,向上目標や体験目
標にそった学習活動を行うことができたかどうか
を判断したり,活動を通して身に付けさせる下位
目標(具体の達成目標)を設定し到達度をはかっ
たりするなど工夫が必要となる。
以上の文献研究を踏まえ,三つの目標類型を見
極めた学習目標の設定と,自己評価の工夫改善を
行い,指導と評価の一体化を図った実践研究を行
うこととした。
具体の目標類型の例は表4(c)に,自己評価
の例は表4(d)に示す。
表2は中学校技術・家庭の家庭分野と高等学校
普通教科家庭の家庭基礎の項目である。本研究で
扱う「家族と家庭生活」領域を太字で示した。
2
「家族と家庭生活」領域を取り扱う基
本的な考え方
領
域
到
達
性
表2 技術・家庭(家庭分野)と家庭基礎の学習項目
【技術・家庭(家庭分野)】(注)太字は筆者による
A生活の自立と衣食住
(1)∼(6)省略
B家族と家庭生活
(1) 自分の成長と家族や家庭生活
(2) 幼児の発達と家族
(3) 家庭と家族関係
(4)家庭生活と消費
(5) 幼児の生活と幼児との触れ合い
(6) 家庭生活と地域とのかかわり
【家庭基礎】
(1) 人の一生と家族・福祉
ア 生涯発達と家族
イ 乳幼児の発達と保育・福祉
ウ 高齢者の生活と福祉
(2)家族の生活と健康
(3)消費生活と環境
(4) ホームプロジェクトと学校家庭クラブ
中学 校で はB (1)を 導入 と して B(2)(3)の学習
を相互に関連付けながら指導することとされ,子
どもが育つ環境としての家庭や家族の人間関係に
ついて考えることを通して,家庭や家族の基本的
な機能や重要性を理解させるよう工夫された。す
なわち,従前の「保育」と「家庭生活」領域を一
表1 目標類型と目標領域の観点から代表的目標の分類例 ( 梶田叡一2002)
目標類型
達成目標
向上目標
体験目標
認知的領域
・知識 ・理解 等
・論理的指導力 ・創造性 等 ・発見 等
情意的領域
・興味 ・関心 等
・態度 ・価値観 等
・触れ合い ・感動 等
精神運動的領域
・技能 ・技術 等
・練達 等
・技術的達成 等
到 達 性 確 認 の 基 本 視 ・目標として規定されてい ・ 目 標 と し て 規 定 さ れ て い る 方 ・目標として規定されてい
点
る通りにできるようになっ 向への向上が見られるかどうか る体験が生じたかどうか
たかどうか
目標到達性の性格
・特定の教育活動の直接的 ・ 多 様 な 教 育 活 動 の 複 合 的 総 合 ・教育活動に内在する特定
な成果
的な成果
の経験
到 達 性 確 認 に 適 し た ・授業中 ・単元末 ・学 ・学期末,学年末
・授業中 ・単元末
時期
期末,学年末
(注)下線は筆者による
- 163 -
体化させている。
高等学校では高齢者に関する学習も加わり,家
族や生活の営みを人の一生とのかかわりの中で総
合的にとらえるよう工夫された 。このように ,
「家
族と家庭生活」領域は新しい展開を望まれながら
新学習指導要領に位置付けられている。
また,ホームプロジェクトは普通教科家庭の3
科目に共通する項目である。生徒が各自の家庭生
活の中から課題を見いだし,課題解決を目指して
主体的に活動する問題解決的な学習活動であり,
計 画(Plan ),実践( Do ), 反省・ 評価 (See)の
流れに基づいて実施される。ホームプロジェクト
の実践により,家庭科で習得した知識や技術をよ
り一層定着,総合化させ,問題解決能力と実践的
な態度を育てることをねらいとしている。家庭生
活と結び付けて課題を見いだしたり,解決する場
が 家 庭 生活 で あ った り す る こと か ら ,「 家族と 家
庭生活」領域を抜きには展開できない。
このことから ,本研究で扱う「 家族と家庭生活 」
領域を家族・家庭生活に関する学習の他に乳幼児 ・
高齢者に関する学習を含めた広い意味でとらえる
こととし,それに高等学校のホームプロジェクト
を加えた領域と定義する。
具体の学習項目の例は表4(a)に示す。
(3) 「家族と家庭生活」領域の指導について
「家族と家庭生活」領域の学習の充実が求めら
れる一方で,この領域の指導については課題も多
くあげられている。
第一に,中間美砂子(1992)は家庭生活の主体と
しての家族の変動が著しい点をあげ,構成,機能
とも多様化してきており,家族をどう指導するか
が新たな課題となってきていると指摘している。
第二に,この領域は個人の生き方にかかわる内
容であり,様々な因子がからんで指導が難しいと
される点である。今現在,生徒は固有の家族(生
まれた家族)に所属し,それぞれの家族は様々な
問題を抱えており,子ども自身が家族問題に悩ん
でいる場合もある。逆に澤井セイ子(1998)は「家
族や家庭生活は人間にとって基本的であると同時
に最も身近で日常的な存在であるために当然のこ
ととして深く考えたり強く意識したりすることは
あまりなく」過ごしていることを指摘している。
しかし,朴木佳緒留(1996)は社会の変化や生ま
れ た 家 族な ど の 現実 に 対 応 し ,「 現に あ る 家族 を
変えていく力,すなわちよりよく生きていく力を
育むこと」が必要であると述べている。そのため
には「意図的な『家族』学習」が重要であり,価
値の善し悪しや心がけを教えるのではなく,いく
つかの価値についてそれが適切かを生徒自身が考
え,将来,自らが選び取る価値を定める力を付け
る教育をすべきであると述べている。
こ のよ う に ,「 家族と 家 庭 生 活」 領 域 の 指導に
は配慮すべき点が多い。それゆえに指導者は,生
徒に将来の展望を抱かせるとともに今を生きる価
値を感じさせることができる学習について,実践
交流や実践研究を大いに進める必要があると考え
る。
3
実践的・体験的な学習についての基本
的な考え方
(1) 実践的・体験的な学習の重要性
中央教育審議会第二次答申の第1章には,様々
な生活体験や自然体験,更には社会体験やボラン
ティア体験などの豊かな体験を通して,子どもた
ちが試行錯誤を繰り返し ,興味・関心を触発され ,
生活や社会,自然の在り方を学んだり,人間とし
ての在り方や生き方をじっくりと内省したりする
過程を経ることで,机上で学んだ知識を生きたも
のとし,生きる力の育成とともに豊かな個性をは
ぐくんでいけると述べられている。
瀬戸真(1990)は自己実現と体験を結び付け,そ
の教育的意義について述べている。体験は学習者
の全人格的なかかわりをもって行われ,行為の主
体者として,そこで行われることすべてに一人の
人間として責任をもつことになることであり,ま
さに「自ら学ぶ意欲をもち」という教育課程審議
会答申の趣旨が含まれているとしている。また,
体験を含めた豊かな学習がその後の学習をより充
実させることも加えている。さらに,学校教育で
は,将来の自己実現のための準備としてだけでな
く,現在における自己実現も同様に期待できると
述べている。要するに実践的・体験的な学習を通
して,自己を「人間として価値あり」と自覚でき
る状況を生みだし,そのことから自己実現を図る
ことによって,将来設計を豊かにすることができ
るのである。
このように,実践的・体験的な学習は,生きる
力や豊かな個性を育て,現在及び将来の自己実現
を図ることができることから,特別活動や総合的
- 164 -
な学習のみならず,教科学習の授業設計において
も大いに取り入れられる必要がある。
(2) 技術・家庭科,家庭科における実践的・体
験的な学習とは
中学校技術・家庭の家庭分野の目標は「実践的 ・
体験的な学習活動を通して」という文言から始め
られており,これを通してこそ学習のねらいが達
成できるとされている。具体的には,理論や考え
方のみの学習に終わることなく,実習や調査など
を取り入れ,学習した知識や技術を生徒自らの生
活に生かすことを重視している。
また,高等学校普通教科家庭では,指導計画の
作成に当たって,総授業時数の10分の5以上を実
験・実習に配当するようにされている。ここでい
う実験・実習には,調査・研究,観察・見学,就
業体験,乳幼児や高齢者との触れ合いや交流活動
などの学習活動が含まれている。
そこで,本研究における実践的・体験的な学習
とは,家庭科教育で取り入れられる実験・実習,
調査・研究,観察・見学,疑似体験,就業体験,
触れ合い活動,ホームプロジェクトなど,広範な
学習活動を取り入れた学習と定義する。
(3) 「家族と家庭生活」領域における実践的・
体験的な学習の取組み状況について
平成9年度全国家庭科教育協会の調査から,中 ・
高 等 学 校で の 「 家庭 の 機 能 」「家 族関 係 」 の指 導
において取り入れられている学習方法を表3に示
した。
表3
中・高等学校に取り入れられている学習方法( % )
学習方法
中学校
高等学校
課題研究・発表
23.7
8.4
討論法
10.0
3.6
ケーススタディ(事例研究)
3.9
5.2
ロールプレイング( 役割演技 )
18.2
5.5
シミュレーション( 疑似体験 )
1.8
0
実践交流
0
1.2
中学校においては課題研究や発表,ロールプレ
イングなど,実践的・体験的な学習活動の取り入
れを工夫していることが分かる。一方,高等学校
はいずれの学習方法も実施率は低く,この領域の
学習が一方的な講義で終わっている可能性が高い
ことが示唆される。
家 庭 科に 関 す る教 育 雑 誌 2誌 (「 家庭 科 教育 」
「 家 庭 科研 究 」) の平 成13年か ら 現在 に至 る「 家
族と家庭生活」領域の研究事例を調べたところ,
中学校6例,高等学校13例の報告があった。いず
れも指導方法や教材の研究にとどまり,指導と一
体化した評価の在り方についての研究は十分なも
のになっていなかった。
以 上の 文 献 研 究を 踏 ま え ,「 家族 と 家 庭 生活」
領域において適切な実践的・体験的な学習活動を
取り入れ,指導の改善を図った実践研究を行うこ
ととした。
実践的・体験的な学習活動の具体例は表4( b )
に示す。
4
ホームプロジェクトの指導について
高等学校家庭科の学習を基盤として,実際に家
庭生活の課題を解決し,問題解決能力を育てるこ
とを特徴とするホームプロジェクトは,まさに生
きる力を育成するにふさわしい学習方法であり,
戦後の教育改革時に取り入れられて以来変わらず
取り組まれ,家庭科の独自性を示すものである。
したがって,その重要性を理解した上での実践的
な研究が求められる。しかし,ホームプロジェク
トの実施に関する調査等は多く行われているにも
かかわらず,具体的な取り組み方や進め方そのも
のに関する研究はごくわずかで (2),指導者の力量
を高めることに役立つ実践交流の機会が少ないの
が現状である。また,生徒の主体的な活動の時間
確保のために,ホームプロジェクトを夏休みの課
題とする学校が多く,適切な指導・支援を十分に
行うことができないままに,ホームプロジェクト
をやらせっぱなしにしている場合が多い。
そこで,本研究ではホームプロジェクトの学習
過 程 であ る計 画( Plan) と反 省・ 評価 ( See)の
過程で指導の改善を行い,問題解決能力を育てる
場面を多様に設定する工夫を行うことにした。
Ⅲ
研究協力校における授業実践と分
析,考察
文献研究を踏まえ,研究協力校による授業実践
を行った。まず,研究協力校における「家族と家
庭生活」領域の指導と評価の課題を把握し,学校
や生徒の実態に応じて,学習項目,学習活動,目
標類型と評価規準,評価方法などを検討し,表4
に示す研究計画を作成した。
なお,いずれの実践においても共通した取組み
は次のとおりである。
○ 指導計画と同時に評価計画を立て,指導と評
- 165 -
研究協力校
学習指 実践的・体
導要領 験的な学習
の項目 活動(b)
(a)
授業実践による研究計画
評
規
準
体験
目標
向上
目標
価の一体化を図った展開を行う。
題材及び本時について,観点別学習状況の評
価規準を設定し,これを「おおむね満足できる
( B )」と 判断 さ れ る状 況 の 判 断基 準 と した 。
ま た ,「 十 分 満 足 で き る ( A )」 と 判 断 さ れ る
状況についても具体的に基準を設けた。
○ あらかじめ評価場面,評価方法を明確にし,
「おおむね満足できる」状況に至っていない生
徒(C)への手だてを計画しておく。
○
1
価
対象児の発達に応じたかかわり方を工夫し,適切な
かかわりをもつことができる。
自分の成長は多くの人に支えられてきたことに気付
き,親をはじめとする家族の思いをくみ取ることが
できるようになる。
B( 3 ) ロ ー ル プ レ 向 上 家族関係をよりよくする方法を自分なりに考え,自
イング
目標 分の家庭生活の改善に努力しようとする。
家 庭 基 ロ ー ル プ レ 達 成 家族や家庭生活について関心が広がる。
礎( 1 ) イング
目標
家 庭 基 ホ ー ム プ ロ 向 上 自分の実践を振り返り,改善策を見いだすことがで
礎( 4 ) ジェクト
目標 きる。
安芸高田市
立 吉 田 中 学 B( 5 ) 保育実習
校
府中市立第
二中学校
県立日彰館
高等学校
県立広島井
口高等学校
表4
目 標
類 型
( c)
中学校における「家族と家庭生活」領
域の指導
実践事例1
【手作りおもちゃの製作と保育実習を家族
の学習へと結び付けた指導例】
実 践 校
教科・科目
実 施 対 象
題
材
安芸高田市立吉田中学校
技術・家庭(家庭分野)
第3学年 生徒数109名
「 幼 児の 生 活 と幼 児 との 触
れ合い 」(全8時間)
(1) 題材について
○ 題材観,生徒観
自 己 評 価
(d)
視点を明示
した評価票
記述形式の
自己評価
視点を明示
した評価票
視点を明示
した評価票
視点を明示
した評価票
本題材は,生徒が幼児の生活に関心をもち,課
題をもって幼児の生活に役立つものを作り,一緒
に遊ぶなどの触れ合い体験を通して,幼児への理
解と関心を高めるとともに,幼児と適切にかかわ
ることができるようにすることをねらいとしてい
る。今回の保育実習では,自分たちの作ったおも
ちゃで幼児と一緒に遊び,触れ合う中で,幼児に
応じたかかわり方を工夫し,幼児と適切にかかわ
ることができることを目標とした。さらに,幼児
が育つ環境としての家族の役割を知り,自分の成
長と家族や家庭生活とのかかわりについて考えさ
せるようつなげたい。
本校生徒は,毎年3年生になると保育実習を行
っており,1・2年生の頃からおもちゃ作りや幼
児との触れ合いを楽しみにしている。一方で,意
欲の高まりが十分でない生徒がおり,実態に応じ
た支援が必要である。
○ 指導観
指導に当たっては,幼児の観察やおもちゃの製
作を通して,幼児の遊びの意義について考えられ
るよう,事前に観察項目を提示し,それを意識し
ながら実習できるように支援していく。
(2) 授業改善について
指導と評価の工夫を表5に示す。
表5
指
指導と評価の工夫
導
の 工 夫
指導の具体
成果と課題(○成果,●課題)
従 ① 事 前 に V T R 「 さ く ら ん ぼ 坊 や 」 を ○幼児の反応をイメージすることができる。
来 視聴し,感想をまとめさせる。
●心身の発達に応じた遊びや遊び方について,生徒に十分意
の
識させきれていない。
取 ② 既 習 の 内 容 に 基 づ き , 幼 児 の 喜 ぶ お ●授業時間内に何を作っていいか決まらない生徒がいる。
組 もちゃを考え,計画書(製作記録表)
み を作成させる。
指導の具体
改善のねらい
① 題 材 の 最 初 の 授 業 で , 自 分 が 生 ま れ ○子どもが育つ環境としての家庭,地域について関心をもた
- 166 -
研
究
実
践
従
来
の
取
組
み
研
究
実
践
て今日までかかわりのあった人の人数
を数えさせる。
② 事前に昨年度の保育実習と「さくら ん
ぼ坊や」のVTRを視聴し,心身の発
達に応じた遊びや遊び方についてま
とめさせる。
③既習の内容に基づき,幼児の喜ぶお
もちゃを考え,計画書(製作記録表)
を作成することを夏休みの課題とする 。
せ,自分の成長と家族や家庭生活のかかわりについて見つめ
させる。
○心身の発達に応じた遊びや遊び方について,具体的に知る
ことができる。
○泣いたからと言って甘えさせるだけではなく,できる力が
付けば自分でやらせきる保育士の支援の仕方を理解させる。
○時間を有効に活用することができる。
○1時間の授業では,考えられない・思いつかないようなお
もちゃを調べてくる。
○おもちゃ作りの授業に入る時点で,構想等の進度をそろえ
ることができる。
④ 保 育 実 習 の ワ ー ク シ ー ト に , 友 達 の ○友達の行動を見ることを意識付け,具体的な例として受け
よい取組みを認め合う項目を入れる。
止めさせ,積極的なかかわりを促すことができる。
評 価 の 工 夫
評価の具体
成果と課題(○成果,●課題)
① 保 育 実 習 直 後 に , 幼 児 と の か か わ り ●ワークシートの内容に,製作したおもちゃを具体的にどの
についてワークシートにまとめさせる 。 ように幼児へ提示したかを問う項目がない。
●総括的評価に終る。
② 保 育 実 習 を 終 え て , 実 習 の 感 想 を ま ○視点を明確にするために「幼児 」「おもちゃ 」「成長」とい
とめさせる。
う三つの言葉を必ず入れて書くように指示していたので,そ
れらを絡めた感想が書かれていた。
●客観的に読みとり,評価することが難しい。
●教師や保育士の見取りでは,しっかり幼児とかかわってい
た生徒でも,十分に感想を書けない生徒もいる。
評価の具体
改善のねらい
① 保 育 実 習 の 事 前 ・ 事 後 に , お も ち ゃ ○指導者は,実習の様子を把握し,事前・事後の変容をみと
を 通 し て , ど の よ う に 幼 児 と か か わ る ることができる。
か を 考 え さ せ る ( か か わ っ た か を 振 り ○ワークシートに自己評価項目を入れることによって,生徒
返らせる)よう,自己評価させる。
に学習目標を意識させることができる。
○製作したおもちゃを介して,幼児の発達の特性に応じた話
し方や接し方を工夫させることができる。
② 実 習 直 後 に 「 実 習 を 終 え て 」 の ア ン ○生徒が保育実習を通して,体験目標を達成することができ
ケート ,日にちをおいて「 感謝の言葉 」 たかを把握する。
をまとめさせる。
○「感謝の言葉」をつづることで,これまでの自分を振り返
り,お世話になった人を思いおこさせながら,自分が温かく
見守られてきたことを振り返ることができたかを把握する。
(3) 題材の目標と指導計画
題材の目標と指導計画は次のとおりである。
目標
指導計画(全8時間)
(1)幼児の生活に関心をもち,対象児に合った
生活習慣はどのようにして身に付くのだろう( 1時間 )
おもちゃを作ることができる。
幼児の遊びとおもちゃのかかわりについて考えよう
(2)幼児の心身の発達に応じて,幼児との触れ (2時間)
合いやかかわり方の工夫ができる。
幼児の喜ぶおもちゃを作ろう(2時間)
(3)幼児との触れ合いを通して,自分の成長に
幼児と手作りおもちゃで遊ぼう(2時間 本時)
かかわってきた人々や思いに気付くことが
幼児との触れ合いを振り返ろう(1時間)
できる。
(4) 本時の展開
本時の評価と学習展開を表6に示す。なお,評
価 規 準 はお お む ね満 足 で き る状 況 を 示し ,[ A]
表6
は 十 分に 満 足 で きる 状 況 とす る 。( 以下 3 事例と
も同じ)
本時の評価と学習展開
評価規準と評価方法
生 活 や 技 術 へ 保育実習に集中して取り組み,幼児と適切にかかわるための課題を見付けようとしてい
の関心・意欲 ・ る 。(自己評価票,行動観察)
態度
[A]事前に幼児と適切にかかわるための課題を見付け,シミュレーションや保育実習
に積極的に取り組んでいる。
生 活 を 工 夫 し 対象児の心身の発達に応じて,幼児とのかかわり方を工夫している 。(自己評価票,行動
創造する能力 観察)
[A]教師や保育士のアドバイスや他の生徒の行動を参考に,対象児とかかわる方法を
工夫している。
生活の技能
安全に配慮しながら対象児と適切にかかわることができる 。(アンケート,行動観察)
[A]他の生徒や対象児以外の幼児の安全にも配慮しながら,対象児と適切にかかわる
- 167 -
ことができる。
生 活 や 技 術 に 幼児と触れ合いながら,幼児の発達について既習事項の理解を深める 。(定期考査のペー
つ い て の 知 識 パーテスト)
・理解
[A]実際の対象児の様子と幼児の発達を結び付け,具体的に理解することができる。
学 習 展 開
学習活動
指導上の留意事項
・自分の製作したおもちゃで遊ぶこと
導 を通して,幼児と適切にかかわろう。
入 ・具体的な声かけを各グループでシミ
ュレーションする。
・おもちゃを持って,幼稚園・保育所
を訪問する。
展 ・幼児と触れ合う。
開 ・グループの人のかかわり方をみて学
ぶ。
ま ・本時の目標にてらして学習を振り返
る。
と
め
評価規準
努力を要する状況と判断した生徒
への手だて
○ 本 時 の 学 習 課 【関心】
題を提示する。
考えられない生徒に対しては,
前に見たVTRを思いおこさせ
る。
○ 安 全 面 に は 十 【関心】
分配慮する。
【創意・
工夫】
【技能】
幼児とかかわれない生徒に対し
ては,グループで出ていた具体
的な声かけを思い出させたり,
教師や保育士が近づいて支援し
たりする。
○ 本 時 の 目 標 【 知 識 ・ 対象児を思いおこさせ,幼児の
を 確 認 し , 自 己 理解】
発達について補充学習を行う。
評価をまとめさ
せる。
(5) 授業を終えて
今年度の保育実習は,年度当初から不安がたく
さんあった。昨年度までと比較して,題材前の実
態 調査 では プラ ス の反 応(「 楽しみ である 。」「早
く 行 き たい 。」 など ) が少 な く , むし ろ , マイ ナ
ス の反 応(「 行かな くて はい けない のか 。」「自分
は 小 さ い 子 が 苦 手 。」) が 多 か っ た 。 し か し な が
ら,保育実習中は普段の授業からは想像しがたい
表情,行動が数多く見られ,生徒同士もお互いの
良さを認めるような発言が随所にみられた。これ
は,事前の自己評価で自分の製作したおもちゃに
ついて振り返り,自信をもって幼児に対応できた
ことと,ワークシートで具体的な声かけなどを考
えていたためと考えられる。また,ワークシート
に相互に見合う項目を取り入れたことにより,生
徒自身がお互いを意識し,相乗効果としてより積
極的な行動をしたのではないかと考えられる。
(1) 題材について
○ 題材観,生徒観
思春期にある中学3年生の生徒たちは,親離れ
しようとする気持ちと親に頼りたいという気持ち
の間を揺れ動いている。その不安定な気持ちに自
分の進路についての不安が加わり,親や家族への
攻撃的な態度をとることもある。自分の気持ちを
しっかり親に話したり,自分なりに家族関係をよ
りよくするにはどうしたらよいか考え実行したり
するなど,実生活に生かす実践的な態度を育てた
い。また,地域とのかかわりが希薄になっている
といわれている現在,自分が住んでいる地域を知
り,家庭生活が地域の人々によって支えられてい
る実感をもたせたい。
○ 指導観
指導に当たっては,平均的な家族とか,よい家
族などの形をきめてしまうことがないよう,自分
自身の家族関係や社会の中の様々な家族関係,家
庭での役割分担について,資料やロールプレイン
グを通して考えさせたい。現代社会では家庭の状
況は様々で,人々の家族に対する考え方も多様化
している。正解はなくてよいのであり,生徒一人
一人の考えを大切にしていきたい。
(2) 授業改善について
指導と評価の工夫を表7に示す。
実践事例2
【ロールプレイングを取り入れた指導例】
実 践 校
教科・科目
実 施 対 象
題
材
府中市立第二中学校
技術・家庭(家庭分野)
第3学年 生徒数68名
「 わたしたちと家族 ,地域 」
(全6時間)
表7
従
来
の
取
指導と評価の工夫
指 導
指導の具体
①あらかじめ指導者が設定した場面について,
自分たちで考えたシナリオによるロールプレ
イングを行う。
②ロールプレイングは題材の導入部分に入れ,
の
工
夫
成果と課題(○成果,●課題)
○授業時間が少なくて済んだ。
●生徒に実感をもたせるには至らなかった。
●演じる生徒によって効果がまちまちであった。
- 168 -
組 興味・関心を高めるために利用する。
み ③ロールプレイングの発表後,自分だったら
どうするかを考えさせたり,感想を書かせた
りする。
指導の具体
①ロールプレイングの課題も場面も生徒に考
研 えさせ,身近な家庭生活にありそうな設定で
シナリオを作らせる。
究 ②ロールプレイングを題材の半ばに取り入れ,
学習のまとめ,発表に利用する。
実
③ロールプレイングの発表を途中で止めて,
践 自分だったらどうするかを考えさせる。
④発表の続きを見させた後,その内容につい
て,その都度感想を書かせる。
●ロールプレイングが終わってからなので,自分なり
の考えや思いを十分に考えさせることができなかっ
た。
改善のねらい
○いろいろな家族関係の設定をすることで,自分に近
づけて考えさせる。
○資料収集やロールプレイングの発表などを通して,
家族や家庭の基本的な機能の基礎的・基本的な知識・
理解を深める。
○個人の家族関係の考えをよりしっかり出させるよう
にした。
評 価 の 工 夫
評価の具体
成果と課題(○成果,●課題)
従 ① 発 表 を 見 た 感 想 や 自 分 な り に 家 族 関 係 を よ ○自分たちで主体的に発表原稿を作ったり,感想を発
来 りよくするための工夫を考えさせる。
表したりして家族の人間関係について考えることがで
の
きた。
取 ②指導者は,各班での話合いや発表での様子, ●各班の人間関係や文章構成力のある生徒がいるかい
組 提出されたワークシートを総合して評価する。 ないかで発表内容が違い,個人の評価が難しい。
み
評価の具体
改善のねらい
①
評
価
の
判
断
基
準
を
設
定
し
て
か
ら
授
業
を
展
開
○判断基準をあらかじめ設定することで,評価がより
研
客観的にできる。
究 する。
②
収
集
し
た
資
料
を
提
出
さ
せ
た
り
,
家
族
に
対
す
○事前・事後アンケートや自分ならどうするかを記入
実
践 る 意 識 の 事 前 ・ 事 後 ア ン ケ ー ト , ロ ー ル プ レ したワークシートで,個々の学習状況を把握できる。
イングのシナリオ,ワークシートなど多様な
評価方法を取り入れる。
(3) 題材の目標と指導計画
題材の目標と指導計画は次のとおりである。
目標
(1)家庭や家族の基本的な機能を知り,家族関係をよ
りよくする方法を考えることができる。
(2)家庭生活は地域の人々に支えられていることが分
かる。
指導計画(全6時間)
よりよい家族関係を考えよう(4時間 本時
2/4)
家庭と地域とのかかわりを考えよう( 2時間 )
(4) 本時の展開
本時の評価と学習展開を表8に示す。
表8
生活や技
術への関
心・意欲 ・
態度
生活を工
夫し創造
する能力
生活の技
能
本時の評価と学習展開
評価規準と評価方法
①ロールプレイングの事例をもとに,家族の立場や役割を理解しようとしている 。(自己評価
票,行動観察)
②家族の一員として自分のできることを見付けようとしている 。(自己評価票)
[A] ロールプレイングの事例をもとに,家族の立場や役割を理解し,自分とのかかわりを見
直そうとしている。
[A] 家族の一員として自分のできることを見付け,実践しようとしている。
①家庭と家族関係について見直し,課題を見付けている 。(ロールプレイングのシナリオ)
②家族関係をよりよくする方法を自分なりに考え,工夫する 。(ワークシート)
[A] 家庭と家族関係について見直し,家族の立場や役割に着目して課題を見付けている。
[A]家族関係をよりよくする方法を自分なりに考え工夫するとともに,具体的な行動を考え
ることができる。
①家庭と家族関係について調べたり発表したりすることができる 。(ロールプレイングの様子)
[ A ]家庭と家族関係について ,積極的に調べたり分かりやすく発表したりすることができる 。
学
学習活動
習
展
開
指導上の留意事項
・前時の学習を思い出そう。
○本時の学習課題を
導 ・最近の家族に関する問題には様々な要 提示する。
入 因がからんでいる。その中で家族関係,
特に家族の思いを知ることについて,自
分なりにどう解決・実践できるか考えよ
- 169 -
評価規準 努 力 を 要 す る 状 況 と 判 断 し
た生徒への手だて
事前にシナリオを提出さ
せ,指導する。
展
開
ま
と
め
う。
・家族の間でおこったトラブルの事例を
分かりやすく発表する。
・各班は他の人に考えてほしいことをあ
らかじめ伝えておく。
・各班のトラブルの事例を聞き,自分な
らどうするかを考え,ワークシートに書
く。
・各班の発表の続きを見て,内容や感想
をまとめる。
・本時の目標にてらして学習を振り返
り,これからの家庭生活で変えようと思
うことをまとめよう。
○ 各 班 の ト ラ ブ ル の 【 創意・ ロールプレイングに消極
解決策を考えさせる。 工夫①】 的 な 生 徒 に は , シ ナ リ オ
【技能】 を 見 な が ら , 発 表 を サ ポ
【 関心① 】 ートする。
○ 発 表 を 途 中 で と め 【 創意・ 自分の意見がまとめられ
て 続 き を 自 分 な り に 工夫②】 な い 生 徒 に 対 し て は , 事
考え,ワークシート
例のトラブルを具体的に
に記入させる。
イメージさせ,解決策を
考えさせる。
○ 本 時 の 目 標 を 確 認 【 関心② 】 自 分 の 家 庭 生 活 , 家 族 関
し,自分の家庭生活
係と班の発表の似ている
を振り返りながらま
ところ,違うところを考
とめさせる。
えながら自分だったらど
うするか考えさせる。
(5) 授業を終えて
今回のロールプレイングによって,生徒の関心 ・
意欲を高めることができた。シナリオを何度も推
敲したり,班の中で何本かシナリオを作ってその
中でいいものをふくらませたり,放課後に練習を
したりして意欲的に取り組んでいた。
指導者から課題を指定しなかったので,どのよ
うな内容がでるか心配したが,高齢者の介護,夫
婦の問題,親によるきょうだいの比較,子どもの
進路についての家族の意見,いじめなど,様々な
身近な問題を取り上げ,家族が思いを出し合う中
で何とか解決しようと考えていた。
課題としては,生徒に考えさせたり書かせたり
するので時間が多くかかることと,ロールプレイ
ングの事前の打ち合わせを各班で十分にさせるこ
とへの対処が必要である。
2
高等学校における「家族と家庭生活」
領域の指導
実践事例3
【調べ学習とロールプレイングを取入れた
指導例】
実 践 校
教科・科目
実 施 対 象
題
材
県立日彰館高等学校
家庭基礎
普通科第1学年 生徒数80名
「人の一生と家族・福祉」
(全30時間)
表9
指
(1) 題材について
○ 題材観,生徒観
本題材は ,人の一生を生涯発達の視点でとらえ ,
一人の人間としてまた,家族の一員として家族や
家庭生活,乳幼児や高齢者の生活と福祉について
どのようにかかわりを築いていくかを理解させ,
家族だけでなく地域や社会の果たす役割も重要で
あることを認識させることをねらいとしている。
本校生徒の8割は三世代同居である。家族が多
いために甘えて家事を一人の人にまかせきりにし
たり,高齢者の介護問題が身近なことになってい
る状況がある 。2クラスそれぞれの雰囲気の中で ,
ともすれば表面的な知識理解や受け身で終わった
りする生徒もおり,全員が授業に参加する取組み
が必要である。
○ 指導観
人の一生と家族・福祉の学習は一人の人間とし
て生きていく中でとても大切な領域と考える。し
かし,生徒は教科書の内容と現実とを結び付ける
ことが難しく,自分のこととしてのとらえが不十
分である。そこで,指導に当たっては,できるだ
け実践的・体験的な学習を取り入れ,自ら学ぶと
いう姿勢をもつよう指導することを心がけ,1ク
ラス40人の展開で,家庭基礎(2単位)という短
い時間でも,楽しく家族や家庭生活について学習
し,深く理解できるように改善したい。
(2) 授業改善について
指導と評価の工夫を表9に示す。
指導と評価の工夫
導
の 工 夫
指導の具体
成果と課題(○成果,●課題)
従 ①大家族をテーマにした心理劇を題材の終わ ○家族の心の動きを感じることができた。
来 りに取り入れ,疑似体験をすることによって ○自分が普段家族にどのように接しているか振り返る
の 家族の心理を理解する。
ことができた。
取
●シナリオがないのでテーマからはずれたり,経験や
- 170 -
組
み
学習の少ない生徒は途中で言葉がでなくなってしまう 。
●十分な時間が取れず ,1グループの人数が多くなり ,
現実的な家族構成人数ではなかった。
指導の具体
改善のねらい
①事前の課題として新聞やインターネットで ○事前に情報収集をさせることにより生徒の興味・関
研 家族や家庭生活について調べ学習をさせる。 心を高めるとともに,基礎的・基本的な知識・理解を
その際,統計等データの裏付けを取るよう指 深める。
究
導する。
②情報収集したものや指導者側が準備した資 ○あらかじめシナリオを考えることで,分からないと
実 料をもとにロールプレイングのシナリオを作 ころや不十分なところを調べることができ,学習がよ
らせる。
り深まる。
践 ③ロールプレイングを題材の終わりに取り入 ○これまでの学習を生かしたロールプレイングを展開
れ,学習のまとめ,成果発表に利用する。
することができるとともに ,新しい課題の提示を行う
ことができる。
従
来
の
取
組
み
評 価
評価の具体
①評価規準をもとに学習シートを作り,特に
そう思う項目に◎ ,そう思うものに○を付け ,
理由も書くようにする。
②講義シートを生徒に配布し,今日の授業の
達成目標を明らかにする。
の
工
夫
成果と課題(○成果,●課題)
○生徒の気持ちの変化や学習の理解度について把握す
ることができた。
○講義シートにより授業のねらいが伝わった。
●4観点すべてについて評価をすることが困難であり ,
心理劇はその時間だけの取組みなので,生徒の関心・
意欲・態度の評価が難しい。
評価の具体
改善のねらい
①評価の判断基準を設定してから授業を展開 ○調べ学習やシナリオの内容 ,「終ってシート」を用い
研 する。
て,関心・意欲・態度を評価するようにした。
究 ②「終ってシート」に,学習を通して気付い
実 たことや今後関心のあることをまとめる。
践 ③学習シートに,数値による記入と理由を書 ○どの程度理解できたかを生徒自身も指導者も把握し
くようにし,自己評価しやすくした。
やすいようにし,目標に到達していない生徒に対する
④講義シートにより達成目標を明らかにする。指導を的確に行えるようにした。
(3) 題材の目標と指導計画
題材の目標と指導計画は次のとおりである。
目標
指導計画(全31時間)
人の一生を生涯発達の視点でとらえ,家族や家庭
第1次 人の一生と家族(12時間)
生活の在り方,乳幼児と高齢者の生活と福祉につい
第2次 子どもと高齢者の生活と福祉(16時間)
て理解させ,男女が相互に協力して,家族の一員と
第3次 人の一生と家族・福祉のまとめ( 3時間 )
しての役割を果たし,家庭を築くことの重要性につ
(ⅰ)新聞やインターネットで資料集め…課題
いて認識させる。
(ⅱ)ロールプレイングの制作・発表…3時間( 本
時2・3/3)
(4) 本時の展開
本時の評価と学習展開を表10に示す。
表10
本時の評価と学習展開
評価規準と評価方法
関心・意欲 ・ 家族や家庭生活について関心が広がっている 。(終ってシート)
態度
[A]家族や家庭生活について関心が広がり,今後の課題を見付けることができる。
思考・判断 ロールプレイングを通して家族や家庭生活の課題について考えることができる 。(学習シー
ト)
[A]ロールプレイングを通して家族や家庭生活の課題について考えを深めることができ
る。
知識・理解 これまでの学習や収集した情報が生かされている 。(ロールプレイングのシナリオ)
[A]これまでの学習や収集した情報を生かし,課題の解決に役立てている。
学
過
程
学習活動
習
展
開
指導上の留意事項
評価規準
努力を要する状況と判断
した生徒への手だて
導 ・本時行うロールプレイングに ○ 相 手 を 大 切 に す る , 命 令 し な 【知識・理解】 シ ナ リ オ 作 成 時 に , 資
入 ついて説明を聞き,約束ごとを い,からかわない,ふざけないな
料の使い方,調べ方を
- 171 -
確認する。
・ウォーミングアップとして「みんな
展 で なわと び」と 「ボ ール の七変化」
(3)
開 を行う 。
どの約束を理解する。
指導・助言する。
○ ここでの ボールや縄跳びは実
在しない。その場の雰囲気でボ
ールを変化させる。
○ 必ず全員が縄を回す役をする
ように言う。
・感想を述べ合う。
○ 「縄が見えたか 」「引っかか
ったか」などを聞き,感想を
・解説を聞く。
促すようにする。
・ロールプレイングを行う。
○ ふ ざけ たり, 人を否 定す るよう
出入りを含めて8分
な 行 動 が な い よ う に , T 1T 2は い
はじめにテーマと役名,役柄の つ で も フ ォ ロ ー が で き る よ う に し
まず,シートの数値に
紹介
ておく。
よる自己評価を行うよ
・マナーを守り,学習シートを記入 ○ 発 表 し て い る 人 以 外 は 見 守 り
う声をかけ,理由が加
しながら発表を見る。
静 か に聞 く よ うに雰 囲 気 づく りを 【思考・判断】 え ら れ る な ら ば 書 く よ
・ 講 義 シ ー トで 学 習 のね ら い につ する。
うに指導する。
いて聞く。
・各自で学習シートをまとめる。
【 思 考・ 判 断 】 提 出 し た 後 に 面 接 を 行
ま ・家 族 や 家 庭 生 活 に つ い て ま と
【 関 心・ 意 欲 】 い , 自 分 の 学 習 を 振 り
と めを聞き ,整理する 。各自で「 終
返って,関心をもてな
め わってシート」をまとめてくる
かった・広がらなかっ
ことを聞く。
た理由を聞き取り,個
別に指導する。
(5) 授業を終えて
今回の調べ学習を生かしたロールプレイング
は,生徒の学習活動を主体的なものにした。シナ
リオを制作する授業では,日頃学習に意欲的でな
い生徒が率先して考えたり,資料はどれを使った
ら よ い かと 質 問 して き た り して い た 。ま た ,「こ
の 時 間 が楽 し い んよ 。」 と積 極 的 に話 し 合 い, 指
導者側の助言に対して,新たな資料を探してより
詳しい話を作っていくことができた。そして,他
の班のロールプレイングを見ることにより,家族
の大切さや協力の大切さについて気づいた生徒も
多い。学習シートに記入する際,ロールプレイン
グをする前から知っていたことや授業であらかじ
め学んでいたことに関しては「あまり思わない」
「全く思わない」の評価をしている生徒がいるの
で,題材全体を通してどう変化したかと本時の指
導による変化を区別して問うべきだった。
実践事例4
【ホームプロジェクトの指導について】
実 践 校
教科・科目
実 施 対 象
題
材
県立広島井口高等学校
家庭一般
普通科第2学年 生徒数200名
「ホームプロジェクト∼家庭
科で学んだことを実際の生活
に生かそう!∼ 」
( 全5時間 )
(1) 題材について
○ 題材観,生徒観
本校は広島県西部に位置し,2・3年生9クラ
ス,1年生8クラスの大規模校である。生徒は広
島市内やその周辺から広く通学しており,ほとん
どの生徒が大学進学を目指す進学校である。
新教育課程の実施に伴い本年度入学生から,家
庭科は「家庭基礎」2単位を1学年で履修するこ
ととなり,ますます授業展開や評価の在り方につ
いて工夫が求められている。そこで,教科内容の
一つの柱であるホームプロジェクト(以下HPと
表記する)の実践について,現2年生の「家庭一
般」を中心として研究を進めることとした。
○ 指導観
HPと学校家庭クラブ活動については,家庭科
の履修すべき内容であるにもかかわらず,現実に
はあまり多くの時間を割くことなく,夏期休暇の
課題として出され,休み明けに発表会を行うとい
う形式で実施されていることが多く,本校も同様
で あ る 。「 家庭 一 般 」か ら 「 家 庭基 礎 」 へ 移行し
単位数が半減することによって,ますますその取
扱いと指導に困難を感じている。より効果的に問
題解決能力の定着を図るにはどのようにすればよ
いのか,これまでの指導や評価方法を振り返り,
改善することとした。
(2) 授業改善について
指導と評価の工夫を表11に示す。
- 172 -
表11
指
指導と評価の工夫
導
の 工 夫
指導の具体
成果と課題(○成果,●課題)
従 ①夏休み前にHPの意義や実施方法を説明 ○授業時間は少なくて済んだ。
来 し,夏期休暇の課題について指示をする。 ●家庭生活へのかかわりが薄く,自分の生活課題を見付
の
けることができない生徒もいる。
取
●HPの意義について十分理解できておらず,何かを実
組
践しただけで終わってしまう生徒が多い。
み ②夏休み明けにレポート提出と発表準備を ○お互いの研究内容を共有することができた。
行い,クラス内で成果発表会を実施する。 ●レポートの実践記録やまとめ方が不十分である。
改善のねらい
指導の具体
①夏休み前に,HPの意義や実施方法につ ○具体的に実施の流れや解決方法を知ることにより,H
研 いて,VTR「明るい家庭生活」を利用し Pに取り組もうとする意欲を高めるとともに,意義や実
究 て説明する。
施方法の理解を深める。
実 ②発表準備の時間を確保し,内容の整理を ○発表準備として読み原稿を書かせ,それぞれの実践内
践 した後,成果発表会を行う。
容を整理させる。
③発表後,再度自分のレポートを客観的に ○期間をある程度おいた後,再度自分の実践内容に対し
振り返る時間を設ける。
て客観的な評価を加えることにより,さらなる発展や新
たな課題を発見する力を養う。
評 価 の 工 夫
評価の具体
成果と課題(○成果,●課題)
従 ①発表時の態度や内容のまとまり等につい ○お互いの発表をきちんと聞く態度を養い,集中力を高
来 て,生徒同士は相互評価を行う。
めることができた。
の
●クラスの中の人間関係にも影響される部分が大きく,
取
概して生徒同士の評価はお互いに甘くなりがちである。
組 ②教師は,発表会での様子や提出されたレ ○提出したレポートのみの評価ではなく,発表態度を含
み ポート及び発表原稿の内容,提出期限など めた総合的な評価が可能である。
を総合して評価する。
●レポートの内容が深まっていなかったり,発表準備が
不十分であったりしても ,堂々と発表できる生徒がいる 。
評価の具体
改善のねらい
研 ①あらかじめ評価の判断基準を設定し,従 ○着目する視点をはっきりさせる。
究 来の相互評価と教師による評価を充実させ
実
る。
践 ②発表会後に再度自分のHPの内容を振り ○自分の実践について客観的に評価し,他の領域の学習
返り,自己評価を行う。
(住生活)を踏まえ,新しい課題を見付けるなど,実践
的な態度を養う。
(3) 題材の目標と指導計画
題材の目標と指導計画は次のとおりである。
目標
指導計画(全5時間)
各自の生活に深い関心をもち,その中から課題を
HPの意義と実施について(1時間 7月)
見いだし,家庭科で学んだ知識や技術を生かして,
HP発表準備と発表(3時間 9月)
主体的に課題の解決に取り組み,問題解決能力と実
HPを振り返ろう( 1時間 11月 )
( 本時5/5 )
践的態度を身に付ける。
(4) 本時の展開
本時の評価と学習展開を表12に示す。
表12
本時の評価と学習展開
評価規準と評価方法
関心・意欲 ・ 他の分野での生活課題を見付けようとしている 。(自己評価票)
態度
[A]他の分野の学習を生かして,生活課題を見付けようとしている。
思考・判断 自分のHPの実践を振り返り,改善策を見いだすことができる 。(自己評価票)
[A]自分のHPの実践を振り返り,具体的な改善策を見いだすことができる。
知識・理解 HPの意義や実施方法について理解している 。(自己評価票,定期考査のペーパーテスト)
[A]HPの意義や実施方法について十分に理解している。
学 習 展 開
学習活動
指導上の留意事項
評価規準 努 力 を 要 す る 状 況 と 判
断した生徒への手だて
導 ・本時の学習のねらいを知る。
○本時の学習内容を
入
知らせる。
展 ・HPの意義や実施方法について ○ 7 月 に 配 布 し た プ 【 知 識 HPの流れについて
リ ン ト を 参 照 さ せ る 。 ・理 解 】 プ リ ン ト を 見 な が ら
開 思い出す。
・評価の観点について知る。
○評価の項目につい
答えさせ,内容を思
- 173 -
・自分が提出したレポートや原
を受け取り,評価の観点にそっ
見直す。
・項目ごとに自分の実践を振り
って自己評価を行い,具体的な
善策を考え記入する。
・現在学習している住生活の分
でのテーマ例について考える。
・自分が考えた改善策やテーマ
について発表する。
ま ワークシートを提出する。
と 次時の学習内容を知る。
め
て具体的に説明する。
い出させる。
稿 ○しばらく時間をお
て いて最初からゆっく
り読み返させる。
返 ○反省だけに終わら 【 思 考 集中していない生徒
改 な い よ う に 注 意 す る 。 ・判 断 】 に は , 注 意 を 促 す 。
記入が進まない生徒
野 ○ 思 い つ く 限 り あ げ 【 関 心 に対し声かけをする。
るように促す。
・意 欲 】 内 容 に 関 す る 質 問 は
例 ○記入した内容につ
全体へも知らせる。
いて発表させる。
(5) 授業を終えて
生徒の感想や事後のペーパーテスト等から,H
Pの意義や手法について一定の理解をしているこ
とが分かる。しかし,現実には実際の生活の中に
改善点を見付けられない生徒や,夏期休暇課題と
してレポートさえ提出すればいいと考えて研究内
容に実践が伴わないなど,中途半端な形で終了し
てしまうケースも少なくない。そうなると相互に
高め合う場となるはずの発表会を実施しても,時
間がかかる割には成果があがりにくいという悪循
環を生みやすくなると考える。
HPは,机上の調査研究にとどまることなく,
体験的な学習活動を位置付けることにより,問題
解決能力を養い,実践的な態度を育てることが大
切である。本校の実態を考えると,この体験活動
を位置付ける時期は夏期休暇しか考えられない。
そこで,これまでのような夏期休暇前後だけに集
中した指導を改め,年度当初より年間を通じての
テーマ学習に取り組む流れを再考する必要があ
る。限られた時間で効率よくテーマ設定や手法を
理解させるために,今回使用したVTR「明るい
家庭生活」は有効であったが,50年前の生活と現
代がうまく結びつかない生徒もいるため,補足的
に現代の生活における身近な展開例などを合わせ
て使用したところ,効果的であった。
今回の授業改善で取り入れた実践の振り返りの
時間は,たった1時間ではあるが非常に効果的で
あった。発表やレポート提出の時には,とりあえ
ず発表した,提出したという生徒にとって,時間
をおき客観的に自分の実践を振り返る機会を与え
ることは大変有効である。生徒の中には,素直に
厳しく自己評価を行い,改善策を一生懸命記述す
る姿が見られた。
以上の結果をシラバスに反映させ,更に改善を
重ねることで,家庭科を学ぶ達成感を感じること
のできる授業づくりを目指したい。
3
事例についての分析と考察
実践事例1 安芸高田市立吉田中学校
保育実習では,事前に何かを製作して持参する
ことが必要条件とはならない 。事前の準備なしで ,
幼児とその場で一緒にもの作りをしたり既存の遊
具でかかわりを深めたりすることを通して,触れ
合いは十分可能である (3)。
しかし,吉田中学校のように,先輩の作ったお
もちゃを見たり,苦労した話などを聞いたりしな
がら,保育実習への期待感をふくらませるよう流
れが仕組んである学校も多い。吉田中学校の授業
実践は生徒実態(やや期待感が薄い)に応じ,次
の2点において工夫している。
①手作りおもちゃを媒体として利用し,幼児と適
切にかかわりができるよう工夫している。
② 本来 はB (1)が (2), (3)の 導入 として 扱われる
ことが示されているが,今回はB(2),(5)の学習
からB(1),(3)へと学習をすすめ,自分を含む子
どもの成長にかかわる人々の愛情や親の役割に気
付かせるように工夫している。
授業改善の効果の分析は,保育実習前後に行っ
た 自 己評 価 票 ,「 実習を 終 え て 」の ア ン ケ ート,
「保育実習を通して感謝の言葉を贈ろう」ワーク
シートにより行う。
① 幼児と適切にかかわることができたかについて
実習の前後に以下の項目について四段階評定尺
度法によりアンケート(自己評価票)を行い,結
果を図1∼3に示す。
問1
自分が製作したおもちゃは,対象年齢に適して
いる(適していた )。
問2 自分が製作したおもちゃで遊びながら,幼児へ
の声かけやかかわり方を考えている(工夫した )。
問3 自分 が製 作したおもちゃで幼児はずっと遊ぶで
あろう(遊んでいた )。
- 174 -
38
事前
59
事後
図1
11 2
49
28
0%
20%
40%
あてはまる
だいたいあてはまる
60%
9 4
80%
あまりあてはまらない
100%
あてはまらない
「 自分 が製 作 したお もちゃ は, 対象年 齢に 適して
いる(適していた )」
10
事前
39
40
11
えており,74%が工夫しながら実践できたことが
分かる。ただし,事前に全く考えることができな
かった生徒9名のうち7名は実習中に声かけやか
かわり方を工夫することができなかった。事前の
手だてが実習中の行動につながり,きわめて大切
であることが実証されたといえる。
図3から分かることは,事前にイメージしてい
たよりも(38%)幼児はおもちゃでしっかりと遊
ぶ こ とは で き た (69%) が , す ぐに あ き たり 身体
を使った遊びを求めたりと,持続した遊びが展開
できない幼児の特性もうかがえたようである。
このようにおもちゃを通して幼児とのかかわり
を仕組んだ結果,自作したおもちゃを支えに,か
かわりを工夫していくことができたことが分か
る。なお,これら3項目はt検定を行った結果,
1%未満で有意差が見られた。
「実習を終えて」のアンケートは,図4,5の
ような結果が得られた。
4%0%
52
事後
22
18
0%
8
36%
35%
0%
あてはまる
図2
40%
だいたいあてはまる
60%
80%
あまりあてはまらない
100%
61%
6
32
54
39
事後
30
0%
20%
40%
あてはまる
だいたいあてはまる
60%
8
22
9
80%
100%
あまりあてはまらない
64%
あてはまらない
「 自分 が製 作 したお もちゃ で遊 びなが ら, 幼児へ
の声かけやかかわり方を考えている(工夫した )」
事前
図3
20%
あてはまらない
「 自分 が製 作 したお もちゃ で幼 児はず っと 遊ぶで
あろう(遊んでいた )」
図1から分かるように,約9割の生徒は対象児
の年齢に適していると自信をもっておもちゃを持
参し ,適していたと手応えを感じることができた 。
図2からは49%の生徒が事前にかかわり方を考
あてはまる
だいたいあてはまる
あまりあてはまらない
あてはまらない
図4「幼児の発達に合わ
せた声かけや接し方
ができたか」
あてはまる
だいたいあてはまる
あまりあてはまらない
あてはまらない
図5「幼児の思いを大切
にしてかかわること
ができたか」
96%の生徒が幼児に合わせた接し方を工夫する
ことができ,全員が幼児の思いを大切にしてかか
わることができたと答えている。
以 上の 分 析 か ら ,「 適切 に か かわ る こ と ができ
る」という体験目標は達成されたとみてよい。
② 子どもの成長にかかわる人々の愛情や親の役
割に気付いたかについて
この視点は,将来の子育て観にかかわる内容で
あり,すぐに効果を測ることはできない。すなわ
ち向上目標としてかかげたものである。
保育実習後の「保育実習を通して感謝の言葉を
贈ろう」ワークシートは記述式であったが,全員
の生徒が記入することができ,自分の成長にかか
わった人々を振り返ることができた。欠席者を除
いた集計結果は図6に示したとおりである。
家族にあてた手紙(37人)のうち約6割が親に
- 175 -
う。
アンケートの項目は次のとおりで,結果を図7
に示す。
60
48
50
40
37
問1
問2
家族とのかかわりの中で心が安定する。
「自分も家族の一員である」と意識する場面が
多い。
問3 家族が互いに立場や役割を理解することが大切
である。
問4 家族 であ っても,協力したり思いあったりする
ことが大切である。
問5 家族関係をよりよくする方法が分かる。
問6 家族関係をよりよくしたい。
問7 家族関係をよりよくするために努力したい。
30
20
10
10
5
0
家 族
学 校 関 係
実 習 先
そ の 他
(人 )
図6
感謝の手紙の相手
あてた手紙で,家族や友人,先生,保育所の保育
士や幼児たちが,自分を受容し,認めてくれてい
ることを実感している様子が分かる。
母へあてた手紙の一例をのせる。
今まで育 ててくれてありがとう。小さい子と遊んだ
りすること がこんなに大変だとは思わなかったよ。そ
れをお母さ んは乗り越えたんだね。誰よりも多くの時
間を一緒に してきたお母さんだから,私の癖とかも分
かるんだろうね。
この頃は 進路のこともあってお互いにイライラして
いたけど, 昨日の三者懇談が終って,二人でホッとし
たね。
これから ももっと長い年月を一緒にしていくから,
い ろ い ろ な こ と が あ る か も し れ な い け れ ど ,「 こ こ ま
で育ってこ れたのは両親のおかげだ」ということを考
えてから行動に起こそうと思うよ。
15年間育ててくれてありがとう。これからもよろし
く。
全体として平均値はのびているが,1%t検定
で有意差が認められたのは問2,問7である。
① ロールプレイングを取り入れる過程について
この授業での目標は「家族関係をよりよくする
方法を自分なりに考え,自分の家庭生活の改善に
努力しようとする」という向上目標である。これ
は問5「家族関係をよりよくする方法が分かる」
ことが下位の到達目標となり,問6「家族関係を
よ り よく し た い 」,問7 「 家 族 関係 を よ り よくす
るために努力したい」という意欲や実践的な態度
を育てることにつながる。
4
3.5
このように幼児との触れ合いを通して,自分を
育ててくれた家族やそれにかわる人々について考
え る こ とが で き ,B (3)の 学 習 の 導入 と す るこ と
ができた。
3
3.54
3.43 3.36
3.14 3.21
2.96
2.84
2.82
3.18
3.05
2.66
2.43
2.21
2.5
2.14
2
1.5
1
実践事例2 府中市立第二中学校
B(1)∼(3)の内 容 の取 扱い につい て ,「実習 や
観察,ロールプレイングなどの学習活動を中心と
するよう留意する」とある。そこで,第二中学校
ではロールプレイングを取り入れ,授業実践を次
の2点において工夫している。
①ロールプレイングを取り入れる過程は題材の半
ばとし,学習内容のまとめ,発表としての活用を
試みている。
②ロールプレイングの発表を途中で止め,見てい
る生徒自身が「自分だったらどうするか」を考え
させるように工夫している。
授業改善の効果の分析は,ロールプレイング前
後に行った四段階評定尺度法による自己評価票,
発表を見ながらまとめたワークシートにより行
問1
問2
問3
事前平均
図7
問4
問5
問6
問7
事後平均
ロールプレイングの事前・事後アンケート
しかし,問5のアンケート平均値は項目中最も
低い。5%t検定においても,わずかながら有意
差を見る値とはならなかった。
今回のロールプレイングは,各班オリジナルの
シナリオにより展開されたために,生徒にとって
具体的に家族関係をよりよくする方法が焦点化さ
れにくかったのではないかと分析する。
② 「自分だったらどうするか」を考えさせなが
ら展開させることについて
ロールプレイングを途中で止めて,自分ならど
うするかをワークシートへ記入させたところ,全
- 176 -
員の生徒が発表に対し自分の考えを記述できた。
また,アンケートの問7「家族関係をよりよく
するために努力したい」の項目は,1%t検定に
おいて有意差が見られた。具体的な割合の変化を
図8に示す。生徒の改善意欲を引き出したことが
明らかである。
以上の分析から,ロールプレイングの途中で,
自ら問いかける時間を設定することは有効である
といえるが,指導者の授業分析にもあるとおり,
十分に考えさせるには時間がかかることを踏まえ
ておかなければならない。
事前
7
20
20
53
変化,現代の家族の特徴,家族や家庭機能の変化
に伴う社会制度の発展など,家族や家庭生活に関
係する学習を総合化させるように展開された。
日彰館高校の授業実践では,次の2点において
工夫している。
①ロールプレイングのシナリオ作りには,調べ学
習を十分に行った。その際,科学的な思考・判断
を促すために,統計や調査などを活用した数値の
変化を調べさせるよう指導がなされている。
②ロールプレイングを題材の終わりに取り入れ,
学習のまとめに利用している。
授業改善の効果の分析は,授業後に行った四段
階評定尺度法によるアンケートと調べ学習及びロ
ールプレイングの取組み状況により行う。
アンケートの項目と平均値は表13のとおりであ
る。
表13
事後
14
45
34
7
1
図8
0%
20%
そう思う
少しそう思う
40%
60%
あまりそう思わない
80%
2
社
会 3
へ
の 4
関
心 5
100%
そう思わない
「家族関係をよりよくするために努力したい」
生徒の感想の一部をのせる。
・介護は一 人にまかせちゃいけないと思った。みんな
一人ひとり やりたいことがあるから,みんなで協力し
てやる,っ てことになってよかったと思う。家族みん
なで協力し て助けてもらって,おじいさんは幸せだと
思った。
・感情を入 れるのがあまりできなかったけど家族って
家族の一言 ですごく変化するんだなっていうことが伝
わったかな ,と思います。でも実際自分があのお姉さ
んの立場だ ったらあんなに落ち着いてないなと思いま
した。
実践事例3 県立日彰館高等学校
高等学校での家庭の機能と家族の学習は,中学
校での家族の一員としてどうあるべきかという学
習を踏まえ,社会に対する機能や社会からの影響
を受ける家族関係など,家庭を創設していく立場
で考えるよう展開される。したがって,中学校の
ロールプレイングは,家族関係をよりよくするた
めの意欲や創意工夫を高めることを目指して取入
れられるが,高等学校の場合はロールプレイング
を通して社会に関心を広げることを目指して取り
組まれるべきである。日彰館高校においても,男
女が協力して家庭を築くことの意義や家庭機能の
6
7
8
家
族
の
機
能
の
理
解
9
10
11
12
13
14
15
16
ロ 17
|
ル 18
プ
レ 19
イ
ン 20
グ
①
日彰館高校の事後アンケート
問
現代の家族の特徴について知ることがで
きた
男女が協力して家庭を築くことが大切だ
と分かった
家族が役割・責任を果たして家族を築い
ていることが分かった
子どもにとって親や身近な大人のかかわ
りが大切だと分かった
子どもの発達を社会全体で支えることが
大切だと分かった
高齢者の自立生活を社会全体で支えるこ
とが大切だと分かった
家族について振り返ることができた
日頃,家族が何をしているか知らないこ
とが分かった
家族の温かさが分かった
家族に無理を言っていることが分かった
家族に支えられていることが分かった
家族にも思いやりをもって接していかな
くてはいけないことが分かった
家族にもコミュニケーションが大切なこ
とが分かった
家族の中でも相手の思いをくみ取ろうと
することが必要だと分かった
家族の本当の思いが分かった
家族を大切にしてあげたいと思った
ウォーミングアップはロールプレイング
に役立ったと思う
ロールプレイングの話合いを積極的に行
うことができた
ロールプレイングをしている時,真剣に
演じることができた
ロールプレイングを見ているとき,マナ
ーを守り真剣に見た
平均値
2.88
3.38
3.19
3.05
2.95
3.10
2.95
2.31
3.22
2.75
3.29
3.26
3.27
2.90
2.48
3.30
2.09
2.88
2.71
2.91
事前の調べ学習の効果について
教師の想像以上に自主的に調べ学習を行うこと
- 177 -
ができた 。ある班は児童虐待の新聞の切抜きから ,
子育てについてのロールプレイングを計画した。
不足する情報を調べようと児童相談所をインター
ネットで検索し,行政の動きや地域の動きについ
て調べ,それをロールプレイングに取り入れるこ
とができた。
身近にある教科書のデータと生徒が自ら収集し
た情報を活用したが,シナリオに応じたものばか
りでないため,事前に教師がインターネットや白
書等から情報を得ていたことが指導に非常に役立
った。
このように,調べ学習に統計等のデータによる
裏付けを求めたことにより,具体的な学習行動の
目安となり,主体的な活動に結び付けることがで
きた。
② 題材のまとめとしての効果について
表13では上位5項目(平均値が3.25以上)を太
字で示している 。社会への関心については問2「 男
女が協力して家庭を築くことが大切だと分かっ
た」が最も高く,他の項目よりも生徒自身の生活
に密接な関連があると思われる。問11∼13の家族
の個人の機能については家族への思いやり,家族
間のコミュニケーションの必要性を高く感じてい
る。そして,問16にあるように「家族を大切にし
てあげたいと思う」気持ちにつながっている。
このように,家族や家庭生活,乳幼児や高齢者
の生活と福祉について関心が広がり,学習のまと
めとしてロールプレイングは効果があったことが
分かる。
なお,日彰館高校は昨年の授業展開に心理劇を
取り入れた。そこで,ロールプレイングによる指
導方法の評価を問17∼20で集約している。心理劇
を参考にしたウォーミングアップは効果が少ない
ことが分かり,今後の改善点を明確にすることが
できた。
「 終ってシート 」から生徒の感想の一部を示す 。
・嫁姑を取 り上げた班は,すごく詳しく調べていた。
老人ホーム とか板挟みになった夫の気持ちとかいろい
ろと分かった。
・虐待を取り巻く課題がいろいろ分かった。
・再婚をテ ーマにしたロールプレイングをみて,再婚
率も分かったし ,大変さについても知ることができた 。
・世の中に はたくさんの家族があるけど,一つ一つそ
れなりに問 題があるなと思った。その問題をどのよう
に家族で解決していくかが大切なんだと思う。
実践事例4 県立広島井口高等学校
広島井口高校の授業実践では,次の2点におい
て工夫している。
①事前の指導にビデオを利用し,生徒の立場から
みたHPの具体的な展開例を示している。
②HPを実施して期間を置いた後,自己評価を行
い,更なる課題発見へと結び付けている。
授業改善の効果の分析は,ビデオ視聴後のアン
ケートと自己評価票により行う。
① ビデオによる事前指導について
ビデオは昭和25年に製作されたものである。今
回このように古い資料を用いざるを得なかった理
由は,この「明るい家庭生活」のようにHPを計
画( Plan ),実践(Do ),反省・評価( See)の過
程に沿って,具体的な生徒の取組み状況を示す適
切な視聴覚教材が見当たらないためである。
時代背景や生活の実情の違いを補うために,現
代におけるHP実践テーマ例の資料を別に配布
し,ビデオの取組みを現代に置き換えるよう,教
師による指導を加えた。
視聴後にとったアンケート項目は次のとおりで,
結果を図8に示す。
問1
問2
問3
生活改善のため,HPの必要性を感じたか。
HPの実施方法が分かったか。
HP によ って改善されそうなことが家庭にある
か。
問4 家庭生活を改善してみたいか。
問1
9
39
32
14
6
問2
7
45
25
18
5
問3 4
31
6
28
問4
0%
20%
とても
図9
28
32
5
47
40%
60%
まあまあ
どちらとも
11
80%
あまり
8
100%
全く
ビデオ視聴後のアンケート
問1からHPの必要性は48%の生徒が感じてい
ることが分かる。問2「HPの実施方法が分かっ
たか」に対し52%の生徒が肯定的に答えた。他の
方法と比較することはできないが,プリント教材
ではここまでの理解は得られないと考える。ただ
し,全体として十分な理解を得られる教材とも言
い難く,今後も適切な教材を求めていきたいと考
える。また,問3から課題の発見,問4から改善
- 178 -
に対する意欲も,ともに35%足らずと低い。生活
経験が少ないことによるものと考えられる。
② 期間をおいた後の自己評価について
初めてのHP実施から約2か月後に,自分のH
Pを自己評価させた。表14は教師による評価の低
い生徒が自己評価に4(最高点)を付けている人
数,すなわち自己評価能力が不十分で改善を考え
なかった生徒の割合を表している。
表14
改善を考えなかった割合
自己評価の観 テーマ 実施計 実践・ 反省・ 次 の 課 題
点
設定
画
記録
評価
・発展
教師評価 1
10
9
11
9
19 (人)
教師評価 2
6
3
8
1
5
人数割( % ) 13.8 10.3 16.4
8.6
20.7
平均して約14%の生徒が自己評価が甘いことが
分かる。的確な自己評価の能力を育てるには,他
教科とともに経験を重ねることと,その際に教師
による客観的な評価を添えることが大切である。
なお,実際に他の領域(住生活)で新しい課題
を見付けることができたのは56%の生徒で,平均
して2個のテーマを見付けることができていた。
「HPを実施する上で大切なことは何か」とい
う問いに対する生徒の記述を抜粋すると,次のと
おりである。
・よりよい生活にするためのしっかりとしたテーマ
を設定することが重要。
・継続していくことが大切。
・人のまねではなく自分でアイデアを出し,研究心
をもって実施することが大切で,HPを通して日頃
気付かなかったことやおろそかにしていたことに気
付き,改善することが大事。
・前もって自分で資料を見付け,調べたことなどを
参考にする。また,家族と一緒に実践することでよ
り計画が進めやすく話題を展開しやすくなる。
以 上 の分 析 か ら ,「自分 の 実 践 を振 り 返 り, 改
善策を見いだすことができる 」という向上目標は ,
およそ達成できたととらえられるが,決して十分
な成果が上がったとは言い切れない。今後もHP
の趣旨を十分に理解し ,適切な教材・教具や指導 ,
評価の工夫について多くの実践を集め,研究して
いく必要がある。
Ⅳ
実践的・体験的な学習を取り入れた
指導と評価の在り方についての提言
本 研 究の 特 徴 は ,「家族 と 家 庭 生活 」 領 域に お
いて,目標類型を明確にした上で実践的・体験的
な学習を展開した実践研究を行ったことである。
4校の実践から得られた成果と課題を踏まえ,今
後の「家族と家庭生活」領域の指導と評価につい
て,以下の3点を提言する。
① 目標分析の重要性と必要性について
学習における知識・理解,技能については,そ
の効果をペーパーテストや作品などによって比較
的 と らえ や す い とさ れ ,「 見え る学 力 」 と 表現で
きる。一方,関心・意欲や思考などの心の動きに
かかわる学力は「見えない学力」といわれ,とら
え に くい と さ れ てい る 。 家庭 科 教 育 では ,「 気付
く よ うに す る 」「 自覚を も つ こ とが で き る ように
す る 」「認 識さ せ る 」な ど , 評 価規 準 や 判 断基準
の設定が難しい内容を多く含んでいる。
そこで,中学校,高等学校ともに目標分析を十
分に行うべきであると考える。梶田(1994)は,
理論的にいうと,「関心・意欲・態度」や「思考・
判 断 」は 向 上 目 標タ イ プ の目 標 で あ り ,「 知識・
理解」や「技能・表現」は達成目標タイプの目標
としている。学習項目,学習内容によって目標類
型を見極め,四つの観点がどのように関連してい
るかを整理し,それぞれの判断基準を具体の生徒
の状況として設定することが必要である。
また,生徒の実態を十分把握し,評価規準を常
にバージョンアップする姿勢をもつことにより,
指導が本来の役割を果たすことになると考える。
② 実践的・体験的な学習の取り入れについて
柴静 子(1998)は ,「家族 と家庭 生活」 領域の学
習方法として,劇化,ロールプレイング,疑似体
験に代表される模擬体験学習の導入に対し,大き
な可能性があると述べている。その理由として,
プライバシーに触れることなく現実にある様々な
問題に取り組ませることができたり,実際に体験
が不可能なことも疑似体験させることができたり
する点をあげている。
そこで,実践研究を踏まえ,ロールプレイング
に関しては校種や領域に応じた取り入れ方を十分
検討することが大切であり,検討すべき視点とし
て次の8点を示す。
①学習目標 ②取り入れる時期 ③場面設定の有
無 ④シナリオの有無 ⑤シナリオ制作に至る学
習活動 ⑥学習時間 ⑦発表方法 ⑧各種のシー
ト,自己評価票 等
実践的・体験的な学習活動を意義あるものにす
るためには,これらの視点を踏まえた事前の計画
を十分に行うことが大切である。
- 179 -
③
「家族と家庭生活」領域の学習展開の工夫に
ついて
本研究では,中学校及び高等学校の「家族と家
庭生活」領域において,実践的・体験的な学習活
動を有効に機能させるため,従来見られなかった
指導展開の工夫を取り入れた。中学校技術・家庭
科 で は , B 「 家 族 と 家 庭 生 活 」( 1,2,3,5) の 指
導展開を本来の形ではなく,B(2),(5)の学習か
らB(1) ,(3)へと学習をすすめた 。高等学校では ,
ホームプロジェクトを実施して2か月後,自己評
価を行い,次の課題発見へと結び付けた。今回の
研究協力校のように授業実践と分析を行い,家庭
科教育の充実が一層図られるよう,今後も研究を
重ねる必要がある。そのためには,地域や教育研
究団体,教育センター等での研修などで,これま
で以上に情報交換を積極的に行っていくことが求
められる。
また,教師のメンタリング機能を生かし,指導
する教師の力量を高めることも必要である。経験
の少ない教師は,積極的な姿勢で課題を他の教師
に投げかけ,情報を得るよう努力する,先輩教師は
自分の経験を伝えるなど,教師間において専門性
を高める取組みを行っていくことが大切である。
おわりに
家庭科は人間教育としての要素を多く含んでい
る。現在の生徒,そして将来の生活の主体者とし
て,いかなる価値観をもつ人間に育てるかについ
て,家庭科教師は大きく関与し,責任をもたなけ
ればならないことを意識すべきである。
梶田(1994)は,達成目標はクローズド・システ
ム,向上目標はセミ・クローズド・システム,体
験目標はオープン・システムをなしていると述べ
ている。学習・教授・評価が閉ざしていても開い
ていても,達成度を測らなければ教師は授業を改
善することができず,生徒は自己をのばす観点を
知ることができない。
「家族と家庭生活」領域においては,向上目標
や体験目標となる項目が多いために指導と評価に
戸惑いの声があがりやすいが,この研究が一つの
指標となり,実践的な研究が充実することを願う
ものである。
最後に,本研究に当たって懇篤な御指導,御助
言を与えてくださった柴静子先生,また,実践研
究に御理解,御協力をいただいた研究協力員及び
研究協力校の皆様に心からお礼申し上げる。
注
(1) 自己評 価の現 状につ いて は「新 しい評価の 実際 第
2巻 教科学習における評価」 pp.22-26に詳しい。
(2) 具体的 な指導 法に踏 み込 んだ研 究としては ,平成6
∼8 年度 に 東京 都 立教育 研究所 が行っ た「家 庭科 ,技
術・家庭科における問題解決能力の育成に関する研究 」
がある。
(3) 心理劇 の導入 過程に ウォ ーミン グアップが あり,今
回の ロー ル プレ イ ングに も取入 れた。 家庭科 にお ける
心理劇については,浜田駒子著(2001 )「家庭科におけ
る心理劇の実践」家政教育社が参考になる。
(4) 平成12年に海 田町立海田中 学校等が行った 高校生等
保育 ・介 護 体験 総 合推進 事業「 海田地 域のお ける 中・
高校 生保 育 等体 験 促進研 究」報 告書を 参考と した (研
究同人として筆者もかかわっている )。
引用文献
赤崎眞弓(2000):「『 生きる力』と家庭科 」『家庭科教師の
実践力 』,建帛社,pp.19-20
梶田叡一(1994):『教育における評価の理論 Ⅰ 』,金子書
房,pp.4-9
日台利 夫(1994):「 子どもの自己評価 」『教職研修総合特
集 新 し い 評 価 観 読 本 』, 教 育 開 発 研 修 所 , pp.86-89
安彦忠 彦(1997):「なぜ自己評 価をするのか 」『自己評価
研究シリーズ1 自己評価を取り入れた授業 』,明治図
書,p.16
鶴田敦子(2001):「『 家庭分野 』の評価をどう工夫するか 」
『教職研修 』,教育開発研究所,pp.40-41
奈須正 裕(1998):「自ら学ぶ子 を育てる評価 」『新しい教
育課程と学校づくり③ 自ら学び自ら考える力の育
成 』,ぎょうせい,pp.153-155
梶田叡一(2002):『 教育評価( 第2版補訂版 )』,金子書房 ,
p.82
中間美砂子編著(1992):「『 家族・家庭生活 』教育の理論 」
『小 ・中 ・ 高等 学 校で「 家族・ 家庭生 活」を どう 教え
るか 』,家政教育社,pp.9-10
澤井セイ子(1998):「多様な家族・家庭生活」『Assetビジュ
アル家庭科教育実践講座』第2巻,ニチブン,p199
朴木佳緒留(1996):「 家族の学習 」『現代家族学習論 』,朝
倉書店,pp.73-75
瀬 戸 真 (1990):「 生 涯 学 習 の 基 礎 と し て の 学 校 教 育 と 体
験 」『人間の在り方を求める新教育4 人間の在り方を
求める体験学習 自己を見つめる力を求める 』,ぎょう
せい,p.220
柴静子 (1998):「模擬体験学習−劇化・ロールプレイング・
疑似体験」『Assetビジュアル家庭科教育実践講座』第2
巻,ニチブン,p250
参考文献
日本家庭科教育学会編著(1997 ):『 小・中・高等学校家庭
科教育の新構想研究 家庭科の21世紀プラン 』,家政教
育社
北尾倫彦編著(平成3年):『 新しい授業の創り方講座2
考える力と創造性の育成を目指す授業実践の改革 』,第
一法規出版
梶田叡一,笹本一高,中島章夫編著(平成3年):『 新しい
授業の創り方講座7 授業改革ハンドブック 』,第一法
規出版
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