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法人 マルチメディア振興センター

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法人 マルチメディア振興センター
禁無断転載複写
こどもの創造力・表現力向上を目指したワーク
ショップ活動の調査研究およびプログラム開発
報告書
平成 17 年 3 月
FMMC
財団
法人
マルチメディア振興センター
Foundation for MultiMedia Communications
は
じ
め
に
情報化と国際化の進展に伴い、ICT リテラシーを土台にして、創造力とコミュニケーシ
ョン力を高めていくことが我が国の課題となっています。知的活動の成果としてのコン
テンツが競争力ある産業分野として成長することも期待されています。取り分けデジタ
ル時代を担う子どもたちの世代がこのような創作・表現活動を行う環境づくりが必要で
す。折しも教育分野では、総合的な学習の時間が導入され、情報の創造や交流に向けた
取組が注目されています。
本調査研究は、このような背景のもと、平成 15 年度に引き続き、特定非営利活動法人
CANVAS に調査を委託し、子どもの創造力や表現力の向上を目指し、ネットワークの活用
を含むさまざまなワークショップ(参加者自らが体験しながら何かを学ぶ活動)が安価
で容易に実施できる新しい手法を開発するとともに、その普及・啓発の方法を検討する
ことを目的として実施したものです。
この結果を踏まえ、所要の施策を講じていくことにより、子どもたちが日本独自のデ
ジタル・コンテンツを創作し、世界に発信する活動が活発に行えるようになり、将来の
ICT ネットワーク社会を担う人材の育成にも貢献することが期待されます。
本報告書が、ICT を用いた子どもの創造力と表現力の向上を目指した活動の推進につい
てご検討されている、政府、地方自治体、企業、学校、ミュージアム、地域コミュニテ
ィーの方々に少しでも寄与できれば幸いです。
平成 17 年 3 月
財団法人マルチメディア振興センター
理事長
白井
太
目
次
はじめに
序章 ..................................................................................................................................- 5 1.背景と概要.................................................................................................................- 5 2.CANVAS........................................................................................................................- 6 3.調査検討内容 .............................................................................................................- 7 第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究 ............................- 19 -
1.調査の概要...............................................................................................................- 19 2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査....................................- 20 3.企業から見た問題・要望に関する調査....................................................................- 80 4.行政から見た問題・要望に関する調査..................................................................- 100 5.まとめ....................................................................................................................- 125 第 2 章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・デジタル技
術の先駆的活用方法の研究...........................................................................................- 131 1.調査の概要.............................................................................................................- 131 2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査 ..........................- 132 3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び行政・大学・
企業への対応方策の提言の調査研究.........................................................................- 149 4.新規ワークショップの開発....................................................................................- 166 5.まとめ....................................................................................................................- 186 第 3 章
参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の
方法の研究....................................................................................................................- 189 1.調査の概要.............................................................................................................- 189 2.イベントを通じた情報発信....................................................................................- 190 3.ネットを通じた情報発信 .......................................................................................- 202 4.まとめ....................................................................................................................- 227 第4章
子どもの創造力・表現力の向上に関する調査研究課題と方策.......................- 231 -
1.各々の調査の概要..................................................................................................- 231 2.課題と方策.............................................................................................................- 237 用語解説 .......................................................................................................................- 238 -
-1-
-2-
序章
-3-
序章 ..................................................................................................................................- 5 1.背景と概要.................................................................................................................- 5 2.CANVAS........................................................................................................................- 6 3.調査検討内容 .............................................................................................................- 7 1)参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究 ..................................- 7 2)参加型ワークショップ内容の理解を深めるためのデジタルコンテンツ・デジタル技
術の先駆的活用方法の研究........................................................................................- 9 3)参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方
法の研究 ..................................................................................................................- 11 -
-4-
序章
1.背景と概要
序章
1.背景と概要
e-Japan 戦略は、「国民の持つ知識が相互に刺激し合うことによって様々な創造性を生
み育てるような知識創発型の社会を目指す。ここで実現すべきことの第一は、すべての
国民が情報リテラシーを備え、地理的・身体的・経済的制約等にとらわれず、自由かつ
安全に豊富な知識と情報を交流し得ることである。」とし、情報リテラシーの向上、コン
テンツ・クリエイターの育成を重点政策としている。インフラとして ICT の普及が進む
中、一人ひとりの情報発信力を高め、コンテンツ生産力を高める活動が国の政策として
も求められているのである。取り分け、デジタル時代を担う子どもたちの世代が創作・
表現活動を行う環境づくりが重要となっている。各地の拠点や学校の活動を促進し、全
国の子どもたちの取り組みが活性化することを通じて、国全体の底上げを図ることが期
待される。
しかしながら、このようなデジタル時代のこどもたちの創造力・表現力を向上させる
ための活動を推進する環境はいまだ十分ではなく、今後、官庁、企業、大学・研究機関、
学校、ミュージアムなど、この領域に関わるさまざまなセクターの人々が連携し整備し
ていくことが重要である。
本調査研究は、このような背景のもと、子どもの創造力や表現力の向上を目指し、ネ
ットワークの活用を含むさまざまなワークショップ[1]が安価で容易に実施できる新しい
手法を開発するとともに、その普及・啓発の方法を検討することを目的として実施した
ものであり、今年度は以下の 3 項目を調査研究の柱とした。
1)参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2)参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3)参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー
形成の方法の研究
[1]ワークショップ:参加者自らが体験しながら何かを学ぶ活動
-5-
序章
2.CANVAS
2.CANVAS
本調査研究を受託実施したCANVASは、子どもの創造力・表現力の向上のために、2002
年に設立されたNPO法人[2]である。
「我が国が 5 年以内に世界最先端の IT 国家になる」という目標を掲げる政府 e-Japan
戦略に沿った施策として、次世代を担う人々が、自分で創り、自分で表現するネットワ
ーク環境の整備を目指して、アニメ・音楽・ロボット作りワークショップの開発や、国
内・海外との連絡調整、調査研究などを実施している。
一人ひとりの情報発信力やコンテンツ生産力を高める活動の成果が各地の拠点や学校
の活動を促進する。これを通じて、全国の子どもたちの取り組みが活性化し、国全体の
底上げが図られることを目標としている。
川原正人 NHK 名誉顧問が理事長を務め、山内祐平東京大学情報学環助教授と中村伊知
哉スタンフォード日本センター研究所長が副理事長を務めている。総務省をはじめとす
る政府関係者のほか、科学館・子ども博物館、学校・教育関係者、大学等の研究者、さ
まざまな分野のアーティスト、ICT 系の企業、学習やデザインの関連の企業、地方自治体
などからなる産学官コミュニティーとして運営されている。欧米、アジア、南米の関係
者とも連携している。
※ウェブサイト
http://www.canvas.ws
[2]NPO 法人:特定非営利活動法人
-6-
序章
3.調査検討内容
3.調査検討内容
本調査研究は、子どもの創造力や表現力の向上を目指し、ネットワークやデジタル機
器を用いた各種コンテンツ創造活動が全国各地で実施できる新しい手法を開発するとと
もに、その普及・啓発の方法を検討するため、以下のとおり、1)、2)、3)の 3 調査検討
を総合的かつ有機的に実施した。
1)参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
全国のデジタル技術を活かした子どもの創造力・表現力を高める自立的活動を活性
化するためには、学校、ミュージアム、企業、政府、自治体、アーティストその他す
べての人、機関、団体との連携、情報交流が必要である。そこで、まず、各々の団体、
機関のニーズ、シーズを調査する。平成 14 年度は、国内外における博物館、科学館、
子ども博物館等が実施しているワークショップ活動の実態、現状を把握する調査を行
った。平成 15 年度は、平成 14 年度の調査で明らかになったワークショップ・プログ
ラムの流通不足の解消を目的に、ワークショップ・プログラムを欲している国内の学
校、ミュージアムに焦点を絞り、
「なぜワークショップ・プログラムが流通しないのか」
「どうすれば流通するようになるのか」「どのようなワークショップ・プログラムが求
められているのか」といったニーズの調査を行った。
3 年目となる平成 16 年度は、平成 14 年度、平成 15 年度の調査を通じて明らかにな
った、子どもの創造力・表現力向上のための活動の普及にあたっての課題を克服すべ
く、その方策を研究した[P8 図 1 参照]。具体的には、平成 15 年度の「創造力・表現力向上
を目指した活動の調査研究及びワークショップ・プログラム開発」の調査の課題でま
とめた、ワークショップ普及にあたって有効だと思われる、ワークショップのパッケ
ージ化、ワークショップの評価基準の策定、ワークショップ開催にあたっての人材育
成を深く調査した。
同時に、今まで調査されていなかった企業及び行政のニーズ、シーズの調査を並行
して行うことにより、来年度以降、学校、ミュージアム、企業、政府等の連携による
子どもの創造力・表現力向上の具体的方策の提言につなげることを目標とした。
1) 参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
-7-
序章
3.調査検討内容
参加型ワークショップに
関するニーズ調査
参加型ワークショップに
関するシーズ調査
対象:学校・ミュージアム
対象:学校・ミュージアム
ワークショップ・プログラム
普及にあたっての課題の抽出
ワークショップ・プログラム普及
のための方策の研究
企業・行政との連携方法の模索
企業及び行政のニーズ・シーズの調査
学校、ミュージアム、企業、行政との連携に
よる、デジタル時代の子どもの創造力、表
現力向上のための活動の促進
図 1:参加型ワークショップに関する実態調査の流れ
1) 参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
-8-
序章
3.調査検討内容
2)参加型ワークショップ内容の理解を深めるためのデジタルコンテンツ・デ
ジタル技術の先駆的活用方法の研究
平成 14 年度、平成 15 年度に行った「子どもの創造力・表現力向上を目指したワー
クショップ形態の調査検討とネットワークを利用した新しいワークショップ・プログ
ラムの開発」の一環として行った「ネットワークを利用した新しいワークショップ・
プログラムの開発と実証実験」により、ブロードバンドネットワークやデジタル機器
を用いた参加型ワークショップは、子どもたちがメディアリテラシーなどを身に付け
る手段として非常に有効であることが実証され、その重要性が明らかになった。
しかしながら、創造・表現・ICT 系のワークショップで全国普及できるようなものは
少なく、実際に普及しているものは皆無に等しいことも明らかになった。
その一方で、学校現場の総合的な学習の時間の導入によって教諭はそのカリキュラ
ムを作り上げていくのに苦労している。博物館や科学館、児童館などでのワークショ
ップではリピーターが多いために数多くのカリキュラムを用意しなければならず、絶
えずコンテンツを求めている。
そういった全国規模でワークショップに対する需要があるにもかかわらず、供給側
が未整備で積極的にワークショップが展開されていない現状が依然として続いている。
ICT 系のワークショップは、過去 2 年間の国内調査の現状を見る限り、最も立ち遅れ
たジャンルであり、子どもたちがデジタル時代に適応できるような一人ひとりの情報
発信力を高め、コンテンツ生産力を高めるために新しいワークショップを生み出し、
その種類を増やしていくことが必要不可欠となっている。
また、開発-普及のパッケージ化ノウハウも確立しておらず、まったく新しいワーク
ショップの開発や、先駆的ではあるが大仕掛け、高予算を必要とするワークショップ
を安価で容易に実施できるよう改良する手法の開発も必要であることがわかった。
同時に、昨年度の様々なワークショップを開催し、参加者からの反応を分析した結
果、今後の大きな展開を図るには、もっと本質的に技術と子どもの創造力・表現力の
関係を検討することが必要である、という結論に達した。
本年度の調査は、先駆的なデジタル・コンテンツ、デジタル技術を用いて、手軽に
開催できるワークショップ・プログラムの拡充を目指すこととした。
同時に、子どもたちがデジタルコンテンツ・デジタル技術を用いて、協調して創造・
表現活動を行うための基礎的な技術的調査を行った[P10 図 2 参照]。
2)参加型ワークショップ内容の理解を深めるためのデジタルコンテンツ・デジタル技術の先駆的活用方
法の研究
-9-
序章
3.調査検討内容
ワークショップの開発
学校・ミュージアムのニーズに基づ
いた各種ワークショップの開発
今までに開発されたワーク
ショップ・プログラムの分析
創造・表現活動のための基礎的
な技術に関する研究
新規ワークショップ・プログラムの開発
ワークショップ・プログラムの拡充と
全国的普及
図 2:参加型ワークショップ・プログラムの開発及び実証実験の流れ
2)参加型ワークショップ内容の理解を深めるためのデジタルコンテンツ・デジタル技術の先駆的活用方
法の研究
- 10 -
序章
3.調査検討内容
3)参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー
形成の方法の研究
平成 14 年度、平成 15 年度の調査より、デジタル時代の子どもの創造力・表現力向
上を目指した活動の全国的普及啓発にあたり、ワークショップ・プログラムを流通さ
せるためのパッケージ化の遅れ、情報の収集・発信システムの構築の 2 点が課題とし
てあげられた。
前者に関しては、1)、2)で、過去の調査結果を受けワークショップ普及啓発のため
のプログラム開発手法に関する調査結果を記した。本調査では、全国各地での子ども
の創造力・表現力向上のための取組みやその手法等の情報収集及び情報発信を行うた
めの機能の構築を目的とした調査を行った。
具体的方策としては、今までに、メールマガジンやパンフレット、ウェブサイト等
の作成を行い、情報を発信する土台を作り上げた。しかし、平成 15 年度の「創造力・
表現力向上を目指した活動の調査研究及びワークショップ・プログラム開発」の調査
結果から分かるように、平成 14 年度、平成 15 年度と、情報の収集やネットワーク作
りには関しては大きな成果をあげたものの情報の整理・編集・発信には依然として課
題が残っていた。
そこで、今年度は、リアル、バーチャル両方から情報発信の場をつくることを本調
査の目標とした。
具体的には、イベントを通じた情報発信とネットを通じた情報発信の二つに分け、
調査研究を行った[P12 図 3 参照]。
イベントを通じた情報発信に関しては、いままでの活動で最も普及効果が高かった
ワークショップコレクションを拡大し、多くのワークショップを全国の方々に紹介し
ていくことを行った。また、同時に総務省とタイアップして全国の取組みを紹介する
シンポジウムも企画した。さらに、各地のワークショップを支援し、普及啓発を図っ
た。
ネットを通じた情報発信としては、上記活動をもとに、現在のウェブを情報収集・
発信の場となるポータルサイトとなるようバージョンアップを図った。同時に、子ど
もの表現力の土台を形成しているポップカルチャーを文化資産ととらえて、子どもた
ちが容易に利活用できるようなインフラをつくるための手法に関する調査研究を行っ
た。
3)参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
- 11 -
序章
3.調査検討内容
情報収集のためのネット
ワーク及びコミュニティ作り
リアルな情報発信の場としての
シンポジウムの開催
情報発信の土台作り
メールマガジン、ウェブサイトなど
バーチャルな情報発信の場とし
てのポータルサイト・アーカイブ
ワークショップ・プログラム情報の収集と発信
全国へのワークショップ・プログラムの普及啓発
場の提供
図 3:参加型ワークショップの普及啓発の流れ
3)参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
- 12 -
序章
3.調査検討内容
参加型ワークショップ環境のデザインに関する研究
学校・ミュージアムでワークショップを普及させる際の課題に対する方策
企業、行政との連携方法に関する調査
学校/科学館/企業/行政等でのワークショップの
ニーズ調査に基づき、ワークショップの開発・実証実験をする。
デジタルコンテンツ・デジタル技術の先駆的活用方法の研究
過去に開発されたワークショップの分析
デジタル技術を用いて創造・表現活動を行うための基礎的な技術の研究
新規ワークショップの開発
開発したワークショップ等について普及啓発・情報発信していく。
普及啓発のための情報発信・コミュニティ形成の方法の研究
リアルな情報発信としてのシンポジウムとワークショップコレクション
バーチャルな情報発信としてのポータルサイト及びアーカイブ
子どもの創造力・表現力の向上
そのために、全国のこどもの創造力・表現力を高める自立的活動を活性
化。特にデジタル技術を活かした活動を充実させる。このため、学校、
ミュージアム、企業、政府、自治体、アーティストその他すべての方の連
携情報交流の場を提供し、活動のプラットフォームとなる。
図 4:子どもの創造力・表現力向上のための調査の流れ
3)参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
- 13 -
- 14 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境の
デザインに関する研究
- 15 -
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究 ............................- 19 -
第1章
1.調査の概要...............................................................................................................- 19 1)目的......................................................................................................................- 19 2)調査方法...............................................................................................................- 19 3)調査期間...............................................................................................................- 19 2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査....................................- 20 1)目的と概要 ...........................................................................................................- 20 2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査 .....................................................- 22 ①Project Wild .....................................................................................................- 22 ②GEMS ..............................................................................................................- 27 ③Project Learning Tree .....................................................................................- 32 ④Project Wet ......................................................................................................- 33 ⑤Project Fit........................................................................................................- 34 ⑥Nature Game...................................................................................................- 35 3)Project WildおよびGEMSについての詳細調査 .....................................................- 37 ①Project Wild .....................................................................................................- 37 ②GEMS ..............................................................................................................- 39 4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム ............................- 41 ①マリンワールド海の中道 ..................................................................................- 41 ②自然発見館 .......................................................................................................- 58 ③CAMP ..............................................................................................................- 66 5)教育的プログラム構築のための基本的な考え方..................................................- 71 ①教育プログラムを実施する場所 .......................................................................- 71 ②教育プログラムを実施するシチュエーション..................................................- 72 ③教育プログラム実施にあたっての適切な内容(プログラム・デザイン) .......- 72 ④教育的なプログラムの構築と一般化するためのパッケージ手法 .....................- 73 ⑤教育プログラムの評価システム .......................................................................- 74 ⑥教育プログラムを一般化する人材の育成 .........................................................- 77 ⑦その他(関係業界とのネットワークづくり)..................................................- 77 6)参考文献...............................................................................................................- 78 3.企業から見た問題・要望に関する調査....................................................................- 80 1)目的と概要 ...........................................................................................................- 80 -
- 16 -
2)企業とNPOの連携 ..................................................................................................- 81 ①連携の意義 .......................................................................................................- 81 ②NPOと企業のよりよい関係構築のための基本的視点 ......................................- 81 ③社会貢献に向けてのよりよい関係構築のための論点 .......................................- 82 ④【事例】企業が社会貢献を行う際にNPOに求めるニーズ ...............................- 84 3)企業の、デジタル時代の子どもの表現力・創造力を伸ばす活動に対する関心の可能
性.............................................................................................................................- 86 4)デジタル時代の子どもの表現力・創造力を伸ばす活動の普及啓発のために企業と連
携するに当たっての意味と課題 ..............................................................................- 89 5)企業NPO連携研究会、開催概要報告およびヒアリング内容..................................- 90 ①企業関係者参加の研究会開催の目的と概要 .....................................................- 90 ②構成 ..................................................................................................................- 90 ③第一回研究会....................................................................................................- 92 ④第二回研究会....................................................................................................- 95 6)NPOと企業の関係構築において目指すべき方向....................................................- 98 7)結論......................................................................................................................- 99 4.行政から見た問題・要望に関する調査..................................................................- 100 1)目的と概要 .........................................................................................................- 100 2)ICT教育分野におけるNPOと行政の関係 ..............................................................- 101 ①概略 ................................................................................................................- 101 ②学校外での活動 ..............................................................................................- 103 ③学校に関わる事業を行う場合.........................................................................- 115 3)まとめ ................................................................................................................- 124 5.まとめ....................................................................................................................- 125 -
- 17 -
- 18 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
1.調査の概要
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
1.調査の概要
1)目的
序章で記した通り、平成 14 年、15 年度の調査より、各地でワークショップ・プログ
ラムが普及しておらず、全国各地に行き渡っていないことかが明らかになった。
そこで本調査では、ワークショップ普及にあたって有効だと思われる、ワークショ
ップのパッケージ化、ワークショップの評価基準の策定、ワークショップ開催にあた
っての人材育成を深く調査した。
同時に、今まで調査されていなかった企業及び行政のニーズ、シーズの調査を並行
して行った。
2)調査方法
本調査は、下記の方法で実施した。
テーマごとに有識者を集めた研究会を発足し、会合やメーリングリストを通じたデ
ィスカッションを中心に調査を行った。
同時に、有識者の方々に対して個別にインタビューを行うことで深堀調査を行った。
3)調査期間
2004 年 8 月∼12 月
- 19 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
1)目的と概要
平成 14 年度、15 年度の「創造力・表現力向上を目指した活動の調査研究及びワーク
ショップ・プログラム開発」では、
①国内外における子どもの創造力・表現力向上に重点をおいた教育的プログラムの先
行的な事例の収集。
②教育的プログラムを実施する場として想定されるミュージアム等、文化施設の動向
について事例の収集。
③様々な分野で活躍する CANVAS 関係者による「子どもの創造力・表現力向上」に重点
をおいた教育プログラムの実施
を中心に調査研究が行われた。これを受け、今年度の調査研究では
①すでに米国の学校教育や生涯教育の現場等に導入されている
参加体験型教育プログラムについて情報を収集。
②このうち日本にも紹介され、広く社会に普及をはじめている
Project Wild[3]とGEMS[4]に関し、日本事務局に対し、ヒアリング等
による詳細な調査を実施。
③ミュージアム独自で開発し、展開している参加体験型教育
プログラムについてヒアリング等による詳細な調査を実施。
をすることで、諸団体が独自に参加体験型の教育プログラムを構築する際の課題の抽
出、基本的な考え方についての検討を行った。
■協力機関および関係者
本調査では下記の機関や関係者にインタビューの協力や情報を提供いただいた。
(順不同、敬称は省略)
・Project Wildおよび自然発見館[5]について
小河原孝生:NPO 法人生態教育センター、理事長
[3]Project Wild:教育者向けに開発された野生生物を題材とする環境教育プログラム
[4]GEMS:Great Exploration in Math and Science
[5]自然発見館:国営木曽三川公園の中にある環境教育施設
- 20 -
1)目的と概要
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
・GEMS について
大黒栄二:社団法人日本環境教育フォーラム、事務局長
柴原みどり:ジャパン GEMS センター
・マリンワールド海の中道[6]について
高田浩二:マリンワールド海の中道、館長
・CAMP[7]について
北川美宏:株式会社 CSK 社会貢献推進室大川センター、センター長
村田香子:株式会社 CSK 社会貢献推進室大川センター
[6]マリンワールド海の中道:近海を流れる「対馬海流」をテーマに奄美大島周辺の亜熱帯系水族、九州近海から山陰にかけて
の温帯系水族、北海道周辺の亜寒帯系水族、約 350 種 20,000 点を飼育している、国営海の中道海浜公園の文化リゾートエリ
アにオープンした施設
[7]CAMP:Children's Art Museum & Park。「子どもたちが情報化社会の創造を先導していく」という CSK グループの創業者であ
る故・大川 功氏(2001 年 3 月逝去)の理念のもとに 2001 年 4 月、関西文化学術研究都市に設立された CSK 大川センターを活
動拠点とする研究施設
1)目的と概要
- 21 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
①Project Wild
ア)概要
Project Wild は、幼稚園から高校までの子どもたちを指導する、教育者向けに
開発された野生生物を題材とする環境教育プログラムであり、運営は全米各州の
教育局及び資源管理局の代表者により組織された環境教育協議会が行っている。
1983 年から 2002 年までに全米で 90 万人以上の指導者を養成し、4,800 万人以上
の子どもたちがプログラムに参加した実績があり、アメリカ、日本の他にも、カ
ナダ、チェコ、インド、アイスランド、スウェーデンなどでも導入されている。
Project Wild のプログラムは、公的な教育の現場だけでなく、就学前の児童向
けのプログラムや放課後活動で青少年と接しているボランティア、青少年や教師
向けに教育プログラムを提供している環境保全グループ・地域グループの代表者、
教師の育成に携わる人々なども、利用可能となっている。
「アメリカの環境対策に対して、革新的、かつ素晴らしい解決方法を提示した」
との評価から、1991 年に、大統領主催の環境保全対策プログラムにおける教育通
信関係の金賞を受賞している。
イ)目的
参加者の気づきや理解から始まり、段階的に生態系の原理や文化などの知識、
管理や保全など人間の役割、価値観の多様性や環境問題の構造を認識した上で、
野生生物と自然資源に対して責任のある行動や建設的な活動を身につけることを
目的としている。
ウ)指導者養成
講習会で養成されたエデュケーターがプログラムを行う形式をとっている。そ
のため、指導者の育成に重点が置かれている。
□エデュケーター
本プログラムを実践するためには、
「エデュケーター養成講習会」の受講が
義務づけられている。参加資格は 18 才以上、1∼2 日のワークショップを受け
るのみで、本プログラムの歴史や理念、活動についてワークショップを通し、
理解することができる。
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
①Project Wild
- 22 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
エデュケーターになった後、さらなる技術向上を目指す人を対象にした「フ
ォローアップ講座」も開催している。この講座では、新しい知識の収集や、
エデュケーター間のコミュニケーション促進を目的としている。
□ファシリテイター
エデュケーター養成に関与する指導者層をファシリテイターと呼ぶ。ファ
シリテイターなるためには、まずエデュケーターの資格を持っていることが
前提である。
Project Wild の実践者育成という観点から、エデュケーターとして多くの
ワークショップ等実践経験を積んでいることが求められる。
□コーディネイター
ファシリテイターを養成する指導者をコーディネイターと呼ぶ。コーディネ
イターは極めて少人数で専門的な知識が求められる。
平成 16 年 12 月現在、エデュケーター約 7,000 人、ファシリテイター約 300
人、サブコーディネーター2 人、コーディネイター1 人が登録されている。
●
エデュケーターの養成風景
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
①Project Wild
- 23 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
エ)プログラム・デザイン
プログラムは、生物が絶滅の危機に瀕す最大の原因を「生息地の消滅」と定義
し、それを基本的なテーマとしている。テーマに基づき「気づきと理解、価値の
多様性、生態系の法則、管理と保全、文化と野生生物、傾向・問題・結果、人間
の責任ある行動」という七つの段階に分け、教育的プログラムをデザインしてい
る。
オ)ワークショップパッケージング
プログラムのパッケージング手法として、指導者用テキストが用意されている。
指導者用テキストでは教科カリキュラムにおける各プログラムの具体的活用方法、
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
①Project Wild
- 24 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
進行方法、用語集、全体を通してのアドバイス等が掲載されている。
テキストは、プログラムのタイトル、対象者、目的、背景、用意する教材、進
め方、発展方法、ふりかえりを一つのユニットとしてまとめている。対象者に関
しては、何年生のどの科目と関係があるか、分析、観察、比較、実践、作成等ど
のような技能と関係するのか、学習時間は何分もしくは何時間が適切かなどにつ
いて情報を提供する。
プログラムの目的は、「…の重要性に関して説明する」、「…の予測を立てる」と
いうように、各プログラムで 1 から 3 程度設定されている。
そのプログラムで伝えようとするメッセージと、どこで何が起きたかという事実、
プログラムの目的との関連を説明する。進め方は順を追って、何番目にどの指示
をするのか、注意事項は何か、またプログラムを発展させるには何をすべきかに
ついて情報が提供されている。また、ふりかえりのためのチェック項目も用意さ
れている。
「用語集」はアイウエオ順で聞き慣れない用語に関する説明が掲載され、「全体
を通してのアドバイス」では、各プログラムに共通するアドバイス、例えば、事
前に関連する法律を調べておくことや、適切な採取量、外部の人へのインタビュ
ー時のエチケット、いくつかの概念に関する詳しい説明や、学習者をリラックス
させる方法、またプログラムの流れの中での緩急のつけ方、学習者の知識の評価
方法等が掲載されている。
テキストは、教師などの指導者に対して作られているため、知識、技術をある
程度持っていることを前提としている。
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
①Project Wild
- 25 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
●Project Wild テキスト
※米国環境教育協議会(1999),プロジェクト・ワイルド
本編および水辺編活動ガイド,(財)公園緑地管理財団より
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
①Project Wild
- 26 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
②GEMS
ア)概要
GEMS(Great Explorations in Math and Science)はローレンス・ホール・オブ・
サイエンス(以下、ローレンスホールと略す)で 20 年近く開発されてきた科学・
数学をテーマにした参加体験型の教育プログラムで、幼稚園から高校生までを対
象としている。
ローレンスホールはカリフォルニア大学バークレー校の敷地内にあり、毎年 50
万人以上の人々がここを訪れ、特別展示や学校向けワークショップ等の催しに参
加している。GEMS は同時に、学校の教師、野外教育、環境教育、科学教育の指導
者、関係者を対象に指導者の養成も実施している。
イ)目標
GEMS の目標は大きく
a)理科嫌いをなくす
b)だれでも科学・数学の指導者になれる
c)ファシリテーションとプロセスを考える力をつける
d)自然への理解を深める
の四つに分かれる。
ウ)評価手法
GEMS の掲げる教育効果には以下のものがあり、参加者、生徒に対する効果と指
導者に対する効果に分けられる。
□参加者、生徒
・グループ学習により、メンバー間の話し合いが積極的に行われ、言語能力、
コミュニケーション能力の発達などが促される。
・体験学習によりプロセスを考える能力が高まる。
・活動中心の授業で問題解決過程における創造力、自主的思考力が養われる。
・身近な素材や教材を扱う授業で学習意欲が高まる。
□指導者
・教師、教育者間のコミュニケーションが活発になり、科学、数学の体験学
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
②GEMS
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
習法をより深く理解できる。
・マニュアルが細部までの説明をしているので、専門的知識、技術がなくて
も、(学習の支援者として)指導できる。
・体験学習の評価方法についての理論、アイディアを学べる。
エ)ワークショップ内容(学習理論)
GEMS は生徒に「正しい」答えを教えるのではなく、子どもたち自ら情報を評価
したり、注意深い判断をしたりするのに必要な能力を身につける介添を目標とし
ている。賢明な判断を下すためには、多くの知識と能力を必要とする。そのため
には、すべての環境問題において、科学的および技術的側面以外にも、社会的、
政治的、経済的、そして美的な要素も考慮に入れて検討しなければならない。そ
のような目標から、GEMS のプログラムは、コンストラクティビズムと全体言語教
授法を学習手法として採用している。
オ)教育プログラムの推進方法
GEMS のプログラムの手法を下記に掲げる。
・質問を積極的に促す:
コンストラクティビズム理論に基づき何か始める時には、まず質問をする。
・プログラムを行う:
GEMS ガイドでは、学習する項目について子どもたちが何について知っている
か把握した後、プログラムや、実際の調査、実験を始めるよう薦めている。
・クラスディスカッション:
コンストラクティビズム理論では、生徒達がプログラムから生じた疑問を、
どのように自分達の持つ知識と関連しているのかについて、話し合いを重要
視している。
『ディスカッション』は生徒の学習環境の中心となるものである。
・コーペラティブ・ラーニング:
GEMS では生徒が積極的にプログラムに参加できるよう、コーペラティブ・ラ
ーニングという手法を用いている。
カ)パッケージ
テキストにはプログラムの対象となる年齢、準備するもの、時間配分、人数配分、
目的、場面設定、進行方法、後かたづけなどについて細かく書かれている。
事前の準備に関しては、どんな材料をどのような配分で、授業開始のどのくらい
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
②GEMS
- 28 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
まえから準備する必要があるかなどについて触れている。ディスカッションの進
行についても、うまく反対意見を引き出す方法や、それから生じた意見の相違ま
とめるためのアドバイスも掲載されている。
キ)人材育成
GEMS ジャパンでは地域、野外教育、学校、の指導者を対象に、カリキュラム体
験に加え、
「科学教育のあり方」
「GEMS プログラムの指導方法」
「有効な教材」など
のテーマで、ワークショップを開催している。各ワークショップは、米国カリフ
ォルニア大学ローレンスホールにて GEMS の研究を修了し、実践経験の豊富な講師
を招聘して開催している。内容は、GEMS ワークショップに初めて参加する人を対
象としたリーダーワークショップ、リーダーコース修了者を対象としたアソシエ
イトワークショップ、両者を対象としたフォローアップ研修会の三つがある。
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
②GEMS
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第1章
●GEMS テキスト
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
※教師用ガイド「Oobleck」,ジャパン GEMS センターLawrence Hall of Science University of
California at Berkeley(2002),GEMS より
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
②GEMS
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第1章
●GEMS テキスト
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
※教師用ガイド「Oobleck」,ジャパン GEMS センターLawrence Hall of Science University of
California at Berkeley(2002),GEMS より
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
②GEMS
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
③Project Learning Tree
ア)概要
Project Learning Tree[8](以下、PLTと略す)は、幼稚園から高校生までを対象
とした環境教育プログラムで、1974 年にアメリカ森林研究所が西部 13 州の教育庁
や、森林管理の担当者から構成されるアメリカ西部地域環境教育協議会に環境教
育プロジェクトの開発を委託したことから始まった。PLTはアメリカ以外では、カ
ナダ、フィンランド、スウェーデン、メキシコ、日本、ブラジルなどの国々で普
及している。また、学校以外ではネイチャーセンター、博物館、ボーイスカウト
の活動で利用されている。
イ)目標
PLT は以下の目標を掲げ、活動している。
・環境問題それに取り組むための気づき・正しい認識・理解・技能・関わり合
いを提供。
・環境問題を解決するための科学的なプロセス、より高度な思考力を使えるよ
うにする。
・環境問題の多様な視点について正しい認識や寛容さを身につけ、利用できる
情報の分析や評価にもとづいた態度や行動に発展させる。
・環境問題を解決する創造性・独創力・柔軟性を促進する。
・子どもたちが、責任を持って行動し、参加する社会の一員となるよう励まし
力づける。
ウ)ワークショップ内容
PLT では教育プログラムのテーマとして、多様性、相互依存性、システム、構造
とスケール、変化のパターンの五つ設定している。
また学習者を想像的学習者、分析的学習者、実践的学習者、活動的学習者の 4
スタイルに分類している。
エ)人材育成
PLT の人材育成の特徴は、指導者養成のワークショップを通し、実際使えるプロ
グラムや教材の提供にある。6 時間コースを終了したファシリテイター、12 時間
コースを終了したリーダーを育成することにより、自分たちの地域で本プログラ
ムを開く意欲を促し、そのためのノウハウをきめ細かく提示している。
[8]Project Learning Tree:1974 年にアメリカ森林研究所が西
部 13 州の教育庁や、森林管理の担当者から構成されるアメリ
カ西部地域環境教育協議会に環境教育プロジェクトの開発を
委託したことから始まった環境教育プログラム
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
③Project Learning Tree
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
その戦略は、Project Wild、Project Wet、Project Fit など米国の参加体験型
教育プログラムに多大な影響を与えた。
国内では ERIC(国際理解教育センター)が、受講修了者が PLT リーダーの認定
を受けることができる講座を開催している。
④Project Wet
ア)概要
Project Wet[9](Water Education for Teachers)は、幼稚園から高校生までの
生徒と教師を対象とした水に関する教育プログラムで、モンタナ州立大学に拠点
を置いている。
Project Wet は、1984 年にノースダコタ州の水委員会によって組織化され、1989
年モンタナ州立大学が Project Wet のディレクターを招聘し、内務省・再生局か
らの資金をもとに、ノースダコタ州と同じプログラムをモンタナ、アイダホ、ア
リゾナの各州で開始した。それらの成功により全米で Project Wet のプログラム
開発が実施されるに至った。
1990 年には PLT や Project Wild の共同スポンサーでもある西部環境教育協議会
が公式の共同スポンサーになっている。1996 年からはアメリカ以外にカナダ、メ
キシコ、フィリピン、韓国などで国際的な連携活動も始めている。
日本国内では、財団法人河川環境管理財団が日本事務局となり、普及活動を行
っている。
イ)目標
Project Wet の目標は、水資源についての気づき、評価、知識、自分自身の役割
の認識を促進することにある。
また、目標を支える活動として、調査、教材の出版、教育と研修、ネットワー
クやパートナーシップの形成、
(教師だけでなく、学校教育外の教育関係者を含む)
評価、表彰を実施している。
ウ)プログラムの特色
プログラムを通して、水の化学的及び物質的な性質、流量や水質に関する問題、
水生生物、生態系、水域管理にかかる施策方針等、広範囲にわたる事柄について
体験を行いながら、子どもたちに考察を促す。
[9]Project Wet:Water Education for Teachers。モンタ
ナ州立大学に拠点を置いている、生徒と教師を対象と
した水に関する教育プログラム
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2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
④Project Wet
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
大小様々なグループを対象としたグループ学習、全員で行うプログラム、室内
における実験、地域レベルや地球レベルの環境問題にかかる討論、市民活動への
参加など、様々な形態で進行する。
エ)人材育成
子どもたちに、直接、指導に当たる人は講習会で養成されたエデュケーターと
呼ばれる指導者である。エデュケーターは、各地域で、その地域の環境教育の促
進に努めているファシリテイターのもとで、エデュケーター養成研修を受け、更
にファシリテイターはコーディネイターのもとで研修を受けることになっている。
⑤Project Fit
ア)概要
Project Fit[10](教師のための森林研究会)は、毎年、春から夏にかけて数回開
催される研修プログラムで、その目的は、幼稚園から高校までのカリフォルニア
州の教師たちに、森林生態系や森林資源管理について教えるカリキュラムの情報
や教材を提供することである。
公募で参加している教師たちは、森林の生態系や資源管理についての講義や、
提供されたカリキュラムや教材を、教育現場で使うための研修を受ける。
プログラム・デザインは、カリフォルニア州立大学の林業派遣員が、森林や資
源管理の専門家と教師、環境教育やカリキュラムづくりの専門家とコンタクトを
取りながら進めている。また、カリフォルニア州の営林局、公園局、野生生物管
理局、企業、林業コンサルタント、NGO、先住民グループなどもボランティアとし
て協力している。
本プログラム開発のきっかけは、州単位での環境教育奨励基金が提供され始め
たことにある。カリフォルニア州の学校教育現場に PLT や Project Wild などの優
れたプログラムをより効果的に普及させる手段として考え出されたのが「教員の
ための体験学習プログラム」である Project Fit であった。
イ)プログラムの特色
Project Fit では研修期間中、以下のプログラムが実施される。
・カリフォルニア州の学習指導要領において近年行われた改定についての説明
や、
「参加型教育プログラムを授業に取り入れる意義を教育委員会や保護者に
説明する」具体的なノウハウの提示。
[10]Project Fit:カリフォルニア州の教師たちに、森林生
態系や森林資源管理について教えるカリキュラムの情
報や教材を提供する森林研修プログラム
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
⑤Project Fit
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
・PLT や Project Wild、その他教育プログラムの活用方法のポイントの解説と
教材の配布。
・森林に関わる専門性のある講義の聴講。林業経営、土地管理、漁業、考古学、
森林および河川流域の生態系と野生生物、先住民などがテーマ。
・林業経営と森林の保護・保全についての実習と見学。
⑥Nature Game
ア)ワークショップ内容
Nature Game[11]とは、1979 年にジョセフ・コーネルによって発表された自然体験
プログラムのことであり、コーネルによって書かれた『ネイチャーゲーム』は現
在、19 ヵ国語に翻訳されている。
Nature Game の目的は、遊び、ゲームをきっかけに「自然への気づき」を促すこ
とにある。
イ)プログラム
a)特徴 1 フロー・ラーニング
Nature Game のプログラムは、参加者が効果的に成果を得られるようフロー・
ラーニングという考え方から構成されている。フロー・ラーニングとは、参加
者の心の状態にあわせながら四つの段階を意識してプログラムを組み立てるこ
とで、各プログラムはこの理論に基づき、4 段階のマークがつけられている。
b)特徴 2 野外指導の五つのルール
Nature Game では、「教えるよりもわかちあおう」、「指導者は受身でいよう」、
「チャンスは逃さないで」、「体験第一、解説は二の次」、「楽しさは学ぶ力」と
いう「野外指導の五つのルール」を基本としてプログラムを進行していく。
ウ)人材育成
□ネイチャーゲームリーダー
人材育成の手法として「リーダー養成講座」が用意されている。この講座に
参加すると、ネイチャーゲームの基本的な理念と指導方法を学ぶとともにプロ
グラムを体験することができる。この講座に参加し、最終日の試験に合格する
と公認ネイチャーゲームリーダーの資格が取得できる。18 歳以上で、ネイチャ
ーゲームに関心があれば誰でも参加できる。これからネイチャーゲームを学び
[11]Nature Game:1979 年にジョセフ・コーネルによって
発表された自然体験プログラム
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2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
⑥Nature Game
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
たいと考えている人のための講習会なので、事前にネイチャーゲームに対する
知識を取得しておく必要はない。講座は、各都道府県でおおよそ年に 1 回程度
行われている。リーダーになった指導者は、「アドバンスセミナー」を受講する
ことも可能である。
□ネイチャーゲームインストラクター
ネイチャーゲームリーダーは、ネイチャーゲームインストラクターの資格を
取得することにより、地域での講師活動ができる。資格取得には、第 1 次審査
(書類)および第 2 次審査であるネイチャーゲームインストラクター養成講座
での実技および筆記検定を受け合格する必要がある。このほかコーディネイタ
ー、トレーナーと呼ばれる役割がある。インストラクター、コーディネイター、
トレーナーへのステップアップは、リーダー指導員取得後の実践活動や研修会
への参加による単位の取得が要件となっている。
2)既存の参加体験型教育プログラムの概要調査
⑥Nature Game
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
3)Project Wild および GEMS についての詳細調査
①Project Wild
ア)実施される場所、時期について
本プログラムが最も多く実践されているのは、学校である。それに続いて多い
のが社会教育であり、子ども会の活動や、自治体の土曜講座で行われている。
このプログラムは、学校での理科や社会あるいは総合的学習の時間を補完する
教材となっている。
イ)実施に際しての標準的な進行形態について
アメリカでの本プログラムのターゲットは先生である。最初のインストラクタ
ーはエデュケーターと呼ばれる。日本の場合、受講者の約 3 分の 1 が先生・教育
関係者で、学校の先生の比率は少ない。しかし、徳島県などで、学校に 1 人はエ
デュケーターを置くように計画されているなどの例もあり、教育委員会レベルで
の対応が成される可能性もある。
指導者育成についてプログラムの共通的な進行方法として、ファシリテイター
向けの基本的なハンドブックが翻訳されている。カリフォルニア版の翻訳を例に
挙げると、ハンドブックでは、最低時間、標準時間が決まっている。流れとして
は、
・アイスブレイク
・目的紹介
・Project Wild の体験
・プログラムの意味の説明
・教材の配布
という順で進む。
ワークショップ自体は体験学習となっており、大きな特徴としてグループワー
クがある。人数的には、30 人ぐらいが適切である。
ウ)ワークショップのパッケージング
このワークショップを一般化し、普及させるために、教材パッケージが、全米
の野生生物局、学校の先生、大学などによって共同開発され、2000 年にはアメリ
カで大改訂も成された。大改訂では、概念的枠組み、つまり章立てを崩し、アメ
リカの学校教育に準拠するようになった。しかし、この改訂版は、アメリカと日
3)Project Wild および GEMS についての詳細調査
①Project Wild
- 37 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
本の教育課程の違いのため、日本ではそのまま使うことはできない。むしろ、日
本では改定前のものの方が、日本の環境教育の現状にあっているため、日本では
改定前のものを利用している。
テキスト以外に、パッケージ化したものとして、例えばカナダではビローゼロ
という独自のものプログラム(氷点下の世界で生き物はどう生きるのかというの
をテーマにしたテキスト)が作られた。Project Wild では、ねらいさえ間違えな
ければ、いくらアレンジをしてもよいことになっている。
日本の学習指導要領との連携は現時点ではないが、可能性はある。
エ)実施に対する評価基準
本プログラムでは、どういうことを子どもたちが知識として最終的に習得して
いくか、という認知目標(ねらい)が設定されている。また、非常に大きな特徴
として、野生動物、生態系というものをとらえるときにどうやって体系的なとら
え方をすればいいのかといった概念的枠組みが整理されている。テキストは 1∼7
章でできているが、単に生態系の原理・原則を学ぶのではない。「気づきから責任
ある行動まで」という流れが体系的に整理されている。評価のために「ねらい」
を明確にし、ゲーム、活動、体験の中にねらいを理解するのに必要な要素がしっ
かりと入っている必要がある。
プログラムの評価は日本ではまだ行われていないが、アメリカでは評価委員会
というのがあり、評価手法に関して検討がなされている。
プログラムに対する子どもの評価に関しての手法も用意されている。目標は、
行動目標と認知目標に分けられる。行動目標というのは態度、行動の変容である。
しかし、生態系の概念を「理解する」ということが目標であれば、それは態度に
はでない。それは認知目標である。振り返りの中でいろいろな質問が出てくる。
子どもたちがどれくらいそれに答えられるかで確認できる。Project Wild の場合
では、単発では効果が薄いということが言われている。まさに学校が教育現場と
いうことで、継続してこのプログラムを受講する子どもたちは非常に成長してい
くと思われる。
3)Project Wild および GEMS についての詳細調査
①Project Wild
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
②GEMS
ア)実施される場所、時期について
私立学校の教育、公民館や、放課後に子どもたちを集めて行う理科教室、イベ
ントとして行われている。イベントとしては、例えばみどりの日に新宿御苑のテ
ントの中で行うもの、博物館、科学館等の学芸員、インタープリターの方が定期
的に開催しているものがある。
本プログラムは、何時間、場合によっては何ヵ月単位のプログラムであるため、
私立学校の教育では展開しているが、公立学校だと一部分エッセンスを取り入れ
ることしかできない。
学校の先生が、指導者を育成するワークショップに参加しづらいということも
あり、公立学校は動きにくいようだ。
イ)実施に際しての標準的な進行形態について
GEMS の平均的な進行のプロセスに関しては、基本的にはアイスブレイクを行う
ところから始まる。次に今日行うことを説明するが、具体的に何が目的か、何が
次に起きるかということを説明しないまま進行する。指示にただ従っていくと実
は不思議なことが起こるというように、後にどうしてこういうことが起きたかに
ついてイメージをふくらましながら考える。それからハンズオンに入っていき、
実際手で触れ、目でみて、何がおこったと思いますかという、最初にイメージを
もったものと、実際に起きたこととの差を検証してみる。
最終的に何が正しかったということを導くというよりは、考えるプロセスが一
番大切になる。それ以降は、振り返りになる。正解か否かということは実はあま
り大切なことではなく、自分の頭、また仲間の意見を聞きながら結論を導き出す
ことに重点を置く。
プログラムは 80 ほどあり、一番短いものは 30 分くらいのプログラムがあるが、
午前と午後の部でだいたい 2∼3 時間で終わるものがほとんどである。
大人を対象としている場合は、基本的には日帰りで 2 日、朝 9:30∼17:30 ぐら
いまでのプログラムとなっている。
ウ)ワークショップのパッケージング
教育型プログラムを一般化するためのパッケージ化として、教材を販売してい
るが、本以外での材料を一つにまとめたものは、現在は一つしか用意されていな
い。そのパッケージ教材の中にワークショップに必要な材料がすべて入っている。
3)Project Wild および GEMS についての詳細調査
②GEMS
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
本プログラムの材料は基本的にスーパーや薬局などで手に入る身近にあるもので
ある。現在、テキストブックが英語版から日本語版に年 4 冊ずつ翻訳されていて、
現在 8 冊ある。2004 年に、4 冊準備中である。
日本の教育環境に合わせて訳すことも必要であるが、現状ではまだ対応ができ
ていない。
エ)実施に対する評価基準
本プログラムでは、評価手法として「ふりかえりシート」がある。このシート
は内容の正解ではなく、エッセンスが伝わったかどうかを確認するためにある。
また、ワークショップが終わった直後に、スタッフ間で、アンケート、振り返
りシート、ワークショップが終わった時点で出た質問を書いたものを読みながら、
反省会を行うことで評価を行っている。
オ)一般化するための人材育成について
本プログラム遂行にあたっては、リーダー、アソシエイトと呼ばれる 2 種類の
リーダーがいる。一年前から人材の育成のシステムを導入している。2 日間のプロ
グラムに参加していただいた方は、リーダー修了書をもらい、リーダー修了者を
対象にアソシエイトワークショップを開催している。アソシエイトワークショッ
プ終了後、実際に子どもたちにワークショップを 3 回実践した方はアソシエイト
として認定される。アソシエイトが 2 人以上集まって活動しているところをブラ
ンチとよんでいる。そこではテキストの販売ができる。リーダーの育成に関して
はアソシエイトが担う。アソシエイトを研修する人は、事務局長のみである。ジ
ャパン GEMS センターとしては、アソシエイトワークショップを主催し、そしてリ
ーダーワークショップはそれぞれのブランチが主催する。
3)Project Wild および GEMS についての詳細調査
②GEMS
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
ア)マリンワールド海の中道の概要
「マリンワールド海の中道(以下、マリンワールドと略す)」は、平成元年 4 月
に、国営海の中道海浜公園の文化リゾートエリアにオープンした。近海を流れる
「対馬海流」をテーマに奄美大島周辺の亜熱帯系水族、九州近海から山陰にかけ
ての温帯系水族、北海道周辺の亜寒帯系水族、約 350 種 20,000 点を飼育している。
施設は、水量 2,000 トンのイルカアシカショープールを最大に、20 種 120 個体
以上のサメを展示している水深 7 メートル水量 1,400 トンのパノラマ大水槽など、
大小 70 の展示水槽が設置されている。
また、水の生物の楽しい実験をするマリンサイエンスラボ、さわって操作して
体験できるプレイコーナー、レクチャーホールなどの教育的な施設も充実し、「楽
しみながら学ぶ、海のおもしろ科学館」をキャッチフレーズに、様々な教育活動
を展開している。
水族館は、水生生物たちがみられる「レジャーの場」であると同時に、生き物
の能力や生態、環境について「学ぶ場」でもある。また平成 14 年度から、全国の
小中学校に導入された「総合的な学習の時間」でも、社会教育施設の積極的な活
用することが提言されていることなど、水族館は学校や地域にとって自然学習の
拠点としての役割を担っている。
マリンワールドは、文部科学省から博物館相当施設の認定を受け、学芸員や飼
育技師、専任解説員を配備し、学習施設も充実している。また講和やワークシー
トによる見学、体験活動など、マリンワールドを活用して学べる教育プログラム
が数多く準備されている。
このプログラムは、マリンワールド独自で開発した参加体験型の教育プログラ
ムで、館内はもちろん野外や学校など館外においても実施、提供されている。
イ)実施される場所、時期について
教育プログラムはおもに学校や子ども会を対象にしている。プログラムとして
は水族館と学校の両方で行われているワークシートを用いた学習や、資料・標本
の貸し出し、移動水族館などを行っている。
今まで社会教育施設で行ってきた学校に向けた教育活動は、水族館に来たとき
だけのイベント的な楽しみだけに終始していた。学校は、週 5 日制になり、授業
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
数は激減したため、計画的に練られた学習しかできないということになった。そ
のため、今までのような 1 回限りのイベントは学校では受け入れてもらえない。
よって、これは何の授業に使えるのか、何の学びになるのか、授業の中で、どこ
でどういう風に取り入れることができるのかといったことの説明が求められる。
学校と連携するためには、学校の授業の中で使われるプログラムや、効果的な人
材や教材を用意しておかないといけない。そこで、学校の先生と一緒に指導案を
作ったり、独自で指導案を作って提供したりということを行っている。プログラ
ムを実施する際には、どういう目的で、どういった学習で、どういう位置づけな
のかということを適切に把握しておく必要がある。
年間の利用は、土日以外、ほとんど 1 年中埋まっている。1 日に 2、3 校こなす
こともあり、忙しくて断るケースもある。現状では 1 日 2 校くらいが限度である。
ウ)実施に際しての標準的な進行形態について
プログラムは、フィールドや生きている生物を使って行う実物の教育と、情報
系を使った教育と二つに分けている。今までは実物が水族館の教育活動だと思わ
れていたが、ICT により今まで不可能であったことができるようになった。教育と
いうのは全ての人に平等でなくてはならない。実物教育だと平等な機会提供が
中々できないが、ICT 技術は広く平等に伝わるので、有効である。両方のよさを組
み合わせることが重要だ。プログラムの進行については、例えば移動水族館は、
三つのステップで構成されており、ステップごとに目的、内容、評価の視点をま
とめている。また職場体験学習などでも同じようにステップを構成している。全
てのステップに水族館が関わるわけではなく、ポイントを決めて関わっていく。
水族館が関わらず、先生だけで進める箇所もある。これが当館の一番のノウハウ
であり、学校との連携のポイントである。他の水族館では、コーディネートの必
要を感じても、ボランティアなどに任せようとするところが多い。一つの面白い
学術資料があっても、それを教材としてまる投げしてしまっては、その面白さや、
学びのポイントは伝わらない。博物館の人が教えるのが適切である。専門的な視
点がないと水族館を活用した学習は進んでいかないからである。
一つのプログラムには、だいたい 1 時間から 1 時間半くらいかかる。場合によ
っては県外からも要請があり、その場合は丸 1 日かけることもある。
エ)一般化するための教材等パッケージ化
パッケージ内容として、教師用指導書とワークシートがある。教材よりも指導
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
案のパッケージ化を行っている。教科書別に全教科で水の生き物や水の環境が出
てくる単元ごとに、授業支援ができる体制をとっている。小学校に対しては資料
の提供、ワークシート見学、講話、遠隔授業、移動水族館、出張授業、先生の研
修受け入れを行っている。中学校に入ると職場体験学習が加わる。養護学校では
出張講義や、移動水族館、触って観察できるものを用意している。先生方にはこ
れらのメニューを示した上で、授業申し込みをしてもらう。
水族館を使っている学習が、学校側の授業においてどのように位置づけられて
いるか(動機づけ、メイン、まとめなど)を把握することが重要である。その位
置づけによって水族館の方で準備するものや、職員の話し方も変わる。学校側の
意図や目的、何年生を何人でどんな学習の中でこの学習がどの位置づけで行われ
るのかを把握した上でないと授業を受けることはできない。一回だけの娯楽的な
イベント的学習はなるべく避け、より内容の濃い学校と何度も関わるような学習
にシフトしている。
学習パッケージは総合的な学習の時間でのニーズが一番多いが、どんな授業の
中でも活用できる。総合的な学習の時間は、時間、学習指導要領の縛りが少なく、
導入しやすいが、教科の学習の中でもしっかり単元の計画が練られ、その中でワ
ンポイント的に水族館が関わるということは可能である。水族館だからといって、
理科とか総合的学習に限定される必要はない。先生のやり方しだいではどんな教
科でも教育連携が可能である。
学習パッケージの所要時間は 15 時間が基本ベースだが、こちらも先生の都合に
合わせることが可能である。
オ)提供される教育的なプログラム
□ワークシートを使った見学
マリンワールドが作成したワークシートを活用しながら、テーマを持った見
学を行う。また、希望があれば、マリンワールドが、見学前のレクチャーや見
学後のフォロー学習、学校ごとのオリジナルのワークシートづくりの相談にも
のる。生徒へのワークシート配布や印刷は学校側でお願いする。
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 43 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
テーマ
対象
所要時間
1
見て・触って観察しよう
小学校
60 分∼120 分
2
体の色をスケッチしよう(ぬりえ)
幼児∼小学校
60 分∼120 分
3
体の形を観察しよう
小学校
60 分∼120 分
4
くらしとのかかわりを見よう
小学校∼中学校
60 分∼120 分
5
水族館で考える環境問題
小学校∼中学校
60 分∼120 分
6
体のつくりと生活を見よう
小学校∼中学校
60 分∼120 分
7
食べる食べられるの関係を見よう
小学校∼中学校
60 分∼120 分
※マリンワールド海の中道,楽しく学ぶ水族館 おすすめ体験学習プログラム, マリンワールド海の中道より
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 44 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
●ワークシート
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 45 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
●ワークシート
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 46 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
□具体的な学習パッケージの内容
∼学習パッケージ「水辺の宝物探し」∼
子どもたちと地域の水辺環境について調べ、地図を作ったり、拾ったゴミを
分別したりして、ゴミについて認識し、最終的に自分たちの環境を守る意識や、
水辺にゴミ捨てないということを学ぶ。基本ベースは 10 時間だが、先生が増や
したり差し替えたりしてアレンジして使うことができる。指導案、授業の単元
計画、ワークシートなどをサンプルとして提供している。いままでこれらは学
校の先生が作らないといけなかったが、今は、水族館側からこういうことがで
きますよと提案をすることで、学校との連携を可能にている。授業で使うワー
クシートも、web サイトからダウンロードをして使えるようになっており、そこ
では、ワークシートの使い方も指示されている。先生向けの指導案からワーク
シートまですべてパッケージ化され、web 上で公開されている。
□学習パッケージ
学習パッケージは、子どもたちの「情報活用の実践力」を養うため、主に小
中学校の総合的な学習の時間で達成できるように、そこで必要とされるカリキ
ュラムやワークシートなど教材、教師用ガイドブック等で構成されている。
これらの教材は Web 上で公開し、必要に応じて学校が下記 URL からダウンロ
ードして、活用できる。
http://www.kmnet.gr.jp/class/pac/pac_marine.html
<学習パッケージの例>
タイトル
対象
所要時間
水辺のデジタル生物図鑑をつくろう
小学校 5 年生
15 時間
水辺の宝物探し(漂着物調査)
小学校 5 年生以上
10 時間
※マリンワールド海の中道,楽しく学ぶ水族館 おすすめ体験学習プログラム, マリンワールド海の中道より
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 47 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
●水辺の宝物探しの指導案 ※http://www.kmnet.gr.jp/class/pac/pac_marine.html
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 48 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
□学校教育に対応した話題や教材の提供
マリンワールドでは福岡市内の小中学校で使用されている複数の教科書に準拠した話
題や、指導方法、教材等下記のリストのように多岐にわたり用意している。
学
教科
出版社
提供できる
利用できる
話題や資料
実物教材
クジラの生態、体のつ
クジラの骨、歯、ひげ、
くり、種類
鳴き声、映像
よくみてかこう
カメの飼育法、カメの
陸ガメ、カメの甲羅、
(かめきち)
体や生態
写真、映像
おみせやさんご
魚の名前や種類、食用
魚の写真、図鑑、漁具
っこをしよう
の魚、魚の流通
どうぶつの赤ち
イルカ、ラッコなどの
ゃん
赤ちゃんの様子、育児
スイーミー
群れをつくる魚の生
ページ
単元
年
小
国語
光村
1
(上)
図書
小
国語
光村
1
(下)
図書
小
国語
光村
1
(下)
図書
小
国語
光村
1
(下)
図書
小
国語
光村
2
(上)
図書
小
国語
光村
2
(上)
図書
小
国語
光村
2
(上)
図書
小
国語
光村
2
(下)
図書
小
国語
光村
2
(下)
図書
小
国語
光村
3
(下)
図書
4∼15
26
50∼54
60∼67
44∼55
くじらぐも
写真、映像、剥製
魚の写真、図鑑、映像
態、助け合う魚たち
61∼63
74∼81
4∼17
生き物かんさつ
ザリガニの体、生態、
ザリガニ、写真、水槽、
カード
飼育方法、観察方法
図鑑
サンゴの海の生
サンゴ礁の環境、生き
共生生物の写真、映
きものたち
物、暮らし、共生
像、図鑑、サンゴ
お手紙
カエルとカタツムリの
写真、映像、実物生物
生態
46∼47
24∼33
いるか
動物とくらす
イルカの生態、体のつ
イルカの骨、歯、鳴き
くり、種類
声、映像、写真
人が飼育している海の
飼育法に関する資料、
生物とその関わり
コミュニケーション
法
小
国語
光村
4
(上)
図書
小
国語
光村
5
(上)
図書
小
国語
光村
5
(上)
図書
48∼51
無人島でくらす
魚の捕まえ方、危険な
魚の写真、図鑑、映像
としたら
海の生物、海の天気
30
海雀
海雀の生態
写真、資料、図鑑
38∼47
海にねむる未来
サメ、海綿、カブトガ
標本、写真、映像、実
ニに関する話、活用法
物生物、加工製品
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 49 -
第1章
小
国語
光村
6
(上)
図書
小
国語
光村
6
(上)
図書
小
国語
光村
6
(下)
図書
小
国語
光村
6
(下)
図書
小
社会
教育
3.4
(上)
出版
小
社会
教育
3.4
(上)
出版
小
社会
教育
3.4
(下)
小
9∼23
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
森へ
ザトウクジラの生態、
写真、映像、図鑑、声
体のつくり
52∼59
ガイドブックを
水族館の施設、展示、
水族館の模型、解説
つくろう
構造、ホームページ
板、展示施設資料
ホタルのすむ水
ホタルの生態、体の作
写真、図鑑、飼育法資
辺
り、飼育法
料
子ども環境会議
地域の川や海の環境、
写真、地図、図鑑、調
を開こう
調査法、環境問題
査法、ワークシート
まちをたんけん
地域の川や海の環境、
写真、地図、図鑑、調
しよう
調査法、環境問題
査法、ワークシート
まちではたらく
かまぼこの材料になる
かまぼこになる魚の
人たち
魚
写真、図鑑、資料
108 ∼
三浦市のまちづ
近くの海でとれる魚介
漁獲される生物の写
出版
119
くり
類、育てる漁業
真、図版、映像
社会
教育
30
水産業の盛んな
漁獲される魚たちと海
水産業や海の環境問
5
(上)
出版
地域を訪ねて
の環境問題
題に関する資料
小
社会
教育
自然を生かした
カジキの生態、沖縄の
カジキに関する資料、
5
(下)
出版
くらし
海の環境
サンゴ礁の資料
小
社会
教育
環境を守る
ホタルの生態、飼育法、 写真、図鑑、飼育法資
5
(下)
出版
小
社会
教育
5
(下)
出版
46∼51
52∼57
8∼47
72∼95
26∼30
46∼47
55
川の環境
料
身のまわりの環
海や川の環境とその調
環境調査機器、図鑑、
境をチェックし
べ方
写真、映像
よう
小
社会
教育
5
(下)
出版
小
社会
教育
6
(下)
出版
小
社会
教育
6
(下)
出版
小
算数
東京
3
(上)
書籍
小
算数
東京
66∼67
10∼11
自然とともに生
ウミガメの産卵、保護、 ウ ミ ガ メ に 関 す る 資
きよう
飼育法。海岸の環境
料、海岸のごみ
川をウォッチン
川の環境と生物調査
川の 環 境や 生 物の 調
グしてみよう
44
45
57
査機器、図鑑
地球の環境と平
海の環境汚染問題、絶
海の環境問題に関す
和
滅に瀕する生物
る資料、写真、映像
見やすくせいり
魚がすめる環境、海洋
川や海の環境に関す
しよう
汚染
る資料、写真、映像
長い長さをはか
シロナガスクジラの大
シロナ ガスク ジラに
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 50 -
第1章
3
(上)
書籍
小
算数
東京
4
(上)
書籍
小
理科
大日
9.27.3
4
(上
図書
3
34
下)
理科
大日
5
(上)
図書
小
理科
大日
5
(下)
図書
小
理科
大日
6
(下)
図書
小
理科
大日
6
(下)
図書
小
生活
光村
1.2
(上)
図書
小
生活
光村
1.2
(下)
図書
小
音楽
教育
小
音楽
音楽
倍の計算
親子のクジラの話し、
クジラの体や大きさ
クジラの大きさ
に関する資料
季節と生きもの
ザリガニ、カエルの 1
ザリガニ、カエル、川
(春・夏・秋・
年、川の環境の変化
の環境に関する資料
28∼35
生命の誕生(メ
メダカ・サケの発生、
メダカ・サケの発生や
ダカ・サケ)
飼育、生態、体の作り
飼育法資料
18
こう水をふせぐ
川の環境や構造につい
川の環境や構造に関
工夫
て
する資料
20
体のつくりとは
魚のエラと呼吸方法、
エラの仕組み体のつ
たらき
魚の体のつくり
くりに関する資料
39∼50
生き物のくらし
生き物と水、川の自然
川の自然環境に関す
と自然環境
環境、サケの放流
る資料、サケの産卵
84∼89
きせつのおくり
春の川の生物、夏の磯
川の生物、磯の生物の
もの
の生物たち
写真、図鑑、映像
50∼71
生きもの大すき
川やプールにいる生
川やプールにいる生
物、ビオトープ
物の資料、飼育資料
20∼21
海の大きさや広さ
海 の大 き さ広 さ に関
うみ
教育
する資料、映像
4∼5
春の小川
小川の様子や生物たち
教育
音楽
教育
22∼23
ます
マスの生態や体
6
教育
16∼17
われは海の子
海の大きさや広さ
図工
日文
1.2
(上
教出
小
図工
日文
1.2
(上)
教出
海 の大 き さや 広 さに
関する資料、映像
37∼42
出版
小
マスに関する資料、写
真
出版
音楽
川 の生 物 や環 境 に関
する資料、映像
出版
6
小
関する写真、映像
出版
5
小
きさ、生態
出版
3
小
ろう
冬)
小
1
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
10
海の音楽をつく
海の環境や海で聞こえ
海の環境や音に関す
ろう
る音
る資料、音
どうぶつだいす
川や海の動物の形や色
川や海の動物図鑑、写
き
24
真、映像
わくわくすいぞ
水族館の動物の形や
水族館の動物図鑑、写
くかん
色、水槽の形
真、映像
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 51 -
第1章
小
図工
日文
1.2
(上)
教出
小
図工
日文
1.2
(下)
教出
小
図工
日文
3.4
(上)
教出
小
図工
日文
3.4
(下)
教出
全
総合
37∼39
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
いきているなか
ま
8∼9
20∼21
どうぶつたちの
川や海の動物の形や
川や海の動物図鑑、写
うんどうかい
色、動き
真、映像
生きものわくわ
川や海の動物の形や色
川や海の動物図鑑、写
く
5∼7
真、映像
ようこそここへ
海岸の漂着物、海岸の
海岸の環境に関する
砂や石
資料
川や海の環境(調査法、 川 や 海 の 環 境 に 関 す
総合
学
全
川や海の動物図鑑、写
真、映像
学
全
川や海の動物の形や色
観察法、まとめ方)
る資料
野生生物の保護(調査
野生生物や自然の保
法、観察法、まとめ方) 護に関する資料
理2
大日
身近な生物の観
川や海の生物観察、調
川や海の生物や環境
察
査法、環境
に関する資料
顕微鏡を使って
川の微生物の観察、調
川の微生物や環境に
水中生物観察
査法、環境
関する資料
動物の生活の観
水族館での動物観察
動物の体のつくりや
察
法、体のつくりと動き
動きに関する資料
動物の分類
脊椎動物と無脊椎動物
脊椎動物と無脊椎動
の特徴・種類
物に関する資料
サケの産卵と発生。カ
水中生物の卵と発生
エルの卵発生
に関する資料
水や生物の物質循環
水辺 の 環境 や 食物 連
2∼3
学
(上)
図書
全
理2
大日
8∼9
学
(上)
図書
全
理2
大日
78∼84
学
(上)
図書
全
理2
大日
105∼
学
(上)
図書
110
理2
大日
全
生物のふえ方
32∼40
学
(下)
図書
全
理2
大日
物質は自然界を
80∼81
学
(下)
図書
全
理2
大日
どのように循環
身近な自然
鎖に関する資料
川や海の生物観察、調
川や海の生物や環境
査法、環境調査
に関する資料
クジラの鳴き声や仕組
クジラ骨、音声、写真、
み
映像
クジラたちの音
クジラの鳴き声や仕組
クジラ骨、音声、写真、
の世界
み
映像
魚を育てる森
川や海の環境、物質循
川や海の環境に関す
環
る資料、映像
82
学
(下)
図書
中
国語
光村
海中の声
50∼59
1
中
図書
国語
光村
60∼64
1
中
1
図書
国語
光村
114∼
図書
122
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 52 -
第1章
中
国語
3
光村
232∼
図書
241
全
社会
東京
130∼
学
公民
書籍
137
全
総合
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
アラスカとの出
アラスカの自然や野生
アラスカの自然や野
会い
生物
生生物の資料、映像
地球環境問題
地球環境、海洋環境の
海洋環境に関する資
保全
料、写真、映像
川や海の環境(調査法、 川 や 海 の 環 境 に 関 す
学
全
総合
学
観察法、まとめ方)
る資料
野生生物の保護(調査
野生生物や自然の保
法、観察法、まとめ方) 護に関する資料
※マリンワールド海の中道,楽しく学ぶ水族館 おすすめ体験学習プログラム, マリンワールド海の中道より
□様々な機関と共同で実施する教育プログラム
<教育機関と共同で実施する教育プログラム>
マリンワールドでは様々な機関と共同で実施する教育プログラムを準備している。
学年
教科
小学校・
協力項目
地引網解説
中学校・一般
内容
地引網で漁獲された生物の解説や周辺
海域の環境説明
出張講話
青少年海の家のレクチャーホールにて
小学校
海の中道青少
海の生物の講話
年海の家
館内解説
青少年海の家に宿泊研修した生徒の館
小学校
(福岡市教育委
員会)
内見学時のレクチャー
小学校
秋の水族館
青少年海の家に 1 泊し、昼夜にわたる水
教室
族館の観察
小学校
春の野外
海の中道海浜公園の全施設を利用した
(5.6 年)
スクール
野外観察会
資料提供
水の生き物の飼育管理や生物に関する
(5.6 年)
小学校
小学校
資料を提供
見学解説
館内の展示や施設の案内解説、ワークシ
小学校
ート見学指導、標本触察など
講話
レクチャーホールやショースタンドに
小学校
て見学のポイントなどを解説
ネットワーク
ISDN 回線とテレビ会議システムを使い
授業
館と学校とを直接結んだ対話型の授業
小学校
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 53 -
第1章
学年
教科
小学校
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
協力項目
内容
移動水族館
生物、水槽、解説版、参加体験型解説装
教室
置などを教室や体育館に設置し職員が
解説
出張講話
生活科、理科、体育、国語、総合学習な
小学校
ど様々な教科で講話。生物も持参可能
研修
教員研修の場として提供し、飼育体験や
教員
講話などを実施
資料提供
水の生き物の飼育管理や生物に関する
中学校
資料を提供
見学解説
館内の展示や施設の案内解説、ワークシ
中学校
ート見学指導、標本触察など
講話
レクチャーホールやショースタンドに
中学校
て見学のポイントなどを解説
中学校
ネットワーク
ISDN 回線とテレビ会議システムを使い
授業
館と学校とを直接結んだ対話型の授業
移動水族館
生物、水槽、解説版、参加体験型解説装
教室
置などを教室や体育館に設置し職員が
中学校
中学校
解説
職場体験
将来の進路指導の一環として水族館の
学習
業務を体験指導
出張講話
水の生物の飼育管理や生態解説、進路指
中学校
中学校
中学校
導などの講話
研修
教員研修の場として提供し、飼育体験や
教員
講話などを実施
養護学校
触察講話
剥製、標本、生体など触って観察できる
小・中・高
盲・聾学校
資料を準備
小・中・高
移動水族館
生物、水槽、解説版、参加体験型解説装
教室
置などを教室や体育館に設置し職員が
解説
出張講話
剥製、標本、生体など触って観察できる
小・中・高
資料を持参しての講話
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 54 -
第1章
学年
教科
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
協力項目
資料提供
内容
水の生き物の飼育管理や生物に関する
小・中・高
資料を提供
研修
教員研修の場として提供し、飼育体験や
教員
講話などを実施
見学解説・
普通入館時の案内解説や職場体験訪問
講話
での指導
職場体験
将来の進路指導の一環として水族館の
学習
業務を体験学習
研修
教員研修の場として提供し、希望に応じ
高等学校
高等学校
高等学校
教員
た講話を実施
講師派遣
専門学校
専門学校の授業へ講師として派遣
見学解説
専門学校
専門学校
館内の展示や施設の案内と解説
飼育実習指導
飼育体験や水の生物の学習に対する指
専門学校
導
博物館実習
大学
学芸員資格取得のための指導
指導
出張講義
博物館学、博物館実習事前指導などの講
大学
義を大学の教室で実施
大学
大学
見学解説
館内の展示や施設の案内と解説
研究指導
卒業研究、修士論文などの指導や施設の
大学
提供
飼育実習指導
飼育体験や水の生物の学習に対する指
大学
導
※マリンワールド海の中道,楽しく学ぶ水族館 おすすめ体験学習プログラム, マリンワールド海の中道より
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 55 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
<子ども会を対象とした共同教育プログラム例>
対象
小中学生
協力項目
見学解説
内容
館内の展示や施設の案内解説、ワークシート見学指導、標本触
察など
小中学生
出張講義
公民館や集会所に職員を派遣し、水の生物や環境に関する講話
を行う
小中学生
バックヤー
館の施設を職員の案内のもとで見学する
ド見学
※マリンワールド海の中道,楽しく学ぶ水族館 おすすめ体験学習プログラム, マリンワールド海の中道より
<一般を対象とした共同教育プログラム例>
対象
親子
協力項目
見学解説
内容
館内の展示や施設の案内解説、ワークシート見学指導、標本触
察など
親子
バックヤー
館の施設を職員の案内のもとで見学する
ド見学
大人
講話
グループ
大人
グループ
レクチャーホールやショースタンドにて生物の話しや見学の
ポイントなどを解説
バックヤー
館の施設を職員の案内のもとで見学する
ド見学
※マリンワールド海の中道,楽しく学ぶ水族館 おすすめ体験学習プログラム, マリンワールド海の中道より
カ)実施に対する評価基準
子どもたちが効果的に学べたかについて、水族館としての評価の視点を先生に
提供することができる。それを考慮して、先生は評価を行う。評価に際して、全
体の中で子どもたちがどのように成長して関わっていったかが大事である。博物
館はピンポイントで見ることはできるが、その前後までは見られないので、評価
できるのは先生である。
評価には二つある。一つはプログラムの評価、もう一つは子ども自身の評価だ。
具体的な評価手法に関しては、作文を分析する手法をとっている。作文に目を通
し、作文をカテゴライズし、どういう風なものに対する印象が書かれていたかを
データ化して読み込んでいくことを行っている。ある程度の教育効果もそのとき
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 56 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
に測ることができる。
教育プログラムの評価はアンケートで行う。授業に来ている先生に任せる場合
もあるが、経験的な評価、自己評価を行っている。マリンワールドはノウハウが
積み重なってきているので、プログラムを 1 回ごとに評価・検討する必要はなく
なっている。
キ)一般化するための人材育成について
職員は 40 人いて、全員で教育を行っている。学習交流課のスタッフが、受付と
コーディネートを行う担当となり、学校の先生から要望を聞いたうえで、授業の
内容を把握し、職員を割り当てる。その職員の役割や、準備の進行状況を把握し、
40 人の教育活動をコーディネートしていく。申し込みがあった際にどう対応する
べきかのマニュアルも用意されている。
ク)その他
マリンワールドと学校の先生との接点は、文部科学省の委嘱事業を受けて、学
校の先生の組織を作ったのがきっかけである。その際、先生と、委員会のような
機会を作ることが大事だとマリンワールドは気がついたという。博物館・水族館
の職員だけが集まって学校連携の話をしても意味がない。学校の先生が気をつけ
ていること、やっていること、大変なことを学ぶことの積み重ねで先生の要望を
満たすことができる。
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
①マリンワールド海の中道
- 57 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
②自然発見館
ア)自然発見館の概要
「自然発見館」は、国営木曽三川公園の中にある環境教育施設である。フィー
ルドは、木曽川の上流から下流までの風景や自然を表現した「木曽川水園」、木曽
川本流の川原である「川原広場」、木曽川支流の新境川に隣接する「河の森」など、
木曽川の自然や文化を生かした公園には、指導員が常駐し、通年で環境教育プロ
グラムを実施できる体制を整えている。館内は、川の自然環境や生態が学習・実
験できるように工夫をされた四つの工房(体験工房、実験工房、創作工房、発見
工房)から成り立っており、これらの工房と屋外のフィールドを一体的に活用し
て活動を行っている。
イ)実施される場所、時期について
自然発見館では、Project Wild のプログラムや、様々なグループワークを散り
ばめて開催している。本プログラムは、遠足で使われることが多く、クラフト系
は人気のプログラムとなっている。理解のある先生はだんだんとワークショップ
型のものへと移行していく。年間に約 3 万人が利用しており、新規プログラムも
毎年開発している。自然発見館を訪れる人は推測で年間 30 万人、国営公園に訪れ
る人は 300 万人いる。
ウ)実施に際しての標準的な進行形態について
標準的な進行形態としては、単にモノを作るプログラムに参加するだけでなく、
それにどういった意味があるのかという振り返りを最後に行うようにしている。
定員は最大 30 人くらいだ。
自然発見館では、学校団体(小学校、中学校など)および一般団体(子ども会
や PTA など)向けに、水辺という立地特性と自然の素材を活かした参加体験型の
教育プログラムを通年実施している。
プログラムは、「学校団体・一般団体共通のプログラム」、
「学校団体向けのプロ
グラム」、「一般団体向けのプログラム」に分けて、対応している。
団体向けの教育プログラムへの参加は、すべて事前予約制により学校団体を除
いて 10 名以上で受け付けている。リストから、希望プログラムと日時を選択して
申し込むが、来館やプログラム参加の動機・目的、年齢層を聞いた上で、自然発
見館から適切と思われるプログラムを提案する場合もある。平成 15 年度の利用数
については、学校団体では 126 校 363 クラス 10,976 人。また一般団体では 85 団
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
②自然発見館
- 58 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
体 131 クラス 2,835 人。学校団体と一般団体を総合すると、前年度に比べ、団体
数で 12 増、クラス数で 51 増、参加者人数で 1,323 人増であり、利用が増加した。
利用が最も多い月は学校団体では 10 月の遠足シーズン、一般団体は 8 月の夏休
み期間であった。10 月を挟み、学校団体の集中する 9 月中旬から 11 月中旬にかけ
て、工房は連日ほぼ満室状態であった。利用の多いプログラムは学校団体では五
感を使って自然に触れ合う「自然観察ビンゴ」
、クラフト系の「草染めポストカー
ドづくり」や雨天でも実施できる「川を汚したのは誰」、一般団体ではクラフト系
の「草染めポストカードづくり」「バードコールづくり」であった。
<参加体験型の教育プログラム 実施時間>
1 時間プログラム
午前の部 10:00∼11:00
午後の部 13:00∼14:00
2 時間プログラム
午前の部 10:00∼12:00
午後の部 13:00∼15:00
4 時間プログラム 10:00∼15:00(※12:00∼13:00 は休憩)
<参加料>
団体の種類
1 時間プログラム
2 時間プログラム
4 時間プログラム
学校団体
200 円
200 円
400 円
一般団体
200 円
300 円
600 円
※参加料は1人あたりの金額。参加する人数分の費用が必要。
※学校団体の引率者は無料。
※B-①、C-③、C-⑦、C-⑧、C-⑨は別途材料費が必要
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
②自然発見館
- 59 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
□提供している教育プログラム一覧
<学校団体・一般団体共通プログラム>
クラフト
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
一般∼
高校
中学校
高学年
小学校
中学年
小学校
低学年
A-①ストーンペインテ
小学校
タイトル
間
幼稚園
種類
主な対象
時
ィング
2
A-②川原の図鑑づくり
時
A-③草花の型染め
間
A-④野草を使った紙づ
くり
A-⑤自然観察ウォーク
○
○
○
○
○
○
A- ⑥ ネ イ チ ャ ー ビ デ
○
○
○
○
○
○
A-⑦自然観察ビンゴ
○
○
○
○
○
A-⑧森の生きものさが
○
○
○
○
○
1
時
オ・スライド&トーク
間
観察
し
2
A-⑨川のことを知ろう
○
○
○
○
時
A-⑩ネイチャーウォー
○
○
○
○
間
クラリー
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
A-⑭渡り鳥の水辺
○
○
○
○
A-⑮みんなで生きもの
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
A-⑪川の生きものさが
し
A-⑫生きものつながり
1
マップをつくろう
時
A- ⑬ 川 を 汚 し た の は
ワークショップ
間
誰?
2
をつくろう!
時
A- ⑯ 川 を 汚 し た の は
間
誰? (発展編)
A-⑰水の旅
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
②自然発見館
- 60 -
第1章
管理作業
2
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
A-⑱河の森のお手入れ
○
○
時
間
<学校団体向けプログラム>
主な対象
○
○
○
○
○
○
一般∼
○
高校
○
中学校
○
高学年
B-②小さな庭づくり
小学校
時
○
中学年
B-①フォレストアート
小学校
クラフト
1
低学年
タイトル
間
小学校
幼稚園
種類
時
間
観察
ワークショップ
管理作業
1
B-③かんさつ めがねづ
○
時
くり
間
B-④自然の落としもの
○
○
○
1
B-⑤水の詩(うた)
○
○
○
○
○
時
B-⑥トンボと くらす町
○
○
○
○
間
づくり
B-⑦プラスチックの海
○
○
○
○
B-⑧今、そこにある危機
○
○
○
○
2
B-⑨食べもの はどこか
○
○
○
○
時
らくる?
間
B-⑩グループワーク
○
○
∼協力すること∼
※河川環境楽園
自然発見館,平成 15 年度
自然発見館
活動記録集より
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
②自然発見館
- 61 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
<学校団体向けプログラム>
主な対象
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
高校∼
一般
中学校
小学校
高学年
小学校
中学年
C-①ストーン ドローイ
小学校
タイトル
間
低学年
幼稚園
種類
時
ング
C-②草染めポ ストカー
ドづくり
C-③バードコ ールづく
1
り
時
C-④木の輪切 りのペン
間
クラフト
ダントづくり
C-⑤小石のペ ンダント
づくり
C-⑥小枝の写 真立てづ
くり
2
C-⑦
蜜ろ う そくづく
○
○
○
○
時
り
4
C-⑧ハンカチ の草木染
○
○
○
○
時
め
C-⑨ヨモギ団子づくり
○
○
○
○
C-⑩クズのリ ースづく
○
○
○
○
間
クラフト
季節限定
間
(
2
時
)
間
り
※河川環境楽園
自然発見館,平成 15 年度
自然発見館
活動記録集より
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
②自然発見館
- 62 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
□提供されている団体プログラムの内容について
例)<A-① ストーンペインティング>
概要:石の成り立ちや川の環境について導入の学習をする。その後木曽川の
川原に出て、いろいろな形や模様の石を観察しながら石を収集する。
石に色を塗り、全員でその作品を鑑賞し、その成果を共有する。
ねらい:川原の石とその環境の成り立ちを知る。想像力、発想力を豊かにす
る。
所要時間:2 時間
主な対象:幼稚園∼大人
季節:通年
例)<A-② 川原の図鑑づくり>
概要:図鑑についての情報提供を行うとともに、図鑑のイメージを話し合う。
その後、木曽川の川原に出て、植物や石を観察しながら、気に入った
もの興味を引いたものを採取する。採取した石や植物を直接厚紙に貼
り、その特徴から、自分だけの名前をつけて、図鑑を作成する。
ねらい:自然観察をするときに使う「特徴をとらえる」能力を養う。自分だ
けの図鑑をつくることで、想像力と感性を育む。
所要時間:2 時間
主な対象:幼稚園∼大人
季節:春∼秋
持ち物:材料集め用の袋
エ)一般化するための人材育成について
進行役の人は現在、8 人(常勤では最低 6 人)いて、1 人 1 クラスで対応する。
自然発見館では、学校や地域社会での環境教育の指導者を育成するため、7 種類
の環境教育指導者養成講座を実施している。
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
②自然発見館
- 63 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
<体験学習法セミナー>
総合的な学習の時間や自然体験活動の充実に向けて、参加体験型の環境教育の企画・運
営に必要な、専門的知識・技術を学ぶ。このコースでは、
「体験学習法」及び「プログラム・
デザイン」の手法を学ぶ。
講師
小河原
対象
環境教育に関心を持つ学校教育や社会教育の指導者・教員・学生など
時間
10:00∼18:00 を 2 日間連続(2 日間で終了)
参加費
孝生
8,000 円
<野外展示企画セミナー>
環境教育施設の野外展示作成に必要な基本的な知識・考え方・技術を学ぶ。
講師
小河原
対象
環境教育施設の展示作成に関わる人・興味のある人
時間
10:00∼18:00
参加費
孝生、高畠
千尋
8,000 円を 2 日間連続(2 日間で終了)
<インタープリテーションセミナー>
自然解説に必要な基本的な知識・考え方・技術を学ぶ。
講師
小河原
孝生
環境教育施設の解説業務に関わる人。インタープリテーションに興味のあ
対象
る人
時間
参加費
10:00∼18:00 を 2 日間連続(2 日間で終了)
8,000 円
<ビオトープ技術セミナー>
ビオトープの基本的な考え方や作り方について学ぶ。
講師
牛山
時間
10:00∼18:00(1 日で終了)
参加費
正人、川口
邦彦
4,000 円
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
②自然発見館
- 64 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
<自然感察セミナー>
自然のおもしろさを自分で発見する喜びやアプローチ方法を学ぶ。
講師
藤本
時間
10:00∼18:00(1 日で終了)
参加費
和典
4,000 円
<Project Wild エデュケーター養成講座>
Project Wild は幼稚園から高校までの子どもたちを指導する教育者向けに米国で開発さ
れた、野生生物をテーマとする参加型の環境教育プログラム。受講後、エデュケーターと
して認定、日本語教材を取得できる
講師
対象
時間
参加費
Project Wild
Project Wild
エデュケーター養成講座
エデュケーター養成講座
(1 日コース)
(2 日コース)
小河原
無量小路
孝生
共美
環境教育に関心を持ち、環境
環境教育に関心を持ち、環境
教育の指導経験がある人
教育の指導経験がない人
10:00∼18:00
10:00∼18:00 を 2 日間連続
(1 日で終了)
(2 日間で終了)
4,000 円+テキスト代 4,000 円
8,000 円+テキスト代 4,000 円
<Project Wild フォローアップ講座>
エデュケーターの資格を有する方を対象として、Project Wild を更に学び、
実地で使いこなせるようになるように、テキストを読んで応用し、アクティビティを実践
して研修した。
講師
無量小路
時間
10:00∼18:00(1 日で終了)
参加費
※河川環境楽園
共美、猪俣
寛
4,000 円
自然発見館,平成 15 年度
自然発見館
活動記録集より
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
②自然発見館
- 65 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
③CAMP
ア)CAMP の概要
Children's Art Museum & Park (以下、CAMP と略す)は、「子どもたちが情報
化社会の創造を先導していく」という CSK グループの創業者である故・大川 功氏
(2001 年 3 月逝去)の理念のもとに 2001 年 4 月、関西文化学術研究都市に設立さ
れた CSK 大川センターを活動拠点とする研究施設である。CAMP では子どもを対象
に自分にあった表現方法やコミュニケーション技術を、教育的プログラムを通し
て学ぶ機会の創出を行っている。
活動は「CAMPER」と呼ばれる CAMP の趣旨に賛同する世界各地、様々な分野で活
躍する関係者や、米国マサチューセッツ工科大学(以下、MIT と略す)をはじめと
する国内外の大学、研究機関、企業や子ども博物館、科学館などと協同で実施さ
れている。
イ)実施される場所、時期について
CAMP の教育プログラムは、大川センター以外では、科学館や博物館を中心に行
われている。その他、総合的な学習の時間で小学校や中学校との連携、大学で実
施した実績もある。
1 回の教育プログラムに参加する対象年齢や人数は、テーマによって幅があるが、
科学館で開催するときは 20 人くらいで行われることが多い。
教育プログラムは、定期的に月 2 回は行われる。他に、不定期のものを合わせ
ると月に 4 回くらいは行われている。
CAMP で実施する教育プログラムへの参加は近隣のことも多いが、大阪、奈良、
三重などから来る子どもも、いる。
教育プログラムを開催する際、教育プログラム開催の案内を近くの住民の方に
配布する。その他には地元メディアの取材を積極的に受け入れている。
ウ)実施に際しての標準的な進行形態について
教育プログラムの進行は CSK の社員、アルバイト、ボランティアが行う。ボラ
ンティアは学生、大学職員、近くの研究所に勤める研究員の方である。CAMP 以外
の場所では、その場の職員の方、例えば科学館、博物館の人達にファシリテイタ
ーをお願いしている。
教育プログラムの共通した進行方法として、まずイントロダクションとして参
加者全員が輪になってリラックスしながら自己紹介を行う。次にプログラムに関
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
③CAMP
- 66 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
する説明をし、制作、レポート作成と進んでいき、発表に至る。発表では各自の
作品を自分で紹介してもらう。自分の作品を他の人に説明することで、自分自身
のアイディアや制作の過程をまとめ直していく。最後にリフレクション(振りか
えり)として、デジタルカメラで撮影した写真をスライドショーで見る。タイム
チャート、空間配置等に関しても細かい指示を出す。例えば、3 時間の教育プログ
ラムで、イントロダクションは 5 分程度が適切である、ガイダンスは 10 分が適切
であるなど、3 時間を各ステップに配分して進行できるようにしている。イスやテ
ーブル、素材の配置に関しても決めてある。子どもたちが動きやすいようなスペ
ースを事前にセッティングできるように心がけている。使用する道具に関しても
必要な数を明確にしている。例えば、20 人の参加者がある場合、2 人 1 組で制作
をするとパソコンは 10 台必要になり、かつ説明用に 1 台、予備として 3 台、合計
14 台必要になると事前に予測する。他の各道具に関しても、人数に合わせ必要な
数を事前にチェックできるようになっている。
教育プログラムを進行している時の注意点として、お手洗いの場所を確認する
こと、手荷物の置き場所に案内するなど細かいこともある。最後のリフレクショ
ンのときにデジタルカメラの写真を必要とするので、教育プログラムの最初から
写真撮影をしなければならない。他にもグループの雰囲気をチェックし、プログ
ラミング理解のサポートをする。これらは過剰に介入しすぎてもいけない。グル
ープでお互いに話す雰囲気がない時には、ファシリテイターも一緒に加わって話
のできる雰囲気を作る。しかし、ファシリテイターがそのグループに居続けるこ
とは好ましくない。年齢のばらつきや、ひとりひとりの個性もあるので、それぞ
れ配慮が必要だ。プログラミングに関しても理解度のチェックはとても重要であ
る。プログラミングを理解できていなければ次第に飽きてしまうので、適切にフ
ォローしなければならない。子どもたちはいろいろな問題にぶつかるが、ファシ
リテイターは答えを「教える」という行動を避け、あくまで、子どもたちと共に
考え、共に話し合える存在でいる。また、安全面に関する管理も重要であり、常
に危険を予測して、子どもたちの安全に気を配る必要がある。特に危険を伴う道
具を使用する場合には、わかりやすく使い方と注意点を説明する。
エ)一般化するための教材等パッケージ
パッケージ化されている教育プログラムは現在、クリケットワークショップの
みである。しかしその他の教育プログラムもこれからマニュアル等を制作してい
く予定である。
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
③CAMP
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
唯一、パッケージ化されているクリケットワークショップのねらいは、まず、
「ク
リケット」という新しい表現ツールに触れることである。他にもプログラムの概
念を理解する、いろいろなマテリアルを使って発想を形にしていく、動きと形を
関連付けて考えることなどがあげられる。「プログラミング」と「マテリアルによ
る創作」というまったく異なる要素をうまく組み合わせていくのが特徴だ。子ど
もたちに、それぞれの表現手段の特徴を体験しながら知ってもらうこと、二つの
表現手段を組み合わせることによって生まれる新しい表現手段を体験してもらう
ことを、この教育プログラムは目的としている。
学校カリキュラムへの対応として、10 コマほど使って実践したが、現状では難
しいと考えている。2 時間半程度のプログラムは、クラブ活動でも実践している。
教育プログラムの運営は現場の方に任せたいと考えているが、学校側は CAMP に全
てを任せて、指導者も揃えてもらいたい点がネックになっている。今後、ファシ
リテイターもセットにして派遣するかどうかは焦点になっていく。
□CAMP の参加体験型教育プログラムの構成要素
CAMP は子どもたちが、自分に合った表現手段(美術・デザイン・メディア・
音楽・身体・言語)を様々な参加体験型の教育プログラムを通して発見する活
動の場である。
(CAMP では提供している参加体験型教育プログラムを「ワークシ
ョップ」と総称しているが、この報告書では便宜上、参加体験型教育プログラ
ムと呼称する。)
CAMP の参加体験型教育プログラムは、
a)考える……好奇心・探究・発見
b)つくる……過程・試行錯誤・クリエイティビティ
c)つながる……出会い・共有・交換
d)発表する……客観視・理解・伝達
e)ふりかえる……きっかけ・成長・再構成
といった五つ要素をベースに構成している。
また CAMP の参加体験型教育プログラムを効果的に実現するため、実施する空
間、時間的なデザイン、使う素材とツール、ファシリテーションについて重要
視している。
□館外で始めて実施された参加体験型教育プログラム
CAMP では、開発した参加体験型教育プログラムを広く社会に普及するための
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
③CAMP
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
試行として、平成 14 年 11 月 15 日∼17 日、コンベックス岡山(岡山県)で開催
された「全国マルチメディア祭 2002in 岡山」において、CAMP で開発した参加体
験型教育プログラム「クリケットワークショップ」を実施した。プログラムは
11 月 16 日、17 日の 13:00∼17:00 の 2 回実施され、参加者は 16 日=14 名、
17 日=19 名の小学校 4 年生∼6 年生の子どもたちが参加した。
この「全国マルチメディア祭 2002in 岡山」で、自らが開発した参加体験型教
育プログラムを始めて館外で実施することになった CAMP では、この時の主眼を
CAMP という固有の場所で実施してきたプログラムを、どの場所においても実施
できるために必要なプロセスや課題の抽出を念頭に進めた。
またプログラムの主催者と実施者が異なる今回のケースでは、プログラム実
施前に事前に責任の範囲や権利関係について協議と整理が行われた。例えば「ク
リケットワークショップ」に関する知的所有権についても CAMP のものと確認さ
れ、制作された作品の著作権については撮影・収録後、すべての作品を CAMP で
回収することで合意された。また、権利関係の問題等も含め、プログラム実施
にあたり、主催者である CANVAS と実施者の CAMP は、開催協力、ワークショッ
プ展示会、知的所有権、部機材の回収、作品の回収と保管、保管作品の貸し出
し、協議に関する覚書を事前に締結した。
オ)実施に対する評価基準
子どもたちの評価手法としては、子どもたちによる発表という手法をとってい
る。発表をするために、子どもたちにレポートを書いてもらい、レポートでは動
きや形の特徴、作品の背景にあるストーリー、自分が考える見所を紹介してもら
う。他には感想文も書いてもらう。この感想文と写真をセットにしてレポートと
し、子どもたちが見えるところに貼り、公表する。また、制作したものを上映し
て振り返りを行う。後で作った成果品を CAMP の Web サイトにも掲載する。
教育プログラム自体の評価としては、フロア・ファシリテーター、チーフ・フ
ァシリテーターは教育プログラムの後に、反省会を行う。受付や教育プログラム
中のトラブルや、実際にあった子どもたちの行動、教育プログラムのどんな場面
で子どもの集中が切れたかなど、プログラム中の出来事を検討していく。また自
己申告だが、ファシリテイター用に反省のためのフォーマットもある。時間配分
が適切だったか、スペースレイアウトが適切であったかなど、フォーマットにそ
って記入できるようにしている。これを全員で共有することでお互いの経験を生
かしていく。
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
③CAMP
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
また、保護者からもアンケートを取って、その教育プログラムの評価を伺う。
カ)一般化するための人材育成について
ファシリテイターの育成として、マニュアルを活用した講習ファシリテイター
を行っている。
今年に入るまではファシリテイターのための指導をしていなかった。しかし、
それではあまり効果が上がらないため、講習会を開き、今までに講習会を受講し
た方は 50 人を達成した。
講習会の時間はだいたい半日くらいである。ファシリテイターでもチーフ・フ
ァシリテーターとフロア・ファシリテーターという役割がある。フロア・ファシ
リテーターは、約 2 時間の講習で、その後クリケットの講習を 2 時間程度行う。
チーフ・ファシリテーターの講習に関しては、長くて丸 2 日間かかることもある。
フロア・ファシリテーター講習では、CAMP コンセプトの説明、ファシリテータ
ーコンセプトの説明をおこない、その後にファシリテイター同士でディスカッシ
ョンを行う。クリケットの講習では最初に、ビデオでクリケット教育プログラム
の紹介をしてからアジェンダを説明する。次にクリケットの組み立てと基本的な
使い方に関して覚えてもらう。確認のために練習問題が設定してあり、それを解
いてもらう。また、教育プログラムの際にどのようなトラブルが起きやすいかに
関してのトラブルシューティングや、クリケットと素材の接着に関する説明を行
う。また、教育プログラムに参加するファシリテイターは事前のミーティングと
リハーサルに参加する必要がある。各ファシリテイターの動きをお互いに把握し、
教育プログラム本番には余裕を持って動けるようにしておく。
4)ミュージアムで実施されている参加体験型の教育プログラム
③CAMP
- 70 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
5)教育的プログラム構築のための基本的な考え方
ここでは、普及にむけた教育的プログラムを構築するため基本的な考え方について、
前述した調査を踏まえながら抽出するものである。下記五つの観点から、整理を行っ
た。
①教育プログラムを実施する場所
②教育プログラムを実施するシチュエーション
③教育プログラム実施にあたっての適切な内容(プログラム・デザイン)
④教育的なプログラムの構築と一般化するためのパッケージ手法
⑤教育プログラムの評価システム
①教育プログラムを実施する場所
教育プログラムを実施する場所としては、学校等、教育施設があげられる。また
博物館や図書館、公民館や生涯学習センターなど社会教育施設も実施に適切な場所
と思われる。また企業等のショールームには、必ずと言って良いほど大なり小なり
イベントを実施できるスペースが確保されている。そのような場所でも教育的プロ
グラムの展開が可能である。
<想定される実施のための適切な場所>
教育施設:幼稚園・小学校・中学校・高等学校
社会教育施設:博物館・美術館・科学館・動物園・水族館・
植物園・図書館・公民館・生涯学習センター
その他の施設:ショールーム・イベント会場
しかしながら、教育的プログラム実施には、入念な準備が必要である。1 回きりの
イベントなら問題はないが、継続的な活動として捉えるなら、CAMP や自然発見館の
ようにプログラムを常時実施するための場を確保することを推奨する。その際、空
間の広さは 1 クラスが収容できる大きさが適切であり、複数のクラスに対応する場
合は、同じ大きさの場が同様に複数必要になる。あわせてプログラムに使用する素
材や開発した教材などをストックするスペースの確保が必要であることも付け加え
ておく。
可能な範囲の想定として、博物館等、社会教育施設にて、継続して活動する形態
が考えられる。
5)教育的プログラム構築のための基本的な考え方
- 71 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
②教育プログラムを実施するシチュエーション
教育プログラムを実施するシチュエーションとしては、学校教育における授業で
利用してもらうのが理想であるが、一部の私立学校を除くと様々な要因から、そこ
までに至るのは難しい。比較的、現実的と思われるのは、博物館等、社会教育施設
における学校団体向け教育プログラムの提供で、教科での利用は無理な場合でも、
総合的な学習の時間や遠足等で体験する事例は、自然発見館やマリンワールドでも
多く見られた。ここでは、教科以外での学校との連携を推奨する。その際、放課後
や長期の休み期間等、学校利用以外のニーズも想定される。
<想定される実施のための適切な時期>
学校教育:教科・総合的な学習の時間・遠足
社会教育:学校団体向けプログラム・放課後向けプログラム・
課外向けプログラム
その他:イベント
しかし、学校教育の中で教育的プログラムの利活用が必ずしも不可能なわけでは
ない。そのプログラムが、学習指導要領や教科書のどの範囲をカバーしているか、
情報提供をしっかりと行う授業案や教師向けのマニュアル、ワークシートや教材な
ど、教育プログラム以外のツールの開発を行う、などの対策をとれば、可能性は充
分にある。
③教育プログラム実施にあたっての適切な内容(プログラム・デザイン)
教育的なプログラムを実施するにあたって、進行を含めた構成の企画をプログラ
ム・デザインと言う。米国国立公園におけるインタープリテーション専門のレンジ
ャー向けのテキスト「The Interpreter's Guidebook: Techniques for Programs and
Presentation」では、「つかみ →
つなぎ
→
本体
→
まとめ」の四つのフェ
ーズでプログラムを構成する手法が書かれ、ネイチャーゲームを考案したジョセ
フ・コーネルは「Sharing Nature With Children」の中で、「熱意を呼び起こす
感覚を研ぎ澄ます
→
自然を直接体験する
→
→
感動をわかちあう」の四つのス
テップを「フロー・ラーニング」として紹介している。山梨県清里で環境教育の現場
に携わる川嶋直(財団法人キープ協会)は、この二つの事例を噛み砕き、
「つかみ(受
け入れる準備) →
本体(感じる・考える・創り出す) →
まとめ(持ち帰る)」
5)教育的プログラム構築のための基本的な考え方
- 72 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
と独自の解釈を行っている。
<実施のための適切な内容>
つかみ
体験と学びを受け入れる準備
本体
直接的な体験と学び
まとめ
体験と学びのわかちあい・ふりかえり
教育的プログラムを開発する場合、直接的な体験だけでなく、つかみやまとめと
いった本体をつなぐ要素を考慮したプログラム・デザインが必要である。
④教育的なプログラムの構築と一般化するためのパッケージ手法
ICT を用いた、子どもの創造力、表現力向上の活動を広く社会に認知させ、活動の
普及をはかるためには、
「どの場所でも、誰でもが行える」教育的プログラム構築と、
一般化するためのパッケージ化が必要とされる。
独自の教育的プログラムを構築する方法としては、下記に掲げた二つの方法が想
定できる。一つは、今回インタビューを行った Project Wild や GEMS のような既に
システムとして実績があり、趣旨に沿った教育的プログラムを推し進める方法があ
げられる。またもう一つは、労力は前者より多いが、独自でオリジナルな教育的プ
ログラムを 1 から構築する方法があると思われる。ここでは前者の手法を推奨する。
前者の手法を選択した場合、まず利活用できるプログラムについて事例の集積を
行う。次に集められたプログラムを教育現場で活用するため、プログラム開発者、
教育現場に従事する人などを中心に、教育的な視点(例えば学習指導要領とのリン
クやどのカリキュラムで活用できるか等)をプログラムに加味し、構成など再デザ
インする。また上記のメンバーに学習塾など教育産業従事者や出版会社等を含め、
テキスト教材、指導者向けマニュアルの開発も推進する。
テキストには、対象(何年生の、どの科目の、どの技能に対応等)、目的、背景、
用意するツール、時間配分、人数配分、場面設定、進め方、発展方法、ふりかえり、
後片付けに関して記載するのがよい。指導者向けテキストでは、プログラム活用法、
進行方法、用語集、全体を通じたアドバイスを記載するのがよい。
5)教育的プログラム構築のための基本的な考え方
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
<流通のためのパッケージ手法>
プログラム事例の集積
集められたプログラムを教育現場で活用するための再デザインと試行
ワークシートやプログラム用ツール等教材の開発
指導者向けのテキストやマニュアルの開発
なお、CANVAS では、今まで実施してきた子どもの創造力・表現力向上に重点をお
いた教育プログラムを総称して「ワークショップ」と呼んでいる。しかし中野民夫
は、著書「ワークショップ
―新しい学びと創造の場―」の中でワークショップを
『先生や講師から一方的に話を聞くのでなく、参加者が主体的に論議したり、言葉
だけでなくからだやこころを使って体験したり、相互に刺激しあい学びあう、グル
ープによる学びと創造の方法』と定義している。ワークショップはあくまでも手法
を示す言葉であるため、独自の教育プログラム構築・認知・普及のためには、現在
呼称している「ワークショップ」という言葉は極力使用せず、相応しい名称を付け
る必要がある。
⑤教育プログラムの評価システム
知識が優先され、事象を全体としてとらえるよりも、個々に分解したものを細か
く、多く覚えていくという学習スタイルが我が国では一般的であった。そのため知
識に関する評価は行えるものの、事象の全体的な把握といった面からの総合的な評
価はあまり行われていない。
しかし今回、調査を実施した各機関においては、教育プログラム同様、独自の
評価システムを築いている。評価の視点としては、知識の評価だけでなく、理解
度、態度、技能などを総合的に評価しようと腐心している。
<実施に対する評価基準>
□何を評価するのか
教育プログラムを実施した人
教育プログラムの内容
施設、教材、サービスについて
□だれが評価するのか
評価の対象者による自己申告
他者による評価
□評価の視点
知識
理解
態度
技能
5)教育的プログラム構築のための基本的な考え方
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
次ページに掲載した評価項目は、米国のヨセミテ国立公園において、青少年向
けの環境教育を実施している非営利団体ヨセミテ・インスティチュート(以下、YI
と略す)で教育的なプログラムが終了した際に配布されるアンケートに記されて
いる評価項目である。アンケートは子どもたちの付き添いできた教師もしくは親
と参加者である子どもたちに対して行われている。
このような例はあるものの、上記のように知識に関する評価以外の評価に関し
ては、今回調査したどの団体も、アンケートや作文、反省会といったものしか行
っておらず、今後、評価指標を作っていくことが求められる。
5)教育的プログラム構築のための基本的な考え方
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
<YI における教育プログラム終了時点の評価項目>
引率者用のアンケートに記載されている評価項目
・インストラクターは一貫して YI のテーマである「場所の感覚」
「地球の管理者」
「相互の関連性」を通してプログラムを進行した
・インストラクターは効果的にグループの積極的な対話を促した
・学習は活動的かつ協力的で、知性面では挑戦的であった
・グループは上手に教育プログラムの物理的な試練に立ち向かった
・インストラクターはグループワークについて調和と積極的な関係を確立させた
・すべての活動は安全な方法でおこなわれた
・活動は学際的であった
・環境問題について、インストラクターは異なった見地からバランスをうまく保った
・インストラクターは学生の能力にあわせてプログラムを進めた
・付き添い者は、グループの目的達成の役割を演じるように促された
・夕方のプログラムはグループにとって価値のある経験だった
・YI のコーディネイターは、事前に引率者の責務を説明した
・YI の施設管理担当者はオリエンテーション時に引率者の責任を明らかにした
・インストラクターの長所と短所をコメントする
・YI のサービス(食事・施設・人・プログラム)について評価
参加者用のアンケートに記載されている評価項目
・宿泊施設と食事について
・施設管理担当者について
・担当したインストラクターの教える能力について
・担当したインストラクターはあなたとグループの調和を促進したか
・担当したインストラクターはグループの安全を確保したか
・担当したインストラクターは知的だったか
・愉しかった夜のプログラムについて
・ヨセミテで愉しんだこと
・ヨセミテで愉しめなかったこと、それはどうして愉しめなかったか?
・YI で学んだ重要なこと
・友人に YI を薦めるか、薦める場合はその理由を述べる
5)教育的プログラム構築のための基本的な考え方
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
⑥教育プログラムを一般化する人材の育成
教育プログラムを一般化するための人材育成システムは、プログラムや教材の開
発と同じくらい重要である。今回調査したプログラムの普及に成功している全ての
団体が、人材育成のためのプログラムを用意していた。
人材の育成は、
ア)教育プログラムを子どもたちに実施する人材
イ)前者の育成に関与する人材
二つの育成システムが必要であることも明らかになった。ア)を Project Wild では
エデュケーター、GEMS ではリーダーと呼び、イ)を Project Wild ではファシリテイ
ター、GEMS ではアソシエイトと呼称しているものに当たる。
人材育成の主要な対象者としては、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の教師の
他、放課後活動等で子どもたちと接しているプレイリーダーやボランティア、子ど
もや教師向けに教育プログラムを提供しているミュージアムや団体、企業、その他
教員を養成する機関のスタッフなど、幅広い。
今後、プログラムを普及するにあたっては、上記ア)とイ)の両方に対応する人材
育成プログラムを作成し、定期的に講習会を設け、認定システムを確立していくこ
とを提案する。
<教育プログラム実施のための人材育成システム>
人材育成システムのパターン
・教育プログラムを子どもたちに実施する人材育成
・教育プログラムを子どもたちに実施する人材育成に関与する人材育成
対象
・幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教師
・放課後活動等で子どもたちと接しているプレイリーダーやボランティア
・子どもや教師向けに教育プログラムを提供しているミュージアムや団体、企業
・教員を養成する機関
⑦その他(関係業界とのネットワークづくり)
教育プログラム構築には、関係業界とのネットワークづくりが重要である。その
うち特に教員や博物館関係者とのネットワークは必須と言える。これら関係者の集
まる学会や会合への積極的な参加が求められる。
また、そのような関係者が多数、教育プログラムの開発に関与することが望まし
い、そのためには委員会形式によるプロジェクトなどが学校の教員や博物館の職員
などが参加しやすい組織、形態を考慮する必要がある。
5)教育的プログラム構築のための基本的な考え方
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
6)参考文献
米国環境教育協議会(1999)、『プロジェクト・ワイルド―本編―活動ガイド』、
(財)公園緑地管理財団
米国環境教育協議会(1999)、『プロジェクト・ワイルド―水辺編―活動ガイド』、
(財)公園緑地管理財団
Lawrence Hall of Science University of California at Berkeley(2002)、
『GEMS 教師用ガイド「酸性雨」』、ジャパン GEMS センター
Lawrence Hall of Science University of California at Berkeley(2002)、
『GEMS 教師用ガイド「テラリウム」
』、ジャパン GEMS センター
Lawrence Hall of Science University of California at Berkeley(2002)、
『GEMS 教師用ガイド「Oobleck」』、ジャパン GEMS センター
Lawrence Hall of Science University of California at Berkeley(2002)、
『GEMS 教師用ガイド「校庭のエコロジー」』、ジャパン GEMS センター
Lawrence Hall of Science University of California at Berkeley(2004)、
『GEMS 教師用ガイド「たった一つの海」』、ジャパン GEMS センター
Lawrence Hall of Science University of California at Berkeley(2004)、
『GEMS 教師用ガイド「地球温暖化と温室効果」
』、ジャパン GEMS センター
Lawrence Hall of Science University of California at Berkeley(2004)、
『GEMS 教師用ガイド「環境探偵」』
、ジャパン GEMS センター
Lawrence Hall of Science University of California at Berkeley(2004)、
『GEMS 教師用ガイド「化学反応」』
、ジャパン GEMS センター
Lawrence Hall of Science University of California at Berkeley(1992)、
Investigating Artifacts
Lawrence Hall of Science University of California at Berkeley(1992)、
In All Probability Project
アメリカ森林協議会、『木と学ぼう
プロジェクトラーニングツリー
活用事例集
(幼∼小 6)』
、国際理解教育センター
国際理解教育センター、
『レッスンバンク
『木と学ぼう
テーマ別おすすめセット
Project Learning Tree』追加・発展教材集』、国際理解教育センタ
ー
ジョセフ・B・コーネル(1986)、『ネイチャーゲーム』、柏書房株式会社
国際理解教育センター、
『米国環境教育事情 PLT・WILD・WET を中心として PLT ファシ
リテーターハンドブック&環境教育研修米国ツアー報告集』、国際理解教育センター
マリンワールド海の中道、『楽しく学ぶ水族館』
河川環境楽園 自然発見館(2002)、『自然発見館
おすすめ体験学習プログラム
環境教育プログラムマニュアル集』
河川環境楽園
自然発見館、
『自然発見館平成 15 年度版団体プログラム利用の手引き』
河川環境楽園
自然発見館、『自然発見館
利用の手引き』
6)参考文献
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第1章
河川環境楽園
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
2.学校・博物館等教育機関から見た問題・要望に関する調査
自然発見館、『平成 15 年度
自然発見館
活動記録集』
CAMP、『CAMP ファシリテーターコンセプト』
CAMP、『CAMP コンセプト』
ERIC 国際教育センター(1998)、『川に学ぼう環境学習アクティビティ集』
6)参考文献
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
3.企業から見た問題・要望に関する調査
1)目的と概要
ここでは、企業との連携ということを焦点に調査研究を進めた。
子どもの創造・表現活動を全国的に普及させるにあたり、常に問題となることは、
資金を中心としたリソース不足である。今後この分野を普及啓発するにあたり、企業
との連携は不可欠である。平成 14 年度、平成 15 年度の海外調査で明らかなように、
欧米を中心とした海外では、学校、ミュージアムと企業の連携が効率的に構成されて
いる。それに比較して、日本では、企業との関わりが浅く、今後この分野の飛躍的展
開を図るにあたり、企業との関係強化は必要不可欠である。そこで、子どもの創造・
表現活動に関わる事業を行っている社会貢献部門を中心とした企業の方々と、情報交
換、意見交換をすることで、今後の対応方策を提言する。
本章では、学校、ミュージアム、企業、政府など様々なステイクホルダーと中立的
な立場で連携が可能であり、近年注目を浴びている NPO(特定非営利活動法人のみでな
く、社団法人、財団法人を含む意味での NPO。海外でのチルドレンミュージアムの運営
形態の多くは非営利組織である。)と企業の関係を中心に調査を進めた。
1)目的と概要
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
2)企業と NPO の連携
①連携の意義
NPO は市民活動の形として社会に定着してきており、その活動の幅が広がりつつあ
る。そして、単に市民のボランティア活動という枠を超えて、専門性が高く、行動
力のある NPO も育って来ている。こうした状況の中で、社会の新たな主体としての
NPO と企業との関係を考えることが必要となってきている。
企業にとっては、NPO と連携することで、自らの企業活動に何らかの直接的・間接
的な利益を得たり、あるいは、それを企業の社会貢献の一環として位置づけたりす
ることにより、企業のイメージ向上等に役立てることができると考えられる。
ICT 分野における子どもの表現力・創造力を伸ばすということを例にとると、新し
い分野であるだけに、教育現場や家庭ではどのように行えばよいかの手法が確立さ
れておらず、未開発の分野となっている。企業側もそれが直接の企業利益に結びつ
くというものではないため、熱意のある企業は多いとは言えない。ICT 関連企業で、
ICT 分野の裾野を広げる、将来の顧客層を開拓する等の目的で、関心を持っている企
業があったとしても、どのような活動を行えばよいか分からないため、具体的な行
動に移しにくい状況である。他方、子どもの教育の分野で活動している NPO で、ICT
社会への対応を検討しているものがあっても、資金・人材などの条件が整わず、実
現できないでいるものがあるのではないか。このような場合、企業と NPO が連携し
てそれぞれの持つ資産を活用することにより、活動を実施できるのではないか。教
育現場や地域コミュニティーにおいても、企業のみ、NPO のみの場合と比較して、そ
の能力や内容についての信頼性が高いと判断できれば、その活動を導入しやすいの
ではないかと考えられる。ICT 分野における子どもの表現力・創造力を伸ばすという
活動は、企業と NPO の連携に対する潜在的ニーズがあるのではないかと思われる。
②NPO と企業のよりよい関係構築のための基本的視点
NPO と企業が連携する場合、どのような関係を構築していくのが望ましいのかを検
討する必要がある。そのための基本的視点としては、以下が考えられる。
企業はそのマーケティング活動や消費者行動調査などを通じて、消費者が何を求
めているのかを把握している。その中で商品に活かされるものが当然あるが、企業
活動にはなじまなくても、NPO がそれに応えることができるような消費者ニーズがあ
ることが考えられる。一般的に NPO は自らの経験や地域社会のニーズといった小さ
なフィールドから、活動領域を規定している場合が多いが、企業の社会全体のフィ
ールドから出てくるものを NPO 活動につなげることができれば、NPO の新たな活動領
域の誕生が期待される。
NPO と企業が連携する場合、各々の役割をあらかじめ整理しておく必要がある。具
体的には以下の役割をどちらが果たすのかということである。これらは両者の契
2)企業と NPO の連携
- 81 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
約・協定などにより明記しておく必要がある。
コンテンツ、資金、人材、資材、活動場所、客体、PR
また、両者の関係(委託・受託、責任関係、NPO の自立性の確保等)も明らかにし
ておく必要がある。
官から民への流れの中で、これまで官が実施してきた事業を NPO 等に移行しよう
という動きもあり、NPO がこれらを実施するためにも、企業が社会貢献という形で
NPO 支援を更に進めるという意義もあり得る。
一方、企業が NPO 支援をしやすい環境づくりも求められる。例えば、アメリカな
どに比べて条件が非常に厳しい NPO への企業の寄付の損金算入をどう考えるかとい
ったことは、NPO 支援を株主等に理解してもらうためにも重要な点だと考えられる。
また、企業と NPO が接点をもてる場の提供が必要である。NPO 支援を行いたい企業、
企業からの支援を受けたい NPO があっても、それぞれ適切なパートナーを見つける
のが難しい現状にある。NPO から見れば助成金募集等に応募するくらいしか手段がな
い。企業と NPO のマッチングを行える機能を持つ NPO 等が必要と思われる。お互い
に共通する関心を持つ NPO と企業が、一から話し合って、連携の道を探って行くこ
とが、長期的な観点からすれば、実は重要である。
③社会貢献に向けてのよりよい関係構築のための論点
企業が NPO と連携し、社会貢献を行って行くに当たって、よりよい関係を構築す
るためには、以下の点に留意する必要がある。
企業が NPO と連携する場合、下記のような形態が考えられる。
・寄付金(使途を限定しない資金援助)
・補助金、助成金(特定の事業、プロジェクトに対する資金援助)
・物品の提供
・人材の提供(専門家又は補助者)
・活動場所や活動対象の紹介
・PR
・調査や業務の委託
・上記の組合せ
企業及び NPO の双方は、連携関係を検討するに当たり、あるいは信頼関係を構築・
維持するにあたり、必要な情報を相互に開示する必要がある。特に企業としては組
織力、実行力がしっかりしており、透明性が確保されている NPO を選別する必要が
あることから、NPO 側は企業からの情報開示要求に対応できるように、NPO 法に基づ
2)企業と NPO の連携
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
いて常置が求められている書類は当然のこと、意志決定プロセス、活動計画、予算、
財務状況等について、常に整理しておくとよいであろう。
企業側が、どのような場合にどのような NPO と連携するのかについては、恣意的
に行うことが許されない訳ではないが、NPO や株主の理解を得るためにも、あるいは
社会的に公正さを担保するためにも、その選定方法やその基準を設定しておくとよ
いであろう。選定方法としては、社内に何らかの委員会を設ける、当該部署で総合
的に判断するなどがある。また選定基準としては、どのような事業を優先するのか、
地域的な分布を考慮するのか、NPO の規模等を考慮するのか等を基準とすることが考
えられる。
更に、企業側として、NPO から結果報告を受けることが重要である。助成金等の使
途のチェック、事業実施結果とその効果のチェックを行い、NPO への支援がムダだと
言われることのないようにしておくと良いと思われる。支援を受ける NPO 側は、報
告義務があることを常に念頭に置いておく必要があり、その事務を厭わず行うこと
を勧める。
企業としては、NPO への支援は、少なくともすぐに利益を生まないことが多いため、
株主に対して持っている説明責任について注意する必要がある。NPO 支援をする余裕
があれば、配当に回せという声が出る可能性もあり、企業として、NPO 支援がどうい
う意味があり、どのようなメリットがあるのか(目に見えないものも含む)を整理
する必要があるだろう。また、きちんとしたプロセスを経て支援を行っていること、
また支援を受けた NPO がきちんとした実績・効果を残していることを示して、株主
等の理解を得る必要もあるだろう。このためにも、上述した支援基準、支援結果の
チェックが不可欠であると考えられる。
企業と NPO の連携は一時的、一過性のものでよいのか、あるいは長期的に連携を
継続することが必要なのか、これについては、それぞれの考え方がある。NPO の中に
は、長期的に特定の企業と連携することは、自立性を犯す可能性があるとして、好
まないものもある。一般的に言っても、NPO が企業支援に頼りすぎていては、自立的
な発展は望めないが、小規模、地域密着型の NPO は継続的な連携を志向するものも
多い。企業は自らの業績がよいときは NPO 支援をする傾向にあるが、業績が下降線
をたどりだした際に、即支援をやめるような姿勢でよいのか問われる場合が出てく
るであろう。
企業側の NPO 支援を促進するためには、経済団体等による目標設定も考えられる。
例えば、利益の 1%を NPO 支援に回すというような目標が考えられる。実際にこのよ
うな形で支援総額を決めている企業もある。このような目標の設定は、業績悪化の
際に支援総額が減少することに対しても理解が得やすい可能性もある。ただ、金額
先にありきだと、それを達成するために、十分な考慮がなされないまま支援が決定
される懸念もあり、単なるばらまきにならないように留意する必要があろう。
2)企業と NPO の連携
- 83 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
④【事例】企業が社会貢献を行う際に NPO に求めるニーズ
企業:代々木学園
NPO:21 世紀教育研究所
代々木学園は、不登校や中退といった子ども達のサポート、オールタナティブ・
スクール創造、新しい教育システムづくりへの一翼を担うという企業理念を持った、
代々木高等学院を運営する企業である。NPO 法人 21 世紀教育研究所は、企業である
代々木学園が、事業の中で直面する現代教育問題への取り組みのための、社会貢献
かつ非営利のシンクタンク的位置づけのセクションを設立したことがきっかけとな
り、その活動をさらに充実したものとするために、NPO 法人化された団体である。
代々木学園が NPO 法人 21 世紀教育研究所を設立した動機は、社内における非営利
活動の、次のような二つの問題点への取り組みだった。
ア)研究所の活動を充実させるために、情報の収集や支援が必要であったが、営利
企業の中においては、外部の組織を巻き込むような活動に限界があった。
イ)企業内では、収益性と非営利の活動の両立が難しかった。
NPO 法人 21 世紀研究所の活動は、次の通りである。
ア)相談
「相談室 21」にて、個人、団体の相談を受け、子ども達の心の居場
所作りを目指す。
イ)調査研究 フリースクールなどの学校外の子ども達の居場所に関する調査、
それらのネットワーク作り
ウ)事業
教育に関する講演会やセミナーの企画、書籍出版、インターネット
を活用した情報提供などの啓蒙活動
NPO 法人 21 世紀研究所は、代々木学園とは資金的に完全に独立した関係で、代々
木学園が研究所と共同で行うのは、事業における各種講演会への協働が主になって
いる。また、もちろん代々木学園の学生が、相談室 21 を利用することもある。この
ような個別プロジェクトの協働以上に、企業の代々木学園が NPO の研究所を設立し
たことにより、NPO 全般の運営において、深い関係を構築している。
・代々木学園の従業員が、研究所で、無償で働いており、NPO 事務局の中核を企業
の人材が担っている。
・事務局長に代々木学園院長が無償で参画している。
・NPO の「教育問題への取り組み」という活動目的が、代々木学園の学校運営目的
と一致している。
2)企業と NPO の連携
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
このように、代々木学園と 21 世紀研究所の関係は、人的コミットメントが深く、
互いの活動目的でのつながりも深い、協働型のパートナーシップを持つことが特徴
である。
代々木学園が NPO である 21 世紀研究所を設立したことによる効果は、企業内では
不可能だった、多彩なバックグラウンド(教育関係、行政関係、企業関係、主婦、
アーティスト、NPO 関係、研究機関関係等)を持つボランティア、会員が集まったこ
と、連携して情報交換や事業を共に行う相手も、行政、企業、NPO と多彩になったこ
とが挙げられる。また、社内から外に出たことにより、会社の経営方針に縛られず、
自由に動くことができ自律性を持つようになった。様々なバックグラウンド、得意
分野を持つ NPO メンバーのアイディアを結集して、多様な活動が可能になったり、
NPO の体制に広がりが出てきたりしている。ホームページの開設により、問い合わせ
や情報提供、相談の件数が増加し、内容も多岐にわたるようになった。NPO 法人化に
より、非営利活動が拡大・充実したという。(但し、NPO の資金・ボランティアの経
営管理の面では、運営が難しいという問題も同時に出てきている。活動資金を得る
ための事業展開も手法が NPO にふさわしいかどうかの問題もある。NPO 活動に関する
様々な体制の整備が望まれている段階と言える。)
代々木学園は、非営利活動を NPO として独立させたことにより、経済的負担やリ
スクが減少し、21 世紀教育研究所とパートナーシップを継続していくことにより、
企業からボランティアを派遣している経済的負担を補ってあまりある更なる効果も
得られているという。代々木学園のサービスを受ける親子にとって、研究所と学園
とのパートナーシップが安心材料になっていること、従業員の充実感による組織の
活性化、経営理念の実践による組織文化の強化、NPO の専門情報の獲得、NPO のスピ
リット及びノウハウ・実践に関する学習、ステイクホルダーの社会的ニーズの把握、
などが挙げられる。代々木学園のトップが研究所の事務局長と理事を兼ねているた
め、研究所の活動の影響を受けて、会社の教育に関わる姿勢がより明確になった。
また、企業活動では集められない情報を研究所が蓄積してきており、それらの情報
がボランティアをしている社員を通じて、会社の学校運営に取り込まれていくこと
が期待できる。
代々木学園と 21 世紀教育研究所の連携の例は、企業と既存の NPO との連携と比較
すると、元々本業から派生しているという特徴があるために、より一層本業への効果
(組織文化への影響や、教育に関する幅広い情報の獲得)が期待できる。また、企業
として動くと、同業他社や行政、学校、他の企業との連携は難しかったが、研究所と
連携して動くことにより、社会への接点も広がっていくことが期待できる。研究所に
集まる情報や人的ネットワーク、様々な組織とのつながりが、今後の代々木学園の事
業基盤を豊かにする可能性が大きい。
2)企業と NPO の連携
- 85 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
3)企業の、デジタル時代の子どもの表現力・創造力を伸ばす活動に対する関
心の可能性
どのような場合に、企業が ICT 分野における子どもの表現力・創造力を伸ばす活動
に関心を持ち、連携を考えるかについて NPO 法人 CANVAS を例に検討すると、以下の四
つが考えられる。
①純粋な社会貢献として
②法的 ICT 環境の整備(例:知的財産権に対するモラル向上)
③現在のコンシューマーとしての子ども
④将来のコンシューマーとしての子ども
①の場合は、特に ICT 分野における子どもの表現力・創造力を伸ばすという CANVAS
の目的に特に賛同したというよりは、一般的な企業の社会貢献の目的として NPO 支援
を考えているということと考えられる。
②の場合は、ICT 関連企業が、その舞台となる ICT 環境を整備し、子どもたちに ICT
をより身近に感じさせ、ICT の色々な可能性にふれてもらい、ICT 世界をより活性化さ
せるという目的があると考えられる。そうした中で、例えば知的財産権に対するモラ
ルの向上やネチケット、ICT 利用上の注意点を教育することも視野に入るであろう。ま
た、究極的には、自らの顧客となることも想定できる。
③の場合は、②を更に企業の利益に直接結びつけた考え方で、子ども向けの CANVAS
関連商品・サービスを有する企業が、CANVAS の活動を通じて、現在の消費者としても
子どもたちが自社製品を知る機会を作り、購入してもらいたいという意識を持つ。こ
の場合は、何らかの形で自社製品を CANVAS の活動に提供するということが想定される。
要するに、実体験を通じた宣伝広告活動と言える。
④の場合は、現在子ども向けの ICT 関連商品・サービスを有してはいないものの、
子どもに対して、ICT の可能性にふれてもらうことを通じて、将来の消費者に対する宣
伝広告活動ととらえるものである。この場合は、直接的な自社製品の提供等はないも
のの、会社名、ブランド名等の浸透、あるいはその両親に対する訴求を志向すること
となる。
一方、企業側に CANVAS への関心を持たせることについての努力も必要となる。日頃
から関係者とのネットワーク作りに努め、口コミによる情報発信・受信を行う。また、
関心を持ちそうな企業に対して、CANVAS の活動・目的を紹介するとともに、企業の社
会的貢献の必要性と効果、企業が地域との一体感を醸成することの有用性等を指摘し、
CANVAS との連携がそれに対して効果的であることを訴える必要がある。また、CANVAS
としては、その支援者の面々、総務省、文部科学省等との関係は、企業からの信頼性
を得るに際して有効であろうと考えられる。特に教育関係については、企業が子ども
3)企業の、デジタル時代の子どもの表現力・創造力を伸ばす活動に対する関心の可能性
- 86 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
たちに訴えるには効果的な場所である一方、学校関係者との接点を持つ機会は少なく、
接点を持てたとしても敷居の高さ・閉鎖性から、うまく連携につなげることは容易で
はない。CANVAS が学校関係者とのネットワーク・連携を強みとして売り込むことがで
きれば、企業側が CANVAS に関心を持つ大きな要素となると考えられる。
企業側の懸案事項としては、社員の意識向上、社会貢献のための予算の確保が必要
である。
ICT 分野と教育に関わる活動として、参考にできる企業との連携事例:
【事例 1】中学校 1 年対象の総合学習(情報)、2 時間 10 分、企業:キャノン販売
授業「アップとルーズを考えて、デジタルカメラを使おう」
近年、小学校や中学校でのデジタルカメラの使用が多くなってきている。
調べ学習などで非常に便利で簡単に使えるが、その際にアップとルーズを
意識して、撮影することにより分かり易い画像を撮ることができることを体
験する。内容は、アップの画像でクイズを作り、答えをルーズの画像で示す、
この課題を校内で撮影してきて、発表させる、というものである。また、テ
レビ映像でもよく使われていることを解説し、プロの仕事を理解させる。後
日、クイズ写真大賞を発表する。学校側からも、「子ども達の想像力をより
かきたてて、イメージそのものを自分の世界に引き込み、自由に形を変えて
いるようだった。発想の転換を再認識できる良い機会となる、進んだ授業で
あった」とコメントがあった。
【事例 2】小学校高学年の総合学習(情報・環境)、4 時間、
企業:NTT ドコモ、イトーキ、富士通、JR 東日本、ホンダ
授業「FOMA のテレビ電話を使って取材しよう」
環境をテーマとして子どもたちが自ら取材先の企業を選び、インターネ
ットなどで下調べをした上で、取材先の企業では、学習支援ボランティア(教
育学部の学生)が子どもたちと企業担当者とのコーディネート役を務めた。
FOMA のテレビ電話を使い、企業を取材する。環境を少しでも改善しようと
がんばる人の仕事ぶりを通して、子ども達が未来の技術で環境をよくするこ
との意義を理解することを目指す。子ども達には、最初、環境に悪いとイメ
ージするもの(例えば、車、洗剤、ペットボトルなど)を挙げてもらい、な
ぜ悪いと思うのか、そして、それらを作っている人は実際どう考えているの
か、取材してくることを説明する。その後下調べ、取材、取材のまとめと感
想発表を行う。企業との連携は、先生と子どもだけでは難しい面があるのだ
3)企業の、デジタル時代の子どもの表現力・創造力を伸ばす活動に対する関心の可能性
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
が、学習支援ボランティアのコーディネートが大きな役割を果たした。環境
問題に対し、「企業は悪者」というイメージだけでなく、企業の環境問題へ
の取り組み、環境問題を解決する技術面への取り組みにも目を向けてもらう
機会となった。
3)企業の、デジタル時代の子どもの表現力・創造力を伸ばす活動に対する関心の可能性
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
4)デジタル時代の子どもの表現力・創造力を伸ばす活動の普及啓発のために
企業と連携するに当たっての意味と課題
企業との連携を進めるに当たって、企業のニーズをいかにとらえるかが重要である。
企業が NPO 支援を行う場合、何らかの形で当該企業の事業と関連性のある NPO 事業を
支援したいと考えると想定される。連携したいと考える企業が、どのような NPO 事業
を支援したいと考えるかについて、社会の実情などから予想するとともに、企業にヒ
アリングするなどして、企業側のニーズをとらえ、それに合う事業を開発していくこ
とが必要となろう。ただし、企業のニーズをそのまま受け入れるばかりでなく、NPO 側
から積極的に提案していくことも望まれる。また、企業のニーズが NPO の目的と合わ
ない場合や、企業色が出過ぎるような場合は、修正案を提示する必要もあろうし、連
携を進められない場合も出てこよう。
企業と連携するに当たっては、NPO 側がすべて請け負うことも考えられるが、企業側
の業務推進力や資本力を活用することも重要である。このことは NPO の負担を減らす
という側面もあるが、より効率的・効果的に事業を実施するために必要なことである。
その一環として、企業の人材も有効に活用することが重要である。このことは、企業
側にも実際の事業に参加してもらい、事業への理解を深めてもらうことにより、連携
が深まり、事業の継続や新規事業の採択に向けての、企業との話し合いが深化・促進
され、双方にとってメリットが大きいと思われる。企業側にとっては、実際の事業を
チェックするという側面もある。
ICT 分野における子どもの表現力・創造力を伸ばすという目的を考えると、教育現場
からのニーズの吸い上げが重要である。ただ、ICT 分野は新しく、教員自体がその可能
性を認識していない場合も多いと思われるので、特に若い教員を通じてその可能性を
認識してもらうことから始めなければならない場合も想定される。また、教育現場は
校長の意向が強く働くという場合もあるので、子どもの表現力・創造力向上の活動に
興味を持ちそうな校長に直接当たることも必要であろう。特に最近は校長を民間公募
で任用している場合もあり、こうした校長は理解が早いのではないかと考えられる。
教育現場からのニーズを吸い上げるもう一つの方法は、親である。若い親は ICT に
もなじんでおり、子どもの将来を考えると、子どもに ICT にふれる機会を増やしてほ
しいとか、ICT の有効・適切な活用方法を教えてほしいと考えている人は多いと思われ
る。こうした声を把握し、PTA 等を通じて学校側にもそれを知らせることが重要である
と思われる。
企業と連携することのメリットの一つは、連携を通じて NPO 側が企業のマネジメン
トを学ぶことができる点である。NPO の組織・運営・管理方策は、各 NPO によってそれ
ぞれではあるが、連携企業のマネジメントを見ることによって、導入できる部分があ
れば導入するというマインドで連携に臨むことが有効である。
4)デジタル時代の子どもの表現力・創造力を伸ばす活動の普及啓発のために企業と連携するに当たって
の意味と課題
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
5)企業 NPO 連携研究会、開催概要報告およびヒアリング内容
①企業関係者参加の研究会開催の目的と概要
「デジタル技術を中心とした子どもたちの創造力や表現力を高める活動を全国に普
及する」という目的達成のために、企業との関わりは必須であると考える。しかし
ながら、これまでの調査で、学校、ミュージアム関係者との距離は見えてきたもの
の、企業との連携に関する調査がまだなされていなかった。
そこで、上記テーマの活動に興味を持ってくれている企業に参加を募り、各企業の
活動事例の紹介や情報交換、今後の連携の可能性についての意見交換の場を設けた。
②構成
ア)期間
2004 年 8 月 1 日∼2005 年 3 月末日
イ)方法
・研究会開催(プレゼンテーション&ディスカッション)
第一回研究会:2004 年 8 月 26 日(水)19:00∼21:00
第二回研究会:2004 年 10 月 27 日(火)19:00∼21:00
・研究会アンケート回収
・研究会メンバーのメーリングリスト設定
メーリングリストでの意見・情報交換
ウ)2004 年 12 月現在の研究会メンバー(会社名 50 音順)
古井
祐司
HCC 株式会社
代表取締役社長
平賀
一樹
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ 社会環境室
青木
克明
株式会社サンミュージックブレーン 制作プロデューサー
竹田
光一
サンミュージック・アーティスト・アカデミー
田村
拓
株式会社 CSK
黒田
篤
株式会社ジースポート 代表取締役
執行役員
古河
久人
住友生命保険相互会社
荻野
剛之
株式会社
赤羽
真紀子
ゼクス
調査広報部
経営企画部
株式会社セールスフォース・ドットコム 社会貢献部長
江口
響子
ZOU STUDIO、Inc.
代表取締役
二瓶
光由
株式会社ツキネコ
常務取締役
道具
登志夫
企画演出
デジタルアーツ株式会社
代表取締役
平井
英之
株式会社電通
アカウント・プランニング計画局プロジェクト推進 2 部主管
松代
隆子
株式会社電通
コーポレート計画局
中松
義樹
ドクター中松創研
国際営業部
均
日本電気株式会社
CSR 推進本部統括マネージャー
鈴木
局次長
兼
社会貢献室室長
5)企業 NPO 連携研究会、開催概要報告およびヒアリング内容
- 90 -
第1章
安本
豊勝
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
日本ヒューレット・パッカード株式会社
通信・メディア営業統括本部ドコ
モ営業本部第一営業部
風見
原
敏男
高橋
隆志
大洋
NPO 法人
日本理科実験教育活動推進協会(ECS)
ネットアンドセキュリティ総研株式会社
理事長
代表取締役
ネットスター株式会社 セールスマーケティング部マーケティング担当マネ
ージャー
加藤
朴
貴
川原
映周
鈴木
和彦
鶴谷
美由起
武親
ネットスター株式会社
株式会社ネッピア
東京事務所
株式会社博報堂
FOODEA
製品開発部プロダクトマネジメントグループ
所長
ビジネス開発推進局ニュービジネス開発推進部
代表
フューチャーインスティテュート株式会社
代表取締役社長
吉岡
伸
株式会社文化環境研究所
久保
仁
有限会社ホライズンジャパンアソシエイツ
代表取締役
井上
輝彦
有限会社ホライズンジャパンアソシエイツ
作詞家
鵜飼
孝次
本田技研工業株式会社
玉塚
雅也
三菱地所株式会社
ビル事業本部
ソフト事業推進部
参事
真理子
三菱地所株式会社
ビル事業本部
街ブランド室
ソフト事業推進部
瀬川
小出
匡範
株式会社ライブドア
安藤
知華
World Reach、 Inc.
飯塚
春菜
株式会社 BackBizz
石戸
奈々子
NPO 法人 CANVAS
中村
伊知哉
NPO 法人 CANVAS
経営企画室
兼
プリンシパル
5)企業 NPO 連携研究会、開催概要報告およびヒアリング内容
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第1章
③第一回研究会
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
8 月 26 日(木)19:00∼21:00
ア)プレゼンテーション
●日本電気株式会社
社会貢献室室長 鈴木
均氏
企業の社会貢献活動は、戦略的に行うべきである。CSR(社会的責任)という
言葉への関心も追い風となっている。ICT 分野に従事した企業であればその専門
スキルを生かすことが得策である。資金提供だけでなく、スキルを持った社員
が社会貢献活動に参加できることも大切である。教育や環境などの社会問題に
積極的に関わるのが企業の社会的責任である。これによって企業のブランド価
値を高めることもできる。社会の課題解決をミッションとして掲げる NPO との
連携は不可欠である。NPO には経済的財政的組織的困難などの課題があるので、
その基盤強化を支援しつつ、パートナーシップを組めるとよい。今後、教育分
野(特に ICT 分野での教育貢献)での活動のやり方を、この研究会で見つけら
れるとよい。企業からは敷居の高い学校関係者とのネットワーク作りや、ノウ
ハウを教えてもらえるとよい。
●セールスフォース・ドットコム
社会貢献部長
赤羽
真紀子氏
子どもと ICT の分野での、社会貢献 1%モデル実施している。労働時間の 1%(全
社員の年間 6 日の代休、1 年間で 1000 時間)、利益の 1%(顧客管理データベー
スの NPO への優遇提供)
、株式の 1%(社会貢献活動費用や ICT 関係の活動団体へ
の助成金)を提供している。NPO はリソースが少なく、ミッション以外のマネジ
メントの面で苦労していることが多く、データベースの無料提供は喜ばれてい
る。世界各地に、それぞれの地域に適した子ども ICT センターを設置している。
日本は企業と地域の分断が問題である。地域からみると、企業には、会議室や
ネットワーク、社員のスキル、資金など、リソースが集中している。そのわり
には孤立している。セールスフォース・ドットコムでは、3 月より地域にオフィ
スを開放する形で ICT センターを作ったところ、色々と問題はあるが、地域と
の一体感、社員の意識向上、関係者とのネットワーク作り、文部科学省のバッ
クアップというメリットが得られた。
●HCC 株式会社 代表取締役社長 古井 祐司氏
企業や NPO のそれぞれが、何をやりたいのか目的や意義が明確でないと、単
に資金を提供するだけのような形で終わってしまう。NPO は、企業や政府ができ
ないことを個人が自分の時間を使って行うものなので、企業がいかにその一人
一人にあった活動の場を提供できるかが大事である。やる気があっても NPO 活
動を始められないということもある。資金を提供する側になる企業が、NPO の未
熟な部分に支援やアドバイスを提供し、NPO はお金や人の使い方を学ぶ必要があ
る。企業と連携するには、「契約」行為が重要だが、そこまで企画をすりあわせ
5)企業 NPO 連携研究会、開催概要報告およびヒアリング内容
③第一回研究会
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
る力が未熟の場合もある。
イ)ディスカッション(内容抜粋)
a)企業と NPO の連携の事例
・ICT 企業の立場では、将来の社員になるような子どもたちを育てることを目的
として、子どもの理科離れをくいとめるようなワークショップ「ガリレオ教室」
を、理科の先生達の NPO と協力して開催した(NEC 事例)。
・生きていく上での自身、自尊心を育むことを目的に、子どもたちにマルチメデ
ィア作品を制作する活動を行う団体に、CANVAS と協力して助成金を出した(セ
ールスフォース・ドットコム事例)
。
・社会的課題に取り組みたい若者を対象に、「学生 NPO 企業塾」開催した(NEC
事例)。
・NPO、NGO はリソースが少なくミッション以外のマネジメント面で苦心している
例が多いので、データベースサービスを無料提供した(セールスフォース・ド
ットコム事例)。
・子育て支援グッズについてのユーザーの苦情や意見を吸い上げて、メーカーの
(社会貢献活動としての)より安全な商品開発に反映している(NPO 法人メデ
ィカルブリッジ事例)。
b)企業と NPO の連携の可能性のポイント
・欧米での、ミュージアムと学校・企業・地域との上手い連携例を見習う。
・企業は、NPO を社会貢献のためのパートナーというより、事業の面でのパート
ナーとしてもみるようになってきている。特に企業にノウハウのない、福祉
や教育の分野において注目している。
・企業の社会貢献活動には最終的には企業イメージアップなどの利益が考えら
れるが、企業が事業として行う社会貢献活動と、NPO がミッション実現のため
に行う社会貢献活動と組み合わさるグレーゾーンが存在するのでは?
・アメリカでは、地域のニーズ(不買運動、人権問題、労働問題)に応えられ
るノウハウを持つのは NPO だと理解され、企業が積極的に NPO との連携を考
えている。日本でも、「不足部分を補完できるのは NPO」という認識を広める
機会を設けるとよい。
・ベンチャー企業からみると、NPO との連携はメリットが多い。中間的立場の
NPO の持つ人的ネットワークを活用すれば、PR コストが下げられる。
・ICT 分野の社会問題に対応する場として機能するのでは?
・広告業界は、意識の違う人達の仲立ち的な役割を果たしているので、営利目
的&お客様優先の企業とミッション優先の NPO との仲立ち的役割を果たすこと
ができるかもしれない。
5)企業 NPO 連携研究会、開催概要報告およびヒアリング内容
③第一回研究会
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
・介護業界では、健康な高齢者向けの施設であれば、文化的生活を送っている
高齢者が多いので、子どもとの交流の機会を設けることが可能かもしれない。
・発明の分野では、展示会などで CANVAS と協力ができるかもしれない。
・NPO の持つ専門性、技術性を生かし、地域住民やある商品のユーザーなど、一
般市民の苦情やニーズを調査研究し、その結果を国や企業にフィードバック
する。
c)課題
・企業と NPO の連携の形態は、寄付、助成金、業務委託、など様々にあるが、企
業間では当たり前に行われている「契約(業務内容、実現方法、納期、経費、
担当などの明文化)」が重要である。
・NPO の経済性に対する意識が低い場合、入金が遅れるなどのトラブルが考えら
れる。
・NPO の目指すミッションを明確にアピールすること。NPO の目指すミッション
の社会的意義の実現に意味を見出さないと、国や企業は協力できない。
・NPO には、お金の使い方や人の使い方等のマネジメントに未熟な部分があるこ
とが多いため、国や企業が支援やアドバイスを提供する必要がある。アカウン
タビリティ(効果)の測定方法も企業がアドバイスできるのでは?
・教育の分野での貢献を考えると、公立の学校は欠かせない領域だが、企業から
も NPO からも、一般的にかなり敷居が高い。
・地域のニーズにあった社会貢献を考える。
総評:初回ということもあり、NPO と企業との一般的関わりについての議論が主だっ
た。次回以降の研究会では、既成概念をもっと崩して検討することが必要。
一つの組織でも、活動の様々なフェーズ(流通、R&D、他)を担当できるので、
ケーススタディを増やしていくことが大切である。人と資金がもっと回るよ
うにするにはどうすればよいか、など具体的なテーマを掲げての議論の場を
設けるとよいかもしれない。
5)企業 NPO 連携研究会、開催概要報告およびヒアリング内容
③第一回研究会
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第1章
④第二回研究会
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
2004 年 10 月 27 日(水)19:00∼21:00
「 互いに、利益を追求する
法人同士、ということを前提に、健全な運営を行っ
ている NPO 法人 CANVAS と連携するとしたら、企業はどのようなことができるか?
※足りないところを補い合い、相互に利益をあげていけるパートナーシップの可能
性」という具体的なテーマを予めメーリングリストに投げ、活発な意見交換を期
待した。
ア)プレゼンテーション
●株式会社 CSK 執行役員 田村 拓氏
CSK の活動について紹介する。「未来を支える子どもたちのために」をコンセ
プトにワークショップを開催した。他の会社や NPO などとコラボレーションも
多数行った。五つの要素「考える、つくる、つながる、発表する、振り返る」
を必ず盛り込み、ファシリテーション技法により創造性やコミュニケーション
の能力開発を試みている。従来の知識指向に対する新しい教育の考え方として
提示していく。評価(可視化)手法についても研究中である。今後は良質なワ
ークショップを、ワークショップ実施者の個人的資質に頼り過ぎないよう、パ
ッケージ化して提供していく。CANVAS には普及の要としての役割を期待してい
る。ハードルの高い公立学校とのコラボレーションなどができるとよい。
●株式会社電通
コーポレート計画局 局次長
松代
隆子氏
社会貢献室の歴史は浅いが、現在は電通独自のスキル「コミュニケーション」
に注目することを方針として、
「利益を追求せず」
「社員の意識向上」のために、
活動を行っている。NPO からは、広報のノウハウやスキル向上についてのサポー
トを求められる。ユネスコ世界寺子屋運動に「くるりんぱ」ワークショップを
提供した。
イ)ディスカッション(内容抜粋)
a)企業と CANVAS・あるいは NPO との連携の事例
・CAMP のクリケット(小型コンピューター)のワークショップで、CANVAS とコ
ラボレーションを行った。その他、MIT メディアラボ、キャピタルチルドレン
ズミュージアム、日立国際電気、エクスプロラトリアム、東京芸大、ナショ
ナルジオグラフィック、子どもの城、はこだて未来大学、DID ジャパン等とも
コラボレーションを行った(CSK 事例)。
・NPO からの「広報力、広報ノウハウ、広報スキル向上に手をかしてほしい」と
いう要望で、NPO6 団体による NPO 広報力向上委員会を作り、テキストを作成し
た。(電通事例)。
・ユネスコに対し、チャリティグッズ(絵葉書、マグネット、シールなど)を商
5)企業 NPO 連携研究会、開催概要報告およびヒアリング内容
④第二回研究会
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
品化して貢献した(製作費は電通、売り上げをユネスコに寄付)(電通事例)。
・CANVAS の 2003 年東大ワークショップでファシリテイターとして参加した(サ
ンミュージック事例)。
・NPO 支援を行いたい会社のニーズに対し、全国から健康に関係する NPO を応募
するオーディションを実施した(電通事例)。
b)企業と CANVAS 連携の可能性のポイント
・CANVAS は中間的立場のため、各分野の先生方に声をかけやすいので、研究会
や報告書など、教育関連企業から業務委託を受けることがある。
・CANVAS には、地域コミュニティーを作りたい、市民と一緒にやりたいという、
教育関連企業以外の企業からも声がけがある。
・教育やアート関係の企業は、子どもに直接アプローチしたいという目的で、
CANVAS に声をかけてくれる。公益に近い電力会社やゴミ処理系の会社など、
地域コミュニティーに興味のある会社は、子どもを将来の顧客としてとらえ
ている。
・2004 年 1 月麻布十番でのワークショップコレクションでは、開催後、他の企
業のイベント、愛知万博、マルチメディア祭、などから問い合わせが入った
ので、CANVAS はコーディネート的な役割が可能と考えられる。
・CANVAS は、子どもについての色々な情報を提供できる。学校、ミュージアム、
企業、行政とのコンタクトなど、広い人的ネットワークを持っているので、
そのような第三者的な立場から、企業との連携も、寄付のような一方的な関
係ではなく、業務委託などのパートナーとしての連携ができるとよい。
・CANVAS はバーチャルでポータルサイトの開発中。ディストリビューションの
役割を果たせる。窓口になってほしいというニーズもある。
・広告業界にとっては、子どもはジャストターゲットであり、将来の消費者で
もある。子どもの発想から広告を作ってみたらどうか?
・サービス業では人材が重要なので子どもの人材育成活動も重要。CANVAS には、
ワークショップのディストリビューション、普及啓発活動を行ってほしい。
ユーザーとサーバーの結びつけの要になってほしい。企業の社会貢献活動で
はなかなかできない部分である。良質なワークショップの紹介、知的所有権
を守る制度についての報告、行政への働きかけなどもできるのでは?公立学
校との関係においても、総合学習の時間によいネタがないか?と悩む学校の
先生達によいメッセージになるのでは?
・ICT 業界の立場では、インターネットの利用において子どもたちはどうあるべ
きか?等に興味がある。
・子ども向けスポーツ教育ソフトを開発した時の経験から、学校との付き合い
方の面を CANVAS で勉強したい。
5)企業 NPO 連携研究会、開催概要報告およびヒアリング内容
④第二回研究会
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
・CANVAS は子どもについてよく知っている存在であり子どものコミュニティー
を形成しているので、CANVAS との連携は企業にとって、最初は利益にならな
くても、ファーストステップということでプラスになるのでは?
c)課題
・競争社会のアメリカではパブリックセクターの代替案、目的にあった成果を
あげるものの一つとしてとして NPO があり、自分の意志で社会貢献ができる
という点で比較される。シンガポールでは政府に強力なリーダーシップがあ
り、ネット環境整備やデジタル化も多くの企業を巻き込んだ一大プロジェク
トとして実現。日本は、その中間的存在。政府がやることと、企業が個々に
やることの間に NPO が存在すると、
効果的にやっていくことができるのでは?
企業にとっては、社会貢献活動にも予算があるが、活動の目標に対し、ある
程度の指標や目安があれば、その基準の中で NPO を活用して目標達成をする
ことができるだろう。
・NPO はどうあるべきか?お金が不足するなら行政からもらえばよいと考える人
もいれば、公益法人でも活動の収益をあげるべきと考える人もいる。
・NPO が健全な活動ができるための、基本パターンがあるのでは?社団法人や学
校法人など公益的法人で培われたノウハウが NPO で生かされている。資格検
定、ガイドライン、白書、セミナー、カンファレンス、ワークショップ、視
察団。このパターンに当てはめていると、会費も集めやすく、業務委託の依
頼も入りやすい。理事やボードメンバーに、大学のこの先生、とか、企業の
この人、というようなキーパーソンを入れるようにすると、与信もとりやす
い。初取引では、中小企業は厳しいのと同様に NPO も事務局の規模で難しい。
しばらくすれば、NPO のコンサルタントも出てくるかもしれない(与信のとれ
るボードメンバーの集め方、成功する事業などのノウハウ)。数多くある NPO
の競争の中で生き残るには、「何をやりたいのか」そのミッションが企業と一
致して、それを貫く信念の強さによるのでは?
総評:CANVAS との具体的な連携の可能性についての議論も出てきたが、今回は NPO
全般に対するイメージの変化、NPO の質についての議論が活発だった。企業
からみる、NPO の与信の問題、連携におけるリスクの問題が浮かび上がった。
CANVAS は、
「子どもの創造力と表現力を向上する活動を全国に広げる」とい
う明確なミッションを持っているので、草の根活動で終わらせることなく、
企業にリソースを提供してもらう形でもう少し大きな運動体となっていく
ことを望んでいる。
5)企業 NPO 連携研究会、開催概要報告およびヒアリング内容
④第二回研究会
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
6)NPO と企業の関係構築において目指すべき方向
NPO と企業のパートナーシップについて、三つのタイプが提示されている。チャリテ
ィ型、トランザクション型、インテグレーション型の三つである。
チャリティ型は、企業側はチャリティという概念、NPO 側は企業に対して感謝の念を
擁くという関係で、互いの事業は独立しており、限られた範囲での協働になる。企業
が NPO に求める期待度は低く、多くの場合、企業が NPO へ資金を寄付する支援を行う
にとどまる。これは Win(一方のみがメリットを得る)の関係と言える。
トランザクション型は、NPO と企業が個々にパートナーシップの目的を持ち、リーダ
ーのレベルで強いつながりがあり、組織を通じて個人的な接触がある場合が多いと言
われている。NPO と企業の間にミッションや価値観においての類似点がみられ、能力を
互いに、交換できる関係で、リスクの少ない成功を前提としたパートナーシップでも
ある。相互理解と信用によって成り立っており、結果互いにメリットがある関係、
Win-Win の関係であると言える。
インテグレーション型は、NPO と企業がパートナーシップにおいて共通の目的を持ち、
かつそれが社会に対して一定の役割を果たしているケースである。双方が一体化した
考え方で、社会に対して戦略的に NPO と企業が協働して働きかけていく関係である。
パートナーシップを戦略ツールとして使い、使命・価値観を共有してプロジェクト開
発やサービス提供を行う。企業では、従業員が直接関わる機会が提供され、組織間で
深い人間関係が築かれ、相互の組織文化に影響を与えるような関係。当事者の双方だ
けでなく、第三者(地域や社会)にもメリットがある Win-Win-Win の関係と言える。
アメリカでは、現在、トランザクション型からインテグレーション型への移行期に
あると言われているが、日本では圧倒的に多くがまだチャリティ型、ようやくトラン
ザクション型に移りつつあるという現状である。もちろんチャリティ型にも、NPO の独
自性を追及できる点では、NPO の自由度が高い事業を作りだせる可能性を秘めているこ
とは確かであるが、協働関係を発展させていくという点では、限界がある。今後の日
本の方向性は、企業と NPO が「共に」という意識で、いかに多くのインテグレーショ
ン型の関係を多く実現していくかが、課題と言える。
6)NPO と企業の関係構築において目指すべき方向
- 98 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
3.企業から見た問題・要望に関する調査
7)結論
企業と NPO が連携して活動を行うときに、互いに相手に要望していることは何か。
企業は NPO に対して、「理念や方針の明確化」「情報開示」「組織体制の確立」というこ
とを求めている。また、NPO は企業に対して、「連携の必要性に対する理解」「NPO の支
援についての社内的合意」「NPO に関する広報」などを求めている。つまり、まだ企業
は NPO に対してなんらかの不安を持っており、積極的に関わる要素は低いのが現状と
言える。一方、従来の企業の社会貢献活動は、本業による活動を除くことが多かった
が、最近では、ハイブリット・カーや燃料電池カー、高齢者や障害者むけの商品開発
や店舗設計など、本業による製品やサービス提供に社会貢献の意識が取り込まれてき
ている事例が出てきている。結局は、互いの利益を認め生み出していく構造が、社会
貢献活動の持続的な発展につながり、そして当事者だけでなく結果として第三者や地
域に貢献できるとしたら、企業市民としての喜びや達成感も大きくなるだろう。今後
もより一層、NPO はミッションの実現のために企業のリソース(資金、人材、技術、施
設等)を求め、企業は本業によって収益をあげつつも社会に貢献していくために NPO
のリソース(蓄積された情報、専門性、人的ネットワーク)の提供を求めて、連携へ
働きかけていくと思われるが、企業と NPO が互いのニーズに応えるよう努力すること
により、連携の可能性を高めることができるだろう。CANVAS という一つの NPO にとっ
ても、優れた人的ネットワークと、活動実績をアピールすることによって、例えば本
研究会に集まる一流企業との間に信頼関係を築き、今後の優れたコラボレーション事
例の実現が可能なはずである。既成概念にとらわれないアイディアの創出に向けて、
より具体的なテーマを掲げ、多様な企業と交流を図る場として、本研究会を発展させ
ていけるとよいだろう。
7)結論
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
4.行政から見た問題・要望に関する調査
1)目的と概要
子どもの教育については、様々な問題が指摘され、従来の学校における教師からの
一方的な授業だけでは限界があることについては、文部科学省においても認識されて
いる事態に至っている。そのため、教育の分野においても学校のみならず、企業、ミ
ュージアム、NPO など諸団体の役割が期待されている。特に ICT 分野に関してはその傾
向が見られる。
しかしながら、子どもの学習、特に学校における学習については、学校を中心とし
た行政の管理の下に置かれ、行政との関係が重要な課題となる。
そこで、NPO と行政の関係、特に NPO の活動に対して行政がどのような関わり方をす
ることが望まれるかについて、検討を行った。
全体の構成としては、まず、NPO に対する行政の支援策全体について、どのようなこ
とが考えられ、その際、行政側、NPO 側それぞれがどのようなことに配慮する必要があ
るかについてまとめた。その上で、子どもの教育活動を NPO が行うことについて、学
校外で活動する場合と学校で活動する場合に分けて、どのような活動があり、それに
対してどのような行政の関与が求められるか、検討を行った。
最後に、それらの検討を踏まえ、NPO と行政の関係について、様々な立場で NPO と関
わってきた有識者の研究会を行った。
1)目的と概要
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
①概略
教育分野において、様々な問題領域ごとに対応する行政組織も分かれ、教育全般
に関する民間活動への支援というのは従来非常に弱かったといえる。
これは、教育行政が基本的に正規の教育課程に重点をおき、それ以外の教育を正
規の教育と関連して捉えようとしない時代が長く続いてきたことによるものと考え
られる。
そのため、文部省においては、幼稚園、小中高校、大学という段階については教
育課程を始め様々な規定を設けていたのに対し、就職までの教育に限ってみても、
保育園は厚生省、塾は通産省において所管していたこと、フリースクールや各種専
門学校がなかなか教育行政の射程に入ってこなかったことに典型的に現れるように、
それ以外については教育行政の対象として扱われてこなかった。
逆に、問題事象毎に関連する行政機関が関わってきており、現在も
・子育て支援、未就学児や放課後の児童のケアは厚生労働省
・自然触れ合いを始めとする環境教育は環境省
・国際交流事業は外務省
・農山村と都市の児童学生の交流は農林水産省
・消費者教育は内閣府や経済産業省
・芸術関係は文部科学省の外局とはいえ文化庁
と、いったかたちで支援する主体が異なっており、例えば放課後児童クラブを小学
校の空教室を使って運営する場合は目的外使用になってしまうというような状況に
ある。
そのため、ICT 技術を用いて子どもの創造性を高めるためのワークショップをやる、
というような学校外の主体による活動について、正規の教育課程の外との事業と絡
めつつ支援する仕組みも作られにくかったといえる。
しかしながら、1990 年代以降、ようやく文部省の教育行政も変化を見せつつある。
これは、具体的には
・核家族化に伴い、基本的なしつけは家庭で行い、学校ではその上にたって集団行
動を教えれば良い、という従来の役割分担が機能しなくなり、授業が成り立たな
い場合も出てきたことから地域での教育に関心を持たざるを得なくなったこと
・不登校児童が大幅に増加して社会問題となり、フリースクール等学校以外で不登
校児童を受け入れる存在と連携する必要が生じてきたこと
・それらの社会事象も踏まえ、子どもの生きる力を育むという総合学習の時間を設
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
①概略
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
けたことから、地域の人材に授業に関わってもらう必要が生じてきたこと
・完全週 5 日制の導入により土日の子どものケアを求められるようになったこと
・塾や専門学校の存在を公式に教育行政の中に取り込まざるを得なくなったこと
により、教育行政が学校の外にも目を向けるようになりつつある。
今後、そのような動きが、個別の行政分野における支援体制と上手く役割分担し
ながら、地域における子どもの育成支援活動に対して型にはめずに協働の関係を作
り出す方向に向かうことが期待される。
逆に言うと、学校と関わらずに地域において子どもを育てていこう、という活動
については、公的に明確な支援が受けにくい分、規制も受けず、地域で様々な自立
的な活動が行われてきている。
これからは、そのような活動を、学校における教育と上手に協力しながら大きな
うねりとしていくために、条件を整えていくことも行政の一つの役割になってくる、
といえよう。
また、学校と行政との間に立ち、子どもの創造力、表現力向上のための活動をす
る機関として NPO の果たす役割が非常に大きいと考える。
そこで、ここから具体的に考えていく前に、NPO が直接教育に関わる事業を行う際、
どのようなパターンがあるのか、場合分けをしてみたい。
この際、大きく分けると、学校が直接責任を持つ活動と、学校が直接責任を持た
ない学校外での活動とに分けられる。そこで、まず、そのような活動としてどのよ
うなものがあるか、検証した上で、これまで学校をはじめとする公的な存在とどの
ような関係を持ってきていて、今後はどのような関係が望まれるのか考えてみたい。
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
①概略
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
②学校外での活動
ア)概要
それではまず、学校が直接責任を負わない学校外での活動について見ていきた
い。
先にも若干述べたが、学校外での子どもの教育活動については、様々な団体が
自立的な活動を展開しており、その際には正にワークショップ的な手法を取り入
れて活動を行ってきているところが多い。
そのような活動として、規模の大きなものとしては、例えばボーイスカウト、
ガールスカウトの活動がある。
ボーイスカウトやガールスカウトの活動は必ずしも典型的な教育活動ではない
かもしれない。しかしながら、様々な社会活動を行ったり、学年を超えた役割分
担をしながら野外活動を行ったりする中でまさに子どもたちの「生きる力」をは
ぐくんでいる、という意味でまさにワークショップ的な手法を用いた教育活動と
言えるだろう。特に、上級生が下級生の面倒を見る、というシステムは現在の日
本の教育に足りないとされる他者を巻き込みながら社会にかかわり、自分たちの
生活をも良くしていく、というような力を育む活動である。(このような能力の育
成が重要であることについては、門脇厚司著「子どもの社会力」(岩波新書)等を
参考のこと。
)
地域の父兄が中心となって行う少年団サッカーや野球等もある意味子どもたち
が自らチームに参加して活動するワークショップ的な活動と言えるだろう。
また、環境 NPO が地域の環境問題を解決するための活動を行うに際して、近隣
の子ども会などと協力しつつ、子どもたちを巻き込み、具体的な活動を通して環
境教育や社会に参画する力を育てる教育を行っているような例も見られる。これ
なども、活動そのものとしてワークショップを活用した教育、ということをあえ
て意識しているわけではないが、実際には子どもたちを巻き込んで主体的なプレ
ーヤーとすることによって座学では身につかない能力を育てているといえよう。
さらに、地域での子育て組織としての子ども会活動等も様々な行事を子どもた
ちと一緒になって実施することによって子どもたちを育てているといえよう。そ
のような意味でワークショップ的な手法を活用した子育て活動と言える。
また、近年では、ワークショップのスキルを持って個別の子育て事業を展開す
るような団体も増えてきている。
このような、行政の活動とある意味同じ方向を向きつつ、主に学校にも行きつ
つ、様々な活動に関与してくる子どもたちを主なターゲットにする団体に加え、
ここ 10 年程で大きな活動となっているのが、学校に適応できない子どもたちを受
け入れ、そういった子どもたちが自分たちの可能性を開拓していく手助けをする
団体も増えてきている。
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
イ)これまでの行政とのかかわり
それでは、従来このような活動を行うに際して行政とどのような関係を持って
いたか見ていきたい。
a)活動の舞台提供
上記のような活動を行っていく上で、まず必要になってくるのが、活動を行
う舞台である。
そのような協力として、まず、会議室やイベント用のホール、グラウンド等
を無償又は有償であっても割り引いたり優先的に使用できるようにしたりして
提供している。これは、上記のような活動に積極的な価値を見出し、行政の責
任において、それらの活動を維持、発展させていこうとする最初の一歩になっ
ているといえよう。
特に、子どもたちの教育を目的とした施設には子育て事業を行うために活用
しやすい舞台が多くあり、そのような施設を使えることは活動にとって大きな
助けになる。
CANVAS の事業においても、上野動物園でワークショップが行われたことがあ
るが、非日常の動物たちとの触れ合いが、子どもたちの意識を開放させ、様々
な工夫に満ちた映像を作成する助けになったものと考えられる。
その中には、学校施設を民間事業に貸し出すような事業も含まれてくる。子
どもたちにとって、学校は非常に身近なものであり、そういった施設を用いた
活動には積極的に関わりやすいといえるであろう。
少年団野球やサッカーについて考えると、多くの場合小学校単位でチームを
結成し、小学校の校庭を活動場所として活動していることが、友達や知り合い
が多いという点も含めて子どもたちにとっても参加しやすく、親としても活動
させることについて安心感があり、かつ、地域の父兄にとっても活動に協力し
やすい条件の一つになっているといえるだろう。
さらには、例えば、環境保全活動を行う場として、里山や河川、湖沼等の保
全活動を民間の団体に任せるようなことも行われるようになっている。従来、
ともすれば事なかれ主義で行政が直接管理をしがちだったこのような場所につ
いて、子どもを含む(ということはさらに問題が発生する危険度が増す)組織
に管理を任せるというようなことにより、子どもたちにとって、自分たちが社
会を良くしていく活動に主体的に関わる機会になり、社会を自分たちが作れる、
という経験をつませることが出来るようになっている。
さらには、具体的な目標があるからこそ、子どもたちが自ら主体的に創意工
夫をする場面も生まれ、子どもたちの創造性をはぐくむ意味でも良い機会にな
っている。
また、子どもたちがさまざまな活動を行ったり、自分たちのまちづくり、郷
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
土作りについて考えたりしたアイディアについて、行政が主催するイベントに
おいて発表する機会を設けるようなことも行われている。発表の機会を得るこ
とにより、子どもたちはより他者を意識した表現や活動を目指すようになり、
そのことがまた子どもの可能性を育む材料になるといえるだろう。
以上、比較的行政と同調性の高い事業についてみてきたが、子どもの教育に
関する事業として、不登校児童の居場所提供等、一般の学校教育に適応しない
子どもたちを対象にした事業もある。このような場合、どうしても行政に対し
て批判的な活動になり、行政との連携が上手く図れない場合も見られた。しか
しながら、現在ではこのような活動について公の施設の提供や資金的な援助も
行われ始めている。
b)民間事業と学校等との橋渡しを含む活動への信用付与
民間団体が主導的に進める環境保全活動について、行政が広報の一環の中で
紹介したり、体育館や会議室等で行われる行事として紹介したりすることは、
よく行われている。この場合、行政は必ずしもそれらの活動を市民に対して推
奨しているわけではない。しかしながら、ともすれば身内でしか活動の参加者
を集められないことが多い NPO にとって、多くの市民が見る媒体に自分たちの
活動が掲載されることは非常にありがたいことであるといえよう。しかも、行
政が広報誌等に載せるからには代表者の住所が明確であるなど一定の条件が想
定されることから、一般市民にとっては一定の安心感を持つことになる。
この場合、必ずしも公的な行政による協力だけでなく、自治会の了承を得て
公民館などにチラシを置かせてもらうようなことも考えられる。
また、場合によっては教育関係の事業を取りまとめて発表するなどのある程
度の選択をしているような場合もある。例えば、域内の NPO 活動を紹介する場
合に、分野別に紹介するようなこともなされている。
また、事業によっては教育委員会が後援名義を出している場合もある。例え
ば、直接子どもの教育というよりは、指導者を養成する事業であるが、NPO 法人
生態教育センターが行っている環境教育指導者育成セミナーに対して岐阜県教
育委員会及び愛知県教育委員会が後援している。
さらに、子どもに関して、ということになるとやはり学校において紹介され
ることがもっとも効果的であるといえよう。必ずしも、共催などの形を取らな
くても、学校にポスターを掲示したりチラシを置いたりすることが出来れば、
それだけで大きな広報効果と信頼性向上が期待できる。
c)補助、助成
例えば NPO に助成するパターンもある。教育の分野でも行政だけでやれるこ
とが限られていることが明らかになり、一方で NPO 活動の価値が認められ、信
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
頼もされるようになるに従い、その活動に対する行政からの補助や助成が行わ
れるようになっている。
NPO の事業に対する助成金を出す制度としては、国費を財源とする環境事業団
による、がある。この制度は必ずしも教育事業を目的とするものではないが、
環境教育を直接の目的とするものや、環境教育の指導者育成を目的とするもの、
さらには、直接の目的は環境保全のための活動であるが、その一環として子ど
もたちに対する環境教育を行うようなものもみられる。
近年は、各省庁がそれぞれの所掌する分野の NPO 活動について助成したり、
補助事業の対象者に NPO 法人を加えたりしている。また、地方公共団体におい
ても同じように補助、助成を行っており、その中には当然教育事業も少なくと
も「社会教育」の一環として含まれている。
ただし、後に述べるように、憲法上の制約があり、教育そのものについて、
一方的な補助や助成を行うことには制約がある。
d)行政の活動との連携
ここまでは、NPO 独自の活動に行政や学校が関わる場合を見てきた。これに対
して、行政と NPO が一緒になって活動を行う場合がある。
例えば、赤い羽根共同募金活動へのボーイスカウト・ガールスカウトの参加
のように、行政が行う社会事業に子そだてに関わる団体が参加し、子どもたち
の社会参加を通じた成長を促すような場合がある。
また、もっと直接的なものとして、子どものための音楽会のような文化活動
について、NPO と行政が共催するような形もある。
さらに、もっと教育行政に直接関わる例としては行政が場所と一定の費用を
提供しつつ、様々な団体と共催したり、行政が主催しつつ様々な団体から講師
を派遣してもらったり講座内容についてアドバイスをもらったりしながら子ど
もの教育や子どもの教育を実施する大人の技術習得のための講習会を開催する
ような場合がある。
e)行政が責任を負う事業の委託
行政が費用その他を提供し、責任を持つ形で主催する事業について、NPO に業
務委託するような場合がある。
教育に関するこのような事業として、従来から見られるものは大きく分けて、
著名な音楽家による楽器演奏のワークショップのような単発のイベント型のも
のと美術館などで行われるお絵かき教室のような継続的なものがある。
前者については、行政として一定の企画をして場所などを準備した上で、企
画の詳細や講師との交渉、広報、参加者の確定、当日のイベント開催実務等を
民間に委託することが多かったものと考えられる。
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
しかしながら、近年では NPO が企画して行ってきたような事業について、行
政が委託するかたちで取り込んだり、極基本的な企画だけを行政が行ってかな
りの部分を NPO に任せたりするものもでてきている。
後者の継続的なものについても、従来具体的な事業を民間委託してきたのに
対して、のように博物館の教育事業全体について企画から任せてしまうような
ケースも出てきている。
ここまでは主にソフト面での協力関係を見てきたが、子どもの創造性を高め
るような施設づくりを NPO に任せてしまうようなことも考えられる。
ウ)最新の実例及び課題と今後望まれること
a)活動場所の提供について
先に述べたように、子どもの教育に関する活動について、子どもたちの参
加を促すためには、子どもたちが通いなれている学校校舎や校庭を活用する
ことが最も効果的であると考えられる。
加えて、通いなれた場所である上、友達と一緒に参加することができるこ
とにより、ともすれば活動に入り込むまでに時間がかかることが多い子ども
たちについて、比較的短時間のうちに心を開いて活動の中身に入っていける
という利点もあるものと考えられる。
例えば、CANVAS の活動においても、麹町小学校での様々なワークショップ
があるが、子どもたちが緊張せずにのびのびと活動するためには、通いなれ
た学校で活動が行われていることが非常に好影響を与えていると思われる。
特に、初めて学校以外の団体が主催する事業に参加するような子どもについ
て短時間でその可能性を広げるような活動に持っていくためには学校を舞台
として使えることは意義深いものと思われる。
不登校児童に対する居場所提供事業等については、どのように学校との行
き来を円滑に行うか、ということが一つの課題になると思われる。そのため
に行政が行わなければならないこととしては、まず、学校外での学習成果を
評価した上で、総合的にふさわしい学年なりに復学できるような制度的な手
当てがある。また、それと同時に、学校に通っている児童、生徒と不登校の
児童、生徒が相互に慣れる必要がある。すなわち、一般の学校に行きたいと
思い始めた不登校児童、生徒には、一般の学校の児童、生徒の考え方や集団
活動のパターン等を思い出して慣れる場が必要になるだろうし、一般の学校
の児童、生徒には、不登校児童、生徒が特別の存在でないことを実感として
受け入れるための場があることが望ましい。そのようなことを考えると、行
政が仲立ちをしつつ、一般の学校の児童、生徒と不登校児童、生徒が一緒に
何らかの活動を行うことが望まれる。その際は特に参加者が具体的な活動を
通じた交流をすることが必要であり、ワークショップ的な手法を取ることが
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
必要になるだろう。
また、ワークショップ的な手法は、どうしても対人関係に臆病になってい
る傾向のある不登校児童、生徒に他人との交わりを復活させるきっかけ作り
としても有効なのではないかと考えられる。当然、個別のケースによって異
なるものではあるが、このような取り組みについても、事例を集積すると共
に、より良いものにして必要な場所に提供していくことが望まれる。
その際、校舎を使うことに拒否反応のある児童、生徒については、学校外
に活動場所を提供することが必要になってくる。しかし、そうでない児童、
生徒、特にそろそろ学校に戻りたいと考えているような児童、生徒について、
校舎や校庭を使ってワークショップを行うことなども必要になってくるもの
と考えられる。
さらに、行政には、そのような事業に関する研究に対して金銭的な支援を
行うと共に、情報発信について様々な形での協力をすることが望まれる。
b)情報面や信用供与について
先にも述べたように、単に行政関係の情報の一環として NPO の活動を掲示す
ることや、行政が関与する場所にチラシを置けるようにする、というだけでも
大きな意味を持つ。
しかしながら、それだけでは、NPO による子どもの教育に資する活動を市民へ
の情報提供面から十分に支援することにはならない。なぜなら、子どもの数が
減少する中、子どもを持つ親は基本的には保守的にならざるを得ず、なかなか
積極的に子どもを NPO に任せられない部分がある。最近、NPO の活動が増えてき
て選択が難しくなっており、しかも中には問題のある活動も散見されるように
なっているだけになおさらである。
これに対して、行政が NPO の活動状況を確認して一定のレベルに達している
ものを紹介していくことが NPO の信用を高める上で好ましい。
ただし、NPO の事業について全てを行政が把握し、評価していくことが望まし
いか、また、能力的に可能であるか、ということについては疑問がある。
そこで、NPO の様々な活動について、それぞれの専門家、それもできれば様々
な NPO の活動をよく理解している専門家に一定の評価を委託するなり、そのよ
うな評価に一定の権威を与えることが考えられる。
例えば、環境に関しては、独立行政法人国立環境研究所と(財)環境情報普
及センターが EIC ネットというポータルサイトの中で、様々な環境 NPO の活動
を紹介している。この場合、NPO はこのホームページに登録すれば情報提供を行
うことが出来るが、情報を載せ続けるか、とか、リンク集部分のようにそもそ
も情報を載せるかについて、NPO 活動を行ってきた者を含む専門の職員を置いて
一定の判断を行っている。
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
特に、子どもの教育については、サービスを直接受ける者とサービスを受け
るかどうか決める者が異なる場合が多く、しかもサービスの効果が場合によっ
ては不可逆的かつ重要で、しかもサービスを受けて一定の時間を経過してから
問題が発生する場合があることから、自己責任という言葉で済ませるわけにも
いかない面がある。また、ワークショップを活用するような教育に関しては、
新しい情報を常に持って評価することが必要であり、現場のことをよく分かっ
ている専門家が評価をすることが望まれる。
この場合、技術的に最新のものを評価することができるか、という面と、実
際に地域で行われている活動の実態を把握できるか、という面で評価が必要で
あり、出来れば全国レベルの評価や紹介と地域ごとの評価や紹介が望まれる。
したがって、国、地方公共団体それぞれがそれぞれの役割に応じて自ら、又
は委託や補助のような形で NPO の活動を支援する形で情報提供を促進すること
が望まれる。
ところで、NPO が行うこのような情報提供については、それぞれ分離した形で、
技術的に高度なもの、全国的な情報提供活動などの活動について全国レベルで
紹介するものと地域の活動を地域レベルで紹介するものとがそれぞれの観点か
ら独自に情報提供している、という場合が通常想定される。しかし、例えば、
全国レベルで一つの基準を作り、その基準を公表した上で、その基準に合致し
た地域の NPO をネットワーク化し、地域の NPO が個人や個別の活動を紹介して
いく、というように全国レベルの情報発信源と地域レベルの情報発信源が連携
して情報提供していくことも考えられる。
このような全国と地域を結びつける情報提供については、現段階では国から
の支援が期待されるところであるが、本来は国、地方公共団体のそれぞれがそ
れぞれの責任に応じた支援を行い、NPO 側がそれを有機的に使えるような支援体
制が構築されることが望まれる。
さらに、地域の NPO の活動を全国レベルの NPO が評価するような活動も始ま
っており、これに対して行政が支援することも考えられる。
教育に関連した取り組みとして、全国レベルの NPO が地域の活動を評価して
いく取り組みとしては、NPO 法人自然体験活動推進協議会(通称 CONE)の活動
が一つの参考となろう。
CONE では、自然体験活動指導者養成事業について、一定のカリキュラムを示
し、そのようなカリキュラムを実施できる NPO について指導者養成団体(又は
特定指導者養成団体)として認定している。認定された個々の NPO は個別の指
導者養成事業について申請を行い、認定を受ける。そして、その指導者養成事
業を修了した者が自然体験活動リーダーとして登録される、というシステムで
ある。
このシステムは元々多数の NPO が独自に行ってきた自然体験活動の指導者養
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
成活動について、協力して全国的な評価システムを構築したものである。
この活動は元来、必ずしも行政の支援を受けてきたわけではない。しかし、
先日施行された環境教育法においては、環境教育を実施する者を認定できる NPO
法人を登録する、というシステムとしており、このような NPO の動きを行政と
してオーソライズするための仕組みであるともいえるだろう。この場合であれ
ば、国が CONE の認定を受けた NPO を認定することになる。その際、CONE のよう
な団体と事前に情報交換を行うことにより、実態として、国の認定を受けるこ
とが出来るように CONE が各団体を指導する、というような関係を構築すること
が出来よう。本来、CONE のような団体が各分野で生まれてくれば国の制度は必
要ないであろう。しかしながら、日本において現段階ではそのような信頼性の
高い NPO が少ないこと、また、未だ多くの日本人が政府の権威を求めがちであ
ることから、このような制度が各分野において整備される必要があるであろう。
ちなみに、環境省では従来からもいくつかのNPOの環境教育活動、特に指導者
養成活動に後援名義を出すなどしてきたところである(例えば、(財)キープ協
会の主催する「環境教育指導者養成セミナー」を後援している。
http://www.keep.or.jp/)。今後、様々な分野でこのような省庁とNPOのコラボ
レーションが望まれる。
次に、例えば岡山県においては、NPOの活動に関して市民に伝えるため、岡山
県福祉協会がホームページで情報提供している。同時にNPOミーツに委託して
「ボランピオ」という岡山県ボランティア・NPO情報誌を発行している。(「自治
体とNPOによる協働実例集」、及びhttp://www.fukushiokayama.or.jp/NPOnet)
さらに、子育てに特化した情報提供として滋賀県栗東市ではNPO子どもネット
ワークセンターに委託して各公民館(8 箇所)に子どもに関わる地域活動の企画
や調整、情報提供を行うスタッフを配置する事業を行っている。NPO子どもネッ
トワークセンターでは、文部科学省委嘱事業として草津市の保育園から中学校
までの全自動に配布する情報誌の発行も行っている。
(「平成 16 年版国民生活白
書」16∼17 ページ、http://www.biwako.ne.jp/ nt-tenki/k2/k2-8.pdf)
このように市民に対して情報提供を行う一方で、学校への個々の NPO の活動
紹介等を行うことも望まれる。国レベルに関しては先に触れたとおりであるが、
地域ごとに活動の評価を行うことも考えられる。教育事業に関しては、各学校
や教育委員会において、一定の評価を行うシステムをつくることも考えられる
のではないか。
c)補助、助成
教育事業に関する補助、助成金の提供について考える際、難しい問題となる
のが憲法問題である。少なくとも直接教育を目的とする事業について個別に補
助や助成を行うことについては、違憲の疑いがある、というのが現在の政府の
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
立場である。
しかしながら、教育方法の研究や教師の研修事業などについては、補助を行
いうる余地がある。また、他の目的の事業を行った結果として教育にも結びつ
くような場合についても問題はない。さらに、慈善にならない範囲で児童福祉
として行われる事業等についても補助や助成の余地はある。
例えば、NPO法人子どもネットワークセンター天気村が各種事業団等から補助
や助成を受けて行っている事業として、「子育て応援隊募集事業」(社会福祉・
医療事業団)や「里山プレイレンジャー」
(日本財団)といったものがある。
(「NPO
と参画型社会の学び」
(佐藤一子編著)26 ページ)また、フリースクールの活動
と個別のイベント的な事業とを上手く融合させた例として、英聖学院サポート
フリースクール(http://www.t-net.ne.jp/ eisei/)が校外活動の一環として環
境省が行っている不登校や引きこもりの子どもたちに、自然体験を通じて『心
の回復』を促す環境教育のモデル事業に参加した、というものがある。
また、このような事業に対する民間の寄付について税制優遇することや受け
る団体について税制優遇することなども考えられよう。また、個別に用件を厳
格に定め、行政が指導等の関与を出来る形を取ることによっても補助、助成が
できる、との憲法解釈もありうるところである。
いずれにしろ、行政が補助、助成をはじめとする金銭的な優遇措置を行う場
合、当然のことながら国民又は自治体の構成員に対する説明責任が問われる。
また、財政に限界があることから、財務部局から必要性などについて厳しく説
明を求められる。その結果としてともすれば行政にとって都合の良い、当り障
りの無い活動に補助、助成を行うインセンティブが働く。
しかしながら、行政が自ら事業を行うのではなくて、NPO に対する補助や助成
を行うのは、まさにともすれば保守的になりがちな行政の限界を踏まえた上で、
新しい活動やある意味形式的には公平でない活動が行われることを期待するが
ゆえのものであると思われる。
特に、教育、それも子どもに対する教育については、成果が最終的に確定す
る時期が遅く、しかも同じサービスを行っても相手によってその成果が全く変
わってしまう、という評価の難しさが付きまとう。しかし、そのような分野で
あればこそ、様々なサービスが提供され、それぞれの子どもたちが自分に合っ
たサービスの提供を受けることが望まれる。
しかも、子どもにとって、そのサービスの対価をその場で支払うことは困難
であり、そのような子どもたちにできるだけ幅広く、良質なサービスを提供す
ることには行政が一定の役割を果たすことが望まれるのではないか。
もちろん、そのような役割として、NPO の活動の側に直接金銭的な支援を行う
だけでなく、児童、生徒に対する奨学金やクーポンの提供なども考えられる。
特に、教育事業そのものに関して補助を行うことについて憲法上の疑義がある
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
とともに、新規事業を認めていくためには事業の評価が後追いになるのはやむ
をえないだけに、児童、生徒の側が選択をすることにより、いわば市場原理が
働く奨学金やクーポンのような制度が有効であると思われる。また、そのよう
に子どもに給付するだけでなく、親の負担を減らすことについて、学校など公
的な機関並びとすることも考える必要がある。
このようなものの一例としては、近年、フリースクールへの通学について、
国民金融公庫の教育ローンの対象とされていることが挙げられよう。従来、フ
リースクールへの通学については、フリースクール側にも通学側にも公的な支
援がなかったため、保護者にとっては相当な金銭的な負担となっていた。それ
でもフリースクール側が相当程度無償若しくは薄給でサービス提供を行ってき
た。これに対して、教育ローンの対象とすることにより、ある程度の学費を取
ることも可能となり、フリースクール関係者がそれなりの待遇を確保でき、さ
らには内容の充実を図ることが可能になるものと考えられる。特に、フリース
クールのような継続的かつ専従スタッフを必要とする活動に関しては、ある程
度継続的な金銭的な支援が重要な課題となる。
さらに、フリースクールのような継続的に利用する施設が必要な事業につい
ては、立ち上げ資金について融資や出資を行うことも考えられよう。
d)行政の活動との連携
社会活動に取り組む意欲のある子どもたちに入り口を提供する活動を NPO と
行政が協働して行うものとしては、滋賀県草津市、栗東町において、市町と NPO
法人子どもネットワークセンター天気村が中・高校生のボランティアスクール
「はじめの一歩」を運営しているような例もある。(「NPO と参画型社会の学び」
(佐藤一子編著)26 ページ)
また、楠の木学園が「かながわボランタリー活動推進基金 21」の協働事業を
申請して引きこもり青少年支援のためのシステム検討、ネットワーク組織発足、
引きこもり青少年に対応できる人材の育成と活用プログラムの開発(相談員研
修等)、親の会や当事者の会(交流会)の設立、一般県民に対するフォーラムの
開催等を対応する各行政機関と一体となって実施しているような例もある。
(「自治体と NPO による協働事例集」国政情報センター53 ページ∼参照)
ともすれば、行政がイニシアティブを取りたがって上手くいかなくなったり、
逆に名前だけを貸して積極的に関わろうとしなかったりする危険性がある中、
このシステムは、NPO 側が、企画を提出し、それに対して行政が協力していく、
しかも、初年度は比較的小額の予算としつつ、2 年目から状況を見て増額してお
り、今後参考にする部分の多いシステムであるといえよう。
また、子どもに関わりのある施設作りにおいて、子どもを巻き込むことによ
って、子どもが具体的な目標を持ってその創造性を発揮する機会を提供するこ
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
とが望まれる。(「学校の社会力」p122 以降参照。ここでは学校の活動の一環と
して行われているが、地域の NPO 活動として同様なことが行われることが望ま
れる。)
もちろん、子どもの遊び場作りについて地域の声を聞きつつ、施設設計を行
い、さらには地域と行政が一体となって管理をしていく、ということも重要な
課題となる。
特に、子どもが自由に遊んだり、ワークショップを行い、その中で創造性を
身につけたりしていくことができる場所を創ろうとした場合、公平、公正にでき
るだけ安価に安全な施設を提供することを求められる行政だけで実現すること
は難しい。
これに対して、例えば、東京都世田谷区の羽根木プレーパークは地元の世田
谷ボランティア協会が管理者である世田谷区と協働でつくり、管理することに
より、できるだけ子どもたちが自分自身の責任において自由に遊べる場となっ
ている。(「
「まなび」の時代」(ワークショップ・ミュー編著)35 ページ∼)
ここでは、行政が地元の NPO を信頼して、一定のルールの元で管理を任せ、
NPO 側で、子どもたちと一緒に遊び、自由な遊びの中で最低限の子どもたちを見
守る役割を果たすボランティアや有給のプレイリーダーを現場に置いて、日々
の管理運営を行っている。
現在の具体的な事業は次のように進められている。地域住民による自主組織
「プレーパークの会」が直接の運営母体となって運営方針を決める。日々の管
理はプレイリーダーが常駐して行う。これら住民の自主的活動を世田谷区が事
業として位置付けて予算を出し、世田谷ボランティア協会に事業委託を行うな
どのバックアップを行う。世田谷区の三つのプレーパークを通したプレイリー
ダーの雇用及びそのための事業実施や行政とのパートナーシップの構築等に関
しては、せたがやプレーパーク連絡協議会が検討を行い、実行する。という重
層構造で事業が実施されている。(「「民」が広げる学習世界」(白石克巳、田中
正文、廣瀬隆人編 228 ページ∼))
e)行政が責任を負う事業に関する委託
先にも述べた通り、行政が委託する場合の NPO の裁量可能な部分が増えてき
ている状態にあるが、その場合、どうしても行政と NPO の契約が不明確なもの
となる傾向が出てくる。
その結果として、
・行政が責任放棄をし、問題が発生した場合のリスクについて NPO 側が過大に
背負うことになる。又は、個別の事項について指示を出し、NPO 側が行政の下
働きに過ぎないものになってしまう。
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
・NPO に対する評価が適切に行われず、NPO 側にも甘えが出る。
・行政側が当初明確な指示を出さずにいながら追加的な注文をしたり、途中で
事業計画の制約条件を示したりする。
というような問題が発生する場合がありえる。
事業を展開するに当たっては、このようなことの無いように NPO と行政の間
に十分な意思疎通と甘えあいの無い関係を構築することが望まれる。
例えば、行政が NPO に事業に関する裁量を相当部分委ねた例として、総務省
が平成 16 年 11 月に行った「ネット・キッズ・ポップ」というシンポジウムにつ
いて、CANVAS の持ち込んだ企画を採用し、詳細についても相当部分 CANVAS の提
案を受け入れたような例もある。
ICT 技術を生かしたワークショップの活用による子どもの教育やポップカル
チャーについては、行政が苦手とする、新しい技術や文化、それらを活用する
人材に関する考察が必要であり、そのような人材を活用したイベントとするた
めにも、普段からそのような人材と交流のある CANVAS に対して大胆な委託が行
われたものと思われる。
この場合は、行政からの委託を受ける段階で CANVAS 側から示した企画が明確
であり、その後も行政と十分な意思疎通を図りながら事業を行ったこと、CANVAS
側が当日の運営に関し技術的な面等必要な部分については相応の資金を用いて
必要な人材を確保したこと、すなわち事業展開に当たって NPO であることを理
由とする甘えを排除したことが成功につながった原因であると思われる。
ただし、引きこもり支援活動のようにそもそも行政の活動の限界から生じた
課題への対応として行政から独立して出てきた活動に行政が関わる場合、次の
例にも見られるように、NPO へ任せる度合いは高くならざるを得ないと考えられ
る。
NPO 法人フリースクール楠の木学園と神奈川県は協働して引きこもり支援団
体「ユースサポートネットリロード」を 2002 年 1 月に立ち上げている。具体的
には引きこもりの人たちが参加できるイベント(夜食会、お茶会といった、集
まって話をするものから、らくがきパーティーのようなアーティストの協力を
得た上で行うワークショップ的な活動まで様々なもの)の他、家族のためのワ
ークショップ、支援団体が一堂に会して情報交換や議論を行うフォーラム、カ
ウンセリング等の事業を行っている。ここでは、「行政が計画し、実施は、ノウ
ハウと現場を持つ民間が行う」という形で事業が展開されている。
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
②学校外での活動
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
③学校に関わる事業を行う場合
ア)概要
学校については、先ほど述べたとおり、伝統的に外部の力を取り込むことに対
して非常に慎重であった。
しかしながら、学校行事であっても学校の外に出て行く場合については当然の
こととして学外の人間と関わりあわざるを得ず、その中で子どもの教育に対して
も一定の役割を学外の存在に期待してきた部分がある。
また、高度成長が収束し、単なる知識の押し付けだけではいけない、という議
論が起こるに従い、一般の授業とは別に外部講師を呼んできて学内でイベントを
開催する場合も見られるようになった。特別な場合に外部から人を受け入れるこ
とに関しては、大きく考えれば運動会なども行ってきたところであり、比較的抵
抗感が無かったのではないだろうか。
次に、平成時代に入り、
「生きる力」を育てるということで総合学習の時間が導
入された。これは、従来の知識を教える授業と一線を画すものであり、環境学習
などを中心に地域の有識者の協力を得ながら授業を進めるケースも増えてきてい
る。授業に外部の人間が関わる、という意味では画期的なことと言えるかもしれ
ない。
最後に、従来からの教科の授業については、今でも基本的に教師が外部を遮断
した形で進めることがほとんどであるが、ICT の活用などを契機に、様々な手法や
外部の知見を活用することについては以前に比べて柔軟になってきたのではない
だろうか。少なくとも教材や教育のスキルに関して様々な主体の知見を生かして
いこうとする傾向が生まれているといえよう。特に、教科授業についても、知識
の詰め込みだけでなく、生徒や児童に納得させるプロセスが重視されるようにな
り、このようなプロセスにおいては、ワークショップという言葉はともかく、生
徒や児童に積極的に授業の進行に参加させる手法が使われてきている。
イ)課外活動について
先にも述べたように、学校行事ではあるがカリキュラムに則った授業以外の行
事やいわゆる部活動など放課後の活動については、従来から比較的教師以外の学
外の父兄や住民の協力を受けることに柔軟な姿勢が示されてきたといえるのでは
ないか。
その意味では、今後もその延長線上で活動が進められるとも考えられる。しか
し、
・正規の授業時間数を減らした結果、当然のこととしてそれ以外の時間が増えて
いること。
・それに対して、地域にいて子どもが遊んでいる様子を横目で見ていられるよう
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
③学校が関わる事業を行う場合
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
な大人が減ってきていること。
・子どもの絶対数が減った上に塾等に通う比率が増え、さらに事故発生時の賠償
請求等がうるさくなっていることもあって、子ども同士が年齢差を越えて外で
遊ぶような機会が減っていること。
といったことから、学校において課外活動を準備する必要性が増大している。そ
のような状況に学校の教師だけで対応することには限界があり、NPO 等地域の資
源をどのように活用していくかが課題となっており、行政側にもそのための支援
が求められる。
a)場所の提供など
学校の課外活動に関し、地域や文化的な団体の協力を得ることは、以前より
様々な形で行われてきた。
例えば、学校外の音楽ホールで地域のオーケストラ(もちろん、プロのオー
ケストラが演奏する場合もあるが、例えば大学のオーケストラやその OB 等、非
営利の団体が演奏することも多い。
)の演奏を聞くというようなことは多くの学
校で行われている。この場合、教育委員会がオーケストラと契約を結び、定期
的にホールを借りて音楽会を開催するというような行政とオーケストラの関係
が通常のパターンである。
しかし、このように行政が強く関与した場合、どうしても臨機応変な活動は
難しくなる。また、メニューが限られることから子どもの方も必ずしも関心を
持ってそのような活動に参加するとは限らない、ということになりかねない。
そこで、例えば子どもに学校から地域通貨を与え、地域で登録された事業に
ついてどれに参加しても良いことにする、というようなことが考えられる。こ
の場合、各 NPO は会場使用料を地域通貨でも払えることにすれば、各団体にと
っても、子どもたちに喜んでもらい、何度も参加してもらうことによって自分
たちの活動目的に添った活動を安価に提供できることになる。
また、地域の人が学校に来て様々な課外活動に関わる場合、関わりやすく門
戸を広げることと子どもたちの安全を守ることの両立をどうやって確保してい
くか、という問題も生じるところであり、一定のチェックをしながら外部の人々
を受け入れることが出来るように学校施設を整える必要がある。
b)資金提供(リスクヘッジ等)
さらに、演奏を聞くだけでなく、学校にオーケストラを招いて児童、生徒に
楽器を演奏する機会を設けるような場合がある。そのようなことに関しても、
従来の延長線上で比較的スムーズに事業が行われるものと考えられる。
ただし、このような場合、楽器の破損等の危険度が格段に増す。教育委員会
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
③学校が関わる事業を行う場合
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
などの行政には、このようなリスクに対する保険的な面でバックアップするこ
とが望まれる。特にアマチュアの演奏家等の表現者にとって、学校で演奏を行
ったり子どもたちと時間を共にしたりすること自体は一定の楽しさも感じられ
るところで、苦にならないと思われるが、そこに大きなリスクがかかってくる
となかなかやりたくてもやれない、という事態が生じてくると思われる。
また、活動内容によっては子どもたちが怪我をするような危険も生じる。こ
のような場合の補償についても、行政として補填していくことが求められる。
以前に比べ、地域の人々が参画することが増えてきている部活動などについて
も、行政において、子どもの怪我などを含め、様々なリスクへの対応を受け持
つなり、各 NPO なりがリスク対応するのを手助けすることが望ましいのではな
いだろうか。
c)情報提供や信用付与
また、例えば楽器演奏を学校で教えようとすると、演奏技術だけでなく、そ
の楽しさを様々なバックグラウンドや個性を持つ生徒に一定の時間内に伝える
ためのスキルが必要になってくる。いくら演奏なりの楽しさを伝える上で、本
人が楽しむことが一番重要といっても一定の技術は必要になってくる。このよ
うな定型的な技術を行政が提供したり、そのような技術を持つ個人や NPO に関
する情報を紹介したりすることができれば教職者以外の様々な分野の専門家が
児童、生徒の教育に関わることが出来るようになるのではないだろうか。
さらに、行政には、課外活動に協力してくれる NPO 等に関する情報データベ
ースの作成等が期待されるところである。地域の需要や行政の考え方によって、
なるべく広く平等に情報提供するか、ある程度取捨選択して信用を付与するよ
うな形で情報提供を行うか、という違いが生じるものと思われる。
先に述べたように、博物館等の運営について NPO に任せた場合、当該 NPO が
博物館で実施するワークショップ等については、学校としても非常に活用しや
すいものと思われる。行政には、そのようなことも考慮に入れつつ、学校と NPO
との仲立ちについて方法を検討し、実行に移していくことが望まれる。
ウ)総合学習の時間について
a)概要
総合学習の時間については、「生きる力」を育む、という従来の教科学習とは
異なる切り口からの教育が求められている。教師の側にはこれまでのような一
方的な知識の教え込みではない、いわばワークショップ的な手法が求められ、
未だ試行錯誤の段階にあるといえよう。
そのような中で、総合学習に関して NPO が協力するありかたとしては、大き
く分けて、NPO の普段の活動に子どもを参加させたりするもの、普段の活動を子
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
③学校が関わる事業を行う場合
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
どもたちに見せたり話して聞かせたりするもの、教育プログラムを提供する等
学校内で行う授業を支援するもの、の 3 種類があるのではないだろうか。
b)普段の活動に子どもを参加させる場合
アサザ基金
NPO の普段の活動に子どもを参加させる場合、NPO 側から見ると、前述で見た
学校が直接責任を負うわけではない活動と近い活動になる部分が大きいのでは
ないかと思われる。
ただし、児童、生徒が任意に参加し、したがって、一定の意欲を期待できる
活動と異なり、授業の一環として参加する児童、生徒を活動に巻き込むことに
は一定の技量が必要になってくる。
一方で、学校側又は教師の側から考えると、年間なりのスケジュールやカリ
キュラムの中でそれぞれの時間を有効に活用していくことが求められるもので
あり、その意味で教師にとっては、当該の時間をどのように活かしていくか、
力量が問われるところである。
したがって、教師には NPO の活動を十分に理解してどの活動に児童、生徒を
参加させるか選択した上で活用していくことや NPO と綿密に打ち合わせを行う
ことが求められる。NPO の側にも自分たちの活動を具体的に説明し、場合によっ
て教師のリクエストに応じて活動を調整する必要も出てくるものと思われる。
その上で、具体的な活動に際しては、誰がどのような役割を果たし、責任を
負うのか明確にして事業を進める必要がある。
c)活動について見せたり、話して聞かせたりする場合
活動について見せる場合、どうやって一度に多人数に対して、活動を見せて
いくのか、という課題が生じる。しかも、限られた時間の中で、必ずしも関心
を持っているとは限らない生徒、児童に対してどう見せていくか、ということ
が問題となり、活動そのものに参加するのではなくても、ワークショップ的な
手法で疑似体験をさせながら見せたりするという能力が必要になると思われる。
一方、話して聞かせる場合、基本的には学校で実施されることが多いと思わ
れる。また、当然学校で事業を実施する場合も話すというより見せるに近い場
合もあるだろう。
この場合、学校内という制約条件の中でどのように普段の活動を見せたり、
話して聞かせたりするかという問題がある。
もちろん、児童、生徒がアポイントを取って個別に話を聞いたり、見たり、
するために出かけていく場合もあるだろう
いずれにしろ、この場合も一連の総合学習の中でどう位置付けていくのか、
ということが重要な課題になる。したがって、NPO 側と教師が必要に応じて連絡
を取り合い、事業を進めていくことが重要である。
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
③学校が関わる事業を行う場合
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
d)学校内で行う総合学習の支援について
総合学習は学校外で行われることもあるが、やはり多くの場合は学校内の活
動として行われるものと考えられる。しかし、教師の多くにとって、総合学習
のような授業を受けた経験は少なく、まして、総合学習を意識した教育方法に
ついて大学までの間に身につけている者は少ないものと思われる。
これに対して、NPO に期待される支援方法としては、・授業に出向いて行って
教師の補助を行う。・授業の方法について、教師の相談に乗ったり、一般的な情
報を提供したりする。・総合学習のための施設や道具等を提供する。といったこ
とが挙げられる。もちろん、どれか一つ、というのではなくて、組み合わせて
提供されることもある。
このような取り組みとして、例えば、NPO 法人学校ビオトープ・ネットワーク
による学校内にビオトープをつくる活動がある。ちなみにビオトープ・ネット
ワークのパンフレットによると、ビオトープとは、「生き物たちが生まれ育つ、
ひとまとまりの環境空間のこと」であり、ビオトープをつうじて、子どもが自
然とふれあい、豊かな感性を培う教育・学習効果が期待されている。この取り
組みにおいてビオトープ・ネットワークは、ビオトープの基礎となる空間(典
型的なものとしてはトンボ池)を学校の敷地内につくり出す活動とともに、ビ
オトープを活用した環境教育のための教材づくりやゲストティーチャ−の派遣
を行っている。しかも、この活動は、学校内だけにとどまらず、地域ぐるみで
ビオトープ・ネットワークをつくっていくところまで結び付けていこうとして
おり、学校内での活動と学校外での活動を有機的に結び付けている。
(「NPO と参
画型社会の学び」39 ページ∼)
以上を踏まえ、行政に期待されるかかわり方を考えていく。
e)場所の提供
場所の提供に関係する行政と NPO との関係は、学校外で NPO 活動に児童、生
徒を参加させる場合、総合学習の一環として行う場合であっても、学校と関係
なく事業を行う場合や課外活動として事業を行う場合と基本的には変わらない
ものと思われる。
ただし、事業の公共性が明確になることから、施設使用料を無料にしたりす
ることが望まれる。さらに、当該事業と関わる普段の活動についても一定の配
慮を行うことが考えられよう。
f)情報提供
前にも述べたとおり、総合学習の時間の活動として NPO 活動に参加させる場
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
③学校が関わる事業を行う場合
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
合、自発的に子どもたちが NPO 活動に参加してくる場合と異なる難しさがあり、
対応できる NPO が限られてくると思われる。行政にはそのような NPO を学校や
教師に紹介する役割が望まれる。
そのような情報提供の例として、例えば環境省の行っている「環境カウンセ
ラー」の登録制度が挙げられる。この制度で紹介するのは、NPO ではなくて個人
であるが、ホームページ上で、環境カウンセラーのうち「環境教育」を得意と
する人を検索すると、地域にいる有為な人材とその連絡方法が紹介される仕組
みとなっている。
また、学校や教師が NPO 等の事業を活用する場合、ホームページなどに示さ
れる事業概要以上に、事業を実施する人を知りたい、という意向もあると思わ
れる。そのような求めに対しては、関係者が集まる機会を作ることが望まれる。
かつ、限られた時間の中で求める人材に会うことが出来るようにするためには、
お互いがその人となりや能力を見せ合い、必要な情報交換を行うことが出来る
ように仕組むことができればなお良い。
例えば、東京都では、行政、大学、専門学校、民間カルチャー事業者などの学
習提供機関の関係者からなる「東京における生涯学習関連機関交流連絡会」が
組織され、関係者が集まって相互交流と研究・協議並びに情報交換ができる場を
提供している。実務的には 11 名の世話人と呼ばれる実効委員会が中核を担い、
東京都生涯学習センターが事務的業務を行い、教育委員会と生涯学習文化財団
が共催する形で、開催されている。(「「民」が広げる学習世界」(白石克巳、田
中正文、廣瀬隆人編 237 ページ∼))
このように民間主導で行政が後押しをする形で情報交換する場が今後増えて
いけば、各地域において様々なネットワークが形成され、その中で総合学習を
始めとする学校カリキュラムへの NPO の活用も進むのではないだろうか。
g)委託
NPO が総合学習に関わる場合、通常業務のほかにアドホックに行うことも多い
が、NPO によっては、その本来事業が学校教育に関わってくるような場合がある。
例えば、先にも述べた学校ビオトープ・ネットワークなどは、学校での事業を
核として事業を展開している。また、環境教育、芸術活動、ワークショップ、
このような事業について、個別の学校に限って事業を行うのであれば、当該学
校から委託を受けることが考えられる。また、複数の学校から委託を受ける場
合はそれぞれの学校から委託を受けることになるのが普通だと思われる。ただ、
個別の学校から委託を受ける場合、どうしても事業が安定せず、お互いにとっ
て事務的にも負担が多くなってしまう。これに対して、例えば教育委員会が委
託を行い、必要に応じて各学校にサービスを提供するようなことも考えられよ
う。
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
③学校が関わる事業を行う場合
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第1章
さらに、例えば
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のように事業全体は教育を目的としているわけではないが、
その中に学校の活動を組み込んでいるような活動もある。この場合、必ずしも
全ての活動について行政が委託をしないとしても、学校と関わる部分に関して
行政が委託などの形で関わることで、学校での事業の一環という観点から最低
限のチェックを行うことも出来、また、事業に関わる学校や子どもたち及びそ
の親たちにとって安心感につながる部分もあると思われる。
さらに、NPO のメンバーを教員として雇い入れ、学校と NPO をつなぐキーパー
ソンとしていくことも考えられる。特に、規制緩和により、通常の教員養成コ
ースをとおって教員試験を受けて教員免許を持っている者以外の人についても
正規の教員とすることが可能になっており、この制度を活用することが期待さ
れる。ワークショップ的な技能を持ち、「生きる力」を育むことの出来る人材を
教員として確保することと学校外との関わりを持って教育を行うことが望まれ
る中で、一石二鳥の取り組みといえるのではないだろうか。
h)補助
NPO の活動に対する金銭的な支援として、直接事業委託するだけでなく、活動
への補助を行うことが考えられる。
この場合、事業を行う NPO に対して補助をするばあいと学校側が NPO の事業
を活用する場合に一定の資金提供をすることによって実質的に NPO の事業に対
する補助とする場合がある。
さらに、活動そのものだけでなく、活動に伴う様々な金銭的な負担に対して
補助を行う場合が考えられる。
例えば、総合学習の中でということで、相当数の子どもを相手に事業を行う
場合、事故によって子どもが負傷する場合や器物損壊の危険がある。不幸にし
てこのようなことが起こった際に行政が資金を出すことも考えられる。
後でも述べるが、学校や家庭が安心して NPO の事業を活用できるようにする
ためにもこのような面について、行政のバックアップが望まれるのではないか。
i)研修
さきにも述べたように、学校のカリキュラムの中で子どもに活動に参加させ
たり、話を聞かせたりするためには、普段の活動とは異なる技術が必要になる
場合がある。そのため、行政には、活動内容が総合学習向けであって、協力を
求めることの出来る NPO のメンバーに対して子どもたちを巻き込むためのスキ
ルを身につけさせる機会を提供することも望まれる。もちろん、このような活
動を行政が主催して行うだけでなく、そのような技術を提供できる NPO 等に委
託したり、NPO の自主的な活動を支援したりすることも考えられる。
逆に、学校の先生たちに対しても、NPO と協力して総合学習を進めるためのス
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
③学校が関わる事業を行う場合
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
キルを身につけるための研修制度を設ける必要があると考えられる。
また、先にも述べたように、必ずしも総合学習のような授業について十分な
教育を受けてきていない学校の先生に対して、ワークショップ等総合学習の時
間に活用できる技術を教えることが出来るような NPO に委託するなどして学校
の先生の技術習得を進めることも望まれる。
j)その他
ここまで、基本的に現在の制度の中で行政が NPO に対してどのような支援が
出来るかを中心に見てきたが、NPO が総合学習に関わることを考えたときに行政
として整理しておく必要があることもある。
例えば、総合学習の一環として学外で NPO が管理をしている施設でその指導
を受けつつ行った活動の中で子どもが負傷した場合の責任関係はどうなるのか、
器物損傷などの財政上の問題が起こった場合はどうなるのか、それぞれ明確に
しておく必要がある。かつ、ほとんどの NPO に大きな弁済能力が無い中でどこ
まで NPO に責任を負わすべきであるか、ケースバイケースではあるが、十分に
検討を行い、事後的に NPO 側も問題になるが、むしろ個別の学校や教師に過大
な責任が負わされることの無いようにすることが学校や教師が NPO を活用する
ために必要になるものと思われる。そのためには、後顧の憂いを立つために必
要な手当てを行政が行うことが望まれる。そのための手段として、先にも述べ
たとおり、保険を活用することが考えられるが、特に不特定多数が参加する事
業に関する保険制度は必ずしも十分用意されているわけではない。行政として、
誰がどこまで責任を持つかを明確にした上でそれに対応できるような保険制度
の準備を金融機関に働きかけるようなことも必要なのではないだろうか。
エ)教科の時間について
教科の時間については、従来基本的に教師が授業を行う形で進められており、
現在もあまり NPO の活用は行われていない。
しかしながら、子どもの学力低下と共に学習意欲の低さが指摘される中、教科
の時間についても、これまでの一方的な教師による授業だけで良いのか、という
ことを検討する必要がある。(「学校の社会力」等、総合学習に反対する立場も含
めた議論の全体像については「学力低下論争」
(市川伸一)
)
特に、科学技術関係の最先端や海外の状況、環境問題等新しい課題について触
れることによって子どもに現在の学びが何に結びついていくのかなんとなくでも
感じさせつつ学習を行わせることが求められるのではないか。その場合、それぞ
れの分野で最先端を走る人と学校の授業をつないだり、地域にいるそれぞれの分
野に関する知見を持つ人を活用したり、というようなことが課題となる。
そのためには、せっかく多くの小学校にまで行き渡っているパソコンを活用し、
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
③学校が関わる事業を行う場合
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
インターネット上で最先端を走る人から話を聞いたり、地域ごとの有為な人材に
質問に答えてもらったり、といったサービスを容易に受けられる体制作りが今後
求められよう。
また、同時に、教師が児童、生徒になぜそれぞれの学習を行うのかを実感させ
る技術を身につけることや身につける段階でまずは実感として理解できるような
学習方法を身につけることが必要になってくるものと考えられる。そのための手
段として、ワークショップ的な手法が考えられる。これに関しては、昨年の研究
でも触れられているが、まだまだ学校側が必要とするものを外部の NPO 等が十分
用意しきれていない面もあるが、逆に学校側も必ずしもそのようなことに関する
外部の NPO 等が行う実験を簡単に受け入れる状況には無い。
それでも、最近は徐々に受け入れ事例も出てきているところであり、まずは技
術開発を学校と NPO 等が協力して行っていくことが望まれる。教育委員会などの
行政には、そのような活動をバックアップするため、まず、学校現場で何が必要
とされているか、また、その地域として学校側に何を求めたいか、ということを
明らかにして、技術開発の対象と目的を明らかにすることが望まれる。その上で、
必要に応じて資金的なバックアップを行う必要があるだろう。
さらに、一定の技術が確立すれば、教材の提供と共に、学校の教師に対してそ
のような技術の習得を推進する講習会などを開催することも考えられよう。
また、どこにどのような技術があり、それを習得するにはどうすれば良いか、
という情報提供を行うことも望まれる。この際、行政が直接情報提供するに限ら
ず、NPO による情報提供を、資金面を含めて後押しすることも考えられる
2)ICT 教育分野における NPO と行政の関係
③学校が関わる事業を行う場合
- 123 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
4.行政から見た問題・要望に関する調査
3)まとめ
手続き優先で安定したサービスを公平に提供することが望まれ、そのための力とノ
ウハウを持つ行政と、また与えられた仕事を最も効率的にかつ質を高めて責任を持っ
て実施することに向いた民間企業と、それぞれの参加者が目的や理念を実現するため
に最大限の工夫と努力をそれぞれが有する条件の中で現場に則して実施するという理
念優先型の組織である NPO が、それぞれの強みを活かし、弱みを補完しあいながら社
会を形作っていくことが望まれる。制度的な意味で民意に基づく社会を形成する責務
を負う行政にはそのような社会作りのための条件を作っていく努力が求められる。
特に現在の子どもを取り巻く環境の中で子どもの教育が抱えている課題の解決のた
めには NPO の持つそのような強みを活かしていくことが望まれる。
一方で、子どもの教育については、特に行政が関わる部分が強い。また、どうして
も信頼性を含め、NPO が持つ弱点を行政に補完してもらう必要性も高い。
そこで、行政には、NPO の持つ弱点を踏まえつつ、いかにすればその強みが活き、子
どもの教育がより良いものになるか、という観点から NPO に関与していくことが望ま
れる。
その際、途中でも若干述べたように、行政の方向性と NPO の活動がダイレクトに結
びつく場合と、行政の現在の政策と必ずしも一致せず、むしろ行政の方向性から結果
として生じてしまった問題や行政の優先順位から対応しきれない課題に行政とは独立
した存在として取り組んでいく場合がある。
行政の方向性と NPO の活動が一致しない場合についても、それらの活動が反社会性
を持たない限り、行政としてできるだけそれらの活動が円滑に行われるよう配慮する
ことが望ましい。これは、行政が必ずしも社会の全てを把握している訳でもないこと
から、行政とは独立した存在が様々な社会活動を行うことが望まれるからである。
一方で、行政の方向性と一致する場合、行政には、NPO に対して望むことを明確にし
た上で、途中経過への関与や活動の詳細への規定をできるだけ減らすことにより、NPO
が持つ強みを最大限活かしていくことが望まれる。
すなわち、NPO の持つ理念や目的を最優先し、そのために当初計画を逸脱してでも出
来るだけ良い活動を行おうとするという特徴を活かしていくことが望まれる。これこ
そが様々な規定の中で何をするか、過程の手続きを重視することが望まれる行政には
望めないことであり、行政として NPO に期待すべき側面であると思われるからである。
いずれにしろ、子どもの教育に関しては、行政に与えられた権能も特に大きく、ま
た、親の立場からは冒険がしにくい分野である一方で、現在の教育環境の中では、個
別の子どもごとにきめの細かい対応が望まれ、しかも学校外の社会に触れ合うことが
求められているだけに、積極的に NPO と行政が協力し合っていくことが求められる。
3)まとめ
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第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
5.まとめ
5.まとめ
本調査は、今までに行ってきた学校、ミュージアムのニーズ及びシーズの調査をもと
に、ワークショップ・プログラム普及のための方策の検討を行った。同時に今まで調査
をすることができていなかった企業及び行政のニーズ、シーズの調査を行ったものであ
る。
本調査を通じて、まず、既にパッケージ化されたプログラムを持ち、幅広い展開を見
せている Project Wild、GEMS、Project Learning Tree、Project Wet、Projec Fit、Nature
Game の詳細な調査を行うことで、ワークショップ・プログラム普及にあたり有効だと思
われるワークショップ・プログラムのパッケージ化に関する様々な示唆を得ることがで
きた。さらに、今後ワークショップ・プログラムを構築するにあたっての基本的な考え
方を、ワークショップ・プログラムを実施場所、実施するシチュエーション、実施にあ
たっての適切な内容(プログラム・デザイン)
、一般化するためのパッケージ手法、評価
システム、一般化するための人材育成の観点から整理することができた。
具体的には、
・ワークショップ・プログラム実施にあたっては、入念な準備が必要であるため、継
続的活動として続けられるよう常設の実施場所(教材をストックするスペースも含
む)を確保することが最も効率的であること
・学校教育における授業でプログラムを利用してもらうことは様々な要因から困難で
はあるが、自然博物館やマリンワールドの例が示しているように、総合的な学習の
時間は遠足等に対してのプログラム提供は可能であること。学校と組んで取組み際
には、学習指導要領や教科書でのカバー範囲に関する情報提供が必要であり、同時
に授業案や教師向けのマニュアル、ワークシートや教材など、教育プログラム以外
のツールの開発も必要であること
・プログラムを開発する場合には、直接的な体験だけではなく、つかみやまとめとい
った本体をつなぐ要素を考慮したプログラム・デザインが求められること
・ワークショップ・プログラムを普及させるには、「どの場所でも誰でもが行える」教
育的プログラムの構築と、一般化するためのパッケージ化が必要であり、最も効率
的なやり方としては、プログラムの事例を収集し、それに教育的視点を加えてプロ
グラムの再デザインをし、ワークシートやプログラム用シート等教材の開発、指導
者向けのテキストやマニュアルの開発を行うことが提案されること
・今までの日本の教育システムでは、知識の評価は行ってきたものの事象の全体的な
把握といった面からの総合的な評価は行われていなかったが、ワークショップ・プ
ログラムでは知識だけではなく、理解、態度、技能などを総合的に評価することが
必要であること
・教育プログラムを一般化するためにはプログラムを実施する人材の育成が、プログ
ラムや教材の開発と同じくらい重要であり、養成講座の開設が必須であること
・関連業界とのネットワーク作りが重要であること
- 125 -
第1章
参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
5.まとめ
が明らかになった。
企業・行政のニーズ及びシーズに関する調査に関しては、下記のような示唆が得られ
た。
今までは、子どもの創造力・表現力向上のための取組みを全国的に普及させるにあた
り企業や行政のリソースの活用は必須である一方で、今までは接点がほとんどなかった。
しかしながら、本調査を通じて、企業側からもニーズがあることが明らかになった。企
業でも社会貢献活動の一環として、ハイブリット・カーや燃料電池カー、高齢者や障害
者むけの商品開発や店舗設計など、本業による製品やサービス提供に社会貢献の意識が
取り組まれている事例が出てきている。3 節で示しているように、ICT を用いた創造性教
育に関しても、キャノン販売と中学校の連携よるデジタルカメラを用いた総合学習での
取組み、NTT ドコモ、イトーキ、富士通、JR 東日本、ホンダと小学校の連携による FOMA
を用いた総合学習の取組みなど、企業と学校のリソースをうまく組み合わせ取り組んで
いる事例がいくつか出てきている。
互いの利益を認め生み出していく構造が、結果として企業の社会貢献活動の持続的発
展にもつながり、そして当事者だけではなく第三者や地域にも貢献することができる。
今後もより一層、企業の資金、人材、技術、施設等のリソースと、蓄積された情報、専
門性、人的ネットワークといった NPO の持つリソースを組み合わせることで、両者に
Win-Win の連携が生まれ、子どもたちに還元されることと思われる。
行政に関しては、子どもの教育に関わる分野であるだけに、行政に与えられた権限も
大きく、また、親の立場からは冒険がしにくい分野である一方で、現在の教育環境の中
では、個別の子どもにきめ細かい対応が望まれ、しかも学校外の社会に触れ合うことが
求められているだけに、積極的に行政と NPO が協力し合う事が、行政サイドからも望ま
れていることが明らかになった。行政が必ずしも社会のすべてを把握している訳でもな
い現状の中で、行政と連携しつつ独立した存在が様々な社会活動を行うことが望まれる。
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるための
デジタルコンテンツ・デジタル技術の
先駆的活用方法の研究
- 127 -
第 2 章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・デジタル技
術の先駆的活用方法の研究...........................................................................................- 131 1.調査の概要.............................................................................................................- 131 1)目的....................................................................................................................- 131 2)調査研究方法 .....................................................................................................- 131 2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査 ..........................- 132 1)目的....................................................................................................................- 132 2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果.........................................- 132 ①ラジオボーイ・ラジオガール.........................................................................- 133 ②クリケットワークショップ ............................................................................- 134 ③マウスで動く
面白映像
を作ろう!...........................................................- 135 -
④ネットワーク・カンブリアンゲーム=アイディアの爆発実験.......................- 136 ⑤糸電話で世界とつながる ................................................................................- 137 ⑥ドラムサークル ..............................................................................................- 138 ⑦DJワークショップ..........................................................................................- 139 ⑧ZOZOキッズCG つくろう!3Dキャラクター..............................................- 140 ⑨アニメーション制作 .......................................................................................- 141 ⑩ウェブ作りWSプロジェクト ..........................................................................- 142 ⑪クリエイティブフォトワークショップ...........................................................- 142 ⑫インプロ .........................................................................................................- 143 ⑬殺陣ワークショップ .......................................................................................- 144 ⑭東京大学サマーキャンプ
アート&テックプログラム..................................- 145 -
⑮ワークショップコレクション.........................................................................- 146 3)考察....................................................................................................................- 147 3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び行政・大学・
企業への対応方策の提言の調査研究.........................................................................- 149 1)本研究の概要 .....................................................................................................- 149 ①目的 ................................................................................................................- 149 ②研究の方法 .....................................................................................................- 149 ③研究会議構成員 ..............................................................................................- 151 2)子どもの創造力、表現力を誘発する学習環境へのアプローチ ..........................- 153 ①学習環境をとりまく状況と新しい試みの必要性 ............................................- 153 ②デジタル・ネットワークメディアの動向とその活用 .....................................- 156 3)新しい学習環境デザインを支えるデジタル技術とその課題 ..............................- 159 ①ソフトウェア環境進化の特徴.........................................................................- 159 ②デジタル技術を地域表象に取り込む試み .......................................................- 162 4)まとめと課題 .....................................................................................................- 164 4.新規ワークショップの開発....................................................................................- 166 1)GO!GO!学校へ行こう@東京大学 .....................................................................- 166 -
- 128 -
①概要 ................................................................................................................- 166 ②ワークショップ内容概要 ................................................................................- 167 ③普及啓発効果..................................................................................................- 167 ④今後の展望 .....................................................................................................- 168 2)スズシゲラボラトリー .......................................................................................- 169 ①概要 ................................................................................................................- 169 ②ワークショップ内容概要 ................................................................................- 169 3)デジタルフォト俳句ワークショップ..................................................................- 172 ①概要 ................................................................................................................- 172 ②ワークショップ内容概要 ................................................................................- 172 ③考察 ................................................................................................................- 173 4)MusicTable で音楽を感じてみよう! ................................................................- 176 ①概要 ................................................................................................................- 176 ②ワークショップ内容概要 ................................................................................- 176 ③考察 ................................................................................................................- 177 5)おみやげコンテストin京都 ................................................................................- 180 ①概要 ................................................................................................................- 180 ②ワークショップ内容概要 ................................................................................- 180 5.まとめ....................................................................................................................- 186 -
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- 130 -
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
1.調査の概要
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタル
コンテンツ・デジタル技術の先駆的活用方法の研究
1.調査の概要
1)目的
序章で記したように、今までの調査から、子どもたちがメディアリテラシーを身に
付ける手段として、創造・表現・ICT 系のワークショップが非常に有効であり、各地で
のニーズもあるものの、全国的に普及できるワークショップはとても少ないことが明
らかになった。
そこで、本年度の調査は、先駆的なデジタルコンテンツ・デジタル技術を用いて手
軽に開催できるワークショップ・プログラムの拡充、を目指すこととする。
子どもたちがデジタルコンテンツ・デジタル技術を用いて、協調して創造・表現活
動を行うための基礎的な技術的調査を行った。
具体的には、昨年度実施したワークショップの効果に関するヒアリング調査と、技
術と子どもの創造力・表現力の関係に関する研究を行った。また、それら調査研究結
果をもとにワークショップ開発を行い、その成果発表の場として、昨年度に引き続き、
ワークショップコレクション 2005 を開催した。
以下それぞれの調査概略を記述し、反響と今後の課題について記述する。
2)調査研究方法
昨年度開発したワークショップに関して、その後の展開に関してヒアリング調査
を行った。また、一昨年、昨年度開発したワークショップ結果及びヒアリング調査
結果をもとに研究会を立ち上げ、デジタル時代の子どもの創造力・表現力向上にあ
たって今後必要となる基礎技術に関する研究を行った。
同時に、それらをもとに新規にワークショップの開発を行った。
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
1)目的
平成 14 年度、平成 15 年度に各種ワークショップを開発してきたが、その後の学校、
ミュージアム、企業の反応を調査することによって、ニーズや課題を検討し、今後の
普及啓発に向けた一助とすることを目的とする。
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
これまでに開催したワークショップに関してまとめ、さらにその後の効果に関して
ヒアリング調査を行った。その結果を下記に記す。
*各々の詳細な情報や開催依頼の連絡は、NPO 法人 CANVAS 事務局にて対応している。
CANVAS事務局
〒105-0012 東京都港区芝大門 1-4-14 芝栄太楼ビル 5F
E-mail:[email protected]
TEL.03-6403-4675 FAX.03-6403-4658
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
①ラジオボーイ・ラジオガール
ワークショップ
内容
ラジオ局の DJ、ディレクターを体験するプログラム。古く
はレコード盤やカセットテープの時代から、今ではコンピュ
ーターに音楽をインプットするようになった現在の FM 局の放
送システムを利用して、子ども自身が番組を構成していく。
デジタルのラジオ放送システムを利用しながら、さまざま
な番組企画、原稿を用意することによって、実はアナログ的
に表現力をひきだすことができる。一人でも、チーム単位で
もできるフレキシブルなところも、このワークショップの特
色である。
開発者
関連 URL
株式会社プロムナード
http://www.museum.or.jp/announce/CANVAS/wc2004/
workshop-08.html
開催効果
昨年度のワークショップコレクション 2004 での開催で、著
作権、情報モラルやさまざまな教育に利用できるという評価
を得ると同時に、子ども達のコミュニケーション能力を高め
るモチベーションとなったことが実証された。
その結果、文部科学省生涯学習政策局の専修学校先進的教
育研究開発事業に選ばれ、過疎地域でのミニ FM 局を利用した
情報モラル教育の実践を開始している。現在、島根県横田町
の島根デザイン専門学校でセミナーを開催し、教育プログラ
ムの開発を行っている。来年度専修学校 2000 校に配布予定で
ある。
この開発事業の中で、学生達に地域について番組を制作し
てもらい、最後にそれを発表してもらうということも企画し
ている。地域情報の推進をこのプログラムで行うことになる。
また、文部科学省の事業とは別に地域の小中高の学校を巻き
込み、コミュニティーFM 局の設立までを目標としている。
情報モラル教育にとどまらず、地域情報の推進というとこ
ろまで発展させることが狙いとなっている。
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
- 133 -
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
②クリケットワークショップ
ワークショップ
内容
MIT メディアラボで研究開発された乾電池式の小型コンピ
ューター「クリケット」に、Logo Blocks という視覚的で分
かり易いプログラム言語でプログラムすることにより、動く
おもちゃをつくるプログラム。
紙や布、木片など身のまわりにあるさまざまな素材とクリ
ケットを使い制作をする。
※クリケットとは……米国マサチューセッツ工科大学
(MIT)メディアラボで開発された小さなコンピュータ。本
体は 9V 電池で動き、パソコン上でプログラムすることによ
り、2 個のモーターを制御、二つのセンサーからのデータ
受信が可能。パソコンからのプログラム送信には赤外線を
使い、またクリケット同士赤外線で互いにコミュニケーシ
ョンを行うこともできる。
開発者
関連 URL
CAMP
http://www.camp-k.com
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws02/report_b.html
http://www.canvas.ws/jp/workshop/sm05/outline.html
http://www.museum.or.jp/announce/CANVAS/wc2004/
workshop-012.html
開催効果
全国マルチメディア祭 2002in 岡山において、はじめて館外
で本ワークショップを実施してから、プログラムを、どの場
所においても実施できるために必要なプロセスや課題の抽出
を進めた。その結果、奈良女子大学文学部附属小学校、出雲
科学館、宇治市立広野中学校、せんだいメディアテークなど、
科学館や博物館、小学校や中学校での総合的な学習の時間や
大学で実施している。
2003 年 10 月に、CANVAS 主催のもと、クリケットワークシ
ョップを題材に科学ワークショップ指導者養成講座を開催し
たが、その後も引き続きファシリテイター講習を開いている。
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
③マウスで動く
面白映像
ワークショップ
内容
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
を作ろう!
先端の画像処理技術とヒューマンインターフェースを体験
し、モニター上の映像を実物同様に動かせることを実感させ
るプログラム。
パソコンのマウスを使って、動物やロボットなどをつかん
でいるように動かせる新感覚の映像を体験させるソフト「ド
ラグリ」を使って自分や友達を動かせる楽しいホームページ
をつくる。
開発者
関連 URL
NTT アドバンステクロノジ株式会社
http://www.dragri-fan.com
http://www.museum.or.jp/announce/CANVAS/wc2004/
workshop-07.html
開催効果
昨年度、ワークショップコレクション 2004 に出展し、子ど
もでもすぐにおもしろい動画映像を作成できる DRAGRI は、今
後、学校現場やミュージアムでの展開も大いにありえるので
はないかという示唆を得た。
以下を含む各地で、すでに実践されている
・岡山県情報教育センター
「保体コンテンツ普及揮発研究会」
・高梁市立高梁東中学校
体育
・御津町立御津中学校
体育
・岡山私立操明小学校
体育
・台東区立忍岡中学校
理科
・御津中学校
理科
・岡山大学教育学部付属中学校
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
④ネットワーク・カンブリアンゲーム=アイディアの爆発実験
ワークショップ
内容
パソコンを使って絵のリレーをするプログラム。気に入っ
た絵を元に、自分の創作を加えて絵を仕上げる。それをネッ
ト上にアップロードし、他の参加者が同じように創作を加え、
絵をつなげていく。これを参加者が繰り返すことで「絵のリ
レー」が展開され、全体として一つの作品が完成する。互い
に刺激し合いながら皆で創作活動を楽しむ新しいスタイルの
表現方法を実現したプログラムである。参加者それぞれのア
イディアの多様性が爆発する現場を体験することができる。
開発者
関連 URL
安斎利洋、中村理恵子
http://www.renga.com/index_j.htm
http://www.museum.or.jp/announce/CANVAS/wc2004/
workshop-01.html
開催効果
すでにパッケージ化もされており、企業、学校、ミュージ
アム、各種イベントからの要請が多々ある。
2004 年度は、和歌山県庁からの要請に応じて、全国マルチ
メディア祭 in わかやまでの開催、ワークショップコレクショ
ン 2004in 香川での開催を行った。ワークショップコレクショ
ン 2005 でもネットワーク・カンブリアンゲーム=アイディア
の爆発実験の進化バージョンを発表する。また、ワークショ
ップコレクション 2004in 香川を開催した香川県の情報センタ
ーからは常時コンテンツとしての展開の要請があったり、ま
た愛知万博からも万博開催期間を通じたネットワーク上での
展開の要請があったりと普及啓発が進んでいる。遠隔地での
ネット系ワークショップとしての発展性も大きい。
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
⑤糸電話で世界とつながる
ワークショップ
内容
糸電話を使ってプリミティブな通信の手段を組み立ててい
くというプログラム。子どもたちに、いたるところに自由に
糸電話をつないでもらい、糸電話を使って話をすることで、
いろんな人との繋がりを感じ、世界とつながる楽しさを体験
するワークショップ。
紙コップのつながりは、インターネットの縮図、あるいは
世の中の縮図を表している。普段は気づかないが、みな繋が
っているという、コミュニケーションの原点を教えてくれる。
開発者
関連 URL
紙コップアーティスト LOCO
http://www.daysleeper.jp/ loco
http://www.museum.or.jp/announce/CANVAS/wc2004/
workshop-02.html
開催効果
ワークショップコレクション 2004in 香川や愛知万博からの
参加依頼があるなど、その後反響が大きい。ワークショップ
関係者や高校の先生からの問い合わせもあり、今後の普及啓
発が期待できる。
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
⑥ドラムサークル
ワークショップ
内容
みんなで輪になって即興的につくりあげるパーカッション
のアンサンブル「ドラムサークル」ワークショップ。参加者
一人一人が、プロのミュージシャンとともに様々な音色、形
のパーカッションを演奏し、普段は触れることがないような
リズム、音を全身で受け止めた。
楽器のなかでも最も原始的な、誰でもすぐに演奏できる親
しみやすい楽器
パーカッション
を用いて、リズム表現を
行う。
開発者
関連 URL
開催効果
ペッカー
http://www.y-m-t.co.jp/dcfa/index.html
その後、ドラムサークルファシリテーター協会という協会
を立ち上げ、各地でワークショップ活動を展開している。
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
⑦DJ ワークショップ
ワークショップ
内容
子どもたちが、最新の機材と 2 枚の CD を用いて、自分の
気に入った音を編集し、音楽表現を行うプログラム。
ネットワーク時代には、さまざまな情報をいかに選択し、
組み合わせ、加工し、新たな表現としていくのかといった編
集する能力が、情報を制作する能力と並んで重要になると思
われる。編集作業を、ポップミュージックを用いて実践して
みよう、というのがこのカリキュラムであり、コンテンツの
制作力だけではなく、編集力の強化を重視したワークショッ
プとなっている。
開発者
企画:アットネットホーム株式会社
協力:パイオニア株式会社
関連 URL
開催効果
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws06/outline.html
劇団ひまわりの会場にて、合計 9 回のワークショップを開
催の後、Zepp Tokyo にてコンサートも行った。その後も、他
の企業から、DJ ワークショップの開催要請がくるなど、人気
のプログラムとなっている。
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
⑧ZOZO キッズ CG
ワークショップ
内容
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
つくろう!3D キャラクター
ゲームや TV 等でお馴染みの 3 次元 CG キャラクターを本
格的な CG ソフトを用いて創りだすワークショップ・プログラ
ムである。
パソコンの中で、3 面図を使い、建築やデザインなど、将来
に向けて立体の感覚を養うきっかけの提供にもつながるカリ
キュラムとなっている。
開発者
関連 URL
開催効果
ZOU STUDIO,Inc.
http://www.zoustudio.com/users/zou/ZOU/index1.htm
全 CG カリキュラムに対応する受講年齢明示の必要性、個別
学習形態と全体で進行する学習形態の効率的な混在、テキス
トの映像化、通信教育コンテンツの拡充と整備など普及啓発
にあたっての課題が明らかになり、現在その対応をしている。
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
⑨アニメーション制作
ワークショップ
内容
コンピューター、紙、粘土などを使い、デジタルとアナロ
グを組み合わせたアニメーションを制作するプログラム。ス
トーリー作りから、登場する人物・モノ・キャラクターの制
作、一コマずつの撮影、編集・音入れまでを、子どもたちが
協力しながら一つのアニメーション作品として表現すること
を体験する。本年度はより簡単にアニメーション制作ができ
るよう、デジタルパペットアニメーション制作を試みた。粘
土を用いたクレイアニメ制作の場合、3 日間かけて、一つの作
品を仕上げたが、デジタルパペットアニメーションでは、半
日で数作品を制作することが可能となった。
開発者
フューチャーキッズ
松浦季里
関連 URL
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws05/outline.html
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws15/outline.html
開催効果
大掛かりな装置を使ったワークショップであったアニメー
ション制作を、ソフトや機材を簡易化することでコンパクト
にし、今までに 3 回開催している。
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
⑩ウェブ作り WS プロジェクト
ワークショップ
内容
ウェブサイトのトップページを子どもたちに自由に表現
し、作成してもらうプログラム(CANVAS のトップページを題
材に開催した)。ウェブサイトの作成は、全世界へ誰でも発信
が可能な P2P の要であるといえる。子どもたちに CANVAS の活
動及びその目的を説明した上で自由にトップページをデザイ
ンしてもらう。
ウェブのコンテンツを自ら作ることによって、ICT スキルを
体得させると同時にその作品を実際に CANVAS のウェブサイ
トに採用し、公表し、反応を知ることを通じ、表現すること
と、それを発信することのリアリティーを体験してもらった。
開発者
関連 URL
フューチャーキッズ株式会社
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws01/outline.html
イメージ写真
⑪クリエイティブフォトワークショップ
ワークショップ
内容
デジタルカメラを用いて、子どもたちが自分を表現する道
具としての写真制作を学ぶプログラム。映像で考えて、映像
で表す。フィルターがわりとした落ち葉やダンボールなどの
簡単な小道具を使い、自分たちならではの表現を楽しむこと
ができるプログラムとなっている。また、それをその場でプ
リントアウトし、作品を見せ合い、互いを発見することも行
う。さらに、作品をブロードバンドで世界に発信した。
開発者
関連 URL
アットネットホーム株式会社
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws02/report.html
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
⑫インプロ
ワークショップ
内容
プロフェッショナルな表現者達が自分の能力を高め、創造
力を培う方法として行ってきたインプロ・ワークショップ
を、デジタル・ツール(デジタル・カメラ、PC)を活用して、
子ども向けワークショップとして構成した。インプロのメソ
ッドを利用して、子どもたちの創造能力を高め、最後に創作
パフォーマンス発表を行うプログラムである。豊かな自己表
現力を身につけ、コミュニケーション能力を向上させること
で、学校生活や、社会生活を営む上での「生きる力」を育む。
このワークショップでは、従来のインプロのメニューには
なかった新しい、ユニークな試みとして、デジタル・カメラ
を使用した。「デジタルを使って物を創る」という一過性の
作品づくりだけではなく、子どもたちに、コミュニケーショ
ンの道具として、また、作品を創り上げていく為の道具とし
てのデジタル・ツールの力を認識し、使ってもらう、という
ユビキタス時代のインプロ・メニューとなっている。
開発者
関連 URL
劇団ひまわり
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws10/outline.html
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws10/report.html
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
⑬殺陣ワークショップ
ワークショップ
内容
伝統芸能である殺陣の基本動作を学習し、自分達でアクシ
ョンシーンを創作する。国際発信できる日本独自文化に焦点
をあてたワークショップとして企画された。
殺陣は舞台、映画、TV 等で演じられる「闘いの場面」の
呼び名であり、大切に守り伝えられなければいけない日本文
化の一つである。武道の基本動作を身につける。そして他の
生徒たちと気持ちを一つにして「闘いの空間」を自分達で創
造する。日本の伝統文化に触れ、その中で、人と呼吸を合わ
せること、気持ちを一つにすることの大切さを学ぶととも
に、基本の動きを応用し、自分達でアクション・シーンをク
リエイトしていくのがこのワークショップの目的である。
子どもたちは、殺陣の動きという日本独自の伝統芸能を学
習するだけではなく、それを応用し自らの創造につなげてい
くという事を体験する。
開発者
関連 URL
劇団ひまわり
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws08/outline.html
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws08/report.html
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
⑭東京大学サマーキャンプ
ワークショップ
内容
アート&テックプログラム
上記で紹介したワークショップカリキュラム二つを組み合
わせ、東京大学先端技術研究センターのキャンパスにて、小
中学生を対象としたデジタルコンテンツ制作プログラムを開
講した。子どもたちの情報リテラシーと創造力・表現力が向
上し、21 世紀の国際社会で活躍できるスキルを養うことを目
的としたプログラムを目指した。
関連 URL
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws05/outline.html
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws15/outline.html
開催効果
2004 年も、東京大学先端技術研究所キャンパスにて開催し
た。昨年度開催時に苦労した大学との交渉、子ども集めをス
ムーズに行うことができ、活動の認知度のアップを肌で感じ
ることができた。子どもはリピーターが多く、場を求めてい
る子どもや保護者の数が多いこと、ニーズに比べて場が少な
いことが浮き彫りとなった。
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
⑮ワークショップコレクション
ワークショップ
内容
上記で紹介した各種ワークショップを一同に紹介するため
のイベントの開催を試みた。
さまざまな分野からの専門家の参加と交流の機会を創出す
ることにより、デジタル時代の子どもの情報リテラシーの向
上とデジタル表現を活用した創造力・表現力を養う活動を支
援することを目的に、最新の子ども向けデジタル・ワークシ
ョップを一同に集めた博覧会を行った。
関連 URL
http://www.canvas.ws/jp/workshop/ws11/outline.html
http://www.canvas.ws/wsc2005/index.html
開催効果
香川県の情報センターからの要請があり、ワークショップ
コレクション in かがわが開催された。ワークショップコレク
ション in かがわで開催したワークショップのいくつかは情報
センターの常設カリキュラムへの展開を図っている。
また、愛知万博からもワークショップコレクションのよう
なイベントの要請を受けている。
このように、個々のワークショップ及びワークショップコ
レクションを通じて外部とのより広い連携が生まれてきてい
る。ワークショップコレクションに対する企業の反応はとて
もよく、様々な要請がある。R&D 部からの新規事業開発のサポ
ート、イベント開催、社会貢献部からの新規事業立ち上げ支
援等、様々な分野の企業の多様な部署からの要請があり、こ
の分野へ注目が集まりつつあることが分かる。
イメージ写真
2)過去に実施したワークショップのまとめとその効果
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
3)考察
開催結果からも分かるように、全体を通じて他の「場」からの要請の増加が見られ、
需要があるにも関わらず、供給側の情報提供が不十分であったことが明らかになった。
また、経済協力開発機構の学習到達度調査によると、ICT の活用度では、日本の生徒
の使用度が主要国の中で最も低かったとしており、今後 ICT 技術を用いた子どもたち
の活動に注力していく必要がある。
参考)毎日新聞 2005 年 1 月 18 日記事の抜粋。
義務教育を修了した子どもたちが、将来生活していく上で必要な知識や技能をどの程
度身に付けているかを調べた経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)は、
日本の生徒の読解力の低下などが指摘されたが、ICT(Information Communication
Technology)の活用度では、米国、英国が高い使用度を示したのに対し、日本の生徒の
使用度は主要国の中で最も低かった。報告書は、日本の生徒は ICT の使用に関するすべ
ての質問項目で、OECD 平均より ICT の使用頻度が低かった、と指摘している。
「ICT の利用」の項目では、「インターネット/エンターテイメントの使用」と「プ
ログラム/ソフトウェアの使用」の 2 つの柱で調査が行われた。
◆「インターネット/エンターテイメントの使用」
「インターネットで情報を調べる」「コンピューターでゲーム」「音楽のダウンロ
ード」など 6 項目について、「ほとんど毎日」「週に 2∼3 回」「週 1 回∼月 1 回未
満」「使ったことがない」など 5 つの段階に分けて聞き、次のような結果だった。
◇「インターネットで情報を調べる」は▽「ほとんど毎日」=日本 7.4%、OECD 平均
18.9%▽「週に 2∼3 回」=日本 14.9%、OECD 平均 33.4%▽「使ったことがない」=
日本 16.7%%、OECD 平均 9.2%
◇「コンピューターでゲームをする」は▽「ほとんど毎日」=日本 5.7%、OECD 平均
23.5%▽「週に 2∼3 回」=日本 11.3%、OECD 平均 26.9%▽「使ったことがない」=
日本 16.9%、OECD 平均 13.0%
◇「コンピューターで電子通信をする」は▽「ほとんど毎日」=日本 10.9%、OECD
平均 29.1%▽「週に 2∼3 回」=日本 8.5%、OECD 平均 23.6%▽「使ったことがない」
=日本 42.7%、OECD 平均 18.5%
いずれの項目でも、日本の生徒の使用頻度が OECD 平均を大きく下回り、逆に使った
ことがない割合は日本が高かった。
◆「プログラム/ソフトウェアの使用」
「ワープロソフトを使う」「学習用ソフトを使う」「コンピューターでプログラミ
ングをする」など 6 項目を調査、次のような結果になった。
◇「ワープロソフトを使う」は▽「ほとんど毎日」=日本 2.4%、OECD 平均 11.9%▽
「週に 2∼3 回」=日本 12.2%、OECD 平均 33.6%▽「使ったことがない」=日本 24.0%、
OECD 平均 10.6%
◇「学習の参考にコンピューターを使う」は▽「ほとんど毎日」=日本 0.6%、OECD
平均 7.4%▽「週に 2∼3 回」=日本 3.3%、OECD 平均 20.6%▽「使ったことがない」
=日本 62.2%、OECD 平均 26.4%
◇「コンピューターでプログラミングをする」は▽「ほとんど毎日」=日本 0.8%、
OECD 平均 8.4%▽「週に 2∼3 回」=日本 2.0%、OECD 平均 12.7%▽「したことがな
い」=日本 71.3%、OECD 平均 41.7%
日本はワープロソフト以外のソフトは日常的に使われていない様子がうかがえる。一
方、OECD 平均ではワープロ、表計算、グラフィックソフトが使われる頻度が高い。ま
た「学習の参考にコンピューターを使う」は日本では、「使ったことがない」が 6 割で、
ICT を活用した教育が進んでいない様子が見える。
3)考察
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
2.昨年度に開発したワークショップのその後の展開に関する調査
◆指標値
ICT の使用の程度を示す指標値(OECD 平均値は 0.00)の平均値を見ると、「イン
ターネット/エンターテイメントの使用」では、日本が「-0.91」と最低だったのに
対し、米国「0.46」、英国「0.30」、「プログラム/ソフトウェアの使用」でも、日
本が「-1.03」と最低で、米国「0.33」、英国「0.32」と IT 教育先進国といわれる米、
英の ICT 使用頻度が高かった。報告書は「米国、英国ではプログラミングやソフトウ
ェアに関して、生徒が ICT を幅広く使用している様子がうかがえる」と指摘している。
一方、「インターネット/エンターテイメントの使用」で指標値が高く出た韓国
「0.34」やカナダ「0.63」が、「プログラム/ソフトウェアの使用」では韓国「-0.33」
やカナダ「0.15」と低かった。
◆危機感を感じる
清水康敬・メディア教育開発センター理事長
各国の ICT を活用した教育の状況に詳しい清水康敬・メディア教育開発センター理
事長は「ICT を活用した教育の実態に関する国際比較でも日本の遅れが目立っていた
が、PISA の報告を見て、改めて危機感を感じた。情報化の進展が世界中で急速に進
んでいる。この調査結果では、このまま何も行動を起こさないでいると、大変なこと
になる。日本の将来が心配だ。ただし、これは教育だけの問題では解決できない問題
であり、社会全体でいろいろな視点で考えていくことが必要だと思う」と話している。
3)考察
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題
整理及び行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
1)本研究の概要
①目的
近年、デジタルメディアとネットワークのめざましい普及は、子どもの日常生活
に深くかかわり、その影響は計り知れない状況となっている。さまざまな社会現象
や、問題行動などを伴う事例もあるなかで、デジタル技術やネットワークコミュニ
ケーションを活用する可能性よりも、ともすれば、人間社会側の不適応問題がクロ
ーズアップされやすく、あたかもデジタル技術そのものの問題点と指摘されること
も多い。だからといって、学習や教育の現場におけるデジタルメディア、ネットワ
ークコミュニケーションの活用を遮断することが適切とはいえまい。むしろ、子ど
もの創造力・表現を高めるという学習環境のデザインと、それに関わる教育現場、
地域社会、産業、技術開発等の多様な立場からの協働を基礎として、デジタル技術、
ネットワークコミュニケーションの新たな潮流を学びのコミュニティーの中に適切
に位置づけ、活用することを考えるべきである。なぜなら、社会におけるデジタル
技術の活用は、まだ入り口に立っているにすぎず、これからその未知の可能性を開
拓すべき段階にあるからである。かかる認識と努力をなくしては、否応なく進む日
常生活におけるデジタル技術、ネットワークコミュニケーションの浸透と学習環境
の乖離のみがおこり、結果的にバランスがとれなくなると考えられる。
本研究は、子どもたちの創造を誘発し、創発的な学びのコミュニティーをいっし
ょになって形成するという目的意識に基づいて、デジタルやネットワーク技術の方
向性及びこれら技術をとりまく人間的側面を重視し、学ぶ環境の全体像を把握しつ
つ、議論を進めるための端緒となるべく、課題の抽出とそれらの関係性を発見する
ための検討を試みたものである。
具体的には、2)の子どもの創造力、表現力を誘発する学習環境へのアプローチ、
3)の新しい学習環境デザインを支えるデジタル技術とその課題、の二つの視点から
検討を行った。
②研究の方法
本報告は、子どもの創造力・表現力を高め、子どもと教師・親・地域社会・経済
社会(システム開発や教育産業、文化産業、etc.)が、協働(コラボレーション)
して学ぶ環境を支えるデジタル技術について、多様な分野から構成された委員や有
識者、専門家の現状報告と課題提起をもとにしてとりまとめたものである。
1)本研究の概要
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
研究の遂行にあたっては、主に次の三つの手段を有機的に関連させて、委員及び
外部有識者との有機的な連携を図った。
ア)メーリングリストにおける議論、アンケートの実施
メーリングリスト上でアンケートを行った。その回答状況を整理し、研究会議
の議論の参考にした。また、随時メーリングリスト上で情報交換、意見交換を行
った。
イ)研究会議の開催
上記ア)のメーリングリストを活用し、情報の提供、意見交換及び問題認識の共
有を図りつつ、下記の通り 3 回の会合を実施し、討議を行った。
a)第 1 回会合
9 月 10 日(金)
(議題)研究の内容方法、アンケート結果の分析。子どもを取り巻くデジタル
デバイスの今後の動向及び、学校教育現場における子どもの学習をと
りまく環境の分析について
発表 1「子どもたちを取り巻くデジタルデバイス、デジタル・コンテンツの
一考察」(渡辺康生委員)
発表 2「総合的な学習の時間が行われるまでの背景とふれあい学習から」
(三橋秋彦委員)
b)第 2 回会合
10 月 28 日(木)
(議題)情報技術、コミュニケーションと情報の可視化を図るソフトウェア、
インターネット等を活用し、参加型知的空間の形成及び、学習環境の
デザインについて
発表 1「ワンマン DJ システム及び著作権」(田邉治・久保田裕委員)
発表 2「関心空間コミュニティーサービス」(前田邦宏委員)
発表 3「グリーンマップ横浜の活動」
(ゲスト:GMY 共同代表中村利恵氏)
c)第 3 回会合
12 月 10 日(金)
(議題)アトムとビットの融合、オブジェクトオリエンテッド型のソフトウェ
ア環境による子どもの認知と連動した環境を実現する技術や、ネット
ワーク端末として多様な活用が期待できる携帯電話の現状と将来につ
いて
発表 1「オブジェクトオリエンテッド環境 Squeak の未来」
(ゲスト:多摩美術大学研究員石塚徹氏、阿部和氏)
発表 2「DRAGRI の教育応用&提言にむけて」(佐藤隆委員)
1)本研究の概要
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
発表 3「共感を導く知育メディアを目指して」(鈴木雅実委員)
発表 4「携帯電話の現状と動向」(平賀一樹委員)
発表 5「ブロックを用いたストーリー制作について」(石戸奈々子委員)
発表 6「からくりブロック」(川北奈津委員)
ウ)ホームページによる情報の整理と共有
ホームページ(http://www.canvas.ws/digital_rd/index.html)を設置し、本
研究会議の活動に資する情報の共有を図るとともに、必要に応じて活動状況を
公開した。
③研究会議構成員
教育、ソフトウェア研究開発、電気通信サービス研究開発、文化事業企画実施等
の分野において研究開発、システム開発、教育・文化事業にたずさわる専門家、学
識経験者等によって構成される「子どもとデジタル技術研究会議」を設置した。子
どもの創造力に資する技術、環境に関する研究及び、実践事例を多様な分野からも
ちより、それらを俯瞰しつつ、技術や技術を活用した具体的な学習環境の取り組み
に共通する課題の抽出・方策の検討に向けた協働作業を進めた。会合では、多数の
委員が発表を行うとともに、委員の発議にもとづき、必要と考えられる関連分野の
ゲスト発表者、オブザーバーを招いた。本研究会議の構成員は、以下のとおりであ
る(敬称略、所属・肩書きは平成 16 年 9 月現在のもの)。
1)本研究の概要
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
ア) 委員(50 音順)
石戸
奈々子
CANVAS 理事、事務局長
小栗
宏次
愛知県立大学教授
金村
公一
県立長崎シーボルト大学助教授(研究会議 幹事)
川北
奈津
久保田
佐藤
裕
鈴木
隆
田邉
雅実
治
社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事・事務局長
NTT サイバーソリューション研究所ヒューマンインタラクションプロジェクト
ATR メディア情報科学研究所感性・知育メディア研究室長
株式会社プロムナード代表取締役社長
鶴谷
武親
フューチャーインスティテュート株式会社代表取締役社長
豊福
晋平
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主任研究員
伊知哉
スタンフォード日本センター研究部門所長(研究会議 世話人)
中村
花田
卓也
D4DR inc
平賀
一樹
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ
前田
邦宏
株式会社ユニークアイディ代表取締役
松崎
充克
マッキャンエリクソンアカウントエグゼクティブ
水口
哲也
キューエンターテイメント代表取締役
三橋
秋彦
墨田区立竪川中学校教務主幹
吉岡
渡辺
伸
康生
文化環境研究所
ベネッセコーポレーション教育研究開発本部主任研究員
イ)ゲスト(順不同)
中村
石塚
利恵
グリーンマップ横浜共同代表
徹
多摩美術大学情報田座員学科研究室研究員
阿部
和広
多摩美術大学情報田座員学科研究室研究員
鈴木
宣也
情報科学芸術大学院大学講師
小林
桂子
情報科学芸術大学院大学メディア文化センター研究員
1)本研究の概要
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
2)子どもの創造力、表現力を誘発する学習環境へのアプローチ
①学習環境をとりまく状況と新しい試みの必要性
ア)教育の役割の変化
近年、情報のデジタル化・ネットワークの普及が急速に進み、情報社会の特徴
が明確化してきた。それにつれて、表 1 に示されるとおり、教育に求められるも
のも、産業社会時代とは大きく異なってきている。教育現場のみならず、職場に
おいても知識の生産や多様な人が相互に作用しあい、協同して発達していく必要
が出てきているからである。片方向の情報伝達ではなく、実社会との触れ合いや
相互作用を重視した双方向型の学習共同体が必要とされる状況を、D.P.キーティ
ングは、産業社会における教育と情報社会における教育を次のように比較してい
る。時代の要請に的確に対応した学習環境のデザインにあたっては、地域社会、
経済社会、家庭など多様な主体の参加を前提とした学習共同体において、子ども
と社会が共に協調的な学びのコミュニティーを形成し、創造を誘発する環境、創
意溢れるコミュニケーションを実現する仕組みの必要性を意識すべきである。
表 1 産業社会と情報化社会の教育の比較
産
教育
業
社
会
情
報
化
社
知識の伝達
知識の生産・構築
学習の形態
個人的
協同的
教育の目標
少数者には概念的理解
すべての者に概念的理解と
多数者には基礎的技能と
意図的な知識の生産
会
アルゴリズムの習得
人の多様性
生得的なものであり、絶対的
相互作用的(transactional)
歴史的
人の多様性に
対する扱い
予想される職場
エリートを選択、残りの大多
多数の人々に対し発達的な考
数には基礎的学力
え方による生涯学習
工場をモデルとした職場、縦
協同学習をする組織体
型の官僚制
(出典:D.P.キーティング,1996)
イ)主体的な学習の支援
学びの共同体を形成し、他者との関係のもとに、内省的思考に基づく、深い理解
と問題解決行動の醸成を図る主体的な学習を支援するためには、実社会との触れ
合いを実現する学びの場を積極的に設定する必要がある。地域との関係が重要に
なるが、交流の方法や種類を分けて、子どもが発見的、経験的に知識を獲得し、
2)子どもの創造力、表現力を誘発する学習環境へのアプローチ
①学習環境をとりまく状況と新しい試みの必要性
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
これを内省的思考に結びつけるためには、多様な場面設定が必要となる。
触れ合い学習を実践している事例から、基本構造として次の三つのステップが挙
げられている。
a)第 1 ステップ:地域の人を学校に招く
参考事例としては、財界、クリエイター、宗教、伝統工芸、ボランティア等
の社会における多様な分野の専門家の話しを聞くことができるようにする。
b)第 2 ステップ:地域を出て体験する
参考事例としては、ボランティア活動、職場訪問等。実際の社会体験。
c)第 3 ステップ:地域とともに学習をする
参考事例としては、触れ合い学習の成果発表会(とりわけ重要)、コミュニテ
ィーの防災活動への参加など、子どもたちの主体的な活動を地域とともに展開
する。
三つのステップを通して子ども達は主体的な学びを体得する。地域の人材、学校
の交流、生徒の個性、学習といった要素それぞれの多様性の相乗が多様性のある
主体的な学習を可能とする。学習共同体としての地域は、地縁と知縁の両方で結
ばれた学びと場と言える。
学習共同体を形成する地域において触れ合い学習による体験を軸とした認知枠
の獲得過程は、情報化社会において、要求されている新しい学びの姿であるとい
える。
ウ)情報技術活用の重要性
異なる特性をもつ他者との協調的、補完的関係の認識とその実践、そして知識の
生産や構築、蓄積・交換が重視されることである。こうした相互補完的で、生産
的な活動を通じた体験的な学習を行うために、社会との関係を重視することと同
様に、これらの活動に情報技術を活用する必要性が高い。
他者との違いを認識し、相互補完による生産的な結果を体験するためには、学習
において、次の 2 点が必要となる。
a)多様な知識や経験の表象
産業社会の時代のように、限られた共通知で描ききり、それを片方向に伝達す
る時代ではなくなった。むしろ、限りない知の世界の中で、自分なりに探求する
方法を獲得すること、そのために主体的に行動することの意味と意義を体得する
ことが、固有の知の体系を形成することであり、問題解決につながる学びである。
その意味で、個人の内部にある知識や経験を可視化して、他者と共有することが
2)子どもの創造力、表現力を誘発する学習環境へのアプローチ
①学習環境をとりまく状況と新しい試みの必要性
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
重要となる。
b)知の再生産、発信
他者と共有した知識や経験をもとにして、自分なりの新しい知識や表現の再生
産・構築が可能となる。また、主体的に現実社会と関わり、地縁と知縁を獲得す
ることは、学習者に情報ネットワークを形成することにつながる。したがって、
これを有効に、継続的に機能させるために、再生産された情報の発信やそれを地
域に活かす試みが重要となる。
かかる 2 点から考えると、情報やネットワークの要素を十分に持っている学習共
同体における触れ合い学習の意義を支える技術的な要素として、デジタル技術や
ネットワーク技術が浮上する。これらの技術は、情報の可視化、共有、交換及び、
表象・表現に資する特性を持っており、これを生産的、協同的、相互作用的(共
感、体験的側面を含む)な学習を支援する道具として活かす可能性はきわめて必
要性は高いからである。
したがって、デジタル化の進展やネットワークの普及を技術決定論的にとらえて、
学習環境が変わるという従属的な立場ではなく、今日の情報化社会の進展におけ
る社会の変革に基づいて、学習環境に求められている特性を満たすために有力な
道具として、デジタル技術やネットワーク技術を効果的に活用する必要があると
言える。
2)子どもの創造力、表現力を誘発する学習環境へのアプローチ
①学習環境をとりまく状況と新しい試みの必要性
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
②デジタル・ネットワークメディアの動向とその活用
新しい学習環境のデザインとこれを支援するデジタル技術、ネットワークコミュニ
ケーション技術の間には、創造性や表現及びこれらを通した情報の外的表象、共有
と学習プロセスへの多様な参画、具現化、その記録の伝達などに、多様な可能性の
端緒が散見され、これを拓くべきであることが分かった。さらに、こうした状況に
おいて、日常メディアとして社会に普及するブロードバンドネットワーク、携帯電
話に代表されるモバイル端末の動向に関する評価やその活用可能性を考える必要も
ある。
ア)デジタル、ネットワーク関連技術のハード面の動向
パーソナルコンピュータの普及はさらに進むが、その伸び率はたいして高くない。
むしろ周辺機器の伸びが著しい。次世代ディスプレイの座を巡り、液晶やプラズ
マ式大型ディスプレイやテレビ受像機とコンピューターの融合化も進むと思われ
る。とりわけ、映像や音楽等を収録、携帯するポータブルメディアの伸びが著し
い。これは、見方を変えるとコンピューターの進化の形ともいえる。小型化し、
機能を限定し、携帯性やネットワーク接続、あらゆる機器とのデータ送受が可能
なインタフェースをもったメディアとしてのコンピューター。つまり、旧来のコ
ンピューターの周辺機器自体が、新しい次世代のコンピューターの姿であるとも
言える。情報を蓄積、加工でき、発信可能なネットワークのノードとして通用す
るあらゆる情報機器が、コンピューターの新しい姿であるとも言える。ケビン・
ケリーは、New Rules for the New Economy において、接続され、コミュニケーシ
ョン可能な末端がパワーを獲得する可能性に強く着目している。ハワード・ライ
ンゴールドも Smart Mobs において、日本型のインターネット接続可能な携帯電話
が普及している状況を目のあたりにし、ネットワークで接続された群衆のもつパ
ワー、これを、協力の増幅機械とするか、常時作動のパノプティコン(一望監視
装置)とするかという両極を提示しつつも、「私は、共進化という言葉がカギにな
るように思える。」と述べ、期待を寄せている。デジタルメディア技術の動向は、
学習環境における情報の創造、共有、発信を通した、自律的でありかつ、協調的
で生産的な側面を支援する道具として活用できる可能性を示していると言える。
一方、ブロードバンドネットワークは、2007 年には、現在の 2.5 倍の 3350 万人
が利用し、さらに帯域幅の拡大が予想されている。ブロードバンドネットワーク
に家電、携帯、家庭用 AV 機器、パソコンなどがシームレスに接続されるネットワ
ークのレゾナンス(共振的面展開)が起こるとすると、これをどのように学習環
境のデザインの中で取り込むかという発想が必要となる。コンテンツや表現形態
に密接なメディアを通して、子どもたちが主体的に、生産的、発信型の知識の再
生産を行うことを支援する可能性が高まると言える。また、インターネット接続
2)子どもの創造力、表現力を誘発する学習環境へのアプローチ
②デジタル・ネットワークメディアの動向とその活用
- 156 -
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
可能な携帯電話のブロードバンド化が進む中で、利用の動向を見ると、非音声通
信の増加、アイコンによるコミュニケーションの増加という非テクスト型のコミ
ュニケーションが増加傾向にあり、そこには情報デザインの要素やオブジェクト
オリエンテッドな環境が今以上に必要とされ、また、その効果を発揮する可能性
をうかがわせている。
かかる動向、状況の中で、今後デジタル技術をどのように活用するかを検討する
と、様々な課題が提起される。
2)子どもの創造力、表現力を誘発する学習環境へのアプローチ
②デジタル・ネットワークメディアの動向とその活用
- 157 -
- 158 ICTとアートの教育
地域
メーカー
Software
産学官の連携体制に商業ベースの資金ルート
チーム形成(技術者、デザイナー、教育者、子ども、ボランティア、親)
家庭
教師、コミュニティーづくり
教育内容、方法、体制
ツール操作法伝授(ケータイ?)
サービス事業者
学校
学びの変化
図5:研究開発課題の分布と相互関連性の俯瞰
ミドルウェアの標準化
構造改革
インセンティブ
維持運用体制
教室への電源、ネットワーク配備
最新の施設、設備、機器の確保
日本版チャータースクール
政府補助金
大学から小学校
まで連携、連動
こども用 OS ←楽しみ、共感度観察、分析研究
明快で簡便な アプリケーション
良質の教育 コンテンツ
創造性を刺激する 脳科学と教育の研究推進
ゲーム、コンテンツ
こどもの日常にあわせた インタフェース
技
術
開
発
課
題
デ
ジ
タ
ル
デ
デジタルハンディーカム(高品質、廉価、頑丈) バ
イ
ス
の
デジタル技術を従来のメディアのインタフェースで 進
化
利用(デジタルラジオ・・・)
子ども向けPC開発(家電、がん具メーカー共同)
Hardware
環
境
整
備
課
題
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
2)子どもの創造力、表現力を誘発する学習環境へのアプローチ
②デジタル・ネットワークメディアの動向とその活用
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
3)新しい学習環境デザインを支えるデジタル技術とその課題
Computer Support for Collaborative Learning(CSCL[12])の考え方は、コンピュータ
ーを協働型の学習環境に活用する協調的学習や学びの共同体を形成し、他者との関係
のもとに、個別に内省的思考に基づく、深い理解と問題解決行動へのつながりが期待
できる。本研究ではこれをさらに進め、いわゆるコンピューターにとどまらず、携帯
電話のようなコミュニケーション機器から、通信やデジタル処理信号処理を伴う楽器
や積み木(ブロック)のようなものまで拡張し、デジタル技術とネットワーク技術の
相 乗 に よ る 創 造 的 で 協 調 的 な 学 習 の 支 援 を 視 野 に い れ た Digital and Network
Technology Support for Creative & Collaborative Work(DNSCW)とでも称することが
できるものである。その特徴や事例について述べる。
①ソフトウェア環境進化の特徴
ア)デジタル技術の社会化
ソフトウェア環境としてのデジタル技術は、アナログとデジタルの融合、アトム
とビットの協調へと向かっている。かつて、デジタル技術は、アナログとの決別、
アトムからビットへの転換とも言われた。しかし、デジタル技術を活用するにつ
れて、むしろアナログとデジタル、アトムとビットの相互協調関係を求める必要
性が高まっている。それは、デジタル技術が社会の具体的な側面との関連性を強
める技術の社会化の段階に入っていることを示す。
イ)タンジブルビット
MIT メディアラボの石井裕は、主宰するタンジブルビット(tangible bit)プロ
ジェクトにおいて、アナログとデジタルの融合、アトムとビットの結合(アトム(原
子)に代表される現実の物質空間における活動で、デジタルのビット空間に置き換
えられるものはみな映像空間に置き換えられるという、MIT メディアラボネグロポ
ンテ会長の提唱するビジョン)を積極的に求める姿勢を具現化する多様な試みを
継続している。タンジブルは、「触れて感じることができる、実体的な、有形の」
という意味であり、数値データであるビットを有形のものと結びつける試みであ
る。それは、デジタル技術の社会化を物語る有力なメタファーの一つである。触
れて感じることができる物体や対象(Object)を意識することは、80 年代から希
求されてきたオブジェクトオリエンテッドなソフトウェア環境とも関連する。
ウ)オブジェクトオリエンテッドプログラミング
オブジェクトオリエンテッドな環境は、コーディングを表面化させることなく、
画面上の対象物を操作する結果を対象物の具体的な動きなどの感じることができ
[12]CSCL:コンピュータを利用した共同学習のこと
3)新しい学習環境デザインを支えるデジタル技術とその課題
①ソフトウェア環境進化の特徴
- 159 -
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
る結果としてフィードバックするものである。Smalltalk80 で有名なオブジェクト
オリエンテッドプログラミングの思想は、Squeak、Croquet という次世代の環境と
して進化を見せている。見る、考える、動かす、表すといった具体的な動作に対
する反応が、子どもにとって十分に速く、豊かな表現力で反応が戻るように進化
しつつあるが、さらに高度化が必要である。ともあれ、ユーザーが手を動かす、
体を動かす、実体的な動作として物体を移動させるという物理的な動作が生み出
す結果を可視化もしくは、体感化することにより、感性を通じた共感を実現する
ことが可能となる。それは、インタラクティブ性の向上に結びつく。
エ)インタラクティブ
創造を誘発し、創造がコミュニケーションにつながり、新たな創造や問題発見
に発展することを前提とすると、より感覚知覚や思考に結びつくインタラクティ
ブな環境な環境が不可欠である。体験を身体化することにより共感を得ることを
通じて、創造・表現や知的なコミュニケーションが可能となり、その結果、実際
の知識や経験、社会との関係づけることができる。それは、マシンとユーザーの
間に閉じたインタラクティブから、開かれたインタラクティブな環境への進化で
もある。その結果は、インタフェースの多様化及び、実体世界と多様な連動とい
う情報デザイン、空間デザインにつながる。これにより、様々な体験的空間を創
造出来るため、デジタル技術を利用した体験の空間を構築することができ、その
空間に実社会の専門家の技術を再現してワークショップを開くことができる。
オ)インタフェースの多様化
からくりブロックのように、ブロック遊びで組み合わせる動作と、ブロックに仕
組まれた液晶画面の映像が連動し、画面上をつながっているように映像が動く。
こうしたインタフェースは、子どもたちに身体動作を介してインタラクティブな
環境を提示する、タンジブルな環境を具現するインタフェースである。こうした
インタフェースを活用することにより、感性・技能体験として絵画デザイン、ダ
ンス、音楽、図画工作、設計など様々な情報創造、表現の機会を与えることがで
きる。また、デジタルハンディーカム等のデジタルデバイスを活用して取り込ん
だ映像データを基に、フレーム単位の画像情報とその画像をオブジェクトとして
操作するスライダーを連動させる環境を実現した DRAGRI というインタラクティブ
メディアツールがある。こうしたツールは、体育実技や身体パフォーマンスなど
自らの姿を客観的に分析、検証できるもので、体育や理科の実験など検証と改善
につながる発見的かつ向上的な教育の側面に合致した環境を提供できる。このよ
うに、インタフェースの高度化、多様化を子どもの学習に活用できる可能性はた
かく、感性、共感を得るインタラクティブな環境の基礎を担う技術である。これ
3)新しい学習環境デザインを支えるデジタル技術とその課題
①ソフトウェア環境進化の特徴
- 160 -
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
らの技術は、実際に子どもが使う、専門家と一緒に子どもが体験するといった機
会を通して、フィードバックされ、システムのパフォーマンスが向上されるよう
な仕組みをエンジニアと教育現場で協力してつくり、恒常的にシステムの改良が
成される必要がある。
これに付随して、デジタルデバイスとして入力や操作の為に子どもが直に触れる
機材、例えばカメラ、パソコン本体、スケッチボード等は、乱暴な動作、落下、
擦過、水滴、ちり、衝撃など考えうる悪条件に耐える、耐久性に富んだものが望
まれる。
3)新しい学習環境デザインを支えるデジタル技術とその課題
①ソフトウェア環境進化の特徴
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
②デジタル技術を地域表象に取り込む試み
ア)情報デザイン
感性や共感を実現し、子どもが発見的、分析的に自己の能力を開拓していける
環境としてのインタラクティブ性やインタフェースの高度化が実現することに合
わせて必要となるのが、情報を共有し、生産していくために、知識を可視化する
こと、関係を可視化することである。これは、子どもたちが、目的が共有したり、
一人一人自分の考えを持ったり、自分で実際に試してみたりするという試しの手
段・方法の公開、共有や結果や過程の公開することを支える。それにより、協働、
協調して学ぶ、学びの共同体を実現することが可能となる。
知識や関係の可視化をコミュニケーション空間として支援する試みとしては、関
心空間コミュニティーサービスがある。これは、自律発展型の知識コミュニティ
ーエンジンとして、知識を持ち寄ること、提供された知識や情報の関係を分野横
断的にリンクし、これを可視化することで、一つの関心から始まる知的好奇心が
空間において、広く他の人や世界との関係を具現化、可視化してフィードバック
されるという仕組みである。こうした情報デザインとコミュニケーションや関係
性の可視化による空間デザインは、学びにおけるコミュニケーションの有機的な
連携を活性化し、開かれた学びへと発展する可能性を伸ばす。その意味で、知識
や関係を可視化することを支援する環境は、情報空間のデザインにほかならない。
こうした空間の広がりの先には、具体的な実社会の活動との連携が発生する。
イ)再地図化(地域表象過程への参加)
情報空間デザインの技術を通して、社会の具体的な活動に参加することで、学
習共同体における学びのコミュニティーに子ども達が参加することが可能となる。
そこで、社会の専門家と子ども達との生身の関係、社会の事物や観念との関係が
発生し、リアルな体験をとおした学習が可能となる。様々な例が散見されるが、
横浜グリーンマップという発見と表象を組み合わせたプロセスの共有を目指す試
みは、街を歩き、記録をとり、これを地図上に表象していくというプロセスに参
加し、得た情報を加工、可視化し、共有するものである。デジタル技術を用いて、
GIS(Geographic Information System)を構築する作業を地域単位で行い、これを
地域間で共有することにより、世界的な規模で再地図化の連合が可能となる。こ
れにより、相互に交流、知識の交換、比較が可能となり、地域から世界に学ぶと
いう学びの共同体のグローバルな展開が可能となる。こうした点もデジタル・ネ
ットワーク技術を駆使することによって実現するものである。
地域に根ざした上で、グローバルに距離を超えて学習、コミュニケーションが可
能となる点がとりわけ注目すべき利点である。グリーンマップシステム(GMS)は
世界的な連合体として世界各地のグリーンマップ再地図化活動を統括している。
3)新しい学習環境デザインを支えるデジタル技術とその課題
②デジタル技術を地域表象に取り込む試み
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
我が国でも横浜のみならず、函館、広島、世田谷、京都等々多数の都市、地域に
おいて展開されており、これに子どもが参加し、学習の場とすることの意義は高
い。長崎では、動画アーカイブを活用した地域文化の構築の事例もあり、また街
をぶらりと歩くという意味の「さるく」を通して街の博覧をおこなう「さるく博」
を予定しており、これに再地図化の活動を重ね合わせると、地域一帯となった学
習共同体の形成とその実践が期待でき、その際に映像などを取り入れたブロード
バンド型再地図化の実験も構想されている。このように、地域を表象空間として
とらえ、これに学習共同体とデジタル技術を組み合わせることで、新たな学習環
境デザインの一助となる例もある。
3)新しい学習環境デザインを支えるデジタル技術とその課題
②デジタル技術を地域表象に取り込む試み
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
4)まとめと課題
前述のとおり、子どもの創造力・表現力を向上させるという視点で学習環境のデザ
インを軸として、デジタル技術やネットワーク技術の支援の可能性について、多面的
に可能性や課題を述べた。本研究会議で取り上げた項目を俯瞰できるように整理する
と次ページの図 6 のようにまとめられる。
デジタル技術による創造的で協調的な学習環境をサポートするという目標を支える
視点として、大きく三つの課題が挙げられる。
その第一は、デジタルテクノロジーの進化を技術の社会化の視点をもって活用する
ことであり、そのために具体的な社会との関わりをもって、技術と子どもと社会の三
つが常に関係するような学習環境のデザインが必要である。従って、この三つの要素
をコーディネートすることが可能な俯瞰性と総合力をもち、かつ社会、学校、子ども
のどの参加者にもその意義と実際の意味を理解してもらえるような説得力をもったプ
ロデュース機能が求められる。
第二に、様々な技術を駆使し、アイディアを想起して試みる結果をフィードバック
し、科学的に検証する必要がある。検証の方法は、まだ確立されておらず、しかも容
易ではない。行動観察や生産物の評価などの従来の手法をもってしても、間接的な評
価でしか無い可能性もある。できるかぎり、科学的な検証を行うためには、脳科学的
な測定の手法を活用し、人間の創造的な活動にあたる脳の部位が活性しているかどう
かというアプローチも考えられる。また、学習の認知神経科学の視点からのアプロー
チも考えられる。しかしながら、これらも未知の部分が多く、大々的な研究を試みる、
他の従来のフィードバック手法と組み合わせるなどして、検証の正確さを求める必要
性がある。
第三に、創造、表現力の向上にかかわる学習環境を充実させ、様々なコンテンツや
コミュニケーションを実社会との接点を求めながら展開する際に、著作者の権利に関
わる事柄についても、実際的な理解と運用を図るように教育することも必要である。
また、場合によっては学校内に電波を発してミニ放送局や携帯電話等のコミュニケー
ションネットワークと活用した試みも考えられるため、放送や通信の分野に関わる技
術や手法を、この学習環境デザインの中で取り込む方法についても議論し、具体的な
ガイドラインなどを提起する必要がある。
最後に、本研究会議で提起された様々な試みや技術の活用を、継続的に実施し、そ
の効果を長期にわたって検証していくためには、CANVAS のような非営利の団体の活動
が重要であることを指摘する。それは、総合的学習の環境が地域、社会、企業、特殊
な専門性のある人々と学校や子どもの学習共同体の中ではじめて機能するからである。
これらを中立な立場で総合的に関係づける役割が期待できるからである。CANVAS のよ
うな特徴をもった NPO が常にデジタルテクノロジーがサポートするクリエイティブで、
協働的な学習環境を研究し、実践する為の学校外の存在として学校と補完しあう、地
域と補完しあう、地域や学校と企業、他組織との媒介になる必要がある。
4)まとめと課題
- 164 -
携帯
BB
Network
ハード環境
- 165 面展開
Tangible Bit
からくりブロック
ファミリーアンサンブル
ワンマン DJ
DRAGRI
情報デザイン
デジタルフォト俳句
Slow Life Nagasaki
空間デザイン
北九州
Re/Map
関心空 間
インフォメーションボード
Sense Web
The Music Table
グリーンマップ横浜
スローマップ函館
図6:デジタル技術による創造的、協同的学習環境の開発項目の整理とその相互関連性
Resonance
ワークショップ(デジタル技術の体験、身体化の為の実空間の仕掛け)
手を動かす
再地図化
地域表象
観念表象+物体表象
学びのコミュニティー
協調学習
学習共同体
学習環境のデザイン
知識の可視化
関係の可視化
創発的
コミュニケーション
デジタルメディアと
体験共有、身体化、共感
知育メディア
創造性を誘発するインタラクティブ環境
学習の認知神経科学
脳科学からのアプローチ
前頭前野(創造的活動を
司る部分)の活性化
ブロックストーリー
インタフェース
→Croquet
→Squeak
Small talk80
Object Oriented
Programming
ソフト環境
「アナログ vs デジタル」
から
「デジタルとアナログの融合」
技術の社会化
デジタルテクノロジーの進化
Digital and Network Technology Support for Creative & Collaborative Work
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
3.子どもの創造力・表現力をデジタル技術で向上させるための課題整理及び
行政・大学・企業への対応方策の提言の調査研究
非音声通信増加
アイコンコミュニケーション
4)まとめと課題
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
4.新規ワークショップの開発
平成 16 年度は、新規に 5 種類のワークショップ(「Go!Go!学校へ行こう@東京大学」、
「ス
ズシゲラボラトリー」、
「デジタルフォト俳句ワークショップ」、「Music Table で音楽を感じ
てみよう!」
、「おみやげコンテスト in 京都」)を開発した。
1)GO!GO!学校へ行こう@東京大学
①概要
「GO!GO!大学行こう@東京大学」を開催した。このワークショップでは、「子ど
も向け著作権セミナー」及び「デジタルパペットアニメーションワークショップ」
の2コースをセットで開催した。
ア)開催日時
2004 年 10 月 2 日(土)
・3 日(日)
イ)開催場所 東京大学先端技術研究所キャンパス
ウ)参加人数
著作権セミナー:2 日 17 名
3 日 22 名
デジタルパペットアニメーションワークショップ:
2 日 17 名
3 日 22 名
エ)対象学年 小学校 4 年生∼中学校 2 年生
オ)体制
主催:特定非営利活動法人CANVAS
後援:スタンフォード日本センター、日本知財学会、
財団法人マルチメディア振興センター
協力:社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会、
特定非営利活動法人シロガネサイバーポール、
東京大学先端科学技術研究センター、トリガーデバイス、
社団法人インターネットプロバイダ協会、財団法人インターネット協会
協賛:社団法人音楽制作者連盟
1)GO!GO!学校へ行こう@東京大学
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
②ワークショップ内容概要
プログラム
A
タイトル
内容
著作権セミナー
「どっちがほんもの?」DVD、ゲームソフ
ト、T シャツ、ブランド品など身近な素材
を使い、実際の本物と偽物を自分達の目
で確かめ、その違いを知ると共に、○×
クイズを通して著作権の大事さ、必要性
を知る。
B
デジタルパペット
紙や粘土、布などで作った自分だけの世
アニメーション
界を、少しずつ動かし、コマごとに撮影
ワークショップ
してその動きの楽しさを知ると共に、仲
間同士で登場物を作り、一つのストリー
トとして完結させる。アニメーションを
作る技術とともに社会での連帯感、協力
心を育てる。
③普及啓発効果
当日フジ TV「Fuji News Network」、及び少年写真新聞社が取材、その他「毎日新
聞」、「IT Media」、「INTERNET
Watch」などに掲載される。
ワークショップを開催するごとに各メディアの関心度が高くなっていることがう
かがえる。
1)GO!GO!学校へ行こう@東京大学
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
④今後の展望
デジタルパペットアニメーションワークショップのように、子どもたちが自分で
PC を操作してプログラミングを行う場合、グループに PC が 1 台の場合、一人が使う
時間が制限されないよう、グループの人数を少数にする限りにおいては、1 回のワー
クショップにおける参加人数の限界はある程度大きく変動する可能性があるが、参加
人数が増加した場合、プログラム・スケジュールのうち、どこか一部を削除する必要
性も生じる。PC の台数を増やすだけで、現状のプログラムを所定の時間内で実施す
ることは難しいと思われる。
今後は、様々なデジタル機器の利用を、参加者人数と対比させて、今後のワーク
ショップ開発において十分に考慮して設計する必要がある。
昨年度東京大学先端技術研究所で開催したサマーキャンプはとても反響が良かっ
たが、今後全国各地に普及していくにあたり、コストとカリキュラム時間が課題と
して残った。今年度は、低予算でかつ学校の授業でも導入可能な 2 時間程度のカリ
キュラムに作りかえ、実施を行った。
昨年度と比較し、子どもたちの反応が懸念されたが、アンケート調査によると、
全員が「楽しかった」
「次回も参加したい」と答えていた。また、保護者も 100%が「満
足」、「次回も参加させたい」としていた。このワークショップに参加した子どもた
ちの中で、ワークショップコレクションにも参加していた子どもたちが複数人いた
が、そのことも本カリキュラムの反響の良さを示している。
また、子ども、保護者ともに「学校の授業で取り入れて欲しい」と回答しており、
今後学校との連携が必要とされる。昨年は 3 日間のコースとして行ったため、学校
のカリキュラムとして行うには無理があったが、今年は半日のコースにカリキュラ
ムを改めたため、学校での開催の可能性は十分にありうる。
1)GO!GO!学校へ行こう@東京大学
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
2)スズシゲラボラトリー
①概要
「身近な音」を使って「自分の夏のテーマサウンド」を作ることを行った。企画
段階でポイントとした要点は、主に以下の 3 点である。
・子ども達が、普段周囲で耳にしている音を使って音楽を作る。
・デジタルメディアの特性を生かした作品作りの体験。
・自分達が作った作品が、他人からリミックスされるという体験。
ア)開催日時
2004 年 8 月 8 日(日)
13:00∼17:00
イ)開催場所 世田谷区立砧南小学校 (メイン会場は 3 階音楽ホール)
ウ)参加人数 5 名(男子 3 名・女子 2 名)
エ)対象学年 小学校 6 年生
②ワークショップ内容概要
ア)基本的な流れ
a)身の回りから「音」を集めてくる。
音楽の素材となるさまざまな「音」を身の回りから収集する。
b)集めた「音」の素材を編集し作品にする。
c)できた作品を発表する。
文章、イラスト、チェキ写真などを素材に模造紙にまとめてプレゼンテーシ
ョンする。
d)リミックスに挑戦。
それぞれ完成した作品を交換し、他人が制作した作品を「踊れる」音楽に
リミックスする。
e)リミックス作品の発表。
イ)「音」と「リミックス」に関して
a)なぜ「音」か?
「音」は文章・絵画・造形のように、従来の学校の授業等で「自分で作って
みる」という機会が少ない表現の方法である。それは「音」という素材の「見え
ない・固定できない」という特徴に一つの原因がある。「モノ」や「言葉」に比
べて素材として扱う難易度が高いのである。しかし、デジタルツールをうまく
使うことで、
「音」を視覚的に表現し、素材として自由に手を加えられるものと
して扱い、何度でも再生可能な作品にするができる。
よって、子ども達にデジタルによる新しい体験をしてもらうために、これま
で作ったことも聞いたこともない、自分達だけの「音作品」作りが楽しめるワ
ークショップを目指した。
2)ススシゲラボラトリー
- 169 -
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
b)なぜ「リミックス」か?
子ども達にとって、身の回りのいろいろなものを素材に作品を作ることはあ
っても(コラージュ、替え歌など)
、自分の作った作品が他人の作品の「素材」
となる機会(=リミックスされる機会)はほとんどない。
一方、デジタルツールの進歩は音楽をリミックスするという行為の敷居を著
しく下げ、現在は非常に簡単に他者の作品をリミックスできる環境となってい
る。この「リミックス行為のしやすさ」はデジタル時代の文化の特徴の一つで
もある。
ここでは「自分達の作品に手が加えられる」「友達の作品に手を加える」とい
う機会を意図的に作ることで「リミックスする/される」というデジタル時代
ならでは体験をしてもらうとともに、「リミックスする/される」という感覚が
どのようなものか、生で感じてもらうことを目指した。
c)作品発表時のプレゼンテーション方法
「音」による作品を発表するために、単に曲を流すだけでは制作意図などが
伝わりづらいと考えたため、模造紙をもちいた発表資料を作ることにした。こ
こでは「音」により具体的なイメージを与えるため、チェキによる写真資料と
カラーペンの類を利用することで、音作品を説明するためのヴィジュアル的な
表現を支援した。
ウ)ワークショップの改良点
a)今回の問題点・機材面
機材面では Acid という非常に操作が簡易なソフトウェアを使った。今回の成
功はこのソフトウェアによる部分が非常に大きいが、Acid も一長一短のあるソ
フトであり、このワークショップにもっと適したソフトがある可能性も否めな
い。
もう一つの重要な機材となった「IC レコーダ」についてはファイル形式の問
題やデータの吸出しの面などで、多少困惑させられる部分があった。データの
2)ススシゲラボラトリー
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
吸出しから、acid 上で編集できるフォーマットでの保存までのプロセスが機種
によりかなり異なり、場合によっては異様に煩雑な操作を伴うものであったた
めである。
b)今後の展開
今回のワークショップ.実施を経て、「スズシゲラボラトリー」の持つ基本的
考え方と実行プロセスは今後も実施していくに値するものだという感触を得た。
また方法論としても、今回同様の、制作→作品交換してリミックス、というパ
ターンのみならず、さまざまな応用パターンの展開が可能だと考えている。
具体的には、
「楽曲制作自体により重きを置き、楽曲のテーマ性を重視する展
開」や、「元になる曲をはじめに提示し最初からリミックスをする展開」など、
ワークショップの目的に応じてさまざまな方法が実施可能だと考えられる。こ
の点に関しては、特に開発者以外の視点からのフィードバックを受けることで、
さまざまな可能性が検討できるであろう。
2)ススシゲラボラトリー
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
3)デジタルフォト俳句ワークショップ
①概要
俳句は世界で一番短い詩形であるが、今や世界にも広がっている身近な感動の表
現手段である。それが、マルチメディアや様々な通信手段(ケイタイ等)と結びつ
いて、新たなコミュニケーションの可能性が生まれつつある。今回のワークショッ
プでは、子どもたちに「言葉」と「イメージ」の結びつきによる不思議な効果を実
感してもらうとともに、写真と結びつけた簡潔な自己表現としての「デジタルフォ
ト俳句」の可能性にチャレンジする機会を提供する。
ア)開催日時 2004 年 11 月 28 日(日)13:00∼17:00
イ)開催場所
CSK-CAMP 大川センター
ウ)参加人数
15 名
エ)対象年齢 小学校 3 年生∼6 年生
オ)体制
共催(共同企画):ATR メディア情報科学研究所・CSK 大川センター
協力:特定非営利活動法人 CANVAS
俳句指導:鈴木雅実(ATR メディア情報科学研究所)
ファシリテイター:向田順子・森秀樹・日下・上農・増田(CAMP)
他受付スタッフ 1 名
参加費:無料
②ワークショップ内容概要
写真だけでなく、言葉や俳句を組み合わせることで、写真のイメージが変わった
り、伝えたいことが増したりすることを体験する。その後、俳句(5.7.5)のルール
をつかって、写真から感じる俳句をつくる。最後は、写真に作成した俳句を組み合
わせて発表する。
ワークショップのねらいとしては次のような点が挙げられる。
・写真と俳句(言葉)の相乗効果
・俳句に対する興味喚起
・参加者のコミュニケーション
・お互いの感じ方の違いを知る
当日のスケジュールは次の通りである。時間は企画段階と実際(括弧内)を記す。
事前の準備
お気に入りの写真、気になる写真を紙ベースで撮影してきても
らい、その写真のキーワードを考えてきてもらう(2 枚∼5 枚ま
で)。テーマを「風景」にする。
3)デジタルフォト俳句ワークショップ
- 172 -
第2章
受付
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
顔写真撮影後、会場内の壁に持参した写真を貼り、キーワード
を書く。
13:00∼13:40
イントロダクション(アイスブレイク)
13:40∼14:00
写真と言葉
(13:47∼14:18)
写真と言葉が組み合わさったときの効果を遊びながら発見
する。
14:00∼14:15
俳句ってなに? デジタルフォト俳句入門
(14:18∼14:39) 俳句の簡単な説明と、写真+俳句の面白さを紹介
14:15∼14:40
とにかく一句
(14:39∼15:05)
一枚の共通した写真を見て、その写真からグループごとに
一句つくってみる。
14:40∼16:00
持ってきた写真をつかって俳句作り
(15:05∼16:13) ここでは自由課題の俳句創作にグループでチャレンジする。
16:00∼16:30
作品発表会
(16:13∼16:44) グループごとにプロジェクターで発表(読み上げ)&質問会。
16:30∼16:40
作品鑑賞会&感想ポストイット
16:40∼16:50
デジカメ・リフレクション
当日撮影のスナップで、ワークショップを振り返る。
16:50∼17:00
最後に一句&アンケート
17:00(17:05)ワークショップ終了
③考察
ア)子どもたちの作品に見る、創作表現能力の発揮について
今回の参加児童は、小学校 3 年生から 6 年生までの 15 名であるが、やはり低学
年(3、4 年生)ではボキャブラリーが乏しく、なかなか俳句が作れない状態も見
られた。
「とにかく一句!」の練習課題として、共通の写真 1 点を用いたが、写真
の説明になってしまっている句が多かった。そのことを指摘した際には理解が得
られたようであったが、その後の創作の過程でも、同様な傾向が見られた。おそ
らく、子どもたちにとっては、写真を見て素直に発想したものと思われるが、今
回の経験をきっかけとして、イメージ(写真)と言葉の組合せについての、表現
の奥深さと可能性に気がついてくれればと思う。これには、適度に継続的なアド
バイスを与えることと、他者と表現内容について批評し合う句会形式の実践が必
要であろう。このようなレベルに達するのが可能なのは、高学年以上であろうか。
以上のような全般的な傾向や、対象年齢の若干のミスマッチは存在したものの、
次に示すように、子どもならでは視点からの微笑ましい、あるいは爽やかな印象
を与える作品も詠まれている。
3)デジタルフォト俳句ワークショップ
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
穏やかに
夕日が沈むよ また明日
葉の色が
秋になったら りんご色
山が言う
水面にうつる 秋の色
人間が
おやつをくれた ありがとう
子どもたちは、それぞれ自分なりに、辞書を調べたりしながら、時には背伸び
をした表現を試みたりと、様々な表現の可能性を試したとも言える。ただし、そ
の面白さに本当に入り込むまでに至ったのは、参加者の一部(どちらかというと
女子)に限られていたようである。それ以外の子どもたちは、ともかく句ができ
たことに満足してしまったようで、
「意外と簡単だった」という印象を持ったこと
が、アンケート等からも分かる。
イ)ワークショップとしての構成・運営上の反省点
・今回は、共通課題の句作練習のあとは子どもたちが持参した写真の中から、気
に入ったものを選んで俳句を作るグループ作業に移行した。すなわち、自由題
の句作に相当するが、後から考えると、句会のように兼題を用意して、それぞ
れが同じテーマの作品を考えたほうが良かったと思われる。このことはファシ
リテイターの視点からも指摘されており、他の俳句に興味が持つことができ、
同じ写真でも発想の違いを楽しめるから、ということになる。持参した写真を
使うにしても、その方が思い入れ(良し悪しあるが)を抑える効果があるであ
ろう。
・
「俳句」というものについて多少知っていたのは、国語の授業等に取り上げられ
ている高学年(5、6 年生)にほぼ限られている。従って、俳句についての知識
的な導入よりは、5.7.5 のルールだけを簡単に説明して、作る体験を繰り返し
ながら本質を徐々に体得して行く方が望ましいとも言える。ただし、1 回のワ
ークショップの中でどれだけ進めることが可能かについては、ファシリテイタ
ーのアドバイスにもよるので、難しい面もある。
・今回では、作業プロセスにおけるコミュニケーションを重視して、グループで
の創作を行なったが、最後に一句にしぼる作業には少々無理があったと言える。
選ぶ段階では、個人の意見を尊重するように、複数候補を挙げる方がよいかも
しれない。
ウ)今後の展開
前項に記したような種々の反省点もあるが、
「俳句」という日本独自に発展・継
続してきた文化を、今のデジタル時代に新たに見直すような試みを、ワークショ
ップに限らず実践することは重要であると考える。特に、俳句はその短さゆえに、
昨今の「ケータイ」文化との馴染みもよく、若者の間でネット句会のような新た
3)デジタルフォト俳句ワークショップ
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
なコミュニティーも出現しつつある。できれば、参加者全体で共通テーマを持っ
て、カメラ付きケータイを片手に戸外などで撮影と吟行を行なうことが理想かも
しれない。実際、そのような活動は、2004 年 3 月に NHK−BS で放送された「送っ
てみよう!ケータイ俳句」という番組でも紹介されている。子ども向けのワーク
ショップとしては、運営上の問題点も予想され、今回は実現しなかった。そのよ
うな試みも、各方面の協力者が得られれば十分検討に値すると思われる。さらに、
俳句文化がインターネットを通じて、従来にも増して世界中に広がってきている
点も見逃せない点である。デジタルフォト俳句を通じて、学校間の国際(異文化
間)交流などを行なうことも、中学生以上の生徒によるチャレンジとして有望な
テーマとなり得る。そのような活動を技術面その他でサポートすることも含めて、
今後の課題としたい。
3)デジタルフォト俳句ワークショップ
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
4)MusicTable で音楽を感じてみよう!
①概要
音楽経験に乏しく楽譜が読めない、または楽器経験がない子どもたちでも、テー
ブルの上にブロック(キューブ)を並べるだけで、直感的にサウンドを作り出すこ
とのできる The MusicTable
を用いた、参加型のワークショップを企画した。今
回は 2 台のミュージックテーブルそれぞれに一人ずつの参加者がつき、2 人で音楽を
共同作曲することを通して、コンピューター技術を用いた新たな音楽創作を体験し
てもらった。
ア)開催日時 2004 年 12 月 18 日(土)・19 日(日)
イ)開催場所 出雲科学館(島根県出雲市)
ウ)参加人数
26 名(同時参加の保護者・スタッフを除く)
エ)対象学年 小学校 3 年生∼6 年生
オ)体制
主催(共催)
:ATR メディア情報科学研究所・出雲科学館
協力:特定非営利活動法人 CANVAS
説明・ファシリテイター:牧野真緒、樋川直人(ATR)
デモ・記録:Rodney A. Berry(ATR)
スタッフ:福井麻衣子(出雲科学館)・他補助者 2 名
参加費:無料
②ワークショップ内容概要
各回とも約 1 時間のスケジュールで、次のような構成を取った。
00:00∼00:05 受付・挨拶と自己紹介、今日のワークショップの説明
00:05∼00:15 ミュージックテーブルの紹介とデモンストレーション・操作説明
ポイント:普通は作曲するのに五線譜(楽譜を見せる)や楽器が必要だが、こ
の MT を使うと、音楽や楽器の演奏が得意でない人も簡単に作れるこ
とを説明。
操作説明の内容:ブロック一つ一つが音符に相当し、テーブル上のカメラに認
識されると、前方のディスプレイに表示される。同時に節を持った
虫の CG キャラクターが重ねて表示され、サウンドが生成される。テ
ーブル上の縦方向が音の高さに対応し、置く位置を奥行き方向に移
動すると、音が高くなる。手前の方に戻すと、音が低くなる。また、
ブロックを時計回りに回転すると、音の大きさが大きくなると同時
に、虫のトゲが伸びてくる。逆に反時計回りに回転すると、音が小
4)MusicTable で音楽を感じてみよう!
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
さくなると同時に、虫のトゲは縮む。さらに、ブロック右方向に傾
けると、音の長さが長くなり、同時に虫の胴体の節の数が増え、逆
に左に傾けると、音の長さが短くなって、同時に虫の胴体も短くな
る。テーブル上の横方向は時間軸で、置かれたブロックに対応する
音を左から順番に生成し、右端まで行くと左端に戻って繰り返し演
奏する。間隔が空いた場合は、休符のような意味合いとなる。これ
らの音符に相当するブロック(最大 10 個まで使用可能)とは別に、
各面に楽器の絵を配した「楽器キューブ」があり、それをテーブル
上の任意の位置に置くと、置かれた音符全体が、上面の楽器の音色
に変わって生成される。
00:15∼00:20
2 人のペアによる MT の練習
00:20∼00:30 作曲したい内容を 2 人 1 組で相談してワークシートに筆記(描写)
する。今回は、「動物のパーティー」を主題とした曲作りを行なう
ことを目標とする。
00:30∼00:50 できたペアから 2 台のミュージックテーブルに分かれ音楽の創
作
00:50∼01:00 作曲した音楽フレーズの発表会と、感想の紹介など
01:00∼
さらに遊びたい子どもたちは、自由に操作
③考察
ア)参加者の属性(プロフィール)と全般的な観察事項
今回のワークショップでは、各回とも最大 3 ペア(6 名)ずつの参加者により、
2 台の MT を用いた協調的な作曲体験をしてもらった。一部、ペアを形成するため
保護者またはスタッフが加わったセッションがある。子どもたちの多くは会場と
なった科学館の催しにしばしば通ってきている生徒であり、友達同士または兄弟
姉妹といったケースも見られた。
参加者数は、男子 17 名・女子 9 名の計 26 名で(5 年生女子 1 名が 2 回参加)、
学年別では、3 年生が 2 名、4 年生が 9 名、5 年生が 12 名、6 年生が 3 名であった。
このうち 15 名が、学校の授業(リコーダーなど)以外に楽器を習っていた。内訳
(重複有り)は、ピアノ 8 名、エレクトーン 3 名、バイオリン 5 名、コルネット 2
名、クラリネット・ドラム・オルガン各 1 名であった。また、ピアノとバイオリ
ンの両方を習っている生徒 3 名のうち 2 名(4 年生と 5 年生の女子)は、ジュニア
オーケストラの団員とのことだった。
全般に、参加した子どもたちは MT に大きな関心を示し、次々とブロックを並べ
たり操作したりことにより、簡単に様々なサウンドが作り出される様子を楽しん
でいた。実際、ワークショップ終了後も続けて自由に触りたいという子どもが多
かった。MT はもともと偶然に面白いフレーズが生成されるなどの、意図した音作
4)MusicTable で音楽を感じてみよう!
- 177 -
第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
り以外の要素も大きいため、出来上がった音楽フレーズを聴く限りでは、上記の
ような楽器経験の有無多少等にはあまり影響を受けないように思われた。このこ
とは、裏返せば、楽譜が読めない等、音楽経験に乏しくとも自由な作曲体験がで
きる、という MT の特徴が現れたものと言える。アンケートの結果からも、使い方
については 4 名がふつうと答えた以外は、(とても)わかりやすいという回答が得
られた。また、2 人で作曲をした結果に関する満足度と、自分の曲の満足度との比
較では、26 名中 16 名が共作の方を高く評価していた。これをもって、協調的な作
曲体験が支持されたと言い切ることはできないが、コメントと合わせた観察結果
で見る限り、二人合わせて同時に創作・演奏するという機会は、子どもたちを引
き付けたようである。
イ)カリキュラム的な観点・運営面での反省点など
・今回は、共通のテーマ(主題)を与えて作曲体験を行なったが、「動物のパーテ
ィー」という仮想的なイメージが、どの子どもにも適切であったかどうかの判
断は難しい。もっと自由な発想にまかせた方が良いとも考えられるが、この問
題は次項とも関連する。
・MT は、体系立てて音楽的な素養を身につけるというよりは、体感的な音楽体験
と気軽な協調演奏(セッション)環境を提供することにより、音楽の楽しさを
誰の手にも届くようにするというメリットを持っている。しかし、その良さを
実感してもらうためには、ワークショップにおけるファシリテイターなど、シ
ステムと利用者をつなぐコミュニケーターの役割が重要である。それには、種々
のノウハウの蓄積が必要であり、興味を持って触わってもらうきっかけ作りも
重要である。
・今回は音楽教育の専門家ではなく、システム開発・デザイナーの立場にある当
事者が、ファシリテイターを兼務しており、学習カリキュラムの一環として考
える場合には、さらに多方面からのアドバイス・参画が不可欠となろう。
ウ)今後の展望
現在の MT は、前述の通り、自由で直感的な音楽体験の提供を目指したもので
あり、どちらかと言えば、エンターテイメント寄りのシステムと言うことがで
きる。この方向性を、より年齢層の高い中高生から一般向けの即興演奏システ
ムとしてデザインしたものが、 Bush Telegraph
という名称の別バージョン
であり、デモンストレーションや公共スペースでの公開を行なう試みもすでに
手がけている。その際は、クラブ等で電子楽器を駆使するミュージシャンによ
るパフォーマンスも行ない、同じシステムを使用しながら一般ユーザーとは一
味違ったライブ演奏が行なわれ注目された。いずれにしても、子どもたちや、
その上の世代に受け入れられるエデュテイメント・エンターテイメントシステ
4)MusicTable で音楽を感じてみよう!
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
ムとしての価値を高めるためには、サイエンス・コミュニケーターの養成や、
教育関係者との連携による実践的なプログラム(カリキュラム)開発が、今後
の重要な課題となろう。
4)MusicTable で音楽を感じてみよう!
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
5)おみやげコンテスト in 京都
①概要
小学生とその保護者・教員の方々が子どもチームと大人チームに分かれ、新しい
京都おお土産を考える商品開発に挑戦した。その後、カラー粘土をつかってアイデ
ィアを形にし、「バーチャル・カンパニー」のシステムを使い、電子商取引ができる
HP 上にお土産を紹介。その後、お土産を売り込むプレゼンテーションを行った。
ア)開催日時 2004 年 11 月 28 日(日)13:00∼16:30
イ)開催場所 京都市立白川小学校
ウ)参加人数
29 名(京都市の小学校 4 年生∼6 年生とその保護者・教員など)
エ)対象学年 小学校 3 年生∼6 年生
オ)体制
主催:特定非営利活動法人アントレプレナーシップ開発センター
協賛:特定非営利活動法人 CANVAS
協力:京都市立白川小学校
後援:京都市教育委員会
参加費:無料
②ワークショップ内容概要
ア) プログラム
13:00 開始・プログラム紹介
13:05 自己紹介
13:10 おみやげに関するご講演
講師:株式会社古澤仙壽堂
代表取締役社長
古澤
光枝様
13:30 新しいおみやげ作りにチャレンジ!
14:25 中間発表
14:35 休憩
14:40 試作品制作
講師:ZAPP FACTORY 代表 フジイミツグ様
15:40 ホームページ作成
16:15 最終プレゼンテーション
16:25 優勝チームの表彰・講師によるご講評
16:30 終了・アンケート記入
5)おみやげコンテスト in 京都
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
5)おみやげコンテスト in 京都
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
子どもチーム B
子どもチーム C
子どもチーム D
5)おみやげコンテスト in 京都
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
子どもチーム E(優秀チーム)
大人チーム
イ)ワークショップの特徴と課題
今回、アントレプレナーシップ開発センターでは、通常、小学校から大学まで
に対する教育カリキュラム・教材の提供や教員の研修などを行っているが、直接、
小学生やその保護者を対象としたワークショップは始めての開催であった。今回
の体験から、指導者に指導方法を習得してもらうには、子どもと一緒に参加する
ことが大変有効であることが検証された。今後、人件費の問題などについて解決
策が開かれるようであれば、このようなワークショップの開催について、前向き
に検討していきたい。
5)おみやげコンテスト in 京都
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
a)特徴
・実施体制(関係団体)
白川小学校には、会場・機材の提供など、多大なご協力をいただき、京都
市教育委員会からは後援、土曜講座の冊子への掲載などの形で支援いただい
た。
・ワークショップ日時
当センターの日程や運動会などの学校行事を考慮して、開催日を 11 月 28
日(日)と決定。しかし、この時期は京都では紅葉の観光シーズンのため、
おみやげ関連の会社への講師依頼に苦慮した。また、児童の帰宅時の安全を
考慮し、児童は保護者同伴とし、ワークショップ終了は 16 時 30 分とした。
このため、商品開発からホームページ作成までの一連の作業を 3 時間 30 分で
行うことになった。(通常では 1 学期程度)作業を迅速に進めるために、子ど
もチームにボランティアスタッフを 1 名ずつ配置し、進行役とした。
b)課題
アンケートで「楽しかったこと」として「試作品作り」が 1 位であることや、
ワークショップの目的が「自分で新しいモノを創り出すおもしろさ」や「ICT を
使って人に知ってもらう楽しさ」であることを念頭に、今後の活動では、試作
品製作・ホームページ作成やプレゼンテーションに十分な時間をさいた時間割
が望ましい。特に、試作品製作では商品だけでなく、商品パッケージや装飾も
作れるようにより多くの時間を割ければ、より創作性が増すと思われる。
ウ)今後の展開案
今後の展開の方向性としては、以下の 4 つが考えられる。
a)定期開催
今回とほぼ同じ内容で、毎年 1 回開催する。
例)第 2 回
おみやげコンテスト in 京都
b)地域拡大
今回のワークショップで得られたノウハウを用いて、起業家教育に関心のあ
る他地域の小学校などで、同じ内容のワークショップを開催する。
例)おみやげコンテスト in 大阪
c)テーマ変更
「カラー粘土を用いた商品開発」と「ホームページを用いたプレゼンテーシ
ョン」というコンセプトはそのままで、商品開発のテーマのみを変更する。
例)お菓子コンテスト in 京都
d)スポンサーによる商品化
次回からおみやげ製造会社にスポンサーとして協力を得て、コンテストで優
5)おみやげコンテスト in 京都
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
4.新規ワークショップの開発
秀チームに選ばれたチームの商品の現実性が高い場合には、スポンサーを通じ
て実際に商品化する。
5)おみやげコンテスト in 京都
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第2章
参加型ワークショップ内容理解を深めるためのデジタルコンテンツ・
デジタル技術の先駆的活用方法の研究
5.まとめ
5.まとめ
本調査では、今までに開発実施してきたワークショップに関してその後の展開をヒア
リングし、分析すると同時に、教育現場、地域社会、産業、技術開発等の多様な立場の
方々と協働して、デジタルやネットワーク技術の方向性及びこれら技術をとりまく人間
的側面を重視しつつ、子どもの創造力・表現力を高める学習環境のデザインに関して技
術的側面からの調査を行った。また、それらをもとに新規ワークショップの開発を行っ
た。
本章で示している通り、過去に開発実施したワークショップ・プログラムはその後、
全国各地に広く展開していることが分かった。そのことはつまり、このようなワークシ
ョップ・プログラムに対する需要はとても大きいこと、しかしながら、その需要にこた
えるだけのワークショップ・プログラムが整っていないこと(普及できるようなパッケ
ージ化がなされていないと同時に全体的に数が足りない)を示している。同時に経済協
力開発機構の学習到達度調査によると、ICT の活用度では、日本の生徒の使用度数が主要
国の中で最も低かったとしており、今後ますます ICT 技術を用いたこどもたちの活動に
対するニーズが高まることが予想される。
技術的観点からの調査を通じて、デジタル技術による創造的で協調的な学習環境をサ
ポートするにあたり、
・技術と子どもと社会の三つが常に関係するような学習環境のデザインが必要であり、
この三つの要素をコーディネートすることが可能な俯瞰性と総合力をもち、かつ社会、
学校、子どものどの参加者にもその意義と実際の意味を理解してもらえるような説得
力を持ったプロデュース機能が求められる。
・様々な技術を駆使し、アイディアを想起して試みる結果をフィードバックし、科学的
に検証する必要がある
・創造力、表現力の向上にかかわる学習環境を充実させ、様々なコンテンツやコミュニ
ケーションを実社会との接点を求めながら展開する際に、著作権に関わる事項や、放
送や通信の分野に関わる技術は手法をこの学習環境デザインの中に取り込む方法につ
いても議論し、具体的なガイドラインを提起する必要がある
ことが分かった。
さらに、本章で提起された様々な試みや技術の活用を、継続的に実施し、その効果を
長期にわたって検証していくためには、地域、社会、企業、特殊な専門性のある人々と
学校やこどもの学習共同の中で機能させていくにあたり、CANVAS のような非営利の団体
の活動が重要である。CANVAS のような特徴をもった NPO が常にデジタルテクノロジーが
さポートするクリエイティブで協同的な学習環境を研究し、実践するための学校外の存
在として学校を補完しあう、地域と補完しあう、地域や学校と企業、他組織との媒介に
なる必要があることを指摘する。
- 186 -
第3章
参加型ワークショップの普及のための
効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
- 187 -
第 3 章
参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の
方法の研究....................................................................................................................- 189 1.調査の概要.............................................................................................................- 189 1)目的....................................................................................................................- 189 2)調査手法.............................................................................................................- 189 2.イベントを通じた情報発信....................................................................................- 190 1)シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」...........................................................- 190 ①目的 ................................................................................................................- 190 ②概要 ................................................................................................................- 190 ③プログラム内容詳細 .......................................................................................- 190 ④議論の内容 .....................................................................................................- 192 ⑤効果 ................................................................................................................- 192 2)ワークショップコレクション 2005 ....................................................................- 195 ①目的 ................................................................................................................- 195 ②開催概要 .........................................................................................................- 195 3)マルチメディア祭 ..............................................................................................- 201 ①概要 ................................................................................................................- 201 ②ワークショップ内容 .......................................................................................- 201 ③普及啓発効果..................................................................................................- 201 3.ネットを通じた情報発信 .......................................................................................- 202 1)ポータルサイト構築...........................................................................................- 202 ①目的 ................................................................................................................- 202 ②ポータル構築にあたっての基本的な考え方 ...................................................- 202 ③画面構成 .........................................................................................................- 204 ④本サイトの将来的なビジョン.........................................................................- 205 ⑤ポータルサイトの運用....................................................................................- 205 ⑥期待される効果 ..............................................................................................- 205 ⑦参考データ .....................................................................................................- 205 2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ................................................- 208 ①目的と概要 .....................................................................................................- 208 ②研究のテーマと手法 .......................................................................................- 209 ③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性 ..............................- 211 ④ポップカルチャー・アーカイブを活用した子どものメディアリテラシーの向上 ...223 4.まとめ....................................................................................................................- 227 -
- 188 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
1.調査の概要
第3章
参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・
コミュニティー形成の方法の研究
1.調査の概要
1)目的
序章で記したように、今までの調査から、デジタル時代の子どもの創造力・表現力
向上を目指した活動の全国的普及啓発にあたり、ワークショップ・プログラムを流通
させるための課題の一つとして、情報の収集・発信システムの構築があげられた。
本章では、全国各地での子どもの創造力・表現力向上のための取組みやその手法等
の情報収集及び情報発信を行うための機能の構築を目的とした調査を行った。
具体的には、今年度は、リアル、バーチャル両方から情報発信の場をつくることを
本調査の目標とした。
2)調査手法
イベントを通じた情報発信とネットを通じた情報発信の二つに分け、調査研究を行
った。
イベントを通じた情報発信に関しては、いままでの活動で最も普及効果が高かった
ワークショップコレクションを拡大し、多くのワークショップを全国の方々に紹介し
ていくことを行った。また、同時に総務省とタイアップして全国の取組みを紹介する
シンポジウムも企画した。さらに、各地のワークショップを支援し、普及啓発を図っ
た。
ネットを通じた情報発信としては、上記活動をもとに、現在のウェブを情報収集・
発信の場となるポータルサイトとなるようバージョンアップを図った。同時に、子ど
もの表現力の土台を形成しているポップカルチャーを文化資産と捉えて、子どもたち
が容易に利活用できるようなインフラをつくるための手法に関する調査研究を行った。
上記活動に注力し、ポータルサイトの構築、需要と供給を結びつけるために情報を
交流させるマッチング機能・ネットワーク作りを行うことで、ワークショップ開催に
あたっての構成要素である人材、プログラム、場を有機的に結びつけるプラットフォ
ーム機能を構築することを目指した。そのことで、子どもたちにより多くの機会を提
供する仕組みが整えられ、彼らの創造力・表現力向上に寄与することに繋がると考え
られる。
- 189 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
2.イベントを通じた情報発信
1)シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
①目的
ブロードバンドとモバイルに代表されるデジタル・ネットワークの整備が進む中
で、
・新しいコンテンツやコミュニケーション様式はどのように開拓されていくのか?
・デジタル文化、デジタル教育、デジタル社会はどのように広がっていくのか?
・デジタル社会を担う子どもたちと ICT との関わりはどうあるべきか?
等のテーマを、ラウンドテーブル形式で、日本のデジタル界において各方面で活躍
中のパネリストにより、様々な角度から討論することを目的とした。
②概要
ア)日時
2004 年 11 月 17 日(水)13:00∼17:00
イ)場所
総務省地下講堂
ウ)対象
関係省庁、マスコミ、ICT 関連企業他(事前受付)
エ)体制
主催
総務省
共催
特定非営利活動法人 CANVAS
協力
(財)マルチメディア振興センター、スタンフォード日本センター、
(社)デジタルメディア協会
オ)プログラム
冒頭
総務省挨拶
第一部
13:00
子どもの創造力と表現力 13:10∼14:45
第二部 ポップカルチャー政策
15:00∼17:00
③プログラム内容詳細
ア)冒頭
:
山本
公一(総務副大臣)
挨拶
イ)第一部:子どもの創造力と表現
「総務省が支援する、特定非営利活動法人 CANVAS の活動等を紹介しながら、デ
ジタル時代の子どもの表現力、子どもとインターネットの関わりについて考える」
a)趣旨説明:中村 伊知哉
(スタンフォード日本センター研究部門所長、CANVAS 副理事長)
1)シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
b)パネルディスカッション:
「パソコン・インターネットを使用した創造性教育の先進的なワークショッ
プ活動を推進している関係者によるプレゼンテーション、コメント、Q&A 等」
【司会・コーディネイター】
中村 伊知哉(スタンフォード日本センター研究部門所長、CANVAS 副理事長)
【パネリスト】
飯野
賢治(ゲームクリエイター・(株)fyto 代表取締役)
松浦
季里(ビジュアルプロデューサ)
三橋
秋彦(墨田区立堅川中学校 主幹)
山内
祐平(東京大学大学院情報学環 助教授)
鈴木
均(日本電気(株)CSR 推進本部統括マネージャー)
鶴谷
武親(フューチャーインスティテュート(株)代表取締役社長)
渡辺
康生((株)ベネッセコーポレーション教育研究開発本部主任研究員)
山田
真貴子(世田谷区助役)
石戸 奈々子(NPO 法人 CANVAS 理事兼事務局長)
ウ)第二部:ポップカルチャー政策
「国内、海外の注目を集める日本の若者文化『ポップカルチャー』と ICT との
関わりそれを踏まえたコンテンツ政策のあり方を考える」
a)趣旨説明・基調報告:小野打 恵((株)ヒューマンメディア代表)
b)パネルディスカッション:
「アート・エンタテインメント・音楽・ファン(評論)の各分野で代表的な
活躍をしている関係者によるプレゼンテーション、コメント、Q&A 等」
【司会】
中村 伊知哉(スタンフォード日本センター研究部門所長、CANVAS 副理事長)
【コーディネート】
小野打 恵((株)ヒューマンメディア代表取締役社長)
【パネリスト】
八谷
和彦(メディアアーティスト・ペットワークス代表)
山口
裕美(アートプロデューサー)
中井
秀範((株)キャスティ 代表取締役)
重延
浩((株)テレビマンユニオン代表取締役会長)
竹内
宏彰((株)コミックス・ウェーブ 代表取締役社長)
久保
雅一((株)小学館キャラクター事業センターセンター長)
山野
直子(ミュージシャン)
1)シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
中村
泰子((株)ブームプランニング 代表取締役)
松井
英生(総務省大臣官房審議官(情報通信担当))
エ)閉会 :奈良 俊哉
(総務省情報通信政策局情報通信政策課コンテンツ流通促進室長)
④議論の内容
第一部では、
「子どもの創造力と表現力」をテーマにディスカッションが繰り広げ
られた。冒頭に、CANVAS が開催したサマーキャンプの様子や、ワークショップコレ
クションの様子、子どもたちが、パソコンやデジタル技術を用いて創造活動を楽し
んでいる様子が映像を用いて紹介され、それを受けて、「いま何が起こっているの
か?」、 「なぜ今子ども+デジタル+表現なのか?」、「日本の子どもは表現が得意
か?」、「現状での課題は何か?」、「情報化の光と影?」、「学校と企業の役割は?」、
「地域の役割は?」、「国は何をすればよいのか?」といったことが話し合われた。
最後に提言として、「デジタル時代の創造・表現を楽しめる場や技術を子どもたちに
与えよう。」ということが掲げられた。
第二部では、
「ポップカルチャー政策」をテーマにディスカッションが繰り広げら
れた。冒頭に、海外における日本ポップカルチャーの浸透、ポップカルチャー、コ
ンテンツ産業の状況、デジタルとの関わり、日本のポップカルチャーのキーワード
が紹介され、それを受けて、「日本のポップカルチャーは世界でどう評価されている
か?」、「日本のポップカルチャーの特徴と課題はなにか?」、「デジタルでポップカ
ルチャーはどう変わるか?」、
「国は何をすればいいか?ということが話し合われた。
最後に提言として、「日本を世界のポップカルチャーの中心にしよう。」というこ
とが掲げられた。
⑤効果
ア)来場者数
a)事前受付実績:
一般
プレス
181 名
21 名
(IT 関連企業を中心とした各企業、クリエイター、学生等)
(日本経済新聞社、朝日新聞社、読売新聞社、ソフトバンク・
アイティメディア、ぴあ MOOK「映画の全仕事」
、インターネッ
トマガジン、時事通信社、日経 BP 社、週刊アスキー、IDG ジ
ャパン、デジコム、リクルートフロムエーナビ、日本消費経
済新聞社、教育家庭新聞社、メディア戦略研究所、MacPower、
フリーランス等)
省庁
6 名 (経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課メディアコン
テンツ課、総務省自治行政局選挙部政治資金課、経済産業省
1)シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
通商政策局情報調査課)
招待
3 名 (マルチメディア振興センター)
b)実際の来場人数報告(※受付通過分のみ、総務省独自受付分除く)
一般受付者数
事前受付分 115 名、新規 10 名 計 125 名
プレス受付者数 事前受付分 16 名、新規 5 名
省庁受付者数
事前受付分 4 名、新規 2 名
招待受付者数
事前受付分 2 名 計 2 名
計 21 名
計 6名
総合計 154 名
イ)総務省担当者の感想
・第一部は、普及啓発という意味で、第二部は国も関わる形でのポップカルチャ
ー論のキックオフという意味で、シンポジウムは成功と考える。
・ネットとキッズの関わりについては、インフラとしての ICT 普及が進んだ現段
階において、コミュニケーション・表現能力向上(メディアリテラシー)や人
材育成の観点などから重視しており、また、良質かつ多様なコンテンツのブロ
ードバンド上での流通の裾野を支える論点として重要と考えている
・ネットとポップカルチャー及びその政策的意義については、昨年の「デジタル・
コンテンツ WG」提言で取り上げて以来、省内でも折に触れ議論されてきたが、
今回のシンポジウム開催にあたって、あらためて国として「ポップカルチャー」
をどう理解し、どう組み合うかという観点からの議論をしてきた。他方、自民
党のデジタルアーカイブ小委員会(野田聖子小委員長)という場でも軌を一に
して「ポップカルチャーの現状及び政策」についての議論が進められているな
ど、うねりは行政を越え、流れは急となっている。
ウ)メディア掲載記事
IT Media
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0411/17/news084.html
IT 日経
http://it.nikkei.co.jp/it/column/zensen.cfm?i=20041120c7000c7
学びの場.com
http://www.manabinoba.com/index.cfm/4,5344,76,html
MYCOM PC WEB
http://pcweb.mycom.co.jp/articles/2004/11/22/netkidspop/
NIKKEI NET
http://it.nikkei.co.jp/it/column/zensen.cfm?i=20041120c7000c7
日本消費経済新聞
総務省広報誌
1)シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
エ)位置づけと内容について
全国の関係者の注目を集めるなか、この領域の主要プレイヤーを論者として集
め、恐らく中央官庁初の NPO 共催によるイベントを総務省講堂にて満席のうちに
無事終えた成功はまず特筆しておいてよかろう。
このイベントは、これまでの調査研究が対象としてきた「子どもの創造力と表
現力」及び「ポップカルチャー」の双方について総合的に議論するものであった。
「子どもの創造力と表現力」に関しては、ワークショップの開発事例や普及啓発、
さらには関連する先端技術の研究動向までを網羅し、「ポップカルチャー政策」に
関しては現在注目が集まっている実態と政策との関わりについて横断的に論じら
れた。この構成は、この二つのトピックが相互に連関し、一貫する課題であるこ
とを示すことが企図されたものであり、一部・二部が違和感なく連続したイベン
トであった点でその狙いは達成されたと言えよう。
第一部「子どもの創造力と表現力」は、この領域で今何が起きているのか、ど
こまで開発・普及が進んだのかに関する行政としての PR であることにとどまらず、
産学官連携の重要性と課題について浮き彫りにするものであった。第二部「ポッ
プカルチャー政策」は、
「子どもの創造力と表現力」の土台となる日本の表現の強
み・特性について深掘りするものであり、ワークショップ等の活動において重点
を置くべきジャンルや方向を明確にするという意図もあった。
CANVAS の活動は当初からポップカルチャーとの関係を重視してきており、それ
が結果として政府・知財本部等における政策立案に少なからぬ影響を与えている
ところであるが、ポップカルチャーの表現技法や人的コミュニティーとの連動を
進めることにより、子どもの表現力活動における日本の強みを発揮し得るとの国
家戦略的な政策意図が当初から組み込まれていたものである。
このイベントは総務省が前面に出ながら、官庁/報道/企業/大学・研究機関/学
校など、この領域に関わるさまざまなセクターの人々が集う大規模な議論の場と
して設定された。しかも、講演会やパネルディスカッションではなく、論者と客
席とが同じ目線で台頭に論じ合うラウンドテーブル形式という演出手法を採った。
官庁関連では非常に稀な設定であった。これは、本調査研究が進めている運動が
全国の関係者による参加型-連携施策であることを示すものでもあった。客席を巻
き込んだ議論の進行のうちに、その雰囲気は共有されたと考える。
1)シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
2)ワークショップコレクション 2005
①目的
子ども達の表現力、創造力の向上の全国的普及を目指すため、また、その子ども
達を取り囲む環境に携わる教育関係者、ミュージアム関係者が一堂に会し、ワーク
ショップを通して、子ども達の表現力・創造力の向上とそれをサポートする人々の
交流を図る場を提供することを目的として企画した。
2004 年 1 月に開催した「ワークショップコレクション 2004」をさらに拡大し、最
新のデジタル・ワークショップを一同に集め、今年度の CANVAS の普及・啓発活動の
集大成として位置付けた。
②開催概要
ア)日時:2005 年 1 月 22 日(土)13:00∼17:00
1 月 23 日(日)11:00∼17:00
イ)場所:日本科学未来館 7F(東京都江東区青梅 2-41)
ウ)体制
主催:特定非営利活動法人 CANVAS
協賛:社団法人音楽制作者連盟、株式会社 CSK、ZOU STUDIO Inc、
株式会社プロムナード
後援:財団法人マルチメディア振興センター、総務省、文部科学省、
経済産業省、スタンフォード日本センター、東京都教育委員会
入場料:無料
エ)募集したワークショップ
子ども達の表現力、創造力を向上させることを目的とした最新のプログラムで
あること。PC 環境に基づくものでも、それ以外でも、1 回に付き 5∼10 名が同時
に参加するワークショップとして実施可能であること。(主な対象は小学生∼中学
生)子ども達の表現力、創造力向上に関る方々への普及、啓蒙活動となるもの。
2)ワークショップコレクション 2005
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
オ)ワークショップの名称と出展者名一覧
ワークショップ名
出展者
RADIOWORKSHOP
株式会社プロムナード
ZOZO キッズ CG
ZOU STUDIO,Inc
クリケットワークショップ
株式会社 CSK
CAMP
(Children s Art Museum & Park)
ピッケのおうちへあそびにおいて!
朝倉民枝(グッド・グリーフ!)
つなぐ・つながる・みんなで話せる
LOCO(紙コップアーティスト)
糸でんわ
粘土で作ろう!わくわく惑星・あな
造形絵画教室アトリエミュレット
たの大切な物はなぁに?
バーチャル砂場遊び
尾上耕一
メンデルのキャンバス
安斎利洋・中村理恵子
ゲーム教材の可能性
日本シミュレーション&ゲーミング学会
授業と教材研究部会
つくれるアニメ!ワークショップ
トリガーデバイス
Yahoo!きっず
ヤフー株式会社
ペーパークラフト
で動物園を作ろう!
1分で君も画面の魔法使い
原田康徳(NTT コミュニケーション科学基
礎研究所)
逆転時間を楽しもう!
NPO 学習環境デザイン工房
Music
株式会社国債電気通信基礎技術研究所
Table
(ATR)
ちんどんワークショップ
U-Stage、奈良大介
カ)今回のイベントの特徴
来場者と出展者、来場者と来場者との交流の実現に重点を置き、展示方法や会
場運営の面ではこの点に考慮して計画した。ワークショップ以外にもセミナー形
式のプログラムも開催した。(セミナー「インターネットの光と影」日本ガーディ
アン・エンジェルス)
ミュージアム(日本科学未来館)を会場とすることで、国内の他施設に対して
も連携の可能性を示唆し、全国普及に向けて具体的な展開事例として開催するこ
とができた。
キ)来場者数
第 1 回(2004 年1月 25 日開催)は約 500 名の来場者を得たが、今回は 2 日間で
1,387 名(おとな 770 名・子ども 617 名)の参加者があり、計画段階での目標 1,000
2)ワークショップコレクション 2005
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
名を達成。
ク)出展者、参加者の反応・意見など
イベントを通じた情報発信の効果をより具体的に把握するために、アンケート
による来場者のニーズ調査を実施した。
a)アンケート回答者数
おとな・・・243 {入場者に対する回答率=32%}
子ども(15 歳未満)・・・301 {同上=49%}
b)アンケート(おとな向け)より抜粋
【今回出展されたワークショップに興味を持った理由として】<自由回答>
・子どもがその場で体験し、達成感があるところ
・子どもの感性を刺激するには、どんな機能を持つアプリケーションが有効な
のか
・コンピューターを利用した来館者サービス、展示情報解説への応用のヒント
として
・一人一人で取り組めるものもあれば、みんなで一つの物を作り上げるものも
ある
・万国共通で楽しめる可能性を感じたため
・子どもの教育について、一つの方向性の研究として
【その他感想・要望など】<自由回答>
・利用者が能動的に楽しみながら情報を得ることができる点が良い
・ICT 技術を活用したものが沢山あるが、それを使って何を伝えたいのか。芸術
系以外の展開にも今後期待したい
・親子で楽しく参加しているのが印象的でした
・東京以外の地域でも是非やって下さい
・ワークショップによっては、子どもに分かりにくいものもあり、実際の現場
でそのまま使うことの難しさを感じた
・手段はいろいろでも「ものつくり」というのが良い
【CANVAS に期待することは?】<選択式>
学校との連携(37%)、ワークショップの研究・開発(32%)、地域との連携
(20%)、企業との連携(7%)、その他(3%)
c)アンケート(子ども向け)より抜粋
【どんなことに興味があるの?】<選択式>
2)ワークショップコレクション 2005
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
ものをつくること(31%)、パソコンやコンピューターであそぶこと(23%)、
みんなといっしょにあそぶこと(18%)、いろいろな実験をすること(17%)、
音楽に関すること(10%)、その他(2%)
【きみが今度やってみたいワークショップは?】<自由回答>
おりがみ(複数)/おえかき(多数)/ロボット(複数)/パズル/風船工作(多
数)/動物関係(複数)/みんなでできるゲーム(複数)/自分の書いた絵が立
体になる/電子工作(複数)/ビーズ(複数) /きょうりゅうつくり/こまま
わし/にんぎょうつくり/油絵/乗り物運転(複数)/宇宙探検/ひかりの実
験/塗り絵/工
作(複数)/積み木/動くものつくり/ラジオつくり/湯飲
みつくり/お話しつくり(複数)
d)アンケート(出展者)より抜粋
【出展参加の目的はなんでしたか?】
・教育関係者や博物館関係者に対するプレゼンテーション
・ICT 系のワークショップを探している人に直接コンタクトをとりたい
・子ども向けワークショップ開催の機会/場として利用
・自社のアピール、他の団体の活動リサーチ、来場者の反応リサーチ
【具体的な成果としてどのようなことがあげられますか?】
・ワークショップの依頼有り
・子ども達の反応を身近に感じられた
・広報的効果
・大人のためのワークショップカリキュラムを子ども向けにアレンジするこ
とで、 親子そろって楽しめるものを提供することができました。
【WSC2005 全体に関して、良かった点/悪かった点】
・アナログ/デジタル、さまざまなタイプなものが混在していることが、果
たしてどうなのだろう、 来場者を戸惑わせないだろうか、
、、とやや懸念し
ていたが、その混沌の中を、あちらへこちらへ自由に泳ぎ回る子ども達を
見て、杞憂であった、混沌で構わないのかもと感じた。
・子どもたちが大勢集まってくる日本科学未来館は会場として最適でしたね。
ケ)メディア掲載記事一覧
フジサンケイビジネスアイ
産経新聞都内版情報コーナー
読売新聞夕刊
2)ワークショップコレクション 2005
- 198 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
週刊東洋経済
ぱど
月間ミュゼ
週刊週間アスキー
学校を元気にする便利サイト 学びの場.com
http://www.manabinoba.com/
文化環境研究所
http://www.bunkanken.com/notes/article.php?id=23
チャイルドリサーチネット
ViVa!
http://www.viva.ne.jp/news/archives/000491.html
インターネットミュージアム
http://www.museum.or.jp/
日本科学未来館
http://www.miraikan.jst.go.jp/j/event/2005/0123_other_01.html
Yahoo!きっず
http://kids.yahoo.co.jp/docs/event/workshop2005/index.html
毎日新聞ウェブ
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/elearningschool/topics/news/
20050124org00m040071000c.html
日本経済新聞ウェブ
http://it.nikkei.co.jp/it/news/topics.cfm?i=20050125zn000zn
フジテレビ スーパーニュース(17:30∼)
コ)まとめ
「ワークショップを集めて展示をする」という、イベントとしては特殊な形式
ではあるが、今年、規模を拡大して第 2 回を開催したことの意義は大きい。来場
者の生の声を集めることができたことはもちろん、ワークショップ開催を希望す
る NPO・NGO や地方のミュージアム・などからの連携申し入れなど、多くの成果を
得ることができた。子どもの参加型創造活動の普及を目的とするこのイベントは、
海外でも例の無い試みとして今後定着する可能性を持っていると言える。将来的
には国内外との連携も視野に入れ、こうしたニーズをすくい上げ、つなげていく
仕組みの一つとしてさらに改善を重ねていくことが望まれる。
2)ワークショップコレクション 2005
- 199 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
2)ワークショップコレクション 2005
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
2.イベントを通じた情報発信
3)マルチメディア祭
①概要
多くの国民にICT、マルチメディアの素晴しさを判っていただこうと開催されてい
るマルチメディア祭、今年は、和歌山県で3日間開催された。
和歌山全県に広がる4会場(田邊、高野山、熊野、和歌山)を結び、文字通りのマ
ルチメディア機能を駆使して展開された中、デジタル時代の子どもの創造力・表現
力をテーマとした講演とワークショップを開催した。
ア)開催日時 2004年11 月19日(金)∼21日(日)
イ)開催場所 全国マルチメディア祭2004in わかやま、和歌山会場WAVE会場
ウ)参加人数 合計24名
エ)対象学年 小学校4年生∼小学校6年生
オ)体制
主催:特定非営利活動法人CANVAS
協力:アドビ株式会社、D-プロジェクト
コンセプト開発・システム開発:安斎利洋、中村理恵子
②ワークショップ内容
連画ワークショップを開催した。最初にある種(基礎)となる絵を元に、子ども
たちがその絵の一部分を利用して、絵を描く。子どもたちは、どんどん出来ていく
新しい絵に対し、また自分なりの発想の絵をつなげる。それにより最後は、多方面
に発展した絵のツリーが出来上がるワークショップ。
③普及啓発効果
地元テレビ局により、当日は2時間にわたりTV和歌山で全県下に連画ワークショッ
プが生放送された。放映の内容は、残り3会場にも同時中継され、和歌山会場では会
場内のラージモニターの模様が映し出された。
3)マルチメディア祭
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
3.ネットを通じた情報発信
1)ポータルサイト構築
①目的
デジタル時代の、子どもの創造力・表現力向上に関する活動の目標として「創造・
表現・共有」を掲げているが、その「共有」の部分をオンライン上で強化・実現す
ることを目的とする。これまで利用してきたホームページを大幅に改訂し、全国に
ある子どもの創造力・表現力向上のための取組みに関する各種情報の効果的な提供、
各種問い合わせへの対応、ポータルサイトとして多くの市民が利用することにより、
オンラインを利用したワークショップの流通化を目指す。
②ポータル構築にあたっての基本的な考え方
従来から情報提供の場としてホームページを活用していたが、そのホームページ
は、本調査を請け負っている特定非営利活動法人 CANVAS の「活動報告」という性格
が強く、構成としては一覧性を重視したものではあるが、欲しい情報に到達するま
でに多くの手順を必要としていた。改訂にあたっては、一方的な情報提供のみなら
ず、
「参加」をキーワードに再編集し、より多くのプレーヤー(子どもたち、保護者、
学校、ミュージアム、企業、行政、自治体、アーティスト)の交流のきっかけとなる
よう設計した。
今年度は第 1 段階としてワークショップを中心とした子どもの参加型創造活動の
ポータルサイトの基本的な枠組みを構築することとした。改訂にあたってのポイン
トを整理すると以下の 3 点である。
【設計上の三つのポイント】
ア)「CANVAS とは何かをすべての人に正確に伝える」
オンライン上の全ての情報発信において、その根幹にある「ミッション」
や「活動内容」を正確に伝える事は重要であり、特定非営利法人設立から 2
年が経過し、増加する情報量に対応しかつ実際の活動に即した情報発信を行
うためには、情報の整理と表現の再構築が不可欠となる。
イ)「参加の形を提示する」
普及啓発のツールとしては「自分がどのように関わることができるのか」
が明記されていることが求められる。
「CANVAS とは何か」と「参加の仕方」が
両輪として働くことで、オンラインサイトが効果的に機能する。本サイトは、
参加への呼びかけを意図的に発信するというメッセージと、実質的な参加の
1)ポータルサイト構築
- 202 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
窓口を提供する、という二つの目的を果たすことになる。
ウ)「ワークショップ情報の発信」
「ワークショップのポータル」を目指すにあたっては「ワークショップ情
報」を「一般化された情報」として発信することが重要である。今後国内で
ポータルサイトとしての位置・役割を担っていくためにも、まず既存のワー
クショップ情報を独立したコンテンツとして見せていくこと、また、CANVAS
フェローによる多彩な情報発信を行うことも効果的かつふさわしいコンテン
ツである。
1)ポータルサイト構築
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
③画面構成
【リニューアル前】
【リニューアル後】
開発コンセプト
(1)構成のわかりやすさ
目的/機能に応じたメニュー構成。
ページ構成の整理。
(2)見やすさ
視線の移動(導線)にそったレイアウ
ト。「ニュース性」「優先度」を考慮。
一覧性を考慮したページデザイン。
(3)反応のよさ
ユーザーに負担をかけないページデ
ザイン。操作性の向上。ページ全体の
構成と配置が分かる機能を付加。
(4)好感度
画像や動画、イラストなどを効果的に
使用。見ていて「楽しい」と思わせる
演出。
(5)内容の信頼性
サイトポリシーを明示。
1)ポータルサイト構築
- 204 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
④本サイトの将来的なビジョン
将来的には、子どもの作品を収集・展示する「アーカイブ」機能、ワークショッ
プの開催者と参加者の情報交換がおこなえる「フォーラム」機能、さらにはオンラ
イン上でワークショップを開催する「バーチャルワークショップ」機能などを視野
に入れて発展的に活用していきたい。データベース機能の付加による各種ワークシ
ョップ・プログラムの流通化の実現化も同時に検討したい。
⑤ポータルサイトの運用
ウェブサイトのリニューアルにあわせて、CANVAS が主催するイベント情報やフェ
ローから寄せられる各種ワークショップやセミナーの開催情報をタイムリーに掲載
し、ポータルサイトとしての機能を内外に周知させることに注力した。さらに、実
施されたワークショップのレポートやフェロー執筆によるコラムを定期的に掲載す
ることにより、CANVAS の活動主旨とその内容を具体的に示すことに努めた。
⑥期待される効果
リニューアルしたオンラインサイトを活用することで、CANVAS の活動主旨がより
正確に伝わり、これまでよりも広い範囲での交流が生まれ、これからも普及・啓発
活動の中心的なツールとしての効果が期待される。後述のアクセスログを見ても昨
年よりも認知度が向上していることが確認できており、この傾向は今後も拡大する
ことが見込まれる。また、実際の運用状況とその効果に対して年度末に評価をおこ
ない、次年度の普及活動とサイト運営に反映していきたい。
⑦参考データ
□アクセスログ
2003 年 1 月の月間アクセス数は 5,198 件、2004 年 1 月のアクセス数は 69,907 件
だったのに対し、2005 年は 161,746 件に及んだ。イベントやセミナーを通じての広
告効果が確実にあがっていることが分かる。
2004/09
46,849
2004/10
52,496
2004/11 103,617
2004/12
98,829
2005/01 161,746
2005/02
16,067
□ウェブ掲載記事一覧
フジサンケイビジネスアイ
ワークショップコレクション 2005
産経新聞都内版情報コーナー ワークショップコレクション 2005
1)ポータルサイト構築
- 205 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
読売新聞夕刊 ワークショップコレクション 2005
週刊東洋経済ワークショップコレクション 2005
ぱど ワークショップコレクション 2005
月間ミュゼ ワークショップコレクション 2005
週刊週間アスキー ワークショップコレクション 2005
学校を元気にする便利サイト 学びの場.com ワークショップコレクション 2005
http://www.manabinoba.com/
文化環境研究所 ワークショップコレクション 2005
http://www.bunkanken.com/notes/article.php?id=23
チャイルドリサーチネット ワークショップコレクション 2005
ViVa! ワークショップコレクション 2005
http://www.viva.ne.jp/news/archives/000491.html
インターネットミュージアム ワークショップコレクション 2005
http://www.museum.or.jp/
日本科学未来館 ワークショップコレクション 2005
http://www.miraikan.jst.go.jp/j/event/2005/0123_other_01.html
Yahoo!きっず ワークショップコレクション 2005
http://kids.yahoo.co.jp/docs/event/workshop2005/index.html
毎日新聞ウェブ ワークショップコレクション 2005
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/elearningschool/topics/news/
20050124org00m040071000c.html
日本経済新聞ウェブ ワークショップコレクション 2005
http://it.nikkei.co.jp/it/news/topics.cfm?i=20050125zn000zn
フジテレビ
スーパーニュース ワークショップコレクション 2005
日本消費経済新聞 総務省シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
週刊アスキー 子どもホームページコンテスト
学びの場.com ワークショップコレクション 2005
http://www.manabinoba.com/index.cfm/4,5388,84,html?year=2004
学びの場.com 総務省シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
http://www.manabinoba.com/index.cfm/4,5344,76,html
MYCOM PC WEB 総務省シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
http://pcweb.mycom.co.jp/articles/2004/11/22/netkidspop/
NIKKEI NET 総務省シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
http://it.nikkei.co.jp/it/column/zensen.cfm?i=20041120c7000c7
ITmedia ニュース 総務省シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0411/17/news084.html
学校コンピューター GO!GO!大学へ行こう@東京大学
1)ポータルサイト構築
- 206 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
日経 IT 時評 この夏のリアリティー
http://it.nikkei.co.jp/it/column/njh.cfm?i=20041022s2004s2
週刊アスキー in the city TOKYO 2004 セミナー
毎日新聞 総務省シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」
週刊アスキー WRO(World Robot Olympiad) Japan
フジテレビ「Fuji News Network」 GO!GO!大学へ行こう@東京大学
FMP express(2004 年 10 月号) CANVAS
毎日新聞 GO!GO!大学へ行こう@東京大学
ITMedia GO!GO!大学へ行こう@東京大学
Internet Watch GO!GO!大学へ行こう@東京大学
週刊アスキー ワークショップコレクション 2004 イン 香川
週刊アスキー 子どもホームページコンテスト
日経 IT 時評 みそカツとソフトパワー
http://it.nikkei.co.jp/it/column/njh.cfm?i=20040725s2000s2
日経 IT 時評 ぺヤングとアーカイブ
http://it.nikkei.co.jp/it/column/njh.cfm?i=20040622s2000s2
テレビ東京「NEWS EYE」 シンポジウム「ネットワーク時代の子どもたち」
毎日新聞 シンポジウム「ネットワーク時代の子どもたち」
中日新聞 シンポジウム「ネットワーク時代の子どもたち」
朝日新聞 シンポジウム「ネットワーク時代の子どもたち」
京都新聞 シンポジウム「ユビキタス社会における市民メディアの可能性」
日経 IT 時評 お笑いライブラリーと大阪ブランド
EB(エンターテインメントビジネス)4 月号 ワークショップコレクション 2004
日経 IT 時評 デジタル・スタイルの構築 - 京都モデル
http://it.nikkei.co.jp/it/column/njh.cfm?i=20040323s2002s2
1)ポータルサイト構築
- 207 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
①目的と概要
本研究の目的は、デジタル・コンテンツの創造を行う人材の育成、特に子どもも
体験できるプログラムの開発を先導するための継続した調査・分析である。またこ
れによりわが国の情報産業・文化・社会の特性をとらえ、コンテンツ制作力・発信
力を高める指針の策定を目指すものである。
具体的には、日本の時代性・流行性を背景とした表現文化を学術的に体系付ける
ための調査・分析を行った。昨年度に引き続き、日本の文化の典型であり、ブロー
ドバンド時代のコンテンツの基幹をなす「ポップカルチャー(マンガ、アニメ、ゲ
ーム、映画、音楽、テレビ番組など、時代性・流行性の強い表現文化)」に焦点をあ
て、その経済インパクトや社会文化的な意義、さらにはその展望について検討した。
日本発ポップカルチャーの国際的な評価の高まりを受け、その社会文化的背景、
経済的インパクトや関連政策の課題などの分析を中心にすすめた昨年に続き、それ
らのテーマについての検討を継続しつつも、今年度はポップカルチャーを通じたコ
ミュニティー、コミュニケーションの可能性について検討した。特に、評価体系や
保存体制がないため日々消失を続けるポップカルチャーをどのように自国文化とし
て保存し子どもたちの代に正しく伝えていくか、また積極的に体系化し表現力向上
に活用していくかという点にポイントを置いた。
また、昨年度に引き続きこれらの分析を通じて、子どもたちの世代にとっての新
たな自国アイデンティティとなることが想像されるポップカルチャーが、彼らにと
ってどのような意味を持つのか、彼らの能力にこれをどう反映させ、情報社会にお
ける能力を育てていくのかという課題に対して、研究を継続してきた。
この結果、本研究を通じ以下のような項目において成果を得ることができた。
子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
ア)日本の子どもとポップカルチャーの現在
・世界での日本のポップカルチャーの評価
・日本のポップカルチャーの特長
・日本のポップカルチャーの担い手としての子ども
イ)日本の社会資産としてのポップカルチャー
・日本におけるポップカルチャーの資産保存の現状
・美術館・博物館でのポップカルチャー紹介の現状
・日本ポップカルチャーの資産保存に向けて
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
- 208 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
ウ)子どものためのポップカルチャー・アーカイブの提言
・提供されるアーカイブから、参加するアーカイブへ
・ファン・生活者が参加するコレクションのネットワーク公開
・アーカイブのしくみ
ポップカルチャー・アーカイブを活用した子どものメディアリテラシーの向上
ア)ポップカルチャーによるメディアリテラシー向上のポイント
・言語を超えた多メディア・コミュニケーション
・情報価値を収集・分類・分析・評価
・つくり手と受けての関係づくり、コミュニティーとコミュニケーション
イ)まとめ
以上の研究成果をこの節では紹介している。
②研究のテーマと手法
ア)テーマ
マンガ、アニメ、ゲーム、映画、音楽、テレビ番組などのコンテンツや、イン
ターネット、携帯電話など新しいデジタルメディア、それらメディアをつうじた
コミュニケーションを研究の対象とする。
また、それらと密接に関る領域であるファッションや食文化、スポーツ、建築、
工業デザインなど文化や風俗も、現在の日本を特徴づけるものとして検討に加え
る。
イ)手法
スタンフォード日本センター、経済産業研究所などの関係機関と連動して、学
際的に調査検討を行うための研究委員会を発足させ、情報の収集、議論、分析を
推進している。具体的には 2002 年 10 月から、メーリングリスト上に研究会を開
催し、アーティスト、研究者などによる議論を展開している。議論の成果は、毎
月議事録にまとめて WEB 上で報告する形をとっている。
これらに加えて、ポップカルチャーの特性に適した新しいアーカイブのあり方
を調査検討する「ポップカルチャー・アーカイブ・プロジェクト」の実施や、国
際大学グローバル・コミュニケーション・センターと共同でポップカルチャーの
学術的に分析・体系化を試みる研究会である「ポップカルチャー勉強会」の実施、
総務省主催によるデジタル・ネットワーク時代の新しいコンテンツやコミュニケ
ーション様式、デジタル教育、子どもたちと ICT との関わりなどのテーマを討論
するシンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」への協力、子ども達が専門家の講
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
- 209 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
師からマンガ、アニメ、ゲームなどのポップカルチャーの特性を学び、その未来
像を考えるというセミナー・ワークショップ「子どもと未来のポップカルチャー
を考える会」の実施など、昨年度同様、本研究委員会からの派生した様々なプロ
ジェクトも実施した。
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
- 210 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
ア)日本の子どもとポップカルチャーの現在
a)世界での日本のポップカルチャーの評価
日本において、1980 年代半ば以降、若者が同時代の体験を共有するためのキ
ーワードとしてマンガ・アニメ・ゲームを用いるという現象が、顕著に見られる
ようになった。時代を象徴するような大事件、あるいは世相を反映した流行歌に
よって時代を共有するという、大衆的な歴史認識のキーワードに、マンガやアニ
メ、ゲームが加わったといえる。
そして、今ではこのようなマンガやアニメ、ゲームの体験は世界に広がって
いる。
週刊マンガ誌という日本独自の出版ビジネスが米国にも上陸し、数多くの日
本マンガの翻訳本が欧米で出版されている。注目すべきは、かつては欧米にお
いて横文字の本を「左とじ」で出版し、読書するという習慣に合わせ、日本マ
ンガの翻訳本は版下をそっくり逆版にして発行されていたのが変わってきた点
である。逆版にしたため欧米で出版された日本マンガの登場人物はすべて左利
きであったのが、「本物を見たい」という要望に応えて、前述の週刊マンガ誌を
はじめ多くが「右とじ」で出版されるようになった。2000 年来の横文字文化の
西欧にとって、この変化は一つの文化革命ともいえる出来事ある。また海賊版
問題が大きい中国でも日本マンガの正規版の出版が伸びているという。今や日
本の子どもたち、マンガファンと、世界の子どもたち、マンガファンは、「右と
じ」右上から左下に読み進むマンガという同じ文化を共有している。
米国では年間 20 回以上、毎月どこかの州で日本アニメのファンによるイベン
トが開催されており、延べ 10 万人以上を集客している。日本でもアニメの核と
なるファンは 5 万∼10 万人といわれており、これをしのぐ数になっている。2002
年、JETRO が行った調査では、キャラクター商品を含め米国での日本アニメの
小売規模は約 5200 億円である。この調査に協力し、米国でアニメビジネスを行
っている WowmaxMedia 代表の海部正樹氏の継続調査によると、2003 年にはさら
に 600 億円増え、日本産のキャラクター商品も必ず上位にランキングされてい
る。
中国でも人気キャラクターの上位約半数が日本産であり、
「ドラえもん」のテ
レビ放送も始まる予定である。すでに「ポケモン」は 68 カ国、「クレヨンしん
ちゃん」は 46 カ国で放送されており、国境はもちろん、言語や宗教をも超えた
伝播力を持つということができる。世界中で「アニメ」といえば日本アニメー
ションのことを指し、「コスプレ=コスプレイ」も「オタク」も世界共通語とな
って、若者を中心にファンを増やしている。
日本のテレビゲーム、欧米でいうビデオゲームが、かつての浮世絵、そして
カラオケと並び、日本オリジナルの世界的な大衆文化であることは、よく知ら
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
- 211 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
れている。
「プレイステーション 2」は発売以来、世界累積出荷台数 7000 万台を
超え、2002 年の日本製テレビゲーム機生産の 8 割以上は海外出荷用であった。
しかし、国内市場を見るとゲームソフト、ゲーム機ともに、その売り上げは 3
年連続で下落し、米国におけるソフトの市場でも、かつては約半分が日本製で
あったのが、シェアを下げている。国内でのテレビゲームの停滞に対して、携
帯電話によるゲームの普及は目覚しく、2003 年には 300 億円の市場となった。
さらに世界的な傾向として、プラットフォームがゲーム機からオンラインへ移
行してきたことが上げられる。同年の国内のオンラインゲーム市場は約 200 億
円に過ぎないが、韓国政府の予測では、同年の世界での市場を 5,500 億円とし、
2005 年までの 2 年間でさらに約 2.2 倍に成長するとしている。同予測でのテレ
ビゲーム市場の同期間での成長率は 128%である。こうしたところから、韓国で
はオンラインゲームを国策産業と定め、1999 年からゲーム特別消費税撤廃、ゲ
ームセンター設置面積制限撤廃、ゲームセンター営業時間制限緩和、ゲームク
リエイターの兵役特例などの保護策を行い、すでに世界のオンライン市場の
10%のシェアを占めるまでになった。携帯電話ゲームでも韓国の国内市場はす
でに淘汰の段階に入ったといわれ、欧米の市場を狙っている。
このような日本のポップカルチャーの世界文化としての評価、そして国際競
争の激化に対して、2004 年は国家政策や産業界が初めて自覚的になった年とい
える。内閣府によるコンテンツ政策の発表、議員立法によるコンテンツ振興法
の施行、経団連エンターテインメント・コンテンツ部会による NPO 法人映像産
業機構の設立などである。この様な動きによって、今や世界文化となっている
日本ポップカルチャー発祥の国として、社会的、文化的に、また産業基盤とな
る知財として、これを振興していくことが世界的な責務となっている。
b)日本のポップカルチャーの特長
日本ポップカルチャーは、国内のメディアコンテンツ産業はもちろん、通信、
広告、AV・情報家電、教育、レジャー産業など 100 兆円以上の市場と深い関り
を持ち、ファッション、プロダクトデザイン、建築などにも影響を及ぼし、国
際的には数百兆円の波及効果をもたらす可能性を持つ。
これらマンガ・アニメ・ゲームなどは、外来の文化を取り入れて、近代以降
初めて日本の大衆が独自の表現を確立、国際的な文化・産業・コミュニケーシ
ョンの様式となったものである。文化史的には、表 1 のように、前ポップカル
チャーともいえるフランスの市民芸術、ジャズや映画などアメリカで生まれた
ポップカルチャー、ロックに代表されるアメリカ・イギリスの若者文化に続く、
第三世代のポップカルチャーといえるものである。
表 1 に見るように、新しく登場した大衆的な文化は、歴史を経るごとに価値
が向上し、高級文化として扱われていくようになる。またいずれも新しいテク
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
ノロジーを用いた新しい表現として商業化されている。さらにこれらの文化の
創造や受容を担うのは、常に次世代の担い手である。
表1
事例
テクノロジー
プレ・ポップカチャー
(フランスの市民芸術)
1874年∼1900年代
様式の変化
印象派の絵画
(モネ、セザンヌ、
ピカソ、マチス)
写真
(画商・画廊・
オークション)
新興ブルジョワ
(資本家)市民
<少数派>
担い手
浮世絵の影響を受け、フ
ランスで誕生、画商・画
廊・オークションにより、
アメリカ他世界のコレク
ターに普及
ポップカルチャーの誕生
(アメリカの大衆文化)
1910年頃∼1940年代
ジャズなどポピュラー
ミュージック・ハリウッド
映画
(グレン・ミラー、フレッド・アス
テア)
レコード
ラジオ
映画
アメリカ移民 (労働者)大衆
アメリカ黒人の文化を混
血化して、国民文化とし
て確立、
第二次大戦で世界に普
及
ポップカルチャーの世界化
(アメリカ・イギリスの若者文化)
1960年頃∼1980年代
ロック・サイケデリック・
ファッション
(ビートルズ、ビーチボーイズ)
テレビ
ステレオ
エレキギター
戦後世代の
若者層
<多数派>
アメリカ、イギリスの若者
の間で同時に誕生、テレ
ビ、国際巡業で世界的ブー
ムに
ポップカルチャーの多メディア化
(日本のオタク文化)
1990年代∼2000年代
マンガ・アニメ・ゲーム
(ドラゴンボール、アキラ、
宮崎アニメ、ポケモン)
PC
デジタル
ネットワーク
戦後世代の
Jr層
<少数派>
外来の表現を日本で独
自に成熟させ、多メディ
ア流通により世界のマニ
アに普及
<多数派>
国際関係
上記表の分析により、日本ポップカルチャーは、次に挙げるような特徴を持つ
といえる。
・世界的コミュニケーションのスタイル
国境や言語、民族の境界を超えた表現、技術により世界的に共有されるコミュ
二ケーションのスタイル
・子ども・若者・大衆の表現
ヨーロッパの伝統的な権威に基づく文化、日本の古典文化が高級文化とされる
のに対し、子どもをはじめ、若者、ファンによる、空想的な価値観・世界観の
表現、現実に対する批判的・反抗的な表現、大衆的で下品な表現
・多メディア展開による商業的流通
新しいメディアテクノロジーを複合的に横断し、文字・画像・映像・音声によ
るインタラクティブな表現、デジタル・ネットワーク表現を、商業的に流通し
てヒット、ブーム、スターといった同時代的な社会現象を生み出す
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
c)日本のポップカルチャーの担い手としての子ども
1970 年代以降生まれの世代は、その親である団塊世代とは全く異なるメディ
ア環境に育ってきたといえる。
新聞、映画、テレビ、レコード、ビデオ、コンピューターの段階的普及、それ
ぞれのメディアの目的別の使い分けが、団塊世代の文化とするならば、一つの
コンテンツを多メデイアで享受するのがそのジュニア世代のスタイルである。
1973 年、それまでマンガの動画化が主であったアニメの世界で、マンガ、テ
レビ、映画を同時展開するビジネスモデルが誕生した。アニメのマニアを生ん
だ「宇宙戦艦ヤマト」のヒットである。また現在までに世界での累積売上 3 兆
円といわれる「ポケモン」は、さらにカード、ゲーム、マンガ、テレビアニメ、
アニメ映画、映像ソフトの多メディア戦略で成功している。
ネット上での文字・映像・音声を併用した表現がコミュニケーションの主流と
なった現在、
「読み書き・そろばん」ではなく、デジタル・メディア・リテラシ
ーを教育の基本とすることが求められている。多メディアを横断したキャラク
ターの世界観を、コレクションして楽しむという特徴を持つ日本ポップカルチ
ャーは、日本の子どもたち、そしてファンを、世界的なメディア文化のリーダ
ーに育てる機会ともなると考えられる。
このような主旨でデジタル教育に取り組んでいる「NPO 法人 CANVAS」では日
本科学未来館において「ワークショップコレクション」という教育プログラム
の発表会を行った。このうち子どもの好きなポップカルチャー的な表現をデジ
タルリテラシー教育に結び付けた、例えば CG、アニメ、ゲーム作りなどのワー
クショップなどが高く評価された。またこれまでの活動による子どもたちの表
現の分析では「バーチャル・リアリティやインタラクティブ映像、コミュニケ
ーション機能付のハンディ端末など、メディアの未来像は広く子どもたちに理
解されている」ということがわかった。
このようにメディアを横断したコンテンツから一つの世界観を創造・受容す
る日本ポップカルチャーに親しむ、子どもたち、若者たち、ファンは、世界で
最先端の多メディア・コミュニケーションの先導的な担い手となっている。彼
らに対して、さらにデジタル環境下での先端的に多メディアを駆使するリテラ
シーの提供を継続していくことも重要であるが、あわせて彼らが日常親しんで
いるポップカルチャーに対するニーズから産業・文化を担う大人が学ぶべき点
も多い。
イ)日本の社会資産としてのポップカルチャー
a)日本におけるポップカルチャーの資産保存の現状
日本ポップカルチャーの蓄積は、近いところで、マンガでは 1960 年代中半の
週刊マンガ誌の創刊、アニメでは 1964 年のテレビアニメシリーズの放送、ゲー
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
ムでは 1970 年代末のテレビゲームの商品化より始まる。この時期からでもすで
に 2 世代、3 世代に親しまれてきているが、大量生産・大量消費の時代の商品、
コンテンツ、コミュニケーションとして扱われてきたため、その資産の保存の策
はほとんど行われてこなかったといってよい。
日本のポップカルチャーの作り手には、マンガ、アニメ、ゲームなどのプロの
作家、プロダクションに加え、多くのインディーズ、アマチュア層が存在してい
る。どのジャンルのプロ、インディーズ、アマチュアも自らの作品の保存を求め
ているが、現実的には個々ができる範囲の保存しかなされておらず、デジタルを
用いた体系的な記録や分析、デジタルを活用したアーカイブといった段階には至
っていない。これは、インディーズやアマチュアはもちろんのこと、プロの作家
や、プロダクション、メーカーであっても記録・保存に力が及ばないこと、これ
を行うには権利を明確にする必要があること、利用促進のための商用アーカイブ
と文化保存のための公共アーカイブの軸足が定まらないことなどが、課題となっ
ているためである。
ポップカルチャーの商品化により、作り手と受け手の間に入る売り手には、マ
ンガ出版社・エージェンシー、テレビ局、映画会社、ビデオ・DVD 出版社、ゲー
ム会社(出版社)、キャラクター商品のメーカーなどがある。日本ではこれらの
業態の寡占化が進んでおり、一部の大手の動きが、商品化やその売上、二次利用
に大きな影響をもたらす。これらの大手の売り手によるアーカイブヘの取組みに
ついては、新しくデジタル化によるネット流通を行おうとするマンガ出版社やエ
ージェンシーのデジタル化の動きなどがあるが、マンガ、アニメ、ゲームなどの
原版、製品の保管・保存の状況は良好なものではない。特にアニメでは、売り手
の権利がその都度の放送、出版、上映、キャラクター商品化など限られた流通の
みに限定される傾向にあるため、原版や製品はもちろん、流通の記録や宣伝材料
などの周辺資産も失われやすい状況にあり、その保管・保存の責任の所在はあい
まいなままである。またキャラクター商品などでは関わる企業があまりにも多様
であるため、その全体像が捉えきれない状況にある。本来、商品化・流通の記録
は不可欠であり、せめて放送、出版、発売などの流通データと、原版や製品の現
物の保存状況を横断的に把握するしくみが望まれる。
これに対し、日本のポップカルチャーは、ファンのコレクションの対象になっ
ており、熱心なファンは何らかのコレクションを行っていることが多い。さらに
多くのマニアと呼ばれるファン層は、作り手、売り手をしのぐ網羅的なコレクシ
ョンを行っていることがある。これらは、きわめて個人的に、いわば密やかな楽
しみとして行われてきたものが多いが、最近では自らの充実したコレクションや
収集の成果をネット上で公開するものも増えている。
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
b)美術館・博物館でのポップカルチャー紹介の現状
作り手、売り手など産業界のポップカルチャーに対する、保存・アーカイブ化
の遅れに対して、最近では公的な美術館・博物館などが、マンガ、アニメ、ゲー
ムなどのコレクションを一時的に預かって公開する展覧会が増えている。以下は
2003 年に開催されたその一例である。
・東京都現代美術館
「日本漫画映画の全貌、その誕生から「千と千尋の神隠し」、そして・・・」
日本のアニメーションが生まれた大正時代から現代までの歩みを、その草創
期の呼び名であった「漫画映画」という観点で見直し、その名作・傑作約 200
本を、貴重な資料の展示や作品上映を通じて展示する展覧会。
会期:2004 年 7 月 15 日(木)∼8 月 31 日(火)
http://www.ntv.co.jp/mangaeiga/
・国立科学博物館
「テレビゲームとデジタル科学展」
コンピューター誕生の歴史から、世界初のテレビゲームと言われる「Tennis
for Two」、テレビゲームの仕組み・内部構造の解説、テレビゲームの歴史など
を展示。また、赤外線を使用した「ユビキタス・ゲーミング」と名づけられた
システムにより、会場の全フロアを使ったゲームを展開し、ゲームの未来形を
提案する。
会期:2004 年 7 月 17 日(土)∼10 月 11 日(月)計 87 日間
http://www.kahaku.go.jp/game/index.html
・現代マンガ図書館
日本でも他に類を見ないマンガ専門の私設図書館。内記稔夫館長が 20 年以上
にわたり収集しつづけた、 貸本や昔の雑誌から最新コミックスまで貴重なコレ
クションを堆積。蔵書数はおよそ 20 万冊。
http://www.naiki-collection.com/
・京都精華大学
「京都国際マンガミュージアム(仮称)」(2006 年度開館予定)
「現代マンガ図書館」の内記稔夫氏のコレクション(約 20 万冊)を中核にマ
ンガ文化の全体像を俯瞰できる唯一の施設となり、国際的な研究拠点としても
大いに期待される。
マンガの「研究」「人材育成・新産業創出」「生涯学習」「図書館・博物館」機
能を兼ね備え,マンガ本等の開設時収蔵数は日本最多の 23 万点以上を予定。
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
以上の例でも、展覧会で公開される展示品は著作者、企業に加え、マニアなど
のコレクターのコレクションによるものとなっている。展覧会終了後はそれぞれ
の元に返却されるため、体系的な収蔵がなされているわけではなく、現代マンガ
図書館のような私立や個人の遺産に基づくもの以外、公立の美術館・博物館には
ほとんどポップカルチャーの収蔵はなされていないのが現状である。現代マンガ
図書館のコレクションを京都精華大学のような学術的な収蔵に移行しようとする
例がないわけではないが、多くの美術館・博物館におけるポップカルチャーの展
覧会は、集客・採算を意識した見世物的な要素が強く、ポップカルチャーの資産
に対する意識はいまだ高いとはいえない。
c)日本ポップカルチャーの資産保存に向けて
日本ポップカルチャーの資産の保存は、作り手や売り手の商業的データベー
ス整備や、既存の美術館・博物館の収蔵の手法だけでは達成できないものであ
り、新しい視点を必要とするものである。これらを比較した際に、特に以下の
ような点が問題となる。
・商業利用や美術館・博物館のコレクションとは異なる視点による大衆的コミュニ
ケーションの収集、保存、研究、公開の方法が必要
・作り手による表現だけではなく、売り手、特に受け手が共有して作り出した同
時代的な社会現象として収集、保存、研究、公開する方法が必要
・メディアを横断、複合化した表現とそのテクノロジーや、メディア環境を収集、
保存、研究、公開する方法が必要
・現物の保存とデジタルアーカイブ化、その際のデジタル技術の応用を同時進行
で行う方法が必要
以上の点から、ポップカルチャーのアーカイブは単にこれまでの著作権データ
ベースや美術館・博物館のデジタルアーカイブの延長、拡大ではなく、日本から
世界に提案する新しい資産保存のための現物の収蔵・保管、デジタルアーカイブ
の方法によって行うことが望まれる。
ウ)子どものためのポップカルチャー・アーカイブの提言
a)提供されるアーカイブから、参加するアーカイブへ
20 世紀は写真・印刷・映画・拡声装置・ラジオ・レコード・テレビなどのテ
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
クノロジーにより、マスコミュニケーションという様式の普及が欧米主導で進め
られた。これに対して、あらゆるメディアがデジタル化し、ネットワークで接続
されていく 21 世紀初頭にあって、インタラクティブな多メディア表現としての
日本ポップカルチャーが、つくり手と売り手と受け手の関係を越え、マスとパー
ソナルを縦横に行き来するコミュニケーションの様式として、日本発で世界に普
及したことは、歴史に記録すべき転換である。
世界で評価されている、日本のマンガ、アニメ、ゲームに代表されるポップカ
ルチャーは、国際的な情報エンタティンメント商品としての産業的側面と、現代
的なメディア芸術としての文化的な側面を併せ持っている。しかしそれ以上に重
要なのは、これら現代日本のポップカルチャーが、デジタル・ネットワーク時代
における文字・画像・映像・音声を複合化したインタラクティブな表現を創造し、
世界に先駆けてこうしたコミュニケーションの様式として普及した点である。
こうした未来の人間社会に大きな変化をもたらすコミュニケーションの様式
としての日本のポップカルチャーを、日本の社会資産として受けとめ、産業・文
化両面での評価を踏まえつつ、まさに現在進行形の世界的コミュニケーション革
命の最前線として、次世代を担う子どもたちのために記録し、保存することが求
められている。
日本のポップカルチャーの記録・保存の方法として、個々の作り手、売り手に
現物や各種資料が保管されていること、そしてなによりもファンの個人コレクシ
ョンの現物が存在していることを前提に、提供されるアーカイブではなく、参加
するアーカイブとしてポップカルチャーのアーカイブを整備することが必要で
ある。
b)ファン・生活者が参加するコレクションのネットワーク公開
日本のポップカルチャーの資産の蓄積を保存するためには、ビジネス利用の
ための商用と文化保存の両極で揺れ動く作り手の活動や、商用のみに限定され
るため網羅的ではない売り手の著作権データベース、そして既存の文化的伝統
が優先される美術館・博物館の収蔵のみに依存するのではなく、受け手の個人
コレクションを活用するのが最も適切だと考えられる。
ファンのコレクションは、図書、ビデオ・DVD、ゲーム等のソフト、キャラク
ター商品などの製品はもちろん、カタログや宣伝材料も対象となっており、発
売データ・製品データといった分析にまで及んでいる。また原画、セル画とい
ったものも市場に流出すれば、もちろんコレクションの対象となり、良好な状
態で保存されることが多い。
ポップカルチャーの受け手、ファンの個人コレクションは、日本の 60 年代半
ばから現在までのコミュニケーションの画期としてのポップカルチャーを記録
し、大衆的コミュニケーションとして量・活力とも主流となっている状況を網
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
- 218 -
第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
羅し、コミュニケーションの多様性を保存する基盤として存在しているといっ
てもよい。これにより子ども・若者・大衆のコミュニケーション表現が、メデ
ィアテクノロジーを横断的、複合的に活用して流通し、ヒット、ブーム、スタ
ーなど社会的現象を生み出してきた資産を蓄積することが可能となる。またフ
ァンがポップカルチャーをコレクションして、交換を行うことで世界観を共有
し、これがまた商品として実体化して行く過程や、作り手と受け手の関係によ
りコミュニティーが形成される過程の記録は、受け手、売り手に加え、ファン
自身の視点と参加が必要となる。
しかし、日本のポップカルチャーの保存を支えているファン個人コレクション
は、個々バラバラに行われているもので、その目的、規模、思い入れはさまざま
である。またコレクションの対象には、例えば放送の録画や、無断コピーなど、
公開・利用するには権利上、問題のあるものも含まれている。また、個々の事情
でコレクションの保存、公開ができなくなる可能性も高い。このため、社会的な
仕組みによって、これらのコレクションを行う個人の意思を尊重した上で、これ
を複数連携し、必要な権利処理を行って社会共有の資産として公開することが、
日本のポップカルチャーの保存の基盤形成に向けた、最も速効的手段であり、か
つまた適切な手段であると考えられる。
c)アーカイブのしくみ
ポップカルチャー資産の保存を行い、アーカイブを形成し、社会資産として
活用していくため、まずは次のようなデータベースの整備が重要となる。
・資料データベース
資料データベースとは、ポップカルチャー関連の各種テキスト資料を体系化
して集積したもので以下の 4 項目を想定する。
-ポップカルチャー関連作品資料
マンガ、アニメ、ゲーム等作品タイトル、著作権および出版・放送・上映
等各種権利の所在
-ポップカルチャー関連作家資料
マンガ家、アニメ作家・スタッフ、ゲームクリエイター・スタッフ、等
-ポップカルチャー関連商品化・流通資料
マンガ連載期間・雑誌名・コミック出版時期・部数・出版社等、テレビア
ニメ放送局・期間・曜日・時間帯等、アニメ映画公開時期・配給会社・上映
館等、アニメビデオ・DVD 出版時期・部数・出版社等、ゲーム出版時期・部
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
数・出版社等、キャラクター商品等発売時期・販売数・メーカー等、その他
の関連商品等発売時期・販売数・メーカー等、以上に関わる宣伝材料関連資
料等
-インディーズ・アマチュア関連資料
インディーズ・アマチュア作品タイトル
インディーズ・アマチュア作家・スタッフ
コミケ、オンライン、インディーズ出版等での作品タイトル発表状況
これを実現するためには、作り手の作家、クリエイター、企業や、売り手の
企業から情報収集すると同時に、次に記す個人コレクションからの情報を補足
することが必要である。
・コレクションデータベース
コレクションデータベースとは、ポップカルチャーの現物資料を収集してい
るコレクションの内容をリスト化して公開するもので、作り手の作家、クリエイ
ター、企業や、売り手の企業の現物保存を対象とすると同時に、代表的な個人コ
レクションを対象とすることで、これまでの美術館・博物館の活動とは全く異な
る方法による、現物収集の成果を期待することができる。コレクションデータベ
ースでは、コレクションの現物を、以下のような観点でリスト化して、当面は現
物を保管管理者、コレクターの手元に置いたまま、現物の所在を公開することを
目指すものとする。
-コレクションのリスト
作品タイトル、作家・クリエイター・スタッフ名、マンガ連載期間・雑誌名・
コミック出版時期・部数・出版社等、テレビアニメ放送局・時間帯等、アニメ
映画公開時期・配給会社・上映館等、アニメビデオ・DVD 出版時期・部数・出
版社等、ゲーム出版時期・部数・出版社等、キャラクター商品等発売時期・販
売数・メーカー等、その他の関連商品等発売時期・販売数・メーカー等、以上
に関わる作品・商品・製品・宣伝材料・関連資料等の区分と付帯データ
インディーズ・アマチュア作品の場合、そのタイトル、作家・スタッフ、コ
ミケ、オンライン、インディーズ出版等での作品タイトル発表状況
-上記の保管場所・状況、公開の是非、権利の所在
以上のように、作り手の作家、クリエイター、制作企業や、売り手の企業の
現物保存と、代表的な個人コレクションの現物保存をリスト化した、いわばコ
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
レクションのコレクション、リストのリスト、メタリストを整備することによ
り、コミュニケーションとしてのポップカルチャーのあり方を概観できるよう
になる。
・コレクション活動の連携とサポートのみしくみ
(日本ポップカルチャー・アーカイブ学芸委員認定制度とコレクション支援制
度)
前項のようなコレクションのデータベース化は、個別の作り手の作家、クリ
エイター、制作企業や、売り手の企業の現物保存や資料整理・保存についての
データ収集、特に個人のコレクション活動による現物保存とその資料整理・保
存によるデータ収集に基盤を置くものになる。そのためこれらを連携したデー
タベースの構築・運用にむけて、それぞれの活動を支援するしくみが必要とな
る。
現物保存と資料整理・保存を行う作家、クリエイター、企業、そしてコレク
ション活動を行うファン等の個人を連携し、データベース構築・運用に協力を
得るしくみとして日本ポップカルチャー・アーカイブ学芸委員認定制度とコレ
クション支援制度を提案する。これは、作家、クリエイター、企業、そしてコ
レクション活動を行うファン等の個人の現物保存と資料整理・保存の活動にメ
リットを与えるとともに、こうした活動を社会的に意義あるものとして位置付
け、活動に対する社会的な自覚と誇り、インセンティブを与える下記想定制度
案のようなしくみである。
-日本ポップカルチャー・アーカイブ学芸委員認定制度
一定レベル以上の規模、内容で、現物保存と資料整理・保存を行う作家、
クリエイター、企業、そしてコレクション活動を行うファン等の個人を、日
本ポップカルチャー・アーカイブ学芸委員として認定、委嘱し、コレクショ
ン活動の継続と、これを用いたコレクションデータベース、資料データベー
ス構築・運用に協力を得る。また委員間のネットワーク化を図り、全体像に
対しても、理解・協力を得る。
-日本ポップカルチャー・アーカイブコレクション支援制度
一定レベル以上の規模、内容の、現物保存を中心としたコレクションを、
日本ポップカルチャー・アーカイブコレクションとして認定し、これを管理
する作家、クリエイター、企業、そしてファン等の個人を支援する。支援の
内容としては規模、内容のレベルに応じた保管費や資料整理費などの提供。
この際の条件として、コレクション・リストの公開と、要請が合った場合の
研究・展示目的の現物の貸し出しを了解することとする。これにより、コレ
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
クションは作家、クリエイター、企業、そしてファン等の個人が所有しなが
らも、これらのコレクションを集約して、社会の共有知として活用すること
ができる。
以上のしくみは、資料とコレクションのデータベースを構築・運用するため
の、日本ポップカルチャー・アーカイブ学芸委員認定制度とコレクション支援
制度などとして制度化して推進することが望まれる。
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
③子どものためのポップカルチャー・アーカイブの必要性
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
④ポップカルチャー・アーカイブを活用した子どものメディアリテラシーの向上
ア)ポップカルチャーによるメディアリテラシー向上のポイント
a)言語を越えた多メディア・コミュニケーション
世界のインターネット上において、日本のマンガ、アニメ、ゲームなどに関す
るワードを検索すると、これらに関するページは歌舞伎や日本画に比べて圧倒
的に多く、数年前に世界大手の検索サイトで最も検索されたワードは「ドラゴ
ンボール」であるといわれている。日本のポップカルチャーに関して、特にア
ニメなどでは、国内に限らず世界中でファンの特定タイトルを応援するファ
ン・サイトや、さまざまなファンが集まるポータルサイトが多数運営されてお
り、これらの動きは、ポップカルチャーのマーケットのみならず、子どもや若
者のコミュニケーションの動向として無視できない力を有している。
これらの、日本のポップカルチャーに関心を持つ世界のファンによるインタ
ーネット上の国境を越えたコミュニケーションに対し、日本からはマンガ、ア
ニメ、ゲームなどの作品データベースや、作り手・売り手の共同によるポータ
ルサイト、あるいはファンが応援や評価のために運営するポータルサイトなど
からの情報発信が望まれている。しかし、ポップカルチャーのアーカイブに関
する章で前述したように、求められている全世界への情報提供、コミュニケー
ションの基盤は十分ではない。
日本のポップカルチャーの作品データベースやファンが参加するポータルサ
イトなどは、世界と日本の言語を越えた多メディア・コミュニケーション、特
に日本の子どもや若者の参加によって、メディアリテラシーの向上、国際交流
に重要な役割を果たすと考えられる。
日本のポップカルチャーをテーマとした世界的なネットワーク上のコミュニ
ケーションは、すでに日本の文化に興味や知識を持った海外のファンと、日本
の子ども、若者がダイレクトに接触する場となる。これまでのコミュニケーシ
ョンは、場所や、学校、仕事などの所属に制約されることが多かったが、オン
ライン・コミュニケーションは国という所属さえ越えた情報を縁としたコミュ
ニティー形成を可能とした。この典型として、ネットワーク上に国境を越えた
日本ポップカルチャーに関する世界的コミュニティーが形成され、ここに参加
する日本の子どもや若者は、新しいコミュニケーションの関係を体験し、リテ
ラシーを向上することができる。
またポップカルチャーに関するコミュニケーションは、言語のみによらない、
という特徴を持つ。デジタル技術によって音声、画像、動画と言語が一体化し
たコミュニケーションとなったマンガ、アニメ、ゲームなどは、言語の違いを
越え、新しい世界的な多メディア・コミュニケーションのスタイルをもたらす。
この体験も日本の子どもや若者に重要で、欠くことのできないものである。以
上のような点からも早急に社会的な仕組みを導入した日本ポップカルチャーの
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
④ポップカルチャー・アーカイブを活用した子どものメディアリテラシーの向上
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
アーカイブ等の整備促進が求められる。
b)情報価値の選択・収集・分類・分析・評価
20 世紀型の社会では、生活者、消費者の立場に立つ者、特に子どもや若者は、
生産者の作る商品と、マスメディアの発信する情報を受け取る、受動的な立場
に置かれてきた。また、マスコミュニケーションとパーソナルコミュニケーシ
ョンは異なる目的、品質のものとして分離されてきた。そして、メディアリテ
ラシーは、パーソナルコミュニケーションの受発信、マスコミュニケーション
の受信の能力に眼目がおかれ、マスコミュニケーションの発信は一部のための
特殊技能として扱われてきた。
しかしネットワーク上のコミュニケーションが普及して以降、生活者、消費
者の立場に立つ者、子どもや若者の発信する情報が、生産者やマスメディアに
届くようになり、無視できないものとなり、双方向的なコミュニケーションが
重要になってきた。生産者、マスメディアと、生活者、消費者の立場に立つ者、
特に子どもや若者が対等な立場に立ち、ニーズに応じた情報や商品をお互いに
選択し、1to1 で流通する社会システムに移行しつつあるといえる。
このような社会では、生活者、消費者の立場に立つ者、子どもや若者の情報
価値の選択・収集・分類・分析・評価の能力が重要になり、その育成が必要と
なる。そして子どもや若者が情報価値の選択・収集・分類・分析・評価に能力
を発揮している場がポップカルチャーの分野である。
ポップカルチャーの分野の商品づくりでは、受け手である子どもや若者の選
択や評価が大きな決め手であるため、その声を取り入れた仕組みが不可欠であ
る。たとえばマンガ雑誌では読者投票の順位がマンガ連載継続の指標となる。
また分類・分析という面では、アニメの戦隊モノ、美少女モノなどのジャンル
は制作者が開発したのではなく、ファンの評価によって確立した。さらに最近
ではファンがキャラクターの好みを「萌える」という表現で表明するようにな
り、制作者はこの反応を見ながらキャラクターの魅力を増していく。またポッ
プカルチャーのファンは、コレクターとしてさまざまなアイテムを収集するこ
とにより、物語の世界を再構築するという活動を行う。
このようにポップカルチャーのファンによる情報価値の選択・収集・分類・
分析・評価は、双方向コミュニケーション、1to1 流通に向かう社会が必要とす
るコミュニケーションの、先行モデルとなっている。ポケモンに熱中する子ど
もたちの、コレクションや会話に注目し、ここから新しい生産と消費、これを
支えるコミュニケーションのシステムを考えていく必要がある。そしてこのよ
うなコミュニケーションの場として、日本のポップカルチャーの作品データベ
ースやファンが参加するポータルサイトなどを公的に整備して、子どもや若者
による情報価値の選択・収集・分類・分析・評価の能力育成の場、さらに双方
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
④ポップカルチャー・アーカイブを活用した子どものメディアリテラシーの向上
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
向コミュニケーション、商品や情報の 1to1 流通の実験の場とすべきである。
c)つくり手と受け手の関係、コミュニティーとコミュニケーション
大量生産・大量消費の時代には、企業と家庭の機能は分化し、同じ個人であ
りながら生産者と消費者として異なる活動を併せ持つ社会が形成されてきた。
しかし循環型の社会にむけて、双方向コミュニケーションや 1to1 の生産・消費
を普及するためには、これまでとは異なるコミュニティーの形成が必要とされ
る。コミュニティー内に同じ情報価値を共有した双方行為コミュニケーション
の基盤があり、実体と情報の生産と消費を相互的に行うような人間関係の形成
である。
ポップカルチャーにおいては、つくり手と受け手のコミュニケーションが重
視され、制作者とファンがコミュニティーを形成する傾向があったが、特にコ
ミケではプロによる大量生産、マスコミュニケーションというプロセスを経ず
に、数十万人の参加者が数百億円の市場を形成するようなコミュニティーを作
り出している。マンガ、アニメなどのファンが、単に消費者であるにとどまら
ず、自らも制作者として作品を作り出し、それを大量生産・大量消費のプロセ
スに乗せずに、互いに 1to1 の流通をおこなうのが、コミケの仕組みである。最
近ではプロとしてデビューした漫画家であっても、コミケに活動の場を移し、
しかもその方が、収入が多いというケースも増えているという。このようなコ
ミケというコミュニティーの経済活動が、すでに日本のマンガ市場の十分の一
にもなるほどに成長していることは、注目に値する。
マンガに限らず、デジタル技術の普及は、これまで個人製作が困難とされて
きたアニメでもインディーズのクリエイターを生み始めており、今後ポップカ
ルチャーに限らずあらゆる産業分野において、コミケ的なコミュニティー市場
が形成されていく可能性がある。フェアトレードや有機農法産品の頒布会員制
などは、これに類するものと考えられる。このように新しい生産と消費の仕組
み、産業システムの源泉がポップカルチャーのコミケ的な活動にあるのであれ
ば、マンガ、アニメ、ゲームなどの作品データベースやファンが参加するポー
タルサイトなどにおけるコミュニケーション、そしてそこでのつくり手と受け
手の関係を革新するようなコミュニティーの形成は、重要な社会実験といえる。
日本はポップカルチャーの先進国である。ここでこのような試みを行う意義は
大きい。
イ)まとめ
日本のポップカルチャーを担う子どもや若者、ファンの、マスメディアによら
ないコミュニケーションや、大量生産・大量消費によらない 1to1 の流通、そして
コミュニティーの形成は、これからの社会のメディアリテラシーや産業システム、
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
④ポップカルチャー・アーカイブを活用した子どものメディアリテラシーの向上
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
3.ネットを通じた情報発信
社会システムの先行指標となるものである。したがって次のような観点から、マ
ンガ、アニメ、ゲームなどの作品データベースやファンが参加するポータルサイ
トなどにおけるコミュニケーション、そしてそこでのつくり手と受け手の関係を
革新するようなコミュニティーの形成の社会実験を公的なものとして行うべきで
ある。
a)場所や、学校、仕事などの所属、国という所属さえ越え、これに制約されるこ
とがない、情報を縁とした世界的なオンライン・コミュニケーションとコミュ
ニティー形成、そこに参加する日本の子どもや若者の、新しいコミュニケーシ
ョンやコミュニティー参加体験
b)デジタル技術によって音声、画像、動画と言語が一体化したコミュニケーショ
ンとなったマンガ、アニメ、ゲームなどによる、言語の違いを越えた新しい世
界的な多メディア・コミュニケーションのスタイルのリテラシー向上
c)情報価値の選択・収集・分類・分析・評価の能力を高め、双方向コミュニケー
ション、1to1 流通など、社会が必要とするコミュニケーションの先行モデル、
商品や情報の 1to1 流通の実験の場
d)コミュニティー内に同じ情報価値を共有した双方行為コミュニケーションの基
盤があり、つくり手と受け手の関係を革新するようなコミュニティーの形成、
実体と情報の生産と消費を相互的に行うような産業システム、社会システム構
築の社会実験
上記のような新しいコミュニケーションのスタイルは、すでに日本のポップカ
ルチャーに親しむ子どもや若者、ファンによって実践し始められており、これに
よって彼らは世界の人々から「クール」と評価されている。この先進性を逃すこ
となく社会全体に広げていくことが、行政や産業に携わる日本の大人たちの責務
である。
2)ポップカルチャーに関するデジタルアーカイブ
④ポップカルチャー・アーカイブを活用した子どものメディアリテラシーの向上
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
4.まとめ
4.まとめ
本調査では、今までの調査においてワークショップ・プログラムの流通にあたっての
課題の一つとしてあげられていた情報の収集・発信システムの構築を目指した調査活動
を行った。
情報の収集・発信の手法として、リアルとバーチャル両方向からのアプローチを考え
た。
リアルな情報発信としては、総務省との連携により 2004 年 11 月にシンポジウム「ネ
ット、キッズ、ポップ」を開催した他、同 11 月に全国マルチメディア祭 in わかやまで
のワークショップの開催、2005 年 1 月にはワークショップコレクション 2005 の開催を試
みた。「ネット、キッズ、ポップ」は、中央官庁初の NPO 共催(NPO 法人 CANVAS と共催)
による試みとして、これまでの調査研究が対象としてきた「子どもの創造力と表現力」
及び「ポップカルチャー」の双方について総合的な議論が行われた。総務省関係者から
もネットとキッズの関わりについては、インフラとして ICT 普及が進んだ現段階におい
て、コミュニケーション・表現能力向上(メディアリテラシー)や人材育成の観点など
から重視しており、また良質かつ多様なコンテンツのブロードバンド上での流通の裾野
を支える論点として重要と考えているとのコメントをいただいた。官庁/報道/企業/大
学・研究機関/学校など、この領域に関わる様々なセクターの人々が集まる大規模な議論
の場として設定された本シンポジウムは、本調査研究が進めている運動が全国の関係者
による参加-連携施策であることを示す上で重要な役割を果たした。
昨年度に引き続き 2005 年 1 月に開催されたワークショップコレクションでは、紹介ワ
ークショップ・プログラムのさらなる充実、広報活動の拡充の結果として、来場者が昨
年度の 3 倍に広がった。出展者には、さっそくワークショップ開催を希望する NPO・NGO
や地方のミュージアムなどからの連携申し入れがあるなど、多くの成果御を得ることが
できた。子どもの参加型創造活動の普及を目的とするこのイベントは、海外でも例の無
い試みとして今後定着する可能性を持っているといえる。将来的には国内外との連携も
視野に入れ、こうしたニーズをすくい上げ、つなげていく仕組みの一つとしてさらに改
善を重ねていくことが求められる。
マルチメディア祭への参加は今年で 3 回目となるが、地方での普及啓発という観点で
とても大きな意味を持っている。今年度は、ワークショップの様子が、2 時間にわたり
TV 和歌山で全県下に放送されるなど、この領域への注目が地方でも高まっていることを
感じさせるイベントとなった。
バーチャルな情報発信の方法としては、ポータルサイトの充実とアーカイブ構築にあ
たっての基本的考え方の整理を行った。
ポータルサイト構築では、「自分がどのように関わることができるのか」を明記し、す
べての人が主体的に「参加する」ことができるような設計を心がけた。また、「ワークシ
ョップ情報」に焦点をあて、ワークショップを独立したコンテンツとして取り上げるよ
うにした。結果、前述の通り、アクセス数が如実に増えた。今までの調査結果が示して
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第 3 章 参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
4.まとめ
いるように、海外において、子どもの創造力・表現力に関するプログラムが流通してい
る理由の一つに情報が一元的に整理・管理されていることがあげられる。全国の ICT を
用いたこどもの創造力・表現力向上に関するプログラムの情報がすべて集約されたポー
タルサイトの構築が、今後のこの領域の活動の普及に際し重要である。
- 228 -
第4章
子どもの創造力・表現力の向上に関する
調査研究課題と方策
- 229 -
子どもの創造力・表現力の向上に関する調査研究課題と 方策 .....................- 231 -
第4章
1.各々の調査の概要..................................................................................................- 231 1)参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究 ..............................- 231 ①実施内容 .........................................................................................................- 231 ②今後の対応 .....................................................................................................- 231 2)参加型ワークショップ内容の理解を深めるためのデジタルコンテンツ・デジタル技
術の先駆的活用方法の研究....................................................................................- 233 ①実施内容 .........................................................................................................- 233 ②今後の対応 .....................................................................................................- 233 3)参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方
法の研究 ................................................................................................................- 235 ①実施内容 .........................................................................................................- 235 ②今後の対応 .....................................................................................................- 235 2.課題と方策.............................................................................................................- 237 -
- 230 -
第4章
子どもの創造力・表現力の向上に関する調査研究課題と方策
1.各々の調査の概要
第4章
子どもの創造力・表現力の向上に関する調査研究課題と
方策
「我が国が 5 年以内に世界最先端の IT 国家になる」という目標を掲げる政府 e-Japan 戦
略に沿った施策として、次世代を担う人々が、自分で創り、自分で表現するネットワーク
環境の整備を目指し、調査検討を行った。最後に、その課題を再整理し、対応策など、今
後の方向性を記す。
1.各々の調査の概要
1)参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
①実施内容
本調査は、学校、ミュージアム、企業、政府、自治体、アーティストその他すべ
ての人、機関、団体との連携による、全国のデジタル技術を活かした子どもの創造
力・表現力を高める活動の活性化を目標に実施した。本年度は、まず、ワークショ
ップ普及にあたって有効だと思われる、ワークショップのパッケージ化、ワークシ
ョップの評価基準の策定、ワークショップ開催にあたっての人材育成を深く調査し
た。
その結果、すでにパッケージ化に成功しているプログラムのノウハウが得られた
と同時に、今後各種プログラムのパッケージにあたっての基本的な考え方を構築す
ることができた。
また、今まで調査されていなかった企業及び行政のニーズ、シーズの調査を並行
して行った。調査結果により、企業、行政との連携の可能性が大いにありえること、
そして連携によって期待される効果がとても大きいことが分かった。その一方で、
まだ円滑な連携方法が確立されていないことが明らかになった。今後、学校、ミュ
ージアム、企業、政府等の連携による子どもの創造力・表現力向上の具体的方策を
提言することが期待される。
②今後の対応
ア)パッケージノウハウの啓蒙
これまでに多くのカリキュラムを開発、発掘を行ってきたが、普及啓発のため
のパッケージ化(「どの場所でも誰でもが行える」教育的プログラムの構築のため
1)参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
- 231 -
第4章
子どもの創造力・表現力の向上に関する調査研究課題と方策
1.各々の調査の概要
のワークシートやプログラム用ツール等の教材や、指導者向けのテキストやマニ
ュアルを持ってパッケージ化と呼ぶ)への敷居は非常に高く、依然として実現で
きていない状況にある。
多くの団体がワークショップ・プログラムのパッケージ化に取り組んではいる
ものの、一般的にワークショップは先生から生徒への一方通行の教えではなく、
双方向のインタラクティブなプログラムであるため、ファシリテイターの資質に
よるところも大きく、パッケージ化は難しいとされている。
その一方で、Project Wild、GEMS など、いくつかの団体では、すでにワークシ
ョップ・プログラムのパッケージ化に成功している。本調査報告書がまとめたパ
ッケージ化に成功しているプログラムのノウハウ(人材育成、プログラム内容、
開催場所、評価システム等を含む)及びパッケージ化にあたり必須とされる事項
をウェブ等で広く公開することが必要であると思われる。そのことが今後、ワー
クショップ・プログラムの全国的普及が進み、より多くのこどもたちが、ワーク
ショップに参加できる環境の整備に繋がる。
イ)ネットワーク作りの拡充
学校、ミュージアム、企業、行政等との連携により、デジタル時代の子どもの創
造力・表現力を育む活動を推進するに当たり、重要な役割を果たしていくのは NPO
の存在であると思われる。
これまで、学校、ミュージアム、企業、行政等が各々に諸団体との連携を望んで
いるにも関わらず、なかなか交わる機会がなく、実現されずにいた。その一方で、
学校やミュージアムは、資金、人材、技術、施設などのリソース面で企業や行政に
期待している部分が大きい。同時に、企業も CSR(社会的責任)の考え方の広まりに
伴い、「理念や方針の明確化」「情報開示」「組織体制の確立」といった条件さえ整え
ば、NPO との連携を望んでおり、行政もまたしかりである。
各々の団体のニーズ、シーズを理解した上で、お互いを結びつけ、連携のモデル
を提示していくことが今後求められる。今まで以上に、各地の教育関係組織、関連
団体、研究開発機関、企業、行政、自治体とのネットワークを強化し、お互いに情
報交換・議論し、連携できる環境を整えていくことが必要である。具体的には、こ
の分野における関連諸団体が集まるプラットフォームの機能を担う団体の存在が求
められる。その点で、NPO 法人 CANVAS に期待する役割は大きく、定期的に、関連団
体が集い、議論する場を提供していくことが求められる。
1)参加型ワークショップの活動環境のデザインに関する研究
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第4章
子どもの創造力・表現力の向上に関する調査研究課題と方策
1.各々の調査の概要
2)参加型ワークショップ内容の理解を深めるためのデジタルコンテンツ・デ
ジタル技術の先駆的活用方法の研究
①実施内容
全国規模でワークショップに対する需要があるにもかかわらず、供給側が未整備
で積極的にワークショップが展開されていない現状が依然として続いている。そこ
で、昨年度までに開発したワークショップの効果分析を行った上で、先駆的なデジ
タルコンテンツ・デジタル技術を用いて手軽に開催できるワークショップ・プログ
ラムの拡充、を目指し新規ワークショップの開発を行った。具体的にはデジタルパ
ペットワークショップ、スズシゲラボラトリー、デジタルフォト俳句ワークショッ
プ、MusicTable で音を感じてみよう!、おみやげコンテスト in 京都を開発及び実
施支援をした。また、1 月には CANVAS が主催したワークショップコレクション 2005
という最新のデジタル系ワークショップを一同に集めたワークショップの博覧会で
は、15 種類のワークショップを集めて開催した。
結果、ワークショップ参加者の満足度はとても高く、他の地域での各種ワークシ
ョップの開催要請の声がかかった。
同時に、今までに開発してきたものが、本年度は他の地域でも開催されるなど普
及啓発効果も見られた。
また、子どもたちがデジタルコンテンツ・デジタル技術を用いて、協調して創造・
表現活動を行うための基礎的な技術的調査を行った。
結果、まだ現状の技術では子どもたちが創造・表現活動を行うには不十分であり、
今後の技術開発が急がれることが結論づけられた。
②今後の対応
ア)ワークショップ・プログラムの拡充
OECD が実施した PISA の結果が示しているように、日本のこどもの ICT 使用頻度
は主要国の中で最低であるが、過去に開発実施したワークショップ・プログラム
のその後の効果を見てみると、他の場所での開催の要請はとても多い。その一方
で、学校、ミュージアム、その他ワークショップを開催したいと思っている方々
が、ワークショップ・プログラムの情報を得る機会が少ない、ワークショップ・
プログラムの種類が少なく、いつも特定のワークショップ・プログラムのみの開
催となる、といった問題点がある。ワークショップの情報ミスマッチと需給のギ
ャップが存在しているのである。
地域、社会、企業、学校、ミュージアムと連携しつつ、ICT を用いたワークショ
ップ・プログラムを全国各地に展開できる非営利団体をハブとし、より一層ワー
クショップ・プログラムを拡充することで、より多くのこどもたちが参加できる
環境を整えることが必要である。
2)参加型ワークショップ内容の理解を深めるためのデジタルコンテンツ・デジタル技術の先駆的活用方
法の研究
- 233 -
第4章
子どもの創造力・表現力の向上に関する調査研究課題と方策
1.各々の調査の概要
具体的には、ワークショップ開催希望者とワークショップカリキュラムをマッ
チングさせる機能が求められる。同時に、ワークショップ開催手引き、デジタル
系ワークショップ・プログラム一覧、ワークショップ・プログラム年間プログラ
ムを作成し提示していくことが重要である。
イ)技術開発
今年度は、基礎的な調査として、教育現場、地域社会、産業、技術開発等の多
様な立場の方々と協働して、デジタルやネットワーク技術の方向性及びこれら技
術をとりまく人間的側面を重視しつつ、子どもの創造力・表現力を高める学習環
境のデザインに関して技術的側面からの調査を行ったが、今後、この調査結果を
検証していくことが求められる。
第 2 章 2 節にて、技術と子どもと社会の三つの要素をコーディネートするプロ
デュース機能、様々な技術を駆使し、アイディアを想起して試みる結果をフィー
ドバックし、科学的に検証する必要性等を問うたが、地域、社会、企業、特殊な
専門性のある人々と学校やこどもの学習共同の中で機能させていくにあたり、
CANVAS のような非営利の団体の活動が重要である。このような非営利団体をハブ
として、本調査結果に基づいた子どもの創造力・表現力向上のための技術開発や
研究を大学や研究所、企業で進め、その実証実験や検証を学校、ミュージアムと
連携しつつ行うことが必要となる。
2)参加型ワークショップ内容の理解を深めるためのデジタルコンテンツ・デジタル技術の先駆的活用方
法の研究
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第4章
子どもの創造力・表現力の向上に関する調査研究課題と方策
1.各々の調査の概要
3)参加型ワークショップの普及のための効果的な情報発信・コミュニティー
形成の方法の研究
①実施内容
本調査では、全国各地での子どもの創造力・表現力向上のための取組みやその手
法等の情報収集及び情報発信を行うための機能の構築を目的として実施した。
具体的には、イベントを通じた情報発信とネットを通じた情報発信の二つに分け、
調査研究を行った。
イベントを通じた情報発信に関しては、いままでの活動で最も普及効果が高かっ
たワークショップコレクションを拡大し、多くのワークショップを全国の方々に紹
介していくことを行った。結果、ワークショップ開催者同士の交流も生まれ、各地
からイベントに参加した博物館、科学館関係者などから他の場所での開催要請があ
った。また、同時に総務省とタイアップして全国の取組みを紹介するシンポジウム
も行い、行政に対して、この分野の必要性を問うことができた。
ネットを通じた情報発信としては、上記活動をもとに、現在のウェブを情報収集・
発信の場となるポータルサイトとなるようバージョンアップをはかった。同時に、
子どもの表現力の土台を形成しているポップカルチャーを文化資産ととらえて、子
どもたちが容易に利活用できるようなインフラをつくるための手法に関する調査研
究を行った。結果、良質な情報が集まるようになり、また、教育現場、科学館・博
物館、大学、企業、官公庁、アーティスト等との情報交換や連携が深まった。
②今後の対応
ア)ポータルサイトの拡充
これまでの調査から、欧米と比較して、ワークショップ・プログラムが普及し
ていない原因として、情報が一元的に管理されておらず、学校、ミュージアム、
保護者など多方面から情報を求める声が届くものの、きちんといきわたっていな
いことがあげられることが分かった。
ワークショップコレクションの開催を通じて、ワークショップ・プログラムを
持っているところは開催場所を、開催場所を持っている学校やミュージアムの
方々は良いワークショップ・プログラムを、保護者の方々はお子様を参加させる
良いワークショップ・プログラムの開催情報を各々求めているにも関わらず、そ
れらの要望をマッチングする機能が構築されていないことがわかった。
情報をうまく収集発信する機能を整えることでオンラインプラットフォームが
構築でき、より多くのこどもたちが活動に参加できるようになる。
同時に、情報が一元的に収集されることにより、横の有機的連携が生まれ、プ
ログラムの質や量の向上に寄与することも期待される。今後、各種ワークショッ
プ・プログラムの開発とその流通を促進するプラットフォームが整備され、さら
に政府、自治体、教育機関、民間企業、地域、NPO、アーティストなどの連携によ
3)参加型ワークショップ内容の普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
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第4章
子どもの創造力・表現力の向上に関する調査研究課題と方策
1.各々の調査の概要
って体験児童数が増加するとともに、豊かな発想を養う土壌を育てることにつな
がると考えられる。
具体的には、ワークショップコレクションのような実際のイベントを通じて情
報を収集し、ネットで配信するなど、イベントとネットをうまく連動させること
で効率的な情報の収集及び発信が可能となる。同時に「ネット、キッズ、ポップ」
のような、中央官庁を巻き込んだシンポジウムを通じて、この領域に関わる様々
なセクターの人々が集まり議論する場を提供し、この運動を全国の関係者による
参加-連携施策として位置づけていくことは非常に重要である。
3)参加型ワークショップ内容の普及のための効果的な情報発信・コミュニティー形成の方法の研究
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第4章
子どもの創造力・表現力の向上に関する調査研究課題と方策
2.課題と方策
2.課題と方策
上記を踏まえ、全体を通じた課題を整理してみると、以下のようになる。
(1)ワークショップ・プログラムの普及啓発を目指し、ワークショップ・プログラム
のパッケージノウハウを広く公開していく。
(2)プラットフォームの機能を充実させるため、関係者が議論する場の提供、情報交
流の媒介の強化を図る。
(3)ワークショップ・プログラムの需給ギャップを解消すべく、ワークショップ・プ
ログラムを拡充していくと同時にワークショップ開催の手引きや年間プログラム
を提示する。
(4)産官学連携によるこどもの創造力・表現力向上のための技術開発及びその実証実
験を行う。
(5)ワークショップ・プログラムの博覧会的なイベントを通じて情報を収集すると同
時にポータルサイトを用いて関連情報を広く発信していく。
- 237 -
用語解説
用語解説
[1]
ワークショップ
参加者自らが体験しながら何かを学ぶ活動
[2]
NPO 法人
特定非営利活動法人
[3]
Project Wild
教育者向けに開発された野生生物を題材とする環境教
育プログラム
[4]
GEMS
Great Exploration in Math and Science
[5]
自然発見館
国営木曽三川公園の中にある環境教育施設
[6]
マリンワールド海の中道
近海を流れる「対馬海流」をテーマに奄美大島周辺の
亜熱帯系水族、九州近海から山陰にかけての温帯系水
族、北海道周辺の亜寒帯系水族、約 350 種 20,000 点を
飼育している、国営海の中道海浜公園の文化リゾート
エリアにオープンした施設
[7]
CAMP
Children's Art Museum & Park。「子どもたちが情報化
社会の創造を先導していく」という CSK グループの創
業者である故・大川 功氏(2001 年 3 月逝去)の理念の
もとに 2001 年 4 月、関西文化学術研究都市に設立され
た CSK 大川センターを活動拠点とする研究施設
[8]
Project Learning Tree
1974 年にアメリカ森林研究所が西部 13 州の教育庁や、
森林管理の担当者から構成されるアメリカ西部地域環
境教育協議会に環境教育プロジェクトの開発を委託し
たことから始まった環境教育プログラム
[9]
Project Wet
Water Education for Teachers。モンタナ州立大学に
拠点を置いている、生徒と教師を対象とした水に関す
る教育プログラム
[10]
Project Fit
カリフォルニア州の教師たちに、森林生態系や森林資
源管理について教えるカリキュラムの情報や教材を提
供する森林研修プログラム
[11]
Nature Game
1979 年にジョセフ・コーネルによって発表された自然
体験プログラム
[12]
CSCL
コンピュータを利用した共同学習のこと
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こどもの創造力・表現力向上を目指したワークショップ
活動の調査研究およびプログラム開発 報告書
本報告書の無断転載を禁止します。
平成 17 年 3 月
財団法人マルチメディア振興センター
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