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ブッキングコム事件 - 不二商標綜合事務所

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ブッキングコム事件 - 不二商標綜合事務所
最 新判 決 情 報
2010 年
〔12 月 分 〕
〇 ブッキングコム標
ブッキングコム 標 事 件
知 財 高 裁 H22.12.14 H22(
( 行 ケ ) 10171 審 決 取 消 請 求 事 件 ( 中 野 哲 弘 裁 判 長 )
日 本 を指 定 国 とした国 際 登 録 商 標 「 BOOKING.COM(図 形 )」 ( 右 上
掲 )が、引 用 商 標 「Book-ing(図 形 )」(右 下 掲 )に類 似 するとして 拒 絶
されたので、当 該 審 決 の取 消 が求 められた事 案 である。
争 点 は、インターネ ット のト ッ プレベル・ ドメインを意 味 する「.COM」 の
有 無 である。
「.COM」 の扱 いに 関 して 審 決 では、電 子 商 取 引 が幅 広 く行 な われて いる実 情 からは、
識 別 性 は強 くな く、その前 に 位 置 する語 が要 部 となると判 断 し、両 商 標 を「ブッキング」の
称 呼 と「 予 約 」の観 念 に おいて 類 似 するとした。最 近 で は、この種 の審 決 が 多 いようで あ
る。
これに対 して判 決 では、<「 ○ ○ .COM 」の表 示 は、全 体 が一 体 となってインターネットアドレスの一 部 を表 す
もので、一 体 であることによって特 定 の意 味 を持 つといえ>として、「.COM」を要 部 から外 す合 理 的 な理 由 はな
いと判 断 し、本 願 商 標 からは「ブッキンングドットコム」あるいは「ブッキングコム」の称 呼 と「予 約 に関 するインタ
ーネットアドレス」との観 念 が生 ずると認 定 した。
一 方 、指 定 役 務 に ついて は、第 42 類 「 宿 泊 施 設 の提 供 、宿 泊 施 設 の提 供 の 契 約 の 媒 介 または取 次 ぎ
(42A01,A02)」が抵 触 するところ、引 用 商 標 はこの部 分 について不 使 用 取 消 審 判 で取 り消 されたので、引 用
商 標 は当 該 役 務 について過 去 3 年 間 使 用 されていなかった。
これに対 して、本 願 商 標 は、89 ヶ国 の「オンラインホテル予 約 」について使 用 され、審 決 時 には一 定 の信 用
が形 成 されていたものと推 測 されるとし、両 商 標 は「予 約 」との観 念 で一 部 共 通 し、「ブッキング」の称 呼 部 分 で
共 通 するが、前 記 の取 引 の実 情 を総 合 勘 案 すると、類 似 するとはいえないとして審 決 を取 り消 した。
判 決 にはいくつか疑 問 がある。まず、「.COM」の部 分 が要 部 として不 可 避 的 であると最 初 に認 定 するのであ
れば、殊 更 に取 引 の実 情 を考 慮 するまでもなく、単 純 に商 標 非 類 似 と認 定 することが出 来 たのではないかとい
う点 である。
また取 引 の実 情 をいうのであ れば、引 用 商 標 の対 象 商 品 ・役 務 に ついても論 じなくては、両 商 標 が現 実 に
混 同 を生 ずるか否 かは判 断 できないであろう。
ウィキペディアによると、引 用 商 標 「Book-ing」は、1 冊 から受 注 生 産 するオンデマンド出 版 事 業 としてスター
トし、後 に絶 版 書 籍 の復 刻 事 業 を手 がけるなど、「書 籍 」に関 する事 業 の商 標 であり、正 に引 用 商 標
「Book-ing」が表 わすとおりである。
つまり、引 用 商 標 の指 定 役 務 中 、第 41 類 の冒 頭 「書 籍 ・雑 誌 その他 の印 刷 物 及 び電 子 出 版 物 の制 作 、受
託 による書 籍 の制 作 、書 籍 の出 版 の代 行 」が引 用 商 標 の眼 目 の役 務 なのである。
そうすると、引 用 商 標 がたとえ「ブッキング」と称 呼 されたとしても、それは「書 籍 」を意 味 する「Book」を動 詞
的 に用 い、これに現 在 進 行 形 の「ing」を結 合 させ、「本 を作 る」というイメージであり、従 って、引 用 商 標 は「予
約 」とは関 係 ないのである。
一 方 、本 願 商 標 はどうであろう。本 願 商 標 は「オンラインホテル予 約 」サービスに使 用 されているのであるが、
そのようなサービスに「予 約 」を意 味 する「BOOKING」が果 たして識 別 性 を有 するのであろうか、という点 である。
さらに判 決 は、本 願 商 標 の観 念 を「予 約 に関 するインターネットアドレス」と認 定 しているが、そうでれば、なおさ
らに 役 務 の内 容 をそのまま表 示 しているに 過 ぎないので あり、本 願 商 標 の要 部 とされる「BOOKING.COM」 の
独 占 適 応 性 まで も問 題 に な って くる。つまり、「 ホテル」に 限 らず 「 オンライン予 約 サー ビス 」に ついて、他 社 は
「booking.com」のドメインを使 用 できなくなるのである。
裁 判 所 が商 標 の観 念 を勝 手 に認 定 するのか構 わないが、その際 には、認 定 された称 呼 や観 念 が当 該 指 定
商 品 や役 務 について、識 別 が可 能 な称 呼 や観 念 であるかどうかという点 を念 頭 におくべきであろう。指 定 商 品
「林 檎 」について「リンゴ」の称 呼 、観 念 が生 ずると判 断 しても、識 別 には機 能 しないのであるから。
なお「.com」や「.jp」、「@」などIT用 語 に関 する審 決 例 を当 サイト 審 決 データファイルに掲 載 しているので、
参 照 されたい。
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〇 エコルクス事
エコルクス 事 件
知 財 高 裁 H22.12.15
H22(
( 行 ケ ) 10012,
, 同 10013 審 決 取 消 請 求 事 件 ( 滝 澤 孝 臣 裁 判 長 )
登 録 商 標 「エコルクス」(標 準 文 字 ) 及 び「エコルクス/ECOLUX」に対 する不 使 用 取 消 審 判 が不 成 立 との
審 決 を受 けたので、当 該 審 決 の取 消 が求 められた事 案 である。
争 点 は、商 標 使 用 の定 義 である法 2-3-1 号 の「包 装 に付 する行 為 」と法 2-3-8 号 の広 告 等 の「頒 布 」の解
釈 である。
本 件 の時 系 列 は以 下 の通 りである。もちろん不 使 用 取 消 の基 準 日 は、審 判 請 求 日 で はなく、審 判 請 求 予
告 登 録 日 以 前 の使 用 の可 否 である。
*平 成 21 年 4 月 6 日 :被 告 によるデザイン会 社 への容 器 パッケージデザイン発 注
*平 成 21 年 4 月 10 日 :被 告 への電 子 メールによるパッケージデザイン納 品
*平 成 21 年 4 月 14 日 :本 件 不 使 用 取 消 審 判 請 求
*平 成 21 年 4 月 30 日 :取 消 審 判 請 求 登 録 日 ・・・基 準 日
*平 成 21 年 4 月 30 日 :印 刷 業 者 から被 告 への情 報 誌 (パッケージデザイン掲 載 )納 品
*平 成 21 年 4 月 30 日 :被 告 から小 売 店 への情 報 誌 発 送 日
*平 成 21 年 5 月 1 日 :同 上 情 報 誌 の小 売 店 への配 達 日
*平 成 21 年 6 月 11 日 :被 告 商 品 の中 国 での生 産 開 始 日
まず商 品 の包 装 に標 章 を付 する行 為 (法 2-3-1)であるが、審 決 では、審 判 請 求 登 録 日 以 前 より商 品 販 売
が企 画 され、デザイン会 社 に包 装 容 器 のデザインが発 注 され、デザインが納 品 され、これに本 件 商 標 が付 され
ているので、審 判 請 求 登 録 後 に当 該 包 装 容 器 を用 いた宣 伝 広 告 活 動 があったとして も、登 録 商 標 の使 用 が
あったともの認 定 し、取 消 審 判 請 求 を不 成 立 とした。
しかし、判 決 では、「包 装 に標 章 を付 する行 為 」とは、現 実 に商 品 を包 装 したものに標 章 を付 した場 合 、ある
いは標 章 を付 した包 装 紙 等 で商 品 を包 装 する行 為 をいい、商 品 を包 装 していない単 なる包 装 紙 に標 章 を付 し
ても、これに当 らないので、デザイン会 社 から納 品 された電 子 データを保 持 するまでの行 為 は使 用 には当 らな
いと判 断 した。
次 に、容 器 デザインが掲 載 された情 報 誌 を小 売 店 に配 布 した行 為 が「広 告 」に当 るかであるが、法 2-3-8 等
の広 告 等 の「頒 布 」とは、広 告 等 が一 般 公 衆 による閲 覧 可 能 な状 態 に置 かれることをいうので、本 件 において
は情 報 誌 が小 売 店 に配 達 された 5 月 1 日 となり、審 判 請 求 日 以 前 の使 用 には当 らないとして、審 決 を取 り消
した。
誠 に微 妙 な時 系 列 であり、結 果 として本 件 商 標 が使 用 されたことは間 違 いないので、登 録 商 標 を保 護 しよう
との特 許 庁 の意 図 は理 解 できるが、判 決 の解 釈 が常 識 的 な「使 用 」の定 義 の解 釈 であろう。
〇中 検 事 件
東 地 判 H22.12.16 H21(
( ワ ) 2400 商 標 権 移 転 登 録 手 続 請 求 事 件 ( 阿 部 正 幸 裁 判 長 )
中 国 語 の検 定 試 験 事 業 を行 なう日 本 中 国 語 検 定 協 会 が当 時 権 利 能 力 なき財 団 で
あったため、同 社 が使 用 して いた商 標 「 中 検 」は、当 時 の理 事 長 の個 人 名 義 で 出 願 さ
れ商 標 登 録 された。
その後 、商 標 権 者 で あ る理 事 長 が 亡 くな り、相 続 に より当 該 商 標 権 が 子 息 に 移 転
登 録 されたため、一 般 財 団 法 人 となった(財 )日 本 中 国 語 検 定 協 会 が相 続 人 に対 して当 該 商 標 権 の移 転 を
求 めた事 案 である。
争 点 は、本 件 商 標 「中 検 」が、当 時 の理 事 長 の個 人 事 業 のために登 録 出 願 されたものか、あるいは、理 事
長 が旧 協 会 のために、委 任 契 約 の下 に、その代 表 者 として登 録 出 願 したものかどうかである。
当 事 務 所 は原 告 の商 標 登 録 出 願 の代 理 人 であり、弁 理 士 小 谷 武 が、原 告 側 補 佐 人 として本 件 を担 当 し
た。
旧 協 会 は、昭 和 56 年 から法 人 化 される平 成 20 年 までの間 、毎 年 中 国 語 の検 定 試 験 を実 施 し、平 成 6 年
頃 から本 件 商 標 を当 該 中 国 語 検 定 試 験 の呼 称 ・略 称 として、また旧 協 会 自 身 を表 示 するものとして積 極 的 に
使 用 するようになった。法 人 化 された平 成 21 年 以 降 も検 定 試 験 を実 施 し、本 件 商 標 を使 用 している。
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旧 協 会 では、本 件 商 標 が周 知 されるようになったため、平 成 9 年 1 月 に本 件 商 標 を登 録 出 願 しようとしたが、
当 時 旧 協 会 が法 人 格 を有 していなかったため、当 時 の理 事 長 個 人 名 で本 件 商 標 を出 願 した。本 件 商 標 が登
録 された後 、平 成 15 年 7 月 に理 事 長 が死 亡 し、本 件 商 標 は被 告 に相 続 され、平 成 18 年 6 月 に移 転 登 録 さ
れた。
そこで、原 告 は、被 告 に対 して本 件 商 標 権 の移 転 を求 めて折 衝 したが、不 調 に終 わったため、本 訴 を提 起 し
た。
本 件 の前 提 となる争 点 として 、旧 協 会 が当 時 、権 利 能 力 なき財 団 であ ったか否 かという点 があり、当 然 被
告 はこの点 を否 定 したが、判 決 では、旧 協 会 による長 年 に わたる中 国 語 検 定 試 験 の実 施 行 為 、旧 協 会 の寄
付 行 為 (=定 款 )の制 定 、旧 協 会 の組 織 と運 営 、税 務 申 告 状 況 、原 告 設 立 と旧 協 会 との同 一 性 などから、本
件 商 標 の出 願 当 時 、旧 協 会 は個 人 財 産 から分 離 独 立 した基 本 財 産 を有 し、運 営 のための組 織 を有 していた
ので、権 利 能 力 なき財 団 として、社 会 生 活 上 の実 体 を有 していたと認 定 した。
そうすると、当 然 、本 件 商 標 を使 用 して きたのも旧 協 会 と 原 告 であ り、本 件 商 標 の出 願 費 用 、登 録 費 用 を
負 担 したのも旧 協 会 であった一 方 、元 理 事 長 は個 人 として本 件 商 標 を使 用 していなかったことなどから、本 件
商 標 が元 理 事 長 名 義 で出 願 されたのは、旧 協 会 が法 人 格 がなかったための便 宜 的 なものであり、原 告 が旧
協 会 の権 利 義 務 を承 継 している以 上 、被 告 は原 告 に対 して本 件 商 標 権 の移 転 登 録 義 務 を負 っているとして、
裁 判 所 は、被 告 に対 して本 件 商 標 権 の移 転 を命 じた。
本 件 では、旧 協 会 が権 利 能 力 なき財 団 としての実 体 を備 えていたか否 か、そして元 理 事 長 が旧 協 会 との委
任 契 約 に基 づいて本 件 商 標 の出 願 を行 なったか否 かという点 に裁 判 所 が重 点 を置 いたため、専 ら訴 訟 活 動
はこの点 に向 けられたが、商 標 法 的 にみると、長 年 本 件 商 標 を使 用 してきたのは旧 協 会 であり、商 標 「中 検 」
に化 体 した信 用 は旧 協 会 に 対 する信 用 であった以 上 、これを引 き継 いだ原 告 は本 件 商 標 の正 当 な権 利 であ
ることは自 明 の理 であると思 われる。
一 方 、判 決 が言 うように、元 理 事 長 は個 人 として本 件 商 標 を使 用 したことはな かったし、また相 続 により本
件 商 標 権 の名 義 人 となった被 告 は医 療 関 係 に 従 事 するものであり、本 件 商 標 とは無 関 係 である以 上 、形 式
的 には被 告 が財 産 権 を譲 り受 けたようにみえても、本 件 商 標 に化 体 したグッドウィルを被 告 は譲 り受 けて居 ら
ず、グッドウィルは依 然 として原 告 の下 にあり、継 続 して原 告 が本 件 商 標 を使 用 していることに鑑 みれば、誰 が
正 当 な商 標 権 者 であるか、結 論 は明 らかなように思 えるが、法 律 的 は、裁 判 所 が求 めたようなストーリーにな
るのであろう。
業 界 団 体 な ど権 利 能 力 な き社 団 や財 団 が組 織 され、現 に 社 会 活 動 として 業 界 や団 体 のために 商 標 が使
用 されるようになると、その商 標 を守 るため商 標 登 録 が必 要 となる。そうすると、法 人 格 がない以 上 、便 宜 的 に
代 表 者 個 人 名 義 や幹 事 企 業 の名 義 を借 りて商 標 出 願 することになる。
幹 事 会 社 が出 願 人 であ れば、死 亡 ということは考 え られないので 比 較 的 問 題 は少 な いが、個 人 名 義 の場
合 、死 亡 という事 実 が避 けられないため、商 標 権 の行 方 が問 題 となる。
そのような事 態 を避 けるため、たとえ便 宜 的 に会 員 企 業 名 義 であれ、個 人 名 義 であれ、判 決 が問 題 にした
ように、商 標 出 願 に関 する「委 任 契 約 書 」を作 成 しておくことが望 ましいし、あるいは便 宜 的 な方 法 として、譲 受
人 名 を白 紙 とした「商 標 権 譲 渡 証 書 兼 単 独 申 請 承 諾 書 」に当 該 代 表 者 名 義 で 記 名 捺 印 したものを、予 め用
意 しておくことなどが必 要 になる。
今 後 の手 続 であるが、被 告 が控 訴 しないと本 判 決 が確 定 し、特 許 庁 に対 して移 転 登 録 申 請 を行 なうことに
なる。当 事 務 所 でも判 決 を原 因 とする商 標 権 移 転 登 録 申 請 を行 なった経 験 がないが、確 定 判 決 正 本 と裁 判
所 が発 行 した確 定 判 決 証 明 書 を移 転 登 録 申 請 書 に添 付 することで、原 告 のみによる単 独 申 請 が可 能 となる
(特 許 登 録 令 20 条 )。
なおこのような判 決 による商 標 権 移 転 の場 合 、譲 渡 対 価 については当 然 無 償 ということでよいのであろうか。
あるいは、被 告 が対 価 の支 払 いを求 めた場 合 、それが合 理 的 であ れば、原 告 に 対 価 の支 払 い義 務 がしょう
ずるのであろうか。
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〇 EXTRIMA 判 決
知 財 高 裁 H22.12.22 H22(
( 行 ケ ) 10257 審 決 取 消 請 求 事 件 ( 滝 澤 孝 臣 裁 判 長 )
第 9 類 「水 素 もれ検 出 器 」を指 定 商 品 とする国 際 登 録 商 標 「EXTRIMA」の日 本 への指 定 国 出 願 が、引 用
商 標 「Exstreamer」によって拒 絶 されたので、当 該 審 決 の取 消 が求 められた事 案 である。
判 決 は単 純 に、本 願 国 際 商 標 「EXTRIMA」の称 呼 「エクストリマ」と引 用 商 標 の称 呼 「エクストリーマー」とで
は、長 音 の有 無 に 過 ぎ ない類 似 商 標 で あ り、本 願 国 際 商 標 の指 定 商 品 「 水 素 もれ検 出 器 」 は「 測 定 機 械 器
具 」に該 当 し、引 用 商 標 の指 定 商 品 「電 子 式 及 び光 学 式 の測 定 用 及 び監 視 用 機 器 」に類 似 するとして、審 決
を支 持 した。
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