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鏡よ鏡 - AKIKO MARCHANT

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鏡よ鏡 - AKIKO MARCHANT
鏡よ鏡
子供の頃に読んだ白雪姫の中で、怖い継母
の女王が鏡に向かって語りかける。「鏡よ鏡、
世界で一番美しいのは誰?」そして鏡が答え
る、「世界で一番美しいのは女王様、けれど
森の中の白雪姫はもっと綺麗。」怒り狂った
女王(実は魔女)が家来に白雪姫殺害を命じ
る。ディズニーの名作のアニメ映画の中の女
王は、美しいというより、目の釣りあがった、
ひたすら恐ろしげなおばさんだったことを覚
えている。
日常の中で鏡に話しかける人はあまりいな
い。デートの前に鏡に向かって、「完璧!」
一日三十分でも一年にすると百八十時間以上。
お化粧の目的は自分をより綺麗に、魅力的
に見せること。それは確かだけれど、本当に
などと、気合を入れることはあるのかもしれ
ないけれど。四十代、五十代の多くの女性は
朝起きたら、まず家族にご飯を食べさせて送
り出し、それからようやくシャワーを浴びて、
大切なのはお化粧をしている「鏡の中の美し
い自分を記憶する」時間なのである。
朝晩のストレッチや愛犬の散歩、ヨガなど、
鏡を見ながらゆっくりスキンケア。そしてお
化粧をしたり、しなかったり。
さてお化粧をする時、あなたはどんな顔を
健康のために身体を動かすことはとても大切
なこと。そしてそれを毎日続けることに意義
がある。それと同じように、どこにも出かけ
ない日曜日や、誰にも会う予定の無い平日で
していると思いますか?実はこの時、誰でも
無意識のうちに自分自身が一番綺麗に見える
顔を作っているはず。
一日に一回、誰もいない、ひとりきり部屋
あったとしても、いつもと同じ手順でお化粧
をする。思いがけず美しく仕上がった自分の
顔に嬉しくなって、家にいるのがもったいな
で一番美しい自分をみつめる。顔にお化粧を
施すというのは、自分の美しさと向き合う時
間なのだ。薄化粧でもしっかりメイクでも、
鏡に向かって真剣に自分の顔と向き合う。そ
れはどんなマッサージやパックよりずっと効
果的なスキンケアなのである。
お化粧に使う時間は三十分?それとも一時
間?その間、女性たちは顔を引き締め、笑顔
を作り、目を見開いて、唇を突き出し、最も
美しい顔を形状記憶合金のように作りこむ。
くなったら、ふらっと昼下がりのカフェに立
ち寄って、窓際の席に座り、街路樹を眺めな
がらひとりでお茶を飲んでもいい。パステル
カラーの柔らかいカシミアのツインセットを
着て、たまには玄関で夫を迎えて驚かせても
みるのもアリだ。
白雪姫の継母は恐ろしい魔女だったけれど、
女として気持ちはわからないでもない。いく
つになっても、美しくありたいと思うポジテ
ィブな気持ちは大切。そして魔女では無い私
たちは、二十代の娘たちの若さに嫉妬するの
ではなく、鏡の中の自分自身を恋人にすれば
いい。池に映る自分のリフレクションに恋す
るナルシスの思い入れで、自分を徹底的に可
愛がる。お化粧の時間はひとりの時間なのだ
から、思う存分自意識過剰になってそっとつ
ぶやいてみよう。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」
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